(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104624
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】コークスの湿式消火方法
(51)【国際特許分類】
C10B 39/08 20060101AFI20230721BHJP
C10B 41/00 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C10B39/08
C10B41/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005738
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】半田 圭
【テーマコード(参考)】
4H012
【Fターム(参考)】
4H012EA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、コークスの湿式消火において、赤熱コークスを完全消火させつつ、ワーフから払い出されるコークスの含有水分量を低減させることを課題とする。
【解決手段】コークスの窯出し後の散水を、消火設備における散水(一次散水)とワーフにおける散水(二次散水)に分け、ワーフに払い出した直後のコークス温度が払出下限温度以上になるように消火設備での散水(一次散水)での散水量を調整し、ワーフ上を仮想区画に区分し、ワーフ上の各区画でコークス温度が払出上限温度を超える区画に散水(二次散水)することで、散水合計水量を低減させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化室から窯出しされたコークスを消火設備で散水し、その後ワーフに払い出すコークスの湿式消火方法において、
ワーフを複数の複数の区画に区分し、前記区画ごとに払い出した時のコークス温度を測定し、
前記測定したコークス温度が予め定めた払出下限温度以上となるように前記消火設備で散水し、
前記測定したコークス温度が予め定めた払出上限温度を超えた前記区画に散水することを特徴とするコークスの湿式消火方法。
【請求項2】
前記払出下限温度が400℃である、請求項1に記載のコークスの湿式消火方法。
【請求項3】
前記払出上限温度が600℃である、請求項1または2に記載のコークスの湿式消火方法。
【請求項4】
前記温度を非接触温度計で測定する、請求項1~3の何れか1項に記載のコークスの湿式消火方法。
【請求項5】
消火設備とワーフを有するコークス炉において、
前記ワーフを複数の区画に区分し、前記区画内のコークス温度を測定する温度測定手段と、前記区画に応じた散水面を有するワーフ散水手段と、
前記温度測定手段で測定したコークス温度を基に前記ワーフ散水手段と前記消火設備の散水手段を制御する制御手段を有することを特徴とするコークスの湿式冷却装置。
【請求項6】
前記区画ごとに前記温度測定手段と前記散水手段を有する、請求項5に記載のコークスの湿式冷却装置。
【請求項7】
前記温度測定手段と前記散水手段が一体であり、且つ前記ワーフ上の任意の場所に移動可能である、請求項5に記載のコークスの湿式冷却装置。
【請求項8】
前記温度測定手段が非接触温度計である、請求項5~7の何れか1項に記載のコークスの湿式冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークスの製造過程における乾留後の赤熱コークスの湿式消火方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークスは、石炭をコークス炉にて約1200℃の高温で乾留して得られる。乾留後のコークスは約1000℃を超す赤熱状態でコークス炉から取り出された後、消火され、ベルトコンベヤーで運搬できる温まで冷却される。コークスの消火方法は、大きく分けて乾式消火方法と湿式消火方法がある。
【0003】
乾式消火方法は、赤熱したコークスに窒素ガスなどの不活性ガス(冷却ガス)を吹き付け、赤熱コークスを消火冷却するものである。コークスの顕熱を冷却ガスで熱交換することにより高温ガスが得られ、このガスを用いて排熱回収ボイラーなどで蒸気を生成し、電力などでエネルギー回収されている。いわゆるCDQ(Coke Dry Quenching)と呼ばれる排熱回収技術である。省エネ効果が大きく環境的配慮から、現在ではこのCDQを用いた乾式消火方法が主流となっている。
【0004】
一方、CDQ設備を持たないコークス炉や、CDQ設備の修繕期間などの消火方法として依然湿式消火方法が使用されている。湿式消火方法は、乾留後の赤熱コークスに水を散水して消火冷却するものである。コークス炉から取り出した赤熱コークス(1200℃程度)を消火車と呼ばれる台車に入れ、消火塔に運搬して散水により消火冷却する。消火冷却したコークス(400~600℃程度)を消火車のままワーフまで移送し、消火車からワーフ上にコークスを払い出し、ベルトコンベヤーの寿命が大きく低下しない温度(200℃以下)になるよう放置冷却する。ワーフ上において、消火塔での散水で消火しきれなかった赤熱コークスが発見された場合は、ワーフ上で散水して完全に消火する。このように湿式消火は、散水により赤熱コークスをなくし、コークス温度をベルトコンベヤーが溶損しない温度までコークスを冷却することを目的としている。
【0005】
コークスは製鉄プロセスにおいては鉄鉱石還元のため大量に使用される。しかし製鉄プロセスにおいては高炉への持ち込み水分量が厳格にコントロールされる。高炉に持ち込む水分が多いと、水分により高炉内の熱量が消費され、高炉内の熱効率を著しく悪化させる。例えば、水分が蒸発する際に高炉内の熱を奪い、高炉内で蒸発した水分が水素(H2)と酸素(O2)に分解する際にも熱量(分解熱)が消費される。また、生成した水素による鉄鉱石の還元反応が吸熱反応であるためさらに熱量が奪われるだけでなく、生成した酸素(O2)が炉内の一酸化炭素(CO)を二酸化炭素(CO2)にするため、本来発熱反応であるCOによる還元反応を抑制してしまう。これらのことから、高炉内への水分持ち込みは、高炉内の熱バランスを崩すため、コークスの水分含有量を極力低減しないといけない。
【0006】
このようなコークスの湿式消火方法への要求に対し、いくつか提案がされている。
例えば、特許文献1では、消火車の進行方向を3区分に分け、両端区分への散水量を中央部分への散水量の1/2程度にすることで、散水冷却後のワーフへのコークス払い出し温度を60~400℃にしつつ、赤熱コークスを消火する湿式消火方法が提案されている。
【0007】
特許文献2には、散水冷却後のワーフ払い出し直前に消火車内コークスの温度分布や層高分布を測定し、これを基に次の窯出し時の消火塔での散水条件を調整することが提案されている。
【0008】
特許文献3には、ワーフ上に複数の各貯骸区画を設定しておき、当回の窯出しで散水処理された1ロット分のコークスをワーフ上の1つの貯骸区画に排出して貯骸させると共に、次回の窯出しに先立ち、当該貯骸区画内での貯骸コークスの温度を測定し、その平均または最高温度値、若しくは平均または最高温度の温度勾配値を検出して、当該検出された温度値、温度勾配値と予め設定されている火残り限界温度値、火残り限界温度勾配値とを比較し、求められている散水時間と製品コークスの水分との関係から、次の窯出し時の消火塔での散水量を時間的に制御することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017ー025146号公報
【特許文献2】特開2006ー241370号公報
【特許文献3】特開平5ー320656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
コークスは炭化室で石炭を乾留させて製造されるが、炭化室の状態や、炭化室内での乾留条件(熱分布など)が一定ではなく、炭化室ごとに、さらにはその時々によって変化するため、コークスの窯出しバッチ毎にコークスの性状(大きさや形状、温度)や消火車上への堆積状況が異なる。すなわち、窯出しバッチごとに条件が変化する。
【0011】
特許文献1で提案されている技術は、消火塔での散水量の抑制につながるかもしれないが、必ずしも完全に赤熱コークスが消火されているわけではない。赤熱コークスが残った場合は、その消火のために散水が必要となり、トータルでコークス水分を抑制につながらないという懸念が残る。
【0012】
特許文献2で提案されている技術は、前の窯出しバッチでの消火車内のコークス状態の情報を、次の窯出しバッチにフィードバックする技術であるが、前述のとおり、コークスの窯出しバッチ毎にコークスの温度や消火車上への堆積状況が異なるため、必ずしも前バッチ情報で的確な制御ができるわけではない。さらに、消火車上では山盛り状態で搭載されているため、表面温度分布や層高分布だけでは内部の状態が適切に把握できるわけではない。
【0013】
特許文献3で提案されている技術は、前バッチのワーフ上でのコークスの状態情報を、次バッチにフィードバックして散水量を制御しようとするものであるが、これも必ずしも前バッチ情報で的確な制御ができるわけではない。
【0014】
以上述べたように、従来技術では、コークスの散水冷却において、前の窯出しバッチの情報を、次の窯出しバッチへフィードバックすることを提案しているが、炭化室から払い出したコークスの状態は窯出しバッチごとに異なることから、前バッチの情報のフィードバックでは的確な制御はできない。特に古い炉ではそれが顕著に表れる。よって、従来から的確な消火冷却制御ができているわけではなく、そのためワーフから払い出されるコークスの含有水分量が低減されているのかどうかは分からない。
【0015】
そこで、本発明は、コークスの湿式消火において、赤熱コークスを完全消火させつつ、ワーフから払い出されるコークスの含有水分量を低減させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため、現場操業を再検証し以下の知見を得た。
【0017】
(ア)消火塔での散水でも消火できずワーフに払い出せる赤熱コークスは、大塊のコークスがほとんどであった。つまり、大塊であるが故に、表層部は消火されても内部は火が燻ぶった状態になっていることが分かった。さらに、コークスは消火車に山盛り状に搭載されたまま散水消火されるため、表層のコークスは過剰に消火されるが、内部に埋め込まれたコークス、特に大塊コークスには散水が届かず的確に消火されない場合がある。ワーフへ払い出した際にはワーフ上に広くばらまかれるため、内部の未消火コークスや、大塊コークスが破壊したものが空気と触れることにより赤熱コークスとして顕在化していると思われる。そのため、ワーフ上の赤熱コークスは局所的に存在している。
【0018】
(イ)消火塔での散水量は、基本的にワーフ上で赤熱コークスがでないよう、つまり消火塔での散水で完全に消火できるよう、設定されている。そのため、大塊コークス以外のコークスに対しては過剰な散水量になっている可能性がある。
【0019】
(ウ)一例として、あるワーフ上のコークスの冷却傾向を調査したところ、ワーフへの払い出し直後の温度(以下、「ワーフ払い出し温度」と言うことがある。)が600℃以上あったコークスは、ワーフ上で30分経過しても、ベルトコンベヤー耐熱管理温度(200℃程度)以上となることが分かった。このままベルトコンベヤーに払い出すと、ベルトコンベヤーの設備故障を誘発する危険がある。
【0020】
一方、ワーフ払い出し温度が400℃以下の場合、ワーフ上で20分経過すると水分蒸発下限温度(コークス水分が蒸発するための下限温度:60℃程度)を下回り、コークス水分含有量が低減できない可能性があることが分かった。
【0021】
コークス炉設備やワーフ形状、環境条件(地理的環境、季節性などの自然環境も含む)によって、これらワーフ上のコークス冷却傾向は変化する。このため、コークスのワーフ払い出し温度は、コークス炉の条件により払い出し温度の下限となる払出下限温度と、払い出し温度の上限となる払出上限温度があることが分かった。
【0022】
(エ)これらの知見から、コークスの窯出し後の散水を、消火設備における散水(一次散水)とワーフにおける散水(二次散水)に分け、ワーフに払い出した直後のコークス温度が払出下限温度以上になるように消火設備での散水(一次散水)での散水量を調整し、ワーフ上を仮想区画に区分し、ワーフ上の各区画でコークス温度が払出上限温度を超える区画に散水(二次散水)することで、散水の合計水分量を抑制しつつ、ベルトコンベヤーの設備故障を防止することが可能となることを見出した。
【0023】
本発明は上記知見を基になしたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
[1]
炭化室から窯出しされたコークスを消火設備で散水し、その後ワーフに払い出すコークスの湿式消火方法において、ワーフを複数の区画に区分し、前記区画ごとに払い出した時のコークス温度を測定し、前記測定したコークス温度が予め定めた払出下限温度以上となるように前記消火設備で散水し、前記測定したコークス温度が予め定めた払出上限温度を超えた前記区画に散水することを特徴とするコークスの湿式消火方法。
[2]
前記払出下限温度が400℃である、[1]に記載のコークスの湿式消火方法。
[3]
前記払出上限温度が600℃である、[1]または[2]に記載のコークスの湿式消火方法。
[4]
前記温度を非接触温度計で測定する、[1]~[3]の何れか1項に記載のコークスの湿式消火方法。
[5]
消火設備とワーフを有するコークス炉において、前記ワーフを複数の区画に区分し、前記区画内のコークス温度を測定する温度測定手段と、前記区画に応じた散水面を有するワーフ散水手段と、前記温度測定手段で測定したコークス温度を基に前記ワーフ散水手段と前記消火設備の散水手段を制御する制御手段を有することを特徴とするコークスの湿式冷却装置。
[6]
前記区画ごとに前記温度測定手段と前記散水手段を有する、[5]に記載のコークスの湿式冷却装置。
[7]
前記温度測定手段と前記散水手段が一体であり、且つ前記ワーフ上の任意の場所に移動可能である、[5]に記載のコークスの湿式冷却装置。
[8]
前記温度測定手段が非接触温度計である、[5]~[7]の何れか1項に記載のコークスの湿式冷却装置。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、コークス水分量を抑制しつつ、ベルトコンベヤーの設備故障を防止するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】
図2は、ワーフ面に垂直方向上方からワーフを俯瞰し、区画の一例を示す概念図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例に係るワーフにおけるコークス消火方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図を用いて本発明について説明する。図は本発明の1実施形態を示すもので、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0027】
[従来のコークス製造方法]
まず、コークス製造の一般的方法について説明する。
図1はコークス製造設備の1例を示す。コークス炉1は、主に横一列に炭化室2が並んでおり、この炭化室内に装入した石炭を乾留してコークス3を製造する。乾留されたコークスは1200℃程度の赤熱状であり赤熱コークスとも呼ばれる。炭化室内で乾留されたコークス3は、押し出し機(図示せず)で炭化室の一方から押出され、消火車(台車)4内に払い出される(これを窯出しと言う。)。
【0028】
消火車4に窯出しされたコークス3は、消火車により消火設備5内に搬送される。消火設備5は、散水設備6を有しており、散水設備6から水7を散水して消火車4内の赤熱コークス3を消火冷却する。散水設備6から散水される水7は、赤熱コークスが完全に消火されるに十分な量である。
【0029】
消火設備5で消火冷却されたコークス3は、消火車4に搭載されたままワーフ10へ移送される。ワーフ10は傾斜した平板状であり、消火車のワーフ側の側板を開放したり、消火車を傾斜させたりして、コークス3を消火車4からワーフ10に払い出す。ワーフ10上に払い出されたコークス3は、ワーフの傾斜に従いワーフ上に散らばり堆積する。コークス3は、この状態で一定時間(数十分程度)放置され、ベルトコンベヤーの溶損などの設備故障を生じない温度以下になるまで冷却される。基本的に、自然放散冷却により冷却される。ベルトコンベヤーの設備故障は主に、コークスによるベルトの溶損であり、ベルトコンベヤーの高温用ベルトの耐熱温度(表面温度)は200℃程度であるので200℃をベルトコンベヤー耐熱管理温度として管理するとよい。
【0030】
冷却されたコークス3は、ベルトコンベヤー8に移送され、貯蔵庫(図示せず。)などに搬送される。製鉄プロセスの場合は、一旦貯蔵庫に搬送されたのち、必要量を切り出して高炉(図示せず。)に搬送され、高炉内に装入される。前述したように、コークスの含有水分量は少ない方が望ましいく、特に高炉に装入されるコークスの含有水分量は8.0%以下にするとよい。好ましくは、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下になるよう制御されるとよい。
【0031】
[本発明に係るコークス湿式消火方法]
<ワーフの区画>
ワーフ10は、任意の大きさの複数の区画11に区分される。
図2は、ワーフ10をワーフ面に垂直方向上方から俯瞰し、区画11の一例を示す概念図である。
図2中の点線によりワーフ10は区分され、一つ一つの区画となる。
図2の場合、横に7つ、縦に6つの42区画に区分されていることになる。
【0032】
ワーフは物理的に区分する必要はなく、仮想的に区分されていればよい。即ち、ワーフ内に柵や仕切りなどを付けて区分するのではなく、視認はできない区画線により区分されていればよい。消火車から払い出されたコークス3は、ワーフ10の傾斜に従い堆積する。この時、消火車内で積載れていた厚みに比べれば、薄く広くばらまかれ、コークス3の顕熱は大気中に放散され易くなっている。この状態で所定の時間放置して冷却される。
【0033】
<区画内のコークス温度測定>
図2の各区画11ごとに、コークスの温度を測定する。温度管理上、払い出し直後の温度を測定することが望ましい。できれば、払い出し後3分以内に、好ましくは2分以内、さらに好ましくは1分以内に測定するとよい。測定方法は特に限定しない。ワーフに払い出し直後のコークスは通常500℃前後の温度を有しているので、非接触で測定することが望ましい。非接触温度測定であれば、放射赤外線測定やサーモグラフィーなどその方法は特に限定しない。
【0034】
ワーフの各区画11内にあるコークスの温度は、堆積したコークス表面の温度として測定される。各区画ごとに1点または複数点の温度を測定する。複数点を測定した場合は、その平均温度を当該区画のコークス温度とすればよい。区画内の1点で測定した場合は、その点を代表点として区画内のコークス温度とすればよい。区画内の一部にのみコークスがある場合は、コークスのある部分のみの温度を測定すればよい。
【0035】
<払出下限温度>
前述したように、ワーフに払い出された直後のコークス温度は払出下限温度以上であることが好ましい。コークスが払出下限温度以下の温度でワーフに払い出されると、ワーフ上で冷却され、ベルトコンベヤーに払いだされるときに、蒸発下限温度になる場合があるからである。蒸発下限温度は、コークスの含有水分が蒸発するために必要な下限温度である。蒸発下限温度を下回るとコークスの含有水分が蒸発せず、結果として高炉などへの持ち込み水分量が多くなり、高炉操業上不都合になる。従って、ワーフに払い出し温度が払出下限温度以上になるように、消火設備での散水(一次散水)量を調整する。
蒸発下限温度は約60℃であることを、発明者らは経験的に確認している。そのため、払出下限温度は60℃とするとよく、好ましくは61℃、62℃、63℃、64℃または65℃にするとよい。
【0036】
発明者らの実験では、一般的なコークス炉の場合、コークスのワーフ払い出し温度が400℃の場合、ワーフ上で20分放置冷却すると、コークス温度は60℃以下になることが分かった。そのためワーフ払い出し温度の払出下限温度は400℃にするとよく、好ましくは410℃、420℃または430℃にするとよい。但し、この放置冷却は、ワーフの環境や、ワーフ上で放置され得る時間により変化するため、払出下限温度はワーフ設備に応じて設定されるとよい。
【0037】
ワーフ払い出し温度が払出下限温度以上になるように消火設備の散水量を調整する方法は特に限定しない。例えば、直前のコークス窯出しバッチにおける消火設備における散水(一次散水)量とワーフ払い出し温度から、次の窯出しバッチの一次散水量を決定するとよい。ワーフ払い出し温度が、払出下限温度を下回った場合は一次散水量を増量し、払出下限温度+5℃以上になった場合は一次散水量を減量するなどの制御が考えられる。
【0038】
若しくは、バッチ間変動を鑑み、直前の複数窯出しバッチでの一次散水量平均値とワーフ払い出し温度の平均値とから、次の窯出しバッチの一次散水量を制御することも考えられる。
【0039】
<払出上限温度>
前述したように、コークスのワーフ払い出し温度は払出上限温度以下にすることが好ましい。コークスが払出上限温度以上の温度でワーフに払い出されると、ワーフ上で冷却したとしても、ベルトコンベヤーに払い出す際にベルトコンベヤー耐熱管理温度を超える可能性があり、ベルトコンベヤーの設備故障を誘発するからである。ベルトコンベヤーの高温用ベルトの耐熱温度(表面温度)は180~200℃程度である(例えば、バンドー社製HC710、HC1500)。そのため、ベルトコンベヤー耐熱管理温度は200℃に設定するとよい。
【0040】
発明者らの実験では、一般的なコークス炉の場合、コークスのワーフ払い出し温度が600℃以上になると、ワーフ上で30分放置冷却しても、コークス温度はベルトコンベヤー耐熱管理温度200℃以下にならないことが分かった。そのためワーフ払い出し温度の払出上限温度は600℃にするとよく、好ましくは590℃、580℃または570℃にするとよい。但し、この放置冷却は、ワーフの環境や、ワーフ上で放置される時間による変化するため、払出上限温度はワーフ設備に応じて設定されるとよい。
【0041】
<二次散水>
区画ごとにコークス温度を測定した結果、コークスのワーフ払い出し温度が払出上限温度を超えていた場合は、その区画のコークス温度を払出上限温度以下にするため、その区画に散水(二次散水)するとよい。つまりコークス全体に散水するのではなく、払出上限温度を超えた区画のコークスだけに散水することにより、不必要な散水を回避することができ、散水量を低減することができる。その結果、コークス含有量を低減することができる。
【0042】
[本発明に係るコークス製造装置]
次に本発明の1実施形態に係るコークスの製造装置について説明する。
【0043】
<温度測定手段>
温度測定手段は、前述したように特に限定しないが、非接触温度測定手段とすることが好ましい。例えば、赤外線による放射温度計やサーモビュアなどがある。
温度測定手段は、各区画で1点または複数点を測定できるよう配置する。例えば、一つの区画に一つまたは複数設置するとよい。一区画に温度測定手段が一つ設置されている場合、温度測定手段は首振り可能に配置され、一つの温度測定手段で区画内の複数点の温度を測定できるようにするとよい。例えば温度測定手段をサーモビュアとして、複数の区画をサーモビュアで一括測定してもよい。
【0044】
複数の温度測定手段を配置する場合は、区画内の複数点で温度測定できるよう配置するとよい。もちろん、複数配置の場合も個々の温度測定手段が首振り可能であって、それぞれが複数点の温度測定ができる構造であってもよい。温度測定手段の取付け手段については特に限定されない。
【0045】
また、例えば温度測定手段を一つの温度測定手段でワーフ全体を観察できるような構造にしてもよい。例えば、ワーフ上の空間に一つの温度測定手段を固定配置し、その温度測定手段を首振り可能にすることにより、温度測定手段が向いている位置情報から、ワーフのどの区画のコークス温度を測定しているか認定し、その区画内の一点または複数点の測定温度から当該区画のコークス温度を算出することができる。
【0046】
また、例えば温度測定手段をサーモビュアにし、サーモビュアの測定範囲を一区画として、当該区画のコークス温度を算出することができる。つまり、サーモビュアの1ピクセルを最小区画単位とすることもできる。
【0047】
例えば、温度測定手段がワーフ上の空間を移動可能なように配置されていてもよい。例えば、ドローンに搭載された温度測定手段がワーフ上の空間を移動させてもいいし、アーム先端に温度測定手段を搭載してもよい。その温度測定手段の位置情報と向いている方向の情報から、ワーフのどの区画のコークス温度を測定しているか認定し、その区画内の一点または複数点の測定温度から当該区画のコークス温度を算出することができる。
【0048】
<ワーフ散水(二次散水)手段>
ワーフでの散水(二次散水)手段についても、特に限定しない、例えば散水ノズルが好ましい。散水ノズルにはコーン型、楕円形型など多くのタイプがあるが、特に限定されない。均一に散水する観点から、コーン型散水ノズルが好ましい。
【0049】
散水量は、区画の大きさ、区画内のノズル数、ワーフ状態(設置角度、環境など)から適宜決定するとよい。
【0050】
散水手段は、各区画ごとに1つまたは複数配置するとよい。例えば、一つの区画に一つまたは複数設置することができる。一つの区画に一つの散水手段を設置する場合、その散水手段が当該区画の全面をカバーするような散水手段にするとよい。一つの区画に複数の散水手段を配置する場合は、当該区画内にできるだけ散水量が均等になるように、散水手段を配置するとよい。区画内での散水量にムラがあると、過剰に散水されてコークスの含有水分量が増加したものが得られたり、逆に散水量が不足しコークス温度が払出上限温度以下にならず、結果として、ベルトコンベヤー耐熱管理温度以上のコークスが得られたりする。
【0051】
散水手段は、一つの散水手段が複数の区画に散水できるように配置してもよい。例えば、一つの散水手段を、ワーフ上の空間に首振り可能に配置し、複数の区画に散水できるようにしてもよい。また、例えば、アーム先端に散水手段を搭載し、複数の区画に散水できるようにしてもよい。このような場合、散水手段の位置情報や首振り角度情報から、ワーフのどの区画に散水しているのか認定し、その区画までの距離や角度から、散水量や場合によっては散水圧力を制御し、区画全面に散水できるようにするとよい。
【0052】
温度測定手段がサーモビュアの場合、区画内の払出上限温度を超えている部分を特定し、その位置情報から、その部分に対応する散水手段から散水してもよい。
【0053】
<温度測定手段と散水手段が一体構造>
例えば温度測定手段と散水手段が一体構造となっていてもよい。一体構造とは、同一区画に作用する温度測定手段と散水手段が一つの構造体として設置されていることである。一体構造となった温度測定手段と散水手段がワーフ上の任意の場所に移動可能にすることにより、必要最小限の部分(コークス温度が払出上限温度超えている部分)にのみ散水することができ、散水量を抑制することができる。
【0054】
例えば、アーム先端に温度測定手段と散水手段が搭載され、温度測定手段で測定したコークス温度が払出上限温度を超えていた場合は、一体構造となっている散水手段から所定の水量を散水することができる。この場合、温度測定手段による1回の測定範囲を最小区画とすることができ、この最小区画でコークス温度が払出上限温度を超えた場合に散水して消火冷却することができる。つまり、このような一体構造の温度測定手段と散水手段を、ワーフ上を走査させることにより、ワーフ上のコークス全体の中で必要な部分(払出上限温度を超えた部分)にのみ散水することができ、結果的に散水量を最小限に抑えることができる。
【実施例0055】
実施例について説明する。発明者らは、同一のコークス炉で、同一のコークス払い出し量の操業実績を基に、本発明を適用した場合と適用前の散水量、およびコークスの含有水分量を対比した。なお、払出上限温度、払出下限温度、ベルトコンベヤー耐熱管理温度、蒸発下限温度は以下のように設定した。
払出上限温度:600℃
払出下限温度:400℃
ベルトコンベヤー耐熱管理温度:200℃
蒸発下限温度:60℃
ワーフ区画区分:同等面積になるよう6区分した。
温度測定手段:赤外線サーモグラフィー(市販品。レーザーポインタ付き)
温度測定方法:ワーフ横から手動により各区画5点の温度を測定しその平均温度を区画温度とした。
二次散水手段:コーン型散水ノズル
二次散水方法:各区画上に散水ノズル4つを散水面が当該区画全面を覆うように配置
一次散水量:流量一定のため散水時間(秒)で評価
二次散水量:流量一定のため散水時間(秒)で評価
但し、二次散水量(区画当たり)は一次散水量の5%にした。
消火設備の散水(一次散水):散水タイマーにより散水時間で制御(流量一定)
【0056】
図3は、実施例におけるワーフでのコークス消火方法の模式図を示す。
図3において、ワーフ10は仮想線(図中の破線)にて6つの区画に区分されており、各区画にワーフ散水手段を設置した。
温度測定手段(赤外線サーモグラフィ)12はハンディタイプのものを使用し、ワーフ横からレーザーポインタ13で測定位置を特定し、各区画のコークス温度を測定した。なお温度測定手段は構造物や装置に設置したものでもよい。1回の測定では、測定範囲内の温度分布が測定できるが、測定範囲内の最高温度をその測定範囲のコークス温度とした。このようにして同一区画内で任意の5点を測定し、その平均温度を当該区画のコークス温度とした。この区画のコークス温度を制御手段(図示せず)に送信し、このコークス温度を基に、制御手段にて消火設備の散水(一次散水)手段とワーフ散水(二次散水)手段を制御するようにした。
図3は、ワーフ右下区画のワーフ散水手段(散水ノズル)14を模式的に示すため2個しか描いていないが、実際は一つの区画に散水ノズル14を4個配置し、それぞれのノズルのワーフ上への散水面が区画全体をカバーするようにした。
区画のコークス温度が払出上限温度(600℃)を超えた場合に、ワーフ散水手段(散水ノズル)14から散水15するように制御手段にて制御するようにした。この時、散水時間を5秒または10秒になるよう制御手段に予め入力した。
【0057】
コークス含有水分量:ワーフからベルトコンベヤーへ払い出されたコークス(試料)を採取して、その後赤外線加熱炉中で乾燥させ、コークス含有水分量を測定した。コークス含有水分量は、以下の式で求められる。
コークス含有水分量(%)={採取後試料重量(g)-乾燥後の試料重量(g)}/{採取後試料重量(g)}×100
なお、比較例(従来例)においては、二次散水に代わり、ワーフ上で赤熱コークスを目視で発見したときは市販の注水ホースにて注水(放水)消火した。この時の流量は、本発明例の一区画への散水量の約2倍であった。
【0058】
表1に測定結果を示す。表1からも分かるように、本発明によりワーフからベルトコンベヤーに払い出す際に赤熱コークスもなく、コークス含有水分量を減少させることが確認された。
【0059】