(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023131894
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】圧粉磁心
(51)【国際特許分類】
H01F 1/24 20060101AFI20230914BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230914BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20230914BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20230914BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20230914BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230914BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
H01F1/24
H01F1/147 191
H01F27/255
B22F1/102 100
B22F3/00 F
B22F1/00 Y
C22C38/00 303T
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022036901
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】深澤 真之
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA26
4K018BA16
4K018BC30
4K018CA02
4K018CA08
4K018DA31
4K018FA08
4K018HA04
4K018KA44
5E041AA04
5E041BC05
5E041NN05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低ヒステリシス損失と強度向上とを両立させる圧粉磁心を提供することにある。
【解決手段】圧粉磁心は、FeSiAl合金粉末と、FeSiAl合金の表面を被覆する絶縁樹脂から成る絶縁層と、を備える。絶縁層には炭素が含まれており、圧粉磁心に占める炭素の割合は、0.01%以上であること、を特徴とする。また、炭素の割合の上限値は、0.1%が好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeSiAl合金粉末と、
前記FeSiAl合金の表面を被覆する絶縁樹脂から成る絶縁層と、
を備え、
前記絶縁層には炭素が含まれており、
圧粉磁心に占める前記炭素の割合は、0.01%以上であること、
を特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
前記炭素の割合は、0.1%以下であること、
を特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記炭素の割合は、0.025%以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心に関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池車の駆動システム等をはじめ、OA機器、太陽光発電システム、自動車、無停電電源といった各種の分野で使用されている。
【0003】
リアクトルは、環状コアとコイルを備え、環状コアにコイルが装着されている。この環状コアとして圧粉磁心が用いられることは多い。圧粉磁心は、軟磁性粉末を所定の形状の金型に充填し、プレス成形して圧粉成形体を作製し、この圧粉成形体を焼鈍したものである。
【0004】
圧粉磁心は、エネルギー交換効率の向上や低発熱などの要求から、磁束密度変化におけるエネルギー損失が小さいという磁気特性が求められる。エネルギー損失に関する磁気特性としてはコアロスとも呼ばれる鉄損(Pcv)が挙げられる。鉄損は、ヒステリシス損失(Ph)と、渦電流損失(Pe)の和で表される。
【0005】
鉄損を低減させるためヒステリシス損失を低減させる研究が進められている。例えば、特許文献1のように、酸化アルミニウムからなる絶縁層が形成された軟磁性粉末をプレス成形して圧粉成形体を500℃~900℃で焼鈍することで、圧粉成形体内の歪みを除去してヒステリシス損失を低減させる手法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ヒステリシス損失を低減させることは重要なことであるが、圧粉磁心の強度を向上させることも重要である。圧粉磁心の強度が低いと、製造過程で圧粉磁心にクラックが生じ磁気特性に悪影響を与えたり、また、自動車など振動する環境下に設置される電磁部品に搭載された場合、振動により圧粉磁心にクラックが生じ、当該電磁部品の耐久性が悪化する虞もある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、低ヒステリシス損失と強度向上とを両立させる圧粉磁心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の圧粉磁心は、FeSiAl合金粉末と、前記FeSiAl合金の表面を被覆する絶縁樹脂から成る絶縁層と、を備え、前記絶縁層には炭素が含まれており、圧粉磁心に占める前記炭素の割合は、0.01%以上であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低ヒステリシス損失と強度向上とを両立させる圧粉磁心を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】炭素量とヒステリシス損失の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態)
本実施形態の圧粉磁心について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0013】
圧粉磁心は、OA機器、太陽光発電システム、自動車などに搭載されるリアクトルといったコイル部品のコアに用いられる磁性体である。圧粉磁心は、軟磁性粉末の周囲に絶縁層を形成し、加圧成形して圧粉成形体を作製する。そして、この圧粉成形体を焼鈍することで圧粉磁心は作製される。
【0014】
絶縁層には炭素が含まれている。後述する絶縁樹脂が熱分解することで絶縁層に炭素が残留する。炭素の割合(以下、「炭素量」ともいう。)は、0.01%以上である。ここでいう炭素の割合とは、圧粉磁心に対するものである。即ち、圧粉磁心を構成する全材料に占める炭素の割合である。炭素量を0.01%以上にすることで、強度が上がり、かつ、ヒステリシス損失が低くすることができる。炭素量の上限値としては、0.1%が好ましい。上限値を0.1%とすることで、0.1%を超えたものよりヒステリシス損失を低減でき、よりバランスの良い圧粉磁心となる。高強度を維持しつつ、更にヒステリシス損失を低減させるためには、炭素量の上限値は、0.025%にすることがより好ましい。なお、絶縁層に炭素が含まれていればよく、意図的に残した場合であっても、意図せず結果的に残っていた場合であっても構わない。
【0015】
炭素量は、圧粉成形体を焼鈍する焼鈍条件によって調節することができる。例えば、焼鈍時の酸素濃度を上げると炭素量は減少傾向となり、酸素濃度を下げると炭素量は増加傾向となる。また、焼鈍時の焼鈍温度や焼鈍時間によっても炭素量を調整することができる。さらに、絶縁層を形成する絶縁樹脂の添加量を増減させることによっても炭素量を調整することができる。
【0016】
軟磁性粉末は、FeSiAl合金粉末から成る。FeSiAl合金粉末は、鉄と珪素とアルミニウムを含む粉末である。FeSiAl系合金粉末は、例えば、Feに対して、7wt%から11wt%程度のSiと、4wt%から8wt%程度のAlとを含有させている。FeSiAl系合金粉末には、例えば、Feに対して1wt%から3wt%程度のNiが含まれていてもよい。さらに、FeSiAl系合金粉末にはCo、Cr又はMnが含まれていてもよい。
【0017】
FeSiAl合金粉末は、粉砕法やガスアトマイズ法によって作製される。粉砕法は、FeSiAl合金粉末の塊を機械的に粉砕する。FeSiAl合金粉末の塊が大きい場合には、ジョークラッシャ、ハンマーミル、スタンプミル等により粉砕し、FeSiAl合金粉末の塊が小さい場合には、ボールミル、振動ミル等によって微粉化する。ガスアトマイズ法は、高温で溶融したFeSiAl合金粉末にガスを吹き付けて粉末化し、その後、冷却して凝固させる。
【0018】
軟磁性粉末に絶縁層を形成させる前に、軟磁性粉末を熱処理する粉末熱処理工程を経てもよい。粉末熱処理は、窒素ガス中、水素ガス中、窒素と水素の混合ガス、酸素濃度が0.01%等の低酸素雰囲気等の非酸化雰囲気中又は大気中において2時間程度加熱する。熱処理温度としては、500℃以上900℃以下が好ましい。
【0019】
FeSiAl合金粉末の表面には、絶縁層が形成されている。FeSiAl合金粉末の表面に絶縁層を形成することで、FeSiAl合金粉末間を絶縁し、渦電流損失が低減する。絶縁層は、絶縁樹脂から成り、この絶縁樹脂がFeSiAl合金粉末の表面に付着している。絶縁層がFeSiAl合金粉末の表面に付着されていれば、絶縁樹脂の付着の態様については問わない。即ち、絶縁樹脂は、FeSiAl合金粉末の周囲を全て覆うように付着していてもよいし、一部を覆うように付着し、FeSiAl合金粉末の表面の一部が露出していてもよい。また、絶縁樹脂は、FeSiAl合金粉末の各粒子の表面に付着していてもよいし、FeSiAl合金粉末の凝集体の表面に付着していてもよいし、これらの付着の態様が混在するように付着していてもよい。
【0020】
絶縁樹脂としては、シラン化合物、シリコーンレジン、シリコーンオリゴマー、又はこれらの混合物を用いることができる。即ち、シラン化合物、シリコーンレジン、シリコーンオリゴマーをそれぞれ単体で用いてもよいし、例えば、シラン化合物とシリコーンオリゴマー、又は、シラン化合物とシリコーンレジンを混合させて用いてもよい。後述する焼鈍において、圧粉成形体を高温で熱処理することにより絶縁樹脂に含まれる有機成分の炭素が分解されるが、一部分解されず残存したもの、若しくは、一部がシリコーンと反応してSiCとして残存したものが炭素として絶縁層に残留する。
【0021】
また、絶縁層は、単層であってもよいし、複数層であってもよい。例えば、絶縁層は、種類ごとに各層に分けた複数層で構成してもよいし、1種類又は2種類以上を混合した絶縁樹脂の単層で構成してもよい。
【0022】
シラン化合物には、官能基の無いシラン化合物及びシランカップリング剤が含まれる。官能基の無いシラン化合物としては、例えばエトキシ系及びメトキシ系等のアルコキシシランを使用することができ、特にテトラエトキシシランが好ましい。シランカップリング剤としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、イソシアヌレート系のシランカップリング剤を使用することができ、特に、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが好ましい。
【0023】
シラン化合物の添加量としては、FeSiAl合金粉末に対して、0.05wt%以上1.0wt%以下が好ましい。シラン化合物の添加量をこの範囲にすることで、FeSiAl合金粉末の流動性を向上させるとともに、成形された圧粉磁心の密度、磁気特性、強度特性を向上させることができる。
【0024】
シリコーンレジンは、シロキサン結合(Si-O-Si)を主骨格に持つ樹脂である。シリコーンレジンを用いることで可撓性に優れた絶縁層を形成することができる。シリコーンレジンは、メチル系、メチルフェニル系、プロピルフェニル系、エポキシ樹脂変性系、アルキッド樹脂変性系、ポリエステル樹脂変性系、ゴム系等を用いることができる。この中でも特に、メチルフェニル系のシリコーンレジンを用いた場合、加熱減量が少なく、耐熱性に優れた絶縁層を形成することができる。
【0025】
シリコーンレジンの添加量は、FeSiAl合金粉末に対して、0.4wt%以上3.0wt%以下である。より好ましくは、0.6wt%以上2.0wt%以下である。シリコーンレジンの添加量が少ないと、圧粉成形体を焼鈍する際にFeSiAl合金粉末間を引き寄せる収縮作用が弱く、高い密度が確保できず、透磁率を上げることができない。一方で、添加量が多いと、FeSiAl合金粉末の表面に形成される絶縁層が厚くなり過ぎ、高い密度が確保できず、透磁率を上げることができない。
【0026】
シリコーンオリゴマーとしては、アルコキシシリル基を有し、反応性官能基を有さないメチル系、メチルフェニル系のものや、アルコキシシリル基及び反応性官能基を有するエポキシ系、エポキシメチル系、メルカプト系、メルカプトメチル系、アクリルメチル系、メタクリルメチル系、ビニルフェニル系のもの、又はアルコキシシリル基ではなく、反応性官能基を有する脂環式エポキシ系のもの等を用いることができる。特に、メチル系またはメチルフェニル系のシリコーンオリゴマーを用いることで厚く硬い絶縁層を形成することができる。また、絶縁層の形成のしやすさを考慮して、粘度の比較的低いメチル系、メチルフェニル系を用いてもよい。
【0027】
シリコーンオリゴマーの添加量は、FeSiAl合金粉末に対して0.1wt%以上2.0wt%以下が好ましい。添加量が0.1wt%より少ないと絶縁層として機能せず、渦電流損失が増加することにより磁気特性が低下する。添加量が2.0wt%より多いと、圧粉磁心の密度低下を招く。
【0028】
FeSiAl合金粉末に絶縁樹脂を添加、混合した後、加熱乾燥を行う。加熱乾燥条件としては、これに限定されるものではないが、25℃以上350℃以下の温度で2時間程度乾燥させる。加熱乾燥を行うことで、FeSiAl合金粉末の表面に絶縁層が形成される。
【0029】
絶縁層は形成されたFeSiAl合金粉末に潤滑剤を添加して、加圧成形する。潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸及びその金属塩並びにエチレンビスステアルアミド、エチレンビスステアロアマイド、エチレンビスステアレートアミドなどが挙げられる。潤滑剤を添加することで、金型を離型させる際の抜き圧が低減するともに、FeSiAl合金粉末が金型への焼き付きくことも防止されるので、圧粉成型体の品質が向上する。潤滑剤を添加した後、所望の形状の金型にFeSiAl合金粉末を充填し、加圧成形して、圧粉成形体が作製される。成形時の圧力は10~20ton/cm2である。
【0030】
最後に、加圧成形して作製した圧粉成形体を焼鈍する。この焼鈍によって、FeSiAl合金粉末内の歪を除去する。この焼鈍は、不活性雰囲気中又は大気中の環境下で行う。不活性雰囲気は、反応性ガスが低量であり、不活性ガス又は中性ガスで満たされた雰囲気である。反応性ガスは、酸素、水蒸気又は炭酸ガス等である。不活性ガスは、アルゴンやヘリウム等である。中性ガスは、窒素やアンモニア等である。焼鈍時は、700℃以上850℃以下で行うことが好ましく、時間は2時間程度である。700℃未満であると、歪の除去効果が限定的であり、また、絶縁樹脂の変質も限定的となり、FeSiAl合金粉末間の結合が弱くなる虞がある。一方で、850℃を超えると、絶縁樹脂の耐熱温度を超えるために絶縁層が破壊され、渦電流損失が悪化する虞がある。なお、水素ガスなどで満たされた還元雰囲気中は、炭素が反応し分解されやすいため望ましくない。
【0031】
(実施例)
次に、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0032】
実施例1~4及び比較例1~5の圧粉磁心を以下のとおり作製した。なお、実施例1~4及び比較例1~5は、炭素量が異なる。
【0033】
まず、軟磁性粉末としてFeSiAl合金粉末を用意した。このFeSiAl合金粉末は、ガスアトマイズ法により作製されたものである。このFeSiAl合金粉末に対し、絶縁樹脂としてシランカップリング剤を0.5wt%、シリコーンレジンを1.5wt%添加・混合し、大気雰囲気で2時間乾燥させた。
【0034】
凝集を解消する目的でFeSiAl合金粉末を目開き500目の篩に通し、潤滑剤としてエチレンビスステアルアミド(Acrawax(登録商標))を0.5wt%添加した。潤滑剤を添加したFeSiAl合金粉末を金型に充填し、15ton/cm2で加圧成形し、外径16.5mm、内径11.0mm及び高さ5.0mmのトロイダル状の圧粉成形体を作製した。そして、この圧粉成形体を700℃の温度で、下記表1に示す酸素濃度の雰囲気下で2時間焼鈍した。このようにして、実施例1~4及び比較例1~5の圧粉磁心を作製した。
【0035】
そして、実施例1~4及び比較例1~5の圧粉磁心の炭素量(%)、強度(MPa)、ヒステリシス損失(kw/m3)を測定した。
【0036】
炭素量は、株式会社堀場製作所の炭素・硫黄分析装置(EMIA-Expert)を用いて測定した。具体的には、坩堝の中に圧粉磁心の欠片を0.5g入れ、高周波加熱しすることで、圧粉磁心に含まれる炭素がガス化され、一酸化炭素又は二酸化炭素が抽出した。そして、この抽出された一酸化炭素又は二酸化炭素を赤外線吸収法で測定し、これを炭素量に換算した。
【0037】
強度は、日本計測システム株式会社の自動荷重試験機(MAX-5KN-H)を用いて、測定条件0.5mm/minにて圧環強度を測定した。
【0038】
また、ヒステリシス損失を測定する際には、実施例1~4及び比較例1~5の圧粉磁心にφ0.5mmの銅線を1次巻線として15ターン巻回し、また2次巻線として15ターン巻回した。そして、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY-8219)を用いて、周波数が100kHz及び最大磁束密度Bmが100mTの測定条件にてヒステリシス損失Phと渦電流損失Peを算出し、炭素量とヒステリシス損失Phの関係をまとめた。
【0039】
ヒステリシス損失Phと渦電流損失Peは、鉄損Pcvの周波数曲線を次の(1)~(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損失係数(Kh)、渦電流損失係数(Ke)を算出することで行った。
Pcv =Kh×f+Ke×f2・・(1)
Ph =Kh×f・・(2)
Pe =Ke×f2・・(3)
Pcv:鉄損
Kh :ヒステリシス損失係数
Ke :渦電流損失係数
f :周波数
Ph :ヒステリシス損失
Pe :渦電流損失
【0040】
実施例1~4及び比較例1~5の炭素量、ヒステリシス損失及び強度の測定結果を表1に示す。また、炭素量と強度の関係を示すグラフを
図1に示し、炭素量とヒステリシス損失の関係を示すグラフを
図2に示す。
【表1】
【0041】
表1及び
図1に示すように、炭素量が0.01%以上ある実施例1~4は、強度が40(MPa)よりも高くなり、比較例1~5の何れのものよりも強度が向上している。また、実施例1~4のヒステリシス損失は、最も高い実施例1でも300(kw/m
3)程度であり、それほど大きく増加していない。そのため、炭素量は、0.01%以上であると強度向上と低ヒステリシス損失の両立が可能であることが確認された。
【0042】
これは推測であり、このメカニズムに限定されるものではないが、絶縁層内に残留する炭素を多くすることで絶縁樹脂が塊としてFeSiAl合金粉末の表面に付着し、FeSiAl合金粉末間の結合をより強固にできるもの推察する。
【0043】
また、実施例2を見ると、強度は53(MPa)とより高強度となり、また、ヒステリシス損失は300(kw/m3)よりも低い285(kw/m3)と、実施例1と比べるとヒステリシス損失がより低減している。そのため、強度向上を図りつつ、よりヒステリシス損失を低減させるには、炭素量を0.1%以下にすることが好ましいことが確認された。
【0044】
更に、実施例3及び4は、強度が40(MPa)以上であり、かつ、ヒステリシス損失が250(kw/m3)よりも低く、実施例1及び2よりもヒステリシス損失が低減する結果となっている。よって、ヒステリシス損失を更に低減させ、かつ、強度の向上が可能な炭素量の範囲は、0.01%以上0.025%以下であることが確認された。
【0045】
なお、実施例2は、実施例3及び4よりも、ヒステリシス損失がやや増加しているものの、強度は53(MPa)と向上している。磁気特性よりも強度を優先させたい場合には、炭素量が0.1%である実施例2の圧粉磁心を用いることが好ましい。
【0046】
次に、実施例5及び6の圧粉磁心を作製した。実施例5及び6の圧粉磁心は、圧粉成形体を焼鈍する際の温度が異なるのみで、その他製造方法、製造条件は実施例1と同様である。実施例5は、圧粉成形体を750℃で焼鈍し、実施例6は、圧粉成形体を780℃で焼鈍した。
【0047】
そして、上記実施例と同一の手法及び条件で炭素量(%)、強度(MPa)、ヒステリシス損失(kw/m
3)を測定した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0048】
表2に示すように、750℃で焼鈍した実施例5及び780℃で焼鈍した実施例6ともに、炭素量は0.01%以上である。そして、実施例5及び実施例6ともに、強度が45(MPa)より高くなり強度が向上している。また、ヒステリシス損失を見ても、実施例5及び実施例6ともに、300(kw/m3)を下回っており、低ヒステリシス損失を実現できている。そのため、焼鈍温度は、700℃以上であっても本発明の効果を奏することが確認された。
【0049】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。