(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123105
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】細胞外小胞の精製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/02 20060101AFI20230829BHJP
【FI】
C12N1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022026982
(22)【出願日】2022-02-24
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】水野 祐介
(72)【発明者】
【氏名】倉田 隼人
(72)【発明者】
【氏名】岡本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 悠介
(72)【発明者】
【氏名】清水 崇
(72)【発明者】
【氏名】大久保 徹
(72)【発明者】
【氏名】今井 桃子
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA99X
4B065AC20
4B065BD14
4B065BD18
4B065CA23
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】本発明は、大量の細胞培養液等からエクソソーム等の細胞外小胞を分離、濃縮、精製することができ、かつより疾患治療の効果に優れる細胞外小胞を取得することができる方法を提供することを目的とする。さらに、この方法で得られた疾患治療効果に優れる細胞外小胞含有組成物を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明は、細胞外小胞を含む試料から細胞外小胞を分離精製する方法であって、(A1)細胞外小胞を含む試料を、中空糸膜を用いて処理し、所望の細胞外小胞を濃縮する工程、(B1)得られた上記細胞外小胞の濃縮液を、連続する4個以上のリジンを含むペプチドが担持された担体に接触させ、上記細胞外小胞と上記ペプチドとが結合した複合体を形成させる工程、及び(B2)上記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、上記複合体から上記細胞外小胞を解離させる工程を含むことを特徴とする、細胞外小胞の精製方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞外小胞を含む試料から細胞外小胞を分離精製する方法であって、
(A1)細胞外小胞を含む試料を、中空糸膜を用いて処理し、所望の細胞外小胞を濃縮する工程、
(B1)得られた上記細胞外小胞の濃縮液を、連続する4個以上のリジンを含むペプチドが担持された担体に接触させ、上記細胞外小胞と上記ペプチドとが結合した複合体を形成させる工程、及び
(B2)上記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、上記複合体から上記細胞外小胞を解離させる工程
を含むことを特徴とする、細胞外小胞の精製方法。
【請求項2】
上記細胞外小胞を含む試料が、細胞の培養上清、又は生物の組織若しくはその処理液である、請求項1に記載の細胞外小胞の精製方法。
【請求項3】
(A1)工程の前に、(A0)夾雑物を除去する工程
をさらに含む、請求項1又は2に記載の細胞外小胞の精製方法。
【請求項4】
(A1)工程の後に、(A2)上記細胞外小胞の濃縮液の溶媒交換を行う工程
をさらに含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞外小胞の精製方法。
【請求項5】
(A1)工程又は(A2)工程の後に、(A3)上記溶媒交換後の細胞外小胞の濃縮液をさらに濃縮する工程
をさらに含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の細胞外小胞の精製方法。
【請求項6】
(A0)工程、(A2)工程又は(A3)工程において、中空糸膜を用いる、
請求項4に記載の細胞外小胞の精製方法。
【請求項7】
上記中空糸膜の分画分子量が100kDa~500kDaである、請求項1から6のいずれか1項に記載の細胞外小胞の精製方法。
【請求項8】
(A0)工程において用いられる中空糸膜の孔径が0.2μm~0.8μmである、請求項6又は7に記載の細胞外小胞の精製方法。
【請求項9】
上記中空糸膜の材質が、ポリエーテルスルホン(PES)、修飾ポリエーテルスルホン(mPES)又はポリアクリロニトリル(PAN)である、請求項1から8のいずれか1項に記載の細胞外小胞の精製方法。
【請求項10】
上記中空糸膜が、中空糸膜モジュールを構成している、請求項1から9のいずれかに1項に記載の細胞外小胞の精製方法。
【請求項11】
(B1)工程において、連続する4個以上のリジンを含むペプチドにおける連続する4個以上のリジン残基同士はε-アミノ基とカルボキシル基がペプチド結合している、請求項1から10のいずれか1項に記載の細胞外小胞の精製方法。
【請求項12】
(B1)工程において、担体の素材が、セルロース、アガロース、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸、及びシリカから成る群より選択される少なくとも1種である、請求項1から11のいずれか1項に記載の細胞外小胞の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞外小胞の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは、ほとんどの細胞種が分泌する、脂質二重膜で覆われた細胞外小胞であり、一般に50~150nmの粒子径といくつかの膜発現マーカータンパク質(CD9、CD63、CD81など)で定義される。これらの細胞外小胞は、細胞膜タンパク質や細胞内タンパク質、さらにDNA、mRNA、miRNAといった核酸等を含み、細胞間相互作用に関与するといわれている。このような細胞間相互作用においては、生理学的及び病理学的な機能が注目されており、エクソソームを指標とした疾患の診断法や、エクソソーム自体を疾患の治療に用いる試みも検討されている。
【0003】
一方、間葉系幹細胞(Mecenchymal Stem Cells:MSC)は、Friedensteinによって初めて骨髄から単離された多分化能を有する前駆細胞である(非特許文献1参照)。この間葉系幹細胞は、骨髄以外にも、臍帯、脂肪等の様々な組織に存在することが明らかにされており、間葉系幹細胞投与は、様々な難治性疾患に対する新しい治療方法として期待されている(特許文献1及び2参照)。最近の研究によると、間葉系幹細胞による疾患の治療効果の一部は、間葉系幹細胞が放出する細胞外小胞によるものであることもわかってきており、例えば特許文献3には、分泌型細胞由来ベシクル(例えば、エキソソームおよび/または微小小胞体)の精製された集団、組成物、およびそのベシクルを使用して処置する方法が開示されている。
【0004】
これまでエクソソームの精製には、血清や細胞培養上清等を出発材料とした超遠心法やサイズ排除クロマトグラフィー法が用いられてきていた。しかし、これら従来の精製方法はいずれも実験室レベルのスケールであり、また、エクソソームの回収率も20~30%と低く、産業利用のための大量生産には向いていないという不都合があった。このような中、大量の細胞培養液等からエクソソームを分離、濃縮、精製することができる新しいシステムの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-157263号公報
【特許文献2】特表2012-508733号公報
【特許文献3】特表2019-501179号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Pittenger F.M.et al.,Science,284,pp.143-147,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような状況の中、大量の細胞培養液等からエクソソーム等の細胞外小胞を分離、濃縮、精製することができ、かつより疾患治療の効果に優れる細胞外小胞を取得することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者が種々検討した結果、中空糸膜を用いた濃縮工程、及び担体に担持された特定のペプチドを用いたアフィニティ精製工程を組み合わせた方法により、大量の細胞培養上清から高純度のエクソソームを含む細胞外小胞集団を容易に分離、濃縮、精製することができることを見出した。また、この方法によって取得した細胞外小胞は、従来の方法で取得した細胞外小胞に比べて、より優れた抗炎症効果を奏することも判明した。すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
[1]細胞外小胞を含む試料から細胞外小胞を分離精製する方法であって、
(A1)細胞外小胞を含む試料を、中空糸膜を用いて処理し、所望の細胞外小胞を濃縮する工程、
(B1)得られた上記細胞外小胞の濃縮液を、連続する4個以上のリジンを含むペプチドが担持された担体に接触させ、上記細胞外小胞と上記ペプチドとが結合した複合体を形成させる工程、及び
(B2)上記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、上記複合体から上記細胞外小胞を解離させる工程
を含むことを特徴とする、細胞外小胞の精製方法。
[2]上記細胞外小胞を含む試料が、細胞の培養上清、又は生物の組織若しくはその処理液である、[1]に記載の細胞外小胞の精製方法。
[3](A1)工程の前に、(A0)夾雑物を除去する工程
をさらに含む、[1]又は[2]に記載の細胞外小胞の精製方法。
[4](A1)工程の後に、(A2)上記細胞外小胞の濃縮液の溶媒交換を行う工程
をさらに含む、[1]から[3]のいずれかに記載の細胞外小胞の精製方法。
[5](A1)工程又は(A2)工程の後に、(A3)上記溶媒交換後の細胞外小胞の濃縮液をさらに濃縮する工程
をさらに含む、[1]から[4]のいずれかに記載の細胞外小胞の精製方法。
[6](A0)工程、(A2)工程又は(A3)工程において、中空糸膜を用いる、
[5]に記載の細胞外小胞の精製方法。
[7]上記中空糸膜の分画分子量が100kDa~500kDaである、[1]から[6]のいずれかに記載の細胞外小胞の精製方法。
[8](A0)工程において用いられる中空糸膜の孔径が0.2μm~0.8μmである、[6]又は[7]に記載の細胞外小胞の精製方法。
[9]上記中空糸膜の材質が、ポリエーテルスルホン(PES)、修飾ポリエーテルスルホン(mPES)又はポリアクリロニトリル(PAN)である、[1]から[8]のいずれかに記載の細胞外小胞の精製方法。
[10]上記中空糸膜が、中空糸膜モジュールを構成している、[1]から[9]のいずれかにに記載の細胞外小胞の精製方法。
[11](B1)工程において、連続する4個以上のリジンを含むペプチドにおける連続する4個以上のリジン残基同士はε-アミノ基とカルボキシル基がペプチド結合している、[1]から[10]のいずれかに記載の細胞外小胞の精製方法。
[12](B1)工程において、担体の素材が、セルロース、アガロース、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸、及びシリカから成る群より選択される少なくとも1種である、[1]から[11]のいずれかに記載の細胞外小胞の精製方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、大量の細胞培養液等からエクソソーム等の細胞外小胞を、容易に分離、濃縮、精製することができ、また、得られるエクソソームの純度にも優れる。さらに、本発明によると、疾患治療の効果に優れる細胞外小胞、特に抗炎症効果を奏する細胞外小胞を取得することができる。また、本発明によると、従来法におけるような遠心操作によるダメージを受けることがないため、細胞外小胞の破壊、凝集が起こりにくいという利点もある。さらに、本発明の方法は、システムのスケールアップにも容易に対応でき、各工程の自動化も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、各種方法で精製した細胞外小胞の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
<細胞外小胞の精製方法>
本発明は、細胞外小胞を含む試料から細胞外小胞を分離精製する方法であって、
(A1)細胞外小胞を含む試料を、中空糸膜を用いて処理し、所望の細胞外小胞を濃縮する工程、(B1)得られた上記細胞外小胞の濃縮液を、連続する4個以上のリジンを含むペプチドが担持された担体に接触させ、上記細胞外小胞と上記ペプチドとが結合した複合体を形成させる工程、及び(B2)上記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、上記複合体から上記細胞外小胞を解離させる工程を含むことを特徴とする。上記(A1)工程の前に、(A0)夾雑物を除去する工程を、さらに上記(A1)工程の後に、(A2)上記細胞外小胞の濃縮液の溶媒交換を行う工程、及び/又は(A3)上記溶媒交換後の細胞外小胞の濃縮液をさらに濃縮する工程をさらに含んでいてもよい。本発明の方法によると、中空糸膜を用いる工程により、大量の細胞培養液からエクソソーム等の細胞外小胞を、容易に分離、濃縮、精製することができ、連続する4個以上のリジンを含むペプチドが担持された担体を用いる工程((B1)工程及び(B2)工程)により、エクソソームの純度をさらに向上させることができる。ここで、「所望の細胞外小胞を濃縮する」場合の「濃縮」とは、中空糸膜を用いて、細胞外小胞を含む試料から、所望のサイズの細胞外小胞の比率が増加した液を取得することをいい、中空糸膜を通過しない液を回収する場合も、中空糸膜を通過する液を回収する場合も含まれる。また、単に溶媒の量を減らして所望のサイズの細胞外小胞の濃度を高めることも含まれる。
【0014】
(細胞外小胞)
細胞外小胞とは、細胞から放出されるナノメーターサイズの小胞の総称であり、エクソソーム、微小小胞体(Microvesicles)、アポトーシス小体等に分類される。本発明における細胞外小胞は、少なくともエクソソームを含み、好ましくは、高純度のエクソソームである。
【0015】
(エクソソーム)
エクソソームとは、細胞外に存在する直径50nm~150nm程度の、細胞に由来する小胞であり、血液、唾液、尿などのあらゆる体液中に多量に存在する。エクソソームは、その表面に細胞膜由来の脂質、タンパク質を含み、内部にはmRNA、miRNA等の核酸やタンパク質が含まれており、放出した細胞由来の情報が含まれている。そのため、エクソソームに包含されている情報はバイオマーカーとして、診断マーカー等に利用することもできる。また、これら核酸やタンパク質からなる生体情報分子はエクソソームを取り込んだ細胞で機能することが知られており、エクソソームを介して、核酸やタンパク質の交換による細胞間コミュニケーションが生じることが明らかとなっている。そのため、エクソソームは、診断だけではなく疾患の予防や治療にも利用できると考えられている。
【0016】
細胞外小胞やエクソソームのサイズを特定する際の直径又は粒子径という用語は、本明細書で使用する場合、細胞外小胞は必ずしも球状ではないため、細胞外小胞の最大寸法を指すこととする。直径又は粒子径は、顕微鏡検査法技術(例えば、透過型電子顕微鏡)又は光散乱法技術等のナノ粒子度を測定するための従来技術を使用して測定してもよい。さらに、光散乱及びブラウン運動の両方の分析に基づく、ナノ粒子追跡分析(Nanoparticle Tracking Analysis:NTA)を使用して測定することもできる。本発明において、細胞外小胞の直径又は粒子径は、粒子径50nm以上の細胞外小胞については、NanoSight(Malvern Panalytical、ナノサイトL10)を用い、粒子径50nm未満の細胞外小胞については、透過型電子顕微鏡を用いて測定したものとする。また、エクソソーム数の計測には、ディスクとナノビーズの抗体で表面抗原特異的にサンドイッチ検出する方法によるエクソソーム計測システム(ExoCounter、JVCケンウッド社)等を用いることができる。
【0017】
細胞外小胞やエクソソームのサイズを特定する際に分子量を用いる場合があるが、その場合分子量という用語は、分子中の全ての原子の原子量の合計を指す。したがって、細胞外小胞やエクソソームの分子量という場合、当該細胞外小胞やエクソソーム中に含まれる分子全ての原子の原子量の合計である。細胞外小胞やエクソソームの分子量は、特定のカットオフを有する膜を用いて決定することができる。当業者には周知のことであるが、エクソソームを含有する組成物が分画分子量300kDaカットオフ膜を通過した場合、結果として生じる残留物中に存在する細胞外小胞やエクソソームの分子量は300kDa以上となり、一方で回収液中に存在するエクソソームの分子量は300kDa未満となる。
【0018】
(細胞外小胞を含む試料)
本発明の方法において、「細胞外小胞を含む試料」とは、細胞外小胞を含む混合物であれば、その他の構成は特に限定されず、例えば、細胞の培養上清、生物の体内から採取された検体等が挙げられる。具体的には、各種細胞の培養上清、血液、血漿、血清、唾液、尿、涙液、汗、母乳、羊水、脳脊髄液(髄液)、骨髄液、胸水、腹水、関節液、眼房水、硝子体液等が挙げられるが、これらに限定されない。細胞外小胞を含む試料は目的に応じて、適宜選択され得るが、採取の容易さの観点、細胞外小胞の大量精製が可能であるという観点から、各種細胞の培養上清、血液、血漿、血清、唾液、尿等が好ましく、各種細胞の培養上清がより好ましい。
【0019】
上記各種細胞の培養上清における細胞は、特に限定されるものではなく、動物細胞であってもよく、植物細胞であってもよく、菌類であってもよく、細菌類であってもよく、藻類であってもよいが、インビトロ条件下で培養できる細胞であることが好ましく、インビトロ条件下で培養できる哺乳動物由来の細胞であることがより好ましい。また、インビトロ条件下で培養できる細胞であれば、哺乳動物より摘出した組織を形成する細胞であっても、インビトロで株化された細胞であってもよい。
【0020】
インビトロ条件下で培養できる哺乳動物由来の細胞としては、例えば、間葉系幹細胞、その他の幹細胞(胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞等)、組織前駆細胞、組織細胞(骨細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、皮膚細胞、神経細胞、筋肉細胞、血液系細胞、線維芽細胞、肝臓細胞等)等が挙げられる。これらのうち、得られる細胞外小胞が多様な生理活性を有し、炎症性疾患等に対する治療効果を有するという観点から、間葉系幹細胞が好ましい。間葉系幹細胞はその由来によって例えば脂肪由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞等が挙げられるが、中でも脂肪由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞がより好ましく、脂肪由来間葉系幹細胞がさらに好ましい。なお、本発明において細胞外小胞の由来となる細胞は、自己由来でも同種異系由来でも異種由来でもよいが、同種異系由来であることが好ましい。
【0021】
上記各種細胞の培養上清の取得方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下のように行うことができる。
【0022】
本発明において、細胞の培養方法は、それぞれの細胞に適した方法であれば特に限定されず、従来当業者に従来公知の方法が用いられ、例えば、30℃~37℃の温度、2%~7%CO2環境下、5%~21%O2環境下で行われる。また、細胞の継代の時期及び方法もそれぞれの細胞に適していれば特に限定されず、細胞の様子を見ながら、従来と同様に行うことができる。
【0023】
細胞の培養に用いる培地としては、当業者に従来公知のものを細胞の種類毎にそれぞれ選択して用いることができ、特に限定されない。培養上清由来の細胞外小胞をヒト等に対して用いるという観点から、動物血清を含まない無血清培地であることが好ましい。なお、培養上清由来の細胞外小胞をヒト等に投与する目的以外に用いる場合には、培地中に動物由来の血清が含有されていてもよい。
【0024】
前記無血清培地としては、動物血清を含まない培地であればよく、特に限定されない。公知の基本培地に、動物血清を除くその他添加剤を含有した組成を有するものを用いることができる。基本培地の組成は、培養するべき細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、イーグル培地のような最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地α(MEM-α)、間葉系幹細胞基礎培地(MSCBM)、Ham’s F-12及びF-10培地、DMEM/F12培地、Williams培地E、RPMI-1640培地、MCDB培地、199培地、Fisher培地、Iscove改変ダルベッコ培地(IMDM)、McCoy改変培地等が挙げられる。
【0025】
基本培地に加えるその他の添加剤としては、アミノ酸類、無機塩類、ビタミン類及び炭素源や抗生物質等の他の添加剤を挙げることができる。これらの添加剤の使用濃度は特に限定されず、通常用いられる濃度で用いることができる。
【0026】
(中空糸膜、中空糸膜モジュール)
中空糸膜とは透過膜の一利用形態であって、細いストロー状の細管に形成された膜体をいう。中空糸膜モジュールは、上記中空糸膜を多数本束ねた中空糸膜束が、塩化ビニルの合成樹脂やアルミ等の金属で形成されたハウジング容器に密閉状態で格納されている。一般的に個々の中空糸膜1本当たりの直径(内径)は、100μm~数mm程度であるが、液体を効率良く流通させる為に100μm~500μmであることが好ましく、100μm~300μmであることがより好ましい。また、それぞれの中空糸膜の長さは用途に応じて調整することができるが、長過ぎると液体を流す為の圧力が高くなることから、中空糸膜束の形態で両端の固定部を除いた長さ、所謂有効長が120mm~450mmに形成されていることが好ましく、100mm~300mmであることがより好ましく、150mm~250mmであることがさらに好ましい。また、中空糸膜の膜厚は一般に10μm~100μm程度であるが、20μm~60μmであることが好ましく、20μm~50μmであることがより好ましく、30μm~50μmであることがさらに好ましい。なお、本発明においては、精製効率の観点から、中空糸膜モジュールを用いること(中空糸膜が、中空糸膜モジュールを構成していること)が好ましい。
【0027】
本発明の方法において用いられる中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の膜面積は、中空糸膜内外の径差を考慮し、厚みの中間部分における換算値、即ち外面部面積と内面部面積の平均値とすることができる。中空糸膜の膜面積と処理速度は比例関係にあるため、膜面積の大きな中空糸膜モジュールを用いる方が、処理速度が速くなるため、処理にかかる時間を短くすることができ、細胞外小胞が受けるダメージを減少させることができる。一方で、中空糸モジュールの膜面積と精製時のデッドボリューム(流路内残留量)も比例関係にあるため、膜面積の大きな中空糸モジュールを用いるとその分ロスも増える。そのため、目的に合わせて、適切な膜面積の中空糸膜モジュールを選択することが好ましい。本発明の方法において用いられる中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の膜面積としては、1cm2~3,000cm2程度の範囲の中から、適宜目的に合わせて選択する。例えば、濃縮して小容量にすることが目的の場合には、20cm2程度の膜面積の小さいモジュールを使用することが好ましい。また、細胞培養上清の濃縮、濾過、夾雑物の除去等が目的の場合には、その処理量に合わせて、例えば膜面積が115cm2程度、1,000cm2程度、1,600cm2程度の中空糸膜モジュールを使用することが好ましい。
【0028】
本発明の方法において用いられる中空糸膜(中空糸膜モジュールに備わる中空糸膜も含む)の孔径は、目的に応じて選択することができるが、例えば、所望の細胞外小胞よりも大きな夾雑物を除去する場合には、当該夾雑物のみを透過させない孔径を選択する。そのような孔径としては、0.05μm~2μmであり、0.1μm~1μmであることが好ましく、0.2μm~0.8μmであることがより好ましく、0.2μm~0.5μmであることがさらに好ましく、0.22μmであることが特に好ましい。なお、微小小胞体(Microvesicles)を意図的に残そうとする場合には、孔径0.05μm~1μmのものを使用することが好ましい。また、細胞外小胞よりも大きな夾雑物を除去した後の培養上清等から、必要とする細胞外小胞を残し、不要な小さいサイズの粒子や残渣を除去する場合には、分画分子量が100kDa~1,000kDaのカットオフ膜を使用することが好ましく、120kDa~800kDaのカットオフ膜であることがより好ましく、150kDa~500kDaのカットオフ膜であることがさらに好ましく、300kDaのカットオフ膜であることが特に好ましい。この場合において、夾雑物を除去した後の培養上清等の希釈と濃縮を連続して行うことにより、小さいサイズの不要物を除去すると同時に、溶媒交換を行い、必要とするサイズの細胞外小胞を取得しても良い。さらに、上記工程で取得した細胞外小胞をさらに濃縮する場合には、培地や溶媒を透過させることができるサイズの中空糸膜を使用すればよく、分画分子量が10kDa~500kDaのカットオフ膜であることが好ましく、50kDa~300kDaのカットオフ膜であることがより好ましく、100kDa~200kDaのカットオフ膜であることがさらに好ましく、100kDaのカットオフ膜であることが特に好ましい。
【0029】
本発明の方法において用いられる中空糸膜モジュールに備わる中空糸膜の材質は、細胞由来の細胞外小胞を適切に分離する目的で使用できる材質であれば、特に限定されないが、例えば、ポリエーテルスルホン(PES)、修飾ポリエーテルスルホン(mPES)、ポリアクリロニトリル(PAN)等が挙げられる。これらのうち、親水性が高く、タンパク質の吸着性が低いという観点から、ポリエーテルスルホン(PES)、修飾ポリエーテルスルホン(mPES)が好ましく、修飾ポリエーテルスルホン(mPES)がより好ましい。
【0030】
(連続する4個以上のリジンを含むペプチド)
本発明の方法において用いられる「連続する4個以上のリジンを含むペプチド(以下、単位「本発明のペプチド」ともいう)」は、4個以上連続して結合したリジンを含むペプチドであって、試料中のエクソソーム、特にCD63陽性エクソソームと好適に結合することができる。本発明のペプチドは、連続する4個以上のリジンを含むものであれば、その他の構成は特に限定されず、リジンのみからなるペプチドであってもよいし、リジン以外のアミノ酸を含むペプチドであってもよい。また、本発明のペプチドは糖鎖又はイソプレノイド基等のペプチド以外の構造をさらに含む複合ペプチドであってもよい。本発明のペプチドに含まれるアミノ酸は修飾されていてもよく、アミノ酸はL体であっても、D体であってもよい。さらには、本発明のペプチドは、アミノ酸におけるα位のアミノ基とカルボキシル基とがペプチド結合したものであってもよく、アミノ酸の側鎖に含まれるアミノ基とα位のカルボキシル基とがペプチド結合したものであってもよく、アミノ酸におけるα位のアミノ基とアミノ酸の側鎖に含まれるカルボキシル基とがペプチド結合したものであってもよく、アミノ酸の側鎖に含まれるアミノ基とアミノ酸の側鎖に含まれるカルボキシル基とがペプチド結合したものであってもよい。
【0031】
本発明のペプチドは、連続する4個以上のリジンを含んでいることで、エクソソームを単離できる程度の結合強度を持ってエクソソームに結合することができる。本発明のペプチドは、連続する4個以上のリジンを含むものであり、エクソソームとの結合性を向上させる観点から、連続する10個以上のリジンを含むものであることが好ましく、連続する20個以上のリジンを含むものであることがより好ましく、連続する25個以上のリジンを含むものであることがさらに好ましく、連続する30個以上のリジンを含むものであることがよりさらに好ましく、連続する35個以上のリジンを含むものであることが特に好ましい。また、本発明のペプチドは、連続する40個以下のリジンを含むものであることが好ましい。
【0032】
本発明のペプチドに含まれる連続する4個以上のリジンは、エクソソームとの結合性を向上させる観点から、L体が好ましい。また、本発明のペプチドに含まれる連続する4個以上のリジンは、エクソソームとの結合性を向上させる観点から、リジン残基同士がε-アミノ基とカルボキシル基とでペプチド結合しているものが好ましい。
【0033】
本発明のペプチドは、当該分野において公知の方法によって作製することができる。例えば、天然の微生物が発現するものであってもよく、形質転換体によって発現させてもよい。さらに、本発明のペプチドは液相法等により化学合成されてもよい。また市販されているポリリジンを本発明のペプチドとして利用することもできる。
【0034】
(担体)
本発明の方法において利用する担体(以下、単に「本発明の担体」ともいう)は、本発明のペプチドが担持された担体である。本発明の担体は本発明のペプチドを担持していることで、エクソソームを特異的に結合させることができる。本発明の担体上では、エクソソームと本発明のペプチドとが複合体を形成する。
【0035】
本発明の担体は、本発明のペプチドを直接的又は間接的に担持できる構造物であれば、その他の構成は特に限定されない。本発明の担体としては、担体に結合する本発明のペプチドの機能を弱めない支持体であることが好ましく、例えば、セルロース、アガロース、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸、シリカ、ガラス、ナイロンメンブレン、半導体ウェハー、ラテックス、マイクロビーズ、磁性ビーズ等が挙げられる。これらのうち、本発明の担体としては、エクソソームを含む複合体の回収およびエクソソームの単離を容易に行なうことができるという点で、カラム精製に適したセルロース、アガロース、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸、シリカが好ましく、中でもセルロースがより好ましい。
【0036】
本発明のペプチドと担体との結合態様は、特に限定されず、ペプチドと担体との結合は直接的であっても間接的であってもよい。また、本発明のペプチドと担体との結合は、ポリペプチドからなるリンカーを介してもよい。
【0037】
なお、本発明の方法においては、本発明のペプチドが担持された担体として市販されているものを用いることもできる。そのような市販品としては、例えばエクソピュア(ExoPUA(登録商標)、シリコンバイオ社製)が挙げられる。
【0038】
(解離バッファー)
本発明の方法では、細胞外小胞(エクソソーム)と本発明のペプチドとが結合した複合体から上記細胞外小胞(エクソソーム)を解離させるために、金属陽イオンを含む解離バッファー(以下、単に「本発明の解離バッファー」ともいう)を用いる。本発明の解離バッファーはタンパク質変性剤等を含むことなく、マイルドな条件でエクソソームを複合体から解離させることができるため、エクソソームをインタクトに近い状態で単離することが可能である。
【0039】
本発明の解離バッファーに含まれる金属陽イオンは、特に限定されず、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、銀イオン、及び銅(I)イオン等の1価の金属陽イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、バリウムイオン、銅(II)イオン、鉄(II)イオン、スズ(II)イオン、コバルト(II)イオン、及び鉛(II)イオン等の2価の金属陽イオン;アルミニウムイオン、及び鉄(III)イオン等の3価の金属陽イオン等が挙げられる。本発明の解離バッファーに含まれる金属陽イオンとしては、これら金属陽イオンの中でも、水溶性が高いことから、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、及びニッケルイオンが好ましく、上記複合体から細胞外小胞(エクソソーム)を十分に解離させることができる点も考慮すると、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又はマグネシウムイオンを、単独で又は組み合わせて含むことがより好ましい。
【0040】
本発明の解離バッファーにおける金属陽イオンの濃度は、複合体から細胞外小胞(エクソソーム)を解離させることが可能であり、かつ、細胞外小胞(エクソソーム)の膜構造及び膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えない限り、特に限定されない。つまり、使用する本発明のペプチドと細胞外小胞(エクソソーム)との結合強度、及び金属陽イオンの種類(価数)等に応じて最適な陽イオンの濃度は変わり得る為、適宜最適な濃度を検討の上、決定することができる。本発明の解離バッファーにおける金属陽イオンの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.2M~1Mであることが好ましく、0.2M~0.8Mであることがより好ましく、0.2~0.6Mであることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の解離バッファーのpHは、5.0~9.0であることが好ましく、5.5~8.5であることがより好ましく、6.0~8.0であることがさらに好ましい。解離バッファーのpHが上記範囲であれば、細胞外小胞(エクソソーム)の膜構造及び膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えないため好ましい。
【0042】
本発明の解離バッファーは、細胞外小胞(エクソソーム)の膜構造及び膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えない範囲において、金属陽イオン以外の物質を含んでいてもよい。
【0043】
(本発明の細胞外小胞の精製方法の各工程について)
本発明の細胞外小胞の精製方法を各工程に分け、具体的に説明するが、本発明は以下に示す方法に限定されない。
【0044】
本発明の細胞外小胞の精製方法は、
(A0)夾雑物を除去する工程、
(A1)細胞外小胞を含む試料を、中空糸膜を用いて処理し、所望の細胞外小胞を濃縮する工程、
(A2)得られた上記細胞外小胞の濃縮液の溶媒交換を行う工程、
(A3)上記溶媒交換後の細胞外小胞の濃縮液をさらに濃縮する工程、
(B1)得られた上記細胞外小胞の濃縮液を、連続する4個以上のリジンを含むペプチドが担持された担体に接触させ、上記細胞外小胞と上記ペプチドとが結合した複合体を形成させる工程、及び
(B2)上記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、上記複合体から上記細胞外小胞を解離させる工程、を含む。
【0045】
(A0)夾雑物を除去する工程
本工程においては、細胞外小胞を含む試料(細胞の培養上清等)から、細胞残渣やその他の不要なゴミを除去するために、吸引濾過ユニット又は中空糸膜モジュールを用いた濾過を行う。必要に応じて、濾過を行う前に、細胞培養上清を2,000×g、20min等の条件で遠心分離し、細胞や大きなゴミ等を沈殿させ、その上清を用いてもよい。上記吸引濾過ユニットには、孔径0.22μmのメンブレンフィルターをセットし、常法に従って行うことができる。また、中空糸膜モジュールを用いる場合には、中空糸膜の孔径は、0.05μm~2μmであり、0.1μm~1μmであることが好ましく、0.2μm~0.8μmであることがより好ましく、0.2μm~0.5μmであることがさらに好ましく、0.22μmであることが特に好ましい。なお、微小小胞体(Microvesicles)を残そうとする場合には、孔径0.05μm~1μmのものを使用することが好ましい。本工程においては、濾過装置又は中空糸膜モジュールのサイズを変更することで、処理できる試料の量を調節することができる。
【0046】
本工程で使用する具体的な吸引濾過ユニットとしては、例えば、フィルターシステムとしてCorning社の431097、ThermoFisher社の566-0020等が挙げられる。中空糸膜モジュールとしては、ラボスケールではC02P20U05N、大量処理の場合にはS02P20U05N(いずれもRepligen社製)等が挙げられる。
【0047】
(A1)細胞外小胞を含む試料を、中空糸膜を用いて処理し、所望の細胞外小胞を濃縮する工程
本工程においては、夾雑物を除去した後の細胞外小胞を含む試料(細胞の培養上清等)から、必要とする細胞外小胞を残し、不要な小さいサイズの粒子や残渣を除去する。具体的には、夾雑物を除去した試料(細胞の培養上清等)をFeedボトル等に導入し、ポンプを作動させて中空糸膜モジュールにロードする。その後、トータルで試料の約50倍量~150倍量のPBS等を透過させ、所望のサイズの細胞外小胞を中空糸膜モジュール内に残して濃縮し、所望の細胞外小胞の濃縮液を得ると共に、洗浄することができる。濾液は、ポンプにより廃液タンク等に送られる。この工程においては、中空糸膜モジュールに備わる中空糸膜を適宜選択することによって、回収する細胞外小胞のサイズを調節することができる。本発明の精製方法においては、本工程に用いる中空糸膜としては、100kDa~1,000kDaのカットオフ膜であることが好ましく、120kDa~800kDaのカットオフ膜であることがより好ましく、150kDa~500kDaのカットオフ膜であることがさらに好ましく、300kDaのカットオフ膜であることが特に好ましい。このようなカットオフ膜を選択することで、間葉系幹細胞等の培養上清等の試料から、粒子径50nm以上(50nm以上220nm以下、好ましくは50nm以上150nm以下)のエクソソーム等の細胞外小胞に加えて、粒子径50nm未満(1nm以上50nm未満、好ましくは10nm以上50nm未満)の細胞外小胞が含まれる、抗炎症効果を有する細胞外小胞集団を取得することができる。本工程においても、中空糸膜モジュールのサイズを変更することで、処理できる培養上清の量を調節することができる。
【0048】
本工程で使用する具体的な中空糸膜モジュールとしては、ラボスケールではC02E30005N、大量処理の場合にはC04N30005N(いずれもRepligen社製)等の市販品が挙げられる。
【0049】
(A2)得られた上記細胞外小胞の濃縮液の溶媒交換を行う工程
本工程においては、上記工程で取得した濃縮液について、目的とする溶液での希釈および限外濾過装置、中空糸膜、中空糸膜モジュール等での濃縮を一度又は繰り返し行うことにより、上記工程で取得した濃縮液の溶媒交換を行う。上記限外濾過装置には、培地や溶媒を透過させることができる孔径のカットオフ膜をセットする。分画分子量が10kDa~500kDaのカットオフ膜であることが好ましく、50kDa~300kDaのカットオフ膜であることがより好ましく、100kDa~200kDaのカットオフ膜であることがさらに好ましく、100kDaのカットオフ膜であることが特に好ましい。また、本工程に中空糸膜、中空糸膜モジュールを用いる場合は、使用する中空糸膜としては、上記と同様に、培地や溶媒を透過させることができるサイズであればよく、分画分子量が10kDa~500kDaのカットオフ膜であることが好ましく、50kDa~300kDaのカットオフ膜であることがより好ましく、100kDa~200kDaのカットオフ膜であることがさらに好ましく、100kDaのカットオフ膜であることが特に好ましい。このようなカットオフ膜を選択することで、取得した細胞外小胞を失うことなく、適切な溶媒に置き換えることができる。
【0050】
本工程で使用する具体的な中空糸膜モジュールとしては、C02E10005N(Repligen社製)等の市販品が挙げられる。
【0051】
(A3)上記溶媒交換後の細胞外小胞の濃縮液をさらに濃縮する工程
本工程においては、上記工程で取得した溶媒交換後の細胞外小胞の濃縮液を、限外濾過装置、中空糸膜、中空糸膜モジュール等を用いてさらに濃縮する。上記限外濾過装置には、培地や溶媒を透過させることができる孔径のカットオフ膜をセットする。分画分子量が10kDa~500kDaのカットオフ膜であることが好ましく、50kDa~300kDaのカットオフ膜であることがより好ましく、100kDa~200kDaのカットオフ膜であることがさらに好ましく、100kDaのカットオフ膜であることが特に好ましい。また、本工程に中空糸膜モジュールを用いる場合は、中空糸膜としては、上記と同様に、培地や溶媒を透過させることができるサイズであればよく、分画分子量が10kDa~500kDaのカットオフ膜であることが好ましく、50kDa~300kDaのカットオフ膜であることがより好ましく、100kDa~200kDaのカットオフ膜であることがさらに好ましく、100kDaのカットオフ膜であることが特に好ましい。このようなカットオフ膜を選択することで、取得した細胞外小胞を失うことなく、不要物を除去し、適切な濃度に濃縮することができる。
【0052】
本工程で使用する具体的な中空糸膜モジュールとしては、C02E10005N(Repligen社製)等の市販品が挙げられる。
【0053】
上記により精製濃縮された細胞外小胞の濃縮液は、上記Feedボトルに回収し、さらに必要に応じてスケールの小さい中空糸膜モジュールを用いて濃縮を行ってもよい。またその際には、ポンプを使用する代わりに、シリンジ、限外濾過装置等を使用した手動濃縮を行ってもよい。
【0054】
得られた細胞外小胞の濃縮液は、クリーンベンチ内で、滅菌と、精製段階で生じた凝集を取り除く目的で、0.22μmフィルター濾過を行ってもよい。
【0055】
本発明の精製方法によると、細胞培養上清5mL~50L程度まで処理することが可能となるので、産業利用のために、細胞外小胞を必要に応じて大量調製することもできる。なお、上記各工程は、一連の操作を制御するソフトウェアによって制御し、自動化することも可能である。
【0056】
(B1)得られた上記細胞外小胞の濃縮液を、連続する4個以上のリジンを含むペプチドが担持された担体に接触させ、上記細胞外小胞と上記ペプチドとが結合した複合体を形成させる工程(複合体形成工程)
本工程は、一連のA工程で得られた濃縮液(所望の細胞外小胞(エクソソーム等)を含む試料)と、本発明の担体に担持された連続する4個以上のリジンを含む本発明のペプチドとを接触させることによって、上記細胞外小胞(エクソソーム等)と上記ペプチドとが結合した複合体を形成させる工程である。上記細胞外小胞(エクソソーム等)と本発明のペプチドとを接触させる方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、柱状又は円筒状のカラムに本発明のペプチドが担持された担体を充填することによって調製したカラムを用いる方法が好ましい方法として挙げられる。上記カラムに、A工程で得られた濃縮液を通液させることによって、上記細胞外小胞(エクソソーム等)と本発明の担体に担持された本発明のペプチドとを接触させ、複合体を得ることが可能である。本工程においては、本発明のペプチドが本発明の担体に予め担持された、市販の4個以上のリジンを含むεポリペプチド担体等を用い、4個以上のリジンを含むεポリペプチド担体等をカラムに充填することによって、上記カラムを作製してもよい。
【0057】
上記カラムに、A工程で得られた濃縮液を通液させる具体的な方法については、当業者に従来公知の方法を用いることができる。例えば、本発明のペプチドが担持された担体を充填した上記カラムを、ナトリウムイオン等の金属陽イオンを0.15M以下の濃度で含むリン酸緩衝液、Tris緩衝液、Bis-Tris緩衝液、又はHEPES緩衝液等の結合バッファー(pH6.0~8.0)等で置換した後、A工程で得られた濃縮液(細胞外小胞(エクソソーム等)を含む試料を添加し、重力或いは遠心力によって、又は上部から加圧或いは下部から吸引することによって、カラム内に通液させる。なお、A工程で得られた濃縮液(細胞外小胞(エクソソーム等)を含む試料には、結合バッファーを混合してもよい。
【0058】
上記カラムと試料との接触時間は、試料中の細胞外小胞(エクソソーム等)と本発明の担体に担持された本発明のペプチドとが複合体を形成するために十分な時間であり、試料を含む溶液の通液速度を調整すること等によって適宜設定できる。上記通液速度は、試料の粘性によって変動するため、試料の粘性によって最適な流速は変化する。
【0059】
本工程は、カラムを用いずに、本発明のペプチドが結合した担体と、試料とを混合して接触させ、細胞外小胞(エクソソーム等)-本発明のペプチド-本発明の担体の順で結合した複合体を形成させてもよい。
【0060】
本工程の後、後述する(B2)工程の前に、洗浄工程が含まれていることが好ましい。洗浄工程においては、洗浄液で洗浄することで、本発明のペプチドに結合せず、複合体を形成しなかった物質が取り除かれる。洗浄工程は、上記複合体が解離しない条件下で行なわれ、使用される洗浄液の種類や洗浄回数等は特に限定されないが、通常合計で、カラムボリュームの5倍量程度の液量で洗浄し、モニター等で確認しながら、A260(260nmの吸収)やA280(280nmの吸収)が十分低下するまで洗浄することが好ましい。上記洗浄液としては、例えば、リン酸緩衝液(PBS)等の緩衝液が挙げられる。
【0061】
(B2)上記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、上記複合体から上記細胞外小胞を解離させる工程
本工程は、上記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファー(上述の本発明の解離バッファー)とを接触させて、上記複合体からエクソソーム等の細胞外小胞を解離させる工程である。
【0062】
上記複合体と本発明の解離バッファーとを接触させる方法としては、例えば、上記複合体形成工程において本発明の複合体が形成されたカラムに、本発明の解離バッファーを通液させることによって、本発明の複合体と本発明の解離バッファーとを接触させることができる。カラムへ本発明の解離バッファーを通液させるための具体的方法としては、解離バッファーを添加し、重力或いは遠心力によって、又は上部から加圧或いは下部から吸引することによって、カラム内に通液させる方法が挙げられる。カラムと本発明の解離バッファーとを接触させた場合には、細胞外小胞(エクソソーム等)は複合体から解離され、解離バッファー中へ移動する。
【0063】
上記複合体と本発明の解離バッファーとの接触時間は、上記複合体から細胞外小胞(エクソソーム等)が解離するために十分な時間であり、試料を含む溶液の通液速度を調整すること等によって適宜設定できる。
【0064】
上記複合体から細胞外小胞(エクソソーム等)を効率的に解離させて回収するために、上述したとおりの金属陽イオン濃度の解離バッファーが全くふくまれない緩衝液(解離バッファー0%)から徐々に解離バッファーの含有率を上げ、最終的に解離バッファー100%とする、0%~100%のリニアグラジエントによる溶出を行い、特定量毎にフラクションを分取してもよい。その後、各フラクションの細胞外小胞(エクソソーム等)の含有量を測定し、細胞外小胞(エクソソーム等)を含むフラクションのみを回収し、所望の細胞外小胞を含む、細胞外小胞含有組成物を取得する。
【0065】
なお、本工程において、本発明のペプチドは、本発明の担体に結合されたままでいてもよく、本発明の担体から解離されていてもよいが、細胞外小胞(エクソソーム等)をより純度高く単離する観点から、本工程において本発明のペプチドは本発明の担体に結合されたままでいることが好ましい。
【0066】
本発明の精製方法によって、間葉系幹細胞の培養上清を出発材料として細胞外小胞を精製した場合、最終的に得られる細胞外小胞(エクソソーム等)の平均直径は、50nm以上220nm以下であり、50nm以上200nm以下であることが好ましく、50nm以上150nm以下であることがより好ましく、120nm以上150nm以下であることがさらに好ましい。
【0067】
本発明の精製方法によって、間葉系幹細胞の培養上清を出発材料として細胞外小胞を精製した場合、最終的に得られる細胞外小胞中、直径50nm以上220nm以下(好ましくは50nm以上150nm以下)のエクソソーム等の細胞外小胞は全粒子数の70%以上であり、好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上である。
【0068】
本発明の精製方法によって、間葉系幹細胞の培養上清を出発材料として細胞外小胞を精製した場合、最終的に得られる細胞外小胞中、エクソソームマーカーであるCD9及びCD63を発現する小胞の割合を測定することで、エクソソームの純度を確認することができる。本発明の精製方法によって得られる細胞外小胞は、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上がCD9及びCD63を発現するエクソソームである。また、細胞外小胞を含む精製物中の総粒子数(NTA法)及びエクソソームマーカー陽性粒子数(エクソカウンター)をそれぞれ測定し、総粒子数に対するエクソソームマーカー陽性粒子率を算出する。さらに、本発明の精製方法によって得られる細胞外小胞は、不純物の混入が少ないため、精製前の陽性粒子率を1に換算し、精製後の陽性粒子率を算出すると、その値は、2以上であり、2.5以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、5.0以上であることがさらに好ましい。この数値の上限は高い程好ましいが、通常20以下であり、15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。なお、この精製前の陽性粒子率を1に換算した場合の、精製後の陽性粒子率は、細胞外小胞以外の不純物粒子を除去すればするほど高い値を示すが、不純物粒子を除去しない場合は、1に近い値となる。
【0069】
本発明の精製方法によって、間葉系幹細胞の培養上清を出発材料として細胞外小胞を精製した場合、最終的に得られる細胞外小胞は、炎症性マクロファージを抗炎症性マクロファージに誘導する作用、即ち抗炎症作用を有しているが、この作用は、従来公知の精製方法によって分離精製されたエクソソーム等の細胞外小胞には見られない。したがって、本発明の精製方法によって得られる細胞外小胞は、炎症性の疾患に対して、予防及び/又は治療効果を期待して使用することができる。
【0070】
<細胞外小胞精製システム>
本発明は、上述の本発明の細胞外小胞の精製方法を実現するための、試薬類、装置、器具、制御ソフトウェアを全て含む細胞外小胞精製システムもその範囲に含む。具体的な試薬類、装置、器具、制御ソフトウェア、精製工程の内容については、細胞外小胞の精製方法の項における説明を適用できる。
【実施例0071】
以下に本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
[細胞外小胞の精製]
1.間葉系幹細胞培養上清の調製
ヒト脂肪由来間葉系幹細胞(AD-MSC, Lonza)を間葉系幹細胞用無血清培地(ロート製薬株式会社製)で2-5日間培養し、培地を回収した。回収した培地を400×gの条件で遠心し、間葉系幹細胞培養上清を取得した。
【0073】
2.細胞外小胞の精製
(1)実施例1:
上記で取得した間葉系幹細胞培養上清から、中空糸膜により細胞外小胞含有組成物を取得した。
【0074】
具体的には、まず、間葉系幹細胞培養上清を0.22μmのフィルター又は夾雑物除去用の0.2μm中空糸膜モジュール(Repligen社製、C02P20U05N)を用いて濾過し、夾雑物を除去した。なお、上記中空糸膜モジュールの中空糸膜の材質は、修飾ポリエーテルスルホン(mPES)である。
【0075】
夾雑物を除去した培養上清をfeedボトルに導入した。メインポンプにより、培養上清をfeedボトルから精製用の中空糸膜モジュール(Repligen社製、C02E30005N)にロードし、濃縮を行った。続いて、濃縮液に下記A液を加えて希釈した後、中空糸膜モジュールを用いて再度濃縮した。なお、上記中空糸膜モジュールの中空糸膜の材質は、修飾ポリエーテルスルホン(mPES)である。この工程により、分子量約300kDa以下の夾雑物質が除去され、溶媒がA液に置換された、細胞外小胞の濃縮液を得た。なお、A液として、100mMの塩化ナトリウムを含有するリン酸緩衝液(pH7.0)を用いた。
【0076】
次に、上記工程で得られた細胞外小胞の濃縮液(70~90mL)を、液体クロマトグラフィー用エクソソーム精製カラム(ExoPUAカラム,有限会社シリコンバイオ社製)を用いて精製・濃縮を行った。ExoPUAカラムは、エクソソームの脂質二重膜に結合するペプチド(互いに近接した4つ以上のリジンを含むペプチド)を固定したセルロース担体が充填されたカラムである。チューブポンプを用いて、ExoPUAカラムをA液(20mL)で平衡化した後、上記の細胞外小胞の濃縮液(70~90mL)をExoPUAカラムに送液した。次いで、A液(20mL)を送液し、カラム内の細胞外小胞以外の不純物等を洗浄した。その後、B液(20mL)を送液し、カラム内の細胞外小胞を溶出し、分取用チューブに回収し、実施例1の細胞外小胞含有組成物とした。なお、B液として、600mMの塩化ナトリウムを含有するリン酸緩衝液(pH7.0)を用いた。
【0077】
(2)比較例1:超遠心法(Ultracentrifuge:UC)
上記で取得した間葉系幹細胞培養上清を2,000×g、20分の条件で遠心し、その後、吸引濾過フィルター(Corning,431096)を用いて吸引濾過して夾雑物を除去した。濾過した培養上清を、以下の工程で超遠心した。即ち、濾過した培養上清20mLを、超遠心用チューブ(Koki Holdings,S309156A)に充填し、超遠心機(Koki Holdings, CS100FNX)を使用して120,000×g、70min、4℃の条件で超遠心した。超遠心用チューブから上清を除去し、濾過した培養上清を新規に20mL充填し、同様の操作を繰り返し、合計80mL分の培養上清から調製されるペレットを得た。さらに、D-PBS(-)20mLを充填し、同様に超遠心し、上清を除去した。超遠心用チューブの底部にできたペレットをD-PBS(-)0.5mLで溶解し、比較例1の細胞外小胞含有組成物とした。
【0078】
(3)比較例2:ポリマー沈降法(Total Exosome Isolation Reagent:TEIR)
Thermo Fisher SCIENTIFIC製の「Total Exosome Isolation Reagent(from cell culture media)」を用い、付属のプロトコールに従って精製した。上記で取得した培養上清80mLを2,000×g、20分の条件で遠心し、その後、吸引濾過フィルター(Corning、431096)を用いて吸引濾過して夾雑物を除去した。50mL遠心管(TPP社,91050)に濾過した培養上清とTotal Exosome Isolation Reagentを2:1の割合で充填し、十分に混和した後、4℃で一晩静置した。翌日、10,000×g、60min、4℃の条件で遠心した(KUBOTA、6200)。遠心管から上清を除去し、D-PBS(-)1mLで容器内を洗い、再度溶液成分を除去した。Flashで壁面の溶液を落として除去してから底部にできたペレットをD-PBS(-)0.5mLで溶解し、比較例2の細胞外小胞含有組成物とした。
【0079】
(4)比較例3:サイズ排除クロマトグラフィー法(SEC)
iZON製の「qEV35」を用い、付属のプロトコールに従って精製した。上記で取得した間葉系幹細胞培養上清80mLを2,000×g、20分の条件で遠心し、その後、吸引濾過フィルター(Corning、431096)を用いて吸引濾過して夾雑物を除去した。Amicon Ultra-15に、濾過した培養上清を充填し、5,000×g、20min、4℃の条件での遠心を、上清量が0.15mLになるまで繰り返した。qEV35カラムをスタンドに固定し、上部、下部のキャップを外し、bufferを排出させた。カラムに計3.5mLのD-PBS(-)を添加し、排出させた。濃縮した培養上清0.15mLをカラムに充填し、その後合計量が1mLとなるようにD-PBS(-)を充填、排出した。D-PBS(-)を0.2mLずつ添加/排出し排出された溶液をそれぞれ回収し、そのうち1~3の分画を、比較例3の細胞外小胞含有組成物とした。
【0080】
3.細胞外小胞含有組成物の性状解析
(1)タンパク質濃度及びエクソソーム濃度と純度
培養上清には、細胞外小胞以外に、培養に必要なタンパク質及び細胞が分泌したタンパク質を豊富に含んでいる。これらタンパク質は、最終的に精製される細胞外小胞に対する不純物に相当し、細胞外小胞の品質への影響、ひいては安全性や有効性への影響が懸念される。この実験では、実施例1および比較例1~3の細胞外小胞含有組成物のタンパク質濃度及びエクソソーム濃度(CD9/CD63ELISAキット)をそれぞれ測定し、タンパク質濃度に対するエクソソーム濃度の比率(ppm)をそれぞれ算出し、その値を各組成物の純度とした。すなわち、不純物の持ち込み量が多いほど、純度は低い値を示し、不純物を除去すればするほど、高い値を示す。結果を下記表1に示す。
【0081】
表1に示すとおり、精製前の培養上清の純度は、0.054であったのに対し、精製後の純度は、実施例1および比較例1~3では、それぞれ20、12、2.4及び8.3であった。このように、いずれの方法によっても細胞外小胞として精製されたことが確認されたが、実施例1により精製された細胞外小胞が最も純度が高いことが確認された。
【0082】
【0083】
(2)総粒子数及びエクソソームマーカー(CD63/CD9)陽性粒子数と陽性粒子率
培養上清中の粒子の中には、細胞外小胞以外に、死細胞の断片、ウイルス、タンパク質の凝集塊及び析出した塩類などの粒子が含まれている可能性も否定できない。これら粒子は、最終的に精製される細胞外小胞に対する不純物に相当し、細胞外小胞の品質への影響、ひいては安全性や有効性への影響が懸念される。そのため、実施例1および比較例1~3の細胞外小胞含有組成物の総粒子数(NTA法)及びエクソソームマーカー陽性粒子数(エクソカウンター)をそれぞれ測定し、総粒子数に対するエクソソームマーカー陽性粒子率を算出した。さらに精製前の陽性粒子率を1に換算し、精製後の陽性粒子率の変化を下記表2に示した。すなわち、細胞外小胞以外の不純物粒子を除去すればするほど高い値を示すが、不純物粒子を除去しない場合は、1に近い値となる。
【0084】
その結果、表2に示すとおり、精製後のエクソソームマーカー陽性粒子率の変動は、実施例1および比較例1~3で、それぞれ5.6、0.9、0.9及び0.8であった。実施例1では、比較例1~3よりも陽性粒子率が高く、不純物粒子が除去されていることが確認された。一方、比較例1~3では、不純物粒子を除去することなく、非選択的に粒子が回収されることが確認された。実施例1の細胞外小胞は、陽性粒子率が高いため、抗炎症効果にも優れている。
【0085】
【0086】
(3)電子顕微鏡観察
実施例1および比較例1~3の細胞外小胞を透過型電子顕微鏡により観察した(
図1)。その結果、本発明により精製したエクソソームは、球形・脂質二重膜構造が良好に維持されており、周囲の夾雑物も顕著に少ないことがわかった。
本発明によると、大量の細胞培養液等からエクソソーム等の細胞外小胞を、容易に分離、濃縮、精製することができ、また、得られるエクソソームの純度にも優れる。さらに、本発明によると、疾患治療の効果に優れる細胞外小胞、特に抗炎症効果を奏する細胞外小胞を取得することができる。また、本発明によると、従来法におけるような遠心操作によるダメージを受けることがないため、細胞外小胞の破壊、凝集が起こりにくいという利点もある。さらに、本発明の方法は、システムのスケールアップにも容易に対応でき、各工程の自動化も可能である。