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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010071
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20230113BHJP
   E04H 9/14 20060101ALI20230113BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04H9/02 351
E04H9/14 G
F16F15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113878
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】谷 翼
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AC03
2E139AC10
2E139AC26
2E139AC65
2E139AC72
2E139AD01
2E139AD04
2E139BA12
2E139BA14
2E139BA19
2E139BD12
2E139BD32
2E139BD38
3J048AA06
3J048BE01
3J048BE11
3J048DA10
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】、吹き抜け空間を有しかつ優れた制振性能を確保できる建物を提供すること。
【解決手段】建物1は、吹き抜け空間20を有する。この建物1は、吹き抜け空間20に面して配置されてかつ上下階同士を連結する複数の間柱50と、間柱50同士を連結する制振ダンパ60と、を備える。制振ダンパ60は、上下方向に複数階離れてかつかつ水平方向に所定距離だけ離れた方向に延びている。本発明によれば、地震や強風といった外力により建物1が揺れた場合、制振ダンパ60が建物1の振動を吸収するので、建物1の揺れを低減でき、優れた制振性能を確保できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹き抜け空間を有する建物であって、
前記吹き抜け空間に面して配置されてかつ上下階同士を連結する複数の間柱と、
前記間柱同士を連結する制振ダンパと、を備え、
前記制振ダンパは、上下方向に複数階離れてかつかつ水平方向に所定距離だけ離れた方向に延びていることを特徴とする建物。
【請求項2】
前記吹き抜け空間に面して配置された柱と、前記柱に接合された一対の梁と、前記一対の梁のそれぞれから吹き抜け空間に向かって突出する一対の片持ち梁と、を備え、
前記間柱は、前記一対の片持ち梁の先端部で支持されていることを特徴とする請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記吹き抜け空間に面して配置された柱と、前記柱に接合された一対の梁と、前記一対の梁から前記吹き抜け空間に向かって突出する支持部と、を備え、
前記支持部は、前記柱の両側の梁に接合される一対の片持ち梁と、前記一対の片持ち梁の先端部同士を連結する横架材と、を有しており、
前記間柱は、前記横架材の中間部で支持されていることを特徴とする請求項1に記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物内部に制振ダンパを有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物内部にダンパなどの制振装置を備えた建物がある(特許文献1~3参照)。
特許文献1には、建物内部の吹き抜け空間に揺動体が配置された建物が示されている。この揺動体の上端部は、建物の上部に固定され、その下端部は、オイルダンパを介して建物下部に連結されている。この建物では、地震や風によって建物に外力が作用し、建物に曲げ変形が生じると、オイルダンパがこの揺れを吸収する。
特許文献2には、吹き抜け部を囲む柱梁架構にダンパが設けられた制振建物が示されている。吹き抜け部には、複数階にわたって形成されてブレースが設けられている。ブレースの上部は、ダンパを介して、吹き抜け部の天井部の柱梁架構に連結されている。
特許文献3には、構造物は、鉄筋コンクリート造の中層部と、中層部の下に設けられる鉄骨造の低層部と、中層部の上に設けられる鉄骨造の高層部と、を備える。高層部には、斜めに延びる制振装置が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-261247号公報
【特許文献2】特開2018-135655号公報
【特許文献3】特開2019-100156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、吹き抜け空間を有しかつ優れた制振性能を確保できる建物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、吹き抜け空間を有する建物として、吹き抜け空間に面して上下階同士を連結する間柱を設け、さらに、間柱同士の間に複数階を跨ぐように斜め方向に制振ダンパを設置することで、居室空間を狭めることなく、建物の複数階の間で生じた変形による振動エネルギーを制振ダンパで吸収して、高い制振性能が確保可能となる点に着眼して、本発明に至った。
第1の発明の建物(例えば、後述の建物1)は、吹き抜け空間(例えば、後述の吹き抜け空間20)を有する建物であって、前記吹き抜け空間に面して配置されてかつ上下階同士を連結する複数の間柱(例えば、後述の間柱50)と、前記間柱同士を連結する制振ダンパ(例えば、後述の制振ダンパ60)と、を備え、前記制振ダンパは、上下方向に複数階離れてかつかつ水平方向に所定距離だけ離れた方向に延びていることを特徴とする。
【0006】
ここで、制振ダンパは、粘性ダンパ、粘弾性体ダンパ、摩擦ダンパのうち、一つ以上を含んで構成される。また、吹き抜け空間には、立体駐車場やエレベータシャフトが含まれる。
この発明によれば、吹き抜け空間に面して複数階を跨ぐように斜め方向に制振ダンパを配置した。よって、地震や強風といった外力により建物が揺れた場合、制振ダンパが建物の振動を吸収するので、建物の揺れを低減でき、優れた制振性能を確保できる。
【0007】
第2の発明の建物は、前記吹き抜け空間に面して配置された柱(例えば、後述の柱10A)と、前記柱に接合された一対の梁(例えば、後述の梁11A)と、前記一対の梁のそれぞれから吹き抜け空間に向かって突出する一対の片持ち梁(例えば、後述の片持ち梁41)と、を備え、前記間柱は、前記一対の片持ち梁の先端部で支持されていることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、梁から延びる一対の片持ち梁の先端部で間柱を支持したので、柱、大梁、および片持ち梁が一体となって建物の変形に抵抗するから、建物の揺れを低減できる。
また、高層の鉄筋コンクリート造建物では、柱に大きな荷重がかかるため、柱に高強度コンクリートを使用することが多い。そのため、柱にあと施工アンカーを打設して片持ち梁を取り付けることができない。本発明では、梁に片持ち梁を設けるので、高層の鉄筋コンクリート造建物に対して、あと施工で間柱や制振ダンパを取り付けることができる。
【0009】
第3の発明の建物は、前記吹き抜け空間に面して配置された柱(例えば、後述の柱10A)と、前記柱に接合された一対の梁(例えば、後述の梁11A)と、前記一対の梁から前記吹き抜け空間に向かって突出する支持部(例えば、後述の支持部70)と、を備え、前記支持部は、前記柱の両側の梁に接合される一対の片持ち梁(例えば、後述の片持ち梁71)と、前記一対の片持ち梁の先端部同士を連結する横架材(例えば、後述の横架材72)と、を有しており、前記間柱は、前記横架材の中間部で支持されていることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、梁から延びる一対の片持ち梁の先端部で間柱を支持したので、柱、大梁、片持ち梁、および横架材が一体となって建物の変形に抵抗するから、建物の揺れを低減できる。
また、高層の鉄筋コンクリート造建物では、柱に大きな荷重がかかるため、柱に高強度コンクリートを使用することが多い。そのため、柱にあと施工アンカーを打設して片持ち梁を取り付けることができない。本発明では、梁に片持ち梁を設けるので、高層の鉄筋コンクリート造建物に対して、あと施工で間柱や制振ダンパを取り付けることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吹き抜け空間を有しかつ優れた制振性能を確保できる建物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施形態に係る建物の平面図である。
図2図1の建物のA-A断面図である。
図3】第1実施形態に係る支持部の模式的な平面図である。
図4】第1実施形態に係る支持部の構造を示す模式的な側面図である。
図5】第1実施形態に係る建物に水平力が作用した場合の挙動を示す図である。
図6】建物の三次元モデルの縦断面図である。
図7】建物の地震時の挙動をシミュレーションした結果を示す図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る支持部の模式的な平面図である。
図9】本発明の変形例に係る建物の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、吹き抜け空間に面して上下階同士を連結する間柱を設け、さらに、間柱同士の間に複数階を跨ぐように斜め方向に制振ダンパを設けた建物である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の実施形態の説明にあたって、同一構成要件については同一符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る建物1の平面図である。図2は、図1の建物1のA-A断面図である。図3は、建物1の支持部40の模式的な平面図である。
建物1は、鉄筋コンクリート造の超高層マンションであり、柱10、梁11、床スラブ12を備える。平面視で、この建物1の内部の中央部には、矩形状の吹き抜け空間20が設けられている。すなわち、平面視で、建物1の躯体は、ロの字形状であり、吹き抜け空間20を四方から囲んでいる。この吹き抜け空間20に面する構造部材である柱および梁を、それぞれ、柱10A、梁11Aとする。
この吹き抜け空間20を囲んで矩形枠状の床スラブ12からなる共用廊下30が設けられている。共用廊下30は、4つの直線廊下31、32、33、34で構成されている。直線廊下31、33は、それぞれ、隣り合う2つの支持部40で支持されている。直線廊下31を支持する支持部40と、直線廊下33を支持する支持部40とは、互いに対向している。
【0014】
支持部40は、それぞれ、平面視で略V字形状であり、柱10Aの両側の一対の梁11Aのそれぞれから吹き抜け空間20に向かって突出する一対の鉄骨造の片持ち梁41で構成されている。この一対の片持ち梁41の先端部同士は接合されている。
上下に位置する支持部40同士の間には、鉄骨造の間柱50が設けられている。具体的には、間柱50は、支持部40を構成する片持ち梁41の先端部同士の接合部に設けられている。よって、これら間柱50は、吹き抜け空間20に面していることになる。
図4に示すように、鉄骨造の間柱50と支持部40を構成する鉄骨造の片持ち梁41とは、剛接合であり、支持部40を構成する鉄骨造の片持ち梁41と鉄筋コンクリート造の梁11Aとは、ピン接合である。これにより、地震や強風により建物1に外力が作用すると、上下に連続する間柱50およびこれら間柱50に剛接合された上下の複数の支持部40が、一体となって抵抗する。
【0015】
図1および図2に示すように、上下に3層離れてかつ隣り合う支持部40同士の間には、制振ダンパ60が設けられている。また、上下に3層離れてかつ互いに対向する支持部40同士の間にも、制振ダンパ60が設けられている。例えば、支持部40と間柱50との接合部Pと、この接合部から離れた支持部40と間柱50との接合部Q、Rと、の間には、制振ダンパ60が設けられている。
制振ダンパ60は、粘性ダンパであり、軸方向の振動を吸収するものである。建物1に水平力が加わっていない状態では、この制振ダンパ60の長さはLとなっている。なお、図6に示すように、間柱50および制振ダンパ60は、建物1の1階部分に必ずしも設置する必要はなく、建物1の中間階に設置できればよい。
図5に示すように、地震や強風により建物1に矢印方向の水平力が加わると、建物1が変形して、制振ダンパ60Aは、引張力が作用して伸びて長さLとなり、制振ダンパ60Bは、圧縮力が作用して縮んで長さLとなる。
【0016】
上述の建物1の三次元モデルMに対して地震時の挙動をシミュレーションした。
この三次元モデルMは、平面視で図1のような構造であり、縦断面視で図6のような構造である。
具体的には、支持部の各片持ち梁を、H-600×300×16×32の鉄骨部材(H形鋼)とし、この片持ち梁の剛性Kbを、1.36e5N/mmとした。2本の片持ち梁で支持部を構成するので、支持部の剛性Kbは、2.72e5N/mmとなる。また、間柱を、○-500×32×3000の鉄骨部材とし、この間柱の剛性Kcを、3.22e6N/mmとした。つまり、間柱の剛性を片持ち梁の剛性の約10倍以上とした。このように、高剛性の間柱で各階の片持ち梁を連結したので、各階の片持ち梁が負担する応力は、概ね等しくなる。
【0017】
また、制振ダンパは、3層置きに架け渡して、この制振ダンパの最大減衰力を150tまたは200tとした。また、入力する地震動は、巨大地震を想定して、国土交通省にて示された設計用長周期地震動(「基整促波のOS2」)を用いた。その結果、図7に示すように、建物に制振ダンパおよび間柱を設けない場合には、建物下層階にて最大層間変形角が1/100を大幅に超えたが、建物に本発明の制振ダンパおよび間柱を設けた場合には、建物の全ての階において最大層間変形角が1/100を下回った。よって、本発明の制振ダンパおよび間柱を設けることにより、最大層間変形角を大幅に抑制できることが判った。
【0018】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)吹き抜け空間20に面して複数階を跨ぐように斜め方向に制振ダンパ60を配置した。よって。地震や強風といった外力により建物1が揺れた場合、各階に制振ダンパを設置し、制振ダンパで各階の相対変位を吸収するのではなく、複数階を跨ぐように制振ダンパ60を設置し、この制振ダンパ60で複数階の間で生じる相対変位を吸収することで、建物1の揺れを効率良く低減できる。よって、優れた制振性能を確保できる。また、制振ダンパ60を各階に設置しないので、制振ダンパ60の設置数を低減できる。
【0019】
(2)吹き抜け空間20に面する間柱50で上下階の支持部40同士を連結し、さらに、間柱50同士の間に複数階を跨ぐように制振ダンパ60を配置した。よって、建物1の揺れは、制振ダンパ60が設置された当該階のみではく、間柱50を介して、当該階を含む上下階の構造体にも伝達されるから、高い耐震性能を確保できる。
(3)梁11Aから延びる一対の片持ち梁41の先端部で間柱50を支持したので、柱10A、大梁11A、および片持ち梁41が一体となって建物1の変形に抵抗するから、建物1の揺れを低減できる。
また、梁11Aに片持ち梁41を設けるので、高層の鉄筋コンクリート造建物に対して、あと施工で間柱50や制振ダンパ60を取り付けることができる。
【0020】
〔第2実施形態〕
図8は、本発明の第2実施形態に係る支持部70の模式的な平面図である。
本実施形態では、支持部70の構造が第1実施形態と異なる。すなわち、支持部70は、鉄骨造であり、柱10Aの両側の梁11Aに接合される一対の片持ち梁71と、一対の片持ち梁71の先端部同士を連結する横架材72と、を備えている。間柱50は、横架材72の中央部で支持されている。
本実施形態によれば、上述の(1)~(3)に加えて、以下のような効果がある。
(4)支持部70を構成する片持ち梁71および横架材72を鉄骨造としたので、支持部70にひびわれが発生することはなく、片持ち梁71および横架材72を容易にボルト接合できる。また、片持ち梁71および横架材72の交換も比較的容易に行うことができる。
【0021】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、上述の各実施形態では、直線廊下31、33に2つずつ支持部40を設け、これら支持部40同士の間に制振ダンパ60を設けたが、これに限らず、図9に示すように、直線廊下31~34のそれぞれに1つずつ支持部40を設け、互いに対向する支持部40同士の間に制振ダンパ60を設けてもよい。
また、上述の各実施形態では、平面視で、建物1の躯体をロの字形状とし、吹き抜け空間20を四方から囲む構成としたが、これに限らず、平面視で、建物の躯体をコの字形状とし、吹き抜け空間を三方から囲む構成としてもよい。
また、上述の各実施形態では、制振ダンパ60の端部を支持部40と間柱50との接合部に接合したが、これに限らず、制振ダンパの端部を間柱の中間高さ位置に接合してもよい。
【符号の説明】
【0022】
1、1A…建物 10…柱 10A…吹き抜け空間に面する柱
11…梁 11A…吹き抜け空間に面する梁 12…床スラブ
20…吹き抜け空間 30…共用廊下 31、32、33、34…直線廊下
40…支持部 41…片持ち梁 50…間柱 60、60A、60B…制振ダンパ
70…支持部 71…片持ち梁 72…横架材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9