(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023130284
(43)【公開日】2023-09-20
(54)【発明の名称】アンカーボルトの下穴加工用治具
(51)【国際特許分類】
B25D 17/08 20060101AFI20230912BHJP
E04G 21/16 20060101ALI20230912BHJP
E21F 17/00 20060101ALN20230912BHJP
【FI】
B25D17/08
E04G21/16
E21F17/00
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022142146
(22)【出願日】2022-09-07
(62)【分割の表示】P 2022034035の分割
【原出願日】2022-03-07
(71)【出願人】
【識別番号】521173306
【氏名又は名称】株式会社柴田工業
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢島 寿範
【テーマコード(参考)】
2D058
2E174
【Fターム(参考)】
2D058AA14
2D058BB15
2D058CA05
2D058CB06
2E174AA03
2E174DA31
2E174DA63
(57)【要約】
【課題】コンクリート壁面に繰り返しアンカーボルト用の下穴を形成する際に、下穴の深さが規定の範囲に入るように下穴を加工する。
【解決手段】アンカーボルトの下穴加工用治具は、ハンマドリルにチャッキングされる下穴用ドリルビットに装着される。この下穴加工用治具は、下穴用ドリルビットの前記シャンク部の外径より大きく、かつ有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、第1部分とは離間した位置に設けられ、有効部の外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、第1部分と第2部分とを、当該下穴加工用治具の下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分とを備える。このパイプの所定長Sは、下穴用ドリルビットの長さがL、下穴の許容深さがD1以上D2以下、下穴用ドリルビットのハンマドリルによる掴み代がCK、であるとき、LT-CK-D2≦S≦LT-CK-D1、とされている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴加工を行なう有効部が、ハンマドリルにチャッキングするためのシャンク部より大径である下穴用ドリルビットに装着されるアンカーボルトの下穴加工用治具であって、
前記下穴用ドリルビットのシャンク部の外径より大きく、かつ前記下穴用ドリルビットの有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、
前記第1部分とは離間した位置に設けられ、前記下穴用ドリルビットの前記有効部の前記外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分とを、当該下穴加工用治具の前記下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分と、
を備え、
前記下穴用ドリルビットの長さがLT、下穴の許容深さがD1以上D2以下、前記下穴用ドリルビットの前記ハンマドリルによる掴み代がCK、であるとき、当該下穴加工用治具の前記軸方向の長さである所定長さSが、
LT-CK-D2≦S≦LT-CK-D1
である、アンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項2】
前記第1部分、前記結合部分、および前記第2部分のうちの少なくとも前記第1部分は、金属製である、請求項1記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項3】
前記第1部分、前記結合部分、および前記第2部分は、一体に形成された、請求項1または請求項2に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項4】
前記結合部分は、前記第1部分の前記貫通部の内径より大きな内径を有する筒体であり、
前記第1部分と前記結合部分とは、内側に段差を有し、
前記結合部分と前記第2部分とは、内側に段差を有しない、請求項3に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項5】
前記結合部分は、前記第1部分および前記第2部分の一方と一体に形成され、
前記第1部分および前記第2部分の他方は、前記結合部分に着脱自在に構成された、請求項1または請求項2に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項6】
前記第1部分および前記第2部分の他方は、前記結合部分に結合された状態での前記軸方向長さの異なる複数種類の中から選択される、請求項5に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項7】
前記第2部分の外径は、前記第1部分の外径より大きい、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項8】
前記結合部分は、前記軸方向と交差する方向に開口を有する、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項9】
前記第2部分は、前記装着される下穴用ドリルビットの先端部側の外周が、面取りされている、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項10】
穴加工を行なう有効部が、ハンマドリルにチャッキングするためのシャンク部より大径である下穴用ドリルビットに装着されるアンカーボルトの下穴加工用治具であって、
前記下穴用ドリルビットのシャンク部の外径より大きく、かつ前記下穴用ドリルビットの有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、
前記第1部分とは離間した位置に設けられ、前記下穴用ドリルビットの前記有効部の前記外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分とを、当該下穴加工用治具の前記下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分と、
を備え、
前記第1部分の前記軸方向の長さは、前記下穴用ドリルビットが前記ハンマドリルにチャッキングされた状態で、前記シャンク部のうち、前記ハンマドリルからはみ出した部位の長さに相当している、
アンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項11】
ハンマドリルを用いてアンカーボルトの下穴を加工する方法であって、
前記ハンマドリルに、アンカーボルトの下穴の深さを規定する下穴加工用治具が取り付けられた下穴用ドリルビットをチャッキングし、
前記ハンマドリルを駆動して、前記下穴用ドリルビットによりコンクリートの被加工面の予め定めた位置への穴明けを開始し、
前記下穴加工用治具の先端が、前記被加工面に接する深さまで、前記下穴用ドリルビットを用いて下穴を形成し、
前記下穴加工用治具は、
前記下穴用ドリルビットのシャンク部の外径より大きく、かつ前記下穴用ドリルビットの有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、
前記第1部分とは離間した位置に設けられ、前記下穴用ドリルビットの前記有効部の前記外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分とを、当該下穴加工用治具の前記下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分と、
を備え、
前記下穴加工用治具の長さSは、前記下穴用ドリルビットの長さがLT、前記下穴の許容深さがD1以上D2以下、前記下穴用ドリルビットの前記ハンマドリルによる掴み代がCK、であるとき、
LT-CK-D2≦S≦LT-CK-D1
である、アンカーボルトの下穴加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンカーボルトの下穴加工用治具および下穴の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル内などのコンクリート壁面・天井などに、照明器具を取り付けたら、ケーブルを保持するケーブル保持具などを取り付ける場合、後施工タイプのアンカーボルトが用いられる。後施工タイプのアンカーボルトでは、硬化されたコンクリートからなる母材に下穴を明け、アンカーボルトを挿入し、下穴とアンカーボルトの隙間を埋めて固着させ、設備機器や構造物に取り付ける。こうした後施工タイプのアンカーボルトには、打ち込み型と接着型がある(例えば、下記特許文献1)。
【0003】
いずれの場合も、コンクリートに対してハンマドリルなどを使って下穴を明け、ここにアンカーボルトを挿入して固定する。こうした下穴は、アンカーボルトの大きさに適した径と深さに形成する必要がある。打ち込みアンカーボルトでは、下穴を形成すると、下穴加工時に生じた切り粉などを排除し、そこに打ち込みアンカーボルトをしっかりと差し入れ、アンカーボルトの芯や外周部など特定の箇所をハンマーで叩くと、打ち込みアンカの下部が広がり、下穴の内部に食い込む。これにより、アンカーボルトは、母材にしっかりと固定される。
【0004】
こうした打ち込みアンカには、芯棒打ち込み式の雄ネジタイプと、本体打ち込み式の雌ネジタイプの製品があるが、いずれのタイプも特定の部位に衝撃を加えることで拡張部が拡張し、コンクリートの下穴に固定される。下穴の内径が規定の寸法に対して小さ過ぎればアンカーボルトを挿入できず、下穴の外径が大き過ぎればアンカーボルトを固定できない。下穴の深さが規定の寸法より短すぎれば、アンカーボルトが母材から突き出てしまい、設備機器や構造物の固定強度が不足することが生じ得る。他方、下穴の深さが長すぎれば、アンカーボルトが埋設されてしまい、固定用のボルトが届かないといった不具合が生じ得る。このため、コンクリート製の躯体の形成時に下穴を形成することも行なわれているが(例えば、下記特許文献2参照)、後施工で下穴を形成する場合には、こうした下穴形成の手法は採用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-193521号公報
【特許文献2】特開2012-36575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アンカーボルトをトンネルなどの壁面・天井などに後施工する場合、規定の深さ・規定の内寸の下穴を、短時間のうちに多数形成しなければならないが、下穴の深さを規定の寸法に収めることは容易ではなかった。もとより、ドリルビットにネジ止めして穴加工の寸法を制限するストッパなどの治具や、ドリルビットに取り付けて加工深さを可視化するスポンジなどの補助具も存在するが、実際に使用してみると、以下の点で実用に耐えなかった。
【0007】
[1]ハンマドリル使ってコンクリート製の母材に穴を明けるので、使用者はハンマドリルをしっかり把持して、ドリルビットを強く母材に押し当てる。このため、ストッパが母材に当たると同時にハンマドリルを止めたり、ハンマドリルを母材に押しつける力を緩めることは現実には容易ではない。下穴形成の動作が継続すると、スポンジやビニールなどは変形してしまい、結果的に、下穴が規定の深さを超えて加工されてしまう。
[2]コンクリート製の母材に下穴を明けるには、通常ハンマドリルが用いられる。このため穴加工の際に、強い振動がドリルビットに加わり、ネジ止めされているストッパは、下穴を何個か加工しているうちに外れてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
(1)本開示の下穴加工用治具としての実施態様の1つは、ハンマドリルにチャッキングされる下穴用ドリルビットに装着されるアンカーボルトの下穴加工用治具としての態様である。このアンカーボルトの下穴加工用治具は、穴加工を行なう有効部が、ハンマドリルにチャッキングするためのシャンク部より大径である下穴用ドリルビットに装着されるアンカーボルトの下穴加工用治具であって、下穴用ドリルビットの前記シャンク部の外径より大きく、かつ前記有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、前記第1部分とは離間した位置に設けられ、前記下穴用ドリルビットの前記有効部の前記外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを、当該下穴加工用治具の前記下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分と、を備え、前記下穴用ドリルビットの長さがLT、前記下穴の許容深さがD1以上D2以下、前記下穴用ドリルビットの前記ハンマドリルによる掴み代がCK、であるとき、当該下穴加工用治具の前記軸方向の長さである所定長さSが、
LT-CK-D2≦S≦LT-CK-D1
である。
【0010】
(2)本開示のアンカーボルトの下穴加工用治具のもう一つの態様は、穴加工を行なう有効部が、ハンマドリルにチャッキングするためのシャンク部より大径である下穴用ドリルビットに装着されるアンカーボルトの下穴加工用治具である。この下穴加工用治具は、前記下穴用ドリルビットのシャンク部の外径より大きく、かつ前記下穴用ドリルビットの有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、前記第1部分とは離間した位置に設けられ、前記下穴用ドリルビットの前記有効部の前記外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを、当該下穴加工用治具の前記下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分と、を備える。しかも、この下穴加工用治具は、前記第1部分の前記軸方向の長さは、前記下穴用ドリルビットが前記ハンマドリルにチャッキングされた状態で、前記シャンク部のうち、前記ハンマドリルからはみ出した部位の長さに相当している。
【0011】
(3)本開示のもう一つの態様は、ハンマドリルを用いてアンカーボルトの下穴を加工する方法としての態様である。この方法は、ハンマドリルを用いてアンカーボルトの下穴を加工する方法であって、前記ハンマドリルに、アンカーボルトの下穴の深さを規定する下穴加工用治具が取り付けられた下穴用ドリルビットをチャッキングし、前記ハンマドリルを駆動して、前記下穴用ドリルビットによりコンクリートの被加工面の予め定めた位置への穴明けを開始し、前記下穴加工用治具の先端が、前記被加工面に接する深さまで、前記下穴用ドリルビットを用いて下穴を形成し、前記下穴加工用治具は、下穴用ドリルビットの前記シャンク部の外径より大きく、かつ前記有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、前記第1部分とは離間した位置に設けられ、前記下穴用ドリルビットの前記有効部の前記外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを、当該下穴加工用治具の前記下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分と、を備え、前記下穴加工用治具の長さSは、前記下穴用ドリルビットの長さがLT、前記下穴の許容深さがD1以上D2以下、前記下穴用ドリルビットの前記ハンマドリルによる掴み代がCK、であるとき、 LT-CK-D2≦S≦LT-CK-D1
である。
【0012】
こうしたアンカーボルトの下穴加工用治具や、下穴の加工方法によれば、アンカーボルトの下穴を所定の深さに加工できる。しかも、短時間のうちに繰り返し下穴を加工しても、加工深さが変わってしまうことが生じにくく、ハンマドリルによる下穴の加工性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】トンネルの内壁に照明器具を設置する様子を示す説明図。
【
図2】アンカーボルトの下穴加工の様子を模式的に示す説明図。
【
図3】アンカーボルトの下穴加工に用いるドリルビットの一例を示す説明図。
【
図4】アンカーボルトの下穴加工用治具の第1実施形態を示す説明図。
【
図5】アンカーボルトの下穴加工用治具をドリルビットに取り付ける様子を示す斜視図。
【
図6】アンカーボルトの下穴加工の様子を模式的に示す説明図。
【
図7】アンカーボルトの下穴加工用治具の第2実施形態を側面視で示す説明図。
【
図8】第3実施形態としての下穴加工用治具の構成を示す説明図。
【
図9】第3実施形態としての下穴加工用治具における異なる第2部材との組み合わせを示す説明図。
【
図10】第4実施形態としての下穴加工用治具を示す斜視図。
【
図11】第4実施形態としての下穴加工用治具を示す側面図。
【
図12】第5実施形態としての下穴加工用治具を示す斜視図。
【
図13】第6実施形態としての下穴加工用治具を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.第1実施形態:
(A1)照明器具の固定:
実施形態のアンカーボルトの下穴加工用治具、下穴加工方法について説明する。照明器具230をトンネルの内面、ここでは壁面TWに取り付けた照明装置210を例に挙げて説明する。もとより、照明器具230は、トンネルの天井に取り付けてもよい。また、トンネルは、山体をくりぬいて形成されるものに限らず、地下や海底のトンネルであってもよく、騒音対策のためなどの理由で、コンクリート等で人工的に形成されたトンネル(チューブ)などであってもよい。また急斜面に造成された道路などを覆う半トンネル(片側が開放されたトンネル)などであっても差し支えない。もとよりトンネルに限らず、コンクリートにより形成された床面、壁面などに取り付けるものであってもよい。取り付けられるものは、照明器具230に限らず、フェンスや電源板、ケーブル支持具など、アンカーボルトを用いて固定されるものなら、どのようなものでもよい。
【0015】
この照明装置210は、
図1に示すように、トンネルの壁面TWに、照明器具230の幅方向左右に配置された支持台220,225を用いて固定される。照明器具230を固定する支持台220,225は、左右対称に構成され、配置される。支持台220,225は、Lアングルを組み合わせて構成される。第1Lアングル221は、ベース部221cの両側に直角に折り曲げられた長短2つのアーム部221a,221bを備える。ベース部221cは、2つのアンカーボルト212,213により、壁面TWに固定される。アンカーボルト212,213は、打ち込みタイプ、接着剤タイプのいずれでもよい。また、打ち込みはセンタピンによってもよいし、スリーブを円環状の工具により打ち込むものであってもよい。アンカーボルトの先端には、雄ネジが形成されており、ベース部221cに設けられた取り付け孔にネジ部を差し入れて、ナットを螺合して、第1Lアングル221を固定する。
【0016】
第1Lアングル221のアーム部221a,221bの先端同士は、第2Lアングル222により結合されている。第1Lアングル221と第2Lアングル222との結合は溶接によってもよいし、ボルト・ナットで締結してもよい。なお、支持台220,225は、2つのLアングルを組み合わせて形成する必要はなく、一体物として成形してもよい。また、その形状も、照明器具230を壁面に取り付けられれば、どのような形状、材質でもよい。
【0017】
照明器具230は、支持台220,225の2つの第2Lアングル222にボルト・ナット231,232により固定されている。このボルト・ナット231が取り付けられる部位の近傍に、ワイヤ用の器具側貫通孔が設けられている。トンネル内には、こうした照明器具230が、多数設けられており、トンネル内を照らす。
【0018】
本実施形態では、こうした支持台220,225を用いた照明器具230の固定に加えて、更に、ワイヤ260を用いた脱落防止のため施工が行なわれている。支持台220,225を壁面TWに固定するアンカーボルト212,213より壁面TWに沿って所定距離だけ上方に隔たった位置に、下孔UHが形成され、ここに、脱落防止用ルーズナット250を取り付けるためのアンカーボルト211が設置されている。ワイヤ260は、この脱落防止用ルーズナット250に設けられた貫通孔とアングル222に設けられた貫通孔とに通されている。こうすることで、仮にアンカーボルト212,213からアングル221が脱落しても、ワイヤ260により照明装置210の脱落は防止される。
【0019】
このように、照明装置210の固定には、多数のアンカーボルトが用いられている。これらアンカーボルト211,212,213を固定するための下穴の形成方法について、次に説明する。
【0020】
(A2)アンカーボルト用下穴の形成:
図2は、ハンマドリル10を用いてコンクリートの躯体SFに、アンカーボルトの下穴80を形成する様子を示す。図示では、ハンマドリル10は、電源ケーブル17により、図示しない発電機などの接続されており、電源スイッチ15を操作することにより、チャック12に装着されたドリルビット11を回転およびドリルビット11の軸方向に前後(打撃)させ、コンクリートの躯体SFに下穴80を形成する。このハンマドリル10は、sdsプラスシャンク専用のチャック12を備えており、sdsプラスシャンクを有するドリルビット11は、チャック12に押し込むだけで固定される。この場合、ドリルビット11の一端がチャック12に嵌まり合う長さ(以下、これをチャックの掴み代という)CKは、sdsプラスシャンクの規格により所定長となる。こうしたsdsプラスシャンクを備えたドリルビット11の一例を、
図3に示した。もとより、通常の6角軸のシャンクを備えたドリルビットとこれに対応したチャックにより、ドリルビットを固定するものとしてもよい。その場合には、ドリルビット11をチャック12の最深部まで差し込んで固定すれば、寸法関係は同様となる。
【0021】
ハンマドリル10のチャック12にドリルビット11をチャッキングすると、ドリルビット11に取り付けられた下穴加工用治具20のハンマドリル10側端部(以下、上端という)は、チャック12の先端に当たる。なお、sdsプラスシャンクを備えるドリルビット11の場合、チャック12に掴まれた状態でも、ドリルビット11は、シャンクに形成された溝SKに沿って数ミリ、軸方向に移動可能である。従って、この場合は、下穴加工用治具20は、ドリルビット11を最もチャック12側に押しつけた状態で、下穴加工用治具20の上端がチャック12の先端に当たる位置に設けられる。下穴加工用治具20のドリルビット11に対する位置決めの詳細は後述する。
【0022】
アンカーボルト用の下穴80は、床、壁、天井など様々な位置に形成されるので、ハンマドリル10は下穴80の形成方向に応じた角度で用いられるが、以下の説明では、ハンマドリル10を下向きにして下穴80を形成するものとし、便宜上、この図示する向きでの上下に応じて、ドリルビット11の先端方向を「下」、反対方向に「上」と呼び、例えば、下穴加工用治具20の端部のうち、チャック12に接する側を「上端」、加工時に躯体SFの表面に接する側を「下端」といった呼び方をする場合がある。
【0023】
図2に示した各部の寸法について説明する。下穴形成用のドリルビット11がチャック12にチャッキングされる際の掴み代CKは、ドリルビット11をチャック12の一番奥まで差し入れた際のドリルビット11の該当部分の長さである。また、下穴加工用治具20から突き出したドリルビット11の寸法を加工長DDと呼ぶ。ドリルビット11の全長LTは、ドリルビット11により決まっているので、下穴加工用治具20の長さSは、次式(1)により求めることができる。
S=LT-CK-DD …(1)
ここで、加工長DDは、下穴80の許容深さD1以上D2以下の任意の寸法である。
【0024】
下穴80を形成するためのドリルビット径φmは、アンカーボルト211の呼び径毎に規格が定められている。また、下穴80の埋設用深さは、アンカーボルトの種類により異なるが、アンカーボルトの種類毎に規格化されている。打ち込みボルトタイプの一例を、ドリルビット径と共に、以下に示す。下穴80の埋設深さは、中央値を示し、更に許容範囲である下限値D1と上限値D2を併せて示した。単位はいずれもmmである。
呼び径 ドリル径φm 埋設深さ 下限値D1 上限値D2 全長LT
M12 12.7 50 48 52 260
M16 17.0 60 58 62 260
M20 21.5 80 78 82 260
そこで、呼び径に対応する下穴80を形成するために、ドリルビット11の加工長DDがアンカーボルトの埋設深さに一致する様に、上記式(1)を用いて、下穴加工用治具20の長さSを定める。なお、加工長DDには、ドリルビット11先端のテーパ部13の長さは含まれない。
【0025】
図3に示したドリルビット11は、コンクリート加工用のものであり、シャンクがsdsプラスと呼ばれる規格に沿ったものである。ドリルビット11の各部の名称と寸法について、呼び径M12のアンカーボルト用の下穴形成に用いるドリルビット11を例にとって説明する。図示するように、ドリルビット11の軸方向の長さである全長LTは、ドリル刃が形成された刃部MRの長さである有効長LLと、シャンク部SDの長さであるシャンク長LUとに分けられる。シャンク部SDの末端側には、sdsプラスシャンクの溝SK等が形成されており、このsdsプラスシャンクは、長さLCだけチャック12に掴まれる。つまりこの長さLCは掴み代CKに対応している。
【0026】
シャンク部SDの最大径φsは、sdsプラスシャンクの規格により10mmである。なお、こうした嵌込タイプのシャンクとしては、sdsマックスシャンクなども存在する。sdsマックスシャンクではシャンク部の最大径は、18mmである。また、シャンク部SDの溝SKが形成されていない部位の径φA1は、sdsプラスシャンクの最大径と同一であり、これ例では10mmである。従って、呼び径M12のアンカーボルト用の下穴加工のために、ドリル径φが12.7mmのドリルビット11を用いると、シャンク部SDの外径φA1と刃部MRの外径φD1とは、φD1>φA1となるので、両者の接続部には段差UEが存在する。ドリルビット11の先端にTPには、加工の際の耐摩耗性を高めるために、超合金などの高硬度の超硬ヘッドが形成されている。また、その先端TPは、下穴に必要な内径に対応した刃先径φMのソリッドクロス刃とされている。なお、刃部MRの外径φD1や刃先形φMは、通常ドリル径φmと同一である。
【0027】
(A3)下穴加工用治具20の形状と構造:
第1実施形態の下穴加工用治具20の形状を
図4に示す。図示した下穴加工用治具20は、長さS、直径φJDの円柱材であって、ステンレス鋼や炭素鋼、あるいは黄銅など合金などを、円筒形状に削り出して形成される。図示するように、下穴加工用治具20の一端、この場合は上端からは、内径φA2の貫通孔21が形成され、他端、この場合は下端からは、内径φD2の貫通孔22が形成されている。貫通孔21と貫通孔22とは、同じ軸線AX上に形成される。この軸線AXは、下穴加工用治具20に挿入されるドリルビット11の仮想的な軸線である。貫通孔22の内径φD2は、貫通孔21の内径φA2より大きい。従って、下穴加工用治具20の上端の貫通孔21には、深さADの箇所に段差UDが形成される。下穴加工用治具20のうち、貫通孔21が形成された部位を第1部分51と呼ぶ。また、貫通孔22が形成されている部位のうち、下穴加工用治具20の下端の部位を第2部分52と呼ぶ。第1部分51と第2部分52とを結合する結合部分53は、この実施形態では、第2部分52とシームレスに形成されている。従って、第1実施形態では、第1部分51,第2部分52,結合部分53は、同一の金属、ここではステンレス鋼により一体に形成されている。
【0028】
ドリルビット11と下穴加工用治具20との各寸法の関係をまとめると、
φD2>φD1>φA2>φA1
となる。従って、ドリルビット11は、
図5に示すように、直径φA1のシャンク部SD側を先頭にして、下穴加工用治具20の下端側から、内径φD2の貫通孔22に挿入していくことができ、更に、直径φA1のシャンク部SDは、第1部分51の内径φA2の貫通孔21を通過する。しかし、直径φD1の刃部MRは、内径φA2より大きいから、ドリルビット11の段差UEが、下穴加工用治具20の内側の段差UDに当たる。
【0029】
この状態で、下穴加工用治具20の第1部分51において貫通孔21から上方に突き出たドリルビット11のシャンク部SDを、ハンマドリル10のチャック12に差し込んでチャック12に掴ませる。ドリルビット11を差し込むだけで、ドリルビット11はハンマドリル10に固定される。下穴加工用治具20は、内側の段差UDがドリルビット11の段差UEに当たるから、ドリルビット11から脱落することはない。各部の寸法のうち、まず、以下の式(2)が成り立つように、第1部分51の深さADが決められている。
LU≒CK+AD …(2)
この関係が満たされていることにより、下穴加工用治具20が装着されたドリルビット11でコンクリートの躯体SFに下穴を明けていっても、ドリルビット11に装着された下穴加工用治具20がドリルビット11から脱落したり、移動したりすることがない。結果的、下穴加工用治具20から外に飛び出しているドリルビット11の先端部分の長さはほぼ一定に保たれる。「ほぼ一定」とするのは、チャック12によるドリルビット11のチャッキングは、軸方向に僅かな移動を許容しているからである。
【0030】
図5から分かるように、仮に第1部分51の貫通孔21の内径φA2が、ドリルビット11のシャンク部SDの外径φA1に対して余裕があったとしても、式(2)の関係が成り立つと、シャンク部SDにおける刃部MRとの段差UEが貫通孔21に当接する。従って、下穴加工の際に、下穴加工用治具20は、ドリルビット11による加工深さを一定に規制するように働く。更に、本実施形態での各部の寸法は、上述した式(1)を満たすから、ドリルビット11の先端TPを含む刃部MRの先端側は、アンカーボルトが必要とする加工長DDだけ、下穴加工用治具20から飛び出した状態となる。
【0031】
(A4)アンカーボルト用下穴の形成:
上述したように、下穴加工用治具20を装着したドリルビット11をハンマドリル10のチャック12に取り付け、トンネルの壁面TWなど、コンクリートの躯体SFの所定の場所に、アンカーボルト用の下穴を明ける。この様子を、
図6に示した。作業者は、
図5に示したように、ドリルビット11をシャンク部SDの側から、下穴加工用治具20の下端側の貫通孔22に差し込み、下穴加工用治具20の第1部分51から飛び出た部分(長さLC)をハンマドリル10のチャック12に嵌め込む。チャック12は、sdsプラスシャンク専用のものなので、ドリルビット11のシャンク部SD側を差し込むだけで、ドリルビット11は、チャック12に掴まれ、固定される。
【0032】
作業者は、この状態、つまり下穴加工用治具20装着済みのドリルビット11をチャッキングしたハンマドリル10(
図2参照)を持ち、躯体SFの表面に予めマーキングした下穴80の加工位置に、ドリルビット11の先端中心を合わせ、ハンマドリル10を起動して、下穴80の形成を開始する。ハンマドリル10を起動してドリルビット11を駆動すると、ドリルビット11と下穴加工用治具20は、それぞれの段差UE,UDで接しており、摩擦によりほぼ一体に回転する。ドリルビット11はハンマドリル10による回転と打刻とにより躯体SFを削り、次第に奥まで進むが、下穴加工用治具20の下端が、躯体SFの表面に至ると、下穴加工用治具20の外径φJDは、ドリルビット径φD1より大きいので、それ以上加工が進むことはない。この結果、下穴80の深さは、加工長DDとなる。加工長DDは、埋設深さの中央値に合わせているから、形成された下穴80の深さは、下限値D1から上限値D2の間に収まる。
【0033】
ドリルビット11による下穴80の加工が進むと、下穴加工用治具20先端の第2部分52が躯体SFの表面に近づく。作業者は、これを目視により確認し、下穴加工用治具20の先端が躯体SFに接すると、ハンマドリル10を躯体SFに押しつけるのをやめ、あるいはハンマドリル10の電源スイッチ15を操作して、その回転を止める。とはいえ、下穴加工用治具20の第2部分52が躯体SFの表面に接し、摩擦により下穴加工用治具20の回転数は低下して、ドリルビット11との間に剪断力を受けることがあり得るが、下穴加工用治具20は金属製なので、下穴加工用治具20が躯体SFに接したことにより生じる剪断力程度で損傷を受けることはない。なお、下穴加工用治具20の第2部分52表面に柔らかい素材のシートを貼り、下穴加工用治具20の先端が躯体SFの表面に接したとき、このシートが潰れることで、下穴加工用治具20の回転数を維持してもよい。
【0034】
以上説明した第1実施形態によれば、ハンマドリル10に下穴加工用治具20を付けただけの簡単に構成でありながら、ハンマドリル10の強い振動がかかっても、下穴加工用治具20がドリルビット11から外れることはない。従って、アンカーボルトの下穴80の深さを、下穴加工用治具20から飛び出したドリルビット11の長さとすることができる。したがって、多数個の下穴80を形成する場合の作業性が飛躍的に高まる。下穴80を繰り返しても、ハンマドリル10の振動や回転により下穴加工用治具20がずれたり脱落したりして、下穴80の加工深さが変わってしまうことがない。なお、sdsプラスシャンク専用のチャック12の場合、ドリルビット11は軸方向に数mm移動可能だが、下穴80の加工が進んで、下穴加工用治具20の下端の第2部分52が躯体SFの表面に接すれば、下穴加工用治具20はチャック12方向に移動するから、下穴80の深さを、所定の下限値D1から上限値D2までの間とすることも容易である。
【0035】
アンカーボルトの下穴80は、場合によっては連続して多数個形成することがあり、ドリルビット11は躯体SFとの摩擦により高温になる。本実施形態の下穴加工用治具20は、全体を金属(ステンレス鋼)で形成されており、その耐熱温度は高いので、摩擦熱によりドリルビット11の先端が高温になり、伝熱によって下穴加工用治具20に固定された部位が100℃あるいはこれを超えるような程度になっても何らの劣化を受けることがない。また、ドリルビット11の露出した部分の長さ、つまり加工長DDは、下穴加工用治具20の長さSにより定めた寸法となるから、下穴80の深さはアンカーボルトの呼び径に対応した所定の規格を満足するものとなる。このため、下穴80にアンカーボルト211等を差し込んで、規定の打力で打ち込めば、十分な固定強度を実現できる。なお、アンカーボルトが他の形式、例えば接着剤方式のものであっても、採用したアンカーボルト用に規定された下穴の深さや径が規定の寸法に収まり、十分な固定強度を実現できることは、同様である。なお、下穴加工用治具20はステンレス鋼以外の金属、例えば黄銅や鉄、アルミニウムなどで形成してもよい。
【0036】
B.第2実施形態:
次に、第2実施形態としてのアンカーボルトの下穴加工用治具20Aについて説明する。
図7は、第2実施形態の下穴加工用治具20Aの形状を示す側面図である。この下穴加工用治具20Aは、第1実施形態と同様に、内径φA2の貫通孔21を備えた第1部分51と、内径φD2の貫通孔22を備えた第2部分52Aと、両者を結合する結合部分53とを備える。第1部分51,第2部分52A,結合部分53は、金属により一体に形成されている。
【0037】
第2実施形態の下穴加工用治具20Aでは、第2部分52Aは、その外径φEEが、第1部分51の外径より大きくされたフランジ形状とされている以外は、例えばその軸方向長さSなどは、第1実施形態と同一である。
【0038】
この下穴加工用治具20Aを、第1実施形態同様に、ドリルビット11と共に、ハンマドリル10に装着すれば、下穴80を予め定めた深さに容易に形成できるなど、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。また、第2部分52Aの外径が第1部分51等、他の部位より大きいので、下穴80が形成されて、下穴加工用治具20Aの先端表面、つまり第2部分52Aの表面が躯体SFに当たった場合、躯体SFに加わる単位面積当たりの力は小さくなり、躯体SF表面に傷などを付けることが抑制される。第2部分52Aの直径を2倍にすれば、面積は4倍になるので、直径を増加することによる効果は大きい。
【0039】
C.第3実施形態:
次に第3実施形態について説明する。第3実施形態のアンカーボルトの下穴加工用治具20Bは、
図8に示すように、一体に形成された第1部分51と結合部分53Bと、これとは別体に用意された第2部分52Bとから構成される。第1部分51には、内径φA2の貫通孔21が形成されている。結合部分53Bの下端外周には雄ネジ35が形成されている。第2部分52Bには、結合部分53Bの外径に対応する内径の螺合部36(雌ネジ)が形成されている。また、第2部分52Bには、内径φD2の貫通孔22も形成されている。
【0040】
第3実施形態の下穴加工用治具20Bは、結合部分53Bの雄ネジ35に第2部分52Bの螺合部36を螺合させることで、利用可能な状態となる。第1部分51および結合部分53Bに、第2部分52Bを螺合した状態では、その形状は、ドリルビット11を収容する貫通孔も含めて、第2実施形態の下穴加工用治具20Aとほぼ同一である。従って、第3実施形態の下穴加工用治具20Bは、第2実施形態と同様の作用効果を奏する上、更に第2部分52Bを取り代えることで、異なる呼び径のアンカーボルト用の下穴80を形成するドリルビットにも対応することができる。
【0041】
この様子を、
図9に示した。第2部分52Bの螺合を解いて、第2部分52Bより軸方向の長さが長い第2部分62を結合部分53Bに螺合すれば、下穴加工用治具20Bの軸方向長さSLは、第2部分52Bを用いた場合より長くなる。呼び径がM12とM14のアンカーボルトの場合、各寸法は以下の通りであって、ドリルビット11の全長LTは、ドリル径φmによらず同一である。
呼び径 ドリル径φm 埋設深さ 下限値D1 上限値D2 全長LT
M12 12.7 50 48 52 260
M16 17.0 60 58 62 260
M20 21.5 80 78 82 260
これを用いて下穴加工用治具20Bの所定長S,SLを求めると、呼び径M20のアンカーボルトの下穴80を明ける場合には、
S=LT-CK-DD=260-45-80=135
であり、呼び径M16のアンカーボルトの下穴80を明ける場合は、
SL=LT-CK-DD=260-45-60=155
である。従って、M16用のアンカーボルトの下穴を形成する場合には、第2部分62の高さHDを、M20用のアンカーボルトの下穴を形成する場合に用いてる第2部分52Bの高さhdより20mm大きくすればよい。同様に、呼び径M12のアンカーボルトの下穴80を明ける場合には、第2部分62の高さを更に10mm高くすればよい。
【0042】
い上説明した第3実施形態の下穴加工用治具20Bによれば、第1,第2実施形態と同様の作用効果を奏する上、更に、埋設深さの異なる複数種類のアンカーボルトの下穴を形成するのに、高さの異なる第2部分を複数種類用意すればよく、現場での対応が容易となる利点が得られる。なお、2種類の第2部分を持ち運ぶ場合に備えて、第1部分51の外周に、結合部分53B下端部の雄ネジ35と同一の雄ネジを形成しておき、2種類の第2部分のうち、雄ネジ35に螺合しない方を、第1部分51に形成した雄ネジに螺合させておくことも好ましい。使用時には、第1部分51に螺合した方は外して、下穴加工用治具20Bを用いればよい。
【0043】
D.第4実施形態:
次に第4実施形態の下穴加工用治具20Cについて説明する。下穴加工用治具20Cは、
図10,
図11に示すように、第3実施形態と同様、一体に形成された第1部分51および結合部分53Cと、これに螺合する第2部分52Cとから構成される。この下穴加工用治具20Cは、結合部分53Cの形状を除いて、第3実施形態とほぼ同一の構成を備える。
【0044】
下穴加工用治具20Cでは、結合部分53Cに複数の開口45が設けられている。図示するように、この開口45は、軸方向に等間隔に3個並んだ列と、軸方向に2個並んだ列とが、周方向に合計8列配列されている。従って、開口45は、全部で20個形成されている。もとより開口45の大きさや配列については特に制限はない。本実施形態では、同じ大きさの開口45を規則的に20個配列したが、各開口45の大きさは、それぞれ異なっていてもよいし、複数種類の開口45を配列してもよい。また各開口45は、それぞれ独立でもよいし、そのうちの少なくとも2個が連なる形状であってもよい。各開口45は円形形状とすることが加工上好ましいが、開口45は四角や三角など、多角形形状、楕円、長円形状、などであってもよい。
【0045】
第4実施形態の下穴加工用治具20Cによれば、他の実施形態と同様の作用効果を奏する上、開口45が設けられているので、重量を低減でき、更にドリルビット11を用いた下穴の掘削により生じたコンクリートの破砕物が下穴加工用治具20Cの内部、特に貫通孔22から内側に侵入しても、これを下穴加工用治具20Cの外に排出しやすいという利点が得られる。既述したように、シャンク長LUと第1部分の軸方向深さADとチャック12の掴み代CKとが、式(2)の関係を満たしているので、
図5から分かるように、シャンク部SDにおける刃部MRとの段差UEが貫通孔21に当接するため、コンクリートの破砕物は、貫通孔21を通って排出されにくい。このため、開口45により、破砕物を外部に排出できる効果は大きい。また、開口45により下穴加工用治具20Cの放熱が促進され、下穴加工用治具20Cの温度上昇が抑制されるという利点も得られる。
【0046】
E.第5実施形態:
第5実施形態の下穴加工用治具20Dを、
図12に示した。この下穴加工用治具20Dは、貫通孔21を備える第1部分51Dと、貫通孔22を備える第2部分52Dと、第1部分51Dおよび第2部分52Dを結合する4本の結合部分53Dとを備える。第1部分51Dと第2部分52Dとは、結合部分53Dにより、軸AXの軸方向に離間して、かつ同軸上に配置される。第2部分52Dには、結合部分53Dである円柱の軸体が挿入される貫通孔が設けられており、ここに結合部分53Dが嵌め込まれている。第2部分52Dは、所定の高さHD1を備えるが、この高さHD1に対して、結合部分53Dがスライドし、全体の長さSSを変更できる。第2部分52Dの外周面の結合部分53Dが挿入される位置には、横穴71が設けられ、内側に雌ネジが形成されている。ここに雄ネジ70を螺合することで、適切な位置までスライドさせた結合部分53Dを固定する。こうすることで、下穴加工用治具20Dの全長SSを適切な長さに調整した上で固定できる。
【0047】
この下穴加工用治具20Dは、第1~第4実施形態と同様の作用効果を奏する上、更に、第4実施形態同様、掘削されたコンクリートの破砕物を外部に容易に排出できる。また重量の低減や冷却効果も高い。更に、開口面積が大きく、ハンマドリル10によって回転されるドリルビット11の状態を観察できる、といった利点がある。また、第2部分52Dに対する結合部分53Dのスライド位置を調整することにより、全長SSを無段階に調整できるので、埋設深さが特殊なアンカーボルト用の下穴を、所定の深さに形成することも容易である。
【0048】
F.第6実施実施形態:
第6実施形態の下穴加工用治具20Eを、
図13に示す。この下穴加工用治具20E、他の実施形態と同様に、第1部分51,第2部分52E,結合部分53を備える。第6実施形態では、第2部分52Eの下端の外周端62が所定のRで面取りされている点で、他の他の実施形態と異なっている。他の構成は、第1~第5実施形態のいずれかと同様である。
【0049】
この実施形態の下穴加工用治具20Eは、他の実施形態と同様の作用効果を奏する上、次の利点がある。この下穴加工用治具20Eでは、第2部分52Eの下端外周端が面取りされているので、下穴加工用治具20Eと共にドリルビット11をハンマドリル10に装着し、下穴80を加工した際、下穴加工用治具20Eが躯体SF表面到達し、躯体SF表面を第2部分52Eが回転しながら接しても、躯体SF表面に第2部分52Eによる加工痕が付きにくいという利点が得られる。なお、面取りは端部をカットする面取りであってもよい。また、
図14に示すように、第2部分52Eの下面72全体を、中心より外周側が控えた緩やかな錐体形状としてもよい。こうすることでも、躯体SF表面に加工痕が形成されにくくなる。特に、ドリルビット11が躯体SF表面に対して垂直からいずれかの方向に傾いたような場合、
図14に示した構成を採用すれば、加工痕を残り難くでき、好適である。
【0050】
G.他の態様:
(1)本開示の下穴加工用治具としての実施態様の1つは、ハンマドリルにチャッキングされる下穴用ドリルビットに装着されるアンカーボルトの下穴加工用治具としての態様である。このアンカーボルトの下穴加工用治具は、穴加工を行なう有効部が、ハンマドリルにチャッキングするためのシャンク部より大径である下穴用ドリルビットに装着されるアンカーボルトの下穴加工用治具であって、下穴用ドリルビットの前記シャンク部の外径より大きく、かつ前記有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、前記第1部分とは離間した位置に設けられ、前記下穴用ドリルビットの前記有効部の前記外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを、当該下穴加工用治具の前記下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分と、を備え、前記下穴用ドリルビットの長さがLT、前記下穴の許容深さがD1以上D2以下、前記下穴用ドリルビットの前記ハンマドリルによる掴み代がCK、であるとき、当該下穴加工用治具の前記軸方向の長さである所定長さSが、
LT-CK-D2≦S≦LT-CK-D1
である。
【0051】
このアンカーボルトの下穴加工用治具によれば、アンカーボルトの下穴を所定の深さに加工できる。しかも、短時間のうちに繰り返し下穴を加工しても、加工深さが変わってしまうことが生じにくく、下穴の加工性を高めることができる。なお、第1部分、第2部分の貫通部の断面形状は、円形のみならず、矩形、楕円形、三角形などの多角形、等であってもよい。また貫通部は貫通していれば閉じた形状に限る必要はなく、第1部分や第2部分は平面視において、「C」形状など、外部とつながった形状としてもよい。
【0052】
(2)こうした構成において、前記第1部分、前記結合部分、および前記第2部分のうちの少なくとも前記第1部分は、金属製であるものとしてよい。こうすれば、ドリルビットとの間でこすれ合ったりしても、損傷を受けにくく、必要な耐久性を実現できる。金属としては、ステンレス鋼や炭素鋼、アルミニウム、あるいは黄銅などの合金など、種々の材料を採用可能である。もとより、第1部分の材料は金属に限るものではなく、カーボンや、炭素繊維などの複合材料など、必要な耐久性が得られれば、どのような材料を用いてもよい。
【0053】
(3)こうした構成において、前記第1部分、前記結合部分、および前記第2部分は、一体に形成されたものとしてよい。こうすれば、製作が容易となる。また、使用中に結合部分による結合が失われるということがない。もとより、各部は独立しており、溶接やネジ止め、圧入などにより組立ててもよい。
【0054】
(4)こうした構成において、前記結合部分は、前記第1部分の前記貫通部の内径より大きな内径を有する筒体であり、前記第1部分と前記結合部分とは、内側に段差を有し、前記結合部分と前記第2部分とは、内側に段差を有しないものとしてよい。こうすれば、削り出しにより下穴加工用治具を作ることができる。
【0055】
(5)こうした構成において、前記結合部分は、前記第1部分および前記第2部分の一方と一体に形成され、前記第1部分および前記第2部分の他方は、前記結合部分に着脱自在に構成されたものとしてよい。こうすれば、第1部分および第2部分の他方を取り替えることで、下穴加工用治具の全長を容易に調整できる。着脱の手法は、螺合、ボルトによる締結、クランプによる結合など種々の手法が採用可能である。前記第1部分および前記第2部分の他方は、前記第1部分および前記第2部分の一方に対して、スライドするようにしてもよい。
【0056】
(6)こうした構成において、前記第1部分および前記第2部分の他方は、前記結合部分に結合された状態での前記軸方向長さの異なる複数種類の中から選択されるものとしてよい。こうすれば、下穴の深さに応じて、必要な所定長を有する下穴加工用治具を容易に実現できる。
【0057】
(7)こうした構成において、前記第2部分の外径は、前記第1部分の外径より大きいものとしてよい。こうすれば、第2部分が、加工対象に広い面積で接することになり、加工痕などが残り難くなる。
【0058】
(8)こうした構成において、前記結合部分は、前記軸方向と交差する方向に開口を有するものとしてよい。こうすれば、下穴加工用治具の重量を低減でき、また冷却しやすくなる。更に、コンクリートの破砕物などが下穴加工用治具内から排出しやすくなる。
【0059】
(9)こうした構成において、前記第2部分は、前記装着される下穴用ドリルビットの先端部側の外周が、面取りされているものとしてよい。こうすれば、下穴形成時の加工痕が付きにくくできる。もとより外周端は、面取りされていなくてもよい。
【0060】
(10)本開示のもう一つの態様は、穴加工を行なう有効部が、ハンマドリルにチャッキングするためのシャンク部より大径である下穴用ドリルビットに装着されるアンカーボルトの下穴加工用治具としての態様である。この下穴加工用治具は、前記下穴用ドリルビットのシャンク部の外径より大きく、かつ前記下穴用ドリルビットの有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、前記第1部分とは離間した位置に設けられ、前記下穴用ドリルビットの前記有効部の前記外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを、当該下穴加工用治具の前記下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分と、を備える。しかも、この下穴加工用治具は、前記第1部分の前記軸方向の長さは、前記下穴用ドリルビットが前記ハンマドリルにチャッキングされた状態で、前記シャンク部のうち、前記ハンマドリルからはみ出した部位の長さに相当している。
【0061】
このアンカーボルトの下穴加工用治具は、第1部分の前記軸方向の長さは、前記下穴用ドリルビットが前記ハンマドリルにチャッキングされた状態で、前記シャンク部のうち、前記ハンマドリルからはみ出した部位の長さに相当しているので、第1部分が、下穴用ドリルビットのシャンク部の段差とハンマドリルとの間に挟まれて位置することになり、これにより下穴加工用治具の軸方向の動きは規制される。この結果、第2部分の先端が加工対象であるコンクリート壁などに当接しても、それによって下穴加工用治具がハンマドリル側に移動することがない。
【0062】
(11)本開示の他の態様は、ハンマドリルを用いてアンカーボルトの下穴を加工する方法としての態様である。この方法は、ハンマドリルを用いてアンカーボルトの下穴を加工する方法であって、前記ハンマドリルに、アンカーボルトの下穴の深さを規定する下穴加工用治具が取り付けられた下穴用ドリルビットをチャッキングし、前記ハンマドリルを駆動して、前記下穴用ドリルビットによりコンクリートの被加工面の予め定めた位置への穴明けを開始し、前記下穴加工用治具の先端が、前記被加工面に接する深さまで、前記下穴用ドリルビットを用いて下穴を形成し、前記下穴加工用治具は、下穴用ドリルビットの前記シャンク部の外径より大きく、かつ前記有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、前記第1部分とは離間した位置に設けられ、前記下穴用ドリルビットの前記有効部の前記外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを、当該下穴加工用治具の前記下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分と、を備え、前記下穴加工用治具の長さSは、前記下穴用ドリルビットの長さがLT、前記下穴の許容深さがD1以上D2以下、前記下穴用ドリルビットの前記ハンマドリルによる掴み代がCK、であるとき、 LT-CK-D2≦S≦LT-CK-D1
である。こうすれば、アンカーボルトの下穴を所定の深さに加工できる。しかも、短時間のうちに繰り返し下穴を加工しても、加工深さが変わってしまうことが生じにくく、ハンマドリルによる下穴の加工性を高めることができる。
【0063】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行なうことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
10…ハンマドリル、11…ドリルビット、12…チャック、13…テーパ部、15…電源スイッチ、17…電源ケーブル、20…下穴加工用治具、45…開口、51,51D…第1部分、52,52A~52E,62…第2部分、53,53B~53D…結合部分、80…下穴、210…照明装置、211~213…アンカーボルト、220…支持台、221…第1Lアングル、221a,221b…アーム部、221c…ベース部、222…第2Lアングル、230…照明器具、231…ボルト・ナット、250…脱落防止用ルーズナット、260…ワイヤ
【手続補正書】
【提出日】2023-05-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穴加工を行なう有効部が、ハンマドリルにチャッキングするためのシャンク部より大径である下穴用ドリルビットに装着されるアンカーボルトの下穴加工用治具であって、
前記下穴用ドリルビットのシャンク部の外径より大きく、かつ前記下穴用ドリルビットの有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、
前記第1部分とは離間した位置に設けられ、前記下穴用ドリルビットの前記有効部の前記外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、
前記第1部分と前記第2部分とを、当該下穴加工用治具の前記下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分と、
を備え、
前記結合部分は、前記軸方向と交差する方向に開口を有する、アンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項2】
前記開口は、前記結合部分に複数設けられた、請求項1に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項3】
前記結合部分は、前記第1部分と前記第2部分とを前記軸方向に沿って結合する複数の軸体からなり、前記軸体同士が離間されて配置されることで、前記軸体間が前記開口を形成する、請求項1に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項4】
前記第1部分、前記結合部分、および前記第2部分のうちの少なくとも前記第1部分は、金属製である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項5】
前記第1部分、前記結合部分、および前記第2部分は、一体に形成された、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項6】
前記結合部分は、前記第1部分の前記貫通部の内径より大きな内径を有する筒体であり、
前記第1部分と前記結合部分とは、内側に段差を有し、
前記結合部分と前記第2部分とは、内側に段差を有しない、請求項5に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項7】
前記結合部分は、前記第1部分および前記第2部分の一方と一体に形成され、
前記第1部分および前記第2部分の他方は、前記結合部分に着脱自在に構成された、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項8】
前記第1部分および前記第2部分の他方は、前記結合部分に結合された状態での前記軸方向長さの異なる複数種類の中から選択される、請求項7に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【請求項9】
前記第2部分の外径は、前記第1部分の外径より大きい、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のアンカーボルトの下穴加工用治具。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
(1)本開示の下穴加工用治具としての実施態様の1つは、ハンマドリルにチャッキングされる下穴用ドリルビットに装着されるアンカーボルトの下穴加工用治具としての態様である。このアンカーボルトの下穴加工用治具は、穴加工を行なう有効部が、ハンマドリルにチャッキングするためのシャンク部より大径である下穴用ドリルビットに装着されるアンカーボルトの下穴加工用治具であって、下穴用ドリルビットの前記シャンク部の外径より大きく、かつ前記有効部の外径より小さい内径を備えた貫通部を備えた第1部分と、前記第1部分とは離間した位置に設けられ、前記下穴用ドリルビットの前記有効部の前記外径より大きな内径の貫通部を備えた第2部分と、前記第1部分と前記第2部分とを、当該下穴加工用治具の前記下穴用ドリルビットの軸方向に沿って結合する結合部分と、を備え、前記結合部分は、前記軸方向と交差する方向に開口を有する。