(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023124673
(43)【公開日】2023-09-06
(54)【発明の名称】組成物及び複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09B 61/00 20060101AFI20230830BHJP
A61Q 5/10 20060101ALI20230830BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20230830BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230830BHJP
A61Q 5/06 20060101ALI20230830BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C09B61/00 Z
A61Q5/10
A61K8/98
A61K8/73
A61Q5/06
C09B67/20 F
C09B67/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022028578
(22)【出願日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】390021393
【氏名又は名称】北海道曹達株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505082419
【氏名又は名称】国立大学法人北海道教育大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】松浦 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】八木橋 美里
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AA071
4C083AA072
4C083AC532
4C083AC852
4C083AD321
4C083AD322
4C083CC36
4C083EE26
4C083FF01
(57)【要約】
【課題】生物由来の原料を用いても、毛髪を十分に染毛できる組成物、及びこの組成物に含まれる複合体の製造方法を提供する。
【解決手段】頭足類生物の墨に由来する色素粒子と、生物に由来するキチン誘導体とを含む組成物であって、前記色素粒子と前記キチン誘導体とが複合体を形成し、前記複合体が正に帯電しており、前記色素粒子の含有量が、前記キチン誘導体の含有量に対する質量比率で、24倍以下である、組成物。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭足類生物の墨に由来する色素粒子と、生物に由来するキチン誘導体とを含む組成物であって、
前記色素粒子と前記キチン誘導体とが複合体を形成し、
前記複合体が正に帯電していることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記色素粒子が負に帯電している、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記キチン誘導体が正に帯電している、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記キチン誘導体がアミノ基を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記頭足類生物がイカである、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記キチン誘導体が甲殻類生物に由来する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記色素粒子の含有量が、前記キチン誘導体の含有量に対する質量比率で、0.1~24倍である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
染毛に用いられる、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
色素粒子とキチン誘導体とが結合した複合体の製造方法であって、
活性エステル化法を用いて、前記色素粒子が有するカルボキシ基と、前記キチン誘導体が有するアミノ基とを、反応させる工程を有し、
前記複合体が正に帯電している、複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及び複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステティックサロンや美容室等の美容業界からのニーズとして、安全性の高いオーガニック化粧品があり、とりわけ染毛剤に関しては刺激の強い薬剤による皮膚トラブル等の報告も多いことから、天然由来の低刺激な染毛剤や染毛料が望まれている。天然由来の着色色素として、例えば、クレー等の鉱物顔料、クチナシ色素、ウコン色素、アナトー色素、銅クロロフィリンナトリウム、パプリカ色素、ラック色素等の天然染料が知られている。
【0003】
上記した天然物由来の色素のなかでも生物由来の色素は生体親和性が高いことから、人体に対して刺激が少なく期待されている。生物由来の色素として、例えば、イカの墨袋から抽出・精製されたイカ墨色素が挙げられる。イカ墨色素を広範囲な用途で利用するため、これまで様々な試みが行われてきた。例えば、特許文献1には、イカ墨色素粒子を100nm以下にまで微細化し、顔料又は染料として有効利用することが開示されている。
【0004】
イカ墨色素粒子は、生物由来の可食性黒色系色素であり、優れた耐変色性、耐退色性及び耐熱性を持っている。このようなイカ墨色素粒子の機能を利用して、染毛料を代表とするオーガニック化粧品への応用展開が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イカ墨色素等の生物由来の色素は、耐変色性、耐退色性及び耐熱性を持ちながらも、生体親和性が高く多くの期待が持てる反面、今までオーガニック化粧品等には利用されてこなかった。その理由として、イカ墨色素の表面が負に帯電しているため、毛髪と電気的に反発して、十分な染毛ができないことが挙げられる。
【0007】
したがって、本発明の目的は、生物由来の原料を用いても、毛髪を十分に染毛できる組成物、及びこの組成物に含まれる複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ところで、正に帯電した生物由来の物質としては、例えば、キトサン等のキチン誘導体が挙げられる。多糖類であるキチン誘導体は、水に溶解すると無色透明となることから、これまでオーガニック化粧品に使用されてきた。
【0009】
本発明者らは、化学合成技術等を用い、アミノ基末端及び正電荷(カチオン)末端を併せ持つキチン誘導体と、イカ墨色素粒子とを結合することによって、イカ墨色素粒子の表面を正に帯電させることができ、イカ墨色素粒子を染毛料等のオーガニック化粧品に応用展開できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
[1]頭足類生物の墨に由来する色素粒子と、生物に由来するキチン誘導体とを含む組成物であって、
前記色素粒子と前記キチン誘導体とが複合体を形成し、
前記複合体が正に帯電していることを特徴とする、組成物。
[2]前記色素粒子が負に帯電している、[1]に記載の組成物。
[3]前記キチン誘導体が正に帯電している、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記キチン誘導体がアミノ基を有する、[1]~[3]のいずれか一項に記載の組成物。
[5]前記頭足類生物がイカである、[1]~[4]のいずれか一項に記載の組成物。
[6]前記キチン誘導体が甲殻類生物に由来する、[1]~[5]のいずれか一項に記載の組成物。
[7]前記色素粒子の含有量が、前記キチン誘導体の含有量に対する質量比率で、0.1~24倍である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の組成物。
[8]染毛に用いられる、[1]~[7]のいずれか一項に記載の組成物。
[9]色素粒子とキチン誘導体とが結合した複合体の製造方法であって、
活性エステル化法を用いて、前記色素粒子が有するカルボキシ基と、前記キチン誘導体が有するアミノ基とを、反応させる工程を有し、
前記複合体が正に帯電している、複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、生物由来の原料を用いても、毛髪を十分に染毛できる組成物、及びこの組成物に含まれる複合体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の組成物に含まれる複合体を製造する概念図である。
【
図2】組成物を電気泳動に供する前の様子と、電気泳動に供した後における様子とを示す図面代用写真である。
図2(A)は製造例1の組成物を電気泳動に供する前の様子を示し、
図2(B)は製造例1の組成物を電気泳動に供した後の様子を示す。
図2(C)は比較製造例1の組成物を電気泳動に供する前の様子を示し、
図2(D)は比較製造例1の組成物を電気泳動に供した後の様子を示す。
【
図3】実施例1及び2並びに比較例1及び2の組成物による染毛の結果を、染毛前の脱色毛髪と併せて示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<組成物>
本発明の組成物は、頭足類生物の墨に由来する色素粒子と、生物に由来するキチン誘導体とを含む。好ましくは、負に帯電した色素粒子と、該色素粒子に結合可能な部位を有するキチン誘導体との複合体を含む。本発明においては、正に帯電したキチン誘導体が色素粒子に結合し、複合体が全体として正に帯電していることが好ましい。
【0014】
(色素粒子)
本発明における色素粒子は、頭足類生物の墨に由来する。頭足類生物としては、イカ、タコ、コウモリダコ、オウムガイ等が挙げられる。中でも、入手のしやすさ、扱いやすさ及び廃棄物の有効利用の観点から、イカが好ましい。具体的には、スルメイカ、ヤリイカ、コウイカ、アカイカ、アメリカオオアカイカの墨袋から抽出・精製される色素粒子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0015】
頭足類生物の墨に由来する色素粒子の主成分は、メラニン色素である。かかる色素粒子は優れた耐変色性、耐退色性及び耐熱性を有しており、毛髪の染毛に適用することが従来から期待されていた。しかし、毛髪はパーマ、ヘアカラーリング、紫外線等によって損傷することで、負に帯電する。また、頭足類生物の墨袋から抽出・精製した色素粒子も、一般的には負に帯電している。そうすると、静電相互作用により毛髪と色素粒子とが反発し、色素粒子が毛髪に吸着・浸透しない。その結果、毛髪は色素粒子で染まらない。このように、頭足類生物の墨に由来する色素粒子を、毛髪の染毛にそのまま用いることは困難であった。
本発明では、色素粒子が後述のキチン誘導体と複合体を形成することで、色素粒子の表面を正に帯電させる。そうすると、複合体は全体として正に帯電する。正に帯電した複合体と、負に帯電した毛髪とが、静電相互作用で引き合うことができるようになる。その結果、複合体は、毛髪に対する親和性及び吸着性に優れたものとなる。このようにして、色素粒子は複合体となることで毛髪に吸着・浸透できるようになり、本発明の組成物で毛髪の染毛を行うことができる。
【0016】
(キチン誘導体)
本発明におけるキチン誘導体は、生物に由来する。キチンを多く有する生物としては甲殻類生物が挙げられるので、キチン誘導体が甲殻類生物に由来することが好ましい。甲殻類生物としては、カニ、エビ、シャコ、ミジンコ、オキアミ、ダンゴムシ等が挙げられる。中でも、入手のしやすさ、扱いやすさ及び廃棄物の有効利用の観点から、カニが好ましい。具体的には、ズワイガニ、ベニズワイガニ、タラバガニの外骨格から抽出されるキチンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
キチン誘導体は、キチンの化学変化によって生成する多糖類である。キチン誘導体の具体例としては、キトサン、アルカリキチン、N-アリルキトサン、N-アルキルキトサン、O-アリルキトサン、O-アルキルキトサン、硫酸化キトサン、ニトロ化キトサン、カルボキシメチル化キトサン、トシル化キトサン、ベンゾイル化キトサン及びリン酸エステル化キチンが挙げられる。中でも、キトサンが好ましい。
【0018】
キトサンは、キチンを濃アルカリ溶液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)中で加熱することで得られる脱アセチル化物である。純粋なキチンの脱アセチル化度を0%とし、純粋なキトサンのアセチル化度を100%とした場合、脱アセチル化度は一本の高分子におけるキトサンユニット%として表すことができる。キトサンを使用する場合、脱アセチル化度は、溶媒への溶解性や複合体の用途に応じて適宜選択できるが、特に、キチン誘導体として、脱アセチル化度が好ましくは50%以上100%以下、より好ましくは75%以上100%以下、更に好ましくは85%以上100%以下のキトサンを用いることができる。
【0019】
色素粒子と電気的に結合しやすい観点から、キチン誘導体は、正に帯電していることが好ましい。前述のキトサンは、正に帯電しているキチン誘導体の代表例である。キトサンは、キチンの脱アセチル化により-NHCOCH3がアミノ基(-NH2)に変換した多糖類であり、該アミノ基がプラスの電荷を帯びやすいため、正に帯電している。
【0020】
また、キチン誘導体は、透明であることが好ましい。透明なキチン誘導体を用いることで、キチン誘導体が色素粒子と結合して複合体を形成しても、色素粒子が有する色で染毛しやすくなる。
【0021】
(複合体)
色素粒子とキチン誘導体とは、複合体を形成している。複合体を形成するための結合は、化学的結合でも電気的結合でもよく、公知の結合を特に限定なく用いることができる。
また、頭足類生物から抽出した色素粒子は、メラニン色素だけでなくタンパク質等も含むことが多い。そのため、キチン誘導体は、色素粒子中のメラニン色素と結合してもよく、色素粒子中のタンパク質と結合してもよい。
【0022】
本発明の組成物に含まれる複合体を製造する概念図を
図1に示す。頭足類生物(例えばイカ)の墨袋から抽出・精製された天然の色素粒子は、
図1(A)に示すように、表面が負に帯電していることが一般的である。そこに、正に帯電したキチン誘導体を化学的又は電気的に結合させることで、
図1(B)に示すように、色素粒子の表面が正に帯電する。なお、
図1ではキチン誘導体の具体例としてキトサンを示している。
化学的結合の具体例としては、色素粒子が有するカルボキシル基と、キチン誘導体が有するアミノ基とで形成される、アミド結合が挙げられる。アミド結合を形成する方法の詳細については、後述する。
【0023】
色素粒子とキチン誘導体との結合の結果、複合体は正に帯電している。従って、複合体は、負に帯電した物質・材料に吸着できる。特に、複合体の表面に存在するキチン誘導体付加部位を介して吸着できる。複合体が吸着する対象としては、負に帯電している物質・材料であれば特に限定されず、例えば、ヒト又は動物の毛髪又は繊維が挙げられる。
【0024】
複合体が正に帯電しているか否かは、複合体を電気泳動に供することで確認できる。電気泳動は、溶液中に印加された電場によって、荷電したコロイド粒子等が移動する現象であり、コロイド粒子の電荷を調べる研究に広く使われている。或いは、複合体のゼータ電位を測定することにより、複合体が正に帯電しているか否かを確認することもできる。
具体的には、実施例に記載の方法により確認できる。
【0025】
色素粒子の含有量は、キチン誘導体の含有量に対する質量比率で、24倍以下であることが好ましく、20倍以下がより好ましく、15倍以下が更に好ましい。キチン誘導体に対して色素粒子を一定以下の量に抑えることで、色素粒子に対して十分な量のキチン誘導体が結合できる。即ち、色素粒子の表面が負に帯電していても、正に帯電したキチン誘導体によって、全体として正に帯電させた複合体とすることができる。その結果、複合体は毛髪に強く吸着でき、染毛に適した複合体となる。
色素粒子の含有量は、キチン誘導体の含有量に対する質量比率で、0.1倍以上が好ましく、1倍以上がより好ましく、3倍以上が更に好ましい。キチン誘導体に対して色素粒子が一定以上あることで、十分な染毛が可能となる。
また、色素粒子とキチン誘導体との含有比率を調整することで、染毛の色合いを調整できる。
【0026】
かかる複合体を含む本発明の組成物は、ヒト又は動物の毛髪の染毛に、特に有効に用いることができる。なお、複合体を毛髪に吸着・浸透させる方法としては、公知の方法を特に限定することなく用いることができる。
【0027】
ヒト又は動物の毛髪の染毛に用いる場合、複合体は毛髪に特異的に吸着し、皮膚や頭皮に浸透することはない。本発明の組成物が含む複合体では、色素粒子もキチン誘導体も生物由来であるため、皮膚や頭皮を殆ど刺激させず、且つ毛髪のダメージを軽減することができる。
【0028】
<複合体の製造方法>
本発明の組成物に含まれる複合体は、色素粒子とキチン誘導体とを化学的又は電気的に結合することで、製造できる。化学的に結合する方法としては、特に限定されない。例えば、反応性を高めるために、活性エステル化法を用いて結合することが好ましい。即ち、色素粒子が有するカルボキシ基と、キチン誘導体が有するアミノ基とを反応させ、アミド結合を形成することが好ましい。
【0029】
活性エステル化法では、色素粒子が有するカルボキシ基を活性化剤で活性化し、次いで活性化された色素粒子とキチン誘導体とを縮合させることにより、活性エステル部分とアミノ基部分とで結合することができる。活性エステル化法における活性化及び縮合は、適切な液体媒体中で実施できる。液体媒体としては、例えば、水、水性緩衝液(例えば酸性緩衝液)、有機溶媒が挙げられる。
【0030】
活性化剤としては、例えば、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、n-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸イミド(HONB)等のN-ヒドロキシ多価カルボン酸イミド類、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等のN-ヒドロキシトリアゾール類、3-ヒドロキシ-4-オキソ-3,4-ジヒドロ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HOOBt)等のN-ヒドロキシトリアジン類、2-ヒドロキシイミノ-2-シアノ酢酸エチルエステル、ペンタフルオロフェノールが挙げられる。中でも、NHSが好ましい。
【0031】
活性化剤としてNHSを用いる場合、まず色素粒子が有するカルボキシ基とNHSとが反応し、NHSエステルが生成する。次いで、キチン誘導体が有するアミノ基とNHSエステルとが反応し、アミド結合を形成するとともに、NHSが脱離する。その結果、色素粒子とキチン誘導体とがアミド結合で化学的に結合した複合体が得られる。
【0032】
縮合剤としては、例えば、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(EDAC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等のカルボジイミド系縮合剤が挙げられる。中でも、WSCが好ましい。
【0033】
頭足類生物の墨に由来する色素粒子は、メラニン色素及びタンパク質を含むことが一般的である。活性化剤で活性化されるカルボキシ基は、メラニン色素が有するものでもよく、タンパク質が有するものでもよい。或いは、色素粒子中のその他の成分が有するカルボキシ基を、活性化してもよい。
【0034】
色素粒子とキチン誘導体とを、化学的に結合させずに、電気的に結合させてもよい。例えば、負に帯電した色素粒子と正に帯電したキチン誘導体とを混合し、両者を静電相互作用で引き合わせてもよい。
【0035】
<用途>
上記した複合体は、染毛料や染毛料の色素として好適に使用することができる。染毛用の色素として使用する場合には、他の天然染料ないし顔料と併用して用いてもよい。天然顔料としては、クレー等の鉱物顔料,マダーレーキやコチニールレーキ等の天然染料レーキ,アゾ顔料,フタロシアニン顔料、金属粉末等を例示でき、天然染料としては、クチナシ色素、ウコン色素、アナトー色素、銅クロロフィリンナトリウム、パプリカ色素、ラック色素等を例示できる。
【0036】
上記した複合体を染毛料ないし染毛料用の色素として用いた組成物は、必要に応じて、油性成分、界面活性剤、高分子化合物、ビタミン類、酸化防止剤、香料、殺菌・防腐剤、抗炎症剤、紫外線吸収剤、噴射剤、増粘剤等を任意に配合することができる。これらの配合成分は各種の周知又は公知のものを任意に使用することができる。
【0037】
油性成分としては、炭化水素、多価アルコール、油脂、高級アルコール、高級脂肪酸、アルキルグリセリルエーテル、エステル類、シリコーン類等が挙げられる。これらは、その1種類を単独に配合し、又は2種類以上を併せ配合することができる。
【0038】
界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。これらは、その1種類を単独に配合し、又は2種類以上を併せ配合することができる。
【0039】
高分子化合物としては、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、両性ポリマー、非イオン性ポリマー、天然ポリマー等が挙げられる。カチオン性ポリマーとしてはポリクオタニウム-10等のカチオン化セルロース誘導体、カチオン化グアーガム、ポリクオタニウム-7等のジアリル4級アンモニウム塩/アクリルアミド共重合体等が例示される。アニオン性ポリマーとしてはカルボキシビニルポリマー(カルボマー)等が例示される。両性ポリマーとしてはポリクオタニウム-39等のジアリル4級アンモニウム塩/アクリル酸共重合体等が例示される。非イオン性ポリマーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系高分子、PVP、PVP/VAコポリマー等のポリビニルピロリドン系高分子、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸系高分子が例示される。天然ポリマーとしては、アラビアガム、キサンタンガム、カラギーナン、ペクチン、寒天等の植物性高分子、デキストラン、プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン等の動物性高分子、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸系高分子が例示される。
【0040】
複合体を染毛料や染毛料の色素として使用する場合、組成物の剤型は、特に限定されないが、例えば、液体状、乳化状(油中水型乳化状、水中油型乳化状、多重乳化状)、粉末状、タブレット状、ジェル状、泡状等が挙げられる。なお、泡状の剤型の場合は、公知のフォーマー用具により泡状とすることができる。公知のフォーマー用具としては、例えば、ノンエアゾール型フォーマー、エアゾール型フォーマー、シェーカー等が挙げられる。エアゾール型フォーマーの場合、公知の噴射剤及び発泡剤を適用することができる。また、固形状の剤型の場合、染毛料組成物に分散剤を配合してもよい。
【0041】
これらの剤型のうち、操作性に優れ、毛髪に密着することにより染毛性が向上するという観点から、使用時に乳化状又は泡状であることが好ましく、製剤安定性の観点から、使用時に乳化状であることがより好ましい。
【実施例0042】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0043】
[製造例1]色素粒子とキチン誘導体とが化学的に結合した複合体を含む組成物の製造
N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)の濃度が100mMとなるように、NHSを酸性緩衝液(同仁化学研究所製、Activation Buffer、pH4.4以上4.6以下)に溶解し、NHS溶液を調製した。
また、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)の濃度が100mMとなるように、WSCを酸性緩衝液(同仁化学研究所製、Activation Buffer、pH4.4以上4.6以下)に溶解し、WSC溶液を調製した。
コウイカの墨袋から抽出した色素粒子の濃度が50g/Lの懸濁液を用意した。この懸濁液4μLに、上記WSC溶液100μLと、上記NHS溶液100μLと、酸性緩衝液100μL(同仁化学研究所製、Activation Buffer、pH4.4以上4.6以下)とを加え、20-25℃で1時間静置した。こうして、色素粒子が有するカルボキシ基を、反応性のNHSエステルに変換した。
その後、カニの外骨格から抽出したキチン由来のキトサンの濃度が10g/Lのキチン誘導体溶液200μLを加え、色素粒子の終濃度を約0.4g/Lに調整した。得られた溶液を20℃以上25℃以下で1時間静置することで、色素粒子のNHSエステルとキチン誘導体のアミノ基とをアミド結合で結合し、複合体を形成した。このようにして、複合体を含む組成物を製造した。
この組成物では、色素粒子の含有量は、キチン誘導体の含有量に対する質量比率で、0.1倍であった。
【0044】
[比較製造例1]色素粒子を含む組成物の製造
キチン誘導体溶液200μLの代わりに、該キチン誘導体溶液の溶媒200μLを用いた以外は、製造例1と同様にして、組成物を製造した。
【0045】
<電気泳動>
製造例1における複合体及び比較製造例1における色素粒子について、電気泳動により表面の電荷を確認した。
製造例1及び比較製造例1で得られた組成物をそれぞれセルロースチューブに入れ、両端をクリップで留めた。トリス酢酸EDTA緩衝液で満たされた電気泳動層にセルロースチューブを沈めた。その上からスライドガラスを2枚載せ、セルロースチューブが浮き上がらないようにした。100Vの電圧を1時間印加し、電気泳動を行った。
電気泳動の前後における様子を、
図2に示す。製造例1における複合体は、
図2(A)に示すように、電気泳動を行う前においては、セルロースチューブ内で均一に分散していた。電気泳動を行った結果、
図2(B)に示すように、黒色の複合体が陰極側(
図2(B)における右側)へ移動した。
他方、比較製造例1における色素は、
図2(C)に示すように、電気泳動を行う前においては、セルロースチューブ内で均一に分散していた。電気泳動を行った結果、
図2(D)に示すように、黒色の色素粒子は陽極側(
図2(D)における左側)へ移動した。
これらの結果から、比較製造例1における色素粒子では、表面が負に帯電している一方、製造例1における複合体では、表面が正に帯電していることが分かった。
【0046】
[製造例2]色素粒子とキチン誘導体とが電気的に結合した複合体を含む組成物の製造
製造例1で用いた懸濁液8μLに、水3.2mLを加え、攪拌した。そこに、製造例1で用いたキチン誘導体溶液400μLを加え、色素粒子の終濃度を約0.1g/Lに調整した。得られた溶液を攪拌し、負の電荷を有する色素粒子と正の電荷を有するキチン誘導体とを電気的に引き合わせ、複合体を形成した。このようにして、複合体を含む組成物を製造した。
この組成物では、色素粒子の含有量は、キチン誘導体の含有量に対する質量比率で、0.1倍であった。
【0047】
[比較製造例2]色素粒子を含む組成物の製造
キチン誘導体溶液400μLの代わりに、該キチン誘導体溶液の溶媒400μLを用いた以外は、製造例2と同様にして、組成物を製造した。
【0048】
<ゼータ電位の測定>
製造例2における複合体及び比較製造例2における色素粒子について、分析装置「Zetasizer Nano ZS ZEN3600」(Malvern社製)を用いてゼータ電位を測定し、表面の電荷を確認した。
製造例2の組成物では、複合体のゼータ電位は+57.9mVという正の値が得られた。
他方、比較製造例2の組成物では、色素粒子のゼータ電位は-26.3mVという負の値が得られた。
これらの結果から、比較製造例2における色素粒子では、表面が負に帯電している一方、製造例2における複合体では、表面が正に帯電していることが分かった。
【0049】
[実施例1]
製造例1で用いた懸濁液と、酸性緩衝液(同仁化学研究所製、Activation Buffer、pH4.4以上4.6以下)と、製造例1で用いたキチン誘導体溶液とを、体積比14:79:7で混合し、色素粒子の終濃度が7g/Lになるように調整した。得られた溶液を攪拌し、実施例1の組成物を製造した。
実施例1の組成物では、色素粒子の含有量は、キチン誘導体の含有量に対する質量比率で、10倍であった。即ち、色素粒子の質量とキチン誘導体の質量との比が10:1であった。
【0050】
[実施例2]
懸濁液と、酸性緩衝液と、キチン誘導体溶液との混合比を、体積比で7:36:7としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の組成物を製造した。色素粒子の終濃度は7g/Lであった。
実施例2の組成物では、色素粒子の含有量は、キチン誘導体の含有量に対する質量比率で、5倍であった。即ち、色素粒子の質量とキチン誘導体の質量との比が5:1であった。
【0051】
[比較例1]
懸濁液と、酸性緩衝液と、キチン誘導体溶液との混合比を、体積比で7:43:0としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の組成物を製造した。色素粒子の終濃度は7g/Lであった。
比較例1の組成物は、キチン誘導体を含まないものであった。即ち、色素粒子の質量とキチン誘導体の質量との比が1:0であった。
【0052】
[比較例2]
懸濁液と、酸性緩衝液と、キチン誘導体溶液との混合比を、体積比で35:208:7としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の組成物を製造した。色素粒子の終濃度は7g/Lであった。
比較例2の組成物では、色素粒子の含有量は、キチン誘導体の含有量に対する質量比率で、25倍であった。即ち、色素粒子の質量とキチン誘導体の質量との比が25:1であった。
【0053】
<染毛試験>
実施例1及び2並びに比較例1及び2で得られた組成物1.3mLを、それぞれ脱色毛髪に塗った。室温で30分間放置した後、組成物を水で洗い流し、染毛の様子を観察した。染毛前の脱色毛髪と併せて、結果を
図3に示す。
【0054】
図3に示すように、キチン誘導体を含まない比較例1の組成物と、キチン誘導体の含有量が色素粒子に対して極めて少ない比較例2の組成物とでは、脱色毛髪を染毛することは殆どできなかった。色素粒子又は複合体の表面が負に帯電し、色素粒子又は複合体と負に帯電した脱色毛髪とが電気的に反発したためと考えられる。
他方、色素粒子に対してキチン誘導体を一定程度有する実施例1及び2の組成物では、脱色毛髪を黒色又は褐色に染毛できた。複合体の表面が正に帯電し、複合体と負に帯電した脱色毛髪とが電気的に引き合って強く吸着したためである。
また、実施例1の組成物は、脱色毛髪を黒色に染色でき、実施例2の組成物は、脱色毛髪を褐色に染色できた。即ち、色素粒子とキチン誘導体との配合比率を調整することで、染毛の色合いを調整できることが分かった。