(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023001323
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/103 20060101AFI20221222BHJP
A61B 3/10 20060101ALI20221222BHJP
A61B 3/02 20060101ALI20221222BHJP
【FI】
A61B3/103
A61B3/10
A61B3/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022180123
(22)【出願日】2022-11-10
(62)【分割の表示】P 2018176414の分割
【原出願日】2018-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小西 裕大
(57)【要約】
【課題】被検眼の情報取得の信頼性を向上させることができる眼科装置を提供する。
【解決手段】被検眼Eの情報を取得する眼科装置10であり、被検眼Eの前眼部画像E′を取得する撮像素子31gと、撮像素子31gで撮影した前眼部画像E′に基づいて、被検眼Eの開瞼状態を検出し、検出した被検眼Eの開瞼状態が適切でないときに、その旨を通知する開瞼状態検出部としての制御部26と、を備え構成する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の情報を取得する眼科装置であり、
前記被検眼の前眼部画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部で撮影した前記前眼部画像に基づいて、前記被検眼の開瞼状態を検出し、検出した前記被検眼の開瞼状態が適切でないときに、その旨の通知を検者に行う開瞼状態検出部と、を備え、
前記開瞼状態検出部は、前記被検眼の情報を取得する工程の所定のタイミングで前記画像取得部を制御して前記前眼部画像を取得させて、前記前眼部画像に基づいて前記開瞼状態を検出し、前記被検眼の情報を取得する工程に応じた内容の通知を行うよう構成され、
前記被検眼の情報を取得する工程が、前記被検眼に対する前記眼科装置のアライメント、前記被検眼の他覚検査、及び前記被検眼の自覚検査であることを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記検者が操作する検者用コントローラを備え、前記検者用コントローラは、前記画像取得部で取得した前記前眼部画像を表示する表示部と、前記検者に情報を通知する通知部と、を備え、前記開瞼状態検出部は、前記被検眼の開瞼状態が適切でないときに、その旨の通知を前記通知部によって前記検者に行うとともに、前記前眼部画像を前記表示部に表示させることを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記被検眼の情報を取得する測定光学系を備え、前記画像取得部が、前記測定光学系に設けられ、前記被検眼の前記測定光学系の光軸上の前記前眼部画像を取得する構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記画像取得部が、左右の前記被検眼に対応して一対設けられ、前記開瞼状態検出部は、一対の前記画像取得部で取得した左右の前記被検眼の前記前眼部画像に基づいて、左右それぞれの前記被検眼の前記開瞼状態を検出することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢等により被検眼の瞼が下がることを眼瞼下垂という。この眼瞼下垂等によって被検眼の開き(開瞼)が不十分であると、被検眼の情報を適切に取得できないことがあるため、その対策を図った技術が開発されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1には、開瞼した状態で撮像した検出前眼球画像と、瞳孔径を検出するための検出用眼球画像とを比較することで、眼瞼下垂等による瞳孔径の欠けがあっても正確な瞳孔径を検出しようとする瞳孔径検出装置が開示されている。特許文献2には、被検眼を撮影した画像から瞼の外縁を特定することによって、開瞼状態に応じた測定眼圧の信憑性を判断する眼圧測定装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、開瞼状態が不十分な場合でも、瞳孔や眼圧等の被検眼の情報を取得したり、被検眼の情報を推測したりしているため、測定結果の信頼性という点で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-196364号公報
【特許文献2】特開2013-106821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、被検眼の情報取得の信頼性を向上させることができる眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の眼科装置は被検眼の情報を取得する眼科装置であり、前記被検眼の前眼部画像を取得する画像取得部と、前記画像取得部で撮影した前記前眼部画像に基づいて、前記被検眼の開瞼状態を検出し、検出した前記被検眼の開瞼状態が適切でないときに、その旨の通知を検者に行う開瞼状態検出部と、を備え、前記開瞼状態検出部は、前記被検眼の情報を取得する工程の所定のタイミングで前記画像取得部を制御して前記前眼部画像を取得させて、前記前眼部画像に基づいて前記開瞼状態を検出し、前記被検眼の情報を取得する工程に応じた内容の通知を行うよう構成され、前記被検眼の情報を取得する工程が、前記被検眼に対する前記眼科装置のアライメント、前記被検眼の他覚検査、及び前記被検眼の自覚検査であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように構成された眼科装置では、前眼部画像を解析して、被検眼の開瞼状態を検出し、開瞼状態が適切でないときには、その旨が検者に通知される。そのため、検者は被検眼の開瞼状態が十分でないことを認識することができ、適切な開瞼状態となるように検者が迅速に対策を講じることができる。したがって被検眼の情報取得の信頼性を向上させることができる眼科装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る眼科装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る眼科装置の測定ユニットの概略構成を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係る眼科装置の測定光学系の概略構成を示す図である。
【
図4】第1実施形態に係る眼科装置の制御系のブロック構成を示す図である。
【
図5】開瞼状態を説明するための図であって、(a)は正常な開瞼状態を示し、(b)は眼瞼下垂の開瞼状態を示す。
【
図6】第1実施形態に係る眼科装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図7A】第1実施形態に係る眼科装置の表示部に表示される他覚検査時の画面の一例を示す図である。
【
図7B】第1実施形態に係る眼科装置の表示部に表示される他覚検査時の画面の他の例を示す図である。
【
図8】第1実施形態に係る眼科装置の表示部に表示される自覚検査時の画面の他の例を示す図である。
【
図9】他の異なる実施形態に係る眼科装置の2台のカメラと被検眼との位置関係を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明の眼科装置の第1実施形態を説明する。まず、第1実施形態に係る眼科装置10の全体構成を、
図1~
図4を参照しながら説明する。第1実施形態に係る眼科装置10は、被検者が左右の両眼を開放した状態で、被検眼の特性測定を両眼同時に実行可能な両眼開放タイプの眼科装置である。なお、両眼開放タイプに限定されるものではなく、片眼ずつ特性測定する眼科装置にも本発明を適用することができる。
【0011】
[眼科装置の全体構成]
本実施の形態の眼科装置10は、
図1に示すように、床面に設置された基台11と、検眼用テーブル12と、支柱13と、支持部としてのアーム14と、測定ユニット20とを備えている。この眼科装置10では、検眼用テーブル12と正対する被検者が、測定ユニット20に設けられた額当部15に額を当てた状態で被検眼の特性の測定を行う。なお、本明細書を通じて
図1に記すようにX軸、Y軸及びZ軸を取り、被検者から見て、左右方向をX方向とし、上下方向(鉛直方向)をY方向とし、X方向及びY方向と直交する方向(測定ユニット20の奥行き方向)をZ方向とする。
【0012】
検眼用テーブル12は、後述する検者用コントローラ27や被検者用コントローラ28を置いたり検眼に用いるものを置いたりするための机であり、基台11により支持されている。検眼用テーブル12は、Y方向での位置(高さ位置)を調節可能に基台11に支持されていてもよい。
【0013】
支柱13は、検眼用テーブル12の後端部からY方向に起立しており、上部にアーム14が設けられている。アーム14は、支柱13に取り付けられ、検眼用テーブル12の上方で一対の駆動機構22を介して一対の測定ヘッド23を吊り下げ支持するものである。アーム14は、支柱13に対してY方向に移動可能となっている。なお、アーム14は、支柱13に対してX方向及びZ方向に移動可能となっていてもよい。このアーム14の先端に、駆動機構22を介して一対の測定ヘッド23を有する測定ユニット20が設けられている。
【0014】
基台11には、眼科装置10の各部を統括的に制御する制御部26が、制御ボックス26bに収納されて設けられている。なお、制御部26には、電源ケーブル17aを介して商用電源から電力供給がなされる。
【0015】
[測定ユニット]
測定ユニット20は、任意の自覚検査及び任意の他覚検査の少なくとも一方を行う。なお、自覚検査では、被検者に視標等を提示し、この視標等に対する被検者の応答に基づいて検査結果を取得する。この自覚検査には、遠用検査、近用検査、コントラスト検査、グレア検査等の自覚屈折測定や、視野検査等がある。また、他覚検査では、被検眼に光を照射し、その戻り光の検出結果に基づいて被検眼に関する情報(特性)を測定する。この他覚検査には、被検眼の特性を取得するための測定と、被検眼の画像を取得するための撮影とが含まれる。さらに、他覚検査には、他覚屈折測定(レフ測定)、角膜形状測定(ケラト測定)、眼圧測定、眼底撮影、光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography:以下、「OCT」という)を用いた断層像撮影(OCT撮影)、OCTを用いた計測等がある。
【0016】
また、この測定ユニット20は、
図2に示すように、制御/電源ケーブル17bを介して制御部26に接続されており、この制御部26を経由して電力供給がなされる。また、測定ユニット20と制御部26との間の情報の送受信も、この制御/電源ケーブル17bを介して行われる。
【0017】
測定ユニット20は、
図2に示すように、取付ベース部21と、この取付ベース部21に設けられた左眼用駆動機構22L及び右眼用駆動機構22Rと、左眼用駆動機構22Lに支持された左眼測定ヘッド23Lと、右眼用駆動機構22Rに支持された右眼測定ヘッド23Rと、を備えている。
【0018】
左眼測定ヘッド23Lと右眼測定ヘッド23Rとは、X方向で双方の中間に位置する鉛直面に関して面対称な構成とされている。また、左眼測定ヘッド23Lに対応する左眼用駆動機構22Lの各駆動部の構成と、右眼測定ヘッド23Rに対応する右眼用駆動機構22Rの各駆動部の構成とは、X方向で双方の中間に位置する鉛直面に関して面対称な構成とされている。以下、個別に述べる時を除くと、単に測定ヘッド23、駆動機構22ということがある。左右に対称に設けられる他の構成部品についても同様である。
【0019】
取付ベース部21は、アーム14の先端に固定され、X方向に延在されると共に、一方の端部に左眼用駆動機構22Lが吊り下げられ、他方の端部に右眼用駆動機構22Rが吊り下げられている。また、この取付ベース部21の中央部には、額当部15が吊り下げられている。
【0020】
左眼用駆動機構22Lは、制御部26からの制御指令に基づいて、左眼測定ヘッド23LのX方向、Y方向、Z方向の位置、及び左眼ELの眼球回旋軸OL(
図2参照)を中心にした向きを変更する。この左眼用駆動機構22Lは、
図2に示すように、左鉛直駆動部22aと、左水平駆動部22bと、左回旋駆動部22cと、を有している。これらの各駆動部22a~22cは、取付ベース部21と左眼測定ヘッド23Lとの間に、上方側から左鉛直駆動部22a、左水平駆動部22b、左回旋駆動部22cの順に配置されている。
【0021】
左鉛直駆動部22aは、取付ベース部21に対して左水平駆動部22bをY方向に移動させる。左水平駆動部22bは、左鉛直駆動部22aに対して左回旋駆動部22cをX方向及びZ方向に移動させる。左回旋駆動部22cは、左水平駆動部22bに対して左眼測定ヘッド23Lを左眼ELの眼球回旋軸OLを中心に回転させる。
【0022】
右眼用駆動機構22Rは、制御部26からの制御指令に基づいて、右眼測定ヘッド23RのX方向、Y方向、Z方向の位置、及び右眼ERの眼球回旋軸OR(
図2参照)を中心にした向きを変更する。この右眼用駆動機構22Rは、
図2に示すように、右鉛直駆動部22dと、右水平駆動部22eと、右回旋駆動部22fと、を有している。これらの各駆動部22d~22fは、取付ベース部21と右眼測定ヘッド23Rとの間に、上方側から右鉛直駆動部22d、右水平駆動部22e、右回旋駆動部22fの順に配置されている。
【0023】
右鉛直駆動部22dは、取付ベース部21に対して右水平駆動部22eをY方向に移動させる。右水平駆動部22eは、右鉛直駆動部22dに対して右回旋駆動部22fをX方向及びZ方向に移動させる。右回旋駆動部22fは、右水平駆動部22eに対して右眼測定ヘッド23Rを右眼ERの眼球回旋軸ORを中心に回転させる。
【0024】
ここで、左鉛直駆動部22a、左水平駆動部22b、右鉛直駆動部22d、右水平駆動部22eは、いずれもパルスモータ等の駆動力を発生するアクチュエータと、複数の歯車組やラック・アンド・ピニオン等の駆動力を伝達する伝達機構と、を有している。なお、左水平駆動部22b及び右水平駆動部22eは、X方向とZ方向とで個別にアクチュエータ及び伝達機構の組み合わせを設けてもよく、構成を簡易にできるとともに水平方向の移動の制御を容易なものとすることができる。
【0025】
また、左回旋駆動部22c及び右回旋駆動部22fも、パルスモータ等の駆動力を発生するアクチュエータと、複数の歯車組やラック・アンド・ピニオン等の駆動力を伝達する伝達機構と、を有している。ここで、左回旋駆動部22c及び右回旋駆動部22fは、アクチュエータからの駆動力を受けた伝達機構を、眼球回旋軸OL,ORを中心位置とする円弧状の案内溝に沿って移動させることで、左眼ELの眼球回旋軸OL,右眼ERの眼球回旋軸ORを中心にそれぞれ左眼測定ヘッド23L、右眼測定ヘッド23Rを回転させることができる。
【0026】
なお、左回旋駆動部22c及び右回旋駆動部22fは、自らが有する回転軸線回りに左眼測定ヘッド23L、右眼測定ヘッド23Rを回転可能に取り付けるものでもよい。
【0027】
左回旋駆動部22c及び右回旋駆動部22fによって、左眼測定ヘッド23Lと右眼測定ヘッド23Rとを所望の方向に回旋させることで、被検眼を開散(開散運動)させたり輻輳(輻輳運動)させたりすることができる。これにより、眼科装置10では、開散運動及び輻輳運動のテストを行うことや、両眼視の状態で遠用検査や近用検査を行って両被検眼の各種特性を測定することができる。
【0028】
左眼測定ヘッド23Lは、
図2に示すように、左回旋駆動部22cに固定された左ハウジング23aに内蔵された左眼用測定光学系24Lと、左ハウジング23aの外側面に設けられた左眼用偏向部材25Lとを有している。
【0029】
また、右眼測定ヘッド23Rは、
図2に示すように、右回旋駆動部22fに固定された右ハウジング23bに内蔵された右眼用測定光学系24Rと、右ハウジング23bの外側面に設けられた右眼用偏向部材25Rと、を有している。
【0030】
左眼用測定光学系24L及び右眼用測定光学系24Rは、それぞれ提示する視標を切り替えながら視力検査を行う視力検査装置、矯正用レンズを切換え配置しつつ被検眼の適切な矯正屈折力を取得するフォロプタ、屈折力を測定するレフラクトメータや波面センサ、眼底の画像を撮影する眼底カメラ、網膜の断層画像を撮影する断層撮影装置、角膜内皮画像を撮影するスペキュラマイクロスコープ、角膜形状を測定するケラトメータ、眼圧を測定するトノメータ等が、単独又は複数組み合わされて構成されている。
【0031】
[測定光学系]
以下、右眼用測定光学系24Rの構成の一例を、
図3を参照して説明する。
図3は本実施の形態の眼科装置10の右眼用測定光学系24Rの概略構成を示す図である。なお、左眼用測定光学系24Lの構成は右眼用測定光学系24Rと同一であるので、その説明は省略することとし、以下では右眼用測定光学系24Rについてのみ説明する。また、測定光学系による測定原理等は公知であるので、詳細な説明は省略する。
【0032】
右眼用測定光学系24Rは、
図3に示すように、観察系31、視標投影系32、眼屈折力測定系33、アライメント系35、アライメント系36及びケラト系37を有する。
【0033】
観察系31は被検眼Eの前眼部を観察し、視標投影系32は被検眼Eに視標を呈示し、眼屈折力測定系33は眼屈折力の測定を行う。眼屈折力測定系33は、本実施の形態では、被検眼Eの眼底Efに所定の測定パターンを投影する機能と、眼底Efに投影した測定パターンの像を検出する機能とを有する。
【0034】
アライメント系35及びアライメント系36は、被検眼Eに対する光学系の位置合わせ(アライメント)を行う。アライメント系35は、観察系31の光軸に沿う方向(前後方向、Z方向)のアライメントを、アライメント系36が当該光軸に直交する方向(上下方向及び左右方向、Y方向及びX方向)のアライメントをそれぞれ行う。
【0035】
観察系31は、対物レンズ31a、ダイクロイックフィルタ31b、ハーフミラー31c、リレーレンズ31d、ダイクロイックフィルタ31e、結像レンズ31f及び画像取得部としての撮像素子(CCD)31gを有する。
【0036】
観察系31では、被検眼E(前眼部)で反射された光束を、対物レンズ31aを経て結像レンズ31fにより撮像素子31g上に結像する。これにより、撮像素子31g上には、後述するケラトリング光束やアライメント光源35aの光束やアライメント光源36aの光束(輝点像Br)が投光(投影)された前眼部画像E′が形成される。観察系31の撮像素子31gはこの前眼部画像E′を撮影する。制御部26は、撮像素子31gから出力される画像信号に基づく前眼部画像E′等を検者用コントローラ27の表示部30の表示面30aに表示させる。
【0037】
対物レンズ31aの前方には、ケラト系37が設けられている。ケラト系37は、ケラト板37a及びケラトリング光源37bを有する。ケラト板37aは、観察系31の光軸に関して同心状のスリットが設けられた板状を呈し、対物レンズ31aの近傍に設けられている。ケラトリング光源37bは、ケラト板37aのスリットに合わせて設けられている。
【0038】
ケラト系37では、点灯したケラトリング光源37bからの光束がケラト板37aのスリットを経ることで、被検眼E(角膜Ec)に角膜形状の測定のためのケラトリング光束(角膜曲率測定用リング状視標)を投光(投影)する。ケラトリング光束は、被検眼Eの角膜Ecで反射されることで、観察系31により撮像素子31g上に結像される。これにより、撮像素子31gがリング状のケラトリング光束の像(画像)を検出(受像)し、制御部26が、その測定パターンの像を表示部30の表示面30aに表示させ、かつ当該画像(撮像素子31g)からの画像信号に基づき角膜形状(曲率半径)を周知の手法により測定する。
【0039】
なお、本実施の形態では、角膜形状測定系として、リングスリットが1重から3重程度で角膜の中心付近の曲率測定を行うケラト板37aを用いる例(ケラト系37)を示しているが、角膜形状を測定するものであれば、多重のリングを有し角膜全面の形状を測定可能なプラチド板を用いるものでもよく、他の構成でもよく、本実施の形態の構成に限定されない。
【0040】
ケラト系37(ケラト板37a)の後方にはアライメント系35が設けられている。アライメント系35は、一対のアライメント光源35a及び投影レンズ35bを有し、各アライメント光源35aからの光束を各投影レンズ35bで平行光束とし、ケラト板37aに設けたアライメント用孔を通して被検眼Eの角膜Ecに当該平行光束を投光(投影)する。
【0041】
制御部26又は検者は、角膜Ecに投光(投影)された輝点(輝点像)に基づき、測定ヘッド23Rを前後方向に移動させることで、観察系31の光軸に沿う方向(前後方向)のアライメントを行う。この前後方向のアライメントは、撮像素子31g上のアライメント光源35aによる2個の点像の間隔とケラトリング像の直径の比を所定範囲内とするように測定ヘッド23Rの位置を調整して行う。
【0042】
なお、本実施形態では、測定光学系24Rの光軸は、右眼用偏向部材25Rによって折り曲げられており、測定光学系24Rの右眼用偏向部材25Rに対する鏡像の位置では、測定光学系24Rの光軸がZ軸と略一致するように構成されている。このため、測定光学系24Rの光軸方向におけるアライメントは、Z方向へのアライメントに相当する。
【0043】
ここで、制御部26は、当該比率からアライメントのずれ量を求めて、このアライメントのずれ量を表示面30aに表示させても良い。なお、前後方向のアライメントは、後述するアライメント光源36aによる輝点像Brのピントが合うように測定ヘッド23Rの位置を調整することで行ってもよい。
【0044】
また、観察系31にはアライメント系(平行光学系)36が設けられている。アライメント系36はアライメント光源36a及び投影レンズ36bを有し、ハーフミラー31c、ダイクロイックフィルタ31b及び対物レンズ31aを観察系31と共用する。
【0045】
アライメント系36は、アライメント光源(点光源)36aからの光束を、対物レンズ31aを経て平行光束として被検眼Eの角膜Ecに投光(投影)する。アライメント系36から被検眼Eの角膜Ecに投影された平行光束は、角膜頂点と角膜曲率中心の略中間位置に、アライメント光の輝点Rを形成する。制御部26又は検者は、角膜Ecに投光(投影)された輝点Rの虚像(輝点像)Brに基づき、測定ヘッド23を前後方向に移動させることで、観察系31の光軸に直交する方向(上下方向、左右方向)のアライメントを行う。
【0046】
このとき、制御部26は、輝点像Brが形成された前眼部画像E′に加えて、アライメントマークの目安となるアライメントマークALを表示面30aに表示させる。制御部26は、アライメントが完了すると測定を開始するように制御する構成としてもよい。
【0047】
なお、アライメント光源36aは、アライメント系36によるアライメント動作中にこのアライメント光源36aを被検者が視認することを抑止するために、赤外光(例えば940nm)を発光する発光ダイオードとされる。
【0048】
視標投影系32は、被検眼Eを固視、雲霧させる為に視標を投影し、眼底Efに呈示する光学系である。視標投影系32は、ディスプレイ32a、ロータリープリズム32A、32B、結像レンズ32b、移動レンズ32c、リレーレンズ32d、フィールドレンズ32f、ミラー32h及びダイクロイックフィルタ32iを有し、ダイクロイックフィルタ31b及び対物レンズ31aを観察系31と共用する。
【0049】
ディスプレイ32aは、他覚検査及び自覚検査を実施する際に、固視及び雲霧を行う風景チャートの他、ランドルト環やE文字視標等、検眼視標等を表示する。
【0050】
このディスプレイ32aとして、EL(エレクトロルミネッセンス)や液晶ディスプレイ(LCD)等の電子表示デバイスを用いることができ、制御部26の制御下で任意の画像を表示する。ディスプレイ32aは、視標投影系32の光路上において被検眼Eの眼底Efと共役となる位置に光軸に沿って移動可能に設けられている。
【0051】
ロータリープリズム32A、32Bは、斜位検査においてプリズム度数およびプリズム基底方向を調整するために用いられる。ロータリープリズム32A、32Bは、パルスモータ等の駆動によってそれぞれ独立に回転される。ロータリープリズム32A、32Bは、互いに逆方向に回転されるとプリズム度数が連続的に変更され、同じ方向に一体的に回転されるとプリズム基底方向が連続的に変更される。
【0052】
移動レンズ32cは、駆動モータにより光軸に沿って進退駆動される。移動レンズ32cを被検眼E側に移動させることで、屈折力をマイナス側に変位させることができると共に、移動レンズ32cを被検眼Eから離反する方向に移動させることで、屈折力をプラス側に変位させることができる。従って、移動レンズ32cの進退駆動により、ディスプレイ32aに表示された視標の呈示距離を変更可能、即ち視標像の呈示位置を変更可能であると共に、被検眼Eを固視、雲霧させることができる。
【0053】
眼屈折力測定系33は、被検眼Eの眼底Efにリング状の測定パターンを投影するリング状光束投影系33A、及び眼底Efからのリング状の測定パターンの反射光を検出(受像)するリング状光束受光系33Bを有する。
【0054】
リング状光束投影系33Aは、レフ光源ユニット部33a、リレーレンズ33b、瞳リング絞り33c、フィールドレンズ33d、穴開きプリズム33e及びロータリープリズム33fを有し、ダイクロイックフィルタ32iを視標投影系32と共用し、ダイクロイックフィルタ31b及び対物レンズ31aを観察系31と共用する。レフ光源ユニット部33aは、例えばLEDを用いたレフ測定用のレフ測定光源33g、コリメータレンズ33h、円錐プリズム33i及びリングパターン形成板33jを有し、それらが制御部26の制御下で眼屈折力測定系33の光軸上を一体的に移動可能とされる。
【0055】
リング状光束受光系33Bは、穴開きプリズム33eの穴部33p、フィールドレンズ33q、反射ミラー33r、リレーレンズ33s、合焦レンズ33t及び反射ミラー33uを有し、対物レンズ31a、ダイクロイックフィルタ31b、ダイクロイックフィルタ31e、結像レンズ31f及び撮像素子31gを観察系31と共用し、ダイクロイックフィルタ32iを視標投影系32と共用し、ロータリープリズム33f及び穴開きプリズム33eをリング状光束投影系33Aと共用する。
【0056】
[制御部]
制御部26は、眼科装置10の各部を統括的に制御する。制御部26には、
図4に示すように、上記した左眼用測定光学系24Lと、右眼用測定光学系24Rと、左眼用駆動機構22Lの左鉛直駆動部22a、左水平駆動部22b及び左回旋駆動部22cと、右眼用駆動機構22Rの右鉛直駆動部22d、右水平駆動部22e及び右回旋駆動部22fと、アーム駆動機構16と、に加えて、検者用コントローラ27と、被検者用コントローラ28と、記憶部29と、が接続されている。
【0057】
検者用コントローラ27は、検者が眼科装置10を操作するために用いられる。検者用コントローラ27と制御部26とは、近距離無線通信によって、互いに通信可能に接続されているが、有線によって接続されていてもよい。
【0058】
本実施の形態では、検者用コントローラ27として、タブレット端末、スマートフォンなどの携帯端末(情報処理装置)を用いている。これにより、検者が手に持って操作することができ、被検者や眼科装置10に対して、いずれの位置からでも操作することができるため、測定時の検者の自由度を高めることができる。なお、検者用コントローラ27を検眼用テーブル12に置いて操作することもできる。また、検者用コントローラ27が携帯端末に限定されることもなく、ノート型パーソナルコンピュータ、デスクトップ型パーソナルコンピュータ等であってもよい。また、眼科装置10専用のコントローラであってもよい。
【0059】
検者用コントローラ27は、タッチパネルディスプレイからなる表示部30を備えている。この表示部30は、画像等が表示される表示面30aと、この表示面30a上に重畳して配置されたタッチパネル式の入力部30bを備えている。検者は、被検眼の特性を測定する際に、この入力部30bからアライメントの指示や測定の指示を入力する。表示面30aには、撮像素子31gで受光した画像信号に基づく前眼部画像E′(EL′,ER′)や、入力部30bとしての操作画面等が表示される。
【0060】
また、検者用コントローラ27は、検者に情報を通知するための通知部30cを備えている。通知部30cは、例えば、スピーカ、ブザー、ライト等からなり、制御部26の制御により、通知する情報に対応して、音声メッセージや効果音を出力し、光の点灯や点滅等を行う。また、本実施形態では、表示部30に通知メッセージや画像を表示して通知する構成であり、表示部30は通知部としても機能する。
【0061】
被検者用コントローラ28は、被検眼Eの各種の眼情報の取得の際に、被検者が応答するために用いられる。被検者用コントローラ28は、例えばキーボード、マウス、ジョイスティック等の入力装置を備えている。被検者用コントローラ28は、近距離無線通信又は有線の通信を介して制御部26と接続されている。
【0062】
制御部26は、接続された記憶部29又は内蔵する内部メモリ26aに記憶したプログラムを例えばRAM上に展開することにより、適宜検者用コントローラ27や被検者用コントローラ28に対する操作に応じて、眼科装置10の動作を統括的に制御するとともに、各種駆動機構を制御する駆動制御部、表示部30への表示を制御する表示制御部、被検眼Eの開瞼状態を検出する開瞼状態検出部等として機能する。本実施形態では、内部メモリ26aはRAM等で構成され、記憶部29は、ROMやEEPROM等で構成される。
【0063】
以下、制御部26の開瞼状態検出部としての機能について説明する。制御部26は、撮像素子31gで撮影した前眼部画像E′に基づいて、被検眼Eの開瞼状態を検出する。この開瞼状態の検出は、一連の検査工程の中で、撮像素子31gで前眼部画像E′を撮影したタイミングで一回のみ行ってもよいが、本実施形態では、アライメント、他覚検査、自覚検査等の各工程において前眼部画像E′を撮影し、開瞼状態を検出している。
【0064】
開瞼状態とは、被検眼Eの瞼の開きの度合いを意味する。開瞼状態が不十分であると、アライメントや被検眼Eの検査時に、被検眼Eへの各種光束の投影、被検眼Eで反射した輝点像やリング像、パターン像等の検出が良好に行えなくなり、アライメントや検査の信頼性に影響することがある。
【0065】
熟練した検者は、被検眼の状態を常時確認して、開瞼状態が適切になるように対応しながら検査等を行うが、不慣れな検者等は、眼科装置10の操作等に集中するあまり、開瞼状態まで配慮できない場合がある。また、通信システム等を通じて眼科装置10を遠隔操作する場合等は、被検眼Eの状態を常時確認するのは困難である。したがってアライメントや検査の信頼性を高めるためには、被検眼Eの開瞼状態を検者に認識させることが重要である。
【0066】
図5に、開瞼状態の例を示す。
図5(a)は、正常な開瞼状態の被検眼Eであり、上瞼が十分に上方に引き上げられており、瞳孔全体が明確に確認できている。
図5(b)は、眼瞼下垂の被検眼Eの開瞼状態を示し、上瞼の開きが不十分で、虹彩や瞳孔が上瞼で隠れている。
【0067】
開瞼状態の検出は、公知の画像処理技術を用いて行うことができる。例えば、正常な開瞼状態の被検眼の画像、眼瞼下垂の被検眼の画像など、開瞼状態が様々な被検眼の画像を予め用意し、パターンマッチング技術等を用いて、開瞼状態を検出してもよい。このとき、眼瞼下垂の度合い(重度)、年齢、人種等に応じて、様々なタイプの眼瞼下垂の被検眼の画像を用意しておくことが、より望ましい。また、被検眼Eの形状や開瞼状態は個人差があるため、正常な開瞼状態の被検眼についても、より多くの画像を用意しておくことが
望ましい。これにより、被検眼Eの開瞼状態を、より高精度に検出することができる。
【0068】
また、他の異なる開瞼状態の検出として、特許文献2に記載の手法のように、前眼部画像E′を解析し、被検眼Eの瞼の外縁(輪郭)を特定してもよい。この場合、瞼は瞳孔や虹彩よりも輝度が高いため、この輝度差に基づいて瞼の外縁を特定することができる。例えば、瞳孔については、瞳孔の形状を考慮しつつ、撮影画像の輝度値等の分布に基づいて、略円形かつ低輝度の画像領域を探索することによって、瞳孔に相当する画像領域(瞳孔領域)を特定し、瞳孔を容易に検出することができる。
【0069】
より具体的には、制御部26は、前眼部画像E′の画素を上下方向(Y方向)に走査し、輝度の変化を検出することにより、瞼と、虹彩や瞳孔との境界点を特定することができる。つまり、輝度が高い値から低い値に切替わったとき、走査対象が瞼から虹彩等に切替わったことがわかり、輝度が低い値から高い値に切替わったとき、走査対象が虹彩等から瞼に切替わったことがわかる。この切替わりの境界を瞼の外縁とすることができる。
【0070】
瞼の外縁の特定は、例えば、被検眼Eの所定箇所(例えば、中央)の上瞼の一点と下瞼の一点であってもよいし、それぞれ2点以上を特定してもよい。又は、複数の点を取得し、これらをペジエ曲線等で繋いで瞼の外縁全体を特定してもよい。
【0071】
制御部26は、検出した開瞼状態が、適切であるか否かを判定する。例えば、被検眼Eの横幅と縦幅の長さの割合を算出し、その割合が閾値以上であれば開瞼状態が適切と判定し、閾値未満であれば不適切と判定する。他の例として、被検眼Eの上瞼の外縁と下瞼の外縁との距離を算出し、その距離と閾値とを比較して適否を判定する。
【0072】
さらに異なる例として、瞳孔に対する瞼の位置関係に応じて適否を判定することもできる。具体的には、前眼部画像E′から瞼(上瞼)と瞳孔とを検出し、上瞼の外縁が瞳孔よりも上方に位置して、瞳孔が上瞼によって隠れていない場合は、開瞼状態が適切であると判定する。これに対して、上瞼の外縁が瞳孔と重なっている場合、上瞼に隠れて瞳孔が検出できない場合等は、開瞼状態が適切でない、具体的には眼瞼下垂と判定する。または、検出した瞳孔が円形又は楕円形であれば開瞼状態が適切であると判定し、瞳孔の円又は楕円が欠けている場合は、瞳孔が上瞼によって隠されているため、開瞼状態が適切でないと判断できる。
【0073】
そして、制御部26は、眼瞼下垂を検出する等して開瞼状態が適切でないと判定したときは、その旨を通知部30cによって検者に通知する。本実施形態では、表示部30に通知メッセージを表示して通知する。この通知メッセージは、開瞼状態が不適切と判定された原因に応じた内容で通知することがより望ましい。例えば、アライメント中に眼瞼下垂を検出したときは、眼瞼下垂を検出した旨の通知メッセージを画像として表示部30の表示面30aに表示する。この通知により、検者は眼検下垂によってアライメントが適切に行われていないことを認識することができる。また、自覚検査や他覚検査の実行中に、眼瞼下垂を検出したときも、その都度、実行中の検査に応じた通知を行う。
【0074】
なお、検者への通知が、通知メッセージ等の表示部30への表示に限定されるものではない。音声メッセージやブザー等の通知音であってもよいし、光の点灯や点滅などによって通知してもよいし、以上を組み合わせて通知してもよい。
【0075】
(眼科装置の動作例)
上述のような構成の本実施の形態の眼科装置10の動作の一例を、
図6のフローチャートに従って説明する。
【0076】
まず、眼科装置10の電源スイッチを投入し、検者用コントローラ27のブラウザ又はアプリを立ち上げると、制御部26は、表示部30の表示面30aに、他覚検査モード又は自覚検査モードを選択する選択画面(入力部30b)を表示する。
【0077】
次いで、被検者を椅子等に座らせて、眼科装置10と対峙させ、測定ユニット20の額当部15に額を当てさせる。この状態で、検者は、選択画面において、例えば他覚検査モードを選択する。
【0078】
他覚検査モードが選択されると、制御部26の制御により、視標投影系32がディスプレイ32aの中央位置に固視標を表示させる(ステップS1)。この状態で、検者は被検者に対して固視標を固視するように指示する。
【0079】
次に、ステップS2では被検者に固視標を固視させた状態で、制御部26がアライメント系35,36を駆動制御して、アライメントを実行させる。アライメント系35,36は、アライメント光源35a,36aを点灯させ、撮像素子31gで撮影した前眼部画像E′中の輝点像Br等に基づいて、測定ヘッド23の上下方向(Y方向)、左右方向(X方向)、及び前後方向(Z方向)のアライメントを行う。
【0080】
このアライメントの際に撮影した、前眼部画像E′に基づいて、ステップS3で、制御部26は、前述したような解析処理を行って被検眼Eの開瞼状態を検出する。次いで、ステップS4で、制御部26は開瞼状態が適切であるか否かを判定し、適切であると判定した場合は(ステップS4の判定がYES)、ステップS6へ進む。
【0081】
一方、眼瞼下垂等を検出して、開瞼状態が適切でないと判定した場合は(ステップS4の判定がNO)ステップS5に進み、制御部26は開瞼状態が適切でない(眼瞼下垂を検出した)旨の通知メッセージと、前眼部画像E′を表示部30の表示面30aに表示する。この通知メッセージにより、検者は被検眼Eに眼瞼下垂があることを認識することができる。このとき、アライメントエラー等を生じた場合、検者は眼瞼下垂によってエラーとなったことを認識することができる。
【0082】
また、表示面30a上の前眼部画像E′を視認することで、確かに眼瞼下垂があること、さらには眼瞼下垂の度合いなど、開瞼状態をより詳細に確認することができる。また、前眼部画像E′をライブ映像で常時表示面30aに表示することで、実際に被検眼Eに眼瞼下垂があるのか、又は瞬きによって眼瞼下垂と誤認定されたのか、等を確認することもできる。
【0083】
検者は、通知メッセージ等に基づいて、アライメントを適切に実行するための対策を講じることができる。例えば、眼瞼下垂の場合は、検者が指で被検眼Eの瞼を押し上げて、開瞼させる。または、瞬きによって眼瞼下垂と判定された場合は、被検者に対して瞬きをしないように指示することができる。
【0084】
次いで、検者が検者用コントローラ27上で処理続行の指示操作をすると、この指示操作を受けて、制御部26はステップS2に戻って、アライメントを再度実行する。
【0085】
アライメントが適切に実行されたら、次のステップS6で、ケラト系37によるケラト測定や、眼屈折力測定系33による屈折力測定(レフ測定)、眼圧測定、眼底撮影、OCT撮影等の他覚検査を実行する。他覚検査の結果は、制御部26によって表示部30の表示面30aに表示される。
【0086】
この他覚検査の際にも、ステップS7に進み、前眼部画像E′を撮影し、解析して、ステップS8で開瞼状態が適切であるか否かを判定する。この前眼部画像E′の撮影は、他覚測定で撮像素子31gによって眼底Efの画像を撮影する直前又は直後に行うことができる。開瞼状態が適切であると判定した場合は(ステップS8の判定がYES)、ステップS10へ進む。
【0087】
図7Aに、他覚検査の屈折力測定(レフ測定)の結果を表示部30に表示した画面の一例を示す。この
図7Aに示すように、表示面30aには、左眼EL及び右眼ERの前眼部画像EL′,ER′と、測定結果(球面度数S、円柱度数C、軸角度A、瞳孔間距離PD、角膜頂点間距離VD等)とが表示されている。
【0088】
一方、眼瞼下垂等を検出して、開瞼状態が適切でないと判定した場合は(ステップS8の判定がNO)、ステップS9に進み、開瞼状態が適切でない(眼瞼下垂を検出した)旨の通知メッセージと、前眼部画像E′を表示部30の表示面30aに表示する。
図7Bに、開瞼状態が適切でないときに表示部30に表示される画面の例を示す。この
図7Bの例では、表示面30aに眼瞼下垂のある左眼EL及び右眼ERの前眼部画像EL′,ER′が表示され、通知メッセージの画像が、点滅状態で表示されている。
【0089】
この通知により、検者は被検眼Eに眼瞼下垂があることや、眼瞼下垂が原因で他覚検査が適切に行われていない可能性があることを認識できる。検者は、被検眼Eを指で開瞼させる等の対応を行って、再度他覚検査を行うべく、検者用コントローラ27で検査続行の指示操作を行う。この指示操作を受けて、制御部26は、ステップS6に戻って、他覚検査を再度実行する。
【0090】
次に、選択画面において、検者が自覚検査モードを選択すると、この選択に対応して、ステップS10で、自覚検査を行う。制御部26は、視標投影系32を制御して、ディスプレイ32aに、所定の自覚検査用の視標を表示する。また、制御部26は、駆動モータを駆動して、例えば、レフ測定結果に応じた位置に移動レンズ32cを配置する。また、制御部26は、パルスモータ等を駆動して、例えばレフ測定結果に応じて、被検眼Eの乱視を矯正するように、ロータリープリズム32A、32Bを回転させて、プリズム度数を調整する。
【0091】
被検者は、提示された視標に対する応答を行う。視標の選択とそれに対する応答が、検者又は制御部26の判断により繰り返し行われる。制御部26は、被検者からの応答に基づいて処方値を決定し、表示部30に表示する。
図8に、自覚検査時の結果を表示部30に表示した画面の一例を示す。この
図8に示すように、表示面30aには、左眼EL及び右眼ERの前眼部画像EL′,ER′と、処方値とが表示される。
【0092】
この自覚検査の際にも、ステップS11で、前眼部画像E′を解析して、開瞼状態を検出する。次いで、ステップS12で、開瞼状態が適切であるか否かを判定し、適切であると判定した場合は(ステップS12の判定がYES)、処理を終了する。
【0093】
一方、眼瞼下垂等を検出して、開瞼状態が適切でないと判定した場合は(ステップS12の判定がNO)、ステップS13に進み、開瞼状態が適切でない旨の通知メッセージの点滅表示と、前眼部画像E′を表示部30の表示面30aに表示する。これにより、検者は被検眼Eに眼瞼下垂があることや、眼瞼下垂が原因で自覚検査が適切に行われていない可能性があることを認識できる。検者は、被検眼Eを指で開瞼させる等の対応を行って、再度自覚検査を行うべく、検者用コントローラ27で検査続行の指示操作を行う。この指示操作を受けて、制御部26は、ステップS10に戻って、自覚検査を再度実行する。
【0094】
以下、第1実施形態の眼科装置10の作用効果を説明する。第1実施形態の眼科装置10は、上述したように、被検眼Eの前眼部画像E′を取得する撮像素子31gと、撮像素子31gで撮影した前眼部画像E′に基づいて、被検眼Eの開瞼状態を検出し、検出した被検眼Eの開瞼状態が適切でないときに、その旨を通知する開瞼状態検出部としての制御部26と、を備えた構成である。
【0095】
この構成により、被検眼Eの開瞼状態が適切である場合は、被検眼Eのアライメントや情報の取得を迅速かつ高精度に行うことができる。これに対して、被検眼Eの開瞼状態が適切でないときには、その旨が検者に通知される。そのため、検者は被検者の開瞼状態が十分でないことを認識することができる。特に不慣れな検者や、遠隔での検査の際にも、開瞼状態を、確実に把握することができる。これにより、適切な開瞼状態となるように検者が迅速に対策を講じることができる。したがって被検眼Eの情報取得の信頼性を向上させることができる。
【0096】
また、制御部26は、開瞼状態として、眼瞼下垂を検出したときに、開瞼状態が適切でないと判定する構成とすれば、検者は被検眼Eが眼瞼下垂であることを確実に把握することができる。この場合、検者が指で被検眼Eの瞼を開く等、十分な開瞼状態となるように対策を講じることができ、眼科装置10の信頼性を向上させることができる。
【0097】
また、制御部26は、開瞼状態が適切でない旨の通知メッセージの表示、通知メッセージ若しくは光の点灯若しくは点滅、及び、音声若しくは警告音の出力のいずれかによって検者に通知することができる。これにより、開瞼状態が適切でない旨を、検者に的確に通知することができる。
【0098】
また、制御部26は、前眼部画像E′から瞳孔及び瞼の外縁を抽出し、瞳孔に対する瞼の外縁の位置関係に基づいて、開瞼状態を検出するものとすることができる。この構成により、開瞼状態をより明確に検出することができる。また、瞳孔と瞼の外縁との位置関係により、開瞼状態が不適切な原因が、眼瞼下垂によるものか、縮瞳や散瞳、斜位、斜視等によるものか等、より詳細に分析することができる。また、この原因に応じて、通知メッセージ等を変更してもよく、より詳細な情報を検者に通知することができる。
【0099】
また、上記実施形態では、被検眼Eの情報を取得する測定光学系24を備え、画像取得部としての撮像素子31gが、測定光学系24に設けられ、被検眼Eの測定光学系24の光軸上の前眼部画像E′を取得する構成である。この構成により、測定光学系24の撮像素子31gを、開瞼状態を検出する前眼部画像E′を取得する画像取得部として兼用することができ、眼科装置10の簡易化やコンパクト化が可能となる。更に、既存の眼科装置にも適用することができる。
【0100】
また、上記実施形態において、制御部26は、撮像素子31gが前眼部画像E′を取得したタイミングで開瞼状態を検出する構成とし、そのタイミングで通知を行うようにすることができる。これにより、被検眼Eの情報を取得する工程の中で、一度は開瞼状態の検出が実行され、検者が開瞼状態の適否を認識することができる。また、制御部26は、被検眼Eの情報を取得する工程の所定のタイミング、例えば、アライメント時や、遠用検査、近用検査、コントラスト検査、グレア検査、視野検査等の自覚検査時や、他覚屈折測定(レフ測定)、角膜形状測定(ケラト測定)、眼圧測定、眼底撮影、OCT撮影、計測屈折測定等の自覚検査時に、撮像素子31gを制御して前眼部画像E′を取得させて、前眼部画像E′に基づいて開瞼状態を検出し、前眼部画像E′を取得したタイミングに応じた内容の通知を行う構成とすることができる。この構成により、検者はいずれのタイミング(工程)で開瞼状態の不具合が検出されたかを把握することができ、工程に応じた適切な対策を講じることができる。
【0101】
また、上記実施形態では、撮像素子31gが、左右の被検眼Eに対応して一対設けられ、制御部26は、一対の撮像素子31gで取得した左右の被検眼E(EL,ER)の前眼部画像EL′,ER′に基づいて、左右それぞれの被検眼E(EL,ER)の開瞼状態を検出する構成である。この構成により、両眼の開瞼状態を把握することができ、特に両眼視検眼での検査の信頼性を向上させることができる。
【0102】
また、上記実施形態では、撮像素子31gで取得した前眼部画像E′を表示する表示部30を備えていることで、検者は通知メッセージとともに、表示部30に表示された前眼部画像E′を視認することで、開瞼状態をより詳細に把握することができ、より適切な対策を講じることができ、眼科装置10の信頼性をより向上させることができる。
【0103】
以上、本発明の眼科装置を実施形態に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0104】
例えば、上記実施形態では、被検眼Eの前眼部画像E′を取得する画像取得部として、観察系31の撮像素子31gを兼用しているが、これに限定されるものではない。他の異なる実施形態として、画像取得部を、被検眼Eの前眼部を異なる方向から撮影する2以上の撮影部(カメラ)から構成することができる。
【0105】
具体的には、
図9に示すように、左眼用及び右眼用偏向部材25L,25Rに近接して、左及び右ハウジング23a,23b内の、左眼用及び右眼用測定光学系24L,24Rの光軸を挟んで前後(Z方向)に、それぞれ2台のカメラ(撮像部、ステレオカメラ)40L,41L,40R,41Rを設ける。これらのカメラは、眼科装置10に新たに設けてもよいし、ステレオカメラを備えた眼科装置10であれば、そのステレオカメラを画像取得部として兼用してもよい。なお、ステレオカメラの配置は、光軸を挟んで上下であってもよい。また、カメラの台数が各被検眼Eに対して2台に限定されるものではなく、例えば、前後及び上下に4台設けるなど、カメラを3台以上設けてもよい。
【0106】
各カメラ40L,41L,40R,41Rは、左眼用又は右眼用偏向部材25L,25Rを介して屈曲して入射する被検眼E(左眼EL、右眼ER)の前眼部画像E′(EL′、ER′)を撮影する。
【0107】
カメラ40L,41L,40R,41Rにより撮影された前眼部画像E′を解析することによって、被検眼Eの開瞼状態を検出する。また、この前眼部画像E′の解析に基づいて、Z方向へのアライメントを実行してもよい。
【0108】
例えば、測定光学系24を用いて、被検眼Eのレフ測定や眼底撮影等を実行しているときには、眼科装置10では、リング状光束投影系33Aを用いて被検眼Eの眼底Efにリング状の測定パターンを投影し、眼底Efからの当該測定パターンの反射光の像を撮像素子31gで撮影している。このように、レフ測定時は撮像素子31gが、被検眼Eの眼底Efの画像を撮影しているため、撮像素子31gで同時に前眼部画像E′を撮影することは困難で、時間をずらして撮影する必要がある。
【0109】
そのため、本実施形態のように撮像素子31gとは別個に設けたカメラ40L,41L,40R,41Rによって前眼部画像E′を撮影することで、撮像素子31gを用いた他覚検査と実質同時に前眼部画像E′を撮影して、被検眼Eの開瞼状態を検出することができる。また、カメラ40L,41L,40R,41Rによって異なる方向から撮影された複数の前眼部画像E′により、被検眼Eの開瞼状態を、より多面的に検出することができる。勿論、カメラ40L,41L,40R,41Rで撮影した前眼部画像E′に基づく開瞼状態の検出と、撮像素子31gで撮影した前眼部画像E′に基づく開瞼状態の検出との双方を実行してもよいし、検査工程に応じていずれかを実行してもよい。
【0110】
また、他の実施形態として、制御部26が、被検眼Eの瞳孔に関する情報、具体的には、例えば、瞳孔径、瞳孔面積、白内障の有無等を検出し、被検眼Eの開瞼状態とともに、前眼部画像E′と瞳孔に関する情報とを表示部30に表示する構成としてもよい。これにより、被検眼Eの状態をより詳細に把握することができ、アライメントや検査結果の信頼性を精度よく評価できる。また、被検眼Eのアライメントや検査がエラーとなった場合は、開瞼状態に起因するか、瞳孔状態に起因するか、又は双方に起因するかなど、より詳細に分析することができ、信頼性の向上を図ることができる。エラーとなる原因としては、例えば、眼瞼下垂、縮瞳又は散瞳、白内障、不適切な固視、斜視、斜位等が挙げられ、両眼視の場合は、さらに不適切な両眼視、抑制、頭部の傾き等が挙げられる。開瞼状態と瞳孔の状態とに基づいて、エラーの原因を、より詳細に分析することができる。
【0111】
また、アライメントや検査がエラーとなることなく行われた場合でも、表示部30に表示された通知メッセージや前眼部画像E′、瞳孔に関する情報を検者が視認することで、眼瞼下垂、縮瞳又は散瞳の有無、白内障、斜視、その他の被検眼Eの状態を認識できる。そのため、検者は検査結果が適切でない可能性があることを認識できる。その場合は、被検眼Eの状態が適切になるように検者が補助しながら再度検査したり、被検眼Eの状態に適した検査手法を選択したりするなど、対策を講じることができる。したがって、検査結果の信頼性を向上させることができるとともに、エラーの繰り返しのない効率的な検査が可能となる。
【0112】
瞳孔径の検出手法としては、特に限定されるものではなく、公知の手法等、適宜の手法を用いることができる。例えば、撮像素子31gで撮影した前眼部画像E′また、ステレオカメラによって前眼部画像E′を撮影する場合には、例えば、複数の前眼部画像E′のうち、少なくとも1つの前眼部画像E′から、瞳孔の輪郭線を検出し、瞳孔の境界座標を算出する。輪郭線は、例えば、前眼部画像E′の瞳孔と虹彩との間の明度の差に基づいて検出することができる。次いで、瞳孔の境界座標を楕円近似して、瞳孔近似楕円の中心、長径及び短径を算出し、算出結果に基づいて、瞳孔径を算出することができる。
【0113】
また、上記実施形態では、左眼用測定光学系24Lと右眼用測定光学系24Rを備え、両眼視で被検眼Eの特性を測定しているが、これに限定されるものではない。片眼視の状態で被検眼Eの特性を測定する場合にも適用することができ、検者が被検眼Eの開瞼状態を適切に把握することができる。これにより、開瞼状態が適切でない場合は、迅速に対策を講ずることができ、眼科装置10の信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0114】
10 眼科装置 24 測定光学系 26 制御部(開瞼状態検出部)
30 表示部 31g 撮像素子(画像取得部)
40L,40R,41L,41R カメラ(画像取得部)
E 被検眼 E′ 前眼部画像