(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023011193
(43)【公開日】2023-01-24
(54)【発明の名称】小型電動車両
(51)【国際特許分類】
A61G 5/04 20130101AFI20230117BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20230117BHJP
B62K 5/025 20130101ALI20230117BHJP
B62J 50/22 20200101ALI20230117BHJP
【FI】
A61G5/04 707
B60L15/20 S
B62K5/025
B62J50/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114890
(22)【出願日】2021-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ラージャー ゴピナート
(72)【発明者】
【氏名】案納 響平
【テーマコード(参考)】
3D011
5H125
【Fターム(参考)】
3D011AA01
3D011AD11
5H125AA15
5H125AB01
5H125AC13
5H125BA06
5H125CA04
5H125CD02
5H125EE41
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡単な操作で走行特性設定を切替え可能な小型電動車両を提供する。
【解決手段】小型電動車両1は、左右駆動輪に個別に動力伝達可能に接続された左右モータ40L,40Rと、ジョイスティック型の操作子83を有する操作部8と、前記操作子の操作量に従って左右モータを制御する制御部と、前記操作子による左右モータの制御を許可する走行許可スイッチ84を備え、走行許可スイッチ84のオン状態では、操作子83の操作位置により与えられる目標車両速度に基づいて左右モータを制御するように構成され、走行許可スイッチ84のオフ状態で操作子83が所定時間傾倒操作された場合は、制御パラメータ選択モードを起動し、最大速度を含む少なくとも1つの制御パラメータを変更できるように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
進退方向および幅方向を有する車体と、
前記車体の幅方向に離間して設けられた左右駆動輪と、
前記左右駆動輪に対して前記車体の進退方向に離間して設けられた自在輪と、
前記左右駆動輪に個別に動力伝達可能に接続された左右モータと、
ジョイスティック型の操作子を有する操作部と、
前記操作子の操作量に従って前記左右モータを制御する制御部と、
前記操作子による前記左右モータの制御を許可する走行許可スイッチと、を備え、
前記制御部は、
前記走行許可スイッチのオン状態では、前記操作子の操作位置により与えられる目標車両速度に基づいて、前記左右モータを制御するように構成され、
前記走行許可スイッチのオフ状態で、前記操作子が所定時間傾倒操作された場合は、制御パラメータ選択モードを起動し、最大速度を含む少なくとも1つの制御パラメータを変更できるように構成されている、小型電動車両。
【請求項2】
前記制御パラメータ選択モードで前記制御パラメータを表示するための表示部を備え、
前記操作子の前記傾倒操作で前記制御パラメータの候補の識別子が順次表示され、前記操作子を中立位置に戻す操作により表示中の候補に決定されるように構成されている、請求項1に記載の小型電動車両。
【請求項3】
前記表示部は、複数の表示セグメントからなる発光部を備え、前記表示セグメントの組合せにより前記識別子をディジタル表示するように構成されている、請求項2に記載の小型電動車両。
【請求項4】
前記走行許可スイッチのオフ状態で、前記操作子が車両前後方向後方に傾倒操作された場合に前記制御パラメータ選択モードが起動する、請求項1~3の何れか一項に記載の小型電動車両。
【請求項5】
前記制御部は、前記操作子の操作位置と前記目標車両速度との関係を規定する目標車両速度マップを備え、前記制御パラメータの候補は、目標最大速度の異なる複数の目標車両速度マップで構成される、請求項1~4の何れか一項に記載の小型電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者など歩行に負担を抱える利用者のための電動車いすや手押し車型の電動歩行補助車などの小型電動車両が公知である。例えば、特許文献1には、左右駆動輪を個別に駆動する左右モータを備え、ジョイスティック型操縦手段の操作位置から左右モータの回転数を決定し、操作子が前方に倒された場合は前進、斜前方に倒された場合は旋回、斜後方に倒された場合は定位置回転、真後ろに倒された場合は停止させるように構成された小型電動車両(電動車いす)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような小型電動車は、ジョイスティック型操作子の操作位置で速度(左右速度差)が決定されるので、例えば、低速度で旋回する場合には操作子を中間的な操作位置に保持しなければならず、習熟度が低い利用者が意図する速度と経路で走行するうえで課題があった。また、同じ車両速度であっても、利用者の習熟度や走行環境によっては速く感じたり遅く感じたりする場合があり、最大速度を含む走行特性の設定を利用者において確実な方法で変更できることは有意義である。
【0005】
本発明は、従来技術の上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡単な操作で最大速度を含む走行特性の設定を確実に切り替えることができる小型電動車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る小型電動車両は、
進退方向および幅方向を有する車体と、
前記車体の幅方向に離間して設けられた左右駆動輪と、
前記左右駆動輪に対して前記車体の進退方向に離間して設けられた自在輪と、
前記左右駆動輪に個別に動力伝達可能に接続された左右モータと、
ジョイスティック型の操作子を有する操作部と、
前記操作子の操作量に従って前記左右モータを制御する制御部と、
前記操作子による前記左右モータの制御を許可する走行許可スイッチと、を備え、
前記制御部は、
前記走行許可スイッチのオン状態では、前記操作子の操作位置により与えられる目標車両速度に基づいて、前記左右モータを制御するように構成され、
前記走行許可スイッチのオフ状態で、前記操作子が所定時間傾倒操作された場合は、制御パラメータ選択モードを起動し、最大速度を含む少なくとも1つの制御パラメータを変更できるように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る小型電動車両は、上記のように、走行許可スイッチのオフ状態で、操作子を所定時間傾倒操作することで、制御パラメータ選択モード(例えば最大速度選択モード)を起動でき、最大速度を含む制御パラメータを変更できるので、
(i)利用者の習熟度や室内外、路面状況などの走行環境に応じた走行特性(例えば最大速度)を利用者側で容易かつ確実に設定できる。
(ii)走行用の操作子を制御パラメータ選択操作に利用するので、専用の選択スイッチ等が不要であり、コスト削減はもちろん専用スイッチの誤操作防止にも有利である。
(iii)走行許可スイッチのオフ状態でのみ制御パラメータ選択モードが起動し、走行可能な状態では制御パラメータ選択モードは起動しないので、走行用の操作子を制御パラメータ選択操作に利用しながらも、選択操作と誤認して不意に発進させたり、走行中または走行可能な状態で不意に制御パラメータを変更させたりすることがない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】小型電動車両の制御系統を示すブロック図である。
【
図3】速度マップの選択制御と走行制御を示すブロック線図である。
【
図4】速度マップの選択操作と切替表示を示す模式的な平面図である。
【
図5】ジョイスティック操作領域と目標車両速度/目標車両角速度の関係を示すマップである。
【
図6】速度マップの選択制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1において、本発明実施形態に係る電動車両1は、移動ベース21(下部走行体)およびその後部(後側ベース24)に立設された上部フレーム22からなる車体2を備えており、図中実線で示される小型電動車モード(乗車モード1)と、図中2点鎖線で示される歩行補助車モード(1′)とで利用可能である。
【0010】
移動ベース21は、左右の駆動輪4(後輪)および上部フレーム22が設けられた後側ベース24(本体部)と、左右の従動輪5(前輪)が設けられた前側ベース25を備え、前側ベース25は、後側ベース24の前側に前後方向に摺動可能に連結されており、移動ベース21はホイールベースが伸縮可能に構成されている。
【0011】
左右の駆動輪4は、後側ベース24に搭載された左右のモータユニット40(40L,40R)により独立して駆動される。左右の従動輪5は、接地部に周方向の軸周りに回転可能な多数のローラ50を備えた自在輪(オムニホイール、全方位車輪)で構成されており、後述のように、電動車両1は、左右のモータユニット40L,40Rの制御のみで操舵および制駆動が可能になっている。
【0012】
上部フレーム22は、後側ベース24の左右両側部から上方に立設された左右一対の側部フレームの上端が車幅方向に延びる水平部22aで連結された逆U字状もしくは門形状をなし、水平部22aの車幅方向中央の結合部23には、リアハンドル3のステム31の下端部が剛結合されるとともに、シートバック6が支持されている。
【0013】
リアハンドル3は、ステム31の上端との接続部32から左右に延出した一対の把持部を有するTバー形状をなしている。リアハンドル3の左右の把持部には、利用者(または介助者)が把持している状態(ハンズオン)を検知する把持センサ30が設けられている。把持センサ30としては、静電容量センサや感圧センサなどのタッチセンサを用いることができる。リアハンドル3の左右の把持部は、利用者自身が歩行補助車モード(1′)で使用する場合、および、利用者をシート7に着座させた状態で介助者などが電動車両を操縦する場合の操作部となる。なお、リアハンドル3の中央の接続部32の前部には、乗車モード(1)において利用者の背もたれとなるシートバック36が設けられている。また、
図1では省略されているが、リアハンドル3の中央の接続部32には、電磁ブレーキ解除スイッチ34とスピーカ35が設けられている。
【0014】
上部フレーム22(側部フレーム)の高さ方向中間の屈曲部には、アームレスト82のサポートフレーム81の基部が固定されている。
図1において奥側となる右側のアームレスト82の前端部には乗車モード操作部8の操作子を構成するジョイスティック83が設けられている。
【0015】
ジョイスティック83は、前後左右に傾動可能でありかつ傾動角に応じた出力が得られる2軸ジョイスティック、またはその機能を包含する多軸ジョイスティックを利用でき、ホールセンサを利用した無接点ジョイスティックが好適である。ジョイスティック83は、不図示の付勢部材(スプリングなど)により、傾倒角度に応じて中立位置に向かう付勢力(復元力、操作反力)が作用するように構成されており、操作力が作用しない状態、すなわち、利用者の手がジョイスティック83から離れた状態では、中立位置(操作原点)に自己復帰する。ジョイスティック83の操作による左右のモータユニット40(40L,40R)の制御については後述する。
【0016】
また、
図1において手前側となる左側のアームレスト82の前端部にはジョイスティックと同形状の把持部が設けられ、その上面には表示部80が設けられ、把持部の前面には、ジョイスティック83の操作による走行、すなわち左右モータ40L,40Rの制御を許可する走行許可スイッチ84が設けられている。
【0017】
表示部80は、
図4に示すように、複数の表示セグメント80a(図示例では8セグメント)からなる発光部を備えたディジタルインジケータである。発光部はLEDなどの発光素子で構成される。図示例では、表示セグメント80aが円弧状に配列され、時計方向に点灯数が増加することで表示値の増加を表示するレベルインジケータとして機能し、バッテリ残量レベルを表示可能であるとともに、後述する速度選択モードで選択中の速度マップ(最大速度に対応する識別子)が表示される。なお、表示領域の中央部に、表示中の機能(バッテリ残量、最大速度など)を示す文字やアイコンなどが表示される表示領域80cが設けられても良い。また、表示部80全体をディジタルディスプレイ(LCD、OLEDなど)で構成することもできる。
【0018】
上部フレーム22(側部フレーム)の屈曲部から前方に突出した枢支部27には、シート7(シートクッション)の支持構造となる可動フレーム71が、車幅方向の軸7aで枢支される一方、可動フレーム71の下端は、連結部7b(スロット)を介して前側ベース25(ピン)に回動可能かつ摺動可能に連結されている。
【0019】
上記構成により、図中実線で示される乗車モード(1)から、着座位置にあるシート7を、図中2点鎖線で示されるように前下方に回動させて折畳み位置(7′)に移動させると、それに連動して前側ベース25が後方にスライドし、移動ベース21が短縮され、利用者がリアハンドル3を把持して起立歩行しながら操作できる歩行補助車モード(1′)となる。
【0020】
逆に、歩行補助車モード(1′)から、折畳み位置にあるシート(7′)を後上方に回動させて着座位置7に移動させると、前側ベース25が前方にスライドし、移動ベース21が伸長され乗車モード(1)となる。この状態で、トレイ24bの前方に移動した前側ベース25の上面25bは、搭乗者のフットレストとして利用可能になる。
【0021】
なお、移動ベース21の内部には、前側ベース25を伸長位置および短縮位置のそれぞれにおいてロックするロック機構(スプリングなどの付勢部材で付勢されたロックピンなど)が設けられるとともに、各位置でのロック状態を検知する車両状態検知センサ28(メカニカルスイッチなど)が付設されている。さらに、伸長位置および短縮位置のそれぞれにおいて中間位置方向(解除方向)に付勢する付勢部材(スプリングなど)が設けられ、可動フレーム71の上端の水平部71aには、ロック機構とボーデンケーブルを介して連結された解除タグ26が設けられている。
【0022】
これにより、伸長位置および短縮位置のそれぞれにおいて解除タグ26を引いてロック機構を解除すると、付勢部材の付勢により車体2は中間位置となり、この状態から、付勢部材の付勢に抗してシート7(可動フレーム71)を中間位置から前方/後方に回動すると、前側ベース25の伸長位置/短縮位置でロック機構がロックされるように構成されている。
【0023】
また、
図1に示されるように、上部フレーム22の水平部22aと可動フレーム71の水平部71aとの間に、乗車モード(1)では折り畳まれ(6′)、歩行補助車モード(1′)において展開され利用可能となるネット状の荷置き部6が設けられている。荷置き部6の前端部における可動フレーム71(水平部71a)との連結部には、乗車モード(1)でシート7に着座した利用者の腰部を可動フレーム71の水平部71aに対して緩衝するクッション66が設けられている。
【0024】
図2は、電動車両1の制御系統を示すブロック図であり、電動車両1は、左右のモータユニット40(40L,40R)に電力を供給するバッテリ9、左右のモータユニット40(40L,40R)の制御を行う制御部10を備え、制御部10は、車両状態検知センサ28に検知される各位置でのロック状態において、乗車モード(1)、歩行補助車モード(1′)のそれぞれに対応する制御を実施するインターロック機能を備えている。
【0025】
乗車モード(1)では、把持センサ30は無効になり、制御部10は、走行許可スイッチ84がオン操作された場合に、乗車モード操作部8を構成するジョイスティック83の操作(操作量、操作方向)により、後述の制御マップに基づいて左右のモータユニット40(40L,40R)を速度制御し、電動車両1の前進、後退、旋回、制動停止を含む運転操作を行えるようになっている。
【0026】
一方、歩行補助車モード(1′)では、乗車モード操作部8は無効になり、制御部10は、傾斜センサ20、左右の回転速度センサ43などの検知情報と所定の制御マップに基づいて、左右のモータユニット40(40L,40R)のトルク制御を実行する。なお、傾斜センサ20に所定閾値以上の傾斜が検知される場合は、傾斜に応じて作用する重力(負荷)を相殺する補償トルクをトルク指令値に重畳する。把持センサ30は、利用者によるリアハンドル3の把持(ハンズオン/オフ)のみを検知し、モータユニット40のトルク制御には関与しない。
【0027】
制御部10は、上記各モードにおける制御を実行するためのプログラムやデータを記憶したROM、演算処理結果を一時記憶するRAM、演算処理を行うCPUなどからなるコンピュータ(マイコン)、左右のモータ41の駆動回路(モータドライバ)、バッテリ9の電力をオン/オフするリレーを含む電源回路などで構成されている。
【0028】
左右のモータユニット40(40L,40R)は、それぞれ、モータ41と、モータ41のロータをロックする電磁ブレーキ42と、モータ41の回転位置を検知する回転位置センサ(43)とを備えており、モータ41の駆動軸は不図示の減速ギアを介して駆動輪4(4L,4R)に動力伝達可能に接続されている。
【0029】
左右のモータ41は、回転位置センサ(43)で検出されるロータの位相に合わせて駆動回路で各相コイルの電流をスイッチングするブラシレスDCモータからなり、乗車モード(1)では、回転位置センサ(ホールセンサ)を電動車両1の実速度を検知する車速センサ(43)として利用し、歩行補助車モード(1′)では、回転位置センサを回転速度センサ43として利用するようにしている。
【0030】
また、左右のモータ41の駆動回路はコイル電流を検出する電流センサを備えている。このコイル電流は左右のモータ41のトルクに対応しており、制御部10は、PWM制御(パルス幅変調制御)などでコイル電流を制御することにより左右のモータ41のトルク制御を実行する。
【0031】
電磁ブレーキ42は、無励磁状態でモータ41の駆動軸をロックし、励磁状態でロック解除する負作動型電磁ブレーキが好適である。負作動型電磁ブレーキとすることで、キーオフ時や停止中に電力を消費せずに確実に電動車両1を停止させることができる。
【0032】
一方、緊急時や非常時、例えば、モータ41の動力を使用せずに電動車両1を移動させたい場合や、バッテリ残容量低下による走行不能時に、電磁ブレーキ42のロックを解除して電動車両1を移動できるように、電磁ブレーキ42の強制解除手段として、電磁ブレーキ解除スイッチ34が設けられている。電磁ブレーキ解除スイッチ34は、リアハンドル3の把持部に隣接して設けられるが、把持センサ30の把持検知とは無関係に操作可能である。
【0033】
傾斜センサ20は、車体2の移動ベース21(後側ベース24)の内部に搭載された制御部10の回路基板上に実装されており、車体2の前後方向傾斜(ピッチ角P)および横方向傾斜(ロール角R)を検知する2軸傾斜センサまたは加速度センサ、あるいは、それと角加速度センサ(ジャイロセンサ)を一体化した多軸慣性センサを利用可能である。傾斜センサ20に所定閾値以上の傾斜が検知される場合は、制御部10は、傾斜に応じて作用する重力(負荷)を、少なくとも部分的に相殺するように、目標車両速度や目標車両角速度が補正するように構成されることが好ましい。
【0034】
バッテリ9は、移動ベース21の内部に搭載されたリチウムイオン電池などの二次電池であり、商用電源などから容易に充電できるように、着脱可能なバッテリパックとして構成されてもよい。バッテリ9は、入出力電流、総電圧、残容量などを監視し、バッテリの状態を管理するためのBMS90(バッテリ管理部)を備えている。
【0035】
BMS90は、入出力電流の積算値(積算消費電力量)に基づいて残容量(SOC)を取得する機能を備えており、BMS90に取得された残容量は制御部10に記憶され、表示部80に表示される。制御部10は、BMS90から取得した残容量が所定閾値未満になると表示部80にて利用者に充電を促すように構成されている。
【0036】
(乗車モードにおける基本的走行制御)
以上のように構成された電動車両1は、乗車モード(1)で走行許可スイッチ84がオン操作された場合は、利用者によるジョイスティック83の操作(操作量、操作方向)に基づいて、左右のモータ41(40L,40R)の回転速度が制御される。この際、ジョイスティック83の操作位置から左右のモータ41(40L,40R)の目標回転速度が直ちに決定されるのではなく、ジョイスティック83の操作位置に基づく目標車両速度(直進速度)と、ジョイスティック83の操作位置の左右方向成分に基づく目標車両角速度が別々に算出され、それらに基づいて、左右駆動輪4(4L,4R)の回転速度に対応する左右のモータ41(40L,40R)の目標回転速度が算出される。
【0037】
すなわち、
図3のブロック線図に示されるように、目標車両速度算出ブロック110には、ジョイスティック83の前後方向入力だけでなく、左右方向入力も利用され、これにより、旋回時に直進走行時と異なる速度制御、例えば、減速走行を特に意識しなくても実行できる。また、目標車両角速度算出ブロック120には、ジョイスティック83の左右方向入力だけでなく、操作時の車両実速度も反映され、これにより、電動車両1の走行速度に応じて旋回特性を変化させることができる。
【0038】
図3のブロック線図において、目標車両速度算出ブロック110で算出された目標車両速度vに対応する左右モータ41(40L,40R)の目標回転速度と、目標車両角速度算出ブロック120で算出された目標車両角速度ωに対応する左右モータ41(40L,40R)の目標回転速度差に基づいて、左右モータ目標回転速度算出ブロック130にて左右モータ41(40L,40R)の目標回転速度が算出される。
【0039】
さらに、左右モータ要求トルク算出ブロック150では、左右の回転速度センサ43に検知される左右モータ41(40L,40R)の実回転速度と、左右モータ41(40L,40R)の目標回転速度に基づいて、左右モータ41(40L,40R)の実回転速度を目標回転速度に追従させるフィードバック制御(例えばPID制御)により左右モータ要求トルクが算出され、それに基づいて左右モータ41(40L,40R)の電流制御が実行される。
【0040】
また、傾斜センサ20に所定閾値以上の車体傾斜(ピッチ角P、ロール角R)が検知される場合は、補償トルク算出ブロック140で、ピッチ角Pに応じて作用する登坂/降坂負荷、および/または、ロール角Rに応じて作用する横方向負荷を補償する方向の補償トルクが算出され、左右モータ要求トルク算出ブロック150で算出される左右モータ要求トルクに重畳される。
【0041】
(乗車モードにおける制御マップ)
ところで、同じ車両速度で走行する場合であっても、利用者の習熟度や走行環境によっては速く感じたり遅く感じたりする場合があることは既に述べた通りである。そこで、本発明における電動車両1では、最大速度を含む走行特性が異なる4組の制御マップ(マップ1~マップ4)を備え、これらの制御マップを利用者の操作により切替られるようにしている。
【0042】
4組の制御マップ(マップ1~マップ4)は、それぞれ目標車両速度マップMv(1~4)と目標車両角速度マップMω(1~4)とを含み、制御部10のROMエリアにルックアップテーブルとして格納されており、後述する切替操作により、目標車両速度マップMv(1~4)とそれに対応する目標車両角速度マップMω(1~4)とがセットで切替わるように構成されている。
【0043】
図5(a)は目標車両速度マップMv(1~4)、
図5(b)は目標車両角速度マップMω(1~4)の例を示している。
【0044】
図5(a)に示す目標車両速度マップMv(1~4)において、ジョイスティック83の操作位置が、操作範囲内の前端を含む前方領域F1にある場合は目標前進速度v1~v4が指定され、後端を含む後方領域B1にある場合は目標後進速度vbが指定される。
【0045】
すなわち、電動車両1の目標前進速度(最大速度)v4が設定可能範囲で最大(例えば4km/h)となるマップMv4が実線で示され、目標前進速度(最大速度)v3(例えば3km/h)となるマップMv3、目標前進速度(最大速度)v2(例えば2km/h)となるマップMv2、目標前進速度(最大速度)v1(例えば1km/h)となるマップMv1が破線で示されている。なお、これらのマップMv1~4において、目標後進速度(最大後進速度)vbは一定(例えば1km/h)である。
【0046】
また、ジョイスティック83の操作位置が、左右側端を含む左右側領域F2にある場合は目標前進速度vc1~vc4が指定され、中心(中立位置)を含む中央領域nにある場合は停止(目標速度ゼロ)が指定される。中央領域nと前方領域F1の間には、中央領域nから前方領域F1に向かい目標車両速度v1~v4が漸次増加する遷移領域F3が設けられている。
【0047】
すなわち、ジョイスティック83の操作位置が左右側領域F2にある場合の設定可能範囲で最大の目標前進速度vc4(例えば2km/h)となるマップMv4が実線で示され、目標前進速度vc3(例えば1.5km/h)となるマップMv3、目標前進速度vc2(例えば1km/h)となるマップMv2、目標前進速度vc1(例えば0.5km/h)となるマップMv1が破線で示されている。このようにジョイスティック83の操作位置が左右側領域F2にある場合にも前進速度が与えられることで、後述のように目標車両角速度ω1~ω4が指定される場合に前進旋回に移行でき、ハンドルで操舵する自動車や自転車のような操舵感が得られる。
【0048】
さらに、
図5(b)に示す目標車両角速度マップMω(1~4)において、ジョイスティック83の操作位置が、操作範囲内の左右側端を含む左右側領域F2にある場合は目標車両角速度ω1~ω4が指定され、中心(中立位置)を含む中央領域nにある場合は、目標車両角速度ゼロが指定される。また、中央領域nと左右側領域F2の間には、中央領域nから左右側領域F2に向かい目標車両角速度ω1~ω4が漸次増加する遷移領域F4が設けられている。
【0049】
すなわち、ジョイスティック83の操作位置が左右側領域F2にある場合の設定可能範囲で最大の目標車両角速度ω4(例えば150度毎秒、2.62rad/s)となるマップMω4が実線で示され、目標車両角速度ω3(例えば120度毎秒、2.09rad/s)となるマップMω3、目標車両角速度ω2(例えば90度毎秒、1.57rad/s)となるマップMω2、目標車両角速度ω1(例えば60度毎秒、1.05rad/s)となるマップMω1が破線で示されている。
【0050】
(乗車モードにおける制御マップ選択操作)
以上述べたような制御マップ(マップ1~マップ4:目標車両速度マップMv(1~4);目標車両角速度マップMω(1~4))を有する電動車両1は、乗車モード(1)において、走行許可スイッチ84がオフ状態で、利用者によりジョイスティック83が特定操作された場合は、
図3に示すように速度選択モード100が起動し、制御マップ(マップ1~マップ4)を選択的に変更可能となる。
【0051】
例えば、
図4に符号83′で示されるように、利用者によりジョイスティック83が後方に所定時間(例えば5秒)傾倒操作された場合、表示部80に4組の制御マップ(マップ1~マップ4)に対応する識別子(801~804)が順次表示される。
【0052】
図示例では、表示部80の表示セグメント80aが、2つ点灯(80a′)または点滅した状態がマップ1(801;最大速度1km/h)に、4つ点灯または点滅した状態がマップ2(802;最大速度2km/h)に、6つ点灯または点滅した状態がマップ3(803;最大速度3km/h)に、8つ点灯または点滅した状態がマップ4(804;最大速度4km/h)に、それぞれ対応しており、これらの識別子(801~804)の表示が一定時間毎に切替わる。
【0053】
そして、所望の識別子が表示されている時に、ジョイスティック83′を中立位置(83)に戻すか、または、ジョイスティック83′から手を放すことで中立位置(83)に自己復帰させると、当該識別子に対応する制御マップ(マップ1~マップ4)に決定され、この選択結果が制御部10のROMエリアに保持され、速度選択モード100が終了する。この選択結果は、次に速度選択モード100で変更されるまで維持される。
【0054】
(制御マップ選択操作を含む制御フロー)
図6は、上記のような制御マップ選択操作を含む電動車両1の起動時の制御フローを示している。電動車両1は、キー11の操作で電源オンになりシステムが起動すると(ステップ201)、起動時のフレーム形態に応じて歩行補助車モード(1′)または乗車モード(1)が判定される(ステップ202)。
【0055】
乗車モード(1)と判定された場合(ステップ202、YES)において、走行許可スイッチ84が操作されない状態(ステップ203、NO)で、ジョイスティック83が後方に所定時間(例えば5秒)傾倒操作されると(ステップ204、YES)、速度マップ選択モードが起動し、制御マップ(マップ1~マップ4)に対応する識別子(801~804)の切替表示状態となる(ステップ205)。
【0056】
所望の識別子が表示されている時にジョイスティック83を中立位置に戻すと(ステップ206、YES)、その識別子に対応する速度マップ(マップ1~マップ4)に決定される(ステップ207)。
【0057】
その後、または、最初に乗車モード(1)と判定された後、走行許可スイッチ84がオン操作されると(ステップ203、YES)、電磁ブレーキ42のロックが解除され、電動車両1は走行モードとなり、事前に選択された速度マップ(マップ1~マップ4)に基づいて、ジョイスティック83の操作により走行可能となる(ステップ210)。
【0058】
電動車両1の乗車モード(1)において、キー11により電源オフ操作されると(ステップ211、YES)、所定の終了制御が実行され電源がオフになる(ステップ213)。また、無操作状態で所定時間が経過した場合は(ステップ212、YES)、電磁ブレーキ42がロックされ、走行モード(ステップ201)から待機状態に戻る。
【0059】
(実施形態に基づく作用および効果)
以上詳述したように、本発明に係る電動車両1は、乗車モード(1)において走行許可スイッチ84のオフ状態で、ジョイスティック83を所定時間傾倒操作することで、速度マップ選択モードが起動し、速度マップ(マップ1~マップ4)を変更できるので、利用者の習熟度や室内外、路面状況などの走行環境に応じた走行特性(最大速度、上限速度、旋回特性)を、利用者側で容易かつ確実に設定できる。
【0060】
例えば、利用開始直後の利用者の習熟度が低い場合に、最大速度が小さい速度マップ(マップ1、2など)を選択し、習熟度の向上に伴い最大速度の大きい速度マップ(マップ3、4)に変更することで、無理なく電動車両1を導入できる。
【0061】
また、電動車両1は、個人の専用車両としての利用以外に、公共施設や介護施設などで複数の利用者に共用または一時利用される場合や、レンタル利用される場合に、利用者の習熟度や好みに合わせて走行特性を容易に変更できる利点もある。
【0062】
さらに、ある程度操作に習熟した利用者が、最大速度の大きい速度マップ(マップ4)を選択して、屋外の舗装路面などを走行した後、屋内に移動する場合に、最大速度の小さい速度マップ(マップ3,2など)に変更することで、走路が狭く屈曲する場合が多い屋内で、低速走行するためにジョイスティック83を中間位置に維持しながら走行するような不便さを解消できる。
【0063】
ジョイスティック83を速度マップ選択操作に利用するので、専用の選択スイッチ等が不要であり、コスト削減に有利であるとともに、専用スイッチの誤操作防止にもなる。また、走行許可スイッチ84のオフ状態でのみ速度マップ選択モードが起動し、走行モード、すなわち走行可能な状態では速度マップ選択モードは起動しないので、ジョイスティック83を速度マップ選択操作に利用しながらも、選択操作と誤認して不意に電動車両1を発進させたり、電動車両1の走行中または走行可能な状態で不意に速度マップを変更させてしまったりすることもない。
【0064】
また、走行許可スイッチ84のオフ状態でのジョイスティック83の傾倒操作で速度マップ(マップ1~マップ4)が順次表示され、ジョイスティック83を中立位置に戻す操作により表示中の速度マップ(マップ1~マップ4)に決定されるので、選択操作を簡単かつ確実に実行できる。走行許可スイッチ84のオフ状態では、電磁ブレーキ42がロックされているので、速度マップ選択操作中に電動車両1が移動することもない。
【0065】
さらに、速度マップ(マップ1~マップ4)の切替のためのジョイスティック83の傾倒操作を、利用者の手前側すなわち車両前後方向の後方への傾倒操作とすることで、利用者の身体や腕、荷物などでジョイスティック83が不意に操作されるのを防止できる。ジョイスティック83を手前側に引く操作は、利用者が意図を持って行わない限り実行され難い。また、仮に走行許可スイッチ84がオン操作されているにも拘わらずオフ状態であると誤認して、ジョイスティック83を手前に引いてしまった場合にも、後進速度は低速に抑えられているため、誤操作による問題も最小限に留めることができる。
【0066】
但し、速度マップ選択操作は、必ずしもジョイスティック83の後方への傾倒操作のみに限定されるものではなく、後方への傾倒操作で速度マップ選択モードが起動した後、ジョイスティック83を左右に操作することで、速度マップ(マップ1~マップ4)が切替わるような態様とすることもできる。
【0067】
また、上記実施形態では、目標車両速度マップMv(1~4)と目標車両角速度マップMω(1~4)を含む4組の制御マップ(マップ1~マップ4)を選択的に切替える場合を示したが、制御マップ(マップ1~マップ4)の数は4組に限定されるものではなく、2または3組、あるいは5組以上であっても良い。また、目標車両速度マップMv(1~4)のみを切替えるようにすることもできる。
【0068】
また、上記実施形態では、目標車両速度マップMv(1~4)において、ジョイスティック83の左右方向操作でも前進速度が与えられる場合を示したが、ジョイスティック83の左右方向操作では
図5(b)に示すような目標車両角速度(ω1~ω4)のみが与えられるようにすることもできる。
【0069】
さらに、制御マップ(マップ1~マップ4)を選択的に切替える代わりに、前進時や旋回時の最大速度(上限速度)のような特定の制御パラメータのみを選択的に切替えるように構成することもでき、また、ジョイスティック83の操作量に対する前進時や旋回時の目標車両速度や目標車両角速度にゲインを設定し、ゲインをいくつかの候補から選択的に切替え、走行特性や旋回特性を選択的に切替るように構成することもできる。
【0070】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【0071】
例えば、上記実施形態では、電動車両1が、歩行補助車モードを備える場合について述べたが、本発明は、歩行補助車モードを備えない小型電動車両や電動車いすとしても実施可能である。
【0072】
また、上記実施形態では、従動輪5としてオムニホイールを用いる場合を示したが、キャスター形式の自在輪を用いることもできる。
【符号の説明】
【0073】
1 電動車両
2 車体
3 リアハンドル(歩行補助車モード操作部)
4 駆動輪(後輪)
5 従動輪(自在輪、前輪)
6 荷置き部
7 シート
8 乗車モード操作部
9 バッテリ
10 制御部
20 傾斜センサ
21 移動ベース
22 上部フレーム
24 後側ベース
25 前側ベース
26 解除タグ
28 車両状態検知センサ
30 把持センサ
34 電磁ブレーキ解除スイッチ
40(40L,40R) モータユニット
41 左右モータ
42 左右電磁ブレーキ
43 左右回転速度センサ
80 表示部
82 アームレスト
83 ジョイスティック(操作子)
84 走行許可スイッチ