(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098067
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/08 20060101AFI20220624BHJP
B60C 13/00 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
B60C19/08
B60C13/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211393
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末吉 裕介
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA33
3D131AA34
3D131AA35
3D131AA36
3D131AA39
3D131AA51
3D131BA05
3D131BA09
3D131BB01
3D131BC02
3D131BC05
3D131BC31
3D131BC45
3D131CA03
3D131DA01
3D131DA33
3D131DA34
3D131DA54
3D131DA56
3D131EA01V
3D131EA01Y
3D131EA02U
3D131GA19
3D131HA32
3D131HA33
3D131HA35
3D131HA36
3D131HA42
3D131KA02
3D131KA06
3D131LA15
(57)【要約】
【課題】安定した導電性能を有するタイヤ2の提供。
【解決手段】このタイヤ2は、クッション22とビード10との間に位置し、糸状部材48からなる連結要素24とを備える。糸状部材48は、第一本体54と、径方向において第一本体54の内側に位置する第二本体56とを備える。第一本体54及び第二本体56は導電性を有する糸である。第一本体54が外端Pa1においてクッション22に繋がり、第二本体56が内端Pa2においてビード10のエイペックス42と繋がる。糸状部材48に、第一本体54の内端Pb1と第二本体56の外端Pb2とを含む、断線部58が構成される。断線部58の長さは5mm以下である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
路面と接地するトレッドと、
前記トレッドの端に連なり、径方向において前記トレッドの内側に位置する一対のサイドウォールと、
前記サイドウォールの径方向内側に位置し、リムと接触する一対のクリンチと、
軸方向において前記クリンチの内側に位置する一対のビードと、
前記トレッド、前記サイドウォール及び前記クリンチの内側に位置するカーカスと、
径方向において、前記トレッドと前記カーカスとの間に位置するベルトと、
前記ベルトの端と前記カーカスとの間に位置する一対のクッションと、
前記クッションと前記ビードとの間に位置し、糸状部材からなる連結要素と
を備え、
前記ビードが、コアと、径方向において前記コアの外側に位置するエイペックスとを備え、
前記カーカスが少なくとも1枚のカーカスプライを含み、
前記カーカスプライが、一方のコアと他方のコアとの間とを架け渡すプライ本体と、前記プライ本体に連なり前記コアで軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部とを備え、
前記糸状部材が、第一本体と、径方向において前記第一本体の内側に位置する第二本体とを備え、
前記第一本体及び前記第二本体が導電性を有する糸であり、
前記第一本体が外端において前記クッションに繋がり、前記第二本体が内端において前記エイペックスと繋がり、
前記糸状部材に、前記第一本体の内端と前記第二本体の外端とを含む、断線部が構成され、
前記断線部の長さが5mm以下である、
タイヤ。
【請求項2】
前記連結要素が、前記サイドウォールと前記プライ本体との間に位置する、
請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記断線部が、径方向においてタイヤ最大幅位置の外側に位置する、
請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記連結要素が、前記糸状部材が蛇行する蛇行部を含み、
前記断線部が、前記蛇行部に含まれる、
請求項1から3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記連結要素の前記蛇行部以外の部分が、前記糸状部材が直線状に延びる、直線部を含む、
請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
タイヤ赤道からの径方向距離がタイヤ断面高さの23%であるタイヤ外面上の位置における前記カーカスの外側部分の厚さの、タイヤ最大幅位置における前記カーカスの外側部分の厚さに対する比が1.2以上1.8以下である、
請求項1から5のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記第一本体の外端が前記プライ本体と前記クッションとの間に挟まれ、前記クッションの、前記第一本体との重複長さが3mm以上13mm以下であり、
前記第二本体の内端が前記プライ本体と前記エイペックスとの間に挟まれ、前記エイペックスの、前記第二本体との重複長さが3mm以上10mm以下である、
請求項1から6のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記糸状部材が、前記第一本体の内端と前記第二本体の外端とを覆うパッチを備え、
前記カーカスプライが、並列した多数のカーカスコードと、前記多数のカーカスコードを覆うトッピングゴムとで構成され、
前記パッチの材質が、前記トッピングゴムの材質と同じである、
請求項1から7のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記カーカスが1枚のカーカスプライで構成される、
請求項1から8のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項10】
30℃での、前記サイドウォールの損失正接が0.08以下である、
請求項1から9のいずれか一項に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
転がり抵抗の低減のために、タイヤに使用されるゴムに低発熱性ゴムが用いられる。低発熱性ゴムは、主たる補強剤としてシリカを含む。シリカは導電性に劣る。低発熱性ゴムの使用は、タイヤの電気抵抗を高める。高い電気抵抗を有するタイヤを装着した車両には、静電気が蓄積しやすい。静電気の蓄積は、例えば、ラジオノイズ等の電波障害を招く恐れがある。低発熱性のゴムを使用した場合においても、低い電気抵抗を有するタイヤの開発が進められている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の特許文献1では、タイヤの導電性を確保するために、左右のコア間を架け渡すように導電性糸が配置される。走行しているタイヤでは変形と復元とが繰り返される。タイヤには圧縮歪みや引張歪みが作用する。走行により導電性糸が破断し、タイヤの電気抵抗が高まることが懸念される。導電性糸が金属製フィラメントを含む場合、破断部が損傷の起点になることも懸念される。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、安定した導電性能を有するタイヤの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るタイヤは、路面と接地するトレッドと、前記トレッドの端に連なり、径方向において前記トレッドの内側に位置する一対のサイドウォールと、前記サイドウォールの径方向内側に位置し、リムと接触する一対のクリンチと、軸方向において前記クリンチの内側に位置する一対のビードと、前記トレッド、前記サイドウォール及び前記クリンチの内側に位置するカーカスと、径方向において、前記トレッドと前記カーカスとの間に位置するベルトと、前記ベルトの端と前記カーカスとの間に位置する一対のクッションと、前記クッションと前記ビードとの間に位置し、糸状部材からなる連結要素とを備える。前記ビードは、コアと、径方向において前記コアの外側に位置するエイペックスとを備える。前記カーカスは少なくとも1枚のカーカスプライを含む。前記カーカスプライは、一方のコアと他方のコアとの間とを架け渡すプライ本体と、前記プライ本体に連なり前記コアで軸方向内側から外側に向かって折り返される一対の折り返し部とを備える。前記糸状部材は、第一本体と、径方向において前記第一本体の内側に位置する第二本体とを備える。前記第一本体及び前記第二本体は導電性を有する糸である。前記第一本体が外端において前記クッションに繋がり、前記第二本体が内端において前記エイペックスと繋がる。前記糸状部材に、前記第一本体の内端と前記第二本体の外端とを含む、断線部が構成される。前記断線部の長さは5mm以下である。
【0007】
好ましくは、このタイヤでは、前記連結要素は、前記サイドウォールと前記プライ本体との間に位置する。
【0008】
好ましくは、このタイヤでは、前記断線部は、径方向においてタイヤ最大幅位置の外側に位置する。
【0009】
好ましくは、このタイヤでは、前記連結要素は、前記糸状部材が蛇行する蛇行部を含む。前記断線部は、前記蛇行部に含まれる。
【0010】
好ましくは、このタイヤでは、前記連結要素の前記蛇行部以外の部分が、前記糸状部材が直線状に延びる直線部を含む。
【0011】
好ましくは、このタイヤでは、タイヤ赤道からの径方向距離がタイヤ断面高さの23%であるタイヤ外面上の位置における前記カーカスの外側部分の厚さの、タイヤ最大幅位置における前記カーカスの外側部分の厚さに対する比は1.2以上1.8以下である。
【0012】
好ましくは、このタイヤでは、前記第一本体の外端は前記プライ本体と前記クッションとの間に挟まれる。前記クッションの、前記第一本体との重複長さは3mm以上13mm以下である。前記第二本体の内端は前記プライ本体と前記エイペックスとの間に挟まれる。前記エイペックスの、前記第二本体との重複長さは3mm以上10mm以下である。
【0013】
好ましくは、このタイヤでは、前記糸状部材は、前記第一本体の内端と前記第二本体の外端とを覆うパッチを備える。前記カーカスプライは、並列した多数のカーカスコードと、前記多数のカーカスコードを覆うトッピングゴムとで構成される。前記パッチの材質は、前記トッピングゴムの材質と同じである。
【0014】
好ましくは、このタイヤでは、前記カーカスが1枚のカーカスプライで構成される。
【0015】
好ましくは、このタイヤでは、30℃での、前記サイドウォールの損失正接は0.08以下である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安定した導電性能を有するタイヤが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤの一部を示す断面図である。
【
図4】
図4は、連結要素の変形例を示す概略図である。
【
図5】
図5は、連結要素の他の変形例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、連結要素のさらに他の変形例を示す概略図である。
【
図8】
図8は、タイヤの電気抵抗を測定するための装置を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0019】
本開示においては、タイヤを正規リムに組み、タイヤの内圧を正規内圧に調整し、このタイヤに荷重をかけない状態は、正規状態と称される。本開示においては、特に言及がない限り、タイヤの各部の寸法及び角度は、正規状態で測定される。
【0020】
正規リムとは、タイヤが依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。
【0021】
正規内圧とは、タイヤが依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【0022】
正規荷重とは、タイヤが依拠する規格において定められた荷重を意味する。JATMA規格における「最大負荷能力」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「LOAD CAPACITY」は、正規荷重である。
【0023】
本開示において、架橋ゴムとは、ゴム組成物を加圧及び加熱して得られるゴム組成物の成形体である。ゴム組成物は、バンバリーミキサー等の混錬機において、基材ゴム及び薬品を混合することにより得られる未架橋状態のゴムである。架橋ゴムは加硫ゴムとも称され、ゴム組成物は未加硫ゴムとも称される。
【0024】
基材ゴムとしては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)及びブチルゴム(IIR)が例示される。薬品としては、カーボンブラックやシリカのような補強剤、アロマチックオイル等のような可塑剤、酸化亜鉛等のような充填剤、ステアリン酸のような滑剤、老化防止剤、加工助剤、硫黄及び加硫促進剤が例示される。基材ゴム及び薬品の選定、選定した薬品の含有量等は、ゴム組成物が適用される、トレッド、サイドウォール等の各要素の仕様に応じて、適宜決められる。
【0025】
本開示において、導電性のゴムとは、体積抵抗率が1.0×108Ω・cm未満である、架橋ゴムを意味する。非導電性のゴムとは、体積抵抗率が1.0×108Ω・cm以上である、架橋ゴムを意味する。ゴムの導電性は通常、カーボンブラックの含有量によってコントロールされる。導電性のゴムにおける補強剤の主成分はカーボンブラックであり、非導電性のゴムにおける補強剤の主成分はシリカである。
【0026】
本開示においては、ゴム組成物が補強剤としてシリカ及びカーボンブラックを含む場合、シリカの配合量とカーボンブラックの配合量との合計で表される補強剤全量に対する、シリカの配合量の比率で表されるシリカの配合率が50質量%以上であれば、シリカが補強剤の主成分である。
【0027】
本開示において、薬品の配合量とは、基材ゴム100質量部に対する薬品の質量部で表される。
【0028】
本開示において、タイヤを構成する要素のうち、架橋ゴムからなる要素の体積固有抵抗は、JIS K6271に規定の二重リング電極法に準拠して、その温度が25℃とされた条件下で測定される。この測定には、測定対象の要素の形成に用いられるゴム組成物を170℃の温度で12分間加圧及び加熱して得られる、シート(厚さ=2mm)が用いられる。
【0029】
本開示において、タイヤを構成する要素のうち、架橋ゴムからなる要素の温度30℃での損失正接(tanδとも称される。)は、JIS K6394の規定に準拠し、粘弾性スペクトロメータ((株)岩本製作所製の「VES」)を用いて下記の条件にて測定される。
初期歪み=10%
動歪み=2%
周波数=10Hz
変形モード=引張
この測定では、試験片はタイヤからサンプリングされる。タイヤから試験片をサンプリングできない場合には、測定対象の要素の形成に用いられるゴム組成物を170℃の温度で12分間加圧及び加熱して得られる、シート状の架橋ゴム(以下、ゴムシートとも称される。)から試験片がサンプリングされる。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ2の一部を示す。このタイヤ2は、乗用車用タイヤである。
図1には、タイヤ2の回転軸を含む平面に沿った、タイヤ2の断面(以下、子午線断面とも称される。)の一部が示される。
図1において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。
図1の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面である。
【0031】
図1において、タイヤ2はリムRに組まれている。リムRは正規リムである。タイヤ2の内部には空気が充填され、タイヤ2の内圧が調整される。リムRに組まれたタイヤ2は、タイヤ-リム組立体とも称される。タイヤ-リム組立体は、リムRと、このリムRに組まれたタイヤ2とを備える。
【0032】
図1において、軸方向に延びる実線BBLはビードベースラインである。ビードベースラインは、リムRのリム径(JATMA等参照)を規定する線である。
【0033】
図1において、符号PWで示される位置はタイヤ2の軸方向外端である。模様や文字等の装飾が外面にある場合、外端PWは、装飾がないと仮定して得られる仮想外面に基づいて特定される。
【0034】
一方の外端PWから他方の外端PWまでの軸方向距離は、このタイヤ2の最大幅、すなわちタイヤ断面幅(JATMA等参照)である。外端PWは、このタイヤ2が最大幅を示す位置(以下、タイヤ最大幅位置)である。
図1において、実線LWはタイヤ最大幅位置PWを通り軸方向に延びる直線である。
【0035】
図1において、符号PCで示される位置はタイヤ赤道である。タイヤ赤道PCは、後述するトレッド面と赤道面との交点である。赤道面上に溝がある場合、タイヤ赤道PCは、溝がないと仮定して得られる仮想トレッド面に基づいて特定される。
【0036】
図1において、符号HSで示される長さはタイヤ断面高さ(JATMA等参照)である。タイヤ断面高さHSは、ビードベースラインからタイヤ赤道PCまでの径方向距離である。
【0037】
図1において、実線L21は軸方向に延びる直線である。符号P21で示される位置は、実線L21とタイヤ外面との交点である。符号H21で示される長さはタイヤ赤道PCから直線L21までの径方向距離である。このタイヤ2では、径方向距離H21はタイヤ断面高さHSの21%に設定される。タイヤ外面上の位置P21は、タイヤ赤道PCからの径方向距離H21がタイヤ断面高さHSの21%であるタイヤ外面上の位置である。実線L21は、位置P21を通り軸方向に延びる直線である。
【0038】
図1において、実線L23は軸方向に延びる直線である。符号P23で示される位置は、実線L23とタイヤ外面との交点である。符号H23で示される長さはタイヤ赤道PCから直線L23までの径方向距離である。このタイヤ2では、径方向距離H23はタイヤ断面高さHSの23%に設定される。タイヤ外面上の位置P23は、タイヤ赤道PCからの径方向距離H23がタイヤ断面高さHSの23%であるタイヤ外面上の位置である。実線L23は、位置P23を通り軸方向に延びる直線である。
【0039】
図1において、実線L25は軸方向に延びる直線である。符号P25で示される位置は、実線L25とタイヤ外面との交点である。符号H25で示される長さはタイヤ赤道PCから直線L25までの径方向距離である。このタイヤ2では、径方向距離H25はタイヤ断面高さHSの25%に設定される。タイヤ外面上の位置P25は、タイヤ赤道PCからの径方向距離H25がタイヤ断面高さHSの25%であるタイヤ外面上の位置である。実線L25は、位置P25を通り軸方向に延びる直線である。
【0040】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のクリンチ8、一対のビード10、カーカス12、ベルト14、バンド16、一対のチェーファー18、インナーライナー20、一対のクッション22及び連結要素24を備える。
【0041】
トレッド4は、その外面、すなわちトレッド面26において路面と接地する。トレッド面26はタイヤ外面の一部を構成する。トレッド4には溝28が刻まれる。トレッド4は、トレッド本体30と、端子部32と、一対のウィング34とを備える。
【0042】
端子部32はトレッド本体30を貫通する。端子部32の外端はトレッド面26の一部をなす。端子部32は内端においてベルト14と繋がる。端子部32は導電性のゴムである。
【0043】
それぞれのウィング34は、軸方向においてトレッド本体30の外側に位置する。ウィング34は、トレッド本体30とサイドウォール6とを接合する。ウィング34は、接着性が考慮された架橋ゴムからなる。
【0044】
トレッド本体30は、ベース層36と、キャップ層38とを有する。ベース層36は、ベルト14及びバンド16を覆う。ベース層36は、低発熱性の架橋ゴムからなる。ベース層36は非導電性のゴムである。ベース層36が導電性のゴムであってもよい。キャップ層38は、径方向においてベース層36の外側に位置する。キャップ層38は、ベース層36全体を覆う。キャップ層38の外面が、前述のトレッド面26である。キャップ層38は、耐摩耗性及びグリップ性能が考慮された架橋ゴムからなる。キャップ層38は非導電性のゴムである。キャップ層38が導電性のゴムであってもよい。
【0045】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端に連なる。サイドウォール6は、径方向においてトレッド4の内側に位置する。サイドウォール6は、トレッド4の端からクリンチ8に向かってカーカス12に沿って延びる。サイドウォール6は耐カット性及び低発熱性を考慮した架橋ゴムからなる。サイドウォール6は非導電性のゴムである。このサイドウォール6が導電性のゴムであってもよい。
【0046】
このタイヤ2では、転がり抵抗の低減の観点から、30℃での、サイドウォール6の損失正接は0.08以下が好ましく、0.05以下がより好ましい。この場合、サイドウォール6は低発熱性の架橋ゴム、言い換えれば、非導電性のゴムからなる。
【0047】
クリンチ8は、径方向においてサイドウォール6の内側に位置する。クリンチ8はリムRと接触する。クリンチ8は耐摩耗性を考慮した架橋ゴムからなる。クリンチ8は導電性のゴムである。
【0048】
それぞれのビード10は、軸方向においてクリンチ8の内側に位置する。ビード10は、コア40と、エイペックス42とを備える。図示されないが、コア40はスチール製のワイヤを含む。
【0049】
エイペックス42は、径方向においてコア40の外側に位置する。エイペックス42は外向きに先細りである。エイペックス42は高い剛性を有する架橋ゴムからなる。エイペックス42は導電性のゴムである。
【0050】
カーカス12は、トレッド4、一対のサイドウォール6及び一対のクリンチ8の内側に位置する。カーカス12は、一方のビード10と他方のビード10との間を架け渡す。このカーカス12はラジアル構造を有する。
【0051】
カーカス12は、少なくとも1枚のカーカスプライ44を含む。このタイヤ2のカーカス12は、1枚のカーカスプライ44で構成される。
【0052】
カーカスプライ44は、プライ本体44aと、一対の折り返し部44bとを含む。プライ本体44aは、一方のコア40と他方のコア40との間を架け渡す。それぞれの折り返し部44bは、プライ本体44aに連なりそれぞれのコア40で軸方向内側から外側に向かって折り返される。
【0053】
このタイヤ2では、折り返し部44bの端は、径方向において、タイヤ最大幅位置PWよりも内側に位置する。折り返し部44bの端は、径方向において、エイペックス42の外端PAとコア40との間に位置する。このタイヤ2では、折り返し部44bの端の径方向外側部分では、エイペックス42とクリンチ8とが接触する。
【0054】
図示されないが、カーカスプライ44は並列された多数のカーカスコードと、トッピングゴムとで構成される。それぞれのカーカスコードは、赤道面と交差する。カーカスコードは有機繊維からなるコードである。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。カーカスコードはトッピングゴムで覆われる。トッピングゴムは導電性のゴムである。
【0055】
ベルト14は、径方向において、トレッド4とカーカス12との間に位置する。ベルト14はカーカス12に積層される。このタイヤ2では、ベルト14の軸方向幅は、タイヤ断面幅の65%以上85%以下である。
【0056】
ベルト14は、径方向に積層された少なくとも2つの層46で構成される。このタイヤ2のベルト14は、径方向に積層された2つの層46からなる。2つの層46のうち、内側に位置する層46が内側層46aであり、外側に位置する層46が外側層46bである。
図1に示されるように、内側層46aは外側層46bよりも幅広い。外側層46bの端から内側層46aの端までの長さは3mm以上10mm以下である。
【0057】
図示されないが、内側層46a及び外側層46bはそれぞれ、並列された多数のベルトコードと、トッピングゴムとで構成される。それぞれのベルトコードは赤道面に対して傾斜する。ベルトコードの材質はスチールである。ベルトコードはトッピングゴムで覆われる。トッピングゴムは導電性のゴムである。ベルトコードがスチールコードであるので、ベルト14はシート状の要素であるにも関わらず、良好な導電性を有する。
【0058】
バンド16は、径方向において、トレッド4とベルト14との間に位置する。バンド16は、トレッド4の内側においてベルト14に積層される。このタイヤ2のバンド16は、軸方向において離間して配置され、ベルト14の端を覆う、一対のエッジバンド16Eである。このバンド16が、タイヤ赤道PCを挟んで両端が相対するフルバンドで構成されてもよい。このバンド16が、フルバンドと、一対のエッジバンド16Eとで構成されてもよい。
【0059】
図示されないが、エッジバンド16Eは、らせん状に巻かれたバンドコードを含む。バンドコードは実質的に周方向に延びる。詳細には、バンドコードが周方向に対してなす角度は、5°以下である。エッジバンド16Eはジョイントレス構造を有する。このタイヤ2では、有機繊維からなるコードがバンドコードとして用いられる。有機繊維としては、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維が例示される。バンドコードはトッピングゴムで覆われる。トッピングゴムは導電性のゴムである。
【0060】
それぞれのチェーファー18は、ビード10の径方向内側に位置する。チェーファー18はリムRと接触する。このタイヤ2のチェーファー18は布とこの布に含浸したゴムとからなる。
【0061】
インナーライナー20はカーカス12の内側に位置する。インナーライナー20は、タイヤ2の内面を構成する。インナーライナー20は、気体透過係数が低い架橋ゴムからなる。インナーライナー20は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0062】
それぞれのクッション22は、軸方向において離間して配置される。クッション22は、ベルト14の端とカーカス12との間に位置する。クッション22は導電性のゴムである。クッション22は低い剛性を有する架橋ゴムからなる。クッション22は、ベルト14の端に作用する歪を緩和させる。クッション22は、ベルト14の端を起点とする損傷の発生防止に貢献する。
【0063】
連結要素24は、径方向において、クッション22とビード10との間に位置する。連結要素24は、軸方向において、サイドウォール6とプライ本体44aとの間に位置する。連結要素24は糸状部材48からなる。
【0064】
図2は、タイヤ2の一部を示す。この
図2は、タイヤ2を側面から見た状態が示される。
図2において、上下方向はタイヤ2の径方向に相当する。この
図2の紙面の上側がトレッド4側である。この紙面の下側がビード10側である。
【0065】
図2においては、連結要素24の説明のために、サイドウォール6は図示していない。説明の便宜のために、トッピングゴム50で覆われているカーカスコード52が実線で示されている。トッピングゴム50からなるプライ本体44aの外面に、連結要素24をなす糸状部材48が積層されている。
【0066】
糸状部材48は、第一本体54と、第二本体56とを備える。径方向において、第二本体56は第一本体54の内側に位置する。第一本体54は、その外端Pa1において、クッション22に繋がる。このタイヤ2では、第一本体54の外端Pa1はプライ本体44aとクッション22との間に挟まれる。第二本体56は、その内端Pa2において、エイペックス42と繋がる。このタイヤ2では、第二本体56の内端Pa2はプライ本体44aとエイペックス42との間に挟まれる。
【0067】
第一本体54及び第二本体56は、導電性を有する糸(以下、導電性糸とも称される。)である。このタイヤ2では、端子部32、ベルト14、クッション22、エイペックス42及びクリンチ8は導電性を有する。第一本体54はクッション22に繋がり、クッション22はベルト14に繋がり、ベルト14は端子部32に繋がる。第一本体54、クッション22、ベルト14及び端子部32は導電パス(以下、第一導電パス)を構成する。第一導電パスは、端子部32の外端から第一本体54の内端Pb1まで途切れることなく連続する。第二本体56はエイペックス42に繋がり、エイペックス42はクリンチ8に繋がる。第二本体56、エイペックス42及びクリンチ8は別の導電パス(以下、第二導電パス)を構成する。第二導電パスは、クリンチ8から第二本体56の外端Pb2まで途切れることなく連続する。端子部32は路面と接地し、クリンチ8はリムRと接触するので、第一導電パスと第二導電パスとが電気的につながることで、車両において生じる静電気の放電経路が形成される。
【0068】
ところが、
図2に示されるように、第一本体54の内端Pb1と、第二本体56の外端Pb2とは、所定の間隔をあけて配置される。この糸状部材48は、タイヤ2の使用前の状態において、断線している。このタイヤ2では、糸状部材48に、第一本体54の内端Pb1と第二本体56の外端Pb2とを含む断線部58が構成される。
【0069】
図3には、糸状部材48の断線部58が示される。
図3において、両矢印LBで示される長さは断線部58の長さである。長さLBは、第一本体54の内端Pb1から第二本体56の外端Pb2までの距離で表される。
【0070】
本発明者は、断線部58の長さLBとタイヤ2の導電性について鋭意検討し、以下の知見を得、本発明を完成するに至っている。この知見とは、断線部58の長さLBが5mm以下であれば、糸状部材48が断線しているにもかかわらず、第一導電パスと第二導電パスとが電気的につながるという知見である。
【0071】
カーカスプライ44の厚さは1mm前後と薄く、有機繊維からなるコードがカーカスコード52として用いられる。このため、カーカスプライ44が導電パスとして機能することは期待できない。このタイヤ2では、クッション22とエイペックス42との間のカーカス12は、1枚のプライ本体44aのみで構成されるので、このプライ本体44aが導電パスとして機能することは難しい。しかしこのカーカスプライ44のトッピングゴム50は導電性のゴムであり、糸状部材48が積層されるプライ本体44aの外面はこのトッピングゴム50からなる。そこで、前述の知見は、このプライ本体44aの外面の関与によるものと考えられている。
【0072】
このタイヤ2では、前述の知見に基づいて、断線部58の長さLBは5mm以下である。したがって、このタイヤ2では、糸状部材48が断線しているにもかかわらず、第一導電パスと第二導電パスとが電気的につながる。このタイヤ2は、低い電気抵抗を有する。車両において生じる静電気の放電経路が形成されるので、このタイヤ2が装着された車両においては静電気の蓄積が防止される。
【0073】
このタイヤ2では、第一本体54と第二本体56との距離が5mm以下であれば、例えば、第一本体54の内端Pb1の部分と第二本体56の外端Pb2の部分とが、プライ本体44aの外面上に並んで配置されてもよい。この場合においても、タイヤ2は低い電気抵抗を有する。
【0074】
走行しているタイヤ2では変形と復元とが繰り返される。タイヤ2には圧縮歪みや引張歪みが作用する。これにより、糸状部材48が破断することが懸念される。しかし、このタイヤ2では、断線部58によって、糸状部材48が第一本体54と第二本体56とに予め分断される。第一本体54及び第二本体56に作用する張力は、連続した1本の導電性糸で糸状部材48を構成した場合に比べて低減する。このタイヤ2では、走行による第一本体54及び第二本体56の断線が防止される。このタイヤ2の導電性能は走行の影響を受けにくい。このタイヤ2は安定した導電性能を有する。
【0075】
このタイヤ2の糸状部材48は、第一本体54の内端Pb1と第二本体56の外端Pb2とを覆うパッチ60を備える。パッチ60はシート状である。パッチ60は、第一本体54の内端Pb1及び第二本体56の外端Pb2の動きを拘束する。これにより、断線部58の状態が安定に保持される。パッチ60は、タイヤ2の安定した導電性能の発揮に貢献する。パッチ60は、第一本体54の内端Pb1又は第二本体56の外端Pb2を起点とする損傷の発生防止にも貢献する。この観点から、連結要素24をなす糸状部材48は、第一本体54の内端Pb1と第二本体56の外端Pb2とを覆うパッチ60を備えるのが好ましい。この場合、パッチ60がタイヤ2の安定した導電性能の発揮に効果的に貢献できる観点から、パッチ60の材質はカーカスプライ44のトッピングゴム50の材質と同じであるのがより好ましい。
【0076】
このタイヤ2では、パッチ60が第一本体54の内端Pb1及び第二本体56の外端Pb2の動きを拘束できるのであれば、パッチ60の大きさに特に制限はない。転がり抵抗やタイヤ質量への影響が考慮され、パッチ60の大きさは適宜決められる。タイヤ2の安定した導電性能の発揮と、良好な耐久性の維持とに貢献できる観点から、パッチ60の厚さは0.1mm以上が好ましい。転がり抵抗及びタイヤ質量への影響が抑えられる観点から、パッチ60の厚さは0.2mm以下が好ましい。
【0077】
図2に示されるように、このタイヤ2では、断線部58は、径方向において、タイヤ外面上の位置P21と、タイヤ外面上の位置P25との間に位置する。
図4に示されるように、断線部58が、径方向において、タイヤ外面上の位置P25とタイヤ最大幅位置PWとの間に位置していてもよい。
図5に示されるように、断線部58が、径方向において、タイヤ最大幅位置PWの内側に位置していてもよい。
【0078】
走行状態にあるタイヤ2では、トレッド4とサイドウォール6との境界部分(以下、バットレス部とも称される。)の動きが活発である。断線部58以外での糸状部材48の断線を防止し、安定した導電性能を確保できる観点から、断線部58は、径方向において、タイヤ最大幅位置PWの外側に位置するのが好ましい。断線部58以外での糸状部材48の断線を効果的に防止し、安定した導電性能を効果的に確保できる観点から、この断線部58は、径方向において、タイヤ外面上の位置P21とタイヤ外面上の位置P25との間に位置するのがより好ましい。この場合、タイヤ外面上の位置P23を通り軸方向に延びる直線L23が、断線部58と交差するのがさらに好ましい。
【0079】
図2に示されるように、このタイヤ2の糸状部材48は複数の曲がり目Ptを有する。これら曲がり目Ptは、曲がりの向きが互いに逆である、第一の曲がり目Ptaと第二の曲がり目Ptbとを含む。第一の曲がり目Ptaと第二の曲がり目Ptbとは径方向に交互に並ぶ。言い換えれば、この糸状部材48は、クッション22からエイペックス42に向かって左右交互に曲がりながら延びる。この糸状部材48は蛇行している。このタイヤ2の連結要素24は、糸状部材48が蛇行する蛇行部62を含む。
【0080】
このタイヤ2では、クッション22とエイペックス42との間において、糸状部材48はカーカスコード52よりも長い。糸状部材48に作用する張力は、カーカスコード52に作用する張力に比べて低い。蛇行部62は、張力の作用による糸状部材48の断線防止に貢献する。このタイヤ2では、安定した導電性能が確保される。この観点から、連結要素24は、糸状部材48が蛇行する蛇行部62を含むのが好ましい。
【0081】
図2、
図4及び
図5に示された連結要素24では、糸状部材48全体が蛇行部62で構成される。断線部58は蛇行部62に含まれるので、このタイヤ2では、走行による断線部58の状態変化が抑えられる。この観点から、断線部58は蛇行部62に含まれるのが好ましい。
【0082】
図6には、連結要素24の変形例が示される。この連結要素24では、糸状部材48の外端(すなわち第一本体54の外端Pa1)から符号Ps1で示される位置までの部分、そして、糸状部材48の内端(すなわち第二本体56の内端Pa2)から符号Ps2で示される位置までの部分が、糸状部材48が直線状に延びる直線部64である。このタイヤ2では、直線部64はカーカスコード52と同じ向きに延びる。符号Pt1で示される曲がり目Ptは、クッション22側の直線部64に最も近い曲がり目Ptである。符号Pt2で示される曲がり目Ptは、エイペックス42側の直線部64に最も近い曲がり目Ptである。このタイヤ2では、曲がり目Pt1から曲がり目Pt2までの部分が蛇行部62である。蛇行部62と直線部64との間の部分は、直線部64から蛇行部62、又は蛇行部62から直線部64に移行する移行部66である。この
図6の連結要素24は、糸状部材48が蛇行する蛇行部62と、この蛇行部62の両側に位置する一対の直線部64と、蛇行部62と直線部64との間に位置する一対の移行部66とを備える。
【0083】
図6に示された連結要素24は、その一部に蛇行部62を含む。連結要素24の蛇行部62以外の部分が直線部64を含む。この連結要素24を含むタイヤ2では、糸状部材48がその機能の発揮に必要な長さで構成される。このタイヤ2では、連結要素24を設けたことによる、タイヤ質量、そして転がり抵抗への影響が小さく抑えられる。この観点から、このタイヤ2では、連結要素24は、その一部に蛇行部62を含み、連結要素24の蛇行部62以外の部分が直線部64を含むのが好ましい。この場合、安定した導電性能の確保の観点から、蛇行部62は、径方向において、タイヤ外面上の位置P21と、タイヤ外面上の位置P25との間に配置されるのがより好ましい。さらにこの場合、走行による断線部58の状態変化を抑え、より安定な導電性能を確保できる観点から、蛇行部62が断線部58を含み、タイヤ外面上の位置P23を通り軸方向に延びる直線L23が断線部58と交差するのがさらに好ましい。
【0084】
前述したように、このタイヤ2では、第一本体54及び第二本体56は導電性糸である。第一本体54及び第二本体56を含む連結要素24がタイヤ2の導電性能の発揮に効果的に貢献できる観点から、この導電性糸の抵抗値は、1.0×107Ω/cm以下が好ましく、1.0×103Ω/cm以下がより好ましい。
【0085】
このタイヤ2では、導電性糸としては、1.0×107Ω/cm以下の抵抗値を有する糸であればよく、この導電性糸に特に制限はない。この導電性糸は、導電性繊維と非導電性繊維とを含む複合繊維からなる糸であってもよく、金属繊維からなる糸であってもよい。この導電性糸は、金属製の極細のワイヤであってもよい。安定した導電性能が得られる観点から、この導電性糸としては、金属繊維からなる糸、又は、金属製の極細のワイヤが好ましい。
【0086】
図6において、符号Pt3で示される曲がり目Ptは、曲がり目Pt1を第一の曲がり目Ptaとした場合、この第一の曲がり目Ptaの隣に位置する第一の曲がり目Ptaである。両矢印Wで示される距離は、第一の曲がり目Ptaとその隣の第一の曲がり目Ptaとを結ぶ線分の長さである。このタイヤ2では、この線分の長さWは蛇行部62の単位長さとも称される。符号Pt4で示される曲がり目Ptは、第一の曲がり目Ptaの次の曲がり目Ptである。この曲がり目Pt4が第二の曲がり目Ptbである。両矢印Aで示される距離は、第一の曲がり目Ptaとその隣の第一の曲がり目Ptaとを結ぶ線分の中心PMと、第二の曲がり目Ptbとを結ぶ線分の長さである。このタイヤ2では、この線分の長さAは蛇行部62の単位幅とも称される。
【0087】
このタイヤ2では、蛇行部62がタイヤ2の安定した導電性能の発揮に貢献できる観点から、蛇行部62の単位長さWは単位幅Aよりも短いのが好ましい。詳細には、単位長さWの、単位幅Aに対する比(W/A)は、0.2以上が好ましく、0.3以上がより好ましい。この比(W/A)は0.8以下が好ましく、0.7以下がより好ましい。
【0088】
図7は、
図1のタイヤ2の一部を示す。この
図7には、タイヤ2のサイド部Sの断面が示される。
図7において、左右方向はタイヤ2の軸方向であり、上下方向はタイヤ2の径方向である。
図7の紙面に対して垂直な方向は、タイヤ2の周方向である。
【0089】
このタイヤ2では、カーカス12の外面からタイヤ外面までの部分の厚さがカーカス12の外側部分の厚さである。このカーカス12の外側部分の厚さは連結要素24が設けられていない部分で計測される。
【0090】
図7において、符号Dで示される距離は、タイヤ外面上の位置P23におけるカーカス12の外側部分の厚さである。厚さDは、位置P23を通るカーカス12の外面の法線に沿って計測される。符号Eで示される距離は、タイヤ最大幅位置PWにおけるカーカス12の外側部分の厚さである。厚さEは、最大幅位置PWを通り軸方向に延びる直線LWに沿って計測される。
【0091】
タイヤ外面上の位置P23におけるカーカス12の外側部分の厚さDの、タイヤ最大幅位置PWにおけるカーカス12の外側部分の厚さEに対する比(D/E)は1.2以上が好ましく、1.8以下が好ましい。
【0092】
比(D/E)が1.2以上に設定されることにより、バットレス部の剛性が確保される。バットレス部に断線部58が設けられた場合に、走行による断線部58の状態変化が効果的に抑えられる。この観点から、比(D/E)は1.3以上がより好ましく、1.4以上がさらに好ましい。
【0093】
比(D/E)が1.8以下に設定されることにより、タイヤ質量が適正な質量で維持される。この観点から、比(D/E)は1.7以下がより好ましく、1.6以下がさらに好ましい。
【0094】
図7において、矢印LCで示される距離は、クッション22の、第一本体54との重複長さである。重複長さLCは、第一本体54の外端Pa1からクッション22の外端68までの長さにより表される。矢印LAで示される距離は、エイペックス42の、第二本体56との重複長さである。重複長さLAは、第二本体56の内端Pa2からエイペックス42の外端PAまでの長さにより表される。
【0095】
重複長さLCは、好ましくは、3mm以上13mm以下である。重複長さLCが3mm以上に設定されることにより、第一本体54の外端Pa1がクッション22で十分に覆われる。このタイヤ2では、クッション22の外端68付近での損傷の発生が防止される。この観点から、重複長さLCは4mm以上がより好ましく、5mm以上がさらに好ましい。重複長さLCが13mm以下に設定されることにより、第一本体54の外端Pa1からクッション22の内端70までの距離が適切に維持される。このタイヤ2では、クッション22の内端70付近での損傷の発生が防止される。この観点から、重複長さLCは12mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましい。
【0096】
重複長さLAは、好ましくは、3mm以上10mm以下である。重複長さLAが3mm以上に設定されることにより、第二本体56の内端Pa2がエイペックス42で十分に覆われる。このタイヤ2では、エイペックス42の外端PA付近での損傷の発生が防止される。この観点から、重複長さLAは4mm以上がより好ましく、5mm以上がさらに好ましい。重複長さLAが10mm以下に設定されることにより、第二本体56がコア40から適切な距離をあけて配置される。このタイヤ2では、金属を含む導電性糸と採用した場合に、この導電性糸の錆が発生することが防止される。この観点から、重複長さLAは9mm以下がより好ましく、8mm以下がさらに好ましい。
【0097】
このタイヤ2では、複数の連結要素24が設けられ、これら連結要素24が周方向に間隔をあけて配置されてもよい。このタイヤ2の連結要素24は、タイヤ2の安定した導電性能の発揮に効果的に貢献できる。このため、タイヤ質量及び転がり抵抗が考慮され、少なくとも1の連結要素24がこのタイヤ2に設けられればよい。さらにタイヤ2がネガティブキャンバーで車両に装着される場合、連結要素24が安定して機能を発揮できる観点から、車両の幅方向において外側に配置されるサイド部Sに連結要素24が設けられるのが好ましい。
【0098】
以上説明したように、本発明によれば、安定した導電性能を有するタイヤが得られる。
【実施例0099】
以下、実施例などにより、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0100】
[実施例1]
図1に示された基本構成を備え、下記の表1に示された仕様を備えた乗用車用の空気入りタイヤ(タイヤサイズ=195/70R15 92S)を得た。
【0101】
実施例1では、
図6に示された構成を有する連結要素が用いられた。この実施例1で採用された連結要素の数は1本である。第一本体及び第二本体をなす導電性糸には、外径0.15mmの極細のワイヤ(ステンレススチール製)が用いられた。断線部の長さLBは4mmであった。断線部がパッチで覆われていることが、表1のシートの欄に「Y」で示されている。
【0102】
30℃での、サイドウォールの損失正接は0.04であった。タイヤ外面上の位置P23におけるカーカスの外側部分の厚さDの、タイヤ最大幅位置PWにおけるカーカスの外側部分の厚さEに対する比(D/E)は1.5であった。クッションの、第一本体との重複長さLCは、7mmであった。エイペックスの、第二本体との重複長さLAは、6mmであった。
【0103】
[比較例1]
連結要素を設けなかった他は実施例1と同様にして、比較例1のタイヤを得た。
【0104】
[比較例2]
連結要素を用いることなく、1本の連続する導電性糸をカーカスに沿って両側のコア間に架け渡した他は実施例1と同様にして、比較例2のタイヤを得た。比較例2は従来のタイヤである。
【0105】
[実施例2]
パッチを設けなかった他は実施例1と同様にして、実施例2のタイヤを得た。
【0106】
[比較例3]
断線部の長さLBを下記の表1に示される通りとした他は実施例1と同様にして、比較例3のタイヤを得た。
【0107】
[実施例3]
図2に示される構成の連結要素を採用した他は実施例1と同様にして、実施例3のタイヤを得た。
【0108】
[導電性能]
導電性能の評価では、試作タイヤ(新品)の電気抵抗を測定した。この電気抵抗測定のための装置及び条件は以下の通りである。この電気抵抗の測定では、
図8に示された構成を有する測定装置72が使用される。
測定装置72は、絶縁板74、金属板76、タイヤ取付軸78及び電気抵抗測定器80を備える。絶縁板74の電気抵抗値は10
12Ω以上である。金属板76は、絶縁板74上に設置される。金属板76の表面は研磨されており、金属板76の電気抵抗値は10Ω以下である。タイヤ取付軸78には、タイヤ-リム組立体が保持される。
この測定装置72を用いて、次に示す要領にて、タイヤ-リム組立体の電気抵抗が測定される。
【0109】
タイヤの電気抵抗の測定要領は以下の通りである。
(1)試作タイヤTの表面に付着している離型剤や汚れを十分に除去する。除去後、タイヤTを十分に乾燥する。
(2)試作タイヤTをリムRに装着しタイヤ-リム組立体を準備する。この際、両者の接触部に潤滑剤として石けん水が用いられる。
(3)タイヤ-リム組立体を試験室内で2時間放置させた後、タイヤ-リム組立体をタイヤ取付軸78に取り付ける。
(4)タイヤ-リム組立体に荷重を0.5分間負荷し、この荷重からタイヤ-リム組立体を解放する。その後さらに0.5分間タイヤ-リム組立体に荷重を負荷し、この荷重からタイヤ-リム組立体を解放する。その後さらに2分間タイヤ-リム組立体に荷重を負荷し、この荷重からタイヤ-リム組立体を解放する。
(5)試験電圧が印可され、5分経過した時点で、タイヤ取付軸78と金属板76との間の電気抵抗を電気抵抗測定器80を用いて測定する。測定は、タイヤTの周方向に90°間隔(4カ所)で行われる。最大値がタイヤTの電気抵抗の測定値として用いられる。
【0110】
測定のための他の条件は、次の通りである。
・リム材料:アルミニウム合金製
・リムサイズ:17×6J
・内圧:230kPa
・荷重:4.8kN
・試験環境温度(試験室温度):25℃
・湿度:50%
・電気抵抗測定器80の測定範囲:1.0×103~1.6×1016Ω
・試験電圧(印可電圧):1000V
【0111】
下記の表1には、電気抵抗の測定結果が指数で示されている。数値が大きいほど電気抵抗は低く、タイヤは良好な導電性能を有する。
【0112】
[安定性]
試作タイヤをリム(サイズ=15×6.0J)に組み、空気を充填してタイヤの内圧を230kPaに調整した。ドラム試験機において、4.8kNの荷重をタイヤに負荷し、ドラム(ドラム径=1707mm)上でタイヤを80km/hの速度で30000km走行させた(キャンバー角は-1°に設定された。)。走行後、前述の「導電性」で示した要領でタイヤの電気抵抗を測定した。各試作タイヤについて10本ずつ評価を行い、導電性糸が破断し電気抵抗が上昇したタイヤの本数を計数した。この結果が下記の表1に指数で示されている。数値が小さいほど、タイヤは安定した導電性能を有する。この評価では、指数が1以下であれば、タイヤの導電性能は安定しているとして許容される。なお、実施例1-3及び比較例3の評価では、連結要素が設けられているサイド部が、車両の幅方向において内側に位置するように、タイヤがドラム試験機にセットされた。
【0113】
[タイヤ質量]
タイヤの質量を計測した。この結果が下記の表1に指数で示されている。数値が大きいほど、タイヤは軽い。この評価では、指数が95以上であれば、タイヤの質量は許容範囲にある。
【0114】
【0115】
表1に示されるように、実施例では、電気抵抗は低く、導電性能も安定していることが確認されている。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。