(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097387
(43)【公開日】2022-06-30
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/13 20060101AFI20220623BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220623BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20220623BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20220623BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20220623BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20220623BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220623BHJP
【FI】
B60C11/13 A
B60C1/00 A
B60C11/00 D
B60C11/03 300B
B60C11/00 B
B60C11/00 F
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021183412
(22)【出願日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020210290
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大下 雅樹
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA03
3D131BA05
3D131BA07
3D131BA08
3D131BA20
3D131BB03
3D131BC01
3D131BC02
3D131BC33
3D131EA02U
3D131EA10U
3D131EB01U
3D131EB11V
3D131EB11W
3D131EB11X
3D131EB22V
3D131EB27V
3D131EB28V
3D131EB28W
3D131EB28X
3D131EB31V
3D131EB31W
3D131EB31X
3D131EB83V
4J002AC01W
4J002AC03X
4J002AC08X
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】低燃費性能、耐破壊性能、および耐摩耗性能の総合性能が改善されたタイヤを提供すること。
【解決手段】トレッドを備えたタイヤであって、前記トレッドの外面を構成するキャップゴム層が、イソプレン系ゴムおよびブタジエンゴムの合計含有量が90質量%以上であるゴム成分および窒素吸着比表面積(N2SA)が180m2/g以上のシリカを含有するゴム組成物により構成され、前記ブタジエンゴム中の総シス含量が90質量%未満であり、前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδが0.15未満であり、前記トレッドは、タイヤ周方向に連続して延びる周方向溝とタイヤ幅方向に延びる横溝とを有し、前記周方向溝の総面積S1に対する前記横溝の総面積S2の比(S2/S1)が0.80未満であるタイヤ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッドを備えたタイヤであって、
前記トレッドの外面を構成するキャップゴム層が、イソプレン系ゴムおよびブタジエンゴムの合計含有量が90質量%以上であるゴム成分および窒素吸着比表面積(N2SA)が180m2/g以上のシリカを含有するゴム組成物により構成され、
前記ブタジエンゴム中の総シス含量が90質量%未満であり、
前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδが0.15未満であり、
前記トレッドは、タイヤ周方向に連続して延びる周方向溝とタイヤ幅方向に延びる横溝とを有し、
前記周方向溝の総面積S1に対する前記横溝の総面積S2の比(S2/S1)が0.80未満であるタイヤ。
【請求項2】
前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδが0.03~0.12である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ブタジエンゴム中の総シス含量が30~89質量%である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の23℃における破断時強度をTB(MPa)、23℃における破断時伸びをEB(%)としたとき、TB×EB/2により求められる破壊エネルギーが5000以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記ゴム成分全量中の総シス含量が60~95質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記キャップゴム層を構成するゴム組成物が、前記ゴム成分100質量部に対し、前記窒素吸着比表面積(N2SA)が180m2/g以上のシリカを20質量部以上含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記キャップゴム層を構成するゴム組成物がグリセリン脂肪酸エステルを含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記トレッドが前記キャップゴム層の半径方向内側に隣接するベースゴム層を有し、
前記キャップゴム層の厚さをTc(mm)、前記ベースゴム層の厚さをTb(mm)としたとき、TcおよびTbが、下記式(1)を満たす、請求項1~7のいずれか一項に記載のタイヤ。
0.10≦(Tb)/(Tc+Tb)≦0.35 ・・・(1)
【請求項9】
前記トレッドが前記キャップゴム層の半径方向内側に隣接するベースゴム層を有し、
前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδが0.01~0.07である、請求項1~8のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
トラック・バス用タイヤの耐摩耗性能を改良する手法として、カーボンブラックを微粒子化ないし高ストラクチャー化する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のカーボンブラックを微粒子化ないし高ストラクチャー化する手法では、タイヤの低燃費性能の改善については充分とはいえない。また、微粒子化に伴う加工性の悪化によりカーボンブラックの分散性も悪化し、逆にタイヤの耐摩耗性が悪化する場合もある。そのため、従来のカーボンブラックの改良による性能向上手法には限界があった。
【0005】
また、近年の環境規制の影響から、トラック・バス用タイヤにおいても、耐摩耗性能だけでなく、低燃費性能、耐破壊性能等を高度に両立する要求が高まっている。
【0006】
本開示は、低燃費性能、耐破壊性能、および耐摩耗性能の総合性能が改善されたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意検討した結果、所定のゴム成分および所定のシリカを含有するゴム組成物により構成され、前記ゴム組成物の損失正接tanδを所定の範囲とし、かつ、周方向溝の総面積に対する横溝の総面積の比が所定の範囲内であるトレッドを備えるタイヤとすることにより上記課題を解決できることが見出された。
【0008】
すなわち、本開示は、トレッドを備えたタイヤであって、前記トレッドの外面を構成するキャップゴム層が、イソプレン系ゴムおよびブタジエンゴムの合計含有量が90質量%以上であるゴム成分および窒素吸着比表面積(N2SA)が180m2/g以上のシリカを含有するゴム組成物により構成され、前記ブタジエンゴム中の総シス含量が90質量%未満であり、前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδが0.15未満であり、前記トレッドは、タイヤ周方向に連続して延びる周方向溝とタイヤ幅方向に延びる横溝とを有し、前記周方向溝の総面積S1に対する前記横溝の総面積S2の比(S2/S1)が0.80未満であるタイヤに関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、低燃費性能、耐破壊性能、および耐摩耗性能の総合性能が改善されたタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係るタイヤのトレッドパターンを平面に展開した展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示に係るタイヤは、トレッドを備えたタイヤであって、前記トレッドが少なくとも1つのゴム層を有し、前記トレッド面を構成するキャップゴム層が、イソプレン系ゴムおよびブタジエンゴムの合計含有量が90質量%以上であるゴム成分および窒素吸着比表面積(N2SA)が180m2/g以上のシリカを含有するゴム組成物により構成され、前記ブタジエンゴム中の総シス含量が90質量%未満であり、前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδが0.15未満であり、前記トレッドは、タイヤ周方向に連続して延びる周方向溝とタイヤ幅方向に延びる横溝とを有し、前記周方向溝の総面積S1に対する前記横溝の総面積S2の比(S2/S1)が0.80未満であるタイヤである。理論に拘束されることは意図しないが、本開示の効果が発揮されるメカニズムとしては、例えば以下のように考えられる。
【0012】
キャップゴム層に配合するゴム成分およびシリカの窒素吸着比表面積(N2SA)を所定の組み合わせとすることにより、シリカを高度に微分散させることができ、強固なシリカネットワークが形成され、ゴム組成物の伸長時の強度と伸びのバランスを高度に両立することが可能となる。また、キャップゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδを所定の範囲とすることにより、低燃費性能を向上させることができる。さらに、周方向溝の総面積に対する横溝の総面積の比を所定の範囲とすることにより、低燃費性能と耐摩耗性能を高度に両立させることができる。そして、キャップゴム層を構成するゴム組成物の前記の物性とトレッドパターンとが協働することにより、低燃費性能、耐破壊性能、および耐摩耗性能の総合性能を向上させることができると考えられる。
【0013】
本開示のタイヤは、前記トレッドが前記キャップゴム層の半径方向内側に隣接するベースゴム層を有し、前記キャップゴム層の厚さをTc(mm)、前記ベースゴム層の厚さをTb(mm)としたとき、TcおよびTbが、下記式(1)を満たすことが好ましい。
0.10≦(Tb)/(Tc+Tb)≦0.35 ・・・(1)
【0014】
本開示のタイヤは、前記トレッドが前記キャップゴム層の半径方向内側に隣接するベースゴム層を有し、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδが0.01~0.07であることが好ましい。
【0015】
本開示の一実施形態であるトレッド用ゴム組成物の作製を含むタイヤについて、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本開示を説明するための例示であり、本開示の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0016】
[タイヤ]
本開示に係るタイヤは、前記トレッド用ゴム組成物により構成されるトレッドを備えるものであり、特にカテゴリーは限定されず、乗用車用タイヤ、トラックやバス等の重荷重用タイヤ、二輪自動車用タイヤ、ランフラットタイヤ、非空気入りタイヤ等として使用することができるが、重荷重用タイヤとすることが好ましい。また、本開示に係るタイヤは、耐破壊性能と耐摩耗性能に優れるので、悪路路面(未舗装の荒れた路面)の走行に適している。
【0017】
図1に、本開示の一実施形態に係るタイヤのトレッドパターンを平面に展開した展開図の一例を示すが、本開示はこれに限定されるものではない。本実施形態に係るタイヤを構成するトレッド2は、
図1に示すように、タイヤ周方向に連続して延びる(
図1の例では、タイヤ周方向に沿って直線状に延びる)周方向溝3、4、5と幅方向に延びるセンター横溝9、センターサイプ13、ミドル横溝15、ショルダー横溝21とを有している。
【0018】
トレッド2において、周方向溝の総面積S1に対する横溝の総面積S2の比(S2/S1)は0.80未満であり、0.75以下が好ましく、0.70以下がより好ましく、0.65以上がさらに好ましく、0.60以下が特に好ましい。S2/S1を0.80未満とすることにより、耐破壊性能と耐摩耗性能を高度に両立させることができる。また前記S2/S1の下限値は特に制限されないが、トレッド部の剛性を維持し、耐破壊性能と耐摩耗性能を高める観点から、0.05以上が好ましく、0.10以上がより好ましく、0.15以上がさらに好ましく、0.18以上が特に好ましい。なお、本開示において、周方向溝の総面積S1および横溝の総面積S2は、正規リムにリム組みされかつ正規内圧を充填した無負荷である正規状態において、正規荷重を負荷してトレッドを平面に押し付けたときのトレッド踏面の接地形状から計算される。接地形状は、タイヤを正規リムに装着させ、正規内圧を保持させた後、例えば、トレッド2にインクを塗布し、正規荷重を負荷して厚紙等に垂直に押し付け、(キャンバー角は0°)、トレッド2に塗布されたインクを転写することにより得られる。
【0019】
なお、本開示において「横溝」とは、周方向溝3、4、5によって仕切られたセンター陸部6、ミドル陸部7、またはショルダー陸部8を横切る溝またはサイプであって、幅方向の両端を結ぶ直線が、タイヤ幅方向に対して0~30°の角度で傾斜したものを指す。前記の溝およびサイプは、その末端が周方向溝と連通していてもよいし、していなくてもよい。ここで、「溝」は、少なくとも2.0mmよりも大きい幅の凹みをいい、「サイプ」は、幅が2.0mm以下(好ましくは0.5~2.0mm)の細い切り込みをいう。
【0020】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、ETRTOであれば“Measuring Rim”とする。
【0021】
「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”とする。
【0022】
「正規荷重」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”とする。
【0023】
図1において、トレッド部2には、タイヤ周方向に連続してのびる周方向溝が設けられている。本開示の周方向溝は、タイヤ赤道C上に設けられる1本のセンター周方向溝3、センター周方向溝3の両側に各1本配されるミドル周方向溝4、および、各ミドル周方向溝4、4とそのタイヤ軸方向外側のトレッド端Teとの間に配される一対のショルダー周方向溝5、5を含んでいる。なお、周方向溝の数は特に限定されず、例えば1~4本であってもよい。また、周方向溝3、4、5は、ジグザグ状にのびているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、直線状や波状にのびるものでもよい。
【0024】
「トレッド端」Teは、正規リムにリム組みされかつ正規内圧を充填した無負荷である正規状態のタイヤに、正規荷重を負荷してキャンバー角0度で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置として定められる。
【0025】
図1において、センター周方向溝3は、ジグザグ状にのびている。本開示のセンター周方向溝3は、センター長辺部3Aと、センター短辺部3Bとを交互に含んでいる。センター長辺部3Aは、タイヤ周方向に対して一方側に傾斜している。センター短辺部3Bは、センター長辺部3Aとは逆向きに傾斜している。このようなセンター周方向溝3は、センター周方向溝3の両側の陸部の踏面と路面との間の水膜を効果的に集めることができるため、排水性能を高める。また、センター短辺部3Bは、タイヤ周方向に対する角度θ2が大きいため、直進走行時、センター短辺部3Bを閉じる向きに力が作用するので、センター短辺部3B近傍の陸部のタイヤ周方向への変形が抑制され、路面に対する滑りが小さくなる。これにより、ヒールアンドトウ摩耗が抑制される。
【0026】
センター周方向溝3は、センター長辺部3Aとセンター短辺部3Bとの交差位置でタイヤ軸方向一方側(
図1では右側)へ凸となるジグザグの頂部3hと、センター長辺部3Aとセンター短辺部3Bとの交差位置でタイヤ軸方向他方側(
図1では左側)へ凸となるジグザグの頂部3kとを有している。
【0027】
センター長辺部3Aのタイヤ周方向に対する角度θ1は、好ましくは、0.5~6.5度である。センター短辺部3Bのタイヤ周方向に対する角度θ2は、好ましくは、5~15度である。かかる範囲とすることにより、排水性能を確保するとともに陸部の剛性低下を抑制することができる。
【0028】
センター周方向溝3の両側の陸部の剛性を大きくするとともに、センター周方向溝3の両側の陸部の路面に対する滑りを小さくする観点より、センター長辺部3Aのタイヤ周方向の長さL0とセンター短辺部3Bのタイヤ周方向の長さL2との比L0/L2は、1.3~2.3が好ましい。
【0029】
このような各周方向溝3乃至5によって、トレッド部2には、各一対のセンター陸部6、6、ミドル陸部7、7、および、ショルダー陸部8、8が設けられている。センター陸部6は、センター周方向溝3とミドル周方向溝4との間に形成されている。ミドル陸部7は、ミドル周方向溝4とショルダー周方向溝5との間に形成されている。ショルダー陸部8は、ショルダー周方向溝5とトレッド端Teとの間に形成されている。
【0030】
センター陸部6には、センター周方向溝3とミドル周方向溝4との間を継ぐオープンタイプのセンターサイプ13が設けられている。かかるサイプは、センター陸部6のタイヤ周方向のブロック縁の接地時、幅を閉じる向きに変形するので、隣り合うサイプの壁面同士が密着して支え合い、陸部の剛性低下を抑制する。従って、センターサイプ13は、高い接地圧が作用しかつ排水し難いセンターブロック11において、排水性能と耐偏摩耗性能とをバランス良く高める。センターサイプ13は、ジグザグ状にのびているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、波状や正弦波状や直線状にのびるものでもよい。
【0031】
センター陸部6には、センター横溝9がタイヤ周方向に複数本設けられている。センター横溝9は、直線状にのびているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、波状や正弦波状やジグザグ状にのびるものでもよい。
【0032】
ミドル陸部7には、ミドル横溝15がタイヤ周方向に複数本設けられている。ミドル横溝15は、直線状にのびているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、波状や正弦波状やジグザグ状にのびるものでもよい。
【0033】
ショルダー陸部8には、ショルダー横溝21がタイヤ周方向に複数本設けられている。ショルダー横溝21は、直線状にのびているが、このような態様に限定されるものではなく、例えば、波状や正弦波状やジグザグ状にのびるものでもよい。
【0034】
トレッド部2は、単一のゴム層により形成されていてもよく、外面がトレッド面を構成するゴム層(キャップゴム層)のタイヤ半径方向内側に隣接するベースゴム層を有していてもよい。さらに、本開示の効果が達成される限り、ベースゴム層とベルト層との間に、さらに1または2以上のゴム層を有していてもよい。
【0035】
本開示のタイヤにおいて、前記キャップゴム層の厚さをTc(mm)、前記ベースゴム層の厚さをTb(mm)としたとき、TcおよびTbが、下記式(1)を満たすことが好ましい。なお、本開示において、キャップゴム層の厚さをTcおよびベースゴム層の厚さをTbは、いずれも、正規状態において計測される。
0.10≦(Tb)/(Tc+Tb)≦0.35 ・・・(1)
【0036】
(Tb)/(Tc+Tb)を0.10以上とすることにより、低燃費性能をより向上させることができる。また(Tb)/(Tc+Tb)を0.35以下とすることにより、耐摩耗性能をより向上させることができる。(Tb)/(Tc+Tb)は、より好ましくは0.12~0.33、さらに好ましくは0.15~0.32である。
【0037】
本開示における「70℃tanδ」は、温度70℃、初期歪み10%、動歪み±2%、周波数10Hzの条件下での損失正接tanδを指す。
【0038】
キャップゴム層を構成するゴム組成物の70℃tanδは、0.15未満であり、0.12以下が好ましく、0.09以下がより好ましく、0.08以下がさらに好ましく、0.07以下が特に好ましい。キャップゴム層を構成するゴム組成物の70℃tanδを0.15未満とすることにより、低燃費性能を向上させることができる。一方、キャップゴム層を構成するゴム組成物の70℃tanδは、ウェットグリップ性能の観点から、0.03以上が好ましく、0.04以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましく、0.06以上が特に好ましい。
【0039】
ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃tanδは、0.01以上が好ましく、0.04以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましい。ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃tanδが0.01未満の場合、ベースゴム配合自体の破壊強度が顕著に低下し、ベースゴム自身の破壊によるテア発生の懸念がある。一方、ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃tanδは、ベルト端での温度上昇を抑制し、スチールフィラメント端を起点とする破壊を抑制する観点から、0.07以下が好ましく、0.06以下がより好ましい。
【0040】
なお、各ゴム層の70℃tanδは、後述のゴム成分、フィラー、シランカップリング剤、オイル、グリセリン脂肪酸エステル等の種類や配合量により適宜調整することができる。
【0041】
本開示における「破壊エネルギー」は、各試験用加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を、JIS K 6251:2017に準拠し、23℃雰囲気下にて破断時強度TB(MPa)、および破断時伸びEB(%)を測定し、下記式により求めたものである。
(破壊エネルギー)=(TB×EB)/2
【0042】
キャップゴム層を構成するゴム組成物の破壊エネルギーは、5000以上が好ましく、5500以上がより好ましく、6000以上がさらに好ましく、6500以上が特に好ましい。破壊エネルギーを前記の範囲とすることにより、ゴムの補強性が担保でき、耐破壊性能および耐摩耗性能が向上すると考えられる。一方、キャップゴム層を構成するゴム組成物の破壊エネルギーの上限値は、特に制限されない。
【0043】
[ゴム組成物]
本開示のタイヤは、前述したトレッドパターンとトレッドの各層を構成するゴム組成物の前記の物性とが協働することにより、低燃費性能、耐破壊性能および耐摩耗性能の総合性能を向上させることができる。
【0044】
<ゴム成分>
本開示に係るトレッドの各ゴム層を構成するゴム組成物(トレッド用ゴム組成物)は、ゴム成分としてイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。キャップゴム層を構成するゴム成分は、イソプレン系ゴムおよびBRを含み、イソプレン系ゴムおよびBRのみからなるゴム成分としてもよい。ベースゴム層を構成するゴム成分は、イソプレン系ゴムを含むことが好ましく、イソプレン系ゴムのみからなるゴム成分としてもよい。
【0045】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0047】
キャップゴム層を構成するゴム組成物において、イソプレン系ゴムのゴム成分中の含有量は、50質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、65質量%以上が特に好ましい。シリカはイソプレン系ゴムとの馴染みが良いことから、イソプレン系ゴムのゴム成分中の含有量を増加させ、海相となるイソプレン系ゴム相にシリカを分散させることで、マトリクス全体の強度が向上し、耐摩耗性能および破壊特性がより向上する傾向がある。一方、ウェットグリップ性能の観点からは、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、75質量%以下が特に好ましい。
【0048】
ベースゴム層を構成するゴム組成物において、イソプレン系ゴムのゴム成分中の含有量は、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、イソプレン系ゴムのみからなるゴム成分としてもよい。
【0049】
(BR)
BRとしては特に限定されず、例えば、シス含量(シス-1,4結合含有率)が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。
【0050】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)製のもの、宇部興産(株)製のもの、JSR(株)製のもの等が挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。ハイシスBRのシス含量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、96質量%以上がさらに好ましく、97質量%以上が特に好ましい。
【0051】
なお、本明細書において、各ゴム成分中のシス含量は、JIS K 6239-2:2017に従い、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。
【0052】
希土類系BRとしては、希土類元素系触媒を用いて合成され、ビニル結合量(1,2-結合ブタジエン単位量)が好ましくは1.8モル%以下、より好ましくは1.0モル%以下、さらに好ましくは0.8%モル以下であり、シス含量(シス-1,4結合含有率)が好ましくは95モル%以上、より好ましくは96%モル以上、さらに好ましくは97%以上である。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)製のものなどを用いることができる。
【0053】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のものなどを用いることができる。
【0054】
変性BRとしては、スズでカップリングされた末端変性BR、アルコキシシリル基および/またはアミノ基を有する末端変性BRが好適に用いられる。また、変性BRは、水素添加されていないもの、水素添加されているもののいずれであってもよい。このような変性BRとしては、日本ゼオン(株)製のもの、旭化成ケミカルズ(株)製のものなどを用いることができる。
【0055】
スズでカップリングされた末端変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合をおこなったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているものが好ましい。リチウム開始剤としては、アルキルリチウム、アリールリチウム、ビニルリチウム、有機スズリチウムおよび有機窒素リチウム化合物などのリチウム系化合物や、リチウム金属などがあげられる。前記リチウム開始剤を変性BRの開始剤とすることで、高ビニル、低シス含有量の変性BRを作製できる。スズ化合物としては、四塩化スズ、ブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、ジオクチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、トリフェニルスズクロライド、ジフェニルジブチルスズ、トリフェニルスズエトキシド、ジフェニルジメチルスズ、ジトリルスズクロライド、ジフェニルスズジオクタノエート、ジビニルジエチルスズ、テトラベンジルスズ、ジブチルスズジステアレート、テトラアリルスズ、p-トリブチルスズスチレンなどがあげられ、これらのスズ化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
変性BRのシス含量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。また、変性BRのシス含量は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。
【0057】
前記で列挙されたBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性およびグリップ性能等の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0059】
キャップゴム層を構成するゴム組成物において、BRのゴム成分中の含有量は、耐摩耗性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上が特に好ましい。また、ウェットグリップ性能の観点からは、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下が特に好ましい。なお、ベースゴム層を構成するゴム組成物において、BRのゴム成分中の含有量は特に制限されない。
【0060】
BR中の総シス含量は、耐破壊性能および耐摩耗性能の観点から90質量%未満であり、89質量%以下が好ましく、86質量%以下がより好ましく、84質量%以下がさらに好ましく、82質量%以下がさらに好ましく、80質量%以下が特に好ましい。一方、BR中の総シス含量は、耐破壊性能および耐摩耗性能の観点から、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、55質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上がさらに好ましく、65質量%以上が特に好ましい。なお、本明細書において「BR中の総シス含量」は、BRを複数用いたときは、各BRについてそれぞれシス含量にBR全量中の質量分率を乗じて得られる値を算出し、それら値を総和した値である。例えば、ゴム成分が、第一のBR(シス含量:97質量%)40質量%、第二のBR(シス含量:42質量%)10質量%、およびNR50質量%からなる場合、BR中の総シス含量は、86質量%(=97×40/50+42×10/50)である。
【0061】
ゴム成分全量中の総シス含量は、低燃費性能の観点から、95質量%以下が好ましく、94質量%以下がより好ましく、93質量%以下がさらに好ましく、92質量%以下がさらに好ましく、91質量%以下がさらに好ましく、90質量%以下が特に好ましい。一方、ゴム成分全量中の総シス含量は、耐破壊性能、耐摩耗性能の観点から、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、75質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、83質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上が特に好ましい。なお、本明細書において「ゴム成分全量中の総シス含量」は、各ゴム成分についてそれぞれ総シス含量にゴム成分全量中の質量分率を乗じて得られる値を算出し、それら値を総和した値である。具体的にはΣ(各ゴム成分中の総シス含量×ゴム成分全量中の各ゴム成分の含有量(質量%)/100)により算出される。例えば、ゴム成分が、第一のBR(シス含量:97質量%)40質量%、第二のBR(シス含量:42質量%)10質量%、およびNR(シス含量:100質量%)50質量%からなる場合、ゴム成分全量中の総シス含量は、93質量%(=97×40/100+42×10/100+100×50/100)である。ここで、NRおよびBRは、ジエン単位のみにより構成されるため、前記各ゴム成分中の総シス含量は、NRおよびBRのシス含量と同じ値となる。また、SBRはジエン単位以外の構成単位を含むため、前記各ゴム成分中の総シス含量は、下記式により求められる。
(各ゴム成分中の総シス含量)=(1-スチレン含量)×(SBRのシス-1,4-結合ブタジエン単位量)/100
【0062】
キャップゴム層を構成するゴム組成物において、変性BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、耐摩耗性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、ウェットグリップ性能の観点からは、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましく、45質量%以下がさらに好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、35質量%以下が特に好ましい。
【0063】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでも、低燃費性能および耐摩耗性能を良好に改善できるという点から、E-SBRが好ましい。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
(その他のゴム成分)
本開示に係るゴム成分として、前記のイソプレン系ゴム、SBRおよびBR以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のイソプレン系ゴム、SBR、およびBR以外のジエン系ゴム;ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等のジエン系ゴム以外のゴム成分が挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本開示に係るゴム成分は、ジエン系ゴムを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましく、ジエン系ゴムのみからなるゴム成分としてもよい。また、上記のゴム成分の他に、公知の熱可塑性エラストマーを含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0065】
<フィラー>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラックおよび/またはシリカを含むフィラーを含有することが好ましい。また、フィラーは、カーボンブラックおよびシリカのみからなるフィラーとしてもよい。キャップゴム層を構成するゴム組成物は、フィラーとしてシリカを含むことが好ましく、カーボンブラックおよびシリカを含むことがより好ましく、カーボンブラックおよびシリカのみからなるフィラーとしてもよい。ベースゴム層を構成するゴム組成物は、フィラーとしてカーボンブラックを含むことが好ましく、カーボンブラックおよびシリカを含むことがより好ましく、カーボンブラックおよびシリカのみからなるフィラーとしてもよい。
【0066】
(シリカ)
本開示に係るトレッド用ゴム組成物にシリカを配合することにより、低燃費性能、耐破壊性能、および耐摩耗性能を向上させることができる。シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐破壊性能および耐摩耗性能の観点から、180m2/g以上であり、185m2/g以上が好ましく、190m2/g以上がより好ましく、200m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0068】
キャップゴム層を構成するゴム組成物において、シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、20質量部以上が好ましく、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましい。また、シリカのゴムへの分散性の悪化により、低燃費性能および耐摩耗性能が低下することを抑制する観点からは、150質量部以下が好ましく、130質量部以下が好ましく、110質量部以下がさらに好ましく、90質量部以下が特に好ましい。
【0069】
ベースゴム層を構成するゴム組成物において、シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、低燃費性能および耐摩耗性能の観点から、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下が特に好ましい。一方、ベースゴム層を構成するゴム組成物において、シリカの含有量の含有量は特に制限されないが、例えば、ゴム成分100質量部に対して、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上とすることができ、シリカを含有しなくてもよい。
【0070】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐候性や補強性の観点から、50m2/g以上が好ましく、80m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましい。また、分散性、低燃費性能、破壊特性および耐久性の観点からは、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」のA法に準じて測定される値である。
【0072】
キャップゴム層を構成するゴム組成物において、カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は、耐候性や補強性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、10質量部以上が特に好ましい。また、低燃費性能の観点からは、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下が特に好ましい。
【0073】
ベースゴム層を構成するゴム組成物において、カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は、補強性の観点から、5質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、25質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能の観点からは、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。
【0074】
シリカおよびカーボンブラック以外のフィラーとしては、例えば、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。
【0075】
キャップゴム層を構成するゴム組成物において、シリカおよびカーボンブラックの合計100質量%中のシリカの含有率は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましい。また、該シリカの含有率は、99質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。
【0076】
ベースゴム層を構成するゴム組成物において、シリカおよびカーボンブラックの合計100質量%中のシリカの含有率は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。また、該シリカの含有率は、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
【0077】
キャップゴム層を構成するゴム組成物において、シリカとカーボンブラックのゴム成分100質量部に対する合計含有量は、耐摩耗性能の観点から、40質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、55質量部以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および耐摩耗性能が低下することを抑制する観点からは、180質量部以下が好ましく、160質量部以下がより好ましく、140質量部以下がさらに好ましく、120質量部以下が特に好ましい。
【0078】
ベースゴム層を構成するゴム組成物において、シリカとカーボンブラックのゴム成分100質量部に対する合計含有量は、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、40質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、70質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。
【0079】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXT等のメルカプト基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤等が挙げられ、スルフィド基を有するシランカップリング剤が好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
シランカップリング剤(好ましくは、スルフィド基を有するシランカップリング剤)を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、8.0質量部以上が好ましく、8.5質量部以上がより好ましく、9.0質量部以上がさらに好ましく、9.5質量部以上が特に好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、18質量部以下が好ましく、16質量部以下がより好ましく、14質量部以下がさらに好ましく、12質量部以下が特に好ましい。
【0081】
<その他の配合剤>
本開示に係るトレッド用ゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、オイル、ワックス、グリセリン脂肪酸エステル、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0082】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルを使用することもできる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、軽度抽出溶媒和物(MES)、処理留出物芳香族系抽出物(TDAE)、重ナフテン系オイル等が挙げられる。
【0083】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0084】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、8.0質量部以下が好ましく、6.0質量部以下がより好ましい。
【0085】
グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンの持つ3つのOH基のうちの少なくとも1つに脂肪酸がエステル結合したものであり、脂肪酸のつく数によって、グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、グリセリン脂肪酸トリエステルに分かれるものである。グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、好ましくは炭素数8~28、より好ましくは炭素数8~22、さらに好ましくは炭素数10~18、特に好ましくは炭素数12~18の脂肪酸である。また、脂肪酸は飽和、不飽和、直鎖、分岐鎖いずれでもよいが、直鎖状飽和脂肪酸が好ましい。脂肪酸の具体例としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。
【0086】
グリセリン脂肪酸エステルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、特に制限されないが、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、10.0質量部以下が好ましく、8.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましい。グリセリン脂肪酸エステルの含有量を前記の範囲とすることにより、ゴム組成物中でのフィラーの分散性が向上し、低燃費性能、耐摩耗性能をより改善することができる。
【0087】
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。これらの加工助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加工助剤としては、例えば、Schill+Seilacher社、パフォーマンスアディティブス社等より市販されているものを使用することができる。
【0088】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。
【0089】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0091】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0092】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10.0質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0093】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0094】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好なグリップ性能および耐摩耗性能を得るという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、劣化の観点からは、3.0質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0095】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0096】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系加硫促進剤からなる群から選ばれる1以上の加硫促進剤が好ましい。
【0097】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)が好ましい。
【0098】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
【0099】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0100】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0101】
本開示に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0102】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0103】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0104】
シリカがゴム組成物の特性を改良する効果をより発揮させ観点から、前記ベース練り工程を、ブタジエンゴムの全量とシリカおよびシランカップリング剤とを含むBRマスターバッチを製造するX練り工程、および前記マスターバッチに加硫剤および加硫促進剤以外の残りのゴム成分、配合剤および添加剤を添加して混練するY練り工程とに分けてもよい。シリカおよびシランカップリング剤は、前記X練り工程において全量を投入してもよく一部を投入してもよい。
【0105】
前記BRマスターバッチは、ブタジエンゴム100質量部に対し、シリカを10~30質量部配合することが好ましく、10~20質量部配合することがより好ましい。またシランカップリング剤を、シリカの配合量に対し6~15質量%配合することが好ましく、8~12質量%配合することがより好ましい。BRマスターバッチの混練り条件は、シリカを良好に分散させる限り特に制限されないが、混合時の最高温度を140~160℃に調節する混練り方法が好ましい。
【0106】
キャップゴム層およびベースゴム層を含むトレッドを備えたタイヤは、前記のゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機でキャップゴム層およびベースゴム層の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、本開示のタイヤを製造することができる。
【実施例0107】
以下、本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0108】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20(シス含量:100質量%)
BR1:宇部興産(株)製のUBEPOL BR150B(シス含量:97質量%、Mw:44万)
BR2:日本ゼオン(株)製のBR1250H(スズ変性BR、開始剤としてリチウムを用いて重合、シス含量:42質量%、Mw:57万)
BR3:旭化成ケミカルズ(株)製のN103(テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンと、そのオリゴマー成分との混合物により末端が変性された変性BR、シス含量:36質量%、Mw:55万)
カーボンブラック:三菱ケミカル(株)製のダイヤブラックN220(N2SA:115m2/g)
シリカ1:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g)
シリカ2:エボニックデグサ社製のウルトラシル9100GR(N2SA:230m2/g)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS))
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン(DPG))
【0109】
(実施例および比較例)
表1および表2に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度170℃になるまで5分間混練りし、混練物を得た。さらに、得られた混練物を前記バンバリーミキサーにより、排出温度150℃で4分間、再度混練りした(リミル)。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間プレス加硫することで、試験用加硫ゴム組成物を作製した。
【0110】
また、前記未加硫ゴム組成物を所定の形状の口金を備えた押し出し機でタイヤトレッドの形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、プレス加硫することにより、表3に記載の試験用タイヤ(12R22.5、トラック・バス用タイヤ)を製造した。
【0111】
得られた試験用加硫ゴム組成物および試験用タイヤについて下記の評価を行った。評価結果を表1~表3に示す。
【0112】
<粘弾性試験>
各試験用タイヤのキャップゴム層およびベースゴム層から加硫ゴムを採取し、幅4mm、長さ40mm、厚さ2mmに切り出し、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み±2%、周波数10Hzで、損失正接(tanδ)を測定した。また、キャップゴム層の70℃tanδの逆数の値について比較例1を100として指数表示した(低燃費性能指数)。指数が大きいほど低燃費性能に優れることを示す。
(低燃費性能指数)=(比較例1のキャップゴム層の70℃tanδ)/(各試験用タイヤのキャップゴム層の70℃tanδ)×100
【0113】
<耐破壊性能>
各試験用加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を作製し、JIS K 6251:2017に準拠して、23℃雰囲気下にて引張試験を実施した。破断時強度(TB)(MPa)、および破断時伸び(EB)(%)を測定し、破壊エネルギーを(TB×EB)/2により求めた。また、比較例1の破壊エネルギーを100とし、下記式による指数を表示した。指数が大きいほど耐破壊性能に優れることを示す。
(耐破壊性能指数)=(各試験用タイヤのキャップゴム層の破壊エネルギー)/(比較例1のキャップゴム層の破壊エネルギー)×100
【0114】
<耐摩耗性能>
各試験用タイヤを最大積載量10トン積みのトラック(2-D車)の全輪に装着し、アスファルトで舗装された路面を30000km走行後のタイヤトレッド部の溝深さを測定し、タイヤ溝深さが1mm減るときの走行距離を求めた。結果は比較例1のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離を100とし、下記計算式による指数で示す。指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
(耐摩耗性指数)=(各配合例のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)/(比較例1のタイヤ溝が1mm減るときの走行距離)×100
【0115】
なお、低燃費性能、耐破壊性能および耐摩耗性能の総合性能(低燃費性能指数、耐破壊性能指数および耐摩耗性能指数の平均値)は、103以上を性能目標値とし、105以上が好ましく、107以上がより好ましい。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
表1~表3の結果より、所定のゴム成分および所定のシリカを含有するゴム組成物により構成され、前記ゴム組成物の損失正接tanδを所定の範囲とし、かつ、周方向溝の総面積に対する横溝の総面積の比が所定の範囲内であるトレッドを備える本開示のタイヤは、低燃費性能、耐破壊性能、および耐摩耗性能の総合性能が改善されていることがわかる。
【0120】
<実施形態>
本開示の実施形態の例を以下に示す。
【0121】
〔1〕トレッドを備えたタイヤであって、前記トレッドの外面を構成するキャップゴム層が、イソプレン系ゴムおよびブタジエンゴムの合計含有量が90質量%以上であるゴム成分および窒素吸着比表面積(N2SA)が180m2/g以上のシリカを含有するゴム組成物により構成され、前記ブタジエンゴム中の総シス含量が90質量%未満であり、前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδが0.15未満であり、前記トレッドは、タイヤ周方向に連続して延びる周方向溝とタイヤ幅方向に延びる横溝とを有し、前記周方向溝の総面積S1に対する前記横溝の総面積S2の比(S2/S1)が0.80未満であるタイヤ。
〔2〕前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδが0.03~0.12である、上記〔1〕記載のタイヤ。
〔3〕前記ブタジエンゴム中の総シス含量が30~89質量%である、上記〔1〕または〔2〕記載のタイヤ。
〔4〕前記キャップゴム層を構成するゴム組成物の23℃における破断時強度をTB(MPa)、23℃における破断時伸びをEB(%)としたとき、TB×EB/2により求められる破壊エネルギーが5000以上である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔5〕前記ゴム成分全量中の総シス含量が60~95質量%である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔6〕前記キャップゴム層を構成するゴム組成物が、前記ゴム成分100質量部に対し、前記窒素吸着比表面積(N2SA)が180m2/g以上のシリカを20質量部以上含有する、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔7〕前記キャップゴム層を構成するゴム組成物がグリセリン脂肪酸エステルを含有する、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔8〕前記トレッドが前記キャップゴム層の半径方向内側に隣接するベースゴム層を有し、前記キャップゴム層の厚さをTc(mm)、前記ベースゴム層の厚さをTb(mm)としたとき、TcおよびTbが、下記式(1)を満たす、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のタイヤ。
0.10≦(Tb)/(Tc+Tb)≦0.35 ・・・(1)
〔9〕前記トレッドが前記キャップゴム層の半径方向内側に隣接するベースゴム層を有し、前記ベースゴム層を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδが0.01~0.07である、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のタイヤ。