(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107068
(43)【公開日】2023-08-02
(54)【発明の名称】風力発電量予測システム、風力発電量予測方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20230726BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20230726BHJP
G01W 1/10 20060101ALI20230726BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20230726BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/38 160
G01W1/10 Z
G01W1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022008164
(22)【出願日】2022-01-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【弁理士】
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(74)【代理人】
【識別番号】100217940
【弁理士】
【氏名又は名称】三並 大悟
(72)【発明者】
【氏名】白 志仁
(72)【発明者】
【氏名】谷山 賀浩
(72)【発明者】
【氏名】深谷 侑輝
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066AE03
5G066AE09
5G066HB02
(57)【要約】
【課題】短期間の風力発電量の予測精度を向上させることが可能な風力発電量予測システムを提供する。
【解決手段】一実施形態に係る風力発電量予測システムは、風力発電量の予測対象ウィンドファームの風況を計測する風況観測部と、予測対象ウィンドファーム内における風車の設置位置で計測される計測データを記録するウィンドファーム監視制御部と、予測対象ウィンドファームを含むエリアにおける気象予測データを取得する気象予測データ取得部、と、風況の計測結果を示す風況観測データ、計測データ、および気象予測データの解析結果を示す気象解析データを格納する記憶部と、記憶部に格納されたデータを用いて、風力発電量の予測期間を含む第1期間の風況と、予測期間を含み第1期間よりも短い第2期間の風況とをそれぞれ予測し、第1期間および第2期間の風況予測結果に基づいて風力発電量を予測する予測部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電量の予測対象ウィンドファームの風況を計測する風況観測部と、
前記予測対象ウィンドファーム内における風車の設置位置で計測される計測データを記録するウィンドファーム監視制御部と、
前記予測対象ウィンドファームを含むエリアにおける気象予測データを取得する気象予測データ取得部と、
前記風況の計測結果を示す風況観測データ、前記計測データ、および前記気象予測データの解析結果を示す気象解析データを格納する記憶部と、
前記記憶部に格納されたデータを用いて、前記風力発電量の予測期間を含む第1期間の風況と、前記予測期間を含み前記第1期間よりも短い第2期間の風況とをそれぞれ予測し、前記第1期間および前記第2期間の風況予測結果に基づいて前記風力発電量を予測する予測部と、
を備える、風力発電量予測システム。
【請求項2】
前記予測部は、前記第1期間の風況予測結果を用いて前記第2期間の風況を予測する、請求項1に記載の風力発電量予測システム。
【請求項3】
前記予測部は、前記第2期間の風況を予測する短期間予測部を含み、
前記短期間予測部は、
前記記憶部から読み出した風況観測データまたは計測データを処理して機械学習用の教師データを作成する短期間データ前処理部と、
前記教師データを用いた機械学習に基づいて短期間予測モデルを作成する短期間風況学習部と、
前記短期間予測モデルを用いた演算処理によって前記第2期間の風況を算出する短期間演算部と、を有する、請求項1または2に記載の風力発電量予測システム。
【請求項4】
前記短期間演算部は、リカレントニューラルネットワーク内で前記短期間予測モデルに基づく演算処理を行う、請求項3に記載の風力発電量予測システム。
【請求項5】
前記予測部は、前記第1期間の風況を予測する長期間予測部を含み、
前記長期間予測部は、
前記記憶部から読み出した計測データおよび気象解析データを処理して機械学習用の教師データを作成する長期間データ前処理部と、
前記教師データを用いた機械学習に基づいて長期間予測モデルを作成する長期間風況学習部と、
前記長期間予測モデルを用いた演算処理によって前記第1期間の風況を算出する長期間演算部と、を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の風力発電量予測システム。
【請求項6】
前記予測部は、前記風力発電量を予測する発電量予測部を含み、
前記発電量予測部は、
前記記憶部から読み出した計測データを処理して機械学習用の教師データを作成する発電機データ前処理部と、
前記教師データを用いた機械学習に基づいて発電機モデルを作成する発電量学習部と、
前記発電機モデルを用いた演算処理によって前記風力発電量を算出する発電量演算部と、を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の風力発電量予測システム。
【請求項7】
前記発電量演算部は、ニューラルネットワーク内で前記発電機モデルに基づく演算処理を行う、請求項6に記載の風力発電量予測システム。
【請求項8】
前記気象予測データ取得部から取得した前記気象予測データを解析して前記気象解析データを出力する気象予測データ解析部をさらに備え、
前記気象予測データ解析部は、要求される予測精度に応じて、前記気象予測データの時間解像度および空間解像度を調整して前記気象解析データを出力する、請求項1から7のいずれか1項に記載の風力発電量予測システム。
【請求項9】
前記予測対象ウィンドファーム内には、風上側に配置された上流風車と、風下側に配置された後流風車とが設置され、
前記予測部は、前記上流風車によって発生する前記後流風車の風速減速が前記後流風車の発電量に与える影響を算出するためのウェイクモデルを用いて前記後流風車の風速を補正する風速補正部を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の風力発電量予測システム。
【請求項10】
風力発電量の予測対象ウィンドファームの風況を計測し、
前記予測対象ウィンドファーム内における風車の設置位置で計測される計測データを記録し、
前記予測対象ウィンドファームを含むエリアにおける気象予測データを取得し、
前記風況の計測結果を示す風況観測データ、前記計測データ、および前記気象予測データの解析結果を示す気象解析データ、を記憶部に格納し、
前記記憶部に格納されたデータを用いて、前記風力発電量の予測期間を含む第1期間の風況と、前記予測期間を含み前記第1期間よりも短い第2期間の風況とをそれぞれ予測し、
前記第1期間および前記第2期間の風況予測結果に基づいて前記風力発電量を予測する、
風力発電量予測方法。
【請求項11】
風力発電量の予測対象ウィンドファームの風況を計測し、
前記予測対象ウィンドファーム内における風車の設置位置で計測される計測データを記録し、
前記予測対象ウィンドファームを含むエリアにおける気象予測データを取得し、
前記風況の計測結果を示す風況観測データ、前記計測データ、および前記気象予測データの解析結果を示す気象解析データ、を記憶部に格納し、
前記記憶部に格納されたデータを用いて、前記風力発電量の予測期間を含む第1期間の風況と、前記予測期間を含み前記第1期間よりも短い第2期間の風況とをそれぞれ予測し、
前記第1期間および前記第2期間の風況予測結果に基づいて前記風力発電量を予測する、処理をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、風力発電量予測システム、風力発電量予測方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、風況等の気象予測データを用いて気象を予測するシステムが知られている。このシステムで計算された気象予測データは、気象の影響を受ける様々な場面で使用することができる。例えば風力発電所の発電量を予測する場面で、気象予測データを使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電力の小売の全面自由化に伴い、風力発電など再生可能エネルギーを取り扱う発電事業者や小売事業者は、その発電量の予測精度を高めることが、事業成立性にも系統安定化にも重要である。
【0005】
しかし、風力発電量の予測に利用されているWRFモデル(Weather Research and Forecasting model)等の気象予測モデルは、一般的に長期間の風速等を予測するモデルである。そのため、短期間の電力販売には不向きであり、発電計画の修正を頻繁に行う必要が生じ得る。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、短期間の風力発電量の予測精度を向上させることが可能な風力発電量予測システム、風力発電量予測方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係る風力発電量予測システムは、風力発電量の予測対象ウィンドファームの風況を計測する風況観測部と、予測対象ウィンドファーム内における風車の設置位置で計測される計測データを記録するウィンドファーム監視制御部と、予測対象ウィンドファームを含むエリアにおける気象予測データを取得する気象予測データ取得部、と、風況の計測結果を示す風況観測データ、計測データ、および気象予測データの解析結果を示す気象解析データを格納する記憶部と、記憶部に格納されたデータを用いて、風力発電量の予測期間を含む第1期間の風況と、予測期間を含み第1期間よりも短い第2期間の風況とをそれぞれ予測し、第1期間および第2期間の風況予測結果に基づいて風力発電量を予測する予測部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、短期間の風力発電量の予測精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る風力発電量予測システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】風況観測データベースの構造の一例を示す図である。
【
図3】SCADAデータベースの構造の一例を示す図である。
【
図4】気象解析データベースの構造の一部を示す図である。
【
図6】風力発電量予測システムの風力発電量予測に関する動作手順を示すフローチャートである。
【
図7】(a)は気象予報データの空間解像度を模式的に示す図であり、(b)は気象予報データの一例であり、(c)は気象解析データの空間解像度を模式的に示す図であり、(d)は気象解析データの一例である。
【
図8】長期間予測部の長期間予測方法の一例を説明するための模式図である。
【
図9】短期間予測部の短期間予測方法の一例を説明するための模式図である。
【
図10】発電量予測部の発電量予測方法の一例を説明するための模式図である。
【
図11】第1変形例に係る予測部の構成を示すブロック図である。
【
図12】第1変形例における風速の予測結果と実測結果の比較の一例を示すグラフである。
【
図13】第2変形例に係る予測部の構成を示すブロック図である。
【
図14】第2変形例におけるウィンドファームの風車の配置を模式的に示す図である。
【
図15】第2変形例における上流風車と後流風車の風速変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。下記の実施形態は、本発明を限定するものではない。
【0011】
図1は、一実施形態に係る風力発電量予測システムの構成を示すブロック図である。
図1に示す風力発電量予測システム1は、風況観測部100、ウィンドファーム監視制御部200、気象予測データ取得部300、データ解析処理部500、記憶部600、および予測部700を備える。風力発電量予測システム1では、風況観測部100、ウィンドファーム監視制御部200、および気象予測データ取得部300は、通信ネットワーク400を介してデータ解析処理部500にそれぞれ接続される。
【0012】
また、風力発電量予測システム1では、データ解析処理部500、記憶部600、および予測部700が独立した装置として設けられていてもよいし、各部が1つのサーバー装置内に設けられていてもよい。また、データ解析処理部500および予測部700がこのサーバ装置内に設けられ、記憶部600がサーバ装置から独立した装置として設けられていてもよい。
【0013】
風況観測部100は、計測部110および計測制御部120を含む。計測部110は、例えばScanning LiDAR(Light Detection And Ranging)によって風況計測を行う。LiDARは、レーザー光を大気中に放射して大気からの散乱光を受信して、そのドップラー周波数から風速と風向を観測する計測器である。この風況計測は、Scanning LiDARである必要はなく、観測マストや鉛直LiDARなど、上空風況を計測する手段であればよい。計測部110は、風力発電量の予測対象ウィンドファームやその周辺エリア内の任意位置に少なくとも1台以上設置される。
【0014】
計測制御部120は、計測部110の計測条件を設定する。計測条件には、例えば、計測範囲、計測位置、計測周波数などが含まれる。計測条件は、例えばデータ解析処理部500の通信部510を介して、遠隔で変更操作ができることが望ましいが、必ずしもその限りではない。また、計測制御部120は、計測部110の計測データから風向情報を抽出し、ウィンドファーム内で上流(風上)側に位置する風車、またはその前方位置での風況を計測するように、計測部110の計測位置を変化させてもよい。
【0015】
ウィンドファーム監視制御部200は、ウィンドファームに設置された風車毎のSCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)データを取得する。SCADAデータには、風車の設置位置における風速、風向、および当該風車の発電量等の計測データが含まれる。
【0016】
気象予測データ取得部300は、例えば、気象庁が配信する気象予測データである気象予報GPV(Grid Point Value)データを取得する。気象予報GPVデータは、地図上に予め設定された格子点におけるスーパーコンピュータで計算した過去、未来の気象予測データである。なお、気象予測データ取得部300で取得される気象予測データは、必ずしも1種類である必要はない。
【0017】
データ解析処理部500は、通信部510と、データ処理部520と、気象予測データ解析部530と、を有する。以下、データ解析処理部500の各部について説明する。
【0018】
通信部510は、通信ネットワーク400を介して風況観測部100、ウィンドファーム監視制御部200、および気象予測データ取得部300とデータ通信を行う際に通信インターフェースとして機能する。さらに、通信部510は、風況観測部100およびウィンドファーム監視制御部200から取得したデータをデータ処理部520へ転送するとともに、気象予測データ取得部300から取得した気象予測データを気象予測データ解析部530へ転送する。
【0019】
データ処理部520は、風況観測部100で計測された風況観測データの1次処理を行う。風況観測データの1次処理には、例えば、風況観測部100で計測された視線風速に対してベクトル合成、ベクトル平均などの処理を実施し、計測位置における水平方向および鉛直方向における風速、風向、乱流強度、風向標準偏差などを算出することが含まれる。
【0020】
また、データ処理部520は、ウィンドファーム監視制御部200で計測されたSCADAデータの1次処理も行う。SCADAデータの1次処理には、例えば、風車の運転状況を参照してSCADAデータの分類と、風向情報を参照し、ウィンドファーム内で上流側に位置する風車の風速と後流側に位置する風車の風速との風速比などを算出することが含まれる。
【0021】
気象予測データ解析部530は、気象予測データ取得部300より取得した気象予測データの時間解像度および空間解像度を調整した解析結果を示す気象解析データを出力する機能を有する。気象予測データ解析部530が、例えば、数値気象モデルなどのWRF解析モデルを用いてネスティングを実施することによって、気象解析データの空間解像度および時間解像度を気象予測データよりも高めることができる。
【0022】
記憶部600は、風況観測データベース610と、SCADAデータベース620と、気象解析データベース630と、を有する。以下、各データベースについて説明する。
【0023】
図2は、風況観測データベース610の構造の一例を示す図である。風況観測データベース610は、データ処理部520が風況観測データを1次処理した結果を格納する。
図2に示す風況観測データベース610は、風況観測部100が計測した時刻と、計測地点の緯度、経度、および高度と、水平風速と、水平風向と、乱流強度等を格納する。
【0024】
図3は、SCADAデータベース620の構造の一例を示す図である。SCADAデータベース620は、データ処理部520がSCADAデータを1次処理した結果を格納する。
図3に示すSCADAデータベース620は、ウィンドファーム監視制御部200が計測した時刻と、監視対象の風車番号と、水平風速と、水平風向と、発電量等の風車に関する各種データと、データ処理部520で算出したウェイク状態および流入風風速比等を格納する。
【0025】
図4は、気象解析データベース630の構造の一部を示す図である。気象解析データベース630は、気象予測データ解析部530が気象予測データを解析した結果を示す気象解析データを格納する。
図4に示す気象解析データベース630は、気象予測データに示された予測時刻と、解析地点と、解析地点の高度と、各高度の南北風、東西風、気圧等を格納する。
【0026】
図5は、予測部700の構成を示すブロック図である。予測部700は、短期間予測部710と、長期間予測部720と、発電量予測部730と、結果表示部740と、を有する。以下、予測部700の各部について説明する。
【0027】
短期間予測部710は、風況観測データベース610またはSCADAデータベース620に格納されているデータに基づいて作成した短期間予測モデルを用いて、未来における短期間風速を予測する機能を有する。具体的には、短期間予測部710は、短期間データ前処理部711と、短期間風況学習部712と、短期間演算部713と、を有する。
【0028】
短期間データ前処理部711は、風況観測データベース610から読み出した風況観測データまたはSCADAデータベース620から読み出したSCADAデータを処理して、機械学習用の教師データを作成する。短期間風況学習部712は、短期間データ前処理部711の教師データを機械学習して短期間予測モデルを作成する。短期間演算部713は、風況観測データベース610から読み出した最新の風況観測データまたはSCADAデータベース620から読み出した最新のSCADAデータを、上記短期間予測モデルを用いて演算処理する。これにより、風力発電量の予測期間を含む短期間の予測風速が算出される。
【0029】
長期間予測部720は、SCADAデータベース620に格納されているSCADAデータおよび気象解析データベース630に格納されている気象解析データに基づいて作成した長期間予測モデルを用いて、気象解析データを補正する機能を有する。具体的には、長期間予測部720は、長期間データ前処理部721と、長期間風況学習部722と、長期間演算部723と、を有する。
【0030】
長期間データ前処理部721は、SCADAデータベース620から読み出したSCADAデータおよび気象解析データベース630から読み出した気象解析データを処理して、機械学習用の教師データを作成する。長期間風況学習部722は、長期間データ前処理部721の教師データを機械学習して長期間予測モデルを作成する。長期間演算部723は、気象解析データベース630から読み出した最新の気象解析データを、上記長期間予測モデルを用いて演算処理する。これにより、風力発電量の予測期間を含む長期間の気象解析データの補正データが算出される。
【0031】
発電量予測部730は、SCADAデータベース620に格納されているSCADAデータに基づいて作成した発電機モデルを用いて、風力発電量を予測する機能を有する。具体的には、発電量予測部730は、発電機データ前処理部731と、発電量学習部732と、発電量演算部733と、を有する。
【0032】
発電機データ前処理部731は、SCADAデータベース620から読み出したSCADAデータを処理して、機械学習用の教師データを作成する。発電量学習部732は、発電機データ前処理部731で作成された教師データをニューラルネットワークNN2内で用いて風力発電量を予測するための発電機モデルを作成する。発電量演算部733は、短期間予測部710で算出された短期間予測風速と、長期間予測部720で算出された補正データとを、発電量学習部732で作成された発電機モデルを用いて演算処理する。これにより、予測期間の風力発電量が算出される。
【0033】
結果表示部740は、発電量予測部730で算出された風力発電量等の種々の画像を表示する。結果表示部740は、例えば液晶ディスプレイ等の表示デバイスを有する。なお、本実施形態では、結果表示部740は、予測部700の一部として構成されているが、予測部700から独立した構成であってもよい。
【0034】
次に、
図6を参照して、本実施形態に係る風力発電量予測システム1を用いた風力発電量予測方法を説明する。
図6は、本実施形態に係る風力発電量予測システム1の風力発電量予測に関する動作手順を示すフローチャートである。このフローチャートのステップに沿って行われる動作は、各ステップを処理するプログラムをコンピュータに実行させることによっても実現することができる。このプログラムは、ソフトウェアとして記録媒体に記録することも可能である。
【0035】
図6に示すフローチャートでは、まず、データ解析処理部500において、通信部510が、通信ネットワーク400を介して、風況観測部100から風況観測データ、ウィンドファーム監視制御部200からSCADAデータ、気象予測データ取得部300から気象予測データをそれぞれ取得する(ステップS11)。
【0036】
次に、データ解析処理部500において、データ処理部520が、風況観測データおよびSCADAデータの1次処理を行うとともに、気象予測データ解析部530が気象予測データを解析する(ステップS12)。ここで、
図7(a)~
図7(d)を参照して気象予測データ解析部530の気象解析方法の一例を説明する。
【0037】
図7(a)は気象予報データの空間解像度を模式的に示す図であり、
図7(b)は気象予報データの一例である。
図7(c)は気象解析データの空間解像度を模式的に示す図であり、
図7(d)は気象解析データの一例である。
【0038】
気象予測データ解析部530の解析対象となる気象予測データは、
図7(a)に示すように、風力発電量の予測対象ウィンドファームの設置エリアおよびその周辺エリアを含む解析対象エリアを格子状に区切ったときの格子単位で作成されている。なお、
図7(a)に示す予測対象ウィンドファームは、洋上ウィンドファームであるが、陸上ウィンドファームであってもよい。
【0039】
図7(b)は、
図7(a)に示す格子地点Aの気象予報データを示す。この気象予報データには、例えば、格子地点Aにおける南北風速、東西風速、気温、および気温の経時的な変化が示されている。なお、
図7(b)には、格子地点Aにおける1つの高度の気象予報データが図示されているが、格子地点Aの気象予報データは、予め段階的に設定された複数の高度別に作成されている。また、解析対象のデータには、格子地点Aの気象予測データだけでなく、他の格子地点の気象予測データも含まれる。
【0040】
気象予測データ解析部530は、
図7(c)に示すように、要求される予測予測精度に応じて気象予報データよりも小さな格子状に解析対象エリアを区切る。これにより空間解像度が気象予報データよりも高くなる。気象予測データ解析部530は、気象予報データを入力データとして数値気象モデルなどのWRF解析モデルを用いてネスティングを実施することによって、格子地点ごとに気象解析データを作成する。
【0041】
図7(d)は、格子地点aにおける1つの高度の気象解析データを示す。この気象解析データには、例えば、格子地点aにおける南北風速、東西風速、気温、および気温の経時的な変化が示されている。このとき、気象予報データが1時間単位で経時的な変化を示しているのに対して、気象解析データは10分単位で経時的な変化を示す。そのため、気象解析データの時間解像度も、気象予報データより高くなる。なお、
図7(d)には、格子地点aにおける1つの高度の気象解析データが図示されているが、格子地点aの気象解析データは、気象予測データと同じく複数の高度別に作成されている。また、気象解析データには、格子地点aだけでなく、他の格子地点のデータも含まれる。
【0042】
上記のように、気象予測データ解析部530によって作成された気象解析データは、気象解析データベース630に格納される(ステップS13)。また、ステップS13では、データ処理部520によって1次処理された風況観測データおよびSCADAデータが風況観測データベース610およびSCADAデータベース620にそれぞれ格納される。
【0043】
次に、予測部700の長期間予測部720が、風速の長期間予測を行う(ステップS14)。ここで、
図8を参照して、ステップS14の動作について説明する。
【0044】
図8は、長期間予測部720の長期間予測方法の一例を説明するための模式図である。ステップS14では、まず、長期間予測部720の長期間データ前処理部721が、SCADAデータベース620から過去のSCADAデータを読み出すとともに、気象解析データベース630から過去の気象解析データを読み出す。長期間データ前処理部721によって読み出される過去のSCADAデータおよび過去の気象解析データには、例えば、風力発電量の予測時刻と同時刻の過去データが含まれている。続いて、長期間データ前処理部721は、読み出したSCADAデータおよび気象解析データを処理して機械学習用の教師データを作成する。
【0045】
次に、長期間風況学習部722が、長期間データ前処理部721で作成された教師データを用いた機械学習に基づいて長期間予測モデルを作成する。本実施形態では、この長期間予測モデルは、ニューラルネットワークNN1で用いることができる数式モデルである。
【0046】
最後に、長期間演算部723が、気象解析データベース630から、最新の気象解析データを読み出す。続いて、長期間演算部723は、読み出した気象解析データを入力データとして上記長期間予測モデルで演算処理する。その結果、気象解析データの補正データが算出される。この補正データは、風力発電の予測対象となる風車の設置地点における風速補正データである。
【0047】
上記風速補正データは、過去のデータを教師データとする機械学習によって生成された長期間予測モデルを用いて算出されている。そのため、
図8に示すように、風速の実測データに対する誤差について、風速補正データは、気象解析データよりも小さくなる。なお、補正データの算出方法は、上記の方法に限定されない。
【0048】
上述したように長期間予測部720の長期間予測が終了すると、次に、予測部700の短期間予測部710が、風速の短期間予測を行う(ステップS15)。ここで、
図9を参照して、ステップS15の動作について説明する。
【0049】
図9は、短期間予測部710の短期間予測方法の一例を説明するための模式図である。ステップS15では、まず、短期間予測部710の短期間データ前処理部711が、SCADAデータベース620から過去のSCADAデータを読み出すか、または風況観測データベース610から過去の風況観測データを読み出す。短期間データ前処理部711によって読み出される過去のSCADAデータまたは過去の風況観測データには、例えば、風力発電量の予測時刻と同時刻の過去データが含まれている。
【0050】
なお、短期間データ前処理部711がSCADAデータと風況観測データのどちらを読み出すかは、後述する短期間予測モデルの内容に応じて予め決定されている。SCADAデータには無くて風況観測データにはある計測項目、例えば風速標準偏差が短期間予測モデルの作成に必要な場合には、短期間データ前処理部711は風況観測データを読み出す。この場合、短期間データ前処理部711は、読み出した風況観測データデータを処理して機械学習用の教師データを作成する。なお、短期間データ前処理部711は、SCADAデータを読み出した場合には、このSCADAデータを処理して機械学習用の教師データを作成する。
【0051】
次に、短期間風況学習部712が、短期間データ前処理部711で作成された教師データを用いた機械学習に基づいて短期間予測モデルを作成する。本実施形態では、この短期間予測モデルは、リカレントニューラルネットワークRNN1で用いることができる数式モデルである。
【0052】
最後に、短期間演算部713が、SCADAデータベース620から最新のSCADAデータを読み出すか、または風況観測データベース610から最新の風況観測データを読み出す。続いて、短期間演算部713は、読み出したSCADAデータまたは風況観測データを入力データとして上記短期間予測モデルで演算処理する。その結果、短期間予測風速が算出される。入力データがSCADAデータである場合には、この短期間予測風速は、風力発電量の予測対象となる風車の設置地点における風速データである。一方、入力データが風況観測データである場合には、この短期間予測風速は、風力発電量の予測対象エリア内の風況観測地点における風速データである。
【0053】
上記短期間予測風速は、過去の実測データを教師データとする機械学習によって生成された短期間予測モデルを用いて算出されている。つまり、短期間予測モデルは、予測データを用いずに実測データのみで作成されている。そのため、風力発電量の予測地点における短期間の風速を高精度に算出することができる。なお、短期間予測風速の算出方法は、上記の方法に限定されない。
【0054】
上述したように短期間予測部710の短期間予測が終了すると、次に、予測部700の発電量予測部730が、風力発電量の予測を行う(ステップS16)。ここで、
図10を参照して、ステップS16の動作について説明する。
【0055】
図10は、発電量予測部730の発電量予測方法の一例を説明するための模式図である。ステップS15では、まず、発電量予測部730の発電機データ前処理部731が、SCADAデータベース620から過去のSCADAデータを読み出す。発電機データ前処理部731によって読み出される過去のSCADAデータには、例えば、風力発電量の予測時刻と同時刻の過去データが含まれている。続いて、発電機データ前処理部731は、読み出したSCADAデータを処理して機械学習用の教師データを作成する。
【0056】
次に、発電量学習部732が、発電機データ前処理部731で作成された教師データを用いた機械学習に基づいて発電機モデルを作成する。本実施形態では、この発電機モデルは、ニューラルネットワークNN2で用いることができる数式モデルである。
【0057】
最後に、発電量演算部733が、短期間予測部710によって算出された短期間予測風速および長期間予測部720によって算出された補正データを入力データとして上記発電機モデルで演算処理する。その結果、予測発電量が算出される。この予測発電量は、例えば
図10に示すように、SCADAデータに基づいて風速と発電量との関係を示すグラフとして結果表示部740に表示される。
【0058】
ウィンドファームにおいて、風力発電量は風速に依存する。風速は、数時間単位の長周期で変化するだけでなく、数秒単位の短周期で変化する場合もある。そのため、短期の風力発電量を予測する場合、短期の風速予測のみに風力発電量を予測しても、精度が不十分になる。
【0059】
そこで、本実施形態では、長期間予測部720が風力発電量の予測期間を含む長期(第1期間)の風況を予測するとともに、短期間予測部710が上記予測期間を含む短期(第2期間)の風況を予測する。さらに、発電量演算部733は、長期間予測部720の予測結果と短期間予測部710の予測結果とを用いて上記予測期間の風力発電量を算出している。このように、短期間の予測風速だけでなく長期間の予測風速も用いて風力発電量を予測することによって、短期間の風力発電量を高精度に予測することが可能となる。
【0060】
(第1変形例)
図11は、第1変形例に係る予測部700の構成を示すブロック図である。
図11では、上述した実施形態と同じ構成要素には、同じ符号を付し、詳細な説明を両略する。
【0061】
本変形例では、短期間予測部710は、長期間予測部720の予測結果である補正データを用いて短期間予測風速を算出する。ここで、
図12を参照して、本変形例に係る短期間風速予測方法について説明する。
【0062】
図12は、風速の予測結果と実測結果の比較の一例を示すグラフである。
図12においおて、横軸は時刻を示し、縦軸は風速を示す。また、実線は短期間予測部710の予測結果を示し、破線は長期間予測部720の予測結果を示し、点線は実測結果を示す。
図12では、時刻t0において、長期間予測部720で予測された風速が、大きく変化する。このときの風速の変化量が予め設定された基準値を超えると、短期間予測部710は、長期間予測部720の予測結果を用いて短期間予測風速を算出する。具体的には、短期間予測部710の短期間風況学習部712が、短期間予測モデルを作成する際に、長期間予測部720の予測結果に応じて短期間予測モデルの重み付け係数を設定する。
【0063】
上記のように短期間風況学習部712が短期間予測モデルを作成すると、短期間演算部713が、その短期間予測モデルを用いた演算処理を行って、短期間予測風速を算出する。その後、発電量予測部730が、短期間予測風速に基づいて風力発電量を予測する。最後に、結果表示部740が、発電量予測部730の予測結果を表示する。
【0064】
以上説明した本変形例によれば、長期間予測部720の予測結果を短期間予測部710の予測結果に反映させて風力発電量を予測している。そのため、本変形例においても、風力発電量は、長期間予測部720の予測結果と短期間予測部710の予測結果とを用いて予測されている。よって、短期間の風力発電量を高精度に予測することが可能となる。
【0065】
(第2変形例)
図13は、第2変形例に係る予測部700の構成を示すブロック図である。
図13では、上述した実施形態と同じ構成要素には、同じ符号を付し、詳細な説明を両略する。
【0066】
本変形例では、予測部700は、風速補正部750をさらに有する。風速補正部750は、ウェイクモデルを用いてウィンドファーム内の後流風車の風速を補正する。ここで
図14および
図15を参照してウェイクモデルについて説明する。
【0067】
図14は、ウィンドファームの風車の配置を模式的に示す図である。また、
図15は、上流風車と後流風車の風速変化の一例を示す図である。
【0068】
図14に示すように、例えば、風向きが、図面上で左方向から右方向に向かう西向きである場合、上流風車は西寄りの風上側に配置された風車であり、後流風車は東寄りの風下側に配置された風車である。この場合、
図15に示すように、時刻t1から時刻t2までの時間帯では、後流風車の風速が、上流風車の影響を受けて減速し、時刻t2から時刻t3までの時間帯では、後流風車の風速が上流風車の風速とほぼ等しくなる。
【0069】
上流風車によって発生する後流風車の風速減速は、後流風車の発電量に影響する。ウェイクモデルは、上流風車によって発生する後流風車の風速減速が後流風車の発電量に与える影響度を算出するための数式モデルである。風速補正部750は、短期間予測部710と長期間予測部720の各々において予測された風況に含まれる風向データを用いて、ウィンドファーム内の風車設置位置、および位置関係から上流風車による風速減速の影響を受ける後流風車を特定する。続いて、風速補正部750は、ウェイクモデルを用いて後流風車の風速を補正する。
【0070】
したがって、本変形例によれば、短期間予測部710と長期間予測部720にてそれぞれ予測された上流風車の風速から、後流風車の風速を補正することができるため、風速予測精度が向上する。そのため、補正された後流風車の風速に基づいて予測される風力発電量の予測精度も向上する。
【0071】
以上、実施形態および変形例を説明したが、この実施形態および変形例は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規なシステムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明したシステムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0072】
1:風力発電量予測システム
100:風況観測部
200:ウィンドファーム監視制御部
300:気象予測データ取得部
530:気象予測データ解析部
600:記憶部
700:予測部
710:短期間予測部
711:短期間データ前処理部
712:短期間風況学習部
713:短期間演算部
720:長期間予測部
721:長期間データ前処理部
722:長期間風況学習部
723:長期間演算部
730:発電量予測部
731:発電機データ前処理部
732:発電量学習部
733:発電量演算部
750:風速補正部