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特開2023-110585スパッタリング用のターゲットおよびスパッタリング用のターゲットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023110585
(43)【公開日】2023-08-09
(54)【発明の名称】スパッタリング用のターゲットおよびスパッタリング用のターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230802BHJP
   C04B 35/453 20060101ALI20230802BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C04B35/453
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022012126
(22)【出願日】2022-01-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391040711
【氏名又は名称】AGCセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】戸田 達也
(72)【発明者】
【氏名】吉野 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】神田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】神山 敏久
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BD01
4K029DC05
4K029DC09
(57)【要約】
【課題】本発明では、ZnGaO系材料の成膜をより安定に行い得る、スパッタリング用のターゲットを提供することを目的とする。
【解決手段】スパッタリング用のターゲットであって、比抵抗が10Ωcm以下であり、ZnGaO系の酸化物を含む焼結体を有し、前記焼結体において、Zn/(Zn+Ga)は、40atm%以上、50atm%未満である、ターゲット。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリング用のターゲットであって、
比抵抗が10Ωcm以下であり、
ZnGaO系の酸化物を含む焼結体を有し、
前記焼結体において、Zn/(Zn+Ga)は、40atm%以上、50atm%未満である、ターゲット。
【請求項2】
前記焼結体は、ZnGa相およびZnO相を有する、請求項1に記載のターゲット。
【請求項3】
X線回折分析測定において、ZnO相に対応する1または2以上の第1のピークと、ZnGa相に対応する1または2以上の第2のピークとが観測され、
前記第2のピークの中で最大の強度のピークは、前記第1のピークの中で最大の強度のピークよりも大きい、請求項2に記載のターゲット。
【請求項4】
前記ZnO相には、Gaが含まれ、
前記ZnO相におけるGa/(Zn+Ga)は、1atm%以上である、請求項2または3に記載のターゲット。
【請求項5】
当該ターゲットから、相互に対向する第1の表面および第2の表面を有し、厚さが30μm以上である試料を採取したとき、
前記ZnO相は、前記第1の表面から前記第2の表面に至る導電経路を形成する、請求項2乃至4のいずれか一項に記載のターゲット。
【請求項6】
前記第1の表面と前記第2の表面の間の距離は、1mm以上である、請求項5に記載のターゲット。
【請求項7】
スパッタリング用のターゲットの製造方法であって、
(1)亜鉛系酸化物およびガリウム系酸化物を含む混合粉末を調製するステップと、
(2)前記混合粉末を焼成して、ZnGaO系の酸化物を含む焼結体を得るステップと、
を有し、
前記(1)のステップでは、前記混合粉末におけるZn/(Zn+Ga)をx(atm%)とし、前記混合粉末の粒度分布中央値であるD50をy(μm)としたとき、

y≦0.08x-2.7μm (1)式

となるように、前記混合粉末が調合され、
前記(2)のステップにより、比抵抗が10Ωcm以下であり、ZnGaO系の酸化物を含む焼結体を有するターゲットが得られ、前記焼結体において、Zn/(Zn+Ga)は、40atm%以上、50atm%未満である、製造方法。
【請求項8】
前記(2)のステップでは、前記混合粉末が、大気下、1200℃~1600℃の温度で焼成される、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記(1)のステップの後であって前記(2)のステップの前に、
(3)前記混合粉末を成形するステップ
を有する、請求項7または8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング用のターゲットおよびスパッタリング用のターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコンに代わる半導体材料として、酸化物半導体が注目されている。例えば、InGaZnO系の酸化物半導体(いわゆるIGZO)は、透明で移動度が高いという特徴を有するため、次世代の薄膜トランジスタ(TFT)における活性層としての適用が進められている。また、IGZOは、オフ電流が低いという特徴を有し、低消費電力ディスプレイへの適用も開始されている。
【0003】
一方で、IGZOは、オフ電流が増大する光リーク電流の問題や、光照射下における負電圧印加の際に、閾値電圧のマイナス方向へのシフトが生じる問題が知られている(例えば、非特許文献1)。このため、例えば、IGZOをTFTに適用した場合、リーク電流が増大し、ディスプレイの表示不良などの不具合が生じ得る。
【0004】
このような問題に対処するため、ZnGaに代表されるZnGaO系材料が新たに注目されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/150351号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.H.Kimら、Ultra-wide bandgap amorphous oxide semiconductors for NBIS-free thin-film transistors,APL Mat.7(2019)022501
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、ZnGaO系材料は、IGZOに比べ光信頼性に優れるという特性があり、今後の展開が期待されている。
【0008】
そのようなZnGaO系材料を酸化物半導体としてデバイスに適用する場合、スパッタリング法等の成膜方法により、基材に膜として設置することが考えられる。
【0009】
しかしながら、本願発明者らの知見によれば、ZnGaO系材料において、Zn含有量の低い(例えば、Zn/(Zn+Ga)の値が50atm%未満の)焼結体は、導電性が低い(すなわち抵抗が高い)傾向にあることが認められている。ここで、高抵抗のスパッタターゲットの場合、直流電源(DC)を用いてスパッタリング成膜を試みても、電圧印加時にターゲット表面への電荷の蓄積(チャージアップ)により、持続的な放電を行うことができない。従って、Zn含有量の低い焼結体をスパッタリング用のターゲットとして利用した場合、DCスパッタリングによる安定な成膜を行うことが難しくなる可能性がある。
【0010】
高周波(RF)電源を用いることにより、上記のような高抵抗のターゲットにおいても、スパッタリング成膜を行うことが可能となる。RFスパッタリングでは、ターゲット表面電位が常に反転するため、前述のチャージアップを防ぐことができ、絶縁体ターゲットであっても、安定的・持続的な放電を行うことが可能である。しかしながら、ディスプレイ製造工程のように、メートルサイズの大面積基板に対してスパッタリング成膜を実施する場合、放電用の電源として、RF電源を使用することは難しく、DC電源を利用することが一般的である。またチャージアップ対策として、DCスパッタリング時に、ターゲット表面のチャージアップ解消のため瞬間的に逆バイアスを印加するDCパルススパッタリングや、RFに比べ周波数の低いAC電源を用いたACスパッタリングによる成膜が行われる場合もある。しかしながら、いずれの場合も、ターゲット抵抗が十分に低くない場合、ターゲット表面が局所的にチャージアップすることによる異常放電(アーキング)が発生し、最悪の場合、ターゲットが破損することもあり得る。
【0011】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、大面積基板に対しても、ZnGaO系材料の成膜をより安定に行い得る、スパッタリング用のターゲットを提供することを目的とする。また、本発明では、そのようなスパッタリング用のターゲットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、スパッタリング用のターゲットであって、
比抵抗が10Ωcm以下であり、
ZnGaO系の酸化物を含む焼結体を有し、
前記焼結体において、Zn/(Zn+Ga)は、40atm%以上、50atm%未満である、ターゲットが提供される。
【0013】
また、本発明では、スパッタリング用のターゲットの製造方法であって、
(1)亜鉛系酸化物およびガリウム系酸化物を含む混合粉末を調製するステップと、
(2)前記混合粉末を焼成して、ZnGaO系の酸化物を含む焼結体を得るステップと、
を有し、
前記(1)のステップでは、前記混合粉末におけるZn/(Zn+Ga)をx(atm%)とし、前記混合粉末の粒度分布中央値であるD50をy(μm)としたとき、

y≦0.08x-2.7μm (1)式

となるように、前記混合粉末が調合され、
前記(2)のステップにより、比抵抗が10Ωcm以下であり、ZnGaO系の酸化物を含む焼結体を有するターゲットが得られ、前記焼結体において、Zn/(Zn+Ga)は、40atm%以上、50atm%未満である、製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、ZnGaO系材料の成膜をより安定に行い得る、スパッタリング用のターゲットを提供することができる。また、本発明では、そのようなスパッタリング用のターゲットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態によるターゲットのX線回折結果(低角度側)の一例を示した図である。
図2】本発明の一実施形態によるターゲットのX線回折結果(高角度側)の一例を示した図である。
図3】走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された、本発明の一実施形態によるターゲットの表面の反射電子像である。
図4】走査透過型電子顕微鏡(STEM)により撮影された、本発明の一実施形態によるターゲットの表面におけるZnO相およびZnGa相の拡大図である。
図5図4の矢印で示した領域におけるEDXライン分析の結果を示した図である。
図6】本発明の一実施形態によるターゲットの表面の一部における、原子間力顕微鏡(AFM)像の一例を示した図である。
図7図6で示した部分における、走査型広がり抵抗顕微鏡(Scanning Spreading Resistance Microscopy:SSRM)を用いて撮影された撮影像(SSRM像)の一例を示した図である。
図8】本発明の一実施形態によるターゲットの製造方法の一例を模式的に示したフロー図である。
図9】サンプル1およびサンプル22のX線回折分析結果(低角度側)を合わせて示した図である。
図10】サンプル1およびサンプル22のX線回折分析結果(高角度側)を合わせて示した図である。
図11】SEMで撮影されたサンプル22の表面の反射電子像である。
図12】サンプル22(厚さ1mm)において得られたAFM像を示した図である。
図13】サンプル22(厚さ1mm)において、SSRMを用いて撮影されたSSRM像を示した図である。
図14】サンプル1において得られたZnO相による3次元導電経路の一例を示した図である。
図15】各サンプルにおける混合粉末のカチオン中の亜鉛比(X軸)と混合粉末の粒子径のD50(Y軸)との関係をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について、より詳しく説明する。
【0017】
(本発明の一実施形態によるスパッタリング用のターゲット)
本発明の一実施形態では、
スパッタリング用のターゲットであって、
比抵抗が10Ωcm以下であり、
ZnGaO系の酸化物を含む焼結体を有し、
前記焼結体において、Zn/(Zn+Ga)は、40atm%以上、50atm%未満である、ターゲットが提供される。
【0018】
前述のように、Zn含有量の低いZnGaO系材料の焼結体は、導電性が低く、スパッタリング用のターゲットとして利用した場合、プラズマ放電が生じ難くなり、安定な成膜を行うことが難しくなるという問題がある。
【0019】
これに対して、本発明の一実施形態によるスパッタリング用のターゲットは、当該ターゲットに含まれる焼結体が比較的少ないZn含有量であるにもかかわらず、有意に高い導電性を有する。
【0020】
具体的には、本発明の一実施形態によるスパッタリング用のターゲット(以下、単に「第1のターゲット」と称する)は、Zn/(Zn+Ga)の値が40atm%以上、50atm%未満である焼結体を有し、比抵抗が10Ωcm以下であるという特徴を有する。
【0021】
従って、第1のターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより、安定なZnGaO系材料の成膜を行うことが可能となる。
【0022】
特に、第1のターゲットでは、比抵抗が10Ωcm以下であるため、DC電源を用いたスパッタリング法を実施する際のターゲットとしても、適正に利用することができる。また、これにより、第1のターゲットは、大型のデバイスに対しても、DC電源を用いたスパッタリング用のターゲットとして使用することができる。
【0023】
なお、本願では、以降、Zn/(Zn+Ga)の値を、単に「カチオン中の亜鉛比」と称し、Ga/(Zn+Ga)の値を、単に「カチオン中のガリウム比」とも称する。
【0024】
(その他の特徴)
次に、第1のターゲットが有し得る、その他の特徴について説明する。
【0025】
(I.焼結体の結晶相)
図1および図2には、第1のターゲットのX線回折結果の一例を示す。図1には、低角度側での回折結果を示し、図2には、高角度側での回折結果を示す。
【0026】
図1および図2に示すように、第1のターゲットのX線回折チャートには、ZnO相に対応する複数のピーク(「第1のピーク」と称する)と、ZnGa相に対応する複数のピーク(「第2のピーク」と称する)とが観測される。
【0027】
従って、第1のターゲットを構成する焼結体に含まれるZnGaO系の酸化物は、ZnO相およびZnGa相の形態で存在する。
【0028】
なお、図1および図2の結果では、第2のピークの強度は、全般に、第1のピークの強度に比べて大きくなっている。特に、第2のピークの中で最大の強度のピーク(例えば、2θ=35.7°でのピーク)は、第1のピークの中で最大の強度のピーク(例えば、2θ=34.5°でのピーク)に比べて、有意に大きくなった。
【0029】
このことから、焼結体に含まれるZnGaO系の酸化物において、ZnGa相が占める割合は、ZnO相の占める割合に比べて、有意に高いと予想される。
【0030】
なお、第1のピークの中で最大のピークの強度に対する第2のピークの中で最大のピークの強度の比は、例えば、10~1000の範囲である。
【0031】
(II.焼結体の形態)
図3には、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された、第1のターゲットの表面の形態の一例を示す。図3は、第1のターゲットの表面の反射電子像である。
【0032】
図3から、観察領域には、白っぽい領域と、その他の領域(黒っぽい領域)とが認められ、白っぽい領域は、その他の領域全体に均一に分散されていることがわかる。従って、観察領域には、2つの相が存在することがわかる。
【0033】
2つの領域のそれぞれを、エネルギー分散型元素分析(EDX)により評価したところ、白っぽい領域は、Znリッチな相であり、その他の領域は、Gaリッチな領域であることが確認された。
【0034】
前述のX線回折結果と合わせて検討すると、白っぽい領域は、ZnO相に対応し、その他の領域は、ZnGa相に対応すると推定される。
【0035】
また図3から、第1のターゲットでは、ZnO相は、組織全体に均一に分散されていることがわかる。
【0036】
(III.ZnO相)
図4には、走査透過型電子顕微鏡(STEM)により撮影された、第1のターゲットの表面におけるZnO相およびZnGa相の拡大図を示す。
【0037】
図4において、中央のグレーの領域がZnGa相に対応し、その両側の白い領域がZnO相に対応する。
【0038】
図4に示した矢印に沿って、EDXライン分析を実施した。図5には、その結果を示す。図5において、横軸は、図4に示した矢印起点からの距離であり、縦軸は、ZnおよびGaの濃度である。
【0039】
なお、明確化のため、図5において、横軸は、領域I~領域IIIに区分けして示されている。このうち、領域Iは、距離が0.8μm~1.7μm未満の位置に対応し、領域IIは、距離が1.7μm~5.4μmの位置に対応し、領域IIIは、距離が5.4μm超の位置に対応する。
【0040】
図5に示すように、Znは、領域Iおよび領域IIIで、80%~90%と高い値を示した。また、その間の領域IIでは、約30%~40%の間の低い値を示した。前述の測定結果から、領域Iおよび領域IIIにおけるZnは、ZnOの形態で存在する。
【0041】
一方、Gaは、領域IIの位置で最も高く、約60%~70%となり、その両側の領域Iおよび領域IIIでは、極端に低くなった。ただし、領域Iおよび領域IIIにおいても、Ga濃度はゼロではなく、Gaは、5%~15%程度含まれていることがわかった。
【0042】
化学量論に従えば、ZnGaにおけるカチオン中の亜鉛比は、33atm%である。従って、領域IIでは、GaおよびZnは、ZnGa相として存在していることがわかる。すなわち、ZnO相の間には、ZnGa相が存在することがわかった。また、ZnO相は、ZnOのみで構成されているのではなく、ZnO相中にはGa原子が含まれていることが確認された。
【0043】
なお、図5の例では、領域Iおよび領域IIIのZnO相中に含まれるGaの量、特にカチオン中のガリウム比は、5atm%~15atm%の範囲(平均で、10atm%)である。しかしながら、より一般的には、第1のターゲットにおいて、焼結体のZnO相におけるGa/(Zn+Ga)は、1atm%以上である。ZnO相におけるGa/(Zn+Ga)は、2atm%以上であることが好ましく、3atm%以上であることがより好ましく、5atm%以上であることがさらに好ましい。
【0044】
後述するように、このGaを含有するZnO相は、第1のターゲットの高い導電性に寄与するものと考えられる。
【0045】
(IV.比抵抗)
前述のように、第1のターゲットは、10Ωcm以下の比抵抗を有する。比抵抗は、1Ωcm以下であることが好ましく、0.1Ωcm以下であることがより好ましい。
【0046】
なお、本願において、比抵抗は、体積抵抗率を表し、3×3×30mmの試験片を用いて、四探針法により測定される。
【0047】
(V.導電経路)
前述の実験から、第1のターゲットに含まれる焼結体は、Gaを含有するZnO相と、ZnGa相とを含むことが確認された。このうち、ZnGa相は、絶縁体であるため、第1のターゲットにおける高導電性の発現は、Gaを含有するZnO相によるものと考えられる。すなわち、第1のターゲットでは、ZnO相中に導電性を向上させるドーパントとしてのGaが含有されることにより、ZnO相の比抵抗が低下し、その結果、焼結体に高い導電性が生じると考えられる。
【0048】
図6には、第1のターゲットの表面の一部における、原子間力顕微鏡(AFM)像の一例を示す。また、図7には、表面の同じ観察領域において、走査型広がり抵抗顕微鏡(Scanning Spreading Resistance Microscopy:SSRM)を用いて撮影された撮影像(SSRM像)の一例を示す。
【0049】
なお、SSRMとは、試料を設置するステージと、試料表面を走査する導電性探針間にDCバイアスを印加し、探針直下の広がり抵抗を二次元的に可視化する分析手法である。従ってSSRMでは、測定の原理上、装置の探針側の試料表面から、相対するステージ側の試料表面まで、試料の厚さ方向に沿って導電経路が形成されている箇所のみ、探針直下の広がり抵抗を測定することが可能である。即ちSSRMでは、探針直下の領域の導電性の有無を識別するだけでなく、その領域が、試料厚み方向に対し3次元的に連なった導電経路を有しているかを識別することが可能である。
【0050】
本実験では、第1のターゲットを切り出して試料を調製した。試料の寸法は、縦10mm×横10mm×厚さ1mmの板状とした。
【0051】
図3に示したSEM像との比較から、図6に示した第1のターゲットのAFM像においては、ZnO相が暗く見える部分であり、ZnGa相が明るく見える部分であることがわかる。
【0052】
図7は、図6のAFM像と同じ測定領域のSSRM像であり、縦方向のカラーバーで示した数値は、広がり抵抗の対数表記である。図6との対比により、図7のSSRM像では、ZnO相が明るく、10Ω程度の広がり抵抗が測定されている。すなわち、ZnO相が導電性を有することが直接確認された。一方で、ZnGa相に対応する領域は暗く、広がり抵抗は装置の測定上限である1012Ω以上であり、すなわち絶縁体であることが確かめられた。
【0053】
なお、図6図7の対比から、図7のSSRM像において、全てのZnO相が明るく見えている訳ではなく、明るく見えるZnO相は、一部に留まることがわかる。すなわち、図7のSSRM像からは視認できないZnO相は、3次元的に接続されておらず、導電経路を形成する役割を有しないZnO相であると言える。
【0054】
このように、第1のターゲットでは、ZnO相の一部は、焼結体の内部で3次元的につながっており、これにより、焼結体に導電経路が形成される。
【0055】
図6および図7に使用した試料は、厚さが1mmであるため、ZnO相により形成される深さ方向の導電経路の最大長さ(以下、「貫通長さ」という)は、1mmである。
【0056】
しかしながら、これは単なる一例であり、第1のターゲットにおいて、ZnO相により形成される貫通長さは、30μm以上である限り、特に限られない。例えば、貫通長さは、2mm以上であってもよく、3mm以上であってもよい。なお、貫通長さは、第1のターゲットの厚さの寸法に対応する。
【0057】
(VI.その他)
第1のターゲットは、板状、ディスク状、または円筒状など、いかなる形態を有してもよい。
【0058】
第1のターゲットに含まれる焼結体の密度は、例えば、4g/cm以上であり、5g/cm以上であることが好ましい。
【0059】
(本発明の一実施形態によるターゲットの製造方法)
次に、図8を参照して、本発明の一実施形態によるターゲットの製造方法の一例について説明する。
【0060】
図8に示すように、本発明の一実施形態によるターゲットの製造方法は、
(1)亜鉛系酸化物およびガリウム系酸化物を含む混合粉末を調製するステップ(ステップS110)と、
(2)前記混合粉末を成形して、成形体を形成するステップ(ステップS120)と、
(3)前記成形体を焼成して、ZnGaO系の焼結体を得るステップ(ステップS130)と、
を有する。
【0061】
なお、(2)のステップは、必須の工程ではなく、省略されてもよい。すなわち、(1)のステップの後に、混合粉末を直接焼成して、ZnGaO系の焼結体を製造してもよい。
【0062】
以下、各ステップについて、より詳しく説明する。
【0063】
(ステップS110)
まず、混合粉末が準備される。
【0064】
混合粉末は、原料粉末を秤量、混合することにより調合される。必要な場合、原料粉末は、粉砕処理されてもよい。
【0065】
原料粉末は、亜鉛系酸化物の粉末およびガリウム系酸化物の粉末を含む。亜鉛系酸化物は、酸化亜鉛(ZnO)であってもよい。また、ガリウム系酸化物は、酸化ガリウム(Ga)であってもよい。あるいは、亜鉛系酸化物およびガリウム系酸化物の一方は、亜鉛ガリウム酸化物(ZnGa)であってもよい。
【0066】
亜鉛系酸化物の粉末およびガリウム系酸化物の粉末は、それぞれ、焼成後に目的組成の焼結体が得られるように秤量される。すなわち、亜鉛系酸化物の粉末およびガリウム系酸化物の粉末は、ステップS130後に得られるZnGaO系の焼結体におけるカチオン中の亜鉛比が、40atm%以上、50atm%未満の所定の範囲となるように、混合される。
【0067】
混合粉末の混合および/または粉砕の方法は、特に限られない。
【0068】
混合粉末は、例えば、ボールミル、ビーズミル、振動ミルなどを用いて混合、粉砕されてもよい。
【0069】
ボールミルによる混合は、湿式法で実施されることが好ましい。湿式法では、水のような溶媒に分散剤を添加した液体の存在下で、ボールメディアにより原料粉末が混合、粉砕される。湿式法で混合した場合、均一で微細な組織を有する焼結体が得られやすいという特徴がある。
【0070】
調合された混合粉末の粒度分布中央値(D50)は、例えば、0.4μmから1.4μmの範囲である。なお、本願において、粉末のD50は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定された値である。
【0071】
ここで、本願発明者らは、混合粉末のカチオン中の亜鉛比、および混合粉末の粒子径(D50)は、最終的に製造される焼結体の比抵抗に大きな影響を及ぼすことを見出した。具体的には、混合粉末におけるカチオン中の亜鉛比をx(atm%)とし、混合粉末のD50をy(μm)としたとき、

y≦0.08x-2.7μm (1)式

となるように、混合粉末を調合した場合、(3)のステップ後に、比抵抗が10Ωcm以下の焼結体を製造できる。
【0072】
(ステップS120)
次に、必要な場合、混合粉末が成形され、成形体が形成される。ただし、前述のように、ステップS120は、省略されてもよい。
【0073】
成形体は、以下の工程で形成されてもよい。
【0074】
まず、ステップS110で調合された混合粉末から、造粒粉が製造される。
【0075】
このため、純水に、混合粉末、分散剤、および有機バインダを添加して、スラリーを調製する。このスラリーをスプレードライヤ装置等を用いて噴霧、乾燥させることにより、造粒粉が製造される。
【0076】
次に、得られた造粒粉が金型プレスまたは冷間静水圧プレス等により成形され、成形体が形成される。
【0077】
冷間静水圧プレスを使用する場合、印加圧力は、98MPa(1ton/cm)以上であることが好ましい。これにより、均質な成形体を得ることができる。
【0078】
形成された成形体は、脱バインダ処理のため、炉内で800℃まで加熱されてもよい。
【0079】
(ステップS130)
次に、混合粉末(または成形体)が大気下で焼成される。
【0080】
焼成温度は、例えば、1200℃~1600℃の範囲である。また、焼成時間(焼成温度での保持時間)は、例えば、5時間~20時間の範囲である。
【0081】
焼結温度を1200℃以上とすることにより、高密度の焼結体を得ることができる。また、焼結温度を1600℃以下とすることにより、酸化亜鉛(ZnO)の蒸発が抑制され、得られる焼結体の組成のずれを有意に抑制することができる。焼結温度は、1300℃~1500℃の範囲であることが好ましい。
【0082】
また、焼結温度における保持時間を5時間以上とすることにより、高密度の焼結体を得ることができる。さらに、保持時間を20時間以下とすることにより、炉材およびヒータ等の損傷を抑制することができる。
【0083】
以上のステップにより、本発明の一実施形態によるターゲットを製造できる。
【実施例0084】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1~例10は、実施例であり、例21~例24は、比較例である。
【0085】
(例1)
以下の方法により、焼結体を製造した。
【0086】
カチオン中の亜鉛比が40atm%となるように、ZnO粉末およびZnGa粉末を秤量し、原料粉末を得た。
【0087】
次に、アルミナボールを入れた樹脂ボールミル容器中に、原料粉末、純水、および分散剤を入れた。粉末の濃度は、67質量%とした。分散剤には、ポリカルボン酸塩を用い、添加量は、0.6質量%であった。
【0088】
樹脂ボールミル容器中で原料粉末をボールミル混合、粉砕し、スラリーを得た。
【0089】
得られたスラリーをステンレス容器に移し、温風乾燥機を用いて、100℃で20時間乾燥させ、混合粉末を調製した。レーザ回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、MT3300EXII)を用いて、混合粉末の粒子径を測定した。混合粉末のD50は、0.49μmであった。
【0090】
次に、混合粉末を成形した。成形には、冷間静水圧プレス装置(油研工業株式会社、W式半自動ラバープレス装置)を使用し、圧力は、147MPa(1.5ton/cm)とした。
【0091】
次に、得られた成形体を焼結炉に入れ、焼成を行った。焼成温度は、1450℃とし、成形体をこの温度に10時間保持した。1450℃までの昇温速度は、約1.67℃/分とした。
【0092】
これにより、焼結体が製造された。得られた焼結体を「サンプル1」と称する。
【0093】
(例2)
例1と同様の方法により、焼結体を製造した。
【0094】
ただし、この例2では、カチオン中の亜鉛比が40atm%となるように、ZnO粉末およびGa粉末を秤量して、原料粉末を得た。また、ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、0.41μmであった。
【0095】
その後のプロセスは、例1の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル2」と称する。
【0096】
(例3)
例1と同様の方法により、焼結体を製造した。
【0097】
ただし、この例3では、カチオン中の亜鉛比が45atm%となるように、ZnO粉末およびZnGa粉末を秤量して、原料粉末を得た。また、ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、0.63μmであった。
【0098】
その後のプロセスは、例1の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル3」と称する。
【0099】
(例4)
例1と同様の方法により、焼結体を製造した。
【0100】
ただし、この例4では、カチオン中の亜鉛比が45atm%となるように、ZnO粉末およびZnGa粉末を秤量して、原料粉末を得た。また、ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、0.87μmであった。
【0101】
その後のプロセスは、例1の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル4」と称する。
【0102】
(例5)
例1と同様の方法により、焼結体を製造した。
【0103】
ただし、この例5では、カチオン中の亜鉛比が45atm%となるように、ZnO粉末およびGa粉末を秤量して、原料粉末を得た。また、ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、0.39μmであった。
【0104】
その後のプロセスは、例1の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル5」と称する。
【0105】
(例6)
例1と同様の方法により、焼結体を製造した。
【0106】
ただし、この例6では、カチオン中の亜鉛比が45atm%となるように、ZnO粉末およびGa粉末を秤量して、原料粉末を得た。また、ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、0.48μmであった。
【0107】
その後のプロセスは、例1の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル6」と称する。
【0108】
(例7)
例1と同様の方法により、焼結体を製造した。
【0109】
ただし、この例7では、カチオン中の亜鉛比が48atm%となるように、ZnO粉末およびGa粉末を秤量して、原料粉末を得た。また、ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、0.50μmであった。
【0110】
その後のプロセスは、例1の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル7」と称する。
【0111】
(例8)
例1と同様の方法により、焼結体を製造した。
【0112】
ただし、この例8では、カチオン中の亜鉛比が48atm%となるように、ZnO粉末およびGa粉末を秤量して、原料粉末を得た。また、ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、0.93μmであった。
【0113】
その後のプロセスは、例1の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル8」と称する。
【0114】
(例9)
例1と同様の方法により、焼結体を製造した。
【0115】
ただし、この例9では、カチオン中の亜鉛比が48atm%となるように、ZnO粉末およびGa粉末を秤量して、原料粉末を得た。また、ボールミル処理の際に、アルミナボールの代わりに樹脂ボールを使用して、原料粉末をボールミル混合した。ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、1.13μmであった。
【0116】
その後のプロセスは、例1の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル9」と称する。
【0117】
(例10)
以下の方法により、焼結体を製造した。
【0118】
カチオン中の亜鉛比が48atm%となるように、ZnO粉末およびGa粉末を秤量し、原料粉末を得た。
【0119】
次に、樹脂ボールを入れた樹脂ボールミル容器中に、原料粉末、純水、および分散剤を入れた。粉末の濃度は、67質量%とした。分散剤には、ポリカルボン酸塩を用い、添加量は、0.6質量%であった。
【0120】
樹脂ボールミル容器中で原料粉末をボールミル混合し、第1のスラリーを得た。前述の例1と同様の方法により、第1のスラリーに含まれる混合粉末の粒子径を測定した。混合粉末のD50は、0.53μmであった。
【0121】
その後、得られた第1のスラリーに、混合粉末の重量に対して2質量%のバインダ(アクリル酸エステル共重合物エマルション)を添加し、1時間混合することにより、第2のスラリーを調製した。
【0122】
次に、第2のスラリーをスプレードライ処理し、粒径が約60μmの造粒紛を製造した。スプレードライ処理には、スプレードライヤ装置(大川原加工機株式会社製 OC-16型)を用い、第2のスラリーを噴霧、乾燥させることにより、造粒紛を製造した。
その後は、例1の場合と同様の方法で、成形体の形成、および成形体の焼成を実施した。
【0123】
得られた焼結体を「サンプル10」と称する。
【0124】
(例21)
例1と同様の方法により、焼結体を製造した。ただし、この例21では、ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、0.64μmであった。
【0125】
その後のプロセスは、例1の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル21」と称する。
【0126】
(例22)
例2と同様の方法により、焼結体を製造した。ただし、この例22では、ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、0.61μmであった。
【0127】
その後のプロセスは、例2の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル22」と称する。
【0128】
(例23)
例6と同様の方法により、焼結体を製造した。ただし、この例23では、ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、0.96μmであった。
【0129】
その後のプロセスは、例6の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル23」と称する。
【0130】
(例24)
例9と同様の方法により、焼結体を製造した。ただし、この例24では、ボールミル処理後に測定された混合粉末のD50は、1.26μmであった。
【0131】
その後のプロセスは、例9の場合と同様である。得られた焼結体を「サンプル24」と称する。
【0132】
以下の表1には、各サンプルの製造条件をまとめて示した。
【0133】
【表1】
(評価)
各サンプルを用いて、X線回折分析を実施した。また、各サンプルの密度および比抵抗(体積抵抗率)を測定した。
【0134】
密度の測定には、アルキメデス法を使用した。
【0135】
また、比抵抗は、各サンプルを3mm×3mm×30mmの寸法に切り出し、抵抗率測定装置(鶴賀電機社、ディジタル低抵抗計 MODEL3566)を用いて、四探針法により測定した。
【0136】
図9図10には、サンプル1およびサンプル22のX線回折分析結果を合わせて示す。図9には、低角度側での回折結果を示し、図10には、高角度側での回折結果を示す。
【0137】
図9および図10に示すように、いずれのサンプルにおいても、ZnO相に対応するピーク、すなわち「第1のピーク」と、ZnGa相に対応するピーク、すなわち「第2のピーク」とが観測された。第1のピークおよび第2のピークは、いずれも複数観測された。
【0138】
また、いずれのサンプルにおいても、第1のピークのうち強度が最大のものは、2θ≒34.5°付近に生じ、第2のピークのうち強度が最大のものは、2θ≒35.7°付近に生じた。また、第1のピークの中の最大ピーク強度と第2のピークの中の最大ピーク強度とを比較した場合、第2のピークの最大ピーク強度の方が大きくなった。
【0139】
なお、図には示さないが、他のサンプルにおいても、ほぼ同様の結果が得られた。従って、各サンプルは、ZnO相およびZnGa相を有することがわかった。
【0140】
表2には、各サンプルにおいて得られた評価結果をまとめて示す。
【0141】
【表2】

表2から、サンプル1~サンプル10では、比抵抗が有意に低くなっており、最大でも7.5Ωcm以下(サンプル4の値)であることがわかる。
【0142】
これに対して、サンプル21~サンプル24では、比抵抗の値が装置の測定限界を超えるほど高く、測定は不可能であった。
【0143】
ここで、カチオン中の亜鉛比がいずれも40atm%であるサンプル1とサンプル22を比較した場合、サンプル22の密度は、サンプル1の密度とほぼ等しいことがわかる。しかしながら、サンプル22の比抵抗は、サンプル1に比べて著しく増加している。このことから、サンプルの比抵抗は、密度以外の要因により影響を受けることがわかる。
【0144】
この要因について詳しく調べるため、サンプル1およびサンプル22を用いて、以下の評価を実施した。
【0145】
(表面形態の観察)
SEMにより、サンプル1およびサンプル22の表面形態を観察した。
【0146】
前述の図3には、SEMで撮影されたサンプル1の表面の反射電子像を示す。また、図11には、SEMで撮影されたサンプル22の表面の反射電子像を示す。
【0147】
両者の比較から、サンプル22は、サンプル1に比べて組織の均一性が劣ることが分かる。すなわち、サンプル1では、前述のように、灰色に見えるZnGa相の中に、白っぽく見えるZnO相が均一に分散されている。一方、サンプル22では、ZnO相が局在化しており、ZnO相がほとんど存在しない大きな領域も認められた。
【0148】
(SSRM像の評価)
前述の図6には、サンプル1(厚さ1mm)の表面におけるAFM像を示す。また、前述の図7には、同領域のSSRM像を示す。
【0149】
一方、図12および図13には、それぞれ、サンプル22(厚さ1mm)において得られたAFM像、およびSSRMを用いて撮影されたSSRM像を示す。
【0150】
前述のように、図6および図7から、サンプル1では、ZnO相の一部は、焼結体の内部で3次元的につながっており、これにより、焼結体に導電経路が形成されるものと推察される(従って、ZnO相の「貫通長さ」は、1mm)。
【0151】
一方、図13から、サンプル22では、SSRM像に明るく見える領域が存在しないことがわかる。このことから、サンプル22では、ZnO相は、厚さ1mmの焼結体内を貫通するような導電経路を形成していないと推察される(従って、ZnO相の「貫通長さ」は、1mm未満)。
【0152】
(3次元評価)
以下のように、サンプル1を用いて、ZnO相の導電経路を3次元的に可視化した。
【0153】
まず、サンプル1の表面の100μm×100μmの領域を、深さ方向に沿って連続的に観察した。具体的には、FIB-SEM装置を用いて、サンプル1の表面(100μm×100μmの領域)を0.4μmピッチで、30μmの深さまで研削した。その際に、それぞれの深さ位置での露出面をSEMで撮影し、深さ方向に沿った合計75枚の画像を取得した。
【0154】
次に、各画像を二値化することにより、それぞれの画像内のZnO相を抽出し、その2次元データをもとに3次元像を構築した。
【0155】
図14には、構築された3次元像の断面の一例を示す。図14において、白く光る領域がZnO相に対応する。また、ラインS1は、サンプル1の初期表面を表し、ラインS2は、サンプルの表面から深さ30μmの位置を表している。
【0156】
図14から、サンプル1の内部には、深さ方向に三次元的に連なったZnO相による導電経路が形成されていることがわかる。
【0157】
このように、サンプル1~サンプル10では、焼結体の内部に3次元的にZnO相の導電経路が構築されており、これにより低い比抵抗が得られることがわかった。
【0158】
図15には、各サンプルにおける混合粉末のカチオン中の亜鉛比(X軸)と混合粉末の粒子径のD50(Y軸)との関係をプロットした図を示す。
【0159】
図15から、サンプル1~サンプル10のプロット群(以下「低抵抗群」という)と、サンプル21~サンプル24のプロット群(以下、「高抵抗群」という)とは、直線Lにより、明確に区分けできることがわかる。
【0160】
換言すれば、図15に示した直線Lよりも上側の条件で焼結体を製造した場合、比抵抗の高い焼結体が得られる。一方、直線L上または直線Lよりも下側の条件で焼結体を製造した場合、比抵抗が10Ωcm以下の焼結体が得られると言える。
【0161】
ここで、直線Lは、カチオン中の亜鉛比をx(atm%)とし、混合粉末の粒子径のD50をy(μm)として、

y=0.08x-2.7μm (2)式

で表される。
【0162】
従って、混合粉末のカチオン中の亜鉛比と混合粉末の粒子径のD50が

y≦0.08x-2.7μm (1)式

の関係を満たすように混合粉末を調合し、以降の焼成処理を行うことにより、導電性の高い(比抵抗が10Ωcm以下の)焼結体を得ることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15