(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114344
(43)【公開日】2023-08-17
(54)【発明の名称】移植器具
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20230809BHJP
【FI】
A61M37/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016658
(22)【出願日】2022-02-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上原 佳菜
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真一
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267GG16
4C267GG43
4C267HH07
(57)【要約】
【課題】湾曲部位等の穿刺対象物に対し追随させ、垂直に穿刺するための移植器具を提供する。
【解決手段】生体の対象領域に送達物を移植するための移植器具であって、送達物を含み、生体の対象領域に穿刺可能な構造部と、構造部を支持する支持部と、構造部の先端が挿入される穴が設けられた平板状の追随性基盤とを有する針状体デバイスと、構造部物に対応して設けられる棒状の押出部と、押出部を収容する収容部と、押出部を収容部から押し出す膨張部とを有する穿刺器具とを備え、構造部の穿刺方向が追随性基盤の面方向と直交しており、追随性基盤と、支持部と、収容部と、膨張部とが、対象領域の表面形状に追随して変形可能である、移植器具。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の対象領域に送達物を移植するための移植器具であって、
前記送達物を含み、前記生体の前記対象領域に穿刺可能な構造部と、前記構造部を支持する支持部と、前記構造部の先端が挿入される穴が設けられた平板状の追随性基盤とを有する針状体デバイスと、
前記構造部物に対応して設けられる棒状の押出部と、前記押出部を収容する収容部と、前記押出部を前記収容部から押し出す膨張部とを有する穿刺器具とを備え、
前記構造部の穿刺方向が前記追随性基盤の面方向と直交しており、
前記追随性基盤と、前記支持部と、前記収容部と、前記膨張部とが、前記対象領域の表面形状に追随して変形可能である、移植器具。
【請求項2】
前記膨張部は、前記支持部と、前記収容部と、前記膨張部とが、前記対象領域の表面形状に追随した状態で、前記押出部を押し出して、前記構造部を前記対象領域の表面に対して垂直に穿刺させることを特徴とする、請求項1に記載の移植器具。
【請求項3】
前記膨張部は、空気圧によって前記収容部から前記押出部を押し出すことを特徴とする、請求項1または2に記載の移植器具。
【請求項4】
前記溶解性材料が、対象領域との接触後60分以内に溶解することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の移植器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体へ任意の送達物を移植する移植器具に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚から薬剤などの送達物を投与する方法である経皮吸収法は低侵襲で簡便に送達物を投与することが出来る方法として用いられている。
【0003】
経皮吸収法を用いた経皮投与の分野において数mmからμmオーダーのサイズの針が形成された針状体を用いて皮膚に穿刺を行い皮膚内に薬剤などを投与する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
針状体の製造方法としては、機械加工を用いる方法(特許文献2参照)や、エッチングを用いる方法(特許文献3参照)が提案されている。
【0005】
針状体を構成する材料は仮に破損した針状体が体内に残留した場合でも人体に悪影響を及ぼさない材料であることが望ましい。このため、針状体材料として糖類や多糖類等の生体適合材料が提案されている(特許文献4参照)。
【0006】
水溶性高分子等の生体適合性材料を用いた針状体は皮膚に穿刺後に皮膚内部で溶解させることができる。したがって、硬度を調整した水溶性高分子等に皮膚内への送達を目的とした薬剤を含有させ針を作製することにより針を皮膚に穿刺した際に水溶性高分子等の溶解により送達物を皮膚内に送達することができる(特許文献5、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭48-93192号公報
【特許文献2】国際公開第2008/013282号
【特許文献3】国際公開第2008/004597号
【特許文献4】国際公開第2008/020632号
【特許文献5】特許第6255759号公報
【特許文献6】特開2018-135286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
先行技術で示された針状体を用いて、送達物を生体内へ送達しようとする場合、対象物に対して斜めに穿刺すると、針先が屈曲し、穿刺不可能といった問題が見られた。そこで、針状体は、対象物に対して垂直に穿刺されることが望ましく、加えて、平面に限らず、湾曲した部位に関しても対象物に追随し、垂直に穿刺されることが望ましい。
【0009】
したがって、本発明は、対象物の表面に対して針状体を垂直に穿刺できる移植器具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、生体の対象領域に送達物を移植するための移植器具であって、送達物を含み、生体の対象領域に穿刺可能な構造部と、構造部を支持する支持部と、構造部の先端が挿入される穴が設けられた追随性基盤とを有する針状体デバイスと、構造部物に対応して設けられる棒状の押出部と、押出部を収容する収容部と、押出部を収容部から押し出す膨張部とを有する穿刺器具とを備え、構造部の穿刺方向が追随性基盤の面方向と直交しており、追随性基盤と、支持部と、収容部と、膨張部とが、対象領域の表面形状に追随して変形可能であるものである。
【0011】
上記構成によれば、構造部の穿刺方向が追随性基盤の面方向と直交しており、追随性基盤が生体の対象領域の表面形状に追随して変形したのち、構造部を支持する支持部、収容部、膨張部が追随して変形可能である。したがって、追随性基盤の変形により、構造部の穿刺方向が生体の対象領域に対して垂直となる。したがって、湾曲した部位にも追随し、構造部を垂直に穿刺することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、対象物の表面に対して針状体を垂直に穿刺できる移植器具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】針状体デバイスと追随性基盤を備えた移植器具の概要図。
【
図3】針状体デバイスの一実施形態について、針状部に送達物が配置された場合を例示した図。
【
図4】一実施形態において、湾曲した対象物に追随した一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1~
図4を参照して、移植器具の一実施形態を説明する。
【0015】
本移植器具は、生体内へ送達物を移植するために用いられる。移植の対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは臓器等の組織内である。移植器具は、穿刺器具と、針状体デバイスとを備える。
【0016】
図1に示すように、穿刺器具は、棒状体を持つ押出部と、押出部を収容する穴を有する収容部と、押出部と収容部との上部に位置し、押出部のみを相対的に動かし、収容部から押し出す構造を含む膨張部とを備えている。
【0017】
まず、押出部と収容部の詳細な構成を説明する。
図1が示すように、押出部は中実な棒状体を有する。収容部には、押出部が複数収容されている。複数の押出部の配置は特に限定されず、規則的に並んでいても良いし、不規則に並んでいても良い。押出部は、針状体デバイスと同様の配置になっていることがより好ましい。収容部は対象物に対して追随することの可能な形状や柔軟性材料を有していれば、そのほかの形状は特に限定されない。
【0018】
膨張部は前記押出部と収容部の上部に位置する。収容部に追随し、すべての押出部の上部を覆い、すべての押出部を収容部から突出させることが可能であれば、その他の形状は特に限定されない。
【0019】
また、膨張部に接続された機構の動作によって、空気圧による膨張部の加圧が可能である。その加圧により膨張部が膨らむことで押出部が押し出されることを可能とする。
【0020】
図2~
図4を参照して、針状体デバイスの一実施形態を説明する。
【0021】
[針状体デバイス]
本針状体デバイスでは、送達物をデバイスの内部に一定の期間保持したうえで、任意の部位に送達することを可能とするデバイスである。針状体デバイスは、
図3のように少なくとも、支持部と、生体の対象領域に進入する構造部を含む。生体の対象領域が皮内または皮下である場合、構造部は針状部として突き出していて良く突き出している部分の長さは、例えば、200μm以上15mm以下であることが好ましい。また、構造部は刃物の形態であっても良い。このとき、針状部のうち生体に最初に接触する鋭利な形状を持つ部分を先端とし、支持部と接する領域を底面とする。針状体デバイスの支持部は柔軟性材料で構成されることを特徴とする。柔軟性材料の具体的なものとしては、糖類、多糖類、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フィブリン糊やゼラチン糊等のタンパク質、高分子ゲル、シリコーン樹脂等を用いてよい。
【0022】
針状体デバイスは、支持部と構造部が一体の構成であってもよく、また、溶解性材料、保護層、送達物で構造部を構成し、封止層で支持部を構成してもよい。針状体デバイスは構造部の中に送達物を局所的に内包することを特徴とする。送達物を内包する構成として、溶解性材料で構成される針状体デバイスは、
図3のようにあらかじめ空隙を有する構成であってよく、空隙のサイズは送達物の体積と針状部の材料強度のバランスから適宜選択されてよい。空隙が小さければ材料強度としては高くより硬い穿刺対象物や対象部位への送達に適する設計とすることができる。対照的に、空隙が大きければより大容量の送達物を保持することが可能となり送達物の選択肢の幅が広がる。空隙は針状部として先鋭な先端部とは反対に位置する底面から開口する形態であり、これにより生体に対し接触する針状部の表面はすべて同一の材料で構成されている。
【0023】
送達物は、針状部の先端近傍に押し込まれた形態であってよく、また、送達物は針状部の一部に局在する形態であってもよい。局在する場合には球状の集合体として配置されてもよく、または層状の形態として配置されてもよい。送達物が球状の場合、送達物とその周囲に充填される高粘度流体の接触面積を最低限にとどめることができ、送達物の物性変化を低減させることができる。対照的に、送達物が層状に配置される場合には表面積を確保することが可能となるため、高粘度流体との相互作用を効果的に得ることができる。特に送達部がタンパク質や細胞等で水分を必要とする材料である場合、高粘度流体から水分が供給されていてもよく、その際により広い接触面積であることが有利となる。このとき、空隙は送達物と高粘度流体で充填される。高粘度流体による充填領域はその一部に空気層や水滴、油滴を含んでもよく、高粘度流体中にそれらが分散した形態も含む。
【0024】
空隙を充填する材料として、送達物、高粘度流体に加え、針状体デバイスを構成した材料を再度添加する場合も含む。その際に、含有される水分量を調整することで任意の粘度にし、充填材料としてよい。この方式は特に開口部を封止するプロセスにおいても重要であり、送達物が針状部内に密閉された構成をとることが可能となる。
【0025】
針状体デバイスが備える針状部の数は特に限定されず、
図3のように複数の針状部を備えていてもよい。針状体デバイスが複数の針状部を備える場合、複数の針状部の配置は特に限定されず、複数の針状部は規則的に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。また、針状体デバイスが複数の針状部を備える場合、1つの支持部が、すべての針状部を一括して支持することが好ましい。すなわち、複数の針状部が1つの支持部に支持されることで、複数の針状部が一体となった針状体デバイスを構成していることが好ましい。
【0026】
針状体デバイスが、複数の針状部を備える形態であれば、複数の針状部に送達物を一括して収容すること、および、複数の針状部から送達物を一括して放出することが可能である。したがって、搬送の効率をさらに高めることができる。特に細胞等を搬送する際に、針状部間において搬送後の細胞の状態にばらつきが生じることが抑えられる。さらには、各針状部で送達物を収容することで搬送の対象領域までの搬送中に細胞が乾燥することを抑えることが可能である。そのため、針状部間において搬送後の細胞の状態にばらつきが生じることも抑えられる。
【0027】
送達物として細胞単体や細胞群を搬送する場合、複数の針状部の配置に応じて、皮膚の表面に沿った方向における細胞群の配置が決まり、すなわち、細胞群が搬送された部位に応じて細胞間の相互作用が生じることとなる。例えば毛包原基のように、発毛または育毛に寄与する細胞の集合体を送達する場合、単位面積当たりの針状部の密度は、1個/cm2以上400個/cm2以下であることが好ましく、さらには、20個/cm2以上100個/cm2以下であることが好ましい。針状部の密度が上記下限値以上であれば、送達された細胞群に基づき発毛した毛の密度が、頭髪として十分な密度になる。針状部の密度が上記上限値以下であれば、針状部の密度と同等の密度で皮膚の内部に配置された細胞群に対して、栄養分が行きわたりやすく、毛包および毛の形成が好適に進む。
【0028】
針状部は送達物を収容もしくは搬送できる形態であればよく、先鋭な端部を生体に対して穿刺するものである。このときサイズは微細なものから幅広のものまで適宜選択して良く、微細なものでは穿刺の傷跡を小さくすることや、出血や痛みの低減が可能となる。幅広のものでは大きなサイズの送達物を保有させることが可能になるため、送達物による薬剤効果を求める際であれば投与量の制御幅が広がり、細胞や組織の送達や置き換えであればより多彩な条件の細胞やその外部環境、細胞が集合したスフェロイドを送達できることに繋がり、より好適な搬送条件を維持したまま送達することができる。このとき針状部は、有機材料や無機材料、またはそれらを組み合わせた材料を選択してもよい。
【0029】
[送達物]
本実施形態の針状体デバイスは、送達物として薬剤や細胞群を生体へ搬送するために用いられる。搬送の対象領域は、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、粘膜や臓器等の組織である。
【0030】
搬送対象の細胞群は、複数の細胞を含む。細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群を構成する細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニ臓器等である。
【0031】
細胞群は、対象領域に配置されることによって、生体における組織形成に作用する能力を有する。こうした細胞群の一例は、幹細胞性を有する細胞を含んだ細胞凝集体である。送達対象の細胞群は、例えば、皮内または皮下に配置されることにより、発毛または育毛に寄与する。こうした細胞群は、毛包器官として機能する能力、毛包器官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。また、細胞群は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。また、細胞群は、血管系細胞を含んでいてもよい。
【0032】
具体的には、本実施形態における搬送対象の細胞群の一例は、原始的な器官原基である。器官原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。器官原基は、毛包器官に分化する毛包原基や、肝臓の原基、腎臓原基や膵臓原基、神経系の原基細胞や血管系の原基細胞等の細胞群である。また、器官原基はその形成方法に応じて、原基としての形状や性能を補助するための核材料やガイドワイヤー、夾雑物を含む構成であってもよい。
【0033】
例えば、毛包原基は、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0034】
送達物としての細胞群は、発毛または育毛に寄与する細胞群でなくてもよく、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、臓器等の組織に配置されることによって、所望の効果を発揮する細胞群であればよい。例えば、皮膚領域に送達される細胞群は、皮膚における皺の解消や保湿状態の改善等、美容用途での効果を発揮する細胞群であってもよい。
【0035】
また、送達物は水分を含んでいても良い。水分は、細胞の生存を阻害し難い液体であればよく、また、生体に注入された場合に生体に与える影響の小さい液体であることが好ましい。例えば、水分は、生理食塩水、緩衝液、化粧水等の皮膚を保護する液体、あるいは、これらの液体の混合物である。また、水分は送達物の保護液として機能してもよく、栄養成分等の添加成分を含んでいてもよい。また、これらの保護液は、細胞の培養のための培地であってもよいし、培地から交換された液体やゲルおよびゾルであってもよい。送達物と水分とを含む液状体は、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体であり得る。
【0036】
[溶解性材料]
本実施形態の針状体デバイスは、溶解性材料を含む構成である。ここでの溶解性材料は100gの水に対し、大気圧の室温下において800rpmの攪拌速度で、60分以内に2g以上溶解する材料である。また、針状部を構成する材料としては、仮に破損した針状部が体内に残留した場合でも、人体に極力悪影響を及ぼさない材料であることが望まれる。具体的な材料としては生体高分子であり、その中でも糖類、ペプチド、たんぱく質を好適に用いてよい。より具体的には、キチン、オリゴキチン、キトサン、トリメチルキトサン、オリゴキトサン、エチレングリコールキトサン、キトサンサクシナミド、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カードラン、ゼラチン、コラーゲン、コラーゲンペプチド、プルラン、ペクチン、アルギン酸塩、デンプン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリエチレンオキシド(PEO)、グルコマンナン、ポリリンゴ酸、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、ゲンチビオース、ツラノース、マルツロース、パラチノース、ゲンチオビウロース、マンノビオース、メリビオース、メリビウロース、ネオラクトース、ガラクトスクロース、シラビオース、ルチノース、ルチヌロース、ビシアノース、キシロビオース、プリメベロース、トレハロサミン、マルチトール、セロビオン酸、ラクトサミン、ラクトースジアミン、ラクトビオン酸、ラクチトール、ヒアロビウロン酸、および、スクラロース等を用いることができるが、これに限定されるものではない。また、これらの材料を混合しても良い。
【0037】
中でも、針状部形成材料として、キトサン、キトサンサクシナミド、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カードラン、トレハロース、スクロース、ゼラチン、コラーゲン、プルラン、ペクチン、アルギン酸塩の中から選択されることが好ましい。理由としては、生物学的に安全性が高いことによる。なお、これらの材料を混合しても良い。
【0038】
また、これらの材料は、水または水系溶媒に溶解または分散させることにより針状部形成液となる。加えて、針状部形成液にあっては、針状部形成材料である溶解性材料を溶媒である水に溶解させるために溶解促進物質を添加しても良い。例えば、針状部形成材料としてキトサンを用いた場合には、針状部形成液に酸を添加する必要がある。針状部形成液は、凹版に流入できる程度の流動性を有することが好ましい。また、針状部形成液は、予め脱泡処理が行われていることが好ましい。脱泡処理は、針状部形成液を減圧環境下で保管することにより行うことができる。
【0039】
[保護層]
針状体デバイスのは針状部の空隙内面に保護層を設けてもよい。保護層によって、針状部の内面に耐水性を付与することや、溶解性材料と送達物が相互作用し送達物が変化してしまうことを抑制できる。また、保護層に硬度の高い油脂材料や生体親和性の高分子材料を用いることで強度を補強することもでき、穿刺性を向上させることができる。
【0040】
保護層は、溶解性材料と高粘度流体を区分する層として機能する。特に高粘度流体が水分を多く含む材料の場合、溶解性材料と高粘度流体が反応することで溶解性材料により構成された任意の形状が維持されない場合がある。そういった現象に対し、保護層を設けることで材料間での反応を調整することができるようになるため、材料強度の維持や溶解速度の調整が可能となる。つまり、ここでの保護層は水や溶媒に溶けにくい材料からなる層を示す。
【0041】
保護層は、送達物の搬送後に生体内に残留する可能性を含むため、生体適合性が求められる。その具体的な材料として油脂類が挙げられ、ブタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、イコサン酸、ドコサン酸、テトライコサン酸、デセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸、イコセン酸、ドコセン酸、テトラコセン酸、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、ヘプタデカジエン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸、オクタデカテトラエン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸、ヘンイコサペンタエン酸、ドコサジエン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等を用いてよく、必要な設計に応じて適宜材料を選択することが好ましい。また、これらの材料を混合し使用してもよい。
【0042】
溶解性材料と高粘度液体との間でのバリア性能を高く維持したい場合には、常温で固体となる材料がより好ましい。これらの材料を用いて加温条件下でコートした後に冷却することで膜厚の厚い層を形成できるため、溶解性の高い材料や水分の含有量の多い高粘度液体を使用する際に好適である。
【0043】
また、薄膜の保護層を形成したい場合においては常温で液体となる材料を選定することが好ましい。常温で液体となる場合、保護層となる材料の供給量を調整することで層の厚みが変更できる。特に生体においては各材料に対する許容量に個体差が生じるため、必要に応じて保護層を最低限の量に抑えたいなどのニーズが生じる。また、保護層を形成する場合の前処理として、加温環境下で保持することで粘度を調整してもよい。
【0044】
[追随性基盤]
針状体デバイスは更に、平板状の追随性基盤を有する。針状体デバイスが穿刺される前に、追随性基盤が穿刺対象物の表面形状に追随して変形可能である。追随性基盤は柔軟性材料で構成され、針状体デバイスの支持部の面に接触していてもよい。追随性基盤には、針状体デバイスの構造部の先端が挿入される穴が設けられ、穿刺時にその穴を通じて針状体デバイスの構造部が対象領域に穿刺される。
【0045】
追随性基盤の具体的な構成として、厚みは200μm以上15mm以下であるとよい。針状体デバイスの構造部を通す穴は、針状体デバイスと同様の配置を有し、穴の数は特に限定されず、針状体デバイスと同数であることが好ましい。材料は対象物に追随するような柔軟性材料を有しているものが好ましく、具体的な材料としては、糖類、多糖類、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フィブリン糊やゼラチン糊等のタンパク質、高分子ゲル、シリコーン樹脂等を用いてよい。
【0046】
本実施形態に係る移植器具は、生体の対象領域の表面に追随して変形可能な追随性基盤と、支持部と、収容部と、膨張部とを備える。送達部の移植時に追随性基盤を生体の対象領域の表面に密着させると、追随性基盤の穴に挿入された構造部(針状部)を介して、針状体デバイスの支持部を追随して変形させ、更に、針状体デバイスの変形に追随して穿刺器具の収容部及び膨張部を変形させることができる。追随性基盤、支持部、収容部及び膨張部が生体の対象領域の表面形状に追随して変形することにより、構造部(針状部)の穿刺方向(軸方向)と追随性基盤の面との直交状態が維持される。生体の対象領域の表面に追随性基盤を密着させた状態で、膨張部により押出部を介して針状体デバイスの構造部を押圧すると、針状体デバイスの構造部は、対象領域の表面に対し垂直に穿刺される。したがって、本実施形態に係る移植器具を用いれば、生体表面の湾曲した部位においても、表面に対し垂直に構造部(針状部)を穿刺することが可能となる。
【実施例0047】
<垂直穿刺器具の形成>
図1に示したように、押出部、収容部、膨張部、追随性基盤を備えた移植器具を形成した。本実施例としては簡易的に押出部を直径0.5mm、長さ5mmを有するSUS304の中実な円柱棒、収容部を厚さ3mmのシリコーン樹脂板、膨張部をゴム風船、追随性基盤を任意の位置に穴が設けられたシリコーン樹脂板とし、シリンジを取り付けた。
【0048】
<凹版の形成>
精密機械加工によって、真鍮製の針状体デバイスの原版を形成した。突起部の形状は、正四角錐(高さ:1000μm、底面:350μm×350μm)であり、基板上に、1mm間隔で6列6行の格子状に36本の突起部を配列した。次に、樹脂転写法によって、上記原版にポリジメチルシロキサンを流し込み90℃で10分間加熱することで厚さ3mmの凹版を形成した。
【0049】
<針状体デバイスの作製>
次に、水溶性材料としてヒドロキシプロピルセルロースを用意し、これを水に溶解し重量パーセント濃度が5%であるヒドロキシプロピルセルロース水溶液を調整した。上述の凹版にヒドロキシプロピルセルロース水溶液を充填し、90℃に設定したホットプレートを用いて凹版とともに凹版に充填されたヒドロキシプロピルセルロース水溶液を加熱して、充填物を乾燥固化させた。固化した成形物を凹版から剥離し、針状部の内部にくぼみを有する成型物を得た。次に送達物として、直径約200μmのジビニルベンゼン樹脂粒子(積水化学製ミクロパール)をくぼみ内に配置した。この時静電的な相互作用により、粒子は針状部の根本の付近に位置し、針状部の先端にはきわめて配置されにくい状況が確認された。テープ材(3M製)で裏面全体を封止し、流体の移動が生じないようにした。こののち、成形物を円形に打抜いて、ヒドロキシプロピルセルロースからなる針状体デバイスを得た。このとき、送達物である粒子は針部の中央付近に位置していることが光学顕微鏡を用いた透過観察で確認することができた。
【0050】
<搬送試験>
針状体デバイスを、ヌードマウス摘出皮膚上に移植器具を用いて穿刺し、25℃の下で30分間保持した。
【0051】
その後、ヌードマウス摘出皮膚を光学顕微鏡で観察した。その結果、ヌードマウス摘出皮膚で針状体デバイスがすべて融解していることが確認でき、ヌードマウス皮膚内に送達物が放出されたことが示唆された。
【0052】
以上により、送達物の対象領域への搬送が完了する。本発明に係る移植器具を用いれば、多様な対象物に薬剤の搬送や細胞等の円滑な移植が可能である。