(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022097859
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】切断装置及び切断方法並びに金属材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 7/10 20060101AFI20220624BHJP
【FI】
B23K7/10 501C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211067
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】福地 良太
(72)【発明者】
【氏名】山下 浩二
(57)【要約】
【課題】手間を掛けずに切断面のエグレ疵の発生を抑制すること
【解決手段】切断装置1は、間隔をあけて並べられた複数の板部材2aからなる定盤2上に載置された金属材を切断する切断装置であって、金属材Sを熱切断する切断トーチ10と、切断トーチ10を金属材Sに対して切断方向CDに相対的に移動させるトーチ移動手段20と、金属材Sに対する切断トーチ10の傾斜角度を変化させるトーチ傾動手段30と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔をあけて並べられた複数の板部材からなる定盤上に載置された金属材を切断する切断装置であって、
前記金属材を熱切断する切断トーチと、
前記切断トーチを前記金属材に対して切断方向に相対的に移動させるトーチ移動手段と、
前記金属材に対する前記切断トーチの傾斜角度を変化させるトーチ傾動手段と、
を有する切断装置。
【請求項2】
前記トーチ傾動手段は、前記板部材上に位置する前記金属材を切断するとき、前記切断トーチの先端部を前記金属材に対し所定の傾斜角度だけ切断方向の下流側へ傾斜させる請求項1に記載の切断装置。
【請求項3】
前記所定の傾斜角度は、45~60°の範囲内である請求項2に記載の切断装置。
【請求項4】
前記切断トーチは、前記トーチ移動手段により切断開始位置に位置決めされ予熱を行った後に切断線に沿って移動することで切断を行うものであり、
前記トーチ傾動手段は、前記切断開始位置において前記切断トーチを初期角度に設定するとともに、前記トーチ移動手段による切断方向への前記切断トーチの移動中に前記切断トーチを所定の傾斜角度に傾斜させていく請求項2または3に記載の切断装置。
【請求項5】
前記トーチ傾動手段は、前記切断トーチを所定の傾斜角度に傾斜させた後から切断終了位置に移動するまで、前記切断トーチを所定の傾斜角度に傾斜した状態を維持する請求項4に記載の切断装置。
【請求項6】
前記板部材上に位置する前記金属材を検知する位置検知手段をさらに有し、
前記トーチ傾動手段は、前記位置検知手段により前記板部材上に位置する前記金属材の位置が検知されたときに前記切断トーチを所定の傾斜角度に傾斜させ、前記板部材上に位置する前記金属材の切断が完了したときに前記切断トーチを初期角度に戻す動作を、切断終了位置の切断が完了するまで繰り返す請求項4に記載の切断装置。
【請求項7】
前記切断トーチの先端部と前記金属材との距離を検知する距離検知手段と、
前記切断トーチの高さ位置を移動させる高さ移動手段と、
をさらに有し、
前記高さ移動手段は、前記距離検知手段の検知結果に基づいて前記切断トーチの高さを調整する請求項1から6のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項8】
前記切断トーチを前記切断トーチの軸周りに回転させる回転駆動部をさらに有する、請求項1から7のいずれか1項に記載の切断装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の切断装置を用い、前記切断トーチを前記金属材に対して切断方向に相対的に移動させ、前記切断トーチの切断方向に対する傾斜角度を変化させて前記切断トーチによって前記金属材を熱切断する、金属材の切断方法。
【請求項10】
金属材を製造する際に、請求項9に記載の金属材の切断方法を用いて金属材を熱切断する、金属材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材を切断トーチによって切断する切断装置及び切断方法並びに金属材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
厚鋼板等の金属材を精製する厚板精製工程において、圧延後の金属材を製品寸法に切り出す切断作業が行われる。金属材は、所定の間隔で並べた複数の板部材(平鋼板)からなる定盤に載置された状態で切断トーチを用いて熱切断される。熱切断のうち、ガス切断は、燃焼熱で金属材を溶かし、溶けた金属をガス流速で吹き飛ばしつつ金属材を切断する方法である。
【0003】
ガス流速による溶融金属の吹き飛ばしが不十分な場合には、切断面下部に切断ノロ等の溶融物の付着欠陥が発生する。そこで、例えば特許文献1には、鋼材(金属材)を溶断するための切断主トーチと、切断主トーチの後方に所定の間隔で取り付けられた切断副トーチとを設け、切断副トーチによってノロを吹飛ばしながら溶断する切断方法が提案されている。
【0004】
一方、上述した定盤上の金属材の切断では、切断線が板部材の真上に掛かった場合、金属材の裏面から溶融物の逃げ場が無くなるため、溶融物や切断酸素の吹き返りにより、切断面に凹状の疵(エグレ疵)が生じることがある。
【0005】
そこで、特許文献2において、定盤の板部材としてガス切断が可能な鋳鉄を用い、金属材の切断時に金属材とともに板部材も切断することが提案されている。これにより、定盤の板部材に溶融物の逃げ道が作成されるため、切断面のエグレ疵が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-8524号公報
【特許文献2】特開2000-246480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の場合、金属材の切断作業を行う度に定盤の板部材が溶断されてしまうため、板部材を頻繁に交換する手間が発生してしまう。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、手間を掛けずに切断面のエグレ疵の発生を抑制することができる切断装置及び切断方法並びに金属材の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] 間隔をあけて並べられた複数の板部材からなる定盤上に載置された金属材を切断する切断装置であって、
前記金属材を熱切断する切断トーチと、
前記切断トーチを前記金属材に対して切断方向に相対的に移動させるトーチ移動手段と、
前記金属材に対する前記切断トーチの傾斜角度を変化させるトーチ傾動手段と、
を有する切断装置。
[2] 前記トーチ傾動手段は、前記板部材上に位置する前記金属材を切断するとき、前記切断トーチの先端部を前記金属材に対し所定の傾斜角度だけ切断方向の下流側へ傾斜させる[1]に記載の切断装置。
[3] 前記所定の傾斜角度は、45~60°の範囲内である[2]に記載の切断装置。
[4] 前記切断トーチは、前記トーチ移動手段により切断開始位置に位置決めされ予熱を行った後に切断線に沿って移動することで切断を行うものであり、
前記トーチ傾動手段は、前記切断開始位置において前記切断トーチを初期角度に設定するとともに、前記切断トーチによる切断を行いながら前記切断トーチを所定の傾斜角度に傾斜させていく[2]または[3]に記載の切断装置。
[5] 前記トーチ傾動手段は、前記切断トーチを所定の傾斜角度に傾斜させた後、切断終了位置の切断が完了するまで前記切断トーチを所定の傾斜角度に傾斜した状態を維持する[4]に記載の切断装置。
[6] 前記板部材上に位置する前記金属材を検知する位置検知手段をさらに有し、
前記トーチ傾動手段は、前記位置検知手段により前記板部材上に位置する前記金属材の位置が検知されたときに前記切断トーチを所定の傾斜角度に傾斜させ、前記板部材上に位置する前記金属材の切断が完了したときに前記切断トーチを初期角度に戻す動作を切断終了位置の切断が完了するまで繰り返す[4]に記載の切断装置。
[7] 前記切断トーチの先端部と前記金属材との距離を検知する距離検知手段と、
前記切断トーチの高さ位置を移動させる高さ移動手段と、
をさらに有し、
前記高さ移動手段は、前記距離検知手段の検知結果に基づいて前記切断トーチの高さを調整する[1]から[6]のいずれかに記載の切断装置。
[8] 前記切断トーチを前記切断トーチの軸周りに回転させる回転駆動部をさらに有する、[1]から[7]のいずれかに記載の切断装置。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の切断装置を用い、前記切断トーチを前記金属材に対して切断方向に相対的に移動させ、前記切断トーチの切断方向に対する傾斜角度を変化させて前記切断トーチによって前記金属材を熱切断する、金属材の切断方法。
[10] 金属材を製造する際に、[9]に記載の金属材の切断方法を用いて金属材を熱切断する、金属材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、切断トーチを傾斜させるトーチ傾動手段を設けたことにより、定盤の板部材の上部に位置する金属材を切断する際に切断トーチを傾斜させて溶融物及び切断酸素気流が定盤の上部に滞留することを抑制し、金属材の板部材上に位置する部位に疵が発生するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の切断装置の好ましい実施形態を示す模式図である。
【
図2】
図1の切断装置におけるトーチ傾動手段の一例を示す斜視図である。
【
図3】トーチ傾動手段が切断トーチを傾斜させた様子を示す模式図である。
【
図4】トーチ傾動手段が切断トーチを傾斜させた様子を示す模式図である。
【
図5】切断トーチの傾斜角度αを0°(垂直)から60°に傾斜させた際のエグレ疵深さ/板厚を示すグラフである。
【
図6】
図1の切断装置の動作例を示す模式図である。
【
図7】従来の切断装置によって切断した際の板部材上に位置する金属材の様子及び
図1~
図6の切断装置によって切断した際の板部材上に位置する金属材の様子を示す写真である。
【
図8】本発明の切断装置の第2の実施形態を示す斜視図である。
【
図9】本発明の切断装置の第2の実施形態を示す模式図である。
【
図10】
図8及び
図9の切断装置において、切断トーチが傾斜する様子を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の切断装置の第1の実施形態を示す模式図である。
図1の切断装置1は、いわゆる門型切断機であって、例えば圧延後の厚鋼板等の金属材Sが製品寸法になるように、金属材Sを切断するものである。切断装置1は、金属材Sが載置される定盤2と、金属材Sの切断を行う切断トーチ10と、定盤2の上部において切断トーチ10を移動可能に保持するトーチ移動手段20と、切断トーチ10の傾斜角度を調整するトーチ傾動手段30と、切断装置1の動作を制御する制御装置40とを備える。
【0013】
定盤2は、間隔をあけて並べられた複数の板部材2aを有し、複数の板部材2aの上面に金属材Sが載置される。定盤2に載置されている金属材Sの下面側には、定盤2(板部材2a)の上面に接触する接触部位と空間を有する非接触部位とが形成される。金属材Sは、切断方向(
図1ではX方向)に対して板部材2aの長手方向が傾斜するように定盤2上に載置される。これにより、板部材2a上に位置する金属材Sの切断時に、板部材2aの長手方向が切断方向に対して垂直な場合に比べて溶融物及び切断酸素気流の逃げ道が形成されやすくなる。なお、
図1において、切断方向CDに対して板部材2aの長手方向が傾斜するように金属材Sが定盤2上に載置される場合について例示しているが、板部材2aの長手方向が切断方向に対して垂直になるように金属材Sが定盤2上に載置されてもよい。
【0014】
板部材2aは、例えば平鋼板等の切断トーチ10によって切断されない材料からなっている。板部材2aの上面は、平面状に形成されていてもよいし、金属材Sとの接触面に凸凹等が設けられていてもよい。例えば、定盤2の上面には幅方向に沿って延びるリブもしくは溝が長手方向に沿って複数形成される。このように、金属材Sとの接触面に凸凹等が設けられている場合、金属材Sの切断時に溶融物及び切断酸素気流の逃げ道が板部材によって塞がれてしまうことを抑制することができる。
【0015】
切断トーチ10は、例えばガスを用いて炎を金属材Sに噴射するガス切断トーチからなっている。切断トーチ10は、金属材Sに対し予熱炎を噴射して金属材Sを予熱するとともに、予熱された金属材Sに切断酸素気流を吹き付けて金属材Sを切断する。なお、切断トーチ10がガス切断を行う場合について例示しているが、プラズマ切断を行うものであってもよい。
【0016】
トーチ移動手段20は、定盤2上に載置された金属材Sに対し、切断トーチ10を切断方向CDに対し相対的に移動させるものである。トーチ移動手段20は、一方向(
図1のY方向)に延びる一対の軌条21と、軌条21上に移動可能に設置された門型フレーム22と、門型フレーム22上に移動可能に取り付けられ、切断トーチ10を保持するとともに切断トーチ10の高さ位置を調整する高さ移動手段として機能するトーチ保持手段23とを備える。
【0017】
軌条21は、定盤2の両端側にY方向に延びるように設置されている。門型フレーム22は、定盤2を跨ぐように配置されており、矢印X方向に延びるクロスビームを有する。門型フレーム22は、軌条21に沿って移動することにより金属材S上を矢印Y方向に移動する。トーチ保持手段23は、門型フレーム22のクロスビームに沿って矢印X方向に移動することにより金属材S上を矢印X方向に移動する。また、トーチ保持手段23は、切断トーチ10を鉛直方向(矢印Z方向)に移動可能に保持している。このように、トーチ移動手段20は、切断トーチ10を金属材Sに対しXYZ方向に相対的に移動させるものであり、その動作は制御装置40によって制御されている。
【0018】
図2は、
図1の切断装置におけるトーチ傾動手段の一例を示す斜視図である。
図1及び
図2のトーチ傾動手段30は、金属材Sに対する切断トーチ10の傾斜角度を変化させるものであり、支柱31及び回転駆動部32を介してトーチ保持手段23に支持されている。トーチ傾動手段30は、例えば、モータ等の電気的なアクチュエータにより回転駆動するものであり、切断トーチ10を矢印ψ方向に揺動させて傾斜角度を変化させる。トーチ傾動手段30の動作は制御装置40により制御されている。
【0019】
さらに、切断装置1は、切断トーチ10を切断トーチ10の軸周りに回転させる回転駆動部32を備える。回転駆動部32は、切断方向CDを任意の方向に設定する機能を有し、z方向を回転軸として矢印φ方向に切断トーチ10及びトーチ傾動手段30を回転させる。回転駆動部32は、例えば、モータ等の電気的なアクチュエータにより回転駆動するものであり、その動作は制御装置40により制御されている。
【0020】
なお、どの方向にも切断できるように回転駆動部32が設けられている場合について例示しているが、切断方向が1方向のみである場合には回転駆動部32を設ける必要はない。また、
図1のように切断トーチ10全体が傾斜するのではなく、切断トーチ10の先端部に傾動軸を設け、先端部を傾斜させるようにしてもよい。この場合、切断トーチの先端部と金属材との距離がほとんど変化しないため、必ずしも距離検知手段(センサ)や高さ移動手段(アクチュエータ)を備える必要はない。
【0021】
図3及び
図4は、トーチ傾動手段が切断トーチを傾斜させた様子を示す模式図である。
図3のように、切断線CLがX方向に延びるように設定されている場合、トーチ傾動手段30は切断トーチ10を切断線CL上において矢印ψ方向に回転させて傾斜させる。一方、
図4のように切断線CLがY方向に沿って設定されている場合、回転駆動部32が切断トーチ10及びトーチ傾動手段30を矢印φ方向に90°回転させた状態で、トーチ傾動手段30は切断トーチ10を切断線CL上において矢印ψ方向に回転させて傾斜させる。
【0022】
図1の制御装置40は、コンピュータ等からなり、金属材Sの切断時に切断トーチ10、トーチ移動手段20及びトーチ傾動手段30の動作を制御する。制御装置40には金属材Sを切断する際の切断線CLの情報が設定される。なお、切断開始位置は金属材Sにおける切断線CL上の一端側に設定され、切断終了位置は切断線CL上の他端側に設定される。そして、制御装置40は、金属材Sが切断線CLに沿って切断されるように切断トーチ10、トーチ移動手段20及びトーチ傾動手段30の動作を制御する。
【0023】
例えば
図3のように、切断線CLがX方向に沿って設定されている場合、切断トーチ10が切断線CL上に位置するように門型フレーム22(
図1参照)が移動する。そして、トーチ保持手段23が門型フレーム22のクロスビームに沿って矢印X方向に移動するとともに、切断トーチ10が予熱炎及び切断酸素気流を噴射して金属材Sを切断線CLに沿って切断していく。一方、
図4のように切断線CLがY方向に沿って設定されている場合、トーチ保持手段23が切断線CL上に切断トーチ10が位置するように移動する。そして、門型フレーム22が矢印Y方向に移動しつつ切断トーチ10が作動し、金属材Sを切断線CLに沿って切断していく。
【0024】
ここで、制御装置40は、切断作業時に以下のようにトーチ傾動手段30を制御する。まず、
図3及び
図4のように、トーチ傾動手段30は、切断開始位置では切断トーチ10が金属材Sに対して初期角度(例えば垂直)になるように動作する。なお、初期角度は、必ずしも垂直(0°)である必要はなく、少なくとも予め設定された所定の傾斜角度αより小さい角度であればよく、垂直に対してある程度角度があってもよい。
【0025】
切断開始位置での予熱が完了した後、切断開始位置から板部材2a上に位置する金属材Sに到達するまでの間において、トーチ移動手段20が切断トーチ10を移動させながら、トーチ傾動手段30が切断トーチ10の先端部を所定の傾斜角度αまで切断方向CDに対し下流側(後方)に傾斜させていく。なお、本実施形態では、切断方向CDに向かって前方、すなわち金属材Sの他端側(切断終了位置)を上流側とし、後方、すなわち金属材Sの一端側(切断開始側)を下流側とする。この際、傾斜速度は切断トーチ10の移動速度(切断速度)と等しい、もしくはそれ以下で傾動させることが好ましい。これにより、切断トーチ10の切断の進行速度の変動に起因する切断面の品質劣化を抑えることができる。
【0026】
トーチ傾動手段30は、切断トーチ10が所定の傾斜角度αだけ傾斜した後はその状態を切断終了位置に到達するまで維持する。すると、切断線CL上に存在する板部材2a上に位置する金属材Sは、切断方向CDに垂直な方向に対して後方へ傾斜した炎及び切断酸素気流によって切断されることになる。これにより、板部材2aを切断することなく、手間をかけずに切断面のエグレ疵の発生を抑制することができる。
【0027】
所定の傾斜角度αは、特に限定されるものではないが、エグレ疵の抑制効果の観点から、設定角度は30°以上60°以下であることが好ましく、さらに45°以上60°以下であることがより好ましい。
図5は、切断トーチの傾斜角度αを0°(垂直)から60°に傾斜させた際のエグレ疵深さ/板厚を示すグラフである。なお、
図5においては、切断酸素圧力及び切断速度を一定としている。
図5に示すように、切断トーチ10を45°以上に傾斜させることにより、(エグレ疵深さ/板厚)を0.05以下に抑えることができ、エグレ疵の深さを手入れ不要な程度まで減少させることができる。なお、傾斜角度αが60°より大きい場合、エグレ疵深さは改善されるものの、切断板厚が実質上長くなるため、60°以下であることが好ましい。
【0028】
上述のように、切断トーチ10が傾斜した場合、切断トーチ10と金属材Sとの距離が変化する。一方、切断トーチ10の先端部と金属材Sとの距離が一定に維持された状態でガス切断が実施されることにより、良質な切断面を得ることができる。そこで、
図2のように、切断装置1は、金属材Sと切断トーチ10の先端部との距離を測定する距離検知手段41を備えている。距離検知手段41は、例えばレーザー光を使用したもの、音波を使用したものもしくはタッチセンサ等を用いることができる。制御装置40(
図1参照)は、距離検知手段41により測定された距離情報に基づいてトーチ保持手段23の高さ移動機能を制御する。すなわち、制御装置40は、切断トーチ10が傾斜する際には、切断トーチ10の先端部と金属材Sの表面との距離が設定距離になるように切断トーチ10の高さ位置を調整する。
【0029】
図6は
図1の切断装置の動作例を示す模式図であり、
図1から
図6を参照して本発明の切断方法の好ましい実施形態について説明する。まず、
図6(A)のように、切断トーチ10がトーチ移動手段20(
図1参照)の作動により金属材Sの切断開始位置である一端部上に位置決めされる。この際、切断トーチ10は金属材Sの表面に対し初期角度(垂直)の姿勢になっている。その後、切断トーチ10から予熱炎が噴射され、金属材Sの切断開始位置が金属材Sの発火温度まで予熱される。
【0030】
金属材Sの発火温度までの予熱が完了すると、
図6(B)のように、切断トーチ10から切断酸素が噴出して金属材Sの切断が開始される。同時に切断トーチ10が切断方向CDに移動して金属材Sの切断が進行する。この際、切断トーチ10は移動しながら設定された傾斜速度で切断方向CDに対して先端部が後方に傾斜していく。そして、板部材2a上に位置する金属材Sに到達するまでに、切断トーチ10が所定の傾斜角度αまで傾斜する。その後、切断トーチ10は傾斜した状態を維持しながら切断線CLに沿って移動していく。すると、
図6(C)のように、板部材2a上に位置する金属材Sが切断される際、金属材Sを貫通した溶融物及び切断酸素気流Bは、板部材2a上で滞留することなく、既に切断されている金属材Sの隙間から排出されていく。
【0031】
その後、切断トーチ10が切断終了位置である金属材Sの他端部まで移動したとき、切断トーチ10が初期角度である垂直角度に戻る。これにより、他端部に予熱不足による未切断部が生じることを抑制することができる。切断トーチ10による熱切断が完了すると、金属材Sが製品板と耳くず部とに切り分けられる。
【0032】
上記第1の実施形態によれば、板部材2a上に位置する金属材Sを切断する際に切断トーチ10を切断方向CDに対して傾斜させることにより、溶融物及び切断酸素気流が板部材2a上に滞留することを抑制し、板部材2a上に位置する金属材Sに疵が発生するのを抑えることができる。
【0033】
図7(A)は、従来の切断装置によって切断した際の板部材上に位置する金属材の様子を示す写真であり、
図7(B)は、
図1~
図6の切断装置によって切断した際の板部材上に位置する金属材の様子を示す写真である。従来のように、切断トーチ10を金属材Sの上面に対して垂直にした状態で熱切断した場合、金属材Sにおける板部材2aと接触している接触部位は、見かけ上、板部材2aの板厚を含む大きな板厚となる。このため、切断時の溶融物と切断酸素気流の逃げ道が塞がれて切断面中に滞留して切断面をえぐることにより、
図7(A)のように凹状のエグレ疵が生じる。一方、切断装置1のように、切断トーチ10が切断方向に沿って傾斜することにより、切断済の金属材Sの隙間から溶融物及び切断酸素気流が排出される。切断面に溶融物及び切断酸素気流が滞留しないため、
図7(B)のように切断面のエグレ疵を抑制することができる。
【0034】
特に、切断トーチ10の先端部が所定の傾斜角度αだけ後方(切断方向CDの進行方向逆側)に傾斜することにより、切断済の金属材Sの隙間から溶融物及び切断酸素気流が効果的に排出されるため、エグレ疵を確実に抑制することができる。
【0035】
また、切断トーチ10が切断方向CDに移動しながら傾斜したとき、切断の進行速度が急激に変化するのを防止して安定して均一な切断を維持し、切断品質の低下を防止することができる。
【0036】
さらに、切断トーチ10の先端部と金属材Sとの距離が一定に維持された状態でガス切断が実施されることにより、良質な切断面を得ることができる。この際、所定の傾斜角度は、45~60°の範囲内で設定されていれば、エグレ疵の深さを手入れ不要な程度まで減少させることができる。
【0037】
また、トーチ傾動手段30が、トーチ移動手段20による切断方向への切断トーチ10の移動中に切断トーチ10を所定の傾斜角度αに傾斜させていくことで、切断の進行速度の変動に起因する切断面の品質劣化を抑えることができる。
【0038】
さらに、トーチ保持手段(高さ移動手段)23が、距離検知手段41の検知結果に基づいて切断トーチ10の高さを調整することにより、切断トーチ10の先端部と金属材Sとの距離を設定距離に保つことができ、切断品質の劣化を抑えることができる。また、切断トーチ10を軸周りに回転させる回転駆動部32をさらに有するとき、金属材Sのどの方向にも切断できるようになる。
【0039】
図8は本発明の切断装置の第2の実施形態を示す斜視図であり、
図9は本発明の切断装置の第2の実施形態を示す模式図であり、
図8及び
図9を参照して切断装置100について説明する。なお、
図8及び
図9の切断装置100が
図1の切断装置1と同一の構成を有する部位には同一の符号を付してその説明を省略する。
図8及び
図9の切断装置100が
図1の切断装置と異なる点は、切断トーチ10が、板部材2a上に位置する金属材Sを切断する際には所定の傾斜角度αに傾斜し、板部材2a上に位置する金属材Sの切断が完了すると、初期角度に戻る点である。なお、
図8においては、板部材2aの長手方向(矢印Y方向)と切断方向CD(矢印X方向)とが直交する場合について例示しているが、
図1と同様、切断方向CDと板部材2aの長手方向とが傾斜するように配置してもよい。
【0040】
図8及び
図9の切断装置100は、板部材2a上に位置する金属材Sを検知する、すなわち切断トーチ10の傾斜開始位置を検知する位置検知手段102を備えており、位置検知手段102は例えばカメラ等からなっている。一方、金属材Sの傾斜開始位置には傾動開始マーカーMKが設けられている。傾動開始マーカーMKを付与する方法としては、例えば石墨等で金属材S上に記載をする方法、マグネットシート等を貼り付ける方法が挙げられる。
【0041】
なお、位置検知手段102が、カメラの場合について例示しているが、例えば板厚を検知するレーザーセンサ等からなっていてもよい。この場合、位置検知手段102は金属材Sのみが存在するのか、あるいは金属材Sと板部材2aの双方が存在するのかを検知することで、板部材2a(板部材2a上に位置する金属材S)を検知してもよい。
【0042】
図10は、
図8及び
図9の切断装置において、切断トーチが傾斜する様子を示すグラフであり、
図8から
図10を参照して切断装置100の動作例について説明する。なお、
図10においても、上述した
図6(A)及び6(B)と同様、初期角度による切断開始位置の予熱が行われる。そして、金属材Sの切断開始位置の予熱が完了した後、切断トーチ10は切断線CLに沿って切断作業を行いながら移動していく。この際、位置検知手段102は、切断トーチ10とともに移動しながら金属材S上を撮影して画像情報を取得し、制御装置140は位置検知手段102において取得された画像情報の中に傾動開始マーカーMKがあるか否かを判別する。制御装置140において傾動開始マーカーMKが検出されなかった場合、トーチ傾動手段30は、切断トーチ10を初期角度で維持したままにし、その状態で切断が進行していく。
【0043】
一方、制御装置140が画像情報から傾動開始マーカーMKを検出したとき、トーチ傾動手段30は切断トーチ10の傾動を開始させる。そして、板部材2a上に位置する金属材Sを切断する位置に到達する前までに、切断トーチ10が所定の傾斜角度αに傾斜した状態になる。このように、切断の進行速度が急激に変化するのを防止して安定して均一な切断を維持し、切断品質の低下を防止することができる。トーチ傾動手段30は、板部材2a上に位置する金属材Sの切断が完了するまで、切断トーチ10を傾斜した状態に維持する。そして、板部材2a上に位置する金属材Sの切断が完了したとき、トーチ傾動手段30は切断トーチ10を所定の傾斜角度αから初期角度へ戻す。なお、板部材2aの幅は既知であるため、傾斜した状態での切断方向CDへの移動量及び初期角度へ戻す位置も制御装置140において予め設定することができる。その後、再び傾動開始マーカーMKが検出されるまで、初期角度の切断トーチ10による切断が進行する。切断トーチ10が切断終了位置にくるまで切断トーチ10の傾斜及び初期角度へ戻すことが繰り返される。
【0044】
上記第2の実施形態によれば、金属材Sにおける板部材2aと非接触な部位は、切断トーチ10が初期角度になっている状態で切断されることになる。これにより、切断トーチ10を傾斜させることによる切断板厚の増加を抑制して、切断速度を向上させることができる。さらに、この場合であっても、上記第1の実施形態と同様、板部材2a上に位置する金属材Sを切断する際には切断トーチ10は傾斜しているため、
図7(A)のようなエグレ疵の発生を抑制することができる。
【0045】
本発明の実施形態は、上記実施形態に限定されず、種々の変更を加えることができる。例えば、上記実施形態において、金属材が厚鋼板である場合について例示しているが、これに限られず、薄鋼板、ステンレス鋼、クラッド鋼等の金属材を切断する際にも適用することができる。
【0046】
また、トーチ移動手段20は、門型の形状を有する場合について例示しているが、レール上を自走する台車に切断トーチ10を取り付けたポータブルタイプの切断装置にも適用できる。さらに、トーチ移動手段20は、切断トーチ10を金属材Sに対し移動させる場合について例示しているが、固定された切断トーチ10に対して金属材S及び定盤2を切断方向に沿って移動させるものであってもよい。
【0047】
上記各実施形態において、トーチ傾動手段30は、切断トーチ10全体を傾斜させる場合について例示しているが、切断トーチ10の先端部を傾動する機構からなっていてもよい。この場合、切断トーチ10の先端部と厚板との距離がほとんど変化しないため、必ずしも距離検知手段(センサ)や高さ移動手段(アクチュエータ)を備えていなくてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1、100 切断装置
2 定盤
2a 板部材
10 切断トーチ
20 トーチ移動手段
21 軌条
22 門型フレーム
23 トーチ保持手段(高さ移動手段)
30 トーチ傾動手段
31 支柱
32 回転駆動部
40、140 制御装置
41 距離検知手段
102 位置検知手段
B 切断酸素気流
CD 切断方向
CL 切断線
MK 傾動開始マーカー
S 金属材
α 傾斜角度