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特開2023-121727微小試料サンプリングにおけるアライメント方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023121727
(43)【公開日】2023-08-31
(54)【発明の名称】微小試料サンプリングにおけるアライメント方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20230824BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20230824BHJP
【FI】
H01J37/22 502A
H01J37/317 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004480
(22)【出願日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2022024909
(32)【優先日】2022-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522066849
【氏名又は名称】金子 守
(74)【代理人】
【識別番号】100107906
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 克彦
(72)【発明者】
【氏名】金子 守
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA07
5C101AA32
5C101AA37
5C101FF31
5C101GG04
5C101HH23
(57)【要約】
【課題】微小試料サンプリングにおいて、アライメントの作業時間を短縮する。
【解決手段】微小試料1に接触可能なプローブ針2と、微小試料1及びプローブ針2にイオンビームを照射するイオン銃7と、微小試料1及びプローブ針2から発生した2次電子を検出する2次電子検出器8と、を備えたFIB装置100を提供する。そして、プローブ針2を最上位置に設定した状態での2次電子検出器8から得られる2次電子像におけるプローブ針2と微小試料1の視差に基づいて、プローブ針2と微小試料1とのアライメントを行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小試料に接触可能なプローブ針と、微小試料及びプローブ針に荷電粒子ビームを照射する荷電粒子銃と、微小試料及びプローブ針から発生した2次電子を検出する2次電子検出器と、を備えた装置を提供し、
プローブ針を一定の高さに設定した状態での2次電子検出器から得られる2次電子像におけるプローブ針と微小試料の視差に基づいて、プローブ針と微小試料とのアライメントを行うことを特徴とする微小試料サンプリングにおけるアライメント方法。
【請求項2】
微小試料に接触して持ち上げて保持可能なプローブ針と、プローブ針に保持された微小試料を貼り付け可能なメッシュと、微小試料、プローブ針及びメッシュに荷電粒子ビームを照射する荷電粒子銃と、微小試料、プローブ針及びメッシュから発生した2次電子を検出する2次電子検出器と、メッシュを移動可能なステージと、を備えた装置を提供し、
プローブ針を一定の高さに設定した状態での2次電子検出器から得られる2次電子像におけるプローブ針と微小試料の視差に基づいて、プローブ針と微小試料との第1のアライメントを行い、プローブ針を微小試料に接触して持ち上げて保持する工程と、
ステージの移動により、プローブ針に保持された微小試料の下方にメッシュを移動させる工程と、
前記視差に基づいてプローブ針とメッシュとの第2のアライメントを行い、プローブ針に保持された微小試料をメッシュに貼り付ける工程と、を備え、
第1及び第2のアライメントは、微小試料及びメッシュをユーセントリック位置に設定して行われることを特徴とする微小試料サンプリングにおけるアライメント方法。
【請求項3】
前記一定の高さは、前記プローブ針の上死点の高さであることを特徴とする請求項1又は2に記載の微小試料サンプリングにおけるアライメント方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小試料サンプリングにおけるアライメント方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、マイクロサンプリング(登録商標)と称される微小試料サンプリングでは、集束イオンビーム装置(以下、FIB装置という)のステージを傾斜させて、2次電子検出装置により斜め上方から2次電子像(SIM像)を観察しながら、ミクロンオーダーのレベルでプローブ針を操作する。
【0003】
微小試料サンプリングにおいて、微小試料1の母材からの切り出し工程では、プローブ針2を微小試料1に接触させて持ち上げる。(図19を参照)そして、次の段階の微小試料1のメッシュ(微小試料1の取り付け台)への貼り付け工程では、プローブ針2に保持された微小試料1をメッシュに接触させて貼り付ける。
【0004】
この場合、微小試料1は、例えば、透過型電子顕微鏡(以下、TEMという)観察用の試料片であり、数十μmのサイズである。この微小試料1はメッシュに貼り付けられた状態で透過型電子顕微鏡に装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-64790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の微小試料1の切り出し工程、並びにメッシュへの貼り付け工程のどちらにおいても、プローブ針2を対象物に近づけてから接触させるまでの位置合わせ工程(アライメント工程)に最も時間を費やしている。
【0007】
これは、焦点深度の大きい2次電子像の斜め上方からの観察では、遠近の感覚を掴むのが難しいためで、微小試料サンプリングにおける最大の難点であった。そこで、本発明は微小試料サンプリングにおけるにおけるアライメントの作業時間を短縮することができる手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の微小試料サンプリングにおけるアライメント方法は、微小試料に接触可能なプローブ針と、微小試料及びプローブ針に荷電粒子ビームを照射する荷電粒子銃と、微小試料及びプローブ針から発生した2次電子を検出する2次電子検出器と、を備えた装置を提供し、プローブ針を一定の高さに設定した状態での2次電子検出器から得られる2次電子像におけるプローブ針と微小試料の視差に基づいて、プローブ針と微小試料とのアライメントを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、微小試料サンプリングにおいて、アライメントの作業時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態におけるFIB装置の全体構成を示す図である。
図2】本発明の実施形態における視差を説明する図である。
図3】本発明の実施形態における微小試料の切り出し部の2次電子画像である。(50度傾斜観察)
図4】本発明の実施形態における微小試料の切り出し部の2次電子画像である。(0度傾斜観察)
図5図4の画像の模式図である。
図6】本発明の実施形態における微小試料のメッシュへの貼り付け工程を示す2次電子画像である。(0度傾斜観察)
図7図6の画像の模式図である。
図8】本発明の実施形態におけるアライメント方法を示す図である。
図9】本発明の実施形態におけるプローブ針の座標とステージの座標の関係を示す図である。
図10】本発明の実施例における微小試料の切り出し工程の2次電子画像である。
図11】本発明の実施例における微小試料の持ち上げ工程の2次電子画像である。
図12】微小試料の持ち上げた状態でのプローブ針と母材との視差を示す2次電子画像である。
図13】微小試料の持ち上げた状態でのプローブ針とメッシュとの視差を示す2次電子画像である。
図14】プローブ針をメッシュに近づけた状態の2次電子画像である。
図15】プローブ針をメッシュにアライメントした状態を示す画像である。
図16】微小試料をメッシュに固定する状態を示す画像である。
図17】プローブ針と微小試料の接着部分をエッチングで切断する状態を示す画像である。
図18】プローブ針を初期位置に戻す状態を示す2次電子画像である。
図19】プローブ針を微小試料に接触させて持ち上げる状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の微小試料サンプリングにおけるアライメント方法を図1図18に基づいて説明する。
【0012】
1.<FIB装置の全体構成>
先ず、本発明の微小試料サンプリングにおけるアライメント方法を実施可能なFIB装置100の全体構成を図1に基づいて説明する。図示のように、チャンバーCの中で、母材Bから切り出された微小試料1に接触して持ち上げ、これを保持可能なプローブ針2が配置されている。プローブ針2は駆動装置3により、チャンバーCの中においてXYZ各方向に移動可能に制御されている。
【0013】
チャンバーCの下部には、母材B、メッシュ4(微小試料1の取り付け台)を移動可能なステージ5が配置されている。ステージ5は、XYZ各方向への移動、回転、及び傾斜が可能に構成されている。母材Bは、ステージ5の上面に載置される。メッシュ4はメッシュ装着部6の上面に装着され、このメッシュ装着部6は、ステージ5の一端に取り付けられている。
【0014】
また、微小試料1、プローブ針2及びメッシュ4等にイオンビームを照射するイオン銃7はチャンバーCの上部であって、ステージ5の上方に配置されている。また、微小試料1、プローブ針2及びメッシュ4等から発生した2次電子を検出する2次電子検出器8は、チャンバーCの側面に配置されている。
【0015】
2.<アライメントにおける視差について>
図2に示すように、2つの物体(例えば、微小試料1、プローブ針2)が上下方向に離れて重なっている時、真上から見れば重なって見えるが、斜めから見ると、ずれて見えるのは、日常生活の中でも容易に経験する視差のためである。すなわち、視差とは、2つの物体を真上から見たときと斜めから見たときの「ずれ」のことである。通常の空間の中では視差による、ずれを自明な現象として認識しているが、大きな問題にはならなかった。
2次電子像の観察でも無意識の内に補正できているという思い込みがあった。
ここで、2次電子像は、微小試料1等のサンプル表面から励起された2次電子を電界で大きく曲げて2次電子検出器8に導いて画像に変換して得ているため、上述の2次電子像における「視差」は、厳密には「2次電子の光軸ずれ」であるが、光学理論における視差として扱えるという意味で、本願明細書中では、これを「視差」と称することとする。
【0016】
3.<アライメントの方法>
図3は、ステージを50度傾斜させて、プローブ針2で微小試料1を持ち上げた直後の状態を示す2次電子画像である。当然のことだが、プローブ針2と母材Bの切り出し部の位置は一致している。その後、プローブ針2を最上位置(上死点)まで持ち上げて、ステージ5の傾斜を0度にして真上から観察した2次電子画像を図4に示す。図5は、図4の模式図である。微小試料1とプローブ針2は、母材Bの切り出した部分の真上にあるはずだが、プローブ針2は母材Bの真上よりも、上にずれて見えている。
【0017】
この場合は、2次電子検出器8の取り付け箇所がステージ5の真上のイオン銃7(無限遠点とみなせる)ではなく、チャンバー側面にあるためである。プローブ針2を母材Bから離したことで、ステージよりも高い位置にあるプローブ針2が上にずれて見えるのである。実際には、ずれていないにも関わらず、非日常的とも言える2次電子の観察像からは、この視差に気付かない。
【0018】
プローブ針2を最上位置まで持ち上げた時の視差を測定したところ、プローブ針2の尖端と母材Bの切り出し部とは、約60μmの視差が生じていた。プローブ針2の高さが低くなる程(逆に、2次電子検出器8の取り付け位置が高くなり、イオン銃7の位置に近づく程、数学的には無限遠の距離に近づく程)、視差は減少して、プローブ針2が母材Bに接触した時には0μmになる。この視差を利用すると、アライメントを簡単にできる。
【0019】
先ず、広視野画面である低倍率観察画面では、XY座標がずれるので、アライメントを行う時は、超微細画面である高倍率観察画面に設定しておいて、この約60μmの視差を利用して、(a)、(b)の方法で合わせる。
【0020】
(a) 微小試料1(TEM観察用の試料)の母材Bからの切り出し工程のアライメント(0度傾斜観察)
プローブ針2が例えば最上位置(上死点の位置)に設定される時、プローブ針2の尖端を微小試料1の端から約60μm上(Y方向)に合わせる。すなわち、視差の分を見込んで、プローブ針2と微小試料1のアライメントを行う。(図4図5を参照)プローブ針2が微小試料1に近づくにつれて「ずれ」は減り、接触時には0μmになる。
【0021】
この場合、プローブ針2は、必ずしも「最上位置」に設定しなくてもよいが、プローブ針2を再現できる座標に固定しておく必要がある。最も上に持っていけば、座標はわからなくても固定ができる。この固定をするために「最上位置」としている。
【0022】
また、視差の約60μmというのは本発明者が実験に使用した装置での一例である。また、同じ装置であっても、プローブ針2を交換した場合には、プローブ針2を取り付けた位置により、視差の値は変化するので、視差の寸法を測り直す必要がある。
【0023】
(b)微小試料1のメッシュ4への貼り付け工程のアライメント(0度傾斜観察)
プローブ針2はY方向には絶対に動かさない(プローブ針2の現在位置は切り出した時の座標である)。ステージ5を動かして、図6に示すように、(微小試料1を貼り付けようとしている)メッシュ4の中心を画面の中央に精密に合わせる。図7は、図6の模式図である。
【0024】
4.<アライメントの条件>
この視差を利用したアライメント方法を適用するには、以下の2条件を満たす必要がある。
(a) プローブ針2を一定の高さ、好ましくは上死点まで上昇させておき、プローブ針のY方向は動かさないこと
(b) 微小試料1を母材Bから持ち上げる時のステージ座標(X1,Y1,Z1,R1,0)とメッシュ4に貼り付ける時のステージ座標(X2,Y2,Z2,R2,0)がユーセントリック位置(ステージ5を移動させても観察点が動かない領域)になっていること
ここで、ステージ座標は、試料室空間を表す3次元の座標X,Y,Z、回転角R、チルト角(傾き)T、という5つの成分で表されている。
【0025】
5.<アライメントの原理>
5-1 従来のアライメント方法
母材Bから切り出した微小試料1を持ち上げる時には、ステージ5を50度に傾斜させて、プローブ針2を微小試料1に近づける。メッシュ4に貼り付ける時にも、ステージ5を50度に傾斜させて、微小試料1を貼り付けたプローブ針2をメッシュ4に近づける。微小試料1はプローブ針2で吊り下げたままにしておき、ステージ5を動かすことで、母材Bからメッシュ4まで移動させている。
【0026】
基本的には微小試料1を母材Bの持ち上げ座標(X1,Y1,Z1,R1,50)からメッシュ4の貼り付け座標(X2,Y2,Z2,R2,50)まで搬送するだけなので、ステージ5を50度に傾斜させたままでステージ5を平行移動するのが理想である。しかし、この平行移動を実行すると、ステージ5、ガスノズル、プローブ針2、メッシュ4が接触して装置を壊すことがあり、微小試料1の搬送時には、ガスノズルを戻し、ステージ5の傾斜を0度にしなければならない。ここで、ガスノズルとは、例えば、デポジション用のカーボンガスを放出するノズルであり、プローブ針2と微小試料1の接触部にイオンビームを照射することにより、プローブ針2の先端に微小試料1が接着される。
【0027】
従って、母材B側のステージ座標(X1,Y1,Z1,R1,0)からメッシュ4側のステージ座標(X2,Y2,Z2,R2,0)への平行移動になる。実際の作業は、ステージ座標のメモリー機能を利用してモータードライブで行っているが、座標を直接入力しているのと同じである。
【0028】
この方法では、2次電子像を見ながらX座標のX1とX2を容易に合わせるのは容易だが、Y座標のY1とY2は簡単ではない。精密なアライメントでは、50度に傾斜させたステージ5上の母材Bにプローブ針2を近づける場合でも、メッシュ4に近づける場合でも目標箇所になかなか到達しない。プローブ針2が離れている時に見える目標地点と接触した時の目標地点が、視差により大きく外れるからである。ステージ5を50度に傾斜させていることで、更に混乱する。
【0029】
5-2 アライメント方法の検討
図8(a)に、2次電子検出器8、プローブ針2、微小試料1の関係をパラメーター(d1、l1、θ1 )で示す。また、図8(b)に、2次電子検出器8、プローブ針2、メッシュ4の関係をパラメーター(d2、L2、θ2 )で示す。
【0030】
(1)プローブ針2の座標はステージ座標から独立しているため、プローブ針2の座標の原点とステージ5の座標の原点が異なる。(X1,Y1,Z1,R1,0)から(d1、L1、θ1 )の算出はできないし、また(X2,Y2,Z2,R2,0)から(d2、L2、θ2 )の算出もできない。視差はδ=L・tanθ で表すことはできるが、d1≠d2、L1≠L2、θ1≠θ2、であるからδ1≠δ2となり、視差の算出もできない。
【0031】
(2)プローブ針2を最上位置(上死点)に持っていけば(固定位置に置く)、d1=d2であるから2次電子検出器8とプローブ針2の位置関係は同じになる。θ1≒θ2とみなしても、L1≠L2、であるから、δ1≠δ2となるので、やはり視差の算出はできない。
【0032】
(3)プローブ針2を最上位置に持っていき(d1=d2)、ステージ5の高さZを調整してL2=L2にすると、θ1=θ2となるので、L1・tanθ1=L2・tanθ2であるからδ1=δ2となる。θの具体的な値はわからないが、例えば、メッシュ4の上にプローブ針2を接触させておいてから、プローブ針2を最上位置まで移動させるとδ2の値を測定できるので、δ2の値をδ1に適用し視差の補正ができる。但し、ステージ5の高さZを調整してL1=L2にできると仮定した場合である。
【0033】
簡単にプローブ針2の空間座標を算出する方法がなく、仮にプローブ装置の取り付け位置の原点を基準にして算出できたとしても、プローブ針2を交換する度に針の位置が変わるので普遍性がない。L1とL2を同じにして、持ち上げ座標(X1,Y1,Z1,R1,0)と貼り付け座標(X2,Y2,Z2,R2,0)を合わせる試みは、現実には達成が難しい。
【0034】
これはプローブ針2を動かす機構(マイクロプロービング装置)が既存のFIB装置100に後付けされた機械であることから生じた不具合である。統一的に設計されていない為、試料室空間を表す座標(X,Y,Z)の原点とステージ座標の原点(X,Y,Z,R,T)が異なる。プローブ針の座標が独立しているので、ステージ座標からのアライメントを困難にしている。この理由から異なる座標系にあるもの同士を結びつける方法を検討しなければならなかった。
【0035】
5-3 本発明のアライメント方法
空間内に基準点を設けて、母材の持ち上げ座標(X1,Y1,Z1,R1,0)とメッシュ4の貼り付け座標(X2,Y2,Z2,R2,0)を基準点に移動すれば、Z座標のZ1とZ2は同じになるので、プローブ針2と微小試料1の距離(L1)と微小試料1とメッシュ4の距離 (L2)を等しくできるはずである。
【0036】
ステージ5を移動させても観察点が動かない領域(ユーセントリック位置)は、平面上の任意座標(X,Y)を通るZ軸上に1点だけ存在するので、ユーセントリック位置を2つの異なる空間座標をつなげる共通の基準点にすることを試みた。図9に示すように、ユーセントリック位置(X0,Y0,Z0)を利用すれば、ステージ5上の異なる複数の点を基準点に移動することができる。
【0037】
このFIB装置100のステージ5には5軸のユーセントリック機構が備わっており、ユーセントリック補正を利用して、ステージ5上の異なる複数の点をユーセントリック位置に持っていけることがわかった。
【0038】
この場合、微小試料1とメッシュ4の両方をユーセントリック位置に設定し、その位置座標を記憶しておけば、持ち上げ時の母材Bのステージ座標(X1,Y1,Z1,R1,0)と貼り付け時のメッシュ4のステージ座標(X2,Y2,Z2,R2,0)は数値が異なるが(座標はステージ5の原点基準の数値である)、実際には空間内の同じ位置(X0,Y0,Z0)にあるので、プローブ針2のZ軸を動かすだけでプローブ針2を微小試料1とメッシュ4の両方に接触させることができる。
【0039】
ここで、本発明のアライメント方法の要点をまとめると以下の通りである。
【0040】
2次電子検出器8の取り付け位置とイオン銃7の取り付け位置のずれにより、視差が存在することがわかった。しかし、プローブ針2の座標と微小試料1の座標が(互いに無関係な)独立した状態では、視差があることを認識できたに過ぎず、この視差をアライメントに利用するには、プローブ針2の座標と微小試料1の座標とを結びつける必要があった。
【0041】
そこで、プローブ針2の座標と微小試料1とを結びつける方法を模索した結果、ステージ5の座標中に1つしか存在しないユーセントリック位置を基準にできることがわかった。ユーセントリック位置は、複数の異なる座標系を結びつける基準点になるため、ステージ5上の微小試料1の位置、ステージ5上のメッシュ4の位置をユーセントリック位置にしておけば、プローブ針2を微小試料1の位置にも、メッシュ4の位置にも持っていけるのである(ここでは、微小試料1の位置、メッシュ4の位置、プローブ針2の位置の3箇所をつないでいる)。
【実施例0042】
以下、視差をアライメントに利用した微小試料サンプリングの実施例を説明する。
【0043】
先ず、メッシュ4の位置をユーセントリック位置に設定して、その座標をメモリに記憶させる。次に、微小試料1の位置をユーセントリック位置に設定して、母材Bの正面と裏面の両側からスロープ状にエッチングを行う。ステージ5を傾斜させて、右端だけを残してエッチングを行い、底部を貫通させる。微小試料1の左端には緩衝材(ここでは、「座布団」と呼ぶ)を付け、母材Bの左側にはアライメント用のマーキングを行う。プローブ針2をステージ5上に出す。
(1)プローブ針2のZ軸を最上位置(上死点の位置)まで上げる。
(2)プローブ針2のX軸とY軸をマーキング位置に合わせる。
(3)Y軸をマーキング位置から、約60μm上方向に移動させる。
(この状態で、プローブ針2の尖端は、マーキング位置の真上にある。視差により、約60μmずれて観察される。)
以上の操作が終了したら、ステージ5を50度傾ける(図10)。
【0044】
まず、プローブ針2のZ軸を下げていくと、ほぼマーキング位置に接触する。次に、X軸を動かして(必要に応じてY軸を微調整する)、プローブ針2を座布団に接触させて、前述のガスノズルから放出されるカーボンで接着する。残していた右端部を切断してからプローブ針2で持ち上げる(図3)。
【0045】
プローブ針2を母材Bから十分に離してから最上位置まで持ち上げる(図11)。ステージの傾斜を0度に戻す。本来ならば、プローブ針2と母材Bとは重なって見えるはずだが、2次電子検出器8の取り付け位置から生じる視差により、約60μm視差が観察される(図12)。
【0046】
プローブ針2の位置は変更しないで、ステージ5を移動させてプローブ針2の下にメッシュ4を持ってくる。プローブ針2とメッシュ4の中心には約60μmの視差が観察される(図13)。
【0047】
ステージ5を50度に傾斜させてからデポジション銃を出す。デポジション銃に接触しないように注意しながらX方向とZ方向を動かして(Y方向は動かさない)プローブ針2をメッシュ4に近づける(図14)。
【0048】
プローブ針2のX座標が決まったら、Z方向を動かして微小試料1をメッシュ4に接近させる(図15)。この場合、Y方向はほとんど動かす必要がない(微調整する場合でも1~2μm位である)。微小試料1がメッシュ4に接触したら、速やかに微小試料1とメッシュ4の間にカーボンのデポジションを行って、微小試料1をメッシュ4に固定する(図16)。
【0049】
プローブ針2と微小試料1の接着部分をエッチングで切断する(図17)。切断が確認できたら、ゆっくりとプローブ針2を後退させる。プローブ針2をメッシュ4から十分に離した後、ステージ5を下げる(同時にデポジション銃は上昇して初期位置に戻る)。プローブ針2を初期位置に戻し(図18)、ステージ5の傾斜を0度に戻して、微小試料1のメッシュ4への貼り付け作業は完了する。
【0050】
なお、本発明は、微小試料1とプローブ針2とのアライメントの技術に関するものであることから、FIB装置100には限らず、イオン銃7によるイオンビームの代わりに電子銃による電子ビームを用いた装置においても実施することができる。
【0051】
以上の説明を要約すると、以下のとおりである。
【0052】
1)アライメント理論の思考過程
FIB装置100のイオンビーム(1次イオン)を微小試料1に照射すると、微小試料1から励起された2次電子は、電界で大きく曲げられて、2次電子検出器8に導かれる。画像を形成する2次電子が、電界で曲げられた電子線の軌道上を進むことを考慮すると、2次電子像に生じる「光軸ずれ」と(光は直線に進む原理に基づいた)光学での「視差」を厳密に区別する必要があった。
【0053】
2次電子検出器8がチャンバーC内の「任意の壁面」に取り付けられていると仮定したモデルを使って、観察対象(微小試料1とプローブ針2)から2次電子検出器8までの距離の違い(母材B上の微小試料1から検出器8までの距離と、プローブ針2から検出器8までの距離の差)で生じる「光軸ずれ」が、光学における「視差」と同様に扱えて、電界で曲げた電子線の軌道を考慮しなくても、初等幾何を使った光学理論で説明することができた。
【0054】
実際の現象を光学理論で容易に説明できるため、2次電子像の「光軸ずれ」は「視差」と等価であることがわかる。ここでは、「視差」という表現で記述し、2次電子像の視差がアライメントに利用できることを示す。
【0055】
2)アライメント理論の適用
TEMサンプル(微小試料1)をFIB装置100で作製するプロセスでは、微小試料1を母材Bから引き上げる工程(プローブ針2を微小試料1に接触させる)と、メッシュ4に微小試料1を貼り付ける工程(微小試料1をメッシュ4に接触させる)があり、ステージ5を傾斜させて斜め上方から見ながら、プローブ針2を操作する。
【0056】
2次電子像の傾斜観察では、どちらの工程も近づけてから接触させる時の僅かなずれで切り出した微小試料1を落下させる失敗が多いため、この作業には最も時間を費やしていた。このアライメント作業がマイクロサンプリング(登録商標)における最大の課題であったが、視差を利用した方法により作業時間と労力を大幅に短縮、軽減できるようになった。
【0057】
具体的な手法としては、ユーセントリック位置に設定した目標地点(母材B上の微小試料1の位置とメッシュ4の位置)をメモリに記憶させておき、視差の分(本発明者が使ったFIB装置100では約60μm)だけずらしてから、プローブ針2を微小試料1に接触させる。
【0058】
オペレーターは位置ずれの心配をせずに、真上から見ている場合と同じに作業をできるので、プローブ針2のZ軸(上下方向)を動かすだけで微小試料1とメッシュ4の両方にプローブ針2を短時間で正確に近づけることができる。
【0059】
以上説明した本発明の成果は、以下のとおりである。
1)アライメント作業の時間と労力を大幅に短縮、軽減することができた。
2)アライメント精度が向上(±2μm)し、微小試料1作製の失敗(落下)が激減した。
3)FIB装置100のオペレーターに要求される技能が少なく、初心者でもすぐ使えるようになる。
【符号の説明】
【0060】
1 微小試料
2 プローブ針
3 駆動装置
4 メッシュ
5 ステージ
6 メッシュ装着部
7 イオン銃
8 2次電子検出器
100 FIB装置
B 母材
C チャンバー
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