(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023115735
(43)【公開日】2023-08-21
(54)【発明の名称】導電膜転写シートの製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20230814BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20230814BHJP
【FI】
H01B13/00 503B
H01B5/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022018124
(22)【出願日】2022-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】石川 宏典
(72)【発明者】
【氏名】河本 憲治
(72)【発明者】
【氏名】中山 由美
(72)【発明者】
【氏名】井上 義貴
【テーマコード(参考)】
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
5G307FA00
5G307FB04
5G323BA05
5G323BB02
5G323BC03
(57)【要約】
【課題】導電性材料が均一に分布した導電膜を塗布法によって製造可能とする。
【解決手段】導電膜転写シートの製造方法は、第1主面とその裏面である第2主面とを有している液体透過性の剥離シート21を準備することと、前記第1主面上に前記導電性材料を含んだ導電膜22を形成することとを含み、前記導電膜22の形成は、前記導電性材料と分散媒とを含んだ分散液Lを前記第1主面へ噴霧することと、前記分散液Lの前記第1主面への噴霧と同時に又は前記分散液Lの前記第1主面への噴霧の直後に、前記第2主面の吸引により前記第1主面上の前記分散媒を除去することとを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面とその裏面である第2主面とを有している液体透過性の剥離シートを準備することと、
前記第1主面上に導電性材料を含んだ導電膜を形成することと
を含み、
前記導電膜の形成は、
前記導電性材料と分散媒とを含んだ分散液を前記第1主面へ噴霧することと、
前記分散液の前記第1主面への噴霧と同時に又は前記分散液の前記第1主面への噴霧の直後に、前記第2主面への吸引により前記第1主面上の前記分散媒を除去することと
を含んだ導電膜転写シートの製造方法。
【請求項2】
前記噴霧及び前記吸引は、前記第1主面に液膜が形成されないように行う請求項1に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項3】
前記噴霧及び前記吸引は、前記剥離シートと前記導電膜との積層体に前記分散媒の一部が残留するように行う請求項1又は2に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項4】
前記吸引は、複数の吸引孔が設けられた支持部材を前記第2主面と向かい合わせた状態で、前記複数の吸引孔を介して行う請求項1乃至3の何れか1項に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項5】
前記支持部材は支持面を有し、前記支持面は、前記第2主面と向き合う第1領域と、前記第1領域を取り囲んだ第2領域とを含み、前記複数の吸引孔の一部は前記第1領域で開口し、前記複数の吸引孔の残りは前記第2領域で開口した請求項4に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項6】
前記複数の吸引孔の各々は、30乃至800μmの範囲内の径を有している請求項4又は5に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項7】
前記噴霧及び前記吸引は、前記支持部材と前記剥離シートとの間に、三次元網目構造を有する多孔層を介在させた状態で行う請求項4乃至6の何れか1項に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項8】
前記噴霧に先立って、前記分散媒と相溶する液体を前記剥離シートへ供給することを更に含んだ請求項1乃至7の何れか1項に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項9】
前記導電性材料は繊維状材料を含んだ請求項1乃至8の何れか1項に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項10】
前記導電性材料は炭素材料を含んだ請求項1乃至9の何れか1項に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項11】
前記導電性材料はカーボンナノチューブを含んだ請求項1乃至10の何れか1項に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項12】
前記第1主面はフッ素樹脂を含んだ請求項1乃至11の何れか1項に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項13】
前記剥離シートは、多孔質であり、孔径が0.05乃至5.0μmの範囲内にある請求項1乃至12の何れか1項に記載の導電膜転写シートの製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の製造方法によって得られ、前記剥離シートと前記導電膜とを備えた導電膜転写シート。
【請求項15】
被転写体と、前記被転写体に支持された転写膜とを備えた物品であって、前記転写膜は、請求項14に記載の導電膜転写シートの前記剥離シートから前記被転写体へ転写された、請求項14に記載の導電膜転写シートの前記導電膜である物品。
【請求項16】
第1主面とその裏面である第2主面とを有している液体透過性の剥離シートの前記第1主面へ、導電性材料と分散媒とを含んだ分散液を噴霧する噴霧装置と、
前記分散液の前記第1主面への噴霧と同時に又は前記分散液の前記第1主面への噴霧の直後に、前記第2主面への吸引により前記第1主面上の前記分散媒を除去する吸引装置と
を備えた導電膜転写シートの製造装置。
【請求項17】
前記吸引の際に前記第2主面と向き合う支持部材を更に備え、前記支持部材には複数の吸引孔が設けられ、前記吸引装置は、前記複数の吸引孔を介して前記吸引を行う請求項16に記載の導電膜転写シートの製造装置。
【請求項18】
前記支持部材は支持面を有し、前記支持面は、前記第2主面と向き合う第1領域と、前記第1領域を取り囲んだ第2領域とを含み、前記複数の吸引孔の一部は前記第1領域で開口し、前記複数の吸引孔の残りは前記第2領域で開口した請求項17に記載の導電膜転写シートの製造装置。
【請求項19】
前記複数の吸引孔の各々は、30乃至800μmの範囲内の径を有している請求項17又は18に記載の導電膜転写シートの製造装置。
【請求項20】
前記支持部材上に設置され、三次元網目構造を有する多孔層を更に備え、前記多孔層は、前記噴霧及び前記吸引の際に前記支持部材と前記剥離シートとの間に介在する請求項17乃至19の何れか1項に記載の導電膜転写シートの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜転写シートの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜は、静電防止層;透明面状発熱体;プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイ、及びタッチパネルの電極;並びに電磁波遮蔽膜などとして用いることができる。近年、透明導電膜を含んだデバイスのなかでも、カーボンナノチューブ及びグラフェンのように炭素原子がsp2結合してなる炭素繊維や炭素粒などの炭素材料を透明導電膜に用いたデバイスについて、開発の試みが広く行われている。
【0003】
現在、透明導電膜の形成には、スパッタリング法が主に利用されている。スパッタリング法は、表面抵抗値の小さな透明導電膜を、面積を或る程度大きくした場合であっても形成できる点で優れている。しかしながら、スパッタリング法には、成膜装置が大掛かりであり、成膜速度が低いという欠点がある。加えて、スパッタリング法では、真空中で導電性材料を加熱して成膜するため、導電性材料及びこれを堆積させる基材の材質は、このような環境下に耐え得るものに限られる。
【0004】
透明導電膜は、他の気相法で形成することもできる。例えば、非特許文献1には、単層カーボンナノチューブネットワークを製造するための反応器の出口で、単層カーボンナノチューブを含んだ流れを濾過して、単層カーボンナノチューブをフィルタ上に集め、このフィルタと基材とを、カーボンナノチューブを間に挟んで互いに押圧し、基材及びカーボンナノチューブからフィルタを剥がすことにより、カーボンナノチューブをフィルタから基材へ転写することが記載されている。この方法では、カーボンナノチューブの製造と濾過による透明導電膜の製造とを同時に行わなければならない。
【0005】
透明導電膜の形成に塗布法を利用することも試みられている。例えば、導電性微粒子をバインダ溶液中に分散させてなる塗液を基板に塗布し、塗膜を乾燥及び硬化させて、透明導電膜を得る。塗布法には、大面積の透明導電膜を形成することが容易であり、装置が簡便であって、生産性が高く、スパッタリング法よりも低コストで透明導電膜を製造できるという長所がある。
【0006】
塗布法では、導電性微粒子同士が接触することにより電気経路が形成されて、導電性が発現する。透明導電膜中のバインダは、導電性微粒子同士の接触を妨げる。それ故、上記の塗布法で形成した透明導電膜は、電気抵抗値が高いという欠点があり、その用途が限られる。
【0007】
塗布法においては、導電性微粒子の代わりに、カーボンナノチューブなどの導電性繊維を用いることもできる。導電性繊維を使用した場合、導電性微粒子を使用した場合と比較して、導電材同士の接点の形成が容易である。しかしながら、カーボンナノチューブなどの導電性繊維を使用した場合であっても、塗膜の厚さや形成後の膜強度の観点で塗液にはバインダを含有させるため、バインダに起因した導電性の低下は生じ得る。
【0008】
この塗膜に含まれるバインダは、例えば、その分解温度まで加熱することにより除去することができる。しかしながら、この方法では、耐熱性に優れた材料を基材に使用する必要がある。
【0009】
他の方法として、カーボンナノチューブを支持した支持材を被着体と密着させ、この状態で、有機溶剤などを用いて支持材を溶解除去する方法もある。しかしながら、この方法では、耐溶剤性に優れた材料を被着体に使用する必要がある。また、この方法では、多量の溶剤を使用するため、環境の問題も懸念される。
【0010】
なお、塗布法を利用した透明導電膜の形成は、例えば、以下の特許文献1乃至3及び非特許文献2に記載されている。
【0011】
特許文献1には、基材の表面に導電層を有する導電性成形体の製造方法として、極細導電繊維を用いた複数種の方法が開示されている。この文献には、それら方法の1つとして、剥離フィルム上に極細導電繊維の分散液を塗布し、塗膜を乾燥させ、これにより得られた層を、接着層を介して基材表面へ圧着し、剥離フィルムを上記の層から剥がすことにより、この層を剥離フィルムから基材へ転写する方法が記載されている。
【0012】
特許文献2には、所定の方法で製造及び精製した同軸二層カーボンナノチューブをアルコールへ分散させて、バインダを含まないカーボンナノチューブのアルコール分散液を調製し、この分散液を濾過して、濾紙上にカーボンナノチューブのシートを形成することが記載されている。この文献には、同軸カーボンナノチューブは、アスペクト比が極めて大きいため、互いに絡み合った構造となり、従って、シートは、バインダを含まなくてもその形を維持できることが記載されている。
【0013】
特許文献3では、カーボンナノチューブ分散液をフィルタで濾過し、これらカーボンナノチューブをフィルタから金属基板へ転写し、その後、これに真空環境下で電子ビームを照射することにより、カーボンナノチューブを金属基板へ固着させる方法が記載されている。
【0014】
非特許文献2には、単層カーボンナノチューブとヒドロキシプロピルセルロースとを含んだインクを、ドクターブレード法によって基材上に塗工し、その後、熱処理、溶液処理又は光焼成処理によってヒドロキシプロピルセルロースを塗膜から除去することが記載されている。この文献には、成膜法として、ドクターブレード法の他に、スプレー法及び濾過法も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2004/069736号
【特許文献2】特開2006-335604号
【特許文献3】特開2011-9131号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Nano Letters、10、4349、2010
【非特許文献2】表面化学、P587、Vol.64、No.11、2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、導電性材料が均一に分布した導電膜を塗布法によって製造可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一側面によると、第1主面とその裏面である第2主面とを有している液体透過性の剥離シートを準備することと、前記第1主面上に導電性材料を含んだ導電膜を形成することとを含み、前記導電膜の形成は、前記導電性材料と分散媒とを含んだ分散液を前記第1主面へ噴霧することと、前記分散液の前記第1主面への噴霧と同時に又は前記分散液の前記第1主面への噴霧の直後に、前記第2主面への吸引により前記第1主面上の前記分散媒を除去することとを含んだ導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0019】
本発明の他の側面によると、前記噴霧及び前記吸引は、前記第1主面に液膜が形成されないように行う上記側面に係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0020】
本発明の更に他の側面によると、前記噴霧及び前記吸引は、前記剥離シートと前記導電膜との積層体に前記分散媒の一部が残留するように行う上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0021】
本発明の更に他の側面によると、前記吸引は、複数の吸引孔が設けられた支持部材を前記第2主面と向かい合わせた状態で、前記複数の吸引孔を介して行う上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0022】
本発明の更に他の側面によると、前記支持部材は支持面を有し、前記支持面は、前記第2主面と向き合う第1領域と、前記第1領域を取り囲んだ第2領域とを含み、前記複数の吸引孔の一部は前記第1領域で開口し、前記複数の吸引孔の残りは前記第2領域で開口した上記側面に係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0023】
本発明の更に他の側面によると、前記複数の吸引孔の各々は、30乃至800μmの範囲内の径を有している上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0024】
本発明の更に他の側面によると、前記噴霧及び前記吸引は、前記支持部材と前記剥離シートとの間に、三次元網目構造を有する多孔層を介在させた状態で行う上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0025】
本発明の更に他の側面によると、前記噴霧に先立って、前記分散媒と相溶する液体を前記剥離シートへ供給することを更に含んだ上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0026】
本発明の更に他の側面によると、前記導電性材料は繊維状材料を含んだ上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0027】
本発明の更に他の側面によると、前記導電性材料は炭素材料を含んだ上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0028】
本発明の更に他の側面によると、前記導電性材料はカーボンナノチューブを含んだ上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0029】
本発明の更に他の側面によると、前記第1主面はフッ素樹脂を含んだ上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0030】
本発明の更に他の側面によると、前記剥離シートは、多孔質であり、孔径が0.05乃至5.0μmの範囲内にある上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造方法が提供される。
【0031】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係る製造方法によって得られ、前記剥離シートと前記導電膜とを備えた導電膜転写シートが提供される。
【0032】
本発明の更に他の側面によると、被転写体と、前記被転写体に支持された転写膜とを備えた物品であって、前記転写膜は、上記側面に係る導電膜転写シートの前記剥離シートから前記被転写体へ転写された、上記側面に係る導電膜転写シートの前記導電膜である物品が提供される。
【0033】
本発明の更に他の側面によると、第1主面とその裏面である第2主面とを有している液体透過性の剥離シートの前記第1主面へ、導電性材料と分散媒とを含んだ分散液を噴霧する噴霧装置と、前記分散液の前記第1主面への噴霧と同時に又は前記分散液の前記第1主面への噴霧の直後に、前記第2主面への吸引により前記第1主面上の前記分散媒を除去する吸引装置とを備えた導電膜転写シートの製造装置が提供される。
【0034】
本発明の更に他の側面によると、前記吸引の際に前記第2主面と向き合う支持部材を更に備え、前記支持部材には複数の吸引孔が設けられ、前記吸引装置は、前記複数の吸引孔を介して前記吸引を行う上記側面に係る導電膜転写シートの製造装置が提供される。
【0035】
本発明の更に他の側面によると、前記支持部材は支持面を有し、前記支持面は、前記第2主面と向き合う第1領域と、前記第1領域を取り囲んだ第2領域とを含み、前記複数の吸引孔の一部は前記第1領域で開口し、前記複数の吸引孔の残りは前記第2領域で開口した上記側面に係る導電膜転写シートの製造装置が提供される。
【0036】
本発明の更に他の側面によると、前記複数の吸引孔の各々は、30乃至800μmの範囲内の径を有している上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造装置が提供される。
【0037】
本発明の更に他の側面によると、前記支持部材上に設置され、三次元網目構造を有する多孔層を更に備え、前記多孔層は、前記噴霧及び前記吸引の際に前記支持部材と前記剥離シートとの間に介在する上記側面の何れかに係る導電膜転写シートの製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、導電性材料が均一に分布した導電膜を塗布法によって製造可能とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る導電膜転写シートの製造装置を示すブロック図。
【
図4】
図4は、
図3の支持部材上に剥離シートを設置した様子を示す平面図。
【
図5】
図5は、
図4の構造において剥離シート上に導電膜を形成した様子を示す平面図。
【
図6】
図6は、導電膜転写シートの一例を示す断面図。
【
図7】
図7は、支持部材の吸引孔の径を小さくした場合に導電膜に生じ得る構造の一例を示す斜視図。
【
図8】
図8は、支持部材の吸引孔の径を大きくした場合に導電膜に生じ得る構造の一例を示す斜視図。
【
図10】
図10は、転写によって得られる物品の一例を示す断面図。
【
図11】
図11は、比較例において形成した導電膜を撮像することにより得られた中間調画像。
【
図12】
図12は、実施例において形成した導電膜を撮像することにより得られた中間調画像。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の構成部材の材質、形状、及び構造等によって限定されるものではない。本発明の技術的思想には、請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0041】
なお、同様又は類似した機能を有する要素については、以下で参照する図面において同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は模式的なものであり、或る方向の寸法と別の方向の寸法との関係、及び、或る部材の寸法と他の部材の寸法との関係等は、現実のものとは異なり得る。
【0042】
<1>製造装置
図1は、本発明の一実施形態に係る導電膜転写シートの製造装置を示すブロック図である。
図2は、
図1に示す製造装置の斜視図である。
図3は、
図1及び
図2の製造装置が含んでいる支持部材の平面図である。
【0043】
図1及び
図2に示す製造装置1は、導電膜転写シート2を製造するための装置である。後で詳述するように、導電膜転写シート2は、剥離シート21と導電膜22とを含んでいる。製造装置1は、導電性材料と分散媒とを含んだ分散液を剥離シート21へ噴霧することにより、剥離シート21上に導電膜22を形成する。なお、
図2において、剥離シート21の2つの主面のうち、導電膜22側の面は第1主面であり、その裏面は第2主面である。
【0044】
製造装置1は、支持部材11と、噴霧装置12と、吸引装置13と、コントローラ14とを含んでいる。
【0045】
支持部材11は、ここでは、板状の部材である。支持部材11は、他の形状を有していてもよい。
【0046】
支持部材11は、第1部分P1と第2部分P2とを含んでいる。第1部分P1は、枠形状を有している。第2部分P2は、第1部分P1によって取り囲まれている。ここでは、第2部分P2は、四角形状を有している。
【0047】
第2部分P2には、複数の吸引孔Hが設けられている。後述するように、吸引装置13は、剥離シート21の第2主面への吸引を、これら吸引孔Hを介して行う。
【0048】
支持部材11は、支持面を有している。なお、
図2及び
図3において、X方向及びY方向は、支持面に対して平行であり且つ互いに交差する方向である。また、Z方向は、X方向及びY方向に対して垂直な方向である。ここでは、X方向及びY方向は互いに対して垂直であり、Z方向は重力方向に対して平行な方向であるとする。
【0049】
支持面は、第2主面と向き合う第1領域と、第1領域を取り囲んだ第2領域とを含んでいる。ここでは、第1領域は、第1部分P1の上面のうち剥離シート21と接触している領域であり、第2領域は、第1部分P1の上面のうち剥離シート21と接触していない領域である。吸引孔Hの一部は第1領域で開口し、吸引孔Hの残りは第2領域で開口している。
【0050】
吸引孔Hの径は、30乃至800μmの範囲内にあることが好ましく、200乃至600μmの範囲内にあることがより好ましい。後述するように、吸引孔Hの径を小さくすると、噴霧装置12による分散液Lの噴霧及び吸引装置13による吸引を行った場合に、特には、複数枚の剥離シート21に対して導電膜22の形成を連続して行った後に、他の剥離シート21に対する噴霧装置12による分散液Lの噴霧及び吸引装置13による吸引を更に行った場合に、この剥離シート21の第1主面に液膜が形成され易くなる。液膜が形成されると、第1主面上で液の量に偏りを生じ、その結果、導電膜22における導電性材料の分布の均一性が低下する可能性がある。吸引孔Hの径を大きくすると、吸引孔Hの位置で剥離シート21が凹み、これに伴い、吸引孔Hの位置で導電膜22も凹む可能性がある。
【0051】
支持部材11の材質は、分散液Lが含んでいる分散媒に対して非溶解性であればよい。支持部材11には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリエチレンテレフタレートなどの高分子材料、鉄、ニッケル、タングステン、及びアルミニウムなどの金属材料やSUSなどのステンレス鋼、ガラス、石英、並びにセラミックス材料などを用いることができる。支持部材11は、複合材からなるものであってもよい。
【0052】
噴霧装置12は、剥離シート21の第1主面へ、導電性材料と分散媒とを含んだ分散液Lを噴霧する。ここでは、噴霧装置12は、剥離シート21の第1主面と向き合うように設置されたノズルヘッド121を含んでいる。
【0053】
噴霧装置12に採用する噴霧方式に制限はない。噴霧装置12では、例えば、エアスプレー方式、エアレススプレー方式、静電スプレー方式、又は、超音波により液体を振動させて、液滴を霧化する超音波スプレー方式を採用することができる。噴霧装置12がノズルヘッド121を有している場合、導電性材料がノズルを詰まらせることがないように、ノズル径及びノズル間距離は、0.2乃至0.5mmの範囲内にあることが好ましく、0.3乃至0.4mmの範囲内にあることがより好ましい。
【0054】
噴霧装置12は、ノズルヘッド121をZ方向に対して垂直な方向へ移動させる移動機構を更に含むことができる。移動機構は、ノズルヘッド121をX方向及びY方向の何れか一方へ移動させるものであってもよく、X方向及びY方向の双方へ移動させるものであってもよい。移動機構を設けることにより、導電膜22における導電性材料の分布の均一性を高めることや、大面積の導電膜22を形成することが可能となる。
【0055】
吸引装置13は、分散液の第1主面への噴霧と同時に又は分散液の第1主面への噴霧の直後に、第2主面への吸引により第1主面上の分散媒を除去する。吸引装置13は、ポンプと、ポンプを支持部材11へ接続する流路とを含むことができる。吸引装置13は、吸引孔Hを介して吸引を行う。
【0056】
コントローラ14は、処理部14Aと記憶部14Bとを含んでいる。
処理部14Aは、中央処理装置(CPU)を含んでいる。記憶部14Bは、処理部14Aに接続されている。記憶部14Bは、処理部14Aが読み込むプログラムや、処理部14Aから供給されたデータを記憶する不揮発性メモリを含んでいる。
【0057】
コントローラ14は、噴霧装置12及び吸引装置13に接続されている。コントローラ14は、図示しない入力装置を介してオペレータが入力する指令等に基づいて、噴霧装置12及び吸引装置13の動作を制御する。
【0058】
製造装置1は、前処理装置を更に含むことができる。この前処理装置は、噴霧装置12が分散液を噴霧するのに先立って、分散液が含んでいる分散媒と相溶する液体を剥離シート21へ供給するものである。前処理装置が剥離シート21へ液体を供給する方法に制限はない。一例によれば、前処理装置は、噴霧によって剥離シート21へ液体を供給する。
【0059】
製造装置1は、支持部材11をZ方向に対して垂直な方向へ移動させる移動機構を更に含むことができる。そのような移動機構を設けた場合、噴霧装置12の移動機構について上述したのと同様に、導電膜22における導電性材料の分布の均一性を高めることや、大面積の導電膜22を形成することが可能となる。製造装置1が移動機構を更に含んでいる場合、例えば、ノズルヘッド121と支持部材11とを同時に又は交互に移動させることができる。製造装置1が移動機構を更に含んでいる場合、噴霧装置12の移動機構は省略してもよい。
【0060】
製造装置1は、支持部材11上に設置され、三次元網目構造を有する多孔層を更に含むことができる。この多孔層は、噴霧及び吸引の際に支持部材11と剥離シート21との間に介在する。多孔層は三次元網目構造を有しているので、この多孔層において、流体は、厚さ方向及び面内方向の双方へ移動可能である。それ故、多孔層を設けると、吸引装置13が吸引孔Hを介して剥離シート21へ及ぼす吸引力の面内均一性を高めることができる。
【0061】
多孔層の材質に制限はない。多孔層は、例えば、ニッケル、アルミニウム、銅、ニッケル-クロム合金、及びニッケル-錫合金などの金属又は合金からなる。
【0062】
多孔層の平均孔径は、0.1乃至1.0mmの範囲内にあることが好ましく、0.2乃至0.5mmの範囲内にあることがより好ましい。ここで、多孔層の平均孔径は、多孔層を電子顕微鏡で撮像することにより得られる画像から、空孔の各々について外接する最小の円の直径を求め、これら直径を算術平均することにより得られる値である。
【0063】
<2>製造方法
図1乃至
図3を参照しながら説明した製造装置1を使用すると、例えば、以下の方法により、導電膜転写シート2を製造することができる。
【0064】
図4は、
図3の支持部材上に剥離シートを設置した様子を示す平面図である。
図5は、
図4の構造において剥離シート上に導電膜を形成した様子を示す平面図である。
図6は、導電膜転写シートの一例を示す断面図である。
【0065】
この方法では、先ず、剥離シート21を準備する。剥離シート21は、液体透過性である。具体的には、剥離シート21は、分散液Lが含んでいる導電性材料を透過させることなしに、分散液Lが含んでいる分散媒を厚さ方向へ透過させ得る。一例によれば、剥離シート21は、多孔質シートである。
【0066】
剥離シート21の具体例としては、多孔質メンブレンフィルタや不織布フィルタが挙げられる。
【0067】
剥離シート21の材質としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)及びPVDF(ポリビニリデンフルオライド)等のフッ素樹脂、PVDC(ポリビニリデンクロライド)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、セルロース、セルロースアセテート、並びにポリカーボネートが挙げられる。剥離シート21は、フッ素樹脂、特にはPTFEからなるものであることが好ましい。
【0068】
剥離シート21として多孔質メンブレンフィルタを使用する場合、その孔径は、0.05乃至5.0μmの範囲内にあることが好ましく、0.1乃至2.0μmの範囲内にあることがより好ましい。ここで孔径は、JIS K3832に規定されているバブルポイント試験法に準じた方法で測定される値である。
【0069】
剥離シート21の厚さに制限はない。剥離シート21としては、例えば、厚さが10乃至200μmの範囲内にあるものを使用することができる。
【0070】
次に、剥離シート21を製造装置1に設置する。具体的には、
図4に示すように、剥離シート21を第2部分P2上に載置する。ここで、剥離シート21の2つの主面のうち、第2部分P2と接触させる面は第2主面であり、他方の主面は第1主面である。
【0071】
剥離シート21は、第2部分P2の上面が、第2主面と向き合う第1領域と、第1領域を取り囲んだ第2領域とを含むように設置することが好ましい。この場合、吸引孔Hの一部は第1領域で開口し、吸引孔Hの残りは第2領域で開口することになる。このような配置によると、噴霧装置12による噴霧及び吸引装置13による吸引の際に、剥離シート21の全体が支持部材11に対して確実に固定される。
【0072】
なお、剥離シート21を、一部のみ第2部分P2上に位置し、残りの部分が第1部分P1上に位置するように支持部材11上に載置した場合、噴霧装置12の噴霧によって生じる気流で、剥離シート21のうち第1部分P1上に位置した部分が支持部材11から浮き上がる可能性がある。そして、剥離シート21の他の部分も、支持部材11から浮き上がる可能性がある。このような浮き上がりは、導電膜22における導電性材料の分布の均一性を低下させ得る。
【0073】
剥離シート21を、一部のみ第2部分P2上に位置し、残りの部分が第1部分P1上に位置するように支持部材11上に載置した場合、剥離シート21の縁部を治具で支持部材11に対して押し付ければ、上記の浮き上がりを防止できる。しかしながら、この場合、分散液が治具の側面へ広がり、治具の近傍において導電性材料がより多く分布した導電膜22が得られる可能性がある。この導電性材料がより多く分布した部分は、後工程において裁断することで除去可能であるが、この場合、工程数が増加する。
【0074】
また、上記の通り、支持部材11と剥離シート21との間には、三次元網目構造を有している多孔層を介在させることが好ましい。多孔層を設けると、吸引装置13が吸引孔Hを介して剥離シート21へ及ぼす吸引力の面内均一性を高めることができる。
【0075】
次に、第1主面上に、導電性材料221を含んだ導電膜22を形成する。これにより、
図2、
図5及び
図6に示す導電膜転写シート2を得る。
【0076】
具体的には、噴霧装置12は、導電性材料221と分散媒とを含んだ分散液Lを、第1主面へ噴霧する。吸引装置13は、噴霧装置12による分散液Lの第1主面への噴霧と同時に又は分散液Lの第1主面への噴霧の直後に、第2主面への吸引を行う。例えば、吸引装置13が吸引を開始した後に、噴霧装置12は噴霧を開始する。そして、噴霧装置12が噴霧を停止した後に、吸引装置13は吸引を停止する。コントローラ14は、吸引装置13が吸引を開始するタイミング及び吸引を停止するタイミングを制御するとともに、噴霧装置12が噴霧を開始するタイミング及び噴霧を停止するタイミングを制御する。このようにして、第1主面上に導電性材料221を堆積させて、
図5及び
図6に示す導電膜22を得るとともに、第1主面上の分散媒を速やかに除去する。
【0077】
導電性材料221は、繊維状材料を含んでいることが好ましい。この繊維状材料は、導電性繊維を含んでいることが好ましい。また、導電性材料221は、炭素材料を含んでいることが好ましい。
【0078】
導電性繊維としては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノホーン、カーボンナノワイヤ、カーボンナノファイバ、及びグラファイトフィブリル等の炭素繊維、白金、金、銀、及びニッケル等の金属からなるナノチューブやナノワイヤ等の金属繊維、シリコンからなるナノチューブやナノワイヤ等のシリコン繊維、並びに、酸化亜鉛等の金属酸化物からなるナノチューブやナノワイヤ等の金属酸化物繊維を挙げることができる。
【0079】
導電性繊維は、直径が0.3乃至100nmの範囲内にあることが好ましく、長さが0.1乃至20μmの範囲内にあることが好ましく、0.1乃至10μmの範囲内にあることがより好ましい。これらの導電性繊維のなかでも、カーボンナノチューブは、直径が0.3乃至80nmと極めて細く、アスペクト比も大きい。そのため、カーボンナノチューブは、光透過を阻害することが極めて少なく、透明な導電膜22を得る観点から好ましい。更に、カーボンナノチューブは導電性に優れるため、導電膜22の表面抵抗値も小さくすることができる。
【0080】
上記のカーボンナノチューブには、多層カーボンナノチューブ(Multi-walled carbon nanotube;MWNT)と単層カーボンナノチューブ(Single-walled carbon nanotube;SWNT)とがある。
【0081】
多層カーボンナノチューブ(MWNT)は、直径が異なり、同心状に配置された多数の円筒状カーボン壁からなるチューブである。各カーボン壁において、炭素原子の配列は六角網目構造を形成している。或る多層カーボンナノチューブでは、カーボン壁が渦巻き状に巻かれて多層となっている。好ましい多層カーボンナノチューブは、カーボン壁が2乃至30層重なったものであり、より好ましくはカーボン壁が2乃至15層重なったものである。上記の多層カーボンナノチューブを使用することにより、優れた光線透過率を持つ導電膜22を形成することができる。なお、導電性材料221として多層カーボンナノチューブを含んだ導電膜22では、カーボンナノチューブは、通常、互いから分離して分散している。また、2乃至3本の多層カーボンナノチューブが束を形成し、これら束が分散している場合もある。
【0082】
単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、単層の円筒状カーボン壁からなる。単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブと比較して抵抗値が低く、より好ましい。単層カーボンナノチューブのカーボン壁においても、炭素原子の配列は六角網目構造を形成している。なお、導電性材料221として単層カーボンナノチューブを含んだ導電膜22において、カーボンナノチューブを互いから分離して分散させることは困難である。そのような導電膜22では、2本以上のチューブが束を形成し、その束がお互いに絡み合っている。これらの束は凝集することがなく、互いが複雑に絡み合ってもいない。好ましい単層カーボンナノチューブの束は、10乃至50本のカーボンナノチューブが集まったものである。単層カーボンナノチューブとして、互いから分離して分散するものも好適に使用することができる。
【0083】
分散液Lは、導電性材料を1種のみ含んでいてもよく、複数種の導電性材料を含んでいてもよい。分散液Lにおける導電性材料221の濃度は、例えば、0.001乃至0.5質量%の範囲内とする。
【0084】
分散媒は、導電性材料221を分散させ得る液体であればよい。分散媒としては、例えば、水、アセトン、メチルエチルケトン、及び、アルコールが挙げられる。分散媒は、これらから選択される2種以上の混合液であってもよい。これらのなかでも、水及びアルコールが好ましく、特に、水はカーボンナノチューブを比較的均一に分散できることからより好ましい。アルコールは、メタノール、エタノール及びイソプロパノールのように極性が高いものが好ましい。分散媒としては、水、アルコール、又はそれらの混合液を使用することが好ましい。
【0085】
分散液Lの噴霧に先立ち、上述した前処理装置による前処理を行ってもよい。この前処理は、剥離シート21を支持部材11上へ載置する前に行ってもよく、剥離シート21を支持部材11上へ載置した後に行ってもよい。噴霧装置12が分散液を噴霧するのに先立って、分散液Lが含んでいる分散媒と相溶する液体を剥離シート21へ供給しておくと、分散液Lは剥離シート21によって弾かれ難くなり、導電膜22における導電性材料221の分布の均一性が向上する。
【0086】
前処理において剥離シート21へ供給する液体としては、例えば、分散媒について例示したものを使用することができる。一例によれば、この液体として、水、アルコール、又はそれらの混合液を使用する。
【0087】
上記の方法では、吸引装置13による第2主面への吸引は、好ましくは、第1主面に液膜が形成されないように行う。即ち、吸引装置13による第2主面への吸引は、好ましくは、第1主面へ供給された分散液Lが含んでいる分散媒が、第1主面へ到達してから速やかに剥離シート21へ浸透するように行う。第1主面に液膜が形成されると、以下に説明するように、導電膜22における導電性材料の分布の均一性が低下する。
【0088】
図7は、支持部材の吸引孔の径を小さくした場合に導電膜に生じ得る構造の一例を示す斜視図である。
【0089】
上記の通り、支持部材11の吸引孔Hの径を小さくすると、噴霧装置12による分散液Lの噴霧及び吸引装置13による吸引を行った場合に、剥離シート21の第1主面に液膜が形成され易くなる。そのような液膜が形成される条件下で、ノズルヘッド121をX方向へ移動させながら分散液Lの噴霧を行うと、分散液Lの噴霧によって生じる気流に起因して、第1主面上に滞留している液は、例えば、噴霧開始側から噴霧終了側へ移動し得る。その結果、導電膜22では、導電性材料221は、噴霧開始側と比較して噴霧終了側においてより多く分布する可能性がある。即ち、
図7に示すように、導電膜22は、噴霧開始側と比較して噴霧終了側においてより厚くなる可能性がある。
【0090】
図8は、支持部材の吸引孔の径を大きくした場合に導電膜に生じ得る構造の一例を示す斜視図である。
【0091】
支持部材11の吸引孔Hの径を大きくすると、第1主面に液膜は形成され難くなる。しかしながら、この場合、
図8に示すように、吸引孔Hの位置で剥離シート21が凹み、これに伴い、吸引孔Hの位置で導電膜22も凹む可能性がある。
【0092】
上記の方法において、噴霧装置12による分散液Lの噴霧及び吸引装置13による吸引は、以下に説明するように、剥離シート21と導電膜22との積層体に分散媒の一部が残留するように行うことが好ましい。
【0093】
図9は、転写工程の一例を示す断面図である。
図10は、転写によって得られる物品の一例を示す断面図である。
【0094】
上記の方法で得られた導電膜転写シート2は、被転写体3へ導電膜22を設けるために使用する。
【0095】
具体的には、先ず、
図9に示すように、導電膜転写シート2の導電膜22を被転写体3に接触させる。このとき、導電膜転写シート2と被転写体3とは、導電膜22と被転写体3との間に気泡が入らないよう圧着させることが好ましい。
【0096】
次に、加熱により、剥離シート21と導電膜22とに含まれる分散媒を除去する。分散媒を除去すると、ファンデルワールス力によって、導電膜22は被転写体3と強固に接合する。この加熱は、ホットプレートを利用して行ってもよく、熱風を利用して行ってもよい。
【0097】
その後、導電膜22から剥離シート21を剥離する。これにより、
図10に示す物品を得る。
【0098】
上記の転写では、分散媒の除去により、導電性材料221と被転写体3との間に作用するファンデルワールス力を大きくする。従って、導電膜転写シート2は分散媒を含んでいることが好ましい。それ故、噴霧装置12による分散液Lの噴霧及び吸引装置13による吸引は、剥離シート21と導電膜22との積層体に分散媒の一部が残留するように行うことが好ましい。
【0099】
噴霧装置12による分散液Lの噴霧及び吸引装置13による吸引は、剥離シート21の質量を100質量部とした場合に、剥離シート21と導電膜22との積層体に、50乃至200質量部の分散媒が残留するように行うことが好ましく、100乃至180質量部の分散媒が残留するように行うことがより好ましく、120乃至170質量部の分散媒が残留するように行うことが更に好ましい。
【0100】
導電膜転写シート2の完成から転写までの期間内に、導電膜転写シート2から分散媒が失われるのを防止することが好ましい。例えば、分散媒を含んだ導電膜転写シート2を、アルミラミネートパウチなどの保存袋や密封ケースなどに入れて、密閉状態で保管してもよい。或いは、上記の期間内に、導電膜転写シート2を、これが含んでいる分散媒と同等の液体中に浸漬させておいてもよい。
【0101】
<3>効果
上記の方法では、塗布法により導電膜22を形成する。それ故、この方法によると、高い生産性を達成することができる。
また、上記の方法では、剥離シート21の第1主面への分散液Lの供給を噴霧によって行い、噴霧と同時に又は噴霧の直後に、剥離シート21の第2主面への吸引により第1主面上の分散媒を除去する。それ故、塗布法を利用しているにも拘わらず、導電性材料221が均一に分布した導電膜22を製造することができる。例えば、この方法によれば、複数枚の剥離シート21に対して導電膜22の形成を連続して行った場合であっても、1枚目の剥離シート21から最後の剥離シート21まで、第1主面に液膜を生じさせることなく、導電性材料221が均一に分布した導電膜22を製造することができる。また、この方法によれば、導電性材料221が均一に分布した大面積の導電膜22を製造することも可能である。
【0102】
なお、ここでは、バッチ処理について説明したが、上述した技術は、連続処理に適用することも可能である。
【実施例0103】
以下に、本発明の具体例を記載する。
【0104】
<1>分散液の調製
カーボンナノチューブの水分散液として、直径が1乃至3nmの単層カーボンナノチューブ(SWNT)を0.2質量%の濃度で含有したものを準備した。この液を、水で0.02質量%の濃度に希釈して、分散液Lを得た。
【0105】
<2>導電膜転写シートの製造
(実施例)
図1乃至
図3を参照しながら説明した製造装置1の支持部材11上に、液体透過性の剥離シート21を載置した。
【0106】
支持部材11としては、吸引孔Hの径が30μmであるものを使用した。噴霧装置12には、ノズル径が0.4mmの二流体スプレーを使用した。噴霧装置12には、ノズルヘッド121をZ方向に対して垂直な方向へ移動させる移動機構を設けた。吸引装置13には、真空エジェクタを4つ使用した。
【0107】
剥離シート21としては、長辺の長さが300mm、短辺の長さが210mmの長方形状を有し、厚さが100μmであり、孔径が1μmであるPTFE製メンブレンフィルタを使用した。剥離シート21は、第2部分P2の上面が、第2主面と接する第1領域と、第1領域を取り囲み、第2主面と接触しない第2領域とを含むように設置した。また、支持部材11と剥離シート21との間には、ニッケルを含み、三次元網目構造を有している多孔層を設置した。この多孔層は、平均孔径が0.85mmであり、1インチ当たりのセル数が26乃至34個の範囲内にあった。
【0108】
その後、上記の分散液L及び製造装置1を使用して、剥離シート21上に導電膜22を形成した。吸引装置13による吸引は、噴霧装置12による噴霧を開始する前に開始するとともに、噴霧装置12による噴霧を終了した後に終了した。導電膜22の形成は、20枚の剥離シート21に対して連続して行った。
【0109】
また、支持部材11として、吸引孔Hの径が30μmであるものを使用する代わりに、吸引孔Hの径が450μmであるものを使用したこと以外は、上記と同様の方法により、導電膜22の形成を20枚の剥離シート21に対して連続して行った。
【0110】
更に、支持部材11として、吸引孔Hの径が30μmであるものを使用する代わりに、吸引孔Hの径が800μmであるものを使用したこと以外は、上記と同様の方法により、導電膜22の形成を20枚の剥離シート21に対して連続して行った。
【0111】
吸引孔Hの径を、30μm、450μm及び800μmの何れとしても、1枚目の剥離シートから20枚目の剥離シートまで、分散液Lの噴霧及び吸引時に剥離シート21上に液膜を生じることはなかった。
【0112】
(比較例)
吸引装置による吸引を行う代わりに、分散液の噴霧後にホットプレートによる加熱を行って剥離シートから分散媒を除去したこと以外は、上記の実施例と同様の方法により、剥離シート上に導電膜を形成した。
【0113】
<3>導電膜の観察
上記の実施例において形成した導電膜22の各々を肉眼で観察した。また、これら導電膜22の一部について、電子カメラによる撮像と走査電子顕微鏡による撮像とを行った。上記の比較例において形成した導電膜についても、肉眼による観察と電子カメラによる撮像とを行った。
【0114】
図11は、比較例において形成した導電膜を撮像することにより得られた中間調画像である。
図12は、実施例において形成した導電膜を撮像することにより得られた中間調画像である。
図13は、
図12に示す導電膜の顕微鏡写真である。
【0115】
比較例では、分散液Lの噴霧後、剥離シートの表面から分散媒が速やかに除去されることはなかった。この場合、
図11に示すように、カーボンナノチューブの面内分布が不均一な導電膜が得られた。
【0116】
これに対し、実施例では、分散液Lの噴霧及び吸引時に剥離シートの表面から分散媒が速やかに除去された。この場合、
図12に示すように、カーボンナノチューブの面内分布が均一な導電膜22が得られた。そして、これら導電膜22の表面は、吸引孔Hに対応した凹みは生じておらず、平坦であった。また、これら導電膜22では、
図13に示すように、カーボンナノチューブ又はそれらの束は、長さ方向が様々であり、多数個所で互いに接触していた。
【0117】
<4>転写
実施例において得られた導電膜転写シート2の各々を、
図9及び
図10を参照しながら説明した転写に使用した。被転写体3としては、一辺の長さが320mmの正方形状を有し、厚さが0.5mmのガラス板を使用した。
図9に示すように貼り合わせた導電膜転写シート2及び被転写体3は、被転写体3が加熱面に接触するようにホットプレート上に載せ、80℃で3分間に亘って加熱した。これらをホットプレートから移動させ、自然放冷後、剥離シート21を導電膜22から剥離して、
図10に示す物品を得た。
【0118】
<5>表面抵抗値の測定
これら物品の各々の導電膜22について、表面抵抗値を測定した。表面抵抗値は、各導電膜22の15箇所での四端子法による測定によって得られた値を算術平均することにより得た。その結果、全ての導電膜22について、平均値としての表面抵抗値は394Ω/□であり、各測定値は上記平均値に対して±12%の範囲内にあった。
【0119】
<6>透過率の測定
上記物品の各々について、波長550nmにおける光線透過率を測定した。光線透過率は、各導電膜22の56箇所での測定によって得られた値を算術平均することにより得た。その結果、全ての導電膜22について、平均値としての光線透過率は83%であり、各測定値は上記平均値に対して±3%の範囲内にあった。なお、被転写体3の単体での光線透過率は92%であった。
1…製造装置、2…導電膜転写シート、3…被転写体、11…支持部材、12…噴霧装置、13…吸引装置、14…コントローラ、14A…処理部、14B…記憶部、21…剥離シート、22…導電膜、121…ノズルヘッド、221…導電性材料、H…吸引孔、P1…第1部分、P2…第2部分。