(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022098256
(43)【公開日】2022-07-01
(54)【発明の名称】リン化インジウム基板、リン化インジウム基板の製造方法及び半導体エピタキシャルウエハ
(51)【国際特許分類】
C30B 29/40 20060101AFI20220624BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220624BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20220624BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20220624BHJP
【FI】
C30B29/40 C
H01L21/304 601B
H01L21/304 621E
H01L21/304 622W
H01L21/304 621B
H01L21/20
C30B25/18
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211684
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山岸 航大
(72)【発明者】
【氏名】岡 俊介
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健二
【テーマコード(参考)】
4G077
5F057
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AA03
4G077BE44
4G077DB08
4G077EB01
4G077ED04
4G077ED06
4G077FG05
4G077FG06
4G077FG11
4G077GA01
4G077GA05
4G077GA06
4G077HA06
4G077HA12
4G077TA04
4G077TB05
4G077TK02
4G077TK04
4G077TK10
5F057AA03
5F057AA05
5F057AA21
5F057BA12
5F057BA13
5F057BB08
5F057CA01
5F057CA02
5F057CA11
5F057CA18
5F057CA25
5F057CA36
5F057CA40
5F057DA02
5F057DA05
5F057DA06
5F057DA11
5F057DA15
5F057DA28
5F057DA29
5F057DA38
5F057EB22
5F057EB24
5F152LL05
5F152LL09
5F152LM08
5F152LN27
5F152LN29
5F152MM03
5F152MM18
5F152NN08
5F152NP05
5F152NQ05
5F152NQ08
(57)【要約】
【課題】エッジ部の凹凸や加工ダメージを起因とするリン化インジウム基板の割れを抑制することが可能なリン化インジウム基板、リン化インジウム基板の製造方法及び半導体エピタキシャルウエハを提供する。
【解決手段】基板のエッジ部の表面粗さについて、エッジ部表面全体において、レーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが2.1μm以下である、リン化インジウム基板。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板のエッジ部の表面粗さについて、前記エッジ部表面全体において、レーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが2.1μm以下である、リン化インジウム基板。
【請求項2】
前記最大高さSzが1.8μm以下である、請求項1に記載のリン化インジウム基板。
【請求項3】
基板のエッジ部の表面粗さについて、前記エッジ部表面全体において、レーザー顕微鏡によって測定された、二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下である、請求項1または2に記載のリン化インジウム基板。
【請求項4】
前記二乗平均平方根高さSqが0.07μm以下である、請求項3に記載のリン化インジウム基板。
【請求項5】
前記基板のエッジ部は、
一方の表面から傾斜した面、及び、
前記一方の表面から傾斜した面が終了する位置から、他方の表面から傾斜した面が終了する位置までの、曲率をもった面
を有し、
前記一方の表面から傾斜した面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが1.2μm以下であり、
前記曲率をもった面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが2.1μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリン化インジウム基板。
【請求項6】
前記基板のエッジ部は、
一方の表面から傾斜した面、及び、
前記一方の表面から傾斜した面が終了する位置から、他方の表面から傾斜した面が終了する位置までの、曲率をもった面
を有し、
前記一方の表面から傾斜した面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下であり、
前記曲率をもった面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のリン化インジウム基板。
【請求項7】
リン化インジウムのウエハの外周部分の面取りを行う工程と、
前記面取り後に生じたウエハのエッジ部の表面全体を、番手#4000の研磨フィルムにて研磨する工程と、
前記エッジ部の研磨後のウエハをエッチングする工程と、
を含む、リン化インジウム基板の製造方法。
【請求項8】
前記リン化インジウムのウエハの外周部分の面取りを行う工程と、前記面取り後に生じたウエハのエッジ部の表面全体を、番手#4000の研磨フィルムにて研磨する工程と、の間に、ウエハの少なくとも一方の表面を研磨する工程を更に含む、請求項7に記載のリン化インジウム基板の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に記載のリン化インジウム基板と、前記リン化インジウム基板の主面に設けられたエピタキシャル結晶層と、を有する、半導体エピタキシャルウエハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン化インジウム基板、リン化インジウム基板の製造方法及び半導体エピタキシャルウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムリン(InP)は、III族のインジウム(In)とV族のリン(P)とからなるIII-V族化合物半導体材料である。半導体材料としての特性は、バンドギャップ1.35eV、電子移動度~5400cm2/V・sであり、高電界下での電子移動度はシリコンやガリウム砒素といった他の一般的な半導体材料より高い値になるという特性を有している。また、常温常圧下での安定な結晶構造は立方晶の閃亜鉛鉱型構造であり、その格子定数は、ヒ化ガリウム(GaAs)やリン化ガリウム(GaP)等の化合物半導体と比較して大きな格子定数を有するという特徴を有している。
【0003】
リン化インジウム基板の原料となるリン化インジウムのインゴットは、通常、所定の厚さにスライシングされ、所望の形状に研削され、適宜機械研磨された後、研磨屑や研磨により生じたダメージを除去するために、エッチングや精密研磨(ポリシング)等に供される(特許文献1)。
【0004】
リン化インジウム基板のエッジ部の加工は、通常、面取り装置にて実施されており、番手♯800または♯1200の砥石による研磨にて実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リン化インジウム基板のエッジ部の表面粗さが大きいと、製造時や出荷後の基板が割れやすくなるという問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、エッジ部の凹凸や加工ダメージを起因とするリン化インジウム基板の割れを抑制することが可能なリン化インジウム基板、リン化インジウム基板の製造方法及び半導体エピタキシャルウエハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下のように特定される、本発明の実施形態によって解決される。
(1)基板のエッジ部の表面粗さについて、前記エッジ部表面全体において、レーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが2.1μm以下である、リン化インジウム基板。
(2)前記最大高さSzが1.8μm以下である、(1)に記載のリン化インジウム基板。
(3)基板のエッジ部の表面粗さについて、前記エッジ部表面全体において、レーザー顕微鏡によって測定された、二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下である、(1)または(2)に記載のリン化インジウム基板。
(4)前記二乗平均平方根高さSqが0.07μm以下である、(3)に記載のリン化インジウム基板。
(5)前記基板のエッジ部は、
一方の表面から傾斜した面、及び、
前記一方の表面から傾斜した面が終了する位置から、他方の表面から傾斜した面が終了する位置までの、曲率をもった面
を有し、
前記一方の表面から傾斜した面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが1.2μm以下であり、
前記曲率をもった面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが2.1μm以下である、(1)~(4)のいずれかに記載のリン化インジウム基板。
(6)前記基板のエッジ部は、
一方の表面から傾斜した面、及び、
前記一方の表面から傾斜した面が終了する位置から、他方の表面から傾斜した面が終了する位置までの、曲率をもった面
を有し、
前記一方の表面から傾斜した面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下であり、
前記曲率をもった面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下である、(1)~(5)のいずれかに記載のリン化インジウム基板。
(7)リン化インジウムのウエハの外周部分の面取りを行う工程と、
前記面取り後に生じたウエハのエッジ部の表面全体を、番手#4000の研磨フィルムにて研磨する工程と、
前記エッジ部の研磨後のウエハをエッチングする工程と、
を含む、リン化インジウム基板の製造方法。
(8)前記リン化インジウムのウエハの外周部分の面取りを行う工程と、前記面取り後に生じたウエハのエッジ部の表面全体を、番手#4000の研磨フィルムにて研磨する工程と、の間に、ウエハの少なくとも一方の表面を研磨する工程を更に含む、(7)に記載のリン化インジウム基板の製造方法。
(9)(1)~(6)のいずれかに記載のリン化インジウム基板と、前記リン化インジウム基板の主面に設けられたエピタキシャル結晶層と、を有する、半導体エピタキシャルウエハ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、エッジ部の凹凸や加工ダメージを起因とするリン化インジウム基板の割れを抑制することが可能なリン化インジウム基板、リン化インジウム基板の製造方法及び半導体エピタキシャルウエハを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板のエッジ部付近の断面模式図である。
【
図2】実施例のリン化インジウム基板の平面模式図である。
【
図3】実施例のリン化インジウム基板のエッジ部付近の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔リン化インジウム基板〕
以下、本実施形態のリン化インジウム基板の構成について説明する。
本実施形態のリン化インジウム(InP)基板は、基板表面、基板裏面、及び、エッジ部を備える。エッジ部は、結晶の方位を示すオリエンテーションフラット(OF)、及び、基板の主面と裏面とを見分けるためのインデックスフラット(IF)を有していてもよい。
【0012】
リン化インジウム基板の主面は、エピタキシャル結晶層を形成するための面とすることができる。エピタキシャル結晶層を形成するための面とは、本実施形態のリン化インジウム基板を、半導体素子構造の形成のためにエピタキシャル成長用の基板として使用する際に、実際にエピタキシャル成長を実施する面である。
【0013】
リン化インジウム基板の主面の最大径は特に限定されないが、49~151mmであってもよく、49~101mmであってもよい。リン化インジウム基板の平面形状は、円形であってもよく、四角形等の矩形であってもよい。
【0014】
リン化インジウム基板の厚さは特に限定されないが、例えば、300~900μmであるのが好ましく、300~700μmであるのがより好ましい。特に口径が大きい場合、リン化インジウム基板が300μm未満であると割れる恐れがあり、900μmを超えると母材結晶が無駄になるという問題が生じることがある。
【0015】
本実施形態のリン化インジウム基板は、ドーパント(不純物)として、Znをキャリア濃度が1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下となるように含んでもよく、Sをキャリア濃度が1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下となるように含んでもよく、Snをキャリア濃度が1×1016cm-3以上1×1019cm-3以下となるように含んでもよく、Feをキャリア濃度が1×106cm-3以上1×109cm-3以下となるように含んでもよい。
【0016】
図1に、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板のエッジ部付近の断面模式図を示す。リン化インジウム基板のエッジ部の断面は、
図1に示すように長方形の角が削られて(面取りがなされて)、曲線状となっている。本発明において、「エッジ部」とは、リン化インジウム基板の側面、すなわち、主面と裏面を除いた外表面を示し、具体的には、
図1に示す主面の端部(平坦な主面が傾斜し始める位置)に位置する点Pから、基板の側面を亘り、裏面の端部(平坦な裏面が傾斜し始める位置)に位置する点Qまでの領域を示す。また、本発明の「エッジ部」はオリエンテーションフラット(OF)、及び、インデックスフラット(IF)も含んでいる。
【0017】
なお、
図1は、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板における主面、裏面、エッジ部を理解するための図面であり、これらがそのまま本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板を示すものではない。
【0018】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、エッジ部の表面粗さについて、エッジ部表面全体において、レーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが2.1μm以下である。このような構成によれば、エッジ部の凹凸や加工ダメージに起因する、製造時や出荷後の基板割れの発生を抑制することができる。
【0019】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板のエッジ部の最大高さSzは、ISO25178に準拠して測定される、表面の最も高い点から最も低い点までの距離を表すパラメータである。本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板のエッジ部の最大高さSzは、例えば、OLYMPUS社製3D測定レーザー顕微鏡OLS5000を用いて測定することができる。
【0020】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、エッジ部の表面粗さについて、エッジ部表面全体において、レーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが1.8μm以下であるのが好ましい。また、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板のエッジ部の当該最大高さSzの下限値は特に限定されないが、0.2μm以上、0.4μm以上であってもよい。
【0021】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、エッジ部の表面粗さについて、エッジ部表面全体において、レーザー顕微鏡によって測定された、二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下であるのが好ましい。リン化インジウム基板のエッジ部の二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下に制御されていることで、面取り以降の加工に用いられる研削砥粒や、研磨液がエッジ部に残留することが抑制される。このため、基板表面に残留物(パーティクル等)が移動することを防ぐことができ、リン化インジウム基板の表面の汚染、及び、基板製造時の歩留まり低下を抑制することができる。基板表面の汚染を防ぐことができると、エピタキシャル成長を実施した後の表面品質が向上する。
【0022】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板のエッジ部の二乗平均平方根高さSqは、ISO25178に準拠して測定される、平均面からの標準偏差を表すパラメータである。本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板のエッジ部の二乗平均平方根高さSqは、例えば、OLYMPUS社製3D測定レーザー顕微鏡OLS5000を用いて測定することができる。
【0023】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、エッジ部の表面粗さについて、エッジ部表面全体において、レーザー顕微鏡によって測定された、二乗平均平方根高さSqが0.07μm以下であるのがより好ましい。また、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板のエッジ部の当該二乗平均平方根高さSqの下限値は特に限定されないが、0.01μm以上、0.015μm以上であってもよい。
【0024】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、エッジ部の表面粗さについて、一方の表面から傾斜した面、及び、一方の表面から傾斜した面が終了する位置から、他方の表面から傾斜した面が終了する位置までの、曲率をもった面を有しており、一方の表面から傾斜した面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが1.2μm以下であり、曲率をもった面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが2.1μm以下であることが好ましい。このような構成によれば、エッジ部の凹凸や加工ダメージを起因とするリン化インジウム基板の割れをより良好に抑制することが可能となる。ここで、当該「一方の表面から傾斜した面」は、後述の
図3に示す、主面から傾斜した面である測定領域1で示される面であり、当該「一方の表面から傾斜した面が終了する位置から、他方の表面から傾斜した面が終了する位置までの、曲率をもった面」は、後述の
図3に示す、測定領域1の主面から傾斜した面が終了する位置から、裏面から傾斜した面が終了する位置までの、曲率をもった面となるエッジ部の円弧領域となる測定領域2で示される面である。
【0025】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、エッジ部の表面粗さについて、上述の一方の表面から傾斜した面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下であり、上述の曲率をもった面におけるレーザー顕微鏡によって測定された、二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下であることが好ましい。このような構成によれば、基板表面に残留物(パーティクル等)が移動することをより良好に防ぐことができ、リン化インジウム基板の表面の汚染、及び、基板製造時の歩留まり低下をより良好に抑制することができる。
【0026】
〔リン化インジウム基板の製造方法〕
次に、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の製造方法について説明する。
リン化インジウム基板の製造方法としては、まず、公知の方法にてリン化インジウムのインゴットを作製する。
次に、リン化インジウムのインゴットを研削して円筒にする。このとき、ウエハの外周部分の所定位置に、オリエンテーションフラット(OF)、及び、インデックスフラット(IF)を形成してもよい。
次に、研削したリン化インジウムのインゴットから主面及び裏面を有するウエハを切り出す。このとき、リン化インジウムのインゴットの結晶両端を所定の結晶面に沿って、ワイヤーソー等を用いて切断し、複数のウエハを所定の厚さに切り出す。
【0027】
次に、ワイヤーソーによる切断工程において生じた加工変質層を除去するために、切断後のウエハに対し、所定のエッチング液により、両面エッチングする(一次エッチング)。ウエハは、エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングすることができる。
【0028】
次に、ウエハの外周部分の面取りを行う。面取りの後、ウエハの少なくとも一方の表面、好ましくは両面を研磨(ポリッシング)してもよい。当該研磨工程はラッピング工程とも言われ、所定の研磨剤で研磨することで、ウエハの平坦性を保ったままウエハ表面の凹凸を取り除く。
【0029】
面取り後、または、面取り後にラッピングを行った場合は当該ラッピング工程の後、面取り後に生じたウエハのエッジ部の表面全体を、番手#4000の研磨フィルムにて研磨する。このとき、ウエハのエッジ部全面を、同じ番手#4000の研磨フィルムにて研磨するため、ウエハのエッジ部全面の粗さが、同様の粗さに制御される。すなわち、当該研磨によって、ウエハのエッジ部の表面粗さについて、エッジ部表面全体において、レーザー顕微鏡によって測定したとき、最大高さSzが2.1μm以下であるように制御する。また、このとき、同時にウエハのエッジ部の表面粗さについて、エッジ部表面全体において、二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下となるように制御することが好ましい。
【0030】
次に、エッジ部の研磨後のウエハに対し、所定のエッチング液により、両面エッチングする(二次エッチング)。ウエハは、前記エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングすることができる。
次に、ウエハの主面を鏡面研磨用の研磨材で研磨して鏡面に仕上げる。
次に、洗浄を行うことで、本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板が製造される。
【0031】
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板は、上述のように、面取り後の番手#4000の研磨フィルムにて研磨されたエッジ部を有する基板であってもよく、または、研磨フィルムにて研磨された後、エッチング、鏡面研磨、洗浄等を行うことで作製した基板であってもよい。
【0032】
〔半導体エピタキシャルウエハ〕
本発明の実施形態に係るリン化インジウム基板の主面に対し、公知の方法で半導体薄膜をエピタキシャル成長させることで、エピタキシャル結晶層を形成し、半導体エピタキシャルウエハを作製することができる。当該エピタキシャル成長の例としては、リン化インジウム基板の主面に、InAlAsバッファ層、InGaAsチャネル層、InAlAsスペーサ層、InP電子供給層をエピタキシャル成長させたHEMT構造を形成してもよい。このようなHEMT構造を有する半導体エピタキシャルウエハを作製する場合、一般には、鏡面仕上げしたリン化インジウム基板に、硫酸/過酸化水素水などのエッチング溶液によるエッチング処理を施して、基板表面に付着したケイ素(Si)等の不純物を除去する。このエッチング処理後のリン化インジウム基板の裏面をサセプターに接触させて支持した状態で、リン化インジウム基板の主面に、分子線エピタキシャル成長法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)又は有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)によりエピタキシャル膜を形成する。
【実施例0033】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0034】
(実施例1)
まず、所定の直径で育成したリン化インジウムの単結晶のインゴットを準備した。
次に、リン化インジウムの単結晶のインゴットの外周を研削し、円筒にした。このとき、ウエハの外周部分の所定位置に、オリエンテーションフラット(OF)、及び、インデックスフラット(IF)を形成した。
【0035】
次に、研削したリン化インジウムのインゴットから主面及び裏面を有するウエハを切り出した。このとき、リン化インジウムのインゴットの結晶両端を所定の結晶面に沿って、ワイヤーソーを用いて切断し、複数のウエハを所定の厚さに切り出した。ウエハを切り出す工程では、ワイヤーを往復させながら常に新線を送り続けるとともに、リン化インジウムをワイヤーソーへ移動させた。ここで作製したウエハのウエハ径は、76.2mmであり、ウエハ厚さは750μmであった。
【0036】
次に、ワイヤーソーによる切断工程において生じた加工変質層を除去するために、切断後のウエハを85質量%のリン酸水溶液及び30質量%の過酸化水素水の混合溶液により、両面からエッチングした(一次エッチング)。ウエハは、エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングした。
【0037】
次に、ウエハの外周部分の面取りを行った。次に、面取り後のウエハの両面を研磨した(ラッピング)。このとき、研磨剤で研磨することで、ウエハの平坦性を保ったままウエハ表面の凹凸を取り除いた。
【0038】
次に、面取りによって生じたウエハのエッジ部の表面全体を、番手#4000の研磨フィルムに押し当てて研磨した。
【0039】
次に、フィルムによる研磨後のウエハを85質量%のリン酸水溶液、30質量%の過酸化水素水及び超純水の混合溶液により、両面から合計8~15μm厚のエッチング量でエッチングした(二次エッチング)。ウエハは、前記エッチング液中にウエハ全体を浸漬することで、エッチングした。
【0040】
次に、ウエハの主面を鏡面研磨用の研磨材で研磨(ポリッシング)して鏡面に仕上げた後、洗浄することでリン化インジウム基板を作製した。
【0041】
図2に、実施例1で作製されたリン化インジウム基板の平面模式図を示す。また、
図3に、実施例1で作製されたリン化インジウム基板のエッジ部付近の断面模式図を示す。
図3において、T=650μm、X1=494μm、X2=432μm、Y1=126μm、Y2=108μm、Y3=416μm、R1=167μm、R2=184μm(R1、R2は、エッジ部のラウンド部の曲率半径)、θ1=14.5度、θ2=13.9度(θ1、θ2は、エッジ部の傾斜角度)であった。
【0042】
(比較例1)
比較例1として、上述の実施例1において、ラッピング工程の後、研磨フィルムによるエッジ部の研磨を実施せず、二次エッチングを実施した以外は、実施例1と同様にしてリン化インジウム基板を作製した。
【0043】
(評価)
リン化インジウム基板の測定対象となるエッジ部は、
図2に示すように、OFの反対側に位置する領域(A-領域)と、IFの反対側に位置する領域(B-領域)とに分け、さらに、
図3に示すように、(1)主面から傾斜した面を測定領域1とし、さらに、(2)測定領域1の主面から傾斜した面が終了する位置から、裏面から傾斜した面が終了する位置までの、曲率をもった面となるエッジ部の円弧領域を測定領域2とした。
そして、A-領域における測定領域1を「A-領域1」とし、A-領域における測定領域2を「A-領域2」とし、B-領域における測定領域1を「B-領域1」とし、B-領域における測定領域2を「B-領域2」とした。
【0044】
これらエッジ部の合計4箇所の領域(各測定領域サイズ:258μm×258μm)において、それぞれ、OLYMPUS社製3D測定レーザー顕微鏡OLS5000を用いて、最大高さSz、及び、二乗平均平方根高さSqを測定した。
なお、エッジ部の曲率を除去して評価するため、カットオフフィルター(Lフィルター:カットする波長20μm)を用いて測定を実施した。
評価結果を表1に示す。
【0045】
【0046】
(考察)
実施例1では、基板のエッジ部のA-領域1、2、及び、B-領域1、2の、各表面粗さについて、レーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが2.1μm以下である、リン化インジウム基板が得られた。基板のエッジ部表面全体において、番手#4000の研磨フィルムにて研磨したものであり、エッジ部表面全体において、測定領域1に対応する傾斜領域は、A-領域1及びB-領域1と同様の表面粗さが得られているものと考えられる。また、エッジ部表面全体において、上述の測定領域2のようなエッジ部の測定領域2に対応する比較的平坦な領域(円弧領域)は、A-領域2及びB-領域2と同様の表面粗さが得られているものと考えられる。
なお、エッジ部の領域1と領域2とで最大高さSz及び二乗平均平方根高さSqに違いが生じたのは、研磨フィルムにてエッジ部を研磨した後の、鏡面研磨などによる基板表面の研磨による影響が出ているものと考えられる。あくまで、基板のエッジ部表面全体において、番手#4000の研磨フィルムにて研磨した直後であれば、エッジ部表面全体において、どの領域を測定しても、最大高さSz及び二乗平均平方根高さSqは同様であるものと考えられる。
【0047】
また、実施例1の基板表面のSi濃度をTOF-SIMS分析で2点測定した結果、80.3(×1010atoms/cm2)、115.8(×1010atoms/cm2)であった。このとき、濃度既知の標準試料をもとに分析装置の感度係数を求めて、Siのイオン強度をIn強度で規格化して定量化した。
TOF-SIMS分析の分析条件は以下の通りである。
装置名:Physical Electronics TRIFT III
イオン源:Au+
一次イオンエネルギー:22kV
分析エリア:25μm×25μm
【0048】
比較例1のリン化インジウム基板は、面取り及びラッピング工程後に、基板のエッジ部表面全体において、番手#4000の研磨フィルムにて研磨しなかったため、基板のエッジ部のA-領域1、2、及び、B-領域1、2の、各表面粗さについて、レーザー顕微鏡によって測定された、最大高さSzが2.1μm超であった。
基板のエッジ部の表面粗さについて、前記エッジ部表面全体において、レーザー顕微鏡によって測定された、二乗平均平方根高さSqが0.15μm以下である、請求項1または2に記載のリン化インジウム基板。
前記リン化インジウムのウエハの外周部分の面取りを行う工程と、前記面取り後に生じたウエハのエッジ部の表面全体を、番手#4000の研磨フィルムにて研磨する工程と、の間に、ウエハの少なくとも一方の表面を研磨する工程を更に含む、請求項7に記載のリン化インジウム基板の製造方法。
請求項1~6のいずれか一項に記載のリン化インジウム基板と、前記リン化インジウム基板の主面に設けられたエピタキシャル結晶層と、を有する、半導体エピタキシャルウエハ。
前記リン化インジウムのウエハの外周部分の面取りを行う工程と、前記面取り後に生じたウエハのエッジ部の表面全体を、番手#4000の研磨フィルムにて研磨する工程と、の間に、ウエハの少なくとも一方の表面を研磨する工程を更に含む、請求項3に記載のリン化インジウム基板の製造方法。
前記リン化インジウムのウエハの外周部分の面取りを行う工程と、前記面取り後に生じたウエハのエッジ部の表面全体を、番手#4000の研磨フィルムにて研磨する工程と、の間に、ウエハの少なくとも一方の表面を研磨する工程を更に含む、請求項3に記載のリン化インジウム基板の製造方法。