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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023112463
(43)【公開日】2023-08-14
(54)【発明の名称】医療用シート
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/00 20060101AFI20230804BHJP
   G01B 3/02 20200101ALI20230804BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230804BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20230804BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20230804BHJP
   A61B 90/00 20160101ALI20230804BHJP
【FI】
A61F13/00 301Z
A61F13/00 301C
A61F13/00 305
A61F13/00 Z
G01B3/02
A61L31/14
A61L31/04
A61L31/10
A61B90/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014266
(22)【出願日】2022-02-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】横尾 正浩
【テーマコード(参考)】
2F061
4C081
【Fターム(参考)】
2F061AA16
2F061CC10
2F061GG01
2F061JJ02
2F061VV41
4C081AC16
4C081BA17
4C081BB03
4C081DA02
(57)【要約】
【課題】顕微手術時における組織の正確な寸法把握に寄与でき、術野に配置しやすい医療用シートを提供する。
【解決手段】医療用シート1は、シート状の本体10と、第一方向D1に延びる複数の線を含む第一パターン21と、第一方向と交差する第二方向D2に延びる複数の線を含む第二パターン22と、第一パターンおよび第二パターンに囲まれた格子内部領域23とを有し、第一パターン、第二パターン、および格子内部領域のすくなくとも一つが印刷により本体上に形成されている格子部20とを備える。複数の線のピッチが500μm以下であり、複数の線の幅が150μm以下である。格子部を含む範囲である有効領域Ea1内における透明な部分の面積比率は、40%以上90%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の本体と、
第一方向に延びる複数の線を含む第一パターンと、前記第一方向と交差する第二方向に延びる複数の線を含む第二パターンと、前記第一パターンおよび前記第二パターンに囲まれた格子内部領域とを有し、前記第一パターン、前記第二パターン、および前記格子内部領域の少なくとも一つが印刷により前記本体上に形成されている格子部と、
を備え、
前記複数の線のピッチが500μm以下であり、
前記複数の線の幅が150μm以下であり、
前記格子部を含む範囲である有効領域内における透明な部分の面積比率が40%以上90%以下である、
医療用シート。
【請求項2】
30℃以下で透明かつ30℃より高い温度で有色となる温度応答材料を含む印刷膜が前記有効領域内に配置されており、
30℃以下の状態において前記面積比率が40%以上90%以下である、
請求項1に記載の医療用シート。
【請求項3】
前記複数の線の幅、前記複数の線の配置間隔、前記格子内部領域の寸法、および前記格子内部領域の配置間隔の少なくとも一つを表示する情報部をさらに備える、
請求項1に記載の医療用シート。
【請求項4】
前記格子部のうち印刷により形成された部位を被覆するコーティングをさらに備える、
請求項1に記載の医療用シート。
【請求項5】
前記格子部のうち印刷により形成された部位の可視光線反射率の少なくとも一つのピークが、波長450nm~570nmの範囲内に存在する、
請求項1に記載の医療用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用シート、より詳しくは、術場に配置して各種計測等に使用する医療用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
手術用顕微鏡を用いて血管や神経等の微細な組織を剥離、縫合する顕微手術(マイクロサージャリー)が各種臓器を対象として広く行われている。
【0003】
顕微手術では、直径50μmから100μm程度の針と、直径10μmから20μm程度の糸とが用いられる。針及び糸のいずれも微細であり、極めて精密な作業が要求される。
また、組織の縫合においては、縫合される2つの組織の寸法を合わせることが要求される場合があり、組織の寸法を術場で正確に把握することが重要である。
【0004】
医療用途の計測部材として、特許文献1には、医療用の目盛付粘着テープが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-56983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の目盛付粘着テープは、治療経過を写真で記録することを目的としており、患部に貼り付けて使用される。すなわち、体内の臓器に対して使用することは考慮されていない。
さらに、顕微手術では、処置対象の組織に目盛付粘着テープを貼り付けることはできないため、特許文献1に記載の目盛付粘着テープを適用できない。
【0007】
また、顕微手術時に生体組織を正確に計測するためには、計測シート本体は不透明であることが視認性の観点から望ましいが、一方で術野内に計測シートを配置する際に下の組織が見えにくいため、正確に配置しにくい場合がある。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は、顕微手術時における組織の正確な寸法把握に寄与でき、術野に配置しやすい医療用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シート状の本体と、本体上に形成されている格子部と、本体上に形成された格子部とを備える医療用シートである。
格子部は、第一方向に延びる複数の線を含む第一パターンと、第一方向と交差する第二方向に延びる複数の線を含む第二パターンと、第一パターンおよび第二パターンに囲まれた格子内部領域とを有し、第一パターン、第二パターン、および格子内部領域の少なくとも一つが印刷により形成されている。
複数の線のピッチは500μm以下であり、複数の線の幅は150μm以下である。
医療用シートにおいて、格子部を含む範囲である有効領域内における透明な部分の面積比率は40%以上90%以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の医療用シートは、顕微手術時における組織の正確な寸法把握に寄与でき、術野に配置しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る医療用シートの模式平面図である。
図2】同医療用シートの変形例を示す模式断面図である。
図3】同医療用シートの変形例を示す模式断面図である。
図4】同医療用シートの実施例を示す模式断面図である。
図5】実施例に係る医療用シートの部分拡大図である。
図6】比較例に係る医療用シートの部分拡大図である。
図7】比較例に係る医療用シートの部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図1から図3を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る医療用シート1の平面図である。医療用シート1は、シート状の本体10と、外部から視認可能に本体10に形成された格子部20および情報部30とを備えている。
【0013】
本体10の各層は、生体適合性を有する材料で形成されている。具体例として、シリコーン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエステル、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSU)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニルスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン等の高分子、これらの高分子の共重合体、またチタン合金やステンレス、コバルト合金等の金属とその酸化物、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、合成ゴム等の熱硬化系エラストマーや、ポリスチレン系(TPS)、ポリオレフィン系(TPO)、ウレタン系(TPU)、ポリエステル系(TPEE)等の熱可塑性エラストマーなどの弾性を有する材料を例示できる。また、上記で示された高分子のバインダーに無機の粉体を含有してもよい。無機の粉体は、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタンとできる。無機の粉体の含有量は、重量比で5%から70%とできる。また無機の顔料を含有してもよい。
本体10の形態としては、フィルム状、板状のいずれでもよい。さらに、可撓性を有するフレキシブルなものと、実質的に曲がらない剛性のあるもののいずれでもよく、対象とする臓器や手技等を考慮して適宜選択できる。
【0014】
本体10の厚さに特に制限はないが、15μm以上、2mm以下とできる。高弾性材料の場合は0.1mm~1.0mm程度、低弾性の材料の場合は0.02mm~0.2mm程度とできる。
【0015】
図1において、本体10の平面視形状は、角丸四角形であるが、平面視形状はこれには限られず、三角形、円形等、適宜決定できる。本体10での平面視形状は、角丸の多角形が好ましい。このような形態であれば、組織を傷つけにくく、ピンセットやマニピュレータでつまみやすい。また、多角形は凸包とできる。凸包であれば組織に引っかかりづらい。
【0016】
格子部20および情報部30は、印刷により本体10上に形成されている。
格子部20は、第一方向D1に延びる複数の線からなる第一パターン21と、第一方向と交差する第二方向D2に延びる複数の線からなる第二パターン22とで構成され、第一パターン21と第二パターン22とが格子を形成している。
本実施形態において、本体10は全体が透明であり、格子部20および情報部30は有色である。したがって、第一パターン21と第二パターン22とに囲まれた複数の格子内部領域23は、すべて透明となっている。
【0017】
本発明における「透明」とは、可視光線波長域の平均透過率が50%以上であることを意味する。この程度の透過率があれば、本体10越しにその先にある生体組織を視認でき、概ね正確に組織の種類等を判別できる。
【0018】
本実施形態では、第一パターン21の複数の線は等間隔で配置され、第二パターン22の複数の線も等間隔で配置されて、第一方向D1と第二方向D2とが直交している。さらに、第一パターン21の配置間隔(ピッチ)P1と第二パターン22のピッチP2とが同一であるため、複数の格子内部領域23は正方形となっている。
このような格子部20では、第一パターン21が、第二方向において等間隔で設けられた目盛りとして機能し、第二パターン22が、第一方向において等間隔で設けられた目盛りとして機能する。
格子部20におけるパターンの数やパターンどうしがなす角度は、図1に示す態様に限
られず、形成したい格子の形状等に応じて適宜設定できる。
【0019】
ピッチP1およびP2の値は適宜決定できるが、顕微手術における有用性の観点からは、少なくとも1.0mm以下であることが好ましい。100μm以下の径の針を使用するような術式に使用する等の場合、ピッチP1およびP2は600μm以下であることが好ましい。ロボット等を用いるような、さらに拡大率の高い術式に用いる場合、ピッチP1およびP2を200μm以下にすることもできる。デバイスの進化等に伴い、今後さらに拡大率の高い術式が行われることが十分にありうるが、医療用シート1は、ピッチP1およびP2の値を変更することにより好適に対応できる。
格子部20の各パターンにおける複数の線の幅は同一であり、例えば100μm以下とできる。実質的には印刷の精度等を考慮して、設定値の±5%以内に設定される。このような設定により、術中に格子部20が拡大して観察されても、格子部20を構成する線の幅方向両端部の凹凸が目立たず、略直線状に安定する。
【0020】
情報部30は、格子部20の仕様に関する情報を含む医療用シート1に関する情報を表示する。本実施形態の情報部30は、「P 500」および「L 50」の3つの文字列からなる。「P 500」は、ピッチ(本実施形態においてはP1=P2)が500μmであることを示し、「L 50」は、第一パターン21および第二パターン22の線幅が50μmであることを示している。
【0021】
本実施形態において、情報部30は、図1に示すように一部の格子内部領域のみに設けられているが、情報部の数や配置間隔等は適宜設定できる。医療用シート1は、術野や術場の大きさ等に応じて、一部を小さく切り出して使用される場合があるため、切り出された領域に少なくとも一つの情報部が存在する程度に数や配置間隔を設定するのが好ましい。
なお、情報部30は任意の構成であり、省略されてもよい。
【0022】
格子部20および情報部30の色は、生体組織の補色が好ましい。この補色は青,緑みの青、青緑、青みの緑、緑、黄みの緑、黄緑の青から黄緑までの色とできる。この青から黄緑までの色は、マンセル色標でのB、BG,G,GYにあたる。本体10の色彩を青から黄緑までの色とすることで、生体組織が視認しやすくなる。具体的には、本体10のL*ab色空間におけるL*,a,bの範囲は、それぞれ、25以上80以下、-80以上0以下、-50以上50以下が好ましい。
格子部20および情報部30において、可視光線(波長帯域350nm~800nm程度)のうち、570nmから800nmでのスペクトル反射率が20%以下であることが好ましい。明度が低いと、生体組織とのコントラストが良好となり好ましい。このような明度を有する本体の可視光線のピーク反射率は、概ね10%以下である。
【0023】
格子部20および情報部30を形成するためのインキは、発色用顔料と、バインダーとを有する。
発色用顔料として、有機顔料、無機顔料のいずれも使用できる。
無機顔料としては、チタン、亜鉛、金、銀、銅、鉄等の金属の、酸化物、水酸化物、硫化物、セレン化物、フェロシアン化物、もしくは、それらの金属のクロム酸塩、硫酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、燐酸塩が使用できる。さらに上述の金属の単体もしくはそれらの合金等、炭素、パール顔料であるオキシ塩化ビスマス、雲母チタン、魚鱗箔等を例示できる。その中でも、生体適合性を有する、二酸化チタン(チタニア)、酸化亜鉛、タルク、シリカ、マイカ、アルミナ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、金属石鹸、シリコーンが好ましい。
有機顔料としては、ニトロソ系、ニトロ系、アゾ系、レーキ系、フタロシアニン系、縮合多環材料、その他の炭素化合物を例示できる。
【0024】
バインダーとしては樹脂を使用できる。樹脂は、組成物とでき、組成物は、オリゴマー、ポリマーの混合とできる。樹脂は可溶性のものとできる。樹脂は、硬化性樹脂でもよい。硬化性樹脂は、電離放射線硬化樹脂、熱硬化樹脂とできる。電離放射線硬化樹脂は、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂とできる。樹脂の種類は、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、チオール樹脂またはこれらの混合とできる。アクリル樹脂としては、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、またはこれらの混合を用いることができる。その他の樹脂としては、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、ポリプロピレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネート)、PS(ポリスチレン)、COC(環状オレフィン・コポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、MS(メタクリル酸スチレン共重合体)、AS(アクリロニトリルスチレン共重合体)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PI(ポリイミド)、フェノール樹脂やメラミン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド等を用いることが可能である。
【0025】
また、上記以外にも、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、POM(ポリオキシメチル)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニルサルフィド)等のエンジニアプラスチックや、スーパーエンジニアプラスチックをバインダーとして用いることも可能である。
【0026】
格子部20および情報部30を形成するためのインキには、本体10の表面の特性に応じて、水性インキ、非水性インキを使い分けることが好ましい。本体10の表面が親水性である場合は水性インキを用いることが好ましい。本体10の表面が疎水性である場合は非水性インキを用いることが好ましい。
インキの固形分および粘度の調製には、各種溶媒を使用できる。例えば、水性インキでは水(精製水)やアルコールを使用することができる。非水性インキでは、常温で蒸発しにくい沸点の高い溶剤(脂肪族炭化水素、グリコールエーテル、高級アルコールなど)や、常温で蒸発しやすい沸点の低い溶剤(MEK、エタノール、アセトンなど)を単独または組み合わせて使用できる。他に、ドデカン、テトラデカン、トルエン等も使用できる。
【0027】
インキは、有機微粒子や無機微粒子を含有してもよい。具体例としては、アクリル系粒子、スチレン粒子、スチレンアクリル粒子及びその架橋体や、メラミン‐ホルマリン縮合物の粒子、ポリウレタン系粒子、ポリエステル系粒子、シリコーン系粒子、フッ素系粒子、エポキシ粒子これらの共重合体、スメクタイト、カオリナイト、タルク等の粘土化合物粒子、シリカ、酸化チタン、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化バリウム、酸化ストロンチウム等の無機酸化物粒子、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、塩化バリウム、硫酸バリウム、硝酸バリウム、水酸化バリウム、水酸化アルミニウム、炭酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、ガラス粒子等の無機微粒子等を挙げることができる。
これらの粒子は、単独または適宜組み合わせて使用できる。さらに、塗工や蒸着等によって表面加工を施してから使用されてもよい。
【0028】
格子部20および情報部30を形成するための印刷方法には特に制限はない。印刷方法として、オフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、グラビアオフセット印刷、反転オフセット印刷、スクリーンオフセット印刷、タンポ印刷、インクジェット印刷などを例示できる。
これらのうち、グラビアオフセット印刷やスクリーンオフセット印刷は、幅の小さい線を安定して形成できるため、特に好適である。
【0029】
格子部20および情報部30を形成するインキは、生体適合性を有する材料で形成されていることが好ましい。生体適合性を有する材料で形成されていないインキで格子部20および情報部30を形成した後に、透明性を有する生体適合性のコーティングでインキ部分を覆うことにより、医療用シート1の生体適合性を確保することもできる。この場合、コーティングは、格子部20および情報部30のみを被覆してもよいし、本体10の全面を覆ってもよい。
コーティングの材料としては、本体10および格子部20および情報部30を形成するインキに使用できる生体適合性を有する材料を使用することができる。好ましくは、シリコーン樹脂やフッ素樹脂等を例示できる。
【0030】
本実施形態においては、医療用シートの有効領域における透明な部分の面積比率が40%以上90%以下となっている。「有効領域」とは、置いた組織の寸法を格子部20に基づいて計測可能な領域を指し、具体的には、医療用シートの平面視において、格子部20すべてをカバーする最小の凸包領域を意味する。本実施形態においては、図1に示す範囲Ea1が有効領域である。
【0031】
上記の様に構成された医療用シート1の使用時の動作について説明する。
医療用シート1は、そのまま、あるいは適宜の大きさに切って処置が行われる術場に置かれる。医療用シート1を処置対象の臓器や組織上の適宜の位置に配置して格子部20および情報部30に基づいて、臓器や組織の寸法を把握することができる。使用者は把握した情報に基づいて、組織の選択や寸法調整等を行うことができる。
【0032】
医療用シート1を術場に置く際は、その後に行う手技等を考慮して、その妨げにならない最適な場所に置くことが好ましい。医療用シート1は、有効領域Ea1における透明な部分の面積比率が40%以上90%以下であるため、シート越しにその下にある組織を視認できる。その結果、組織の種類や状態等を含む術野の状況をシート越しに把握して、術野内の最適な位置にシートを配置できる。
【0033】
有効領域内における透明な部分の面積比率は、例えば以下の方法により所望の値に調節できる。
・格子部における線の線幅やピッチを変更する。
図2に示す変形例の医療用シート1Aのように、格子部20Aを透明にして、格子内部領域23Aを不透明にする。医療用シート1Aにおける有効領域は、図2に示すEa2となる。
・格子部を不透明としつつ、格子内部領域の一部を不透明にする。
【0034】
図3に示す変形例の医療用シート1Bでは、印刷が施されず透明な格子内部領域23aと、印刷膜25が形成された格子内部領域23bとの2種類の格子内部領域が存在する。
印刷膜25は、30℃以下では透明であり、30℃より高い温度になると色彩を生じて不透明となる。これにより、医療用シート1Bの有効領域Ea3における透明な部分の面積比率を、30℃以下では40%以上90%以下としつつ、30℃より高い場合に40%未満にすることができる。
その結果、術野に医療用シート1Bを置く際は、術野の状況をシート越しに把握可能な状態を確保し、かつ置いた後には透明な部分の面積比率を減少させてシート上に置いた組織とのコントラストを良好にして正確な計測等を実現できる。
【0035】
医療用シート1Bにおいて、印刷膜25と格子部20とは、一定以上の明度差があると、コントラストが良好になり、好ましい。例えば、可視光線の平均反射率(%)の差が30ポイント程度あるとコントラストが良好となる。または、印刷膜25と格子部20のコントラストは、色濃度差で、0.1以上、2.0以下とでき、より視認性を上げるためには0.5以上、1.5以下が好ましい。
【0036】
印刷膜25は、30℃以下では透明であり、30℃より高い温度になると色彩を生じる温度応答材料を含むインキで形成できる。
温度応答材料としては、ヨウ化水銀やジメチルアンモニウム化合物等の無機化合物、コレステロール誘導体やシアノビフェニル等の液晶、ロイコ染料、スピロオキサジン類、サリチルデンアニリン類、ビアントロン類、ポリジアセチレン等の有機化合物のように各物質の分子間力や転移、脱水反応、立体配位や分子構造の変化に伴い可逆ないし一方向への変色を生じる物質を例示できる。
これら温度応答材料は単独で顔料若しくは染料として用いてもよいし、マイクロカプセルのように表面を別の物質でコーティングしてインキに添加してもよい。
【0037】
温度応答材料を含むインキは、30℃以下における透明状態を保持する範囲で、上述した有機および無機顔料を含有してもよい。
有機顔料および無機顔料は、単独で、あるいは複数種類を組み合わせて使用できる。
【0038】
温度応答材料を含むインキは、30℃以下における透明状態を保持する範囲で、さらに上述した有機微粒子や無機微粒子を含有してもよい。
有機微粒子および無機微粒子は、単独で、あるいは複数種類を組み合わせて使用できる。
【0039】
格子部20や情報部30、さらには印刷膜25の高さ(本体10上に形成される層の厚さ)は、視認のしやすさから1μm以上10μm以下が好ましい。格子部20の断面形状は、半円形、半楕円形、三角形、台形、矩形、台形または矩形の上部が凸状の曲面となった形状などが例示できる。断面形状の角にエッジがあると、格子部20上に表面張力により血液や洗浄液が残留しやすくなるが、断面形状における角部が丸まっていると、格子部20上に血液や洗浄液が滞留しにくくなるので好ましい。さらに、好ましくは、半円形、半楕円形、三角形、台形であると、格子部20上に血液や洗浄液等が滞留しにくくなり、医療用シートからも流れやすくなるため、顕微手術中の格子部20の視認性を保ちやすい。
格子部20の高さは、本体10へインキを印刷する際に、同一箇所に重ねて印刷する等により、容易に調節できる。
【0040】
本発明に係る医療用シートについて、実施例を用いてさらに説明する。本発明は、以下の各実施例の具体的内容によって何ら限定されない。
【0041】
(実施例1)
図4に、実施例1に係る医療用シート1Cを模式的に示す。
本体10として、平面視二等辺三角形の透明シリコーンゴムシートを用いた。二等辺三角形は、底辺10mm、高さ50mmであり、本体10の厚さは0.5mmである。
本体10の可視光線透過率は、光波長400から700nmの範囲における平均透過率として90%である。
【0042】
本体10上に、緑色インキ(バインダー:シリコーン樹脂、顔料:亜鉛系)を使用したグラビアオフセット印刷により、格子部20および情報部30を形成した。実施例1に係る有効領域Ea4は、底辺7mm、高さ45mmの二等辺三角形である。緑色インキには標準的な乾燥速度の溶剤を用い、固形分は20%とした。格子部20および情報部30の設定は以下の通りとした。有効領域Ea4における透明な部分の面積比率は55%である。
・第一パターン
第一方向D1:本体10の底辺と平行
ピッチP1:100μm
線幅:25μm
・第二パターン
第二方向D2:第一方向D1に対して垂直
ピッチP2:100μm
線幅:25μm
・情報部の文字列
P 100
L 25
格子部20により規定される格子内部領域23は、一辺75μmの正方形(ピッチ100μm)であり、上記文字列を全て納めることが困難であるため、図5に示すように、格子部を一部除去して、格子内部領域複数個分の範囲内に形成した。情報部は30、縦5格子ごとおよび横5格子ごとの頻度で配置した。
【0043】
倍率40倍の双眼顕微鏡を用いながら、実施例1の医療用シート1Cを動物の術野に置く操作を行ったところ、医療用シート1Cを通して生体組織を充分視認することができ、所望の位置に正確に配置することができた。
医療用シート1Aにブタの血管を置いて双眼顕微鏡で観察したところ、格子部20および情報部30に基づいて、長さ、直径等の寸法を容易に把握することができた。
【0044】
(実施例2)
実施例2の平面視態様は、概ね図2に示した医療用シート1Aと同様であり、透明な格子部20Aと、不透明な格子内部領域23Aとを有する。
本体10として、正方形のPETフィルムを用いた。正方形の一辺の長さは25mmであり、本体10の厚さは0.2mmである。
本体10の可視光線透過率は、光波長400から700nmの範囲における平均透過率として98%である。
【0045】
本体10上に、メタリックインキ(顔料 銀粒子)を使用したスクリーンオフセット印刷により、格子内部領域23Aを形成した。実施例2に係る有効領域Ea2は、第一方向D1と平行な辺が20mm、第二方向D2と平行な辺が20mmの正方形である。
格子部20Aおよび情報部30の態様は以下の通りであり、有効領域Ea2における透明な部分の面積比率は70%である。
・格子内部領域23A
一辺160μmの正方形とし、第一方向D1および第二方向D2において140μmの間隔を空けて配置した。
・第一パターン
第一方向D1:本体10の底辺と平行
ピッチP1:300μm
線幅:140μm
・第二パターン
第二方向D2:第一方向D1に対して垂直
ピッチP2:300μm
線幅:140μm
・情報部の文字列
P 300
L 140
情報部30は、格子部20A内の1か所に形成した。
【0046】
格子内部領域23Aおよび情報部30の形成後、全面にシリコーン樹脂を塗布、乾燥して格子内部領域23Aおよび情報部30を被覆するコーティングを形成した。
【0047】
倍率40倍の双眼顕微鏡を用いながら、実施例2に係る医療用シートを動物の術野に置く操作を行ったところ、医療用シートを通して生体組織を充分視認することができ、所望の位置に正確に配置することができた。コーティングによる視認性の低下は認められなかった。
医療用シートにブタの神経を置いて双眼顕微鏡で観察したところ、格子部20Aおよび情報部30に基づいて、長さ、直径等の寸法を容易に把握することができた。
【0048】
(実施例3)
実施例3の平面視態様は、概ね図3に示した医療用シート1Bと同様である。
本体10として、長方形の透明シリコーンゴムシートを用いた。長方形は、長辺15mm、短辺10mmであり、本体10の厚さは0.5mmである。
本体10の可視光線透過率は、光波長400から700nmの範囲における平均透過率として90%である。
【0049】
本体10上に、黒色インキ(バインダー:シリコーン樹脂、顔料:カーボン系)を使用したグラビアオフセット印刷により、格子部20および情報部30を形成した。実施例3に係る有効領域Ea3は、第一方向D1と平行な辺が10mm、第二方向D2と平行な辺が5mmの長方形である。格子部20および情報部30の設定は以下の通りである。
・第一パターン
第一方向D1:本体10の長辺と平行
ピッチP1:400μm
線幅:40μm
・第二パターン
第二方向D2:第一方向D1に対して垂直
ピッチP2:400μm
線幅:40μm
・情報部の文字列
P 400
L 40
格子内部領域の大きさは、上記文字列を全て印刷できる大きさであるため、情報部30は、格子内部領域23aの一つに形成した。
【0050】
次に、格子内部領域23bに、スクリーン印刷により温度応答性の緑色インキ(バインダー:シリコーン樹脂、顔料:ロイコ染料由来の緑顔料)からなる印刷膜25を形成した。印刷膜25は、30℃以下では透明であり、30℃より高い温度になると不透明な緑色となる。実施例3に係る医療用シートにおいて、30℃以下での有効領域Ea3における透明な部分の面積比率は80%である。
【0051】
最後に全面にシリコーン樹脂を塗布、乾燥して、有効領域Ea3全体を被覆するコーティングを形成した。
【0052】
倍率40倍の双眼顕微鏡を用いながら、実施例3に係る医療用シートを動物の術野に置く操作を行ったところ、透明な印刷膜25を通して生体組織を充分視認することができ、所望の位置に正確に配置することができた。術野において数分後に、印刷膜25は温度上昇により変色して不透明となった。
医療用シートにブタの血管を置いて双眼顕微鏡で観察したところ、格子部20および情報部30に基づいて長さ、直径等の寸法を容易に把握することができた。印刷膜25の変色により、ブタの血管を置く際には、透明な部分がほとんどなくなっていたため、シートと血管とが良好なコントラストを呈し、生体組織の視認性が極めて良好であった。
【0053】
(比較例1)
図6に、比較例の医療用シート1Dを模式的に示す。比較例1は、実施例1に対して格子部の態様のみを変更している。具体的には以下の通りであり、有効領域Ea4における透明な部分の面積比率は10%である。
・第一パターン
第一方向D1:本体10の長辺と平行
ピッチP1:100μm
線幅:90μm
・第二パターン
第二方向D2:第一方向D1に対して垂直
ピッチP2:100μm
線幅:90μm
・情報部の文字列
P 100
L 90
【0054】
倍率40倍の双眼顕微鏡を用いながら、比較例1の医療用シート1Dを動物の術野に置く操作を行ったところ、医療用シート1Cを通して生体組織を充分視認することができ、所望の位置に正確に配置することができた。
しかし、医療用シート1Dにブタの血管を置いて双眼顕微鏡で観察したところ、線幅が太いため、長さ、直径等の寸法把握が困難であった。
【0055】
(比較例2)
図7に、比較例の医療用シート1Eを模式的に示す。比較例2は、実施例2に対して格子部20Aおよび格子内部領域23Aの態様のみ変更している。具体的には以下の通りであり、有効領域Ea2における透明な部分の面積比率は99%である。
・格子内部領域23A
一辺20μmの正方形とし、第一方向D1と第二方向D2に280μmの間隔を空けて配置した。
・第一パターン
第一方向D1:本体10の底辺と平行
ピッチP1:300μm
線幅:280μm
・第二パターン
第二方向D2:第一方向D1に対して垂直
ピッチP2:300μm
線幅:280μm
・情報部の文字列
P 300
L 280
【0056】
倍率40倍の双眼顕微鏡を用いながら、比較例2の医療用シート1Eを動物の術野に置く操作を行ったところ、医療用シート1Eを通して生体組織を充分視認できず、所望の位置に配置することが困難であった。
医療用シート1Dにブタの血管を置いて双眼顕微鏡で観察したところ、透明部分が多すぎるために、シートに置いた血管とシートに下にある組織との見分けがつきにくく、視認性が著しく低下した。格子内部領域23Aが小さく、配置間隔も長いため、シートに置いた血管の長さ、直径等の寸法把握が困難であった。
【0057】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更が2以上適宜組み合わされてもよい。
【0058】
・上述した各例では、本体の平面視周縁部に格子部のない領域が存在するが、これは必須ではなく、本体上の全面に格子部が設けられてもよい。
・本体の周縁に、鉗子等でつまみやすくするための小片が突出して設けられてもよい。
【0059】
・格子部のうち、印刷により設けられた部位の可視光線反射率は、複数のピークを有してもよい。この場合でも、少なくとも一つのピークが波長450nm~570nmの範囲内に存在すれば、生体組織とのコントラストが良好となり、視認性に優れる。
【0060】
・格子部が透明である態様において、格子部に温度応答性の印刷膜が形成されてもよい。
・印刷膜は、必ずしも不透明になる必要はなく、透明性を有しつつ有色となる態様であってもよい。
【0061】
・線や情報部を形成するインキが生体適合性を有するものであっても、コーティングを設けてもよい。医療用シートの使用中においては、乾燥を防ぐために継続して生理食塩水等がかけられるため、コーティングにより、生理食塩水等による線や情報部へのアタックを抑制することができる。
【0062】
・本体と画線部とを合わせた医療用シートの総厚は、例えば0.02mm以上1.0mm以下とできる。0.02mm以上とすることで、製造時の搬送性が保持され、画線部の寸法精度も担保しやすい。1.0mm以下であることで可撓性を発揮させやすく、マイクロサージャリーにおいて使用しやすい。
【0063】
・格子部は、線幅やピッチが異なる複数の領域を有してもよく、それぞれに対応する情報部が形成されてもよい。
【0064】
・コーティングは、必ずしも有効領域全体を覆わなくてもよく、例えば印刷で形成された部位のみを覆ってもよい。
【符号の説明】
【0065】
1、1A、1B、1C 医療用シート
10、 本体
20、20A 格子部
21 第一パターン
22 第二パターン
23、23A、23a、23b 格子内部領域
25 印刷膜
30 情報部
Ea1、Ea2、Ea3、Ea4 有効領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7