IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フジテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-エレベーターの強制戸開装置 図1
  • 特開-エレベーターの強制戸開装置 図2
  • 特開-エレベーターの強制戸開装置 図3
  • 特開-エレベーターの強制戸開装置 図4
  • 特開-エレベーターの強制戸開装置 図5
  • 特開-エレベーターの強制戸開装置 図6
  • 特開-エレベーターの強制戸開装置 図7
  • 特開-エレベーターの強制戸開装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136069
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】エレベーターの強制戸開装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 13/08 20060101AFI20230922BHJP
   B66B 5/00 20060101ALI20230922BHJP
【FI】
B66B13/08 A
B66B5/00 G
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022041490
(22)【出願日】2022-03-16
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 知
(72)【発明者】
【氏名】金子 元樹
【テーマコード(参考)】
3F304
3F307
【Fターム(参考)】
3F304CA12
3F304ED16
3F307CB01
3F307CB15
3F307EA19
3F307EA23
(57)【要約】
【課題】本発明は、かご内に閉じ込められた乗客が戸開でき、自力で脱出することが可能なエレベーターの強制戸開装置を提供する。
【解決手段】本発明のエレベーター10の強制戸開装置50は、かごドア21がスライド可能に配備されたかご20と、前記かごドアを開放方向に付勢可能な付勢手段60と、前記付勢手段を圧縮状態で保持する保持手段70と、前記保持手段による前記付勢手段の圧縮状態を解放する解放手段80と、前記かごドアの開閉とは無関係な位置に設けられた当り部材24と、を具え、圧縮状態にある前記付勢手段は、前記かごドアが閉止状態にあるときに前記当り部材に当接しており、前記解放手段の作動により、前記保持手段による圧縮状態が解放されることで、前記当り部材を押して、前記かごドアを所定の開口幅Wまで戸開する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごドアがスライド可能に配備されたかごと、
前記かごドアを開放方向に付勢可能な付勢手段と、
前記付勢手段を圧縮状態で保持する保持手段と、
前記保持手段による前記付勢手段の圧縮状態を解放する解放手段と、
前記かごドアの開閉とは無関係な位置に設けられた当り部材と、
を具え、
圧縮状態にある前記付勢手段は、前記かごドアが閉止状態にあるときに前記当り部材に当接しており、前記解放手段の作動により、前記保持手段による圧縮状態が解放されることで、前記当り部材を押して、前記かごドアを所定の開口幅まで戸開する、
エレベーターの強制戸開装置。
【請求項2】
前記解放手段は、かごドアの開閉装置とは別電源で作動する、
請求項1に記載のエレベーターの強制戸開装置。
【請求項3】
前記解放手段は、エレベーターの遠隔監視センターからの遠隔操作により作動する、
請求項1又は請求項2に記載のエレベーターの強制戸開装置。
【請求項4】
前記解放手段は、ソレノイドを具える、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のエレベーターの強制戸開装置。
【請求項5】
前記付勢手段は、前記かごドアの開閉方向と平行に往復移動可能であり、前記かごドアが閉止状態にあるとき先端が前記当り部材に当接するロッドと、前記ロッドに嵌められたスプリングと、前記ロッドに取り付けられ、前記スプリングの一端に当接するスプリングシューを具え、
前記保持手段は、前記スプリングシューにより前記スプリングを圧縮させた状態で、前記スプリングシューと係合し、揺動することで前記スプリングシューの係合状態を解除するフックを有し、
前記解放手段の前記ソレノイドは、前記フックの揺動移行路に出没するラッチであって、前記スプリングシューに前記フックが係合した状態で前記フックの揺動を阻止する突出状態から後退することで、前記フックの揺動を許容し、前記スプリングシューと前記フックの係合状態を解除させるラッチを具える、
請求項4に記載のエレベーターの強制戸開装置。
【請求項6】
前記ロッドの軸周りの回転を阻止する回転阻止手段を具える、
請求項5に記載のエレベーターの強制戸開装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターのかごに乗客が閉じ込められたときに、強制的に戸開を行なうことができ、乗客の自力脱出を補助するエレベーターの強制戸開装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かごドア開閉装置の不具合により、かごが戸開可能エリアに滞在しているにも関わらず、ドアが戸開できず、乗客がかご中に閉じ込められてしまうことがある。
【0003】
たとえば、特許文献1~3では、非常停止等の異常発生により、かごが戸開可能エリアからずれた位置にあると、かごを戸開可能エリアまで救出走行させた後、ドア開閉装置によって戸開を行なう。しかしながら、ドア開閉装置が故障等している場合には、乗客が人力によりかごドアを戸開せざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-224116号公報
【特許文献2】特開平3-166185号公報
【特許文献3】特開平3-264480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かごドアは、ドア開閉装置に連繋されているから、ドア開閉装置が故障等すると、ドア開閉の負荷になる。また、乗場ドアには、ドアクローザーに連繋され、しっかりと戸閉するよう乗場ドアに終端保持力を作用させるようにしている。従って、乗客が人力で戸開するには、かごドア、乗場ドアの各種摩擦等に加え、ドア開閉装置の負荷やドアクローザーの終端保持力に打ち勝つ力をかごドアに加える必要がある。しかしながら、かごドアには取手はないから、戸閉状態から人力で戸開することは困難である。とくに、両引き戸の場合、戸閉状態ではかごドアの突き合わせ部分に指を差し入れる隙間もなく、戸開が難しい。
【0006】
本発明は、かご内に閉じ込められた乗客が戸開でき、自力で脱出することが可能なエレベーターの強制戸開装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエレベーターの強制戸開装置は、
かごドアがスライド可能に配備されたかごと、
前記かごドアを開放方向に付勢可能な付勢手段と、
前記付勢手段を圧縮状態で保持する保持手段と、
前記保持手段による前記付勢手段の圧縮状態を解放する解放手段と、
前記かごドアの開閉とは無関係な位置に設けられた当り部材と、
を具え、
圧縮状態にある前記付勢手段は、前記かごドアが閉止状態にあるときに前記当り部材に当接しており、前記解放手段の作動により、前記保持手段による圧縮状態が解放されることで、前記当り部材を押して、前記かごドアを所定の開口幅まで戸開する。
【0008】
前記解放手段は、かごドアの開閉装置とは別電源で作動する構成とすることができる。
【0009】
前記解放手段は、エレベーターの遠隔監視センターからの遠隔操作により作動することができる。
【0010】
前記解放手段は、ソレノイドを具える構成とすることができる。
【0011】
前記付勢手段は、前記かごドアの開閉方向と平行に往復移動可能であり、前記かごドアが閉止状態にあるとき先端が前記当り部材に当接するロッドと、前記ロッドに嵌められたスプリングと、前記ロッドに取り付けられ、前記スプリングの一端に当接するスプリングシューを具え、
前記保持手段は、前記スプリングシューにより前記スプリングを圧縮させた状態で、前記スプリングシューと係合し、揺動することで前記スプリングシューの係合状態を解除するフックを有し、
前記解放手段の前記ソレノイドは、前記フックの揺動移行路に出没するラッチであって、前記スプリングシューに前記フックが係合した状態で前記フックの揺動を阻止する突出状態から後退することで、前記フックの揺動を許容し、前記スプリングシューと前記フックの係合状態を解除させるラッチを具える。
【0012】
前記ロッドの軸周りの回転を阻止する回転阻止手段を具えることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエレベーターの強制戸開装置によれば、付勢手段によってかごドアを所定の開口幅だけ開放することができる。乗客は、開かれたかごドアの隙間に指を差し入れることで、当該隙間を取手代わりに力を加えて戸開を行なうことができ、自力で脱出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るエレベーター説明図であって、シャフトに沿って断面した図である。
図2図2は、かご内からかごドアを見た斜視図であって、かごドア上側の内壁を一部断面した図である。
図3図3は、かごドアに配置された強制戸開装置の構成及び動作を示す説明図である。
図4図4は、ドア開閉装置の故障により乗客の閉じ込めが生じた状況を示す説明図である。
図5図5は、強制戸開装置によって生じた隙間に乗客が指を差し入れて戸開している状態を示す説明図である。
図6図6は、乗客が自力でドアを開放した状態を示す説明図である。
図7図7は、フックに働く各モーメントとラッチに働く力を示す説明図である。
図8図8は、強制戸開装置の変形例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る強制戸開装置50を具えたエレベーター10について説明を行なう。
【0016】
エレベーター10は、図1に示すように、利用者が乗車するかご20を主ロープ11によって建物のシャフト12内で昇降可能とした装置である。シャフト12は、たとえば建物の最上階の機械室13に巻上機14が配置されており、主ロープ11は巻上機14により駆動する駆動シーブ15、駆動シーブ15に併設されたそらせ車16に掛けられている。主ロープ11の一端にはかご20、他端にはカウンターウェイト17が連結され、巻上機14が駆動することで、駆動シーブ15が回転して、かご20をシャフト12内で昇降移動させる。
【0017】
建物の各階床40には、シャフト12に通じる三方枠41が形成されており、当該三方枠には乗場ドア42が開閉可能に配置されている。乗場ドア42は、次に説明するかごドア21と連動して開閉する。乗場ドア42は、かごドア21と同一形態の戸構造が採用される。
【0018】
エレベーター10の制御、すなわち、巻上機14や後述するドア開閉装置22等の制御は、シャフト12の適所に配置された制御装置30により行なわれる。制御装置30には通信装置31が連繋されており、エレベーター10の運行状況は、通信装置31を通じて外部に設けられた遠隔監視センター32により監視される。また、かご20には、通信装置31と連繋されたスピーカーとマイクロフォン、監視カメラ、液晶モニターなどの通信端末33(図2参照)を具え、何らかの異常が生じた場合には、その状況が通信装置31を通じて遠隔監視センター32に報知、或いは、乗客Pが自ら非常ボタンを操作することで、通信端末33を通じて乗客Pは遠隔監視センター32と通話等可能としている。
【0019】
乗客が乗るかご20には、図1図2に示すように、利用者が乗降するかごドア21がスライド可能に配置されている。図2のかごドア21は、両引き戸(図2参照)であるが、片引き戸であってもよい。
【0020】
かご20には、図1に示すように、かごドア21を開閉するドア開閉装置22が配備されている。かごドア21は、乗場ドア42と対向した戸開可能エリアにかご20があるとき、乗場ドア42と係合し、ドア開閉装置22の作動によってかごドア21と乗場ドア42は一体に開閉動作を行なう。なお、かごドア21と乗場ドア42を「ドア」と総称する。
【0021】
ドア開閉装置22は、かご20が戸開可能エリアにあるとき、利用者の乗降を目的としてかごドア21を開閉させる装置である。ドア開閉装置22は、エレベーター10の制御装置30により制御され、かご20がかご呼び階、乗場呼び階に着床がセンサーやエンコーダー(図示せず)により検知されたとき、或いは、着床状態で乗客Pがかご20内からドア開、ドア閉の操作を行なったときにかごドア21を開閉する。たとえば、ドア開閉装置22は、かごドア21に連繋された開閉アームをドア用の電動機によって回転させてかごドア21を開閉させる構成、かごドア21に連繋されたベルトをドア用の電動機によって走行させてかごドア21を開閉させる構成等、種々の構成を採用できる。乗場ドア42は、かごドア21の開閉に連動して、開閉する。
【0022】
一方、乗場ドア42には、図1に示すように、ドアクローザー43が配備される。ドアクローザー43は、乗場ドア42が不用意に開放することを防止するよう終端保持力を作用させ、乗場ドア42がかごドア21により開放した状態でかごドア21との係合が外れたときであっても乗場ドア42を閉止させる。
【0023】
ドアクローザー43は、乗場ドア42を閉止方向に付勢する。ドアクローザー43として、たとえば、スプリングやアクチュエーターにより乗場ドア42を閉止方向に付勢する構成、ワイヤーと錘により乗場ドアを閉止方向に付勢する構成、斜面をローラーが転動して乗場ドアを閉止方向に付勢する構成等、種々の構成を採用できる。
【0024】
そして、一般的なエレベーター10の制御では、乗場呼び、かご呼びに応じて巻上機14を作動させて、かご20がかご呼び階、乗場呼び階に到着し、戸開可能エリアに入ると、ドア開閉装置22を作動させて、かごドア21とこれに連動する乗場ドア42を開閉させ、利用者の乗降が行なわれる。
【0025】
ドア開閉装置22が故障等した場合、かご20戸開可能エリアにあっても、ドア21,42を開放することができない。
【0026】
そこで、本発明では、かご20に強制戸開装置50を具える。強制戸開装置50は、かご20が戸開可能エリアにあるにも拘わらず、ドア開閉装置22が作動せずに、ドア21,42が戸開できない状態で、かごドア21を所定の開口幅Wだけ強制的に開く装置である。かごドア21には、安全性や意匠性の理由により、かご20の内面側に取手の如き突起や凹み、また、かごドア21どうしの突合せ面に隙間がないから、戸閉時に乗客Pがかごドア21を掴んだり指を差し込んだりして戸開を行なうことができない。従って、乗客Pは、かごドア21に手のひらを当てて、横方向にスライドさせてかごドア21を開放することを試みざるを得ないが、ドア21,42の摩擦やドア開閉装置22、ドアクローザー43の存在により、ドア21,42は容易に開放しない。
【0027】
このため、強制戸開装置50により、かごドア21の突合せ面間に乗客Pが指を差し込むことのできる程度の開口幅Wの隙間25を強制的に生じさせることで、乗客Pが隙間25(図5)に指を差し込んで、かごドア21を強制的に開放し、自力脱出できるようにしている。
【0028】
強制戸開装置50は、図2に示すように、かごドア21の上部に設けることができる。両引き戸の場合、突き合わされる一方のかごドア21のみに設ければよい。片引き戸であれば、戸当りに当たる側のかごドア21に強制戸開装置50を配備すればよい。
【0029】
具体的実施形態として、強制戸開装置50は、図3に示すうような装置を挙げることができる。図3の強制戸開装置50は、かごドア21を開放方向に付勢可能な付勢手段60と、付勢手段60を圧縮状態で保持する保持手段70と、保持手段70による付勢手段60の圧縮状態を解放する解放手段80とを具える。付勢手段60は、かご20の三方枠やかご壁、かごフレーム23等のかごドア21の開閉と無関係な位置に設けられた当り部材24に当接可能となっている。そして、通常時は、図3(a)、(b)に示すように、保持手段70により付勢手段60は圧縮状態で保持される。図3(a)は戸閉状態、図3(b)は戸開中の状態を示す。
【0030】
また、図4に示すように、乗客Pの閉じ込めが発生した場合には、図3(c)、(d)に示すように解放手段80が保持手段70による付勢手段60の圧縮状態を解放する。これにより、付勢手段60が当り部材24を押し込み、その反力によってかごドア21が開放方向に押す。その結果、図3(d)及び図5に示すようにかごドア21が所定の開口幅Wの隙間25が生じるようにスライドする。
【0031】
強制戸開装置50により生じるかごドア21間の開口幅Wは、少なくとも乗客Pが指を挿し入れることのできる幅とする。望ましくは、開口幅Wは、ドアクローザー43の終端保持力が作用しない程度の位置までドア21,42を開放させる幅である。
【0032】
強制戸開装置50が作動することで、乗客Pは、図5に示すように、かごドア21の突合せ面間に生じた開口幅Wの隙間25に指を差し込んでかごドア21を開くことで、図6に示すようにドア21,42を強制的に開放できる。そして、開いたドアから脱出することができる。
【0033】
強制戸開装置50の解放手段80は、実施例で説明するソレノイド81等、電動の構成とし、遠隔監視センター32からの遠隔操作により作動させることが望ましい。強制戸開装置50を乗客Pの操作によって作動する構成とした場合、不用意な戸開を招くことがあるためである。
【0034】
強制戸開装置50の作動条件として、かご20が戸開可能エリアに存在すること、ドア開閉装置22がかご20内の乗客Pの操作や遠隔操作によっても作動できないこと、乗客Pがかご20内にいることを挙げることができるが、これら条件に限定されるものではない。
【0035】
かご20が戸開可能エリアに存在することは、エンコーダーやセンサーの情報を元に、制御装置30により判断され、遠隔監視センター32に報知することができる。ドア開閉装置22がかご20内の乗客Pの操作や遠隔操作によって作動するにも拘わらずドア21,42が開かない場合には、ドア21,42自体の変形等の原因が考えられるため、強制戸開装置50を作動させることなく、メンテナンス員を早急に派遣して乗客Pの救出を図る必要がある。また、乗客Pがかご20内に閉じ込められていないのであれば、エレベーター10を利用停止とすることで、利用者の新たな閉じ込めを防ぐことができる。かご20内に閉じ込められた乗客Pの有無は、スピーカーやマイクロフォン、カメラなどの通信端末33(図2参照)を用いて遠隔監視センター32との通話等により確認することができる。
【0036】
望ましくは、強制戸開装置50は、ドア開閉装置22とは別電源で作動する構成とする。これにより、ドア開閉装置22への電源供給不良による故障があっても、強制戸開装置50を作動させることができる。
【実施例0037】
強制戸開装置50の一実施形態について説明する。
【0038】
強制戸開装置50は、図3(a)に示すように、かごドア21の上部に配置された付勢手段60、保持手段70及び解放手段80と、かごドア21の開閉とは無関係な位置に設けられた当り部材24を含む。
【0039】
付勢手段60は、かごドア21の上面に設けられた軸受61に、かごドア21のスライド方向と平行な向きに往復移動可能となるようにロッド62が貫通している。ロッド62には、かごドア21の閉止方向側、すなわち、かごドア21の戸当り側にフランジ状のスプリングシュー63が設けられている。スプリングシュー63は、周面に側方に向けて保持手段70と係合可能なピン64が突設されている。
【0040】
ロッド62には、軸受61とスプリングシュー63間に圧縮コイルスプリングの如きスプリング65が嵌まっている。スプリング65は、かごドア21、乗場ドア42の各種摩擦等に加え、ドア開閉装置22の負荷やドアクローザー43の終端保持力に打ち勝つ付勢力(復元力)を有するものを採用する。
【0041】
付勢手段60は、スプリングシュー63をロッド62と共に軸受61側に押し込むことでスプリング65が圧縮される。この圧縮状態において、かごドア21を閉止したときに、図3(a)に示すように、ロッド62の先端と対面する位置に当り部材24が設けられる。
【0042】
当り部材24は、かごドア21の開閉とは無関係なかごフレーム23に設けられる。当り部材24はたとえば金属プレート、金属ブロックである。なお、当り部材24とロッド62がかごドア21の閉止時に衝突して音が発生することを防止するために、ロッド62の先端又は当り部材24にゴム等のクッション材62aを配置しておくことが望ましい。
【0043】
通常時、付勢手段60は、保持手段70によりスプリング65がスプリングシュー63により圧縮された状態を維持する。すなわち、かごドア21が開閉したときに、図3(a)、(b)に示すように、付勢手段60は、スプリング65が圧縮されたまま、かごドア21と一体にかごドア21の開放方向、閉止方向にスライドする。
【0044】
保持手段70は、スプリング65を圧縮させるよう押し込まれたスプリングシュー63を押込み状態で保持する。保持手段70としてロッド62の往復移動方向と平行な面内で揺動可能となるように回転軸71に軸支されたフック72を例示できる。
【0045】
フック72には、先端にスプリングシュー63のピン64が嵌合可能なフック溝73が形成されており、基端に回転軸71を挟んで回止め74が延びている。フック溝73は、回止め74を略水平な向きとしたときに、斜め方向(図示では斜め上向き)に形成されている。
【0046】
フック72は、図3(a)に示すように、スプリングシュー63がスプリング65を圧縮した状態で、フック溝73がスプリングシュー63のピン64に嵌まり、回止め74が略水平となるよう装着する。このとき、スプリング65の復元力により押し出されたスプリングシュー63によって、ピン64が図3(c)、(d)の矢印A方向に移動し、フック溝73の内壁を押し込まれて、フック72は図3(b)、(c)の矢印B方向で示す揺動移行路に沿って回転してしまう。このため、フック72は、解放手段80によって矢印B方向に回転しない向き、すなわち、フック72の矢印B方向の揺動移行路上に次に説明する解放手段80を突出させて、フック72を揺動不能に保持しておく。これにより、スプリングシュー63は、スプリング65の復元力によりピン64をフック溝73から脱出させる方向に引き抜こうとするが、フック72が揺動不能であり、フック溝73が傾斜しているから、ピン64はフック溝73から脱出することができず、スプリングシュー63はフック72に係合された状態を維持され、スプリング65が圧縮状態で保持される。
【0047】
解放手段80は、ラッチ82が出没可能なソレノイド81を例示できる。ソレノイド81は、非通電時はラッチ82が突出、通電によりラッチ82が後退する通電時開錠型を例示でき、望ましくは、スプリングロック式のものを採用する。ソレノイド81は、ドア開閉装置22とは別電源に接続され、遠隔監視センター32からの制御により通電を実行する。
【0048】
ソレノイド81は、フック溝73にピン64が嵌まり、フック72の回止め74が略水平となった状態で、フック72の揺動を阻止するようにフック72の矢印B方向の揺動移行路にラッチ82を突出させる。ラッチ82が突出することで、フック72は回止め74がラッチ82に当り、フック72は揺動不能となる。一方、強制戸開時にソレノイド81に通電を行ない、ラッチ82を後退させることでフック72は揺動可能となる。
【0049】
上記構成の強制戸開装置50において、通常時は、図3(a)、(b)に示すように、スプリング65はスプリングシュー63により圧縮され、スプリングシュー63は、ピン64がフック溝73に嵌まっている。フック72は、回止め74がソレノイド81の突出したラッチ82が揺動移行路Bに突出していることで、揺動不能となっている。従って、スプリング65は圧縮状態で維持される。
【0050】
通常時、図3(b)に示すように、ドア開閉装置22を作動させてかごドア21を開放すると、強制戸開装置50は、かごドア21と一体に開き方向に移動し、かごドア21を閉止すると、同じくかごドア21と一体に閉じ方向に移動し、図3(a)に示すように、ロッド62の先端が当り部材24に当接する。
【0051】
然して、強制戸開装置50は、かご20が戸開可能エリアに存在するにも拘わらず、ドア開閉装置22の異常により戸開ができず、さらに、図4に示すように、乗客Pがかご20内に閉じ込められた状態で、遠隔監視センター32からの操作により作動する。具体的には、遠隔監視センター32が、ドア開閉装置22が戸開不能による閉じ込めが発生していることを把握し、制御装置30やその他の安全装置に異常がなく、強制戸開を行なうことで乗客Pが安全に脱出できるかどうかを判定する。そして、乗客Pが安全に脱出できることが確認させると、通信端末33を利用し、乗客Pに閉じ込めが生じた原因と、強制戸開装置50の作動による脱出方法を乗客Pに伝える。
【0052】
そして、遠隔監視センター32は、通信装置31を通じてソレノイド81に通電を行なう。これにより、図3(c)に示すように、ラッチ82は、フック72の揺動移行路Bから後退する。
【0053】
図3(c)、(d)に示すように、フック72が揺動可能となることで、スプリングシュー63によるスプリング65の押さえ付けが解かれる。その結果、スプリング65の伸び方向への復元力によって、スプリングシュー63が押されて、ピン64がフック溝73の内面を押し込み、フック72は図3(d)に示すように、矢印B方向にさらに回転する。そして、フック溝73からピン64が脱出し、スプリングシュー63がロッド62と共に当り部材24側に向けて押し出される。スプリング65の復元力は、ドア21,42の各種摩擦等に加え、ドア開閉装置22の負荷やドアクローザー43の終端保持力に打ち勝つ付勢力であるから、ロッド62は、スプリングシュー63を介してスプリング65に押し出されて、矢印A方向に突出する。しかしながら、ロッド62の先端は、当り部材24に当たってそれ以上前進はできないから、図3(c)及び図3(d)に矢印Cで示すように、相対的にかごドア21が開き方向に移動し、図3(d)及び図5に示すように、かごドア21間に開口幅Wの隙間25が形成される。
【0054】
そして、乗客Pは、図5に示すように、かごドア21間に形成された隙間25に指を差し込んで取手として利用して開き方向の力を加え、図6に矢印Dで示すように、ドア21,42を開放し、かご20から自力脱出できる。
【0055】
上記構成の強制戸開装置50について、フック72に働く各モーメントと、ラッチ82に働く力とを算出した。
【0056】
図7において、
:スプリング65によりフック72に働く回転モーメント(N×mm)は、
P:スプリング65によりピン64が図の右方向に押される力(N)
:「フック72の回転軸71」と「スプリング65による戸開力がフック72を回転させようとする力」の作用線との距離(mm)
θ:フック溝73の切欠き角度(rad)
としたとき、
【0057】
【数1】
で表わされる。
【0058】
一方、
:フック72の質量によりフック72に働く回転モーメント(N×mm)は、
M:フック72の質量、
g:重力加速度(m/s
:フック72の重心位置と回転軸71の距離(mm)
としたとき、
【0059】
【数2】
で表わされる。
【0060】
そして、F:フック72によりラッチ82に働く力は、
:ラッチ82の位置と回転軸71の距離
としたときに、
【0061】
【数3】
として算出される。
【0062】
従って、たとえば、強制戸開装置50に小型のソレノイド81の使用を望む場合、ラッチ82に作用する力Fを小さくする必要がある。この場合、Mを小さくする、Mを大きくする、Lを大きくするの何れか、或いはこれらを組み合わせればよい。Mを小さくするには、Lを短くする、又は、フック溝73の切り欠き角度θを大きく採ればよい。また、M、Lを大きくするには、Lを長くすればよい。
【0063】
<変形例>
図3に示した強制戸開装置50は、ロッド62が回転してしまうと、ピン64がフック溝73から抜け出てしまい、フック72とピン64の係合が解除されてしまうことがある。そこで、ロッド62の回転阻止手段として、図8に示すように、コ字状の溝75を有するガイド76をかごドア21上に設け、ピン64が溝75に沿って直進移動のみ許容されるようにすることができる。これにより、ロッド62の回転を防止できる。
【0064】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0065】
たとえば、強制戸開装置50の構成は、上記実施例に限定されるものではない。たとえば、上記実施例では、スプリングシュー63とフック72は、ピン64及びフック溝73を介して係合しているが、爪片等により係合する構成としてもよい。また、フック72に代えてリンク機構等を採用してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 エレベーター
20 かご
21 かごドア
22 ドア開閉装置
30 遠隔監視センター
42 乗場ドア
60 付勢手段
70 保持手段
80 解放手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
かごドアがスライド可能に配備されたかごと、前記かごが戸開可能エリアにある場合に前記かごドアを開閉するドア開閉装置と、を具えるエレベーターの前記かごに配備され、前記かごが前記戸開可能エリアにあるにも拘わらず、前記ドア開閉装置が作動せずに前記かごドアが戸開できない状態で、前記ドア開閉装置の負荷に打ち勝って前記かごドアを乗客が指を差し込むことのできる開口幅だけ強制的に開くエレベーターの強制戸開装置であって、
前記かごドアを開放方向に付勢可能な付勢手段と、
前記付勢手段を圧縮状態で保持する保持手段と、
前記保持手段による前記付勢手段の圧縮状態を解放する解放手段と、
前記かごドアの開閉とは無関係な位置に設けられた当り部材と、
を具え、
圧縮状態にある前記付勢手段は、前記かごドアが閉止状態にあるときに前記当り部材に当接しており、前記解放手段の作動により、前記保持手段による圧縮状態が解放されることで、前記当り部材を押して、前記かごドアを前記開口幅まで戸開する、
エレベーターの強制戸開装置。