(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023113014
(43)【公開日】2023-08-15
(54)【発明の名称】印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 1/30 20060101AFI20230807BHJP
B42D 25/29 20140101ALI20230807BHJP
【FI】
B41M1/30 Z
B42D25/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015096
(22)【出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】平山 祐二
(72)【発明者】
【氏名】秋山 洋平
【テーマコード(参考)】
2C005
2H113
【Fターム(参考)】
2C005HB09
2C005HB10
2C005JA09
2H113AA06
2H113BA01
2H113BA03
2H113BA05
2H113BB02
2H113BB22
2H113CA39
2H113EA06
2H113EA07
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、印刷物における文字の潰れの発生を抑制することができる技術を提供することである。
【解決手段】本発明の印刷物は、基材上に文字が印刷された印刷物において、基材上に印刷された文字のうち少なくとも1つの文字は、2本の線11,12が鋭角に収束する収束箇所15を有すると共に、収束箇所15において2本の線11,12の内辺11a,12a同士を直線状または円弧状につないだ付加内辺を有する印刷物である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に文字が印刷された印刷物において、
前記基材に印刷された文字のうち少なくとも1つの文字は、2本の線が鋭角に収束する収束箇所を有すると共に、前記収束箇所において前記2本の線の内辺同士を直線状または円弧状につないだ付加内辺を有する
印刷物。
【請求項2】
前記文字は、字高及び字幅が100μm以上1000μm以下である
請求項1に記載の印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、株券、有価証券、通行券、金融カード等の印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券や諸証券といった貴重印刷物には、例えば保証目的や管理目的のために、連続性が保証された文字列である記番号が印刷されている(例えば、特許文献1を参照)。記番号とは、番号及び/又は記号をいう。このような記番号は、一般的には凸版印刷とよばれる印刷方式で印刷される。凸版印刷は、文字の形に対応した凸形状の版面にインキを着肉したのち、基材と版面の間に印圧を加えることで、版面上のインキを基材に転写し、基材上に文字を形成する印刷方式である。
【0003】
また、銀行券や諸証券には、偽造防止技術の一つとして、微小文字が印刷されている(例えば、特許文献2を参照)。微小文字とは、肉眼では視認できないが、ルーペ等で拡大すると視認できる微小な文字をいい、文字には記番号なども含まれる。このような微小文字は、一般的には凹版印刷とよばれる印刷方式で印刷される。凹版印刷は、文字の形に対応した凹形状の版面にインキを着肉したのち、基材と版面の間に印圧を加えることで、版面上のインキを基材に転写し、基材上に文字を形成する印刷方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-268468号公報
【特許文献2】特許第4264830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的なローマ字(アルファベット)や数字のフォントを基材に印刷する場合、本来インキが転写されるべき部位からインキがあふれ、文字の一部が潰れてしまうことがある。その場合、印刷物における文字の形状は、本来予定していた文字の形状とは異なるものになる。特に微小文字が印刷される印刷物では、文字の潰れによって文字形状に違いが生じやすくなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、印刷物における文字の潰れの発生を抑制することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基材に文字が印刷された印刷物において、基材に印刷された文字のうち少なくとも1つの文字は、2本の線が鋭角に収束する収束箇所を有すると共に、収束箇所において2本の線の内辺同士を直線状または円弧状につないだ付加内辺を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、印刷物における文字の潰れの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る印刷物を示す図である。
【
図2】ローマ字「A」の一般的な形状を説明する図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る印刷物に印刷される文字の一例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る印刷物に印刷される文字の他の例を示す図である。
【
図6】収束箇所において2本の線の内辺同士を円弧状につないだ形状を示す図である。
【
図7】収束箇所において2本の線の内辺同士を直線状につないだ文字形状のバリエーションを示す図(その1)である。
【
図8】収束箇所において2本の線の内辺同士を直線状につないだ文字形状のバリエーションを示す図(その2)である。
【
図10】囲み箇所を有する文字の一例として、ローマ字の「P」の改善前の形状を左側に示し、改善後の形状を右側に示す図である。
【
図11】接近箇所を有する文字の例を示す図である。
【
図12】接近箇所を有する文字の一例として、ローマ字の「G」の改善前の形状を左側に示し、改善後の形状を右側に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る印刷物を示す図である。
図1においては、印刷物1の一例として証券を例示している。印刷物1は、特定の価値を有する貴重印刷物である。貴重印刷物には、例えば、銀行券、株券、有価証券、小切手、商品券、入場券、乗車券、通行券、金融カードなど種々の印刷物が含まれる。
【0012】
印刷物1は、被印刷媒体となる用紙等の基材2をベースに構成されている。基材2は正面視長方形に形成されている。基材2には、文字や模様、印影などが印刷されている。基材2に印刷される文字には、例えば、印刷物1を識別するための記番号、証券の券種、証券の発行元などの他に、偽造防止のための微小文字3が含まれている。本実施形態においては、一例として、微小文字3が、複数の文字からなる文字列を表し、この文字列を構成する1つの文字にローマ字の「A」が含まれている。つまり、「A」の文字は微小文字として印刷物1の基材2に印刷されている。基材2において、微小文字3の文字数や印刷位置などは任意に変更可能である。
【0013】
微小文字は、字高及び字幅が100μm以上1000μm以下の文字であり、好ましくは字高及び字幅が100μm以上300μm以下の文字である。字高及び字幅が100μm未満の文字は、印刷した際にルーペ等で拡大しても文字として認識することが困難となり、字高及び字幅が1000μm超の文字は、印刷した際に肉眼でも印刷物上の文字が認識できてしまう可能性がある。字高及び字幅が300μm以下の文字であれば、印刷した際に肉眼によって文字が認識されるおそれがない。
【0014】
ここで、ローマ字「A」の一般的な形状について
図2を用いて詳しく説明する。
図2に示すように、「A」の文字は、3つの線11,12,13によって構成されている。線11は、線11の下端から上端に向かって右上がりに傾斜している。線12は、線12の下端から上端に向かって左上がりに傾斜している。線13は、線11の長さ方向の中間部と線12の長さ方向の中間部とをつなぐように水平に一直線に形成されている。
【0015】
また、線11と線12は、互いに鋭角に収束しており、これら2本の線11,12によって「A」の文字は収束箇所15を有している。この収束箇所15において、線11の内辺11aと線12の内辺12aは、くさび形状に尖った内角部分を形成している。
【0016】
図2に示す「A」の文字を印刷物1の基材2に印刷する場合は、文字の一部である収束箇所15で文字の潰れが発生しやすくなる。以下、具体例を挙げて説明する。
【0017】
(凸版印刷の場合)
凸版印刷に使用される印刷版の版面においては、線11,12,13に対応する部分が凸形状の画線部となり、その周囲が画線部よりも凹んだ非画線部となる。そして、基材2に文字等を印刷する場合は、凸形状の画線部にインキを付着させたのち、基材2と版面の間に印圧を加える。このとき、印刷版の版面では、「A」の文字の収束箇所15の隅にインキが残りやすくなる。このため、印刷を繰り返すうちにインキの残渣が版面の局所(収束箇所15の隅に対応する箇所)に徐々に蓄積され、そこにインキが詰まった状態になる。その結果、本来であれば非画線部であるべき箇所にもインキが着肉し、収束箇所15で文字の潰れが発生しやすくなる。
【0018】
(凹版印刷の場合)
一方、凹版印刷に使用される印刷版の版面においては、線11,12,13に対応する部分が凹形状の画線部となり、その周囲が画線部よりも突き出した非画線部となる。そして、基材2に文字等を印刷する場合は、凹形状の画線部にインキを付着させたのち、基材2と版面の間に印圧を加える。このとき、凹版印刷では、画線部に付着しているインキを確実に基材2に転写させるために、凸版印刷よりも強い印圧を加える。このため、版面の画線部に付着しているインキが強い印圧で押し出され、その一部が収束箇所15の隅に入り込む。その結果、本来であれば非画線部であるべき収束箇所15の隅にインキがあふれ、収束箇所15で文字の潰れが発生しやすくなる。
【0019】
実際に文字の潰れが発生すると、印刷物1における文字の視認性が悪くなるため、その印刷物1は実用に供しない紙、つまり損紙となる。損紙の発生は、印刷コストの上昇につながる。また、印刷版の版面にインキの詰まりが発生した場合は、版面を清掃する必要がある。このため、印刷の作業効率が悪化してしまう。
【0020】
続いて、本発明の実施形態に係る印刷物に印刷される文字の形状について説明する。
図3は、印刷物に印刷される文字の一例を示す図である。
図3に示すように、「A」の文字は、上述したとおり、3つの線11,12,13によって構成されるとともに、2本の線11,12によって形成された収束箇所15を有している。また、
図3に示す「A」の文字は、収束箇所15において2本の線11,12の内辺11a,12a同士を付加内辺14によって直線状につないだ形状になっている。これにより、上記
図2に示す「A」の文字では、3つの線11,12,13によって囲まれた閉空間が三角形になっているが、
図3に示す「A」の文字では、3つの線11,12,13によって囲まれた閉空間が台形になっている。
【0021】
図3に示す「A」の文字を印刷物1の基材2に印刷する場合は、文字の一部である収束箇所15で文字の潰れが発生しにくくなる。その理由は次のとおりである。
まず、
図3に示す「A」の文字においては、収束箇所15の内角部分が付加内辺14によって平らな形状になるとともに、2本の線11,12の間に付加内辺14が介在することで画線間の距離が長くなる。このため、凸版印刷の場合は、収束箇所15の隅にインキが詰まりにくくなり、凹版印刷の場合は、収束箇所15の隅にインキがあふれにくくなる。したがって、凸版印刷及び凹版印刷のいずれにおいても、収束箇所15で文字の潰れが発生しにくくなる。その結果、文字の視認性の悪化にともなう損紙の発生を減らして印刷コストの上昇を抑えることができる。また、印刷版の版面を清掃する回数を減らして印刷の作業効率を向上させることができる。
【0022】
なお、本実施形態においては、印刷物1の基材2に印刷される文字の形状的な特徴事項について、ローマ字の「A」を例に挙げて説明したが、上記の特徴事項は、例えば
図4に示すように数字の「4」にも適用可能である。
図4において、「4」の文字は、3つの線21,22,23によって構成されるとともに、2本の線21,22によって形成された収束箇所25を有している。そして、「4」の文字は、収束箇所25において2本の線21,22の内辺21a,22a同士を付加内辺24によって直線状につないだ形状になっている。これにより、「4」の文字を印刷物1の基材2に印刷する場合にも、上記同様の理由により、収束箇所25で文字の潰れが発生しにくくなる。
【0023】
また、収束箇所を有する文字は、ローマ字の「A」及び数字の「4」の他にも、例えば
図5に示すように、ローマ字の「K」、「M」、「N」、「W」、「X」などがある。
【0024】
また、本実施形態においては、上記
図3に示したように、収束箇所15において2本の線11,12の内辺11a,12a同士を付加内辺14によって直線状につないだ形状にしているが、本発明はこれに限らない。例えば、
図6に示すように、収束箇所15において2本の線11,12の内辺11a,12a同士を付加内辺16によって円弧状につないだ形状にしてもよい。
【0025】
また、「A」の文字の収束箇所15において、2本の線11,12の内辺11a,12a同士を直線状につないだ形状とする場合の文字形状のバリエーションとしては、
図7及び
図8に示すバリエーションが考えられる。
図7においては、線12の内辺12a及び外辺12bを水平線に対して角度θ1だけ傾斜させると共に、線11の内辺11a及び外辺11bを水平線に対して線12とは反対方向に上記角度θ1と同じ角度だけ傾斜させている。この場合、線11と線12は、同じ線幅(太さ)になる。
【0026】
一方、
図8においては、線13よりも上側の部分で、線12の内辺12aを水平線に対して上記角度θ1よりも小さい角度θ2だけ傾斜させると共に、線12の外辺12bを水平線に対して上記角度θ1と同じ角度だけ傾斜させている。同様に、線11の内辺11aを水平線に対して線12とは反対方向に上記角度θ2と同じ角度で傾斜させると共に、線11の外辺11bを水平線に対して線12とは反対方向に上記角度θ1と同じ角度だけ傾斜させている。この場合、線13よりも上側の部分では、線11,12の幅(太さ)がそれぞれ付加内辺14に近づくにつれて徐々に狭くなる。
【0027】
上述した
図3、
図4、
図6~
図8に示す文字の形状的な特徴事項は、微小文字に限らず、記番号を表す文字に適用してもよい。その場合、記番号のサイズとしては、字高が2.5mm以上3.5mm以内の範囲、字幅が1.0mm以上2.5mm以内の範囲にするとよい。ただし、記番号のサイズは上記の範囲に限らず、印刷物1のサイズ等に応じて任意に変更可能である。
【0028】
続いて、本発明の他の実施形態について説明する。
まず、印刷物における文字の詰まりや潰れは、文字を構成する線と線に囲まれた箇所(以下「囲み箇所」という。)、あるいは、文字を構成する線と線の距離が近い箇所(以下「接近箇所」という。)で発生しやすい。
【0029】
図9は、囲み箇所を有する文字の例を示す図である。
図9に示すように、囲み箇所を有する文字には、ローマ字の「B」、「P」、「R」と、数字の「6」、「8」、「9」などがある。
【0030】
図10は、囲み箇所を有する文字の一例として、ローマ字の「P」の改善前の形状を左側に示し、改善後の形状を右側に示す図である。
図10に示すように、「P」の文字は、縦の線51と横U字形の線52とによって構成されている。また、「P」の文字は、線51と線52によって囲まれた囲み箇所53を有している。
【0031】
改善前の「P」の文字を有する印刷物では、版面におけるインキのあふれなどに起因して、囲み箇所53で文字の詰まりや潰れが発生しやすくなる。そこで、改善後の「P」の文字では、改善前よりも囲み箇所53の面積を広くしている。本実施形態においては、「P」の字高及び字幅を変えることなく、横U字形の線52の上下の線幅Wを改善前より狭く(細く)することにより、囲み箇所53の面積を広くしている。
【0032】
このように囲み箇所53の面積を広くすることで、「P」の文字を有する印刷物において、囲み箇所53で文字の詰まりや潰れが発生しにくくなる。
【0033】
図11は、接近箇所を有する文字の例を示す図である。
図11に示すように、接近箇所を有する文字には、ローマ字の「G」、「Q」と、数字の「4」などがある。
【0034】
図12は、接近箇所を有する文字の一例として、ローマ字の「G」の改善前の形状を左側に示し、改善後の形状を右側に示す図である。
図12に示すように、「G」の文字は、C形状の線61と、線61の下側の端部につながる縦の線62と、線62の上端につながる横の線63とによって構成されている。また、「G」の文字は、線61と線63の距離が近い接近箇所64を有している。
【0035】
改善前の「G」の文字を有する印刷物では、版面におけるインキのあふれなどに起因して、接近箇所64で文字の詰まりや潰れが発生しやすくなる。そこで、改善後の「G」の文字では、改善前よりも線61と線63の距離を長くしている。本実施形態においては、「G」の字高及び字幅を変えることなく、線63の長さLを改善前よりも短くすることにより、接近箇所64の画線(61,63)間の距離を長くしている。
【0036】
このように接近箇所64の画線間の距離を長くすることで、「G」の文字を有する印刷物において、接近箇所64で文字の詰まりや潰れが発生しにくくなる。
【0037】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0038】
たとえば、上述した実施形態においては、凸版印刷又は凹版印刷によって得られる印刷物を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、他の印刷方式、例えば平版印刷によって得られる印刷物にも適用可能である。また、印刷物に印刷されている文字の形状的な特徴事項は、微小文字以外の文字にも適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1…印刷物
2…基材
3…微小文字
11,12,21,22…線
11a,12a,21a,22a…内辺
15,25…収束箇所