IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 東邦アーステックの特許一覧

特開2023-12960ヨウ化水素酸の合成法および電気透析槽
<>
  • 特開-ヨウ化水素酸の合成法および電気透析槽 図1
  • 特開-ヨウ化水素酸の合成法および電気透析槽 図2
  • 特開-ヨウ化水素酸の合成法および電気透析槽 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023012960
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】ヨウ化水素酸の合成法および電気透析槽
(51)【国際特許分類】
   C25B 1/00 20210101AFI20230119BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20230119BHJP
   B01D 61/54 20060101ALI20230119BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20230119BHJP
【FI】
C25B1/00
B01D61/44 500
B01D61/44 510
B01D61/54 500
B01D61/46 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021116764
(22)【出願日】2021-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】591236437
【氏名又は名称】株式会社 東邦アーステック
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】塚越 徹
【テーマコード(参考)】
4D006
4K021
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006HA44
4D006JA42C
4D006KA16
4D006KA26
4D006KA63
4D006KE15R
4D006MA03
4D006MA13
4D006MA14
4D006MA15
4D006MB07
4D006MC24
4D006PA10
4D006PB12
4D006PC80
4K021AA09
4K021AB11
4K021AB13
4K021BA04
4K021BA17
4K021BB01
4K021BB02
4K021BC03
4K021CA01
4K021DB06
4K021DB31
4K021DB36
4K021DB38
4K021DC15
(57)【要約】
【課題】収率の向上ができ、廃液の発生量、製品室液への硫酸イオンの移動量、及び電極室へのヨウ化物イオンの移動量を減らすことができる、ヨウ化水素酸の合成法を提供すること。
【解決手段】複置換電気透析法にてヨウ化水素酸を合成する方法であって、正極と負極との間に、前記正極側から、正極室、陽イオン交換膜、第1の副原料室に続けて、陽イオン交換膜、製品室、第1の陰イオン交換膜、第一原料室、第2の陰イオン交換膜、第二原料室、第3の陰イオン交換膜、及び第2の副原料室の4膜4室を一組とする膜室組を複数組配置し、続けて陽イオン交換膜、負極室を配置した電気透析槽を用い、第一原料室に原料液を、第二原料室に前バッチで第一原料室を通過させた液を通過させることを特徴とするヨウ化水素酸の合成法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液と、水素イオンを含有する副原料液から複置換電気透析法にてヨウ化水素酸を合成するヨウ化水素酸の合成法であって、
正極と負極との間に、前記正極側から、正極室、バイポーラ膜もしくは陽イオン交換膜、第1の副原料室に続けて、
陽イオン交換膜、製品室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第一原料室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、第二原料室、陰イオン交換膜である第3の陰イオン交換膜、及び第2の副原料室の順に、4膜4室を一組とする膜室組を複数配置し、
続けて陽イオン交換膜、負極室を配置した電気透析槽を用いる、ことを特徴とするヨウ化水素酸の合成法。
【請求項2】
前記第1及び前記第2の副原料室には前記副原料液を循環で通過させ、前記製品室には希薄ヨウ化水素酸を循環で通過させ、前記第一原料室には前記原料液を循環で通過させ、前記第二原料室には前バッチで前記第一原料室を循環で通過させた前記原料液の残液もしくは前バッチで前記第一原料室を循環で通過させた前記原料液の残液に前記原料液を加えた液を循環で通過させる、請求項1に記載のヨウ化水素酸の合成法。
【請求項3】
ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液からバイポーラ膜電気透析法にてヨウ化水素酸を合成するヨウ化水素酸の合成法であって、
正極と負極との間に、前記正極側から、正極室、第1のバイポーラ膜に続けて、
製品室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第一原料室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、第二原料室、及び第2のバイポーラ膜の順に、3室3膜を一組とする室膜組を複数配置し、
続けて負極室を配置した電気透析槽を用いる、ことを特徴とするヨウ化水素酸の合成法。
【請求項4】
前記製品室には希薄ヨウ化水素酸を循環で通過させ、前記第一原料室には前記原料液を循環で通過させ、前記第二原料室には前バッチで前記第一原料室を循環で通過させた前記原料液の残液もしくは前バッチで前記第一原料室を循環で通過させた前記原料液の残液に前記原料液を加えた液を循環で通過させる、請求項3に記載のヨウ化水素酸の合成法。
【請求項5】
前記原料液をpH4以上になるように調製し、前記ヨウ化水素酸の合成中に前記原料液をpH4以上になるよう維持する、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のヨウ化水素酸の合成法。
【請求項6】
前記第1の陰イオン交換膜、及び前記第2の陰イオン交換膜に一価陰イオン選択性を持った一価陰イオン選択透過膜を用いる、請求項1ないし5のいずれか一項に記載のヨウ化水素酸の合成法。
【請求項7】
前記原料液として、ブローイングアウト法で得られたヨウ素吸収液、イオン交換樹脂法にて得られたヨウ素脱離液、電気透析法によって得られたヨウ素濃縮液、ヨウ化物イオンを含む工業廃液、ヨウ化物イオン:硫酸イオンのモル比が1:1~3:1のヨウ化物イオン硫酸イオン混合水溶液のうちのいずれかを用いる、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のヨウ化水素酸の合成法。
【請求項8】
複置換電気透析に用いる電気透析槽で、正極室の負極側に副原料室を配置し、負極室の正極側に副原料室を配置したことを特徴とする電気透析槽。
【請求項9】
電気透析に用いる電気透析槽で正極室の負極側を仕切るイオン交換膜及びもしくは、負極室の正極側を仕切るイオン交換膜をバイポーラ膜としたことを特徴とする電気透析槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気透析法によるヨウ化水素酸の合成法および電気透析槽に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨウ化水素酸の製造方法としては、ヨウ素を水又はヨウ化水素酸に懸濁又は溶解させたのち、ヨウ素を燐もしくは次亜リン酸等を用いて還元し、反応後得られた反応液からヨウ化水素酸を蒸留にて留出させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この方法は、工業的には優れた方法であるが、原料として純度の高いヨウ素と、比較的高価な還元剤とを必要とし、廃液として多量のリン酸を生じる。また、蒸留後の釜残液として発生する、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸及びヨウ化水素酸等の混合液の処分費用も高価であること等から、経済的に不利である。
【0004】
特許文献2、3には、ブローイングアウト法で天然ガス付随かん水よりヨウ素を製造する際の中間物であるヨウ素吸収液から、複置換電気透析法によって、直接、ヨウ化水素酸を製造する方法が記されている。
【0005】
特許文献2、3では、正極側から負極側に向かって、正極室、陽イオン交換膜である第1の陽イオン交換膜、第1の副塩室に続けて、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、副原料室、陽イオン交換膜である第2の陽イオン交換膜、製品室、一価陰イオン選択透過膜である第2の陰イオン交換膜、原料室、陽イオン交換膜である第3の陽イオン交換膜、第2の副塩室の順に、4膜4室を一組とする膜室組を複数組配置し、続けて陽イオン交換膜、負極室が順に配置された電気透析槽を用いる電気透析法(4室法)が開示されている。
【0006】
この方法は、特許文献1の方法に比べ、精製度の高いヨウ素ではなく、ヨウ素製造の中間物を主原料とすることで数次の酸化還元反応を省略でき、リン酸などの廃棄物が少量しか発生しないことから、経済的にも環境保護の観点からも優れたものである。しかしながら、まだいくつかの改良すべき点が残る。
【0007】
第一に、原料液として硫酸イオン濃度の高いヨウ素吸収液(具体的には、ヨウ素吸収液には、ヨウ化物イオンのほぼ2分の1モルの硫酸イオンが含まれる。)を使用しているため、この方法で得られる製品液中に若干の原料液中の硫酸イオンが混入する。
【0008】
特に電気透析終盤において、原料液中のヨウ化物イオン濃度が低下した時には、原料室から製品室への硫酸イオンの移動速度が増加してくるため、原料液中のヨウ化物イオン取得収率を上げようとすると製品液(粗ヨウ化水素酸水溶液)への硫酸イオンの混入量が増大する。
【0009】
粗ヨウ化水素酸水溶液中に硫酸イオンが存在すると、以後の精製工程である蒸留工程で加熱した際に、硫酸イオンがヨウ化物イオンを酸化し、遊離ヨウ素を生じさせるため、蒸留工程前に炭酸バリウムを添加して、硫酸イオンを硫酸バリウム沈殿として除去する必要がある。
【0010】
このときに使用する炭酸バリウムにかかる費用、発生した硫酸バリウム沈殿の処分費用、硫酸バリウム沈殿に付着している分のヨウ化水素酸のロスが、製造コストを圧迫する。できるだけ硫酸イオンの混入量が少ない製品液にすることが、経済的に有利である。
【0011】
第二に、この方法では、製品液中のヨウ化物イオンの一部が製品室の正極側にある陽イオン交換膜を通過し副原料室に移動する。
【0012】
副原料室に移動したヨウ化物イオンはさらに副原料室の正極側にある陰イオン交換膜を通過して副塩室に移動する。副塩室に移動したヨウ化物イオンは、そのまま副塩室にとどまるため、副塩室内のヨウ化物イオン濃度は、電気透析運転中積算的に増加する。
【0013】
透析終了時の副塩室残液は、ヨウ化物イオンを0.1~1%程度含む硫酸水素ナトリウム主体の水溶液となる。硫酸水素ナトリウムの工業的価値は高くないので、副塩室残液は廃酸として処分される。副塩室残液に含まれるヨウ化物イオンは、ロスとなる。原料液中のヨウ化物イオンの0.5~10%がロスになる。
【0014】
第三に、電気透析での陰イオン交換膜を介した陰イオンの移動は、電気的な移動と拡散による移動がある。このうち電気的な移動の速度は、電流密度により決まり、拡散による移動の速度は、膜の両側の濃度差に比例する。電気透析を開始した時には、製品室よりも原料室の方が濃度が高いので、拡散による移動は、原料室から製品室へと向かう。透析後半では、製品室の濃度が高くなり、原料室の濃度が下がるため、拡散による移動方向は、製品室から原料室になる。透析終盤では、製品室と原料室の濃度差が大きくなり、比例して拡散による移動速度も大きくなる。ヨウ化物イオンの電気的な移動と、拡散による移動を合わせた見かけの(実際の)移動速度は、透析終盤では大きく低下する。
【0015】
製品室の仕上がりヨウ化物イオン濃度を低くすれば、みかけの移動速度の低下は回避できるが、以後の濃縮工程での負担が大きくなるため適切な方法ではない。つまり、製品液の仕上がりヨウ化物イオン濃度を高くするには、原料室にヨウ化物イオンを残す必要がある。したがって4室法では高い収率と濃縮倍率を両立することはできない。また、終盤での原料室から製品室への見かけの移動速度の低下は避けられない。
【0016】
第四に、特許文献2、3等に記載されている膜室組では、極室と陽イオン交換膜を介した隣の室は、副塩室となっている。副塩室液は0.1%程度のヨウ化水素酸を含むので、ヨウ化水素酸の一部が陽イオン交換膜をすり抜け正極室に至る。電極を腐食したり、正極で酸化されて遊離ヨウ素となり、周辺機器を腐食することがある。特にステンレス、チタンなど表面に酸化被膜を形成することで耐腐食性を持たせている材質の電極を用いている場合においては、ヨウ化物イオンを含む強酸性水溶液に触れた場合、ヨウ化物イオンにより、酸化被膜が還元され消失するので容易に腐食される。
【0017】
以上のように特許文献2、3に記載の方法では、ヨウ素製造中間体であるヨウ素吸収液やヨウ素含有工業廃液を、ヨウ素原料とし、リン化合物の使用量も非常に少ないことから、特許文献1に記載の方法に比べると経済的に有利な方法である。
【0018】
しかしながら、収率は未だに十分なものとは言えず、また、廃液の発生量、製品室液への硫酸イオンの移動量及び電極室へのヨウ化物イオンの移動量等も、十分には抑えられていない。
【0019】
以上のように、ヨウ化水素酸の合成に電気透析法を用いることは、合理的であると考えられるが、なお解決しなければならない問題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平8-59205号公報
【特許文献2】特開2005-58896号公報
【特許文献3】特開2008-272602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、収率をより向上できるとともに、廃液の発生量、製品室液への硫酸イオンの移動量、及び電極室へのヨウ化物イオンの移動量を減らすことができるヨウ化水素酸の合成法を提供すること、また、上記のようなヨウ化水素酸の合成法に好適に用いることが可能な電気透析槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の第1の態様のヨウ化水素酸の合成法は、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液と、水素イオンを含有する副原料液から複置換電気透析法にてヨウ化水素酸を合成するヨウ化水素酸の合成法であって、
正極と負極との間に、前記正極側から、正極室、バイポーラ膜もしくは陽イオン交換膜、第1の副原料室に続けて、
陽イオン交換膜、製品室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第一原料室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、第二原料室、陰イオン交換膜である第3の陰イオン交換膜、及び第2の副原料室の順に、4膜4室を一組とする膜室組を複数配置し、
続けて陽イオン交換膜、負極室を配置した電気透析槽を用いる、ことを特徴とする。
【0023】
本発明の第1の態様のヨウ化水素酸の合成法では、前記第1及び前記第2の副原料室には前記副原料液を循環で通過させ、前記製品室には希薄ヨウ化水素酸を循環で通過させ、前記第一原料室には前記原料液を循環で通過させ、前記第二原料室には前バッチで前記第一原料室を循環で通過させた前記原料液の残液もしくは前バッチで前記第一原料室を循環で通過させた前記原料液の残液に前記原料液を加えた液を循環で通過させる、ことが好ましい。
【0024】
本発明の第2の態様のヨウ化水素酸の合成法は、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液からバイポーラ膜電気透析法にてヨウ化水素酸を合成するヨウ化水素酸の合成法であって、
正極と負極との間に、前記正極側から、正極室、第1のバイポーラ膜に続けて、
製品室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第一原料室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、第二原料室、及び第2のバイポーラ膜の順に、3室3膜を一組とする室膜組を複数配置し、
続けて負極室を配置した電気透析槽を用いる、ことを特徴とする。
【0025】
本発明の第2の態様のヨウ化水素酸の合成法では、前記製品室には希薄ヨウ化水素酸を循環で通過させ、前記第一原料室には前記原料液を循環で通過させ、前記第二原料室には前バッチで前記第一原料室を循環で通過させた前記原料液の残液もしくは前バッチで前記第一原料室を循環で通過させた前記原料液の残液に前記原料液を加えた液を循環で通過させる、ことが好ましい。
【0026】
本発明のヨウ化水素酸の合成法では、前記原料液をpH4以上になるように調製し、前記ヨウ化水素酸の合成中に前記原料液をpH4以上になるよう維持する、ことが好ましい。
【0027】
本発明のヨウ化水素酸の合成法では、前記第1の陰イオン交換膜、及び前記第2の陰イオン交換膜に一価陰イオン選択性を持った一価陰イオン選択透過膜を用いる、ことが好ましい。
【0028】
本発明のヨウ化水素酸の合成法では、前記原料液として、ブローイングアウト法で得られたヨウ素吸収液、イオン交換樹脂法にて得られたヨウ素脱離液、電気透析法によって得られたヨウ素濃縮液、ヨウ化物イオンを含む工業廃液、ヨウ化物イオン:硫酸イオンのモル比が1:1~3:1のヨウ化物イオン硫酸イオン混合水溶液のうちのいずれかを用いる、ことが好ましい。
【0029】
本発明の第1の態様の電気透析槽は、複置換電気透析に用いる電気透析槽で、正極室の負極側に副原料室を配置し、負極室の正極側に副原料室を配置したことを特徴とする。
【0030】
本発明の第2の態様の電気透析槽は、電気透析に用いる電気透析槽で正極室の負極側を仕切るイオン交換膜及びもしくは、負極室の正極側を仕切るイオン交換膜をバイポーラ膜としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、収率をより向上できるとともに、廃液の発生量、製品室液への硫酸イオンの移動量、及び電極室へのヨウ化物イオンの移動量を減らすことができるヨウ化水素酸の合成法を提供すること、また、上記のようなヨウ化水素酸の合成法に好適に用いることが可能な電気透析槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、本発明の第1実施形態のヨウ化水素酸の合成法において用いる電気透析槽の構成例を示す模式図である。
図2図2は、本発明の第2実施形態のヨウ化水素酸の合成法において用いる電気透析槽の構成例を示す模式図である。
図3図3は、実施例1及び比較例1において、製品室における硫酸イオン濃度の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]第1実施形態
まず、第1実施形態に係る本発明のヨウ化水素酸の合成法について説明する。
【0034】
図1は、本発明の第1実施形態のヨウ化水素酸の合成法において用いる電気透析槽の構成例を示す模式図である。
【0035】
本実施形態に係るヨウ化水素酸の合成法は、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液と、水素イオンを含む水溶液である副原料液から複置換電気透析法にてヨウ化水素酸を合成するヨウ化水素酸の合成法である。
そして、電気透析において、図1に示す電気透析槽1を用いる。
【0036】
図1に示す電気透析槽1では、正極2と負極3との間に、正極側から、正極室10、バイポーラ膜もしくは陽イオン交換膜4c、第1の副原料室11に続けて、陽イオン交換膜5c、製品室12、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜6s、第一原料室13、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜7s、第二原料室14、陰イオン交換膜である第3の陰イオン交換膜8a、及び第2の副原料室15の順に、4膜4室を一組とする膜室組が複数配置され、続けて陽イオン交換膜9c、負極室16が配置されている。
【0037】
そして、本実施形態のヨウ化水素酸の合成法では、例えば、第1及び第2の副原料室11,15には、副原料室液24,25として酸水溶液をそれぞれ循環で通過させ、製品室12には、製品室液21として希薄ヨウ化水素酸を循環で通過させ、第一原料室13には、第一原料室液22として原料液を循環で通過させ、第二原料室14には、第二原料室液23として、前バッチで第一原料室13を循環で通過させた原料液の残液もしくは前バッチで第一原料室13を循環で通過させた原料液の残液に原料液を加えた液を循環で通過させる。
【0038】
これにより、収率をより向上できるとともに、廃液の発生量、製品室液への硫酸イオンの移動量、及び電極室へのヨウ化物イオンの移動量を減らすことができる、ヨウ化水素酸の合成法を提供することができる。
【0039】
上記副原料液に使用する酸は、電離度の高い強酸であり、金属イオンやアンモニウムイオンを含まないものが好ましい。また、ヨウ化物イオン等の原料液中の物質と反応しないものであればいずれのものを用いてもよい。例として、硫酸、塩酸が挙げられる。製品室12に移動してくる硫酸イオンは、原料室から移動してくるものであり、副原料液に硫酸イオンが含まれていても問題はない。ただし、前記第3の陰イオン交換膜に一価陰イオン選択透過膜を用いる場合には、塩酸が好ましく硫酸は好ましくない。また、原料液中に酸性で硫酸イオンと不溶物を形成するバリウムイオンが含まれる場合には、塩酸が好ましく、硫酸が好ましくない。
【0040】
なお、以下の説明では、電気透析槽1において正極室10と第1の副原料室11とを仕切る膜として、陽イオン交換膜4cを用いた場合を主に説明する。
【0041】
従来の複置換電気透析法(4室法)で用いられてきた電気透析槽において、一価陰イオン選択透過膜が、二価陰イオンである硫酸イオンの移動を完全に抑えることができるのであれば、原料室から製品室への硫酸イオンの移動はないはずであるが、一価陰イオン選択透過膜を用いただけでは、硫酸イオンの移動を十分に抑えることはできず、一部ではあるが、硫酸イオンが原料室から製品室へ移動する。
【0042】
言い換えれば、従来の4室法の電気透析槽において、一価陰イオン選択透過膜が、硫酸イオンの移動を完全に抑えることができるのであれば、副塩室を廃した、3室での運転が実用化されていたと考えられるが、3室複置換の電気透析槽は未だ実用化されていない。
【0043】
一価陰イオン選択透過膜で硫酸イオンの移動を完全に抑えられない第一の原因は、pH4以下の水溶液中では、硫酸は二価イオンである硫酸イオン(SO 2-)としては存在せず、一価イオンである硫酸水素イオン(HSO )で存在するため、一価陰イオン選択透過膜での一価イオンであるヨウ化物イオン(I)との完全分離ができないことにある。残念なことに前記吸収液はpH1程度の強酸性であるし、4室電気透析法では、原料室以外のすべての室が強酸性のため、たとえ原料液を中性に調製しても、運転中に強酸性になっていく。したがって、原料室をpH4以上に保つことは難しい。また、原料室を中性や塩基性にした場合、電流効率を低下させる。電流効率をよくするためには、原料室は酸性である方がいい。pH4以上に調製・維持するかどうかは、経済性等を考慮して判断することが好ましい。
【0044】
とはいえ一価陰イオン選択透過膜を使う意味が全くないわけではない。pH4以下においても硫酸イオン(硫酸水素イオン)の移動はある程度抑制されるので、完全ではないが使用した方が硫酸イオンの移動量は減少する。
【0045】
そして第二の原因として、透析運転終了間際において、原料室での硫酸イオン:ヨウ化物イオンの濃度比が上昇したときに、原料室から製品室への硫酸イオンの移動速度が上昇するためである。第二の原因については、本発明によって解決される。
【0046】
図1に示す電気透析槽1では、原料室を、陰イオン選択透過膜である第2の陰イオン交換膜7sで仕切って連続した2室とし、製品室12に隣接する側から順に第一原料室13、第二原料室14としている。原料室を2つ連続して配置した場合、製品室12に隣接する第一原料室13では、製品室12へ移動したヨウ化物イオンとほぼ同量のヨウ化物イオンが、製品室12と反対側に配置されている第二原料室14から移動してくるため、硫酸イオン:ヨウ化物イオン濃度比は、ほぼ変わらない。これにより、第一原料室13中の硫酸イオン:ヨウ化物イオン濃度比を、透析運転終了時までほぼ一定に保持することができる。その結果、透析終了間際での第一原料室13から製品室12へ移動する硫酸イオン量の増加を抑えることができる。
【0047】
透析終盤において、第二原料室14では、第2の副原料室15から硫酸イオンが移動してくることによる硫酸イオン濃度の上昇と、第一原料室13にヨウ化物イオンが移動していくことによるヨウ化物イオン濃度の減少とにより、硫酸イオン:ヨウ化物イオン濃度比が上昇する。
【0048】
そのため、透析終盤において、第二原料室14から第一原料室13への硫酸イオンの移動速度が速くなる。しかし、第一原料室13では、まだ十分な量のヨウ化物イオンが存在するため、硫酸イオン:ヨウ化物イオン濃度比がわずかに上昇するが、硫酸イオンの移動速度への影響は、限定的であり、無視できる程度である。そのため、第一原料室13から製品室12に移動する硫酸イオンの移動速度は、ほとんど上昇しない。言い換えれば、透析終盤で硫酸イオン:ヨウ化物イオンのモル比が増えたために生じる、第二原料室14からの硫酸イオン移動速度の増加分を第一原料室で捕捉することができる。
【0049】
図1に示す構成では、このように原料室を2つに仕切ることで、従来の4室法による電気透析槽では必要であった副塩室をなくすことができる。これにより、副塩室液の調製が不要になる。また、第一原料室13の残液を第二原料室14に供給する室液として使用することで、透析運転終了後の廃液は、第二原料室14からの残液だけとなるため、全体としての廃液量を減少させることができる。
【0050】
また、従来の4室法ではヨウ化物イオンが副塩室に移動することで発生していたロスもなくなるため、収率も向上させることができる。
【0051】
陰イオン交換膜を介してのヨウ化物イオンの移動は、電気的な移動だけでなく、拡散による移動もある。電気的な移動の速度は、膜間電圧、電流密度に比例する。拡散による移動の速度は、濃度差に比例する。そのため、電気的な移動速度と拡散による移動速度とを合わせた、全体(見かけ)の移動速度は、隣接する2室のイオン濃度差の影響を受ける。
【0052】
従来の4室法の場合、透析終盤では、製品室と原料室とのヨウ化物イオン濃度差が大きくなるため、拡散によって製品室から原料室に戻るヨウ化物イオンの移動速度が増加し、全体(見かけ)の移動速度が低下し、やがて移動しなくなる。すなわち、透析終了時には原料室に必ずヨウ化物イオンが残る。
【0053】
しかし、図1に示す電気透析槽1を用いることにより、第一原料室13のヨウ化物イオン濃度はほぼ一定のため、隣接する2室、すなわち、製品室12と第一原料室13とのヨウ化物イオン濃度差、及び第一原料室13と第二原料室14とのヨウ化物イオン濃度差は、従来の4室法における、製品室と原料室とのヨウ化物イオン濃度差よりも小さくなる。
【0054】
これにより、製品室12から第一原料室13へ戻る拡散による移動速度を好適に抑え、見かけの移動速度を初期に近い状態で維持することができる。
【0055】
また、第一原料室13から第二原料室14へ戻る拡散による移動速度を好適に抑え、見かけの移動速度を高くすることができる。
【0056】
その結果、透析終了時に第二原料室14に残るヨウ化物イオンのロスを、従来の4室法で原料室に残るヨウ化物イオンのロスよりも効果的に減らすことができる。すなわち、収率をより効果的に向上させることができる。
【0057】
言い換えれば、第一原料室に一定量のヨウ化物イオンを残すことで第二原料室での収率を向上させ、透析終盤で増加する第二原料室からの硫酸イオンの増加量を補足することができる。第一原料室に残したヨウ化物イオンは、次バッチで第二原料室から第一原料室へ分離回収されるのでロスにならない。
【0058】
また、図1に示す電気透析槽1では、正極室10の負極側には陽イオン交換膜4cを介して第1の副原料室11を配置している。
【0059】
正極室に陽イオン交換膜を介して接する室にヨウ化物イオンがあると、ヨウ化物イオンが電気的に正極室側に引っ張られるため、陽イオン交換膜をすり抜けて移動するヨウ化物イオンが発生する。そこで本発明の第1実施形態においては、正極室の隣に位置する室を極室以外で最もヨウ化物イオン濃度が低い室である第1の副原料室11にした。
【0060】
特許文献2、3などでは、ヨウ化物イオン濃度が比較的低い副塩室が配置されているが、副塩室よりもさらにヨウ化物イオン濃度が低い副原料室にするのが合理的であると考えられる。
【0061】
また、図1に示す電気透析槽1では、負極室16の正極側には陽イオン交換膜9cを介して第2の副原料室15を配置している。
【0062】
これは負極室から陽イオン交換膜を介して正極側にある隣の室へ移動してくる負極室液中の陰イオン(具体的には硫酸イオン)が存在するからである。この陰イオンが混入した時に最も影響が少ないのは、副原料室だからである。
【0063】
なお、第1の副原料室11と負極室16の隣に設置された第2の副原料室15以外の第2の副原料室15には、製品室12から、陽イオン交換膜5cを通じて一部のヨウ化物イオンが漏れ出してくるが、副原料室液25中のヨウ化物イオンは、第2の副原料室15から第3の陰イオン交換膜8aを介して隣り合う第二原料室14に硫酸イオンよりも優先的に、移動するため、ほとんど残らない。これにより、第1の副原料室11のヨウ化物イオン濃度は、極室以外の4室中で常に最低の値になる。
【0064】
そして、図1に示す電気透析槽では、特許文献2,3のように副塩室がない。すなわち透析終了後廃酸として処分される副塩室残液がないので、廃液の発生量を減じることができる。特許文献2,3に示された4室法で製品室から正極側に副原料室を経由して副塩室に到達していたヨウ化物イオンは、本実施形態においては、第二原料室液中に捕獲され、第一原料室に濃縮される。ロスになるのは、透析終了時に移動中の一部のみであり、これにより収率が上昇する。
【0065】
[1-1]電気透析槽について
電気透析槽1では、両側に一対の電極が配置され、これら一対の電極のうちの一方が正極2(陽極)とされ、他方が負極3(陰極)とされる。
【0066】
正極2を構成する材料としては、例えば、白金(Pt)、カーボン(C)、ニッケル(Ni)や、チタン(Ti)/白金、ルテニウム(Ru)/チタン、イリジウム(Ir)/チタン、チタン/パラジウム(Pd)等の複合材料(例えば、合金、メッキ等)等が挙げられる。
【0067】
負極3を構成する材料としては、例えば、鉄(Fe)、ニッケル、白金、チタン/白金、カーボン、ステンレス鋼としてのクロム(Cr)鋼等が挙げられる。
【0068】
電気透析槽1は、図示しない切欠部を有する平面視で矩形状の枠体としての室枠を備えている。
【0069】
この室枠の長手方向に沿った両端部の内側に正極2、負極3が取り付けられ、この電気透析槽1の正極2の負極側に配置された陽イオン交換膜4cによって正極側の電極室(正極室10)が構成され、負極3の正極側に配置された陽イオン交換膜9cによって負極側の電極室(負極室16)が構成される。
【0070】
これら正極室10と負極室16との間には、正極側から負極側へ向かって、陽イオン交換膜4c、陽イオン交換膜5c、第1の陰イオン交換膜6s、第2の陰イオン交換膜7s、第3の陰イオン交換膜8a及び陽イオン交換膜9cが順次配置されている。そして、これらイオン交換膜によって、正極室10から負極室16へ向かって、第1の副原料室11、製品室12、第一原料室13、第二原料室14、及び第2の副原料室15に仕切られている。
【0071】
そして、第1の副原料室11、陽イオン交換膜5c、製品室12、第1の陰イオン交換膜6s、第一原料室13、第2の陰イオン交換膜7s、第二原料室14及び第3の陰イオン交換膜8aの4室4膜を一組として、数組から数百組程度(n組)が繰り返し配置される。繰り返し回数nとしては、特に限定されないが、例えば、数組から数百組程度、より具体的には、4組以上1800組以下であることが好ましい。
【0072】
なお、以下の説明では、陽イオン交換膜4c、陽イオン交換膜5c、及び陽イオン交換膜9cを総称して「陽イオン交換膜」と記す場合がある。
【0073】
また、以下の説明では、第1の陰イオン交換膜6s、第2の陰イオン交換膜7s及び第3の陰イオン交換膜8aを総称して「陰イオン交換膜」と記す場合がある。
【0074】
また、以下の説明では、正極室10、第1の副原料室11、製品室12、第一原料室13、第二原料室14、第2の副原料室15及び負極室16を総称して「液室」と記す場合がある。
【0075】
各イオン交換膜にてそれぞれ仕切られた各液室における室枠の内面には、この室枠の内部に連通した図示しない液供給口及び液排出口が設けられている。また、室枠内には、この室枠内の厚みを均一にする配流作用を有する図示しないスペーサが設けられている。
【0076】
これら正極室10、第1の副原料室11、製品室12、第一原料室13、第二原料室14、第2の副原料室15及び負極室16には、それぞれ目的に応じた室液が、所定濃度及び所定液量に調製され、それぞれ個別に、循環で通過する。
【0077】
また、これら室液を供給させる図示しない外部タンクを設けて、これら室液を液室と外部タンクとの間でそれぞれを循環させてもよい。
【0078】
(陰イオン交換膜)
陰イオン交換膜としては、陰イオンの選択透過性を高めた膜を好適に用いることができる。このような陰イオン選択透過膜としては、例えば、強酸性スチレン-ジビニルベンゼン系均一陰イオン交換膜等が用いられる。
【0079】
ただし、使用する原料液が硫酸イオン(SO 2-)等の二価陰イオンを含む場合には、陰イオン交換膜として、一価陰イオン選択性を持つ一価陰イオン選択透過膜を使用することが好ましい。
【0080】
電気透析槽1の第1の陰イオン交換膜6sと第2の陰イオン交換膜7sに一価陰イオン選択透過膜を用いることで、硫酸イオンの製品室12への移動を軽減することができる。
【0081】
また、一価イオン選択性を十分に発揮させ、硫酸イオンを分離除去するためには、硫酸イオンが一価陰イオンである硫酸水素イオン(HSO )として存在するpH4以下の領域を避け、硫酸イオンが、二価陰イオンである硫酸イオン(SO 2-)として存在するpH4以上の領域に原料液を調製し、透析運転中維持することが好ましい。
【0082】
これにより、第一原料室13に供給された原料液中に含まれる硫酸イオンが製品室12に移動するのを抑制できるとともに、ヨウ化物イオンの選択透過性をより優れたものとすることができる。その結果、ヨウ化水素酸の収率をさらに向上させることができる。
【0083】
なお、第二原料室14と第2の副原料室15とを仕切る第3の陰イオン交換膜8aは、副原料液に希塩酸などの一価酸を用いる場合には、陰イオン交換膜、一価陰イオン選択透過膜のいずれを用いてもよい。副原料液に希硫酸などの多価酸を用いる場合には、陰イオン交換膜を用いることが好ましい。
【0084】
このような一価陰イオン選択透過膜としては、例えば、強酸性スチレン-ジビニルベンゼン系均一陰イオン交換膜等が用いられ、より具体的には、例えば、セレミオンASV-N膜(AGC株式会社製)、ネオセプタASE膜(株式会社アストム製)等が挙げられる。
【0085】
また、一価陰イオン選択性を持たない陰イオン交換膜としては、具体的には、例えば、セレミオンAMV-N膜(AGC株式会社製)、ネオセプタACS膜(株式会社アストム製)等が挙げられる。
【0086】
[1-2]原料液について
ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液としては、ブローイングアウト法で得られたヨウ素吸収液、イオン交換樹脂法にて得られたヨウ素脱離液、電気透析法によって得られたヨウ素濃縮液、ヨウ化物イオンを含む工業廃液、ヨウ化物イオン:硫酸イオンのモル比が1:1~3:1のヨウ化物イオン硫酸イオン混合水溶液のうちのいずれかを、好適に用いることができる。
【0087】
なお、本発明の第1実施形態で用いる電気透析槽は、特開2018-94525に示されている原料室中の陽イオンが、製品室へ移動しない構造の電気透析槽であるので、原料液にアルミニウムイオン等を添加し、原料液中のフッ素を除去する方法にも活用できる。
【0088】
なお、図1に示した電気透析槽1では、同じ膜室組において第一原料室13と第二原料室14とが隣り合う構成となっていたが、これに限定されず、電気透析槽を構成する複数の膜室組の全体をみたときに、第一原料室と第二原料室とが隣り合う構成とされていればよく、隣り合う膜室組、例えば、第m組{mは、1以上(n-1)以下の整数}の膜室組における第一原料室と、第(m+1)組の膜室組における第二原料室とが隣り合う構成となっていてもよい。
【0089】
[2]第2実施形態
次に、第2実施形態に係る本発明のヨウ化水素酸の合成法について説明する。
【0090】
図2は、本発明の第2実施形態のヨウ化水素酸の合成法において用いる電気透析槽の構成例を示す模式図である。
【0091】
以下、この図を参照して第2実施形態に係る本発明のヨウ化水素酸の合成法について説明するが、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項はその説明を省略する。
【0092】
本実施形態に係るヨウ化水素酸の合成法は、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液からバイポーラ膜電気透析法にてヨウ化水素酸を合成するヨウ化水素酸の合成法である。
そして、電気透析において、図2に示す電気透析槽31Aを用いる。
【0093】
すなわち、図2に示す電気透析槽31Aは、正極32と負極33との間に、正極側から、正極室40、第1のバイポーラ膜34bに続けて、製品室41、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜35s、第一原料室42、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜36s、第二原料室43、及び第2のバイポーラ膜37b’の3室3膜を一組とする膜室組を複数配置し、続けて負極室44を配置している。
【0094】
この電気透析槽31Aにおいて、正極32(陽極)と負極33(陰極)との間に、水の理論分裂電圧である0.83V以上、イオン交換膜メーカー指定の最高使用電圧以下の直流電流を供給すると、第1のバイポーラ膜34bで水が水素イオンと水酸化物イオンとに分解され、水素イオンは、負極側の製品室41に吐出され、水酸化物イオンは、正極側の正極室40に吐出される。
【0095】
製品室41に吐出された水素イオンは、第一原料室42から移動してきたヨウ化物イオンと結合してヨウ化水素酸が生成される。
これにより、ヨウ化水素酸をより効率よく生成することができる。
【0096】
例えば、特開2009-023847中ではバイポーラ膜電気透析槽で、正極室の隣は、ヨウ化物イオンが存在しないアルカリ室が設置されている。本発明で用いるバイポーラ膜電気透析槽では、アルカリ室を持たないばかりか、極室を除いたすべての室のヨウ化物イオン濃度が高い。したがって、ヨウ化物イオン濃度が最も低い室(第二原料室)を選択して正極室の隣に設置しても、極室へのヨウ化物イオンの移動を十分に減らすことはできない。
【0097】
本発明においては、極室を形成するイオン交換膜として、バイポーラ膜を用いることで、極室へのヨウ化物イオンの移動を抑制する。
【0098】
本実施形態においては、正極室40を仕切る膜を第1のバイポーラ膜34bにすることで、ヨウ化物イオンの正極室40への移動をより効果的に抑制することができる。
【0099】
上述したような本実施形態の方法によれば、バイポーラ膜電気透析法において、ヨウ化水素酸の収率をより向上できるとともに、製品室液への硫酸イオンの移動量及び、電極室へのヨウ化物イオンの移動量を減らすことができる。
【0100】
そして、本実施形態のヨウ化水素酸の合成法では、例えば、製品室41には、製品室液51として希薄ヨウ化水素酸を循環で通過させ、第一原料室42には、第一原料室液52として原料液を循環で通過させ、第二原料室43には、第二原料室液53として、前バッチで第一原料室42を循環で通過させた原料液の残液もしくは前バッチで第一原料室42を循環で通過させた原料液の残液に原料液を加えた液を循環で通過させる。
【0101】
[2-1]電気透析槽について
(陰イオン交換膜)
陰イオン交換膜としては、陰イオンの選択透過性を高めた膜を好適に用いることができる。
【0102】
ただし、使用する原料液が硫酸イオン(SO 2-)等の二価陰イオンを含む場合には、陰イオン交換膜として、一価陰イオン選択性を持つ一価陰イオン選択透過膜を使用することが好ましい。
【0103】
また、一価陰イオン選択性を十分に発揮させ、硫酸イオンを分離除去するためには、硫酸イオンが一価陰イオンである硫酸水素イオン(HSO )として存在するpH4以下の領域を避け、硫酸イオンが、二価陰イオンである硫酸イオン(SO 2-)として存在するpH4以上の領域に原料液を調製し、透析運転中維持することが好ましい。複置換透析法と違い、原料室のpHを4以上に保持することは容易である。特に第二原料室は、運転中にpHが上昇していくので容易である。
【0104】
また、硫酸イオンが製品室に至る第二の原因である、原料室中の硫酸イオン:ヨウ化物イオン比が上昇した時に一価陰イオン選択透過膜を介しての硫酸イオンの移動速度が上昇することへの本発明の第2実施形態での対応は、一価陰イオン選択透過膜で仕切られて、隣り合って存在する第一原料室と第二原料室を設置することである。製品室の隣に位置する第一原料室では、ヨウ化物イオンを製品室へ送ると同時に、第二原料室から受け取るので、透析終盤においても高いヨウ化物イオン濃度が保持される。そのため、硫酸イオン:ヨウ化物イオン比はほとんど変わらない。透析運転終盤において、第二原料室のヨウ化物イオンが減少し、第二原料室での硫酸イオン:ヨウ化物イオン比が上昇すると、第二原料室から第一原料室に移動する硫酸イオンの移動速度が上昇するが、その時、第一原料室にはまだ十分な量のヨウ化物イオンがあるので、第一原料室から、製品室への硫酸イオンの移動は引き続き抑制される。結果として第二原料室での硫酸イオン:ヨウ化物イオン比の上昇によっておこる第二原料室から移動する硫酸イオンは第一原料室で補足されるため、製品室に至らない。
【0105】
陰イオン交換膜を介してのヨウ化物イオンの移動は、電気的な移動だけでなく、拡散による移動もある。電気的な移動の速度は、膜間電圧、電流密度に比例する。拡散による移動の速度は、濃度差に比例する。そのため、電気的な移動速度と拡散による移動速度とを合わせた、全体(見かけ)の移動速度は、隣接する2室のイオン濃度差の影響を受ける。
【0106】
従来のバイポーラ膜電気透析法の場合、透析終盤では、製品室と原料室とのヨウ化物イオン濃度差が大きくなるため、拡散によって製品室から原料室に戻るヨウ化物イオンの移動速度が増加し、全体(見かけ)の移動速度が低下し、やがて移動しなくなる。すなわち透析終了時には原料室に必ずヨウ化物イオンが残る。
【0107】
しかし、図1に示す電気透析槽1を用いることにより、第一原料室13のヨウ化物イオン濃度はほぼ一定のため、隣接する2室、すなわち、製品室12と第一原料室13とのヨウ化物イオン濃度差、及び第一原料室13と第二原料室14とのヨウ化物イオン濃度差は、従来の4室法における、製品室と原料室とのヨウ化物イオン濃度差よりも小さくなる。
【0108】
これにより、製品室12から第一原料室13へ戻る拡散による移動速度を好適に抑え、見かけの移動速度を初期に近い状態で維持することができる。
【0109】
また、第一原料室13から第二原料室14へ戻る拡散による移動速度を好適に抑え、見かけの移動速度を高くすることができる。
【0110】
その結果、透析終了時に第二原料室14に残るヨウ化物イオンのロスを、従来のバイポーラ膜電気透析法で原料室に残るヨウ化物イオンのロスよりも効果的に減らすことができる。すなわち、収率をより効果的に向上することができる。
【0111】
言い換えれば、第一原料室に一定量のヨウ化物イオンを残すことで第二原料室での収率を向上させ、透析終盤で増加する第二原料室からの硫酸イオンの増加量を補足することができる。第一原料室に残したヨウ化物イオンは第二原料室で第一原料室へ分離回収されるのでロスにならない。
【0112】
(バイポーラ膜)
第2のバイポーラ膜37b’は、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを貼り合わせたものであり、陽イオン交換膜が負極側、陰イオン交換膜が正極側になるように配される。第2のバイポーラ膜37b’では、一方の面が陽イオン交換膜として作用し、他方の面が陰イオン交換膜として作用する。
【0113】
このような第2のバイポーラ膜37b’としては、例えば、ネオセプタバイポーラ(株式会社アストム)等が用いられる。
【0114】
図2に示す電気透析槽31Aは、正極32と負極33との間に、正極側から、正極室40、第1のバイポーラ膜34bに続けて、製品室41、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜35s、第一原料室42、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜36s、第二原料室43、及び第2のバイポーラ膜37b’の3室3膜を一組とする膜室組を複数配置し、続けて負極室44を配置している。
【0115】
この電気透析槽31Aにおいて、正極32(陽極)と負極33(陰極)との間に、水の理論分裂電圧である0.83V以上、イオン交換膜メーカー指定の最高使用電圧以下の直流電流を供給すると、第1のバイポーラ膜34bで水が水素イオンと水酸化物イオンとに分解され、水素イオンは、負極側の製品室41に吐出され、水酸化物イオンは、正極側の正極室40に吐出される。
【0116】
製品室41に吐出された水素イオンは、第一原料室42から移動してきたヨウ化物イオンと結合してヨウ化水素酸が生成される。
これにより、ヨウ化水素酸をより効率よく生成することができる。
【0117】
また、正極室40を仕切る膜を第1のバイポーラ膜34bにすることで、ヨウ化物イオンの正極室40への移動をより効果的に抑制することができる。
【0118】
なお、本発明の第2実施形態で用いる電気透析槽は、特開2018-94525に示されている原料室中の陽イオンが、製品室へ移動しない構造の電気透析槽であるので、原料液にアルミニウムイオン等を添加し、原料液中のフッ素を除去する方法にも活用できる。
【0119】
上述したような本実施形態の方法によれば、バイポーラ膜電気透析法において、ヨウ化水素酸の収率をより向上できるとともに、廃液の発生量、製品室液への硫酸イオンの移動量及び、電極室へのヨウ化物イオンの移動量を減らすことができる。
【0120】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば、本発明の趣旨に沿った範囲内で条件を変更したり、他の工程を加える等の改変を加えることは差し支えない。
【0121】
最後に本発明の特徴について記す。
第一に、電気透析においての主体となる原料室から製品室へのヨウ化物イオンの電気的な移動以外のマイナーな移動に着目し、それを抑える方法を開発したことである。具体的には原料室と製品室の間で、ヨウ化物イオンの濃度差を動力とした拡散での製品室から原料室への移動がある。原料室を連続した2室とし、製品室側の原料室中のヨウ化物イオン濃度を透析終了まで一定以上高くすることでこの問題を解決した。また陽イオン交換膜を介してのヨウ化物イオンの電気的移動により生じる正極室へのヨウ化物イオンの移動をできるだけ少なくする方法として、最もヨウ化物イオン濃度が少ない副原料室を正極室の隣に配置するか、陽イオン交換膜を最もヨウ化物イオンが通過しにくいバイポーラ膜に置き換えることとした。
【0122】
第二に、原料室から製品室に移動する硫酸イオンの移動速度が透析終盤で上昇することに着目し、これを解決するとともに従来複置換透析法で必要とされていた副塩室をなくし、収率及び製品液品質の向上につなげた。具体的には、原料室を連続した2室とし、製品室側の原料室中のヨウ化物イオン濃度を透析終了まで一定以上高くすることで硫酸イオンの移動速度の上昇をなくした。また、製品室から遠い方の原料室を副原料室からの硫酸イオンの移動先とすることで、副塩室をなくした。
【0123】
第三に、本発明以前の電気透析槽は陽イオン交換膜、陰イオン交換膜の交互配置、あるいは、バイポーラ膜、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜の順序での配置であったが、本発明では陽、陰、陰、陰の配置あるいは、バイポーラ、陰、陰の配置である。
【0124】
第四に、原料液の多目的使用が挙げられる。具体的には、原料液は、第一原料室で原料として利用されるうえに、透析終盤までヨウ化物イオン濃度を保つことで、製品室からの戻りを少なくし、第二原料室からの受け入れを容易にした。また、終盤での製品室への硫酸イオンの移動速度増加を抑制した。そして次に第二原料室で、原料液として利用されるうえ、副原料室からの硫酸イオンの受けとり先として利用される。
【実施例0125】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。
以下、実施例1及び2、比較例1においては、電気透析槽(旭化成株式会社製、G4型:有効膜面積2dm)を含む電気透析装置を用いて電気透析を行った。陽イオン交換膜には、セレミオンCSO(AGC株式会社製)を、一価陰イオン選択透過膜にセレミオンASV-N(AGC株式会社製)を、陰イオン交換膜に、セレミオンAMV-N(AGC株式会社製)を用いた。各室液の仕込み液調製には、富士フィルム和光純薬株式会社製ヨウ化ナトリウム、同社製硫酸水素ナトリウム一水塩、同社製無水硫酸ナトリウム、株式会社トーシン製75質量%硫酸、および蒸留水を用いた。製品室液の仕込みには、自己製造したヨウ化水素酸を用いた。
【0126】
なお、分析に際しては、試料を純水で希釈し、イオンクロマトグラフ(メトローム社製883プロフェッショナルケミカルサプレッサー付き、炭酸ガスサプレッサー付き)を用いて測定した。
運転はすべて4A定電流運転(2A/dm)で行った。
【0127】
(比較例1)
<電気透析槽の構成>
電気透析槽は正極と負極の間に正極側から、正極室、陽イオン交換膜、副塩室に続き、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、副原料室、陽イオン交換膜である第1の陽イオン交換膜、製品室、一価陰イオン選択透過膜である第1の陰イオン交換膜、第一原料室、陽イオン交換膜である第2の陽イオン交換膜、副塩室の順に4膜4室を一組とする4組を配置し、続けて、陽イオン交換膜、負極室を配置した。
【0128】
<仕込み液の調製>
以下の各室の仕込み液を調製した。
電極室液:5質量%硫酸水素ナトリウム水溶液2000mL
副塩室液:1.7質量%硫酸水素ナトリウム水溶液1000mL
原料室液:ヨウ化ナトリウム1.0モル及び硫酸0.5モルを含む水溶液1500mL
副原料室液:硫酸0.6モルを含む水溶液1000mL
製品室液:1質量%ヨウ化水素酸水溶液1000mL
【0129】
<電気透析>
電極室(正極室及び負極室)には極室液2000mLをそれぞれ循環で通液し、副塩室には副塩室液1000mLを、原料室には原料室液を、副原料室には副原料室液を、製品室には製品室液をそれぞれ0.2L/分で循環で通液した。
【0130】
<イオン濃度分析>
運転を2.3時間行い、原料室、副塩室及び製品室からの排出液を取得し、それぞれの取得液中の、ヨウ化物イオン(I)及び硫酸イオン(SO 2-)濃度を分析した。
【0131】
各室における仕込み液と取得液とについて、ヨウ化物イオン(I)及び硫酸イオン(SO 2-)のイオン量及びイオン濃度の結果を表1及び表2にそれぞれ示す。
【0132】
また、製品室における硫酸イオンのイオン濃度の時間変化を、実施例1と併せて図3に示す。
【0133】
【表1】
【0134】
【表2】
【0135】
結果
原料室仕込み液中のヨウ化物イオンと取得液中のヨウ化物イオン量の差からのうち、およそ87%が原料室から移動した。そのうち原料室中のヨウ化物イオンの0.5%は、副塩室に移動した。
【0136】
また、図3に示すように、製品室における硫酸イオン濃度の増加速度、すなわち、製品室への硫酸イオンの移動速度は、透析終盤で増加した。
【0137】
極室液に遊離ヨウ素による着色がみられた。透析終了後、極室液に還元剤を加えヨウ化物イオン濃度を測定したところ、100mg/L、180mgのヨウ化物イオンが確認された。
【0138】
(実施例1)
<電気透析槽の構成>
電気透析槽は正極と負極の間に正極側から、正極室、陽イオン交換膜、第二原料室に続き、陰イオン交換膜である第3の陰イオン交換膜、副原料室、陽イオン交換膜、製品室、一価陰イオン選択透過膜である第1の陰イオン交換膜、第一原料室、一価陰イオン選択透過膜である第2の陰イオン交換膜、第二原料室の順に4膜4室を一組とする4組を配置し、続けて、陽イオン交換膜、負極室を配置した。
【0139】
<仕込み液の調製>
以下の各室の仕込み液を調製した。
電極室液:5質量%硫酸水素ナトリウム水溶液2000mL
第一原料室液:ヨウ化物イオンナトリウム1.0モル及び硫酸0.5モルを含む水溶液1500mL
第二原料室液:0.825モルのヨウ化物イオン、0.825モルのナトリウムイオン、0.83モルの硫酸イオンを含む水溶液1400mL(前回第一原料室残液)
副原料室液:硫酸0.6モルを含む水溶液1000mL
製品室液:1質量%ヨウ化水素酸水溶液1000mL
【0140】
<電気透析>
電極室(正極室及び負極室)には極室液をそれぞれ1.5L/分で循環で通液し、第一原料室には第一原料室液を、第二原料室には第二原料室液を、副原料室には副原料室液を、また、製品室には製品室液をそれぞれ0.2L/分で循環で通液した。
【0141】
<イオン濃度分析>
運転を2.5時間行い、第一原料室、第二原料室及び製品室からの排出液を取得し、それぞれの取得液中の、ヨウ化物イオン(I)及び硫酸イオン(SO 2-)濃度を分析した。
【0142】
結果を表3及び表4にそれぞれ示す。
また、製品室における硫酸イオンのイオン濃度の時間変化を、比較例1と併せて図3に示す。
【0143】
【表3】
【0144】
【表4】
【0145】
結果
第一原料室仕込みと第二原料室取得での差から原料液中のヨウ化物イオンのうち93%が取得できた。また、実施例1では、比較例1に比べて、原料液中のヨウ化物イオンを、より高い収率で製品室液中に取得することができた。
【0146】
図3から明らかなように、製品室における硫酸イオン濃度の増加速度、すなわち、製品室への硫酸イオンの移動速度は、比較例1では、透析終盤で増加するのに対し、実施例1では、一定の速度である。実施例1では、比較例1に比べて、硫酸イオンの増加量を約40%減らすことができた。
【0147】
しかしながら、極室液に遊離ヨウ素による着色が強くみられた。透析終了後、極室液に還元剤を加えヨウ化物イオン濃度を測定したところ、4000mg/L、7200mgのヨウ化物イオンが確認された。
【0148】
(実施例2)
<電気透析槽の構成>
電気透析槽は正極と負極の間に正極側から、正極室、陽イオン交換膜、副原料室に続き、陽イオン交換膜、製品室、一価陰イオン選択透過膜である第1の陰イオン交換膜、第一原料室、一価陰イオン選択透過膜である第2の陰イオン交換膜、第二原料室、陰イオン交換膜である第3の陰イオン交換膜、副原料室の順に4膜4室を一組とする4組を配置し、続けて、陽イオン交換膜、負極室を配置した。
【0149】
<仕込み液の調製>
以下の各室の仕込み液を調製した。
電極室液:5質量%硫酸水素ナトリウム水溶液2000mL
第一原料室液:ヨウ化ナトリウム1.0モル及び硫酸0.5モルを含む水溶液1500mL
第二原料室液:0.77モルのヨウ化物イオン、1.0モルのナトリウムイオン、0.80モルの硫酸イオンを含む水溶液1400mL(前回第一原料室残液)
副原料室液:硫酸0.6モルを含む水溶液1000mL
製品室液:1質量%ヨウ化水素酸水溶液1000mL
【0150】
<電気透析>
電極室(正極室及び負極室)には極室液をそれぞれ1.5L/分で循環で通液し、第一原料室には第一原料室液を、第二原料室には第二原料室液を、副原料室には副原料室液を、また、製品室には製品室液をそれぞれ0.2L/分で循環で通液した。
【0151】
<イオン濃度分析>
運転を3.5時間行い、第一原料室、第二原料室及び製品室からの排出液を取得し、それぞれの取得液中の、ヨウ化物イオン(I)及び硫酸イオン(SO 2-)濃度を分析した。
結果を表5及び表6にそれぞれ示す。
【0152】
【表5】
【0153】
【表6】
【0154】
結果
第一原料室仕込みと第二原料室取得での差から原料液中のヨウ化物イオンのうち95.8%が取得できた。また、実施例1、比較例1に比べて、原料液中のヨウ化物イオンを、より高い収率で製品室液中に取得することができた。
【0155】
透析中、極液に遊離ヨウ素による着色は見られなかった。透析終了後、極室液に還元剤を加えヨウ化物イオン濃度を測定したところ、検出限界の10mg/Lを超えるヨウ化物イオンは検出されなかった。
【0156】
すなわち、実施例2では、電極室に隣接する液室を副原料室とすることで、電極室へのヨウ化物イオンの移動が、好適に抑えられていることが確認された。また、電極室に移動したヨウ化物イオンによるロスが抑えられたことにより、実施例1に比べて収率がさらに向上した。
【0157】
電気透析槽として、正極と負極との間に、正極側から、正極室、バイポーラ膜に続けて、製品室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第一原料室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、第二原料室、バイポーラ膜の順に、3室3膜を一組とする膜室組を4組配置し、続けて負極室を配置した電気透析槽を用い、製品室には希薄ヨウ化水素酸を循環で通過させ、第一原料室には原料液を循環で通過させ、第二原料室には前バッチで第一原料室を循環で通過させた原料液の残液を循環で通過させた以外は、前記実施例と同様にして電気透析を行ったところ、前記と同様に優れた結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明のヨウ化水素酸の合成法は、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液と水素イオンを含む水溶液である副原料液から複置換電気透析法にてヨウ化水素酸を合成するヨウ化水素酸の合成法であって、正極と負極との間に、前記正極側から、正極室、バイポーラ膜もしくは陽イオン交換膜、第1の副原料室に続けて、陽イオン交換膜、製品室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第一原料室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、第二原料室、陰イオン交換膜である第3の陰イオン交換膜、及び第2の副原料室の順に、4膜4室を一組とする膜室組を複数配置し、続けて陽イオン交換膜、負極室を配置した電気透析槽を用いる、方法である。
【0159】
また、本発明のヨウ化水素酸の合成法の他の態様の一つは、ヨウ化物イオンを含む水溶液である原料液からバイポーラ膜電気透析法にてヨウ化水素酸を合成するヨウ化水素酸の合成法であって、正極と負極との間に、前記正極側から、正極室、第1のバイポーラ膜に続けて、製品室、陰イオン交換膜である第1の陰イオン交換膜、第一原料室、陰イオン交換膜である第2の陰イオン交換膜、第二原料室、及び第2のバイポーラ膜の順に、3室3膜を一組とする室膜組を複数配置し、続けて負極室を配置した電気透析槽を用いる、方法である。
【0160】
本発明のヨウ化水素酸の合成法によれば、収率をより向上させ、廃液の発生量を減らすとともに、製品室液への硫酸イオンの移動量、及び電極室へのヨウ化物イオンの移動量を減らすことができる。
【0161】
したがって、本発明のヨウ化水素酸の合成法は、産業上の利用可能性を有する。
本発明により合成されるヨウ化水素酸は、例えば、ヨウ素化合物の製造、還元剤、医薬原料、エッチング剤、分析試薬等に用いられ、重要な産業製品である。
【符号の説明】
【0162】
1 電気透析槽
2 正極
3 負極
4c 陽イオン交換膜
5c 陽イオン交換膜
6s 第1の陰イオン交換膜
7s 第2の陰イオン交換膜
8a 第3の陰イオン交換膜
9c 陽イオン交換膜
10 正極室
11 第1の副原料室
12 製品室
13 第一原料室
14 第二原料室
15 第2の副原料室
16 負極室
21 製品室液
22 第一原料室液
23 第二原料室液
24 副原料室液
25 副原料室液
26 正極液
27 負極液
31A 電気透析槽
32 正極
33 負極
34b 第1のバイポーラ膜
35s 第1の陰イオン交換膜
36s 第2の陰イオン交換膜
37b’ 第2のバイポーラ膜
40 正極室
41 製品室
42 第一原料室
43 第二原料室
44 負極室
51 製品室液
52 第一原料室液
53 第二原料室液
54 正極液
55 負極液
図1
図2
図3