(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023116362
(43)【公開日】2023-08-22
(54)【発明の名称】トロール漁具の操作装置
(51)【国際特許分類】
A01K 73/02 20060101AFI20230815BHJP
【FI】
A01K73/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022019128
(22)【出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000110882
【氏名又は名称】ニチモウ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081282
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 俊輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085084
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高英
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 泰生
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 翔
(72)【発明者】
【氏名】胡 夫祥
(72)【発明者】
【氏名】尤 ▲金▼星
【テーマコード(参考)】
2B106
【Fターム(参考)】
2B106CA01
2B106EA09
2B106FA05
2B106MA01
2B106PA06
2B106PA13
2B106PA16
2B106PA19
(57)【要約】
【課題】トロール漁具の水中位置を常時取得して、既に収集しているデータと比較して、トロール漁具を適正位置に合わせるように自動制御することにより、トロール漁具の水中位置を適正に保持することができ、漁場を荒廃させることなくトロール漁具を曳航して漁獲することができるトロール漁具の操作装置を提供すること。
【解決手段】作業船より繰出される1対のワープ、当該各ワープの下流端にそれぞれ取付けられたオッターボードおよび当該両オッターボード間に取付けられたトロール網を含むトロール漁具を操作するトロール漁具の操作装置であって、前記ワープの実運転による張力状態を検出するワープ張力検出手段と、前記ワープ張力検出手段によって検出されたワープの張力状態に基づき、前記トロール漁具の離着底状態に相当する前記トロール網および前記オッターボードの離着底状態を判断する離着底状態判断手段とを備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業船より繰出される1対のワープ、当該各ワープの下流端にそれぞれ取付けられたオッターボードおよび当該両オッターボード間に取付けられたトロール網を含むトロール漁具を操作するトロール漁具の操作装置であって、
前記ワープの実運転による張力状態を検出するワープ張力検出手段と、
前記ワープ張力検出手段によって検出されたワープの張力状態に基づき、前記トロール漁具の離着底状態に相当する前記トロール網および前記オッターボードの離着底状態を判断する離着底状態判断手段とを備える
ことを特徴とするトロール漁具の操作装置。
【請求項2】
前記離着底状態判断手段は、前記ワープ張力検出手段によって検出されたワープの張力状態が、前記トロール漁具が海底より離れている双方離底状態と、前記トロール網のみが海底に着底しているトロール網着底状態と、前記トロール網および前記オッターボードが共に海底に着底している双方着底状態とからなる3種の離着底状態のいずれの離着底状態に相当するのか判断するように形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のトロール漁具の操作装置。
【請求項3】
前記離着底状態判断手段は、前記トロール漁具について予め収集されたワープの張力状態からなる前記離着底状態を示す離着底状態ストックデータと、前記ワープ張力検出手段によって検出された実運転によるワープの張力状態とを比較することにより、いずれの離着底状態に相当するのか判断するように形成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のトロール漁具の操作装置。
【請求項4】
前記離着底状態ストックデータは、初期値としての事前シミュレーションによって計測された前記3種の離着底状態に分類されているシミュレーション離着底状態初期値に対して、前記トロール漁具の実運転によって計測されるとともに前記離着底状態判断手段によって判断された前記3種の離着底状態に分類されている離着底状態実運転値を順に加えることにより更新形成されることを特徴とする請求項3に記載のトロール漁具の操作装置。
【請求項5】
実運転による前記トロール漁具の離着底状態を調整もしくは前記3種の離着底状態のいずれかに調整して実運転させる実運転実行手段と、
前記実運転実行手段に対して、前記離着底状態判断手段によって判断された実運転による離着底状態を維持もしくは変更する内容の運転状態を指示する運転状態指示手段と
を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のトロール漁具の操作装置。
【請求項6】
前記ワープ張力検出手段、前記離着底状態判断手段、前記実運転実行手段および前記運転状態指示手段を関連動作させる中央運転制御手段を備えており、前記中央運転制御手段は前記ワープ張力検出手段、前記離着底状態判断手段、前記実運転実行手段および前記運転状態指示手段の動作をフィードバック処理して前記トロール漁具の運転状態を適正な離着底状態に導くように形成されているとともに前記離着底状態ストックデータを含む運転履歴を管理、学習および更新するように形成されていることを特徴とする請求項5に記載のトロール漁具の操作装置。
【請求項7】
前記実運転実行手段は、前記ワープの巻き上げおよび繰出しを行うワープウインチと、前記作業船の船速を調整する船速調整手段との少なくとも一方によって形成されていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のトロール漁具の操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトロール漁具の操作装置に係り、特に、漁場を荒廃させることなくトロール漁具を曳航して漁獲することに好適なトロール漁具の操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、トロール漁具は漁獲用漁具の1種類として広く用いられており、通常は、漁船から左右1対のトロールウインチに巻回されているワープを引き出し、そのワープの先端に1対のオッターボードを介在させてトロール網の左右の開口部を接続して、曳航するように形成されている。漁船の航行によってオッターボードがトロール網の網口を拡開させて、漁獲物をトロール網内に漁獲する。
【0003】
このようなトロール漁法において漁獲効率を向上させるために各種の工夫が提案されている。例えば、特許文献1においては、発見魚群に対してトロール漁具を適正位置に合わせるように自動制御して漁獲効率を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
今日の漁業事情においては、漁業資源の確保、漁場の荒廃防止を図りつつ漁獲効率の向上を図ることが望まれている。
【0006】
トロール漁法においても同様な要請があるが、従来においては、底魚(エビ、カニ等を含む)を漁獲する場合に、オッターボードおよびトロール網を漁場の底部に着底させて曳航するために、底魚を含む漁獲物の育成・産卵場所となっている漁場の底部の環境破壊が起こされて、漁場が荒廃したり漁業資源が低減したりするなどの問題点があった。
【0007】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、トロール漁具の水中位置を常時取得して、既に収集しているデータと比較して、トロール漁具を適正位置に合わせるように自動制御ことにより、トロール漁具の水中位置を適正に保持することができ、漁場を荒廃させることなくトロール漁具を曳航して漁獲することができるトロール漁具の操作装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため本発明の発明者等は鋭意研究して、トロール漁具の模型を用いてトロール漁具の水中位置に関連する種々のデータを模型シミュレーションによって計測して求めてトロール漁法の改善を図った。その結果、模型シミュレーションによって求めたトロール漁具の離底状態を示すデータや数値シミュレーションによって求めたトロール漁具の離底状態を示すデータと、トロール漁具の実運転によって求めたトロール漁具の離底状態を示すデータとが同一の特性を示すことを確認して本発明を完成させた。本発明においては模型シミュレーションと数値シミュレーションを合わせて事前シミュレーションという。
【0009】
具体的には、トロール漁具が接続されているワープに作用する張力は、トロール漁具が海底より離れている双方離底状態と、トロール網のみが海底に着底しているトロール網着底状態と、トロール網およびオッターボードが共に海底に着底している双方着底状態の3種類の場合において、それぞれ事前シミュレーションによって求めた張力を示すデータと、トロール漁具の実運転によって求めた張力を示すデータとが同一の特性を示すものであった。
【0010】
本発明の第1の態様のトロール漁具の操作装置は、作業船より繰出される1対のワープ、当該各ワープの下流端にそれぞれ取付けられたオッターボードおよび当該両オッターボード間に取付けられたトロール網を含むトロール漁具を操作するトロール漁具の操作装置であって、前記ワープの実運転による張力状態を検出するワープ張力検出手段と、前記ワープ張力検出手段によって検出されたワープの張力状態に基づき、前記トロール漁具の離着底状態に相当する前記トロール網および前記オッターボードの離着底状態を判断する離着底状態判断手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
この第1の態様の本発明によれば、ワープ張力検出手段によって検出された実運転におけるワープの張力状態に基づいて離着底状態判断手段がトロール漁具の離着底状態を正確に判断して、適正なトロール漁業を実行することができる。
【0012】
また、本発明の第2の態様のトロール漁具の操作装置は、第1の態様において、前記離着底状態判断手段は、前記ワープ張力検出手段によって検出されたワープの張力状態が、前記トロール漁具が海底より離れている双方離底状態と、前記トロール網のみが海底に着底しているトロール網着底状態と、前記トロール網および前記オッターボードが共に海底に着底している双方着底状態とからなる3種の離着底状態のいずれの離着底状態に相当するのか判断するように形成されていることを特徴とする。
【0013】
この第2の態様の本発明によれば、ワープ張力検出手段によって検出された実運転におけるワープの張力状態に基づいて離着底状態判断手段が、トロール漁具の全体が海底より離れている双方離底状態と、前記トロール網のみが海底に着底しているトロール網着底状態と、前記トロール網および前記オッターボードが共に海底に着底している双方着底状態とからなる3種の離着底状態のいずれの離着底状態に相当するのかを正確に判断して、適正なトロール漁業を実行することができる。
【0014】
また、本発明の第3の態様のトロール漁具の操作装置は、第1または第2の態様において、前記離着底状態判断手段は、前記トロール漁具について予め収集されたワープの張力状態からなる前記離着底状態を示す離着底状態ストックデータと、前記ワープ張力検出手段によって検出された実運転によるワープの張力状態とを比較することにより、いずれの離着底状態に相当するのか判断するように形成されていることを特徴とする。
【0015】
この第3の態様の本発明によれば、ワープ張力検出手段によって検出された実運転におけるワープの張力状態を、離着底状態判断手段によって離着底状態ストックデータと比較することによってトロール漁具の全体が海底より離れている双方離底状態と、前記トロール網のみが海底に着底しているトロール網着底状態と、前記トロール網および前記オッターボードが共に海底に着底している双方着底状態とからなる3種の離着底状態のいずれの離着底状態に相当するのかをより正確に判断して、適正なトロール漁業を実行することができる。
【0016】
また、本発明の第4の態様のトロール漁具の操作装置は、第3の態様において、前記離着底状態ストックデータは、初期値としての事前シミュレーションによって計測された前記3種の離着底状態に分類されているシミュレーション離着底状態初期値に対して、前記トロール漁具の実運転によって計測されるとともに前記離着底状態判断手段によって判断された前記3種の離着底状態に分類されている離着底状態実運転値を順に加えることにより更新形成されることを特徴とする。
【0017】
この第4の態様の本発明によれば、離着底状態ストックデータが、事前シミュレーションによって計測された3種の離着底状態に分類されているシミュレーション離着底状態初期値に対して、トロール漁具の実運転によって計測されるとともに離着底状態判断手段によって判断された3種の離着底状態に分類されている離着底状態実運転値を順に加えることにより更新形成されるので、実運転を重ねるほどに離着底状態ストックデータの精度が実運転を忠実に反映するものとなり、精度の向上を図ることができる。
【0018】
また、本発明の第5の態様のトロール漁具の操作装置は、第1から第4のいずれかの態様において、実運転による前記トロール漁具の離着底状態を調整もしくは前記3種の離着底状態のいずれかに調整して実運転させる実運転実行手段と、前記実運転実行手段に対して、前記離着底状態判断手段によって判断された実運転による離着底状態を維持もしくは変更する内容の運転状態を指示する運転状態指示手段とを有することを特徴とする。
【0019】
この第3の態様の本発明によれば、運転状態指示手段が実運転実行手段に対して、離着底状態判断手段によって判断された実運転による離着底状態を維持もしくは変更する内容の運転状態を指示することにより、トロール漁具の離着底状態が適正な内容に保持されることとなり、漁場を荒廃させることなくトロール漁具を曳航して漁獲することができる。
【0020】
本発明の第6の態様のトロール漁具の操作装置は、第5の態様において、前記ワープ張力検出手段、前記離着底状態判断手段、前記実運転実行手段および前記運転状態指示手段を関連動作させる中央運転制御手段を備えており、前記中央運転制御手段は前記ワープ張力検出手段、前記離着底状態判断手段、前記実運転実行手段および前記運転状態指示手段の動作をフィードバック処理して前記トロール漁具の運転状態を適正な離着底状態に導くように形成されているとともに前記離着底状態ストックデータを含む運転履歴を管理、学習および更新するように形成されていることを特徴とする。
【0021】
この第6の態様の本発明によれば、前記中央運転制御手段が前記離着底状態判断手段、前記実運転実行手段および前記運転状態指示手段の動作をフィードバック処理して前記トロール漁具の運転状態を適正な離着底状態に導くことができ、更に前記離着底状態ストックデータを含む運転履歴を管理、学習および更新することができ、漁場を荒廃させることなくトロール漁具を曳航して漁獲することができる。
【0022】
また、本発明の第7の態様のトロール漁具の操作装置は、第5または第6の態様において、実運転実行手段は、前記ワープの巻き上げおよび繰出しを行うワープウインチと、作業船の船速を調整する船速調整手段との少なくとも一方によって形成されていることを特徴とする。
【0023】
この第7の態様の本発明によれば、運転状態指示手段より目指すべき運転状態の指示を受けた実運転実行手段の一方のワープウインチが、ワープの巻き上げ状態を調整することによりトロール漁具の離底状態を指示内容に合わせることができ、他方の船速調整手段が、作業船の船速を調整することによりトロール漁具の離底状態を指示内容に合わせることができ、漁場を荒廃させることなくトロール漁具を曳航して漁獲することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、トロール漁具の水中位置を常時取得して、既に収集しているデータと比較して、トロール漁具を適正位置に合わせるように自動制御ことにより、トロール漁具の水中位置を適正に保持することができ、漁場を荒廃させることなくトロール漁具を曳航して漁獲することができるトロール漁具の操作装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係るトロール漁具の操作装置の模型シミュレーションの状態を示す斜視図であって、(a)はトロール網およびオッターボードが共に海底に着底している双方着底状態を示す斜視図、(b)はトロール網のみが海底に着底しているトロール網着底状態を示す斜視図、(c)はトロール漁具の全体が海底より離れている双方離底状態を示す斜視図。
【
図2】
図1の模型シミュレーションによって測定された時系列ワープ張力を示す特性図であって、同図左半部は測定された生データからなる時系列ワープ張力を示す特性図、同図右半部は左半部に示す生データの時系列ワープ張力とその生データをフィルタ処理した加工データとを一緒に示す特性図、同図上段の左右の特性図はトロール網およびオッターボードが共に海底に着底している双方着底状態を示す特性図、同図中段の左右の特性図はトロール網のみが海底に着底しているトロール網着底状態を示す特性図、同図下段の左右の特性図はトロール漁具の全体が海底より離れている双方離底状態を示す特性図。
【
図3】
図2に示された時系列ワープ張力を示す特性より特徴ベクトルを求め、当該特徴ベクトルより標準偏差、四分位範囲、ピーク周波数、自己相関係数を求める原理を示す説明図。
【
図4】(a)は
図3に示す原理によって求められた標準偏差と確率密度との関係を示す特性図、(b)は
図3に示す原理によって求められた四分位範囲と確率密度との関係を示す特性図、(c)は
図3に示す原理によって求められたピーク周波数と確率密度との関係を示す特性図、(d)は
図3に示す原理によって求められた自己相関係数と確率密度との関係を示す特性図。
【
図5】本発明に係るトロール漁具の操作装置の実施形態を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0027】
<本発明の事前シミュレーション>
図1は本発明の事前シミュレーションとして模型シミュレーションを実行したシミュレーション装置1の概要を示している。
【0028】
シミュレーション装置1においては、トロール漁具の曳航試験を実行する水槽2としてニチモウ株式会社製曳航水槽(長さ100m、水路幅5 m、水深 1.5 m)を用いた。
【0029】
この水槽2には図示しない曳航装置(実操業の作業船に相当)が水槽2の長手方向(
図1の左右方向)に移動自在に設けられている。その曳航装置より下流側向き(
図1の左方向)に模型のトロール漁具3が繰り出されている。
【0030】
更に説明すると、トロール漁具3の最上流側に配置される1対のワープ4a、4bが曳航装置より繰出されており、当該各ワープ4a、4bの下流端にそれぞれオッターボード5a、5bが取付けられており、当該両オッターボード5a、5bより繰り出された網ペンネント6a、6bの下流端間にトロール網7が取り付けられている。この模型のトロール網7は、例えば、実際の6枚型底曳きトロール網(全長46.5m、ヘッドロープ長37.8m)の1/18の縮尺比で作成されている。ヘッドロープには複数の浮子8が取り付けられており、グランドロープは沈降力を有するゴム製のボビンとチェーン9が取り付けされている。オッターボード5a、5bとしては中底層兼用型高揚力オッターボードの模型とするとよい。また、両ワープ4a、4bの途中には曳航時に各ワープ4a、4bに作用する張力を計測する小型の張力計10a、10bが設けられている。水槽2の底質11としては、砂地領域、小石領域、大石領域、岩礁領域を選択して敷設するとよい。砂地領域、小石領域、大石領域、岩礁領域の粒径は田内模型相似則を適用して調整するとよい。
【0031】
次に、シミュレーション装置1によるシミュレーション離着底状態初期値データの収集の概要を説明する。
【0032】
本発明者等は、
図1に示すシミュレーション装置1により、曳航装置を作動させて、水槽2内のトロール漁具3を曳航して1対のワープ4a、4bに取付けている各張力計10a、10bによって各ワープ4a、4bに作用する張力を測定して分析した。
【0033】
具体的には、
図1(a)に示すようにトロール網7および両オッターボード5a、5bが共に海底に相当する底質11に着底している双方着底状態(以下、「双方着底状態」という)と、
図1(b)に示すようにトロール網7のみが海底に相当する底質11に着底しているトロール網着底状態(以下、「トロール網着底状態」という)と、
図1(c)に示すようにトロール網7および両オッターボード5a、5bが共に海底に相当する底質11から離れている双方離底状態(以下、「双方離底状態」という)
となるように曳航装置を移動させて、トロール漁具3を曳航して1対のワープ4a、4bに取付けている各張力計10a、10bによって各ワープ4a、4bに作用する張力を測定して分析した。
【0034】
図2の左半分は測定した張力の10秒間にわたる時系列ワープ張力の生データを示し、同図右半部は左半部に示す10秒間にわたる生データの時系列ワープ張力とその生データをフィルタ処理した加工データとを一緒に示す。そして、
図2の上段の左右の特性図はトロール網7およびオッターボード5a、5bが共に海底に着底している双方着底状態を示し、同図中段の左右の特性図はトロール網7のみが海底に着底しているトロール網着底状態を示し同図下段の左右の特性図はトロール漁具3の全体が海底より離れている双方離底状態を示している。
【0035】
図2に示す通り、シミュレーションによって得られた時系列ワープ張力の特性は、双方着底状態、トロール網着底状態および双方離底状態の3種においてそれぞれ異なるパターンを有することが分かった。
【0036】
本発明においては、双方着底状態、トロール網着底状態および双方離底状態の3種の状態について多数回のシミュレーション測定を実行して、それぞれの状態を表す時系列ワープ張力群を形成して、シミュレーション離着底状態初期値データとしてストックした。
【0037】
次に、トロール漁具の実運転によって求めた張力を示すデータの判断方法を説明する。
【0038】
本発明においては、事前シミュレーションによって求めた双方着底状態、トロール網着底状態および双方離底状態に対応する3種類の張力を示すシミュレーション離着底状態初期値データと、トロール漁具の実運転によって求めた3種類の張力を示すデータとが同一の特性を示すものであったことに基づいて、中央運転制御手段によって例えばAIを用いて判断することとしている。
【0039】
この中央運転制御手段による判断方法を
図3および
図4により説明する。
【0040】
図3の左半部の頂部に示されている種類が未知の時系列ワープ張力に対して特徴量ベクトルを取り出し、当該特徴量ベクトルが保有している特徴量をニューラルネットワークの手順に従ってAIによって分析することによって、未知である種類が双方着底状態、トロール網着底状態および双方離底状態のいずれに属するかを判断する。
【0041】
特徴量ベクトルが保有している特徴量としては、
図3の右半部に示すように、時系列ワープ張力データに対してローパス処理を実行して標準偏差を求め、ハイパス処理を実行して四分位範囲を求め、周波数領域に対してフーリエ変換によるパワースペクトルを算出してピーク周波数を求め、周期性の遅延時間についての自己相関関数を算出して自己相関関数を求めて、適用するとよい。
【0042】
これらの標準偏差、四分位範囲、ピーク周波数および自己相関関数は、シミュレーションにおいて多数の事例を求めて統計処理すると、
図4(a)~(d)に示すように、確率密度との関係の特性が、それぞれ双方着底状態、トロール網着底状態および双方離底状態の3種の状態に明確に分類分布されるようになる。従って、シミュレーション離着底状態初期値データとしては、より多くの事例を実行して3種類の相違が明確になるようにするとよく、更にトロール漁具の実運転によって求めた3種類の張力を示すデータもシミュレーション離着底状態初期値データに加算して離着底状態ストックデータを形成するように学習、更新するとよい。
【0043】
次に、本発明のトロール漁具の操作装置について
図5により説明する。
【0044】
本実施形態のトロール漁具の操作装置21(以下、「操作装置21」という)は図示しない作業船の操舵室に設置するとよい。作業船の船尾側には1対のワープウインチ22a、22bが設置されており、それぞれが1対のワープ23a、23bをもってトロール漁具24の繰出し巻上げを実行する。当該各ワープ23a、23bの下流端にそれぞれオッターボード25a、25bが取付けられており、両オッターボード25a、25bより繰り出された網ペンネント26a、26bの下流端間にトロール網27が取り付けられている。各ワープウインチ22a、22bには各ワープ23a、23bに作用する張力を計測するワープ張力検出手段となる張力計28a、28bが取付けられている。前記トロール漁具24海底との離着底状態を調整しながら実運転させる実運転実行手段としては、前記ワープウインチ22a、22bと作業船の船速を調整するエンジン29とを採用している。
【0045】
操作装置21には、全体の制御系として中央運転制御手段31を設けている。この中央運転制御手段31には離着底状態判断手段32、運転状態指示手段33、AI等の中央演算部34、メモリ35等が設けられている。
【0046】
具体的には、各張力計28a、28bによって検出されたワープの張力状態は中央運転制御手段31に設けられている離着底状態判断手段32に出力される。この離着底状態判断手段32においては、張力計28a、28bによって検出されたワープの張力状態を分析して、ワープの張力状態が、トロール漁具24が海底より離れている双方離底状態と、トロール網27のみが海底に着底しているトロール網着底状態と、トロール網27およびオッターボード25a、25bが共に海底に着底している双方着底状態とからなる3種の離着底状態のいずれの離着底状態に相当するのか判断するように形成されている。更に、離着底状態判断手段32は、トロール漁具24について予め収集されたワープの張力状態からなる離着底状態を示す離着底状態ストックデータと、ワープ張力検出手段である張力計28a、28bによって検出された実運転によるワープの張力状態とを比較することにより、いずれの離着底状態に相当するのか判断するように形成されている。また、メモリ35にメモリされている離着底状態ストックデータは、初期値としての事前シミュレーションによって計測された3種の離着底状態に分類されているシミュレーション離着底状態初期値に対して、トロール漁具24の実運転によって計測されるとともに離着底状態判断手段32によって判断された3種の離着底状態に分類されている離着底状態実運転値を順に加えることにより更新形成されていく。
【0047】
運転状態指示手段33は実運転実行手段であるワープウインチ22a、22bと作業船のエンジン29の一方もしくは双方に対して、離着底状態判断手段32によって判断された実運転による離着底状態を維持もしくは変更する内容の運転状態を指示するように形成されている。
【0048】
中央運転制御手段31は、ワープ張力検出手段である張力計28a、28b、離着底状態判断手段32、実運転実行手段であるワープウインチ22a、22bと作業船の船速を調整するエンジン29および運転状態指示手段33を関連動作させるように形成されている。更に、中央運転制御手段31はワープ張力検出手段である張力計28a、28b、離着底状態判断手段32、実運転実行手段であるワープウインチ22a、22bと作業船の船速を調整するエンジン29および運転状態指示手段33の動作をフィードバック処理してトロール漁具24の運転状態を適正な離着底状態に導くように形成されているとともにメモリ35に対して離着底状態ストックデータを含む運転履歴を管理、学習および更新するように形成されている。
【0049】
次に、操作装置1の作用を説明する。
【0050】
トロール漁業の実運転を開始し、トロール漁具24を水中に投入するとともに張力計28a、28bによる張力計測を開始する。
【0051】
トロール網27が海底に着底する程度にワープ23a、23bが繰り出された際には、張力計28a、28bから
図2の右半部に示されている生データが出力される。中央運転制御手段31の離底状態判断手段32および中央演算部33において、
図2の左半部に示されている時系列ワープ張力が求められ、その後
図3の左半部の頂部に示す特徴量ベクトルが算出され、続いて特徴量をニューラルネットワークの手順に従って分析することによって、実測された時系列ワープ張力が双方着底状態、トロール網着底状態および双方離底状態のいずれに属するかが判断される。具体的には、離着底状態判断手段32は、トロール漁具24について予め収集されたワープの張力状態からなる離着底状態を示す離着底状態ストックデータと、ワープ張力検出手段である張力計28a、28bによって検出された実運転によるワープの張力状態とを比較することにより、いずれの離着底状態に相当するのか判断する。また、メモリ35にメモリされている離着底状態ストックデータは、初期値としての事前シミュレーションによって計測された3種の離着底状態に分類されているシミュレーション離着底状態初期値に対して、トロール漁具24の実運転によって計測されるとともに離着底状態判断手段32によって判断された3種の離着底状態に分類されている離着底状態実運転値を順に加えて更新する。
【0052】
次に、運転状態指示手段33が実運転実行手段であるワープウインチ22a、22bと作業船のエンジン29の一方もしくは双方に対して、離着底状態判断手段32によって判断された実運転による離着底状態を維持もしくは変更する内容の運転状態を指示する。
【0053】
一方のワープウインチ22a、22bはワープ23a、23bの繰り出しまたは巻上げもしくは現状維持を実行し、他方の作業船のエンジン29は船速を増速、減速、現状維持を実行する。
【0054】
船速が一定の場合にはワープ23a、23bの繰り出し長さに応じて双方着底状態、トロール網着底状態および双方離底状態の3種の状態に分けることができるので、トロール漁具24を底から離す場合にはワープ23a、23bの繰り出し長さを短くするように巻上げるとよい。
【0055】
ワープ23a、23bの繰り出し長さが一定の場合には船速に応じて双方着底状態、トロール網着底状態および双方離底状態の3種の状態に分けることができるので、トロール漁具24を底から離す場合には船速を増速するとよい。
【0056】
以上の操作によりトロール漁具24を目的の離底状態に移行させてトロール漁業を実行する。
【0057】
更に、以上の操業に伴う中央運転制御手段31等のデータ処理・フィードバックをリアルタイムに繰り返し実行するとよい。
【0058】
これにより、メモリ35にメモリされている離着底状態ストックデータは、初期値としての事前シミュレーションによって計測された3種の離着底状態に分類されているシミュレーション離着底状態初期値に対して、トロール漁具24の実運転によって計測されるとともに離着底状態判断手段32によって判断された3種の離着底状態に分類されている離着底状態実運転値を順に加えて更新されることによって、母数の大きいデータとなり信頼度が向上する。
【0059】
このように本実施形態によれば、トロール漁具の水中位置を常時取得して、既に収集しているデータと比較して、トロール漁具を適正位置に合わせるように自動制御ことにより、トロール漁具の水中位置を適正に保持することができ、漁場を荒廃させることなくトロール漁具を曳航して漁獲することができる。
【0060】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて変更することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 シミュレーション装置
3 トロール漁具
4a、4b ワープ
5a、5b オッターボード
7 トロール網
10a、10b 張力計
21 操作装置
22a、22b トロールウインチ
23a、23b ワープ
24 トロール漁具
25a、25b オッターボード
27 トロール網
28a、28b 張力計
29 エンジン
31 中央運転制御手段
32 離着底状態判断手段
33 運転状態指示手段
34 中央演算部
35 メモリ