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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108456
(43)【公開日】2023-08-04
(54)【発明の名称】車両のルーフ
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/06 20060101AFI20230728BHJP
【FI】
B62D25/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022009589
(22)【出願日】2022-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓哉
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA01
3D203BB59
3D203BB63
3D203CA62
3D203CB07
3D203CB12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】マスチックシーラーの剥がれを抑制できる車両のルーフを提供する。
【解決手段】車両のルーフは、全体的に上方に湾曲するルーフパネル3と、前記ルーフパネル3を裏側から補強するルーフメンバー4と、ルーフメンバー4とルーフパネル3とを接合する複数のマスチックシーラー5と、を備え、複数のマスチックシーラー5は、ルーフメンバーに接する第一部位48、ルーフパネル3に接する第二部位49、第一部位48と第二部位49との間にあって、第一部位48および第二部位49よりも断面積の小さいくびれ部位51とを有し、上面視で車幅方向においてルーフパネル3の中央より接合部に近接して配置される第一マスチックシーラー42を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本面と、前記基本面に囲まれて設けられ、かつ前記基本面より上方もしくは下方に突出して前後方向に延びる少なくとも1つのビート部と、前記基本面より車幅方向の外側に設けられる接合部と、を有して、全体的に上方に湾曲するルーフパネルと、
前記ルーフパネルの前後方向の中間領域の下方で車幅方向に延びて設けられて前記ルーフパネルを裏側から補強するルーフメンバーと、
前記ルーフメンバーと前記ルーフパネルとを接合する複数のマスチックシーラーと、を備え、
複数のマスチックシーラーは、前記ルーフメンバーに接する第一部位、前記ルーフパネルに接する第二部位、前記第一部位と前記第二部位との間にあって、前記第一部位および前記第二部位よりも断面積の小さいくびれ部位とを有し、上面視で車幅方向において前記ルーフパネルの中央より前記接合部に近接して配置される第一のマスチックシーラーを含む車両のルーフ。
【請求項2】
前記基本面は、全体が上方に湾曲し、
前記少なくとも1つのビート部は、複数のビート部であって車幅方向に並んで設けられ、
前記複数のビート部は、前記基本面より上方に突出し、
前記第一のマスチックシーラーは、車幅方向で外側に位置する前記ビート部および前記接合部の間の前記基本面に接合している請求項1に記載の車両のルーフ。
【請求項3】
前記複数のマスチックシーラーは、
前記ルーフメンバーに接する第一部位、前記ルーフパネルに接する第二部位、前記第一部位と前記第二部位との間にあって、前記第一部位および前記第二部位よりも断面積の小さいくびれ部位とを有し、上面視で前記ルーフメンバーの車幅方向の中央に配置される第二の前記マスチックシーラーと、
前記第一のマスチックシーラーと前記第二のマスチックシーラーとの間に配置され、前記ルーフメンバーに接する第一部位と、前記ルーフパネルに接して前記第一部位よりも断面積の小さい第二部位と、を有して前記くびれ部位を有しない第三の前記マスチックシーラーと、を含む請求項1または2に記載の車両のルーフ。
【請求項4】
前記ルーフパネルは、外側の前記ビート部と前記接合部との間に屈曲部を有し、
前記第一のマスチックシーラーは、前記屈曲部の下に配置されている請求項1から3のいずれか1項に記載のルーフ。
【請求項5】
前記くびれ部位を有する前記マスチックシーラーの、前記第一部位の占有面積は、前記第二部位の占有面積より大きい請求項1から4のいずれか1項に記載のルーフ。
【請求項6】
前記ルーフメンバーは、車幅方向に延びて前後方向に隣り合う二つの凹部と、前記二つの凹部を前後方向で挟んで車幅方向に延びる二つのフランジ部と、前記二つの凹部を繋いで前記車幅方向に延びる凸部と、を有する請求項1から4のいずれか1項に記載のルーフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両のルーフに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のルーフの剛性は、ルーフパネルを車幅方向に延びるルーフメンバーで裏側から補強して担保されている。ルーフメンバーは、マスチックシーラーと呼ばれる熱硬化型の弾性接着剤でルーフパネルに接合される。マスチックシーラーは、未硬化の状態では緩く練られたゲル状剤であって、ルーフパネルを含むボディの塗装工程での焼き付け乾燥で硬化することで所定の接着力および弾性力を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63-54590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のマスチックシーラーは、例えば未硬化のゲル状剤のマスチックシーラーを先ずルーフメンバー上に塗布し、塗布されたマスチックシーラーの上にルーフパネルを載置した後に硬化される。ルーフメンバー上に塗布されるマスチックシーラーは、未硬化のゲル状剤であるため、ルーフメンバー上に球面を上に向けて平面を下に向けた半球形状に塗布される。そのため、ルーフパネルに接触するマスチックシーラーの上端部、つまりルーフパネル側の部位であってルーフメンバーから離れている部位の体積は、ルーフメンバーに接触するルーフメンバー側の部位の体積より大幅に小さい。また、マスチックシーラーとルーフパネルとの接触面積は、マスチックシーラーとルーフメンバーとの接触面積より小さい。したがって、ルーフメンバー側のマスチックシーラーの部位は、ルーフパネル側のマスチックシーラーの部位に比べて剛性が高い。ルーフメンバーとルーフパネルとを離れさせる方向へ力が作用した場合には、ルーフメンバー側のマスチックシーラーの部位は上方に延び難く、ルーフパネル側のマスチックシーラーの部位である上端部が、主にルーフパネルをルーフメンバーに向かって引きつける力を負担する。
【0005】
一般に、全体的に上方に湾曲するルーフパネルは、車幅方向の左右それぞれの外側に配置されて左右それぞれのサイドボディに溶接される二つの接合部を有する。ルーフパネルは、焼き付け乾燥の加熱過程前に左右のサイドボディに挟まれた状態で溶接され、焼き付け乾燥の加熱過程で熱膨張する。そのため、焼き付け乾燥の加熱過程で熱膨張する際に、ルーフパネルは、左右のサイドボディによって拘束されて湾曲している上方へ向かってさらに突出するように変形する。したがって、ルーフパネルの変形量が大きい部分とルーフメンバーとを接合するマスチックシーラーは、ルーフパネルから剥がれ易い。
【0006】
また、ルーフパネルは、マスチックシーラーが硬化する前に、電着塗装工程での純水洗浄、電着塗装槽内への浸漬、および工程間の搬送で上下に振動する。未硬化のマスチックシーラーは、硬化時より劣るが、ある程度の接着力を持ってルーフパネルの変形に追従する。しかしながら、振幅が大きいルーフパネルの中央部に接するマスチックシーラーは、ルーフパネルから剥がれ易い。
【0007】
そこで、本発明は、マスチックシーラーの剥がれを抑制できる車両のルーフを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態に係る車両のルーフは、基本面と、前記基本面に囲まれて設けられ、かつ前記基本面より上方もしくは下方に突出して前後方向に延びる少なくとも1つのビート部と、前記基本面より車幅方向の外側に設けられる接合部と、を有して、全体的に上方に湾曲ルーフパネルと、前記ルーフパネルの前後方向の中間領域の下方で車幅方向に延びて設けられて前記ルーフパネルを裏側から補強するルーフメンバーと、前記ルーフメンバーと前記ルーフパネルとを接合する複数のマスチックシーラーと、を備え、複数のマスチックシーラーは、前記ルーフメンバーに接する第一部位、前記ルーフパネルに接する第二部位、前記第一部位と前記第二部位との間にあって、前記第一部位および前記第二部位よりも断面積の小さいくびれ部位とを有し、上面視で車幅方向において前記ルーフパネルの中央より前記接合部に近接して配置される第一のマスチックシーラーを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マスチックシーラーの剥がれを抑制できる車両のルーフを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る車両のルーフを車内側から内装を除いて見た概略構成図。
図2図1に示すA-A線の断面図。
図3図1に示すB-B線の断面図。
図4】(a)は、実施形態における第一、第二マスチックシーラーの一例を示す側面図、(b)は、実施形態における第三マスチックシーラーの一例を示す側面図。
図5】実施形態におけるマスチックシーラーの形成工程を示す側面図。
図6】実施形態におけるマスチックシーラーの形成工程を示す側面図。
図7】本実施形態に係る車両ルーフの焼き付け乾燥による熱変形量を示す上方斜視図。
図8図7のC-C線における断面図であって、本実施形態に係る車体ルーフの焼き付け乾燥後の熱変形を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
なお、実施形態では、各部材の「方向」の基準は、その部材を車両に設置したときの車両の方向を基準としている。具体的には、各部材の「前後方向」は、その部材を設置した車両の前後方向に一致し、各部材の「車幅方向」は、その部材を車両に設置した車両の車幅方向に一致している。各部材の「左右」は、車内の座席に座る乗客が前方を見たときの左右であり、車幅方向の一端側と他端側である。
【0013】
図1は、実施形態に係る車両のルーフを車内側から内装を除いて見た概略構成図である。
【0014】
図2は、図1に示すA-A線の断面図である。
【0015】
図3は、図1に示すB-B線の断面図である。
【0016】
車両の主要構造である車体ボディは、車内の上面を構成するルーフ1と、ルーフ1に接合されて車内の側面を構成するサイドボディ2と、を含んでいる。この車両のルーフ1は、車体ボディの車内の上面を区画するルーフパネル3と、裏側からルーフパネル3を補強する複数のルーフメンバー4と、ルーフメンバー4およびルーフパネル3を接合する熱硬化型の弾性接着剤である複数のマスチックシーラー5と、を備えている。ルーフ1は、略矩形状であって全体的に上方に湾曲している。ルーフ1の表面は、ルーフパネル3の表面である。
【0017】
ルーフパネル3は、略矩形状であって全体的に上方に湾曲している。ルーフパネル3は、前後方向に延びている。ルーフパネル3の前後方向の長さは、ルーフパネル3の車幅方向の長さより長い。ルーフパネル3は、ルーフパネル3の中央側に設けられてルーフパネル3の大部分を占める基本面8と、基本面8より車幅方向の外側に設けられる二つの傾斜面9と、傾斜面9と基本面8との境界部分である二つの屈曲部11と、基本面8より前後方向の外側に設けられる二つの前後傾斜面12と、後側の前後傾斜面12と傾斜面9の後端とを繋ぐ二つの隅部13と、を含んでいる。
【0018】
基本面8は、例えば全体的に上方に湾曲している。基本面8は、前後方向に延びている。基本面8の前後方向の長さは、基本面8の車幅方向の長さより長い。傾斜面9は、基本面8から下方へ延びる斜面である。傾斜面9は、基本面8から車幅方向で離れるに従って下方に位置する斜面である。屈曲部11は、基本面8および傾斜面9が交わる部分、つまり、基本面8であり、かつ傾斜面9である。屈曲部11は、例えば湾曲している。傾斜面9および屈曲部11は、前後方向に延びている。前後傾斜面12は、基本面8から下方へ延びる斜面である。前後傾斜面12は、基本面8から前後方向で離れるに従って下方に位置する。
【0019】
ルーフパネル3は、基本面8に設けられる複数のビート部16と、傾斜面9より外側に設けられてサイドボディ2に溶接される二つの接合部17と、を有する。ビート部16は、前後方向に延びて設けられて基本面8より上方に突出している。ビート部16の上面は、前後方向で同じ位置の基本面8の上面より高く、ビート部16の下面は、前後方向で同じ位置の基本面8の下面より高い。ビート部16は、相互に離隔して車幅方向に並んでいる。ビート部16は、ビート部16が設けられていない基本面8に囲まれている。詳細には、ビート部16の後端は前後傾斜面12に囲まれ、ビート部16の後端以外の大部分はビート部16が設けられていない基本面8に囲まれている。ビート部16は、車幅方向の外側に配置された二つの外側ビート部19と、車幅方向の内側に配置された二つの内側ビート部21と、を含んでいる。
【0020】
二つの接合部17は、傾斜面9より車幅方向の外側、つまり基本面8より車幅方向の外側に設けられている。それぞれの接合部17は、車幅方向の外側に向かって延びている。それぞれの接合部17は、傾斜面9の下端を内側に屈曲させた根元部24と、根元部24の下端を外側に屈曲させた先端部25と、を含んでいる。それぞれの接合部17の先端部25は、サイドボディ2の接合上端部28に溶接される。
【0021】
複数のルーフメンバー4は、例えば前後方向に並ぶ3つのルーフメンバー4を含む。これらのルーフメンバー4は、車幅方向に延びて設けられてルーフパネル3の前後方向における中間領域の下方に配置されている。ルーフパネル3の「前後方向における中間領域」とは、例えば、ルーフパネル3を前後方向で三等分したうちの中央部分の領域である。ルーフメンバー4は、全体的に上方に湾曲し、具体的には、前後方向の各位置で上方に湾曲し、かつ車幅方向の各位置での前後方向に平行な断面形状が略同一になっている。ルーフメンバー4は、前後方向で並ぶ二つの凹部32と、二つの凹部32の間に設けられる凸部33と、二つの凹部32を前後方向で挟む二つのフランジ部34と、それぞれのフランジ部34に設けられる溝部35と、車幅方向の外側に設けられる二つの接合端部36と、を有する。
【0022】
凹部32、フランジ部34、凸部33、および溝部35は、前後方向に並んで配置されて車幅方向に延びている。また、凹部32、フランジ部34、凸部33、および溝部35は、それぞれ、前後方向の各位置で上方に湾曲し、かつ車幅方向の各位置での前後方向に平行な断面形状が略同一である。このようなルーフメンバー4は、例えば焼き付け乾燥時の熱で上方に突出するような熱変形を避け、かつ剛性が高い。
【0023】
溝部35は、フランジ部34の前後方向の略中央に設けられている。溝部35と凹部32の間には、フランジ部34の平坦部38が介在している。溝部35は、フランジ部34を下方に屈曲して設けられて上方に向かって開口している。フランジ部34の溝部35を除く上面の高さは、凸部33の上面の高さと略同一である。ルーフメンバー4の接合端部36は、ルーフパネル3の接合部17の先端部25とサイドボディ2の接合上端部28とに例えば溶接によって接合されることで、ルーフメンバー4、ルーフパネル3およびサイドボディ2は相互に接合されている。これにより、焼き付け乾燥工程の熱で変形し難く剛性が高いルーフメンバー4は、ルーフパネル3を裏側から補強してルーフパネル3の剛性を担保する。
【0024】
複数のマスチックシーラー5は、ルーフパネル3の基本面8の前後方向の中間領域とルーフメンバー4との間に設けられている。複数のマスチックシーラー5は、ルーフメンバー4の上面に接し、ルーフパネル3の基本面8の前後方向の中間領域の下面に接している。複数のマスチックシーラー5は、ルーフパネル3の下面とルーフメンバー4の上面とに接着してルーフパネル3とルーフメンバー4とを接合し、ルーフパネル3の基本面8の剛性を担保する。
【0025】
複数のマスチックシーラー5は、上方から見てルーフパネル3の車幅方向の外側に配置された複数の第一マスチックシーラー42と、ルーフパネル3の車幅方向の中央に配置された複数の第二マスチックシーラー43と、第一マスチックシーラー42と第二マスチックシーラー43の間に配置された複数の第三マスチックシーラー44と、を含んでいる。以後、上方から見たマスチックシーラー5のルーフパネルを基準とする配置領域を「マスチックシーラー5の配置領域」と呼ぶ。
【0026】
第一マスチックシーラー42の配置領域は、具体的には、車幅方向においてルーフパネル3の中央より接合部17に近接する領域である。より具体的には、第一マスチックシーラー42の配置領域は、ルーフパネル3の外側ビート部19および接合部17の間の基本面8である。また、第一マスチックシーラー42の配置領域は、ルーフパネル3の屈曲部11であることが好ましい。さらに、好ましくは、二つの第一マスチックシーラー42は、前後方向の同じ位置でルーフパネル3の両外側に、より好ましくは、ルーフパネル3の車幅方向の中心から略等距離の位置に設けられる。
【0027】
第二マスチックシーラー43の配置領域は、具体的には、ルーフパネル3の二つの内側ビート部21の間の基本面8である。第二マスチックシーラー43は、例えば前後方向で同じ位置のルーフパネル3の中央に1つ設けられることが好ましい。
【0028】
第三マスチックシーラー44の配置領域は、例えば、基本面8の車幅方向での中心と端縁である屈曲部11との間の領域の中間領域である。第三マスチックシーラー44の配置領域は、具体的には、ルーフパネル3の外側ビート部19と内側ビート部21の間の基本面8である。また、好ましくは、二つの第三マスチックシーラー44は、前後方向の同じ位置でルーフパネル3の中心の両側に、より好ましくは、ルーフパネル3の車幅方向の中心から略等距離の位置に設けられる。
【0029】
このような第一マスチックシーラー42、第二マスチックシーラー43、および第三マスチックシーラー44は、一つのルーフメンバー4の二つのフランジ部34の上にそれぞれ配置されて前後方向で対向している。このように前後方向で対向する二つの第一マスチックシーラー42と、二つの第二マスチックシーラー43と二つの第三マスチックシーラー44とは、詳細には、フランジ部34の溝部35に設けられている。
【0030】
この前後方向で対向する二つの第一マスチックシーラー42は、一つのルーフメンバー4の左端部と右端部とにそれぞれ一組ずつ設けられている。前後方向で対向する二つの第二マスチックシーラー43は、一つのルーフメンバー4の中央部に一組設けられている。前後方向で対向する二つの第三マスチックシーラー44は、一つのルーフメンバー4の中央部および左端部の間の領域と中央部および右端部の間の領域とにそれぞれ一組ずつ設けられている。このように一つのルーフメンバー4には、二つの第一マスチックシーラー42が二組、二つの第二マスチックシーラー43が一組、二つの第三マスチックシーラー44が二組設けられている。
【0031】
図4(a)は、実施形態における第一、第二マスチックシーラーの一例を示す側面図であって、図4(b)は、実施形態における第三マスチックシーラーの一例を示す側面図である。図4(a)は、ルーフパネル3が上方に変位した状態の第一、第二マスチックシーラー42、43を示し、図4(b)は、ルーフパネル3が上方に変位した状態の第三マスチックシーラー44を示す。図4(a)および図4(b)は、ルーフパネル3およびルーフメンバー4の形状を簡略化している。
【0032】
以下、第一マスチックシーラー42の形状および第二マスチックシーラー43の形状について説明する。以後、「第一マスチックシーラー42および第二マスチックシーラー43」を単に「第一、第二マスチックシーラー42、43」または「マスチックシーラー42、43」ということがある。第一、第二マスチックシーラー42、43は、ルーフメンバー4に接する下方部位である第一部位48と、ルーフパネル3に接する上方部分である第二部位49と、第一部位48および第二部位49の間の部位であるくびれ部位51と、を有する。第一部位48は、ルーフメンバー4のフランジ部34の溝部35に設けられて、この第一部位48の近傍のフランジ部34の平坦部38の上面と略平行に設置されている。
【0033】
以後、各マスチックシーラー5およびその一部の近傍のフランジ部34の平坦部38の上面を、各マスチックシーラー5およびその一部の「設置基準面」という。各マスチックシーラー5およびその一部の「断面積」とは、特に規定しない限り、各マスチックシーラー5およびその一部の設置基準面に平行な断面積をいう。また、各マスチックシーラーおよびその一部の「断面積」は、特に規定しない限り、各マスチックシーラー5およびその一部の上下方向の各位置の「断面積」のうち概ね最大の断面積を指す。このような各マスチックシーラー5およびその一部の「断面積」は、各マスチックシーラー5およびその一部のルーフパネル3での占有面積と略同一であり、かつルーフメンバー4での占有面積と略同一である。各マスチックシーラー5およびその一部の「幅」とは、特に規定しない限り、各マスチックシーラー5およびその一部の「断面積」の前後方向の寸法をいう。
【0034】
第一、第二マスチックシーラー42、43の第一部位48は、下から上に向かって幅が減少する膨出形状を有している。第一部位48は、下から上に向かって断面積が減少している。第一部位48の下面は、ルーフメンバー4に接している。
【0035】
第二部位49は、例えば同一のマスチックシーラー42、43に含まれる第一部位48の直上域内に設けられている。第一、第二マスチックシーラー42、43の第二部位49は、下から上に向かって幅が増加した後減少する膨出部54と、膨出部54の上に設けられた先端部55と、を含む。第一マスチックシーラー42の第二部位49の先端部55は、先述の第一マスチックシーラー42の配置領域のルーフパネル3の下面に接している。第二マスチックシーラー43の第二部位49の先端部55は、先述の第二マスチックシーラー43の配置領域のルーフパネル3の下面に接している。
【0036】
第二部位49の先端部55は、下から上に向かって断面積が減少している。また、第二部位49の先端部55は、下から上に向かって幅が減少し、第二部位49の先端部55の幅の減少率は、例えば同一の第二部位49に含まれる膨出部54の幅の減少率より大きい。第二部位49の先端部55の断面積は、同一の第二部位49に含まれる膨出部54の断面積より小さい。また、第二部位49の先端部55の幅は、同一の第二部位49に含まれる膨出部54の幅より小さい。このような第二部位49の先端部55は、第二部位49の先端部55以外の部位よりも引っ張りの力に対して延び易い、つまり剛性が低く、弾性変形し易い。
【0037】
第一、第二マスチックシーラー42、43のくびれ部位51は、第二部位49の膨出部54の下端と第一部位48の上端とを繋いでいる。くびれ部位51は、下端から中央に向かって断面積が減少して中央から上端に向かって断面積が増加している。くびれ部位51は、下端から中央に向かって幅が減少して中央から上端に向かって幅が増加している。くびれ部位51の中央の幅は、同一のマスチックシーラー42、43に含まれる第一部位48の幅より小さく、かつ第二部位49の幅より小さい。くびれ部位51の中央の断面積は、同一のマスチックシーラー42、43に含まれる第一部位48の断面積より小さく、かつ第二部位49の断面積より小さい。このようなくびれ部位51は、同一のマスチックシーラー42、43に含まれる第二部位49の先端部55以外の部位および第一部位48より剛性が低く、弾性変形し易い。
【0038】
第二部位49の膨出部54の幅は、同一のマスチックシーラー42、43に含まれる第一部位48の幅より小さい。また、第二部位49の膨出部54の断面積は、同一のマスチックシーラー42、43に含まれる第一部位48の下面より小さい。第二部位49の先端部55のルーフパネル3への接触面積は、同一のマスチックシーラー42、43に含まれる第一部位48のルーフメンバー4への接触面積より小さい。さらに、第二部位49の体積は、同一のマスチックシーラー42、43に含まれる第一部位48の体積より小さいことが好ましい。
【0039】
以下、第三マスチックシーラー44の形状について説明する。第三マスチックシーラー44は、ルーフメンバー4に接する下方部位である第一部位58と、ルーフパネル3に接する上方部位である第二部位59と、を有する。第三マスチックシーラー44の第一部位58は、ルーフメンバー4のフランジ部34の溝部35に設けられて、この第一部位58の設置基準面と略平行に設置されている。
【0040】
第三マスチックシーラー44の第一部位58は、下から上に向かって幅が減少する膨出形状を有し、例えば平面を下に向けて球面を上に向ける半球形状を有している。第三マスチックシーラー44の第一部位58は、下から上に向かって断面積が減少し、第一部位58の下面は、ルーフメンバー4に接している。
【0041】
第三マスチックシーラー44の第二部位59は、第三マスチックシーラー44の先端部である。第二部位59は、例えば同一のマスチックシーラー44に含まれる第一部位48の直上域内に設けられている。第三マスチックシーラー44の第二部位59は、先述の第三マスチックシーラー44の配置領域におけるルーフパネル3の下面に接している。第三マスチックシーラー44の第二部位59は、下から上に向かって断面積が減少している。第三マスチックシーラー44の第二部位59は、下から上に向かって幅が減少している。第三マスチックシーラー44の第二部位59の幅は、第三マスチックシーラー44の第一部位58の幅より小さい。第三マスチックシーラー44の第二部位59の断面積は、第三マスチックシーラー44の第一部位58の断面積より小さい。
【0042】
第三マスチックシーラー44の第二部位59のルーフパネル3への接触面積は、第一部位58のルーフメンバー4への接触面積より小さい。第三マスチックシーラー44の第二部位59の体積は、第一部位58の体積より小さい。このような第三マスチックシーラー44の第二部位59は、第三マスチックシーラー44の第一部位58より剛性が低く、弾性変形し易い。
【0043】
以下、第三マスチックシーラー44と第一、第二マスチックシーラー42、43との相違点を説明する。第三マスチックシーラー44は、例えば、第一、第二マスチックシーラー42、43のくびれ部位51を有していない。第三マスチックシーラー44の高さは、第一、第二マスチックシーラー42、43の高さと略同一であるが、これらの高さは、配置領域におけるルーフパネル3およびルーフメンバー4の距離に合わせて異なる。第三マスチックシーラー44の第一部位58の断面積は、第一、第二マスチックシーラー42、43の第一部位48の断面積より大きく、第一、第二マスチックシーラー42、43の第二部位49の断面積より大きい。このような第三マスチックシーラー44の第一部位58の部位は、第一、第二マスチックシーラー42、43の第二部位49の膨出部54および第一部位48より剛性が高く、弾性変形し難い。また、第三マスチックシーラー44の第二部位59のルーフパネル3への接触面積は、第一、第二マスチックシーラー42、43の第二部位49のルーフパネル3への接触面積より小さい。そのため、第三マスチックシーラー44の第二部位59のルーフパネル3への接着力は、第一、第二マスチックシーラー42、43の先端部55のルーフパネル3への接着力より小さい。以上のことから、第一、第二マスチックシーラー42、43は、第三マスチックシーラーよりも弾性変形して伸縮し易く、第一、第二マスチックシーラー42、43の先端部55は第三マスチックシーラー44の先端部である第二部位59よりもルーフパネル3から剥離し難い。つまり、第一、第二マスチックシーラー42、43は、第三マスチックシーラー44よりルーフパネル3への追従性が高く、かつ剥離し難い。
【0044】
図5は、実施形態におけるマスチックシーラーの形成工程を示す側面図である。
【0045】
以下、マスチックシーラー5の形成工程について説明する。マスチックシーラー5の形成工程では、先ず、緩く練られた未硬化の状態のゲル状剤Mを自動の塗布機でルーフメンバー4上に塗布する。ゲル状剤Mは、所定の粘度を有する熱硬化型接着剤である。ルーフメンバー4に塗布した後、ゲル状剤Mの上にルーフパネル3を載置する。これにより、ゲル状剤Mは所定の高さまで圧縮されてルーフパネル3およびルーフメンバー4に密着する。マスチックシーラー5は、ルーフパネル3を含む車体ボディの塗装工程での焼き付け乾燥で塗布したゲル状剤Mを硬化させて形成される。マスチックシーラー5は、硬化させることで所定の接着力および弾性力を発揮するが、未硬化の状態でも一定の接着力および弾性力を有する。
【0046】
第一マスチックシーラー42および第二マスチックシーラー43の形成工程では、先ずゲル状剤Mの一部である第一ゲル状剤M1をルーフメンバー4のフランジ部34の所定位置に塗布し、第一ゲル状剤M1の上にゲル状剤Mの一部である第二ゲル状剤M2を塗布して二段ゲル状剤M3を形成する。塗布された第一ゲル状剤M1および第二ゲル状剤M2は、それぞれ略半球形状を有する膨出形状M6と、膨出形状M6の上に角立っている先端部M7と、を有するが、第一ゲル状剤M1から角立っていた先端部M7は、重ねられた第二ゲル状剤M2によって潰される。第一ゲル状剤M1の上部および第二ゲル状剤M2の下部は、相互に密着する。第一ゲル状剤M1の体積は、例えば第二ゲル状剤M2の体積以上であることが好ましい。二段ゲル状剤M3の第二ゲル状剤M2は、第一ゲル状剤M1の直上域内に配置される。また、第一ゲル状剤M1の下面の面積は、例えば第二ゲル状剤M2の下面の面積以上であることが好ましい。
【0047】
第三マスチックシーラー44の形成工程では、第一、第二マスチックシーラー42、43の二段ゲル状剤M3と異なり、ゲル状剤Mの一部である一塊りの単段ゲル状剤M11をルーフメンバー4のフランジ部34の所定位置に塗布して行われる。塗布された単段ゲル状剤M11は、略半球形状を有する膨出形状M12と、その上に角立っている先端部M13と、を有する。単段ゲル状剤M11の体積は、例えば二段ゲル状剤M3の体積と略同一であって、塗布する面積や焼き付け乾燥後の配置領域におけるルーフパネル3とルーフメンバー4の距離に合わせて適宜調整しても良い。単段ゲル状剤M11の高さは、例えば二段ゲル状剤M3の高さより低い。
【0048】
図6は、実施形態におけるマスチックシーラーの形成工程を示す側面図である。図6は、未硬化のマスチックシーラーに対応する符号を括弧で表す。図6は、ルーフパネル3およびルーフメンバー4の形状を簡略化している。
【0049】
全てのマスチックシーラー5のゲル状剤Mを塗布した後に、塗布したゲル状剤Mの上にルーフパネル3を置く。これにより、ゲル状剤Mはルーフパネル3に圧縮される。ゲル状剤Mからの反力に抗しながらルーフパネル3にルーフパネル3の自重を含む下方負荷を加え、ルーフパネル3をルーフメンバー4に近接させる。近接したルーフパネル3の接合部17(図2参照)とルーフメンバー4の接合端部36とサイドボディ2の接合上端部28とを治具で固定して溶接する。これにより、ルーフパネル3、ルーフメンバー4およびサイドボディ2が組付けられて車体ボディが形成される。
【0050】
この工程において、二段ゲル状剤M3は、ルーフパネル3によって先ず先端部M7が潰され、第一ゲル状剤M1および第二ゲル状剤M2の膨出形状M6がそれぞれ潰される。これにより、二段ゲル状剤M3の高さは配置領域のルーフパネル3およびルーフメンバー4の距離まで小さくなり、二段ゲル状剤M3の幅が広がる。一方、単段ゲル状剤M11は、ルーフパネル3によって先端部M13が潰される。これにより、単段ゲル状剤M11の高さは配置領域のルーフパネル3およびルーフメンバー4の距離まで小さくなり、先端部M13上面の幅が広がる。
【0051】
ルーフパネル3が単段ゲル状剤M11から受ける反力は、ルーフパネル3が二段ゲル状剤M3から受ける反力より小さい。このため、マスチックシーラー5に二段ゲル状剤M3だけでなく単段ゲル状剤M11を混ぜて設けることで、ルーフパネル3へのゲル状剤Mからの反力を抑え、ルーフパネル3への下方負荷や治具の数量の増加を抑えている。また、第一マスチックシーラー42の二段ゲル状剤M3は、治具による上下方向の圧縮負荷が効果的にかかるルーフパネル3の接合部17側に配置され、第二マスチックシーラー43の二段ゲル状剤M3は、ルーフパネル3の自重が効果的にかかる中央側、つまり重心側に配置している。これにより、圧縮力が必要な二段ゲル状剤M3を効果的に圧縮でき、ルーフパネル3およびルーフメンバー4の距離の拡張を防いでルーフパネル3およびルーフメンバー4の距離を適正化できる。このように設けられる第一、第二、第三マスチックシーラー42、43、44の未硬化のゲル状剤Mによって、ルーフパネル3、ルーフメンバー4およびサイドボディ2への組付け効率の低減が抑制される。
【0052】
上記の工程により、二段ゲル状剤M3は、硬化した第一、第二マスチックシーラー42、43の形状と略同一の形状を有する未硬化の第一、第二マスチックシーラー42、43になり、単段ゲル状剤M11は、硬化した第三マスチックシーラー44の形状と略同一の形状を有する未硬化の第三マスチックシーラー44になる。
【0053】
次に行われる車体ボディの電着塗装工程で、ルーフパネル3、ルーフメンバー4、および未硬化のマスチックシーラー5は、電着塗装工程の前洗浄および塗装槽での水流や各工程への搬送時の振動等の影響を受ける。車体ボディの電着塗装工程での振動等による影響は、ルーフパネル3の車幅方向の中央側で大きくなり、ルーフパネル3の例えば上下の振幅は、中央側で大きくなる。
【0054】
このとき、未硬化のマスチックシーラー5は、硬化したマスチックシーラー5よりも接着力は劣るが柔らかく変形し易い。未硬化の第一、第二マスチックシーラー42、43の先端部55およびくびれ部位51は、未硬化の第一、第二マスチックシーラー42、43の先端部55およびくびれ部位51以外の部位より変形し易い。未硬化の第三マスチックシーラー44の先端部である第二部位59は、未硬化の第三マスチックシーラー44の第二部位59以外の部位より変形し易い。
【0055】
また、未硬化の第一、第二マスチックシーラー42、43の第一部位48の断面積および第二部位49の断面積は、未硬化の第三マスチックシーラー44の第一部位58の断面積より小さい。未硬化の第一、第二マスチックシーラー42、43の先端部55の上面は未硬化の第三マスチックシーラーの第二部位59の上面より広いため、未硬化の第一、第二マスチックシーラー42、43の先端部55の接着力は未硬化の第三マスチックシーラーの第二部位59の接着力より大きい。
【0056】
以上のことから、未硬化の第一、第二マスチックシーラー42、43は、第三マスチックシーラー44よりも変形し易く、ルーフパネル3の下面から剥離し難い。このため、未硬化の第一、第二マスチックシーラー42、43は、未硬化の第三マスチックシーラー44よりルーフパネル3の振動による変位に追従でき、振動等の影響を受け難い。このような未硬化の第二マスチックシーラー43が車体ボディの電着塗装工程での振動等による影響が大きいルーフパネル3の車幅方向の中央側に配置されているため、ルーフパネル3の中央側の下面から剥離し難く、かつルーフパネル3の中央側の振動に追従できる。
【0057】
図7は、本実施形態に係る車両ルーフの焼き付け乾燥による熱変形量を示す上方斜視図である。図7は、ビート部16の図示を省略している。
【0058】
図8は、図7のC-C線における断面図であって、本実施形態に係る車体ルーフの焼き付け乾燥後の熱変形を示す断面図である。図8は、焼き付け乾燥前のルーフパネル3の形状を破線で示し、焼き付け乾燥後のルーフパネル3の形状を実線で示す。
【0059】
車体ボディの塗装工程の焼き付け乾燥で、未硬化のマスチックシーラー5は熱によって硬化したマスチックシーラー5になり、ルーフパネル3は熱変形する。具体的には、焼け付け乾燥前の全体的に上方に湾曲したルーフパネル3が熱によって延び、ルーフパネル3の前後方向の中間領域がルーフメンバー4に固定された接合部17を基準にしてさらに上方に突出する。ルーフパネル3の前後方向の中間領域は、詳細には、接合部17を基点にして傾斜面9が立ち上がり、傾斜面9に追従して基本面8も上方に突出することで、上方に突出する。このとき、焼き付け乾燥前には外側に向かってやや下方に傾斜していた基本面8の傾きは、熱変形によって小さくなり、基本面8は上方に変位する。また、このとき、基本面8および傾斜面9の間に湾曲する屈曲部11が形成される。ルーフパネル3の前後方向の中間領域の屈曲部11が最も大きく上方に変位する。
【0060】
硬化、未硬化両方の状態で、第三マスチックシーラー44よりもルーフパネル3への追従性が高く、かつ剥離し難い硬化した第一マスチックシーラー42は、ルーフパネル3の車幅方向の外側の下面に接している。そのため、第一マスチックシーラー42の先端部55は、屈曲部11およびその周辺の上方変位に追従し、ルーフパネル3の下面から剥離し難い。硬化、未硬化両方の状態で、第三マスチックシーラー44よりもルーフパネル3への追従性が高く、かつ剥離し難い第二マスチックシーラー43は、ルーフパネル3の車幅方向の中央の下面に接している。そのため、第二マスチックシーラー43は、ルーフパネル3の車幅方向の中央側の上方変位に追従し、ルーフパネル3の下面から剥離し難い。第三マスチックシーラー44は、第一マスチックシーラー42と第二マスチックシーラー43の間に配置されている。したがって、第三マスチックシーラー44は、第一、第二マスチックシーラー42、43によってルーフパネル3への負荷を分担されて補助的にルーフパネル3を接合する。このため、第三マスチックシーラー44の先端部である第二部位59は、ルーフパネル3の下面から剥離し難い。
【0061】
なお、本実施形態におけるビート部16は、基本面より上方に突出しているが、基本面8より下方に突出していてもよい。また、本実施形態におけるビート部16は、四つ設けているが、これに限らず、一つ以上あればよく、車幅方向の長さが更に広くてもよい。本実施形態におけるマスチックシーラー5の配置領域は、基本面8だが、ビート部16でもよい。また、本実施形態におけるマスチックシーラー5の形状は、上方から見て略球状だが、これに限らず、上方から見て略楕円形状や略直方体形状であってもよい。さらに、本実施形態における第一、第二マスチックシーラー42、43の形状は、第一部位48と第二部位49による二段重ねだが、これに限らず、第三部位を重ねて三段重ねにしてくびれ部位を一つ増やすと更に弾性変形し易くなりルーフパネル3への追従性が良くなる。
【0062】
以上のように、本実施形態に係るルーフ1は、車幅方向の外側に設けられている接合部を有するルーフパネル3と、ルーフパネル3の前後方向の中間領域の下方で車幅方向に延びて設けられてルーフパネルを裏側から補強するルーフメンバー4と、ルーフメンバー4およびルーフパネル3を接合するマスチックシーラー5を備えている。複数のマスチックシーラー5は、ルーフメンバー4に接する第一部位48、ルーフパネル3に接する第二部位49、第一部位48と第二部位49との間にあって、第一部位48および第二部位49よりも断面積の小さいくびれ部位51とを有する第一マスチックシーラー42を含んでいる。このため、第一マスチックシーラー42のくびれ部位51は、ルーフパネル3およびルーフメンバー4の距離方向に弾性変形して伸縮し易い。したがって、第一マスチックシーラー42はルーフパネル3およびルーフメンバー4の距離方向に伸縮し易い。
【0063】
第一マスチックシーラー42は、上面視で車幅方向においてルーフパネル3の中央より接合部17に近接して配置されている。ルーフパネル3の接合部17側は、車体ボディの塗装工程の焼き付け乾燥時に熱変形してルーフパネル3の中央側よりも上方変位量が大きい。しかしながら、伸縮性の良い第一マスチックシーラー42は、このようなルーフパネル3の接合部17側の下面からでも剥離し難い。
【0064】
また、本実施形態におけるルーフパネル3は、全体が上方に湾曲する基本面8と、車幅方向に並んで設けられる複数のビート部16と、を有する。複数のビート部16は、基本面8に囲まれて設けられ基本面より上方に突出している。第一マスチックシーラー42は、ルーフパネル3の車幅方向で外側に位置する外側ビート部19と接合部17との間の基本面8に配置されて接合している。このルーフパネル3の外側ビート部19と接合部17との間の基本面8は、車体ボディの塗装工程の焼き付け乾燥時に大きく上方に変位する領域である。しかしながら、伸縮性の良い第一マスチックシーラーは、ルーフパネル3の外側ビート部19と接合部17との間の基本面8の下面からでも剥離し難い。
【0065】
また、本実施形態における複数のマスチックシーラー5は、ルーフメンバー4に接する第一部位48、ルーフパネル3に接する第二部位49、第一部位48と第二部位49との間にあって、第一部位48および第二部位49よりも断面積の小さいくびれ部位51とを有する第二マスチックシーラー43を含んでいる。第一マスチックシーラー42と同様にくびれ部位51を有する第二マスチックシーラー43は、ルーフパネル3およびルーフメンバー4の距離方向に伸縮し易い。
【0066】
第二マスチックシーラー43は、上面視でルーフメンバー4の車幅方向の中央に配置されている。第二マスチックシーラー43の配置領域であるルーフパネル3の車幅方向の中央側は、車体ボディの電着塗装工程の前洗浄および塗装槽での水流や各工程への搬送時の振動等の影響を受けやすい。第二マスチックシーラー43は、車体ボディの電着塗装工程および各工程への搬送時に未硬化であってもルーフパネル3およびルーフメンバー4の距離方向に弾性変形して伸縮易く、ルーフパネル3の中央側の下面から剥離し難い。
【0067】
複数のマスチックシーラー5は、ルーフメンバー4に接する第一部位58と、ルーフパネル3に接して第一部位58よりも断面積の小さい第二部位59と、を有してくびれ部位51を有しない第三のマスチックシーラーを含んでいる。このため、第三マスチックシーラー44は、くびれ部位51を有する第一、第二マスチックシーラー42、43より弾性変形し難い。
【0068】
第三マスチックシーラー44は、第一マスチックシーラー42および第二マスチックシーラー43の間に設けられている。以上のように設けられる第一、第二、第三マスチックシーラー42、43、44によって、ルーフパネル3のルーフメンバー4およびサイドボディ2への組付けが効率的に行われる。
【0069】
また、本実施形態におけるルーフパネル3は、外側ビート部19と接合部17との間に屈曲部11を有している。第一マスチックシーラー42は、屈曲部11の下に配置されている。屈曲部11は、車体ボディの塗装工程の焼き付け乾燥時に大きく上方に変位する。このため、伸縮し易い第一マスチックシーラー42は、ルーフパネル3の屈曲部11の下面から剥離し難い。
【0070】
また、本実施形態におけるくびれ部位51を有するマスチックシーラー42、43の、第一部位48の占有面積は、第二部位49の占有面積より大きい。これにより、マスチックシーラー5の形成時に、二段ゲル状剤M3の第二ゲル状剤M2は、第一ゲル状剤M1の上から脱落し難く第一ゲル状剤M1の上に安定して配置させ易い。
【0071】
また、本実施形態におけるルーフメンバー4は、車幅方向に延びて前後方向に隣り合う二つの凹部32と、二つの凹部32を前後方向で挟んで車幅方向に延びる二つのフランジ部34と、二つの凹部32の間に設けられて車幅方向に延びる凸部33と、を有している。これにより、ルーフメンバー4は、振動によって上下に振幅し難く、かつ車体ボディの塗装工程の焼き付け乾燥時に上方に熱変形するルーフパネル3と同様に上方に熱変形し難くなり、剛性が向上する。このため、上方に熱変形するルーフパネル3と、剛性が向上したルーフメンバー4との間の距離が拡張し易いため、伸縮性のよい第一、第二マスチックシーラー42、43によって接合されるのに適する。
【0072】
したがって、本実施形態に係る車両ルーフ1によれば、マスチックシーラー5の剥がれを抑制できる。
【符号の説明】
【0073】
1…ルーフ、2…サイドボディ、3…ルーフパネル、4…ルーフメンバー、5…マスチックシーラー、8…基本面、9…傾斜面、11…屈曲部、12…前後傾斜面、13…隅部、16…ビート部、17…接合部、19…外側ビート部、21…内側ビート部、24…根元部、25…先端部、28…接合上端部、32…凹部、34…フランジ部、35…溝部、36…接合端部、38…平坦部、42…第一マスチックシーラー、43…第二マスチックシーラー、43…第二マスチックシーラー、44…第三マスチックシーラー、44…第三マスチックシーラー、48…第一部位、49…第二部位、51…くびれ部位、54…膨出部、55…先端部、58…第一部位、59…第二部位、M…ゲル状剤、M1…第一ゲル状剤、M2…第二ゲル状剤、M3…二段ゲル状剤、M6…膨出形状、M7…先端部、M11…単段ゲル状剤、M12…膨出形状、M13…先端部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8