IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-めっき鋼線 図1
  • 特開-めっき鋼線 図2
  • 特開-めっき鋼線 図3
  • 特開-めっき鋼線 図4
  • 特開-めっき鋼線 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104640
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】めっき鋼線
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/06 20060101AFI20230721BHJP
   C23C 2/38 20060101ALI20230721BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20230721BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/38
C23C2/26
C22C18/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022005764
(22)【出願日】2022-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】坂本 昌
(72)【発明者】
【氏名】馬場 尚
【テーマコード(参考)】
4K027
【Fターム(参考)】
4K027AA06
4K027AA22
4K027AB02
4K027AB05
4K027AB44
4K027AC02
4K027AC03
4K027AC64
4K027AE03
(57)【要約】
【課題】耐食性に優れ、加工時にめっき層の割れの発生も抑制できる、めっき鋼線を提供する。
【解決手段】めっき鋼線1は、母材鋼線10と、めっき層11とを備える。めっき層11は、質量%で、Al:4.5~15.0%未満、Mg:0.3~4.0%、及び、Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上:0.01~0.50%を含有し、残部がZn及び不純物からなり、式(1)を満たす。めっき層11のうち、合金層12を除く本体領域13において、α相の面積率は20~70%であり、共晶相の面積率は10~60%であり、Sn、Bi及びInのいずれか1種の含有量が1.0%以上である特定濃化領域の面積率が0.5~10.0%である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき鋼線であって、
母材鋼線と、
前記母材鋼線の表面上に形成されているめっき層とを備え、
前記めっき層は、
質量%で、
Al:4.5~15.0%未満、
Mg:0.3~4.0%、及び、
Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上:0.01~0.50%、
を含有し、残部がZn及び不純物からなり、式(1)を満たし、
前記めっき鋼線の長手方向に垂直な断面での前記めっき層のうち、合金層を除く本体領域において、
Al及びZnを含有するα相の面積率が20~70%であり、
Zn相と、Zn-Mg相とを含有する共晶相の面積率が10~60%であり、
Sn、Bi及びInのいずれか1種の含有量が1.0%以上である特定濃化領域の面積率が0.5~10.0%である、
めっき鋼線。
4.0≦Mg/(Sn+Bi+In)≦20.0 (1)
ここで、式(1)中の各元素含有量には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【請求項2】
請求項1に記載のめっき鋼線であって、
前記めっき層はさらに、
前記Znの一部に代えて、質量%で、
Si:0.50%以下、
Fe:2.00%以下、
Pb:0.50%以下、
Sr:0.50%以下、
V:0.50%以下、
Cr:0.50%以下、
Mn:0.50%以下、
Ti:0.50%以下、
Be:0.50%以下、
Na:0.50%以下、
K:0.50%以下、
Ca:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
La:0.50%以下、
Ce:0.50%以下、
Hf:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
W:0.50%以下、
Nb:0.50%以下、
Ta:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、及び、
B:0.50%以下、
からなる群から選択される1元素以上を含有する、
めっき鋼線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき鋼線に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき鋼線は、金網、フェンス及び送電用ワイヤ等の素材として用いられる。めっき鋼線は、母材鋼線と、母材鋼線の表面上に形成されているめっき層とを備える。
【0003】
めっき鋼線のめっき層には、耐食性が求められる。めっき鋼線のめっき層として、例えば、亜鉛めっき、亜鉛合金めっき等が用いられている。亜鉛めっきは、Znからなるめっきである。亜鉛合金めっきは、Znと他の合金元素との合金からなるめっきである。亜鉛合金めっきは例えば、ZnとAlとを含有するZn-Al合金めっき、又は、ZnとAlとMgとを含有するZn-Al-Mg合金めっき等である。亜鉛合金めっき層を有するめっき鋼線は、亜鉛めっき層を有するめっき鋼線よりも耐食性が高い。
【0004】
しかしながら、上述の亜鉛合金めっき層は、亜鉛めっき層よりも硬くなりやすい。そのため、亜鉛合金めっき層を有するめっき鋼線では、曲げ加工に代表される加工時に、亜鉛合金めっき層に割れが生じやすい。亜鉛合金めっき層に割れが生じためっき鋼線では、割れた部分の耐食性が低下する。したがって、亜鉛合金めっき層を有するめっき鋼線では、加工時のめっき層の割れの発生を抑制することが求められる。
【0005】
加工時のめっき層の割れの発生を抑制する技術が、たとえば、特表2020-503439号(特許文献1)に開示されている。
【0006】
特許文献1に開示された合金めっき鋼材は、亜鉛合金めっき層を含む。亜鉛合金めっき層は、Mg:0.5~2.5%、Al:0.5~3.0%、残部Zn及び不可避不純物を含有する。亜鉛合金めっき層は、Zn単相及びZnとMgとの混合相を含み、ZnとMgとの混合相は、Zn相とMg-Zn合金相がラメラ構造を有する。ラメラ構造の平均幅は1.5μm以下である。この文献では、亜鉛合金めっき層中のラメラ構造の平均幅を1.5μm以下にする。これにより、加工時のめっき層の割れの発生が抑制される、と特許文献1では記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2020-503439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された手段以外の他の手段により、加工時のめっき層の割れの発生が抑制できてもよい。
【0009】
本発明の目的は、耐食性に優れ、加工時にめっき層の割れの発生も抑制できる、めっき鋼線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるめっき鋼線は、以下の構成を有する。
【0011】
めっき鋼線であって、
母材鋼線と、
前記母材鋼線の表面上に形成されているめっき層とを備え、
前記めっき層は、
質量%で、
Al:4.5~15.0%未満、
Mg:0.3~4.0%、及び、
Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上:0.01~0.50%、
を含有し、残部がZn及び不純物からなり、式(1)を満たし、
前記めっき鋼線の長手方向に垂直な断面での前記めっき層のうち、合金層を除く本体領域において、
Al及びZnを含有するα相の面積率が20~70%であり、
Zn相と、Zn-Mg相とを含有する共晶相の面積率が10~60%であり、
Sn、Bi及びInのいずれか1種の含有量が1.0%以上である特定濃化領域の面積率が0.5~10.0%である、
めっき鋼線。
4.0≦Mg/(Sn+Bi+In)≦20.0 (1)
ここで、式(1)中の各元素含有量には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【発明の効果】
【0012】
本発明のめっき鋼線は、耐食性に優れ、加工時にめっき層の割れの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態のめっき鋼線の長手方向に垂直な断面図である。
図2】めっき鋼線1の長手方向に垂直な断面でのめっき層11のミクロ組織画像である。
図3図3は、交点法を説明するための模式図である。
図4図4は、特徴1~特徴4を満たす本実施形態のめっき層11に対して、電子線マイクロアナライザーを用いた面分析を実施した場合の、Snの元素マッピングを示す図である。
図5図5図1と異なる構成のめっき鋼線1の長手方向に垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、耐食性に優れ、かつ、加工時にめっき層の割れの発生を抑制できるめっき鋼線のめっき層について、化学組成の観点から検討を行った。その結果、耐食性に優れるZn-Al-Mg合金めっきにさらに、Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上を含有することにより、優れた耐食性、及び、加工時のめっき層の割れの抑制が両立可能であると考えた。
【0015】
そこで、本発明者らは、めっき層の化学組成について、さらに検討を行った。その結果、本発明者らは、めっき鋼線が次の特徴1を満たすことにより、優れた耐食性、及び、加工時のめっき層の割れの抑制が両立できる可能性が高いことが判明した。
【0016】
(特徴1)
めっき鋼線のめっき層の化学組成が、質量%で、Al:4.5~15.0%未満、Mg:0.3~4.0%、Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上:0.01~0.50%、Si:0~0.50%、Fe:0~2.00%、Pb:0~0.50%、Sr:0~0.50%、V:0~0.50%、Cr:0~0.50%、Mn:0~0.50%、Ti:0~0.50%、Be:0~0.50%、Na:0~0.50%、K:0~0.50%、Ca:0~0.50%、Cu:0~0.50%、La:0~0.50%、Ce:0~0.50%、Hf:0~0.50%、Mo:0~0.50%、W:0~0.50%、Nb:0~0.50%、Ta:0~0.50%、Co:0~0.50%、Ni:0~0.50%、及び、B:0~0.50%を含有し、残部がZn及び不純物からなる。
【0017】
しかしながら、特徴1を満たすめっき層を有するめっき鋼線であっても、依然として、優れた耐食性、及び、加工時のめっき層の割れの抑制が十分に両立できない場合があった。そこで、本発明者らは、さらに検討を行った。その結果、特徴1を満たすめっき層が、さらに、次の特徴2~特徴4を満たすことにより、優れた耐食性、及び、加工時のめっき層の割れの抑制が両立可能となることを、本発明者らは知見した。
(特徴2)
めっき鋼線の長手方向に垂直な断面でのめっき層のうち、合金層を除く本体領域において、
Al及びZnを含有するα相の面積率が20~70%であり、
Zn相と、Zn-Mg相とを含有する共晶相の面積率が10~60%である。
(特徴3)
めっき鋼線の長手方向に垂直な断面でのめっき層のうち、合金層を除く本体領域において、
Sn、Bi及びInのいずれか1種の含有量が1.0%以上である特定濃化領域の面積率が0.5~10.0%である。
(特徴4)
上述の化学組成がさらに、式(1)を満たす。
4.0≦Mg/(Sn+Bi+In)≦20.0 (1)
ここで、式(1)中の各元素含有量には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0018】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態によるめっき鋼線は、次の構成を有する。
【0019】
[1]
めっき鋼線であって、
母材鋼線と、
前記母材鋼線の表面上に形成されているめっき層とを備え、
前記めっき層は、
質量%で、
Al:4.5~15.0%未満、
Mg:0.3~4.0%、及び、
Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上:0.01~0.50%、
を含有し、残部がZn及び不純物からなり、式(1)を満たし、
前記めっき鋼線の長手方向に垂直な断面での前記めっき層のうち、合金層を除く本体領域において、
Al及びZnを含有するα相の面積率が20~70%であり、
Zn相と、Zn-Mg相とを含有する共晶相の面積率が10~60%であり、
Sn、Bi及びInのいずれか1種の含有量が1.0%以上である特定濃化領域の面積率が0.5~10.0%である、
めっき鋼線。
4.0≦Mg/(Sn+Bi+In)≦20.0 (1)
ここで、式(1)中の各元素含有量には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0020】
[2]
[1]に記載のめっき鋼線であって、
前記めっき層はさらに、
前記Znの一部に代えて、質量%で、
Si:0.50%以下、
Fe:2.00%以下、
Pb:0.50%以下、
Sr:0.50%以下、
V:0.50%以下、
Cr:0.50%以下、
Mn:0.50%以下、
Ti:0.50%以下、
Be:0.50%以下、
Na:0.50%以下、
K:0.50%以下、
Ca:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
La:0.50%以下、
Ce:0.50%以下、
Hf:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
W:0.50%以下、
Nb:0.50%以下、
Ta:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、及び、
B:0.50%以下、
からなる群から選択される1元素以上を含有する、
めっき鋼線。
【0021】
以下、本実施形態のめっき鋼線について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0022】
[めっき鋼線1について]
図1は、本実施形態のめっき鋼線の長手方向に垂直な断面図である。図1を参照して、本実施形態のめっき鋼線1は、母材鋼線10と、めっき層11とを備える。めっき層11は、母材鋼線10の表面上に形成されている。
【0023】
[母材鋼線10について]
母材鋼線10は、伸線加工が少なくとも1回以上施された線材を意味する。母材鋼線10の鋼種は特に限定されない。めっき鋼線1に求められる機械特性(例えば、引張強度、加工性等)に応じて、母材鋼線10の鋼種を適宜選択すればよい。母材鋼線10の化学組成は特に限定されないが、例えば、JIS G3505(2017)に規定される軟鋼線材の化学組成、又は、JIS G3506(2017)に規定される硬鋼線材の化学組成である。
【0024】
[めっき層11の特徴について]
めっき層11は、合金層12と、本体領域13とを備える。めっき層11は、合金層12を含まなくてもよい。つまり、めっき層11は、本体領域13からなる層であってもよい。
【0025】
めっき層11が合金層12を含む場合、合金層12は、主として、母材鋼線10近傍に形成されている。合金層12は、Znと、Alと、Feとを含有する。合金層12は、主としてZnと、Alと、Feとからなる金属間化合物で構成される。つまり、合金層12は当業者にとって周知の層である。
【0026】
めっき層11は、次の特徴1~4を満たす。
(特徴1)
めっき鋼線のめっき層の化学組成が、質量%で、Al:4.5~15.0%未満、Mg:0.3~4.0%、Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上:0.01~0.50%、Si:0~0.50%、Fe:0~2.00%、Pb:0~0.50%、Sr:0~0.50%、V:0~0.50%、Cr:0~0.50%、Mn:0~0.50%、Ti:0~0.50%、Be:0~0.50%、Na:0~0.50%、K:0~0.50%、Ca:0~0.50%、Cu:0~0.50%、La:0~0.50%、Ce:0~0.50%、Hf:0~0.50%、Mo:0~0.50%、W:0~0.50%、Nb:0~0.50%、Ta:0~0.50%、Co:0~0.50%、Ni:0~0.50%、及び、B:0~0.50%を含有し、残部がZn及び不純物からなる。
(特徴2)
めっき鋼線の長手方向に垂直な断面でのめっき層のうち、合金層を除く本体領域において、
Al及びZnを含有するα相の面積率が20~70%であり、
Zn相と、Zn-Mg相とを含有する共晶相の面積率が10~60%である。
(特徴3)
めっき鋼線の長手方向に垂直な断面でのめっき層のうち、合金層を除く本体領域において、
Sn、Bi及びInのいずれか1種の含有量が1.0%以上である特定濃化領域の面積率が0.5~10.0%である。
(特徴4)
上述の化学組成がさらに、式(1)を満たす。
4.0≦Mg/(Sn+Bi+In)≦20.0 (1)
ここで、式(1)中の各元素含有量には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0027】
以下、めっき層11の各特徴1~4について説明する。
【0028】
[(特徴1)めっき層11の化学組成について]
めっき層11の化学組成は、次の元素を含有する。
【0029】
[必須元素について]
Al:4.5~15.0%未満
アルミニウム(Al)は、犠牲防食によりめっき鋼線1の耐食性を高める。Alはさらに、Mgが含有されるめっき浴において、Mg酸化物の生成を抑制する。Al含有量が4.5%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Al含有量が15.0%以上であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、めっき浴の融点が高くなる。この場合、めっき浴中の酸化物の生成が促進される。そのため、製造工程中に酸化物を除去する必要が生じて、生産効率が低下する。
したがって、Al含有量は4.5~15.0%未満である。
Al含有量の好ましい下限は5.0%であり、さらに好ましくは5.5%であり、さらに好ましくは6.0%である。
Al含有量の好ましい上限は14.0%であり、さらに好ましくは13.5%であり、さらに好ましくは13.0%である。
【0030】
Mg:0.3~4.0%
マグネシウム(Mg)は、犠牲防食によりめっき鋼線1の耐食性を高める。Mg含有量が0.3%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mg含有量が4.0%を超えれば、めっき層のミクロ組織において、Zn及びMgからなる金属間化合物であるZn-Mg相が過剰に多く生成する。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、めっき層11が過剰に硬くなる。そのため、加工時にめっき層の割れが発生しやすくなる。
したがって、Mg含有量は0.3~4.0%である。
Mg含有量の好ましい下限は0.5%であり、さらに好ましくは0.7%であり、さらに好ましくは0.9%である。
Mg含有量の好ましい上限は3.5%であり、さらに好ましくは3.0%であり、さらに好ましくは2.5%である。
【0031】
Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上:0.01~0.50%
すず(Sn)、ビスマス(Bi)及びインジウム(In)は、いずれも、Mgと結合して金属間化合物であるMg-(Sn、Bi、In)相を生成する。Mg-(Sn、Bi、In)相の生成により、Zn-Mg相の生成が抑制される。これにより、めっき層11の加工性が高まる。Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上の合計含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上の合計含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、耐食性が低下する場合がある。
したがって、Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上の合計含有量は0.01~0.50%である。
Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上の合計含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Sn、Bi及びInからなる群から選択される1元素以上の合計含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%である。
なお、Sn含有量、Bi含有量、及び、In含有量の有効数字はいずれも、小数第二位である。
【0032】
めっき層11の化学組成の残部は、Zn及び不純物からなる。ここで不純物とは、めっき層11を工業的に製造する際に、原料、又は、製造環境などから混入されるものであって、本実施形態によるめっき層11に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0033】
[任意元素について]
めっき層11の化学組成はさらに、Znの一部に代えて、
Si:0.50%以下、
Fe:2.00%以下、
Pb:0.50%以下、
Sr:0.50%以下、
V:0.50%以下、
Cr:0.50%以下、
Mn:0.50%以下、
Ti:0.50%以下、
Be:0.50%以下、
Na:0.50%以下、
K:0.50%以下、
Ca:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
La:0.50%以下、
Ce:0.50%以下、
Hf:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
W:0.50%以下、
Nb:0.50%以下、
Ta:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、及び、
B:0.50%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。以下、任意元素について説明する。
【0034】
[Siについて]
Si:0.50%以下
Siは任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Siの含有量は0%であってもよい。
含有される場合、SiはMgと結合してMg-Si相を形成する。Mg-Si相は、めっき鋼線の耐食性を高める。Mg-Sn相が形成されればさらに、Fe-Al相の生成を抑制し、Mg-Zn相の生成を抑制する。これにより、めっき鋼線の加工性が高まる。Siが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Si含有量が0.50%を超えれば、Mg-Si相が過剰に粗大となる。この場合、めっき鋼線の加工性が低下する場合がある。
したがって、Si含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下(0超~0.50%)である。
Si含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Siの含有量の好ましい上限は0.48%であり、さらに好ましくは0.45%であり、さらに好ましくは0.40%である。
【0035】
[Feについて]
Fe:2.00%以下
Feは任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Feの含有量は0%であってもよい。
めっき鋼線の製造工程中において、鋼線中のFeがめっき層に含有される場合がある。この場合、Feは合金層を形成する。合金層はめっき鋼線の耐食性を高める。Feが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Fe含有量が2.00%を超えれば、合金層が過剰に形成される。この場合、めっき鋼線の加工性が低下する。
したがって、Fe含有量は0~2.00%であり、含有される場合、2.00%以下(0超~2.00%)である。
Fe含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Fe含有量の好ましい上限は1.90%であり、さらに好ましくは1.75%であり、さらに好ましくは1.50%である。
【0036】
[Pb、Sr、V、Cr、Mn、Ti、Be、Na、K、Ca、Cu、La、Ce、Hf、Mo、W、Nb、Ta、Co、Ni、及びBについて]
鉛(Pb)、ストロンチウム(Sr)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、ベリリウム(Be)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、銅(Cu)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ハフニウム(Hf)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及び、ボロン(B)はいずれも、任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、これらの元素はいずれも、Mg-(Sn、Bi、In)相の一部に置換して、めっき鋼線の加工性をさらに高める。これらの元素のいずれか1種以上が少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、上述の各元素含有量が0.50%を超えれば、めっき鋼線の加工性がかえって低下する。さらに、Zn-Mg相の生成が抑制され、めっき鋼線の耐食性が低下する。
したがって、Pb、Sr、V、Cr、Mn、Ti、Be、Na、K、Ca、Cu、La、Ce、Hf、Mo、W、Nb、Ta、Co、Ni、及びBの各元素含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下(0超~0.50%)である。
【0037】
Pb、Sr、V、Cr、Mn、Ti、Be、Na、K、Ca、Cu、La、Ce、Hf、Mo、W、Nb、Ta、Co、Ni、及びBの各元素含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Pb、Sr、V、Cr、Mn、Ti、Be、Na、K、Ca、Cu、La、Ce、Hf、Mo、W、Nb、Ta、Co、Ni、及びBの各元素含有量の好ましい上限は0.48%であり、さらに好ましくは0.45%であり、さらに好ましくは0.40%である。
【0038】
[めっき層11の化学組成の分析方法]
めっき層11の化学組成は、次の方法で求める。JIS H0401:1999「溶融亜鉛めっき試験方法」に準拠して、めっき鋼線を塩酸溶液に浸漬してめっき層を溶解し、溶液を得る。得られた溶液に対して、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析を実施して、めっき層の化学組成の元素分析を実施する。
【0039】
なお、各元素含有量は、本実施形態で規定された有効数字に基づいて、測定された数値の端数を四捨五入して、本実施形態で規定された各元素含有量の最小桁までの数値とする。たとえば、めっき層11のAl含有量は小数第一位までの数値で規定される。したがって、Al含有量は、測定された数値の小数第二位を四捨五入して得られた小数第一位までの数値とする。
【0040】
めっき層11のAl含有量以外の他の元素含有量も同様に、測定された値に対して、本実施形態で規定された最小桁までの数値の端数を四捨五入して得られた値を、当該元素含有量とする。
【0041】
なお、四捨五入とは、端数が5未満であれば切り捨て、端数が5以上であれば切り上げることを意味する。
【0042】
[(特徴2)本体領域13でのα相及び共晶相の面積率について]
図2は、図1中のめっき鋼線1の長手方向に垂直な断面でのめっき層11のうち、合金層12を除く本体領域13内のミクロ組織画像である。図2中のT方向は、めっき層11の厚さ方向を意味する。L方向は、めっき鋼線1の長手方向を意味する。C方向は、T方向及びL方向に垂直な方向を意味する。
【0043】
図2を参照して、めっき層11の本体領域13のミクロ組織は、少なくとも次の相を含有する。
(1)α相
(2)共晶相
【0044】
めっき鋼線の長手方向に垂直な断面でのめっき層11のうち、合金層12を除く本体領域13において、Al及びZnを含有するα相の面積率が20~70%であり、Zn相と、Zn-Mg相とを含有する共晶相の面積率が10~60%である。
【0045】
[α相11Aの定義]
α相11Aは、AlとZnからなる。図2に示すとおり、α相は、反射電子像において、共晶相11Bよりも明度の低い領域として特定可能である。図2では、共晶相11Bよりも明度の低い灰色及び黒色の領域が、α相11Aに相当する。より具体的には、反射電子像において共晶相11Bよりも明度が低く、エネルギー分散型X線分析(EDS)において、Al及びZnが検出される領域を、α相11Aと定義する。
【0046】
[共晶相11Bの定義]
共晶相11Bは、少なくとも、Zn相と、Zn-Mg相とを含有する。共晶相11Bはさらに、Al相及び/又はMg-(Sn、Bi、In)相を含有してもよい。図2に示すとおり、共晶相11Bは、少なくとも、α相11Aよりも明度の高いZn相と、α相11Aと明度が同程度のZn-Mg相とが混合した相である。共晶相11Bでは、少なくともZn相とZn-Mg相とが層状又は粒状に混在している。
【0047】
Zn相は、反射電子像においてα相11A及びZn-Mg相よりも明度が高く、かつ、EDSにおいて、Znが検出され、Mgがほぼ検出されない相である。反射電子像において、Zn相は、コントラストにより、α相11A及びZn-Mg相と容易に区別できる。
【0048】
Zn-Mg相は、反射電子像においてZn相よりも明度が低く、かつ、EDSにおいて、Zn及びMgが検出される相である。
【0049】
上述のとおり、共晶相11Bはさらに、Al相及び/又はMg-(Sn、Bi、In)相を含有してもよい。Al相は、反射電子像でα相11A及び共晶相11Bよりも明度が低く、EDSにおいて、Alが検出される相である。
【0050】
Mg-(Sn、Bi、In)相は、Mgと、Sn、Bi及びInからなる群から選択される1種以上を含有する金属間化合物である。Mg-(Sn、Bi、In)相は、反射電子像においてZn相よりも明度が低く、EDSにおいて、Mgと、Sn、Bi及びInからなる群から選択される1種以上とが検出される。ただし、Mg-(Sn、Bi、In)相を反射電子像で特定することは困難であるため、後述の特徴3に記載のとおり、特定濃化領域として、Mg-(Sn、Bi、In)相を認定する。
【0051】
[α相11Aの面積率について]
めっき層11中のα相11Aの面積率は、めっき鋼線1の耐食性及び加工性に影響する。α相11Aの面積率が20%未満であれば、めっき鋼線1において、十分な耐食性及び加工性が得られない。一方、α相11Aの面積率が70%を超えれば、共晶相の面積率が低下する。この場合、めっき鋼線1において、十分な耐食性が得られない。
したがって、α相11Aの面積率は20~70%である。
α相11Aの面積率の好ましい下限は25%であり、さらに好ましくは30%であり、さらに好ましくは35%である。
α相11Aの面積率の好ましい上限は67%であり、さらに好ましくは65%であり、さらに好ましくは60%である。
【0052】
[共晶相11Bの面積率について]
めっき層11中の共晶相11Bの面積率は、めっき鋼線1の耐食性及び加工性に影響する。
共晶相11Bの面積率が10%未満であれば、めっき鋼線1において、十分な耐食性が得られない。一方、共晶相11Bはα相11Aと比較して硬い。そのため、共晶相11Bの面積率が60%を超えれば、めっき鋼線1の加工性が低下する。つまり、めっき鋼線1の加工時において、めっき層11に割れが発生しやすくなる。
したがって、共晶相11Bの面積率は10~60%である。
共晶相11Bの面積率の好ましい下限は15%であり、さらに好ましくは20%であり、さらに好ましくは25%である。
共晶相11Bの面積率の好ましい上限は58%であり、さらに好ましくは55%であり、さらに好ましくは53%である。
【0053】
[本体領域13中のα相11Aの面積率及び共晶相11Bの面積率の測定方法]
めっき鋼線1の長手方向に垂直な断面でのめっき層11のうち、合金層12を除く本体領域13における、α相11Aの面積率及び共晶相11Bの面積率は、次の方法により求めることができる。
【0054】
めっき鋼線1から、めっき層11を含むサンプルを採取する。サンプルの表面のうち、めっき層11を含み、かつ、めっき鋼線1の長手方向に垂直な断面を、観察面と定義する。観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨後の観察面のめっき層11のうち、合金層12を除く本体領域13において、めっき層11の厚さ方向に20μm、めっき層11の厚さ方向及びめっき鋼線1の長手方向に垂直な方向(幅方向)に40μmの領域を、観察領域と定義する。任意の観察領域を4箇所選択する。
【0055】
なお、めっき鋼線1の長手方向に垂直な断面でのSEMの反射電子像において、母材鋼線10と、合金層12と、本体領域13とは、コントラストが互いに異なる。具体的には、合金層12は、本体領域13よりも明度が暗い。したがって、当業者であれば、反射電子像のコントラストにより、母材鋼線10と、合金層12と、本体領域13とを区別可能である。
【0056】
エネルギー分散型X線分析装置(EDS)搭載した走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、各観察領域の反射電子像を生成する。上述のとおり、α相、及び、共晶相は、含有される元素が異なる。そのため、反射電子像において、α相、及び共晶相は、コントラストに基づいて明確に区別することができる。
【0057】
なお、α相、及び共晶相は、EDSの点分析を実施することによっても、明確に区別可能である。EDSの点分析を実施する場合、電子ビームの電流値を70~80nAとし、分析時間を30秒とする。以上の方法により、観察領域中において、α相11A、及び、共晶相11Bを特定する。なお、点分析は観察点CPで実施する。
【0058】
α相11A及び共晶相11Bの面積率を次の交点法を用いて求める。
【0059】
図3は、交点法を説明するための模式図である。図3に示すとおり、40μm×20μmの矩形の観察領域20において、めっき層11の厚さ方向をT方向、T方向に垂直な方向をC方向と定義する。観察領域20の4つの辺のうち、C方向に平行な一対の辺をC方向辺20Cと定義し、T方向に平行な一対の辺をT方向辺20Tと定義する。C方向辺20Cが40μmであり、T方向辺20Tが20μmである。
【0060】
C方向辺20Cと平行であって、T方向に5μmピッチで複数のC方向線分CSを配列する。同様に、T方向辺20Tと平行であって、C方向に5μmピッチで複数のT方向線分TSを配列する。そして、観察領域の4つの頂点、C方向辺20CとT方向線分TSとの交点、T方向辺20TとC方向線分CSとの交点、及び、T方向線分TSとC方向線分CSとの交点を、観察点CPと定義する。
【0061】
各観察点CPに重複する相を上述の方法で特定する。そして、観察点CPの総数に対する、α相11Aと重複する観察点CPの合計数の割合(%)を、α相11Aの面積率(%)と定義する。同様に、観察点CPの総数に対する、共晶相11Bと重複する観察点CPの合計数の割合(%)を、共晶相11Bの面積率(%)と定義する。4つの観察領域で得られたα相11Aの面積率の算術平均値を、めっき鋼線1のα相11Aの面積率(%)とする。同様に、4つの観察領域で得られた共晶相11Bの面積率の算術平均値を、めっき鋼線1の共晶相11Bの面積率(%)とする。
【0062】
[(特徴3)めっき鋼線1中の特定濃化領域の面積率について]
めっき鋼線1ではさらに、めっき鋼線1の長手方向に垂直な断面でのめっき層11のうち、合金層12を除く本体領域13中において、Sn、Bi及びInのいずれか1種の含有量が1.0%以上である特定濃化領域の面積率が0.5~10.0%である。
【0063】
図4は、特徴1~特徴4を満たす本実施形態のめっき層11内の本体領域13内において、電子線マイクロアナライザーを用いた面分析を実施した場合の、Snの元素マッピングを示す図である。図4は後述の特定濃化領域の面積率の測定方法で得られる。
【0064】
図4を参照して、図中の白色領域が、質量%で1.0%以上のSnが検出された特定濃化領域である。このように、特定濃化領域は、Sn、Bi及びInのいずれかの1種の含有量が1.0%以上である領域と定義する。特定濃化領域は、Mg-(Sn、Bi、In)相に相当する。Mg-(Sn、Bi、In)相は微細である場合が多く、ミクロ組織観察で特定するのが極めて困難である。そこで、Mg-(Sn、Bi、In)相を特定濃化領域で代替する。そして、特定濃化領域の面積率を、Mg-(Sn、Bi、In)相の面積率の指標とする。
【0065】
特定濃化領域は、加工時におけるめっき層11の割れの発生を抑制する。特定濃化領域の面積率が0.5%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、特定濃化領域が10.0%を超えれば、Zn-Mg相が過剰に低下する。この場合、特徴1、2及び4を満たすめっき層11であっても、耐食性が低下する。
したがって、特定濃化領域の面積率は0.5~10.0%である。
【0066】
特定濃化領域の面積率の好ましい下限は1.0%であり、さらに好ましくは1.5%であり、さらに好ましくは2.0%である。
特定濃化領域の面積率の好ましい上限は9.5%であり、さらに好ましくは9.0%であり、さらに好ましくは8.5%である。
【0067】
[特定濃化領域の面積率の測定方法]
本体領域13中の特定濃化領域の面積率は、次の方法により求めることができる。
めっき鋼線1から、めっき層11を含むサンプルを採取する。サンプルの表面のうち、めっき層11を含み、かつ、めっき鋼線1の長手方向に垂直な断面を、観察面と定義する。観察面を鏡面研磨する。鏡面研磨後の観察面のめっき層11のうち、合金層12を除く本体領域13において、めっき層11の厚さ方向(T方向)に20μm、めっき層11の厚さ方向(T方向)及びめっき鋼線1の長手方向(L方向)に垂直な方向(C方向)に80μmの領域を、観察領域と定義する。任意の観察領域を4箇所選択する。
【0068】
各観察領域に対して、電子線マイクロアナライザーを用いた面分析を実施する。面分析におけるピクセルのサイズは0.4μm×0.4μmとする。EPMAでのビームの電圧は15.0kVとする。分析時間は50ms/点とする。
【0069】
各ピクセルにおいて、Sn、Bi及びInのいずれか1種の含有量が1.0%以上であれば、当該ピクセルの領域を「特定濃化領域」とする。面分析を実施した各観察領域の面積に対する、特定濃化領域に認定されたピクセルの領域の総面積の割合(%)を、特定濃化領域の面積率(%)と定義する。4つの観察領域で求めた特定濃化領域の面積率の算術平均値を、めっき鋼線1の特定濃化領域の面積率(%)と定義する。
【0070】
[(特徴4)パラメータ式について]
めっき層11の化学組成はさらに、式(1)を満たす。
4.0≦Mg/(Sn+Bi+In)≦20.0 (1)
ここで、式(1)中の各元素含有量には、対応する元素の質量%での含有量が代入される。
【0071】
F1を次のとおり定義する。
F1=Mg/(Sn+Bi+In)
F1はめっき層11における、耐食性及び加工性に関する指標である。めっき層11に含有される元素のうち、Mgは耐食性を顕著に高める。しかしながら、Mgは、めっき層11の硬さを高め、めっき層11の加工性を低下する。
【0072】
一方、めっき層11に含有される元素のうち、Sn、Bi及びInは、めっき層11の加工性を高める。しかしながら、Sn、Bi及びInが過剰に含有されれば、めっき層11の耐食性を低下する。
【0073】
したがって、特徴1~3を満たすめっき層11の耐食性と加工性とを両立するためには、F1を適切な範囲に調整する必要がある。
【0074】
F1が4.0未満である場合、Mg含有量に対するSn、Bi及びInの合計含有量が多い。この場合、めっき鋼線1の耐食性が低下する。
F1が20.0を超える場合、Mg含有量に対するSn、Bi及びInの合計含有量が少ない。この場合、めっき層11の加工性が低いため、めっき鋼線1の加工時において、めっき層11に割れが発生しやすくなる。
【0075】
特徴1~特徴3を満たすめっき層11において、F1が4.0~20.0であれば、めっき鋼線1が優れた耐食性を有し、加工時においてめっき層11に割れが発生するのを抑制できる。
【0076】
F1の好ましい下限は4.5であり、さらに好ましくは5.0であり、さらに好ましくは5.5である。
F1の好ましい上限は19.5であり、さらに好ましくは19.0であり、さらに好ましくは18.5である。
【0077】
[めっき鋼線1のまとめ]
以上のとおり、本実施形態のめっき鋼線1は、母材鋼線10とめっき層11とを備える。そして、めっき層11は、次の特徴1~特徴4を満たす。
[特徴1]めっき層11の化学組成中の各元素含有量は本実施形態の範囲内である。
[特徴2]本体領域13において、α相11Aの面積率が20~70%であり、共晶相11Bの面積率が10~60%である。
[特徴3]本体領域13において、特定濃化領域の面積率が0.5~10.0%である。
[特徴4]めっき層11の化学組成がさらに、式(1)を満たす。
4.0≦Mg/(Sn+Bi+In)≦20.0 (1)
【0078】
本実施形態のめっき鋼線1は、めっき層11が特徴1~特徴4を有するため、優れた耐食性を有し、かつ、加工時においてめっき層11の割れの発生を抑制できる。
【0079】
[めっき鋼線1のその他の構成]
図5図1と異なる構成のめっき鋼線1の長手方向に垂直な断面図である。図5を参照して、めっき層11は、上述のとおり、合金層12を備えなくてもよい。この場合、めっき層11は、本体領域13からなる。
【0080】
[めっき鋼線1の製造方法]
本実施形態のめっき鋼線1の製造方法の一例を説明する。以降に説明するめっき鋼線1の製造方法は、めっき鋼線1を製造するための一例である。したがって、上述の特徴1~4を満たすめっき鋼線1は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。
【0081】
めっき鋼線1の製造工程は、次の工程を含む。
(工程1)鋼線準備工程
(工程2)第1めっき工程
(工程3)第2めっき工程
第2めっき工程の冷却工程では、次に示す3段階の冷却を実施する。
(第1冷却)
めっき浴の温度~340℃までの平均冷却速度CR1:5.0~30.0℃/秒
(第2冷却)
340℃~300℃までの平均冷却速度CR2:5.0~20.0℃/秒
(第3冷却)
300℃~200℃までの平均冷却速度CR3:5.0~1500.0℃/秒
以下、工程1~工程3について説明する。
【0082】
[(工程1)鋼線準備工程]
鋼線準備工程では、周知の方法で製造された鋼線を準備する。
鋼線は第三者から供給されたものであってもよい。鋼線はめっき鋼線の製造者が製造したものであってもよい。鋼線は、線材に対して伸線加工を実施して製造される。伸線加工後の線材に対して周知の焼鈍処理を実施して、鋼線を製造してもよい。焼鈍処理は実施してもよいし、実施しなくてもよい。
【0083】
[(工程2)第1めっき工程]
第1めっき工程では、鋼線準備工程で準備した鋼線に対して、周知の亜鉛めっき処理を実施する。第1めっき工程では、母材鋼線10の表面に、合金層12の下地となる亜鉛めっき層を形成する。これにより、次工程の第2めっき工程で形成される合金層12の母材鋼線10に対する密着性が高まる。亜鉛めっき処理の方法は特に限定されない。亜鉛めっき処理は、周知の溶融亜鉛めっき処理であってもよいし、周知の電気亜鉛めっき処理であってもよい。
【0084】
亜鉛めっき処理前の鋼線に対して、周知の酸洗処理及び/又は周知のフラックス処理を実施してもよい。酸洗処理及び/又はフラックス処理は任意の処理であり、実施しなくてもよい。酸洗色及びフラックス処理により、亜鉛めっき層の母材鋼線10への密着性を高めることができる。
【0085】
[(工程3)第2めっき工程]
第2めっき工程では、亜鉛めっき層が形成された母材鋼線10に対して、溶融めっき処理を実施する。第2めっき工程は、次の工程を含む。
(工程31)前処理工程
(工程32)溶融めっき処理工程
(工程33)冷却工程
以下、各工程について説明する。
【0086】
[(工程31)前処理工程]
前処理工程は任意の工程である。前処理工程は実施しなくてもよい。
前処理工程を実施する場合、前処理工程では、第1めっき工程後の亜鉛めっき層が形成された母材鋼線10に対して、周知の酸洗及び/又は周知のフラックス処理を実施する。
【0087】
[(工程32)溶融めっき処理工程]
浸漬工程では、亜鉛めっき層が形成された母材鋼線10に対して、溶融めっき処理を実施する。具体的には、母材鋼線10をめっき浴に浸漬する。
【0088】
めっき浴の化学組成は、第2めっき工程後に形成されるめっき層11の化学組成が特徴1及び特徴4を満たすように調整される。溶融めっき処理工程中のめっき浴の温度(浴温)及び浸漬時間は周知の範囲でよい。浴温は例えば400~500℃である。浸漬時間は例えば、3~60秒である。
【0089】
[(工程33)冷却工程]
冷却工程では、めっき浴から母材鋼線10を引き上げて冷却する。上述のとおり、冷却工程では、次の3段階の冷却を実施する。3段階冷却を実施することにより、特徴2及び特徴3を満たすめっき層11が母材鋼線10の表面に形成される。
(第1冷却)
めっき浴の温度~340℃までの平均冷却速度CR1:5.0~30.0℃/秒
(第2冷却)
340℃~300℃までの平均冷却速度CR2:5.0~20.0℃/秒
(第3冷却)
300℃~200℃までの平均冷却速度CR3:5.0~1500.0℃/秒
【0090】
第1冷却によりα相11Aを晶出し、第2冷却により、共晶相11B及び特定濃化領域を晶出する。そして、第3冷却により、α相11A、共晶相11B、及び特定濃化領域が特徴2及び特徴3を満たすようにめっき層11を形成する。以下、第1冷却~第3冷却について説明する。
【0091】
[第1冷却]
めっき浴の温度(浴温)~340℃までの温度域では、めっきの液相から凝固が開始する初期過程であり、α相11Aが晶出する。そこで、浴温~340℃の温度域での平均冷却速度CR1を5.0~30.0℃/秒とする。
【0092】
平均冷却速度CR1が5.0℃/秒未満であれば、α相11Aが粗大となり、晶出量が多くなる場合がある。この場合、めっき層11中のα相11Aの面積率が70%を超える。一方、平均冷却速度CR1が30.0℃/秒を超えれば、α相11Aが十分に晶出する前に、めっき層11の温度がα相11Aの晶出温度域未満となってしまう場合がある。この場合、α相11Aの面積率が20%未満となる。
【0093】
平均冷却速度CR1が5.0~30.0℃/秒であれば、他の冷却条件を満たすことを前提として、めっき層11中のα相11Aの面積率が20~70%となる。
【0094】
平均冷却速度CR1の好ましい下限は6.0℃/秒であり、さらに好ましくは7.0℃/秒である。平均冷却速度CR1の好ましい上限は25.0℃/秒であり、さらに好ましくは20.0℃/秒である。
【0095】
平均冷却速度CR1は、次の方法で求めることができる。めっき浴から引き上げられた母材鋼線10の温度を、測温計で測温する。測温計はたとえばサーモグラフィーである。母材鋼線10の温度が浴温から340℃になるまでの時間を測定する。温度域及び測定された時間に基づいて、平均冷却速度CR1(℃/秒)を求める。
【0096】
[第2冷却]
340~300℃の温度域では、共晶相11Bが晶出する。さらに、共晶相11Bの晶出とともに、特定濃化領域も形成される。そこで、340℃~300℃の温度域での平均冷却速度CR2を5.0~20.0℃/秒とする。
【0097】
平均冷却速度CR2が5.0℃/秒未満であれば、Zn-Mg相が粗大化する場合がある。この場合、共晶相11Bの晶出量が多くなる。その結果、めっき鋼線の加工性が低下する。この場合、めっき層11中の共晶相11Bの面積率が60%を超える。一方、平均冷却速度CR2が20.0℃/秒を超えれば、Mg-(Sn、Bi、In)相の晶出が少なくなり、特定濃化領域が小さくなる場合がある。
【0098】
平均冷却速度CR2が5.0~20.0℃/秒であれば、他の冷却条件を満たすことを前提として、めっき層11中の共晶相11Bの面積率が10~60%となり、特定濃化領域が0.5~10.0%となる。
【0099】
平均冷却速度CR2の好ましい下限は6.0℃/秒であり、さらに好ましくは7.0℃/秒である。平均冷却速度CR2の好ましい上限は18.0℃/秒であり、さらに好ましくは16.0℃/秒である。
【0100】
平均冷却速度CR2は、次の方法で求めることができる。測温計を用いて、母材鋼線10の温度が340℃~300℃になるまでの時間を測定する。温度域及び測定された時間に基づいて、平均冷却速度CR2(℃/秒)を求める。
【0101】
[第3冷却]
300℃~200℃の温度域では、α相11A、共晶相11B、特定濃化領域が粗大化したり、分解して縮小したりする。そこで、300~200℃の温度域での平均冷却速度CR3を5.0~1500.0℃/秒とする。
【0102】
平均冷却速度CR3が5.0℃/秒未満であれば、元素の拡散等により、α相11A、共晶相11B、又は、特定濃化領域13の面積率が変化する。この場合、めっき鋼線の耐食性又は加工性が低下する場合がある。したがって、平均冷却速度CR3を5.0℃/秒以上とする。
【0103】
平均冷却速度CR3の好ましい下限は10.0℃/秒であり、さらに好ましくは15.0℃/秒であり、さらに好ましくは20.0℃/秒であり、さらに好ましくは25.0℃/秒であり、さらに好ましくは30.0℃/秒であり、さらに好ましくは35.0℃/秒であり、さらに好ましくは40.0℃/秒である。
【0104】
平均冷却速度CR3の上限は特に限定されない。しかしながら、設備能力を考慮すれば、平均冷却速度CR3の上限は例えば1500.0℃/秒である。
【0105】
平均冷却速度CR3は、次の方法で求めることができる。測温計を用いて、母材鋼線10の温度が300℃~200℃になるまでの時間を測定する。温度域及び測定された時間に基づいて、平均冷却速度CR3(℃/秒)を求める。
【0106】
以上の製造工程により、本実施形態によるめっき鋼線が製造される。
【実施例0107】
本実施形態のめっき鋼線の効果を実施例によりさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態のめっき鋼線の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態のめっき鋼線はこの一条件例に限定されない。
【0108】
[めっき鋼線の製造]
次の方法により、めっき鋼線を製造した。
初めに、JIS G3505(2017)に規定される軟鋼線材の化学組成を有する鋼線を準備した。具体的には、線径が5.5mmの線材を準備した。線材に対して伸線加工を実施し、その後、焼鈍処理を実施して、線径2.0mmの鋼線を製造した。以上の工程により、鋼線を準備した。
【0109】
準備した鋼線に対して、第1めっき工程を実施した。初めに、鋼線に対して、周知の方法で酸洗、及び、フラックス処理を実施した。フラックス処理後の鋼線に対して、周知の方法で溶融亜鉛めっき処理を実施して、鋼線の表面に亜鉛めっき層を形成した。
【0110】
亜鉛めっき層が形成された鋼線に対して、第2めっき工程を実施した。製造後のめっき鋼線のめっき層が表1-1及び表1-2の化学組成を有するように、各試験番号のめっき浴を準備した。各試験番号の亜鉛めっき層が形成された鋼線に対して、同じ条件で周知のフラックス処理を実施した。その後、準備しためっき浴に鋼線を浸漬して、溶融めっき処理を実施した。このとき、めっき浴の浴温は440~470℃であり、浸漬時間は5~30秒であった。
【0111】
【表1-1】
【0112】
【表1-2】
【0113】
表1-1及び表1-2中の「-」部分は、対応する元素含有量が実施形態に規定の桁数において、0%であることを意味する。換言すれば、対応する元素含有量において、上述の実施形態で規定の桁数での端数を四捨五入した場合に0%であることを意味する。たとえば、本実施形態のBi含有量は小数第二位までの数値で規定されている。したがって、表1中の試験番号1では、測定されたBi含有量の小数第三位を四捨五入した場合に、0%であったことを意味する。なお、四捨五入とは、規定された桁の下の桁(端数)が5未満であれば切り捨て、5以上であれば切り上げることを意味する。表1に記載の元素以外の残部は、Zn及び不純物であった。
【0114】
めっき浴からめっき鋼線を引き出し、冷却を実施した。第1冷却、第2冷却及び第3冷却での平均冷却速度を表2に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
以上の製造工程により、各試験番号のめっき鋼線を製造した。
【0117】
[評価試験]
各試験番号のめっき鋼線に対して、次の評価試験を実施した。
(試験1)めっき層のα相及び共晶相の面積率の測定試験
(試験2)特定濃化領域の面積率の測定試験
(試験3)耐食性評価試験
(試験4)加工性評価試験
以下、試験1~試験4について説明する。
【0118】
[(試験1)めっき層のα相及び共晶相の面積率の測定試験]
各試験番号のめっき鋼線のめっき層中のα相及び共晶相の面積率を、上述の[本体領域13中のα相11Aの面積率及び共晶相11Bの面積率の測定方法]に記載の方法により求めた。得られたα相の面積率(%)及び、共晶相の面積率(%)を表2に示す。
【0119】
[(試験2)特定濃化領域の面積率の測定試験]
各試験番号のめっき鋼線のめっき層中の特定濃化領域の面積率を、上述の[特定濃化領域の面積率の測定方法]に記載の方法により求めた。得られた特定濃化領域の面積率(%)を表2に示す。
【0120】
[(試験3)耐食性評価試験]
各試験番号のめっき鋼線の耐食性評価試験を、次の方法で実施した。
各試験番号のめっき鋼線を長手方向に垂直に切断して、長さ200mmの試験片を採取した。試験片を用いて、JIS H 8052:1999に準拠した中性塩水噴霧サイクル試験を実施した。中性塩水噴霧サイクル試験は、JASO M609で規定された条件で実施した。具体的には、JASO M609で規定された条件として、次の工程を実施した。
(ステップ1:塩水噴霧工程)
試験槽内に試験片を収納する。試験槽内の温度を35±1℃とし、噴霧溶液を5%NaCl水溶液として、噴霧溶液を試験槽内で2時間噴霧し続ける。
(ステップ2:乾燥工程)
噴霧溶液の噴霧を停止する。そして、試験片を収納したまま試験槽内の温度を60±1℃、相対湿度RHを20~30%以上として、4時間保持する。
(ステップ3:湿潤工程)
試験片を収納したまま試験槽内の温度を50±1℃、相対湿度を95%以上として、2時間保持する。
ステップ1、2、3の順に、実施し、かつ、ステップ1~3を1サイクルとして、30サイクル繰り返し実施した。なお、試験片(めっき鋼線)の端部は樹脂などで養生し、試験片の端部から腐食が発生及び進行しないようにした。
【0121】
30サイクル実施後、各試験番号の試験片の腐食減量を測定した。腐食減量が50g/m未満の場合は、めっき鋼線の耐食性が高いと判断した。(表2中の「耐食性」欄で「E」(Excellent)で表記)。腐食減量が50g/m以上の場合は、めっき鋼線の耐食性が低いと判断した(表2中の「耐食性」欄で「B」(Bad)で表記)。
【0122】
[(試験4)加工性評価試験]
各試験番号のめっき鋼線を長手方向に垂直に切断して、長さ400mmの試験片を採取した。試験片の直径はめっき鋼線の直径と同じであった。
試験片を、直径が6.0mmの芯材に5周巻き付けた。このとき、巻き付け方向は、なるべく芯材の長手方向に垂直な方向となるように調整した。巻き付け時、試験片が重ならないように、かつ、隣り合う試験片部分の隙間がなるべく小さくなるように、試験片をらせん状に芯材に巻き付けた。
巻き付けた後、試験片の表面(つまり、めっき層の表面)の割れの有無を目視で確認した。めっき層の表面に鋼線の長手方向に幅100μm以上の割れが確認された場合、加工時にめっき層に割れが発生した判断した(表2中の「加工性」欄で「B」(Bad)で表記)。一方、めっき層の表面に上述の割れが確認できなかった場合、加工時にめっき層の割れが抑制できたと判断した(表2中の「加工性」欄で「E」(Excellent)で表記)。
【0123】
[試験結果]
表2に試験結果を示す。表1-1、表1-2、及び、表2を参照して、試験番号1~45のめっき鋼線では化学組成が適切であり、製造方法も適切であった。そのため、これらの試験番号のめっき鋼線は特徴1~特徴4を満たした。その結果、耐食性に優れ、かつ、加工時のめっき層の割れの発生を十分に抑制できた。
【0124】
一方、試験番号46では、めっき層中のAl含有量が低すぎた。そのため、めっき鋼線の耐食性が低かった。
【0125】
試験番号47では、めっき層中のAl含有量が高すぎた。そのため、めっき層中のα相の面積率が高すぎた。その結果、めっき鋼線の耐食性が低かった。
【0126】
試験番号48では、めっき層中のMg含有量が低すぎた。そのため、めっき層中の共晶相の面積率が低すぎた。その結果、めっき鋼線の耐食性が低かった。
【0127】
試験番号49では、めっき層中のMg含有量が低すぎた。そのため、めっき層中の共晶相の面積率が高すぎた。その結果、めっき鋼線の加工時において、めっき層の割れの発生を十分に抑制できなかった。
【0128】
試験番号50では、めっき層中のSn、Bi及びInの合計含有量が低すぎた。そのため、特定濃化領域の面積率が低すぎた。その結果、めっき鋼線の加工時において、めっき層の割れの発生を十分に抑制できなかった。
【0129】
試験番号51~54では、めっき層中のSn、Bi及びInの合計含有量が高すぎた。そのため、特定濃化領域の面積率が高すぎた。その結果、めっき鋼線の耐食性が低かった。
【0130】
試験番号55及び56では、F1が式(1)の下限未満であった。そのため、めっき鋼線の耐食性が低かった。
【0131】
試験番号57及び58では、F1が式(1)の上限を超えた。そのため、めっき鋼線の加工時において、めっき層の割れの発生を十分に抑制できなかった。
【0132】
試験番号59では、平均冷却速度CR1が遅すぎた。そのため、めっき層中のα相の面積率が高すぎた。その結果、めっき鋼線の耐食性が低かった。
【0133】
試験番号60では、平均冷却速度CR1が速すぎた。そのため、めっき層中のα相の面積率が低すぎ、共晶相の面積率が高すぎた。その結果、めっき鋼線の加工時において、めっき層の割れの発生を十分に抑制できなかった。
【0134】
試験番号61では、平均冷却速CR2が遅すぎた。そのため、めっき層中の共晶相の面積率が高すぎた。その結果、めっき鋼線の加工時において、めっき層の割れの発生を十分に抑制できなかった。
【0135】
試験番号62では、平均冷却速度CR2が速すぎた。そのため、特定濃化領域の面積率が低かった。その結果、めっき鋼線の加工時において、めっき層の割れの発生を十分に抑制できなかった。
【0136】
試験番号63では、平均冷却速度CR3が遅すぎた。そのため、特定濃化領域の面積率が低すぎた。その結果、めっき鋼線の耐食性が低下した。
【0137】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 めっき鋼線
10 母材鋼線
11 めっき層
11A α相
11B 共晶相
12 合金層
13 本体領域
図1
図2
図3
図4
図5