(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023114523
(43)【公開日】2023-08-18
(54)【発明の名称】流動化処理土の配合設計方法
(51)【国際特許分類】
E02F 7/00 20060101AFI20230810BHJP
【FI】
E02F7/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022016858
(22)【出願日】2022-02-07
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503044237
【氏名又は名称】株式会社フローリック
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】守屋 健一
(72)【発明者】
【氏名】小池 晶子
(57)【要約】
【課題】固化材としてセメントと鉄鋼スラグを使用した流動化処理土において、鉄鋼スラグの最適な配合割合において、これに対応する最適な固化材の量を得ることができるようにする。
【解決手段】固化材として使用するセメントの少なくとも一部を鉄鋼スラグに置換した流動化処理土の配合設計方法であって、前記鉄鋼スラグの置換率が70%を標準置換率として、一軸圧縮強さの目標値に対する固化材の量を決定する。また、前記鉄鋼スラグの置換率を60~75%として配合設計を行ってもよい。かかる配合設計方法は、前記固化材の量が65kg/m
3 を超える範囲において適用するのが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固化材として使用するセメントの一部を鉄鋼スラグに置換した流動化処理土の配合設計方法であって、
前記鉄鋼スラグの置換率が70%を標準置換率として、一軸圧縮強さの目標値に対する固化材の量を決定することを特徴とする流動化処理土の配合設計方法。
【請求項2】
前記鉄鋼スラグの置換率が60~75%である請求項1記載の流動化処理土の配合設計方法。
【請求項3】
上記配合設計方法は、前記固化材の量が65kg/m3 を超える範囲において適用する請求項1、2いずれかに記載の流動化処理土の配合設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固化材として使用するセメントの一部を鉄鋼スラグに置き換えた流動化処理土の配合設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建設副産物の発生量の抑制やリサイクルの推進を図るため、建設発生土をインバート材や埋戻し材として有効利用する流動化処理土工法を採用するケースが多くなっている。
【0003】
かかる流動化処理土工法は、粘性土を主体とする泥土を解泥した後、解泥した泥水に固化材を添加し混練して流動化処理土を製造し、この流動化処理土を所定の埋戻し場所に打設し埋戻しを行う工法である。前記固化材としては、通常、セメント、セメント系固化材、石灰等が主に使用され、必要に応じて添加剤等が加えられる。
【0004】
前記流動化処理土工法においては、従来より、製造効率の向上や流動化処理土としての品質を確保するために種々の方法が提案されている。例えば、下記特許文献1においては、固化材の添加量を、所要の一軸圧縮強度に応じて、被処理土と泥水との混合物1m3当たり50~200kg、好ましくは約100kgとすることが記載されている。また、下記特許文献2においては、固化材が、セメントと潜在水硬性を有する物質(高炉スラグ)とを含み、セメント100質量部に対して潜在水硬性を有する物質40~400質量部であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2728846号公報
【特許文献2】特開2014-9487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1には、建設残土などの被処理土を、その流動性を高めた状態で、埋め戻し、構造物への裏込め、空洞部への充填に供する際、上記被処理土の流動化を行う流動化処理工法についての基本的な設計方法が記載されている。
【0007】
また、上記特許文献2には、固化材がセメントと高炉スラグとからなり、セメント100質量部に対して高炉スラグを40~400質量部の配合割合とすることが記載されるが、その範囲はかなり広範で、具体的な配合割合を決定するには、配合割合を変化させて強度試験などを繰り返し行い、試行錯誤して最適な配合割合を求める必要があった。同様に、固化材の量についても、建設発生土1m3に対して、30~200kgとすることが記載されるが、その範囲はかなり広範で、具体的な固化材の量を決定するには、固化材の量を変化させて強度試験などを繰り返し行い、試行錯誤して最適な固化材の量を求める必要があった。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、固化材としてセメントと鉄鋼スラグを使用した流動化処理土において、鉄鋼スラグの最適な配合割合において、これに対応する最適な固化材の量を得ることができるようにした流動化処理土の配合設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、固化材として使用するセメントの一部を鉄鋼スラグに置換した流動化処理土の配合設計方法であって、
前記鉄鋼スラグの置換率が70%を標準置換率として、一軸圧縮強さの目標値に対する固化材の量を決定することを特徴とする流動化処理土の配合設計方法が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明では、後段の〔実験〕で詳細に説明するように、鉄鋼スラグの置換率と固化材の量をそれぞれ変化させて供試体を製作し、一軸圧縮強さ試験を行ったところ、鉄鋼スラグの置換率が70%のときに一軸圧縮強さがピークを示すことが明らかとなったため、鉄鋼スラグの置換率70%を標準置換率として、実験で得られた置換率70%における固化材の量と一軸圧縮強さの関係式から、一軸圧縮強さの目標値に対する固化材の量を決定している。これによって、鉄鋼スラグの最適な配合割合において、これに対応する最適な固化材の量を得ることができるようになる。
【0011】
請求項2に係る本発明として、前記鉄鋼スラグの置換率が60~75%である請求項1記載の流動化処理土の配合設計方法が提供される。
【0012】
上記請求項2記載の発明では、一軸圧縮強さがピーク値となるのは鉄鋼スラグの標準置換率が70%のときであるが、鉄鋼スラグの使用割合を高める場合や、早期に強度が必要な場合などにも対応できるように、置換率の適用範囲を拡大している。
【0013】
請求項3に係る本発明として、上記配合設計方法は、前記固化材の量が65kg/m3 を超える範囲において適用する請求項1、2いずれかに記載の流動化処理土の配合設計方法が提供される。
【0014】
上記請求項3記載の発明では、後述の〔実験〕で詳細に説明するように、鉄鋼スラグの置換率が70%で一軸圧縮強さがピークとなる固化材の量は、65kg/m3 を超える範囲であると推定できるため、その範囲で使用することによってより確実に所定の強度が確保できるようにしている。
【発明の効果】
【0015】
以上詳説のとおり本発明によれば、固化材としてセメントと鉄鋼スラグを使用した流動化処理土において、鉄鋼スラグの最適な配合割合において、これに対応する最適な固化材の量を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実験で得られた置換率と一軸圧縮強さの関係を示すグラフである。
【
図2】実験で得られた置換率とフロー値の関係を示すグラフである。
【
図3】各置換率における固化材の量と一軸圧縮強さの関係を示すグラフ(その1)である。
【
図4】各置換率における固化材の量と一軸圧縮強さの関係を示すグラフ(その2)である。
【
図5】各固化材の量における置換率と一軸圧縮強さの関係の予測値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0018】
流動化処理土は、被処理土を加水した泥状土と、固化材とを混練したものに、必要に応じて分散剤などの化学混和剤を添加したものである。かかる流動化処理土は、構造物の裏込めや施工後の埋戻し、空洞部の充填、トンネルインバート、盛土などに利用される。
【0019】
前記被処理土は、土木工事や建設工事に伴って発生する建設発生土や土採取所で採取した粘土、山砂等を使用できる。被処理土に加える水としては、水道水、河川水、湖沼水、地下水等を用いることができる。
【0020】
前記固化材は、セメントと鉄鋼スラグとからなる。前記セメントとしては、普通ポルトランドセメントを使用するのが好ましいが、早強ポルトランドセメントなどを用いても構わない。
【0021】
前記鉄鋼スラグは、金属製造工程のスラグのうち鉄鋼製品の製造工程において副産物として発生するスラグであり、高炉スラグと製鋼スラグに大別でき、いずれも潜在水硬性を有するので本発明に使用することができる。高炉スラグは、高炉で、鉄鉱石に含まれる銑鉄以外の成分と、副原料のコークスや石灰石の灰分とが溶融分離されたものであり、溶融スラグの冷却方法によって、水砕スラグと徐冷スラグとがあり、さらに水砕スラグを粉砕加工して微粉末状にした高炉スラグ微粉末がある。また、製鋼スラグは、銑鉄やスクラップ鉄から鋼を製造する工程で副産物として発生するスラグであり、転炉で生成される転炉系スラグと、電気炉製鋼工程で生成される電気炉系スラグとがある。
【0022】
前記鉄鋼スラグは、流動化処理土への分散性と硬化反応のための一定以上の表面積とが必要となるので、水砕スラグのように粒状であるか、水砕スラグを粉砕加工した高炉スラグ微粉末のように粉末状であることが好ましい。徐冷スラグや製鋼スラグのように岩石状のものは、粒状又は粉末状に加工して使用するのが好ましい。
【0023】
本発明に係る流動化処理土の配合設計方法は、前記固化材として使用するセメントの一部を鉄鋼スラグに置換した流動化処理土について、前記鉄鋼スラグの置換率が70%を標準置換率として、一軸圧縮強さの目標値に対する固化材の量を決定するものである。後述の〔実験〕から、鉄鋼スラグの置換率が増加するのに伴い一軸圧縮強さも増加するが、置換率70%で一軸圧縮強さのピークを迎え、それより高い置換率では一軸圧縮強さが低下する結果が得られたため、この一軸圧縮強さが最大となる置換率70%を標準置換率として、固化材の量を決定している。固化材の量の決定は、同〔実験〕から、各置換率における固化材の量と一軸圧縮強さとの関係が、一次式で近似できる線形関係にあることが明らかとなったため、この関係式を用いて、一軸圧縮強さの目標値に対する固化材の量が決定できるようになる。
【0024】
本発明に係る配合設計方法について、更に詳細に説明すると、設計に当たって先ずはじめに、被処理土の土質や性状を調査する。被処理土が細粒土の場合は、被処理土に水を添加して解泥する。また、被処理土が砂質土の場合は、被処理土に調整泥水を加えて混練する。そして、泥状土を所定の湿潤密度に調整する。単位水量が多い流動化処理土は、ブリーディング水が多くなり、高さ方向の強度差や、周辺地盤、既設構造物との一体性が失われることが懸念される。通常、泥状土の湿潤密度は1.2~1.6g/cm3 の範囲であり、1.5~1.6g/cm3 の範囲であるのが好ましい。
【0025】
次いで、一軸圧縮強さの目標値を定める。前記一軸圧縮強さは、材齢7日の一軸圧縮強さを用いる。一軸圧縮強さの目標値は、流動化処理土の用途(地下構造物の埋戻し、土木構造物の裏込め、地下空間の充填など)によって異なるが、100~10000kN/m2 以上とされることが多い。
【0026】
その後、下記の〔実験〕から得られた標準置換率70%における一軸圧縮強さと固化材の量との関係から、固化材の量を決定する。具体的には、
図4に示される置換率70%における一軸圧縮強さyと固化材の量xとの関係式y=14.266x-675から、目標とする一軸圧縮強さyに対する固化材の量xを算出する。
【0027】
前記鉄鋼スラグの置換率は、70%が標準置換率であるが、その前後に変動させた場合も同様の傾向が見られるため、その前後に範囲を拡大してもよい。具体的には、前記鉄鋼スラグの置換率が60~75%であるのが好ましい。鉄鋼スラグの置換率を標準置換率より低くする(セメントの割合を高くする)ことにより、早期に強度を必要とする構造物にも対応できる、水和速度が速くなり低温の影響を受けにくくなる、中性化速度が大きくなるのが抑制され、かぶりの小さな構造物にも適用可能となる、などの効果がある。一方、鉄鋼スラグの置換率を標準置換率より高くする(セメントの割合を低くする)ことにより、セメントの使用量が低下して省資源・省エネルギーが可能となる、長期強度の発現、ひび割れの抑制、化学的な耐久性の向上が図れる、などの効果がある。
【0028】
置換率を標準置換率70%の前後に変化させた場合、上述したように
図3及び
図4に示される所要の置換率における一軸圧縮強さyと固化材の量xとの関係式から、目標とする一軸圧縮強さyに対する固化材の量xを算出してもよいし、
図1に示される固化材の量をパラメータとする置換率と一軸圧縮強さとの関係を示すグラフから、所定の置換率と目標とする一軸圧縮強さとの交点に対して、最も近い固化材の量の折れ線又は固化材の量の折れ線間を線形補間することによって、固化材の量を求めてもよい。
【0029】
本配合設計方法において、前記固化材の量は、65kg/m3 を超える範囲において適用するのが好ましい。後述の〔実験〕の結果、鉄鋼スラグの置換率70%が一軸圧縮強さのピーク値となる固化材の量が、65kg/m3 を超える範囲であると推定できるので、その範囲で適用することにより確実に所定の強度が確保できるようになる。
【0030】
〔実験〕
固化材として使用するセメントの一部を鉄鋼スラグ(高炉スラグ微粉末)に置換した流動化処理土について、鉄鋼スラグの置換率と一軸圧縮強さ(材齢7日)との関係から置換率の最適値を求める実験を行った。
【0031】
実験では、被処理土として、表1に示される粘土及び砂を、粘土92%、砂8%の割合で混合し、細粒分含有率85%の被処理土を作製した。このときの乾燥土粒子の密度は2.65g/cm3 である。次いで、この被処理土を加水して泥状土を作製した。泥状土の配合及び性状は表2に示される通りである。化学混和剤は、泥状土1m3 に対して外割で計量し、泥状土作製時に添加することとした。
【0032】
【0033】
【0034】
実験では、モルタルミキサーで泥状土を作成後、セメント及び鉄鋼スラグを添加するとともに、化学混和剤を添加して混合攪拌し、直ちにフロー値及び湿潤密度を測定した。測定後、一軸圧縮強さ試験用の供試体(φ50×100mm)を作製した。
【0035】
固化材(普通ポルトランドセメント及び高炉スラグ微粉末)の量が100kg/m
3、200kg/m
3 のそれぞれにおいて、高炉スラグ微粉末の置換率を変化させたときの湿潤密度、フロー値及び一軸圧縮強さ(材齢7日)を測定した。湿潤密度の測定は、500mlのメスシリンダーに材料を500ml入れたときの材料の質量から算出する。フロー値の測定は、日本道路公団規格、エアモルタル及びエアミルクの試験方法(JHS A 3113-1992)のコンシステンシー試験方法のシリンダー法に準拠して行う。一軸圧縮強さの測定は、JIS A 1216:1998 に準拠して行う。なお、置換率とは、固化材の量に対する高炉スラグ微粉末の量の割合(%)であり、例えば、固化材を100kg/m
3 入れる場合、置換率が30%のときは、モルタルを70kg/m
3、高炉スラグ微粉末を30kg/m
3 とすることである。実験の結果を表3、表4及び
図1、
図2に示す。
【0036】
【0037】
【0038】
図1の結果、固化材の量が100kg/m
3、200kg/m
3 のいずれにおいても、置換率が70%において一軸圧縮強さがピークとなることが明らかとなった。このため、置換率70%を標準置換率として、一軸圧縮強さの目標値に対する固化材の量を決定することによって、固化材の配合量に対して最大の強度が発現できるようになるため、流動化処理土の配合設計において重要である。
【0039】
また、
図2に示されるように、高炉スラグ微粉末の置換率の増加に伴って流動性が向上し、特に置換率50%以上でその傾向が顕著となる。このとき、置換率70%における流動性は、固化材の量が100kg/m
3、200kg/m
3 のいずれにおいても良好なワーカビリティーが得られるのに加え、その付近の置換率(60~75%)においても充分な流動性が得られることが実験により明らかとなった。
【0040】
次に、置換率70%で一軸圧縮強さがピークとなる固化材の量の範囲について検討を行う。すなわち、置換率70%を標準置換率とする本発明の適用が良好な固化材の量の範囲について検討を行う。
【0041】
上記の実験と同様に、固化材の量が50kg/m
3 において、高炉スラグ微粉末の置換率を変化させたときの湿潤密度、フロー値及び一軸圧縮強さ(材齢7日)を測定した(表5)。この結果も踏まえて、表3~表5に示される各置換率における固化材の量(50、100、200kg/m
3)と一軸圧縮強さとの関係をグラフ化し、この3点から近似式を求めた。その結果を
図3及び
図4に示す。
【0042】
【0043】
図3及び
図4のグラフ中に記載されるように、各置換率における固化材の量と一軸圧縮強さとの関係は、かなり高い精度で一次式で近似できることがわかった。
【0044】
この近似式を用いて、より詳細に固化材の量を変化させたときの置換率と一軸圧縮強さの関係を予測すると、
図5に示されるように、固化材の量が60kg/m
3 では、置換率が50%で一軸圧縮強さのピークを迎え、それより大きな置換率では一軸圧縮強さが急激に低下する傾向を示すが、固化材の量を65kg/m
3 としたときは、一軸圧縮強さのピークが置換率50~70%の間となり、固化材の量を70kg/m
3、80kg/m
3 としたときは、一軸圧縮強さのピークが置換率70%となる。したがって、固化材の量が65kg/m
3 を超える範囲が、置換率70%で一軸圧縮強さのピークとなる範囲と推定できる。以上の結果から、本発明に係る配合設計方法は、固化材の量が65kg/m
3 を超える範囲において適用するのが望ましい。