(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023104942
(43)【公開日】2023-07-28
(54)【発明の名称】熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230721BHJP
C09K 5/10 20060101ALI20230721BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C08J5/18 CEQ
C08J5/18 CES
C09K5/10 E
H01L23/36 D
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023077763
(22)【出願日】2023-05-10
(62)【分割の表示】P 2020132566の分割
【原出願日】2017-07-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】浜田 晶啓
(57)【要約】
【課題】熱伝導性、柔軟性、及び取り扱い性に優れる熱伝導シートを提供することを課題とする。
【解決手段】熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であることを特徴とする、熱伝導シートである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であることを特徴とする、熱伝導シート。
【請求項2】
さらに樹脂を含有する、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記熱伝導性フィラーが非球状フィラーである、請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラーのアスペクト比が10以上である、請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項5】
前記熱伝導性フィラーの長軸がシート面に対して60°以上の角度で配向している、請求項1~4のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項6】
前記樹脂の25℃における粘度が10~2000Pa・sである、請求項2~5のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項7】
前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して180~700質量部である、請求項2~6のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
前記熱伝導性フィラーの体積割合が、35~75体積%である、請求項1~7のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項9】
前記熱伝導性フィラーが球状フィラーである、請求項1又は2に記載の熱伝導シート。
【請求項10】
前記樹脂の粘度が10Pa・s以下である、請求項2又は9に記載の熱伝導シート。
【請求項11】
前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して1000~3000質量部である、請求項2、9、又は10のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項12】
前記熱伝導性フィラーの体積割合が、65~95体積%である、請求項1、2、9、10、又は11のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項13】
少なくとも一方の表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大きい、請求項1~12のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項14】
前記熱伝導性フィラーの熱伝導率が12W/m・k以上である、請求項1~13のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項15】
前記樹脂のガラス転移温度が25℃以下である、請求項2~14のいずれかに記載の熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導シートは、主に、半導体パッケージのような発熱体と、アルミニウムや銅等の放熱体との間に配置して、発熱体で発生する熱を放熱体に速やかに移動させる機能を有する。近年、半導体素子の高集積化や半導体パッケージにおける配線の高密度化によって、半導体パッケージの単位面積当たりの発熱量が大きくなっており、これに伴い、従来の熱伝導シートに比べ、熱伝導率が向上した、より速やかな熱放散を促すことができる熱伝導シートへの需要が高まってきている。
また、様々な形状を有する半導体パッケージ等の発熱体に密着させるために、形状追従性のよい柔軟な熱伝導シートが望まれている。
特許文献1には、熱伝導性充填剤が配合された高熱伝導性シリコーンゴムに関する発明が記載されており、熱伝導率が8.0W/mK程度の高熱伝導性を達成できることが示されている。また、特許文献2には、液状シリコーンと熱伝導性フィラーとが配合されたパテ状放熱シートに関する発明が記載されており、3W/m・K以上の高熱伝導性を達成できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-325212号公報
【特許文献2】特開2005-42096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の高熱伝導性シリコーンゴムは、熱伝導性は高いものの、デュロメーターA硬さが90程度と硬く、柔軟性の点に関しては、改善の余地があった。
また、特許文献2に記載のパテ状放熱シートは、熱伝導性が高く、また柔軟性にも比較的優れていると考えられる。しかし、フィルム等の被着体から剥離する際に、きれいに剥がすことが難しく、例えば、途中で千切れる(破断する)などの不良が発生しやすく、取り扱い性が良好ではなかった。
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、熱伝導性、柔軟性、及び取り扱い性に優れる熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の熱伝導率、30%圧縮強度、及び引張強度を有する熱伝導シートが上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[15]に関する。
【0006】
[1]熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上であることを特徴とする、熱伝導シート。
[2]さらに樹脂を含有する、上記[1]に記載の熱伝導シート。
[3]前記熱伝導性フィラーが非球状フィラーである、上記[1]又は[2]に記載の熱伝導シート。
[4]前記熱伝導性フィラーのアスペクト比が10以上である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導シート。
[5]前記熱伝導性フィラーの長軸がシート面に対して60°以上の角度で配向している、上記[1]~[4]のいずれかに記載の熱伝導シート。
[6]前記樹脂の25℃における粘度が10~2000Pa・sである、上記[2]~[5]のいずれかに記載の熱伝導シート。
[7]前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して180~700質量部である、上記[2]~[6]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[8]前記熱伝導性フィラーの体積割合が、35~75体積%である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[9]前記熱伝導性フィラーが球状フィラーである、上記[1]又は[2]に記載の熱伝導シート。
[10]前記樹脂の粘度が10Pa・s以下である、上記[2]又は[9]に記載の熱伝導シート。
[11]前記熱伝導性フィラーの含有量が、樹脂100質量部に対して1000~3000質量部である、上記[2]、[9]又は[10]のいずれかに記載の熱伝導シート。
[12]前記熱伝導性フィラーの体積割合が、65~95体積%である、上記[1]、[2]、[9]、[10]、又は[11]のいずれかに記載の熱伝導シート。
[13]少なくとも一方の表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大きい、上記[1]~[12]のいずれかに記載の熱伝導シート。
[14]前記熱伝導性フィラーの熱伝導率が12W/m・k以上である、上記[1]~[13]のいずれかに記載の熱伝導シート。
[15]前記樹脂のガラス転移温度が25℃以下である、上記[2]~[14]のいずれかに記載の熱伝導シート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、熱伝導性、柔軟性、及び取り扱い性に優れる熱伝導シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】積層体からなる熱伝導シートの模式的断面図である。
【
図2】積層体からなる熱伝導シートの使用状態における模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[熱伝導シート]
本発明の熱伝導シートは、熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートであって、熱伝導率が7W/mK以上であり、30%圧縮強度が1500kPa以下であり、引張強度が0.08MPa以上である、熱伝導シートである。
熱伝導性フィラーを含有する熱伝導シートは、一般に、熱伝導性を高めるために、熱伝導性フィラーを多く含有させると、柔軟性が低下する傾向があるが、本発明の熱伝導シートは、高熱伝導率と良好な柔軟性とを両立させた熱伝導シートである。これに加えて、本発明の熱伝導シートは、一定値以上の引張強度を有しており、例えば、被着体から剥がす際に破断し難いなどの取り扱い性も優れている。すなわち、本発明の熱伝導シートは、熱伝導性、柔軟性、取り扱い性の物性バランスに優れる熱伝導シートである。
【0010】
本発明の熱伝導シートは、上記したように各種物性に優れる熱伝導シートである。該良好な物性は、熱伝導シートを構成する熱伝導性フィラー等の個々の構造、組成などを適切に調整することにより達成される。
【0011】
(樹脂)
本発明の熱伝導シートは樹脂を含有することが好ましい。熱伝導シートを構成する樹脂の種類としては、特に制限されないが、柔軟性を良好とする観点から、ゴム、エラストマー樹脂であることが好ましい。
ゴム、エラストマー樹脂のガラス転移温度は、室温以下(例えば25℃以下)であることが好ましい。このようなゴム、エラストマー樹脂を用いた熱伝導シートは、柔軟性に優れる。
【0012】
ゴム、エラストマー樹脂の種類としては、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム、液状アクリロニトリルブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、液状エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、液状エチレン-プロピレンゴム、天然ゴム、液状天然ゴム、ポリイソプレンゴム、液状ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、液状ポリブタジエンゴム、水素添加ポリブタジエンゴム、液状水素添加ポリブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、液状スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体、液状水素添加スチレン-ブタジエンブロック共重合体、水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、液状水素添加スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体、液状水素添加スチレン-イソプレンブロック共重合体、水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、液状水素添加スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、シリコーン、液状シリコーン、アクリルゴム、液体アクリルゴム(なお、アクリルゴムとは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを含むモノマーの重合物を意味する)等が挙げられ、これらの中では、液状のゴム、エラストマー樹脂が好ましく、液状アクリロニトリルブタジエンゴム、液状エチレン-プロピレン-ジエンゴム、液状ポリイソプレンゴム、液状ポリブタジエンゴム、液状シリコーンが好ましい。また、上記液状でないゴム、エラストマー樹脂は柔軟性を得る為、液状の同系等の樹脂と混練し、用いることが好ましい。
【0013】
熱伝導シートの柔軟性を向上させる観点から、樹脂は液状であることが好ましく、樹脂の25℃における粘度は、好ましくは2000Pa・s以下であり、より好ましくは1000Pa・s以下であり、更に好ましくは200Pa・s以下であり、そして好ましくは1Pa・s以上である。また、樹脂を2種以上混合して使用する場合は、混合した後の粘度が上記のとおりであることが好ましい。
熱伝導シートの熱伝導性、柔軟性、取り扱い性を良好とする観点から、樹脂の粘度は、後述する熱伝導性フィラーの種類に応じて、適宜調整することが好ましい。
【0014】
(熱伝導性フィラー)
本発明の熱伝導シートを構成する熱伝導性フィラーは熱伝導シート中に分散されている。より具体的には上記樹脂に分散されている。熱伝導性フィラーの熱伝導率は特に限定されないが、好ましくは12W/m・K以上であり、より好ましくは15~70W/m・K、さらに好ましくは25~70W/m・Kである。
熱伝導性フィラーの材質としては、例えば、炭化物、窒化物、酸化物、水酸化物、金属、炭素系材料などが挙げられる。
炭化物としては、例えば、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化タングステンなどが挙げられる。
窒化物としては、例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化ホウ素ナノチューブ、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化クロム、窒化タングステン、窒化マグネシウム、窒化モリブデン、窒化リチウムなどが挙げられる。
酸化物としては、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)(酸化アルミニウムの水和物(ベーマイトなど)を含む。)、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウムなどが挙げられる。また、酸化物として、チタン酸バリウムなどの遷移金属酸化物などや、さらには、金属イオンがドーピングされている、例えば、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズなどが挙げられる。
【0015】
水酸化物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
金属としては、例えば、銅、金、ニッケル、錫、鉄、または、それらの合金が挙げられる。
炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、ダイヤモンド、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、ナノホーン、カーボンマイクロコイル、ナノコイルなどが挙げられる。
【0016】
上記以外の熱伝導性フィラーとして、ケイ酸塩鉱物であるタルクを挙げることができる。
これら熱伝導性フィラーは、単独使用または2種類以上併用することができる。熱伝導性フィラーは、熱伝導性の観点からは、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、グラフェン、窒化ホウ素ナノチューブ、カーボンナノチューブ、及びダイヤモンドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、熱伝導性フィラーが、後述する非球状フィラーの場合には、窒化ホウ素、グラフェンの少なくとも何れかであることが好ましく、一方で、球状フィラーの場合には酸化アルミニウムが好ましい。さらに電気絶縁性が要求される用途では、窒化ホウ素がより好ましい。
【0017】
熱伝導性フィラーの形状は、特に限定されず、球状フィラーでも非球状フィラーでもよい。ここで、「球状」とは長径/短径比が平均で1.0~2.0、好ましくは1.0~1.5の形状であることを意味し、必ずしも真球であることを意味しない。また、「非球状」とは上記球状以外の形状を意味する。
【0018】
熱伝導性フィラーの平均粒子径は、好ましくは0.1~300μm、より好ましくは0.5~100μm、更に好ましくは5~50μmである。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により粒度分布を測定して求めることができる。
【0019】
熱伝導シート中の熱伝導性フィラーの含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは180~3000質量部であり、より好ましくは200~2500質量部である。
熱伝導性フィラーの含有量は、後述するように、フィラーの形状に応じて、適宜調整することが好ましい。
【0020】
(その他の添加剤)
本発明の熱伝導シートには、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、前記熱伝導性フィラー以外の充填材、分解温度調整剤等の熱伝導シートに一般的に使用する添加剤を配合されてもよい。
【0021】
(熱伝導シートの物性)
熱伝導シートの熱伝導率は、シートの放熱性を良好とする観点から、好ましくは8W/m・K以上であり、より好ましくは10W/m・K以上である。また、熱伝導シートの熱伝導率は、通常、100W/m・K以下であり、好ましくは20W/m・K以下である。
熱伝導シートの30%圧縮強度は、シートの柔軟性を良好とする観点から、好ましくは1000kPa以下、より好ましくは800kPa以下、更に好ましくは500kPa以下である。また、熱伝導シートの30%圧縮強度は、通常50kPa以上であり、好ましくは200kPa以上である。
熱伝導シートの引張強度は、シートの取り扱い性を良好とする観点から、好ましくは0.1MPa以上である。また、熱伝導シートの引張強度は、柔軟性の観点から好ましくは1.5MPa以下である。
【0022】
熱伝導シートは、熱伝導性フィラーや樹脂の種類に応じて、架橋が必要な場合には架橋すればよい。熱伝導シートの架橋度はゲル分率で示される。
熱伝導シートの全体のゲル分率は、柔軟性を良好とする観点から、好ましくは50%以下であり、より好ましくは40%以下であり、更に好ましくは20%以下である。
上記した、熱伝導率、30%圧縮強度、引張強度、及びゲル分率は、実施例に記載の方法により測定することができる。
また、取り扱い性をより良好とする観点から、少なくもと一方の表層部のゲル分率を、内層部のゲル分率よりも大きくしてもよく、両方の表層部のゲル分率を、内層部のゲル分率よりも大きくしてもよい。ゲル分率は、樹脂の架橋の程度と相関し、一般に架橋の程度が大きいほど、ゲル分率は大きくなる。表層部のゲル分率を内層部より大きくする方法は特に限定されないが、例えば、後述する電子線照射により行う場合は、電子線の加速電圧及び照射量を調整すればよい。
なお、表層部とは、熱伝導シートの厚みに対して表面(シート面)から25%までの領域をいい、内層部とは表層部以外の領域を意味する。
【0023】
本発明の熱伝導シートに含有される熱伝導性フィラーは、球状フィラー、非球状フィラーのいずれでもよいが、フィラーの形状によって、所望のシート物性を達成するための好適なフィラー含量、樹脂の種類、熱伝導シートの構造等が異なる。以下、個別に説明する。
【0024】
[非球状フィラーを含有する熱伝導シート(A)]
本発明の熱伝導シートが、熱伝導性フィラーとして非球状フィラーを含有する熱伝導シート(A)である場合について説明する。非球状フィラーを用いることにより、球状フィラーを用いる場合と比較して、熱伝導シートの引張強度が高くなりやすく、そのため取り扱い性が良好となりやすい。また、比較的少量で、熱伝導性を向上させ易いため、良好な柔軟性と高熱伝導性とを両立させた熱伝導シートを得やすい。
【0025】
非球状フィラーとしては、例えば、鱗片状、薄片状などの板状フィラー、針状フィラー、繊維状フィラー、樹枝状フィラー、不定形状フィラーなどが挙げられる。熱伝導シートの熱伝導性を良好とする観点から、板状フィラーが好ましく、板状フィラーの中でも、鱗片状フィラーが好ましい。
熱伝導性フィラーのアスペクト比は、熱伝導性を向上させる観点から、10以上であることが好ましく、15以上であることがより好ましい。
熱伝導シート(A)では、アスペクト比が高い熱伝導性フィラーを後述するように高い配向角度で配向させることで、厚さ方向の熱伝導性を一層向上させることが可能である。
なお、アスペクト比とは、熱伝導性フィラーの最大長さの最小長さ(最大長さに対して垂直方向)に対する比(最大長さ/最小長さ)であり、例えば、形状が板状である場合は、フィラーの最大長さの厚みに対する比(最大長さ/厚み)である。アスペクト比は走査型電子顕微鏡で、十分な数(例えば250個)の熱伝導性フィラーを観察して平均値として求めるとよい。
【0026】
熱伝導性フィラーの最小長さ(板状フィラーの場合は厚さに相当)は、熱伝導率を向上させる観点から、好ましくは0.05~500μm、より好ましくは0.25~250μmである。
【0027】
熱伝導シート(A)が樹脂を含有する場合、熱伝導シート(A)中の熱伝導性フィラーの含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは180~700質量部であり、より好ましくは200~600質量部であり、更に好ましくは300~500質量部である。180質量部以上であると熱伝導性が高くなり、本発明で規定する熱伝導率を達成し易くなる。また、700質量部以下であると柔軟性が良好となりやすい。
【0028】
熱伝導シート(A)中の熱伝導性フィラーの体積割合は、好ましくは35~75体積%であり、より好ましくは40~65体積%である。かかる熱伝導性フィラーの体積割合は、熱伝導シート全量基準での値であり、熱伝導シートを構成する各成分の質量から算出可能である。例えば、各成分の質量を各成分の23℃における密度で除することによって算出可能である。
【0029】
熱伝導シート(A)において、熱伝導性フィラーの長軸が熱伝導シートの表面であるシート面に対して45°より大きい角度で配向していることが好ましく、より好ましくは50°以上、更に好ましくは60°以上、更に好ましくは70°以上、更に好ましくは80°以上の角度で配向していることが好ましい。熱伝導性フィラーがこのような配向をしている場合は、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が向上する。なお、熱伝導性フィラーの長軸は、前記した熱伝導性フィラーの最大長さと方向が一致している。
【0030】
上記角度は、熱伝導シートの厚さ方向の断面を走査型電子顕微鏡により観察することにより測定できる。例えば、まず、熱伝導シートの厚み方向の中央部分の薄膜切片を作製する。そして、走査型電子顕微鏡(SEM)により倍率3000倍で該薄膜切片中の熱伝導性フィラーを観察し、観察されたフィラーの長軸と、シート面を構成する面とのなす角度を測定することにより、求めることができる。本明細書において、45°、50°、60°、70°、80°以上の角度とは、上記のように測定された値の平均値がその角度以上であることを意味する。例えば「70°以上の角度で配向している」は、70°は平均値であるため、配向角度が70°未満の熱伝導性フィラーの存在を否定するものではない。なお、なす角度が90°を超える場合は、その補角を測定値とする。
【0031】
熱伝導シート(A)において、樹脂の25℃における粘度は、好ましくは10~2000Pa・sであり、より好ましくは20~1000Pa・sであり、更に好ましくは30~200Pa・sである。樹脂の粘度を10Pa・s以上とすることにより、熱伝導シートの成形が容易になる。一方、樹脂の粘度を2000Pa・s以下とすることにより、熱伝導シートの圧縮強度が低くなり、柔軟性が向上する。
なお、樹脂の粘度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0032】
熱伝導シート(A)の全体のゲル分率は、柔軟性を良好とする観点から、好ましくは50%以下であり、より好ましくは40%以下であり、更に好ましくは20%以下である。
また、熱伝導シート(A)の表層部のゲル分率は、内層部のゲル分率と同じでもよいし、表層部のゲル分率の方が、内層部のゲル分率より高くてもよい。
【0033】
(積層体)
本発明の熱伝導シート(A)は単層でもよいし、積層体でもよい。熱伝導性を良好とする観点から、樹脂及び非球状フィラーを含む樹脂層が積層された積層体が好ましい。以下、樹脂及び非球状フィラーを含む樹脂層が積層された積層体の実施形態の一例を
図1により説明する。
図1においては、非球状フィラーである板状の熱伝導性フィラー6の存在を明確にするため、樹脂の断面であることを表すハッチングを省略している。また、各図において、各フィラーは上下に隣接するフィラーと重複しているが、本発明においてフィラー同士の重複は必須ではない。
図1に示すように、熱伝導シート1は、複数の樹脂層2を積層した構造を有している。複数の樹脂層2の積層面に対する垂直面が樹脂シート1の表面であるシート面5となる。
【0034】
熱伝導シート1の厚み(すなわち、シート面5とシート面5との間の距離)は特に限定されないが、例えば、0.1~30mmの範囲とすることができる。
樹脂層2の1層の厚み(樹脂層幅)は特に限定されないが、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下であり、そして、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1μm以上とすることができる。このように厚みを調整することにより、熱伝導性を高めることができる。
樹脂層2は、熱伝導性フィラー6を含有する熱伝導性樹脂層7である。熱伝導性樹脂層7は、樹脂8中に熱伝導性の熱伝導性フィラー6が分散された構造を有する。
各樹脂層2においては、熱伝導性フィラーは、上記のようにシート面に対して45°より大きい角度、より好ましくは50°以上、更に好ましくは60℃以上、更に好ましくは70°以上、更に好ましくは80°以上の角度で配向している。
【0035】
熱伝導性樹脂層7の厚みは、熱伝導性樹脂層7中に含まれる熱伝導性フィラー6の厚みの好ましくは1~1000倍、より好ましくは1~500倍である。
熱伝導性樹脂層7の幅を上記範囲とすることにより、熱伝導性フィラー6を、その長軸が、前記シート面に対して90°に近い角度に配向させやすくなる。なお熱伝導性樹脂層7の幅は、上記範囲内であれば均等でなくてもよい。
【0036】
[熱伝導シート(A)の製造方法]
本発明の熱伝導シート(A)の製造方法は、特に限定されないが、単層の熱伝導シート(A)を製造する場合は、例えば、非球状の熱伝導性フィラー、樹脂、及び必要に応じて添加剤を押出機に供給し溶融混練して、押出機からシート状に押出すことによって熱伝導シートを成形すればよい。
【0037】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体からなる熱伝導シート(A)の製造方法は、特に限定されないが、以下に説明するように、混練工程、積層工程、さらに必要に応じてスライス工程を含む方法により製造することができる。
【0038】
<混練工程>
熱伝導性フィラーと樹脂とを混練して、熱伝導性樹脂組成物を作製する。
前記の混練は、例えば、熱伝導性フィラーと樹脂とを、プラストミル等の二軸スクリュー混練機や二軸押出機等を用いて、加熱下において混練することが好ましく、これにより、熱伝導性フィラーが樹脂中に均一に分散された熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
次いで、該熱伝導性樹脂組成物をプレスすることにより、シート状の樹脂層(熱伝導性樹脂層)を得ることができる。
【0039】
<積層工程>
積層工程では、前記混練工程で得た樹脂層を積層してn層構造の積層体を作成する。積層方法としては、例えば、混練工程で作製した樹脂層をxi分割して積層し、xi層構造の積層体を作製後、必要に応じて、熱プレスを行い、その後、更に、必要に応じて、分割と積層と前記の熱プレスを繰り替えして、幅がDμmでn層構造の積層体を作製する方法を用いることができる。
熱伝導性フィラーが板状である場合、積層工程後の積層体の幅(Dμm)、前記熱伝導性フィラーの厚み(dμm)は、0.0005≦d/(D/n)≦1を満足することが好ましく、0.001≦d/(D/n)≦1を満足することがより好ましく、0.02≦d/(D/n)≦1を満足することが更に好ましい。
このように、複数回の成形を行う場合には、各回における成形圧を、1回の成形で行う場合に比べて、小さくすることができるため、成形に起因する積層構造の破壊等の現象を回避することができる。
その他の積層方法として、例えば、多層形成ブロックを備える押出機を用い、前記多層形成ブロックを調製して、共押出し成形により、前記n層構造で、かつ、前記厚さDμmの積層体を得る方法を用いることもできる。
具体的には、第1の押出機及び第2の押出機の双方に前記混練工程で得た熱伝導性樹脂組成物を導入し、第1の押出機及び第2の押出機から熱伝導性樹脂組成物を同時に押出す。第1の押出機及び第2の押出機から押出された熱伝導性樹脂組成物は、フィードブロックに送られる。フィードブロックでは、第1の押出機及び上記第2の押出機から押出された熱伝導性樹脂組成物が合流する。それによって、熱伝導性樹脂組成物が積層された2層体を得ることができる。次に、前記の2層体を多層形成ブロックへと移送し、押出し方向に平行な方向であり、かつ積層面に垂直な複数の面に沿って2層体を複数に分割後、積層して、n層構造で、厚みDμmの積層体を作製することができる。このとき、1層当たりの厚み(D/n)は、多層形成ブロックを調整して所望の値とすることができる。
【0040】
(スライス工程)
前記積層工程で得た積層体を積層方向に対して平行方向にスライスすることにより、熱伝導シート(A)を作製することができる。
【0041】
(その他工程)
熱伝導シート(A)の製造方法においては、樹脂を架橋する工程を設けてもよい。架橋は、例えば、電子線、α線、β線、γ線等の電離性放射線を照射する方法、有機過酸化物を用いる方法等により行えばよい。ただし、熱伝導シート(A)の表層部のゲル分率を高くする場合は、スライス工程の後に、シート面(シート表面)に電離性放射線を照射することが好ましく、電離性放射線の中でも、電子線が好ましい。表層部のゲル分率を高くすることを目的に電子線照射を行う場合の加速電圧は200~700kVが好ましく、250~500kVがより好ましい。電子線照射の照射量は200~450kGyが好ましく、250~400kGyがより好ましい。
【0042】
[球状フィラーを含有する熱伝導シート(B)]
本発明の熱伝導シートが、熱伝導性フィラーとして球状フィラーを含有する熱伝導シート(B)である場合について説明する。球状フィラーを用いる場合は、非球状フィラーよりも異方性が小さいため、熱伝導シート中のフィラーの存在状態(配向状態)によって熱伝導率が変動し難い。そのため、比較的簡便かつ安定的に熱伝導シートを製造し易い。
【0043】
熱伝導性フィラーの平均粒子径は、特に限定されないが、好ましくは0.5~100μm、より好ましくは5~50μmである。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により粒度分布を測定して求めることができる。
熱伝導シート(B)中の熱伝導性フィラーの含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは1000~3000質量部であり、より好ましくは1500~2500質量部である。1000質量部以上であると熱伝導性が高くなり、本発明で規定する熱伝導率を達成し易くなる。3000質量部以下であると柔軟性が良好となりやすい。
また、熱伝導シート(B)中の熱伝導性フィラーの体積割合は、好ましくは65~95体積%であり、より好ましくは70~90体積%である。かかる熱伝導性フィラーの体積割合は、熱伝導シート全量基準での値であり、熱伝導シートを構成する各成分の質量から算出可能である。例えば、各成分の質量を各成分の23℃における密度で除することによって算出可能である。
このように、熱伝導シート(B)は、熱伝導性を良好とする観点から、比較的多量の熱伝導性フィラーを用いることが好ましい。通常、熱伝導性フィラーを多く用いると熱伝導シートの柔軟性が低下しやすいが、樹脂の粘度を調整することにより、柔軟性の低下を抑制させることができる。
熱伝導シート(B)において、樹脂の25℃における粘度は、好ましくは10Pa・s以下であり、より好ましくは5Pa・s以下である。樹脂の粘度を10Pa・s以下とすることにより、熱伝導シートの柔軟性が良好となりやすい。また通常、樹脂の粘度は0.001Pa・s以上である。
なお、樹脂の粘度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0044】
熱伝導シート(B)の厚みは特に制限されないが、例えば0.1~30mmの範囲とすることができる。
【0045】
熱伝導シート(B)は取り扱い性を良好とする観点から、架橋することが好ましい。したがって、熱伝導シート(B)の全体のゲル分率は、2~50%が好ましく、3~30%が好ましく、5~20%がより好ましい。2%以上とすることで熱伝導シート(B)の取り扱い性が良好となり、50%以下とすることで、柔軟性が良好となる。
熱伝導シート(B)は、取り扱い性をより良好とする観点から、少なくもと一方の表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大きいことが好ましい。より好ましくは、両方の表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大きいことが好ましい。
【0046】
[熱伝導シート(B)の製造方法]
本発明の積層体からなる熱伝導シート(B)の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記した熱伝導シート(A)の製造方法において説明した混練工程に準じて熱伝導性樹脂組成物を得て、次いで、プレス等によりシート状に成形する工程を経て、製造することができる。
熱伝導シート(B)は、表層部のゲル分率を内層部のゲル分率よりも大きくするため、シート状に成形する工程の後に、少なくとも一方の表面(シート面)に対して、電子線、α線、β線、γ線等の電離性放射線を照射する工程を行うことが好ましい。中でも、電子線を照射する工程を行うことが好ましい。
熱伝導シート(B)の取り扱い性を良好とする観点から、電子線照射する場合の加速電圧は200~700kVが好ましく、250~600kVがより好ましい。同様の観点から、照射量は200~500kGyが好ましく、250~400kGyがより好ましい。
【0047】
本発明の熱伝導シートは、上記したとおり熱伝導性、柔軟性、取り扱い性に優れている。このような特性を利用して、本発明の熱伝導シートは、例えば、電子機器内部の発熱体と放熱体の間に配置させることで、発熱体から放熱体への熱放散を促進させることができる。このことを
図1で説明した熱伝導シート1を用いて説明する。
図2に示すように、熱伝導シート1は、シート面5が発熱体3や放熱体4と接するように配置される。また、熱伝導シート1は、発熱体3と放熱体4等の2つの部材の間において、圧縮した状態で配置される。なお、発熱体3は、例えば、半導体パッケージ等であり、放熱体4は、例えば、アルミニウムや銅などの金属等である。熱伝導シート1をこのような状態で使用することにより、発熱体3で発生した熱が、放熱体4へ熱拡散しやすくなり、効率的な放熱が可能となる。
【実施例0048】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0049】
以下の実施例及び比較例で使用した材料は以下のとおりである。
(1)樹脂
・液状ポリイソプレンゴム1:株式会社クラレ社製、商品名「LIR-30」
・液状ポリイソプレンゴム2:株式会社クラレ社製、商品名「LIR-310」
・液状アクリロニトリルブタジエンゴム1:JSR株式会社製、商品名「N231L」
・アクリロニトリルブタジエンゴム2:
下記(A)7.2体積%と下記(B)40.8体積%の混合物
(A)アクリロニトリルブタジエンゴム:JSR株式会社製、商品名「N280」
(B)液体アクリロニトリルブタジエンゴム:JSR株式会社製、商品名「N231L」
・液状ポリブタジエンゴム1:株式会社クラレ社製、商品名「L-1203」水添実施グレード
・液状ポリブタジエンゴム2:株式会社クラレ社製、商品名「LBR-300」
・液状ポリブタジエンゴム3:クレイバレー社製、商品名「Ricon130」
・液状EPDM(液状エチレン-プロピレン-ジエンゴム):三井化学株式会社製、商品名「PX-068」
・液状シリコーン1:信越化学工業株式会社製、商品名「KF-96H-10万cs」
・液状シリコーン2:信越化学工業株式会社製、商品名「KF-96H-500cs」
【0050】
(2)熱伝導性フィラー
(i)窒化ホウ素 デンカ社製、商品名「SGP」
形状;板状(鱗片状)
アスペクト比;20
長辺方向熱伝導率;250W/m・K
厚み:1μm
(ii)グラフェン ブリヂストンケービージー社製、商品名「WGNP」
形状;板状(薄片状)
アスペクト比;15
長辺方向熱伝導率;1000W/m・K
厚み;2μm
(iii)アルミナ(酸化アルミニウム) 昭和電工株式会社製、商品名「AS-20」
形状;球状
平均粒子径;22μm
【0051】
各種物性、評価方法は以下のとおりである。
<粘度>
樹脂50gを、25℃で、B型粘度計(東洋産業社製)で測定した。
<熱伝導率>
得られた熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率を、レーザーフラッシュ法熱定数測定装置(NETZSCH社製「LFA447」)を用いて測定を行った。
<30%圧縮強度>
得られた熱伝導シートの30%圧縮強度を、エー・アンド・ディ社製「RTG-1250」を用いて測定した。サンプル寸法を2mm×15mm×15mm、測定温度を23℃、圧縮速度を1mm/minとして測定を行った。
<引張強度>
得られた熱伝導シートの引張強度を、エー・アンド・ディ社製「RTG-1250」を用いて測定した。サンプル寸法を1.5mm×10mm×60mm、測定温度を23℃、引張速度を500mm/minとして測定を行った。
【0052】
<ゲル分率>
熱伝導シートのゲル分率を下記のとおり測定した。
熱伝導シートをAg秤量し、これを120℃のキシレン中に24時間浸漬して不溶解分を200メッシュの金網で濾過し、金網上の残渣を真空乾燥して乾燥残渣の重量を測定し(Bg)、熱伝導シートの重量とフィラー配合割合より算出した熱伝導シート内のフィラー重量より(Cg)、下記式により算出した。なお、各実施例、比較例では、熱伝導シートを厚さ方向に均等に採取して、ゲル分率を測定した。
ゲル分率(重量%)=((B-C)/A)×100
<配向角度>
熱伝導シートの断面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製 S-4700)で観察した。倍率3000倍の観察画像から、任意の20個のフィラーについて、シート面とのなす角を測定し、その平均値を配向角度とした。
<取り扱い性の評価>
寸法1.5mm×20mm×100mmの熱伝導シートを40℃にてフィルム(材質はPET)に貼り付けた。その後、23℃、剥離角度90°、剥離速度30mm/分の条件で剥離試験を行った。
A:熱伝導シートをきれいに剥離することができた
B:熱伝導シートが剥離中に千切れた(破断した)
【0053】
実施例1
液状ポリイソプレンゴム1(株式会社クラレ社製、商品名「LIR-30」)100質量部と、窒化ホウ素(デンカ社製、商品名「SGP」)400質量部とからなる混合物を溶融混練後、プレスすることにより厚さ0.5mm、幅80mm、奥行き80mmのシート状の樹脂層を得た。次に積層工程として、得られた樹脂層を16等分して重ねあわせて総厚さ8mm、幅20mm、奥行き20mmの16層からなる積層体を得た。次いで積層方向に平行にスライスし、厚さ2mm、幅8mm、奥行き20mmの熱伝導シートを得た。該熱伝導シートの積層体を構成する樹脂層の1層の厚みは0.5mm(500μm)であった。この熱伝導シートについて熱伝導率、30%圧縮強度、配向角度、引張強度、ゲル分率を測定し、取り扱い性の評価を行った。熱伝導率についてはシートの断面方向(厚さ方向)から測定を行った。評価結果を表1に示す。
【0054】
実施例2~9、比較例3
配合を表1に記載のとおり変更したこと以外は、実施例1と同様にして熱伝導シートを
得て、各測定、及び評価を行った。結果を表1、2に示す。
【0055】
実施例10
配合を表1のとおりとして、実施例1と同様にして熱伝導シートを得た。次いで、電子線照射後の熱伝導シートの表層部のゲル分率が内層部のゲル分率よりも大きくなるように、該熱伝導シートの両面に加速電圧300kV、線量400kGyの電子線を照射して、両表層部を架橋させた。得られた熱伝導シートについて、各測定、及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0056】
実施例11
液状ポリブタジエンゴム3(クレイバレー社製、商品名「Ricon130」)を100質量部と、アルミナ(昭和電工株式会社製、商品名「AS-20」)2000質量部とからなる混合物を溶融混練後、プレスすることにより厚さ2mm、幅80mm、奥行き80mmの熱伝導シートを得た。次いで、電子線照射後の熱伝導シートの表層部のゲル分率が、内層部のゲル分率よりも大きくなるように、該熱伝導シートの両面に加速電圧300kV、線量400kGyの電子線を照射して、両表層部を架橋させた。得られた熱伝導シートについて、各測定、及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0057】
比較例1
液状シリコーン2(信越化学工業株式会社製、商品名「KF-96H-500cs」)100質量と、窒化ホウ素(デンカ社製、商品名「SGP」)260質量部とからなる混合物を溶融混練後、プレスを行ったが、シート状に成形することができなかった。
【0058】
比較例2
液状ポリブタジエンゴム3(クレイバレー社製、商品名「Ricon130」)100質量部と、アルミナ(昭和電工株式会社製、商品名「AS-20」)2000質量部とからなる混合物を溶融混練後、プレスすることにより厚さ2mm、幅80mm、奥行き80mmの熱伝導シートを得た。得られた熱伝導シートについて、各測定、及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
比較例4
電子線を照射する条件を、加速電圧750kV、線量を450kGyとした以外は、実施例10と同様にして熱伝導シートを得た。得られた熱伝導シートについて、各測定、及び評価を行った。結果を表2に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
本発明の熱伝導シートである実施例1~11は、熱伝導率及び柔軟性が高く、かつ取り扱い性が良好であり、熱伝導シートとして優れていた。
これに対して、比較例1~4は本発明のいずれかの要件と満たしておらず、実施例の熱伝導シートと比較すると性能に劣るものであった。比較例1では、熱伝導シートを成形することができなかった。これは、粘度が低い樹脂を用いたことが原因と考えられる。
比較例2は球状フィラーを用いており、実施例11と同様の組成であるが、引張強度が低く、取り扱い性が悪かった。これは、比較例2は電子線照射をしていないため、表面層が架橋していないことに起因すると考えられる。
比較例3は、熱伝導率が低くなっており、これは熱伝導性フィラーの量が少ないことが原因と考えられる。
比較例4は、実施例10と同様の組成であるが、圧縮強度が高く、柔軟性に劣っていた。これは、比較例4は熱伝導シートへの電子線照射の加速電圧及び照射量が高く、これにより架橋が進行しすぎて、シートが硬くなったためと考えられる。