(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023101911
(43)【公開日】2023-07-24
(54)【発明の名称】木質基材、化粧材および木質基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B27M 3/00 20060101AFI20230714BHJP
B27K 5/00 20060101ALI20230714BHJP
B27N 3/02 20060101ALI20230714BHJP
B27D 5/00 20060101ALN20230714BHJP
【FI】
B27M3/00 N
B27K5/00 E
B27N3/02 B
B27N3/02 D
B27D5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022002146
(22)【出願日】2022-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】大久保 透
【テーマコード(参考)】
2B002
2B230
2B250
2B260
【Fターム(参考)】
2B002AA04
2B230AA08
2B230AA22
2B230AA30
2B230BA05
2B230CB06
2B250AA06
2B250BA03
2B250BA09
2B250CA11
2B250DA04
2B250EA02
2B260AA03
2B260AA11
2B260BA02
2B260BA05
2B260BA18
2B260CB01
2B260CB04
2B260CD02
2B260DB21
(57)【要約】
【課題】ホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質の放散を抑制し、且つ実用的な機械強度と耐水性とを備えた木質基材、その木質基材を備えた化粧材およびその木質基材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る木質基材20は、粉体状およびチップ状の少なくとも一方の形状を有する木質材料11と、熱可塑性樹脂組成物12と、有機多塩基酸および多価アルコールと、を含み、有機多塩基酸と多価アルコールとの質量比(有機多塩基酸の質量/多価アルコールの質量)が、50/50~90/10であり、有機多塩基酸と多価アルコールとの合計含有量が、木質材料11と熱可塑性樹脂組成物12との合計質量100質量部に対して、2質量部以上10質量部以下の範囲内である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体状およびチップ状の少なくとも一方の形状を有する木質材料と、熱可塑性樹脂組成物と、有機多塩基酸および多価アルコールと、を含む木質基材であって、
前記有機多塩基酸と前記多価アルコールとの質量比(有機多塩基酸の質量/多価アルコールの質量)が、50/50~90/10であり、
前記有機多塩基酸と前記多価アルコールとの合計含有量が、前記木質材料と前記熱可塑性樹脂組成物との合計質量100質量部に対して、2質量部以上10質量部以下の範囲内であることを特徴とする木質基材。
【請求項2】
前記有機多塩基酸が、三価の多塩基酸および不飽和結合を有する多塩基酸の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の木質基材。
【請求項3】
前記多価アルコールが、三価以上の多価アルコールを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の木質基材。
【請求項4】
前記木質材料と前記熱可塑性樹脂組成物との合計質量100質量部に対して、0.1質量部以上3質量部以下の範囲内で有機過酸化物を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の木質基材。
【請求項5】
前記木質材料が、菌床を原料に含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の木質基材。
【請求項6】
粉体状およびチップ状の少なくとも一方の形状を有する木質材料と、熱可塑性樹脂組成物と、有機多塩基酸および多価アルコールと、を含む木質基材を用いた化粧材であって、
前記有機多塩基酸と前記多価アルコールとの質量比(有機多塩基酸の質量/多価アルコールの質量)が、50/50~90/10であり、
前記有機多塩基酸と前記多価アルコールとの合計含有量が、前記木質材料と前記熱可塑性樹脂組成物との合計質量100質量部に対して、2質量部以上10質量部以下の範囲内であり、
前記木質基材に、意匠性を有する意匠層が積層されてなることを特徴とする化粧材。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の木質基材の製造方法であって、
前記木質材料と、粉体状の前記熱可塑性樹脂組成物との混合物に、前記有機多塩基酸および前記多価アルコールを含む溶液を混合して、原料混合物を作成する工程を含むことを特徴とする木質基材の製造方法。
【請求項8】
前記原料混合物を作成する工程後、前記原料混合物を加熱加圧して木質基材を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の木質基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質基材、化粧材および木質基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木質基材とは、木粉、木質チップ、木質繊維などの木質材料を接着剤と混合したものを加熱加圧成形して得られる基材である。この木質基材は、木質材料の種類などによりパーティクルボードや中密度繊維板などと称され、床や壁などの下地材、建具や家具など幅広い用途で使用されている。
木質基材の接着剤としては、通常、尿素樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤が、ホルムアルデヒドを含む硬化剤とともに用いられる。ホルムアルデヒドはシックハウス症候群の原因となる有害物質であるため、木質基材からの放散が問題となり、放散量低減のための各種施策が検討されている。しかしながら、従来技術では、ホルムアルデヒドの放散を完全に抑制することは困難であった。
【0003】
これに対し、従来、ホルムアルデヒドを含まない接着剤として、粉体の糖類と粉体のポリカルボン酸とを主成分とする接着剤を用い、これを植物繊維と混合し加熱加圧成形することで繊維ボードを製造する方法が提案されていた(特許文献1の段落[0017]参照)。また、従来、ホルムアルデヒドを含まない接着剤として、ポリビニルアルコールと水とからなる接着剤を用いた木質基材を含む積層体の製造方法が提案されていた(特許文献2の段落[0017]、および
図1参照)。
しかし、上記した従来の接着剤を用いた木質基材は、曲げ強度などの機械特性や耐水性が実用上十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-55620号公報
【特許文献2】特許第5553279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上記従来の課題を鑑みてなされたものであり、ホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質の放散を抑制し、且つ実用的な機械強度と耐水性とを備えた木質基材、化粧材および木質基材の製造方法を提供することを課題とする。
発明者は上記した課題を解決すべく鋭意検討した結果、木質材料と熱可塑性樹脂組成物との粉体混合物とを加熱加圧して形成する木質基材において、粉体混合物に有機多塩基酸と多価アルコールとを含有させることで、上記した課題が解決することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る木質基材は、粉体状およびチップ状の少なくとも一方の形状を有する木質材料と、熱可塑性樹脂組成物と、有機多塩基酸および多価アルコールと、を含む木質基材であって、前記有機多塩基酸と前記多価アルコールとの質量比(有機多塩基酸の質量/多価アルコールの質量)が、50/50~90/10であり、前記有機多塩基酸と前記多価アルコールとの合計含有量が、前記木質材料と前記熱可塑性樹脂組成物との合計質量100質量部に対して、2質量部以上10質量部以下の範囲内であることを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る化粧材は、上述した木質基材に、意匠性を有する意匠層が積層されてなることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係る木質基材の製造方法は、上述した木質基材の製造方法であって、前記木質材料と、粉体状の前記熱可塑性樹脂組成物との混合物に、前記有機多塩基酸および前記多価アルコールを含む溶液を混合して、原料混合物を作成する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、ホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質の放散を抑制し、且つ実用的な機械強度と耐水性とを備えた木質基材、その木質基材を備えた化粧材およびその木質基材の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る木質基材の製造工程を説明するための模式図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係る化粧材の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
図1には、本発明の第1実施形態に係る木質基材20が示されている。木質基材20は、木質材料11の種類などによりパーティクルボードや中密度繊維板などと称され、床や壁などの下地材、建具や家具など幅広い用途で使用されている。
木質基材20は、
図1に示すように、粉体状およびチップ状の少なくとも一方の形状を有する木質材料11と、粉体状の熱可塑性樹脂組成物12と、有機多塩基酸および多価アルコールと、を含む原料混合物10を加熱加圧して形成される。なお、木質基材20には、ホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質は含まれていない。よって、木質基材20内部からのホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質の放散を抑制することができる。
以下、木質基材20を構成する木質材料11と、熱可塑性樹脂組成物12と、有機多塩基酸および多価アルコールとについて説明する。
【0012】
(木質材料11)
木質材料11は、粉体状およびチップ状の少なくとも一方の形状を有するものである。ここで、「粉体状」、「チップ状」には、サイズや形状の定義は一般に存在しない。本実施形態では、そのサイズ(平均粒径)が概ね数十ミクロン~数センチメートルの範囲にあるものをいう。本実施形態における木質材料11の平均粒径は、例えば、100μm以上20mm以下の範囲内である。
【0013】
木質材料11は、例えば、木粉、木質繊維、木材をチップ状に破砕したものが挙げられ、その原料としては、例えば、間伐材、オガ粉、廃木材などを用いることができる。
また、木質材料11は、木材以外でも、例えば、竹、麻、ヤシ繊維、クルミ殻など、木材と同様にセルロース成分を含むものであれば、その候補とすることができる。
【0014】
木質材料11の原料としては、例えば、キノコ栽培時に大量に発生する使用済み菌床が好適である。菌床は、キノコ栽培に用いる培地であり、木材チップやオガ粉にフスマや米ぬかなどの栄養分を混ぜたものである。菌床は、キノコ栽培後の国内で年間30万トン前後が廃棄されていると推定されバイオマスとして有望であるが、リサイクルが進んでいないのが現状である。
本実施形態において、菌床を木質材料11として使用する場合には、木質材料11全体の体積に占める菌床の割合は、1%以上100%以下の範囲内であればよく、好ましくは、50%以上100%以下の範囲内である。菌床の含有量が上記数値範囲内であれば、製造コストを通常の木質チップを用いた場合と比較して低減することができる。
【0015】
(熱可塑性樹脂組成物12)
原料混合物10には、一種類以上の熱可塑性樹脂組成物12が用いられる。また熱可塑性樹脂組成物12は、一種類以上の熱可塑性樹脂を含有する。また、熱可塑性樹脂組成物12の形状は、例えば粉体状である。
【0016】
熱可塑性樹脂は、例えば、ポリエスエル、ポリアミド、ポリオレフィン、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、エチレンビニルアセテート、シリコーンゴムなど各種用いることができるが、木質基材20の機械強度と耐水性との点でポリオレフィンが好適であり、その中でもポリエチレンが好適である。
【0017】
ポリエチレン樹脂は、特に限定されるものでなく、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなど既存の材料から、原料混合物10の流動性などを考慮し適宜選択して用いられる。
【0018】
また、熱可塑性樹脂組成物12は、上述したポリエチレン等の熱可塑性樹脂以外に、他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。他の熱可塑性樹脂は、木質材料11の熱可塑性樹脂(ポリエチレン等)に対する接着性を向上させるため、酸性の官能基を含む樹脂(即ち、酸含有樹脂)でも良い。酸含有樹脂としては、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレンや無水マレイン酸ポリプロレン等、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、および無水イタコン酸変性ポリエチレン等を用いることができる。
【0019】
(有機多塩基酸および多価アルコール)
有機多塩基酸と多価アルコールは、原料混合物10の加熱加圧時に、有機多塩基酸のカルボキシル基と、多価アルコールや木質材料11が含有する水酸基との脱水縮合により、木質基材20の耐水性や強度を向上させるために用いられる。なお、有機多塩基酸は無水物も同様に用いることができる。
【0020】
<有機多塩基酸(および無水物)>
本実施形態に好適な有機多塩基酸(および無水物)としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クエン酸、アニコット酸、イタコン酸、無水イタコン酸、などが挙げられるが、これらのうち三価の多塩基酸と、不飽和結合を有する多塩基酸が特に好ましい。
【0021】
三価の多塩基酸と不飽和結合を有する多塩基酸は、単独でも用いられるが、併用することで単独使用と比較し基材物性の大きな向上が得られることがある。
【0022】
三価の多塩基酸としては、クエン酸、アニコット酸、イタコン酸、無水イタコン酸などが挙げられるが、汎用性の点でクエン酸が特に好ましい。
また、不飽和結合を有する多塩基酸は、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、アニコット酸、イタコン酸、無水イタコン酸などが挙げられるが、汎用性と安全性の点でマレイン酸が特に好ましい。
【0023】
<多価アルコール>
本実施形態において好適な多価アルコールは、三価以上の多価アルコールである。
本実施形態に好適な多価アルコールとしては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、などが挙げられるが、汎用性と安全性の点でプロピレングリコール、グリセリンが好ましく、特に木質基材20の強度と耐水性との向上効果が大きいグリセリンが好ましい。
【0024】
本実施形態における有機多塩基酸と多価アルコールとの質量比(有機多塩基酸の質量/多価アルコールの質量)は、50/50~90/10である。質量比がこの範囲から外れると、木質基材20の強度や耐水性が低下する場合がある。
なお、本実施形態における有機多塩基酸と多価アルコールとの質量比(有機多塩基酸の質量/多価アルコールの質量)が、60/40~80/20であれば好ましく、65/35~75/25であればさらに好ましい。
【0025】
また、本実施形態における有機多塩基酸と多価アルコールとの合計含有量は、木質材料11と熱可塑性樹脂組成物12との合計質量100質量部に対して、2質量部以上10質量部以下の範囲内である。有機多塩基酸と多価アルコールとの合計含有量が2質量部に満たないと耐水性の低下が生じる場合があり、有機多塩基酸と多価アルコールとの合計含有量が10質量部を超えると強度低下が生じる場合がある。
なお、本実施形態における有機多塩基酸と多価アルコールとの合計含有量が、4質量部以上8質量部以下の範囲内であれば好ましく、5質量部以上6質量部以下の範囲内であればさらに好ましい。
【0026】
また、有機多塩基酸と多価アルコールは、通常は水溶液として原料混合物10に配合される。有機多塩基酸と多価アルコールとを含む水溶液は粘着性を有するため、原料混合物10中で木質材料11に熱可塑性樹脂組成物12が有機多塩基酸と多価アルコールとを介して付着し、その結果、均一に混合した原料混合物10が得られ、木質基材20の耐水性や強度が向上する。
【0027】
原料混合物10および熱可塑性樹脂組成物12は、木質基材20の性能向上のため有機過酸化物を配合してもよい。つまり、有機過酸化物は、熱可塑性樹脂組成物12中に配合されていてもよいし、熱可塑性樹脂組成物12中に配合されていない場合であっても原料混合物10中に配合されていればよい。有機過酸化物により木質基材20の加熱加圧時に熱可塑性樹脂の架橋や有機多塩基酸の熱可塑性樹脂へのグラフトが生じることで、木質基材20の強度や耐水性が向上する。
【0028】
有機過酸化物としては例えば、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル等の既存材料から、反応性や安定性を考慮し、適宜選択して用いられる。
【0029】
有機過酸化物の、木質材料11と熱可塑性樹脂組成物12との合計質量100質量部に対する配合量は0.1質量部以上3質量部以下の範囲内である。なお、有機過酸化物の配合量は、0.3質量部以上2質量部以下の範囲内であれば好ましく、0.8質量部以上1.5質量部以下の範囲内であればより好ましい。有機過酸化物の配合量が上記範囲より小さいと基材性能の効果が発現せず、上記範囲より大きいと基材性能が低下する。
【0030】
熱可塑性樹脂組成物12のうち複数成分を含むものは、各種公知の方法で作製することが可能であり、例えば、一軸混錬機やバッチ式混錬機を用い、熱可塑性樹脂とその他の原料を加熱混錬後、機械的粉砕や凍結粉砕等の方法で粉体化することで作製できる。
【0031】
木質材料11と熱可塑性樹脂組成物12との質量比(木質材料/熱可塑性樹脂組成物)は、95/5~65/35の範囲が好ましい。木質材料11の含有量が、上記範囲より大きくなると、木質基材20に十分な強度を付与することができない。一方、木質材料11の含有量が上記範囲より小さいと、原料混合物10が均一に混合された状態にならず、木質基材20の強度や耐水性が低下する場合がある。
なお、木質材料11と熱可塑性樹脂組成物12との質量比(木質材料/熱可塑性樹脂組成物)は、90/10~70/30の範囲であれば好ましく、85/15~75/25の範囲であればより好ましい。
【0032】
(原料混合物10の作製)
原料混合物10の作製工程では、本実施形態で用いる原料混合物10を得るために、木質材料11と熱可塑性樹脂組成物12とを混合したものに、有機多塩基酸と多価アルコールとを含む水溶液を添加し混合することが好ましい。例えば、木質材料11と熱可塑性樹脂組成物12とを攪拌しながら、上記水溶液を噴霧器などで添加することで原料混合物10を得ることができる。
【0033】
(原料混合物10の加熱加圧による木質基材20の製造方法)
原料混合物10の加熱加圧は各種公知の方法を用いることができるが、枠型を用いたプレス成型が好適である。
原料混合物10の加熱温度は、原料混合物10(熱可塑性樹脂組成物12)に含まれる熱可塑性樹脂の融点以上であることが必要であり、通常120℃~250℃である。加熱温度が250℃を超えると、木質材料11の熱劣化が顕著に生じる。
また、原料混合物10の加圧圧力は、通常は10kgf/cm2~200kgf/cm2であり、所望する木質基材20の密度により適宜設定した値を用いる。
木質基材20の密度や形状は、用途に応じて適宜決定される。木質基材20の密度は、0.5g/cc~1.2g/ccが好ましく、更に0.6g/cc~1.1g/ccが好ましい。木質基材20の密度が上記数値の範囲内であれば、木質基材20全体の機械強度がさらに向上する。さらに、木質基材20の密度が上記数値の範囲内であれば、木質基材20全体に含まれる細孔容量が少なくなるため、耐熱性や耐寒性も向上する。
【0034】
[第2実施形態]
図2を用いて第2実施形態について説明する。
第2実施形態は、先に
図1を用いて説明した第1実施形態に係る木質基材20に、意匠性を有する意匠層31を積層した化粧材30である。
本実施形態によれば、木質基材20に意匠層31を積層することで、意匠性を付与することができる。
すなわち、木質基材20は、基材単独でも化粧材として実用に供することができるが、木質基材20にさらに優れた意匠性を付与するため、
図2に示すように絵柄などの意匠が付与された紙やフィルムなどの意匠層31を木質基材20に積層して化粧材30としてもよい。
【0035】
[本実施形態の効果]
本実施形態に係る木質基材20は、粉体状およびチップ状の少なくとも一方の形状を有する木質材料11と、熱可塑性樹脂組成物12と、有機多塩基酸および多価アルコールと、を含み、有機多塩基酸と多価アルコールとの質量比(有機多塩基酸の質量/多価アルコールの質量)が50/50~90/10であり、有機多塩基酸と多価アルコールとの合計含有量が、木質材料11と熱可塑性樹脂組成物12との合計質量100質量部に対して、2質量部以上10質量部以下の範囲内である。
このような構成であれば、木質基材20は、ホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質を含有していないため、ホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質の放散を抑制することができる。また、木質基材20は特定量の有機多塩基酸と多価アルコールとを含んでいるため、その有機多塩基酸と多価アルコールとの反応に起因して木質基材20に優れた耐水性と機械強度を付与することができる。
【0036】
また、本実施形態の有機多塩基酸は、三価の多塩基酸および不飽和結合を有する多塩基酸の少なくとも一つを含んでいてもよい。
このような構成であれば、有機多塩基酸と多価アルコールとの反応性がさらに高まり、木質基材20に優れた耐水性と機械強度を付与することができる。
【0037】
また、本実施形態の多価アルコールは、三価以上の多価アルコールを含んでいてもよい。
このような構成であれば、有機多塩基酸と多価アルコールとの架橋密度がさらに高まり、木質基材20に優れた耐水性と機械強度を付与することができる。
【0038】
また、本実施形態の木質材料11と熱可塑性樹脂組成物12との合計質量100質量部に対して、0.1質量部以上3質量部以下の範囲内で有機過酸化物を含んでいてもよい。
このような構成であれば、木質基材20の加熱加圧時に熱可塑性樹脂の架橋や有機多塩基酸の熱可塑性樹脂へのグラフトが生じるため、木質基材20の強度や耐水性を向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態の木質材料11は、菌床を原料に含んでいてもよい。
このような構成であれば、環境に配慮した木質材料11を製造することができる。
【0040】
また、本実施形態の化粧材30は、木質基材20に意匠層31を積層させたものであってもよい。
このような構成であれば、木質基材20の意匠性を高めることができる。
【0041】
また、本実施形態の化粧材30は、粉体状およびチップ状の少なくとも一方の形状を有する木質材料11と、熱可塑性樹脂組成物12と、有機多塩基酸および多価アルコールと、を含む木質基材20を用い、有機多塩基酸と多価アルコールとの質量比(有機多塩基酸の質量/多価アルコールの質量)が、50/50~90/10であり、有機多塩基酸と多価アルコールとの合計含有量が、木質材料11と熱可塑性樹脂組成物12との合計質量100質量部に対して、2質量部以上10質量部以下の範囲内であり、木質基材20に、意匠性を有する意匠層が積層されたものである。
このような構成であれば、化粧材30は、ホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質を含有していないため、ホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質の放散を抑制することができる。また、化粧材30を構成する木質基材20は特定量の有機多塩基酸と多価アルコールとを含んでいるため、その有機多塩基酸と多価アルコールとの反応に起因して木質基材20に優れた耐水性と機械強度を付与することができる。
【0042】
また、本実施形態の木質基材20の製造方法は、粉体状およびチップ状の少なくとも一方の形状を有する木質材料11と、粉体状の熱可塑性樹脂組成物12との混合物に、有機多塩基酸および多価アルコールを含む溶液を混合して、原料混合物10を作成する工程を含んでいる。
また、本実施形態の木質基材20の製造方法は、原料混合物10を作成する工程後、原料混合物10を加熱加圧して木質基材20を形成する工程をさらに含んでいてもよい。
このような構成であれば、製造された木質基材20は、ホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質を含有していないため、ホルムアルデヒド等のシックハウス症候群の原因となる有害物質の放散を抑制することができる。また、製造された木質基材20は特定量の有機多塩基酸と多価アルコールとを含んでいるため、その有機多塩基酸と多価アルコールとの反応に起因して木質基材20に優れた耐水性と機械強度を付与することができる。
【0043】
[実施例]
以下に、本発明の第1実施形態に係る木質基材の実施例1~11および比較例1~4について説明する。なお、本発明は、下記の実施例1~11に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
実施例1においては、熱可塑性樹脂組成物は、高密度ポリエチレン粉末(密度0.952g/cm3)をそのまま用いた。
有機多塩基酸にはクエン酸(以下「CA」)を、多価アルコールにはプロピレングリコール(以下「PG」)をそれぞれ用い、質量比(CA/PG)=80/20、CAおよびPGの合計濃度が60%になるように、CAおよびPGを純水に溶解することで、酸アルコール水溶液を調整した。
木質材料は、キノコ収穫後の菌床を洗浄後に乾燥した材料を用いた。
木質材料と熱可塑性樹脂組成物をミキサーで攪拌しながら、上述の酸アルコール水溶液をエアスプレーで噴霧し、さらに攪拌を続け、以下の比率(質量部)の原料混合物を得た。
木質材料/熱可塑性樹脂組成物/酸アルコール=90/10/5(不揮発成分比)
【0045】
この原料混合物をアルミ製の型枠に導入し、熱プレス装置で加熱加圧することで、密度が0.7g/ccである実施例1の木質基材を得た(プレス条件:30kgf/cm2、210℃10分間、基材材厚:10mm)。
【0046】
(実施例2)
実施例2においては、実施例1のクエン酸とプロピレングリコールとの質量比を、CA/PG=60/40とし、それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例2の木質基材を得た。
【0047】
(実施例3)
実施例3においては、実施例1のクエン酸をマレイン酸(以下「MA」)に置き換え、マレイン酸とプロピレングリコールとの質量比を、MA/PG=80/20とし、それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例3の木質基材を得た。
【0048】
(実施例4)
実施例4においては、実施例3のマレイン酸とプロピレングリコールとの質量比を、MA/PG=60/40とし、それ以外は実施例3と同様の方法で、実施例4の木質基材を得た。
【0049】
(実施例5)
実施例5においては、実施例1のクエン酸(CA)の一部をマレイン酸(MA)に置き換え、CA/MA/PG=40/40/20の質量比とし(有機多塩基酸/多価アルコール=80/20)、それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例5の木質基材を得た。
【0050】
(実施例6)
実施例6においては、実施例5のプロピレングリコール(PG)をグリセリン(以下G)に置き換え、CA/MA/G=40/40/20の質量比とし、それ以外は実施例5と同様の方法で、実施例6の木質基材を得た。
【0051】
(実施例7)
実施例7においては、実施例6の(木質材料/熱可塑性樹脂組成物/酸アルコール)の質量比を、90/10/3とし、それ以外は実施例6と同様の方法で、実施例7の木質基材を得た。
【0052】
(実施例8)
実施例8においては、実施例6の(木質材料/熱可塑性樹脂組成物/酸アルコール)の質量比を、90/10/8とし、それ以外は実施例6と同様の方法で、実施例8の木質基材を得た。
【0053】
(実施例9)
実施例9においては、実施例6の原料混合物に有機過酸化物(パーブチルP(日油株式会社製);0.1質量部)を配合し、それ以外は実施例6と同様の方法で、実施例9の木質基材を得た。
【0054】
(実施例10)
実施例10においては、実施例6の原料混合物に有機過酸化物(パーブチルP(日油株式会社製);1質量部)を配合し、それ以外は実施例6と同様の方法で、実施例10の木質基材を得た。
【0055】
(実施例11)
実施例11においては、実施例10の有機過酸化物の配合量を3質量部とし、それ以外は実施例10と同様の方法で、実施例11の木質基材を得た。
【0056】
(比較例1)
比較例1においては、実施例6の有機多塩基酸と多価アルコールの質量比を、CA/MA/G=48/48/4とし(有機多塩基酸/多価アルコール=96/4)、それ以外は実施例6と同様の方法で、比較例1の木質基材を得た。
【0057】
(比較例2)
比較例2においては、実施例6の有機多塩基酸と多価アルコールの質量部を、CA/MA/G=20/20/60とし(有機多塩基酸/多価アルコール=40/60)、それ以外は実施例6と同様の方法で、比較例2の木質基材を得た。
【0058】
(比較例3)
比較例3においては、実施例6の(木質材料/熱可塑性樹脂組成物/酸アルコール)の質量比を、90/10/1とし、それ以外は実施例6と同様の方法で、比較例3の木質基材を得た。
【0059】
(比較例4)
比較例4においては、実施例6の(木質材料/熱可塑性樹脂組成物/酸アルコール)の質量比を、90/10/12とし、それ以外は実施例6と同様の方法で、比較例4の木質基材を得た。
【0060】
(木質基材の評価)
木質基材の物性評価は、次の(1)機械強度、(2)耐水性の5点で評価した。
(1)機械強度
機械強度は、JISA5908に準拠する方法で曲げ強度を測定した。測定値(単位:N/mm2)に対する機械強度の評価基準は、次の通り「◎」、「○」、「△」および「×」の4段階とし、「◎」、「○」および「△」を合格、「×」を不合格とした。
◎:18以上(合格)
○:13以上18未満(合格)
△:8以上13未満(合格)
×:8未満(不合格)
【0061】
(2)耐水性
耐水性は、JISA5908に準拠する方法で吸水厚さ膨張率を測定した。測定値(単位:%)に対する耐水性の評価基準は、次の通り「◎」、「○」、「△」および「×」の4段階とし、「◎」、「○」および「△」を合格、「×」を不合格とした。
◎:5未満(合格)
○:5以上8未満(合格)
△:8以上12未満(合格)
×:12以上(不合格)
【0062】
(評価結果)木質基材の評価結果は、次の表1の通りである。物性評価が2点とも「合格」なのは、実施例1~11であった。
【0063】
【0064】
比較例1および比較例2は、有機多塩基酸の多価アルコールに対する質量比が過大および過少であること、比較例3および比較例4は酸アルコール成分(有機多塩基酸と多価アルコール)の(木質材料と熱可塑性樹脂組成物)に対する配合量が過少および過大であることが原因と推測できる。
【0065】
(実施例1~11の評価結果)
実施例1~11の評価結果を比較すると、評価結果が2点とも「○」または「◎」であるのは、実施例6~10の5件であり、実施例10がベストモードである。
木質基材の物性において、有機多塩基酸はクエン酸とマレイン酸の単独使用に対して併用が有利、多価アルコールはプロピレングリコールに対しグリセリンが有利、有機過酸化物の配合は有利、であることが示唆されている。
【0066】
以上より、粉体状およびチップ状の少なくとも一方の形状を有する木質材料と、熱可塑性樹脂組成物と、有機多塩基酸および多価アルコールと、を含み、有機多塩基酸と多価アルコールとの質量比(有機多塩基酸の質量/多価アルコールの質量)が、50/50~90/10であり、有機多塩基酸と多価アルコールとの合計含有量が、木質材料と熱可塑性樹脂組成物との合計質量100質量部に対して、2質量部以上10質量部以下の範囲内であれば、木質基材は優れた機械強度と耐水性を有することが示された。
【符号の説明】
【0067】
10 原料混合物
11 木質材料
12 熱可塑性樹脂組成物
20 木質基材
30 化粧材
31 意匠層