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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023118283
(43)【公開日】2023-08-25
(54)【発明の名称】汚染水処理設備及び汚染水処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/06 20060101AFI20230818BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20230818BHJP
【FI】
G21F9/06 501
G21F9/12 501K
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022021149
(22)【出願日】2022-02-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 直希
(72)【発明者】
【氏名】藤畑 健二
(72)【発明者】
【氏名】飯窪 孝
(72)【発明者】
【氏名】福松 輝城
(57)【要約】
【課題】二次廃棄物量の量を抑制しつつ放射性物質を含む汚染水を効率良く処理することのできる汚染水処理設備及び汚染水処理方法を提供する。
【解決手段】数種の放射性核種とその他のイオンが含まれた汚染水を処理し、放射能濃度を目標値まで低減する汚染水処理設備であって、前記汚染水の放射性核種濃度を測定する放射線測定機構と、前記汚染水の共存するイオン量を含む水質情報を測定する水質測定機構と、前記汚染水の前処理を行う前処理機構と、前記汚染水から放射性核種を除去する複数種の放射性核種除去機構と、前記放射線測定機構及び前記水質測定機構の測定結果から、前記前処理機構と複数種の前記放射性核種除去機構との中から前記汚染水の処理に必要となる機構を選択する制御部と、を具備している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の放射性核種とその他のイオンが含まれた汚染水を処理し、放射能濃度を目標値まで低減する汚染水処理設備であって、
前記汚染水の放射性核種濃度を測定する放射線測定機構と、
前記汚染水の共存するイオン量を含む水質情報を測定する水質測定機構と、
前記汚染水の前処理を行う前処理機構と、
前記汚染水から放射性核種を除去する複数種の放射性核種除去機構と、
前記放射線測定機構及び前記水質測定機構の測定結果から、前記前処理機構と複数種の前記放射性核種除去機構との中から前記汚染水の処理に必要となる機構を選択する制御部と、
を具備したことを特徴とする汚染水処理設備。
【請求項2】
請求項1記載の汚染水処理設備であって、
前記制御部は、前記前処理機構と複数種の前記放射性核種除去機構とを接続する配管に設けられた開閉弁を開閉させて前記汚染水の処理に必要となる機構を選択し、選択した機構に前記汚染水を通水させる
ことを特徴とする汚染水処理設備。
【請求項3】
請求項1又は2記載の汚染水処理設備であって、
複数種の前記放射性核種除去機構は、吸着により除去する吸着除去機構と、ろ過により除去するろ過除去機構とを含む
ことを特徴とする汚染水処理設備。
【請求項4】
請求項3記載の汚染水処理設備であって、
前記吸着除去機構は、前記汚染水中に含まれる各放射性核種に対して、核種ごとに単一で除去する吸着材を用いた吸着分離を実施する。
ことを特徴とする汚染水処理設備。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の汚染水処理設備であって、
前記前処理機構は、前記汚染水中に含まれる物質に対して、放射性核種の吸着除去前の粗除去、難吸着性元素の除去、吸着阻害成分の除去、化学形態の安定化、pH調整、沈殿分離、ろ過、遠心分離、脱塩の少なくとも一種を行う、
ことを特徴とする汚染水処理設備。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の汚染水処理設備であって、
前記水質測定機構は、前記汚染水中の放射性粒子の大きさを測定する分析機構を具備している
ことを特徴とする汚染水処理設備。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の汚染水処理設備であって、
前記放射性核種除去機構による処理済の前記汚染水中の放射性核種濃度を測定し、放射能濃度を目標値まで低減されているかを確認するための放射線測定機構と、
放射能濃度を目標値まで低減されていない場合に前記放射性核種除去機構の上流側に処理済の前記汚染水を戻す配管とを具備した
ことを特徴とする汚染水処理設備。
【請求項8】
複数種の放射性核種とその他のイオンが含まれた汚染水を処理し、放射能濃度を目標値まで低減する汚染水処理方法であって、
請求項1乃至7の何れか1項に記載の汚染水処理設備により前記汚染水を処理することを特徴とする汚染水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、汚染水処理設備及び汚染水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力施設におけるシビアアクシデント等に起因して発生する汚染水には、核分裂や核燃料由来のα線放出核種、β線放出核種、γ線放出核種(以下、α、β、γ核種)とその他のイオンが多量に含まれており、それぞれの放射性核種を告示濃度値まで浄化することを目的とした従来の汚染水処理設備はこれまでに様々提案されている。
【0003】
これらの処理対象水中の放射性核種濃度は減衰と共に変化することに加えて、共存イオンの水質も日々変動する場合、処理対象の汚染水の分析を実施しながら汚染水処理を実行していく必要がある。
【0004】
公知技術として、放射性廃棄物の処分分野では、放射性廃棄物の放射能情報に基づいた処分方法を決定し、処分方法を最適化する技術が提案されている(例えば特許文献1)。また、処理装置の入口側と出口側において放射性核種濃度を測定し、装置への通水流量、汚染水を除去する吸着材の添加タイミングを制御し、除去効率の向上と、放射性廃棄物の低減とを図る技術も提案されている(例えば特許文献2)。加えて、液中の鉄濃度を測定し、後段の通水プロセスを変更させるシステムが提案されている(例えば特許文献3)。
【0005】
上記の公知例は、水中の放射能濃度、非放射性核種を両方分析し、あらかじめ用意してある複数の処理手段の中から、最適な処理プロセスを構築する趣旨の技術ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第302416号公報
【特許文献2】特開2004-233307号公報
【特許文献3】特開2021-104481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した、従来のシステムでは、設備入口水に含まれる共存イオン濃度および/または除去対象核種濃度が変化する場合、安定した放射性核種の除去性能を発揮できない問題がある。従って、処理対象水中の放射性核種濃度を目標値まで低減するために、幅広い水質でも一定の除去性能を確保することが課題である。
【0008】
水処理中の除去対象核種を除去する場合、大きく分けて、吸着材を用いた吸着除去と、ろ過の2つの手法がある。吸着除去は溶解性核種の除去に、ろ過等は非溶解性核種の除去に用いられる。
【0009】
吸着除去については、処理対象水中に含まれるイオンによって吸着性能が低下する可能性がある。処理対象水中に除去対象核種と同族元素が存在する場合、非放射性の元素等が吸着材へ吸着する可能性があるため、除去対象核種の除去性能が低下する。例えば、放射性Srについて、同族のアルカリ土類金属である、Ca、Mgが処理対象水中に存在する場合、Sr吸着材に対しては化学的性質が似ているCa、Mgが吸着する。このとき、微量な放射性Srに比べて、豊富に存在するCa、Mgが吸着材の吸着サイトを占有し、除去対象核種であるSrが吸着できない課題がある。
【0010】
処理対象水中の酸化還元電位によっても、除去対象核種の価数や化学形態が変化し、除去性能が確保できない可能性がある。例えばヨウ素について、価数によって化学形態が変化し、適した吸着材が異なるため、複数の吸着材を用意しないと、除去性能を確保できない可能性がある。
【0011】
ろ過については、フィルターの目詰まりによってフィルター出入口の差圧が上昇し、ポンプ等の負荷増大、フィルターへの負荷が増大することによる、機器停止のリスクがある。
【0012】
非溶解性として存在するか溶解性として存在するか、不安定な核種については、吸着除去を選定するか、ろ過等を選択するかで、除去性能が変化する。例えば、α核種であるアクチノイド元素は共存イオンによって、化学形態、化学的性質が変化し、液相中で非溶解性か溶解性かが変化する(参考文献1(ベントナイト中におけるAmのコロイド形成 放射性廃棄物研究 長崎晋也 他)参照)。また、有機物が存在する場合、錯体を形成し、溶解度が変化する可能性がある。
【0013】
また、放射性核種は生成後に減衰していくため、FP(核分裂生成物)や核燃料成分が含まれた汚染水中の放射性核種は、時間と共に除去すべき核種が減少していく。従来のシステムでは、放射性核種の生成初期濃度を基準に設備を構築し、常に一定の処理プロセスで、初期濃度を目標値まで低減可能なスペックで運転している。従って、汚染水中の特定の放射能が減衰等で極微量になっている場合でも、全ての処理プロセスを実行するため、二次廃棄物量が増大する課題がある。
【0014】
例えば、除去想定核種として想定するRu-106は、半減期が370日程度であるため、10年後には処理対象水中にはほとんど存在しない核種となり、処理の必要がない。吸着分離を想定した場合、処理の必要がない装置で除去対象核種が含まれない水を処理すると、水中に含まれる別の成分が吸着してしまい、不要な廃棄物が増大する。
【0015】
また、例えば、含まれる放射性Sr濃度が放射壊変による減衰で十分に低く除去の必要性が低い場合であって、処理対象水中の海水濃度が高い場合、放射性Sr除去装置(吸着分離を想定)内に海水に含まれる非放射性Srが吸着し、吸着容量を圧迫する。
【0016】
従来のシステムは、1つの処理プロセスで処理対象水を通水し目標値まで除去することを想定した設備であるため、複数の処理プロセスを選択することができない。
【0017】
また、設備の運用時には、手動での操作がある場合、放射性物質を取り扱う設備であるため、作業員の被ばくが問題となる。
【0018】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、二次廃棄物量の量を抑制しつつ放射性物質を含む汚染水を効率良く処理することのできる汚染水処理設備及び汚染水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
実施形態の汚染水処理設備は、複数種の放射性核種とその他のイオンが含まれた汚染水を処理し、放射能濃度を目標値まで低減する汚染水処理設備であって、前記汚染水の放射性核種濃度を測定する放射線測定機構と、前記汚染水の共存するイオン量を含む水質情報を測定する水質測定機構と、前記汚染水の前処理を行う前処理機構と、前記汚染水から放射性核種を除去する複数種の放射性核種除去機構と、前記放射線測定機構及び前記水質測定機構の測定結果から、前記前処理機構と複数種の前記放射性核種除去機構との中から前記汚染水の処理に必要となる機構を選択する制御部と、を具備している。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実施形態によれば、二次廃棄物量の量を抑制しつつ放射性物質を含む汚染水を効率良く処理することのできる汚染水処理設備及び汚染水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係る汚染水処理設備の概略構成を模式的に示す図。
図2図1の変形例に係る汚染水処理設備の概略構成を模式的に示す図。
図3】除去対象核種の一覧を示す図。
図4】第1実施形態に使用するα粒子の検出装置の概略構成を模式的に示す図。
図5】α線の計数率から粒子径への換算方法を説明するための図。
図6】実施形態に係る汚染水処理方法を示すフロー図。
図7】第2実施形態に係る汚染水処理設備の要部概略構成を模式的に示す図。
図8】第3実施形態に係る汚染水処理設備の要部概略構成を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係る汚染水処理設備及び汚染水処理方法の詳細を、図面を参照して説明する。
【0023】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る汚染水処理設備及び汚染水処理方法について、図1を参照して説明する。本実施形態において想定される処理を行う汚染水は、例えば、原子力施設のシビアアクシデント等に起因して発生する、α線、β線、γ線核種等の放射性各種、及びその他のイオンが大量に含まれた汚染水である。
【0024】
図1は、第1実施形態に係る汚染水処理設備の概略構成を模式的に示す図である。図1において、1は処理を行う汚染水の水源であり、水源1から開閉弁31、ポンプ30を介して取水した汚染水は、粒子除去フィルター2によってSS(懸濁固体)成分を除去した後、一次受けタンク3へ貯留する。
【0025】
図1に示した汚染水処理設備は、α核種の除去後に、β、γ核種を除去することを想定した構成となっている。α核種を取り扱う設備であるため、被ばく、管理の観点からα核種の管理範囲をなるべく少なくするために、α核種の除去後に、β、γ核種除去を実施する。図1では、一次受けタンク3の下流に設けられたα線・水質分析装置4から、中継タンク10の手前までがα核種の除去のための設備であり、中継タンク10の下流側に設けられたβ、γ線・水質分析装置11から処理済み水タンク17の手前までがβ、γ核種の除去のための設備である。
【0026】
一方、図2に示すように、β、γ核種の除去後にα核種を除去する構成としてもよい。β、γ核種は外部被ばくの要因となり、設備上流で除去しておくことで、設備全体の線量を大幅に低減することができる。図2では、一次受けタンク3の下流に設けられたβ、γ線・水質分析装置11から中継タンク10の手前までがβ、γ核種の除去のための設備であり、中継タンク10の下流側に設けられたα線・水質分析装置4から、処理済み水タンク17の手前までがα核種の除去のための設備である。
【0027】
図3に例として、汚染水処理設備において想定される除去対象核種を示す。図3の例では、No.1のRb-86から、No.68のPu-242までの合計68種の核分裂生成物や燃料由来の中半減期核種から、長半減期核種が示されている。本実施形態では、これらの核種が含まれるとともに、海水成分や、鉄成分、地下水成分等が含まれる汚染水を処理することを想定する。
【0028】
図1に示す粒子除去フィルター2は、水源1中に含まれる比較的粒径の大きなSS成分や非溶解性成分等の除去を想定しているため、例えば、その口径は数mm程度とする。一次受けタンク3では、処理対象水に濃度勾配がつかないように、撹拌機を設置し、緩速運転の運用とすることが望ましい。
【0029】
一次受けタンク3の下流には、開閉弁32、ポンプ33を介挿された配管により接続されたα線・水質分析装置4が設置されている。α線・水質分析装置4は、処理対象の汚染水中に含まれるα線核種から放出されるα線と、pHや海水成分等の共存イオン濃度といった水質を自動測定する。これによって、処理対象の汚染水中に含まれる放射性核種濃度を定量し、除去すべき放射性核種の選定と事前に設定してある目標値に対して、どの程度除去する必要があるかを決定する。
【0030】
α線の測定は、液体のままオンラインで測定することとし、例えばZnSシンチレーション検出器等を用いる。α核種については、下流の処理プロセスを決定するための水質分析としては、例えば、pHの測定を自動、オンラインで行う。α核種はpHによって、存在形態が変化することが知られており(参考文献1参照。)、液相中では大別すると溶解性と非溶解性の2つの形態で存在する。溶解性α核種の除去については吸着除去が効果的である。一方で、非溶解性α核種の除去については、ろ過などの膜分離が有効である。そのため、液中のα核種等の化学形態を水質のpHを測定することで予測し、除去装置の選定を行う。
【0031】
また、放射性核種特有の現象として、ラジオコロイドを生成し、溶解度をはるかに下回る領域ではイオン種とは異なり、コロイド的な挙動をとる可能性がある。特にα核種はラジオコロイドの生成が顕著である(参考文献1参照。)。そのため、液相中のα核種の粒子径を確認し、最適な処理方法を選定することが好ましい。
【0032】
図4図5は、液相中のα核種の粒子径を測定する方法の例を示している。図4に示すように、α線測定用一次貯留タンク63内の分析対象水の一部をセル62内に分取し、液中に存在するα線がイメージングプレート61に作用して発生するシンチレーション光を電子増倍CCDカメラ付きの光学顕微鏡60によって検出する。そして、シチュエーション光の計数率によって、α核種の粒子径を推定する。図5は、シチュエーション光の計数率とα核種の粒子径との関係を示すグラフの例であり、α核種の粒子径が大きくなるとシチュエーション光の計数率が多くなる(参考文献2(Plutonium dioxide particle imaging using a high-resolution alpha imager for radiation protection(放射線防護のための高位置分解能α線イメージング検出器を用いた二酸化プルトニウム粒子のイメージング) Yuki Morishita et,al)参照)。なお、図4においては、イメージングプレート61を交換することでα核種の粒子径だけではなく、β核種の粒子径、γ核種の粒子径も測定可能である。
【0033】
α線・水質分析装置4の分析システム中の制御部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random AccessMemory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等で構成されている。図1中点線で示すように、このα線・水質分析装置4の分析システム中の制御部によって、各開閉弁35-43の開閉が制御され、後述する除去対象核種の最適な処理プロセスを構築する。
【0034】
α線・水質分析装置4の下流には、α核種の除去を想定した装置が配置され、配管と開閉弁35-45によって接続されており、開閉弁35-45の開閉操作によって使用する装置を選択可能とされている。また、配管にはポンプ34、46,57が設けられている。α核種の除去プロセスについては、前処理プロセスと、除去プロセスとに大別される。
【0035】
前処理プロセスは、前処理装置5にて行われる。この前処理プロセスは、放射性核種の吸着除去前の粗除去、難吸着性元素の除去、吸着阻害成分の除去、化学形態の安定化、pH調整、沈殿分離、ろ過、遠心分離、脱塩の少なくとも一種を行う。例えばpH調整により、α核種を溶解性または非溶解性に化学形態を揃えるプロセスや、塩化第二鉄と水酸化ナトリウムを添加し、槽内のpHを中性に調整し、水酸化鉄沈殿を生成させて、共沈によるα核種の粗除去を実施するプロセス等がある。前処理装置5には、前処理用薬液貯槽6が設けられている。
【0036】
除去プロセスは、ろ過除去機構としての非溶解性除去装置7と吸着除去装置8で実施する。非溶解性除去装置7としては、例えば、粒径が0.1μm程度以上の粒子の除去を想定し、遠心分離やセラミックフィルターでのろ過装置等を設置する。吸着除去装置8は、粒径がより小さいものを対象とし、核種ごとに単一で除去する吸着材を用いた吸着塔方式やバッチ処理方式での吸着分離等を実施する。
【0037】
α核種除去装置である上記した非溶解性除去装置7及び吸着除去装置8の下流には、α線分析装置9が設置され、全α線を測定する。放射線検出器や制御部の構成は、α線・水質分析装置4と同様の構成とすることができる。α線分析装置9の下流側には、一次受けタンク3へ戻し再処理するラインへ接続する、開閉弁44が介挿された配管と、中継タンク10へ移送し下流のβ、γ核種の除去プロセスへ接続する、開閉弁45が介挿された配管とが配置されている。また、ここにはポンプ46が設けられている。
【0038】
中継タンク10より下流は、β、γ核種除去プロセスである。中継タンク10の下流には、開閉弁47が介挿された配管を介してβ、γ線・水質分析装置11が接続されている。そして、中継タンク10からβ、γ線・水質分析装置11に通水され、ここでβ、γ核種を定量する。放射線の検出器としては、β線については、例えばプラスチックシンチレーション検出器等、γ線については、例えばGe半導体検出器や、NaIシンチレーション検出器等を用い、液体のままオンラインで測定可能となっている。
【0039】
β、γ線・水質分析装置11では、水質分析として、pHやCa濃度、Mg濃度、塩化物イオン濃度等をオンラインで自動測定する。
【0040】
β、γ線・水質分析装置11の制御部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等で構成されている。
【0041】
β、γ線・水質分析装置11の下流には、β、γ線核種の除去を想定した装置が配置され、配管と開閉弁49、50,51、53,54によって接続されている。また、これらの配管には、ポンプ48、52、55が設けられている。β、γ核種除去プロセスは、前処理プロセスと、除去プロセスに大別される。
【0042】
前処理プロセスは、前処理装置12にて行われる。この前処理プロセスは、放射性核種の吸着除去前の粗除去、難吸着性元素の除去、吸着阻害成分の除去、化学形態の安定化、pH調整、沈殿分離、ろ過、遠心分離、脱塩の少なくとも一種を行う。例えば、難吸着性核種であるCo、Mu等を除去するために、塩化第二鉄と水酸化ナトリウムを添加し、槽内のpHを中性に調整し、水酸化鉄沈殿を生成させて共沈による除去を行う。また、放射性Srを除去する際に、液中にCa、MgなどのSrの吸着妨害元素がある場合、放射性Srの吸着性能が低下するため、Ca、Mgの除去方法として、槽内に炭酸ナトリウムを添加し、炭酸塩沈殿を生成させる等の処理を行う。前処理装置12には、前処理用薬液貯槽13が設けられている。
【0043】
前処理装置12にて前処理を実施後には、前処理用フィルター14を通過させてスラッジ等を回収し、この後、除去プロセスを実施する。除去プロセスでは、吸着除去装置15にて核種ごとに単一で除去する吸着材を用いた吸着塔方式やバッチ処理方式での吸着分離等を実施する。
【0044】
吸着除去装置15の下流には、β、γ線分析装置16を設置する。放射線検出器と制御部の構成はβ、γ線・水質分析装置11と同様とすることができる。β、γ線分析装置16の下流には処理済み水タンク17を設置し、除去対象核種について目標値以下まで低減された水を貯蔵する。
【0045】
α線・水質分析装置4、α線分析装置9、β、γ線・水質分析装置11、β、γ線分析装置16について、例えば、Ca測定等は分析に時間がかかり、処理速度が遅くなる恐れがある。従って、分析に時間がかかる項目については最近のトレンドから、現状の水質を予測し、処理を実行するプロセスも可能とする。また、原子力プラント等のシビアアクシデント時の汚染水を処理する場合は、プラントの稼働実績から、計算により汚染水中に含まれる核種濃度について推定したうえで各放射線分析をすることで、分析が最適化可能となる。
【0046】
ここで、図6に第1実施形態における処理のフローを示す。図6に示すように、まず、放射能濃度を測定し(ステップ101)、除去すべき核種の選定を行う(ステップ102)。
【0047】
次に水質測定を行い(ステップ103)、最適な処理プロセスを自動構築する(ステップ104)。具体的には各開閉弁に対して開閉信号が送られ処理水の流路が構成される(ステップ105)。
【0048】
この後、構築された処理プロセスでの処理が実行され(ステップ106)、処理後に放射能濃度を測定する(ステップ107)。この放射能濃度の測定の結果、処理後の放射能濃度が目標値以下の場合は(ステップ108のYES)、処理完了となる(109)。一方、目標値以下となっていない場合は(ステップ108のNO)、再度処理プロセスを構築し(110)、再度処理プロセスでの処理が実行される(ステップ105、106)。
【0049】
次に、第1実施形態における、α核種除去の処理プロセスについて、より具体的に説明する。
まず、α線・水質分析装置4にて、α線を測定し、除去対象のα核種と粒径を把握し、pHなどの水質データを測定し、これらの情報をもとに、α線・水質分析装置4内部の制御装置にて除去対象核種の最適な処理プロセスを構築する。
【0050】
候補となる処理プロセスとしては、以下の5パターンである。
前処理装置5→非溶解性除去装置7の場合
(α核種の粒子径が不安定な場合の処理プロセス(α核種の粒子径の大きいものが多い場合。)。前処理装置5でpHを水酸化ナトリウム等によりアルカリ側で制御し、α核種を非溶解性で調製し、フィルター等で除去する場合
→機器の腐食を抑制でき、機器への負担が少ないプロセス)
【0051】
(2)前処理装置5→吸着除去装置8の場合
(α核種の粒子径が不安定な場合の処理プロセス(α核種の粒子径の小さいものが多い場合。)。前処理装置5でpHを塩酸等により酸性側で制御し、α核種を溶解性で調製し、吸着材による除去を行う場合
→腐食の影響が大きく、機器への負荷が大きなプロセスとなるため、パターン(1)で除去効率が悪い場合のバックアップ案)
【0052】
(3)非溶解性除去装置7→吸着除去装置8の場合
(α核種の粒子径が極端に小さいものと、大きなものが混在している場合の処理プロセス。処理対象水をフィルター等に通過させ、非溶解性α核種を除去後、吸着材による溶解性α核種の除去をする場合
→スタンダードな処理方法であり、選定優先度は高い)
【0053】
(4)非溶解性除去装置7のみの場合
(非溶解性のα核種のみが存在すると判断された場合の処理プロセス。粒子径が安定的に数μmオーダで液中存在すると判断)
【0054】
(5)吸着除去装置8のみの場合
(溶解性のα核種のみが存在すると判断された場合の処理プロセス。粒子径が安定的に数nmオーダで液中存在すると判断)
【0055】
これらの情報をもとに処理プロセスをα線・水質分析装置4の制御部にて最適な処理プロセスを計画し、開閉弁35、36、37、38、39、40、41、42、43等の開閉によってα核種の処理プロセスを構築する。
【0056】
α線・水質分析装置4の測定結果により、α核種を除去不要と判断された場合、開閉弁42を開としα核種除去プロセスをバイパスし、中継タンク10へ通水する。
【0057】
α核種除去の処理プロセスの最下流には、α線分析装置9が設けられており、これによって、除去対象核種が目標値まで低減されたことを確認し、除去が完了と判断された場合は開閉弁45を開放し、下流の中継タンク10へ処理水を流す。一方、除去が不十分と判断された場合は開閉弁44を開放し、処理水を一次受けタンク3へ戻して、再度処理プロセスを実行する。
【0058】
β、γ線核種除去の処理プロセスでは、まず、β、γ線・水質分析装置11において、β線、γ核種濃度と、pHやCa、Mg、Cl濃度等の共存イオン濃度等の水質を自動測定し、これらのデータをもとにβ、γ線・水質分析装置11内部の制御装置にて除去対象核種の最適な処理プロセスを構築する。候補となる処理プロセスは以下の2パターンである。
【0059】
(1)前処理装置12→吸着除去装置15の場合
(吸着妨害成分や難吸着成分が存在する場合の処理プロセス。前処理装置12にて、鉄共沈や炭酸塩を生成させ、除去したうえで、吸着除去を実施)
【0060】
吸着除去装置15のみの場合
(吸着妨害成分や難吸着成分が支配的に存在しないと判断された場合の処理プロセス。吸着材による吸着除去を実施)
【0061】
これらの情報をもとに処理プロセスを、β、γ線・水質分析装置11の制御部にて計画し、開閉弁49、50、51の開閉によってβ、γ核種の処理プロセスを構築する。
【0062】
β、γ線核種除去の処理プロセスの最下流には、β、γ線分析装置16が設けられており、これによって、除去対象核種が目標値まで低減されたことを確認し、除去が完了と判断された場合は開閉弁53を開放し、下流の処理済み水タンク17へ処理水を流す。一方、除去が不十分と判断された場合は開閉弁54を開放し、処理水を中継タンク10へ戻し、再度処理プロセスを実行する。
【0063】
以上のように、第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)処理対象水に対して、含まれる水質を最適な処理プロセスへ導くことで、安定した処理性能を維持可能である。
(2)不要な処理プロセスを削減可能であり、二次廃棄物を抑制可能である。
(3)自動で処理プロセスの構築、設備運用を行うことにより、作業員の被ばくリスクが低減される。
【0064】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図7を参照して説明する。なお第1実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0065】
図7は、第2実施形態の要部構成を示すもので、図1に示した吸着除去装置8の周りの構成を抜き出して示しており、図1に示した他の機器、例えば、前処理装置5、非溶解性除去装置7等の記載は省略している。図7に示す例では、3つの吸着除去装置8a、8b、8cを設け、これらの上流下流に開閉弁71-80を設置し、これらの開閉弁71-80の開閉によって、どの吸着除去装置8a、8b、8cを通して処理するか決定可能な構成となっている。ただし、図7では吸着除去装置8a、8b、8cが3塔の場合を示しているが、3塔の場合に限らず何塔であっても良い。
【0066】
以下、第2実施形態の作用について説明する。
処理対象の汚染水についてα線・水質分析装置4(若しくは、β、γ線・水質分析装置11)にて分析後、除去プロセスのうち、吸着除去装置8a、8b、8cへ通液すると判断された場合のプロセスについて図7を参照して説明する。吸着除去装置8a、8b、8cはそれぞれが単一もしくは複数の核種を除去することを想定しており、除去対象の核種が多い場合、図7に示すように、複数の吸着除去装置8a、8b、8cどうしが配管及び開閉弁71-80で接続された構成となる。
【0067】
処理対象の汚染水の分析の結果、通液する必要のない吸着除去装置8a、8b、8cに対しては、開閉弁71-80の開閉により、通液せずに処理することも可能である。例えば、吸着除去装置8bを通液しない場合、α線・水質分析装置4の制御部から、開閉弁72、73、75、76、77、79へ閉信号が送信され、開閉弁71、74、78、80へ開信号が送信されることで、吸着除去装置8bを通液しない処理ラインを構成することができる。
【0068】
第2実施形態によれば、第1実施形態と同様な効果が得られるとともに、吸着除去のプロセスにおいて、さらに、効果が発揮される。
【0069】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図8を参照して説明する。なお第1実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0070】
図8は、第3実施形態の要部構成を示すもので、図1に示した吸着除去装置15の周りの構成を抜き出して示しており、図1に示した他の機器、例えば、前処理装置12等の記載は省略している。第3実施形態では、各処理装置内に、入口バッファタンク90、出口バッファタンク95を設置した設備構成とする。
【0071】
図8は、吸着除去装置15a、15bに対する構成例を示している。装置は非溶解性除去装置等にも適用することが可能である。入口バッファタンク90と出口バッファタンク95は配管と配管に介挿された開閉弁93、94、96、98、99及びポンプ91、97等で接続されており、開閉弁98、99を開放することで出口バッファタンク95から、入口バッファタンク90へ通水することが可能である。
【0072】
また、吸着除去装置15aの下流には、β線、γ線分析装置92が設置されている。なお、β線、γ線分析装置92は、吸着除去装置15bの下流に設置することも可能である。
【0073】
より安定的に核種を除去するために、吸着除去装置15a、15bにおいて一度の通水で十分な除去性能が得られない場合、再度出口バッファタンク95から入口バッファタンク90へ水を戻し、再処理可能な構成となっている。再度処理を行うか否かは、β線、γ線分析装置92の結果から判断する。
【0074】
また、放射線検出装置における分析において、線量が高い核種が妨害核種となり、分析精度が低下し、精度よく分析することができない場合がある。例えば、Csが液中に含まれる場合、γ線測定時に、コンプトン散乱効果によって、低エネルギー(600keV以下)のγ線を放出する核種の定量性が低下する。特にSb-125は主要なγ線のピークが400keV程度であり、Csのγ線のコンプトン散乱効果が生じ、ピークを同定できないリスクがある。従って、Csなど、存在量が多いと想定される核種を除去後、β線、γ線分析装置92にて分析を実施し、核種の定量を再度実施して、処理プロセスを再構築する構成とする。
【0075】
上記第3実施形態によれば、第1実施形態と同様な効果が得られるとともに、各装置における放射性核種の除去をより安定的に確実に行うことができる。また、放射線検出装置における分析において、線量が高い核種が妨害核種となり、精度よい分析が妨げられるような場合についても対応することができ、予め妨害核種を除去することによって、精度良く分析を行うことができる。
【0076】
なお、以上説明した各実施形態において、想定される処理手段をあらかじめ全て準備しようとすると、設備スペースの制約がある。また、シビアアクシデント等の過酷事故が発生し、すぐに汚染水の処理が必要となった場合に備えて、各処理装置をトラック等に積載し、運搬可能なモバイル型の装置とすることもできる。
【0077】
また、以上説明した各実施形態において、設備に人が立ち入る場合は、被ばくの低減を行う必要がある。特にα線に対する対策としては、内部被ばくを低減させるために、ダスト飛散を防止するシステムとする。また、β線に対する対策としては、二次放射線の外部被ばくを低減するために、機器の遮蔽厚を検討する。γ線に対しても外部被ばく低減のために、遮蔽厚を検討する。さらに、α核種を含んだ汚染水を取り扱う設備のため、臨界防止対策を行うことが好ましい。
【0078】
また、以上説明した各実施形態において、安定的に設備を運用するために、腐食リスクを低減した設備とすることが好ましい。特に海水成分を含有した中性の汚染水を処理する場合や、pH調整等により酸性の汚染水を処理する場合に備えて、腐食を防止するための対策や腐食を監視する設備とすることが好ましい。
【0079】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0080】
1……水源、2……粒子除去フィルター、3……一次受けタンク、4……α線・水質分析装置、5……前処理装置、6……前処理用薬液貯槽、7……非溶解性除去装置、8……吸着除去装置、9……α線分析装置、10……中継タンク、11……β、γ線・水質分析装置、12……前処理装置、13……前処理用薬液貯槽、14……前処理用フィルター、15……吸着除去装置、16……β線、γ線分析装置、17……処理済み水タンク。
図1
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図4
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図6
図7
図8