(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023137974
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】ガス容器
(51)【国際特許分類】
F17C 11/00 20060101AFI20230922BHJP
【FI】
F17C11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044439
(22)【出願日】2022-03-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発/水素貯蔵効率向上に向けた水素タンクの研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】本郷 博昭
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 拓大
(72)【発明者】
【氏名】川村 春樹
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA09
3E172AB01
3E172AB04
3E172BA01
3E172BB05
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC01
3E172BC04
3E172BC05
3E172BC07
3E172BC08
3E172BD03
3E172DA36
3E172FA01
3E172FA09
3E172FA10
3E172FA11
(57)【要約】
【課題】貯蔵材の粉末が収容空間の内部から外部へ流れ出すのを抑えること。
【解決手段】ガス容器は、内部空間を有する筒状の容器本体と、容器本体の軸方向端部に取り付けられ、内部空間を前器本体の外部に連通させる連通路を有する口金と、内部空間に配置され、収容空間を区画する区画壁を有する筒状の収容部材と、粉末を固めた状態に形成され、収容空間に収容されて区画壁に保持され、ガスを吸蔵すると共に放出する貯蔵材と、を備える。貯蔵材は、収容空間の軸方向中央部に配置される第一貯蔵部と、収容空間の軸方向両端部の少なくとも一方に配置され、第一貯蔵部に比して耐破損性が高い第二貯蔵部と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する筒状の容器本体と、
前記容器本体の軸方向端部に取り付けられ、前記内部空間を前記容器本体の外部に連通させる連通路を有する口金と、
前記内部空間に配置され、収容空間を区画する区画壁を有する筒状の収容部材と、
粉末を固めた状態に形成され、前記収容空間に収容されて前記区画壁に保持され、ガスを吸蔵すると共に放出する貯蔵材と、
を備え、
前記貯蔵材は、
前記収容空間の軸方向中央部に配置される第一貯蔵部と、
前記収容空間の軸方向両端部の少なくとも一方に配置され、前記第一貯蔵部に比して耐破損性が高い第二貯蔵部と、
を有する、ガス容器。
【請求項2】
前記第二貯蔵部が前記ガスを吸蔵する性能は、前記第一貯蔵部が前記ガスを吸蔵する性能に比して低い、請求項1に記載されたガス容器。
【請求項3】
前記第二貯蔵部は、前記収容部材に圧入された状態で前記収容空間に配置されている、請求項1又は2に記載されたガス容器。
【請求項4】
前記第二貯蔵部は、前記収容空間の軸方向中央部寄りの部位から軸方向端部寄りの部位にかけて外径が大きくなるように傾斜する傾斜部を有する、請求項3に記載されたガス容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを吸蔵可能かつ放出可能なガス容器に関する。
【背景技術】
【0002】
車両などに搭載されて水素ガスや天然ガスなどのガスを貯蔵すると共に放出するガス容器(例えば、特許文献1)が知られている。特許文献1記載のガス容器は、水素吸蔵合金などの貯蔵材を備えている。貯蔵材は、貯蔵対象のガスを物理的又は化学的に吸蔵すると共に放出する。この貯蔵材によれば、容器本体の内部空間に貯蔵可能なガスの量を増やすことができる。
【0003】
ところで、容器本体は、筒状に形成されており、貯蔵材は、軸方向に角棒状に延在している。ガス容器は、容器本体の内部空間に複数の貯蔵材が束になって収容されるように構成されている。ガス容器は、内部空間に配置されて貯蔵材を収容する収容部材を備えている。収容部材は、筒状に形成されていると共に、区画壁により区画された収容空間が複数規則的に配置されたハニカム形状に形成されている。各収容空間にはそれぞれ、貯蔵材が収容されている。
【0004】
一方、貯蔵材は、ガスを吸蔵する際に発熱し一方でガスを放出する際に吸熱する。この貯蔵材の温度変化は、ガス貯蔵の性能に関わる。このため、貯蔵材全体において温度の偏りが生じると、貯蔵材の性能を最大限発揮させることができなくなってしまう。そこで、上記の特許文献1記載のガス容器において、収容部材は、熱伝導に優れた材料により形成されている。このため、ガスの吸蔵時及び放出時において貯蔵材の熱伝導の偏りを小さくして温度の均一化を図ることができるので、貯蔵材の性能を最大限発揮させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、貯蔵材で貯蔵可能なガスの量を最大化するためには、貯蔵材を、貯蔵材と区画壁との間に隙間がほとんど生じない寸法に形成することが望ましい。一方、貯蔵材は、例えば水素吸蔵合金などの粉末を固めた状態に形成されている。この貯蔵材が区画壁との間に隙間のほとんど生じない寸法に形成されていると、例えば車両走行中の振動などに起因して貯蔵材と区画壁とが擦れて貯蔵材が粉末化することがある。この際、収容空間内に収容保持された貯蔵材全体のうち軸方向端部側が粉末化すると、その粉末が収容空間の軸方向端の開口から軸方向外方へ流れ出して消失し、結果として、貯蔵材の貯蔵できるガス量が減少してしまう。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、貯蔵材の粉末が収容空間の内部から外部へ流れ出すのを抑えることが可能なガス容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、内部空間を有する筒状の容器本体と、前記容器本体の軸方向端部に取り付けられ、前記内部空間を前記容器本体の外部に連通させる連通路を有する口金と、前記内部空間に配置され、収容空間を区画する区画壁を有する筒状の収容部材と、粉末を固めた状態に形成され、前記収容空間に収容されて前記区画壁に保持され、ガスを吸蔵すると共に放出する貯蔵材と、を備え、前記貯蔵材は、前記収容空間の軸方向中央部に配置される第一貯蔵部と、前記収容空間の軸方向両端部の少なくとも一方に配置され、前記第一貯蔵部に比して耐破損性が高い第二貯蔵部と、を有する、ガス容器である。
【0009】
この構成によれば、貯蔵材の粉末が収容空間の内部から外部へ流れ出すのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガス容器の斜視図である。
【
図4】実施形態のガス容器が備える貯蔵材が収容保持された収容部材の斜視図である。
【
図5】実施形態のガス容器が備える貯蔵材が収容保持された収容部材の断面図である。
【
図6】実施形態のガス容器が備える貯蔵材のうち収容空間の軸方向両端部に配置される第一貯蔵部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、
図1~
図6を用いて、本発明に係るガス容器の具体的な実施の形態について説明する。
【0012】
一実施形態に係るガス容器1は、ガスを貯蔵しかつその貯蔵したガスを放出する容器である。ガス容器1は、貯蔵するガスを燃料として用いる車両などに搭載される。ガス容器1が貯蔵するガスは、何れの種類のガスであってもよいが、水素ガスや天然ガス等の燃料ガスであることが好適である。また、ガス容器1が貯蔵可能なガスの圧力は、何れであってもよいが、高圧(例えば100MPaなど)であってもよい。すなわち、ガス容器1は、圧力容器ないしは耐圧容器であってよい。
【0013】
ガス容器1は、
図1に示す如く、容器本体10と、口金20,30と、補強部材40と、収容部材50と、貯蔵材60と、を備えている。
【0014】
容器本体10は、ガスを貯蔵するためのライナーである。容器本体10は、内部空間11を有している。内部空間11は、所定量のガスを貯蔵することができる容量を有している。容器本体10は、内部空間11に貯蔵されたガスを透過しない或いは透過し難いガスバリア性を有する材料により構成されている。尚、容器本体10の材料は、ガス容器1の使用環境等に応じて選択されればよい。
【0015】
例えば、ガスが水素であるときは、容器本体10の材料は、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等である。尚、容器本体10の内部は、エチレン・ビニルアルコール高重合体(EVOH)等のガスバリア性に優れる材料でコートされていてもよい。また、ガス容器1が住宅用に用いられるときなど、ガス容器1の質量が大きくてもよいときは、容器本体10の材料は、アルミニウムやステンレススチール等の金属材料であってもよい。
【0016】
容器本体10は、内部空間11を内包するように筒状に形成されている。容器本体10は、例えば、内部空間11内でガスの圧力が均一に分散するような円筒状又は正多角形筒状などに形成されている。容器本体10は、軸方向に延在している。容器本体10は、軸方向両端部において軸方向中央側から軸方向端側にかけて縮径するように形成されている。
【0017】
尚、容器本体10は、複数の分体が溶着や溶接などにより接続されて一体化されることにより形成されていてよい。例えば
図3に示す如く、容器本体10は、二つの円筒状の円筒分体10a,10bと二つのドーム状のドーム分体10c,10dとにより構成され、軸方向一端側から軸方向他端側にかけてドーム分体10c→円筒分体10a→円筒分体10b→ドーム分体10dの順に分体が並んだ状態で構成されていてよい。
【0018】
容器本体10は、開口部12,13を有している。開口部12は、容器本体10の軸方向一端に開口する部位である。開口部13は、容器本体10の軸方向他端に開口する部位である。開口部12,13は、容器本体10の軸方向両端部に設けられている。開口部12には、口金20が挿入されている。また、開口部13には、口金30が挿入されている。
【0019】
口金20,30は、容器本体10の内部空間11と外部との間でガスを出入りさせる部材である。すなわち、口金20,30は、容器本体10の外部から内部空間11へのガスの導入や内部空間11から容器本体10の外部へのガスの放出などのために用いられる。口金20,30は、容器本体10の軸方向端部に取り付けられている。口金20,30と容器本体10との間には、容器本体10の内部空間11から外部へのガスの漏出を防止するためのOリングなどのシール部材が介在されている。口金20,30は、剛性確保のため、例えばアルミニウムやステンレススチール等の金属により形成されている。
【0020】
口金20,30は、連通路21,31を有している。連通路21,31は、容器本体10の内部空間を外部に連通させる通路である。連通路21,31は、図示しないガス管及びバルブに接続している。
【0021】
尚、ガス容器1は、口金20,30の連通路21,31の双方でガスを出入りさせるものであってもよいし、
図2に示す如く、何れか一方(具体的には、連通路31)だけでガスを出入りさせると共に他方(具体的には、連通路21)に栓が装着されるものであってもよい。また、ガス容器1は、容器本体10の軸方向端部のうち何れか一方に、ガスを出入りさせる口金20又は口金30が取り付けられたものであってもよい。また、口金20,30は、ガス容器1の温度調整のため、熱交換媒体が循環する熱交換器として機能することとしてもよい。
【0022】
また、容器本体10は、例えばインサート成形など、口金20,30に一体成形されてもよい。或いは、容器本体10は、口金20,30とは別体で形成されて、その形成後の口金20,30の挿入により口金20,30と一体化されることとしてもよい。
【0023】
補強部材40は、容器本体10の径方向外面を被覆して容器本体10を補強する部材である。補強部材40は、特にガス容器1が耐圧容器である場合に用いられることが好適である。補強部材40は、例えば、樹脂を含浸した高強度繊維(すなわち、FRP)で構成されている。尚、この高強度繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等である。また、この高強度繊維に含浸される樹脂は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂などである。
【0024】
補強部材40は、例えば、樹脂を含浸した高強度繊維が容器本体10の外面に巻回されることによりヘリカル層やフープ層として形成されてよく、又は、樹脂及び高強度繊維を用いてシート状に形成されたヘリカル層やフープ層が容器本体10の外面に貼り付けられることにより形成されてよい。更に、補強部材40は、ヘリカル層やフープ層の形成後に樹脂が加熱硬化されたものであってもよい。
【0025】
収容部材50は、後に詳述する貯蔵材60を収容する部材である。収容部材50は、容器本体10の内部空間11に配置されている。収容部材50は、ガス容器1の軸方向に延びて筒状に形成されている。収容部材50は、ハニカム形状に形成されている。収容部材50は、区画壁51と、収容空間52と、を有している。
【0026】
区画壁51は、収容空間52を区画する板状の壁部である。収容空間52は、貯蔵材60を収容する空間である。貯蔵材60は、収容空間52に収容されて区画壁51に保持される。収容空間52は、複数設けられている。複数の収容空間52は、収容部材50のハニカム形状が形成されるように、軸中心から径方向に並びかつ軸中心回りの径方向に並んで配置されている。
【0027】
各収容空間52は、軸方向に柱状に延びている。各収容空間52を軸方向に直交する面で切断した断面は、正六角形などの正多角形状であってよい。収容空間52の断面が正六角形であるときは、収容空間52は、六つの区画壁51により区画されている。また、各収容空間52の断面形状は、軸方向位置に関係なく一定であってよい。すべての収容空間52は、互いに同じ形状に形成されていてもよいし、互いに異なる形状に形成されていてもよい。互いに隣接する二つの収容空間52同士は、それぞれの収容空間52を区画する区画壁51が当接した状態で仕切られていてもよいし、或いは、共通した一つの区画壁51により仕切られていてもよい。
【0028】
区画壁51は、収容空間52の形状に応じた形状に形成されている。区画壁51は、容器本体10の内部空間11内で複数の収容空間52に対応して張り巡らされている。区画壁51は、熱伝導材により形成されており、熱交換器として機能する。区画壁51を構成する熱伝導材は、常温(例えば25℃)における熱伝導率が空気の熱伝導率に比べて高い材料であり、具体的には、ステンレススチール、アルミニウム、アルミナ、炭化ケイ素等に代表される金属、合金、セラミックス等である。
【0029】
尚、区画壁51は、板材同士が溶着又は接着などにより一体化されることにより形成されてもよいし、セラミック原料が押出成形され焼成されること等により形成されてもよい。また、区画壁51の厚さは、ガス容器1の軽量化及びガス貯蔵量の増大を図るうえでは過大でないことが望ましく、例えば1mm未満であることが好ましい。
【0030】
また、区画壁51は、互いに隣接する収容空間52同士を接続させる連絡路を有することとしてもよい。この連絡路は、ガスを内部空間11全体に亘って満遍なく行き渡らせて内部空間11でのガス濃度や熱を均一又は略均一にしてガスの吸蔵放出性能を向上させるために設けられる。この連絡路は、区画壁51ごとに一つ以上設けられていればよく、一つの区画壁51に二つ以上設けられる場合は軸方向に離れて連続的に又は断続的に設けられていればよい。
【0031】
収容部材50の中心部は、中空に形成されている。収容部材50の中央部には、連結部53が一体化されている。連結部53は、筒状に形成されており、口金20,30に向けて延びている。連結部53の口金20側である軸方向一端側は、収容部材50の軸方向一端から軸方向に突出している。連結部53は、区画壁51と同じ材料により形成されている。
【0032】
貯蔵材60は、ガスを吸蔵すると共に放出する部材である。貯蔵材60は、収容空間52に収容されており、区画壁51に保持されている。尚、貯蔵材60は、収容部材50の有するすべての収容空間52に収容されてもよいが、そのすべての収容空間のうちの一部に限定されて収容されてもよい。この貯蔵材60が収容される収容空間52が一部に限定されるのは、貯蔵材60が収容されない収容空間52をガスの流路として機能させて内部空間11内におけるガスの濃度を均一化するためである。
【0033】
貯蔵材60は、収容空間52の形状に倣って柱状に形成されている。貯蔵材60は、軸方向に延びている。貯蔵材60を軸方向に直交する面で切断した断面は、収容空間52の断面に対応しており、例えば正六角形などの正多角形状であってよい。貯蔵材60は、貯蔵対象のガスの種類に応じた材料により形成されている。貯蔵材60の材料は、例えば、カーボンナノチューブ等の多孔性の炭素材料、多孔性の金属錯体(すなわちMOF)、ゼオライト、水素吸蔵合金、金属水素化物などである。
【0034】
貯蔵材60は、一次粒子や二次粒子などの粉末を固めた状態すなわちペレット状に形成されている。ペレット状の貯蔵材60によれば、ガスに対する貯蔵材60の接触面積を大きく確保することができるので、ガスの吸蔵放出性能を向上させることができる。尚、貯蔵材60の体積は、ガス貯蔵量の確保のため、収容空間52の体積に対して100%に近いことが好ましいが、90%以上であればよい。貯蔵材60は、貯蔵材材料の粉末が架橋剤により架橋され又はバインダにより結着されることにより成形される。
【0035】
貯蔵材60は、軸方向位置に応じて変化する性能を有している。具体的には、貯蔵材60は、軸方向中央部に比べて軸方向端部の耐破損性が高くなるように構成されている。この耐破損性とは、粉末で固められた貯蔵材60の粉末化のし難さを示す指標である。この耐破損性は、強度、剛性、耐摩耗性、粘度、弾性力などに言い換えることができる。
【0036】
尚、貯蔵材60の材料粉末を架橋する架橋剤等の量が多くなると、その量分だけ収容空間52に収容できる貯蔵材60の量が減少し、貯蔵材60がガスを貯蔵できる量が減少して貯蔵材60の吸蔵放出性能が低下する。従って、貯蔵材60において、軸方向中央部に比べて軸方向端部の耐破損性が高くなることは、軸方向中央部に比べて軸方向端部の吸蔵放出性能が低下することと同義である。
【0037】
貯蔵材60は、第一貯蔵部61と、第二貯蔵部62と、を有している。第一貯蔵部61は、収容空間52の軸方向中央部に配置されている。第二貯蔵部62は、収容空間52の軸方向両端部それぞれに配置されている。第二貯蔵部62の耐破損性は、第一貯蔵部61の耐破損性に比して高い。すなわち、貯蔵材60は、軸方向中央部の第一貯蔵部61で耐破損性が低く吸蔵放出性能が高い一方、軸方向端部の第二貯蔵部62で吸蔵放出性能が低く耐破損性が高い構造を有する。
【0038】
尚、第一貯蔵部61と第二貯蔵部62とは、互いに一体でペレット状に成形されてガス容器1の組み立て時に収容空間52に一体で挿入されてもよいが、それぞれ別体でペレット状に成形されてガス容器1の組み立て時に収容空間52に順に挿入されてもよい。
【0039】
第一貯蔵部61と第二貯蔵部62とがそれぞれ別体で成形される場合は、第二貯蔵部62は、収容部材50に圧入された状態で収容空間52の軸方向端部に配置されてよい。この場合、第二貯蔵部62は、
図6に示す如く、傾斜部62aを有していてよい。傾斜部62aは、収容空間52の軸方向中央部寄りの部位から軸方向端部寄りの部位にかけて外径が大きくなるように傾斜するテーパ部位である。第二貯蔵部62の最大外径は、収容部材50の内径すなわち収容空間52の径に比して大きい。また、第二貯蔵部62の最小外径は、ガス貯蔵量を増やすためには収容空間52の径と一致することが好ましいが、その収容空間52の径に比して小さくてもよい。
【0040】
以下、ガス容器1を製造する方法の一例を説明する。
先ず、容器本体10を構成する二つの円筒分体10a,10bと二つのドーム分体10c,10dとをそれぞれ射出成形等により準備する。そして、一方のドーム分体10cの開口部12に口金20をシール部材と共に装着すると共に、他方のドーム分体10dの開口部13に口金30をシール部材と共に装着する。
【0041】
また、ハニカム形状の収容部材50を準備すると共に、それぞれペレット状の第一貯蔵部61と二つの第二貯蔵部62とを準備する。そして、まず、第一貯蔵部61を収容部材50の収容空間52に挿入し、その後に、二つの第二貯蔵部62を収容部材50の軸方向両端側から収容空間52に挿入する。この処理が行われると、貯蔵材60の第一貯蔵部61が収容空間52の軸方向中央部に配置されると共に、第二貯蔵部62が収容空間52の軸方向端部に配置される。そして、この収容部材50の収容空間52への第一貯蔵部61及び第二貯蔵部62の挿入配置を収容空間52ごとすなわち貯蔵材60ごとに行う。
【0042】
尚、収容空間52への第二貯蔵部62の挿入配置は、傾斜部62aを有する第二貯蔵部62を収容部材50に圧入することにより実現されてよい。また、この挿入配置の際、第二貯蔵部62と区画壁51とは、接着剤などで互いに接着されてよい。
【0043】
次に、貯蔵材60を収容保持した収容部材50を、他方のドーム分体10dの開口部13に装着した口金30に固定し、その収容部材50を容器本体10の二つの円筒分体10a,10bに挿入し、他方のドーム分体10dと二つの円筒分体10a,10bとを溶着などにより接続して一体化した。更に、連結部53を収容部材50に一体化して一方のドーム分体10cの開口部12側の口金20に接触させつつ、収容部材50をその口金20に対して固定する。そして、容器本体10の他方のドーム分体10dと二つの円筒分体10a,10bとの一体品と一方のドーム分体10cとを溶着などにより接続し、最後に、その容器本体10の外面に補強部材40を被覆する。このようにして、ガス容器1を製造する。
【0044】
ガス容器1の作用について説明する。
ガス容器1において、容器本体10の内部空間11には、貯蔵材60を収容保持する収容部材50が配置されている。収容部材50は、収容空間52に区画する区画壁51を有し、複数の収容空間52が内部空間11に規則的に並ぶように区画壁51が張り巡らされたハニカム形状に形成されている。貯蔵材60は、収容空間52に収容されており区画壁51に保持されている。区画壁51は、熱伝導材により形成されている。このため、内部空間11はその全体に亘って熱的に均一化されるので、内部空間11内の貯蔵材60の温度は均一化される。
【0045】
尚、区画壁51は、連結部53を介して口金20に接触しており、口金20に熱的に連絡されている。この場合、区画壁51は、口金20と間接的に熱交換するので、内部空間11ひいては貯蔵材60が効率良くかつ迅速に温度調節される。従って、ガス容器1によれば、内部空間11における貯蔵材60へのガスの吸蔵及び貯蔵材60からのガスの放出を円滑に行うことができる。
【0046】
ガス容器1において、ガスが口金30を介して容器本体10の内部空間11へ供給されると、そのガスは、内部空間11に配置されている収容部材50の口金30側の軸方向端面を経て収容部材50の各収容空間52に流入する。収容空間52に流入したガスは、その収容空間52の口金30側から口金20側に流通し、その収容空間52に収容保持されている貯蔵材60に徐々に吸蔵される。
【0047】
尚、すべての収容空間52のうち貯蔵材60が配置されていない収容空間52に流入したガスは、その収容空間52を口金30側から口金20側に流通する。この際、区画壁51が互いに隣接する収容空間52同士を接続させる連絡路を有する構造では、収容空間52を流通したガスの一部は、その連絡路を通じて隣接の収容空間52に流入する。
【0048】
このように、ガス容器1においては、内部空間11がその全体にわたって均一にガスを充填することができ、ガス濃度的に均一化される。特に、すべての収容空間52のうちの一部に貯蔵材60が配置されない構造や区画壁51に上記の連絡路が設けられる構造によれば、ガスの流路を内部空間11の全体に張り巡らせることができるので、内部空間11の全体にガスを行き渡らせることができる。
【0049】
以上により、ガス容器1によれば、貯蔵材60におけるガスの吸蔵放出性能を充分に引き出してその貯蔵放出性能を向上させることができる。
【0050】
また、ガス容器1において、貯蔵材60は、収容空間52の軸方向中央部に配置される第一貯蔵部61と、収容空間52の軸方向両端部に配置される第二貯蔵部62と、を有している。そして、第二貯蔵部62の耐破損性は、第一貯蔵部61の耐破損性に比して高い。このため、振動などに起因して第一貯蔵部61が崩れて粉末化するときにも、第二貯蔵部62が粉末化するのは抑えられるので、その第二貯蔵部62の粉末が収容空間52の軸方向端の開口から軸方向外方へ流れ出すのは抑制される。
【0051】
また、第一貯蔵部61は、収容部材50における収容空間52を区画する区画壁51に保持されていると共に、収容空間52内の軸方向中央部に配置されており、軸方向両端部の第二貯蔵部62に挟まれている。この構造においては、第一貯蔵部61が粉末化したときにも、その第一貯蔵部61の粉末が、区画壁51と二つの第二貯蔵部62の軸方向端面とに囲まれた空間に閉じ込められるので、その第一貯蔵部61の粉末が収容空間52の内部(具体的には、収容空間52の軸方向端の開口)から外部(具体的には、軸方向外方)へ流れ出して消失するのは抑制される。
【0052】
このように、ガス容器1によれば、貯蔵材60の粉末が収容空間52の内部から外部へ流れ出して消失するのを抑えることができ、これにより、貯蔵材60の減少に伴う吸蔵放出性能の低下を抑えることができる。
【0053】
また、第二貯蔵部62が収容部材50に圧入されてその圧入状態で収容空間52の軸方向端部に配置される構造によれば、第二貯蔵部62を収容空間52内で区画壁51に固定するうえで接着剤などを用いることは不要である。このため、収容空間52において接着剤などを用いない分だけ貯蔵材60の量を増大させてガスの吸蔵量を増やすことができ、貯蔵材60におけるガスの吸蔵放出性能を向上させることができる。
【0054】
更に、第二貯蔵部62が、収容空間52の軸方向中央部寄りの部位から軸方向端部寄りの部位にかけて外径が大きくなるように傾斜する傾斜部62aを有する構造によれば、その第二貯蔵部62を収容部材50に圧入するうえで、第二貯蔵部62を収容空間52に挿入し易くなる。このため、ガス容器1を容易に組み立てることができ、ガス容器1の製造の簡易化を図ることができる。
【0055】
ところで、上記の実施形態においては、貯蔵材60における耐破損性が比較的高い第二貯蔵部62が、収容空間52の軸方向両端部の双方に配置される。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、貯蔵材60における耐破損性が比較的高い第二貯蔵部62が収容空間52の軸方向両端部のうち少なくとも何れか一方に配置されることとしてもよい。この変形形態においては、貯蔵材60の耐摩耗性が比較的低く軸方向に亘って均一である構成に比べて、貯蔵材60が粉末化したときにその粉末が収容空間52の内部から外部へ流れ出る開口が軸方向両端のうちの何れか一方に限定されるので、収容空間52から流れ出す粉末量を少なくすることができる。
【0056】
また、この変形形態においては、特に、収容部材50の軸方向両端面のうち何れか一方が閉じられ、収容空間52の軸方向両端のうち何れか一方が閉口している構造では、第二貯蔵部62が収容空間52の軸方向他端部のみに配置されることとしてもよい。
【0057】
尚、本発明は、上述した実施形態等に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1:ガス容器、10:容器本体、11:内部空間、20,30:口金、50:収容部材、51:区画壁、52:収容空間、60:貯蔵材、61:第一貯蔵部、62:第二貯蔵部、62a:傾斜部。