(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110366
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】既設管の更生方法および管口シール構造
(51)【国際特許分類】
F16L 1/00 20060101AFI20230802BHJP
F16L 55/163 20060101ALI20230802BHJP
F16L 55/164 20060101ALI20230802BHJP
B29C 63/32 20060101ALI20230802BHJP
E03F 3/06 20060101ALI20230802BHJP
E03F 7/00 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
F16L1/00 H
F16L55/163
F16L55/164
B29C63/32
E03F3/06
E03F7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011764
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003340
【氏名又は名称】弁理士法人湧泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 善央
【テーマコード(参考)】
2D063
3H025
4F211
【Fターム(参考)】
2D063BA31
2D063BA37
2D063EA06
3H025EA01
3H025EB07
3H025EB13
3H025EC01
3H025EC12
3H025ED02
4F211AG08
4F211AH43
4F211SA05
4F211SC03
4F211SD06
4F211SJ13
4F211SJ15
4F211SP50
(57)【要約】
【課題】 既設管と更生管との間の隙間に裏込め材を充填するのに先立ち、隙間の両端開口部を作業性良くシールできるようにする。
【解決手段】
既設管1と更生管3との間の隙間4に、裏込め材を充填するに先立ち、隙間4の管軸方向両端に位置する開口部をシールする管口シール構造5U,5Dは、隙間4の開口部に対応した形状を有する複数のピース、すなわち一対の下部ピース20と一対の中間ピース30と頂部ピース40を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管とこの既設管内に設置された更生管との間の隙間に、裏込め材を充填するに先立ち、前記隙間の管軸方向両端に位置する開口部をシールする管口シール構造において、
前記隙間の前記開口部に対応した形状を有する複数のピースを備え、これらピースにより前記開口部を塞ぐことを特徴とする管口シール構造。
【請求項2】
前記複数のピースは、前記隙間の前記開口部の左右部を塞ぐ少なくとも一対の側部ピースと、前記開口部の頂部を塞ぐ頂部ピースを有し、前記少なくとも一対の側部ピースの管軸方向から見た外形状が、左右対称をなしていることを特徴とする請求項1に記載の管口シール構造。
【請求項3】
前記少なくとも一対の側部ピースは、前記開口部の下部を塞ぐ左右一対の下部ピースと、前記下部ピースと前記頂部ピースとの間に位置し前記開口部の中間部を塞ぐ少なくとも左右一対の中間ピースと、を有していることを特徴とする請求項2に記載の管口シール構造。
【請求項4】
前記頂部ピースは単一のピースからなり、管軸方向一端側の前記開口部の頂部を塞ぐ前記頂部ピースには、裏込め材を注入するための穴が形成され、管軸方向他端側の前記開口部の頂部を塞ぐ前記頂部ピースには、裏込め材を溢出させるための穴が形成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の管口シール構造。
【請求項5】
前記更生管の外周には第1係合部が形成され、前記側部ピースの内周には第2係合部が形成され、前記第1係合部と前記第2係合部の係合により、前記側部ピースの前記更生管に対する管軸方向の移動が規制されることを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載の管口シール構造。
【請求項6】
前記更生管は、帯状部材を螺旋状に巻回するとともに隣接する巻き部分の側縁部を接合することにより得られるものであり、前記帯状部材は、帯板形状の主部と、前記主部の外面から突出する少なくとも2つの突条を有し、前記突条間に前記第1係合部としての係合溝が形成されており、
前記側部ピースの内周面には前記第2係合部として前記係合溝と係合する係合突起が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の管口シール構造
【請求項7】
前記複数のピースは管軸と直交する平面上に配置され、前記側部ピースの前記係合突起が、前記更生管の前記帯状部材の螺旋と等しい角度の螺旋を描くようにして延びていることを請求項6に記載の管口シール構造。
【請求項8】
さらに、周方向に隣接するピースの端部同士を連結する連結手段を備えていることを特徴とする請求項3に記載の管口シール構造。
【請求項9】
前記連結手段が、隣接する前記下部ピースと前記中間ピースのうちの一方のピースの端部に形成された嵌合凹部と、他方のピースの端部に形成されて前記嵌合凹部に嵌る嵌合凸部と、を含むことを特徴とする請求項8に記載の管口シール構造。
【請求項10】
前記連結手段が、隣接する前記頂部ピースと前記中間ピースのうちの一方のピースの端部に螺合された押圧ボルトを含み、この押圧ボルトの先端を他方のピースの端面に押し付けることにより、前記頂部ピースと前記中間ピースを相対移動不能に連結することを特徴とする請求項8に記載の管口シール構造。
【請求項11】
前記側部ピースの上側の端部に、フックボルトを螺合するためのボルト穴が形成されていることを特徴とする請求項2~10の何れかに記載の管口シール構造。
【請求項12】
既設管内に更生管を設置する更生管設置工程と、
前記既設管と前記更生管との間の隙間の管軸方向両端に位置する開口部をシールする管口シール工程と、
前記隙間に裏込め材を充填する裏込め材充填工程と、
を備えた既設管の更生方法において、
前記管口シール工程では、前記隙間の前記開口部に対応した形状を有する複数のピースを用いて、前記開口部を塞ぐことを特徴とする既設管の更生方法。
【請求項13】
前記複数のピースは、前記開口部の下部を塞ぐ左右一対の下部ピースと、前記開口部の頂部を塞ぐ1つの頂部ピースと、前記下部ピースと前記頂部ピースとの間に位置して前記開口部中間部を塞ぐ少なくとも左右一対の中間ピースとを備えており、
前記管口シール工程では、
前記下部ピースを前記開口部に管軸方向から差し込んでから前記開口部の周方向に沿って下方へ移動させることにより、前記開口部の下部を塞ぐステップと、
前記中間ピースを前記開口部に管軸方向から差し込んでから前記開口部の周方向に沿って下方へ移動させることにより、前記開口部の中間部を塞ぐステップと、
前記頂部ピースを管軸方向から前記中間ピース間に差し込むことにより、前記開口部の頂部を塞ぐステップを、順に実行することを特徴とする請求項12に記載の既設管の更生方法。
【請求項14】
さらに、前記裏込め材充填工程が終了して裏込め材が硬化した後、前記開口部から前記複数のピースを撤去するピース撤去工程を備えたことを特徴とする請求項13に記載の既設管の更生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設管を更生する方法、特に既設管と更生管との間の隙間に裏込め材を充填するためにこの隙間の両端開口部をシールする工程(管口シール工程)と、この開口部に構築される管口シール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化した下水管等の既設管内に樹脂製の更生管を設置し、既設管をライニングして更生することは周知である。更生管を既設管の全長にわたって設置した後、既設管と更生管との間の隙間に裏込め材が充填されるが、流動性を有する裏込め材が隙間の両端開口部から漏れるのを防ぐために、この開口部をシールする必要がある。このシールは管口シールと呼ばれている。
【0003】
特許文献1に開示されているように、管口シールは、既設管と更生管との間の隙間の開口部を全周にわたって粘土セメントで塞ぐことにより構築される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、粘土セメントによる管口シールの施工は作業性が低い。すなわち、現場で粘土セメントを混錬する作業が必要であり、通常、混錬する人と、既設管と更生管の間の隙間の開口部に混錬された粘土セメントを詰める人が必要である。特に既設管の径が大きくなると粘土セメントの量も多くなり、作業がより一層大変である。さらに、既設管内に水が流れている状況で管口シールを施工する場合には、詰めた粘土セメントが流されるため、その分補充しながら粘土セメントを詰める必要がある。
また、管口シールの粘土セメントが硬化するまで裏込め作業を開始することができないこと、硬化した粘土セメントにひび割れが生じて、裏込め材が漏れる可能性があること等の不都合もある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、既設管とこの既設管内に設置された更生管との間の隙間に、裏込め材を充填するに先立ち、前記隙間の管軸方向両端に位置する開口部をシールする管口シール構造において、前記隙間の前記開口部に対応した形状を有する複数のピースを備え、これらピースにより前記開口部を塞ぐことを特徴とする。
この構成によれば、既設管と更生管の隙間の開口部に複数のピースを設置することにより、粘土セメントを詰める作業に比べて、作業性を格段に向上させることができる。また、ピースを開口部に設置した後、間を置かずに裏込め材の充填作業を開始することができる。また、粘土セメントのようなひび割れが生じないので、裏込め材の漏れを抑制することができる。
【0007】
好ましくは、前記複数のピースは、前記隙間の前記開口部の左右部を塞ぐ少なくとも一対の側部ピースと、前記開口部の頂部を塞ぐ頂部ピースを有し、前記少なくとも一対の側部ピースの管軸方向から見た外形状が、左右対称をなしている。
この構成によれば、更生管の端部を既設管の端部の左右方向中心に位置決めすることができる。
【0008】
好ましくは、前記少なくとも一対の側部ピースは、前記開口部の下部を塞ぐ左右一対の下部ピースと、前記下部ピースと前記頂部ピースとの間に位置し前記開口部の中間部を塞ぐ少なくとも左右一対の中間ピースと、を有している。
この構成によれば、側部ピースとして下部ピースと中間ピースに分割されているので、開口部への設置作業を円滑に行うことができる。
【0009】
好ましくは、前記頂部ピースは単一のピースからなり、管軸方向一端側の前記開口部の頂部を塞ぐ前記頂部ピースには、裏込め材を注入するための穴が形成され、管軸方向他端側の前記開口部の頂部を塞ぐ前記頂部ピースには、裏込め材を溢出させるための穴が形成されている。
この構成によれば、頂部ピースの穴を利用して裏込め材の注入と溢出を行うことができる。
【0010】
好ましくは、前記更生管の外周には第1係合部が形成され、前記側部ピースの内周には第2係合部が形成され、前記第1係合部と前記第2係合部の係合により、前記側部ピースの前記更生管に対する管軸方向の移動が規制される。
この構成によれば、裏込め材の充填圧力を受けても、側部ピースをしっかりと所定位置に保持することができる。
【0011】
好ましくは、前記更生管は、帯状部材を螺旋状に巻回するとともに隣接する巻き部分の側縁部を接合することにより得られるものであり、前記帯状部材は、帯板形状の主部と、前記主部の外面から突出する少なくとも2つの突条を有し、前記突条間に前記第1係合部としての係合溝が形成されており、前記側部ピースの内周面には前記第2係合部として前記係合溝と係合する係合突起が形成されている。
この構成によれば、帯状部材の突条を利用して側部ピースを保持することができる。
【0012】
好ましくは、前記複数のピースは管軸と直交する平面上に配置され、前記側部ピースの前記係合突起が、前記更生管の前記帯状部材の螺旋と等しい角度の螺旋を描くようにして延びている。
この構成によれば、側部ピースの保持をより強固にすることができる。また、側部ピースの係合突起と更生管の係合溝を位置決めして上方から落とすことにより、係合突起と係合溝の案内により、正確に所定位置に設置することができる。
【0013】
好ましくは、さらに、周方向に隣接するピースの端部同士を連結する連結手段を備えている。
この構成によれば、ピース同士を連結することにより、管口シール構造の強度を高めることができる。
【0014】
好ましくは、前記連結手段が、隣接する前記下部ピースと前記中間ピースのうちの一方のピースの端部に形成された嵌合凹部と、他方のピースの端部に形成されて前記嵌合凹部に嵌る嵌合凸部と、を含む。
この構成によれば、中間ピースを下部ピースに向かって周方向に下方に移動することにより、簡単に連結することができる。
【0015】
好ましくは、前記連結手段が、隣接する前記頂部ピースと前記中間ピースのうちの一方のピースの端部に螺合された押圧ボルトを含み、この押圧ボルトの先端を他方のピースの端面に押し付けることにより、前記頂部ピースと前記中間ピースを相対移動不能に連結する。
この構成によれば、押圧ボルトにより、頂部ピースと中間ピースを連結でき、ひいては複数のピース全体の連結強度を高めることができる。
【0016】
好ましくは、前記側部ピースの上側の端部に、フックボルトを螺合するためのボルト穴が形成されている。
この構成によれば、裏込め材が充填され硬化した後に側部ピースを撤去する際に、側部ピースが固着されていても、フックボルトを介して周方向に沿って上方へ牽引することにより撤去することができる。
【0017】
本発明の他の態様は、既設管内に更生管を設置する更生管設置工程と、前記既設管と前記更生管との間の隙間の管軸方向両端に位置する開口部をシールする管口シール工程と、前記隙間に裏込め材を充填する裏込め材充填工程と、を備えた既設管の更生方法において、前記管口シール工程では、前記隙間の前記開口部に対応した形状を有する複数のピースを用いて、前記開口部を塞ぐことを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記複数のピースは、前記開口部の下部を塞ぐ左右一対の下部ピースと、前記開口部の頂部を塞ぐ1つの頂部ピースと、前記下部ピースと前記頂部ピースとの間に位置して前記開口部中間部を塞ぐ少なくとも左右一対の中間ピースとを備えており、前記管口シール工程では、前記下部ピースを前記開口部に管軸方向から差し込んでから前記開口部の周方向に沿って下方へ移動させることにより、前記開口部の下部を塞ぐ工程と、前記中間ピースを前記開口部に管軸方向から差し込んでから前記開口部の周方向に沿って下方へ移動させることにより、前記開口部の中間部を塞ぐ工程と、前記頂部ピースを管軸方向から前記中間ピース間に差し込むことにより、前記開口部の頂部を塞ぐ工程とを、順に実行する。
この方法によれば、下部ピースと中間ピースが下方に向かって先細をなすことを利用して周方向に沿って下方に移動させることにより、これらピースの設置作業を円滑に行うことができる。
【0019】
好ましくは、さらに、前記裏込め材充填工程が終了して裏込め材が硬化した後、前記開口部から前記複数のピースを撤去するピース撤去工程を備えている。
この方法によれば、複数のピースを他の現場での管口シールに再利用できる。
【0020】
好ましくは、前記ピース撤去工程において、前記中間部ピースと前記下部ピースを、その上端部を上方へと牽引することにより、前記開口部から外す。
この方法によれば、下部ピースと中間ピースが下方に向かって先細をなすことを利用して周方向に沿って上方に移動させることにより、これらピースの撤去作業を円滑に行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、作業性良く管口シールを施工することができるとともに、間を置かずに裏込め材の充填作業を開始することができ、裏込め材の漏れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】既設管内に更生管を設置した後、既設管と更生管の隙間両端の開口部に、本願発明の一実施形態に係る管口シールを施した状態を示す概略縦断面図である。
【
図2】上流側の管口シール構造をマンホール側から見た正面図である。
【
図5】(A)、(B)は、同管口シール構造の中間ピースと更生管の係合状態を、異なる位置で示す断面図である。
【
図6】同中間ピースの主部の上側の端面を示す図である。
【
図7】同管口シール構造の下部ピースの上側の端面を示す図である。
【
図8】下流側の管口シール構造をマンホール側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1に示す既設管1は、例えば下水道管であり、上流側マンホール2Aと下流側マンホール2Bの間に配管されている。老朽化した既設管1はその内周に更生管3をライニングすることで、更生される。以下、この更生方法の概略を説明する。
【0024】
<更生管の設置工程>
本実施形態では、更生管3は、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂からなる帯状部材10(プロファイル)を螺旋状に巻き、隣接する巻部分の側縁部を接合することにより構成されている。
図5に例示するように、帯状部材10は長手方向に同一断面形状を有し、帯板状の主帯部11と、この主帯部11の一側縁部に形成された雌型嵌合部12と、他側縁部に形成された雄型嵌合部13と、例えば2つの補強リブ14とを有している。主帯部11の一方の面は平滑面をなしており、他方の面から突出するようにして雌型嵌合部12、雄型嵌合部13、補強リブ14が形成されている。雌型嵌合部12と補強リブ14は、同一高さの突条である。
【0025】
帯状部材10を螺旋状に巻くとともに、隣接する巻部分の側縁部を重ね合わせて径方向に圧縮することにより、雌型嵌合部12と雄型嵌合部13が嵌合し、更生管3が得られる。雌型嵌合部12と1つの補強リブ14との間に、後述の作用をなす係合溝15(第1係合部)が形成されている。
【0026】
図1に示すように、更生管3は既設管1の全長にわたり設置され、既設管1の両端から所定量突出している。更生管3の外径は既設管1の内径より小さいため、既設管1と更生管3の間には隙間4が形成されている。更生管3がその自重により既設管1の底部に載るため、隙間4は、頂部が最も大きく底部に向かって徐々に小さくなっている。
【0027】
<管口シール工程>
更生管3の設置工程の後、隙間4に裏込め材(図示しない)を充填する工程に先立ち、管口シール工程を実行する。すなわち、
図1に示すように、隙間4の上流端の開口部を管口シール構造5Uで塞ぐとともに、隙間4の下流端の開口部を管口シール構造5Dで塞ぐ。後述するように、これら管口シール構造5U,5Dは複数のピース20,30,40(
図4参照)により構成されている。
【0028】
<裏込め材の充填工程>
管口シール工程の次に、裏込め材の充填工程を実行する。まず、上流側の管口シール構造5Uの頂部に注入器具6を接続し、下流側の管口シール構造5Dの頂部に溢出器具7を接続する。これら注入器具6と溢出器具7は、それぞれパイプ6a,7aと、このパイプ6a,7aに設けられたバルブ6b,7bを有している。
【0029】
注入器具6から裏込め材(図示しない)を注入すると、裏込め材が既設管1と更生管3との間の隙間4に充填される。溢出器具7では裏込め材が隙間4に充填される間、隙間4のエアを抜く。隙間4への裏込め材の充填が完了した時には、溢出器具7から裏込め材が溢出することにより、充填完了を確認することができる。溢出された裏込め材が注入された裏込め材と同じ性状であることを確認した後、注入器具6と溢出器具7のバルブ6a,7bを締めることにより、裏込め材の充填が完了する。
【0030】
<ピース撤去工程>
裏込め材の充填工程が完了し、この裏込め材が硬化した後、管口シール構造5U,5Dのピース20,30,40を撤去する。撤去されたピース20,30,40は他の現場の管口シールに再利用することができる。撤去後のスペースには、仕上げモルタルをすり付ける。
【0031】
<管口シール構造の詳細>
本発明の特徴部をなす管口シール構造について詳述する。上流側の管口シール構造5Uと下流側の管口シール構造5Dは、ほぼ共通の構成を有しているので、各構成要素には同番号を付すことにする。以下、上流側の管口シール構造5Uを中心に説明する。
【0032】
図4に示すように、本実施形態の管口シール構造5Uは、複数例えば5つの円弧形状のピースすなわち左右一対の下部ピース20(側部ピース)と、左右一対の中間ピース30(側部ピース)と、1つの頂部ピース40により構成されている。これらピース20,30,40は、加工性、強度の観点から金属製例えば鋼製とするのが好ましいが、木材を削り出すことにより作成してもよい。
【0033】
上記一対の下部ピース20と一対の中間ピース30と頂部ピース40は、既設管1の内径と更生管3の外径に基づき、既設管1の左右方向中央に更生管3が配置された時の隙間4の断面形状に対応して設計され、この隙間4を実質的に塞ぐことが可能な外形状を有している。そのため、一対の下部ピース20は、管軸方向から見たときに互いに左右対称の外形状をなし、同様に一対の中間ピース30も互いに左右対称の外形状をなしている。1つの頂部40は左右対称の外形状を有している。以下、詳述する。
【0034】
一対の下部ピース20はそれぞれ略90°の角度範囲を有し、隙間4の開口部の略下半分に対応した形状・寸法を有し、この下半分を塞ぐようになっている。一対の中間ピース30は、略60°の角度範囲を有し、隙間4の開口部の略上半分のうち、頂部を除く左右部に対応した形状・寸法を有し、この左右部を塞ぐようになっている。頂部ピース40は、隙間4の開口部の頂部に対応した形状・寸法を有し、この頂部を塞ぐようになっている。これらピース20,30,40は円弧形状をなしており、下部ピース20と中間ピース30は上端から下端に向けて徐々に厚みが小さくなるように先細となっている。なお、ピース20,30,40は、一人で持ち運びでき、直径600mmのマンホールから搬入できる大きさとするのが好ましい。
【0035】
図4に示すように、中間ピース30は、円弧状に湾曲した主部30Aと、この主部30Aの湾曲形状の内周側に設けられた2条の係合突起30B(第2係合部)とを有している。
図5に示すように、主部30Aは、径方向に対峙する内周壁31および外周壁32と、管軸方向の奥側(マンホール2Aの反対側)に位置する奥壁33とを有して、断面コ字形をなしている。
【0036】
さらに主部30Aは、その周方向(長手方向)の両端、すなわち上端および下端に、端壁34、35を有している。さらに、主部30Aは、周方向に離れた2箇所においてマンホール側に臨む正面壁36(
図4参照)を有している。そのため、主部30Aは正面壁36を有する箇所では、断面矩形(箱型)をなしている。この正面壁36は、後述するように中間ピース30を開口部に設置したり撤去したりする際に把持部として用いられる。
【0037】
主部30Aの管軸方向の寸法(幅)は一定であり、帯状部材10の2倍の幅を有している。主部30Aの径方向寸法(厚さ)は、上端から下端に向かって徐々に小さくなっている。
図4に示すように、下側の端壁35には、嵌合凸部37(連結手段)が形成されている。この嵌合凸部37は例えば管軸方向に離れて2つ形成されている。
図6に示すように、上側の端壁34には管軸方向中央にボルト穴38が形成されている。
【0038】
図5(A),(B)に示すように、2条の係合突起30Bは、帯状部材10の螺旋のピッチ分だけ管軸方向に離れている。係合突起30Bは、上述した更生管3の帯状部材10の螺旋と等しい角度の螺旋を描くようにして主部30Aの全長にわたり延びており、主部30Aの延び方向(長手方向)に対して傾斜している。係合突起30Bは一定の高さを有しており、この高さは帯状部材10の雌型嵌合部12及び補強リブ14とほぼ等しい。2条の係合突起30Bは、更生管3の2つの巻き部分の係合溝15にそれぞれ係合するようになっている。
【0039】
図4に示すように、下部ピース20も、円弧状に湾曲した主部20Aと、この主部20Aの湾曲形状の内側に設けられた2条の係合突起20B(第2係合部)とを有している。本実施形態では主部20Aは断面矩形の中空であるが中実であってもよい。主部20Aは、管軸方向の寸法(幅)が一定であり、中間ピース30の主部30Aと等しい。主部20Aの径方向寸法(厚さ)は、上端から下端に向かってが徐々に小さくなっている。
【0040】
主部20Aはその上端に端壁21を有している。
図7に示すように、この端壁21には管軸方向中央にボルト穴22が形成されており、その管軸方向両側には嵌合凹部23(連結手段)が形成されている。
【0041】
下部ピース20の2条の係合突起20Bは、中間ピース30の係合突起30Bと同様に、帯状部材10の螺旋のピッチ分だけ管軸方向に離れている。この係合突起20Bも中間ピース30の係合突起30Bと同様に、帯状部材10の螺旋と等しい角度の螺旋を描くように延びており、主部20Aの延び方向(長手方向)に対して傾斜している。係合突起20Bの高さは中間ピース30の係合突起30Bと等しい。後述するように下部ピース20に中間ピース30が接合された時に、中間ピース30の主部30Aの管軸方向位置が下部ピース20の主部20と一致し、中間ピース30の2条の係合突起30Bが、下部ピース20の2条の係合突起20Bに螺旋をなして実質的に連なるようになっている。
【0042】
図4に示すように、頂部ピース40は、中間ピース30や下部ピース20のような係合突起を有さない。頂部ピース40は、中間ピース30の主部30Aと同様に、内周壁41と外周壁42と奥壁43とを有して断面コ字形をなし、左右両端に端壁44を有し、左右に離間した2箇所に正面壁46を有している。頂部ピース40は、管軸方向の寸法(幅)が中間ピース30の主部30Aと等しく一定であり、中央から両端に向かって径方向寸法(厚さ)が徐々に小さくなっている。この径方向寸法の変化は僅かであり、一定であってもよい。頂部ピース40の左右の端壁44には、管軸方向に離れた2箇所にボルト穴(図示しない)が形成されており、このボルト穴には、押圧ボルト50(連結手段)が螺合されるようになっている。
【0043】
図3に誇張して示すように、頂部ピース40の周方向長さは、マンホール側から奥に向かって徐々に短くなっており、その周方向の両端面(端壁44)は、奥に向かって互いに近づくように管軸方向に対して傾斜している。すなわち、上から見たときに頂部ピース40は楔形状を有している。これに対応して中間ピース30における頂部ピース40側の端面も傾斜している。
図4に示すように、頂部ピース40の奥壁43の周方向中央には、穴48(裏込め材注入用の穴)が形成されている。
【0044】
図8に示すように、下流側の管口シール構造5Dは、上述した上流側の管口シール構造5Uの構成を全て備えている。この管口シール構造5Dの頂部ピース40に形成された穴48は、裏込め材を溢出させるために用いられる。さらに下流側の管口シール構造5Dでは、中間ピース30の奥壁33に複数の裏込め材溢出用の穴39が形成されている。
【0045】
<管口シール工程の詳細>
前述したように、既設管1と更生管3との間の隙間4の上流側開口部と下流側開口部は、管口シール構造5U,5Dを構築することによりシールされる。詳述すると、最初に隙間4の開口部の下半分に左右の下部ピース20を嵌め込んで、該下半分を塞ぐ。具体的には、下部ピース20の最終設置位置より上方において、下部ピース20を管軸方向から隙間4の開口部に差し込み、2条の係合突起20Bを更生管3の2巻き部分の係合溝15に位置合わせした状態で、落とし込む。これにより、係合突起20Bが係合溝15に係合した状態で、下部ピース20が周方向に沿って下方に移動し開口部の下半分に嵌め込まれる。下部ピース20は下方に向かって先細をなしているとともに、係合突起20Bが係合溝15に案内されるため、下部ピース20は円滑に開口部の下半分の所定位置に嵌め込むことができる。
【0046】
次に、左右の中間ピース30を、隙間4の開口部の上半分において頂部を除く左右部に嵌め込んで、該左右部を塞ぐ。具体的には、中間ピース30を最終嵌め込み位置よりも上方、すなわち隙間4の開口部の頂部またはその近傍に管軸方向から差し込み、係合突起30Bを更生管3の係合溝15と位置合わせした状態で落とし込む。これにより、中間ピース30の端壁35が下部ピース20の端面に当たり、嵌合凸部37が嵌合凹部23に嵌まる。2条の係合突起30Bは更生管3の2つの巻き部分の係合溝15にそれぞれ係合するとともに、下部ピース20の2条の係合突起20Bと螺旋をなして連なる。中間ピース30も下方に向かって先細をなしているとともに、係合突起30Bが係合溝15に案内されるため、円滑に開口部の中間部の所定位置に嵌め込むことができる。
【0047】
次に、頂部ピース40を隙間4の開口部の頂部すなわち左右の中間ピース30間のスペースに管軸方向から押し込む。前述したように頂部ピースは楔形状をなしているので、円滑に押し込むことができ、その軸方向位置を中間ピース30の主部30Aと一致させることができる。
このようにして、一対の下部ピース20と一対の中間ピース30と頂部ピース40は、既設管1(更生管3)の管軸と直交する平面上に設置される。
【0048】
次に、頂部ピース40の端壁44に螺合された押圧ボルト50を中間ピース30に向けてねじ込み、その先端51(
図6において二点鎖線で示す)を中間ピース30の端壁34に強く押し付けることにより、頂部ピース40と中間ピース30を連結する。また、この押圧ボルト50の押し付け力により、中間ピース30が下部ピース20に強く接合される。
【0049】
ピース20,30,40の外周は、既設管1の内周と等しい半径を有しており、この既設管1の内周に面接触する。また、ピース20,30,40の内周は更生管3の外周(雌型嵌合部12と補強リブ14の径方向外端)と等しい半径を有しており、この更生管3の外周に接する。このようにして隙間4の開口部がシールされる。
【0050】
既設管1の劣化によりその内周面に凹凸が形成されピース20,30,40の外周との間に隙間が形成されている場合には、この隙間にモルタルをすり付ける。ピース20,30,40間に隙間が形成された場合にも、この隙間にモルタルを詰める。このようにして、管口シール構造5U,5Dの構築が完了する。
【0051】
上述したように隙間4の開口部を大量の粘土セメントを用いずにピース20,30,40でシールするので、作業性を大幅に向上させることができる。
また、下部ピース20は、既設管1,更生管3内を水が流れている状況で管口シールを施工する場合でも、一旦隙間4の開口部の下半分に嵌め込めば流されることなく作業を行うことができる、下部ピース20は、係合突起20Bと更生管3の係合溝15の係合により、隙間4の開口部への嵌め込み状態を安定して維持することができる。
【0052】
既設管に水が流れている場合、水位は既設管の内径の30%以下とするのが原則であるから、下部ピース20は既設管の内径の30%以上の高さまでの塞ぐようにするのが好ましい。さらに好ましくは、本実施形態のように開口部の下半分を塞ぐのが好ましい。
【0053】
<裏込め工程での管口シール構造の作用>
裏込め材の充填に際して、上流側の管口シール構造5Uの頂部ピース40に形成された穴48に前述した注入器具6を差し込み、下流側の管口シール構造5Dの頂部ピース40に形成された穴48に前述した溢出器具7を差し込み、注入器具6から裏込め材を充填する。
【0054】
下部ピース20,30の係合突起20B,30Bが更生管3の係合溝15に係合されているため、下部ピース20と中間ピース30は更生管3に対して管軸方向の移動が禁じられている。また、下部ピース20の嵌合凹部23と中間ピース30の嵌合凸部37が嵌まり合い、頂部ピース40のボルト50が中間ピース30の端壁34に強く押し付けいるため、ピース20,30,40間が強く連結されている。そのため、裏込め材の充填圧力が管口シール構造5U,5Dに付与されても、管口シール構造5U,5Dは、設置位置を確実に維持することができ、良好なシール機能を発揮することができる。
【0055】
下流側の管口シール構造5Dの中間ピース30には、裏込め材溢出用の穴39が形成されているので、裏込め材の充填の過程で、この穴39から裏込め材が溢れることにより、裏込め材の充填状況を確認することができる。裏込め材の溢出を確認した後、この穴39はキャップ等で塞がれる。
【0056】
<ピース撤去工程の詳細>
裏込め材の充填工程が終了し、裏込め材が硬化した後、管口シール構造5U,5Dのピース20,30,40を撤去する。以下詳述する。
最初に、頂部ピース40のボルト50を緩め、頂部ピース40の正面壁46を掴んで管軸方向にマンホールに向かって引くことにより、頂部ピース40を撤去する。頂部ピース40が固着していて人手で容易に引き抜けない場合には、正面壁46にワイヤをかけてレバーロック(牽引装置)で牽引することにより引き抜く。
【0057】
次に、中間ピース30を、正面壁36を掴んで周方向に沿って上方に引き抜く。中間ピース30が固着していて人手で容易に引き抜けない場合には、正面壁36をハンマーで下から叩いて固着を外してから引き抜く。固着がより強い場合には、中間ピース30の上側の端壁34に形成されたボルト穴38(
図6参照)にフックボルト(図示しない)をねじ込み、このフックボルトにワイヤをかけてレバーロックで牽引することにより引き抜く。
【0058】
次に、下部ピース20を周方向に沿って上方へ引き抜く。具体的には、下部ピース20の端面に形成されたボルト穴22(
図7参照)にフックボルト(図示しない)をねじ込み、このフックボルトにワイヤをかけてレバーロックで牽引することにより引き抜く。
【0059】
中間ピース30と下部ピース20は下方に向かって先細をなしているので、上方に引き抜くことにより、円滑に撤去することができる。
【0060】
<他の実施形態>
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
図3,
図4に示すように、中間ピース30の主部30Aの背面に、頂部ピース40に向かって突出する板状のストッパ100を固定することにより、頂部ピース40が奥へ移動するのを規制してもよい。この場合、頂部ピース40は楔形状でなくてもよい(すなわち、頂部ピース40の両端面と中間ピース30の端面は管軸方向に延びていてもよい。)
管口シール構造のピースの数を3個にしてもよい。すなわち、左右一対の側部ピースと、1つの頂部ピースにより構成してもよい。また、管口シール構造は、中間ピースを複数対備えていてもよい。
【0061】
ピースの既設管と接する面にゴムを設けたり、係合突起にゴムを用いたりすることにより、止水性を向上させてもよい。この場合、硬めの滑りやすいゴムを用いるのが好ましい。
【0062】
中間ピースの上端部に形成されたボルト穴に押圧ボルトを螺合し、この押圧ボルトを頂部ピースの端面に押し付けてもよい。この場合、中間ピースのボルト穴は、押圧ボルト螺合とフックボルト螺合に兼用され、頂部ピースにボルト穴は形成されない。
また、下部ピースに嵌合凸部を形成し、中間ピースに嵌合凹部を形成してもよい。
【0063】
下部ピースや中間ピースの係合突起は螺旋に沿って延びる代わりに、螺旋に沿って間隔をおいて複数形成されていてもよい。また、係合突起は局所的に1箇所にだけ形成されていて、更生管の係合溝に係合されるようにしてもよい。
【0064】
下部リングと中間リングと頂部リングは、管軸と直交する平面上に設置する代わりに、更生管の帯状部材に沿って螺旋状に配置してもよい。この場合、係合突起は下部リングおよび中間リングの主部の延び方向と平行に形成される。
更生管は、帯状部材を螺旋状に巻回する形態に限らず、板状のセグメントにて形成されるものなど種々の形態を採用可能である。帯状部材10が別体の連結部材を介して隣の帯状部材10と接合される構造であってもよい。
既設管は、上水道管、農業用水管、水力発電導水管、ガス管、トンネル等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、老朽化した下水管等の既設管の更生技術に適用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 既設管
3 更生管
4 隙間
5U,5D 管口シール構造
10 帯状部材
11 主帯部
12 雌型嵌合部(突条)
14 補強リブ(突条)
15 係合溝(第1係合部)
20 下部ピース(側部ピース)
20A 主部
20B 係合突起(第2係合部)
22 ボルト穴
23 嵌合凹部(連結手段)
30 中間ピース(側部ピース)
30A 主部
30B 係合突起(第2係合部)
37 嵌合凸部(連結手段)
38 ボルト穴
40 頂部ピース
48 穴(裏込め材注入用の穴;裏込め材溢出用の穴)
50 押圧ボルト(連結手段)