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  • 特開-建屋貫通構造 図1
  • 特開-建屋貫通構造 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103605
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】建屋貫通構造
(51)【国際特許分類】
   G21F 3/00 20060101AFI20230720BHJP
   G21F 1/08 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
G21F3/00 P
G21F1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004218
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111121
【弁理士】
【氏名又は名称】原 拓実
(74)【代理人】
【識別番号】100118474
【弁理士】
【氏名又は名称】寺脇 秀▲徳▼
(74)【代理人】
【識別番号】100141911
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 譲
(72)【発明者】
【氏名】大村 究
(72)【発明者】
【氏名】深井 久由
(57)【要約】
【課題】耐熱性及び遮蔽性を向上させることのできる建屋貫通構造を得ることにある。
【解決手段】原子力発電プラントの区画壁3を貫通する貫通孔スリーブ1と、この貫通孔スリーブ1を貫通する貫通部材4とから成る建屋貫通構造10において、この貫通孔スリーブ1と貫通部材4の間隙に珪藻土を焼結して形成した遮蔽物を貫通部遮蔽材2として配置したことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電プラントの区画壁を貫通する貫通孔スリーブと、この貫通孔スリーブを貫通する貫通部材とから成る建屋貫通構造において、この貫通孔スリーブと貫通部材の間隙に珪藻土を焼結して形成した遮蔽物を貫通部遮蔽材として配置したことを特徴とする建屋貫通構造。
【請求項2】
前記貫通部遮蔽材は複数の遮蔽物に分割した分割構造とし、前記貫通孔スリーブと前記貫通部材で形成される間隙に対して着脱可能に配置されたことを特徴とする請求項1記載の建屋貫通構造。
【請求項3】
前記貫通部遮蔽材は、前記貫通部材の中心軸を中心として分割した構造であり、当該分割物の対向する端部で形成される隙間を塞ぐ前記配管の中心軸方向に対して多層構造とすることを特徴とする請求項2記載の建屋貫通構造。
【請求項4】
前記貫通部遮蔽材は、ジルコニウムを物理吸着させ珪藻土を焼結して形成された珪藻土ブロックであることを特徴とする請求項1から3の何れか1項記載の建屋貫通構造。
【請求項5】
前記貫通部遮蔽材は、ワイヤと、このワイヤに接続されるスプリングで周方向が固定されていることを特徴とする請求項2から4の何れか1項記載の建屋貫通構造。
【請求項6】
前記貫通部材は配管、電線、人および機器が出入りする開口部の何れかであることを特徴とする請求項1から5の何れか1項記載の建屋貫通構造。
【請求項7】
前記珪藻土の代わりに、モルデン沸石としたことを特徴とする請求項1から6の何れか1項記載の建屋貫通構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、建屋壁に設けられた貫通孔に貫通部材を貫通させ、かつ耐熱性及び放射線遮蔽性能を有する建屋貫通構造に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所建屋内の壁や床の貫通部には、放射線漏洩や溢水、火災などの想定事象を基に防護要求があり、その区画境界には防護要求に応じた遮蔽性能や防火・耐火性能、止水・防水性能などが求められる。そのため、建屋内の壁や床の貫通部に要求される設計仕様に基づいて、遮蔽措置や防火処置などに必要な貫通部構造を施工する。
【0003】
貫通部の構造として、建屋壁に設けられた貫通孔に対して、貫通孔スリーブを埋込み、その中に配管を通管する。貫通孔スリーブは配管よりも直径が大きく、隙間がある。遮蔽要求や防火要求がある場合、貫通孔スリーブと配管の隙間に遮蔽物や不燃材などを充填する。防水要求がある場合は、充填物のほかにスリーブと配管の隙間を被覆するようなゴム製のカバーが取り付けられる。
【0004】
一般的な遮蔽材として用いられる鉛やコンクリートはγ線や中性子線などの透過率の高い放射線の遮蔽として有効だが、その代替材料の提案はいくつも行われている。また、火災時などでも性能が低下しない耐熱材料の提案も行われている。
【0005】
例えば特許文献1に記載されているように、X線及びγ線の遮蔽において、容易に設置可能な遮蔽ボードとして、石膏や硫酸バリウム、補強繊維などを原料とした石膏ボードと不燃性繊維シートからなる、放射線遮蔽ボードとその製造方法が提案している。適用箇所として、レントゲンやコンピュータ断層撮影法(CT)などの放射線医療現場を想定しており、この石膏ボードを用いることで、遮蔽材として一般的に使用されている鉛やコンクリートでは、比重が高く施工性や使用後の解体が困難であり、火災時などには鉛の溶融による放射線遮蔽の低下などの懸念を解決している。
【0006】
また特許文献2は、高温接手部分に使用される耐熱ガスケット及びその製造方法に関するものである。500℃以上の高温環境下で、圧着性能を低下させることのないガスケットであり、耐熱性能のためにガスケットの充填剤として珪藻土を用いている。
【0007】
さらに特許文献3は、樹脂配管が貫通した防火区画貫通部構造に使用される耐熱性繊維部材に関するものである。樹脂配管の延焼防止を目的として、樹脂配管を被覆する耐熱性繊維部材と建屋貫通壁の空隙に充填する熱膨張性部材に耐熱性のある珪藻土を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-189476号公報
【特許文献2】特許第4869493号公報
【特許文献3】特開2016-153569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
放射線の遮蔽性能を追求する場合、高密度な材料を用いるか遮蔽体を厚くする必要があるため、使用部材の重量は必然的に重くなり、施工時間や工事期間の長期化につながる可能性があった。
【0010】
また、上述した従来例においては、放射線防護設備の施工性改善のため、鉛やコンクリートの代替材としての石膏ボードを提案しており、医療現場などの仕切り板や建屋壁での使用を想定している。
【0011】
特に、原子力発電所における放射線管理区域内での作業では、作業員の被ばく低減を行う必要があるため、施工時間に制限を設けており、高線量区域内での施工時間の短縮は必要不可欠となっている。
【0012】
また、貫通部の延焼防止のための熱膨張部材として珪藻土を用いているが、放射線遮蔽および施工性については想定しておらず、遮蔽機能、施工性については更なる向上が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記実施形態に係る建屋貫通構造は、原子力発電プラントの区画壁を貫通する貫通孔スリーブと、この貫通孔スリーブを貫通する貫通部材とから成る配管貫通構造において、この貫通孔スリーブと配管の間隙に珪藻土を焼結して形成した遮蔽物を貫通部遮蔽材として配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の実施形態に係る建屋貫通構造は、上述した課題を解決するためになされたものであり、施工時間を短縮し、かつ耐熱性及び遮蔽性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る建屋貫通構造を示し、(a)は縦断面図、(b)は正面図。
図2図1に示す遮蔽物を示し、(a)は通常時における正面図、(b)は熱膨張時における正面図、(c)は(b)の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る建屋貫通構造について図1図2を参照して説明する。図1は、本発明に係る建屋貫通構造を示し、(a)は縦断面図、(b)は正面図であり、図2図1に示す遮蔽物を示し、(a)は通常時における正面図、(b)は熱膨張時における正面図、(c)は(b)の側面図である。
【0017】
図1において建屋貫通構造10が、原子力発電所における放射線管理区域内の区画壁3に設けられた遮蔽区画を貫通する貫通部材である配管4に使用される区画貫通部であって、この建屋貫通構造10には貫通孔スリーブ1と配管4との間隙を閉止する、貫通部遮蔽材2が配置されている。
【0018】
この貫通部遮蔽材2には、珪藻土を焼結して形成された遮蔽物を用いており、容易に着脱できるよう分割構造で配置されている。
【0019】
また、貫通部遮蔽材2は図2(a)に示す様に多数に例えば4分割で構成され、かつ遮蔽物2a、2bが配管4の中心軸を中心として回転方向Aにずらして当該分割された遮蔽物2の対向する端部で形成される間隙を塞ぐ配管の中心軸方向Bに対して多層構造(図2では2層)で構成されている。
【0020】
この貫通部遮蔽材2は、図2(b)に示す様に配管4の熱膨張時に配管4に追従し熱応力を緩和するとともに、配管4に追従することによって分割された遮蔽物2a、2bの対向する端部で形成される広がった隙間7を多層構造によって塞ぐことによって貫通部遮蔽材2の遮蔽性能も損なわない構造としている。貫通部遮蔽材2の固定には図2(b)の側面図である図2(c)で示されるワイヤ5と、このワイヤ5に接続されるスプリング6を用いることで、熱膨張時でも貫通部遮蔽材2が脱落しない構造としている。
【0021】
この貫通部遮蔽材2を構成する珪藻土は、多孔質であるため比表面積が大きく(64m/g)、この珪藻土の表面にはシラノール基として無数の水素原子が結合している。この水素原子は質量数が等しい中性子線に対して、優れた遮蔽性能を有しており、珪藻土が高性能な中性子遮蔽材として有効である。この珪藻土の遮蔽性能は普通コンクリートの約半分の見かけ比重であるが、高速中性子に対してこの普通コンクリートと同等の遮蔽性能を示している。更に、貫通部遮蔽材2は、ジルコニウムを物理吸着させ珪藻土を焼結して形成された珪藻土ブロックとすることで、γ線の遮蔽を行うことができる。また、この珪藻土ブロックは、1600℃~1700℃と高い融点を有しており、耐高熱放射線遮蔽材とすることができる。
【0022】
また、建屋貫通構造10の適用箇所としては、放射線遮蔽要求のある、床壁を貫通する配管4と貫通孔スリーブ1の処置として使用できる。また、配管貫通部の類似構造となる電線貫通部、人および機器が出入りする開口部にも適用することができる。
【0023】
耐熱性及び放射線遮蔽性能を有する珪藻土を用いた本実施形態の建屋貫通構造10によって、原子力発電所内の建屋床壁貫通部に対して、耐熱性及び遮蔽性の設計要求がある貫通部仕舞に対して、一つの構造で設計要求を満足することができるので施工部品点数が少なくなり施工時間を短縮することができる。
【0024】
また、見かけ比重約1.3となる珪藻土の放射線遮蔽性能を利用して、従来の放射線遮蔽充填物として用いられていた見かけ比重約2.3である鉛毛よりも軽く、容易に施工することができる。
【0025】
さらに上記実施例の貫通部遮蔽材2を珪藻土で構成する例で説明したが、珪藻土の代わりに、モルデン沸石(ゼオライト)を使用することも同様の作用効果をえることができる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0027】
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
【0028】
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0029】
1…貫通孔スリーブ、2…貫通部遮蔽材、2a…遮蔽物、2b…遮蔽物、3…区画壁、4…配管(貫通部材)、5…ワイヤ、6…スプリング、7…隙間、10…建屋貫通構造。
図1
図2