(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098102
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】金属溶湯ポンプ
(51)【国際特許分類】
F27D 27/00 20100101AFI20220624BHJP
H02K 44/06 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
F27D27/00
H02K44/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211458
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】503332824
【氏名又は名称】株式会社ヂーマグ
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙三
【テーマコード(参考)】
4K056
【Fターム(参考)】
4K056AA05
4K056AA06
4K056CA04
4K056EA13
4K056EA16
(57)【要約】
【課題】メンテナンス性に優れ、低コストかつ高性能な金属溶湯ポンプを提供する。
【解決手段】金属溶湯ポンプ1は、側壁11および底壁12を有する有底筒体10と、吸込口P1と吐出口P2を繋ぐ溶湯流路Cを有し、有底筒体とは別体の溶湯流路体20と、磁場装置31および電動機32を有し、溶湯流路Cの金属溶湯を駆動する溶湯駆動部30とを備え、吸込口P1は溶湯流路体20の側面に開口し、磁場装置31は交互に異なる磁極がシャフト33の円周に沿って並ぶように配列された複数の永久磁石31aを有し、溶湯流路体20は、有底筒体10の下の位置であって、複数の永久磁石31aのうち、第1の永久磁石からの磁力線MLが、底壁12を下方に貫通して溶湯流路Cに至り、溶湯流路Cから底壁12を上方に貫通して第1の永久磁石に隣り合う第2の永久磁石に戻る位置に、有底筒体10に着脱可能に設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側壁および底壁を有する有底筒体と、
吸込口と吐出口を繋ぐ溶湯流路を有し、前記有底筒体とは別体の溶湯流路体と、
前記有底筒体の内部に縦向きの回転軸の周りに回転可能に配置された磁場装置と、前記磁場装置を回転させる電動機とを有する溶湯駆動部と、
を備え、
前記吸込口は前記溶湯流路体の側面に開口し、
前記磁場装置は複数の永久磁石を有し、
前記複数の永久磁石は、それぞれ、上面部分および下面部分が磁極となるように磁化された上面磁極および下面磁極を有し、
前記複数の永久磁石における前記複数の下面磁極は前記底壁と上下に対向しており、
前記複数の永久磁石は、異なる極性の下面磁極が交互に前記回転軸の円周に沿って並ぶように配列されており、
前記溶湯流路体は、前記有底筒体の下の位置であって、前記複数の永久磁石のうち、第1の永久磁石からの磁力線が、前記有底筒体の前記底壁を下方に貫通して前記溶湯流路に至り、前記溶湯流路から前記有底筒体の前記底壁を上方に貫通して前記第1の永久磁石に隣り合う第2の永久磁石に戻る位置に、前記有底筒体に着脱可能に設けられていることを特徴とする金属溶湯ポンプ。
【請求項2】
前記溶湯流路体は、内側流路壁、外側流路壁、上側流路壁および下側流路壁を有し、縦断面形状が閉じていることを特徴とする請求項1に記載の金属溶湯ポンプ。
【請求項3】
前記溶湯流路体は、内側流路壁、外側流路壁および下側流路壁を有し、上側流路壁を有さず上面が開放されていることを特徴とする請求項1に記載の金属溶湯ポンプ。
【請求項4】
前記溶湯流路体は、内側流路壁、外側流路壁および上側流路壁を有し、下側流路壁を有さず下面が開放されていることを特徴とする請求項1に記載の金属溶湯ポンプ。
【請求項5】
前記溶湯流路は、前記磁場装置の回転方向に沿った加速流路と、前記吸込口と前記加速流路を接続する入口側流路と、前記加速流路と前記吐出口を接続する出口側流路とを有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の金属溶湯ポンプ。
【請求項6】
前記溶湯流路体は、平面形状が略U字状であることを特徴とする請求項5に記載の金属溶湯ポンプ。
【請求項7】
前記溶湯流路体は、平面形状が波状であることを特徴とする請求項5に記載の金属溶湯ポンプ。
【請求項8】
前記溶湯流路体は、平面形状が略L字状であることを特徴とする請求項5に記載の金属溶湯ポンプ。
【請求項9】
前記溶湯流路の縦断面形状は、横長の略矩形であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の金属溶湯ポンプ。
【請求項10】
前記溶湯流路体は、固定具により前記有底筒体に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の金属溶湯ポンプ。
【請求項11】
前記有底筒体の前記底壁には固定用凸部が設けられ、前記固定用凸部が前記溶湯流路体の内側流路壁で囲まれた凹部と係合することを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の金属溶湯ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶湯ポンプ、より詳しくは、炉内の金属溶湯を循環ないし撹拌したり、あるいは金属溶湯を搬送するための金属溶湯ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Al,Cu,Znまたはこれらのうちの少なくとも2つの合金、あるいはMg合金等の導電体等、非鉄金属の溶湯(以下、単に「金属溶湯」または「溶湯」という。)を電磁力により駆動する金属溶湯ポンプが知られている。このような金属溶湯ポンプの一種として、特許文献1には、永久磁石から出る磁力線が金属溶湯を貫通しながら移動することにより生じる電磁力を利用して金属溶湯を駆動するポンプが記載されている。
【0003】
特許文献1の金属溶湯ポンプは、底壁に溶湯入口が設けられた外筒と、外筒に着脱可能に収納される内筒とを有し、内筒の内部に磁場装置が収容されている。外筒の底壁の内面と内筒の底壁の外面との間にリング状のスペーサが介在しており、このスペーサと、外筒の底壁と、内筒の底壁とによってポンプ室(渦型室)が区画形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の金属溶湯ポンプは本発明者によりなされたものであるが、本発明者はその後も、より実用的で扱いやすく、高性能な金属溶湯ポンプの実現に向けて鋭意研究開発を進めてきた。そのなかで以下の課題を独自に見出すに至った。
【0006】
ポンプ室では金属溶湯が電磁力により駆動されて高速で流れるため、ポンプ室を区画形成する、外筒の底壁、内筒の底壁およびスペーサはそれ以外の部分に比べて著しく損傷し易い。しかしながら、外筒と内筒が本体部分を構成しているため、ポンプ室のみを新しくすることができない。また、スペーサの損傷ないし劣化によって、ポンプ室内の溶湯が漏れ出したり、吐出圧が大きく低下するおそれがある。
【0007】
ポンプ室の損傷や溶湯漏れ等のトラブルが発生した場合、金属溶湯ポンプの装置全体を交換せねばならず、多大な費用を要するとともに復旧までに長い時間を要する。
【0008】
また、特許文献1の金属溶湯ポンプでは、炉内の溶湯を吸い込む溶湯入口が容器(外筒)の底面に設けられているため、金属溶湯ポンプは脚体によって炉底から浮いた状態に設置する必要がある。溶湯の吸込抵抗を減らすには脚体を高くする必要があるが、その場合、炉内における金属溶湯ポンプの安定性を確保することが難しい。
【0009】
本発明は、上記の認識に基づいてなされたものであり、その目的は、メンテナンス性に優れ、低コストかつ高性能な金属溶湯ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る金属溶湯ポンプは、
側壁および底壁を有する有底筒体と、
吸込口と吐出口を繋ぐ溶湯流路を有し、前記有底筒体とは別体の溶湯流路体と、
前記有底筒体の内部に縦向きの回転軸の周りに回転可能に配置された磁場装置と、前記磁場装置を回転させる電動機とを有する溶湯駆動部と、
を備え、
前記吸込口は前記溶湯流路体の側面に開口し、
前記磁場装置は複数の永久磁石を有し、
前記複数の永久磁石は、それぞれ、上面部分および下面部分が磁極となるように磁化された上面磁極および下面磁極を有し、
前記複数の永久磁石における前記複数の下面磁極は前記底壁と上下に対向しており、
前記複数の永久磁石は、異なる極性の下面磁極が交互に前記回転軸の円周に沿って並ぶように配列されており、
前記溶湯流路体は、前記有底筒体の下の位置であって、前記複数の永久磁石のうち、第1の永久磁石からの磁力線が、前記有底筒体の前記底壁を下方に貫通して前記溶湯流路に至り、前記溶湯流路から前記有底筒体の前記底壁を上方に貫通して前記第1の永久磁石に隣り合う第2の永久磁石に戻る位置に、前記有底筒体に着脱可能に設けられていることを特徴とする。
【0011】
また、前記金属溶湯ポンプにおいて、
前記溶湯流路体は、内側流路壁、外側流路壁、上側流路壁および下側流路壁を有し、縦断面形状が閉じていてもよい。
【0012】
また、前記金属溶湯ポンプにおいて、
前記溶湯流路体は、内側流路壁、外側流路壁および下側流路壁を有し、上側流路壁を有さず上面が開放されていてもよい。
【0013】
また、前記金属溶湯ポンプにおいて、
前記溶湯流路体は、内側流路壁、外側流路壁および上側流路壁を有し、下側流路壁を有さず下面が開放されていてもよい。
【0014】
また、前記金属溶湯ポンプにおいて、
前記溶湯流路は、前記磁場装置の回転方向に沿った加速流路と、前記吸込口と前記加速流路を接続する入口側流路と、前記加速流路と前記吐出口を接続する出口側流路とを有してもよい。
【0015】
また、前記金属溶湯ポンプにおいて、
前記溶湯流路体は、平面形状が略U字状であるようにしてもよい。
【0016】
また、前記金属溶湯ポンプにおいて、
前記溶湯流路体は、平面形状が波状であるようにしてもよい。
【0017】
また、前記金属溶湯ポンプにおいて、
前記溶湯流路体は、平面形状が略L字状であるようにしてもよい。
【0018】
また、前記金属溶湯ポンプにおいて、
前記溶湯流路の縦断面形状は、横長の略矩形であるようにしてもよい。
【0019】
また、前記金属溶湯ポンプにおいて、
前記溶湯流路体は、固定具により前記有底筒体に着脱可能に取り付けられているようにしてもよい。
【0020】
また、前記金属溶湯ポンプにおいて、
前記有底筒体の前記底壁には固定用凸部が設けられ、前記固定用凸部が前記溶湯流路体の内側流路壁で囲まれた凹部と係合するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、メンテナンス性に優れ、低コストかつ高性能な金属溶湯ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る金属溶湯ポンプの概略的な構成を示す断面図である。
【
図2】実施形態に係る金属溶湯ポンプの溶湯流路体を示す平面図である。
【
図3】実施形態に係る金属溶湯ポンプの本体と、本体に着脱可能な溶湯流路体とを示す分解断面図である。
【
図4】実施形態に係る磁場装置を示す平面図である。
【
図5】実施形態の変型例に係る磁場装置を示す平面図である。
【
図6】実施形態の変型例に係る金属溶湯ポンプの概略的な構成を示す断面図である。
【
図7】使用状態における炉内の金属溶湯に浸漬された実施形態に係る金属溶湯ポンプの断面図である。
【
図8】使用状態における炉内の金属溶湯に浸漬された実施形態に係る溶湯流路体の平面図である。
【
図9】溶湯流路体の吐出口に溶湯排出管が装着された実施形態に係る金属溶湯ポンプの側面図である。
【
図10A】変形例1に係る溶湯流路体の平面図である。
【
図10B】変形例1に係る溶湯流路体の側面図である。
【
図11A】変形例2に係る溶湯流路体の平面図である。
【
図11B】変形例2に係る溶湯流路体の側面図である。
【
図12A】変形例3に係る溶湯流路体の平面図である。
【
図12B】変形例3に係る溶湯流路体の側面図である。
【
図13A】変形例4に係る溶湯流路体の平面図である。
【
図13B】変形例4に係る溶湯流路体の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図においては、同等の機能を有する構成要素に同一の符号を付している。
【0024】
<金属溶湯ポンプ>
図1~
図5を参照して、実施形態に係る金属溶湯ポンプ1の構成について説明する。
図1は、
図2のI-I線に沿う断面図であり、金属溶湯ポンプ1の概略的な構成を示している。
図2は金属溶湯ポンプ1の溶湯流路体20の平面図である。
図3は、金属溶湯ポンプ1の本体(有底筒体10および溶湯駆動部30等)と、本体に着脱可能な溶湯流路体20とを分けて示している。
図4は本実施形態に係る磁場装置(回転磁石体)31の平面図であり、
図5は実施形態の変型例に係る磁場装置31Aの平面図である。
【0025】
本実施形態に係る金属溶湯ポンプ1は、溶解炉、保持炉等の炉内の金属溶湯に一部(少なくとも溶湯流路体20)が浸漬され、後述するように、渦電流による電磁力を利用して金属溶湯を駆動するように構成されている。
【0026】
金属溶湯ポンプ1は、
図1に示すように、有底筒体10と、溶湯流路Cが設けられた溶湯流路体20と、溶湯流路Cの金属溶湯を駆動する溶湯駆動部30と、固定具40と、蓋体50と、電源制御盤60と、ブロワー70と、を備えている。
【0027】
以下、金属溶湯ポンプ1の各構成について詳しく説明する。
【0028】
有底筒体10は、側壁11および底壁12を有する有底の筒体である。側壁11は円筒状に構成されている。底壁12は側壁11の下端部を閉塞する。なお、側壁11は円筒状以外の筒体であってもよい。有底筒体10は、耐火性を有する材料(耐火材)からなり、たとえば煉瓦から構成される。
【0029】
溶湯流路体20は、吸込口P1と吐出口P2を繋ぐ溶湯流路Cを有する。少なくとも吸込口P1は溶湯流路体20の側面に開口している。本実施形態では、吐出口P2も溶湯流路体20の側面に開口している。吸込口P1が溶湯流路体20の側面に開口しているため、金属溶湯ポンプ1と炉底の間に脚体を介在させなくても炉内の溶湯を吸い込むことができる。
【0030】
本実施形態では、
図1に示すように、溶湯流路体20の溶湯流路Cは縦断面が閉じた形状に形成されている。詳しくは、溶湯流路体20は、内側流路壁21、外側流路壁22、上側流路壁23および下側流路壁24を有しており、これらの流路壁により、縦断面形状が略矩形の溶湯流路Cが形成されている。このように溶湯流路Cの縦断面が閉じた形状であるため、金属溶湯の吐出圧を容易に高めることができる。また、溶湯流路Cが溶湯流路体20のみで構成されるため、溶湯流路体20を交換することで溶湯流路Cを完全に新しくすることができる。
【0031】
溶湯流路体20は、
図2に示すように、内側流路壁21で囲まれた凹部Rを有する。
【0032】
なお、好ましくは、溶湯流路Cの縦断面形状は横長の略矩形である。これにより、流路断面積が一定の条件においては、溶湯流路Cの半径方向の長さが比較的長くなるため、磁場装置31の磁力線が溶湯流路Cの金属溶湯を貫通し易くなり、金属溶湯の駆動効率を向上させることができる。
【0033】
また、溶湯流路体20として、溶湯流路Cの流路断面積(高さ等)が異なる複数のものを用意して、所望の吐出量などに応じて使い分けてもよい。
【0034】
なお、溶湯流路Cの縦断面形状は矩形に限られるものではなく、円形、楕円形、多角形等であってもよい。
【0035】
また、炉内の金属溶湯を吸い込みやすくするために、吸込口P1が吐出口P2よりも広くなるように溶湯流路Cの入口付近はテーパー状に形成されてもよい。
【0036】
図2に示すように、溶湯流路体20は、平面形状が略U字状である。本実施形態では、吸込口P1と吐出口P2は同一面にある。ただし、これに限られず、吸込口P1と吐出口P2が異なる面にあってもよい。
【0037】
図2に示すように、溶湯流路Cは、磁場装置31の回転方向に沿った加速流路C1と、吸込口P1と加速流路C1を接続する入口側流路C2と、加速流路C1と吐出口P2を接続する出口側流路C3とを有する。
図2のI-I線の上側部分が加速流路C1であり、加速流路C1は溶湯を加速する。加速流路C1の中心はシャフト33に平面視でほぼ一致する。溶湯流路Cが加速流路を有するため、溶湯流路Cの金属溶湯を効率良く駆動することができる。
【0038】
図1および
図3に示すように、溶湯流路体20は、有底筒体10とは別体のものとして、有底筒体10の下に有底筒体10に着脱可能に設けられている。溶湯流路体20は、金属溶湯ポンプ1の使用時において炉内の金属溶湯に浸漬され、溶湯流路Cは金属溶湯で満たされる(
図6参照)。溶湯流路体20は、耐火性を有する材料(耐火材)からなり、たとえば、有底筒体10と同じ材料で構成される。
【0039】
溶湯流路体20は、
図1に示すように、磁場装置31の複数の永久磁石31aのうち、第1の永久磁石からの磁力線MLが、有底筒体10の底壁12を下方に貫通して溶湯流路Cに至り、溶湯流路Cから底壁12を上方に貫通して第1の永久磁石に隣り合う第2の永久磁石に戻る位置に、有底筒体10に着脱可能に設けられている。
【0040】
図1に示すように、溶湯流路体20は、固定具40により、有底筒体10に着脱可能に取り付けられている。この固定具40は、たとえば、耐火材からなるコの字状の接続部材であり、側壁11および外側流路壁22にそれぞれ形成された固定用の穴(図示せず)に当該接続部材の端部が挿入されることにより、溶湯流路体20は有底筒体10に着脱可能に取り付けられる。固定具40は、棒状ないしネジ状の接続部材であってもよい。
【0041】
なお、
図1では、溶湯流路体20の上側流路壁23が有底筒体10の底壁12に隙間なく接している。これにより、溶湯流路Cと磁場装置31との間の距離が短くなり、溶湯流路Cの金属溶湯を貫く磁場が強くなることから、金属溶湯の駆動力を高くすることができる。ただし、本発明は、これに限定されるものでなく、底壁12と上側流路壁23との間に隙間を空けてもよい。
【0042】
次に、溶湯駆動部30について説明する。
【0043】
溶湯駆動部30は、溶湯流路体20に形成された溶湯流路Cの金属溶湯を電磁力により駆動するように構成されている。溶湯駆動部30は、溶湯流路Cの金属溶湯を吸込口P1から吐出口P2に向けて駆動し、それにより、金属溶湯を吐出口P2から吐出させるとともに、炉内の金属溶湯を吸込口P1から溶湯流路Cに吸い込ませる。
【0044】
溶湯駆動部30は、磁場装置(回転磁石体)31と、磁場装置31を回転させる電動機32と、磁場装置31に接続されたシャフト(回転軸)33と、カップリング(軸継手)34と、架台35と、ベアリングハウジング36とを有する。
【0045】
磁場装置31は、
図1に示すように、有底筒体10の内部に懸垂状態に設けられている。この磁場装置31は、縦向きのシャフト33の周りに回転可能に配置されている。磁場装置31は、
図1および
図4に示すように、複数の永久磁石(磁石片)31aと、複数の永久磁石31aを支持する支持板31bと、を有している。本実施形態では、4個の永久磁石31aが支持板31b上に固定されている。なお、磁場装置31は、支持板31bとともに複数の永久磁石31aを上下に挟み込む別の支持板(図示せず)をさらに有してもよい。
【0046】
複数の永久磁石31aは、それぞれ、上面部分および下面部分が磁極となるように磁化された上面磁極および下面磁極を有している。そして、複数の永久磁石31aの下面磁極が有底筒体10の底壁12と上下に対向するように、磁場装置31は有底筒体10内に配置されている。
【0047】
図4に示すように、複数の永久磁石31aは、異なる極性の下面磁極(もしくは上面磁極)が交互にシャフト33の円周に沿って並ぶように配列されている。これにより、ある永久磁石31a(第1の永久磁石)のN極から出た磁力線MLは、その永久磁石に隣り合う永久磁石31a(第2の永久磁石)のS極に入る。なお、すべての永久磁石31aについて、このような磁力線MLが形成されるようにするために、永久磁石31aの個数は偶数個であることが好ましい。
【0048】
図4に示すように、支持板31bには、有底筒体10内に導入された冷却空気が複数の永久磁石31aの周囲を流れるように、空気孔H5が設けられている。
【0049】
なお、支持板31bの形状は
図4に示すものに限られず、たとえば、略十字状であってもよい。また、永久磁石31aの数が2個の場合、支持板31bの形状は、
図5に示す、本実施形態の変型例に係る磁場装置31Aのように、長方形状であってもよい。
【0050】
磁場装置31Aでは、支持板31bは板棒状であり、支持板31bの両端にそれぞれ永久磁石31aが固定されている。本変型例においても、2個の永久磁石31aは、異なる極性の下面磁極がシャフト33の円周に沿って交互に並ぶように配列されている。
【0051】
上記の他にも、6個の永久磁石31a、8個の永久磁石31a、・・・を有する磁場装置が想定される。一般に、磁場装置の永久磁石の数が少ないほど、磁力線MLが遠くまで到達するという利点がある。一方、磁場装置31の回転速度が同じ場合、金属溶湯における磁力線の時間変化は磁場装置の永久磁石31aの数が多いほど大きくなり、溶湯駆動力を増大させることができる。
【0052】
電動機32は、
図1に示すように、回転軸32aを有し、回転軸32aが縦向きになるように架台35の上に設置されている。回転軸32aは、カップリング34を介してシャフト33に接続されている。回転軸32aが回転することにより、磁場装置31はシャフト33の周りに回転する。
【0053】
図1に示すように、電動機32は、接続導体61を介して電源制御盤60に電気的に接続されている。たとえば、電動機32は直流モータであり、電源制御盤60の正極の端子60aおよび負極の端子60bに接続されている。電源制御盤60の出力(電圧、電流等)を調整することにより、電動機32の回転速度(すなわち、磁場装置31の回転速度)を制御することができる。電動機32の回転速度を上げることで、溶湯流路体20の吐出口P2からの金属溶湯の吐出量を増やすことができる。このように、電動機32は、金属溶湯の吐出量に応じて磁場装置31の回転数を可変なものとして構成されている。
【0054】
なお、電動機32の種類は特に限定されず、交流モータ等であってもよい。また、交流モータの場合、電動機32は電源制御盤60のインバータ(図示せず)により、回転速度が制御されてもよい。
【0055】
シャフト33は、
図1に示すように、ベアリングハウジング36および蓋体50(軸挿通孔H3)に挿通されており、磁場装置31と電動機32を接続する。シャフト33の下端は磁場装置31(支持板31b)に固定され、シャフト33の上端はカップリング34を介して電動機32の回転軸32aに接続されている。
【0056】
蓋体50は、有底筒体10の上部開口を閉塞する板状部材である。この蓋体50と有底筒体10により、磁場装置31を収容する空間が画成されている。蓋体50には、空気取入口H1と空気排出口H2および軸挿通孔H3が設けられている。空気取入口H1に連通するように送風パイプ51が設けられている。この送風パイプ51には、磁場装置31を冷却するための空気を送り込むブロワー70が接続されている。また、空気排出口H2に連通するように排風パイプ52が設けられている。送風パイプ51から有底筒体10内部に送り込まれた空気は排風パイプ52から外部に排出される。
【0057】
カップリング34は、電動機32の回転軸32aと、磁場装置31に固定されたシャフト33とを継合する軸継合部材である。
【0058】
架台35は蓋体50上に固定されており、この架台35上に電動機32が設置されている。架台35の上面には、軸挿通孔H4が設けられている。なお、回転軸32aとシャフト33が一体的に構成される等の場合は、架台35を省略して、電動機32を蓋体50上に直接設置してもよい。
【0059】
ベアリングハウジング36は、ベアリング(図示せず)を収容しており、
図1に示すように、蓋体50の下面に固定されている。
【0060】
以上説明したように、本実施形態に係る金属溶湯ポンプ1では、溶湯流路体20が有底筒体10とは別体のものとして有底筒体10の下に着脱可能に設けられている。より詳しくは、溶湯流路体20は、有底筒体10の下の位置であって、複数の永久磁石31aのうち、第1の永久磁石からの磁力線が、有底筒体10の底壁12を下方に貫通して溶湯流路Cに至り、溶湯流路Cから底壁12を上方に貫通して第1の永久磁石に隣り合う第2の永久磁石に戻る位置に、有底筒体10に着脱可能に設けられている。
【0061】
これにより、本実施形態によれば、溶湯流路体20を交換することで、溶湯流路Cを容易に、かつ低コストで新しくすることができる。その結果、使用時において溶湯流路Cの金属溶湯を効率良く駆動するとともに、吐出量が低下した場合には、溶湯流路体20を交換することで、迅速かつ低コストで金属溶湯ポンプの性能を回復することができる。その結果、ダウンタイムロスを大幅に低減することができる。
【0062】
また、炉内の溶湯を吸い込む吸込口P1が溶湯流路体20の側面に開口しているため、脚体(脚部材)を用いずに金属溶湯ポンプ1を炉底に直接設置した場合であっても、溶湯の吸込抵抗は影響を受けず、十分な吐出量を確保することができる。
【0063】
また、有底筒体10の下方に溶湯流路体20が設置されるので、金属溶湯ポンプ1の外径が大きくならない。よって、本実施形態によれば、炉内への設置性を損なうことがない。
【0064】
(金属溶湯ポンプの変型例)
上記の説明では、固定具40を用いて有底筒体10と溶湯流路体20は着脱可能に接続されていたが、固定具40を用いずに両者を接続してもよい。たとえば、有底筒体10の底壁12に凸部(または凹部)を設け、この凸部が溶湯流路体20の凹部(または凸部)に嵌合するようにしてもよい。
【0065】
このような変型例について
図6を参照して説明する。
図6は
図2のI-I線に沿う断面図を示している。
【0066】
本変型例に係る金属溶湯ポンプ1Aでは、有底筒体10の底壁12には固定用凸部13が設けられており、この固定用凸部13が溶湯流路体20の内側流路壁21で囲まれた凹部Rと係合することで、有底筒体10と溶湯流路体20が着脱可能に接続される。
【0067】
なお、固定用凸部13は、平面視でシャフト33と重なるように設けられてもよい。
【0068】
また、有底筒体10と溶湯流路体20がしっかりと着脱可能に接続されるようにするために、固定用凸部13の平面形状は溶湯流路体20の凹部Rの平面形状と略同一であるようにしてもよい。
【0069】
図示しないが、他の変型例として、溶湯流路体20が、その外周端から上方に延出した外周枠部を有するものとして構成され、この外周枠部に有底筒体10の底部が収まるようにしてもよい。このような外周枠部が有底筒体10側に設けられてもよい。
【0070】
<金属溶湯ポンプの動作>
次に、上述した実施形態に係る金属溶湯ポンプ1の動作について説明する。
【0071】
図7に示すように、炉100内の金属溶湯Mに金属溶湯ポンプ1を沈める。炉100は、たとえば、アルミニウム等の非鉄金属を溶解するための溶解炉、または金属溶湯を保持するための保持炉である。なお、非鉄金属は、アルミニウムに限られず、たとえば、Al,Cu,Znもしくはこれらのうちの少なくとも2つの合金、またはMg合金であってもよい。
【0072】
金属溶湯ポンプ1を炉100内に設置する前に、熱衝撃を低減するため、有底筒体10および溶湯流路体20を予熱しておくことが好ましい。予熱処理は、たとえば、空気取入口H1から温風を吹き込むことにより行う。
【0073】
金属溶湯ポンプ1を炉100内に設置した後、電源制御盤60を操作して、所望の吐出量に応じた回転速度で電動機32を駆動する。なお、金属溶湯ポンプ1の動作中は、ブロワー70から送風パイプ51および空気取入口H1を介して冷却空気を有底筒体10の内部に吹き込んで磁場装置31を冷却する。冷却空気は排風パイプ52から外部に排出される。
【0074】
電動機32の回転軸32aの回転に伴って磁場装置31が回転することにより、ある永久磁石31aから出て隣接する永久磁石31aへ入る磁力線MLは溶湯流路C内の金属溶湯M’を貫通した状態で移動する。磁力線MLの移動により金属溶湯M’に渦電流が発生する。この渦電流により金属溶湯M’に作用する電磁力によって、金属溶湯M’は、
図8に示すように、加速流路に沿って、シャフト33の円周方向に駆動される。これにより、溶湯流路Cの金属溶湯M’は吐出口P2から吐出されるとともに、外部の炉100の金属溶湯Mが吸込口P1から溶湯流路Cに吸い込まれる。その結果、炉100内の金属溶湯が循環することとなる。
【0075】
なお、金属溶湯ポンプ1は炉内の金属溶湯を循環させる用途だけでなく、金属溶湯を汲み上げるために使用することも可能である。この場合、
図9に示すように、溶湯流路Cの吐出口P2に溶湯排出管25を接続する。溶湯排出管25は、一端が溶湯流路体20の吐出口P2に接続され、他端(排出口P3)が開放されている。排出口P3は、金属溶湯ポンプ1が炉内に設置された状態で溶湯レベルM.Lよりも上方に位置する。これにより、溶湯流路Cの金属溶湯は駆動されて吐出口P2から吐出された後、溶湯排出管25を通って、外部の桶(図示せず)等に汲み上げられる。
【0076】
<溶湯流路体の変型例>
溶湯流路体については、上述した縦断面形状が閉じた略U字状の溶湯流路体20に限られず、種々のものが考えられる。以下、変型例1~4に係る溶湯流路体について、
図10A~
図13Bを参照して説明する。変型例1および2は、平面形状は略U字状であるが、縦断面形状が閉じていない溶湯流路体に関する。変形例3および4は、平面形状がU字状ではない溶湯流路体に関する。
【0077】
(変型例1)
図10Aおよび
図10Bを参照して変型例1に係る溶湯流路体20Aについて説明する。
図10Aは溶湯流路体20Aの平面図であり、
図10Bは溶湯流路体20Aの側面図である。
【0078】
本変型例に係る溶湯流路体20Aは、溶湯流路体20から上側流路壁23を取り去ったものに相当する。すなわち、溶湯流路体20Aは、内側流路壁21、外側流路壁22および下側流路壁24を有し、上面が開放されている。これにより、使用後、溶湯流路体20Aを有底筒体10から取り外し、溶湯流路C内で凝固した金属の除去等のメンテナンスを容易に行うことができる。また、上側流路壁23が設けられていないため、溶湯流路Cと磁場装置31との距離が短く、溶湯駆動効率を向上させることができる。
【0079】
なお、吐出圧を確保する観点から、溶湯流路体20Aの内側流路壁21および外側流路壁22の上端面は有底筒体10の底壁12とできるだけ隙間なく接することが好ましい。
【0080】
(変形例2)
次に、
図11Aおよび
図11Bを参照して変型例2に係る溶湯流路体20Bについて説明する。
図11Aは溶湯流路体20Bの平面図であり、
図11Bは溶湯流路体20Bの側面図である。
【0081】
本変型例に係る溶湯流路体20Bは、溶湯流路体20から下側流路壁24を取り去ったものに相当する。すなわち、溶湯流路体20Bは、内側流路壁21、外側流路壁22および上側流路壁23を有し、下面が開放されている。これにより、使用後、溶湯流路体20Bを有底筒体10から取り外し、溶湯流路C内で凝固した金属の除去等のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0082】
本変形例の溶湯流路体20Bを用いる場合、金属溶湯ポンプ1を炉底まで沈めて内側流路壁21および外側流路壁22の下端面が炉底と接するようにすることが必要である。なお、溶湯金属の凝固などにより炉底が平坦でなく、溶湯流路体20Bと炉底に隙間が生じる場合が想定されるが、このような場合であっても、炉内の金属溶湯を循環させる程度の吐出圧を確保することは困難ではない。必要であれば、電動機32の回転数を上げることで所要の吐出圧の確保を図ることができる。
【0083】
(変形例3)
次に、
図12Aおよび
図12Bを参照して変型例3に係る溶湯流路体20Cについて説明する。
図12Aは溶湯流路体20Cの平面図であり、
図12Bは溶湯流路体20Cの側面図である。
【0084】
本変型例に係る溶湯流路体20Cは、溶湯流路体20と同様に縦断面が閉じた形状を有するが、平面形状が波状である。すなわち、溶湯流路体20Cは、内側流路壁21、外側流路壁22、上側流路壁23および下側流路壁24を有し、縦断面形状が閉じている。そして、溶湯流路体20Cの平面形状は、波状であり、吸込口P1と吐出口P2は同一直線上にある。
【0085】
溶湯流路体20Cは、たとえば、炉100の辺部に金属溶湯ポンプ1を設置する場合に好適である。
【0086】
本変型例によれば、吸込口P1と吐出口P2が同一直線上にありながらも、溶湯流路Cは磁場装置31の回転方向に沿った加速流路(線L1とL2で挟まれた流路)を有するため、溶湯流路Cの金属溶湯を効率良く駆動することができる。
【0087】
なお、溶湯流路体20Cにおいて、変型例1,2のように、上側流路壁23または下側流路壁24を取り去り、上面または下面を開放してもよい。
【0088】
(変型例4)
次に、
図13Aおよび
図13Bを参照して変型例4に係る溶湯流路体20Dについて説明する。
図13Aは溶湯流路体20Dの平面図であり、
図13Bは溶湯流路体20Dの側面図である。
【0089】
本変型例に係る溶湯流路体20Dは、溶湯流路体20と同様に縦断面が閉じた形状を有するが、平面形状が波状である。すなわち、溶湯流路体20Dは、内側流路壁21、外側流路壁22、上側流路壁23および下側流路壁24を有し、縦断面形状が閉じている。そして、溶湯流路体20Dの平面形状は、略L字状であり、吸込口P1の開口面と吐出口P2の開口面は直交している。
【0090】
溶湯流路体20Dは、たとえば、炉100の角部(隅部)に金属溶湯ポンプ1を設置する場合に好適である。
【0091】
本変型例によれば、吸込口P1と吐出口P2の開口面が直交しながらも、溶湯流路Cは磁場装置31の回転方向に沿った加速流路(線L3とL4で挟まれた流路)を有するため、溶湯流路Cの金属溶湯を効率良く駆動することができる。
【0092】
なお、溶湯流路体20Dにおいて、変型例1,2のように、上側流路壁23または下側流路壁24を取り去り、上面または下面を開放してもよい。
【0093】
また、直交に限らず、鋭角または鈍角で吸込口P1と吐出口P2の開口面が交わるようにしてもよい。
【0094】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0095】
1 金属溶湯ポンプ
10 有底筒体
11 側壁
12 底壁
13 固定用凸部
20,20A,20B,20C,20D 溶湯流路体
21 内側流路壁
22 外側流路壁
23 上側流路壁
24 下側流路壁
25 溶湯排出管
30 溶湯駆動部
31,31A 磁場装置
31a 永久磁石
31b 支持板
32 電動機
32a 回転軸
33 シャフト
34 カップリング
35 架台
36 ベアリングハウジング
40 固定具
50 蓋体
51 送風パイプ
52 排風パイプ
60 電源制御盤
60a,60b 端子
61 接続導体
70 ブロワー
100 炉
C 溶湯流路
C1 加速流路
C2 入口側流路
C3 出口側流路
H1 空気取入口
H2 空気排出口
H3,H4 軸挿通孔
H5 空気孔
M,M’ 金属溶湯
ML 磁力線
P1 吸込口
P2 吐出口
P3 排出口
R (溶湯流路体の)凹部