(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023108848
(43)【公開日】2023-08-07
(54)【発明の名称】ステアリング装置用ラック軸およびその製造方法、ならびにステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 5/04 20060101AFI20230731BHJP
B62D 3/12 20060101ALI20230731BHJP
F16H 1/12 20060101ALI20230731BHJP
F16H 55/26 20060101ALI20230731BHJP
【FI】
B62D5/04
B62D3/12 503Z
B62D3/12 501G
B62D3/12 503A
F16H1/12
F16H55/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022010116
(22)【出願日】2022-01-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 征樹
【テーマコード(参考)】
3D333
3J009
3J030
【Fターム(参考)】
3D333CB02
3D333CB15
3D333CB16
3D333CB21
3D333CC14
3D333CC15
3D333CC18
3D333CD04
3D333CD05
3D333CD09
3D333CD11
3D333CD14
3D333CD16
3D333CD28
3D333CD39
3D333CD45
3D333CE03
3D333CE04
3D333CE06
3D333CE09
3D333CE10
3J009EA05
3J009EA15
3J009EA23
3J009EA32
3J009EA42
3J009EB23
3J009FA08
3J030AC02
3J030BA08
3J030BB06
3J030BB18
3J030BC02
3J030CA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】対象ラックの歯幅方向に関する両側の端部に、軸方向に伸長しかつ軸方向端部が雌ねじ孔と径方向に重畳するラック側スライド平面を有し、かつ、該雌ねじ孔の周囲の肉厚を確保しやすいステアリング装置用ラック軸およびその製造方法、ならびに、該ラック軸を備えたステアリング装置を提供する。
【解決手段】第1軸部(アシスト側軸部55)は、第1雌ねじ孔(アシスト側雌ねじ孔58)、対象ラック(アシスト側ラック29)、ラック側スライド平面59、および、軸方向の第2側の端部であって少なくとも第1雌ねじ孔(58)が存在する軸方向範囲を含む軸方向範囲の外周面のうち周方向に関して対象ラック(29)と同位相となる部分に対象ラック(29)よりも径方向外側に張り出した張出面部60を有する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の第1側に、対象ラックを有する第1軸部、および、軸方向の第2側に、第2軸部を備え、
前記第1軸部は、軸方向の第1側の端部に備えられ、軸方向の第1側の端面にのみ開口する第1雌ねじ孔と、該第1雌ねじ孔よりも軸方向の第2側に位置する部分の周方向一部に備えられた前記対象ラックと、外周面のうち前記対象ラックの歯幅方向に関する両側の端部に備えられ、軸方向に伸長しかつ軸方向の第1側の端部が前記第1雌ねじ孔と径方向に重畳するラック側スライド平面と、軸方向の第1側の端部であって少なくとも前記第1雌ねじ孔が存在する軸方向範囲を含む軸方向範囲の外周面のうち周方向に関して前記対象ラックと同位相となる部分に備えられ、前記対象ラックよりも径方向外側に張り出した張出面部とを有し、
前記第2軸部は、軸方向の第2側の端部に備えられ、軸方向の第2側の端面にのみ開口しかつ前記第1雌ねじ孔と同軸に配置される第2雌ねじ孔を有する、
ステアリング装置用ラック軸。
【請求項2】
前記対象ラックは、アシスト側ラックであり、
前記第2軸部は、前記第2雌ねじ孔よりも軸方向の第1側に位置する部分の周方向一部に備えられた操舵側ラックを有する、
請求項1に記載のステアリング装置用ラック軸。
【請求項3】
前記対象ラックは、操舵側ラックであり、
前記第2軸部は、前記第2雌ねじ孔よりも軸方向の第1側に位置する部分に備えられたボールねじ軸部を有する、
請求項1に記載のステアリング装置用ラック軸。
【請求項4】
前記対象ラックの歯幅方向に関する前記張出面部の幅寸法が、前記第1軸部のうち前記張出面部が存在する軸方向範囲の前記歯幅方向に関する幅寸法以下である、請求項1~3のいずれかに記載のステアリング装置用ラック軸。
【請求項5】
前記第1軸部の軸方向の第2側の端部と前記第2軸部の軸方向の第1側の端部とを接続する接続部を備える、請求項1~4のいずれかに記載のステアリング装置用ラック軸。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のステアリング装置用ラック軸の製造方法であって、
丸棒状の母材を、前記ラック側スライド平面を形成するためのスライド平面形成部を備えた金型にセットする工程と、
前記金型との間で前記母材を挟む位置に配置され、前記母材の軸方向に関する寸法が前記金型よりも短く、かつ、前記対象ラックが形成される部分であって前記母材の直径よりも大きい幅寸法を有する平坦面部を形成するための平坦面形成部を備えた第1パンチ、および、前記金型との間で前記母材を挟む位置に配置され、前記母材の軸方向に関する寸法が前記金型よりも短く、かつ、前記張出面部を形成するための張出面形成部を備えた第2パンチを、前記金型および前記母材に向けて押圧することで、前記ラック側スライド平面、前記平坦面部、および前記張出面部を有する中間材を得る工程と、
前記中間材の前記平坦面部に前記対象ラックを形成する工程と、
前記中間材のうち、軸方向の第1側の端部に、前記第1雌ねじ孔を形成する工程と、を備える、
ステアリング装置用ラック軸の製造方法。
【請求項7】
操舵側ラックおよびアシスト側ラックを備えるラック軸と、
前記操舵側ラックと噛合し、ステアリングホイールの回転操作により回転駆動される操舵側ピニオン軸と、
前記アシスト側ラックと噛合し、電動モータにより回転駆動されるアシスト側ピニオン軸と、
前記操舵側ピニオン軸との間で前記ラック軸を挟む位置に配置され、前記ラック軸の外周面を前記操舵側ピニオン軸に向けて弾性的に押圧し、かつ、該外周面に摺接する押圧部を有する、操舵側ラックガイドと、
前記アシスト側ピニオン軸との間で前記ラック軸を挟む位置に配置され、前記ラック軸の外周面を前記アシスト側ピニオン軸に向けて弾性的に押圧し、かつ、該外周面に転がり接触する押圧部を有する、アシスト側ラックガイドと、
前記ラック軸の外周面を軸方向の摺動を可能に支持する、ラックブッシュと、
前記ラック軸、前記操舵側ピニオン軸、前記アシスト側ピニオン軸、前記操舵側ラックガイド、前記アシスト側ラックガイド、および前記ラックブッシュが組み付けられる、ハウジングと、を備え、
前記ラック軸は、請求項2、または、請求項2を引用する請求項4もしくは5に記載のステアリング装置用ラック軸であり、
前記ラックブッシュは、前記ラック軸の軸方向に関して前記アシスト側ピニオン軸よりも第1側に配置され、前記ラック軸の前記ラック側スライド平面に対して摺接するブッシュ側スライド平面を有する、
ステアリング装置。
【請求項8】
操舵側ラックおよびボールねじ軸部を備えるラック軸と、
前記操舵側ラックと噛合し、ステアリングホイールの回転操作により回転駆動される操舵側ピニオン軸と、
前記ボールねじ軸部に対して複数のボールを介して係合し、電動モータにより回転駆動されるボールナットと、
前記操舵側ピニオン軸との間で前記ラック軸を挟む位置に配置され、前記ラック軸の外周面を前記操舵側ピニオン軸に向けて弾性的に押圧し、かつ、該外周面に転がり接触する押圧部を有する、操舵側ラックガイドと、
前記ラック軸の外周面を軸方向の摺動を可能に支持する、ラックブッシュと、
前記ラック軸、前記操舵側ピニオン軸、前記ボールナット、前記操舵側ラックガイド、および前記ラックブッシュが組み付けられる、ハウジングと、を備え、
前記ラック軸は、請求項3、または、請求項3を引用する請求項4もしくは5に記載のステアリング装置用ラック軸であり、
前記ラックブッシュは、前記ラック軸の軸方向に関して前記操舵側ピニオン軸よりも第1側に配置され、前記ラック軸の前記ラック側スライド平面に対して摺接するブッシュ側スライド平面を有する、
ステアリング装置。
【請求項9】
対象ラックである操舵側ラックを備えるラック軸と、
前記操舵側ラックと噛合し、ステアリングホイールの回転操作により回転駆動され、かつ、電動モータからのアシスト駆動力を付与される操舵側ピニオン軸と、
前記操舵側ピニオン軸との間で前記ラック軸を挟む位置に配置され、前記ラック軸の外周面を前記操舵側ピニオン軸に向けて弾性的に押圧し、かつ、該外周面に転がり接触する押圧部を有する、操舵側ラックガイドと、
前記ラック軸の外周面を軸方向の摺動を可能に支持する、ラックブッシュと、
前記ラック軸、前記操舵側ピニオン軸、前記操舵側ラックガイド、および前記ラックブッシュが組み付けられる、ハウジングと、を備え、
前記ラック軸は、請求項1、または、請求項1を引用する請求項4もしくは5に記載のステアリング装置用ラック軸であり、
前記ラックブッシュは、前記ラック軸の軸方向に関して前記操舵側ピニオン軸よりも第1側に配置され、前記ラック軸の前記ラック側スライド平面に対して摺接するブッシュ側スライド平面を有する、
ステアリング装置。
【請求項10】
前記ラック側スライド平面が、前記ラック軸を軸方向に移動させることができる範囲の一方側の端部から他方側の端部まで移動させたときに、前記ラックブッシュの前記ブッシュ側スライド平面と摺接する範囲にのみ存在する、請求項7~9のいずれかに記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置、および、該装置を構成するラック軸およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のステアリング装置は、運転者が回転操作するステアリングホイールの回転を、ステアリングシャフト、中間シャフトなどを介してステアリングギヤユニットの操舵側ピニオン軸に伝達し、さらに、操舵側ピニオン軸の回転運動を、操舵側ピニオン軸と噛合する、ステアリングギヤユニットのラック軸の軸方向の直線運動に変換することに基づいて、左右の操舵輪に舵角を付与するように構成されている。
【0003】
ステアリング装置の分野では、ステアリングホイールの回転操作に要する力を軽減するため、操舵力伝達経路にアシスト駆動力を付与するように構成された、電動パワーステアリング装置が普及している。電動パワーステアリング装置には、操舵力伝達経路に対するアシスト駆動力の付与の仕方が異なる、各種の形式が存在する。
【0004】
これらのうち、国際公開第2017/010345号パンフレット(特許文献1)などに記載されて従来から知られている、デュアルピニオン式の電動パワーステアリング装置は、たとえば、
図17に示すような構成を有する。
【0005】
図17に示したデュアルピニオン式の電動パワーステアリング装置100は、ラック軸101に噛合するピニオン軸として、操舵側ピニオン軸102のほか、アシスト側ピニオン軸103を備える。
図17に関する以下の説明において、左右方向は、車両の幅方向を意味する。左右方向は、ラック軸101の軸方向に一致する。ラック軸101の軸方向に関して一方側は、
図17における左側であり、ラック軸101の軸方向に関して他方側は、
図17における右側である。
【0006】
ラック軸101は、車体に固定されたハウジング111の内側に、軸方向の直線移動を可能に配置されている。ラック軸101は、軸方向一方側部分の外周面の周方向一部に操舵側ラック104、および、軸方向他方側部分の外周面の周方向一部にアシスト側ラック105を有し、軸方向両側の端部が球面継手106およびタイロッド107を含むリンク機構を介して左右の操舵輪に連結される。ラック軸101は、軸方向両側の端部に、軸方向端面にのみ開口し、かつ、互いに同軸に配置された操舵側雌ねじ孔108およびアシスト側雌ねじ孔109を有する。軸方向両側の球面継手106は、それぞれの雄ねじ部110を操舵側雌ねじ孔108もしくはアシスト側雌ねじ孔109に螺合させることにより、ラック軸101に固定される。
【0007】
操舵側ピニオン軸102は、ハウジング111の内側に回転のみを可能に支持されており、外周面に操舵側ラック104と噛合する操舵側ピニオン112を有し、ステアリングホイールの回転操作により回転駆動される。アシスト側ピニオン軸103は、ハウジング111の内側に回転のみを可能に支持されており、外周面にアシスト側ラック105と噛合するアシスト側ピニオン113を有し、電動モータにより回転駆動される。自動車の運転時には、電動モータからアシスト側ピニオン軸103を介してラック軸101にアシスト駆動力を付与することにより、ステアリングホイールの回転操作に要する力が軽減される。
【0008】
このような電動パワーステアリング装置100は、ハウジング111に組み付けられた操舵側ラックガイド114およびアシスト側ラックガイド115をさらに備える。操舵側ラックガイド114は、操舵側ピニオン軸102との間でラック軸101を挟む位置に配置され、ラック軸101の外周面を操舵側ピニオン軸102に向けて弾性的に押圧する。これにより、操舵側ピニオン112と操舵側ラック104との噛合部のバックラッシュを低減することで、該噛合部で異音が発生することを抑制する。アシスト側ラックガイド115についても、操舵側ラックガイド114と同様に配置され、同様に作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2017/010345号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図17に示した従来構造において、アシスト側ラック105とアシスト側ピニオン113との噛合部に作用するアシスト駆動力は、操舵側ラック104と操舵側ピニオン112との噛合部に作用する操舵力に比べて非常に大きい。このことに起因して、アシスト側ラックガイド115は、操舵側ラックガイド114に比べて、ラック軸101から非常に大きな負荷を受ける。このため、操舵側ラックガイド114およびアシスト側ラックガイド115のそれぞれの押圧部を、ラック軸101の外周面に対して摺動する摺動面により構成すると、ラック軸101の外周面とアシスト側ラックガイド115の押圧部との間に作用する摩擦力が大きくなりやすい。その結果、ラック軸101が軸方向に直線移動することに対する抵抗力が大きくなりやすく、また、ラック軸101およびアシスト側ラックガイド115の摺動面で摩耗が発生しやすい。
【0011】
そこで、このような問題を解消すべく、
図17に示した従来構造において、操舵側ラックガイド114の押圧部を、ラック軸101の外周面に対して摺動する摺動面により構成する一方で、アシスト側ラックガイド115の押圧部を、ラック軸101の外周面に対して転がり接触する転動面により構成することが考えられる。このような構成を採用すれば、ラック軸101の外周面とアシスト側ラックガイド115の押圧部との間に作用する摩擦力を小さく抑えられる。そして、その分、ラック軸101が軸方向に直線移動することに対する抵抗力を軽減し、かつ、ラック軸101の外周面とアシスト側ラックガイド115の押圧部との接触部における摩耗量を抑制することができる。
【0012】
このような構成を採用する場合、操舵側ラックガイド114の押圧部である摺動面は、操舵側ラック104の歯幅方向(
図17における上下方向)に関する寸法を大きく確保しやすいため、該歯幅方向に関するラック軸101の変位を抑える能力を確保しやすい。これに対し、アシスト側ラックガイド115の押圧部である転動面は、アシスト側ラック105の歯幅方向(
図17における上下方向)に関する寸法を大きく確保しにくいため、該歯幅方向に関するラック軸101の変位を抑える能力を確保しにくい。
【0013】
したがって、該構成を採用する場合には、
図17に示すように、ハウジング111のうち、アシスト側ラックガイド115の近くに、円筒状のラックブッシュ116を組み付けて、該ラックブッシュ116の内周面により、ラック軸101の外周面を軸方向の摺動可能に支持し、かつ、アシスト側ラック105の歯幅方向に関するラック軸101の変位を抑えることが好ましい。このために、ラックブッシュ116の内周面と摺接するラック軸101の外周面のうち、アシスト側ラック105の歯幅方向に関する両側の端部に、軸方向に伸長するラック側スライド平面117を設け、かつ、ラックブッシュ116の内周面に、ラック側スライド平面117に対して摺接するブッシュ側スライド平面118を設けることが好ましい。
【0014】
操舵側ラックガイド114とラックブッシュ116とを用いて、ラック軸101の軸方向に離隔した2箇所を支持することにより、左右方向に対するラック軸101の傾きを十分に抑えるためには、ラックブッシュ116の配置箇所を、操舵側ラックガイド114からできるだけ軸方向に離すことが好ましい。このために具体的には、ラックブッシュ116を、
図17に示すように、ハウジング111の軸方向他方側の端部付近に配置することが好ましい。この場合には、ラック軸101のラック側スライド平面117を、少なくともラック軸101の軸方向他方側の端部付近、すなわち、アシスト側雌ねじ孔109と径方向に重畳する位置まで形成しておき、ラック軸101の軸方向一方側への移動量が最大になったときにも、ラック軸101のラック側スライド平面117とラックブッシュ116のブッシュ側スライド平面118とが摺接するようにすることが好ましい。
【0015】
ところで、近年、デュアルピニオン式の電動パワーステアリング装置には、さらなる軽量化と高出力化への対応が求められている。このような要求に応えるために、ラック軸の重量を増大させることなく、アシスト側ラックの歯幅を増大させること、すなわち、アシスト側ピニオンに対するアシスト側ラックの噛み合い面積を増大させることで、アシスト側ラックの強度を向上させることが考えられる。このために、具体的には、略円柱形状を有するラック軸のうち、アシスト側ラックが形成された部分の断面の輪郭形状を、略D字形とし、アシスト側ラックの歯幅を大きくすることが考えられる。
【0016】
このような歯幅の大きいアシスト側ラックは、たとえば、以下のようにして形成することが考えられる。まず、
図18(a)に示すような丸棒状の母材119のうち、少なくともアシスト側ラック105を形成すべき軸方向部分に鍛造による平押し加工を施すことにより、
図18(b)に示すように、該部分に、母材119の直径よりも大きい幅寸法を有する平坦面部120を形成する。具体的には、母材119を、その外周面のうちアシスト側ラック105を形成すべき周方向部分を上側に向けた状態で金型のキャビティ内にセットし、該周方向部分をパンチにより押圧することで、平坦面部120を形成する。次に、平坦面部120のうちアシスト側ラック105を形成すべき軸方向部分に鍛造および/または切削による歯成形加工を施して、
図18(c)に示すように、アシスト側ラック105を形成する。さらに、
図18(c)に仮想線(二点鎖線)で示すように、軸方向端部に切削加工でアシスト側雌ねじ孔109を形成する。
【0017】
上述のようにしてアシスト側ラック105を形成する際には、たとえば、
図18(b)に示すように、パンチにより平坦面部120を形成する際に、該平坦面部120を軸方向他方側の端部にまで連続して形成し、これと同時に、金型によって、アシスト側ラック105の歯幅方向に関する両側の端部に、軸方向他方側の端部にまで連続するラック側スライド平面117を形成することが考えられる。このようにすれば、ラック側スライド平面117を形成するための加工コストを抑えることができる。
【0018】
しかしながら、
図18(b)および
図18(c)に示すように、平坦面部120を軸方向他方側の端部にまで連続して形成する、すなわち、平坦面部120をアシスト側雌ねじ孔109と径方向に重畳する位置にまで連続して形成すると、
図19(a)に示すように、平坦面部120とアシスト側雌ねじ孔109との間に位置する部分の肉厚Tが小さくなり、該部分の強度が下がってしまう。これに対し、
図19(b)に示すように、アシスト側雌ねじ孔109の位置を平坦面部120から離れる方向にずらせば、平坦面部120とアシスト側雌ねじ孔109との間に位置する部分の肉厚Tを確保することができるが、その一方で、アシスト側雌ねじ孔109の中心軸が、操舵側雌ねじ孔108の中心軸に対してずれてしまう。左右の操舵輪の舵角変化を適切に行わせる観点から、これらの中心軸は互いに高精度に一致していることが好ましい。
【0019】
以上に説明した問題は、デュアルピニオン式の電動パワーステアリング装置に限らず、各種形式のステアリング装置において、ラック軸の重量を増大させることなく、該ラック軸に備えられた対象ラックの歯幅を増大させる際にも、同じようにして生じる問題である。
【0020】
本発明は、対象ラックの歯幅方向に関する両側の端部に、軸方向に伸長しかつ軸方向端部が雌ねじ孔と径方向に重畳するラック側スライド平面を有し、かつ、該雌ねじ孔の周囲の肉厚を確保しやすいステアリング装置用ラック軸およびその製造方法、ならびに、該ラック軸を備えたステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様のステアリング装置用ラック軸は、軸方向の第1側に、対象ラックを有する第1軸部、および、軸方向の第2側に、第2軸部を備える。
【0022】
前記第1軸部は、軸方向の第1側の端部に備えられ、軸方向の第1側の端面にのみ開口する第1雌ねじ孔と、該第1雌ねじ孔よりも軸方向の第2側に位置する部分の周方向一部に備えられた前記対象ラックと、外周面のうち前記対象ラックの歯幅方向に関する両側の端部に備えられ、軸方向に伸長しかつ軸方向の第1側の端部が前記第1雌ねじ孔と径方向に重畳するラック側スライド平面と、軸方向の第1側の端部であって少なくとも前記第1雌ねじ孔が存在する軸方向範囲を含む軸方向範囲の外周面のうち周方向に関して前記対象ラックと同位相となる部分に備えられ、前記対象ラックよりも径方向外側に張り出した張出面部とを有する。
【0023】
前記第2軸部は、軸方向の第2側の端部に備えられ、軸方向の第2側の端面にのみ開口しかつ前記第1雌ねじ孔と同軸に配置される第2雌ねじ孔を有する。
【0024】
本発明の一態様(第1の態様)のステアリング装置用ラック軸では、前記対象ラックは、アシスト側ラックであり、前記第2軸部は、前記第2雌ねじ孔よりも軸方向の第1側に位置する部分の周方向一部に備えられた操舵側ラックを有する。
【0025】
本発明の一態様(第2の態様)のステアリング装置用ラック軸では、前記対象ラックは、操舵側ラックであり、前記第2軸部は、前記第2雌ねじ孔よりも軸方向の第1側に位置する部分に備えられたボールねじ軸部を有する。
【0026】
本発明の一態様のステアリング装置用ラック軸では、前記対象ラックの歯幅方向に関する前記張出面部の幅寸法が、前記第1軸部のうち前記張出面部が存在する軸方向範囲の前記歯幅方向に関する幅寸法以下である。
【0027】
本発明の一態様のステアリング装置用ラック軸は、前記第1軸部の軸方向の第2側の端部と前記第2軸部の軸方向の第1側の端部とを接続する接続部を備える。
【0028】
本発明の一態様のステアリング装置用ラック軸の製造方法は、本発明の一態様のステアリング装置用ラック軸を製造対象としており、
丸棒状の母材を、前記ラック側スライド平面を形成するためのスライド平面形成部を備えた金型にセットする工程と、
前記金型との間で前記母材を挟む位置に配置され、前記母材の軸方向に関する寸法が前記金型よりも短く、かつ、前記対象ラックが形成される部分であって前記母材の直径よりも大きい幅寸法を有する平坦面部を形成するための平坦面形成部を備えた第1パンチ、および、前記金型との間で前記母材を挟む位置に配置され、前記母材の軸方向に関する寸法が前記金型よりも短く、かつ、前記張出面部を形成するための張出面形成部を備えた第2パンチを、前記金型および前記母材に向けて押圧することで、前記ラック側スライド平面、前記平坦面部、および前記張出面部を有する中間材を得る工程と、
前記中間材の前記平坦面部に前記対象ラックを形成する工程と、
前記中間材のうち、軸方向の第1側の端部に、前記第1雌ねじ孔を形成する工程と、を備える。
【0029】
本発明の一態様のステアリング装置は、
操舵側ラックおよびアシスト側ラックを備えるラック軸と、
前記操舵側ラックと噛合し、ステアリングホイールの回転操作により回転駆動される操舵側ピニオン軸と、
前記アシスト側ラックと噛合し、電動モータにより回転駆動されるアシスト側ピニオン軸と、
前記操舵側ピニオン軸との間で前記ラック軸を挟む位置に配置され、前記ラック軸の外周面を前記操舵側ピニオン軸に向けて弾性的に押圧し、かつ、該外周面に摺接する押圧部を有する、操舵側ラックガイドと、
前記アシスト側ピニオン軸との間で前記ラック軸を挟む位置に配置され、前記ラック軸の外周面を前記アシスト側ピニオン軸に向けて弾性的に押圧し、かつ、該外周面に転がり接触する押圧部を有する、アシスト側ラックガイドと、
前記ラック軸の外周面を軸方向の摺動を可能に支持する、ラックブッシュと、
前記ラック軸、前記操舵側ピニオン軸、前記アシスト側ピニオン軸、前記操舵側ラックガイド、前記アシスト側ラックガイド、および前記ラックブッシュが組み付けられる、ハウジングと、を備え、
前記ラック軸は、本発明の一態様(前記第1の態様)のステアリング装置用ラック軸であり、
前記ラックブッシュは、前記ラック軸の軸方向に関して前記アシスト側ピニオン軸よりも第1側に配置され、前記ラック軸の前記ラック側スライド平面に対して摺接するブッシュ側スライド平面を有する。
【0030】
本発明の一態様のステアリング装置は、
操舵側ラックおよびボールねじ軸部を備えるラック軸と、
前記操舵側ラックと噛合し、ステアリングホイールの回転操作により回転駆動される操舵側ピニオン軸と、
前記ボールねじ軸部に対して複数のボールを介して係合し、電動モータにより回転駆動されるボールナットと、
前記操舵側ピニオン軸との間で前記ラック軸を挟む位置に配置され、前記ラック軸の外周面を前記操舵側ピニオン軸に向けて弾性的に押圧し、かつ、該外周面に転がり接触する押圧部を有する、操舵側ラックガイドと、
前記ラック軸の外周面を軸方向の摺動を可能に支持する、ラックブッシュと、
前記ラック軸、前記操舵側ピニオン軸、前記ボールナット、前記操舵側ラックガイド、および前記ラックブッシュが組み付けられる、ハウジングと、を備え、
前記ラック軸は、本発明の一態様(前記第2の態様)のステアリング装置用ラック軸であり、
前記ラックブッシュは、前記ラック軸の軸方向に関して前記操舵側ピニオン軸よりも第1側に配置され、前記ラック軸の前記ラック側スライド平面に対して摺接するブッシュ側スライド平面を有する。
【0031】
本発明の一態様のステアリング装置は、
対象ラックである操舵側ラックを備えるラック軸と、
前記操舵側ラックと噛合し、ステアリングホイールの回転操作により回転駆動され、かつ、電動モータからのアシスト駆動力を付与される操舵側ピニオン軸と、
前記操舵側ピニオン軸との間で前記ラック軸を挟む位置に配置され、前記ラック軸の外周面を前記操舵側ピニオン軸に向けて弾性的に押圧し、かつ、該外周面に転がり接触する押圧部を有する、操舵側ラックガイドと、
前記ラック軸の外周面を軸方向の摺動を可能に支持する、ラックブッシュと、
前記ラック軸、前記操舵側ピニオン軸、前記操舵側ラックガイド、および前記ラックブッシュが組み付けられる、ハウジングと、を備え、
前記ラック軸は、本発明の一態様のステアリング装置用ラック軸であり、
前記ラックブッシュは、前記ラック軸の軸方向に関して前記操舵側ピニオン軸よりも第1側に配置され、前記ラック軸の前記ラック側スライド平面に対して摺接するブッシュ側スライド平面を有する。
【0032】
本発明の一態様のステアリング装置では、前記ラック側スライド平面が、前記ラック軸を軸方向に移動させることができる範囲の一方側の端部から他方側の端部まで移動させたときに、前記ラックブッシュの前記ブッシュ側スライド平面と摺接する範囲にのみ存在する。
【発明の効果】
【0033】
本発明の一態様によれば、対象ラックの歯幅方向に関する両側の端部に、軸方向に伸長しかつ軸方向端部が雌ねじ孔と径方向に重畳するラック側スライド平面を有し、かつ、該雌ねじ孔の周囲の肉厚を確保しやすいステアリング装置用ラック軸およびその製造方法、ならびに、該ラック軸を備えたステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態の第1例のステアリング装置を示す模式図である。
【
図2】
図2は、第1例のステアリング装置から一部の部材を取り出して示す分解斜視図である。
【
図3】
図3は、第1例のラック軸の軸方向一方側部分およびその周囲に配置された部材を示す断面図である。
【
図4】
図4は、第1例のラック軸の軸方向他方側部分およびその周囲に配置された部材を示す断面図である。
【
図8】
図8(a)は、第1例のラック軸の平面図であり、
図8(b)は、
図8(a)のD-D断面図であり、
図8(c)は、
図8(a)のE-E断面図またはF-F断面図であり、
図8(d)は、
図8(a)のG-G断面図であり、
図8(e)は、
図8(a)のH-H断面図である。
【
図9】
図9は、第1例のラック軸の軸方向他方側の端部の斜視図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、第1例の操舵側軸部の製造方法を工程順に示す図である。
【
図11】
図11(a)~
図11(c)は、第1例のアシスト側軸部の製造方法を工程順に示す図である。
【
図13】
図13は、第1例のアシスト側軸部の製造方法の工程B1で用いる鍛造装置の斜視図である。
【
図14】
図14は、本発明の実施の形態の第2例のステアリング装置を示す模式図である。
【
図15】
図15は、本発明の実施の形態の第3例のステアリング装置を示す模式図である。
【
図16】
図16は、本発明の実施の形態の第4例のステアリング装置を示す模式図である。
【
図17】
図17は、従来のステアリング装置を示す模式図である。
【
図18】
図18(a)~
図18(c)は、本発明を完成させる過程で考えたラック軸の製造方法の一部を工程順に示す図である。
【
図19】
図19(a)は、
図18(c)に示したラック軸の軸方向端面を示す図であり、
図19(b)は、
図18(a)に示した構造に対して、アシスト側雌ねじ孔を平坦面部から離して配置した構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1~
図13を用いて説明する。
【0036】
以下の説明において、前後方向は、車両の前後方向を意味し、上下方向は、車両の上下方向を意味し、左右方向は、車両の幅方向を意味する。左右方向は、後述するラック軸11およびラック収容部14の軸方向に一致する。ラック軸11およびラック収容部14の軸方向に関して一方側は、
図1、
図3、
図4、および
図8(a)における左側であり、ラック軸11およびラック収容部14の軸方向に関して他方側は、
図1、
図3、
図4、および
図8(a)における右側である。本例では、ラック軸11の軸方向に関して、一方側が第2側に相当し、他方側が第1側に相当する。
【0037】
本例のステアリング装置は、電動パワーステアリング装置1であり、デュアルピニオン式である。すなわち、本例の電動パワーステアリング装置1は、1本のラック軸11、操舵側ピニオン軸10、およびアシスト側ピニオン軸13を備え、操舵側ピニオン軸10からラック軸11に操舵力を入力し、アシスト側ピニオン軸13からラック軸11にアシスト駆動力を入力する形式の電動パワーステアリング装置である。本例の電動パワーステアリング装置1は、ラック軸11と操舵側ピニオン軸10との噛合部のバックラッシュを低減するための操舵側ラックガイド24と、ラック軸11とアシスト側ピニオン軸13との噛合部のバックラッシュを低減するためのアシスト側ラックガイド37と、ラック軸11の外周面を摺動可能に支持するラックブッシュ53と、これらが組み付けられるハウジング7とを備える。
【0038】
本例の電動パワーステアリング装置1は、
図1に全体構成を示すように、ステアリングホイール2と、ステアリングシャフト3と、ステアリングコラム4と、1対の自在継手5a、5bと、中間シャフト6と、ハウジング7(
図1では図示省略、
図2参照)と、操舵機構部8と、アシスト機構部9とを備える。
【0039】
ステアリングシャフト3は、車体に支持されたステアリングコラム4の内側に、回転自在に支持されている。ステアリングシャフト3の後端部には、運転者が回転操作するステアリングホイール2が取り付けられている。ステアリングシャフト3の前端部は、自在継手5a、中間シャフト6および別の自在継手5bを介して、操舵機構部8を構成する操舵側ピニオン軸10に接続されている。このため、操舵側ピニオン軸10には、ステアリングホイール2の回転運動が伝達される。操舵側ピニオン軸10の回転運動は、操舵機構部8を構成するラック軸11の軸方向の直線運動に変換される。これにより、左右の操舵輪12に、ステアリングホイール2の回転操作量に応じた舵角が付与される。電動パワーステアリング装置1は、アシスト機構部9を構成するアシスト側ピニオン軸13を介してラック軸11にアシスト駆動力を付与することにより、運転者がステアリングホイール2を回転操作するのに必要な操舵力を軽減する。
【0040】
本例では、ハウジング7は、アルミニウム合金などの軽合金をダイキャスト成形することにより一体的に造られた鋳造品であり、車体に固定される。本発明を実施する場合には、ハウジングを、複数の部品を互いに結合固定して構成することもできる。本例では、ハウジング7は、
図2に示すように、ラック収容部14と、操舵側ピニオン収容部15と、アシスト側ピニオン収容部16と、操舵側ガイド収容部17と、アシスト側ガイド収容部18と、ギヤハウジング部19と、複数の取付部20a、20bとを備える。
【0041】
ラック収容部14は、操舵機構部8を構成するラック軸11の軸方向中間部を収容する部分であって、円筒形状を有しており、左右方向に伸長している。
【0042】
操舵側ピニオン収容部15は、操舵側ピニオン軸10の先半部を収容する部分であって、ラック収容部14の軸方向一方側部分の周方向一部に配置されている。より具体的には、操舵側ピニオン収容部15は、ラック収容部14の軸方向一方側部分の前側部に配置されており、上側の端部のみが開口した有底円筒形状を有する。操舵側ピニオン収容部15は、ラック収容部14に対し、ねじれの位置関係に配置されている。つまり、操舵側ピニオン収容部15の中心軸とラック収容部14の中心軸とは、ねじれの位置関係にある。ラック収容部14の中心軸と操舵側ピニオン収容部15の中心軸とのいずれにも直交する方向である前後方向から見て、操舵側ピニオン収容部15の中心軸は、ラック収容部14の中心軸に対して直交する方向には配置されておらず、該直交する方向に対し傾斜している。操舵側ピニオン収容部15の内部空間は、ラック収容部14の内部空間に連通している。
【0043】
アシスト側ピニオン収容部16は、アシスト側ピニオン軸13を収容する部分であって、ラック収容部14の軸方向他方側部分の周方向一部に配置されている。より具体的には、本例では、アシスト側ピニオン収容部16は、ラック収容部14の軸方向他方側部分の前側部に配置されており、上下方向の両側の端部が開口した円筒形状を有する。アシスト側ピニオン収容部16は、ラック収容部14に対しねじれの位置関係に配置されている。つまり、アシスト側ピニオン収容部16の中心軸とラック収容部14の中心軸とは、ねじれの位置関係にある。ラック収容部14の中心軸とアシスト側ピニオン収容部16の中心軸とのいずれにも直交する方向である前後方向から見て、アシスト側ピニオン収容部16の中心軸は、ラック収容部14の中心軸に対して直交する方向には配置されておらず、該直交する方向に対し傾斜している。アシスト側ピニオン収容部16の内部空間は、ラック収容部14の内部空間に連通している。本発明を実施する場合には、アシスト側ピニオン収容部の中心軸を、ラック収容部の中心軸に対して直交する方向に配置することもできる。
【0044】
操舵側ガイド収容部17は、後述の操舵側ラックガイド24を収容する部分であって、ラック収容部14のうち、操舵側ピニオン収容部15に対して直径方向反対側となる部分に配置されている。すなわち、本例では、操舵側ガイド収容部17は、ラック収容部14のうち、操舵側ピニオン収容部15と同じ軸方向位置の後側部に配置されている。操舵側ガイド収容部17は、円筒形状を有しており、ラック収容部14の中心軸を中心とする放射方向に伸長している。すなわち、本例では、操舵側ガイド収容部17は、前後方向に伸長している。操舵側ガイド収容部17の内部空間も、ラック収容部14の内部空間に連通している。
【0045】
アシスト側ガイド収容部18は、後述のアシスト側ラックガイド37を収容する部分であって、ラック収容部14のうち、アシスト側ピニオン収容部16に対して直径方向反対側となる部分に配置されている。すなわち、本例では、アシスト側ガイド収容部18は、ラック収容部14のうち、アシスト側ピニオン収容部16と同じ軸方向位置の後側部に配置されている。アシスト側ガイド収容部18は、円筒形状を有しており、ラック収容部14の中心軸を中心とする放射方向に伸長している。すなわち、本例では、アシスト側ガイド収容部18は、前後方向に伸長している。アシスト側ガイド収容部18の内部空間も、ラック収容部14の内部空間に連通している。
【0046】
ギヤハウジング部19は、アシスト機構部9を構成する後述のウォーム減速機38を収容する部分であり、ウォーム収容部21とホイール収容部22とを備える。
【0047】
ホイール収容部22は、ウォーム減速機38を構成するウォームホイール50を収容する部分であって、アシスト側ピニオン収容部16と該アシスト側ピニオン収容部16の軸方向に関して隣接して配置されている。具体的には、本例では、ホイール収容部22は、アシスト側ピニオン収容部16の上側に配置されている。ホイール収容部22は、略円筒形状を有しており、アシスト側ピニオン収容部16と同軸に配置されている。
【0048】
ウォーム収容部21は、ウォーム減速機38を構成するウォーム49を収容する部分であって、ホイール収容部22の周方向一部に配置されている。具体的には、本例では、ウォーム収容部21は、ホイール収容部22の前側部に配置されている。ウォーム収容部21は、有底円筒形状を有しており、本例では、ラック収容部14の軸方向に関して一方側の端部に開口部を有する。ウォーム収容部21は、開口側の端部、すなわち、ラック収容部14の軸方向に関して一方側の端部に、径方向外側に向けて突出した取付フランジ23を有する。ウォーム収容部21の内部空間とホイール収容部22の内部空間とは、互いに連通している。
【0049】
複数の取付部20a、20bは、ハウジング7を車体に固定するために用いられる。本例では、複数の取付部20a、20bは、ラック収容部14の軸方向両側の端部の前側に配置された2つの取付部20a、および、ラック収容部14の軸方向中間部の後側に配置された2つの取付部20bからなる。ハウジング7は、取付部20a、20bのそれぞれを挿通したボルトやスタッドなどの固定部材を利用して、車体に固定される。
【0050】
操舵機構部8は、操舵側ピニオン軸10と、ラック軸11と、操舵側ラックガイド24とを有し、ステアリングホイール2の回転運動を、ラック軸11の軸方向の直線運動に変換する。
【0051】
操舵側ピニオン軸10は、炭素鋼などの金属製の軸部材である。操舵側ピニオン軸10は、
図1および
図5に示すように、先半部の外周面に、ラック軸11の操舵側ラック28と噛合する操舵側ピニオン25を有する。
【0052】
操舵側ピニオン軸10は、操舵側ピニオン収容部15の内側に、軸受26a、26bを用いて回転自在に支持されている。操舵側ピニオン軸10の中心軸は、操舵側ピニオン収容部15の中心軸と同軸に配置されている。操舵側ピニオン軸10は、ステアリングホイール2に対し、自在継手5a、5bおよび中間シャフト6などを介して接続されており、ステアリングホイール2の回転操作により回転駆動される。操舵側ピニオン軸10の回転運動は、ラック軸11の直線運動に変換され、ラック軸11の軸方向両側の端部に接続されたタイロッド27を押し引きする。これにより、左右の操舵輪12に舵角が付与される。
【0053】
ラック軸11は、炭素鋼などの金属製の棒状部材である。ラック軸11は、軸方向を左右方向に向けて配置される。ラック軸11は、
図8(a)~
図8(e)に示すように、軸方向一方側半部に、操舵側ラック28を有する操舵側軸部54、および、軸方向他方側半部に、アシスト側ラック29を有するアシスト側軸部55を備える。本例では、操舵側軸部54が第2軸部に相当し、アシスト側軸部55が第1軸部に相当し、アシスト側ラック29が対象ラックに相当する。
【0054】
本例では、ラック軸11の製造のしやすさを考慮して、ラック軸11を、操舵側軸部54とアシスト側軸部55とに分けて製造できる構造を採用している。具体的には、本例では、ラック軸11は、操舵側軸部54の軸方向他方側の端部とアシスト側軸部55の軸方向一方側の端部とを接続する接続部56を備える。すなわち、本例のラック軸11は、操舵側軸部54とアシスト側軸部55とを別々に造った後、操舵側軸部54の軸方向他方側の端部とアシスト側軸部55軸方向一方側の端部とを接続部56により接続してなる。本例では、接続部56は、摩擦圧接部により構成されている。ただし、本発明を実施する場合には、接続部56に必要な強度を確保できる限り、接続部56として、溶接による接合部、摩擦攪拌接合部、かしめ付けによる接続部などの、任意の接続部を採用することができる。また、本発明を実施する場合には、ラック軸を、1本の丸棒状の母材から造ることもできる。
【0055】
操舵側軸部54は、操舵側ラック28のほか、操舵側雌ねじ孔57を有する。本例では、操舵側雌ねじ孔57が第2雌ねじ孔に相当する。操舵側雌ねじ孔57は、操舵側軸部54の軸方向一方側の端部に備えられ、操舵側軸部54の軸方向一方側の端面にのみ開口する。操舵側雌ねじ孔57の中心軸は、操舵側軸部54の中心軸、すなわちラック軸11の中心軸に一致している。操舵側ラック28は、操舵側軸部54のうち、操舵側雌ねじ孔57よりも軸方向他方側に位置する部分である、軸方向中間部の周方向一部に備えられている。本例では、操舵側ラック28は、操舵側軸部54の前側面、すなわちラック軸11の前側面に配置されている。
【0056】
本例では、操舵側軸部54のうち、操舵側ラック28が形成された軸方向範囲における断面の輪郭形状は、
図8(b)に示すように、操舵側ラック28が形成された部分が直線形状、かつ、残りの部分が円弧形状、すなわち全体として欠円形状である。操舵側軸部54のうち、操舵側ラック28から外れた軸方向範囲における断面の輪郭形状は、
図8(c)に示すように、円形状である。操舵側軸部54のうち、操舵側ラック28が形成された軸方向範囲における外接円の直径dと、操舵側軸部54のうち、操舵側ラック28から外れた軸方向範囲における直径dとは、互いに等しい。操舵側ラック28の歯幅W1は、該直径dよりも小さい(W1<d)。該直径dは、本例の操舵側軸部54を造るために用いる丸棒状の母材62(
図10(a)参照)の直径と同じである。
【0057】
アシスト側軸部55は、アシスト側ラック29のほか、アシスト側雌ねじ孔58、1対のラック側スライド平面59、および張出面部60を有する。本例では、アシスト側雌ねじ孔58が第1雌ねじ孔に相当する。
【0058】
アシスト側雌ねじ孔58は、アシスト側軸部55の軸方向他方側の端部に備えられ、アシスト側軸部55の軸方向他方側の端面にのみ開口している。アシスト側雌ねじ孔58の中心軸は、アシスト側軸部55の中心軸、すなわちラック軸11の中心軸に一致している。すなわち、アシスト側雌ねじ孔58は、操舵側雌ねじ孔57と同軸に配置されている。
【0059】
アシスト側ラック29は、アシスト側軸部55のうち、アシスト側雌ねじ孔58よりも軸方向一方側に位置する部分である、軸方向中間部の周方向一部に備えられている。本例では、アシスト側ラック29は、アシスト側軸部55の前側面、すなわちラック軸11の前側面に配置されている。つまり、本例では、操舵側ラック28とアシスト側ラック29との、ラック軸11の周方向に関する配置の位相は、互いに等しい。ただし、本発明を実施する場合には、操舵側ラック28とアシスト側ラック29との、ラック軸11の周方向に関する配置の位相を、互いに異ならせることもできる。
【0060】
なお、本例では、アシスト側軸部55は、前側面のうちでアシスト側ラック29の軸方向両側に隣接する部分に、平坦面部61を有する。これらの平坦面部61は、アシスト側ラック29の歯先面と同一の仮想平面内に存在している。これらの平坦面部61のうち、軸方向他方側の平坦面部61は、アシスト側雌ねじ孔58よりも軸方向一方側に位置している。
【0061】
1対のラック側スライド平面59を構成するそれぞれのラック側スライド平面59は、アシスト側軸部55の外周面のうち、アシスト側ラック29の歯幅方向(
図8(a)における上下方向)に関する両側の端部、すなわち上側面および下側面に備えられ、軸方向に伸長している。これらのラック側スライド平面59は、アシスト側ラック29と同じ軸方向位置から、アシスト側雌ねじ孔58と径方向に重畳する軸方向位置まで、軸方向に連続して備えられている。特に、本例では、これらのラック側スライド平面59は、軸方向一方側の平坦面部61の軸方向一方側の端縁部と同じ軸方向位置から、アシスト側軸部55の軸方向他方側の端縁部と同じ軸方向位置まで連続して備えられている。本例では、これらのラック側スライド平面59は、アシスト側ラック29から遠ざかる側(
図8(d)および
図8(e)における右側)に向かうにしたがって互いに近づき合う方向に僅かに傾斜している。
【0062】
張出面部60は、アシスト側軸部55の軸方向他方側の端部であって、少なくともアシスト側雌ねじ孔58が存在する軸方向範囲を含む軸方向範囲の外周面のうち、周方向に関してアシスト側ラック29と同位相となる部分である前側面に、アシスト側ラック29よりも径方向外側、すなわち前側に張り出すように備えられている。本例では、張出面部60は、アシスト側雌ねじ孔58が存在する軸方向範囲を含む、より広い軸方向範囲に備えられている。すなわち、張出面部60の軸方向一方側の端部は、アシスト側雌ねじ孔58の底部よりも軸方向一方側に位置している。張出面部60は、軸方向他方側の平坦面部61の軸方向他方側に隣接して配置されている。
【0063】
本例では、張出面部60は、アシスト側雌ねじ孔58の中心軸を中心とする部分円筒面形状を有する。これにより、アシスト側雌ねじ孔58の周囲のうち、周方向に関してアシスト側ラック29と同位相になる部分の肉厚(径方向厚さ)が、アシスト側雌ねじ孔58の周囲のうち、周方向に関してアシスト側ラック29から外れた部分の肉厚と略同じになるようにしている。換言すれば、アシスト側雌ねじ孔58の周囲の肉厚を、全周にわたって略一定となるようにしている。なお、張出面部の形状は、アシスト側雌ねじ孔の周囲の肉厚を確保することができる限り、任意の形状とすることができる。
【0064】
アシスト側ラック29の歯幅方向に関する張出面部60の幅寸法X(
図8(e)参照)は、アシスト側軸部55のうち張出面部60が存在する軸方向範囲の前記歯幅方向に関する幅寸法Y(
図8(e)参照)、換言すれば1対のラック側スライド平面59を構成するそれぞれのラック側スライド平面59の間隔Y(
図8(e)参照)よりも小さい(X<Y)。張出面部60と軸方向他方側の平坦面部61とは、軸方向一方側を向いた段差面により接続されている。
【0065】
本例では、アシスト側軸部55のうち、アシスト側ラック29および平坦面部61が形成された軸方向範囲における断面の輪郭形状は、
図8(d)に示すように、アシスト側ラック29および平坦面部61が形成された部分(前側面)、ならびに、1対のラック側スライド平面59を構成するそれぞれのラック側スライド平面59が形成された部分(上側面および下側面)が直線形状で、かつ、アシスト側ラック29および平坦面部61の背面側に位置する部分(後側面)が円弧形状、すなわち全体としてD字形状である。アシスト側軸部55のうち、軸方向一方側の平坦面部61よりも軸方向一方側に位置する軸方向範囲における断面の輪郭形状は、
図8(c)に示すように、円形状である。アシスト側軸部55のうち、張出面部60が形成された軸方向範囲における断面の輪郭形状は、
図8(e)に示すように、張出面部60が形成された部分が円弧形状である点を除き、
図8(d)に示した断面の輪郭形状と同様である。
【0066】
本例では、アシスト側軸部55のうち、アシスト側ラック29、平坦面部61、および張出面部60が形成された軸方向範囲の、アシスト側ラック29の歯幅方向に関する幅寸法Yは、軸方向の全長にわたり一定である(
図8(d)、
図8(e)参照)。該幅寸法Yは、アシスト側軸部55のうち、軸方向一方側の平坦面部61よりも軸方向一方側に位置する軸方向範囲における直径dよりも大きい(Y>d)。該直径dは、本例のアシスト側軸部55を造るために用いる丸棒状の母材63(
図11(a)、
図12(a)参照)の直径dと同じである。本例では、該母材63の直径dは、操舵側軸部54を造るために用いる母材62(
図10(a)参照)の直径dと同じである。したがって、本例では、アシスト側ラック29の歯幅W2は、操舵側ラック28の歯幅W1よりも大きい(W2>W1)。
【0067】
ラック軸11は、軸方向両側の端部をラック収容部14の左右方向両側の開口から突出させた状態で、ラック収容部14の内側に軸方向に関する往復移動を可能に支持されている。ラック軸11の軸方向両側の端部は、球面継手31を介してタイロッド27に接続される。すなわち、ラック軸11の軸方向両側の端部に備えられた操舵側雌ねじ孔57およびアシスト側雌ねじ孔58のそれぞれに、球面継手31の基部に備えられた雄ねじ部32が螺合され、かつ、球面継手31の先端部に、タイロッド27の基端部が揺動可能に支持されている。ラック軸11は、球面継手31およびタイロッド27を含むリンク機構を介して、左右の操舵輪12に連結されている。
【0068】
操舵側ラックガイド24は、操舵側ピニオン軸10との間でラック軸11を挟む位置に配置されており、本例では、操舵側ガイド収容部17の内側に配置されている。本例の操舵側ラックガイド24は、
図3および
図5に示すように、滑り式のラックガイドであり、パッド33と、弾性部材34とを備える。
【0069】
パッド33は、略円柱形状を有しており、操舵側ガイド収容部17の内側に、ラック軸11に対する遠近移動を可能に配置されている。パッド33は、ラック軸11の凸円筒面状の後側面に対向する面に、ラック軸11の後側面に合致した形状を有する凹円筒面状の押圧面35を有する。押圧部である押圧面35は、滑り性に優れた合成樹脂などから構成されている。弾性部材34は、図示の例ではねじりコイルばねであり、パッド33と、操舵側ガイド収容部17の開口部を塞ぐ操舵側キャップ36との間に、弾性的に圧縮された状態で挟持されている。これにより、弾性部材34は、パッド33をラック軸11に向けて押圧する。
【0070】
操舵側ラックガイド24は、ラック軸11の外周面である後側面を操舵側ピニオン軸10に向け、弾性部材34の弾力に基づいて弾性的に押圧することで、操舵側ピニオン25と操舵側ラック28との噛合部のバックラッシュを低減する。これにより、操舵側ピニオン25と操舵側ラック28との噛合部で、異音が発生することを抑制している。
【0071】
アシスト機構部9は、ラック軸11にアシスト駆動力を付与することにより、運転者がステアリングホイール2を回転操作するのに必要な操舵力を軽減する。アシスト機構部9は、アシスト側ピニオン軸13と、アシスト側ラックガイド37と、ウォーム減速機38と、電動モータ39と、トルクセンサ40とを備える。
【0072】
アシスト側ピニオン軸13は、炭素鋼などの金属製の軸部材である。アシスト側ピニオン軸13は、
図1および
図6に示すように、先半部の外周面に、ラック軸11のアシスト側ラック29と噛合するアシスト側ピニオン41を有する。
【0073】
アシスト側ピニオン軸13は、アシスト側ピニオン収容部16の内側に、軸受42a、42bを用いて回転自在に支持されている。アシスト側ピニオン軸13の中心軸は、アシスト側ピニオン収容部16の中心軸と同軸に配置されている。アシスト側ピニオン軸13は、ウォーム減速機38を介して、電動モータ39により回転駆動される。本例では、アシスト側ピニオン収容部16のうち、軸方向に関してホイール収容部22と反対側の開口部は、キャップ51により塞がれている。
【0074】
アシスト側ラックガイド37は、アシスト側ピニオン軸13との間でラック軸11を挟む位置に配置され、本例では、アシスト側ガイド収容部18の内側に配置されている。アシスト側ラックガイド37は、
図4および
図6に示すように、転がり式のラックガイドであり、ローラ43と、ホルダ44と、ピン45と、転がり軸受46と、弾性部材47とを有する。
【0075】
ローラ43は、略円環形状を有しており、軸方向を上下方向に向けて配置されたピン45および転がり軸受46を介して、ホルダ44に対し回転自在に支持されている。これにより、押圧部であるローラ43の外周面は、ラック軸11の後側面の幅方向中間部に対して転がり接触している。ローラ43の外周面は、ラック軸11の後側面の輪郭形状に略合致した凹円弧状の母線形状を有する。ホルダ44は、アシスト側ガイド収容部18の内側に、ラック軸11に対する遠近移動を可能に配置されている。弾性部材47は、図示の例では皿ばねであり、ホルダ44とアシスト側ガイド収容部18の開口部を塞ぐアシスト側キャップ48との間に配置されている。弾性部材47は、ホルダ44をラック軸11に向けて押圧している。
【0076】
アシスト側ラックガイド37は、ラック軸11の外周面である後側面をアシスト側ピニオン軸13に向け、弾性部材47の弾力に基づいて弾性的に押圧することで、アシスト側ピニオン41とアシスト側ラック29との噛合部のバックラッシュを低減する。これにより、アシスト側ピニオン41とアシスト側ラック29との噛合部で、異音が発生することを抑制している。
【0077】
ウォーム減速機38は、
図6に示すように、ウォーム49とウォームホイール50とを備え、電動モータ39の回転を減速、すなわち電動モータ39の駆動トルクを増大して、アシスト側ピニオン軸13に伝達する。
【0078】
ウォーム49は、外周面にウォーム歯を有し、ウォーム収容部21の内側に回転可能に支持されている。ウォーム49の基端部は、電動モータ39のモータ出力軸に対し、図示しない継手などを介して、トルクの伝達を可能に接続されている。
【0079】
ウォームホイール50は、外周面にウォーム歯と噛合するホイール歯を有し、ホイール収容部22の内側に配置されている。ウォームホイール50は、アシスト側ピニオン軸13の基端部に相対回転不能に外嵌固定されている。本例では、ホイール収容部22のうち、軸方向に関してアシスト側ピニオン収容部16と反対側の開口部は、キャップ52により塞がれている。
【0080】
電動モータ39は、ウォーム収容部21の取付フランジ23に固定されている。
【0081】
トルクセンサ40は、操舵側ピニオン軸10の周囲に配置されており、操舵側ピニオン軸10に入力されるトルクの大きさおよび方向を検知する。これにより、トルクセンサ40は、操舵側ピニオン軸10に入力されるトルクに対応した信号を、電動モータ39の電子制御ユニットへ出力する。トルクセンサ40としては、たとえば、磁歪効果を利用した非接触式トルクセンサなどの、各種のトルクセンサを使用することができる。
【0082】
アシスト機構部9は、トルクセンサ40の出力信号に基づいて、電動モータ39を駆動制御する。これにより、電動モータ39が発生する駆動トルクを、ウォーム減速機38およびアシスト側ピニオン軸13を介してラック軸11に対し、アシスト駆動力として伝達する。この結果、運転者がステアリングホイール2を回転操作するのに必要な操舵力が軽減される。
【0083】
ラックブッシュ53(
図4および
図7参照)は、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの合成樹脂製で、略円筒形状を有し、ラック収容部14の軸方向他方側の開口部の近傍に内嵌されている。ラックブッシュ53は、ラック軸11の外周面を軸方向の摺動可能に支持する。ラックブッシュ53は、内周面に、ラック軸11の1対のラック側スライド平面59に対して摺接する、1対のブッシュ側スライド平面64を有する。ラックブッシュ53は、1対のブッシュ側スライド平面64と1対のラック側スライド平面59との係合に基づいて、アシスト側ラック29の歯幅方向(
図7における上下方向)に関するラック軸11の変位を有効に抑える。
【0084】
本例の構造は、ラック収容部14の軸方向他方側の開口部の近傍で、ラックブッシュ53に対して該開口部側に隣接する位置に内嵌固定された、円環状のスペーサ30を備える。スペーサ30は、ラックブッシュ53を構成する合成樹脂よりも強度の高い材料、たとえば金属で造られている。
【0085】
本例では、軸方向一方側の球面継手31(
図3参照)の径方向外端部に備えられた軸方向他方側を向いた円輪状の突き当て面65が、ラック収容部14の軸方向一方側の開口部の近傍に備えられた軸方向一方側を向いたストッパ面66aに当接する位置から、軸方向他方側の球面継手31(
図4参照)の径方向外端部に備えられた軸方向一方側を向いた円輪状の突き当て面65が、スペーサ30の軸方向他方側の側面であるストッパ面66bに当接する位置までの範囲で、ラック軸11を軸方向に直線移動させることができる。本例では、該範囲を調節することによって、ステアリングホイール2の回転操作量の制限範囲が設定されている。本例では、該制限範囲は、ステアリングホイール2の中立位置から一方側および他方側のそれぞれに約1.5回転(回転角にして540゜)の範囲に設定されている。
【0086】
次に、本例のラック軸11の製造方法について説明する。
【0087】
本例のラック軸11の製造方法は、操舵側軸部54を製造する工程と、アシスト側軸部55を製造する工程と、操舵側軸部54の軸方向他方側の端部とアシスト側軸部55の軸方向一方側の端部とを摩擦圧接により接続して接続部56を構成する工程とを備える。
【0088】
操舵側軸部54を製造する工程では、
図10(a)に示すような、金属製の丸棒状の母材62の軸方向中間部の周方向一部に、鍛造および/または切削による歯成形加工を施して、操舵側ラック28を形成する。さらに、該母材62の軸方向一方側の端部に、切削加工を施して、操舵側雌ねじ孔57を形成する。これにより、
図10(b)に示すような、操舵側軸部54を得る。
【0089】
アシスト側軸部55を製造する工程について、次に説明する。
【0090】
まず、第1工程では、
図11(a)および
図12(a)に示すような、金属製の丸棒状の母材63を、1対のラック側スライド平面59を形成するための1対のスライド平面形成部71を備えた金型67(
図13参照)にセットする。
【0091】
金型67は、U字形の断面形状を有し、かつ、軸方向両側および上側が開口したキャビティ72を備える。キャビティ72の内面のうち、上端部の幅方向両側には、1対のラック側スライド平面59を形成するための1対のスライド平面形成部71が備えられている。キャビティ72の内面のうち、1対のスライド平面形成部71よりも下側に位置する部分には、母材63の直径dの1/2と同じ大きさの曲率半径、あるいは、母材63の直径dの1/2よりも僅かに大きい曲率半径を有する、部分円筒面状の部分円筒面形成部73が備えられている。第1工程では、母材63の軸方向中間部から軸方向他方側の端部に掛けての部分を、金型67のキャビティ72にセットする。
【0092】
次に、第2工程では、金型67と、第1パンチ68(
図13参照)および第2パンチ69(
図13参照)を用いて、母材63にプレスによる鍛造加工を施すことにより、
図11(b)および
図12(b)に示すような、1対のラック側スライド平面59、平坦面部61z、および張出面部60を有する、中間材70を得る。ここで、平坦面部61zの幅寸法は、母材63の直径dよりも大きい。第1パンチ68は、金型67との間で母材63を挟む位置に配置され、母材63の軸方向に関する寸法が金型67よりも短く、かつ、アシスト側ラック29が形成される部分である平坦面部61zを形成するための平坦面形成部74を備える。第2パンチ69は、金型67との間で母材63を挟む位置に配置され、母材63の軸方向に関する寸法が金型67よりも短く、かつ、張出面部60を形成するための張出面形成部75を備える。第2工程では、第1パンチ68および第2パンチ69により、母材63を、金型67のキャビティ72に向けて押圧することで中間材70を得る。
【0093】
続く第3工程Cでは、中間材70の平坦面部61zの中間部に、鍛造および/または切削による歯成形加工を施して、アシスト側ラック29を形成する。なお、第3工程において、平坦面部61zのうち、アシスト側ラック29が形成されなかった両側部分が、アシスト側ラック29の軸方向両側に隣接する平坦面部61となる。
【0094】
そして、第4工程では、中間材70のうち、軸方向に関して張出面部60が存在する側の端部、すなわち軸方向他方側の端部に、切削加工を施して、アシスト側雌ねじ孔58を形成する。これにより、
図11(c)および
図12(c)に示すような、アシスト側軸部55を得る。
【0095】
本例の構造では、アシスト側ラック29とアシスト側ピニオン41との噛合部に作用するアシスト駆動力は、操舵側ラック28と操舵側ピニオン25との噛合部に作用する操舵力に比べて非常に大きい。このことに起因して、アシスト側ラックガイド37は、操舵側ラックガイド24に比べて、ラック軸11から非常に大きな負荷を受ける。このような事情に鑑みて、本例では、操舵側ラックガイド24の押圧部を、ラック軸11の外周面に対して摺動する摺動面により構成する一方で、アシスト側ラックガイド37の押圧部を、ラック軸11の外周面に対して転がり接触する転動面により構成している。このため、ラック軸11の外周面とアシスト側ラックガイド37の押圧部との間に作用する摩擦力を小さく抑えられる。したがって、その分、ラック軸11が軸方向に直線移動することに対する抵抗力を軽減し、かつ、ラック軸11の外周面とアシスト側ラックガイド37の押圧部との接触部における摩耗量を抑制することができる。
【0096】
このような本例の構造において、操舵側ラックガイド24の押圧部である押圧面35は、操舵側ラック28の歯幅方向(
図5における上下方向)に関する寸法を大きく確保しやすいため、該歯幅方向に関するラック軸11の変位を抑える能力を確保しやすい。これに対し、アシスト側ラックガイド37の押圧部であるローラ43の外周面は、アシスト側ラック29の歯幅方向(
図6における上下方向)に関する寸法を大きく確保しにくいため、該歯幅方向に関するラック軸11の変位を抑える能力を確保しにくい。このような事情に鑑みて、本例の構造では、
図4および
図7に示すように、ハウジング7のうち、アシスト側ラックガイド37の近くに、円筒状のラックブッシュ53を組み付けている。また、ラックブッシュ53の内周面と摺接するラック軸11の外周面のうち、アシスト側ラック29の歯幅方向(
図4における紙面の表裏方向、
図7における上下方向)に関する両側の端部に、軸方向に伸長するラック側スライド平面59を設け、かつ、ラックブッシュ53の内周面に、ラック側スライド平面59に対して摺接するブッシュ側スライド平面64を設けている。このため、アシスト側ラックガイド37の近くにおいて、アシスト側ラック29の歯幅方向に関するラック軸11の変位を抑えることができる。
【0097】
特に、本例の構造では、ラックブッシュ53を、操舵側ラックガイド24からの軸方向距離がアシスト側ラックガイド37よりも大きい箇所である、ラック収容部14の軸方向他方側の開口部の近傍に配置している。このため、操舵側ラックガイド24とラックブッシュ53との軸方向距離を十分に確保することができ、ラック軸11が左右方向に対して前記歯幅方向に傾くことを効果的に抑制することができる。
【0098】
なお、本例の構造では、ラックブッシュ53をラック収容部14の軸方向他方側の開口部の近傍に配置したため、ラック軸11の軸方向一方側への移動量が最大になったとき、すなわち、軸方向他方側の球面継手31(
図4参照)の突き当て面65が、スペーサ30のストッパ面66bに当接する位置まで、ラック軸11が軸方向一方側に移動したときには、ラック軸11の外周面のうち、アシスト側雌ねじ孔58と径方向に重畳する部分が、ラックブッシュ53の内径側に進入する。このような事情に鑑みて、本例では、ラック側スライド平面59を、アシスト側雌ねじ孔58と径方向に重畳する位置まで軸方向に連続して形成している。このため、ラック軸11の軸方向一方側への移動量が最大になったときでも、ラック側スライド平面59が、ブッシュ側スライド平面64と摺接した状態が維持される。
【0099】
本例の構造では、アシスト側軸部55のうち、アシスト側ラック29には、母材63に施された鍛造加工により、母材63の直径dよりも大きい歯幅W2が付与されている。このため、ラック軸11の重量を増大させることなく、アシスト側ピニオン41に対するアシスト側ラック29の噛み合い面積を増大させることができ、アシスト側ラック29の耐久性を向上させることができる。
【0100】
本例では、母材63に鍛造加工を施すことにより、アシスト側ラック29が形成される部分であって該母材63の直径dよりも大きい幅寸法を有する平坦面部61z、および、張出面部60を形成するのと同時に、金型67に備えられた1対のスライド平面形成部71により、1対のラック側スライド平面59を形成する。このため、1対のラック側スライド平面59を、別途切削加工により形成する場合と比べて、1対のラック側スライド平面59の加工コストを抑えることができる。さらに、本例では、ラック側スライド平面59を鍛造加工により形成することで、ラック側スライド平面59の表面に加工硬化層が形成されるため、ラック側スライド平面59を切削加工により形成する場合に比べて、ラック側スライド平面59の耐摩耗性を確保しやすい。
【0101】
本例では、母材63に鍛造加工を施すことにより、平坦面部61zを形成する際に、該平坦面部61zを、アシスト側雌ねじ孔58が形成される軸方向他方側の端部までは形成しない。すなわち、本例では、この際に、アシスト側雌ねじ孔58が形成される軸方向他方側の端部のうち、周方向に関して平坦面部61zと同位相となる部分に、該平坦面部61zよりも径方向外側に張り出した張出面部60を形成する。このため、本例の構造では、操舵側雌ねじ孔57とアシスト側雌ねじ孔58とを同軸に配置する条件下で、平坦面部61zを、アシスト側雌ねじ孔58が形成される軸方向他方側の端部まで形成する場合に比べて、アシスト側雌ねじ孔58の周囲のうち、アシスト側ラック29と同位相になる部分の肉厚を十分に確保することができる。
【0102】
さらに、本例の製造方法によれば、ラック側スライド平面59の形状精度を良好にすることができる。すなわち、本例の構造では、
図12(b)に示すように、ラック側スライド平面59は、平坦面部61zと同じ軸方向範囲に存在する第1部分と、張出面部60と同じ軸方向範囲に存在する第2部分とを有する。このようなラック側スライド平面59を鍛造加工により形成する方法として、たとえば、第1部分を形成するための第1部分形成部を備えた第1金型に対して、母材を、第1パンチ68により押圧することで、平坦面部61zおよび第1部分を形成し、その後、第2部分を形成するための第2部分形成部を備えた第2金型に対して、母材を、第2パンチ69により押圧することで、張出面部60および第2部分を形成する方法が考えられる。しかしながら、このように第1部分と第2部分とを、異なる金型(第1金型、第2金型)を用いた鍛造加工により形成すると、第1部分と第2部分との境界に、段差が形成されることが避けられない。これに対し、本例の製造方法では、ラック側スライド平面59の第1部分および第2部分を、全長にわたり連続したスライド平面形成部71を有する単一の金型67を用いた鍛造加工により形成する。このため、第1部分と第2部分との境界に段差が形成されることを防止して、ラック側スライド平面59の形状精度を良好にすることができる。しかも、前述した通り、ラック側スライド平面59の表面には加工硬化層が形成されるため、形状精度が良好なだけでなく、耐摩耗性に優れたラック側スライド平面59を形成することができる。
【0103】
なお、本例の構造では、ラック側スライド平面59は、軸方向一方側の平坦面部61の軸方向一方側の端縁部と同じ軸方向位置から、アシスト側軸部55の軸方向他方側の端縁部と同じ軸方向位置まで連続して形成されている。ただし、本発明を実施する場合に、ラック側スライド平面は、ラック軸を軸方向に移動させることができる範囲の一方側の端部から他方側の端部まで移動させたときに、ラックブッシュのブッシュ側スライド平面と摺接する範囲に形成すれば足りるため、該範囲にのみ形成することもできる。
【0104】
すなわち、ステアリングホイール2の回転操作により、軸方向一方側の球面継手31(
図3参照)の突き当て面65が、ハウジング7のストッパ面66aに当接する位置まで、ラック軸11を軸方向他方側に移動させた状態で、アシスト側軸部55のうち、ラックブッシュ53よりも軸方向一方側に位置する部分には、ラック側スライド平面59を形成しなくてもよい。また、ステアリングホイール2の回転操作により、軸方向他方側の球面継手31(
図4参照)の突き当て面65が、スペーサ30のストッパ面66bに当接する位置まで、ラック軸11を軸方向一方側に移動させた状態で、アシスト側軸部55のうち、ラックブッシュ53よりも軸方向他方側に位置する部分、具体的には、スペーサ30の内径側に位置する軸方向他側の端部には、ラック側スライド平面59を形成しなくてもよい。
【0105】
[第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図14を用いて説明する。
【0106】
本例のステアリング装置は、ボールねじ式の電動パワーステアリング装置1aである。本例では、ラック軸11aの軸方向に関して、一方側が第1側に相当し、他方側が第2側に相当する。
【0107】
本例では、ラック軸11aは、軸方向一方側半部に、操舵側ラック28aを有する操舵側軸部54a、および、軸方向他方側半部に、ボールねじ軸部76を有するアシスト側軸部55aを備える。本例では、操舵側軸部54aが第1軸部に相当し、アシスト側軸部55aが第2軸部に相当し、操舵側ラック28aが対象ラックに相当する。
【0108】
本例では、操舵側軸部54aは、第1例のアシスト側軸部55(
図8(a)、
図8(d)、
図8(e)、
図9参照)と同じ構成を有し、使用状態での軸方向の向きが、第1例のアシスト側軸部55aと逆になっている。
【0109】
すなわち、操舵側軸部54aは、軸方向一方側の端部に、第1例のアシスト側雌ねじ孔58と同じ構成を有する操舵側雌ねじ孔57を有する。本例では、操舵側雌ねじ孔57が第1雌ねじ孔に相当する。操舵側軸部54aは、操舵側雌ねじ孔57よりも軸方向他方側に位置する部分である、軸方向中間部の周方向一部に、第1例のアシスト側ラック29と同じ構成を有する操舵側ラック28aを有する。操舵側軸部54aは、外周面のうち、操舵側ラック28aの歯幅方向に関する両側の端部に、第1例と同じ1対のラック側スライド平面59を有する。操舵側軸部54aは、軸方向一方側の端部であって、操舵側雌ねじ孔57が存在する軸方向範囲を含む軸方向範囲の外周面のうち、周方向に関して操舵側ラック28aと同位相となる部分に、第1例と同じ張出面部60を有する。それ以外の部分に関しても、操舵側軸部54aは、第1例のアシスト側軸部55aと同じ構成を有する。
【0110】
本例では、アシスト側軸部55aの軸方向他方側の端部に備えられたアシスト側雌ねじ孔58が、第2雌ねじ孔に相当する。本例では、アシスト側軸部55aは、アシスト側雌ねじ孔58よりも軸方向一方側に位置する部分である、軸方向中間部に、ボールねじ軸部76を有する。ボールねじ軸部76は、外周面に、複数のボール77を係合させるための螺旋状の雄側ボールねじ溝を有する。
【0111】
本例では、操舵側ラックガイド24aは、第1例のアシスト側ラックガイド37(
図6参照)と同じ構成を有する。すなわち、本例では、操舵側ラックガイド24aは、ラック軸11aの外周面を操舵側ピニオン軸10に向けて弾性的に押圧し、かつ、該外周面に転がり接触する押圧部を有する。
【0112】
本例の構造は、第1例と同じ構成を有するラックブッシュ53(
図7参照)を備え、該ラックブッシュ53は、ハウジング7aの軸方向一方側の開口部の近傍に内嵌されている。この状態で、ラックブッシュ53は、その内周面により、ラック軸11aの外周面を軸方向の摺動を可能に支持し、かつ、1対のブッシュ側スライド平面64と1対のラック側スライド平面59との係合に基づいて、操舵側ラック28aの歯幅方向に関するラック軸11aの変位を有効に抑える。
【0113】
本例の構造は、筒状のラックブッシュ53aをさらに備え、該ラックブッシュ53aは、ハウジング7aの軸方向他方側の開口部の近傍に内嵌されている。この状態で、ラックブッシュ53aは、その内周面により、ラック軸11aの外周面を軸方向の摺動を可能に支持している。
【0114】
本例の構造は、ボールねじ軸部76の周囲に配置される筒状のボールナット78を備える。ボールナット78は、内周面に、複数のボール77を係合させるための螺旋状の雌側ボールねじ溝を有する。ボールナット78は、該雌側ボールねじ溝とボールねじ軸部76の外周面に備えられた雄側ボールねじ溝との間に配置された複数のボール77を介して、ボールねじ軸部76に係合している。本例では、ボールナット78は、ハウジング7aに支持された電動モータ39により、回転駆動可能とされている。
【0115】
本例の場合も、運転者がステアリングホイール2を回転操作すると、トルクセンサ40の出力信号に基づいて、電動モータ39が駆動制御される。これにより、電動モータ39が発生する駆動トルクが、ボールナット78および複数のボール77を介してボールねじ軸部76に対し、アシスト駆動力として付与される。この結果、運転者がステアリングホイール2を回転操作するのに必要な操舵力が軽減される。
【0116】
以上のような構成を有する本例の電動パワーステアリング装置1aでは、ラック軸11aの重量を増大させることなく、操舵側ラック28aの歯幅を増大させることができる。また、操舵側ラック28aの歯幅方向に関する両側の端部に、軸方向に伸長しかつ軸方向端部が操舵側雌ねじ孔57と径方向に重畳するラック側スライド平面59を有し、かつ、操舵側雌ねじ孔57の周囲の肉厚を確保しやすい。その他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0117】
[第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、
図15を用いて説明する。
【0118】
本例のステアリング装置は、ピニオンアシスト式(シングルピニオン式)の電動パワーステアリング装置1bである。本例では、ラック軸11bの軸方向に関して、一方側が第1側に相当し、他方側が第2側に相当する。
【0119】
本例では、ラック軸11bの軸方向一方側半部は、第2例と同じ操舵側軸部54aにより構成されており、ラック軸11bの軸方向他方側半部は、軸方向他方側の端部にアシスト側雌ねじ孔58を有し、かつ、軸方向の全長にわたり円筒面状の外周面を有するアシスト側軸部55bにより構成されている。本例では、操舵側軸部54aが第1軸部に相当し、アシスト側軸部55bが第2軸部に相当する。
【0120】
本例の構造は、操舵側ピニオン軸10に組み付けられたウォーム減速機38aを備える。本例では、操舵側ピニオン軸10は、ハウジング7bに支持された電動モータ39により、ウォーム減速機38aを介して回転駆動可能とされている。
【0121】
本例の場合も、運転者がステアリングホイール2を回転操作すると、トルクセンサ40の出力信号に基づいて、電動モータ39が駆動制御される。これにより、電動モータ39が発生する駆動トルクが、ウォーム減速機38aを介して操舵側ピニオン軸10に対し、アシスト駆動力として付与される。この結果、運転者がステアリングホイール2を回転操作するのに必要な操舵力が軽減される。その他の構成および作用効果は、第1例および第2例と同様である。
【0122】
[第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、
図16を用いて説明する。
【0123】
本例は、本発明をコラムアシスト式の電動パワーステアリング装置1cに適用した例である。なお、コラムアシスト式とは、ステアリングコラム4に接続された電動モータを用いて、ステアリングシャフト3に直接、アシスト駆動力を付与する形式の電動パワーステアリング装置を言う。本例では、ラック軸11bの軸方向に関して、一方側が第1側に相当し、他方側が第2側に相当する。
【0124】
本例では、ラック軸11bは、第3例と同じ構成を有する。
【0125】
本例の構造は、ステアリングコラム4の前端部に固定された電動アシスト装置79を備える。電動アシスト装置79は、トルクセンサと、電動モータと、ウォーム減速機とを備える。
【0126】
本例では、運転者がステアリングホイール2を回転操作すると、電動アシスト装置79において、トルクセンサは、ステアリングホイール2からステアリングシャフト3に加えられたトルクの方向および大きさを検出する。電動モータは、トルクセンサが検出したトルクに関する出力信号に基づいて駆動制御される。これにより、電動モータが発生する駆動トルクが、ウォーム減速機を介してステアリングシャフト3に対し、アシスト駆動力として伝達される。すなわち、本例では、電動モータからのアシスト駆動力が、ステアリングシャフト3、自在継手5a、中間シャフト6、および自在継手5bを介して、操舵側ピニオン軸10に伝達される。この結果、運転者がステアリングホイール2を回転操作するのに必要な操舵力が軽減される。その他の構成および作用効果は、第1例および第3例と同様である。
【0127】
本発明は、上述した各実施の形態の構成を、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0128】
1、1a、1b、1c 電動パワーステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングシャフト
4 ステアリングコラム
5a、5b 自在継手
6 中間シャフト
7、7a ハウジング
8 操舵機構部
9 アシスト機構部
10 操舵側ピニオン軸
11、11a、11b ラック軸
12 操舵輪
13 アシスト側ピニオン軸
14 ラック収容部
15 操舵側ピニオン収容部
16 アシスト側ピニオン収容部
17 操舵側ガイド収容部
18 アシスト側ガイド収容部
19 ギヤハウジング部
20a、20b 取付部
21 ウォーム収容部
22 ホイール収容部
23 取付フランジ
24、24a 操舵側ラックガイド
25 操舵側ピニオン
26a、26b 軸受
27 タイロッド
28、28a 操舵側ラック
29 アシスト側ラック
30 スペーサ
31 球面継手
32 雄ねじ部
33 パッド
34 弾性部材
35 押圧面
36 操舵側キャップ
37 アシスト側ラックガイド
38、38a ウォーム減速機
39 電動モータ
40 トルクセンサ
41 アシスト側ピニオン
42a、42b 軸受
43 ローラ
44 ホルダ
45 ピン
46 転がり軸受
47 弾性部材
48 アシスト側キャップ
49 ウォーム
50 ウォームホイール
51 キャップ
52 キャップ
53、53a ラックブッシュ
54、54a 操舵側軸部
55、55a、55b アシスト側軸部
56 接続部
57 操舵側雌ねじ孔
58 アシスト側雌ねじ孔
59 ラック側スライド平面
60 張出面部
61 平坦面部
62 母材
63 母材
64 ブッシュ側スライド平面
65 突き当て面
66a、66b ストッパ面
67 金型
68 第1パンチ
69 第2パンチ
70 中間材
71 スライド平面形成部
72 キャビティ
73 部分円筒面形成部
74 平坦面形成部
75 張出面形成部
76 ボールねじ軸部
77 ボール
78 ボールナット
79 電動アシスト装置
100 電動パワーステアリング装置
101 ラック軸
102 操舵側ピニオン軸
103 アシスト側ピニオン軸
104 操舵側ラック
105 アシスト側ラック
106 球面継手
107 タイロッド
108 操舵側雌ねじ孔
109 アシスト側雌ねじ孔
110 雄ねじ部
111 ハウジング
112 操舵側ピニオン
113 アシスト側ピニオン
114 操舵側ラックガイド
115 アシスト側ラックガイド
116 ラックブッシュ
117 ラック側スライド平面
118 ブッシュ側スライド平面
119 母材
120 平坦面部