(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137759
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/338 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
H01L29/80 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044116
(22)【出願日】2022-03-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢板 潤也
(72)【発明者】
【氏名】小谷 淳二
【テーマコード(参考)】
5F102
【Fターム(参考)】
5F102GB01
5F102GC01
5F102GD01
5F102GD10
5F102GJ02
5F102GJ03
5F102GJ04
5F102GJ10
5F102GK04
5F102GK08
5F102GK09
5F102GL04
5F102GM04
5F102GM08
5F102GQ01
5F102GQ04
5F102GR01
5F102GR04
5F102GS04
5F102GV05
5F102GV07
5F102GV08
5F102HC01
5F102HC02
5F102HC11
5F102HC19
5F102HC21
(57)【要約】
【課題】優れた電子移動度を示すチャネル層を備えた高性能の半導体装置を実現する。
【解決手段】半導体装置1は、基板10、バッファ層20及びチャネル層30を有する。基板10は、AlNを含む。バッファ層20は、基板10の面10a側に設けられ、圧縮応力を有するAl
xGa
1-xN(0.15<x≦0.30)を含む。チャネル層30は、バッファ層20の、基板10側とは反対の面20a側に設けられ、GaNを含む。圧縮応力を有するAl
xGa
1-xNを含むバッファ層20は、チャネル層30側の面20aの分極電荷が0又は正となるように設けられる。これにより、チャネル層30の、バッファ層20側の伝導帯エネルギーの持ち上がりが抑えられ、電子の分布及び波動関数が広がり、チャネル層30の電子移動度が向上される。電子移動度の向上により、出力電流減少等の半導体装置1の性能低下を抑える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlNを含む基板と、
前記基板の第1の面側に設けられ、第1の圧縮応力を有する第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含むバッファ層と、
前記バッファ層の、前記基板側とは反対の第2の面側に設けられ、GaNを含むチャネル層と、
を有する半導体装置。
【請求項2】
前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、前記基板に含まれる前記AlNの格子定数以上であって、前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)に対応するAl組成xを有するAlxGa1-xNが示す格子定数の理論値よりも小さい、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記バッファ層は、
前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含む第1の層と、
前記第1の層よりも前記基板側に設けられ、第2の圧縮応力を有する第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)を含む第2の層と、
を含む、請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第2の圧縮応力を有する前記第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数は、前記基板に含まれる前記AlNの格子定数以上、且つ、前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数以下であって、前記第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)に対応するAl組成yを有するAlyGa1-yNが示す格子定数の理論値よりも小さい、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記バッファ層は、前記第2の層よりも前記基板側に設けられ、第3の圧縮応力を有する第3のAlzGa1-zN(y<z<1.00)を含む第3の層を含む、請求項3又は4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第3の圧縮応力を有する前記第3のAlzGa1-zN(y<z<1.00)の格子定数は、前記基板に含まれる前記AlNの格子定数以上、且つ、前記第2の圧縮応力を有する前記第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数以下であって、前記第3のAlzGa1-zN(y<z<1.00)に対応するAl組成zを有するAlzGa1-zNが示す格子定数の理論値よりも小さい、請求項5に記載の半導体装置。
【請求項7】
AlNを含む基板の第1の面側に、第1の圧縮応力を有する第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含むバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層の、前記基板側とは反対の第2の面側に、GaNを含むチャネル層を形成する工程と、
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、前記基板に含まれる前記AlNの格子定数以上であって、前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)に対応するAl組成xを有するAlxGa1-xNが示す格子定数の理論値よりも小さい、請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
AlNを含む基板と、
前記基板の第1の面側に設けられ、第1の圧縮応力を有する第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含むバッファ層と、
前記バッファ層の、前記基板側とは反対の第2の面側に設けられ、GaNを含むチャネル層と、
を有する半導体装置を備える電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、半導体装置の製造方法及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を用いた半導体装置が知られている。例えば、GaN(窒化ガリウム)をチャネル層(「電子走行層」とも称される)に用い、AlN(窒化アルミニウム)やAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)をバリア層(「電子供給層」とも称される)に用いた高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor;HEMT)が知られている。
【0003】
このようなHEMTに関し、例えば、GaNを含むチャネル層を、AlxGa1-xNを含むバッファ層上に設ける技術が知られている。この技術に関し、チャネル層の厚さを5nmとする時、バッファ層のAlxGa1-xNのAl組成を8%から32%の範囲に設定することが知られている。
【0004】
また、AlαGa1-αN(0<α≦1)を含む第1バッファ層とAlβGa1-βN(0<β<α≦1)を含む第2バッファ層とを有するバッファ層上に設けた、AlXGa(1-X)N(0<X≦1)を含むバックバリア層上に、GaN等の電子走行層を設ける技術が知られている。この技術に関し、バックバリア層のAl組成比Xは、一義的に定まらず、0.01以上0.1以下としてもよく、0.1以上0.2以下としてもよく、0.2以上0.3以下としてもよいことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0238842号明細書
【特許文献2】特開2019-121785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
GaNを含むチャネル層が、AlN又はAlGaNを含むバッファ層(又はバックバリア層)上に設けられるHEMTでは、チャネル層のバッファ層側の伝導帯エネルギーが、バッファ層によって持ち上げられるバンド構造となる。チャネル層のバッファ層側の伝導帯エネルギーが大きく持ち上げられるバンド構造となると、キャリアとなる電子の分布が狭まり、その濃度が減少し、チャネル層の電子移動度が低下してしまうことが起こり得る。チャネル層の電子移動度の低下は、出力電流の減少や高周波特性の劣化等、HEMTを含む半導体装置の性能低下を招き得る。
【0007】
1つの側面では、本発明は、優れた電子移動度を示すチャネル層を備えた高性能の半導体装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つの態様では、AlNを含む基板と、前記基板の第1の面側に設けられ、第1の圧縮応力を有する第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含むバッファ層と、前記バッファ層の、前記基板側とは反対の第2の面側に設けられ、GaNを含むチャネル層と、を有する半導体装置が提供される。
【0009】
また、別の態様では、上記のような半導体装置の製造方法、上記のような半導体装置を備える電子装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
1つの側面では、優れた電子移動度を示すチャネル層を備えた高性能の半導体装置を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】半導体装置のエネルギーバンド構造の第1の例を示す図である。
【
図3】第1の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
【
図4】半導体装置のエネルギーバンド構造の第2の例を示す図である。
【
図5】Al組成と分極電荷、自発分極及びピエゾ分極との関係の一例を示す図である。
【
図6】窒化物半導体積層構造についてX線回折を用いて逆格子マッピングを行った結果の一例を示す図である。
【
図7】バッファ層のAl組成とチャネル層の電子移動度との関係の一例を示す図である。
【
図8】チャネル層の厚さと電子移動度との関係の一例を示す図である。
【
図9】第2の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
【
図10】第2の実施の形態に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する図(その1)である。
【
図11】第2の実施の形態に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する図(その2)である。
【
図12】第2の実施の形態に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する図(その3)である。
【
図13】第2の実施の形態に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する図(その4)である。
【
図14】第3の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
【
図15】第4の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
【
図16】第5の実施の形態に係る半導体パッケージの一例について説明する図である。
【
図17】第6の実施の形態に係る力率改善回路の一例について説明する図である。
【
図18】第7の実施の形態に係る電源装置の一例について説明する図である。
【
図19】第8の実施の形態に係る増幅器の一例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
窒化物半導体を用いた半導体装置は、高い飽和電子速度やワイドバンドギャップ等の特徴を利用し、高耐圧、高出力デバイスとしての開発が行われている。例えば、窒化物半導体であるGaNは、そのバンドギャップが3.4eVであり、Si(シリコン)のバンドギャップである1.1eV及びGaAs(ガリウムヒ素)のバンドギャップである1.4eVよりも大きく、高い絶縁破壊電界を有する。そのため、GaN等の窒化物半導体は、高電圧動作且つ高出力の半導体装置、例えば、電源装置、通信装置、レーダー装置等に適用される半導体装置の材料として有望である。
【0013】
窒化物半導体を用いた半導体装置としては、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor;FET)、例えば、HEMTについての報告が数多くなされている。HEMTの1種として、GaNをチャネル層、AlGaNをバリア層として用いたHEMTが知られている。このようなHEMTでは、AlGaNの自発分極、及びGaNとの格子定数差に起因したひずみによってAlGaNに発生するピエゾ分極により、GaNに二次元電子ガス(Two Dimensional Electron Gas;2DEG)が生成され、高出力が実現される。また、更なる高耐圧化のため、GaNをAlN又はAlGaNで挟み、GaNとAlN又はAlGaNとの比較的大きなバンドオフセットによってキャリアの閉じ込めを強める、量子井戸構造(「量子閉じ込め構造」とも称される)を採用する半導体装置も提案されている。
【0014】
図1は半導体装置の例について説明する図である。
図1(A)には半導体装置の第1の例の要部断面図を模式的に示している。
図1(B)には半導体装置の第2の例の要部断面図を模式的に示している。
【0015】
図1(A)に示す半導体装置100Aは、HEMTの一例である。半導体装置100Aは、基板110A、チャネル層130A、バリア層140A、ゲート電極150、ソース電極160及びドレイン電極170を有する。
【0016】
基板110Aには、AlN、Si、サファイア、SiC(シリコンカーバイド)、GaN等の各種基板が用いられる。基板110Aには、チャネル層130Aが設けられる面側の表層部に、AlN等の窒化物半導体が用いられたバッファ層が設けられてもよい。基板110A上に、比較的厚いチャネル層130Aが設けられる。チャネル層130Aには、GaN等の窒化物半導体が用いられる。バリア層140Aは、チャネル層130A上に設けられる。バリア層140Aには、チャネル層130Aの窒化物半導体よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体が用いられる。チャネル層130AにGaNが用いられる場合、バリア層140Aには、AlN、AlGaN等の窒化物半導体が用いられる。基板110A上に、例えば、有機金属気相成長(Metal Organic Chemical Vapor Deposition;MOCVD、若しくはMetal Organic Vapor Phase Epitaxy;MOVPE)法を用いて、チャネル層130A及びバリア層140Aが順次積層されて成長され、
図1(A)に示すような窒化物半導体積層構造が得られる。
【0017】
尚、半導体装置100Aにおいて、基板110Aは、チャネル層130Aが積層される側の面が(0001)面となる。チャネル層130Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるように基板110A上に積層された層であり、バリア層140Aが積層される側の面が(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。バリア層140Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるようにチャネル層130A上に積層された層であり、チャネル層130A側とは反対側の面が(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。
【0018】
ゲート電極150、ソース電極160及びドレイン電極170には、それぞれ所定の金属が用いられる。ゲート電極150は、ショットキー電極として機能するように設けられる。ソース電極160及びドレイン電極170は、オーミック電極として機能するように設けられる。
【0019】
半導体装置100Aは、比較的厚いチャネル層130Aとバリア層140Aとのヘテロ接合構造を有する。ここでは便宜上、このような半導体装置100Aを、「通常の半導体装置100A」とも言う。半導体装置100Aでは、バリア層140Aの自発分極、及びチャネル層130Aとの格子定数差に起因したひずみによってバリア層140Aに発生するピエゾ分極により、チャネル層130Aの、バリア層140Aとの接合界面近傍に、2DEG101Aが生成される。半導体装置100Aの動作時には、ソース電極160とドレイン電極170との間に所定の電圧が供給され、ゲート電極150に所定のゲート電圧が供給される。ソース電極160とドレイン電極170との間のチャネル層130Aに電子の輸送経路が形成され、半導体装置100Aのトランジスタ機能が実現される。
【0020】
また、
図1(B)に示す半導体装置100Bは、HEMTの別の例である。半導体装置100Bは、基板110B、バッファ層120B、チャネル層130B、バリア層140B、ゲート電極150、ソース電極160及びドレイン電極170を有する。
【0021】
基板110Bには、AlN、Si、サファイア、SiC、GaN等の各種基板が用いられる。基板110B上に、バッファ層120Bを介して、比較的薄いチャネル層130Bが設けられる。チャネル層130B上に、バリア層140Bが設けられる。チャネル層130Bには、GaN等の窒化物半導体が用いられる。チャネル層130Bを挟むバッファ層120B及びバリア層140Bには、チャネル層130Bの窒化物半導体よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体が用いられる。チャネル層130BにGaNが用いられる場合、バッファ層120B及びバリア層140Bには、AlN、AlGaN等の窒化物半導体が用いられる。チャネル層130B下に設けられるバッファ層120Bは、バックバリア層とも称される。基板110B上に、例えば、MOVPE法を用いて、バッファ層120B、チャネル層130B及びバリア層140Bが順次積層されて成長され、
図1(B)に示すような窒化物半導体積層構造が得られる。
【0022】
尚、半導体装置100Bにおいて、基板110Bは、バッファ層120Bが積層される側の面が(0001)面となる。バッファ層120Bは、その厚さ方向が[0001]方向となるように基板110B上に積層された層であり、チャネル層130Bが積層される側の面が(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。チャネル層130Bは、その厚さ方向が[0001]方向となるようにバッファ層120B上に積層された層であり、バリア層140Bが積層される側の面が(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。バリア層140Bは、その厚さ方向が[0001]方向となるようにチャネル層130B上に積層された層であり、チャネル層130B側とは反対側の面が(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。
【0023】
ゲート電極150、ソース電極160及びドレイン電極170には、それぞれ所定の金属が用いられる。ゲート電極150は、ショットキー電極として機能するように設けられる。ソース電極160及びドレイン電極170は、オーミック電極として機能するように設けられる。
【0024】
半導体装置100Bは、比較的薄いチャネル層130Bがバッファ層120Bとバリア層140Bとで挟まれた量子井戸構造を有する。半導体装置100Bでは、バリア層140Bの自発分極、及びチャネル層130Bとの格子定数差に起因したひずみによってバリア層140Bに発生するピエゾ分極により、チャネル層130Bの、バリア層140Bとの接合界面近傍に、2DEG101Bが生成される。半導体装置100Bの動作時には、ソース電極160とドレイン電極170との間に所定の電圧が供給され、ゲート電極150に所定のゲート電圧が供給される。ソース電極160とドレイン電極170との間のチャネル層130Bに電子の輸送経路が形成され、半導体装置100Bのトランジスタ機能が実現される。
【0025】
半導体装置100Bでは、チャネル層130Bとバッファ層120B及びバリア層140Bとの間の比較的大きなバンドオフセットにより、電子の閉じ込めが強められ、デバイス奥部への電子拡散が規制され、デバイス奥部を経由したリーク電流の発生が抑えられる。半導体装置100Bでは、その量子井戸構造による電子の強い閉じ込めにより、高耐圧化が実現される。
【0026】
ここで、量子井戸構造が採用されない通常の半導体装置100A(
図1(A))と、量子井戸構造が採用された半導体装置100B(
図1(B))との、エネルギーバンド構造について、
図2を参照して説明する。
【0027】
図2は半導体装置のエネルギーバンド構造の第1の例を示す図である。
図2には、上記
図1(A)に示した通常の半導体装置100Aのエネルギーバンド構造の一例(
図2の「HEMT
A」)、及び上記
図1(B)に示した量子井戸構造を有する半導体装置100Bのエネルギーバンド構造の一例(
図2の「HEMT
B」)を示している。
【0028】
半導体装置100A(HEMTA)については、チャネル層130AにGaNを用い、バリア層140AにAlmGa1-mN(0.00<m≦1.00)を用いた場合を例にしている。半導体装置100B(HEMTB)については、バッファ層120BにAlnGa1-nN(0.00<n≦1.00)を用い、チャネル層130BにGaNを用い、バリア層140BにAlmGa1-mN(0.00<m≦1.00)を用いた場合を例にしている。
【0029】
図2において、横軸はバリア層140A及びバリア層140Bの側からの深さzを表し、縦軸は伝導帯エネルギーE
Cを表している。
図2において、E
Fはフェルミ準位を表している。
【0030】
通常の半導体装置100A(HEMTA)では、比較的厚いGaNのチャネル層130A上に、GaNよりもバンドギャップの大きいAlmGa1-mN(0.00<m≦1.00)のバリア層140Aが積層される。これに対し、量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMTB)では、比較的薄いGaNのチャネル層130Bが、GaNよりもバンドギャップの大きいAlnGa1-nN(0.00<n≦1.00)のバッファ層120B及びAlmGa1-mN(0.00<m≦1.00)のバリア層140Bで挟まれる。
【0031】
量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMT
B)では、通常の半導体装置100A(HEMT
A)に比べ、
図2に示すように、バッファ層120BのAl
nGa
1-nN(0.00<n≦1.00)によって比較的薄いチャネル層130BのGaNの伝導帯エネルギーE
Cが持ち上げられる。これにより、量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMT
B)では、伝導帯エネルギーE
Cがフェルミ準位E
Fを下回ることで生成される2DEG101Bが、通常の半導体装置100A(HEMT
A)で生成される2DEG101Aに比べ、より狭い領域に生成され、その濃度が減少する。
【0032】
通常の半導体装置100A(HEMTA)及び量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMTB)において、チャネル層130A及びチャネル層130Bの電子移動度μは、室温以上では主にフォノン散乱によって制限される。フォノン散乱は、電子の波動関数Fi,m(z)に対して、次式(1)のように表される。
【0033】
【0034】
これは、電子の波動関数F
i,m(z)が狭くなれば狭くなるほど電子移動度μが低下することを示している。
量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMT
B)は、通常の半導体装置100A(HEMT
A)に比べ、電子が狭い領域に閉じ込められてしまうため、その波動関数も狭くなってしまう。即ち、
図2に示すように、量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMT
B)の波動関数は、通常の半導体装置100A(HEMT
A)の波動関数よりも狭くなる。量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMT
B)の電子移動度は、通常の半導体装置100A(HEMT
A)の約2000cm
2/V・s程度といった電子移動度に比べて低くなり、1000cm
2/V・s以下となってしまう場合もある。結果として、量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMT
B)では、通常の半導体装置100A(HEMT
A)のチャネル層130Aに比べ、チャネル層130BのGaNのシート抵抗が増大してしまい、大電流化が難しくなる。
【0035】
このように量子井戸構造を有する半導体装置100Bでは、通常の半導体装置100Aに比べて高耐圧化が可能になる一方、チャネル層130Bの電子移動度が低くなり、そのシート抵抗が高くなる。チャネル層130Bの電子移動度の低下、シート抵抗の増大は、出力電流の減少や高周波特性の劣化等、半導体装置100Bの性能低下を招き得る。
【0036】
以上のような点に鑑み、ここでは以下に実施の形態として示すような構成を採用し、優れた電子移動度を示すチャネル層を備えた高性能の半導体装置を実現する。
[第1の実施の形態]
図3は第1の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
図3には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0037】
図3に示す半導体装置1は、HEMTの一例である。半導体装置1は、基板10、バッファ層20、チャネル層30、バリア層40、ゲート電極50、ソース電極60及びドレイン電極70を有する。
【0038】
基板10には、AlNを含む基板が用いられる。例えば、基板10には、AlN基板が用いられる。或いは、基板10には、AlN、Si、サファイア、SiC、GaN等の各種基板の、バッファ層20が設けられる面10a側の表層部に、AlNの核形成層又はバッファ層が設けられたものが用いられてもよい。ここでは、基板10の面10aを「第1の面」とも言う。
【0039】
バッファ層20は、基板10の面10a側に設けられる。バッファ層20には、チャネル層30に用いられる窒化物半導体よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体を含む層が用いられる。バッファ層20には、AlGaNを含む層が用いられる。バッファ層20は、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含む。ここでは、このようなAl組成xを有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を「第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)」とも言い、AlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が有する圧縮応力を「第1の圧縮応力」とも言う。
【0040】
バッファ層20は、例えば、複数層のAlGaNが積層された構造を有する。
図3には一例として、AlGaNの第1の層21及び第2の層22が積層された構造を示している。
図3の例では、基板10の面10a上に第2の層22が設けられ、第2の層22上(基板10側とは反対側の面上)に第1の層21が設けられる。
【0041】
バッファ層20の第1の層21は、上記のような圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含む層である。バッファ層20の第2の層22は、第1の層21のAl組成xよりも高いAl組成yの、圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)を含む層である。ここでは、このようなAl組成yを有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)を「第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)」とも言い、AlyGa1-yN(x<y<1.00)が有する圧縮応力を「第2の圧縮応力」とも言う。第2の層22は、単層に限らず、複数層のAlGaNが積層された構造を有してもよい。バッファ層20は、バックバリア層とも称される。
【0042】
尚、バッファ層20の詳細については後述する。
チャネル層30は、バッファ層20の、基板10側とは反対の面20a側に設けられる。ここでは、バッファ層20の面20aを「第2の面」とも言う。チャネル層30は、バッファ層20の面20a、即ち、第1の層21に接するように設けられる。チャネル層30には、バッファ層20及びバリア層40に用いられる窒化物半導体よりもバンドギャップの小さい窒化物半導体を含む層が用いられる。チャネル層30には、GaNを含む層が用いられる。チャネル層30は、電子走行層とも称される。
【0043】
バリア層40は、チャネル層30の、バッファ層20側とは反対の面30a側に設けられる。ここでは、チャネル層30の面30aを「第3の面」とも言う。バリア層40には、チャネル層30に用いられる窒化物半導体よりもバンドギャップの大きい窒化物半導体を含む層が用いられる。バリア層40には、AlmGa1-mN(0.00<m≦1.00)を含む層、即ち、AlN又はAlGaNを含む層が用いられる。バリア層40は、電子供給層とも称される。
【0044】
基板10上に、例えば、MOVPE法を用いて、バッファ層20、チャネル層30及びバリア層40が順次積層されて成長され、
図3に示すような窒化物半導体積層構造が得られる。半導体装置1では、バリア層40の自発分極、及びチャネル層30との格子定数差に起因したひずみによってバリア層40に発生するピエゾ分極により、チャネル層30の、バリア層40との接合界面近傍に、2DEG1aが生成される。
【0045】
尚、半導体装置1において、基板10は、バッファ層20が積層される側の面10aが(0001)面、即ち、III族極性面となる。バッファ層20は、その厚さ方向が[0001]方向となるように基板10上に積層された層であり、チャネル層30が積層される側の面20aが(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。チャネル層30は、その厚さ方向が[0001]方向となるようにバッファ層20上に積層された層であり、バリア層40が積層される側の面30aが(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。バリア層40は、その厚さ方向が[0001]方向となるようにチャネル層30上に積層された層であり、チャネル層30側とは反対側の面40aが(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。
【0046】
ゲート電極50、ソース電極60及びドレイン電極70には、それぞれ所定の金属が用いられる。ゲート電極50は、ショットキー電極として機能するように設けられる。ソース電極60及びドレイン電極70は、オーミック電極として機能するように設けられる。
【0047】
半導体装置1の動作時には、ソース電極60とドレイン電極70との間に所定の電圧が供給され、ゲート電極50に所定のゲート電圧が供給される。ソース電極60とドレイン電極70との間のチャネル層30に電子の輸送経路が形成され、半導体装置1のトランジスタ機能が実現される。半導体装置1は、チャネル層30がバッファ層20とバリア層40とで挟まれた量子井戸構造を有する。半導体装置1では、チャネル層30とバッファ層20及びバリア層40との間の比較的大きなバンドオフセットにより、電子の閉じ込めが強められ、デバイス奥部への電子拡散が規制され、デバイス奥部を経由したリーク電流の発生が抑えられる。半導体装置1では、その量子井戸構造による電子の強い閉じ込めにより、高耐圧化が実現される。
【0048】
ここで、上記のような量子井戸構造を有する半導体装置1のエネルギーバンド構造について、
図4を参照して説明する。
図4は半導体装置のエネルギーバンド構造の第2の例を示す図である。
【0049】
図4には、上記
図3に示した量子井戸構造を有する半導体装置1のエネルギーバンド構造の一例(
図4の「HEMT
C」)を示している。
図4には更に、上記
図1(A)に示した通常の半導体装置100Aのエネルギーバンド構造の一例(
図4の「HEMT
A」)、及び上記
図1(B)に示した量子井戸構造を有する半導体装置100Bのエネルギーバンド構造の一例(
図4の「HEMT
B」)を併せて示している。
【0050】
半導体装置1(HEMTC)については、バッファ層20に圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を用い、チャネル層30にGaNを用い、バリア層40にAlmGa1-mN(0.00<m≦1.00)を用いた場合を例にしている。半導体装置100A(HEMTA)については、チャネル層130AにGaNを用い、バリア層140AにAlmGa1-mN(0.00<m≦1.00)を用いた場合を例にしている。半導体装置100B(HEMTB)については、バッファ層120BにAlnGa1-nN(0.00<n≦1.00)を用い、チャネル層130BにGaNを用い、バリア層140BにAlmGa1-mN(0.00<m≦1.00)を用いた場合を例にしている。
【0051】
図4において、横軸はバリア層40並びにバリア層140A及びバリア層140Bの側からの深さzを表し、縦軸は伝導帯エネルギーE
Cを表している。
図4において、E
Fはフェルミ準位を表している。
【0052】
量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMTB)では、通常の半導体装置100A(HEMTA)に比べ、バッファ層120BのAlnGa1-nN(0.00<n≦1.00)によってチャネル層130BのGaNの伝導帯エネルギーECが持ち上げられる。これにより、量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMTB)では、通常の半導体装置100A(HEMTA)に比べ、電子が狭い領域に閉じ込められる。そのため、量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMTB)の波動関数は、通常の半導体装置100A(HEMTA)の波動関数よりも狭くなる。量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMTB)は、通常の半導体装置100A(HEMTA)に比べ、高耐圧化には有利となる一方、電子移動度は低くなる。
【0053】
量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMTB)において、バッファ層120Bとして、AlN(n=1.00)が用いられる場合、そのIII族極性面(Al面)には、強い自発分極によって負の分極電荷が生成される。また、バッファ層120Bとして、AlNよりも格子定数(理論値)の大きいAlGaN(0.00<n<1.00)が用いられる場合、AlGaNは、その成長の下地となる基板110Bとの格子定数の違いから、転位が導入されながら成長し、格子緩和され得る。AlGaNは、下地のAlNと同じ格子定数で成長しようとする力よりも、結晶欠陥を導入する自由エネルギーの変化量の方が高い利得を持つと、転位が導入されながら成長し、格子緩和され得る。このように格子緩和され、理論値の格子定数又はそれと同等の格子定数で成長されたAlGaNのIII族極性面には、比較的強い自発分極によって負の分極電荷が生成される。このようにバッファ層120BのAlN又はAlGaNのIII族極性面に生成される負の分極電荷のために、その上に成長されるチャネル層130BのGaNの伝導帯エネルギーECが持ち上げられる。その結果、半導体装置100B(HEMTB)では、電子の分布が狭くなり、波動関数が狭くなって、電子移動度が低下してしまう。
【0054】
即ち、半導体装置100B(HEMTB)において、バッファ層120BのIII族極性面の分極電荷を、負ではなく、0又は正にすることができれば、その上に成長されるチャネル層130Bの伝導帯エネルギーECの持ち上がりを抑えることができる。バッファ層120BのIII族極性面の分極電荷を0又は正にすることができれば、チャネル層130Bは、そのバッファ層120B側の伝導帯エネルギーECがフェルミ準位EFを下回るか又はそれに近くなり、電子の分布が広がり、波動関数が広がる。これにより、量子井戸構造であっても、電子移動度を高めることが可能になる。
【0055】
このような点に鑑み、量子井戸構造を有する半導体装置1(HEMTC)において、チャネル層30が成長されるバッファ層20のIII族極性面に0又は正の分極電荷を生成することを考える。量子井戸構造を有する半導体装置1(HEMTC)において、バッファ層20のIII族極性面に0又は正の分極電荷を生成するためには、バッファ層20に圧縮ストレスを印加し、バッファ層20が圧縮応力を有するようにすればよい。そこで、量子井戸構造を有する半導体装置1(HEMTC)では、チャネル層30のGaNが成長されるバッファ層20に、第1の層21として、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が用いられる。
【0056】
尚、バッファ層20に用いられるAlGaNのAl組成、分極電荷及び圧縮応力については後述する。
半導体装置1(HEMT
C)では、バッファ層20の第1の層21に、Al組成xが0.15超で且つ0.30以下の、圧縮応力を有するAl
xGa
1-xN(0.15<x≦0.30)が用いられ、そのIII族極性面の分極電荷が0又は正とされる。これにより、
図4に示すように、チャネル層30のGaNの、バッファ層20のAl
xGa
1-xN(0.15<x≦0.30)側の伝導帯エネルギーE
Cの持ち上がりが抑えられる。
図4には、半導体装置1(HEMT
C)におけるチャネル層30のGaNの、伝導帯エネルギーE
Cの持ち上がりが、半導体装置100B(HEMT
B)におけるチャネル層130BのGaNの、伝導帯エネルギーE
Cの持ち上がりよりも抑えられる様子を、太矢印で表している。半導体装置1(HEMT
C)におけるチャネル層30のGaNの、伝導帯エネルギーE
Cの持ち上がりが抑えられることで、チャネル層30のGaNは、バッファ層20のAlGaN側の伝導帯エネルギーE
Cがフェルミ準位E
Fを下回るか又はそれに近くなる。それにより、チャネル層30のGaNにおける電子の分布が広がるため、波動関数が広がる。半導体装置1(HEMT
C)の波動関数は、量子井戸構造を有する半導体装置100B(HEMT
B)の波動関数よりも広がるほか、通常の半導体装置100A(HEMT
A)の波動関数よりも広がり得る。
【0057】
バッファ層20に、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が用いられ、そのIII族極性面の分極電荷が0又は正とされる半導体装置1(HEMTC)によれば、量子井戸構造で耐圧が向上されると共に、チャネル層30の電子移動度が向上される。これにより、高性能の半導体装置1が実現される。
【0058】
ここで、バッファ層20に用いられるAlGaNのAl組成、分極電荷及び圧縮応力について説明する。
AlGaNの応力による分極電荷の変化(ピエゾ分極)PPは、Al組成xとストレスs及びストレステンソルEを用いて、次式(2)のように表される。
【0059】
【0060】
この式(2)を用いて、AlGaNが、最も強い圧縮ストレスが印加される時、即ち、AlNと同じ格子定数となる時の、III族極性面の分極電荷を計算したものを、
図5に示す。
【0061】
図5はAl組成と分極電荷、自発分極及びピエゾ分極との関係の一例を示す図である。
図5において、横軸はAl組成x[-]を表している。
図5において、左側の縦軸は分極電荷[cm
-2]を表し、右側の縦軸は自発分極[C/m
2]及びピエゾ分極[C/m
2]を表している。
【0062】
図5に示すように、AlNと同じ格子定数となる時のAlGaNは、そのAl組成xの変化に伴って自発分極及びピエゾ分極が変化し、Al組成xの減少に伴って分極電荷(全分極電荷)が増加する傾向を示す。
図5より、AlNと同じ格子定数となる時のAlGaNの分極電荷が0又は正となるのは、そのAl組成xが0.30以下となる場合(
図5の領域AR)であることが分かる。
【0063】
一方で、Al組成xが0.30以下のAlGaNを、AlN上に成長すると、AlGaNのAl組成xが0.15以下の場合、AlNとの組成及び格子定数(理論値)の差が大きく、格子不整合が大きいため、格子緩和が生じる。即ち、Al組成xが0.15以下のAlGaNの場合、下地のAlNと同じ格子定数で成長しようとする力よりも、結晶欠陥を導入する自由エネルギーの変化量の方が高い利得を持つため、転位を導入しながら成長し、格子緩和が生じてしまう。AlN上にそれと同等の格子定数で成長された層を下地として、Al組成xが0.15以下のAlGaNを成長する場合も、それらの間の格子不整合が大きいことから、同様に格子緩和が生じ得る。結果として、Al組成xが0.15以下のAlGaNでは、AlN上での格子定数及び分極電荷を調整することが難しくなる。
【0064】
従って、AlN上又はその上にAlNと同等の格子定数で成長された層上に成長される際、格子緩和を抑えて圧縮ストレスを印加し、分極電荷を0又は正にするためには、AlGaNのAl組成xを、0.15超で且つ0.30以下の範囲に設定することが望ましい。尚、AlNを上回る格子定数となった時(圧縮応力を有するがその値が減少した時)のAlGaNのピエゾ分極、分極電荷は、AlNと同じ格子定数となった時よりも低下し、AlGaNの分極電荷が0又は正となるAl組成xは0.30以下の範囲となる。
【0065】
このような知見に基づき、上記半導体装置1(HEMTC)のAlNを含む基板10とGaNを含むチャネル層30との間に設けられるバッファ層20に、第1の層21として、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が用いられる。バッファ層20の、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の第1の層21上に、チャネル層30のGaNが設けられる。圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、基板10に含まれるAlNの格子定数以上となる。更に、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、当該AlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)に対応するAl組成xを有するAlxGa1-xNが示す格子定数の理論値よりも小さくなる。ここで、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、基板10に含まれるAlNの格子定数と一致し得る。
【0066】
半導体装置1(HEMT
C)では、基板10のAlN上に設けられるバッファ層20の第1の層21として、このような格子定数を有し、圧縮応力を有するAl
xGa
1-xN(0.15<x≦0.30)が用いられる。これにより、バッファ層20の、第1の層21のIII族極性面(面20a)における分極電荷、即ち、チャネル層30のGaNとの接合界面における分極電荷が、0又は正となるように調整される。バッファ層20の、第1の層21のIII族極性面における分極電荷が、0又は正とされることで、第1の層21上に設けられるチャネル層30の、伝導帯エネルギーE
Cの持ち上がりが抑えられる(
図4)。チャネル層30は、そのバッファ層20側の伝導帯エネルギーE
Cがフェルミ準位E
Fを下回るか又はそれに近くなり、電子の分布が広がり、波動関数が広がる。その結果、チャネル層30の電子移動度が向上される。半導体装置1(HEMT
C)では、チャネル層30の電子移動度が向上されることで、出力電流の減少や高周波特性の劣化等が抑えられる。優れた電子移動度を示すチャネル層30を備えた高性能の半導体装置1(HEMT
C)が実現される。
【0067】
Al組成xが0.15<x≦0.30であるAl
xGa
1-xNは、基板10のAlN上に直接成長すると、AlNとの組成及び格子定数(理論値)の差が比較的大きいため、格子緩和が生じ、圧縮ストレスが印加されず、圧縮応力が発現されない場合がある。そのため、半導体装置1では、上記
図3に示したように、Al
xGa
1-xN(0.15<x≦0.30)を含む第1の層21と、それよりもAl組成の高いAl
yGa
1-yN(x<y<1.00)を含む第2の層22とを有するバッファ層20が設けられる。第2の層22は、複数層のAlGaNが積層された構造を有してもよい。
【0068】
半導体装置1の製造では、基板10のAlN上に、まず、比較的高いAl組成yのAlyGa1-yN(x<y<1.00)を含む第2の層22が成長され、その上に、比較的低いAl組成xのAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含む第1の層21が成長される。第2の層22の成長、及びそれに続く第1の層21の成長においては、格子定数の理論値が比較的近く厚さが薄い場合、結晶は下地の材料と同じ格子定数で成長しようとする性質が利用される。第2の層22の成長、及びそれに続く第1の層21の成長においては、各々のAl組成y及びAl組成xのほか、各々の厚さが適宜調整される。
【0069】
基板10のAlNと、Al組成xが比較的低くAlNと組成及び格子定数の理論値の差が比較的大きい第1の層21との間に、Al組成yが比較的高くAlNと組成及び格子定数の理論値の差が比較的小さい第2の層22が設けられる。基板10のAlNとその上に成長される第2の層22とは、互いの組成及び格子定数の理論値が比較的近いため、基板10のAlN上に成長される第2の層22には、格子緩和が生じることが抑えられる。第2の層22とその上に成長される第1の層21とは、互いの組成及び格子定数の理論値が比較的近いため、第2の層22上に成長される第1の層21には、格子緩和が生じることが抑えられる。
【0070】
比較的高いAl組成yのAlyGa1-yN(x<y<1.00)を含む第2の層22は、格子緩和が抑えられながら基板10のAlNと格子整合しようとして成長され、圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、第2の層22として、圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)が形成される。第2の層22の圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数は、基板10のAlNの格子定数以上となる。更に、第2の層22の圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数は、当該AlyGa1-yN(x<y<1.00)に対応するAl組成yを有するAlyGa1-yNが示す格子定数の理論値よりも小さくなる。ここで、第2の層22の圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数は、基板10のAlNの格子定数と一致し得る。
【0071】
このような格子定数を有し、圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)を含む第2の層22上に、比較的低いAl組成xのAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含む第1の層21が成長される。第1の層21は、格子緩和が抑えられながら第2の層22のAlyGa1-yN(x<y<1.00)と格子整合しようとして成長され、圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、第1の層21として、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が形成される。第1の層21の圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、第2の層22の圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数以上となる。更に、第1の層21の圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、当該AlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)に対応するAl組成xを有するAlxGa1-xNが示す格子定数の理論値よりも小さくなる。ここで、第1の層21の圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、基板10のAlNの格子定数と一致し得る。第1の層21の圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、第2の層22の圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数と一致し得る。
【0072】
尚、第1の層21の圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)については、次のようにも言える。即ち、第1の層21の圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、基板10のAlNの格子定数以上となる。更に、第1の層21の圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、当該AlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)に対応するAl組成xを有するAlxGa1-xNの格子定数の理論値よりも小さくなる。
【0073】
また、第2の層22の圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)については、次のようにも言える。即ち、第2の層22の圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数は、基板10のAlNの格子定数以上、且つ、第1の層21の圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数以下となる。更に、第2の層22の圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数は、当該AlyGa1-yN(x<y<1.00)に対応するAl組成yを有するAlyGa1-yNの格子定数の理論値よりも小さくなる。
【0074】
このように半導体装置1では、基板10のAlN上に、まず、比較的Al組成yが高く、AlNとの組成及び格子定数の理論値の差が比較的小さいAlyGa1-yN(x<y<1.00)を含む第2の層22が成長される。その上に、比較的Al組成xが低く、AlNとの組成及び格子定数の理論値の差が比較的大きいAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含む第1の層21が成長される。これにより、基板10のAlN上に成長される第2の層22のAlyGa1-yN(x<y<1.00)に格子緩和が生じることが抑えられ、第2の層22上に成長される第1の層21のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)に格子緩和が生じることが抑えられる。結果として、基板10のAlN上には、圧縮応力を有するAlyGa1-yN(x<y<1.00)を含む第2の層22を介して、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含む第1の層21が成長される。圧縮応力を有し、チャネル層30が成長される側の面20aにおける分極電荷が0又は正となるように第1の層21が形成され、それを含むバッファ層20が形成される。
【0075】
このようなバッファ層20の第1の層21上に、チャネル層30が設けられる。第1の層21の0又は正の分極電荷により、チャネル層30の伝導帯エネルギーECの持ち上がりが抑えられ、電子の分布が広がり、波動関数が広がって、チャネル層30の電子移動度が向上される。
【0076】
図6は窒化物半導体積層構造についてX線回折を用いて逆格子マッピングを行った結果の一例を示す図である。
図6において、横軸は[100]方向に平行な逆格子空間座標q
X[1/nm]を表し、縦軸は[001]方向に平行な逆格子空間座標q
Z[1/nm]を表している。
【0077】
図6には、基板10のAlN上に、Al
yGa
1-yN(x<y<1.00)を含む第2の層22を介して、Al組成xが0.20のAl
0.20Ga
0.80Nを含む第1の層21が成長され、その上にチャネル層30のGaNが成長された窒化物半導体積層構造の結果を示す。このような窒化物半導体積層構造について、X線回折を用いて逆格子マッピングを行っている。
【0078】
逆格子マップのq
X軸方向は、結晶の横方向の格子定数を示す。
図6には、基板10のAlNの、格子定数の理論値を、鎖線で示している。
図6には、バッファ層20のAl
0.20Ga
0.80Nの、格子定数の理論値を、点線で示している。
図6には、チャネル層30のGaNの、格子定数の理論値を、一点鎖線で示している。
【0079】
図6より、基板10のAlNの格子定数を示すピーク値は、AlNの格子定数の理論値と同等である。バッファ層20のAl
0.20Ga
0.80Nの格子定数を示すピーク値は、基板10のAlNの格子定数(ピーク値及び理論値)と同等であり、且つ、対応するAl組成を有するAl
0.20Ga
0.80Nの格子定数の理論値よりも小さい。このことから、バッファ層20のAl
0.20Ga
0.80Nは、その理論値よりも小さく、且つ、基板10のAlNと同等の格子定数を有し、圧縮ストレスが印加された状態、即ち、圧縮応力を有する状態で、基板10のAlN上に成長されていることが分かる。
【0080】
また、
図6より、チャネル層30のGaNの格子定数を示すピーク値は、GaNの格子定数の理論値と同等である。このことから、チャネル層30のGaNは、下地のバッファ層20に起因したストレスなく、バッファ層20上に成長されていることが分かる。
【0081】
また、
図7はバッファ層のAl組成とチャネル層の電子移動度との関係の一例を示す図である。
図7において、横軸はバッファ層20における第1の層21のAl組成x[-]を表し、縦軸はチャネル層30の電子移動度[cm
2/V・s]を表している。
【0082】
図7より、バッファ層20の第1の層21に用いるAl
xGa
1-xNのAl組成xを0.15とした場合及び1.00(即ちAlN)とした場合には、0.20とした場合及び0.30とした場合に比べ、チャネル層30の電子移動度が低くなる。
【0083】
AlxGa1-xNのAl組成xを0.15とした場合には、その下地となる基板10のAlN又はその上に圧縮ストレスが印加されながら成長される層の実際の格子定数(<理論値)との差が比較的大きくなり、格子不整合が大きくなって格子緩和が生じ易くなる。結果として、十分な圧縮応力が得られず、0又は正の分極電荷が得られなくなる。そのため、AlxGa1-xNのAl組成xを0.15とした場合には、チャネル層30の伝導帯エネルギーECが持ち上がり、その電子移動度が低くなる。また、AlxGa1-xNのAl組成xを1.00とした場合、即ち、AlNとした場合には、チャネル層30との接合界面に、強い負の分極電荷が生じるため、チャネル層30の伝導帯エネルギーECが持ち上がり、その電子移動度が低くなる。
【0084】
このような知見に基づき、バッファ層20には、チャネル層30が設けられる面20a側の第1の層21として、圧縮応力を有し、且つ、Al組成xが0.15<x≦0.30の範囲であるAlxGa1-xNが用いられる。
【0085】
また、
図8はチャネル層の厚さと電子移動度との関係の一例を示す図である。
図8において、横軸はチャネル層30の厚さ[nm]を表し、縦軸はチャネル層30の電子移動度[cm
2/V・s]を表している。尚、チャネル層30の厚さは、バッファ層20の面20aに垂直な方向の厚さ、即ち、[0001]方向の厚さである。
【0086】
図8より、チャネル層30の厚さが100nm以下の範囲では、その厚さの増加に伴って電子移動度が増加する傾向が認められる。一方、チャネル層30の厚さが100nmを上回る範囲では、その厚さが増加しても電子移動度の大幅な増加は認められない。チャネル層30の厚さが100nmを上回るような場合には、その下地となるバッファ層20側の分極電荷を調整しても、2DEG1a領域のエネルギーバンド構造を変化させることができないためである。即ち、バッファ層20を設けたとしても、チャネル層30の厚さが100nmを上回るような場合には、量子井戸構造を採用しない通常の半導体装置100Bと同等になる。
【0087】
従って、上記のようなバッファ層20の分極電荷を調整する手法、即ち、バッファ層20に圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を用いる手法は、量子井戸構造とならないような厚さのチャネル層30に対しては適用されることを要しない。上記のようなバッファ層20の分極電荷を調整する手法は、量子井戸構造となるような厚さのチャネル層30に対して適用されることで、適用されない場合に比べて、高い電子移動度を示すチャネル層30の実現に有効となる。上記のようなバッファ層20の分極電荷を調整する手法が採用される半導体装置1において、そのチャネル層30の厚さは、100nm以下に設定されることが望ましい。
【0088】
[第2の実施の形態]
図9は第2の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
図9には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0089】
図9に示す半導体装置1Aは、HEMTの一例である。半導体装置1Aは、基板10A、バッファ層20A、チャネル層30A、バリア層40A、キャップ層80A、パッシベーション膜90A、ゲート電極50A、ソース電極60A及びドレイン電極70Aを有する。
【0090】
基板10Aには、AlNを含む基板が用いられる。基板10Aは、下地基板11A及び核形成層12Aを含む。下地基板11Aには、例えば、AlN基板が用いられる。下地基板11Aには、Si、サファイア、SiC、GaN等の各種基板が用いられてもよい。核形成層12Aは、下地基板11Aに積層される。核形成層12Aは、例えば、MOVPE法を用いて形成される。核形成層12Aには、例えば、AlNが用いられる。基板10Aの、その核形成層12A側に、バッファ層20A等が設けられる。
【0091】
バッファ層20Aは、下地基板11Aとそれに積層された核形成層12Aとを有する基板10Aの、その核形成層12A側の面10Aa(「第1の面」とも言う)に設けられる。バッファ層20Aには、AlGaNを含む層が用いられる。バッファ層20Aは、圧縮応力を有するAl
xGa
1-xN(0.15<x≦0.30)を含む。バッファ層20Aは、複数層のAlGaNが積層された構造を有する。
図9には一例として、AlGaNの第1の層21A、第2の層22A及び第3の層23Aが積層された構造を示している。
図9の例では、基板10Aの面10Aa上に第3の層23Aが設けられ、第3の層23A上(基板10A側とは反対側の面上)に第2の層22Aが設けられ、第2の層22A上(第3の層23A側とは反対側の面上)に第1の層21Aが設けられる。
【0092】
バッファ層20Aの第1の層21Aは、上記のような圧縮応力(「第1の圧縮応力」とも言う)を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)(「第1のAlxGa1-xN」とも言う)を含む層である。バッファ層20Aの第2の層22Aは、圧縮応力(「第2の圧縮応力」とも言う)を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)(「第2のAlyGa1-yN」とも言う)を含む層である。バッファ層20Aの第3の層23Aは、圧縮応力(「第3の圧縮応力」とも言う)を有するAlzGa1-zN(0.80<z<1.00)(「第3のAlzGa1-zN」とも言う)を含む層である。
【0093】
チャネル層30Aは、バッファ層20Aの、基板10A側とは反対の面20Aa(「第2の面」とも言う)側に設けられる。チャネル層30Aには、GaNを含む層が用いられる。
【0094】
バリア層40Aは、チャネル層30Aの、バッファ層20A側とは反対の面30Aa(「第3の面」とも言う)側に設けられる。バリア層40Aには、AlmGa1-mN(0.50≦m≦1.00)を含む層、即ち、AlN又はAlGaNを含む層が用いられる。
【0095】
キャップ層80Aは、バリア層40Aの、チャネル層30A側とは反対の面40Aa側に設けられる。キャップ層80Aには、GaNを含む層が用いられる。
基板10A(その下地基板11Aに積層された核形成層12A)上に、例えば、MOVPE法を用いて、バッファ層20A、チャネル層30A、バリア層40A及びキャップ層80Aが順次積層されて成長され、
図9に示すような窒化物半導体積層構造が得られる。半導体装置1Aでは、バリア層40Aの自発分極、及びチャネル層30Aとの格子定数差に起因したひずみによってバリア層40Aに発生するピエゾ分極により、チャネル層30Aの、バリア層40Aとの接合界面近傍に、2DEG1Aaが生成される。
【0096】
尚、半導体装置1Aにおいて、基板10Aは、バッファ層20Aが積層される側の面10Aaが(0001)面、即ち、III族極性面となる。バッファ層20Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるように基板10A上に積層された層であり、チャネル層30Aが積層される側の面20Aaが(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。チャネル層30Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるようにバッファ層20A上に積層された層であり、バリア層40Aが積層される側の面30Aaが(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。バリア層40Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるようにチャネル層30A上に積層された層であり、チャネル層30A側とは反対側の面40Aaが(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。キャップ層80Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるようにバリア層40A上に積層された層であり、バリア層40A側とは反対側の面80Aaが(0001)面、即ち、III族極性面となる層である。
【0097】
ゲート電極50A、ソース電極60A及びドレイン電極70Aには、それぞれ所定の金属が用いられる。ゲート電極50Aは、ショットキー電極として機能するように設けられる。ゲート電極50Aは、キャップ層80A上に設けられる。ソース電極60A及びドレイン電極70Aは、オーミック電極として機能するように設けられる。ソース電極60A及びドレイン電極70Aは、キャップ層80A及びバリア層40Aを貫通してチャネル層30A(例えばその2DEG1Aa)と接続される。
【0098】
パッシベーション膜90Aは、キャップ層80A、ソース電極60A及びドレイン電極70Aを覆うように設けられる。パッシベーション膜90Aには、キャップ層80Aに通じる開口部91Aが設けられる。ゲート電極50Aは、パッシベーション膜90Aの開口部91Aにおけるキャップ層80A上に設けられる。パッシベーション膜90Aには、Si、Al(アルミニウム)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Ti(チタン)、Ta(タンタル)及びW(タングステン)の少なくとも1種を含む酸化物、窒化物、酸窒化物等の各種絶縁材料が用いられる。例えば、パッシベーション膜90Aには、SiN(窒化ケイ素)が用いられる。
【0099】
半導体装置1Aの動作時には、ソース電極60Aとドレイン電極70Aとの間に所定の電圧が供給され、ゲート電極50Aに所定のゲート電圧が供給される。ソース電極60Aとドレイン電極70Aとの間のチャネル層30Aに電子の輸送経路が形成され、半導体装置1Aのトランジスタ機能が実現される。半導体装置1Aは、チャネル層30Aがバッファ層20Aとバリア層40Aとで挟まれた量子井戸構造を有する。半導体装置1Aでは、チャネル層30Aとバッファ層20A及びバリア層40Aとの間の比較的大きなバンドオフセットにより、電子の閉じ込めが強められ、デバイス奥部への電子拡散が規制され、デバイス奥部を経由したリーク電流の発生が抑えられる。半導体装置1Aでは、その量子井戸構造による電子の強い閉じ込めにより、高耐圧化が実現される。
【0100】
半導体装置1Aでは、AlNを含む基板10A上に、バッファ層20Aとして、AlGaNの第3の層23A、第2の層22A及び第1の層21Aが順に積層される。第3の層23AにおけるAlGaNのAl組成は、第2の層22AにおけるAlGaNのAl組成よりも高い値に設定される。第2の層22AにおけるAlGaNのAl組成は、第1の層21AにおけるAlGaNのAl組成よりも高い値に設定される。第1の層21AにおけるAlGaNのAl組成は、0.15超で且つ0.30以下の範囲に設定される。
【0101】
第3の層23Aは、下地の基板10AのAlNと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、圧縮応力を有する第3の層23Aが形成される。第2の層22Aは、下地の第3の層23Aと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、圧縮応力を有する第2の層22Aが形成される。第1の層21Aは、下地の第2の層22Aと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、圧縮応力を有する第1の層21Aが形成される。
【0102】
バッファ層20Aとチャネル層30Aとの接合界面には、バッファ層20Aの第1の層21A、即ち、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が設けられる。第1の層21Aは、チャネル層30A側の面20Aa(III族極性面)の分極電荷が0又は正となるように設けられる。これにより、チャネル層30Aの、バッファ層20A側の伝導帯エネルギーECが持ち上がることが抑えられ、電子の分布及び波動関数が広がり、チャネル層30Aの電子移動度が向上される。優れた電子移動度を示すチャネル層30Aを備えた高性能の半導体装置1Aが実現される。
【0103】
続いて、上記のような構成を有する半導体装置1Aの製造方法について、次の
図10から
図13及び上記
図9を参照して説明する。
図10から
図13は第2の実施の形態に係る半導体装置の製造方法の一例について説明する図である。
図10(A)、
図10(B)、
図11(A)、
図11(B)、
図12(A)、
図12(B)、
図13(A)及び
図13(B)にはそれぞれ、半導体装置製造の各工程の要部断面図を模式的に示している。以下、各工程について順に説明する。
【0104】
図10(A)には、基板準備工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
まず、
図10(A)に示すような基板10A、即ち、下地基板11Aとそれに積層された核形成層12Aとを有する基板10Aが準備される。下地基板11Aには、例えば、AlN自立基板が用いられる。下地基板11A上に、例えば、MOVPE法を用いて、核形成層12Aが形成される。核形成層12Aとして、例えば、厚さ100nmのAlNが形成される。下地基板11Aの(0001)面、即ち、III族極性面上に、厚さ方向が[0001]方向となるように核形成層12Aが成長される。核形成層12Aの、下地基板11A側とは反対側の面10Aaが(0001)面、即ち、III族極性面となる。
【0105】
図10(B)には、バッファ層形成工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
基板10Aの準備後、
図10(B)に示すように、基板10Aの核形成層12A側の面10Aa上に、バッファ層20Aが形成される。バッファ層20Aは、例えば、MOVPE法を用いて形成される。この例では、バッファ層20Aとして、上から順に第1の層21A、第2の層22A及び第3の層23Aの、3層のAlGaNの積層構造が形成される。第1の層21Aとして、例えば、厚さ10nmのAl
xGa
1-xN(0.15<x≦0.30)が形成される。第2の層22Aとして、例えば、厚さ50nmのAl
yGa
1-yN(0.30<y≦0.80)が形成される。第3の層23Aとして、例えば、厚さ10nmのAl
zGa
1-zN(0.80<z<1.00)が形成される。
【0106】
基板10Aの面10Aa上には、まず第3の層23Aが形成され、その上に第2の層22Aが形成され、その上に第1の層21Aが形成される。第3の層23Aの成長、第2の層22Aの成長及び第1の層21Aの成長においては、格子定数の理論値が比較的近く厚さが薄い場合、結晶は下地の材料と同じ格子定数で成長しようとする性質が利用される。第3の層23Aの成長、第2の層22Aの成長及び第1の層21Aの成長においては、各々のAl組成z、Al組成y及びAl組成xのほか、各々の厚さが適宜調整される。
【0107】
基板10AのAlNと、Al組成xが比較的低くAlNと組成及び格子定数の理論値の差が比較的大きい第1の層21Aとの間に、Al組成y及びAl組成zが比較的高くAlNと組成及び格子定数の理論値の差が比較的小さい第2の層22A及び第3の層23Aが設けられる。基板10AのAlN上に、Al組成zの第3の層23Aが設けられ、第3の層23A上に、Al組成zよりも低いAl組成yの第2の層22Aが設けられ、第2の層22A上に、Al組成yよりも低いAl組成xの第1の層21Aが設けられる。基板10AのAlNとその上に成長される第3の層23Aとは、互いの組成及び格子定数の理論値が比較的近いため、基板10AのAlN上に成長される第3の層23Aには、格子緩和が生じることが抑えられる。第3の層23Aとその上に成長される第2の層22Aとは、互いの組成及び格子定数の理論値が比較的近いため、第3の層23A上に成長される第2の層22Aには、格子緩和が生じることが抑えられる。そして、第2の層22Aとその上に成長される第1の層21Aとは、互いの組成及び格子定数の理論値が比較的近いため、第2の層22A上に成長される第1の層21Aには、格子緩和が生じることが抑えられる。
【0108】
第3の層23Aは、格子緩和が抑えられ、下地の基板10AのAlNと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、第3の層23Aとして、圧縮応力を有するAlzGa1-zN(0.80<z<1.00)が形成される。第3の層23Aの圧縮応力を有するAlzGa1-zN(0.80<z<1.00)の格子定数は、基板10AのAlNの格子定数以上となる。更に、第3の層23Aの圧縮応力を有するAlzGa1-zN(0.80<z<1.00)の格子定数は、当該AlzGa1-zN(0.80<z<1.00)に対応するAl組成zを有するAlzGa1-zNが示す格子定数の理論値よりも小さくなる。ここで、第3の層23Aの圧縮応力を有するAlzGa1-zN(0.80<z<1.00)の格子定数は、基板10AのAlNの格子定数と一致し得る。
【0109】
第2の層22Aは、格子緩和が抑えられ、下地の第3の層23Aと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、第2の層22Aとして、圧縮応力を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)が形成される。第2の層22Aの圧縮応力を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)の格子定数は、第3の層23Aの圧縮応力を有するAlzGa1-zN(0.80<z<1.00)の格子定数以上となる。更に、第2の層22Aの圧縮応力を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)の格子定数は、当該AlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)に対応するAl組成yを有するAlyGa1-yNが示す格子定数の理論値よりも小さくなる。ここで、第2の層22Aの圧縮応力を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)の格子定数は、基板10AのAlNの格子定数と一致し得る。第2の層22Aの圧縮応力を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)の格子定数は、第3の層23Aの圧縮応力を有するAlzGa1-zN(0.80<z<1.00)の格子定数と一致し得る。
【0110】
第1の層21Aは、格子緩和が抑えられ、下地の第2の層22Aと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、第1の層21Aとして、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が形成される。第1の層21Aの圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、第2の層22Aの圧縮応力を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)の格子定数以上となる。更に、第1の層21Aの圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、当該AlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)に対応するAl組成xを有するAlxGa1-xNが示す格子定数の理論値よりも小さくなる。ここで、第1の層21Aの圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、基板10AのAlNの格子定数と一致し得る。第1の層21Aの圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、第3の層23Aの圧縮応力を有するAlzGa1-zN(0.80<z<1.00)の格子定数と一致し得る。第1の層21Aの圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、第2の層22Aの圧縮応力を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)の格子定数と一致し得る。
【0111】
尚、第1の層21Aの圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)については、次のようにも言える。即ち、第1の層21Aの圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、基板10AのAlNの格子定数以上となる。更に、第1の層21Aの圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、当該AlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)に対応するAl組成xを有するAlxGa1-xNの格子定数の理論値よりも小さくなる。
【0112】
また、第2の層22Aの圧縮応力を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)については、次のようにも言える。即ち、第2の層22Aの圧縮応力を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)の格子定数は、基板10AのAlNの格子定数以上、且つ、第1の層21Aの圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数以下となる。更に、第2の層22Aの圧縮応力を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)の格子定数は、当該AlyGa1-yN(x<y<1.00)に対応するAl組成yを有するAlyGa1-yNの格子定数の理論値よりも小さくなる。
【0113】
また、第3の層23Aの圧縮応力を有するAlzGa1-zN(0.80<z<1.00)については、次のようにも言える。即ち、第3の層23Aの圧縮応力を有するAlzGa1-zN(0.80<z<1.00)の格子定数は、基板10AのAlNの格子定数以上、且つ、第2の層22Aの圧縮応力を有するAlyGa1-yN(0.30<y≦0.80)の格子定数以下となる。更に、第3の層23Aの圧縮応力を有するAlzGa1-zN(0.80<z<1.00)の格子定数は、当該AlzGa1-zN(0.80<z<1.00)に対応するAl組成zを有するAlzGa1-zNの格子定数の理論値よりも小さくなる。
【0114】
バッファ層20Aの第3の層23A、第2の層22A及び第1の層21Aは、各々の厚さ方向が[0001]方向となるように成長される。第3の層23Aの、基板10A側とは反対側の面が(0001)面、即ち、III族極性面となる。第2の層22Aの、第3の層23A側とは反対側の面が(0001)面、即ち、III族極性面となる。第1の層21Aの、第2の層22A側とは反対側の面20Aaが(0001)面、即ち、III族極性面となる。
【0115】
バッファ層20Aの最上層に形成される第1の層21AのAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)は、圧縮応力を有する。バッファ層20Aの第1の層21Aは、面20Aa(III族極性面)における分極電荷が0又は正となるように形成される。
【0116】
図11(A)には、チャネル層形成工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
バッファ層20Aの形成後、
図11(A)に示すように、バッファ層20Aの面20Aa上、即ち、第1の層21A上に、チャネル層30Aが形成される。チャネル層30Aは、バッファ層20Aの、分極電荷が0又は正である面20Aa上に、形成される。チャネル層30Aは、バッファ層20Aの面20Aa、即ち、第1の層21Aに接するように、形成される。チャネル層30Aとして、厚さ100nm以下、好ましくは厚さ50nm以下、例えば、厚さ20nmのGaNが形成される。チャネル層30Aは、例えば、MOVPE法を用いて形成される。チャネル層30Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるように成長される。チャネル層30Aの、バッファ層20Aとは反対側の面30Aaが(0001)面、即ち、III族極性面となる。
【0117】
図11(B)には、バリア層及びキャップ層形成工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
チャネル層30Aの形成後、
図11(B)に示すように、チャネル層30Aの面30Aa上に、バリア層40Aが形成される。バリア層40Aとして、例えば、厚さ10nmのAl
mGa
1-mN(0.50≦m≦1.00)が形成される。バリア層40Aは、例えば、MOVPE法を用いて形成される。バリア層40Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるように成長される。バリア層40Aの、チャネル層30Aとは反対側の面40Aaが(0001)面、即ち、III族極性面となる。チャネル層30Aの、バリア層40Aとの接合界面近傍に、2DEG1Aaが生成される。
【0118】
更に、
図11(B)に示すように、形成されたバリア層40A上に、キャップ層80Aが形成される。キャップ層80Aとして、例えば、GaNが形成される。キャップ層80Aは、例えば、MOVPE法を用いて形成される。キャップ層80Aは、その厚さ方向が[0001]方向となるように成長される。キャップ層80Aの、バリア層40Aとは反対側の面80Aaが(0001)面、即ち、III族極性面となる。
【0119】
上記工程により、基板10A(下地基板11Aに積層された核形成層12A)上にバッファ層20A(第3の層23A、第2の層22A及び第1の層21A)、チャネル層30A、バリア層40A及びキャップ層80Aが積層された窒化物半導体積層構造が形成される。
【0120】
尚、MOVPE法を用いた各層の成長において、原料ガスには、NH3(アンモニア)、トリメチルガリウム(Tri-Methyl-Gallium;TMGa)、トリメチルアルミニウム(Tri-Methyl-Aluminum;TMAl)等が用いられる。キャリアガスには、H2(水素)が用いられる。成長する窒化物半導体に応じて、原料ガスの供給と停止(切り替え)、供給時の流量(他原料との混合比)が適宜設定される。成長圧力は、1kPa~100kPa程度、成長温度は700℃~1500℃程度とされる。
【0121】
基板10A上にバッファ層20A、チャネル層30A、バリア層40A及びキャップ層80Aが積層された窒化物半導体積層構造の形成後、フォトリソグラフィ技術を用いて、活性領域を覆い且つ活性領域の外側に開口部を有するマスク(図示せず)が形成される。そして、マスクの開口部に対し、塩素系ガスを用いたドライエッチング、又はAr(アルゴン)等のイオン注入が行われ、活性領域を画定する素子間分離領域(図示せず)が形成される。素子間分離領域の形成後、マスクは除去される。
【0122】
図12(A)には、リセス形成工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
窒化物半導体積層構造及び素子間分離領域の形成後、
図12(A)に示すように、窒化物半導体積層構造の、ソース電極60A及びドレイン電極70Aを形成する領域に、それぞれリセス61A及びリセス71Aが形成される。その際は、まず、フォトリソグラフィ技術を用いて、ソース電極60A及びドレイン電極70Aを形成する領域に開口部を有するマスク(図示せず)が形成される。そして、塩素系ガスを用いたドライエッチングにより、マスクの開口部のキャップ層80A及びバリア層40Aが除去される。このドライエッチングの際には、マスクの開口部のキャップ層80A及びバリア層40Aが除去され、更にチャネル層30Aの一部が除去されてもよい。これにより、
図12(A)に示すようなリセス61A及びリセス71Aが形成される。
【0123】
図12(B)には、ソース電極及びドレイン電極形成工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
リセス61A及びリセス71Aの形成後、
図12(B)に示すように、形成されたリセス61A及びリセス71Aにそれぞれ、ソース電極60A及びドレイン電極70Aが形成される。その際は、フォトリソグラフィ技術、蒸着技術及びリフトオフ技術を用いて、ソース電極60A及びドレイン電極70Aを形成する領域、即ち、キャップ層80A及びバリア層40Aが除去された領域に、電極用金属が形成される。例えば、電極用金属として、厚さ20nmのTaと厚さ200nmのAlとの積層体が形成される。その後、窒素雰囲気中、400℃~1000℃、例えば、550℃で熱処理が行われ、電極用金属のオーミック接続が確立される。これにより、
図12(B)に示すような、キャップ層80A及びバリア層40Aを貫通してチャネル層30A(例えばその2DEG1Aa)と接続されるソース電極60A及びドレイン電極70Aが形成される。
【0124】
尚、ソース電極60A及びドレイン電極70Aを形成する領域に開口部を有するマスクを形成し、その開口部のキャップ層80A及びバリア層40Aを除去した後、更にチャネル層30Aを除去し、そこにMOVPE法を用いてn型GaN等のコンタクト層を形成することもできる。このようにして形成したコンタクト層上に、上記の例に従い、ソース電極60A及びドレイン電極70Aを形成することもできる。
【0125】
図13(A)には、パッシベーション膜形成工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
ソース電極60A及びドレイン電極70Aの形成後、
図13(A)に示すように、ソース電極60A及びドレイン電極70A並びにキャップ層80Aを覆うパッシベーション膜90Aが形成される。例えば、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、厚さ2nm以上500nm以下、一例として、厚さ100nmのSiN等のパッシベーション膜90Aが形成される。パッシベーション膜90Aの形成には、プラズマCVD法のほか、原子層堆積(Atomic Layer Deposition;ALD)法、スパッタ法等が用いられてもよい。
【0126】
図13(B)には、開口部形成工程の一例の要部断面図を模式的に示している。
パッシベーション膜90Aの形成後、
図13(B)に示すように、ゲート電極50Aを形成する領域のパッシベーション膜90Aが除去され、キャップ層80Aに通じる開口部91Aが形成される。その際は、まず、フォトリソグラフィ技術を用いて、ゲート電極50Aを形成する領域に開口部を有するマスク(図示せず)が形成され、ドライエッチングが行われる。このエッチングにより、マスクの開口部から露出するパッシベーション膜90Aが除去され、パッシベーション膜90Aの開口部91Aが形成される。パッシベーション膜90Aのエッチングは、例えば、フッ素系又は塩素系ガスを用いたドライエッチングによって行われる。このほか、パッシベーション膜90Aのエッチングは、フッ酸やバッファードフッ酸等を用いたウェットエッチングによって行われてもよい。パッシベーション膜90Aのエッチング後、マスクは除去される。
【0127】
パッシベーション膜90Aの開口部91Aの形成後、上記
図9に示したように、パッシベーション膜90Aの開口部91Aの位置に、ゲート電極50Aが形成される。その際は、フォトリソグラフィ技術、蒸着技術及びリフトオフ技術を用いて、パッシベーション膜90Aの開口部91Aの位置に、電極用金属が形成される。例えば、電極用金属として、厚さ30nmのNi(ニッケル)と厚さ400nmのAu(金)との積層体が形成される。電極用金属は、パッシベーション膜90Aの上面のほか、開口部91A内に入り込むように形成される。これにより、ショットキー電極として機能するゲート電極50Aが形成される。
【0128】
以上のような工程により、上記
図9に示したような半導体装置1Aが製造される。
半導体装置1Aでは、基板10AのAlN上に、バッファ層20Aとして、第3の層23A、第2の層22A及び第1の層21Aが形成される(
図10(A)及び
図10(B))。ここで、第3の層23Aは、Al
zGa
1-zN(0.80<z<1.00)であり、第2の層22Aは、Al
yGa
1-yN(0.30<y≦0.80)であり、第1の層21Aは、Al
xGa
1-xN(0.15<x≦0.30)である。第3の層23Aは、下地の基板10AのAlNと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。第2の層22Aは、下地の第3の層23Aと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。第1の層21Aは、下地の第2の層22Aと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、基板10AのAlN上には、圧縮応力を有する第3の層23A及び第2の層22Aを介して、圧縮応力を有する第1の層21AのAl
xGa
1-xN(0.15<x≦0.30)が形成される。
【0129】
バッファ層20Aは、第1の層21A側の面20Aaにおける分極電荷が0又は正となるように形成される。そして、バッファ層20Aの面20Aa上に、チャネル層30AのGaNが形成される(
図11(A))。チャネル層30Aは、バッファ層20Aの面20Aaにおける0又は正の分極電荷により、バッファ層20A側の伝導帯エネルギーE
Cの持ち上がりが抑えられる。これにより、半導体装置1Aでは、チャネル層30Aにおける電子の分布及び波動関数が広がり、チャネル層30Aの電子移動度が向上される。優れた電子移動度を示すチャネル層30Aを備えた高性能の半導体装置1Aが製造される。
【0130】
尚、以上の説明では、高耐圧化のため、ゲート電極50Aとドレイン電極70Aとの間隔を、ゲート電極50Aとソース電極60Aとの間隔よりも広くした、いわゆる非対称構造を採用した半導体装置1Aを例にした。このほか、上記手法は、ゲート電極50Aとドレイン電極70Aとの間隔を、ゲート電極50Aとソース電極60Aとの間隔と同等とした、いわゆる対称構造を採用するものにも同様に適用することが可能である。
【0131】
また、ゲート電極50A、ソース電極60A及びドレイン電極70Aに用いる電極用金属の種類及び層構造は上記の例に限定されるものではなく、それらの形成方法も上記の例に限定されるものではない。ゲート電極50A、ソース電極60A及びドレイン電極70Aにはそれぞれ、単層構造が用いられてもよいし、積層構造が用いられてもよい。ソース電極60A及びドレイン電極70Aの形成時には、それらの電極用金属の形成によってオーミックコンタクトが実現されるようであれば、必ずしも上記のような熱処理が行われることを要しない。ゲート電極50Aの形成時には、その電極用金属の形成後、更に熱処理が行われてもよい。
【0132】
また、以上の説明では、半導体装置1Aにショットキー電極として機能するゲート電極50Aを設ける例を示したが、ゲート電極50Aとキャップ層80Aとの間に、酸化物、窒化物又は酸窒化物等が用いられたゲート絶縁膜を設け、MIS(Metal Insulator Semiconductor)型ゲート構造を採用することも可能である。
【0133】
[第3の実施の形態]
図14は第3の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
図14には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0134】
図14に示す半導体装置1Bは、HEMTの一例である。半導体装置1Bは、基板10Aとチャネル層30Aとの間に、4層のAlGaNの積層構造を有するバッファ層20Bが設けられた構成を有する。半導体装置1Bは、このような構成を有する点で、上記第2の実施の形態で述べた半導体装置1A(
図9)と相違する。基板10Aとチャネル層30Aとの間には、3層のAlGaNの積層構造を有する上記バッファ層20Aに限らず、この半導体装置1Bのように、4層のAlGaNの積層構造を有するバッファ層20Bが設けられてもよい。
【0135】
半導体装置1Bは、バッファ層20Bとして、第1の層21B、第2の層22B、第3の層23B及び第4の層24Bを有する。チャネル層30Aが積層される第1の層21Bには、AlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が用いられる。第1の層21Bが積層される第2の層22Bには、第1の層21BのAl組成xよりも高いAl組成y2を有するAly2Ga1-y2N(x<y2)が用いられる。第2の層22Bが積層される第3の層23Bには、第2の層22BのAl組成y2よりも高いAl組成y3を有するAly3Ga1-y3N(y2<y3)が用いられる。第3の層23Bが積層される第4の層24Bには、第3の層23BのAl組成y3よりも高いAl組成y4を有するAly4Ga1-y4N(y3<y4)が用いられる。
【0136】
バッファ層20Bは、基板10AのAlN上に、例えば、MOVPE法を用いて、第4の層24B、第3の層23B、第2の層22B及び第1の層21Bがこの順に積層されて形成される。第4の層24Bは、下地の基板10AのAlNと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、圧縮応力を有する第4の層24Bが形成される。第3の層23Bは、下地の第4の層24Bと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、圧縮応力を有する第3の層23Bが形成される。第2の層22Bは、下地の第3の層23Bと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、圧縮応力を有する第2の層22Bが形成される。第1の層21Bは、下地の第2の層22Bと格子整合しようとする圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、圧縮応力を有する第1の層21Bが形成される。そして、バッファ層20Bの第1の層21B上、即ち、バッファ層20Bの面20Ba上に、チャネル層30AのGaNが形成される。
【0137】
バッファ層20Bとチャネル層30Aとの接合界面には、第1の層21B、即ち、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が設けられる。第1の層21Bは、チャネル層30A側の面20Baにおける分極電荷が0又は正となるように形成される。これにより、チャネル層30Aの、バッファ層20B側の伝導帯エネルギーECが持ち上がることが抑えられ、電子の分布及び波動関数が広がり、チャネル層30Aの電子移動度が向上される。優れた電子移動度を示すチャネル層30Aを備えた高性能の半導体装置1Bが実現される。
【0138】
半導体装置1Bのように、バッファ層20Bの層数を増やすことで、基板10A側から順にAl組成が低くなるように層群を積層する際の、各層間での格子緩和の発生を、より効果的に抑えることが可能になる。これにより、第1の層21Bを十分な圧縮ストレスを印加しながら成長させ、十分な圧縮応力を有する第1の層21Bを形成し、それを含むバッファ層20Bを形成することが可能になる。
【0139】
ここでは、4層のAlGaNの積層構造を有するバッファ層20Bを例にしたが、5層以上のAlGaNの積層構造を有するバッファ層を設け、上記同様の効果を得ることもできる。
【0140】
[第4の実施の形態]
図15は第4の実施の形態に係る半導体装置の一例について説明する図である。
図15には、半導体装置の一例の要部断面図を模式的に示している。
【0141】
図15に示す半導体装置1Cは、HEMTの一例である。半導体装置1Cは、基板10Aとチャネル層30Aとの間に、基板10A側からチャネル層30A側に向かってAl組成が漸次減少する、いわゆる傾斜Al組成のバッファ層20Cが設けられた構成を有する。半導体装置1Cは、このような構成を有する点で、上記第2の実施の形態で述べた半導体装置1A(
図9)と相違する。基板10Aとチャネル層30Aとの間には、3層のAlGaNの積層構造を有する上記バッファ層20Aに限らず、この半導体装置1Cのように、傾斜Al組成のバッファ層20Cが設けられてもよい。
【0142】
基板10A側からチャネル層30A側に向かってAl組成が漸次減少するバッファ層20Cの、チャネル層30A側の面20Caには、Al組成xが0.15超で且つ0.30以下であるAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が設けられる。このようなバッファ層20Cは、基板10AのAlN上に、例えば、MOVPE法を用い、Alの原料ガス量を適宜調整しながらAlGaNを成長させることで、形成することができる。バッファ層20CのAlGaNは、基板10AのAlN上に、圧縮ストレスが印加されながら成長される。これにより、バッファ層20Cの面20Caに、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が形成される。そして、そのバッファ層20Cの面20Ca上に、チャネル層30AのGaNが形成される。
【0143】
バッファ層20Cとチャネル層30Aとの接合界面には、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)が設けられる。圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)は、チャネル層30A側の面20Caにおける分極電荷が0又は正となるように形成される。これにより、チャネル層30Aの、バッファ層20C側の伝導帯エネルギーECが持ち上がることが抑えられ、電子の分布及び波動関数が広がり、チャネル層30Aの電子移動度が向上される。優れた電子移動度を示すチャネル層30Aを備えた高性能の半導体装置1Cが実現される。
【0144】
半導体装置1Cのように、バッファ層20Cを傾斜Al組成としても、圧縮ストレスを印加しながらAlGaNを成長させ、チャネル層30A側の面20Caに、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を形成することができる。
【0145】
以上、第1から第4の実施の形態について説明した。
第1から第4の実施の形態で述べたような半導体装置1、1A、1B、1C等は、各種電子装置に適用することができる。一例として、上記のような半導体装置1、1A、1B、1C等を、半導体パッケージ、力率改善回路、電源装置及び増幅器に適用する場合について、以下に説明する。
【0146】
[第5の実施の形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、半導体パッケージへの適用例を、第5の実施の形態として説明する。
【0147】
図16は第5の実施の形態に係る半導体パッケージの一例について説明する図である。
図16には第5の実施の形態に係る半導体パッケージの一例の要部平面図を模式的に示している。
【0148】
図16に示す半導体パッケージ200は、ディスクリートパッケージの一例である。半導体パッケージ200は、例えば、上記第1の実施の形態で述べた半導体装置1(
図3)、半導体装置1が搭載されたリードフレーム210、及びそれらを封止する樹脂220を含む。
【0149】
半導体装置1は、リードフレーム210のダイパッド210a上にダイアタッチ材等(図示せず)を用いて搭載される。半導体装置1には、上記ゲート電極50と接続されたパッド50a、ソース電極60と接続されたパッド60a及びドレイン電極70と接続されたパッド70aが設けられる。パッド50a、パッド60a及びパッド70aはそれぞれ、Al等のワイヤ230を用いてリードフレーム210のゲートリード211、ソースリード212及びドレインリード213に接続される。ゲートリード211、ソースリード212及びドレインリード213の各一部が露出するように、リードフレーム210とそれに搭載された半導体装置1及びそれらを接続するワイヤ230が、樹脂220で封止される。
【0150】
尚、半導体装置1の、ゲート電極50と接続されたパッド50a及びドレイン電極70と接続されたパッド70aが設けられる面とは反対側の面に、ソース電極60と接続された電極が設けられてもよい。当該電極が、ソースリード212に繋がるダイパッド210aに、半田等の導電性接合材を用いて、接続されてもよい。
【0151】
例えば、上記第1の実施の形態で述べた半導体装置1が用いられ、このような構成を有する半導体パッケージ200が得られる。ここでは、半導体装置1を例にしたが、他の半導体装置1A、1B、1C等を用いて同様に半導体パッケージを得ることが可能である。
【0152】
上記のように、半導体装置1等では、AlNを含む基板(基板10等)上に、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含むバッファ層(バッファ層20等)が設けられ、その上に、GaNを含むチャネル層(チャネル層30等)が設けられる。圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)は、チャネル層側の面(面20a等)における分極電荷が0又は正となるように設けられる。これにより、チャネル層の、バッファ層側の伝導帯エネルギーが持ち上がることが抑えられ、電子の分布及び波動関数が広がり、チャネル層の電子移動度が向上される。優れた電子移動度を示すチャネル層を備えた高性能の半導体装置1等が実現される。このような半導体装置1等が用いられ、高性能の半導体パッケージ200が実現される。
【0153】
[第6の実施の形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、力率改善回路への適用例を、第6の実施の形態として説明する。
【0154】
図17は第6の実施の形態に係る力率改善回路の一例について説明する図である。
図17には第6の実施の形態に係る力率改善回路の一例の等価回路図を示している。
図17に示す力率改善(Power Factor Correction;PFC)回路300は、スイッチ素子310、ダイオード320、チョークコイル330、コンデンサ340、コンデンサ350、ダイオードブリッジ360及び交流電源370(AC)を含む。
【0155】
PFC回路300において、スイッチ素子310のドレイン電極と、ダイオード320のアノード端子及びチョークコイル330の一端子とが接続される。スイッチ素子310のソース電極と、コンデンサ340の一端子及びコンデンサ350の一端子とが接続される。コンデンサ340の他端子とチョークコイル330の他端子とが接続される。コンデンサ350の他端子とダイオード320のカソード端子とが接続される。また、スイッチ素子310のゲート電極には、ゲートドライバが接続される。コンデンサ340の両端子間には、ダイオードブリッジ360を介して交流電源370が接続され、コンデンサ350の両端子間から直流電源(DC)が取り出される。
【0156】
例えば、このような構成を有するPFC回路300のスイッチ素子310に、上記半導体装置1、1A、1B、1C等が用いられる。
上記のように、半導体装置1等では、AlNを含む基板(基板10等)上に、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含むバッファ層(バッファ層20等)が設けられ、その上に、GaNを含むチャネル層(チャネル層30等)が設けられる。圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)は、チャネル層側の面(面20a等)における分極電荷が0又は正となるように設けられる。これにより、チャネル層の、バッファ層側の伝導帯エネルギーが持ち上がることが抑えられ、電子の分布及び波動関数が広がり、チャネル層の電子移動度が向上される。優れた電子移動度を示すチャネル層を備えた高性能の半導体装置1等が実現される。このような半導体装置1等が用いられ、高性能のPFC回路300が実現される。
【0157】
[第7の実施の形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、電源装置への適用例を、第7の実施の形態として説明する。
【0158】
図18は第7の実施の形態に係る電源装置の一例について説明する図である。
図18には第7の実施の形態に係る電源装置の一例の等価回路図を示している。
図18に示す電源装置400は、一次側回路410及び二次側回路420、並びに一次側回路410と二次側回路420との間に設けられるトランス430を含む。
【0159】
一次側回路410には、上記第6の実施の形態で述べたようなPFC回路300、及びPFC回路300のコンデンサ350の両端子間に接続されたインバータ回路、例えば、フルブリッジインバータ回路440が含まれる。フルブリッジインバータ回路440には、複数、ここでは一例として4つのスイッチ素子441、スイッチ素子442、スイッチ素子443及びスイッチ素子444が含まれる。
【0160】
二次側回路420には、複数、ここでは一例として3つのスイッチ素子421、スイッチ素子422及びスイッチ素子423が含まれる。
例えば、このような構成を有する電源装置400の、一次側回路410に含まれるPFC回路300のスイッチ素子310、及びフルブリッジインバータ回路440のスイッチ素子441、442、443、444に、上記半導体装置1、1A、1B、1C等が用いられる。例えば、電源装置400の、二次側回路420のスイッチ素子421、422、423には、Siを用いた通常のMIS型FETが用いられる。
【0161】
上記のように、半導体装置1等では、AlNを含む基板(基板10等)上に、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含むバッファ層(バッファ層20等)が設けられ、その上に、GaNを含むチャネル層(チャネル層30等)が設けられる。圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)は、チャネル層側の面(面20a等)における分極電荷が0又は正となるように設けられる。これにより、チャネル層の、バッファ層側の伝導帯エネルギーが持ち上がることが抑えられ、電子の分布及び波動関数が広がり、チャネル層の電子移動度が向上される。優れた電子移動度を示すチャネル層を備えた高性能の半導体装置1等が実現される。このような半導体装置1等が用いられ、高性能の電源装置400が実現される。
【0162】
[第8の実施の形態]
ここでは、上記のような構成を有する半導体装置の、増幅器への適用例を、第8の実施の形態として説明する。
【0163】
図19は第8の実施の形態に係る増幅器の一例について説明する図である。
図19には第8の実施の形態に係る増幅器の一例の等価回路図を示している。
図19に示す増幅器500は、デジタルプレディストーション回路510、ミキサー520、ミキサー530及びパワーアンプ540を含む。
【0164】
デジタルプレディストーション回路510は、入力信号の非線形歪みを補償する。ミキサー520は、非線形歪みが補償された入力信号SIと交流信号とをミキシングする。パワーアンプ540は、入力信号SIが交流信号とミキシングされた信号を増幅する。増幅器500では、例えば、スイッチの切り替えにより、出力信号SOをミキサー530で交流信号とミキシングしてデジタルプレディストーション回路510に送出することができる。増幅器500は、高周波増幅器、高出力増幅器として使用することができる。
【0165】
このような構成を有する増幅器500のパワーアンプ540に、上記半導体装置1、1A、1B、1C等が用いられる。
上記のように、半導体装置1等では、AlNを含む基板(基板10等)上に、圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含むバッファ層(バッファ層20等)が設けられ、その上に、GaNを含むチャネル層(チャネル層30等)が設けられる。圧縮応力を有するAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)は、チャネル層側の面(面20a等)における分極電荷が0又は正となるように設けられる。これにより、チャネル層の、バッファ層側の伝導帯エネルギーが持ち上がることが抑えられ、電子の分布及び波動関数が広がり、チャネル層の電子移動度が向上される。優れた電子移動度を示すチャネル層を備えた高性能の半導体装置1等が実現される。このような半導体装置1等が用いられ、高性能の増幅器500が実現される。
【0166】
上記半導体装置1、1A、1B、1C等を適用した各種電子装置(上記第5~第8の実施の形態で述べた半導体パッケージ200、PFC回路300、電源装置400及び増幅器500等)は、各種電子機器又は電子装置に搭載することができる。例えば、コンピュータ(パーソナルコンピュータ、スーパーコンピュータ、サーバ等)、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末、センサ、カメラ、オーディオ機器、測定装置、検査装置、製造装置、送信器、受信器、レーダー装置といった、各種電子機器又は電子装置に搭載することが可能である。
【0167】
以上説明した実施の形態に関し、更に以下の付記を開示する。
(付記1) AlNを含む基板と、
前記基板の第1の面側に設けられ、第1の圧縮応力を有する第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含むバッファ層と、
前記バッファ層の、前記基板側とは反対の第2の面側に設けられ、GaNを含むチャネル層と、
を有する半導体装置。
【0168】
(付記2) 前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、前記基板に含まれる前記AlNの格子定数以上であって、前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)に対応するAl組成xを有するAlxGa1-xNが示す格子定数の理論値よりも小さい、付記1に記載の半導体装置。
【0169】
(付記3) 前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、前記基板に含まれる前記AlNの格子定数と一致する、付記1に記載の半導体装置。
【0170】
(付記4) 前記チャネル層は、前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)に接する、付記1から3のいずれか一項に記載の半導体装置。
【0171】
(付記5) 前記バッファ層は、
前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含む第1の層と、
前記第1の層よりも前記基板側に設けられ、第2の圧縮応力を有する第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)を含む第2の層と、
を含む、付記1から4のいずれか一項に記載の半導体装置。
【0172】
(付記6) 前記第2の圧縮応力を有する前記第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数は、前記基板に含まれる前記AlNの格子定数以上、且つ、前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数以下であって、前記第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)に対応するAl組成yを有するAlyGa1-yNが示す格子定数の理論値よりも小さい、付記5に記載の半導体装置。
【0173】
(付記7) 前記バッファ層は、前記第2の層よりも前記基板側に設けられ、第3の圧縮応力を有する第3のAlzGa1-zN(y<z<1.00)を含む第3の層を含む、付記5又は6に記載の半導体装置。
【0174】
(付記8) 前記第3の圧縮応力を有する前記第3のAlzGa1-zN(y<z<1.00)の格子定数は、前記基板に含まれる前記AlNの格子定数以上、且つ、前記第2の圧縮応力を有する前記第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数以下であって、前記第3のAlzGa1-zN(y<z<1.00)に対応するAl組成zを有するAlzGa1-zNが示す格子定数の理論値よりも小さい、付記7に記載の半導体装置。
【0175】
(付記9) 前記チャネル層の、前記バッファ層側とは反対の第3の面側に設けられ、AlmGa1-mN(0.00<m≦1.00)を含むバリア層を有する、付記1から8のいずれか一項に記載の半導体装置。
【0176】
(付記10) 前記チャネル層は、前記バッファ層の前記第2の面に垂直な方向の厚さが100nm以下である、付記1から9のいずれか一項に記載の半導体装置。
(付記11) AlNを含む基板の第1の面側に、第1の圧縮応力を有する第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含むバッファ層を形成する工程と、
前記バッファ層の、前記基板側とは反対の第2の面側に、GaNを含むチャネル層を形成する工程と、
を有する半導体装置の製造方法。
【0177】
(付記12) 前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数は、前記基板に含まれる前記AlNの格子定数以上であって、前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)に対応するAl組成xを有するAlxGa1-xNが示す格子定数の理論値よりも小さい、付記11に記載の半導体装置の製造方法。
【0178】
(付記13) 前記バッファ層を形成する工程は、
前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含む第1の層を形成する工程と、
前記第1の層よりも前記基板側に、第2の圧縮応力を有する第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)を含む第2の層を形成する工程と、
を含む、付記11又は12に記載の半導体装置の製造方法。
【0179】
(付記14) 前記第2の圧縮応力を有する前記第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)の格子定数は、前記基板に含まれる前記AlNの格子定数以上、且つ、前記第1の圧縮応力を有する前記第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)の格子定数以下であって、前記第2のAlyGa1-yN(x<y<1.00)に対応するAl組成yを有するAlyGa1-yNが示す格子定数の理論値よりも小さい、付記13に記載の半導体装置の製造方法。
【0180】
(付記15) AlNを含む基板と、
前記基板の第1の面側に設けられ、第1の圧縮応力を有する第1のAlxGa1-xN(0.15<x≦0.30)を含むバッファ層と、
前記バッファ層の、前記基板側とは反対の第2の面側に設けられ、GaNを含むチャネル層と、
を有する半導体装置を備える電子装置。
【符号の説明】
【0181】
1、1A、1B、1C、100A、100B 半導体装置
1a、1Aa、101A、101B 2DEG
10、10A、110A、110B 基板
10a、10Aa、20a、20Aa、20Ba、20Ca、30a、30Aa、40a、40Aa、80Aa 面
11A 下地基板
12A 核形成層
20、20A、20B、20C、120B バッファ層
21、21A、21B 第1の層
22、22A、22B 第2の層
23A、23B 第3の層
24B 第4の層
30、30A、130A、130B チャネル層
40、40A、140A、140B バリア層
50、50A、150 ゲート電極
50a、60a、70a パッド
60、60A、160 ソース電極
61A、71A リセス
70、70A、170 ドレイン電極
80A キャップ層
90A パッシベーション膜
91A 開口部
200 半導体パッケージ
210 リードフレーム
210a ダイパッド
211 ゲートリード
212 ソースリード
213 ドレインリード
220 樹脂
230 ワイヤ
300 PFC回路
310、421、422、423、441、442、443、444 スイッチ素子
320 ダイオード
330 チョークコイル
340、350 コンデンサ
360 ダイオードブリッジ
370 交流電源
400 電源装置
410 一次側回路
420 二次側回路
430 トランス
440 フルブリッジインバータ回路
500 増幅器
510 デジタルプレディストーション回路
520、530 ミキサー
540 パワーアンプ