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特開2023-131360有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法、及び有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131360
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法、及び有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
B23K20/12 A
B23K20/12 B
B23K20/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036071
(22)【出願日】2022-03-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】松井 翔
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA05
4E167BF01
4E167BF06
(57)【要約】
【課題】有機物層被覆金属板を摩擦圧接する際に、有機物層の劣化を従来よりも抑制可能な有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法、及び有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法は、板組をアンビルに固定する工程と、板組に接続部材を圧入する工程と、アンビルに接する金属板と軸部の先端とを摩擦圧接する工程と、を備え、筒状のスリーブを、アンビルの反対側から板組に押圧することによって、板組をアンビルに固定し、接続部材を、スリーブの内側を通して、板組に押圧し、板組の一方又は両方の表面に、有機物層を配置し、有機物層とスリーブとが接する場合、スリーブを用いて有機物層を冷却し、有機物層とアンビルとが接する場合、アンビルを用いて有機物層を冷却する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組を、アンビルに固定する工程と、
軸部、及び前記軸部の基端に設けられた頭部を有する接続部材を、前記アンビルの反対側から、前記アンビルに接する金属板と前記軸部の先端とが接触するまで、前記板組に圧入する工程と、
前記アンビルに接する前記金属板と、前記軸部の前記先端とを摩擦圧接し、前記頭部によって、前記軸部が貫通された前記金属板を、前記軸部が摩擦圧接された前記金属板に機械的に接合する工程と、
を備え、
前記固定する工程では、筒状のスリーブを、前記アンビルの反対側から前記板組に押圧することによって、前記板組を前記アンビルに固定し、
前記圧入する工程では、前記接続部材を、前記スリーブの内側を通して、前記板組に圧入し、
前記板組の一方又は両方の表面には、有機物層が配置され、
前記有機物層と前記スリーブとが接する場合、前記スリーブを用いて前記有機物層を冷却し、前記有機物層と前記アンビルとが接する場合、前記アンビルを用いて前記有機物層を冷却する
有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法。
【請求項2】
前記有機物層と前記スリーブとが接する場合、前記スリーブを銅若しくは銅合金製とすること、及び/又は前記スリーブに冷媒による冷却機構を設けることにより、前記有機物層を冷却し、
前記有機物層と前記アンビルとが接する場合、前記アンビルを銅若しくは銅合金製とすること、及び/又は前記アンビルに冷媒による冷却機構を設けることにより、前記有機物層を冷却する
ことを特徴とする請求項1に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法。
【請求項3】
前記有機物層と前記スリーブとが接する場合、前記スリーブに冷媒による冷却機構を設けることにより前記有機物層を冷却し、前記有機物層と前記アンビルとが接する場合、前記アンビルに冷媒による冷却機構を設けることにより前記有機物層を冷却する
ことを特徴とする請求項1に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法。
【請求項4】
前記有機物層と前記スリーブとが接することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法。
【請求項5】
前記スリーブの、前記有機物層と接触する端面の内縁に、R0.1mm以上の面取り部を設けることを特徴とする請求項4に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法。
【請求項6】
重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組を、アンビルに固定する工程と、
軸部、及び前記軸部の基端に設けられた頭部を有する接続部材を、前記アンビルの反対側から、前記アンビルに接する金属板と、前記軸部の先端とが接触するまで、前記板組に圧入する工程と、
前記アンビルに接する前記金属板と、前記軸部の前記先端とを摩擦圧接し、前記頭部によって、前記軸部が貫通された前記金属板を、前記軸部が摩擦圧接された前記金属板に機械的に接合する工程と、
を備え、
少なくとも、前記アンビルと接する前記板組の表面には、有機物層が配置され、
前記アンビルを用いて前記有機物層を冷却する
有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法。
【請求項7】
前記アンビルを銅若しくは銅合金製とすること、及び/又は前記アンビルに冷媒による冷却機構を設けることにより、前記有機物層を冷却する
ことを特徴とする請求項6に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法。
【請求項8】
前記アンビルに冷媒による冷却機構を設けることにより前記有機物層を冷却する
ことを特徴とする請求項6に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法。
【請求項9】
複数の前記金属板のうち1枚以上が鋼板である
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法。
【請求項10】
重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組が固定されるように構成されたアンビルと、
軸部、及び前記軸部の基端に設けられた頭部を有する接続部材を、前記アンビルの反対側から、前記接続部材の軸を中心に旋回させながら前記板組に押圧する回転押圧機構と、
前記アンビルの反対側から前記板組に押圧されて、前記板組を固定する筒状のスリーブと、
を備え、
前記回転押圧機構の回転軸が、前記スリーブの内側にあり、
前記アンビル及び前記スリーブの一方又は両方が、冷却手段を有する、
有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置。
【請求項11】
前記冷却手段が、
銅製若しくは銅合金製とされた、前記アンビル及び前記スリーブの一方又は両方のそれ自体、及び、
前記アンビル及び前記スリーブの一方又は両方に設けられた、冷媒による冷却機構
の一方又は両方であることを特徴とする請求項10に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置。
【請求項12】
前記冷却手段が、前記アンビル及び前記スリーブの一方又は両方に設けられた、冷媒による冷却機構であることを特徴とする請求項10に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置。
【請求項13】
前記スリーブが、有機物層を冷却する
ことを特徴とする請求項10~12のいずれか一項に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置。
【請求項14】
前記スリーブが、前記有機物層と接触する端面の内縁に、R0.1mm以上の面取り部を有する
ことを特徴とする請求項13に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置。
【請求項15】
重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組が固定されるように構成されたアンビルと、
軸部、及び前記軸部の基端に設けられた頭部を有する接続部材を、前記アンビルの反対側から、前記接続部材の軸を中心に旋回させながら前記板組に押圧する回転押圧機構と、
を備え、
前記アンビルが、冷却手段を有する
有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置。
【請求項16】
前記冷却手段が、
銅製若しくは銅合金製とされた前記アンビル自体、及び
前記アンビルに設けられた、冷媒による冷却機構
の一方又は両方であることを特徴とする請求項15に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置。
【請求項17】
前記冷却手段が、前記アンビルに設けられた、冷媒による冷却機構であることを特徴とする請求項15に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法、及び有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組を接合して得られる金属板重ね継手は、様々な機械部品の接合部に含まれている。金属板の接合方法として最もよく用いられるのは、溶接である。板組の接合に用いられる溶接の例は、スポット溶接、アーク溶接、及びレーザ溶接等である。
【0003】
しかしながら、溶接の際には、接合部が金属板の融点以上の温度に加熱される。これにより、接合部及びその周囲において、金属板の機械特性が劣化する場合がある。この現象は、鋼板、特に引張強さ780MPa以上の高強度鋼板において顕著である。
【0004】
また、溶接は、異種材料の接合には適さない。異種材料を溶融混合させた後に凝固させると、脆い金属間化合物が溶接金属に多量に生成する。そのため、異種材料の溶接においては、接合強度の確保が難しい。
【0005】
金属板を接合する別の方法として、近年は、摩擦圧接が注目されている。摩擦圧接とは、部材を互いに接触させ、通常、片側若しくは両側の部材、又は別の摩擦エレメントを回転させることによって発生する摩擦熱を利用して(接合部近傍を昇温させ)加圧して行う圧接のことである(JIS Z 3001-2:2018)。
【0006】
摩擦圧接は摩擦溶接と称される場合がある。しかし、通常、摩擦圧接の際に圧接部の溶融凝固は生じない。摩擦圧接においては、母材の表面が取り除かれることによって現出した新生面が、摩擦熱によって融点以下の温度まで加熱されて活性化された状態で加圧されることによって、圧接部が形成される。従って、摩擦圧接部には溶接金属が含まれないことが通常である。
【0007】
摩擦圧接は、従来、パイプ等の棒状材料を長手方向に接合する場合に用いられていた。例えば特許文献1には、薄肉パイプと厚肉パイプを同軸配置し、それらの端面を当接させて相対回転することにより生ずる摩擦熱にて両端面を圧接するプロペラシャフトの摩擦圧接方法において、薄肉パイプの内径を厚肉パイプの内径より小径にすることを特徴とするプロペラシャフトの摩擦圧接方法が開示されている。
【0008】
しかし近年は、頭部及び軸部を有するリベット状の接続部材を用いて、摩擦圧接を利用して複数の金属板を重ね接合することが試みられている。この摩擦圧接方法では、軸部及び頭部を有する接続部材を、板組の最表面に配された金属板に軸部の先端が接触するまで、軸部を板組に圧入させる。そして、軸部の先端を、板組の最表面に配された金属板に摩擦圧接する。これにより、軸部の先端に摩擦圧接された金属板と、軸部の基端に設けられた頭部とが、軸部によって貫通された金属板を挟持し、板組が機械的に接合される。摩擦圧接による金属板の重ね接合は、摩擦圧接と機械的接合とを組み合わせた接合方法であるといえる。
【0009】
摩擦圧接を用いた金属板の接合においては、金属板同士の溶融及び混合が生じない。従って、摩擦圧接によれば異種材料から構成される金属板を容易に接合することができる。また、摩擦圧接による入熱は、溶接による入熱よりも小さい。そのため、摩擦圧接は接合部及びその周辺を熱劣化させるおそれが小さい。
【0010】
摩擦圧接を用いた金属板の接合技術として、例えば特許文献2には、一方の平板がこれの上に配置された他方の被支持板よりも強度の高い支持板である少なくとも2枚の平板を回転フィーダ部によって回転される接合要素を介して接合して、該接合要素がカラーによって前記被支持板を支持板に対して押圧するとともに、シャフト部を介して前記支持板と摩擦溶接接合を形成する装置において、前記回転フィーダ部が、該回転フィーダ部によって加えられる軸方向の力と各送り距離とを測定して、前記接合要素のシャフト部を下げると引き起こされる押圧力の上昇を示す信号を送り、前記回転フィーダ部を前進させる測定器を備えているとともに、前記回転フィーダ部の送り動作が、前記被支持板を貫通するように調整する第1の段階と、前記シャフト部と支持板との摩擦溶接を調整する第2の段階と、前記接合要素の軸方向の力を前記支持板に加える第3の段階の少なくとも3つの連続した接合段階によって調整されて摩擦溶接プロセスを完了させることを特徴とする装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004-141933号公報
【特許文献2】特開2011-062748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
近年、金属板重ね継手には、一層高い耐食性も求められている。耐食性を高めるためには、金属板重ね継手の表面を塗膜などの有機物層によって被覆することが好ましい。しかしながら溶接は、有機物層によって表面が被覆された金属板、即ち有機物層被覆金属板の接合には適さない。有機物層被覆金属板を溶接した場合、溶接金属に有機物層や有機物層から発生したガスが混入することにより、溶接欠陥が生じる。そのため、有機物層被覆金属板の溶接においては、接合強度の確保が難しい。また、有機物層が絶縁体である場合、スポット溶接等の抵抗溶接を行うことは困難である。
【0013】
そこで本発明者らは、有機物層被覆金属板を摩擦圧接によって接合することを試みた。その結果、有機物層は摩擦圧接の妨げにはならず、良好な継手強度が確保できることが確認できた。
【0014】
一方、有機物層被覆金属板を摩擦圧接によって接合すると、図4に示されるように、接続部材の周辺において有機物層が劣化し、剥離することが明らかとなった。有機物層の剥離部において、金属板重ね継手の耐食性は損なわれた。この有機物層の剥離は連続して複数回の接合を行った場合に生じやすかった。有機物層被覆金属板を摩擦圧接によって連続して複数回の接合を実施した際の、有機物層の劣化や剥離についてはこれまで報告されておらず、従って、本発明者らが知見した有機物層の劣化現象は、当業者には知られていない。なお、有機物層ではなく、Znめっきなどの金属めっきを有する金属板を摩擦圧接した例は報告されているが、ここではめっきの劣化が問題視されていない。
【0015】
上記事情に鑑みて、本発明は、有機物層被覆金属板を摩擦圧接する際に、有機物層の劣化を従来よりも抑制可能な有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法、及び有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0017】
(1)本発明の第一実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法は、重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組を、アンビルに固定する工程と、軸部、及び前記軸部の基端に設けられた頭部を有する接続部材を、前記アンビルの反対側から、前記アンビルに接する金属板と前記軸部の先端とが接触するまで、前記板組に圧入する工程と、前記アンビルに接する前記金属板と、前記軸部の前記先端とを摩擦圧接し、前記頭部によって、前記軸部が貫通された前記金属板を、前記軸部が摩擦圧接された前記金属板に機械的に接合する工程と、を備え、前記固定する工程では、筒状のスリーブを、前記アンビルの反対側から前記板組に押圧することによって、前記板組を前記アンビルに固定し、前記圧入する工程では、前記接続部材を、前記スリーブの内側を通して、前記板組に圧入し、前記板組の一方又は両方の表面には、有機物層が配置され、前記有機物層と前記スリーブとが接する場合、前記スリーブを用いて前記有機物層を冷却し、前記有機物層と前記アンビルとが接する場合、前記アンビルを用いて前記有機物層を冷却する。
(2)上記(1)に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法では、前記有機物層と前記スリーブとが接する場合、前記スリーブを銅若しくは銅合金製とすること、及び/又は前記スリーブに冷媒による冷却機構を設けることにより、前記有機物層を冷却し、前記有機物層と前記アンビルとが接する場合、前記アンビルを銅若しくは銅合金製とすること、及び/又は前記アンビルに冷媒による冷却機構を設けることにより、前記有機物層を冷却してもよい。
(3)上記(1)に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法では、前記有機物層と前記スリーブとが接する場合、前記スリーブに冷媒による冷却機構を設けることにより前記有機物層を冷却し、前記有機物層と前記アンビルとが接する場合、前記アンビルに冷媒による冷却機構を設けることにより前記有機物層を冷却してもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法では、前記有機物層と前記スリーブとが接してもよい。
(5)上記(4)に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法では、前記スリーブの、前記有機物層と接触する端面の内縁に、R0.1mm以上の面取り部を設けてもよい。
(6)本発明の第二実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法は、重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組を、アンビルに固定する工程と、軸部、及び前記軸部の基端に設けられた頭部を有する接続部材を、前記アンビルの反対側から、前記アンビルに接する金属板と、前記軸部の先端とが接触するまで、前記板組に圧入する工程と、前記アンビルに接する前記金属板と、前記軸部の前記先端とを摩擦圧接し、前記頭部によって、前記軸部が貫通された前記金属板を、前記軸部が摩擦圧接された前記金属板に機械的に接合する工程と、を備え、少なくとも、前記アンビルと接する前記板組の表面には、有機物層が配置され、前記アンビルを用いて前記有機物層を冷却する。
(7)上記(6)に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法では、前記アンビルを銅若しくは銅合金製とすること、及び/又は前記アンビルに冷媒による冷却機構を設けることにより、前記有機物層を冷却してもよい。
(8)上記(6)に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法では、前記アンビルに冷媒による冷却機構を設けることにより前記有機物層を冷却してもよい。
(9)上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法では、複数の前記金属板のうち1枚以上が鋼板であってもよい。
【0018】
(10)本発明の第三実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置は、重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組が固定されるように構成されたアンビルと、軸部、及び前記軸部の基端に設けられた頭部を有する接続部材を、前記アンビルの反対側から、前記接続部材の軸を中心に旋回させながら前記板組に押圧する回転押圧機構と、前記アンビルの反対側から前記板組に押圧されて、前記板組を固定する筒状のスリーブと、を備え、前記回転押圧機構の回転軸が、前記スリーブの内側にあり、前記アンビル及び前記スリーブの一方又は両方が、冷却手段を有する。
(11)上記(10)に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置では、前記冷却手段が、銅製若しくは銅合金製とされた、前記アンビル及び前記スリーブの一方又は両方のそれ自体、及び、前記アンビル及び前記スリーブの一方又は両方に設けられた、冷媒による冷却機構の一方又は両方であってもよい。
(12)上記(10)に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置では、前記冷却手段が、前記アンビル及び前記スリーブの一方又は両方に設けられた、冷媒による冷却機構であってもよい。
(13)上記(10)~(12)のいずれか一項に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置では、前記スリーブが、有機物層を冷却してもよい。
(14)上記(13)に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置では、前記スリーブが、前記有機物層と接触する端面の内縁に、R0.1mm以上の面取り部を有してもよい。
(15)本発明の第四実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置は、重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組が固定されるように構成されたアンビルと、軸部、及び前記軸部の基端に設けられた頭部を有する接続部材を、前記アンビルの反対側から、前記接続部材の軸を中心に旋回させながら前記板組に押圧する回転押圧機構と、を備え、前記アンビルが、冷却手段を有する。
(16)上記(15)に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置では、前記冷却手段が、銅製若しくは銅合金製とされた前記アンビル自体、及び前記アンビルに設けられた、冷媒による冷却機構の一方又は両方であってもよい。
(17)上記(15)に記載の有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置では、前記冷却手段が、前記アンビルに設けられた、冷媒による冷却機構であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、有機物層被覆金属板を摩擦圧接する際に、有機物層の劣化を従来よりも抑制可能な有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法、及び有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第一実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法の模式図である。
図2】アンビル及びスリーブの冷却機構の断面模式図である。
図3】第二実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法の模式図である。
図4】従来の金属板重ね継手の製造装置を用いた、有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第一実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法は、図1に示されるように、
(S1)重ね合わせられた複数の金属板B1、B2から構成される板組Bを、アンビル11に固定する工程と、
(S2)軸部C2、及び軸部C2の基端に設けられた頭部C1を有する接続部材Cを、アンビル11の反対側から、アンビル11に接する第1の金属板B1と、軸部C2の先端とが接触するまで、板組Bに圧入する工程と、
(S3)アンビル11に接する第1の金属板B1と、軸部C2の先端とを摩擦圧接し、頭部C1によって、軸部C2が貫通された第2の金属板B2を、軸部C2が摩擦圧接された第1の金属板B1に機械的に接合する工程と、
を備える。ここで、固定工程S1では、筒状のスリーブ12を、アンビル11の反対側から板組Bに押圧することによって、板組Bをアンビル11に固定し、圧入工程S2では、接続部材Cを、スリーブ12の内側122を通して、板組Bに押圧する。板組Bの一方又は両方の表面には、有機物層Eが配置され、有機物層Eとスリーブ12とが接する場合、スリーブ12を用いて有機物層Eを冷却し、有機物層Eとアンビル11とが接する場合、アンビル11を用いて有機物層Eを冷却する。
【0022】
上述の方法によって得られた有機物層被覆金属板重ね継手Aは、最表層に配された第1の金属板B1、及び第1の金属板B1に重ねられた一枚以上の第2の金属板B2から構成される板組Bと、第1の金属板B1に垂直に摩擦圧接され、且つ第2の金属板B2を貫通する軸部C2、及び軸部C2の基端に設けられて、第1の金属板B1及び第2の金属板B2を機械的に接合する頭部C1を有する接続部材Cと、を備え、板組Bの一方又は両方の表面が、有機物層Eによって被覆されている。
【0023】
以下、第一実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法を、詳細に説明する。
【0024】
(固定工程S1)
まず、重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組Bを、アンビル11に固定する。ここで、板組Bの一方又は両方の表面には、有機物層Eが配されている。これにより、表面が有機物層Eによって被覆されている有機物層被覆金属板重ね継手Aを製造することができる。板組Bに含まれる金属板の枚数は、2枚であっても、3枚以上であってもよい。
【0025】
以下、便宜的に、板組Bの最表層に配されてアンビル11に接する金属板を第1の金属板B1と称し、それ以外の金属板を第2の金属板B2と称する。第1の金属板B1は、接続部材Cの軸部C2の先端が摩擦圧接される金属板であり、第2の金属板B2は、接続部材Cの軸部C2が貫通する金属板である。第1の金属板B1の枚数は1枚である。第2の金属板B2の枚数は1枚であっても、2枚以上であってもよい。
【0026】
第一実施形態に係る製造方法では、板組Bは、筒状のスリーブ12によって、アンビル11に固定される。具体的には、筒状のスリーブ12を、アンビル11の反対側にある板組Bの表面に、垂直に当止する。そして、アンビル11の反対側からスリーブ12を板組Bに押圧する。なお、スリーブ12以外の固定治具を併用して、板組Bとアンビル11とを一層強固に固定してもよい。
【0027】
(圧入工程S2)
軸部C2の基端に設けられた頭部C1が、有機物層被覆金属板重ね継手Aの製造装置1の回転押圧機構13と接続される。この軸部C2の基端に設けられた頭部C1と、回転押圧機構13との接続は、固定工程S1よりも前に予め行われていても良い。接続部材Cを、アンビル11の反対側から板組Bに垂直に押圧し、軸部C2の先端を板組Bに接触させる。
【0028】
続いて、接続部材Cを旋回させながら押圧することにより、接続部材Cの軸部C2を板組Bに圧入し、金属板を貫通させる。板組Bはアンビル11に固定されているので、接続部材Cは、圧入工程S2及びそれ以降の工程において、板組Bに対して相対的に回転することとなる。また、接続部材Cは、スリーブ12の内側122を通して板組Bに押圧される。これにより、スリーブ12は、接続部材Cの周囲を均等な加圧力で固定して、接合作業を安定化させることができる。上述の通り、本実施形態において、貫通される金属板は第2の金属板B2と称される。
【0029】
圧入工程S2は、接続部材Cの軸部C2の先端が、アンビル11に接する金属板、即ち第1の金属板B1と接触するまで継続される。接続部材Cの軸部C2の長さを、第2の金属板B2の板厚の合計値よりも十分に長くすることにより、軸部C2の先端を第1の金属板B1に接触させることができる。また、貫通を容易にするために、接続部材Cの軸部C2の先端は、平面ではなく尖らせておくことが好ましい。ただし、圧入工程S2は、接続部材Cの軸部C2の先端を、第2の金属板B2を貫通させ、第1の金属板B1と接触させる工程であり、その手段は問わない。上述の通り、接続部材Cを旋回させながら押圧し、第2の金属板B2を貫通させてもよいし、予め第2の金属板B2に貫通孔を設け、その貫通孔を通るように、接続部材Cを旋回させずに押圧し、第2の金属板B2を貫通させてもよい。
【0030】
(摩擦圧接工程S3)
接続部材Cをさらに旋回させながら押圧することにより、軸部C2の先端と第1の金属板B1との接触部が加熱される。さらに接触部においては、軸部C2の先端、及び第1の金属板B1の最表面が除去され、新生面が現出する。接続部材Cの回転を停止すると、新生面から周辺部への抜熱により、新生面は直ちに冷却される。そして、活性化されていた2つの新生面は、冷却後に強固に接合され、摩擦圧接部Dが形成される。
【0031】
接続部材Cの軸部C2の先端を第1の金属板B1に摩擦圧接すると、第2の金属板B2は、接続部材Cの先端に接合された第1の金属板B1と、接続部材Cの基端に設けられた頭部C1との間に配置される。即ち、接続部材Cの頭部C1は、接続部材Cの軸部C2が貫通された第2の金属板B2を、接続部材Cの軸部C2が摩擦圧接された第1の金属板B1に、機械的に接合する。
【0032】
以上の工程を経て、一方又は両方の表面が有機物層Eによって被覆された有機物層被覆金属板重ね継手Aが得られる。しかしながら、図4に示されるように、表面に配された有機物層Eが剥離する場合があることを本発明者らは発見した。本発明者らが剥離部を詳細に確認した結果、以下の事実が確認された。
(1)図4に示されるように、スリーブ12と有機物層Eとが接していた場合、有機物層Eはスリーブ12が押圧された箇所において剥離した。
(2)図4に示されるように、アンビル11と有機物層Eとが接していた場合、有機物層Eは、接続部材Cが押圧された箇所において剥離した。
(3)1つの接合装置を用いて短時間に複数回の摩擦圧接を実施した場合、実施回数が増すほど剥離発生率が高まった。
【0033】
従来、摩擦圧接において摩擦熱がもたらす害は認識されていなかった。スポット溶接などの抵抗溶接では、溶接熱による電極の劣化を防止したり、溶融金属の凝固を促進したりするために、電極を介して溶接部を冷却する。しかしながら、摩擦圧接においては、接続部材Cは接合のたびに更新される。従って、接続部材C及びその周囲の部材の熱劣化は問題視されていなかった。むしろ、接続部材の塑性変形を容易にして、活性化された新生面の生成を促すために、接続部材Cを過度に冷却することは好ましくないと考えられる。先行技術において、摩擦圧接部の冷却とは、接続部材の回転押圧を停止した後の冷却を意味していた。また、摩擦熱が表面処理に及ぼす悪影響も知られていなかった。現に、比較的低融点であるZnめっき鋼板に対して上述の手順で摩擦圧接を実施した場合に、Znめっきの剥離が生じることはなかった。
【0034】
しかし本発明者らは、圧入工程S2~摩擦圧接工程S3の間に生じた摩擦熱が、スリーブ12及びアンビル11に移動して蓄積することにより、スリーブ12及び/又はアンビル11と板組Bとの接触部の温度が上昇し、これにより有機物層Eの劣化が生じたのではないかと推定した。
【0035】
そこで本発明者らは、スリーブ12及びアンビル11に冷却手段を設け、圧入工程S2~摩擦圧接工程S3の間、スリーブ12及び/又はアンビル11に接触した有機物層Eを冷却することを試みた。その結果、有機物層Eの剥離を抑制することができた。また、スリーブ12及びアンビル11を用いて有機物層Eを冷却した場合であっても、摩擦圧接が妨げられることはなく、良好な接合強度を確保することができた。
【0036】
以上の知見に基づき、第一実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手Aの製造方法では、圧入工程S2~摩擦圧接工程S3を実施する間に、有機物層Eに接触する固定治具を用いて、有機物層Eを冷却する。具体的には、有機物層Eとスリーブ12とが接する場合は、スリーブ12を用いて有機物層Eを冷却し、有機物層Eとアンビル11とが接する場合は、アンビル11を用いて有機物層Eを冷却する。
【0037】
上述したように、有機物層Eは板組Bの一方の表面のみに設けられていてもよいし、両方の表面に設けられていてもよい。また、有機物層Eが板組Bの一方の表面のみに設けられている場合、有機物層Eはアンビル11側に配されていても、アンビル11の反対側に配されていてもよい。有機物層Eがアンビル11側のみに配されている場合、少なくとも、アンビル11を用いて有機物層Eを冷却すればよい。有機物層Eがスリーブ12側のみに配されている場合、少なくとも、スリーブ12を用いて有機物層Eを冷却すればよい。有機物層Eがアンビル11側及びスリーブ12側の両方に配されている場合、アンビル11及びスリーブ12の両方を用いて有機物層Eを冷却すればよい。また、有機物層Eは板組Bの一方の表面のみに設けられている場合に、アンビル11及びスリーブ12の両方を用いて有機物層E及び金属板の冷却をしてもよい。
【0038】
なお「冷却」とは、摩擦圧接による温度上昇を抑制可能な程度に金属板を冷却することを意味する。例えばアンビル11及びスリーブ12が通常の材料、例えば鋼から構成されていたとしても、摩擦圧接の際には金属板からアンビル11及びスリーブ12への熱移動が若干生じる。しかし、鋼は摩擦圧接による温度上昇を十分に抑制することができないので、このような熱移動は、本実施形態における冷却には該当しない。
【0039】
冷却手段は特に限定されない。冷却手段の好適な一例は、アンビル11及び/又はスリーブ12の材質を、熱伝導率が高い金属とすることである。例えば、アンビル11及び/又はスリーブ12を銅又は銅合金製とすることにより、アンビル11及び/又はスリーブ12から装置本体への熱移動を促進し、有機物層Eを冷却することができる。アンビル11及び/又はスリーブ12の材質の熱伝導率は220W/mK以上が好ましく、280W/mK以上がより好ましい。
【0040】
冷却手段の別の好適な例は、図2に示されるように、アンビル11及び/又はスリーブ12に、冷媒による冷却機構111、121を設けることである。アンビル11及び/又はスリーブ12の材質を銅又は銅合金製とし、且つ、これらに冷媒による冷却機構111、121を設けてもよい。なお図2において、冷却機構121は、アンビル11の作業台の裏側から作業台に向けて冷媒を吹き付ける装置として記載している。また、冷却機構121は、紙面手前側から奥側に延在する冷媒の流路として記載している。しかし当然のことながら、用途に応じた種々の構成を冷却機構111、121に適用することができる。例えば、銅及び銅合金以外の伝熱性材料、及びペルチェ素子などを、冷却手段として用いることもできる。
【0041】
また、本発明者らの実験結果によれば、アンビル11よりもスリーブ12の方が、有機物層Eの剥離を生じさせる頻度が高かった。しかしながら、上述の通りスリーブ12を用いて有機物層Eを冷却することにより、剥離が防止される。従って、有機物層Eとスリーブ12とが接するように板組Bを配置した場合に、本実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法は、通常の製造方法に対する一層の優位性を発揮する。
【0042】
さらに、本発明者らが有機物層Eの剥離部を詳細に分析した結果、スリーブ12に接する第2の金属板B2の反りも、有機物層Eの剥離をもたらす場合があることを知見した。第2の金属板B2に接続部材Cの軸部C2を貫通させる際に、第2の金属板B2が、軸部C2の基端に向かって反る場合がある。これにより、有機物層Eに接触するスリーブ12の端面の内縁が有機物層Eをわずかに傷つけるおそれがある。
【0043】
従って、スリーブ12の、有機物層Eと接触する端面の内縁に、R0.1mm以上の面取り部123を設けてもよい。これにより、スリーブ12の端面の内縁が有機物層Eを傷つけるおそれを取り除き、有機物層Eの剥離を一層効果的に防止することができる。面取り部123は、R0.2mm以上がより好ましく、R0.3mm以上がさらに好ましい。なお、通常のスリーブ12は、棒状材料にドリルで穴開け加工をする等の手段によって製造されており、このようなスリーブ12の端面の内縁に、面取り部123は形成されない。
【0044】
次に、本発明の第二実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法について説明する。第二実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法は、図3に示されるように、
(S1)重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組Bを、アンビル11に固定する工程と、
(S2)軸部C2、及び軸部C2の基端に設けられた頭部C1を有する接続部材Cを、アンビル11の反対側から、アンビル11に接する第1の金属板B1と軸部C2の先端とが接触するまで、板組Bに圧入する工程と、
(S3)アンビル11に接する第1の金属板B1と、軸部C2の先端とを摩擦圧接し、頭部C1によって、軸部C2が貫通された第2の金属板B2を、軸部C2が摩擦圧接された金属板に機械的に接合する工程と、
を備える。ここで、少なくとも、アンビル11と接する板組Bの表面には、有機物層Eが配置され、アンビル11を用いて有機物層Eを冷却する。以下、第一実施形態と対比しながら、第二実施形態に係る製造方法について詳細に説明する。
【0045】
第二実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造方法は、原則的に第一実施形態に係る製造方法と同じである。しかし、第二実施形態に係る製造方法において、板組Bをアンビル11に固定する工程は特に限定されない。第一実施形態とは異なり、第二実施形態においてスリーブ12を用いることは必須ではない。例えば、図3では記載が省略されているクランプなどの固定治具を用いて、板組Bをアンビル11に固定すればよい。スリーブ12が用いられない場合、板組Bの任意の場所に接続部材Cを押圧し、接合させることができる。また、第二実施形態に係る製造方法では、有機物層Eは、少なくともアンビル11と接する板組Bの表面に配される。そして、アンビル11を用いて、アンビル11側に配された有機物層Eを冷却する。
【0046】
さらに、第一実施形態に係る製造方法の好ましい態様を、第二実施形態に係る製造方法に適用することもできる。例えば、アンビル11を銅若しくは銅合金製とする及び/又はアンビル11に冷媒による冷却機構111、121を設けることにより有機物層Eを冷却してもよい。
【0047】
以上、第一実施形態及び第二実施形態に係る製造方法の基本的な態様について説明した。次に、これらに共通して適用可能な一層好ましい態様について説明する。
【0048】
(金属板の好適な例)
金属板の種類は特に限定されない。板組Bに含まれる複数の金属板の材質は、同一であってもよいし、相違していてもよい。例えば、複数の金属板のうち1枚以上を、鋼板としてもよい。これにより、有機物層被覆金属板重ね継手Aの強度を高めることができる。複数の金属板の全てを鋼板としてもよい。
【0049】
なお、アルミ板等の軟質な金属板よりも、鋼板の方が、接続部材Cの軸部C2を貫通させるのに必要な回転力及び押圧力が大きく、また、貫通に長時間を要する。従って、第2の金属板B2が鋼板である場合、有機物層Eの温度が上昇しやすく、従って有機物層Eが剥離しやすい。しかし、第一実施形態及び第二実施形態に係る製造方法では、アンビル11及び/又はスリーブ12によって有機物層Eを冷却しているので、たとえ複数の金属板のうち1枚以上が鋼板であったとしても、有機物層Eの剥離を効果的に防止することができる。
【0050】
また、圧入工程S2の実施前に、第2の金属板B2に、接続部材Cの軸部C2を貫通させるための穴を予め設けておいてもよい。特に、第2の金属板B2が鋼板などの硬質な材質の場合に有効である。これにより、圧入工程S2を容易に実施することができる。具体的には、短時間で接続部材Cの軸部を貫通させることができる。また、接続部材Cを旋回させなくても、接続部材Cの軸部C2を貫通させることができる。第2の金属板B2に設けられる穴は、接続部材Cの頭部C1の径よりも小さい径を有している限り、その形状等は特に限定されない。ボルト留めとは異なり、第2の金属板B2に設けられる穴の径が、接続部材Cの軸部C2の太さよりも小さくてもよい。接続部材Cは、板組Bに圧入されるからである。
【0051】
(有機物層Eの好適な例)
有機物層Eとは、有機物が含有されている表面被覆層であり、例えば金属板重ね継手の耐食性及び美観等の向上のために用いられる。有機物層Eの一例は、有機物を主成分とする塗膜である。有機物層Eの特性の一層の向上のために、無機物や金属から構成される添加物を有機物層Eに含有させてもよい。また、有機物層Eのその他の例は、有機物をバインダーとして用いた塗膜である。この場合、有機物の含有量が少なくても、通常の摩擦圧接では、有機物が劣化し、有機物層が剥離する虞がある。有機物層Eに含まれる有機物については、特に限定はないが、ガラス転移温度が50℃以下の有機物が含まれる有機物層Eは、熱により軟化しやすく剥離しやすいため、本発明がより有効に適用される。有機物層Eと金属板との間に、めっき、及び化成処理皮膜等の中間層がさらに設けられていてもよい。
【0052】
上述の通り、有機物層Eは板組Bの一方又は両方の表面に配される。また、板組Bに含まれる金属板の両面が有機物層Eによって被覆されており、これにより、板組Bの内部にある金属板の合わせ面に有機物層Eが配されていてもよい。板組Bに含まれる金属板の合わせ面に、接着剤及びシーラー等を塗布してもよい。
【0053】
接続部材Cの構成、及び摩擦圧接条件等は特に限定されない。第一実施形態及び第二実施形態に係る製造方法では、アンビル11及び/又はスリーブ12によって有機物層Eを冷却することによって、有機物層Eの剥離を防止している。そのため、接合条件は特に限定されず、被接合材である複数の金属板の構成に応じた条件を、適宜採用することができる。
【0054】
次に、本発明の第三実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置1について説明する。第三実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置1は、重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組Bが固定されるように構成されたアンビル11と、軸部C2、及び軸部C2の基端に設けられた頭部C1を有する接続部材Cを、アンビル11の反対側から、接続部材Cの軸を中心に旋回させながら板組Bに押圧する回転押圧機構13と、アンビル11の反対側から板組Bに押圧されて、板組Bを固定する筒状のスリーブ12と、を備え、回転押圧機構13の回転軸が、スリーブ12の内側122にあり、アンビル11及びスリーブ12の一方又は両方が、冷却手段を有する。
【0055】
アンビル11及び筒状のスリーブ12は、板組Bを固定する。また、アンビル11及びスリーブ12の一方又は両方は、板組Bの表面に設けられた有機物層Eを冷却可能な冷却手段を有する。これにより、有機物層Eの剥離を防止することができる。スリーブ12の方が、有機物層Eを剥離させる恐れが大きいので、スリーブ12に冷却手段を設けることが好ましい。
【0056】
冷却手段は特に限定されないが、例えばアンビル11及びスリーブ12の一方又は両方を銅若しくは銅合金製とすることにより、これら自体を冷却手段としてもよい。一方、アンビル11及びスリーブ12の一方又は両方に設けられた、冷媒による冷却機構111、121を、冷却手段としてもよい。これらの冷却手段の両方を採用することもできる。即ち、より好ましくは、アンビル11及びスリーブ12の一方又は両方が、銅若しくは銅合金製であり、且つ冷媒による冷却機構111、121を有する。
【0057】
スリーブ12が、有機物層Eと接触する端面の内縁に、R0.1mm以上の面取り部123を有してもよい。これにより、スリーブ12の端面の内縁が有機物層Eを傷つけるおそれを取り除き、有機物層Eの剥離を一層効果的に防止することができる。
【0058】
回転押圧機構13は、軸部C2、及び軸部C2の基端に設けられた頭部C1を有する接続部材Cを、アンビル11の反対側から、接続部材Cの軸を中心に旋回させながら板組Bに押圧する。これにより、板組Bに対して接続部材Cを相対的に旋回させ、摩擦圧接できる。なお、筒状のスリーブ12を通して接続部材Cを板組Bに圧入させるために、回転押圧機構13の回転軸は、スリーブ12の内側122に配されている必要がある。また、回転押圧機構13は、接続部材Cの頭部C1を把持して回転させることが可能な把持部を備えてもよい。一方、接続部材Cの頭部C1に多角形孔が設けられている場合は、回転押圧機構13が、頭部C1の多角形孔に対応した形状を有する多角形凸部を備えていればよい。接続部材Cを回転させながら押圧するための機構は特に限定されず、摩擦圧接に適した公知の構成を適宜採用することができる。
【0059】
第三実施形態に係る製造装置1の用途は特に限定されないが、例えば第一実施形態に係る製造方法の実施のために好適である。
【0060】
次に、本発明の第四実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置1について説明する。第四実施形態に係る有機物層被覆金属板重ね継手の製造装置1は、重ね合わせられた複数の金属板から構成される板組Bが固定されるように構成されたアンビル11と、軸部C2、及び軸部C2の基端に設けられた頭部C1を有する接続部材Cを、アンビル11の反対側から、接続部材Cの軸を中心に旋回させながら板組Bに押圧する回転押圧機構13と、を備え、アンビル11が、冷却手段を有する。
【0061】
第四実施形態に係る製造装置1は、原則的に、第三実施形態に係る製造装置1と同じである。しかし、第四実施形態に係る製造装置1において、板組Bをアンビル11に固定するための手段は特に限定されない。第三実施形態とは異なり、第四実施形態においてスリーブ12を用いることは必須ではない。例えば、板組Bをアンビル11に固定するための、クランプ等の固定治具を、製造装置1が備えていればよい。スリーブ12が用いられない場合、板組Bの任意の場所に接続部材Cを押圧し、接合させることができる。また、第四実施形態に係る製造装置1では、アンビル11を用いて、アンビル11側に配された有機物層Eを冷却する。なお、第四実施形態に係る製造装置1がスリーブ12を備えない場合、アンビル11の反対側に配された有機物層Eが剥離するおそれはないと考えられる。
【0062】
第四実施形態に係る製造装置1の用途は特に限定されないが、例えば第二実施形態に係る製造方法の実施のために好適である。
【実施例0063】
実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明する。ただし、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例に過ぎない。本発明は、この一条件例に限定されない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限り、種々の条件を採用し得る。
【0064】
以下に示す2枚の鋼板を、スリーブを用いてアンビルに固定して、摩擦圧接することにより、種々の有機物層被覆金属板重ね継手を製造した。第1の金属板に塗装をした場合、塗装していない第2の金属板と重ね合わせて、アンビルに各冷却手法を適用し、第1の金属板の有機物層の剥離を評価した。第2の金属板に塗装をした場合、塗装していない第1の金属板を重ね合わせて、スリーブに各冷却手法を適用し、第2の金属板の有機物層の剥離を評価した。
【0065】
【表1】
【0066】
摩擦圧接は、30mm間隔で、10秒ごとに、最大100点に対して実施した。接合完了後に、有機物層被覆金属板重ね継手の表面を目視で観察することにより、有機物層の剥離の有無を確認した。評価基準には、塗膜の剥離が初めて発生するまでの接合回数を用いた。
・塗膜の剥離が初めて発生するまでの接合回数が91回以上:◎
・塗膜の剥離が初めて発生するまでの接合回数が21回以上90回以下:○
・塗膜の剥離が初めて発生するまでの接合回数が6回以上20回以下:△
・塗膜の剥離が初めて発生するまでの接合回数が1回以上5回以下:×
【0067】
スリーブ及びアンビルは、鋼製、銅製、鋼製かつ水冷機構あり、銅製かつ水冷機構あり、の4種類とした。また、一部の実験においては、スリーブの、有機物層と接触する端面の内縁に、R0.1mmの面取り部を設けた。
表2に、スリーブと接する有機物層における評価結果を示す。表2に示される実験結果を得るにあたっては、アンビルを鋼製とし、スリーブを上述の4種類のいずれかとし、スリーブと接する板組の面に有機物層が配されるように板組を接合装置に組み付けた。
表3に、アンビルと接する有機物層における評価結果を示す。表3に示される実験結果を得るにあたっては、アンビルを上述の4種類のいずれかとし、スリーブを鋼製とし、アンビルと接する板組の面に有機物層が配されるように板組を接合装置に組み付けた。
なお、スリーブに面取り部を設けた場合の試験結果を、かっこ書きで表2に追記して示した。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
スリーブ及びアンビルの両方を鋼製とした比較例では、アンビル側の有機物層、及びスリーブ側の有機物層のいずれにおいても、非常に早期に剥離が生じた。
スリーブを鋼製とし、アンビルを銅製、又は水冷機構ありのものとした場合、アンビル側の有機物層においては剥離が抑制された。
また、アンビルを鋼製とし、スリーブを銅製、又は水冷機構ありのものとした場合は、スリーブ側の有機物層においては剥離が抑制された。
さらに、スリーブに面取り部を設けることにより、一部の例において一層の有機物層の剥離抑制が確認できた。
【符号の説明】
【0071】
1 製造装置
11 アンビル
111 冷却機構
12 スリーブ
121 冷却機構
122 スリーブの内側
123 面取り部
13 回転押圧機構
A 有機物層被覆金属板重ね継手
B 板組
B1 第1の金属板
B2 第2の金属板
C 接続部材
C1 頭部
C2 軸部
D 摩擦圧接部
E 有機物層
S1 固定工程
S2 圧入工程
S3 摩擦圧接工程
図1
図2
図3
図4