IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝電機サービス株式会社の特許一覧

特開2023-112397水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム
<>
  • 特開-水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム 図1
  • 特開-水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム 図2A
  • 特開-水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム 図2B
  • 特開-水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム 図3A
  • 特開-水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム 図3B
  • 特開-水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム 図4
  • 特開-水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム 図5
  • 特開-水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム 図6
  • 特開-水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム 図7
  • 特開-水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム 図8
  • 特開-水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112397
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】水位予測装置、水位予測方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   E03F 1/00 20060101AFI20230804BHJP
   F04D 15/00 20060101ALI20230804BHJP
   F04B 49/06 20060101ALI20230804BHJP
   E03F 5/22 20060101ALI20230804BHJP
   G06Q 50/26 20120101ALI20230804BHJP
【FI】
E03F1/00 Z
F04D15/00 H
F04B49/06 321B
E03F5/22
G06Q50/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014161
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 卓久
(72)【発明者】
【氏名】山中 理
(72)【発明者】
【氏名】時本 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 啓太
(72)【発明者】
【氏名】平岡 由紀夫
【テーマコード(参考)】
2D063
3H020
3H145
5L049
【Fターム(参考)】
2D063AA00
2D063DC04
3H020AA05
3H020AA07
3H020BA08
3H020BA14
3H020BA15
3H020BA18
3H020CA07
3H020DA01
3H020DA22
3H020EA04
3H020EA10
3H145AA06
3H145AA16
3H145AA23
3H145AA42
3H145BA03
3H145BA19
3H145BA24
3H145CA16
3H145DA01
3H145DA32
3H145DA47
3H145EA15
3H145EA26
3H145EA38
3H145EA42
5L049CC35
(57)【要約】
【課題】 ポンプの制御性能の向上に貢献する精度の高い水位予測を行えるようにすること。
【解決手段】 実施形態の水位予測装置は、少なくとも雨水排水施設内のポンプ井の水位と、前記ポンプ井に雨水が流入する前の流路の水位と、前記ポンプ井に設置される排水ポンプの過去の操作量を含む運転操作履歴の情報と、前記排水ポンプの将来の一定時間分の操作量を含む予定運転操作の情報とに基づいて、前記将来の一定時間の後の時刻における前記ポンプ井の水位を予測する水位予測部を具備する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも雨水排水施設内のポンプ井の水位と、前記ポンプ井に雨水が流入する前の流路の水位と、前記ポンプ井に設置される排水ポンプの過去の操作量を含む運転操作履歴の情報と、前記排水ポンプの将来の一定時間分の操作量を含む予定運転操作の情報とに基づいて、前記将来の一定時間の後の時刻における前記ポンプ井の水位を予測する水位予測部を具備する水位予測装置。
【請求項2】
前記予測に用いられる前記予定運転操作の情報に含まれる操作量は、予測実行時刻以降に予定されている前記排水ポンプの操作量である、
請求項1に記載の水位予測装置。
【請求項3】
前記水位予測部は、
少なくとも前記ポンプ井の水位と、前記ポンプ井に雨水が流入する前の流路の水位と、前記運転操作履歴の情報とを用いて、前記予測を行うためのモデルを作成し、
少なくとも前記ポンプ井の水位と、前記ポンプ井に雨水が流入する前の流路の水位と、前記運転操作履歴の情報と、前記予定運転操作の情報とを、前記モデルに入力し、当該モデルから前記将来の一定時間の後の時刻における前記ポンプ井の水位の予測値を出力する、
請求項1又は2に記載の水位予測装置。
【請求項4】
前記水位予測部は、
前記予測において、前回の予測時に用いた操作量を今回の操作量として前記モデルに入力し、前記モデルから得られる水位の予測値がある範囲の閾値を逸脱する場合、その予測値と前記閾値との差を前記ポンプ井に流入する雨水の流入量に変換し、当該流入量に応じて前回の予測時に用いた操作量を変更し、変更後の操作量を今回の操作量として前記モデルに入力する、
請求項3に記載の水位予測装置。
【請求項5】
前記排水ポンプと同一の定格出力を有する別の排水ポンプがある場合、双方の排水ポンプの前記予定運転操作の情報に含まれる操作量を入れ替えた別の予定運転操作の情報を生成する運転操作複製部を更に具備し、
前記水位予測部は、前記予測において前記別の予定運転操作の情報と前記予定運転操作の情報の両方を用いる、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の水位予測装置。
【請求項6】
前記運転操作履歴に含まれる操作量に微小変化を与えて得られる新たな操作量と、前記ポンプ井の水位に前記微小変化の関数を与えて得られる新たな水位の情報とを生成するデータ水増し部を更に具備し、
前記水位予測部は、前記予測において前記新たな操作量と前記新たな水位の情報とを用いる、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の水位予測装置。
【請求項7】
前記データ水増し部は、前記微小変化の値が、ある閾値以下となるように設定する、
請求項6に記載の水位予測装置。
【請求項8】
前記データ水増し部は、前記微小変化の量、率、もしくは割合、あるいは、前記微小変化によってデータを水増しする割合もしくは率を示す情報を外部から得る、
請求項6又は7に記載の水位予測装置。
【請求項9】
水位予測部により、少なくとも雨水排水施設内のポンプ井の水位と、前記ポンプ井に雨水が流入する前の流路の水位と、前記ポンプ井に設置される排水ポンプの過去の操作量を含む運転操作履歴の情報と、前記排水ポンプの将来の一定時間分の操作量を含む予定運転操作の情報とに基づいて、前記将来の一定時間の後の時刻における前記ポンプ井の水位を予測することを含む、水位予測方法。
【請求項10】
コンピュータに、
少なくとも雨水排水施設内のポンプ井の水位と、前記ポンプ井に雨水が流入する前の流路の水位と、前記ポンプ井に設置される排水ポンプの過去の操作量を含む運転操作履歴の情報と、前記排水ポンプの将来の一定時間分の操作量を含む予定運転操作の情報とに基づいて、前記将来の一定時間の後の時刻における前記ポンプ井の水位を予測する機能を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水位予測装置、水位予測方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年増加する集中豪雨や局所的な大雨(いわゆるゲリラ豪雨)による浸水被害を回避するため、雨水対策が求められている。この状況に対して、国土交通省は、雨水幹線等の浸水対策施設の整備などのハード対策(ハードウェア面での対策)に加えて、雨量情報等の観測データの活用といったソフト対策(ソフトウェア面での対策)による浸水対策事業を推進している。このような背景のもと、これまでに、ソフト対策として、雨水排水施設であるポンプ場内で雨水を貯蔵するポンプ井への雨水流入量の予測に基づく排水ポンプ動的制御技術(「雨水ポンプダイナミック制御技術」ともいう。)が開発されてきた。
【0003】
雨水ポンプダイナミック制御技術は、ポンプ場内のポンプ井へ流入する雨水の流入量を予測し、予測した雨水流入量予測値に応じて、排水ポンプの起動水位および停止水位を可変にし、その変化する起動水位および停止水位に従って、排水ポンプの起動と停止を効率的に行う技術である。この技術により、浸水リスクの抑制やポンプの起動停止回数の低減が見込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4399122号公報
【特許文献2】特開2021-95711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポンプ井への雨水流入量を、流量計等で直接測定することは難しい。ポンプ井の測定水位やポンプ吐出量から、雨水流入量を推定するモデルを作成することも考えられるが、推定される値は誤差を含みやすく、その結果、雨水流入量の予測精度が低下し、さらにポンプの制御性能が低下する。
【0006】
発明が解決しようとする課題は、ポンプの制御性能の向上に貢献する精度の高い水位予測を行うことを可能にする、水位予測装置、水位予測方法、およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の水位予測装置は、少なくとも雨水排水施設内のポンプ井の水位と、前記ポンプ井に雨水が流入する前の流路の水位と、前記ポンプ井に設置される排水ポンプの過去の操作量を含む運転操作履歴の情報と、前記排水ポンプの将来の一定時間分の操作量を含む予定運転操作の情報とに基づいて、前記将来の一定時間の後の時刻における前記ポンプ井の水位を予測する水位予測部を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る水位予測装置を含む雨水排水システムの構成の一例を示す図。
図2A】外部から入力された予定運転操作の情報の一例(その1)を示す図。
図2B図2Aに示される予定運転操作の情報の一部を変えて複製した予定運転操作の情報の一例を示す図。
図3A】外部から入力された予定運転操作の情報の一例(その2)を示す図。
図3B図3Aに示される予定運転操作の情報の一部を変えて複製した予定運転操作の情報の一例を示す図。
図4】水位予測部22が作成・使用するモデルの一例を示す図。
図5】予測実行時刻以降の一定時間の予定運転操作の情報および予測実行時刻以前の運転操作履歴の情報などから、その一定時間後のポンプ井13の水位を予測する場合の一例を示す図。
図6】第1の実施形態による水位予測装置20の動作の一例を示す図。
図7】第2の実施形態に係る水位予測装置を含む雨水排水システムの構成の一例を示す図。
図8】運転操作履歴に含まれる各操作量に微小変化を加えることで、予測実行時刻以降の一定時間後の時刻におけるポンプ井13の水位を予測する場合の一例を示す図。
図9】第2の実施形態による水位予測装置20の動作の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、実施の形態について説明する。
【0010】
[第1の実施形態]
最初に、第1の実施形態について説明する。
【0011】
(システムの構成)
図1に、第1の実施形態に係る水位予測装置を含む雨水排水システムの構成の一例を示す。
【0012】
本実施形態の雨水排水システムは、n個の水位計11-1、11-2、・・・、11-n、水位計12-1、複数の排水ポンプ14、ポンプ制御装置15、水位予測装置20等を含む。
【0013】
雨水排水施設内(ポンプ場内)においては、例えば幹線11を流れてくる雨水が、流入渠12からポンプ井13に流入するように構成されている。
【0014】
幹線11には、幹線11の各部の水位を計測するn個の水位計11-1、11-2、・・・、11-nが設けられる。また、流入渠12とポンプ井13との境界もしくはポンプ井13側には、ポンプ井13の水位を計測する水位計12-1が設けられる。水位計11-1、11-2、・・・、11-nおよび12-1でそれぞれ計測された水位の計測値は、後述する水位予測部22へ送られる。
【0015】
ポンプ井13には、ポンプ井13に蓄えられた水を外へ排水するための複数の排水ポンプ14が設けられる。なお、図1では、1つの排水ポンプしか図示されていないが、実際には複数の排水ポンプがあるものとする。また、本例では、複数の排水ポンプ14が可変速の排水ポンプ(可変速ポンプ)である場合の例を示すが、この例に限らず、複数の排水ポンプ14の全ての又は一部を固定速の排水ポンプ(固定速ポンプ)に変えて実施してもよい。各排水ポンプ14は、後述するポンプ制御装置15により制御される。
【0016】
各排水ポンプ14の排出側の管路には、各排水ポンプ14から排出される水の流量から当該排水ポンプ14の吐出量を計測する流量計14-1が設けられる。流量計14-1で計測された各排水ポンプ14の吐出量の計測値は、後述する水位予測部22へ送られる。
【0017】
水位予測装置20は、各種のデータを用いて演算処理を行うことにより、ポンプ井13の将来の水位を予測し、演算処理結果としてポンプ井13の水位の予測値(水位予測値)を出力する装置である。水位予測装置20は、例えばコンピュータとして構成される。水位予測装置20に備えられる各種の機能は、コンピュータに実現させるためのプログラムとして構築される。水位予測装置20から出力される水位予測値は、ポンプ制御装置15へ送られる。
【0018】
ポンプ制御装置15は、水位予測装置20から送られてくる水位予測値を用いて決定される水位目標値と、水位計12-1等で計測されるポンプ井13の水位とに基づき、各排水ポンプ14の回転数もしくは吐出量を操作する。ポンプ制御装置15での制御には、雨水ポンプダイナミック制御技術が使用されてもよく、例えば、上記水位予測値に応じて排水ポンプの起動水位および停止水位が変えられるようにしてもよい。ポンプ制御装置15により操作された各排水ポンプ14の操作量は、時系列に水位予測装置20に伝えられるように構成されてもよい。
【0019】
(水位予測装置20の構成)
水位予測装置20は、運転操作複製部21、水位予測部22、および記憶部24を備えている。
【0020】
水位予測装置20は、少なくともポンプ井13の水位(例えば、水位計12-1で計測される水位)と、ポンプ井13に雨水が流入する前の流路の水位(例えば、水位計11-1、11-2、・・・、11-nで計測される幹線11の水位)と、各排水ポンプ14の過去の操作量を含む運転操作履歴の情報(例えば、流量計14-1で計測された各排水ポンプ14の吐出量、もしくは、各排水ポンプ14の運転履歴(回転数など)から算出される各排水ポンプ14の吐出量)と、各排水ポンプ14の将来の一定時間分の操作量を含む予定運転操作の情報(例えば、外部の上位システム等から入力される予定運転操作の情報(以下、「予定運転操作データ」と呼ぶ場合がある))とに基づいて、将来の上記一定時間の後の時刻におけるポンプ井13の水位を予測する機能を有する。この機能は、水位予測部22により実現される。上記予測に用いられる予定運転操作の情報に含まれる操作量は、予測実行時刻以降に予定されている各排水ポンプの操作の操作量である。
【0021】
水位予測部22には、水位計12-1で計測される水位と、水位計11-1、11-2、・・・、11-nで計測される幹線11の水位と、流量計14-1で計測された各排水ポンプ14の吐出量(各排水ポンプ14の過去の操作量)と、外部の上位システム等からの予定運転操作データとが入力される。そのほか、水位予測部22には、下水管渠やポンプ場の設計情報や、雨量・降雨強度・気温等の気象データ等が入力されてもよい。
【0022】
運転操作複製部21は、ある排水ポンプ14と同一の定格出力を有する別の排水ポンプ14がある場合に、双方の排水ポンプ14の予定運転操作の情報に含まれる操作量を入れ替えた別の予定運転操作の情報を生成する(複製する)機能を有する。複製された別の予定運転操作の情報と、外部から入力された予定運転操作の情報とは、共に水位予測部22へ送られる。
【0023】
但し、運転操作複製部21の設置は必ずしも必要とされるものではない。運転操作複製部21が設けられない場合、水位予測装置20に入力される予定運転操作情報は、そのまま水位予測部22へ送られる。運転操作複製部21が設けられる場合、水位予測部22は、水位予測において、複製された別の予定運転操作の情報と外部から入力された予定運転操作の情報の両方を用いる。
【0024】
また、水位予測部22は、少なくともポンプ井13の水位と、ポンプ井13に雨水が流入する前の流路の水位と、運転操作履歴の情報とを用いて、水位予測を行うためのモデル(後述)を作成する機能を有する。さらに水位予測部22は、少なくともポンプ井13の水位と、ポンプ井13に雨水が流入する前の流路の水位と、運転操作履歴の情報と、予定運転操作の情報とを、上記モデルに入力し、当該モデルから将来の一定時間の後の時刻におけるポンプ井13の水位予測値を出力する機能を有する。
【0025】
また、水位予測部22は、上記モデルを用いた水位予測において、前回の予測時に用いた操作量を今回の操作量として当該モデルに入力し、当該モデルから得られる水位予測値がある範囲の閾値(上限値など)を逸脱する場合、その予測値と前記閾値との差をポンプ井13に流入する雨水の流入量に変換し、当該流入量に応じて前回の予測時に用いた操作量を変更し、変更後の操作量を今回の操作量として当該モデルに入力する機能を有する。
【0026】
記憶部24は、水位予測装置20内に取り込まれた各種の情報や、運転操作複製部21や水位予測部22が処理に使用する各種の情報を記憶する。
【0027】
例えば、記憶部24には、時系列に順次得られる時系列データ(例えば雨量・降雨強度・気温等の気象データ、幹線の各地点での水位、各排水ポンプの操作量、ポンプ井13の水位についての過去の時系列データ)が、予測実行時刻以降に予定されている各排水ポンプの操作量の時系列データと共に、リストにまとめられた形で記憶されてもよい。
【0028】
(運転操作複製部21の処理の詳細)
運転操作複製部21は、予測実行時刻から予測対象時刻まで(例えば、予測実行時刻から3分先まで)の予定運転操作の情報を入力し、水位予測部22に向けて予測実行時刻から予測対象時刻までの予定運転操作の情報の量を複製により増やして出力する。このときの予定運転操作の情報の増加量(複製の数)は、次に示すようにそのときの状況によって異なる。ここでは、2つの例を挙げる。
【0029】
1.定格出力が同一の排水ポンプの組みが一組だけの場合
図2Aに、外部から入力された予定運転操作の情報の一例(その1)を示す。また、図2Bに、図2Aに示される予定運転操作の情報の一部を変えて複製した予定運転操作の情報の一例を示す。
【0030】
例えば、図2Aに示されるように、3つの排水ポンプ14(操作量Xの排水ポンプ、操作量Yの排水ポンプ、および操作量Zの排水ポンプ)がある場合を考える。
【0031】
ここで、ある操作対象の排水ポンプ14(操作量Xの排水ポンプ)と同一の定格出力を有する別の排水ポンプ14(操作量Yの排水ポンプ)があるものとする。
【0032】
この場合、図2Bに示されるように、操作量Xの排水ポンプと操作量Yの排水ポンプのそれぞれの予測実行時刻から例えば3分先までの各操作量の値を入れ替えた、別の予定運転操作の情報(複製された予定運転操作の情報)が生成される。
【0033】
このようにして、入力された1つの予定運転操作の情報を基に、2つの予定運転操作の情報(外部から入力された予定運転操作の情報+複製された予定運転操作の情報)が生成される。なお、同一の定格出力の排水ポンプ14が無い場合には、複製は行われない。
【0034】
1.定格出力が同一の排水ポンプの組みが二組ある場合
図3Aに、外部から入力された予定運転操作の情報の一例(その2)を示す。また、図3Bに、図3Aに示される予定運転操作の情報の一部を変えて複製した予定運転操作の情報の一例を示す。
【0035】
例えば、図3Aに示されるように、4つの排水ポンプ14(操作量Wの排水ポンプ、操作量Xの排水ポンプ、操作量Yの排水ポンプ、および操作量Zの排水ポンプ)がある場合を考える。
【0036】
ここで、ある操作対象の排水ポンプ14(操作量Wの排水ポンプ)と同一の定格出力を有する別の排水ポンプ14(操作量Xの排水ポンプ)があり、かつ、ある操作対象の排水ポンプ14(操作量Yの排水ポンプ)と同一の定格出力を有する別の排水ポンプ14(操作量Zの排水ポンプ)があるものとする。
【0037】
この場合、3つの複製が行われる。1つ目は、例えば図3Bに示されるように、操作量Yの排水ポンプと操作量Zの排水ポンプのそれぞれの予測実行時刻から例えば3分先までの各操作量の値を入れ替えた、別の予定運転操作の情報(複製された予定運転操作の情報)が生成される。
【0038】
2つ目は、図示はしないが、操作量Wの排水ポンプと操作量Xの排水ポンプのそれぞれの予測実行時刻から例えば3分先までの各操作量の値を入れ替えた、別の予定運転操作の情報(複製された予定運転操作の情報)が生成される。
【0039】
3つ目は、図示はしないが、操作量Wの排水ポンプと操作量Xの排水ポンプのそれぞれの予測実行時刻から例えば3分先までの各操作量の値を入れ替えるとともに、操作量Yの排水ポンプと操作量Zの排水ポンプのそれぞれの予測実行時刻から例えば3分先までの各操作量の値を入れ替えた、別の予定運転操作の情報(複製された予定運転操作の情報)が生成される。
【0040】
このようにして、入力された1つの予定運転操作の情報を基に、4つの予定運転操作の情報(外部から入力された予定運転操作の情報+3つの複製された予定運転操作の情報)が生成される。なお、同一の定格出力の排水ポンプ14が無い場合には、複製は行われない。
【0041】
(水位予測部22の処理の詳細)
水位予測部22は、ポンプ井13の水位の予測を行うためのモデルを作成する処理と、作成したモデルを用いて水位予測値を出力する処理とを行う。
【0042】
図4に、水位予測部22が作成・使用するモデルの一例を示す。
【0043】
図4に示されるモデル22Aは、一般的なディープラーニングのモデルと同様、入力層と出力層との間に複数の中間層が介在する全結合層を有するものである。
【0044】
モデル22Aの作成時には、水位予測部22は、入力層に、各排水ポンプのポンプ吐出量や各排水ポンプの回転数等の操作量を含むポンプ場の運転操作履歴の情報、幹線の各地点での水位や、雨量等の気象情報のデータ、ポンプ井13の水位、その他タイムスタンプ付の時刻同期された時系列データ、および、下水管渠やポンプ場の設計情報を入力し、学習を行わせる。
【0045】
予測の実行時には、水位予測部22は、入力層に、上記と同じく各排水ポンプのポンプ吐出量や各排水ポンプの回転数等の操作量を含むポンプ場の運転操作履歴の情報、幹線の各地点での水位や、雨量等の気象情報のデータ、ポンプ井13の水位、その他タイムスタンプ付の時刻同期された時系列データ、および、下水管渠やポンプ場の設計情報を入力することに加えて、運転操作複製部21が生成した予測実行時刻から予測対象時刻まで(例えば、予測実行時刻から3分先まで)の一定時間の予定運転操作の情報を入力し、その一定時間後のポンプ井13の水位を予測し、水位予測値を出力する。
【0046】
複数の予定運転操作の情報が入力された場合には、当該複数の予定運転操作の情報すべてに対して、水位予測を実行し、それらの結果を基にして、1つの予測値を生成する。この時、単純に平均をとってもよいし、重みづけ和を使用してもよい。
【0047】
図5に、予測実行時刻以降の一定時間の予定運転操作の情報および予測実行時刻以前の運転操作履歴の情報などから、その一定時間後のポンプ井13の水位を予測する場合の一例を示す。
【0048】
図5に示されるように、例えば降雨強度や気温などの気象データ、幹線水位、各排水ポンプの操作量X,Y,Z、ポンプ井13の水位についての過去の時系列データが、予測実行時刻以降に予定されている各排水ポンプの操作量の時系列データと共に、記憶部24等を用いて管理されているものとする。
【0049】
図5の例では、予測実行時刻以降の一定時間の予定運転操作の情報(予測実行時刻から3分先までの各排水ポンプの操作量X,Y,Z)および予測実行時刻以前の履歴(1分前~30分前)の情報などから、その一定時間後の時刻(4分先)におけるポンプ井13の水位を予測する様子が示されている。
【0050】
(動作例)
次に、図6を参照して、第1の実施形態による水位予測装置20の動作の一例を説明する。
【0051】
最初に、外部から水位予測装置20内に時系列データを含む各種のデータが入力される(ステップS11)。このとき、予定運転操作データ(予定運転操作の情報)以外のデータは、運転操作複製部21を経由せずに、水位予測部22へ送られる。
【0052】
ここで、ポンプ場に同一の定格出力の排水ポンプ14がある場合には、運転操作複製部21により、水位予測装置20に入力された1つの予定運転操作の情報(予定運転操作データ)を基に、複数の予定運転操作の情報(外部から入力された予定運転操作の情報+複製された1つ又は複数の予定運転操作の情報)が生成され、水位予測部22へ送られる(ステップS12)。なお、同一の定格出力の排水ポンプ14が無い場合には、ステップS12の処理は行われず、水位予測装置20に入力された予定運転操作の情報がそのまま水位予測部22へ送られる。
【0053】
次に、水位予測部22において、例えば図4で説明したようなモデル22Aの作成が行われる(ステップS13)。モデル22Aの作成時には、入力層に、各排水ポンプのポンプ吐出量や各排水ポンプの回転数等の操作量を含むポンプ場の運転操作履歴の情報、幹線の各地点での水位や、雨量等の気象情報のデータ、ポンプ井13の水位、その他タイムスタンプ付の時刻同期された時系列データが入力されて学習が行われる。
【0054】
最後に、水位予測部22において、モデル22Aを用いた水位予測が実行される(ステップS14)。予測の実行時には、入力層に、ステップS13において入力されたデータと同等のデータが入力されるとともに、運転操作複製部21が生成した予測実行時刻から予測対象時刻までの一定時間の予定運転操作の情報が入力され、その一定時間後のポンプ井13の水位が予測され、水位予測値が出力される。
【0055】
また、水位予測を行う場合に、予定運転操作の情報を決定する方法として、以下のような手順を採用してもよい。
【0056】
(1)前回の予測結果に基づき、前回の予測時点で各最適化手法にて最適とされた予定運転操作の操作量を今回の操作量としてモデルに入力する。
【0057】
(2)水位を予測する。予測した水位の予測値が、ある範囲の閾値(上限値など)から逸脱しない場合には、予測を終了する。
【0058】
(3)予測した水位の予測値が、ある範囲の閾値(上限値など)から逸脱する場合には、その予測値と上記閾値との差を、ポンプ井13に流入する雨水の流入量に変換し、この雨水の流入量に対応できるように、各種最適化手法を用いて、前回の予測時に用いた操作量を変更し、変更後の操作量を今回の操作量としてモデルに入力し、上記(2)の手順に戻る。
【0059】
第1の実施形態によれば、推定値である雨水流入量を予測するのではなく、実測値である水位そのものを予測するモデルにより水位予測を行うので、誤差を低減し、予測値のロバスト性を向上させることが可能となり、ポンプ制御の性能を向上させることが可能となる。また、予定運転操作の情報を増やして予測を行うことができるので、より安定した予測が可能になる。
【0060】
前述したように雨水流入量を直接測定するのは困難であり、多くの場合、ポンプ井の水位がデータとして記録されていた。この水位は、雨水流入量に比例するものの、ポンプ動作等の制御によっても変化するため、従来は、ポンプ動作等の制御の影響をモデルにより水位の変化から排除して雨水流入量を推定していた。この推定の際、水位の変化分を用いるため、推定結果が安定せず、誤差を多く含んでいた。
【0061】
これに対し、本実施形態の水位予測装置20では、ポンプ動作等の将来の制御の影響を説明変数に加えて、ポンプ井13の水位を直接予測しているといえる。そして、ポンプ制御装置15はその予測した水位の予測値を用いてポンプ制御を行うことになる。予測した流入流を用いてポンプ制御を行うことが求められる場合には、予測した水位の変化分を雨水流入量に換算してポンプ制御を行えばよい。この場合、水位の変化分を用いることになるが、従来のようにモデルの学習時に使用するデータに対しては、水位の変化分を用いた換算を行う必要がないので、従来に比べて精度が向上する。
【0062】
例えば5分後の水位を予測するモデルを作成する場合、予測実行時刻から5分間の制御に依存して水位が変化するため、この5分間の制御履歴を説明変数に加えることが求められる。従来は、これは予測実行時刻以降のデータ、つまり将来のデータとなり、水位予測の結果が出る前に制御量を決定できないため、一般的には説明変数に加えなかった。しかしながら、実際に予測することを考えた場合、制御内容は任意に設定できるため、説明変数に加えても問題がない。本実施形態では、この将来の運転データ(すなわち、予定運転操作データ)を説明変数として、予測時に入力するものとしている。
【0063】
この結果、モデルに用いる説明変数は、推定したデータでなく、すべて測定データとなり、さらに、予測対象も水位とするので、従来のモデルとは異なり、精度の高い予測が可能となる。前述したようにポンプ制御に雨水流入量が求められる場合には、ポンプ井の構造から水位を雨水流入量に換算すればよい。
【0064】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。以下では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0065】
(システムの構成)
図7に、第2の実施形態に係る水位予測装置を含む雨水排水システムの構成の一例を示す。
【0066】
第2の実施形態では、水位予測装置20の中に、水位予測部22が設けられず、代わりにデータ水増し部23が設けられる。
【0067】
データ水増し部23は、前述した運転操作履歴に含まれる操作量(例えば、予測実行時刻の1分前の操作量)に微小変化を与えて得られる新たな操作量と、ポンプ井13の水位に上記微小変化の関数を与えて得られる新たな水位の情報とを生成する機能を有する。
【0068】
この場合、水位予測部22は、水位予測において上記新たな操作量と上記新たな水位の情報とを用いることになる。
【0069】
また、データ水増し部23は、上記微小変化の値が、ある閾値以下となるように設定する機能を有する。
【0070】
また、データ水増し部23は、上記微小変化の量、率、もしくは割合、あるいは、上記微小変化によってデータを水増しする割合もしくは率(水増し割合もしくは水増し率)を示す情報(水増しデータ)を外部から得る機能を有する。ここで、水増し割合もしくは水増し率とは、水増しする元のデータの量のうち、何割を新規に生成するか、もしくは何パーセントを新規に生成するかを表している。
【0071】
(データ水増し部23の処理の詳細)
前述したモデル22Aの場合、説明変数が多く、学習には多量のデータを要する。しかし、データが少ない状況でも、当該モデル22Aを活用したい場合や、多量のデータはあるものの、操作量のバリエーションが少なく、学習が進まない状況などが考えられる。
【0072】
そこで、第2の実施形態では、前述したモデル22Aを利用するとともに、運転操作履歴に含まれる各操作量(例えば、予測実行時刻の1分前の操作量)に微小変化を加えることで、予測実行時刻から予測対象時刻まで(例えば、予測実行時刻から3分先まで)の一定時間のポンプ井13の水位を微小変化させた上で、その一定時間後の時刻(4分先)におけるポンプ井13の水位を予測するものとする。
【0073】
図8に、運転操作履歴に含まれる各操作量に微小変化を加えることで、予測実行時刻以降の一定時間後の時刻におけるポンプ井13の水位を予測する場合の一例を示す。
【0074】
図8の例では、例えば1分前の運転操作履歴において、操作量x、操作量y、操作量zにそれぞれΔx、Δy、Δzの微小変化があったとした場合、水位量がどの程度変化するのかを数理モデルである関数モデルを利用して算出している。例えば、操作量xで、Δxの変化があった場合の水位変化を示す関数モデルを関数f(Δx)で表現している。また、操作量yで、Δyの変化があった場合の水位変化を示す関数モデルを関数g(Δy)で表現している。また、操作量zで、Δzの変化があった場合の水位変化を示す関数モデルを関数h(Δz)で表現している。
【0075】
すなわち、予測実行時刻の1分前の操作量x、操作量y、操作量zに微小変化Δx,Δy,Δzを加えることで、予測実行時刻から3分先までの一定時間のポンプ井13の水位をf(Δx)+g(Δy)+h(Δz)だけ変化させた上で、予測実行時刻から3分先までの変化した各排水ポンプの操作量X,Y,Zなどから、上記一定時間後の時刻(4分先)におけるポンプ井13の水位を予測するものとなっている。
【0076】
以上のように、各種の時系列データに対して、さまざまなバリエーションの微小変化を加えて、データの水増しを行うことにより、水増しを行ったデータを水位予測部22のモデル22Aの学習に用いることができる。但し、水増し量を増やしすぎると、上記関数モデルの特性を学習することになり、モデル22Aの精度が低下する懸念が生じる。したがって、実際のデータ量に対して、どの程度の割合で、データを水増しするかを確認してから設定することが望ましい。
【0077】
(動作例)
次に、図9を参照して、第2の実施形態による水位予測装置20の動作の一例を説明する。
【0078】
最初に、外部から水位予測装置20内に時系列データを含む各種のデータが入力される(ステップS11)。このとき、データ水増し部23には、水増しデータ(微小変化の量、率、もしくは割合を示す情報)、ポンプ井13の水位、各排水ポンプ14の吐出量等のデータが入力される。一方、水位予測部22へは、設計情報、雨量等の気象データ等、予定運転操作データ(予定運転操作情報)、幹線の各地点での水位等のデータが入力される。
【0079】
次に、データ水増し部23において、水増しデータ(微小変化の量、率、もしくは割合を示す情報)を用いたデータの水増しが行われる(ステップS12’)。
【0080】
次に、水位予測部22において、例えば図4で説明したようなモデル22Aの作成が行われる(ステップS13’)。モデル22Aの作成時には、入力層に、各排水ポンプのポンプ吐出量や各排水ポンプの回転数等の操作量を含むポンプ場の運転操作履歴の情報、幹線の各地点での水位や、雨量等の気象情報のデータ、ポンプ井13の水位、その他タイムスタンプ付の時刻同期された時系列データが入力され、さらに学習に必要なデータがデータ水増し部23から読み出されて入力され、学習が行われる。
【0081】
最後に、水位予測部22において、モデル22Aを用いた水位予測が実行される(ステップS14’)。予測の実行時には、入力層に、ステップS13’において入力されたデータと同等のデータが入力されるとともに、水位予測に必要なデータがデータ水増し部23から読み出されて入力され、その一定時間後のポンプ井13の水位が予測され、水位予測値が出力される。
【0082】
第2の実施形態によれば、モデル22Aを作成するためのデータが少ない状況、もしくは多量のデータはあるものの、操作量のバリエーションが少なく、学習が進まない状況に対しても、モデル22Aを効率よく学習させることができ、水位の予測精度を向上させることができ、ひいてはポンプ制御性能を向上させることができる。
【0083】
以上詳述したように、実施形態によれば、ポンプの制御性能の向上に貢献する精度の高い水位予測を行うことが可能になる。
【0084】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0085】
11…幹線、11-1、11-2、・・・、11-n…水位計、12…流入渠、12-1…水位計、13…ポンプ井、14…排水ポンプ、15…ポンプ制御装置、20…水位予測装置、22…水位予測部、23…データ水増し部、24…記憶部。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9