(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023100552
(43)【公開日】2023-07-19
(54)【発明の名称】細胞移植装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20230711BHJP
A61F 2/10 20060101ALI20230711BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20230711BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C12M1/00 A
A61F2/10
A61M37/00 514
A61L27/38 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001310
(22)【出願日】2022-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真一
【テーマコード(参考)】
4B029
4C081
4C097
4C267
【Fターム(参考)】
4B029BB11
4C081AB11
4C081AB20
4C081BA17
4C081CD34
4C097AA22
4C097DD15
4C267AA71
4C267BB02
4C267CC02
4C267EE01
(57)【要約】
【課題】広範囲な皮膚内への大量の細胞群を移植する効率と、皮膚に存在する毛包などの器官へのダメージ回避を両立する、細胞移植装置を提供する。
【解決手段】皮膚内に細胞群を含む移植物を配置するための複数本の針を備えた細胞移植器と、皮膚の画像を撮影する撮像装置と、撮影した画像に対応して前記細胞移植器の各針が対応する移植位置を定める機構と、撮影した画像を解析する解析装置を備え、解析装置は、撮影した画像の解析結果に基づき移植要/不要領域を抽出し、抽出した移植要/不要領域に基づき、前記細胞移植器の各針を、皮膚内への移植を実施する移植針と、皮膚内への移植を実施しない非移植針とに振り分ける、細胞移植装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚内に細胞群を含む移植物を配置するための複数本の針を備えた細胞移植器と、
皮膚の画像を撮影する撮像装置と、
撮影した画像を解析する解析装置と、
表示装置とを備え、
前記解析装置は、撮影した画像の解析結果に基づき移植要/不要領域を抽出し、
前記表示装置は、前記移植要/不要領域を表示することを特徴とする、細胞移植装置。
【請求項2】
前記皮膚が頭部皮膚であり
前記解析装置による前記移植要/不要領域の抽出条件が、前記頭部皮膚の毛又は毛根又は穿刺痕からの距離で設定される、請求項1に記載の細胞移植装置。
【請求項3】
前記解析装置による移植不要領域の抽出条件が、頭部皮膚の毛又は毛根又は穿刺痕からの距離が0~1.5mm未満の範囲内の全て又は一部として設定される、請求項2に記載の細胞移植装置。
【請求項4】
皮膚内に細胞群を含む移植物を配置するための複数本の針を備えた細胞移植器と、
皮膚の画像を撮影する撮像装置と、
撮影した画像を解析し、撮影した画像に対応して前記細胞移植器の各針が対応する移植位置を定める解析装置とを備え、
前記解析装置は、撮影した画像の解析結果に基づき移植要/不要領域を抽出し、抽出した移植要/不要領域に基づき、前記細胞移植器の各針を、皮膚内への移植を実施する移植針と、皮膚内への移植を実施しない非移植針とに振り分けることを特徴とする、細胞移植装置。
【請求項5】
前記移植針が皮膚内に細胞群を含む移植物を配置するため皮膚への穿刺を実施し、前記非移植針が皮膚への穿刺を実施しないように制御する機構を備える、請求項4に記載の細胞移植装置。
【請求項6】
前記皮膚が頭部皮膚であり
前記解析装置による移植要/不要領域の抽出条件が、頭部皮膚の毛又は毛根又は穿刺痕からの距離で設定される請求項4または5に記載の細胞移植装置。
【請求項7】
前記解析装置による移植不要領域の抽出条件が、前記頭部皮膚の毛又は毛根又は穿刺痕からの距離が0~1.5mm未満の範囲内の全て又は一部として設定される、請求項6に記載の細胞移植装置。
【請求項8】
前記細胞移植器において前記複数本の針は個別に刺し込み動作可能に構成されており、
前記細胞移植器が、前記非移植針を刺し込む動作を実施しないことにより、前記非移植針が皮膚への穿刺を実施しないように制御する、請求項5に記載の細胞移植装置。
【請求項9】
前記細胞移植器の少なくとも一部の針を穿刺不能な形状に変えることができる穿刺不能化機構を備え、
前記穿刺不能化機構が非移植針を穿刺不能な形状に変えることにより、前記非移植針が移植を実施しないように制御する、請求項5に記載の細胞移植装置。
【請求項10】
前記細胞移植器の前記複数本の針が、少なくとも皮膚進入側の先端が樹脂材料で構成されており、
前記穿刺不能化機構が、前記非移植針を折る、曲げる、潰す、及び切断する、のいずれかを行うことにより、前記非移植針が移植を実施しないように制御する、請求項9に記載の細胞移植装置。
【請求項11】
前記細胞移植器の前記複数本の針が、少なくとも皮膚進入側の先端が水溶性材料で構成されており、
前記穿刺不能化機構が、前記非移植針を折る、曲げる、潰す、切断する、及び水溶液に溶かす、のいずれかを行うことにより、前記非移植針が移植を実施しないように制御する、請求項9に記載の細胞移植装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の移植に用いられる細胞移植装置に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞群を皮膚内へ移植する技術の活用が進んでいる。例えば、毛を作り出す器官である毛包の形成に寄与する細胞群を培養し、この細胞群を皮膚内へ移植することによって、毛髪を再生させることが試みられている。毛髪の良好な再生のためには、移植された細胞群から、正常な組織構造を有して良好な毛髪の形成能力を有する毛包が生じることが望ましい。そこで、こうした毛包を形成可能な細胞群の製造方法について、様々な研究開発が行われている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
さらに、培養された細胞群を、培養容器から生体内へ移すためのデバイスである細胞移植装置の開発も進められている(例えば、特許文献4参照)。
【0004】
細胞群を皮膚内へ移植する技術の活用事例には、広範囲の皮膚領域に多数の細胞群を移植する事例がある。例えば毛髪を再生する試みでは、頭部の広範囲な皮膚内に0.5mm~3mm間隔程度の密度で数千から数万程の細胞群を移植することが想定されている。このような大量の細胞群の移植に対して、複数の針状部を備える細胞移植装置であれば、複数の細胞群をまとめて移植することができるため、移植の効率を高めることができ、施術時間の短縮や患者さんの身体的負担の軽減、治療コストの低減を図ることができる。
【0005】
ところで、皮膚には毛を産生する毛包が形成されていることが知られており、特に頭部では毛包が密に形成されている。毛包は毛を再生する機能を持つが、毛乳頭やバルジ領域の幹細胞にダメージを与えると毛の再生能を失う可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/073625号
【特許文献2】国際公開第2012/108069号
【特許文献3】特開2008-29331号公報
【特許文献4】国際公開第2019/064653号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細胞群を広範囲の皮膚領域に効率よく移植するため、複数の針状部を備える細胞移植装置を用いて、複数の針状部を皮膚内に進入させると、皮膚に形成されていた毛包が存在する位置にも針が進入し、毛乳頭やバルジ領域の幹細胞にダメージを与え毛包が機能を失ってしまうという現象が一定数生じることとなる。特に頭部では毛包が密に形成されているためそのような現象が生じる確率が高くなる。
【0008】
毛髪の再生を目的として、頭部に細胞群を移植する治療を行う患者さんの患部でも、毛を再生する機能を持つ毛包の減少や、毛周期が短くなっているといった現象も見られるが、正常に機能している毛包も存在しており、正常な毛包にダメージを与えず施術を行う必要がある。このような正常な毛包へのダメージを回避すると共に、頭部の広範囲な皮膚内に、大量の細胞群を効率よく移植することができる方法の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するための細胞移植装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する細胞移植装置は、皮膚内に細胞群を含む移植物を配置するための複数本の針を備えた細胞移植器と、皮膚の画像を撮影する撮像装置と、撮影した画像を解析する解析装置と、表示装置とを備え、解析装置は、撮影した画像の解析結果に基づき移植要/不要領域を抽出し、表示装置は、移植要/不要領域を表示する。
【0011】
上記構成によれば、細胞移植器での移植に先立ち、撮影した移植対象の皮膚の画像から、画像を解析する装置であらかじめ設定した抽出条件に基づき、移植が必要な領域及び移植が不要な領域を抽出し、移植が必要な領域及び不要な領域を表示装置に表示することができる。これにより、移植施術を行う者は表示装置の表示をみることで、移植が必要な領域と移植が不要な領域を視覚的に確認しながら、効率よく適切な領域に移植施術を実施することができる。
【0012】
上記構成において、皮膚が頭部皮膚であり、解析装置による移植要/不要領域の抽出条件を、頭部皮膚の毛又は毛根又は穿刺痕からの距離で設定してもよい。
【0013】
上記構成によれば、移植が必要な領域及び移植が不要な領域の抽出において、患者さんの頭部の皮膚に存在する毛又は毛根のある周辺領域を抽出することができ、患者さんの正常な毛包を傷つけない移植領域を視覚的に表示可能となり、毛包を傷つける領域を避けて移植施術が可能となる。また、穿刺痕も抽出条件とすることで、既に移植施術済みの穿刺痕の周辺への過剰な移植施術を避けることもできる。
【0014】
上記構成において、解析装置による移植不要領域の抽出条件を、頭部皮膚の毛又は毛根又は穿刺痕からの距離が0~1.5mm未満の範囲内の全て又は一部として設定してもよい。
【0015】
上記構成によれば、移植が必要な領域及び移植が不要な領域の抽出において、毛髪再生治療に適した細胞群の移植密度を考慮した適切な範囲で、患者さんの頭部の皮膚に存在する毛又は毛根のある周辺領域を抽出することができ、患者さんの正常な毛包を傷つけることを避けて移植施術が可能となる。また、毛髪再生治療に適した細胞群の移植密度を考慮した適切な範囲で、既に移植施術済みの穿刺痕の周辺への過剰な移植施術を避けることもできる。
【0016】
上記課題を解決する細胞移植装置は、皮膚内に細胞群を含む移植物を配置するための複数本の針を備えた細胞移植器と、皮膚の画像を撮影する撮像装置と、撮影した画像を解析し、撮影した画像に対応して細胞移植器の各針が対応する移植位置を定める解析装置を備え、解析装置は、画像解析結果に基づき移植要/不要領域を抽出し、抽出した移植要/不要領域に基づき、前記細胞移植器の各針を、皮膚内への移植を実施する移植針と、皮膚内への移植を実施しない非移植針とに振り分ける。
【0017】
上記構成によれば、複数本の針を備えた細胞移植器での移植に先立ち、撮影した移植対象の皮膚の画像から、画像を解析する装置であらかじめ設定した抽出条件に基づき、移植が必要な領域及び移植が不要な領域が抽出される。続いて、細胞移植器に備えた複数本の各針が対応する移植位置の情報と、抽出結果の移植要/不要領域との位置関係に基づき、複数本の針の内、移植を実施する針と、移植を実施しない針とに、選別し制御することができる。これにより、大量の細胞群を広範囲に移植可能な複数本の針を備えた細胞移植器において、効率的に、移植が必要な領域のみに移植する制御を容易に実現することが可能となる。
【0018】
上記構成において、移植針が皮膚内に細胞群を含む移植物を配置するため皮膚への穿刺を実施し、非移植針が皮膚への穿刺を実施しないように制御する機構を備えてもよい。
【0019】
上記構成によれば、移植が必要な領域にのみ穿刺を実施し、移植が不要な領域では穿刺も実施しないようにすることができる。これにより、移植が不要と判定した領域での皮膚への穿刺ダメージを避けることができる。
【0020】
上記構成において、前記皮膚が頭部皮膚であり、解析装置による移植要/不要領域の抽出条件を、頭部皮膚の毛又は毛根又は穿刺痕からの距離で設定してもよい。
【0021】
上記構成によれば、移植が必要な領域及び移植が不要な領域の抽出において、患者さんの頭部の皮膚に存在する毛又は毛根のある周辺領域を抽出することができ、患者さんの正常な毛包を傷つけない移植領域を視覚的に表示可能となり、毛包を傷つける領域を避けて移植施術が可能となる。また、穿刺痕も抽出条件とすることで、既に移植施術済みの穿刺痕の周辺への過剰な移植施術を避けることもできる。
【0022】
上記構成において、解析装置による移植不要領域の抽出条件を、頭部皮膚の毛又は毛根又は穿刺痕からの距離が0~1.5mm未満の範囲内の全て又は一部として設定してもよい。
【0023】
上記構成によれば、移植が必要な領域及び移植が不要な領域の抽出において、毛髪再生治療に適した細胞群の移植密度を考慮した適切な範囲で、患者さんの頭部の皮膚に存在する毛又は毛根のある周辺領域を抽出することができ、患者さんの正常な毛包を傷つけることを避けて移植施術が可能となる。また、毛髪再生治療に適した細胞群の移植密度を考慮した適切な範囲で、既に移植施術済みの穿刺痕の周辺への過剰な移植施術を避けることもできる。
【0024】
上記構成において、細胞移植器において複数本の針は個別に刺し込み動作可能に構成されており、細胞移植器が、非移植針を刺し込む動作を実施しないことにより、非移植針が皮膚への穿刺を実施しないように制御してもよい。
【0025】
上記構成によれば、非移植針を刺し込む動作を制御するだけで、移植を実施しないようにすることができる。
【0026】
上記構成において、細胞移植器の少なくとも一部の針を穿刺不能な形状に変えることができる穿刺不能化機構を備え、穿刺不能化機構が非移植針を穿刺不能な形状に変えることにより、非移植針が皮膚への穿刺を実施しないように制御してもよい。
【0027】
上記構成によれば、非移植針のみを穿刺不能な状態にすることができ、移植針と非移植針が移植対象の皮膚に対して同じ移植動作を行ったとしても、非移植針のみ皮膚への移植及び穿刺が実施されないようにすることができる。
【0028】
上記構成において、細胞移植器の複数本の針が、少なくとも皮膚進入側の先端が樹脂材料で構成されており、穿刺不能化機構が、非移植針を折る、曲げる、潰す、及び切断する、のいずれかを行うことにより、非移植針が皮膚への穿刺を実施しないように制御してもよい。
【0029】
上記構成によれば、針の皮膚進入側の先端が樹脂材料であるため、針を折る、又は曲げる、又は潰す、又は切断するといった方法により、非移植針のみを穿刺不能な状態にすることができる。
【0030】
上記構成において、細胞移植器の複数本の針が、少なくとも皮膚進入側の先端が水溶性材料で構成されており、穿刺不能化機構が、非移植針を折る、曲げる、潰す、切断する、及び水溶液に溶かす、のいずれかを行うことにより、非移植針が皮膚への穿刺を実施しないように制御してもよい。
【0031】
上記構成によれば、針の皮膚進入側の先端が水溶性材料であるため、針を折る、又は曲げる、又は潰す、又は切断する、又は水溶液に溶かすといった方法により、非移植針のみを穿刺不能な状態にすることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、広範囲な皮膚内への大量の細胞群を移植する効率と、皮膚に存在する毛包などの器官へのダメージ回避を両立する、細胞移植装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の細胞移植装置の一例を示す説明図である
【
図2】撮影した患部の皮膚画像の一例を示す説明図である
【
図3】本発明の細胞移植装置における画像の解析の一例を示す説明図である
【
図4】本発明の細胞移植装置における画像の解析の一例を示す説明図である
【
図5】本発明の細胞移植装置における画像の解析の一例を示す説明図である
【
図6】本発明の細胞移植装置における移植動作の一例を示す説明図である
【
図7】本発明の細胞移植装置における移植動作の一例を示す説明図である
【
図8】本発明の細胞移植装置における移植動作の一例を示す説明図である
【
図9】本発明の細胞移植装置における移植動作の一例を示す説明図である
【
図10】本発明の細胞移植装置における穿刺不能化機構の一例を示す説明図である
【
図11】本発明の細胞移植装置における穿刺不能化機構の一例を示す説明図である
【
図12】本発明の細胞移植装置における穿刺不能化機構の一例を示す説明図である
【
図13】本発明の細胞移植装置における穿刺不能化機構の一例を示す説明図である
【
図14】本発明の細胞移植装置における穿刺不能化機構の一例を示す説明図である
【
図15】本発明の細胞移植装置における穿刺不能化機構の一例を示す説明図である
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1~
図15を参照して、細胞移植装置について説明する。
[移植物]
本実施形態の細胞移植装置は、皮膚内へ移植物を移植するために用いられる。移植物は、細胞群を含む。移植の対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方である。まず、移植される対象である細胞群について説明する。
【0035】
移植対象の細胞群は、複数の細胞を含む。細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群を構成する細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官等である。
【0036】
細胞群は、対象領域に配置されることによって、生体における組織形成に作用する能力を有する。こうした細胞群の一例は、皮膚由来幹細胞を含んだ細胞凝集体である。移植対象の細胞群は、例えば、皮内または皮下に配置されることにより、発毛または育毛に寄与する。こうした細胞群は、毛包器官として機能する能力、毛包器官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。また、細胞群は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。
【0037】
具体的には、本実施形態における移植対象の細胞群の一例は、原始的な毛包器官である毛包原基である。毛包原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。毛包器官では、間葉系細胞である毛乳頭細胞が、毛包上皮幹細胞の分化を誘導し、これによって形成された毛球部にて毛母細胞が分裂を繰り返すことにより、毛が形成される。毛包原基は、こうした毛包器官に分化する細胞群である。
【0038】
毛包原基は、例えば、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。なお、移植物は、細胞群とともに、細胞群の移植を補助する部材を含んでいてもよい。
【0039】
[細胞移植装置]
図1を参照して、細胞移植装置の構成の一例を説明する。細胞移植装置100は、複数本の針11と、針11を特定の位置に支持し細胞群の収容や皮膚20への穿刺や皮膚20内への配置といった移植動作を行う機構を備えた移植ユニット10を有する細胞移植器を備える。また、移植の対象領域となる皮膚20の画像を撮影するための撮像装置14と、撮影した画像のデータを取り込み解析する解析装置15とを備え、解析した情報を表示する表示装置16を好適に備えることができる。更に、撮影した皮膚20の画像に対応して複数本の針11が移植する位置を定めるための機構を備えており、例えば移植位置補助具17と解析装置15を用いて移植する位置を定める機構とすることができる。加えて、一部の針を選択的に穿刺不能な形状に変えることができる穿刺不能化機構18を備えることもできる。
【0040】
針11と移植ユニット10からなる細胞移植器は、針先端から皮膚20へ進入する動作を伴い、細胞群を移植することができる構成であればよく、特に限定されない。例えば、針11は尖った先端側に開口を備え、1つの方向に延びる筒状を有する中空の針形状を有した形状をとることができる。このような針11形状においては移植ユニット10が針11の筒状の途中に細胞群を留める機構を備え、空気圧や機械的動作を可能とする吸引押出部12と移植動作部13とに接続されることで、細胞群を吸引し針内で収容する動作や、皮膚内へ針11が進入する動作、皮膚内へ細胞群を配置する動作ができる構成となる。このような構成の針11は金属やセラミックスや樹脂といった材料を好適に利用することができる。
【0041】
また別の針形状として、例えば、針11は、先端側に開口が無く、針先端の反対側から細胞群を収容可能な窪みを持つ構造をとることができる。このような針11形状においては、細胞群は針11の窪みに収容され、移植ユニット10は移植動作部13と接続されることで、皮膚内へ針11が進入する動作、皮膚内へ細胞群を配置する動作ができる構成とすることができる。このような構成の針11は少なくとも先端が水溶性材料や生分解性材料でできており、皮膚内へ針11が進入後、針の一部が溶解又は分解され、針11の窪みに収容された細胞群を皮膚内へ移植することができる。
【0042】
撮像装置14は画像を取得することのできるカメラを有し、必要に応じてカメラを固定する固定治具やカメラ位置を動作させる機構、画像取得やカメラ位置動作を制御する制御コンピューターと接続され、皮膚の画像を取得することができる構成となっている。撮像装置14で取得した画像データは解析装置15に移送されることとなる。
【0043】
解析装置15はコンピューターと、プログラムからなるソフトウェアとを備え、撮像装置14で撮影した画像をプログラムで指定した条件に基づき解析し、移植要領域と移植不要領域を判別して各々抽出することができる。更に、解析装置15は、撮影した画像とプログラムで指定した条件から、細胞移植器の複数の針11が各々対応して移植する位置を推測し、推測した位置を移植位置と定めて、先ほど抽出した移植要領域及び移植不要領域の位置情報との関係を、プログラムで設定した条件に基づいて比較し、移植を実施する針と、移植を実施しない針とに各針11を振り分ける。その後、解析装置15は、各針の移植実施の有無情報を、移植を制御するコンピューターなどの制御装置へ移送する。ディスプレイなどで構成される表示装置16で解析した画像を表示することで、医師はその情報に基づき施術を行うことも可能となる。
【0044】
細胞移植器の複数の針11が移植する位置を推測し移植位置を定める方法及び、移植要領域と移植不要領域の抽出方法及び、移植を実施する針と、移植を実施しない針とに各針11を振り分ける方法の一例について、
図1~
図5を参照して説明する。
【0045】
細胞移植器の複数の針11が移植する位置を推測し移植位置を定める方法としては、
図1のように移植対象となる皮膚20の表面に移植位置補助具17を設置し、撮像装置14で画像を取得する際に移植位置補助具17が入る画像を取得し、移植位置を推測し、定めるという方法がある。移植位置補助具17は、皮膚に針11が垂直に穿刺可能な決まった向きでのみ移植ユニット10を接続可能となっている。移植位置補助具17に接続された移植ユニット10の針11が皮膚20に穿刺し、移植を行う位置は、移植位置補助具17の内側の枠内で定めることが可能となる。
図2は、皮膚20と移植位置補助具17を撮影した画像の一例である。このように移植位置補助具17が画像上に映し出されていれば、あらかじめ既知な値として設定した移植位置補助具17と針11の位置関係に関する情報から、画像の中で移植位置を推測し、定めることができる。
図4は一例として移植予定位置26を定めて、皮膚20の画像との位置関係がわかるように表示したイメージ図である。このような機構により皮膚20の画像に対して各針11が対応する移植位置を定めることができる。
【0046】
細胞移植器の複数の針11が移植する位置を推測し移植位置を定める他の方法としては、例えば、事前に移植予定位置を皮膚にマーキングして、撮影した画像から移植位置を推定する方法や、皮膚の座標を示す情報をマーキングして撮影した画像から移植位置を推定する方法など、も利用することができる。尚、細胞移植器の複数の針11が移植する位置を推測し、移植位置を定める方法については記載の方法に限らず、画像と対応して、針11が移植する位置を定めることができるものであればよい。
【0047】
移植要領域と移植不要領域の抽出方法の一例を
図2、
図3を参照して説明する。
図2は皮膚20と移植位置補助具17を撮影した画像の一例である。画像には皮膚の表面であるため、表皮の角質、しわ、シミ、ほくろ、毛穴、傷、毛及び毛根などがみられる。更に既に移植が実施されて表皮が塞がっていない穿刺痕22が取り込まれ認識できる。移植位置補助具17を用いる場合には移植位置補助具17が取り込まれ認識することができる。こういった皮膚20の画像から認識できる情報を基にプログラム上で設定した条件で画像を加工、解析し移植要領域と移植不要領域を抽出する。
【0048】
具体例として、毛根23から一定距離内にある領域と、穿刺痕22から一定距離内にある領域を移植不要領域、移植位置補助具17の内側にあるその他の領域を移植要領域とした場合について述べる。毛根23と穿刺痕22その形状や色味から特徴的であるため画像から高精度にその位置を抽出することができる。
【0049】
毛根23から一定距離内にある領域を移植不要領域と設定することにより、皮膚で正常に機能している毛根に対し、針11の穿刺によるダメージを与え、毛根の正常な機能を損なう可能性を回避することができる。特に頭部の皮膚では毛根が多く存在していることから、毛根23から一定距離内にある領域を移植不要領域と設定することはより効果的である。また、頭部へ毛髪再生を目的とした細胞群の移植を行う場合、移植を行う間隔は1mm~2.3mm程度の間隔であり、移植を行う針のサイズは0.3~0.8mm程度であるため、移植後の毛髪密度や効率的な毛根23へのダメージ回避のため、移植不要領域の抽出条件が、毛根からの距離が0~1.5mm未満の範囲内の全て又は一部として設定されることがより望ましい。
【0050】
また、穿刺痕22から一定距離内にある領域を移植不要領域と設定することにより、画像で取得した領域内において既に移植を実施した位置の周辺に過剰に移植することを回避することができる。このように画像の解析からコンピューターが既に移植を実施した周辺への過剰な移植領域を抽出し回避すれば、目視により医師が位置を調整する場合よりも効率的に大量の細胞群の移植を実施することができる。また、頭部へ毛髪再生を目的とした細胞群の移植を行う場合、移植を行う間隔は1mm~2.3mm程度の間隔であり、移植を行う針のサイズは0.3mm~0.8mm程度であるため、移植後の毛髪密度や効率的な毛根23へのダメージ回避のため、移植不要領域の抽出条件が毛根からの距離が0~1.5mm未満の範囲内の全て又は一部として設定されることがより望ましい。
【0051】
図3は先ほど具体例として述べた、毛根23から一定距離内にある領域と、穿刺痕22から一定距離内にある領域を移植不要領域25、移植位置補助具17の内側にあるその他の領域を移植要領域24として抽出した画像のイメージ図を示している。
【0052】
移植を実施する針と、移植を実施しない針とに各針11を振り分ける方法について、
図4~
図5を参照して説明する。
図4は抽出した移植要領域24と移植不要領域25の位置情報と、移植予定位置26の位置情報を重ねたイメージ図である。このように、移植要領域24と移植不要領域25は、移植予定位置26と重なることとなり、その重なり面積の割合に応じて、移植を実施する針と、移植を実施しない針とに振り分けるといった設定を行う。一例として、移植予定位置26の面積の50%以上が移植不要領域に重なる針を、移植を実施しない針、移植予定位置26の面積の50%以上が移植要領域に重なる針を、移植を実施する針とするといった設定をとることもできる。
【0053】
図5に
図4において、上記条件にて振り分けた場合の、移植を実施する移植針判定27と、移植を実施しない非移植針判定28として振り分けた場合について示す。
【0054】
尚、移植要領域と移植不要領域の抽出方法及び、移植を実施する針と、移植を実施しない針とに各針11を振り分ける方法や条件についてはこの限りではなく、撮像装置14や解析装置15のプログラム、皮膚20の状態などに応じて適切な方法や条件を設定することができる。
【0055】
細胞移植装置100は、移植を実施する移植針判定27と、移植を実施しない非移植針判定28として振り分けた針に対して、移植の実施の有無を制御する機構を備えている。移植の実施の有無の制御の方法としては、移植を実施する針と移植を実施しない針とに異なる動作をさせることにより制御する方法や、同じ動作をするが、移植を実施する針と移植を実施しない針とを、それぞれ移植が実施できる状態と移植を実施できない状態に制御する方法などいつくかの方法が考えられる。いくつかの例について
図6~15を参照して説明する。尚、方法についてはこの限りではない。
【0056】
図6では、解析装置15によって得られた判定で、移植を実施する針と判定した移植針31と、移植を実施しない針と判定した非移植針32が配置されている。移植ユニット10は移植位置補助具17を介して、皮膚20に穿刺可能なようにセットされている。続いて
図7では、移植針31は皮膚20への穿刺が実施され細胞群の移植が行われるが、非移植針32は皮膚20への穿刺動作を行わないという制御がなされている。複数本の針11が個別に動作可能に組み込まれていれば、解析装置15での判定に基づきこのように移植実施の有無を制御することが可能である。
【0057】
図8では、解析装置15によって得られた判定で、移植を実施する針と判定した移植針31と、移植を実施しない針と判定した非移植針32とが配置されているが、非移植針32は移植動作を行う前に、穿刺不能化機構18により穿刺不能となっている。移植ユニット10は移植位置補助具17を介して、皮膚20に穿刺可能なようにセットされている。続いて
図9では、移植針31は皮膚20への穿刺が実施され細胞群の移植が行われるが、非移植針32は皮膚20への穿刺がされず、移植が実施されることはない。このように、解析装置15での判定に基づき、非移植針32を穿刺不能な状態とすることで、移植実施の有無を制御することが可能である。
【0058】
穿刺不能化機構18について説明する。穿刺不能化機構18は、針11の少なくとも皮膚進入側の先端が樹脂材料や、水溶性材料で構成されていれば、解析装置15によって得られた非移植針32の針のみを穿刺不能な状態に形状を変化させることができる。形状の変化方法としては、例えば、針を折る、曲げる、潰す、切断する、水溶液に溶かすという方法を好適に選択可能である。穿刺不能化機構18の一例についていくつかの例を
図10~15を参照して説明する。
【0059】
図10~
図12は、針が水溶性材料により構成されている場合の一例である。
図10に示すように、針の配置と対に配置された穴を持つ穿刺不能化用トレイ41において、非移植針32対応する穴にのみ水溶液42を入れる。続いて
図11に示すように、全ての針を穿刺不能化用トレイ41の対になる穴に入れる。この際、非移植針32に対応する穴では針が一定時間水溶液に浸されることとなる。続いて、
図12に示すように、一定時間後に引き上げると非移植針32の一部が溶けて穿刺不能な状態とすることができる。
【0060】
図13~
図15は、針が中空型の形状により構成されている場合の一例である。
図13に示すように、針の配置と対に配置された穴を持つ穿刺不能化用トレイ43において、非移植針32対応する穴にのみ穿刺不能化治具44をセットする。続いて
図12に示すように、非移植針32に対応する針のみ針中空部分に、穿刺不能化治具44の一部が入りこむようにセットする。続いて、
図15に示すように、移植ユニット10又は穿刺不能化用トレイ43を針の延びる向きに対して水平な方向に一定距離動作させることで、非移植針32の一部が折れて、穿刺不能な状態とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、皮膚内に細胞等を注入するための装置として利用できる
【符号の説明】
【0062】
10…移植ユニット、11…針、12…吸引押出部、13…移植動作部、14…撮像装置、15…解析装置、16…表示装置、17…移植位置補助具、18…穿刺不能化機構、20…移植補助部、16…表示装置、20…皮膚、21…頭部の皮膚画像、22…穿刺痕、23…毛根、24…移植要領域、25…移植不要領域、26…移植予定位置、28…移植針判定、29…非移植針判定、31…移植針、32…非移植針、41、43…穿刺不能化用トレイ、42…水溶液、44…穿刺不能化治具