(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023123554
(43)【公開日】2023-09-05
(54)【発明の名称】新規な使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20230829BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20230829BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20230829BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230829BHJP
【FI】
A61K31/05
A61P17/10
A61P31/10
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023095048
(22)【出願日】2023-06-08
(62)【分割の表示】P 2021086297の分割
【原出願日】2015-12-09
(31)【優先権主張番号】62/090,908
(32)【優先日】2014-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】519046546
【氏名又は名称】ダーマバント、サイエンシーズ、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング
【氏名又は名称原語表記】DERMAVANT SCIENCES GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ハビエル、コテ-シエラ
(72)【発明者】
【氏名】スーザン、エイチ.スミス
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン、エム.フレイ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】必要とするヒト患者における座瘡治療の新規な方法を提供する。
【解決手段】患者に有効量の化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベン(下記に示す化合物)またはその薬学上許容可能な塩を局所的に投与することを含んでなる方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする患者において座瘡を治療する方法であって、前記患者に局所的に有効な量の化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩を投与することを含んでなる、方法。
【請求項2】
座瘡が体幹座瘡である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
座瘡病巣が顔面および頭皮を侵している、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物が前記患者の患部に1日1回投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が前記患者の患部に1日2回投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記化合物が3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記化合物が0.5%~5%w/wの範囲の濃度で局所的に適用される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記化合物が0.5%~2%w/wの範囲の濃度で局所的に適用される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記化合物が0.5%w/w、1%w/w、または2%w/wで局所的に適用される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記化合物が、座瘡の治療のための有効量の治療薬と併用投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第2の治療薬の併用投与が、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩と、同時点で一緒に、逐次または同時期である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩が、第2の治療薬と交互の時間に、例えば、一方が朝に、他方が晩に、投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
必要とするヒトにおいてIL-17Aの生産を抑制する方法であって、前記ヒトに有効量の化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩を局所的に投与することを含んでなる、方法。
【請求項14】
必要とするヒトにおいて誘導アポトーシスを介してケラチノサイトの過剰増殖を抑制する方法であって、前記ヒトに有効量の化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩を局所的に投与することを含んでなる、方法。
【請求項15】
必要とするヒトにおいてケラチノサイトの細胞死を促進する方法であって、前記ヒトに有効量の化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩を局所的に投与することを含んでなる、方法。
【請求項16】
座瘡の局所的治療において使用するための、化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベン、またはその薬学上許容可能な塩。
【請求項17】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法において使用するための、化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベン、またはその薬学上許容可能な塩。
【請求項18】
必要とする患者において座瘡を治療する方法であって、前記患者に局所的に有効な量の3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩、および薬学上許容可能な担体または希釈剤を含んでなる医薬組成物を投与することを含んでなる、方法。
【請求項19】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法において使用するための医薬組成物であって、局所的に有効な量の3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩と、薬学上許容可能な担体または希釈剤とを含んでなる、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尋常性座瘡の治療のためのスチルベン誘導体の新規な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
尋常性座瘡(または単に座瘡)は、世界で推定6億5000万人、または集団の9.4%を侵している一般的な皮膚病態である(Vos et al. Lancet, 380(9859):2163-2196, 2012)。この病態は、脂漏、面皰、丘疹、結節、吹き出物、および場合によっては瘢痕を伴う皮膚領域を特徴とし、しばしば青年期に見られるが、多くはさらに成人まで持続し得る(James. N Engl J Med, 352(14):1463-1472, 2005)。
【0003】
青年期は、社会的に極めて不安定な時期であり、座瘡の存在およびそれに由来する瘢痕はしばしば自尊心の低下、鬱病、または極端な場合には自殺などの心理的問題を招く(Goodman. Aust Fam Physician, 35(7):503-504, 2006; Purvis et al. J Paediatr Child Health, 42(12):793-796, 2006)。
【0004】
グラム陽性菌プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)(P.アクネス)に対する免疫反応は、患者における急性炎症性応答の誘導に主要な役割を果たすことに関連付けられている(De Young et al. J Invest Dermatol, 83(5):394-398, 1984; Jappe et al. Br J Derm. 146(2):202-209, 2002)。座瘡治療は、皮脂細胞による皮脂生産の低下、細胞のターンオーバー加速化、細菌感染に対する対抗、炎症の軽減、またはこれらの戦略のいくつかの組合せによって機能する。座瘡の治療は、長期的である傾向があり、レチノイド、過酸化ベンゾイル、および抗菌薬、特に、経口テトラサイクリンおよび局所用クリンダマイシンの使用を主として中心とする。これらの治療に対するP.アクネスの耐性率の上昇に加え、最近、座瘡治療の主要な標的としての、ほとんどの健康なヒト皮膚に見られる共生細菌P.アクネスの根絶の有用性が疑問視されており、代わりに、この細菌に対する炎症性応答の治療に基づくモデルが考えられている(Agak et al. J Invest Dermatol, 2013)。炎症は、臨床的には炎症を起こした丘疹および濃胞の存在で、および組織学的には開放面皰における細胞浸潤物の存在により座瘡の後期に関連付けられる(Tanghetti, E.A. J. Clin. and Aesthetic Derm. 6(9):27-35, 2013)。ここ10年で、新たな所見が、初期座瘡の病因の一部としての炎症機構の関与(Norris, J.F. and et al. Br. J. Dermatol. 118:651-659, 1988)および座瘡が炎症性疾患と見なされるべきことが先進的な見方であること(Stein, L.F. and et al. J. Drugs Dermatol. Suppl 6:s67-s69, 2013)を実証した。事実として、皮膚は免疫学的に活性な器官である。毛包脂腺単位の主要な構成成分である毛包ケラチノサイトおよび皮脂細胞は、P.アクネスを認識することによって自然免疫系を活性化させる。毛包間および毛漏斗ヒトケラチノサイトおよび皮脂細胞の両方は、それらが自然免疫におけるこれらの細胞の役割と一致して機能的Toll様受容体(TLR)2、TLR4およびCD14を発現することから、P.アクネスの存在を感知することができる(Song, P.I. et al. J. Invest Dermatol. 119:424-432, 2002; Selway, J.L. et al. BMC Dermatol. 13:10, 2013; Nagy et al. Microbes and Infection, 8:2195-2205, 2006)。実際に、グラム陽性細菌P.アクネスは、ペプチドグリカン(PGN)およびリポテイコ酸(LTA)などの病原体関連分子パターン(pathogen associated molecular patterns)(PAMP)によるTLR2の活性化を介して初期および後期座瘡病巣において免疫系を惹起し得る。事実として、IL-1aはTLR2の活性化に応答してケラチノサイトにより放出される。同様に、PGNおよびLTAは、座瘡病巣に特徴的なケラチノサイトの角化亢進を招く。また、P.アクネスは、ヒト単球においてTh1および炎症性サイトカイン(IFNγ、IL-12、IL-18、IL-8、およびIL-1b)の分泌を誘発することも示されており、このことは、P.アクネスが毛包脂腺嚢を取り囲む組織マクロファージを活性化し得ることを示唆する(Sugisaki, H. et al. J. Dermatol. Sci. 55(1):47-52, 2009; Kim, J. Dermatology. 211(3):193-198, 2005)。最後に、最近の研究では、P.アクネスがIL-17A、RORα、RORγ、IL-17RAを含むTh17関連遺伝子の発現を刺激し、CD4 T細胞からのIL-17の分泌を惹起したことが示されている(Agak et al. J Invest Dermatol, Feb 2014 134(2): 366-73)。従って、炎症は初期および後期座瘡病巣の両方に存在していることから、抗炎症療法はどの病因論的因子が座瘡病巣の誘発または維持に関与しているかにかかわらず、座瘡病巣を清浄化し得ると提案される。
【0005】
市販の純粋に抗炎症性の化合物の有用性は、コルチコステロイド、およびレチノイドおよびビタミンD類似体の長期使用に関する安全懸念のために制限されている。加えて、抗炎症治療は、皮脂生産、細菌集団、および皮膚ターンオーバーに他の効果も持ち得る。
【0006】
よって、座瘡治療において使用するためのより安全かつより有効な療法の必要がなお存在する。安全、有効、かつ、現行の抗炎症治療と同じ安全懸念を持たない新規な経路による抗炎症性の治療は、座瘡治療計画に対する発明的追加となろう。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、抗炎症化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベン(1)またはその薬学上許容可能な塩を用いた座瘡治療のための方法を提供する。
【0008】
本発明の別の態様は、化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩を用いた座瘡治療のための患者への局所適用である。
【0009】
本発明の別の態様は、化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩のための座瘡治療のための患者への1日1回の局所適用である。
【0010】
別の実施態様では、化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、座瘡の局所的治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、IL-17Aの転写産物の発現は3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの1日の前処理で阻害されることを示す。
【
図2】
図2は、IL-17Aタンパク質生産に対する3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンによる用量依存的効果を示す。
【
図3】
図3(A~C)は、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンが分化したTh17細胞によるサイトカイン分泌を抑制し、CD4+ T細胞のTh17分極を著しく阻害することを示す。
【
図4】
図4は、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンが皮脂生産を阻害しないことを示す。
【
図5】
図5は、初代ケラチノサイトに対する3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンのアポトーシス効果を示す。
【
図6】
図6は、149の生化学アッセイパネルにおける3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンとレスベラトロールを試験した結果を比較する。
【発明の具体的説明】
【0012】
化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベン、またはその薬学上許容可能な塩は、5-[(E)-2-フェニルエテニル]-2-(プロパン-2-イル)ベンゼン-1,3-ジオール、または2-(1-メチエチル)-5-[(1E)-2-フェニルエテニル]-1,3-ベンゼンジオールとしても知られ、本明細書では化合物1とも呼ばれ、下記構造を有する:
【化1】
【0013】
3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの合成は既知であり、複数の研究者によりさらに研究されている、Krow, G.R. et al. JOC, 57(14):4040-4043, 1992; Azzena, U. et al. Synthetic Communications 33(8):1309-1317, 2003; Gao, J. et al., Advanced Materials Research 236-238:2378-2382, 2011参照。University of Hebei Sci & Technologyによる種々の特許出願がこの化合物の合成についても出願している、CN101531571(2009);CN101633606(2010);CN101648851(2010);CN101830764(2010);およびCN101838173(2010)。
【0014】
Photorhabdusによる、1を含むスチルベンの生産の生合成経路も提案されている(Joyce, S.A. et al., Angewandte Chemie Int. Ed. 47:1942-1945, 2008)。化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンは、最初にPaul, V. et al., Journal of Chemical Ecology 7(3):589-597, 1981により抗生物質として開示されていたと考えられる。Li, J. et al, Applied and Environmental Microbiology 61(12):4329-4333, 1995もまた、異なる細菌株からではあるがこの化合物を単離し、さらに殺真菌活性を実証した。殺真菌活性はまた、WO1995/003695としてAgro Biotechにより出願されたPCT出願でも確認されている。この化合物はさらにWO2001/042231、Welichem Biotechにタンパク質キナーゼ阻害剤として記載されている。この化合物は、乾癬およびアトピー性皮膚炎の治療のためのWBI-1001としてWelichem Biotechにより開発中であった。
【0015】
3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの殺虫、殺菌、および殺真菌活性はよく研究されてきたが、P.アクネスに対するその使用については研究されていない。化合物1の経緯を見れば、P.アクネスに対して活性があると容易に考えられたであろうが、以下の実験の節で見て取れるようにそうではない。例えばタンパク質キナーゼ阻害剤としてなど、この化合物のタンパク質の既知の作用様式も、当業者にこの化合物が座瘡治療における使用に好適であろうと考えるに至らせないであろう。よって、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンが座瘡治療に有用であるということは予期できない発見である。
【0016】
化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンは、今般、Th17分子経路の阻害剤であることが判明した。瘡治療におけるその使用が確立されるのは、この作用様式によるものである。
【0017】
もともとナイーブCD4+ T細胞の分化に由来する明瞭に異なる1つのTh系譜であるTh17細胞は、組織炎症の強力な誘導因子であり、Th17細胞の活性亢進は、乾癬、関節リウマチおよび多発性硬化症などの様々な炎症性疾患および自己免疫疾患に関連付けられている(Peck et al. Infect Immun, 78(1):32-38, 2010)。分子レベルでは、Th17細胞は、IL-17AおよびIL-17Fを含む、明瞭に異なるプロフィールのエフェクターサイトカインの生産を特徴とする。これらのサイトカインは、ケラチノサイトなどの異なるタイプの細胞を活性化し、それらの過剰増殖、さらには炎症性サイトカイン、ケモカインおよび抗微生物ペプチドの生産をもたらし、次に、炎症を起こした皮膚で他の免疫細胞を動員および活性化し、炎症性応答の増幅をもたらす。
【0018】
研究によれば、P.アクネスおよび座瘡患者由来の臨床単離株は、ナイーブCD4+ CD45RA T細胞の、IL-17産生Th17細胞への分化を誘導し、ヒトPBMC細胞からのIL-17AおよびIL-17Fの分泌を誘導し得ることが示されている(Agak et al., J Invest Dermatol, advance online publication 12 September 2013; doi: 10.1038/jid.2013.334)。加えて、IL-17発現細胞は、座瘡患者の皮膚生検には見られるが、健康な個体の皮膚の毛包脂腺嚢付近には見られない。これらの所見は、TH17細胞の誘導ならびにIL-17AおよびIL-17Fの生産が座瘡の病因に重要な役割を果たすことを示唆する。
【0019】
加えて、炎症性サイトカインのダウンレギュレーションまたは阻害は座瘡患者に有益な効果を持ち得るというエビデンスがある。両方とも座瘡治療に使用されるビタミンDおよびビタミンA類似体は、ヒトPBMC細胞においてP.アクネスに応答してIL-17AおよびIL-17Fの発現をダウンレギュレートすることが示されている(Agak et al.、前掲参照)。
【0020】
この点で、皮膚においてTh17由来炎症性サイトカインの生産を阻害する薬物局所的および全身性薬物は、座瘡に対する潜在的療法を提供する。
【0021】
3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの作用機序は、これまでに完全に解明されていない。3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの抗炎症活性は、マウス耳浮腫モデル(皮膚の発赤および肥厚の両方に用量依存的軽減を示す)と乾癬およびアトピー性皮膚炎に関するヒト治験の両方で実証されている(Bissonnette et al., Arch Dermatol, 146(4):446-449, 2010; Bissonette et al., Br. J. Dermatol., 166(4):853-860, 2012;およびBissonnette et al., J Eur Acad Dermatol Venereol, 26(12):1516-1521, 2012参照)。これ以前には、TH17細胞からのIL-17分泌に対する化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの作用は実証されてない。
【0022】
よって、本発明の1つの態様は、座瘡治療のための、有効量の化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩の使用である。別の態様は、座瘡を、有効量の化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩で治療する方法である。本発明のさらなる態様は、座瘡治療において使用するための、化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩を提供する。
【0023】
本発明はまた、座瘡治療における、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩と薬学上許容可能な担体または希釈剤とを含んでなる医薬組成物の使用を提供する。本発明の別の態様は、有効量の、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩と薬学上許容可能な担体または希釈剤との医薬組成物で座瘡を治療する方法である。本発明のさらなる態様は、座瘡治療に使用するための、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩と、薬学上許容可能な担体とを含んでなる医薬組成物を提供する。
【0024】
本発明の別の態様は、必要とする哺乳動物においてIL-17Aの生産を抑制するための、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩の使用である。本発明の別の態様は、必要とする哺乳動物におけるIL-17Aの生産の抑制であり、哺乳動物に、有効量の3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩を投与することを含んでなる。
【0025】
本発明の別の態様は、ケラチノサイトの細胞死を誘導するための、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩の使用である。ケラチノサイトの細胞死は、ケラチノサイトの過剰増殖および面皰形成を軽減し、それにより、毛包遮断とそれに続く遮断孔における皮脂保持を軽減すると考えられる。本発明の別の態様は、必要とする哺乳動物におけるケラチノサイトの細胞死の誘導であり、前記哺乳動物に、有効量の3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩を投与することを含んでなる。
【0026】
本発明の別の実施態様は、Th17分極条件で刺激した培養皮膚組織からのIL-17Aの生産を抑制するための、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩の使用である。
【0027】
本発明の1つの実施態様では、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、約0.5%~約5%w/wの範囲の濃度で局所的に適用される。
【0028】
別の実施態様では、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、約0.5%~約2%w/wの濃度で局所的に適用される。
【0029】
別の実施態様では、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、約0.5%w/w、1%w/w、または2%w/wの濃度で局所的に適用される。
【0030】
別の実施態様では、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、約0.5%w/wの濃度で局所的に適用される。
【0031】
別の実施態様では、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、約1.0%w/wの濃度で局所的に適用される。
【0032】
別の実施態様では、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、約2.0%w/wの濃度で局所的に適用される。
【0033】
本発明の1つの実施態様では、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、それを必要とする患者の患部に1日1回または2回局所的に適用される。
【0034】
別の実施態様では、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、それを必要とする患者の患部に1日1回局所的に適用される。
【0035】
別の実施態様では、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、それを必要とする患者の患部に1日2回局所的に適用される。
【0036】
本発明の1つの実施態様では、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、それを必要とする患者の患部に1日1回または2回、約0.5%~約5%w/wの量で局所的に適用される。
【0037】
3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンおよびその薬学上許容可能な塩の生体プロフィールは、現行利用可能な製品のものとは異なるので、これは患者に座瘡治療の新規な治療選択肢を与える。他の局所治療選択肢も利用可能であるが、高レベルの有効性と、治療期間に制限が無く大きな体表面積に適用可能とする許容可能な安全性プロフィールを合わせた新規な局所的投薬がなお極めて必要である。
【0038】
1つの実施態様では、患部への投与頻度としては、今般では、従来想定されていたものよりも低頻度で投与することができる。3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩の適用としては、1日2回、1日1回、1日おきに1回;週2回;週3回、または週1回、本明細書の実施態様のいずれかにより示される用量で患部に適用され得る。別の実施態様では、治療は、1日1回または2回などの初期投与頻度、次いで、1日おき;週2回;週3回、または週1回などの維持相の、二相で投与され得る。
【0039】
本発明の別の態様では、少なくとも1つの付加的治療薬とともに投与される3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩の組合せは、座瘡疾患に対する、抗菌薬などの異なる作用様式を有する2種類以上の駆動因子を提供するであろう。
【0040】
さらに、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩と、他の治療処置計画および製品との組合せも使用されると予想される。よって、1つの実施態様では、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩は、1以上の第2のの薬剤と組み合わせて局所的に適用される。
【0041】
少なくとも1つまたはそれを越える治療化合物を対象に投与する種々の経路は、限定されるものではないが、局所、経口、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、直腸、耳内および眼内経路を含め、当技術分野で周知である。1つの実施態様では、第2の薬剤の投与は、局所または経口である。別の実施態様では、第2の薬剤の投与は局所である。第2の治療薬も、患者の身体の、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベン化合物と同じ局部病巣に適用されると予想される。
【0042】
好適には、第2の薬剤は、薬学的または皮膚科的に許容可能な組成で投与される。好適な薬剤には、限定されるものではないが、過酸化ベンゾイル、アゼライン酸、ダプソン、サリチル酸、トレチノイン、アダパレン、および他のレチノイン酸誘導体が含まれる。さらに、リン酸クリンダマイシン、クリナイシン(clinamycin)、リンコマイシン、レタパムリン、ムピロシン、フシジン酸、テトラサイクリンおよびその誘導体(例えば、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、およびテトラサイクリン)、ペニシリンおよびその誘導体、ならびにキノロンおよびその総ての誘導体(フルオロキノロン種の化合物を含む)などの局所用抗生物質との併用治療がともに含まれる。本明細書で使用する経口製品として使用するための第2の治療薬には、限定されるものではないが、イソトレチノイン、ならびにテトラサイクリンおよびその誘導体(例えば、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、およびテトラサイクリン)(その長期放出型を含む)、ペニシリンおよびその誘導体、ならびにキノロンおよびその総ての誘導体(フルオロキノロン種の化合物を含む)といった経口利用可能な抗生物質が含まれる。それらの投与経路の種々の順列の総てが本明細書に包含されるものとする。
【0043】
2種類以上の投薬は一緒に(第2の治療薬に応じる)、逐次、同時期または交互の時間、例えば、朝または晩に行われ得る。同じ処方物への第2の治療活性の組み込みは、企図される場合、安定性および配合禁忌の通常の問題を受け得る。
【0044】
結論として、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベン、または薬学上許容可能な塩は、座瘡治療に利用可能な通常の薬剤とともに.異なる処方物の場合に同時点で一緒に使用されるか、逐次使用されるか、または同時期に使用されるか、またはさらには完全に交互の時間、例えば、一方は朝、他方は晩に投与されてよい。
【0045】
用語
本明細書で使用する場合、「調節する」とは、特定の活性の量、質または効果の増大または低減を意味する。
【0046】
本明細書で使用する場合、「生物薬剤」は、抗体、モノクローナル抗体、タンパク質、ポリペプチドおよびヌクレオチドなどの複雑な生体分子を意味する。
【0047】
本明細書で使用する場合、用語「座瘡」は、体幹座瘡、顔面座瘡、頭皮座瘡、背部座瘡、上腕座瘡、前腕座瘡、または脚座瘡を含む。
【0048】
本明細書で使用する場合、座瘡病態などの医学的状態の「治療」、または「治療する方法」は、その医学的状態の徴候、症状、または進行を軽減、改善または遅延する方法を意味する。本明細書で使用する場合、「治療」は、治癒を含意しない。治療は、医学および薬学分野で認識されているように、臨床的有用性を持つために、集団、例えば、座瘡を有する患者の集団のどの構成員にも有効である必要はない。
【0049】
本明細書で使用する場合、病態に関して「を治療する」、「の治療」、または「を治療する方法」は、(1)その病態もしくはその病態の1以上の生物学的発現を改善または予防すること、(2)(a)その病態につながるもしくはその疾患の原因である生物学的カスケードの1以上の点、もしくは(b)その病態の1以上の生物学的発現に干渉すること、(3)その病態に関連する1以上の症状もしくは影響を軽減すること、(4)その病態もしくはその病態の1以上の生物学的発現の進行を緩徐化することを意味する。当業者ならば、「予防」は絶対的な用語でないことを認識するであろう。医学では、「予防」は、病態もしくはその生物学的発現の尤度もしくは重篤度を実質的に低減するため、またはそのような病態もしくはその生物学的発現の発生を遅延させるための薬物の予防的投与を意味すると理解される。
【0050】
本明細書で使用する場合、「薬学上許容可能な賦形剤」は、医薬組成物に形状または稠度を与える際に含ませる薬学上許容可能な材料、組成物またはビヒクルを意味する。各賦形剤は、個体に投与した際に本発明の化合物の有効性を実質的に低下させる相互作用および薬学上許容可能でない医薬組成物をもたらす相互作用が回避されるように、混合した際に医薬組成物の他の成分と適合しなければならない。加えて、各賦形剤は、当然のことながら、それを薬学上許容可能とするのに十分高い純度のものでなければならない。
【0051】
本明細書で使用する場合、Th17活性化条件は、組織に常在するT細胞の、エフェクターTh17ヘルパー細胞への分化をもたらす組織培養条件を意味する。本明細書で使用する場合、「Th17活性化」は、用語「Th17刺激」と互換的に使用される。
【0052】
本明細書で使用する場合、「対象」および/または「患者」は、成人患者、10代の患者および小児患者を含め、ヒト対象および患者を含む。
【0053】
本明細書で使用する場合、化合物または薬剤の「局所的」投与は、上皮または皮膚粘膜の内面への適用およびそれを経た吸収を意味する。1つの態様において、局所適用は、座瘡病巣への適用を含む、皮膚の表皮への適用など、対象の真皮または外皮への適用からなる、またはを含んでなる。局所適用における使用に適当なビヒクルおよび医薬担体は、当技術分野で公知である。
【0054】
1つの実施態様では、用語「薬学上許容可能な」は、連邦もしくは州政府の規制当局により承認され得る、または米国薬局方もしくは動物、より詳しくはヒトにおける使用に関して一般に認知された他の薬局方に挙げられていることを意味する。用語「担体」は、ともに治療薬が投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを意味する。
【0055】
本明細書で使用する場合、用語「1つの(a)」および「1つの(an)」は、列挙された成分のうち「1以上」または「少なくとも1つ」を意味するものと理解されるべきである。特にそうではないこと述べられない限り、単数形の使用は複数形を含むことは当業者には自明であろう。
【0056】
用語「および/または」は、本明細書で使用する場合、一覧の個々の要素を付加的およびまた択一的の両方で包含し、従ってこれらは、これらの要素が選択的に「および」とまたは個々に「または」と結びつけられると理解されるように結びつけられる。さらに、単数形で使用された用語は、当然のことながら、複数形も含む。
【0057】
本出願を通し、種々の実施態様の記載では「を含んでなる」という言葉を使用するが、いくつかの特定の場合では、実施態様は、「から本質的になる」または「からなる」という言葉を用いて記載されることがある。
【0058】
疾患または病態の治療のための化合物または薬剤の「有効量」は、標準的な臨床技術によって決定することができる。
【0059】
本明細書で使用する場合、「哺乳動物」は、限定されるものではないが、児患者、成人患者および高齢患者を含め、ヒトを含む。
【実施例0060】
実施例1:末梢血由来CD4+ T細胞皮膚常在型免疫細胞サイトカイン生産に対する3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの効果
本実施例では、炎症性Th17スキューイングカクテルで刺激したex vivoヒト皮膚からのIL-17Aの放出を抑制する化合物1の能力を検討する。
【0061】
ex vivoヒト皮膚外植片における皮膚常在型免疫細胞の刺激は、限定されるものではないが、IL-17A、IL-17F、およびIL-22を含む、炎症性サイトカインの生産をもたらし、それにより、皮膚炎症プロセスを標的とする免疫調節治療薬を評価する新規なモデル系を提供する。この系を用い、本発明者らは、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンがIL-17A誘導を抑制し得ることを示す。
【0062】
試験化合物の、炎症性サイトカインの発現を調節する能力を、皮膚常在型免疫細胞活性化法を用いて評価した。腹壁形成術から取得したex vivoヒト皮膚を除脂肪のために処理し、組織からデルマトームにて約750ミクロンで採皮した。次に、採取した皮膚を、終濃度100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび2mM L-グルタミン(Gibco)に対して、1%ファンギゾン(Invitrogen)、50μg/mlゲンタマイシン(Invitrogen)、および0.5%PSGを含有する抗生物質/抗真菌薬溶液を含む室温のPBSで各5~10分の2回のすすぎで清浄化した。使い捨て1回使用生検パンチで切り取り10mm径の円形切片を得、次にこれを30μlの64%ウシコラーゲン溶液(Organogenesis、#200-055)を含有する、0.4um PCF膜トランスウェル(Millicell #PIHP01250)の上のチャンバーに入れた。これらの皮膚サンプルを37℃で30分間、コラーゲン溶液上に設置した。その後、トランスウェル上の皮膚サンプルを6ウェルプレートに移し(各ウェルに1サンプル)、下のチャンバーを1mL完全培地(角化培地)で満たし、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンで処理たか非処理とした。
【0063】
培養の最終日に、皮膚組織をqPCRによる分析のためにRNAレーターに採取した(N=9名の各皮膚ドナー)。
【0064】
皮膚常在型免疫細胞を、PBMCに関する文献で使用された条件と同様に、Th17分極条件下でin situにて活性化した。具体的には、ヒト皮膚外植片(1ドナー当たり1条件当たり3反復)を、T細胞抗原受容体と結合させTh17分極条件の存在下で共刺激シグナルを得るために、培養培地中、CD3(2μg/ml;クローンUCHT1;BD Pharmingen)抗体およびCD28(1μg/ml;クローン#37407;R&D Systems)抗体で刺激し、これは、IFNγ(2μg/ml;クローン#25723;R&D Systems)およびIL-4(2μg/ml;クローン#3007;R&D Systems)、R&D Systemsからの組換えヒト(rh)サイトカイン(rh IL-6(10ng/ml)、rh IL-1b(10ng/ml)を含む)、およびTGFβ(1ng/ml)、ならびにSouthernBiotechからのrh IL-21(10ng/ml)に対する中和抗体を含む。
【0065】
Qiagenの(カタログ番号74106) Mini RNA単離キットを用い、約30~40mgの組織から全RNAを単離した。1%2-β-メルカプトエタノールを添加した300μLのRLTバッファーを用い、Precellys-24機にて6300rpmで30秒間、3サイクルごとに2分のアイスブレークを入れて9サイクル、組織をホモジナイズした。このホモジネートにプロテイナーゼKを含有するRNアーゼ不含水(600μl)を加え、55℃で15分間消化した。消化した組織を10,000×gで3分間回転沈降させ、上清を、QiagenのRNeasyミニカラムを生産のプロトコールに従って用いるRNA単離に使用した。各技術的反復のために、Applied Biosciences RNA-to-CT 1ステップキット(AB カタログ番号4392938)を用い、20uLのPCR容量で鋳型として100ngのRNAを、ならびに定量する各遺伝子に対する特異的TaqManプローブを使用した。Applied BiosciencesのマスターミックスはROX色素内部対照を備えている。OneStepPlus PCR機をRT工程および40回の増幅サイクルの両方に使用した。各遺伝子を3反復で測定し、相対的遺伝子発現の計算には平均Ct値を使用した。
【0066】
相対的遺伝子発現データは、技術的反復におけるPCR増幅実施からの3回の生物学的反復の平均値とした。データは総て非処理対照サンプル(1に設定)に対して正規化し、各グラフについて平均変化倍率(+/-SEM)を計算した。処理群間での有意差をスチューデントの両側t検定、p≦0.05で同定した。
【0067】
ex vivoヒト皮膚外植片の、Tヘルパー細胞-17型(Th17)分化に有利な抗体およびサイトカインでの刺激(全体を通して「Th17条件」または「Th17分極条件」と呼称)は、Th17型サイトカイン、IL-17AおよびIL-17Fの転写産物の発現およびタンパク質分泌に劇的な誘導をもたらす。化合物1は、それがこのモデルでサイトカイン発現に影響を及ぼしたかどうかを確認するために検討した。Th17分極条件下での皮膚常在型T細胞の刺激前の1日の処理は、対照刺激外植片培養物に比べ、刺激後24時間でIL-17A遺伝子の発現レベルを低下させた(
図1)。相対的転写産物レベルは個々の皮膚外植片から抽出した全RNAからqPCRを用いて決定し(1処理群当たり1ドナー当たりN=3)、対象遺伝子の発現(すなわち、IL-17A遺伝子の発現)と内因性ハウスキーピング対照遺伝子(すなわち、β-アクチン)を比較するdΔΔCt法により定量した。
【0068】
化合物1により媒介されるTh17関連サイトカインの抑制の有効用量範囲をさらに理解するために、IL-17Aタンパク質分泌を、Th17分極条件下、漸増用量の化合物1の存在下または不在下での5日間の培養の後、末梢血CD4+ T細胞で調べた(
図2)。培養期間の終了時に上清を採取し、分泌されたタンパク質をMagpix(磁気に基づくLuminex技術)によって分析した。この試験では、IL-17Aタンパク質のレベルは化合物1により用量依存的に抑制されていた。
【0069】
図1に見て取れるように、実験スキーム:化合物1(10μM)により誘導されるil17a遺伝子発現の阻害を、ビヒクル処理(0.2%DMSO)サンプル(複数の皮膚ドナー間の阻害が比較できるように100%に設定)に対して示す。化合物1は、本明細書で使用する場合、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンを意味する。
【0070】
図2は、Th17分極化末梢血T細胞からのIL-17Aタンパク質レベルに対する化合物1による用量依存的効果を示す。
【0071】
刺激したex vivo皮膚および末梢血CD4+ T細胞における化合物1の、IL-17Aを抑制する能力は、化合物1が座瘡などのIL-17A分泌を必要とする炎症性皮膚病態の治療において効能があるという主張を裏づける。
【0072】
実施例2:Th17分極化細胞およびTh17細胞分化に対する3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの効果
既存のTh17分極化細胞の化合物1による24時間の処理は、濃度依存的なIL-17分泌の低減を示した。アクチベータービーズは固定化された抗CD3に比べてIL-17放出により大きな増加をもたらしたが、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの阻害効果はどちらのTCR刺激に関しても同等であった(
図3)。
【0073】
30μMで、化合物は、刺激単独の80~95%IL-17レベルを低減した。レスベラトロールは、IL-17に対して、30μMでは部分的な阻害だけを、そしてより低濃度では増強という二相効果を示した。
【0074】
30μMで、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンはIL-17の分泌を完全に阻害し、10μMで、IL-17は、およそ80%低下した。100nMの3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンで、IL-17分泌は60%を越えて抑制された(
図3(A~B))。化合物は、IL-17A mRNAの発現を、IL-17タンパク質の分泌と並行して、同じ効力で阻害した(
図3(C))。
【0075】
CD4+ T細胞は、AllCells LLCから凍結バイアルとして購入した。
【0076】
示されているように、
図3は、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンが分化したTh17細胞によるサイトカイン分泌を抑制し、CD4+ T細胞のTh17分極を強く阻害することを示す。
図3(A)では、分化したTh17細胞を化合物1またはレスベラトロール(0.01~30μM)で処理し、かつ、抗CD3/CD28ビーズで刺激した。24時間後、細胞馴化培地に分泌されたIL-17の濃度を決定した。
図3(B~C)では、CD4+ T細胞を、Th17分極カクテル、抗CD3およびCD28抗体の存在下、化合物1またはレスベラトロール(0.01~30μM)を伴って、または伴わずに5日の培養でTh17細胞に分極させた。
図3(B)では、化合物1の濃度反応曲線を分泌された総IL-17Aタンパク質としてpg/mlで表した。
図3(C)では、IL-17A mRNA発現をPPIBに対して正規化した。
図3(A)に示された結果は、1回の実験からのものである。
図3(BおよびC)のデータは、同様の結果を伴って少なくとも1回反復された代表的実験からのものである。
【0077】
CD4+ T細胞は、本質的にYang et al. Nature, 454(7202):350-352, 2008に記載されているように、抗CD3抗体(2μg/mL)でコーティングした容器で、10%HI-FBS、55μMβ-ME、可溶性抗CD28(3μg/mL)、ならびにIL-1β(10ng/mL)、IL-6(30ng/mL)、TGFβ(0.5ng/mL)、IL-21(10ng/mL)、IL-23(10ng/mL)、抗IFNγ(10μg/mL)および抗IL-4(10μg/mL)のTh17サイトカイン/抗サイトカイン抗体カクテルを含有するイスコブの改変ダルベッコ培地(IMDM)中、5日間培養することにより、Th17サブタイプへと分化させた。既存のTh17分極化細胞に対する化合物の効果を調べるために、分極5日の培養期に、細胞を採取し、洗浄し、IMDM+10%HI-FBS中で2日間休止させた。次に、これらの細胞を、非コーティングしていないかまたは抗CD3でコーティングした、連続希釈化合物をすでに含有する丸底96ウェルプレートに、75,000細胞/ウェルで播種した。非コーティングウェルに分散させた細胞に次にT-アクチベーターCD3/CD28ビーズ(ビーズ:細胞 1:1比)を施した。総てのプレートを24時間培養した。Th17分極に対する化合物の効果を調べるために、総てのTh17分極カクテル成分(上記)を添加したIMDM中に新しく調製したCD4+細胞をそのまま低細胞密度(20,000細胞/ウェル)で、連続希釈化合物をすでに含有する抗CD3コーティング丸底96ウェルプレートに播種し、5日間、非破壊的に(undisturbed)培養した。
【0078】
実施例3:皮脂細胞における脂肪生成に対する3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの効果
皮脂細胞における脂肪生成の調節に対する3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの効果を、in vitroアッセイを用いて評価した。簡単に述べれば、ヒト不死化皮脂細胞(tsSV40およびhTERT)を播種し、皮脂細胞増殖培地でコンフルエンスまで増殖させた。コンフルエンス時に、ラージT抗原分解を誘導するために細胞を37℃に移行した。2日後、細胞を1μM T0901317およびビヒクル(DMSO)または化合物1を含有する皮脂細胞標識媒体で刺激した。化合物3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンを10、3、1、0.3および0.1μMの濃度で試験した。翌日、この媒体を1μM T0901317およびオリジナルの処理剤またはビヒクル+1μMインスリンを含有する皮脂細胞標識媒体と置き換えた。2ulの14C-酢酸塩を各ウェルに加え、プレートを4時間インキュベートした。2時間のインキュベーション後、10ulのCTB試薬を正規化のために各ウェルに加えた。残りの2時間インキュベーションを続け、プレートのCTBシグナルをEx.560 Em.590で読み取った。次に、脂質抽出のために細胞を洗浄し、トリプシンで処理し、ガラスバイアルに移した。結果は対照(LXR+インスリン群)に対する脂質生産%として表す。
【0079】
図4に示されるように、データは対照(LXR+インスリン群)に対する阻害率%を表す。データは平均±SEMで表される。データは3反復からのものものである。
【0080】
化合物1は、皮脂細胞脂肪生成アッセイで活性がないことが判明した。皮脂細胞モデルで、対照群(LXR+インスリン)よりも化合物1に脂肪生成増加傾向があった。
【0081】
実施例4 ケラチノサイト生存率に対する3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの効果
ケラチノサイト生存率に対する3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの効果をin vitroで評価した。ケラチノサイトの過剰増殖は座瘡において遮断を増大させ、面皰形成を促進し得る。化合物1は、10および30uMで明らかに細胞傷害性であることが判明した。初代ケラチノサイトにおける化合物1のアポトーシス誘導能は、座瘡患者における有効性に寄与し得る。データを
図5に示す。
【0082】
初代ヒトケラチノサイトを、HKGS増殖添加剤を含有するEpiLife培地で培養し、組織培養プレートにプレート当たり250,000細胞で播種した。翌日、培養培地を除去した後、ケラチノサイトを、ビヒクル対照(DMSO)または漸増濃度の化合物1(1、10、30uM)を含有する培養培地で処理した。培養48時間後、ケラチノサイトを組織培養プレートから除去し、細胞生存率を、フローサイトメトリーを用い、アポトーシスマーカーに対する染色(アネキシンVおよびヨウ化プロピジウム)により評価した。活性のあるケラチノサイトのパーセンテージを、両アポトーシスマーカーに染まらなかった細胞として定量した。
【0083】
実施例5:P.アクネスに対する3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの効果
この抗菌相乗作用の概念を評価するために使用した細菌株は、臨床単離株P.アクネス6601、6602、AN24、100372、および参照株ATCC6919であった。これらはUpper ProvidenceサイトのCEDDにより保持されている内部培養物GSKコレクションから受け取った。細菌接種物を調製し、CLSIガイドライン法に関して記載されているように(Bhate, K. et al. Brit. J. Derm. 168:474-485, 2013)、添加を行ったブルセラ血液寒天培地で、最小阻害濃度(MIC)の決定を行った。簡単に述べれば、希釈した抗菌剤を、テンパリングした融解寒天に加え、無菌的にペトリ皿に注ぎ、固化させた。嫌気性環境で24時間のインキュベーション後、細菌コロニーを懸濁させ、0.5マクファーランド標準に相当する濁度に調整した。1~2マイクロリットルの接種物を、各抗生物質を含有する寒天プレートに入れ、30分間吸収させた。次に、プレートを転倒し、成長の観察まで嫌気的に48~72時間インキュベートした。細菌成長を阻害した最低薬物濃度をMICとした。
【0084】
3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンに対して試験した総てのP.アクネス株で128μg/mlのMICが見られた(表1)。
【0085】
【0086】
これらの結果に基づけば、P.アクネスに対してMIC<0.5μg/mlのクリンダマイシンなどの真の抗生物質とは対照的に、化合物1はこの細菌種に対する抗菌薬として活性があるとは考えられない。
【0087】
実施例6:コルチコステロイド、カルシニュリン阻害剤、ビタミンD類似体、およびレチノイン酸受容体アンタゴニストとは異なる3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの生物学的プロフィール
化合物1と、デキサメタゾン(低効力コルチコステロイド)、プロピオン酸フルチカゾン(中等度効力コルチコステロイド)、プロピオン酸クロベタゾール(高効力コルチコステロイド)、カルシトリオール(ビタミンDの活性型)、タクロリムス(免疫抑制薬)、およびレチノイン酸受容体アンタゴニスト(LE 135)などの皮膚科病態に使用されている他の活性薬剤の効果をDiversity Panel BioMAPシステム(Berg et al. Journal of Pharmacological and Toxicological Methods, 53(1):67-74, 2006)で使用される初代ヒト細胞種に対して比較検討した。
【0088】
用いたBioMAP(商標)Diversity Plus Systemは、複数の疾患関連シグナル伝達経路を活性化する種々の病状を模倣するために選択された薬剤で刺激されたヒト細胞(内皮細胞、末梢血単核細胞、B細胞、上皮細胞、T細胞、マクロファージ、線維芽細胞、ケラチノサイトおよび平滑筋細胞)の特定の組合せを利用する12のアッセイ系を含んだ。合計148の表現型読み出し(アッセイ)が本試験中に測定された。化合物1は、本試験で用いた1以上の試験濃度で、炎症、免疫機能、組織リモデリングおよび抗増殖活性に関与する25を越えるバイオマーカーを調節するその能力を示した。処理サンプルにおける各パラメーターの測定値を、8つのDMSO対照サンプル(同プレートからのもの)からの平均値で割って比を求めた。次に、総ての比をlog10変換した。既存対照に関して有意性推定エンベロープを計算した(99%および95%)。7水準の化合物デキサメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、プロピオン酸フルチカゾン、カルシトリオール、タクロリムス(FK-506)、SR-2111(RORγ逆アゴニスト)およびLE-135(RARアンタゴニスト)のBioMAP(商標)プロフィールを化合物1と比較し、選択閾値>0.7のピアソンスコアを有するものとして類似のプロフィールを同定した。3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンのプロフィールは、ピアソンスコアが0.7以下の、デキサメタゾン、プロピオン酸クロベタゾール、プロピオン酸フルチカゾン、カルシトリオール、タクロリムス(FK-506)、SR-2111(RORγ逆アゴニスト)およびLE-135(RARアンタゴニスト)とは統計的に有意に異なることが判明した(表2)。これらの結果は、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩が比較化合物とは異なる作用機序を介して働いていることを示す。
【0089】
【0090】
レスベラトロールにおけるスチルベンファーマコフォアの構造的類似性を考慮して、植物により生産されるヒドロキシル化スチルベン誘導体は、化合物1は、それらの相対的活性プロフィールを評価するためにレスベラトロールと一緒にスクリーニングした。レスベラトロールと化合物1の間の低いピアソンスコアにより示されるように(表2)、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンの活性プロフィールは、レスベラトロールとは有意に異なる。このことをさらに確認するために、これら2つの化合物を149の生化学アッセイのパネルで比較した。活性の重複はほとんど無く、これら2つの化合物は異なる活性プロフィールを示した(
図5)。よって、化合物1の機能および活性は、レスベラトロールの活性に関して公開されている文献に基づいて推定することはできない。
【0091】
限定されるものではないが、本明細書に飲用される特許および特許出願を含む総ての刊行物は、各個の刊行物が、全内容が示されているかのうように具体的かつ個々に引用することにより本明細書の一部とされる場合と同じく、引用することにより本明細書の一部とされる。
【0092】
上記は、その好ましい実施態様を含め、本発明を十分に開示する。本明細書に具体的に開示されている実施態様の改変および改良は以下の特許請求の範囲の範囲内にある。さらに詳しく述べなくとも、当業者ならば、上記の記載を用いて本発明を最大限に利用することができると考えられる。よって、本明細書の実施例は単に例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではないと解釈されるべきである。その排他的所有または権利が請求される本発明の実施態様は以下に定義される。
第2の治療薬の併用投与が、3,5-ジヒドロキシ-4-イソプロピル-トランス-スチルベンまたはその薬学上許容可能な塩と、同時点で一緒に、逐次または同時期である、請求項10に記載の方法。