(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132931
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】電磁流量計
(51)【国際特許分類】
G01F 1/60 20060101AFI20230914BHJP
【FI】
G01F1/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022038533
(22)【出願日】2022-03-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】230128026
【弁護士】
【氏名又は名称】駒木 寛隆
(72)【発明者】
【氏名】津村 浩助
(72)【発明者】
【氏名】石川 郁光
【テーマコード(参考)】
2F035
【Fターム(参考)】
2F035CA08
2F035CB09
2F035CB10
(57)【要約】
【課題】より単純な回路構成で被測定流体に関する異常を検出することを可能にする。
【解決手段】チューブ13内を流れる被測定流体に対して励磁電流により生じる磁界を与え、チューブ13内に設けられた測定電極14に発生する検出信号に基づいて被測定流体の流量を測定する電磁流量計1は、検出信号から予め定められた周波数を超える周波数成分を高周波数成分として抽出し、抽出された高周波数成分に基づいて、被測定流体に関する異常の有無を検出する、制御部21を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定管内を流れる被測定流体に対して励磁電流により生じる磁界を与え、前記測定管内に設けられた電極に発生する検出信号に基づいて前記被測定流体の流量を測定する電磁流量計であって、
前記検出信号から予め定められた周波数を超える周波数成分を高周波数成分として抽出し、
前記抽出された高周波数成分に基づいて、前記被測定流体に関する異常の有無を検出する、
制御部を備える電磁流量計。
【請求項2】
前記制御部は、前記抽出された高周波成分と、予め設定された基準となる高周波成分とを比較し、両者の差分が予め定められた閾値を上回る場合、前記被測定流体に関する異常を検出する、請求項1に記載の電磁流量計。
【請求項3】
前記制御部は、前記被測定流体に関する異常が検出された場合にアラームを出力する、請求項1又は2に記載の電磁流量計。
【請求項4】
前記制御部は、前記被測定流体に関する異常が検出された場合、前記抽出された高周波成分の周波数特性に基づいて、前記被測定流体に関する異常の要因を特定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の電磁流量計。
【請求項5】
前記制御部は、
前記検出信号から予め定められたタイミングで間引かれた信号から、前記予め定められた周波数を超える周波数成分を前記高周波数成分として抽出し、
前記間引かれた信号から抽出された前記高周波成分に基づいて、前記抽出された高周波成分の周波数特性を取得する、
請求項4に記載の電磁流量計。
【請求項6】
前記制御部は、
前記抽出された高周波数成分から予め定められたタイミングで間引かれた信号を取得し、
前記間引かれた信号に基づいて、前記抽出された高周波成分の周波数特性を取得する、
請求項4に記載の電磁流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁誘導を利用して導電性の流体の流量を計測する電磁流量計が知られている。特許文献1には、被測定流体の流量及び抵抗を測定して被測定流体に関する異常を検出することが可能な電磁流量計が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の電磁流量計は回路構成が複雑で回路規模に改善の余地があった。
【0005】
本開示の目的は、より単純な回路構成で被測定流体に関する異常を検出することが可能な電磁流量計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る電磁流量計によれば、測定管内を流れる被測定流体に対して励磁電流により生じる磁界を与え、前記測定管内に設けられた電極に発生する検出信号に基づいて前記被測定流体の流量を測定する電磁流量計であって、前記検出信号から予め定められた周波数を超える周波数成分を高周波数成分として抽出し、前記抽出された高周波数成分に基づいて、前記被測定流体に関する異常の有無を検出する、制御部を備える。このように、電磁流量計は、測定管内の電極に発生する検出信号に基づいて被測定流体に関する異常の有無を検出するため、被測定流体の抵抗を測定する構成を設けることなく、より単純な回路構成で被測定流体に関する異常を検出することが可能である。
【0007】
一実施形態に係る電磁流量計において、前記制御部は、前記抽出された高周波成分と、予め設定された基準となる高周波成分とを比較し、両者の差分が予め定められた閾値を上回る場合、前記被測定流体に関する異常を検出してもよい。このように、電磁流量計は、検出信号から抽出された高周波成分と、基準となる高周波成分とを比較して異常を検出するため、異常を適切に検出することが可能である。
【0008】
一実施形態に係る電磁流量計において、前記制御部は、前記被測定流体に関する異常が検出された場合にアラームを出力してもよい。このように、電磁流量計は、異常が検出された場合にアラームを出力するため、ユーザーは異常の発生を容易に認識することが可能である。
【0009】
一実施形態に係る電磁流量計において、前記制御部は、前記被測定流体に関する異常が検出された場合、前記抽出された高周波成分の周波数特性に基づいて、前記被測定流体に関する異常の要因を特定してもよい。このように、電磁流量計は、被測定流体に関する異常の要因を特定するため、ユーザーは、異常の要因に応じて適切なメンテナンスを実施することが可能である。
【0010】
一実施形態に係る電磁流量計において、前記制御部は、前記検出信号から予め定められたタイミングで間引かれた信号から、前記予め定められた周波数を超える周波数成分を前記高周波数成分として抽出し、前記間引かれた信号から抽出された前記高周波成分に基づいて、前記抽出された高周波成分の周波数特性を取得してもよい。このように、電磁流量計は、間引かれた信号から抽出された高周波成分に基づき、高周波成分の周波数特性を取得するため、異常の要因を高い精度で特定することが可能である。
【0011】
一実施形態に係る電磁流量計において、前記制御部は、前記抽出された高周波数成分から予め定められたタイミングで間引かれた信号を取得し、前記間引かれた信号に基づいて、前記抽出された高周波成分の周波数特性を取得してもよい。このように、電磁流量計は、検出信号の高周波成分を間引いて取得した信号に基づき、高周波成分の周波数特性を取得するため、異常の要因を高い精度で特定することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
本開示の一実施形態によれば、より単純な回路構成で被測定流体に関する異常を検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態に係る電磁流量計の構成例を示す図である。
【
図3】
図1の電磁流量計におけるサンプリングの一例を示すタイミングチャートである。
【
図4A】気泡を含む被測定流体の流量信号の時間変化の一例を示すグラフである。
【
図4B】気泡を含む被測定流体のノイズレベルのスペクトル分布の一例を示すグラフである。
【
図5】
図1の電磁流量計が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<比較例>
電磁流量計は、被測定流体が流れる方向に対して直行する方向に磁界がかけられた測定管内に導電性の被測定流体を流し、発生した起電力を計測する。この起電力は被測定流体の流速に比例するため、電磁流量計は、計測された起電力に基づいて被測定流体の体積流量を得ることができる。
【0015】
比較例に係る電磁流量計は、被測定流体の流量に加えて、被測定流体の抵抗(導電率)を測定し、測定された流量及び抵抗を解析して、被測定流体に関する異常を検出する。検出される異常には、電極への絶縁性異物の付着、電極の腐食、被測定流体における気泡の発生、被測定流体の低導電率化、及びスラリー(泥漿)流体の発生等である。
【0016】
しかし、比較例に係る電磁流量計は、このような異常を検出するために、被測定流体の抵抗を測定してサンプリングするための回路が必要であり、回路構成が複雑で回路規模に改善の余地があった。
【0017】
<実施形態>
本開示に係る電磁流量計は、電磁誘導により発生した被測定流体の起電力の高周波成分に基づき、被測定流体に関する異常を検出する。したがって、本開示に係る電磁流量計は、被測定流体の抵抗を測定及びサンプリングするための回路が不要であり、より単純な回路構成で被測定流体に関する異常を検出することが可能である。
【0018】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照して説明する。各図面中、同一の構成又は機能を有する部分には、同一の符号を付している。本実施形態の説明において、同一の部分については、重複する説明を適宜省略又は簡略化する場合がある。
【0019】
(電磁流量計の構成)
図1は、一実施形態に係る電磁流量計1の構成例を示す図である。電磁流量計1は、検出器30及び変換器40を備える。
【0020】
検出器30は、被測定流体の流速に比例した起電力を検出する。検出器30は、磁気回路11、チューブ13、一対の測定電極14(14a,14b)、及びアース電極15を備える。
【0021】
磁気回路11は、被測定流体が流れる方向に対して直行する方向に磁界をかける回路である。本実施形態において、磁気回路11は、チューブ13の外に互いに対向して設けられた一対のコイル12(12a,12b)を有する。変換器40の励磁回路18から励磁電流Iexを流すことにより、コイル12a,12b間に磁界を発生させることができる。コイル12の個数は1個又は3個以上としてもよい。磁気回路11は帰還磁路を構成し、鉄心等の磁性体を有してもよい。
【0022】
チューブ13は、被測定流体の流路を形成する測定管である。チューブ13の接液部(例えば、内壁等)は、電気的絶縁性のある材料で形成されてもよい。
【0023】
一対の測定電極14(14a,14b)は、コイル12a,12b間で形成される磁界と、チューブ13内を流れる被測定流体の流量とに比例した起電力の信号(検出信号。例えば、電圧信号)を検出するための電極である。一対の測定電極14(14a,14b)は、検出した起電力の信号を、例えば、電圧信号として変換器40のバッファ16へ出力する。
【0024】
アース電極15は、検出器30を接地する。アース電極15は、例えば、チューブ13の両端に設けられてもよい。
【0025】
変換器40は、検出器30が検出した、被測定流体の流速に比例した起電力の信号を変換して、外部へ出力する。変換器40は、バッファ16、差動アンプ17、励磁回路18、A/D(Analog-to-Digital)変換部19,20、制御部21、HMI(Human Machine Interface)22、電流出力部23、パルス出力部24、ステータス出力部25、及び通信部26を備える。
【0026】
バッファ16は、測定電極14において測定された起電力の信号をインピーダンス変換して検出する。バッファ16は、一対の測定電極14a,14bに対応する2つのコンパレータ16a,16bを備えてもよい。バッファ16は、インピーダンス変換された起電力の信号を、差動アンプ17へ出力する。
【0027】
差動アンプ17は、バッファ16から入力された起電力の信号について、1対の測定電極14(14a,14b)において共通に発生する外来ノイズを除去し、所望の振幅レベルに増幅する。差動アンプ17は、2つのコンパレータ16a,16bからの出力を入力し、これらの差分を増幅してもよい。差動アンプ17は、増幅された起電力の信号を、A/D変換部19へ出力する。
【0028】
A/D変換部19は、差動アンプ17から入力された起電力の信号をA/D変換し、アナログ信号形式の起電力の信号をデジタル値で読めるように変換する。A/D変換部19は、制御部21から入力されたサンプリングレートにより、アナログ形式の起電力の信号をA/D変換する。A/D変換部19は、デジタル信号に変換された起電力の信号を、制御部21へ出力する。
【0029】
制御部21は、電磁流量計1の各回路に接続され、電磁流量計1の動作を制御する制御装置である。制御部21は、1つ以上のプロセッサ及びメモリ等を含む。一実施形態において「プロセッサ」は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の汎用のプロセッサ、又は特定の処理に特化した専用のプロセッサであるが、これらに限定されない。
【0030】
制御部21は、A/D変換部19から入力された起電力の信号(検出信号)を用いて、被測定流体の流速及び積算値等の算出、並びに、被測定流体に関する異常の診断等の演算を行う。制御部21は、当該演算を行った結果を、HMI22、電流出力部23、パルス出力部24、ステータス出力部25、及び通信部26等の出力回路へ伝達し、情報の出力に関する指示を行う。制御部21は、HMI22を介してユーザーからの各種指示を受け付ける。制御部21は、通信部26を介して、外部装置と通信する。
【0031】
励磁回路18は、制御部21の制御に基づき、コイル12(12a,12b)に励磁電流Iexを流し、コイル12a,12b間に磁界を発生させる。励磁回路18は、励磁電流Iexの値を示す信号をA/D変換部20へ出力する。
【0032】
A/D変換部20は、励磁回路18から入力された励磁電流Iexの値を示す信号(後述する電圧Viex)をA/D変換する。A/D変換部20は、デジタル信号に変換された励磁電流Iexの値を示す信号を、制御部21へ出力する。
【0033】
HMI22は、被測定流体の流速等の測定値及び異常の診断結果等の、電磁流量計1における演算結果をユーザーに提示したり、ユーザーからの操作を受け付けたりする。HMI22は、ユーザーへ情報を提示するために、例えば、液晶表示装置、OLED(Organic Light-Emitting Diode)パネル等のディスプレイ、ランプ、及びスピーカ等を備えてもよい。HMI22は、ユーザーからの操作を受け付けるために、例えば、複数個のキー、ディスプレイと一体的に設けられたタッチスクリーン、及びポインティング装置等を備えてもよい。
【0034】
電流出力部23は、測定値及び異常に関する診断結果等の情報を4-20mA等の所定レンジの電流値にスケーリングして出力する。パルス出力部24は、測定値及び異常に関する診断結果等の情報を所定レンジの周波数パルスにスケーリングして出力する。ステータス出力部25は、電磁流量計1の内部状態の情報を接点のオン/オフで外部に出力する。通信部26は、外部装置との間で、測定値及び異常に関する診断結果等の各種情報の通信を行う装置である。通信部26が使用する通信プロトコルは、例えば、HART(Highway Addressable Remote Transducer)、FOUNDATION Fieldbus、PROFIBUS(Process Field Bus)、又は、Modbusであってもよい。なお、ここに示した各出力部は例示であり、ここに挙げた例に限られるものではない。
【0035】
図2は、
図1の励磁回路18の構成例を示す図である。励磁回路18は、直流電源E1、定電流源CCS、及びスイッチング素子Q1、Q2、Q3、Q4を備える。定電流源CCSは、回路を流れる電流を一定の電流値I
exに制御する。スイッチング素子Q1、Q2、Q3、Q4は、例えば、FET(Field Effect Transistor)等のトランジスタにより構成してもよい。
【0036】
制御部21からのタイミング信号T1、T2、T3、T4は、スイッチング素子Q1、Q2、Q3、Q4のオン/オフが制御される。タイミング信号T1、T2、T3、T4は、コイル12を流れる電流の方向を決定する。例えば、スイッチング素子Q1及びQ3がオン、スイッチング素子Q2及びQ4がオフの場合、
図2において、電流はコイル12の左から右へ流れる。スイッチング素子Q1及びQ3がオフ、スイッチング素子Q2及びQ4がオンの場合、
図2において、電流はコイル12の右から左へ流れる。以下、
図2において、電流がコイル12の左から右へ流れる場合に磁気回路11に発生する励磁状態を正の励磁状態といい、電流がコイル12の右から左へ流れる場合に磁気回路11に発生する励磁状態を負の励磁状態という。タイミング信号T1、T2、T3、T4の具体例は、
図3を参照して後述する。コイル12に直列に接続された抵抗Rに生じる電圧V
iexは、励磁電流I
exに対応する値を示し、A/D変換部20でサンプリングされて制御部21に入力される。
【0037】
(電磁流量計の動作)
図3は、
図1の電磁流量計1におけるサンプリングの一例を示すタイミングチャートである。
図3は、図面の左側から右側へかけて、時間の推移を示している。
【0038】
図3において、I
exはコイル12に流し込まれる励磁電流である。
図3に示すように、制御部21は、励磁の1サイクルを前半と後半の2つの期間に区分する。制御部21は、スイッチング素子Q1及びQ3は前半の期間のみオンとなるようにタイミング信号T1、T3を出力し、スイッチング素子Q2とQ4は後半の期間のみオンとなるように信号T2、T4を出力する。これにより、励磁電流I
exは、電流+Iの正励磁期間、電流-Iの負励磁期間から構成されるサイクルを繰り返すことになる。すなわち、励磁電流I
exは、一定の周期で、+Iと-Iとで交互に切り替わっている。
【0039】
正励磁期間から負励磁期間に切り替わった直後、及び、負励磁期間から正励磁期間に切り替わった直後には、励磁電流Iexの測定値に微分ノイズが混入することが知られている。そこで、電磁流量計1は、微分ノイズが無視できるほど小さくなった期間である、正励磁期間の後半又は負励磁期間の後半における励磁電流Iexの値に基づき、被測定流体の流速の測定及び異常診断を行う。以下、正励磁期間の後半を正励磁安定期間といい、負励磁期間の後半を負励磁安定期間という。
【0040】
流量信号ESは、正励磁安定期間(+I)又は負励磁安定期間(-I)の区間をA/D変換することで取得される。この流量信号ESには、被測定流体に起因して発生するノイズが含まれる。このようなノイズは、気泡発生、低導電率、スラリー流体、電極腐食、又は流体導電率変化等により、測定電極14の電極電位が変動することで発生する。
【0041】
例えば、
図4A及び
図4Bは、チューブ13内に気泡が発生しているときの、測定電極14におけるノイズスペクトラムを示す。
図4Aは、気泡を含む被測定流体の流量信号の時間変化の一例を示すグラフである。
図4Bは、気泡を含む被測定流体のノイズレベルのスペクトル分布の一例を示すグラフである。
図4Aにおいて、横軸は時間、縦軸は励磁電流I
exの値に対応する流量信号の値を示す。
図4Bにおいて、横軸は時間周波数、縦軸は励磁電流I
exの値に対応するノイズレベルの値を示す。
【0042】
チューブ13内に気泡が発生している場合、測定電極14におけるノイズスペクトラムは、一般に十~数十Hzをコーナー周波数として、1/fで減少する特性を持つことが知られている。また、前述の低導電率、スラリー流体、電極腐食、及び流体導電率変化によっても、励磁電流Iexの測定値は、同様の1/fのノイズスペクトラムを示すことが知られている。そこで、電磁流量計1は、正励磁安定期間又は負励磁安定期間における励磁電流Iexの測定値から高周波成分を抽出し、そのスペクトル分布に基づき、ノイズ等の被測定流体の異常を検出する。したがって、電磁流量計1は、被測定流体の抵抗を測定及びサンプリングするための構成を設けることなく、被測定流体に関する異常を検出することが可能である。
【0043】
図3において、流量信号サンプリング点は、被測定流体の流量を検出するために、流量信号ESからデータをサンプリングするタイミングを示している。流量信号ESの絶対値は被測定流体の流速に比例するため、電磁流量計1は、サンプリングされた流量信号ESの絶対値の平均値等から、被測定流体の流速を計測する。
【0044】
図3において、診断信号サンプリング点は、被測定流体に関する異常を検出するために、流量信号ESからデータをサンプリングするタイミングを示している。
図3に示すように、電磁流量計1は、取得した流量信号サンプリング点から、診断に必要なサンプリングデータ(診断信号)をノイズレベルの診断に適した周期で取得する(診断信号サンプリング点EN)。電磁流量計1は、ノイズ等の異常の診断を、正励磁期間又は負励磁期間のどちらかからサンプリングされたデータを用いて行ってもよい。
図3は、正励磁期間に診断信号を取得する場合の例を示している。
【0045】
診断信号ENには被測定流体の流速に比例した信号である低周波成分と、流体ノイズによる高周波成分が含まれる。そこで、電磁流量計1は、診断信号ENに対してHPF(High-Pass Filter)を適用して高周波成分を抽出し、診断信号ENの高周波成分に基づきノイズを検出する。これにより、電磁流量計1は、流速に比例した信号の影響を受けることなく、ノイズレベルの測定をすることができる。
【0046】
また、電磁流量計1は、取得したデータを適切に間引き(周波数特性解析点EF)するサンプリングを行ってもよい。このようにすることで、電磁流量計1は、演算間隔に関連したノイズ量を観測できるようになる。
図3は、電磁流量計1は、正励磁安定期間における流量信号ESから、2
n個の周期間隔で間引いて、周波数特性解析点EFn(n=1,2,3,・・・)を取得する例を示している。EF1,EF2,EF3,・・・のように演算周期を変えて演算を行った場合、その演算周期の逆数(1/演算周期)は、サンプリングした信号の周波数成分特性を反映したものとなる。したがって、演算周期について複数のバリエーションを持たせることで、その演算周期に応じたノイズ量から、ノイズの周波数特性を知ることができる。
【0047】
電磁流量計1は、低導電率、スラリー流体、電極腐食、流体導電率変化等のノイズの要因毎に予め測定されたノイズの周波数の特性を制御部21のメモリに予め記憶しておいてもよい。電磁流量計1は、流量信号ESから様々な演算周期でサンプリングされた信号の周波数特性と、ノイズの要因毎に予め測定されたノイズの周波数特性とを比較することで、被測定流体のノイズ及びその原因となった異常の種類を特定することが可能になる。
【0048】
電磁流量計1の動作の詳細について、
図5を参照して説明する。
図5は、
図1の電磁流量計1が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5を参照して説明する電磁流量計1の動作は本実施形態に係る電磁流量計1の制御方法に相当する。
図5の各ステップは、電磁流量計1の制御部21の制御に基づき実行される。
図5の処理は、被測定流体の流速を測定する処理と並行して実行されてもよい。
【0049】
ステップS1において、制御部21は、測定を開始する。すなわち、制御部21は、励磁回路18を制御して、磁気回路11からチューブ13内の被測定流体へ磁界を加える。さらに、制御部21は、測定電極14による起電力の測定を開始する。
【0050】
ステップS2において、制御部21は、正負の励磁安定期間のデータを取得する。例えば、制御部21は、
図3の流量信号サンプリング点(ES)におけるデータを取得する。
【0051】
ステップS3において、制御部21は、
図3で取得したデータから、正又は負の一方の励磁信号(片側励磁信号)を抽出する。例えば、制御部21は、正励磁安定期間における流量信号ESからデータを抽出してもよい。ここで、制御部21は、データを適切に間引いてサンプリングしてもよい。
【0052】
ステップS4において、制御部21は、ステップS3で抽出した片側励磁信号に対してHPFを適用し、高周波成分を抽出する。例えば、制御部21は、片側励磁信号から、予め定められた周波数を超える周波数成分を、高周波成分として抽出してもよい。
【0053】
ステップS5において、制御部21は、ステップS4で抽出した片側励磁信号の高周波成分に基づき、ノイズ診断を行う。例えば、制御部21は、ステップS4で抽出した高周波成分と、ノイズがないことが判明している基準となる被測定流体から抽出された予め設定された高周波成分とを比較し、両者の差分を高周波成分のノイズレベルとして取得してもよい。制御部21は、ノイズに対応する周波数が一定区間の周波数にわたっている場合は、その区間に対応する差分の積分値をノイズレベルとして取得してもよい。また、制御部21は、流量信号ESから様々な演算周期でサンプリングされた信号の周波数特性と、ノイズの要因毎に予め測定されたノイズの周波数特性とを比較することで、被測定流体のノイズ及びその原因となった異常の種類を特定してもよい。
【0054】
ステップS6において、制御部21は、ステップS5で取得したノイズレベルと、予め定められた閾値とを比較する。予め定められた閾値は、例えば、異常がないことが判明している被測定流体の信号から抽出された高周波成分の揺動幅の積分値(ノイズレベル)の、一定数倍(例えば、2倍、5倍、10倍、等)の値としてもよい。制御部21は、ノイズレベルが閾値を上回る場合(ステップS6でYES)はステップS7へ進み、そうでない場合(ステップS6でNO)はステップS2に戻る。
【0055】
ステップS7において、制御部21は、HMI22を介して、アラームを出力する。例えば、制御部21は、HMI22のディスプレイに異常が発生したことを示す画像を表示してもよい。制御部21は、ノイズの種類によっては、HMI22のスピーカから特定の音声を出力するようにしてもよい。これにより、ユーザーは、被測定流体に異常が発生したことを認識して、メンテナンスを実施することが可能である。また、制御部21は、アラーム出力の際に、ノイズの強さ及びその原因となった異常の種類等の情報を併せて表示してもよい。これにより、ユーザーは、ノイズの強さ及び異常の種類等を認識して、適切なメンテナンスを選択及び実施することが可能である。また、制御部21は、HMI22を介した出力に加えて、又は、これに代えて、異常が発生したことを示す情報及びノイズ及びその原因となった異常の種類等の情報を、通信部26を介して外部装置へ通信してもよい。これにより、遠隔地に存在するユーザーに対して、異常の発生及びノイズ(又は異常)の種類等を伝達することが可能である。また、制御部21は、電流出力部23、パルス出力部24、及びステータス出力部25から起電力の信号に関する情報を出力することで、ユーザーは、これらの情報を用いて起電力の信号を詳細に解析して、適切なメンテナンスを実施することが可能である。制御部21は、ステップS7の処理を終えると、フローチャートの処理を終了する。
【0056】
以上のように、電磁流量計1は、チューブ13内を流れる被測定流体に対して励磁電流により生じる磁界を与え、チューブ13内に設けられた測定電極14に発生する検出信号に基づいて被測定流体の流量を測定する。電磁流量計1の制御部21は、検出信号から予め定められた周波数を超える周波数成分を高周波数成分として抽出し、抽出された高周波数成分に基づいて、被測定流体に関する異常の有無を検出する。このように、電磁流量計1は、チューブ13内の測定電極14に発生する検出信号に基づいて被測定流体に関する異常の有無を検出するため、被測定流体の抵抗を測定する構成を設けることなく、より単純な回路構成で被測定流体に関する異常を検出することが可能である。
【0057】
制御部21は、抽出された高周波成分と、予め設定された基準となる高周波成分とを比較し、両者の差分が予め定められた閾値を上回る場合、被測定流体に関する異常を検出してもよい。このように、電磁流量計1は、検出信号から抽出された高周波成分と、基準となる高周波成分とを比較して異常を検出するため、異常を適切に検出することが可能である。
【0058】
制御部21は、被測定流体に関する異常が検出された場合にアラームを出力してもよい。例えば、制御部21は、HMI22のディスプレイ等における表示、電流出力部23、パルス出力部24、及びステータス出力部25からの情報出力、並びに、通信部26を介した外部装置への通信により、アラームを出力してもよい。このように、電磁流量計1は、異常が検出された場合にアラームを出力するため、ユーザーは異常の発生を容易に認識することが可能である。
【0059】
制御部21は、被測定流体に関する異常が検出された場合、抽出された高周波成分の周波数特性に基づいて、被測定流体に関する異常の要因を特定してもよい。このような異常の要因には、例えば、気泡発生、低導電率、スラリー流体、電極腐食、流体導電率変化等のプロセス変化が含まれ得る。このように、電磁流量計1は、被測定流体に関する異常の要因を特定するため、ユーザーは、異常の要因に応じて適切なメンテナンスを実施することが可能である。
【0060】
制御部21は、検出信号から予め定められたタイミングで間引かれた信号から、予め定められた周波数を超える周波数成分を高周波数成分として抽出し、間引かれた信号から抽出された高周波成分に基づいて、抽出された高周波成分の周波数特性を取得してもよい。このように、電磁流量計1は、間引かれた信号から抽出された高周波成分に基づき、高周波成分の周波数特性を取得するため、異常の要因を高い精度で特定することが可能である。
【0061】
制御部21は、間引かれた検出信号から高周波成分を抽出してその周波数特性を取得するのではなく、検出信号から高周波成分を抽出した後に、その抽出された高周波数成分から予め定められたタイミングで間引かれた信号を取得してもよい。そして、制御部21は、高周波成分から間引かれた信号に基づいて、抽出された高周波成分の周波数特性を取得してもよい。このように、電磁流量計1は、検出信号の高周波成分を間引いて取得した信号に基づき、高周波成分の周波数特性を取得するため、異常の要因を高い精度で特定することが可能である。
【0062】
また、電磁流量計1は、正励磁期間と負励磁期間とを有する励磁電流を生成し、正励磁期間と負励磁期間のいずれか一方の期間から検出信号の高周波成分を抽出して、異常を検出してもよい。電磁流量計1は、正励磁期間と負励磁期間のいずれか一方の期間から抽出された高周波成分を用いて異常を検出することで、異常を適切に検出することが可能である。
【0063】
また、電磁流量計1は、微分ノイズが十分無視できるほど小さくなった正励磁安定期間又は負励磁安定期間から高周波成分を抽出して解析することで、微分ノイズの影響を受けることなく、異常を適切に検出することが可能である。
【0064】
本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、ブロック図に記載の複数のブロックは統合されてもよいし、又は1つのブロックは分割されてもよい。フローチャートに記載の複数のステップは、記述に従って時系列に実行する代わりに、各ステップを実行する装置の処理能力に応じて、又は必要に応じて、並列的に又は異なる順序で実行されてもよい。その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 電磁流量計
11 磁気回路
12a,12b コイル
13 チューブ
14a,14b 一対の測定電極
15 アース電極
16 バッファ
17 差動アンプ
18 励磁回路
19 A/D変換部
20 A/D変換部
21 制御部
22 HMI
23 電流出力部
24 パルス出力部
25 ステータス出力部
26 通信部