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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112450
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】歯車故障検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20230804BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014246
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】岡村 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】杉田 澄雄
(72)【発明者】
【氏名】マイケル オット
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA22
2G024CA13
2G024FA01
2G024FA06
2G024FA11
2G064AB02
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC43
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】センサの性能が低くても、歯車の異常を正確に検出できる技術を提供する。
【解決手段】歯車故障検出システムは、歯車が設けられた軸を回転可能に支持する軸受部に設けられ、軸が回転する毎に軸の1回転に要する時間より短い所定時間、軸受部の振動に起因する加速度の瞬時値を計測する加速度センサと、軸が複数回、回転する間に加速度センサに計測された加速度の複数の瞬時値を並べ替えて、並べ替えられた加速度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、軸の1回転あたりの加速度の変化を表す加速度プロファイルを生成する加速度プロファイル生成部と、加速度プロファイル生成部により生成された加速度プロファイルに基づいて、歯車の故障を判断する故障判断部とを備える。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車が設けられた軸を回転可能に支持する軸受部に設けられ、前記軸が回転する毎に前記軸の1回転に要する時間より短い所定時間、前記軸受部の振動に起因する加速度の瞬時値を計測する加速度センサと、
前記軸が複数回、回転する間に前記加速度センサに計測された加速度の複数の瞬時値を並べ替えて、並べ替えられた加速度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、前記軸の1回転あたりの加速度の変化を表す加速度プロファイルを生成する加速度プロファイル生成部と、
前記加速度プロファイル生成部により生成された前記加速度プロファイルに基づいて、歯車の故障を判断する故障判断部と
を備えることを特徴とする歯車故障検出システム。
【請求項2】
前記軸が1回転する毎に1つのパルスを生成するパルス生成部をさらに備え、
前記加速度センサは、前記パルス生成部がパルスを生成した後、計測開始時点から前記軸の1回転に要する時間より所定時間、加速度の瞬時値を計測し、
前記加速度センサによる所定時間の加速度の計測のたびに、前記計測開始時点を変化させる計測開始時点変化部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の歯車故障検出システム。
【請求項3】
前記軸受部の外輪と内輪との相対的な回転を利用して発電する発電部と、
前記発電部で発生した電荷を蓄えて前記加速度センサに給電する蓄電池と、
前記加速度センサによる所定時間の加速度の計測が終わるたびに、前記蓄電池による前記加速度センサへの給電を停止し、前記発電部で発生した電気を前記蓄電池に充電する蓄電池制御部と、
前記蓄電池の充電完了を検知する充電完了検知部とをさらに備え、
前記加速度センサは、前記充電完了検知部が前記蓄電池の充電完了を検知した後、かつ前記パルス生成部がパルスを生成した後、計測開始時点から一定時間、加速度の瞬時値を計測する
ことを特徴とする請求項2に記載の歯車故障検出システム。
【請求項4】
前記加速度センサは、X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの加速度を計測する3軸加速度センサである
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の歯車故障検出システム。
【請求項5】
前記軸受部に設けられて、前記軸が回転する毎に前記軸の1回転に要する時間より短い所定時間、前記軸の角度の瞬時値を計測する角度センサと、
前記軸が複数回、回転する間に前記角度センサに計測された角度の複数の瞬時値を並べ替えて、並べ替えられた角度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、前記軸の1回転あたりの角度計測値の変化を表しており、前記加速度プロファイルと同期している角度プロファイルを生成する角度プロファイル生成部とをさらに備え、
前記故障判断部は、前記加速度プロファイル生成部により生成された前記加速度プロファイルと前記角度プロファイル生成部により生成された前記角度プロファイルに基づいて、歯車の故障を判断する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の歯車故障検出システム。
【請求項6】
前記加速度センサと前記角度センサのサンプリング周期は同じであり、
前記加速度センサと前記角度センサによって同時に計測された前記加速度の瞬時値と前記角度の瞬時値を関連付けて記憶する記憶部をさらに備える
ことを特徴とする請求項5に記載の歯車故障検出システム。
【請求項7】
前記加速度センサが前記加速度の瞬時値を計測した時刻を示す加速度タイムスタンプを生成する加速度タイムスタンプ生成部と、
前記角度センサが前記角度の瞬時値を計測した時刻を示す角度タイムスタンプを生成する角度タイムスタンプ生成部と、
前記加速度センサによって計測された前記加速度の瞬時値と前記加速度タイムスタンプを関連付け、前記角度センサによって計測された前記角度の瞬時値と前記角度タイムスタンプを関連付けて記憶する記憶部をさらに備える
ことを特徴とする請求項5に記載の歯車故障検出システム。
【請求項8】
前記加速度センサのサンプリング周期よりも前記角度センサのサンプリング周期は長く、
前記加速度センサによって加速度の瞬時値が計測され、前記角度センサによって角度の瞬時値が計測されていない時の角度の瞬時値を、前記角度センサによって計測された角度の複数の瞬時値から線形補間して計算する線形補間計算部をさらに備える
ことを特徴とする請求項7に記載の歯車故障検出システム。
【請求項9】
前記軸が1回転する毎に1つのパルスを生成するパルス生成部と、
前記パルスの間隔から軸の角度の瞬時値を推定する角度推定部と、
前記角度推定部により推定された角度の複数の瞬時値を並べ替えて、並べ替えられた角度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、前記軸の1回転あたりの角度計測値の変化を表しており、加速度プロファイルと同期している角度プロファイルを生成する角度プロファイル生成部とをさらに備え、
前記故障判断部は、前記加速度プロファイル生成部により生成された前記加速度プロファイルと前記角度プロファイル生成部により生成された前記角度プロファイルに基づいて、歯車の故障を判断する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の歯車故障検出システム。
【請求項10】
前記加速度センサは、X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの加速度を計測する3軸加速度センサであり、
前記故障判断部は、
前記歯車の歯と前記軸の回転角度との関係を規定するマップを生成するマップ生成部と、
式(1)を用いて、各歯の加速度信号強度を算出する第1算出部と、
式(2)を用いて、すべての歯の前記加速度信号強度の平均値を算出する第2算出部と、
式(3)を用いて、各歯の損傷指標値を算出する第3算出部と、
を備え、
前記式(1)は、
【数6】
であり、ここで、P(tooth=k)はk番目の歯の加速度信号強度であり、x(φ(i))、y(φ(i))、z(φ(i))は、それぞれ、サンプル角度位置φ(i)がk番目の歯に対応する場合のX軸、Y軸、Z軸の加速度の値であり、nsamples,kはk番目の歯に対応する加速度の値のサンプル数であり、
前記式(2)は、
【数7】
であり、ここで、P ̄はすべての歯の加速度信号強度の平均値であり、P(k)はk番目の歯の加速度信号強度であり、Zは歯車の歯の数であり、
前記式(3)は、
【数8】
であり、ここで、Prel(k)はk番目の歯の損傷指標値である
ことを特徴とする請求項5から9のいずれか1項に記載の歯車故障検出システム。
【請求項11】
前記加速度センサの計測可能な加速度の範囲は、少なくとも-6Gから+6Gであり、多くとも-16Gから+16Gである
ことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の歯車故障検出システム。
【請求項12】
前記加速度センサの分解能は、前記計測可能な加速度の範囲の4096分の1以上、10分の1以下である
ことを特徴とする請求項11に記載の歯車故障検出システム。
【請求項13】
前記加速度センサの計測可能な周波数帯域は、前記歯車の噛み合い周波数の0.9倍以上、2.1倍以下である
ことを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の歯車故障検出システム。
【請求項14】
前記角度センサの分解能は、前記歯車の角度ピッチの65536分の1以上、10分の1以下である
ことを特徴とする請求項5から8のいずれか1項に記載の歯車故障検出システム。
【請求項15】
前記角度センサの繰り返し精度は、前記歯車の角度ピッチの256分の1以上、10分の1以下である
ことを特徴とする請求項5から8および14のいずれか1項に記載の歯車故障検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車の故障を検出する歯車故障検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯車には色々な疲労が生じ得るし、使用時間等に応じた自然発生的な損傷も生じ得る。一般的に、歯車は、損傷が無くても、時間経過に伴い変化する噛み合い剛性その他の理由により振動を発生する。振動の発生は、損傷の存在によって大きくなる。
【0003】
歯車変速機構において、歯車の振動は、歯車を支持する軸および軸受を通って歯車変速機構のケースに伝達される。歯車変速機構の歯車の異常を検出する装置として、特許文献1の装置がある。
特許文献1の装置は、2つの歯車が噛み合う際に発生する振動を検出する加速度センサを有する。加速度センサは、トランスミッションのケーシングに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-181282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
歯車が噛み合う際に発生する振動エネルギの一部は、歯車を収容するケースから可聴ノイズとして外部に放出される。この可聴ノイズの伝達経路に亘って、元々の噛み合いにより励起された振動は、振動励起点からピックアップ点(加速度センサの設置位置)に到達する過程で、ケース固有の振動伝達経路の影響を受ける。従って、ピックアップ点で計測される振動特性は、励起点の振動と比べて振動特性が変化している。これは、伝達経路に存在する物体の剛性および質量特性や、減衰に依るものであり、周波数帯域全体に亘って、変更された振幅および位相に関して、振動時系列を変化させる。
【0006】
特許文献1に開示されている構成では、加速度センサが増速機のケーシングに取り付けられているので、2つの歯車(歯車対)が噛み合う際に発生する振動が、増速機のケーシングを介して加速度センサに伝達される。加速度センサに到達する振動は、ケーシング固有の振動伝達経路の影響を受けるので、加速度センサで計測される振動は、振動発生箇所(噛み合う歯車対)の振動と比べて振動特性が変化している可能性がある。また、特許文献1の構成では、歯車の個々の歯の異常を検出することはできない。
また、センサが高性能であればあるほど、診断精度は向上すると予想されるが、高性能なセンサは高価である。
【0007】
そこで、本発明は、センサの性能が低くても、歯車の異常を正確に検出できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によれば、歯車の故障を検出する歯車故障検出システムが提供される。この歯車故障検出システムは、歯車が設けられた軸を回転可能に支持する軸受部に設けられ、前記軸が回転する毎に前記軸の1回転に要する時間より短い所定時間、前記軸受部の振動に起因する加速度の瞬時値を計測する加速度センサと、前記軸が複数回、回転する間に前記加速度センサに計測された加速度の複数の瞬時値を並べ替えて、並べ替えられた加速度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、前記軸の1回転あたりの加速度の変化を表す加速度プロファイルを生成する加速度プロファイル生成部と、前記加速度プロファイル生成部により生成された前記加速度プロファイルに基づいて、歯車の故障を判断する故障判断部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様においては、軸が複数回、回転する間に加速度センサに計測された加速度の多数の瞬時値が蓄積される。歯車の故障箇所は、360°の角度範囲のいずれかの角度位置での加速度の異常として検出され、軸の複数回の回転では、歯車の故障箇所に対応する加速度の異常が繰り返し計測されることになる。本発明の一態様においては、軸の複数回の回転で蓄積された加速度の多数の瞬時値を並べ替え、並べ替えられた加速度の瞬時値を繋ぎ合わせることで、加速度センサの性能が低くても、軸の1回転あたりの加速度の変化を表す加速度プロファイルを生成することができるので、歯車の故障を精度よく判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は本発明の実施形態に係る歯車故障判断装置と歯車変速機構を有する歯車故障検出システムを示す図である。
図2図2図1の歯車故障判断装置の構成を示すブロック図である。
図3図3図1の第1軸受の分解斜視図である。
図4図4図1の第1軸受を別の方向から見た分解斜視図である。
図5A図5Aはカバー、コイル基板、回路基板群および蓄電池を示す平面図である。
図5B図5Bはコイル基板の詳細を示す平面図である。
図6図6は自己発電のメカニズムを説明するためのブロック図である。
図7図7は電源管理ICの動作を説明するためのグラフである。
図8図8は第1軸受内の計測装置の構成を示すブロック図である。
図9図9は計測装置の処理を説明するためのタイミングチャートである。
図10図10は計測加速度値と計測角度値のサンプリング周期を説明する図である。
図11図11は計測装置の処理を説明するためのフローチャートである。
図12図12は計測装置で計測された加速度と角度の時間的変化を示すグラフである。
図13図13は歯車故障検出システムのうち歯車故障判断に特に関連する要素を示すブロック図である。
図14図14は実施形態に係る歯車故障判断装置が生成した加速度プロファイルのグラフと角度プロファイルのグラフである。
図15図15は高額な加速度センサと角度センサを用いて得られた加速度プロファイルのグラフと角度プロファイルのグラフである。
図16図16は歯車故障判断装置が実行する故障判断処理を説明する図である。
図17図17は角度オフセット値を用いない場合の角度と歯のマップである。
図18図18は角度オフセット値を用いた場合の角度と歯のマップである。
図19図19は実施形態の変形例に係る歯車故障検出システムのうち歯車故障判断に特に関連する要素を示すブロック図である。
図20図20は変形例に係る計測加速度値と計測角度値のサンプリング周期の他の例を説明する図である。
図21図21図19の変形例において歯車故障判断装置が実行する線形補間を説明する図である。
図22図22は実施形態で得られた加速度プロファイルの例を示す図である。
図23図23はある条件下で計算された3軸それぞれの相対信号強度係数を示すグラフである。
図24図24はある条件下で得られた3軸の加速度プロファイルから得られた3軸のFFT結果を示すグラフである。
図25図25は角度センサの分解能を説明する図である。
図26図26はシミュレーションの基準とした加速度プロファイルを示すグラフである。
図27図27はシミュレーションで得られた加速度プロファイルを示すグラフである。
図28図28は他のシミュレーションで得られた加速度プロファイルを示すグラフである。
図29図29は実施形態のさらに他の変形例に係る歯車故障検出システムのうち歯車故障判断に特に関連する要素を示すブロック図である。
図30図30図19の変形例において歯車故障判断装置が実行する角度推定を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る様々な実施形態を説明する。図面の縮尺は必ずしも正確ではなく、一部の特徴は誇張または省略されることもある。
【0012】
本実施形態の歯車故障検出システムは、歯車の状態をモニタリングし、歯車の故障を検出する。本実施形態の歯車故障検出システムは、自己発電型のセンサ付き軸受(軸受装置)を使用して、歯車のモニタリングを行い、歯車の歯ごとの振動信号を評価できるように構成されている。本実施形態で使用する軸受装置は、軸を回転自在に支持するという軸受本来の機能に加え、自己発電とセンシングと無線送信の機能を有する。つまり、軸受装置は、軸を支持するデバイスであると共に、センサデバイス(計測装置)としての機能も有する。センサデバイスは計測装置と称することもできるので、センサ付き転がり軸受は、計測装置付き軸受と称してもよい。
【0013】
以下の記載において、歯車変速機構はギアボックスと称されることがある。また、本実施形態では、説明を簡単にするために、歯車変速機構として単純な1段歯車機構の歯車変速機構を例示する。
本発明の範囲は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で変更および修正等をすることが可能である。
【0014】
図1は、本発明の実施形態の歯車故障判断装置10と歯車変速機構20を示している。歯車変速機構20は、ハウジング21と、ハウジング21内に設けられた第1歯車22および第2歯車23を有する。ハウジング21は、間隔をおいて対向する第1壁21aと第2壁21bを有する。第1歯車22と第2歯車23は互い噛み合う。また、歯車変速機構20は、第1歯車22が取り付けられた第1軸24aと、第1軸24aの両端を支持する第1軸受25および第2軸受26を有する。第1軸受25は、ハウジング21の第1壁21aに設けられている。第2軸受26は、ハウジング21の第2壁21bに設けられている。
【0015】
さらに、歯車変速機構20は、第2歯車23が取り付けられた第2軸24bと、第2軸24bの両端を支持する第3軸受27および第4軸受28を有する。第3軸受27は、第1軸受25の下方において、ハウジング21の第1壁21aに設けられている。第4軸受28は、第2軸受26の下方において、ハウジング21の第2壁21bに設けられている。本実施形態では、第1軸受25~第4軸受28は、転がり軸受であってよく、例えば、円すいころ軸受または深溝玉軸受であってよい。
【0016】
本実施形態では、4つの軸受25~28のうち、1つの軸受(例えば第1軸受25)だけが、計測装置100(図3)を内蔵する計測装置付き軸受装置である。計測装置100は、第1歯車22と第2歯車23が噛み合うことにより発生する振動を計測する。また、計測装置100は、第1軸受25の回転角度位置(第1軸24aの回転角度位置)も検出する。計測装置100は通信機能を備え、歯車故障判断装置10と無線通信できる。さらに、計測装置100は、発電部149(図8)も備える。歯車故障判断装置10は、第1軸受25の計測装置100から受信した信号に基づいて、第1歯車22の故障を検出する。本実施形態では、歯車故障判断装置10と計測装置100とにより、歯車故障検出システム30が構成される。第1軸受25は、計測装置100を備えるので、軸受装置と称してもよい。
【0017】
図2は歯車故障判断装置10の構成を示すブロック図である。図2に示すように、歯車故障判断装置10は、入力部11、制御部12、記憶部13、表示部14および通信部15を有する。歯車故障判断装置10は、例えば、パーソナルコンピュータであってよい。
入力部11は、ボタン、スイッチ、マウス、タッチパネル等からなり、ユーザは入力部11を介して各種入力等を行う(例えば、第1歯車22の歯の数を入力する)。ユーザは、歯車故障判断装置10を操作する際に、入力部11を使用する。入力部11は、操作部と称することもできる。
【0018】
制御部12は、1つまたは複数のCPU(Central Processing Unit)やMPU(Mircoprosessor Unit)により構成され、歯車故障判断装置10の入力部11、記憶部13、表示部14および通信部15の動作を制御する。制御部12は、計測装置10から受信した信号を処理して、歯車の故障判断を行う(故障判断処理を実行する)。制御部12は、記憶部13に記憶される制御プログラムを実行することにより歯車故障判断装置10を制御したり、歯車の故障判断処理を実行したりする。
【0019】
記憶部13は、HDD(Hard Disk Drive)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、および/またはIC(Integrated Circuit)メモリカード等により構成され、制御部12が実行する制御プログラムや第1歯車22の角度と歯の関係を表すマップ(後述)を生成するためのアルゴリズム等の各種情報を記憶する。マップの生成は、記憶部13に記憶された制御プログラムを制御部12が実行することにより行われる。記憶部13は計測装置100から受信したデータを記憶することができる。
表示部14は、液晶ディスプレイなどからなり、各種データ、数値、文字および画像等の表示を行う。表示部14は、計測装置100から受信したデータを表示部に表示することができる。また、表示部14は、制御部12の制御の下、歯車の故障判断処理の処理結果を表示することができる。
通信部15は、計測装置100との無線通信を行う。
【0020】
図3および図4は、第1軸受25の構成を示す分解斜視図である。図3は、第1軸受25を左側面からみた分解斜視図である。図4は、第1軸受25を右側面から見た分解斜視図である。図3に示すように、第1軸受25は、計測装置100と、軸受部250とを有する。計測装置100は、軸受部250の左側面に取り付けられる。計測装置100は、カバー110と、コイル基板120(図4)と、回転部130と、回路基板群140(図4)と、蓄電池(キャパシタ)150と、リテーナ(図示せず)と、Z相用磁石ユニット160とを備える。リテーナは、薄い環状の部材であり、カバー110とZ相用磁石ユニット160の間に位置する。回路基板群140は、後述するように、複数の基板により構成されている。
【0021】
回転部130は、第1軸24aに取り付けられ、第1軸24aと共に回転する。カバー110が軸受部250に取り付けられると、カバー110は軸受部250の外輪250Aに取り付けられる。よって、カバー110は回転しない。リテーナは軸受部250の内輪250Bに取り付けられる。リテーナにより、Z相用磁石ユニット160は軸受部250の内輪250Bに固定される。よって、Z相用磁石ユニット160は、軸受部250の内輪250B(ひいては第1軸24a)と共に回転する。
【0022】
カバー110は、円環状の平板部材であり、例えば、ケイ素鋼板、炭素鋼(JIS SS400またはS45C)、マルテンサイト系ステンレス(JIS SUS420)またはフェライト系ステンレス(JIS SUS430)などのような磁性を有する材料により形成される。カバー110にはセンサが取り付けられるので、カバー110をセンサケースと称してもよい。
【0023】
カバー110のうち軸受部250と対向する面には、図4に示すように、コイル基板120、回路基板群140および蓄電池150が取り付けられている。回路基板群140は、電源制御基板141と、角度センサ基板142と、制御基板143を含む。電源制御基板141、角度センサ基板142および制御基板143は、例えばカバー110に開けられた雌ねじ穴に、黄銅など非磁性材料のボルトが締結することで、カバー110に固定される。ボルトは、カバー110に取り付けられた状態で、カバー110から突出しない長さを有する。
【0024】
電源制御基板141は、図6に示される、整流回路261、平滑回路262、電源管理IC263およびFET264(Field Effect Transistor)を有する。電源制御基板141の回路261~263およびFET264については、図6を用いて後述する。
【0025】
カバー110には、貫通孔111が形成されており、貫通孔111は、樹脂などの非磁性材料で形成された蓋117で密閉されている。後述するように、制御基板143には、アンテナ147(図5A)が実装される。カバー110は磁性を有するので、アンテナ147からの電磁波をシールドする作用を有する。しかしながら、アンテナ147は蓋117と対向する位置に配置され、これにより、アンテナ147の電磁波は、非磁性の蓋117を介して、外部の歯車故障判断装置10へ到達することができる。
コイル基板120は、例えば接着剤によりカバー110に固定されている。
【0026】
図5Aは、カバー110とコイル基板120と回路基板群140と蓄電池150の構成例を示す平面図である。図5Bは、カバー110とコイル基板120だけを示した図である。図5Bに示すように、コイル基板120は、フレキシブル基板121と、フレキシブル基板121に設けられたコイルパターン123と、フレキシブル基板121に設けられた複数のヨーク125とを有する。なお、ヨーク125の設置は任意である。フレキシブル基板121の平面視による形状は、回転中心軸Axを中心とする正円のリング状である。コイルパターン123は、フレキシブル基板121の厚さ方向に積層された複数の平面コイルを有する。平面コイルとは、絶縁体の所定の面上にパターニングされて設けられた導電体のパターンである。本実施形態においては、導電体のパターンが絶縁体の複数の面上に形成されている。尚、これに限られず、導電体のパターンが絶縁体の1つの面上に形成されていてもよい。コイルパターン123のターン数は平面コイルの積層数に比例する。平面コイルの積層数を変化させることにより、発電量を調整することができる。
【0027】
また、コイルパターン123は、平面視で、回転中心軸Axを中心とする円の円周方向に沿って凹凸が交互に並ぶように設けられている。この凹凸の凹部にヨーク125が1つずつ配置されている。コイルパターン123は、後述するエンコーダマグネットの磁気変化を検出できる位置に角度センサを配置するため、一部円形を欠けさせる形状としてもよい。
【0028】
図5Aに示すように、電源制御基板141、角度センサ基板142、制御基板143および蓄電池150は、平面視で、コイル基板120よりも径方向外側に取り付けられている。電源制御基板141(より詳しくは、後述する電源管理IC263)は、2つのDC-DCコンバータ(降圧用と昇圧用)を備えており、蓄電池(キャパシタ)150から供給された直流電圧を降圧して、当該直流電圧を角度センサ基板142および制御基板143へ供給する。
【0029】
角度センサ基板142には、角度センサ443とZ相検出器(パルス生成部)444が実装されている。後述するように、本実施形態で用いる角度センサ443は、低分解能で低サンプリング周波数の低性能の加速度センサである。Z相検出器444は、例えば、ホールICである。Z相検出器444は、第1軸受25の内輪250Bに対して静止して内輪250Bとともに回転するZ相用磁石162がZ相検出器444の近傍を通過するたびに、1つのパルスを生成する。つまり、Z相検出器444は、第1軸受25の内輪250Bが1回転する毎に(第1軸24aが1回転する毎に)、1つのパルスを生成する。
制御基板143には、制御回路145、アンテナ147、加速度センサ441および温度センサ442が実装されている。なお、加速度センサ441、温度センサ442、角度センサ443、制御回路145およびアンテナ147は、別々のICチップで構成されていてもよいし、それらの一部または全部が1つのICチップで構成されていてもよい。温度センサ442は、加速度および角度を検出した時(あるいは、検出前)の温度を検出するために設けられている。本実施形態で用いる加速度センサ441は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加速度センサである。また、本実施形態で用いる加速度センサ441は、図5Aに示すように、3軸(X/Y/Z軸)のそれぞれで加速度値を測定する(計測加速度値を取得)ように構成されている(すなわち、3軸加速度センサである)。後述するように、本実施形態で用いる加速度センサ441は、低分解能で低サンプリング周波数の低性能の加速度センサである。
【0030】
コイルパターン123の両端は、コイル基板120の外周の所定位置に設けられた延出部116を介して、電源制御基板141に接続される。なお、延出部116の代わりに、リード線によりコイル基板120と電源制御基板141と接続してもよい。あるいは、延出部116の代わりに、FPC(Flexible Printed Circuit)コネクタによりコイル基板120と電源制御基板141と接続してもよい。FPCコネクタを使用した接続では、半田が不要となるので、計測装置100の生産性を高めることができる。
【0031】
図3および図4に戻って、回転部130は、環状の磁気トラック131と、環状の基材133と、環状の取付け治具135とを有する。基材133および取付け治具135は、磁性を持つ金属材料であることが望ましい。磁気トラック131は、基材133の左面に設けられている。基材133は開口部を有する。取付け治具135は、基材133の右面に固定されている。取付け治具135は、基材133の右面から、基材133の開口部を通って、基材133の左面側に突き出ている。基材133の左面はカバー110と対向する面である。なお、磁気トラック131は、基材133に対して着脱可能な構成であってもよい。
【0032】
本実施形態では、磁気トラック131と基材133とを合わせて、エンコーダマグネットと称する。例えば、エンコーダマグネットは、金属製の基材133の一方の面にプラスチックマグネットが形成され、形成されたプラスチックマグネットの表面にN極とS極とが交互に着磁されることにより形成される。取付け治具135は、エンコーダマグネット(回転部130)を第1軸部24aに取り付けるための治具である。
【0033】
磁気トラック131は、N極131NとS極131Sとからなる磁極対311を複数有する。複数の磁極対311は、磁気トラック131の円周方向に並んでいる。N極131NおよびS極131Sは、交互に配置されている。
磁気トラック131における隣り合うN極131NとS極131Sとの中心間の距離は、コイル基板120における隣り合うヨーク125の中心間の距離(図5B参照)と同じである。
【0034】
本実施形態では、回転中心軸Ax(図5B)を中心に、コイル基板120に対して磁気トラック131が相対的に回転すると、隣り合うヨーク125のうち一方のヨーク125がN極と対向するときは、他方のヨーク125はS極と対向する。また、一方のヨーク125がS極と対向するときは、他方のヨーク125はN極と対向する。つまり、コイル基板120の隣り合うヨーク125は、磁気トラック131の同一磁極と対向することはない。これにより、一方のヨーク125を通る磁束密度の変化の位相と、他方のヨーク125を通る磁束密度の変化の位相は、180°ずれた状態となる。
【0035】
このように、コイル基板120に対して磁気トラック131が相対的に回転すると、ヨーク125と対向する磁極が交互に替わる。これにより、ヨーク125を通る磁束密度が周期的に変化する。この磁束密度の周期的な変化に応じて、ヨーク125の周りに位置するコイルパターン123に電圧変化(例えば、正弦波の交流電圧)が生成される。つまり、本実施形態では、第1軸受25の内輪250Bが第1軸24aと共に回転すると、第1軸受25の中で電磁誘導による発電が行われる。この発電は自己発電である。エンコーダマグネット(磁気トラック131)とコイル基板120の組み合わせは、発電部149と称されることがある。発電部149は、第1軸受25の外輪250Aと内輪250Bとの相対的な回転に基づいて発電することになる。発電部149で生成された直流電圧は、蓄電池150に蓄えられる。
【0036】
Z相用磁石ユニット160は、Z相用磁石ホルダ161とZ相用磁石162を有する。Z相用磁石ホルダ161は環状の部材であり、Z相用磁石162がZ相用磁石ホルダ161に形成された孔に埋設されている。Z相用磁石ホルダ161は金属製(例えば、アルミニウム製)である。Z相用磁石ユニット160が第1軸24aと共に1回転すると、Z相用磁石162がZ相検出器444を1回横切る。この時、Z相検出器444は、1つのパルスを生成する。
【0037】
図6は、上記した自己発電のメカニズムを概略的に示した図である。図6において、コイルCは、カバー(金属ケース)110に取り付けられたコイルパターン123に対応し、磁石Mは、第1軸受25の内輪250Bに設けられたエンコーダマグネットに対応する。
図6に示すように、コイルCと磁石Mが相対回転することで電磁誘導が生じて発電が行われる。発電された電流は交流であるため、整流回路261を通して直流に変換する。整流回路261は、例えば、ダイオードブリッジである。整流回路261で変換された電流には脈流が含まれる可能性があるので、本実施形態では、より直流に近い状態するために、整流回路261の出力を平滑回路262に接続している。
【0038】
平滑回路262を通った直流は電源管理IC(蓄電池制御部、充電完了検知部)263に入力され、蓄電池(キャパシタ)150に蓄えられる。電源管理IC263は2つのDC-DCコンバータ(降圧用と昇圧用)を備えており、発電機(図6のコイルCと磁石M)で発電される微小な電力が電源管理IC263の昇圧DC-DCコンバータにより昇圧されて、蓄電池150に蓄電される。蓄電池150への充電、過充電時の放電、および、負荷L(加速度センサ441、角度センサ443、Z相検出器444および制御基板143)への電圧Vccでの電力供給は、電源管理IC263により管理される。
不定電圧の流入による制御基板143の暴走を阻止するために、電源管理IC263と負荷Lの間には、FET264を設けている。また、電源管理IC263は、FET264を制御することにより、負荷Lへの電力の供給と遮断を切り替えることができる。
【0039】
第1軸24aの回転(コイル基板120と磁気トラック131との相対回転)によって得られる電力は極めて小さいため、電源管理IC263として、例えば、微小電力でも蓄電可能であるエナジーハーベストに使用される電源管理ICを採用する(例えば、Texas Instruments社製の超低消費電力ハーベスタ・パワー・マネージメントIC-BQ25570)。
【0040】
蓄電池150は、少なくとも計測装置100の1回分の動作が行える電荷量を蓄電可能である。計測装置100の1回分の動作とは、歯車の歯の角度位置および加速度を所定時間(例えば、25ms)計測して、計測結果を歯車故障判断装置10に送信するまでの動作である。
蓄電池150の充電が完了すると、電源管理IC263は、蓄電池150の充電完了を検知し、FET264に充電完了を知らせる充電完了信号を送る。すると、蓄電池150は負荷Lへの給電を再開する。
蓄電池150のESR(Equivalent Series Resistance)が低いほど瞬間的に取り出せる電流が増加するため、低ESRの蓄電池を採用することが好ましい。低ESRの蓄電池を採用しない場合、蓄電池150を並列に接続できるコンデンサや全固体電池を設けてもよい。この場合は、並列接続をするとよい。
なお、整流回路261、平滑回路262、電源管理IC263およびFET264をまとめて回路群431(図8)と称する場合がある。
【0041】
図7は、電源管理IC263の動作を説明する2つのグラフを示している。図7の上のグラフの縦軸は、蓄電池150の電圧を示しており、横軸は時間を示している。下のグラフの縦軸は、充電完了信号を示している。このグラフの縦軸は信号の強度(HighまたはLow)を示し、横軸は時間を示している。充電完了信号がLow(低)の場合は、蓄電池150の充電が完了していない(充電中)状態である。充電完了信号がHigh(高)の場合は、蓄電池150が電力供給している状態である。充電完了信号がHighからLowに移行した場合、蓄電池150が電力供給を停止(終了)し、充電状態になったことを表している。充電完了信号は電源管理IC263が生成する信号であり、図7の2つのグラフを組み合わせて見ると、電源管理IC263が蓄電池150の電圧に対してどのような管理(制御)を行うかが分かる。
【0042】
図7に示すように、充電完了信号がLowの場合、時間の経過に伴い、蓄電池150の充電量が増加し、時間t1で充電完了信号がHighになる。時間t1における蓄電池150の電圧はV2である。電圧V2は、負荷Lに給電を再開するための閾値である。
時間t1の後(負荷Lへの給電を開始した後)、負荷Lの電力消費が発電量より大きい場合には、電圧はV2から低下していく(実線J1)。電圧が低下してV1に到達すると、電源管理IC263は、負荷Lへの給電を停止する。つまり、V1は給電停止のための閾値である。給電停止の間に、電源管理IC263は蓄電池150を充電する。
V1は、Vccと等しいか、Vccより僅かに大きい値を有する。V1がVccより小さいと、電源管理IC263の昇圧DC-DCコンバータが機能しなくなるからである。
【0043】
時間t1の後、負荷Lの電力消費が発電量に等しい場合、電圧はV2を維持する(二点鎖線J2)。
時間t1の後、負荷Lの電力消費が発電量より小さい場合、電圧はV2から上昇していく(一点鎖線J3)。電力が上昇してV3に到達すると、電源管理IC263は、蓄電池150への充電を停止する。これは、過充電を防ぐためである。
【0044】
本実施形態では、蓄電池150は、計測装置100の1回分の動作に必要な電荷量を蓄電可能である。通常の条件では、蓄電池150の電圧は、図7の実線J1のように変化する。そして、電圧がV2からV1に低下する時間t1から時間t2の間で、計測装置100が1回分の動作を行うことができるようになっている。時間t1から時間t2の間は、蓄電池150が負荷L(角度センサ基板142、制御基板143、およびそれらの上の加速度センサ441、角度センサ443、Z相検出器444、アンテナ147等)に給電できる時間であり、加速度および角度の計測と、計測したデータの転送とが時間t1から時間t2の間に行われる。
【0045】
図8は、計測装置100の構成を示すブロック図である。計測装置100は、上述したように、電源制御基板141と、角度センサ基板142と、制御基板143を備える。角度センサ基板142は、センサ基板170とZ相検出器基板171を備える。
電源制御基板141は、回路群431を備える。回路群431は、図6に示した整流回路261、平滑回路262、電源管理IC263およびFET264を含む。回路群431は蓄電池150と発電部149に接続されている。
【0046】
発電部149は、磁気トラック131(図4)とコイル基板120(図5B)を備える。発電部149は、軸受部250の外輪250Aと内輪250Bとの相対的な回転に基づいて発電し、角度センサ基板142等に電力を供給する。
発電部149は、単相交流電力を発電して回路群431に出力する。回路群431の整流回路261は、発電部149で発電された単相交流電力を全波整流して直流電力へと変換する。整流回路261から出力された直流電力は、平滑回路262により平滑化され安定した電力にされる。当該電力は、その後、電源管理IC263を介して(電源管理IC263の昇圧DC-DCコンバータにより昇圧されて)蓄電池150に蓄電される。蓄電池150に蓄電された直流電力は、計測を行うタイミングで電源管理IC263を介して(電源管理IC263の降圧DC-DCコンバータにより降圧されて)、角度センサ基板142および制御基板143に供給される。
【0047】
センサ基板170には、角度センサ443が実装されている。Z相検出器基板171には、Z相検出器444が実装されている。制御基板143には、加速度センサ441と、温度センサ442と、マイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と称する)451と、外部メモリ452と、無線モジュール(送信部)453が実装されている。マイコン451、外部メモリ452および無線モジュール453は、制御回路145(図5)に含まれる。
【0048】
加速度センサ441、温度センサ442および角度センサ443は、電源制御基板141から供給される直流電力を使用して、それぞれ、加速度、温度および回転角度(位置)を検出する。
例えば、角度センサ443は、磁気トラック131の側方に位置するようにセンサ基板170に実装されている。磁気トラック131を有する回転部130は軸受部250の内輪250Bに固定されており、角度センサ443は、軸受部250の内輪250Bと共に磁気トラック131が回転することによって変化する磁束密度を検出することによって、軸受部250の外輪250Aに対する内輪250Bの回転角度を検出する。角度センサ443は磁気式のロータリーエンコーダである。角度センサ443は、磁気トラック131の回転を読み取る1つの読み取り器を有してもよいが、各々が磁気トラック131の回転を読み取る複数の読み取り器を有してもよい。本実施形態では、角度センサ443は、軸24aの軸線周りに等角間隔に配置された25個の読み取り器を有し、各読み取り器が磁気トラック131の回転を読み取る。したがって、読み取り器は、隣の読み取り器の読み取り値と14.4°離れて類似する読み取り値を出力する。
角度センサ443は、アブソリュート型でもよいが、本実施形態では、インクリメンタル型とZ相検出器444を利用した疑似アブソリュート方式を使用する。
【0049】
マイコン451は、CPU455と、DMA(Direct Memory Access)コントローラ456と、内部メモリ457とを備える。マイコン451は、加速度センサ441および角度センサ443から取得した計測値を内部メモリ457と外部メモリ452に書き込む。DMAコントローラは、図面においてDMACと記載する。
外部メモリ452は、加速度センサ441および角度センサ443から取得した計測値のデータに対して、内部メモリ457の記憶容量が不足する場合に補助的に使用される。したがって、外部メモリ452は、絶対必要というわけではない。以下、内部メモリ457と外部メモリ452を記憶部230と称することがある。
【0050】
また、加速度センサ441が大容量のFIFO(first in, first out)バッファを有し、角度センサ443が大容量のFIFOバッファを有する場合、DMAコントローラ456、内部メモリ457および外部メモリ452を省略してもよい。この場合、加速度センサ441のFIFOバッファに加速度センサ441の計測値のデータを蓄積し、角度センサ443のFIFOバッファに角度センサ443の計測値のデータを蓄積することができ、内部メモリ457、外部メモリ452へのデータ転送のためのクロックおよびDMAコントローラ456が不要であり、消費電力を低減することができる。
【0051】
CPU455は、記憶部230、加速度センサ441、温度センサ442および角度センサ443の初期化や、DMAコントローラ456の初期設定を行う。DMAコントローラ456は、DMAトリガ(加速度センサ441からのINT信号)が入力されると、DMA転送を開始する。具体的には、DMAコントローラ456は、DMAトリガが入力されると、CPU455を介さずに、加速度センサ441および角度センサ443がそれぞれ保持する最新の計測値(後述する離散的な複数の瞬時値)を、無変換データ(生データ)のまま記憶部230(内部メモリ457および必要に応じて外部メモリ452)に転送する。
加速度センサ441および角度センサ443は、それぞれ定められた更新周期で計測値(離散的な複数の瞬時値)を更新し、保持する。加速度センサ441がMEMS加速度センサである場合、更新周期はMEMS加速度センサのODR(Output Data Rate)である。加速度センサ441はデータ出力可能になる度にINT信号(割り込み信号)を生成し、当該INT信号がDMAコントローラ456にトリガとして入力される。更新周期(サンプリング周期)については、図10を用いて後述する。
【0052】
無線モジュール453は、CPU455の制御下で、記憶部230に記憶されたデータを歯車故障判断装置10に送信する。無線モジュール453は、アンテナ147(図5A)を備える。例えば、無線モジュール453は、BLEなどの無線通信によりデータを歯車故障判断装置10に送信する。BLEはBluetooth(登録商標) Low Energyの略である。送信されたデータは、歯車故障判断装置10の通信部15で受信され、歯車故障判断装置10の制御部12により処理される。
BLEを用いる場合、データは、例えば、1パケットずつ送信する。なお、スループットを大きくしたい場合には、More dataやData Length Extensionを利用してもよい。あるいは、BLE5.xで規定されているPHY 2Mbpsを採用することにより、スループットを大きくすることもできる。
第1軸受25と歯車故障判断装置10が無線通信を行う場合、BLE以外の通信規格に準拠した無線通信を行ってもよい。例えば、Zigbee(登録商標)やThreadを採用してもよい。あるいは、BLEとは異なる周波数帯域(例えば、920MHz帯特定小電力無線)を利用してもよい。
【0053】
回路群431内の電源管理IC263は、加速度センサ441による所定時間の加速度の計測および角度センサ443による所定時間の角度の計測が終わるたびに、負荷Lへの電力供給を遮断する。好ましくは、電源管理IC263は、無線モジュール453が加速度センサ441で計測された瞬時値と角度センサ443で計測された瞬時値をBLE無線通信した後に、負荷L(加速度センサ441、角度センサ443、Z相検出器444および制御基板143)への電力供給を遮断する。
また、電源管理IC263は、蓄電池150への充電完了を検知すると(蓄電池150の電圧が閾値V2を超えると)、負荷Lへの電力供給を再開する。
【0054】
図9は計測装置100の動作を説明するためのタイミングチャートである。図9(A)は、電源管理IC263による電力供給の期間を示し、図9(B)は、計測装置100が歯車故障判断装置10に無線ネットワーク(BLE)で接続する期間を示す。図9(C)は、Z相検出器444が出力するパルスを示し、図9(D)は、加速度センサ441が出力した計測加速度値であって、加速度センサ441から記憶部230に記憶される計測加速度値を示す。図9(E)は、角度センサ443が出力した計測角度値であって、角度センサ443から記憶部230に記憶される計測角度値を示す。
電源オンにより、電源管理IC263は、蓄電池150からマイコン451および無線モジュール453のアンテナ147への給電を開始する。すると、計測装置100のCPU455は無線モジュール453を制御し、歯車故障判断装置10の通信部15と無線通信に必要な情報の交換を行い、接続を確立する。すなわち、計測装置100は歯車故障判断装置10とペアリングを行う。「ペアリング時間」は、計測装置100が歯車故障判断装置10との通信(接続)を確立するのに要する時間である。ペアリング時間は、例えば、5秒である。「ペアリング完了」はBLE接続が確立された時点を示している。ペアリング完了後、電源管理IC263は、蓄電池150から加速度センサ441、角度センサ443およびZ相検出器444にも給電を開始する。
【0055】
本実施形態では、Z相検出器444の出力はアクティブロー(Low)であり、Z相検出器444は、Z相用磁石162を検出すると、Low信号を出力するが、図9(C)では、Z相検出器444がZ相用磁石162を検出したときに出力したパルスをHighレベルで示す。
図9において、「センサ準備時間」は、加速度センサ441、角度センサ443およびZ相検出器444への給電開始の後にZ相検出器444、加速度センサ441および角度センサ443が正確に計測可能になるまで待機する時間であり、例えば、50msである。「処理待ち時間」は、CPU455が所定のモニタリング処理を終了するのに必要な時間以上の時間に設定されている。処理待ち時間は、例えば、30秒である。
ペアリング完了後、センサ準備期間と処理待ち時間が終了した後、最初にZ相検出器444がZ相用磁石162を検出すると、CPU455は、加速度センサ441と角度センサ443に計測開始信号を供給する。計測開始信号の供給後、加速度センサ441と角度センサ443が初期化される(加速度センサ・角度センサ初期化時間)。加速度センサ441と角度センサ443の初期化とは、加速度センサ441と角度センサ443に給電がなされて角度センサ443が正しく動作できるようになることを意味する。加速度センサ441と角度センサ443の初期化が終了すると、計測開始遅れ(例えば、約480ms)の後に、加速度センサ441と角度センサ443が計測を開始する。加速度センサ・角度センサ初期化時間は、例えば、100msである。
【0056】
図9(D)に示すように、計測開始遅れの後に、加速度センサ441は、所定の計測時間、3軸(X/Y/Z軸)それぞれについての加速度を計測する。加速度センサ441の計測値は、第1歯車22と第2歯車23の噛み合いにより、第1歯車22ひいては軸受部250で生じた振動を表している。なお、図9(D)では3軸のうちのいずれかの軸についての、加速度センサ441による計測加速度値を示す。所定の計測時間は、例えば、25msであって、軸24aの1回転未満に相当する時間である。所定の計測時間の間、加速度センサ441は、サンプリング周期で計測を繰り返すので、計測結果は離散的な複数の瞬時値である。このように、加速度センサ441は、Z相検出器444がパルスを生成した後、計測開始時点から一定の計測時間、軸受部250の振動に起因する加速度の瞬時値を計測する。
計測開始遅れの間に、CPU455は3つの処理(1)~(3)を行う。
処理(1)で、CPU455は、温度センサ442から測定開始前の温度データを取得する。CPU455は、温度センサ442が計測した温度に基づいて、第1軸受25内部で異常な発熱が生じていないかを判定することができる。CPU455は、温度センサ442が計測した温度が所定値以上である場合、異常発熱を示す信号を歯車故障判断装置10に送信する。当該信号を受信した歯車故障判断装置10は、異常発熱を示すメッセージを表示部14に表示する。また、CPU455は、温度センサ442が計測した温度に基づいて、角度センサ443が計測した角度を補正することができる。角度センサ443は磁気式センサであるので、温度変化による磁気への影響が角度センサ443の計測誤差として現れる場合がある。この角度誤差については、事前に温度毎にどのような影響・誤差が角度センサ443の計測値に現れるかを確認しておき、当該影響・誤差を打ち消す補正を行うための補正テーブルを作成する。そして、CPU455は、補正テーブルに基づいて、角度データの補正を行う。
処理(2)で、CPU455は、DMAコントローラ456のプログラミングを行う。DMAコントローラ456のプログラミングとは、加速度センサ441からのINT信号をトリガにして加速度センサ441および角度センサ443の計測データを取得し、記憶部230に当該計測データを格納するように、プログラミングすることである。
処理(3)で、CPU455は、計測終了(タイマアウト)を判定するためのWake-upタイマを起動する。
【0057】
計測開始遅れは、例えば、約480msである。上記3つの処理の実施後、CPU455はスリープ(Sleep)状態になる。加速度および角度の計測は、CPU455がスリープ状態にある間に、DMAコントローラ456、加速度センサ441、加速度センサ443などの必要最小限の機能ブロックのみを起動して行う。加速度および角度の計測は、Wake-upタイマが満了すると終了する。加速度および角度の計測が終了すると、CPU455のスリープは解除され、CPU455は稼働状態に復帰する。このようにすることで、最低限の機能ブロックだけが動作し、低消費電力による計測システムが実現できる。
【0058】
また、図9(E)に示すように、計測開始遅れの後に、角度センサ443は、所定の計測時間、第1軸24aの角度位置を計測する。所定の計測時間は、例えば、25msであって、軸24aの1回転未満に相当する時間である。所定の計測時間の間、角度センサ443は、サンプリング周期で計測を繰り返すので、計測結果は離散的な複数の瞬時値である。このように、角度センサ443は、Z相検出器444がパルスを生成した後、計測開始時点から一定の計測時間、軸24aの角度の瞬時値を計測する。本実施形態では、角度センサ443の25個の読み取り器は、同時に所定の計測時間、サンプリング周期で軸24aの角度位置を計測する。
角度センサ443の波形は加速度センサ441の波形に比べて、「DMA遅れ」の分だけ、遅れて記憶部230に記憶される。理論的には、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値は、加速度センサ441からのINT信号を共通のタイミングソース(トリガ)としてDMA転送される(サンプリングされる)。しかし、実際には、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値の転送にはナノ秒レベルのずれがあり、当該ずれを「DMA遅れ」と称する。
加速度および角度の計測の終了後、「データ転送時間」において計測装置100から歯車故障判断装置10へデータ(加速度センサで計測された加速度の瞬時値と角度センサで計測された角度の瞬時値の組)が転送される。データ転送時間は、例えば、1秒である。電源オンからデータ転送時間の終わりまでが、計測装置100の1回の動作である。
【0059】
データ転送が終了すると、電源管理IC263が負荷Lへの給電を停止し、蓄電池150に充電を開始する。蓄電池150の充電が完了すると、電源管理IC263はFET264に充電完了を知らせる充電完了信号を送り、負荷L(角度センサ基板142、制御基板143、およびそれらの上の加速度センサ441、角度センサ443、Z相検出器444、アンテナ147等)への給電を再度可能となる。
【0060】
この後、ペアリング時間とセンサ準備期間と処理待ち時間が終了した後、最初にZ相検出器444がZ相用磁石162を検出したパルスを生成すると、CPU455は、加速度センサ441と角度センサ443に計測開始信号を供給する。但し、直前の計測開始信号の供給時点は、Z相検出パルスの生成(Z相検出器444によるZ相用磁石162の検出)の直後であるのに対して、今回の計測開始信号の供給時点は、Z相検出パルスの生成の後、一定時間ずれている。これは、加速度センサ441による所定時間の加速度の計測および角度センサ443による角度の計測のたびに、計測開始時点を変化させるためである。したがって、加速度センサ441と角度センサ443は、所定時間の計測のたびに、異なる機械角(軸24aの周囲の実際の角度)に対応する瞬時値を計測することになる。このようにすることで計測開始時点の重複を防ぐことができる。
CPU455(計測開始時点変化部)は、Z相検出パルスに対する次の計測開始信号の供給時点を決定する。Z相検出パルスに対する計測開始信号の供給時点は、例えば、直前の供給時点より遅れるように決定することができる。
【0061】
計測開始信号の後、加速度センサ441と角度センサ443の初期化が終了すると、計測開始遅れの後に、加速度センサ441と角度センサ443が再び計測を開始する。加速度および角度の計測の終了後、データが計測装置100から歯車故障判断装置10へ転送される。データ転送が終了すると、電源管理IC263が負荷Lへの給電を停止し、蓄電池150に充電を開始する。蓄電池150の充電が完了すると、電源管理IC263はFET264に充電完了を知らせる充電完了信号を送り、負荷Lへの給電を再度可能となる。この後、ペアリング時間とセンサ準備期間と処理待ち時間が終了し、Z相検出パルスが生成された後、CPU455は、加速度センサ441と角度センサ443に計測開始信号を供給する。以降、このような動作が繰り返される。したがって、電源管理IC263は、加速度センサ441による所定時間(軸24aの1回転未満に相当する時間)の加速度の瞬時値の計測と角度センサ443による所定時間(軸24aの1回転未満に相当する時間)の角度の瞬時値の計測が終わるたびに、蓄電池150による加速度センサ441、角度センサ443等への給電を停止し、発電部149で発生した電気を蓄電池150に充電する。
【0062】
図10は、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値の更新周期を示している。本実施形態では、図10に示すように、加速度センサ441の計測値の更新完了タイミングと角度センサ443の計測値の更新完了タイミング(サンプリングタイミング)が同期するように設定されている。つまり、加速度センサ441の更新周期(サンプリング周期)は、角度センサ443の更新周期(サンプリング周期)と等しい。そして、加速度センサ441の計測値と角度センサ443の計測値が、同期した形で(同じ時間基準を共有するか、少なくとも1つの時間基準を共有して)、記憶部230に記憶される。つまり、記憶部230は、加速度センサ441と角度センサ443によって同時に計測された加速度の瞬時値と角度の瞬時値を関連付けて記憶する。本実施形態では、角度センサ443の25個の読み取り器は同時に所定の計測時間、軸24aの角度位置を計測する。したがって、計測装置100の記憶部230および歯車故障判断装置10の記憶部13は、加速度センサ441と25個の読み取り器によって同時に計測された加速度の瞬時値と角度の瞬時値を関連付けて記憶する。このように、本実施形態では、時間に同期した角度・加速度計測が行われる。加速度センサ441と角度センサ443のサンプリング周波数(ODR)は、例えば、歯車の噛み合い周波数に基づいて、予め選択(設定)されている。
【0063】
図11は、計測装置100の動作を説明するためのフローチャートである。この動作は、計測装置100への最初の電源オン(図9(A)の最初の電源オン)で開始する。
S1において、CPU455は、ペアリング時間(例えば、5秒)が経過したか否かを判定する。判定結果がYesの場合、動作はS2に進む。判定結果がNoの場合、S1を繰り返す。
S2において、CPU455は、センサ準備期間(例えば、50ms)が経過したか否かを判定する。判定結果がYesの場合、動作はS3に進む。判定結果がNoの場合、S2を繰り返す。
【0064】
S3において、CPU455は、処理待ち時間(例えば、30秒)が経過したか否かを判定する。判定結果がYesの場合、動作はS4に進む。判定結果がNoの場合、S3を繰り返す。
S4において、CPU455は、Z相検出器444がZ相用磁石162を検知したか否かを判定する。判定結果がYesの場合、動作はS5に進む。判定結果がNoの場合、S4を繰り返す。
S5において、CPU455は、計測開始信号の供給時点であるか否かを判定する。判定結果がYesの場合、動作はS6に進む。判定結果がNoの場合、S5を繰り返す。計測開始信号の供給時点の初期値はゼロであり、したがって第1回の計測の場合、S4の直後、S5の判定結果はYesになって、動作はS6に進む。
【0065】
S6において、CPU455は、加速度センサ441と角度センサ443に計測開始信号を供給する。計測開始信号が供給されると、図9に示すように、加速度センサ441と角度センサ443が初期化され(初期化時間は、例えば、100ms)、計測開始遅れ(約480ms)の後に加速度センサ441と角度センサ443が計測を所定の計測時間(例えば、25ms)行い、加速度センサ441が計測した加速度の瞬時値と角度センサ443が計測した角度の瞬時値を同期した形でDMAコントローラ456が記憶部230に記憶させる。上記の通り、計測開始遅れの間に、CPU455は3つの処理(1)~(3)を行い、スリープ状態になる。
【0066】
次に、S7において、CPU455は計測値の送信時点であるか否かを判定する。判定結果がYesの場合、動作はS8に進む。判定結果がNoの場合、S7を繰り返す。S7の判定結果がYesとは、上記のWake-upタイマの満了によって、CPU455がスリープ状態から稼働状態に復帰することを意味する。
S8において、記憶部230に格納された加速度センサ441が計測した瞬時値と角度センサ443が計測した瞬時値を、CPU455が計測装置100から歯車故障判断装置10にBLE無線通信で送信(転送)する。
このように、S2~S8によって、計測装置100の1回分の計測が行われる。
【0067】
次に、S9において、CPU455は、電源管理IC263に給電停止を指令する。これにより、電源管理IC263は、蓄電池150による加速度センサ441、角度センサ443等への給電を停止し、発電部149で発生した電気を蓄電池150に充電する。
上記の通り、蓄電池150の充電が完了すると、電源管理IC263はFET264に充電完了を知らせる充電完了信号を送り、蓄電池150による加速度センサ441、角度センサ443等への給電を再開する。蓄電池150の充電が完了すると、電源管理IC263はCPU455にも充電完了信号を送る。
S10において、CPU455は、電源管理IC263から充電完了信号を受け取ったか否か判定する。判定結果がYesの場合、動作はS11に進む。判定結果がNoの場合、S8を繰り返す。
S11において、CPU455は、次の計測を実行するか否か判定する。換言すれば、実行した計測回数が所定数に達したか否か判定する。判定結果がYesの場合、S12に進む。判定結果がNoの場合、動作は終了する。
S12において、CPU455は、給電の停止直前の計測開始信号の供給時点(計測開始指令時点)に基づいて、Z相検出パルスに対する次の計測開始信号の供給時点(計測開始指令時点)を決定する。次の計測開始指令時点は、例えば直前の計測開始指令時点に所定の時間を加算または減算して決定することができる。こうして、CPU455は、所定時間の加速度と角度の計測のたびに、計測開始時点を変化させる。
この後、動作はS1に戻る。
【0068】
次に、本実施形態における歯車故障判断の原理について説明する。
図12は、計測装置100で計測された加速度と角度の時間的変化を示す。具体的には、上のグラフは3軸加速度センサ441が出力した1つの軸に関する加速度の変化を示す。他の2軸に関する加速度の変化の図示は省略する。中央のグラフは角度センサ443の1つの読み取り器が出力した角度(電気角)の変化を示し、下のグラフは角度センサ443の他の読み取り器(中央のグラフに関する読み取り器の隣の読み取り器)が出力した角度の変化を示す。他の23個の読み取り器が出力した角度の変化の図示は省略する。
上記の通り、所定の計測時間の間、加速度センサ441は、サンプリング周期で計測を繰り返すので、計測結果は離散的な複数の瞬時値である。また、所定の計測時間の間、角度センサ443の各読み取り器は、サンプリング周期で計測を繰り返すので、計測結果は離散的な複数の瞬時値である。
上記の通り、所定時間(軸24aの1回転未満に相当する時間)の加速度と角度の計測のたびに、計測開始時点が変化するので、第1回の計測と第2回の計測では、Z相検出時点に対して、計測開始ずれがある。以降の複数回の計測でも同様である。
上記の通り、25個の読み取り器は、軸24aの軸線周りに等角間隔に配置されているので、読み取り器は、隣の読み取り器の読み取り値と14.4°離れて類似する読み取り値を出力する。
【0069】
図13は、歯車故障検出システム30のうち歯車故障判断に特に関連する要素を示す。上記の通り、計測装置100において、加速度センサ441が計測した加速度の瞬時値と角度センサ443が計測した角度の瞬時値を同期した形でDMAコントローラ456が記憶部230に記憶させる。記憶部230に格納された加速度センサ441が計測した瞬時値と角度センサ443が計測した瞬時値は、無線モジュール453からBLE無線送信され、歯車故障判断装置10の通信部15で受信される。BLE無線送信は周期的に繰り返されるので、歯車故障判断装置10の通信部15は、加速度の瞬時値と角度の瞬時値を周期的に受信する。
【0070】
歯車故障判断装置10の制御部12は、記憶部13に加速度センサ441が計測した加速度の瞬時値と角度センサ443が計測した角度の瞬時値を蓄積する。一回の蓄積では、所定時間(軸24aの1回転未満に相当する時間)の加速度と角度の瞬時値が記憶部13に格納され、蓄積は、軸24aが複数回、回転する間、周期的に行われる。したがって、記憶部13は、軸24aが複数回、回転する間に加速度センサ441によって計測された加速度の瞬時値と角度センサ443によって計測された角度の瞬時値を記憶する。
制御部(加速度プロファイル生成部)12は、記憶部13に蓄積された加速度の複数の瞬時値を読み出して、軸24aが複数回、回転する間に加速度センサ441に計測された加速度の複数の瞬時値を並べ替えて、並べ替えられた加速度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、軸24aの1回転あたりの加速度の変化を表す加速度プロファイルを生成する。
また、制御部(角度プロファイル生成部)12は、記憶部13に蓄積された角度の複数の瞬時値を読み出して、軸24aが複数回、回転する間に角度センサ443に計測された角度の複数の瞬時値を並べ替えて、並べ替えられた角度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、軸24aの1回転あたりの計測角度値の変化を表す角度プロファイルを生成する。上記の通り、加速度センサ441と角度センサ443のサンプリング周期は同じであり、記憶部230は加速度センサ441と角度センサ443によって同時に計測された加速度の瞬時値と角度の瞬時値を関連付けて記憶するので、生成された角度プロファイルは、加速度プロファイルと同期している。
【0071】
図14は、計測装置100から加速度の離散的な複数の瞬時値と角度の離散的な複数の瞬時値を受信した歯車故障判断装置10の制御部12が生成した加速度プロファイルのグラフと角度プロファイルのグラフを示す。測定対象の歯車22は22個の歯を有し、参考のため歯番号を図14に描写する。
加速度プロファイルのグラフと角度プロファイルのグラフの横軸は、時間であり、機械角(軸24aの周囲の実際の角度)とみなすこともできる。
加速度プロファイルのグラフは、3軸加速度センサ441が計測した1つの軸に関する加速度の変化を示す。制御部12は、3軸加速度センサ441の3軸に関する加速度プロファイルを生成するが、他の2軸に関する加速度プロファイルのグラフの図示は省略する。
図12に示すように、加速度センサ441の計測結果は離散的な複数の瞬時値である。加速度センサ441の計測結果は、周期的にBLE無線送信で、歯車故障判断装置10に受信される。したがって、制御部12は、計測結果の受信時点を基準として、軸24aが複数回、回転する間の加速度センサ441の計測結果を並べ替えて、並べ替えられた加速度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、軸24aの1回転(360°)あたりの加速度プロファイルを生成することができる。
【0072】
図14の角度プロファイルのグラフは、角度センサ443の25個の読み取り器が計測した角度(電気角)の変化を示す。
図12に示すように、角度センサ443の計測結果は離散的な複数の瞬時値である。角度センサ443の計測結果は、周期的にBLE無線送信で、歯車故障判断装置10に受信される。したがって、制御部12は、計測結果の受信時点を基準として、軸24aが複数回、回転する間の角度センサ443の計測結果を並べ替えて、並べ替えられた角度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、軸24aの1回転(360°)あたりの角度プロファイルを生成することができる。
角度センサ443は、軸24aの軸線周りに等角間隔に配置された25個の読み取り器を有するので、25個の読み取り器の計測結果から生成された角度プロファイルは、軸24aの1回転(機械角360°の角度変位)の間に、25個のほぼ直線状の斜めのセグメントを有する。各セグメントは、25個の読み取り器が計測した電気角(絶対角)の瞬時値から構成された0°から360°の電気角の変位を有する。
【0073】
図15は、本発明の実施形態ではなく、高分解能で高サンプリング周波数の高額な加速度センサと角度センサで、軸24aの1回転(360°)の間、連続的に計測された結果から得られた加速度プロファイルのグラフと角度プロファイルのグラフを示す。測定対象の歯車22は22個の歯を有し、参考のため歯番号を図15に描写する。角度センサは、1個の読み取り器を有する。
図14図15の比較から明らかなように、本実施形態に係る低分解能で低サンプリング周波数の低性能の加速度センサと角度センサで繰り返し計測することにより得られた加速度プロファイルと角度プロファイルは、高分解能で高サンプリング周波数の高額な加速度センサと角度センサで計測することにより得られた加速度プロファイルと角度プロファイルに比べて、遜色ない精度を有する。
【0074】
歯車故障判断装置10の制御部(故障判断部)12は、加速度プロファイルと角度プロファイルに基づいて、歯車の故障を判断する。
次に、歯車故障判断装置10の制御部12が実行する故障判断処理について、図16を用いて説明する。本実施形態では、歯車の歯毎に故障を検出するために、Per-tooth法(Per-tooth評価法)と称される手法を用いる。
まず、制御部12は、角度プロファイル(図14)の計測角度(電気角)を機械角φ(t)に換算する。この換算は、限定されないが、電気角の差分を累積した値を360で除算して、余りを求めることで行われる(処理490)。
制御部12は、加速度プロファイルの計測加速度値a(t)と、処理490で得られた機械角φ(t)と、加速度プロファイルと角度プロファイルの時間tを関連付けて、記憶部13に記憶する(処理500)。図では、1つの軸に関する加速度値a(t)のみ示し、他の2軸に関する加速度値の図示は省略されている。
【0075】
歯車故障判断装置10のユーザは、歯車の歯の数を入力部11を用いて入力する(処理510)。必須ではないが、歯の角度オフセット値を入力する場合もある。歯の角度オフセット値とは、特定の既知の歯がどの絶対角度位置に位置しているかを示す(把握する)ための校正値(キャリブレーション値)である。角度オフセット値については、図17図18を用いて後述する。
【0076】
制御部(マップ生成部)12は、角度と歯のマップ(角度と歯のマッピング関数)を作成する(処理520)。
図17および図18は角度と歯のマップの例を示す図である。図17のマップの縦軸は22個の歯を示し、横軸は軸角度位置(相対値)を示す。図17は角度オフセット値を用いずに作成したマップである。角度オフセット値を用いないと、マップ作成時に軸角度=0度の位置にある歯を1番の歯とする。
図18のマップの縦軸は22個の歯を示し、横軸は軸角度位置(絶対値)を示す。つまり、図18は角度オフセット値を用いて作成したマップである。図18のマップを作成する場合、歯車の歯には予め番号(または印)を付けておく(図18の例では歯番号:1番~22番)。マップ作成時に軸角度=0度の位置にある歯は、図18の例では、20番の歯である。つまり1番の歯は44.6度(絶対角度)で噛み合いを開始するので、図18のマップを使用する場合は、ユーザは、処理510において角度オフセット値として44.6度を入力部11に入力することになる。
【0077】
図17および図18に示すように、歯車は1周で360度なので、360度を22で割った線分Sが22個できる。図17および図18は、軸角度位置が決まると、22個の歯のうちの1つの歯が決まるので、マッピング関数を表していると言える。つまり、処理520によりマッピング関数が生成される。制御部12は、図17のマップまたは図18のマップを使用する。図17のマップを使用した場合、歯車のどの歯が破損しているのかが分からないが、歯車に破損した歯が含まれていることは分かる。図18のマップを使用した場合、歯車のどの歯が破損しているのかが分かる。以下の記載においては、図18のマップを使用すると想定する。
【0078】
角度と歯のマップ(マッピング関数)を生成した後、制御部12は、歯毎の平均加速度信号強度を算出する(処理530)。平均加速度信号強度は、以下、加速度信号強度と称する。加速度信号強度の算出において入力として用いる数値および情報は、処理500で記憶部13に記憶された機械角φ(t)と計測加速度値a(t)と、図18のマップである。k番目の歯の加速度信号強度の算出は、Per-tooth法に従い、式(1)を用いて行う。
【数1】
【0079】
ここで、P(tooth=k)はk番目の歯の加速度信号強度(acceleration signal power)であり、s(φ(i))はあるサンプル角度位置φ(i)における計測加速度値である。tooth(φ(i))は、サンプル角度位置φ(i)におけるマッピング関数の値である。サンプル角度位置φ(i)がk番目の歯に対応しない場合、tooth(φ(i))はkに等しくないので、s(φ(i))は0になる。サンプル角度位置φ(i)がk番目の歯に対応する場合、tooth(φ(i))はkに等しいので、s(φ(i))は計測加速度値(a(i))になる。nsamples,kは、条件(*)に合致する計測加速度値のサンプル数(k番目の歯に対応する計測加速度値のサンプル数)を示している。
【0080】
式(1)により、1つの歯に対応するすべての計測加速度値(サンプル値)が平方されて合計され、1つの歯に対応する計測加速度値のサンプル数で除算されて、1つの歯当たりの加速度信号強度を得ることができる。つまり、k番目の歯の加速度信号強度を得ることができる。この計算を歯車の各歯について行うので、22個の歯の加速度信号強度値Pのリストを作成することができる。つまり、処理530により、22個の歯の加速度信号強度を得ることができる。
図16の符号540は、式(1)で使用される値を、歯毎に示している。
【0081】
本実施形態では、上記のように、加速度センサ441は、3軸(X/Y/Z軸)のそれぞれで計測加速度値を取得するように構成されている。X軸、Y軸、Z軸に対して取得される計測加速度値をそれぞれ、x(φ(i))、y(φ(i))、z(φ(i))とする。k番目の歯(tooth(φ(i))=k)の場合に、式(1)におけるs(φ(i))を、これらの計測加速度値の合成(ベクトル合成)として定義する。このとき、s(φ(i))は以下の式(2)のように表される。
【数2】
x(φ(i))、y(φ(i))、z(φ(i))はそれぞれ、フィルタ処理を施した後の各軸についての計測加速度値であってもよい。
【0082】
よって、3軸のそれぞれで取得された計測加速度値x(φ(i))、y(φ(i))、z(φ(i))を用いると、式(2)を考慮した式(1)の加速度信号強度は、以下の式(3)のように表される。
【数3】
制御部(第1算出部)12は、式(3)を用いて、加速度信号強度を算出する。
【0083】
式(3)の計算が終了すると、図16の処理550が行われる。この処理により、相対信号強度係数(relative signal power values)を計算する。この信号強度係数は、歯の損傷を表す指標となる。歯と歯が噛み合うと、歯に損傷が無くても振動が発生する。正常な歯から発生する振動と、異常な歯から発生する振動を容易に区別できるように、本実施形態では、処理550を行う。具体的には、処理550では、まず、制御部(第2算出部)12は、式(4)の計算を行う。すなわち、全ての歯の加速度信号強度の平均値P ̄を計算する。
【数4】
ここで、Zは加速度信号強度のサンプル数、つまり歯車の歯の数を表す。
【0084】
次に、制御部(第3算出部)12は、式(5)を用いて、各歯について相対信号強度係数Prel(k)を計算する。
【数5】
【0085】
相対信号強度係数Prel(k)は次のような特性を表す係数である。
歯kの信号強度が平均加速度信号強度に一致するなら、Prel(k)= 0となる。
歯kの信号強度が平均加速度信号強度の2倍である場合、Prel(k)=1となる。
歯kの信号強度が平均加速度信号強度の3倍である場合、Prel(k)=2となる。
以下、同様にPrel(k)が3、4、・・・となる。
歯kの信号強度が平均加速度信号強度より低い場合、Prel(k)の値は0より小さい値を取り得る(つまり、Prel(k)=0ではなくPrel(k)<0となり得る)。
従って、平均振動基準がゼロになるように正規化すれば、Prel(k)の値は、各歯の正常・異常の評価を簡単に行うための数値として使用できる。当該評価は、作業者の判断に基づく評価でもよいし、自動評価でもよい(例えば、閾値を設定し、Prel(k)の値が閾値以上なら異常という評価をしてもよい)。
このように、本実施形態によれば、相対信号強度係数は、個々の歯の状態を示す損傷指標値として使用され、加速度信号強度の歯毎の評価(Per-tooth評価)が可能になる。
【0086】
次に、上記した実施形態の効果について説明する。
本実施形態においては、軸24aが複数回、回転する間に加速度センサ441に計測された加速度の多数の瞬時値と角度センサ443に計測された角度の多数の瞬時値が蓄積される。歯車の故障箇所は、360°の角度範囲のいずれかの角度位置での加速度の異常として検出される。軸24aの複数回の回転では、歯車の故障箇所に対応する加速度の異常および歯車の故障箇所に対応する角度が繰り返し計測されることになる。本実施形態においては、軸24aの複数回の回転で蓄積された加速度の多数の瞬時値を並べ替え、並べ替えられた加速度の瞬時値を繋ぎ合わせることで、加速度センサ441の性能が低くても、軸24aの1回転あたりの加速度の変化を表す加速度プロファイルを生成することができる。また、軸24aの複数回の回転で蓄積された角度の多数の瞬時値を並べ替え、並べ替えられた角度の瞬時値を繋ぎ合わせることで、角度センサ443の性能が低くても、軸24aの1回転あたりの角度の変化を表す角度プロファイルを生成することができる。このようにして得られた互いに同期している角度プロファイルと加速度プロファイルに基づいて、歯車の故障を精度よく判断することができる。すなわち軸24aの回転中どの角度でどのような振動が起きているのかを適切に把握することができ、異常発生箇所(角度)を適切に特定することができる。また、角度プロファイルと加速度プロファイルは同期しているので、軸24aの回転数が変動しても異常発生個所を特定することができる。
【0087】
計測装置100においては、加速度センサ441による所定時間の加速度の計測のたびに、計測開始時点が変化させられる。したがって、所定時間の計測のたびに、軸24aにおける異なる角度位置での加速度の瞬時値を加速度センサ441が計測する。したがって、軸24aの複数回の回転で蓄積された加速度の多数の瞬時値を並べ替え、並べ替えられた加速度の瞬時値を繋ぎ合わせることで、軸24aの1回転あたりの加速度の変化を表す加速度プロファイルを容易に生成することができる。
また、計測装置100においては、角度センサ443による所定時間の角度の計測のたびに、計測開始時点が変化させられる。したがって、所定時間の計測のたびに、軸24aにおける異なる角度位置での角度の瞬時値を角度センサ443が計測する。したがって、軸24aの複数回の回転で蓄積された角度の多数の瞬時値を並べ替え、並べ替えられた角度の瞬時値を繋ぎ合わせることで、軸24aの1回転あたりの角度の変化を表す角度プロファイルを容易に生成することができる。
【0088】
計測装置100において、加速度センサ441と角度センサ443のサンプリング周期は同じであり、加速度センサ441と角度センサ443によって同時に計測された加速度の瞬時値と角度の瞬時値は関連付けられて記憶部230に記憶される。そして、記憶部230に記憶された計測値の生データ(加速度の離散的な複数の瞬時値と角度の離散的な複数の瞬時値が時間軸上で関連付けられている)は、歯車故障判断装置10に転送され、歯車故障判断装置10の記憶部13に蓄積される。したがって、歯車故障判断装置10では、制御部12が同期した加速度プロファイルと角度プロファイルを容易に生成することができる。
【0089】
本実施形態では、X軸、Y軸、Z軸のそれぞれの加速度を計測する3軸加速度センサ441によって、歯車の故障箇所を精度よく判断することができる。
【0090】
角度センサ443は、軸24aの軸線周りに等角間隔に配置された複数の読み取り器を有するので、個々の読み取り器の分解能が低くても、歯車故障判断装置10は高精度な角度プロファイルを生成することができる。
【0091】
本実施形態の計測装置100(加速度センサ441、角度センサ443、回路基板群140等)は第1軸受25に内蔵されている。また、軸受部250の外輪250Aと内輪250Bとの相対的な回転を利用して発電する発電部149で得られた電気が、加速度センサ441、角度センサ443、Z相検出器444等に給電するエネルギ源となるので、軸受部250またはその周辺に大きなエネルギ源を設ける必要がない。よって、計測装置100の小型化と省電力化を実現することができる。
このように、自己発電機能を有するデータ無線送信型の計測装置100は、自己発電機能により生成された微小な電力を用いて、加速度と角度の計測および計測されたデータを、故障判断装置10へ無線送信することができる。自己発電機能によって、長期にわたって(少なくとも軸24aの複数回の回転の間)、加速度センサ441を加速度の計測に使用することができる。
また、加速度センサ441と角度センサ443による所定期間の計測のたびに蓄電池150による加速度センサ441、角度センサ443、Z相検出器444等への給電が停止されて、発電部149で発生した電気の蓄電池150への充電が行われるので、蓄電池150の蓄電可能な電荷量が小さくてもよい。
さらに、加速度センサ441と角度センサ443による計測の間、CPU455はスリープ状態になるので、蓄電池150の蓄電可能な電荷量が小さくてもよい。
【0092】
計測装置100は、マイコン451に加速度センサ441、温度センサ442、角度センサ443を接続することで構成全体の小型化に貢献している。そのため、カバー(デバイス筐体)110が小型であっても同一筐体内に計測装置100を格納することが可能である。
さらに、各センサから取得した計測値は、無変換データのまま記憶部230に記憶している。そのため、データ記憶時に、例えば16進数表記から10進数表記への変換などのデータ処理が不要であり、高速なデータ格納が可能である。また、データ処理による負荷を軽減させることができるとともに、消費電力を低減させることができる。
【0093】
計測装置100は、DMA転送によりデータ取得およびデータ格納を行うことできるため、CPU455の負荷を軽減することができる。
つまり、本実施形態における計測装置100は、安価なMEMSセンサや低消費電力のマイコンにより構成することが可能である。
計測装置100は、加速度センサ441を振動源の間近に設置できる(振動励起点に物理的に近い位置に設置できる)ので、歯車変速機構20のハウジング21の外表面に振動センサ(例えば、歯車同士が噛合う作用線方向でのセンシングを行う高性能センサ)を設置する場合と比較して、S/N比が高い信号を取得できる。従って、安価なMEMS加速度センサを用いても、信頼できる歯車診断ができる。
【0094】
本実施形態で採用している歯車診断アルゴリズムはPer-tooth法であり、以下のような利点を有する。
異常な歯の特定ができる。低い計算コストで診断できる。従来、歯車診断において行われている正常な歯車の振動データとの比較を行わず、単独の評価結果から異常判定ができる.
低い計算コストで診断できるとは、四則演算で診断ができるということを意味している。つまり、FFT(高速フーリエ変換)のような高い計算コストを必要としない。また、図16の処理は、僅かな数学的計算しか必要としないので、低電力での計算を可能にする。
また、本実施形態によれば、3軸それぞれについて計測された計測加速度値を用いて、Per-tooth法により、歯車判断を行う。3軸のデータを用いことにより、単軸のデータがPeak-Peak値の異常を捉えることができない場合であっても、他の軸のデータが、それを補うことで高い診断感度を実現することが可能となる。
【0095】
また、加速度センサ441をハウジング21の表面に取り付けないので、ハウジング21がどのような形状であっても、システム30を採用することができ、ハウジング21の形状は故障診断の精度に無関係である。
歯車変速機構20のハウジング21に加速度センサを設置すると、歯車の噛合い点から加速度センサまでの間にハウジング21が存在するため、振動経路の影響を受けため、高級な高性能センサが必要となる。本実施形態では加速度センサ441が第1軸受25に内蔵されているので、加速度センサ441は第1歯車22の間近で振動を計測することができる。加速度センサ441は、振動伝達経路の影響を受けないので、高級な高性能センサである必要がない。つまり、安価な加速度センサでよい。安価な加速度センサでも、正確に振動を検出できるので、故障判断も正確に行うことができる。
本実施形態では、安価な加速度センサとして、MEMS加速度センサを採用しているので、センサ位置だけでなくコスト面でも、優れている。
【0096】
また、加速度センサ441は第1軸受25の外輪250Aに設置されている。この場所は、通常、歯車の噛み合い部に最も近い非回転機械要素の1つであり、取得できる振動は歯車の噛合い振動と言ってもよい。振動源の近くで加速度を計測することで,ハウジングなどの振動伝達経路の影響を受けない。
【0097】
次に本実施形態の変形例を説明する。図19は、変形例に係る歯車故障検出システム30のうち歯車故障判断に特に関連する要素を示す。この変形例では、DMAコントローラ456の代わりに、FPGA(Field Programmable Gate Array)456Aが設けられている。
加速度センサ441は、加速度の瞬時値を計測するたびに、加速度の瞬時値をFPGA456Aに送り、FPGA(加速度タイムスタンプ生成部)456Aは、加速度センサ441から加速度の瞬時値を受け取ると、加速度センサ441が加速度の瞬時値を計測した時刻を示す加速度タイムスタンプを生成する。そして、FPGA456Aは、加速度タイムスタンプを加速度の瞬時値に関連付けて、記憶部230に記憶させる。角度センサ443は、角度の瞬時値を計測するたびに、角度の瞬時値をFPGA456Aに送り、FPGA(角度タイムスタンプ生成部)456Aは、角度センサ443から角度の瞬時値を受け取ると、角度センサ443が角度の瞬時値を計測した時刻を示す角度タイムスタンプを生成する。そして、FPGA456Aは、角度タイムスタンプを角度の瞬時値に関連付けて、記憶部230に記憶させる。
【0098】
記憶部230に格納された加速度センサ441が計測した瞬時値と角度センサ443が計測した瞬時値は、加速度タイムスタンプと角度タイムスタンプに関連付けられたまま、無線モジュール453からBLE無線送信され、歯車故障判断装置10の通信部15で受信される。BLE無線送信は周期的に繰り返されるので、歯車故障判断装置10の通信部15は、加速度の瞬時値と角度の瞬時値を周期的に受信する。
歯車故障判断装置10の制御部12は、記憶部13に加速度センサ441が計測した加速度の瞬時値と角度センサ443が計測した角度の瞬時値を加速度タイムスタンプと角度タイムスタンプに関連付けられたまま、蓄積する。つまり、記憶部13は、加速度センサ441によって計測された加速度の瞬時値と加速度タイムスタンプを関連付け、角度センサ443によって計測された角度の瞬時値と角度タイムスタンプを関連付けて記憶する。蓄積は、軸24aが複数回、回転する間、周期的に行われる。
【0099】
この変形例では、加速度センサ441と角度センサ443が同期していなくても、加速度に関するタイムスタンプと角度に関するタイムスタンプに基づいて、同期した加速度プロファイルと角度プロファイルを容易に生成することができる。
つまり、図20に示すように、加速度センサ441と角度センサ443のサンプリング周期は一致しなくてもよい。
【0100】
図20に示すように、加速度センサ441のサンプリング周期よりも角度センサ443のサンプリング周期が長い場合には、加速度センサ441によって加速度の瞬時値が計測された瞬間、角度センサ443によって角度の瞬時値が計測されていないことがある。つまり、計測された加速度の瞬時値の数に対して、計測された角度の瞬時値の数が少ない。そこで、図21に示すように、歯車故障判断装置10の制御部(線形補間計算部)12は、加速度センサ441によって加速度の瞬時値が計測され、角度センサ443によって角度の瞬時値が計測されていない瞬間の角度の瞬時値を、角度センサ443によって計測された角度の2つの瞬時値から補間して計算するのが好ましい。軸24aの角度変化は時間に対してほぼ線形であるから、補間は線形補間であってよい。図21において、点Aは角度センサ443によって計測された角度の2つの瞬時値を示し、点Bは補間で得られた角度の瞬時値を示す。
制御部12は、角度センサ443によって計測された角度の2つの瞬時値に対応する角度タイムスタンプから、線形補間で得られた角度の瞬時値に対応する角度タイムスタンプを生成し、線形補間で得られた角度の瞬時値に当該角度タイムスタンプを関連付けて、記憶部13に記憶する。
【0101】
制御部(加速度プロファイル生成部)12は、記憶部13に蓄積された加速度の複数の瞬時値と加速度タイムスタンプを読み出して、加速度タイムスタンプを利用して、軸24aが複数回、回転する間に加速度センサ441に計測された加速度の複数の瞬時値を並べ替えて、並べ替えられた加速度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、軸24aの1回転あたりの加速度の変化を表す加速度プロファイルを生成する。
また、制御部(角度プロファイル生成部)12は、記憶部13に蓄積された角度の複数の瞬時値と角度タイムスタンプを読み出して、角度タイムスタンプを利用して、軸24aが複数回、回転する間に角度センサ443に計測された角度の複数の瞬時値を並べ替えて、並べ替えられた角度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、軸24aの1回転あたりの計測角度値の変化を表す角度プロファイルを生成する。
加速度センサ441のサンプリング周期よりも角度センサ443のサンプリング周期が長い場合でも、制御部12は、計測された角度の瞬時値と角度タイムスタンプに加えて、線形補間によって得られた角度の瞬時値と角度タイムスタンプを利用するので、生成された角度プロファイルは、加速度プロファイルと同期している。
【0102】
次に、加速度センサ441の性能の好ましい範囲を説明する。
図22は、本実施形態で得られたY軸に関する加速度プロファイルの例を示す図である。この加速度プロファイルは、歯車の歯数が22、軸の回転数が3000rpm、伝達トルクが1000Nmの条件で得られた。歯車には中程度の損傷があった。
図22の加速度プロファイルにおいて、正常振動(歯車の損傷がない状態での振動)は、-2Gから+2Gの加速度の範囲内にある。中程度の歯車損傷による異常振動は、正常振動の加速度の範囲の2倍(-4Gから+4G)から3倍(-6Gから+6G)である。
歯車の振動加速度は、伝達トルクにはあまり影響を受けず、軸の回転数、歯車の噛み合い状態、および歯車の種類によって変化しうる。図22の加速度プロファイルは、振動加速度が低い条件に対応する。それゆえ、加速度センサ441は、少なくとも正常振動の加速度の範囲の2倍である-4Gから+4Gの範囲の加速度を計測可能であれば、歯車の中程度の損傷を判断することができる。但し、加速度センサ441の計測値が長時間飽和すると、加速度センサ441の出力が不安定になる。したがって、加速度センサ441の計測可能な加速度の範囲は、少なくとも正常振動の加速度の範囲の3倍である-6Gから+6Gであると好ましい。
振動加速度が高い条件の場合、正常振動は-5.3Gから+5.3Gの加速度の範囲内にある。中程度の歯車損傷による異常振動は、正常振動の加速度の範囲の2倍(-10.6Gから+10.6G)から3倍(-16Gから+16G)である。それゆえ、加速度センサ441が-10.6Gから+10.6Gの加速度を計測可能であれば、歯車の中程度の損傷を判断することができる。但し、加速度センサ441の計測値が長時間飽和すると、加速度センサ441の出力が不安定になる。したがって、加速度センサ441の計測可能な加速度の範囲は、正常振動の加速度の範囲の3倍である-16Gから+16Gであると好ましい。
したがって、加速度センサ441の計測可能な加速度の範囲は、少なくとも-6Gから+6Gであり、多くとも-16Gから+16Gであると好ましい。
3軸加速度センサについては、3軸とも計測可能な加速度の範囲は、少なくとも-6Gから+6Gであり、多くとも-16Gから+16Gであると好ましい。このような計測可能な加速度の範囲の場合、歯車の噛み合い状態、および歯車の種類によっては、1軸の加速度計測結果だけでは、歯車の故障を識別できない場合もありうるが、3軸加速度センサによれば、歯車の故障を的確に識別することができる。
【0103】
加速度センサ441の分解能は、計測可能な加速度の範囲の10分の1以下であることが好ましい。図22の例では、-6Gから+6Gが計測可能な加速度の範囲であるから、1.2G以下であることが好ましい。-16Gから+16Gが計測可能な加速度の範囲である場合には、3.2G以下であることが好ましい。
図23は、分解能が計測可能な加速度の範囲の5分の1である3軸加速度センサを用いて、Per-tooth法により計算された3軸それぞれの相対信号強度係数Prelを示すグラフである。図23に示すように、分解能が計測可能な加速度の範囲の5分の1であっても、3軸それぞれにおいて14番目の歯に損傷があることが判断された。
計測の精度をさらに向上するためには、加速度センサ441の分解能が計測可能な加速度の範囲の10分の1以下であることが好ましい。この場合には、Per-tooth法を利用することによって、確実に歯車の故障を検出することができる。
加速度センサ441の分解能が高ければ高いほど、歯車の故障を的確に検出することができる。しかし、分解能が高いセンサは高額である。したがって、加速度センサ441の分解能は、計測可能な加速度の範囲の4096分の1(12ビット分の1)以上であることが好ましい。
【0104】
図24は、3軸の加速度プロファイルからFFT(高速フーリエ変換)によって得られた3軸のFFT結果を示すグラフである。図24の中央のY軸のFFT結果は、図22の加速度プロファイルから得られた。これらのFFT結果は、歯車の歯数が22、軸の回転数が3000rpm、伝達トルクが1000Nmの条件で得られた。歯車には中程度の損傷があった。歯車の歯数が22、軸の回転数が3000rpmであったので、噛み合い周波数は1100Hzであった。
図24の3軸のFFT結果とも、正常振動成分と異常振動成分は、噛み合い周波数の整数倍で局所的最大値を有する。特に噛み合い周波数の1倍、3倍では、局所的最大値は高い。但し、軸の回転数および/または伝達トルクによっては、噛み合い周波数の2倍で局所的最大値が高い場合もありうる。
注目すべきなのは、3軸とも、噛み合い周波数の1倍から2倍までの範囲で異常振動成分が正常振動成分を上回っていることである。この特徴は、軸の回転数および/または伝達トルクを変えても同じであった。したがって、加速度センサ441の計測可能な周波数帯域(検知帯域)は、歯車の噛み合い周波数の0.9倍以上、2.1倍以下であることが好ましく、歯車の噛み合い周波数の1倍以上、2倍以下であることがさらに好ましい。
以上のように、性能が低い加速度センサ441を本実施形態では使用することができる。
【0105】
実際に設定する加速度センサ441のサンプリング周波数は、理想的には噛み合い周波数の1倍であることが好ましい。但し、上記の検知帯域にあれば、加速度センサ441のサンプリング周波数は重要ではない。本実施形態および図19図21を参照して上述した変形例では、計測された加速度の瞬時値と角度の瞬時値が同期しており、また加速度と角度の計測のたびに、計測開始時点が変化させられ、軸の多くの角度位置について加速度と角度を計測することができからである。
【0106】
次に、角度センサ443の性能の好ましい範囲を説明する。
角度センサ443の各読み取り器の分解能は、図25に示すように、歯車の角度ピッチの10分の1以下であることが好ましい。また、角度センサ443の各読み取り器の繰り返し精度も歯車の角度ピッチの10分の1以下であることが好ましい。発明者は、分解能の上限と繰り返し精度の上限を調べるシミュレーションを行った。
図26はシミュレーションの基準としたY軸に関する加速度プロファイルを示すグラフである。この加速度プロファイルは、図22の加速度プロファイルと同様に、歯車の歯数が22、軸の回転数が3000rpm、伝達トルクが1000Nmの条件で得られた。歯車には中程度の損傷があった。図22の加速度プロファイルは本実施形態で得られたのに対して、図26の加速度プロファイルは、高分解能で高サンプリング周波数の高額な加速度センサと角度センサで、軸24aの1回転(360°)の間、連続的に計測された結果から得られた。
シミュレーションでは、図26に示す実際に計測された高精度の加速度プロファイルに1.8°の一様分布誤差を機械角に与えた。歯数22個の歯車の角度ピッチが16.36°であるから、1.8°は角度ピッチの9.09分の1である。図27は、このシミュレーションで得られた加速度プロファイルを示すグラフである。図26との比較から明らかなように、シミュレーション結果は基準の加速度プロファイルと類似し、このシミュレーション結果からPer-tooth法によって異常振動を検出することができた。
【0107】
他のシミュレーションでは、図26に示す実際に計測された高精度の加速度プロファイルに2°の一様分布誤差を機械角に与えた。歯数22個の歯車の角度ピッチが16.36°であるから、2°は角度ピッチの8.18分の1である。図28は、このシミュレーションで得られた加速度プロファイルを示すグラフである。図26との比較から明らかなように、シミュレーション結果は基準の加速度プロファイルより劣化し、このシミュレーション結果からPer-tooth法によって異常振動を検出することができなかった。
したがって、角度センサ443の各読み取り器の分解能と繰り返し精度は、歯車の角度ピッチの9.09分の1以下であることが好ましく、計測の精度をさらに向上するためには10分の1以下であることがさらに好ましい。
【0108】
分解能が高ければ高いほど、歯車の故障を的確に検出することができる。しかし、分解能が高いセンサは高額である。したがって、角度センサ443の各読み取り器の分解能は、歯車の角度ピッチの65536分の1(16ビット分の1)以上であることが好ましい。
また、繰り返し精度が高ければ高いほど、歯車の故障を的確に検出することができる。しかし、繰り返し精度が高いセンサは高額である。したがって、角度センサ443の各読み取り器の繰り返し精度は、歯車の角度ピッチの256分の1(8ビット分の1)以上であることが好ましい。
以上のように、性能が低い角度センサ443を本実施形態では使用することができる。
【0109】
図29は、実施形態のさらに他の変形例に係る歯車故障検出システム30のうち歯車故障判断に特に関連する要素を示す。この変形例では、角度センサ443が設けられておらず、Z相検出器444をタコメータとして用い、Z相検出器444が出力するZ相検出パルスに基づいて仮想的な角度プロファイルを生成する。
加速度センサ441は、加速度の瞬時値を計測するたびに、加速度の瞬時値をFPGA456Aに送り、FPGA(加速度タイムスタンプ生成部)456Aは、加速度センサ441から加速度の瞬時値を受け取ると、加速度センサ441が加速度の瞬時値を計測した時刻を示す加速度タイムスタンプを生成する。そして、FPGA456Aは、加速度タイムスタンプを加速度の瞬時値に関連付けて、記憶部230に記憶させる。Z相検出器444は、Z相用磁石162を検出してZ相検出パルスを生成するたびに(軸24aが1回転するたびに)、Z相検出パルスをFPGA456Aに送り、FPGA456Aは、Z相検出パルスを受け取ると、Z相検出器444がZ相検出パルスを生成した時刻を示すZ相タイムスタンプを生成する。そして、FPGA456Aは、Z相タイムスタンプを記憶部230に記憶させる。
【0110】
記憶部230に格納された加速度タイムスタンプに関連付けられた加速度センサ441が計測した瞬時値と、Z相タイムスタンプは、無線モジュール453からBLE無線送信され、歯車故障判断装置10の通信部15で受信される。BLE無線送信は周期的に繰り返されるので、歯車故障判断装置10の通信部15は、加速度の瞬時値とZ相タイムスタンプを周期的に受信する。
歯車故障判断装置10の制御部12は、記憶部13に加速度タイムスタンプに関連付けられた加速度センサ441が計測した瞬時値と、Z相タイムスタンプを蓄積する。つまり、記憶部13は、加速度センサ441によって計測された加速度の瞬時値と加速度タイムスタンプを関連付けて記憶し、さらにZ相タイムスタンプを記憶する。蓄積は、軸24aが複数回、回転する間、周期的に行われる。
【0111】
この変形例では、角度センサで計測された角度の瞬時値がなくても、加速度に関するタイムスタンプとZ相タイムスタンプに基づいて、同期した加速度プロファイルと角度プロファイルを生成することができる。
歯車故障判断装置10の制御部(角度推定部)12は、Z相タイムスタンプの時間間隔(つまりZ相検出パルスの間隔)から軸24aの角度の瞬時値を推定する。具体的には、図30に示すように、制御部12は、Z相タイムスタンプで識別される瞬間を機械角のある周期の終わりの電気角360°、および次の周期の始まりの電気角0°と推定する。点Aは、こうしてZ相タイムスタンプを当てはめた角度の瞬時値を示す。さらに、制御部12は、加速度センサ441によって加速度の瞬時値が計測された瞬間(加速度タイムスタンプで識別される瞬間)の角度の瞬時値を、Z相タイムスタンプで識別される瞬間の角度の2つの瞬時値から補間して計算する。軸24aが等速回転する場合、軸24aの角度変化は時間に対して線形であるから、補間は線形補間であってよい。図30において、点Bは補間で得られた角度の瞬時値を示す。
制御部12は、点Aに対応する角度の瞬時値に対応するZ相タイムスタンプから、推定されたすべての角度の瞬時値に対応する角度タイムスタンプを生成する。点Aに対応する角度の瞬時値に対応する角度タイムスタンプは、Z相タイムスタンプそのものでよい。制御部12は、点Aに対応する角度の2つの瞬時値に対応する角度タイムスタンプから、線形補間で得られた角度の瞬時値に対応する角度タイムスタンプを生成し、角度の瞬時値に角度タイムスタンプを関連付けて、記憶部13に記憶する。
【0112】
制御部(加速度プロファイル生成部)12は、記憶部13に蓄積された加速度の複数の瞬時値と加速度タイムスタンプを読み出して、加速度タイムスタンプを利用して、軸24aが複数回、回転する間に加速度センサ441に計測された加速度の複数の瞬時値を並べ替えて、並べ替えられた加速度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、軸24aの1回転あたりの加速度の変化を表す加速度プロファイルを生成する。
また、制御部(角度プロファイル生成部)12は、記憶部13に蓄積された角度の複数の瞬時値と角度タイムスタンプを読み出して、角度タイムスタンプを利用して、軸24aが複数回、回転する間に角度センサ443に計測された角度の複数の瞬時値を並べ替えて、並べ替えられた角度の瞬時値を繋ぎ合わせることにより、軸24aの1回転あたりの計測角度値の変化を表す角度プロファイルを生成する。
【0113】
軸24aが等速回転する場合、生成された角度プロファイルは、加速度プロファイルと同期している。
上記の加速度センサの性能の好ましい範囲は、この変形例にも当てはまる。
【0114】
他の変形例
以上、本発明の好ましい実施形態を参照しながら本発明を図示して説明したが、当業者にとって特許請求の範囲に記載された発明の範囲から逸脱することなく、形式および詳細の変更が可能であることが理解されるであろう。このような変更、改変および修正は本発明の範囲に包含されるはずである。
【0115】
例えば、歯車故障判断装置10はパーソナルコンピュータであるが、タブレット端末、スマートフォン、ウエラブルウォッチなどでもよい。
上記した実施形態では、計測装置100は計測値を処理せずに歯車故障判断装置10に送信するが、歯車故障判断装置10が行う処理の一部を計測装置100内で実行してもよい。つまり、計測装置100は、歯車故障判断装置10の機能の一部を備えていてもよい。例えば、図16で示した処理をマイコン451で行ってもよい。図16の処理は、計算処理が少ないので、消費電力は小さい。したがって、第1軸受25が自己発電する電力が十分大きければ、マイコン451が図16の処理を行ってもよい。このような構成は、オンベアリングデータ処理(on-bearing data processing)と称することができる。このような構成を採用すると、計測装置100から歯車故障判断装置10へ送信されるデータの量が、かなり少なくなる。なぜなら、1回の計測毎に何千もの角度データおよび加速度データが、(各軸について)歯毎に1つのスカラー値に凝縮されるからである。
計測時間は、記憶部230の容量や消費電力に応じて適宜設定することができる。
【0116】
温度センサ442は設けなくてもよい。
図6において、平滑回路262と電源管理IC263の間に保護回路を設けてもよい。図6では、磁石MとコイルCの相対回転により電磁誘導発電を行っている。このため、コイルCの回転数の上昇に伴い、起電力も比例増加する。第1軸24aに繋がっている機器が何らかの理由により故障し、第1軸24aが想定を超える回転数で回転し、当該回転に比例して磁石MとコイルCの起電力が増加すると、電源管理IC263の入力限界を超える起電力が電源管理IC263に入力され、測定装置100が破損する可能性がある。当該破損を回避するために、つまり、想定を超える起電力が発生しても、測定装置100が破損しないようにするために、平滑回路262と電源管理IC263の間に保護回路を設けてもよい。この保護回路は入力保護回路であり、種々の方式の保護回路を採用することができる。例えば、保護回路としてツェナーダイオードを平滑回路262と電源管理IC263の間に設ける。ツェナーダイオードは、所定の値を超える入力電圧を熱に変換して消費することで、測定装置100を保護する保護回路として機能する。
【符号の説明】
【0117】
10 歯車故障判断装置
12 制御部(加速度プロファイル生成部、角度プロファイル生成部、故障判断部、マップ生成部、第1算出部、第2算出部、第3算出部、角度推定部)
13 記憶部
20 歯車変速機構
24a 第1軸
25 第1軸受
30 歯車故障検出システム
100 計測装置
150 蓄電池(キャパシタ)
142 角度センサ基板
149 発電部
250 軸受部
263 電源管理IC(蓄電池制御部、充電完了検知部)
441 加速度センサ
443 角度センサ
444 Z相検出器(パルス生成部)
455 CPU(計測開始時点変化部)
456A FPGA(加速度タイムスタンプ生成部、角度タイムスタンプ生成部)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30