(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140857
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】ドロップ剤、及びドロップ剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/41 20060101AFI20230928BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230928BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20230928BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20230928BHJP
A61K 31/4425 20060101ALI20230928BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230928BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230928BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20230928BHJP
A61K 9/22 20060101ALI20230928BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230928BHJP
【FI】
A61K8/41
A61K8/73
A61Q11/00
A61K8/49
A61K31/4425
A61P31/04
A61P1/02
A61K9/20
A61K9/22
A61K47/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046898
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】川野 元一
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】福永 丈朗
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076AA94
4C076BB22
4C076CC31
4C076EE31
4C076FF31
4C076GG14
4C083AC851
4C083AC852
4C083AD261
4C083AD262
4C083CC41
4C083DD15
4C083EE31
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA35
4C086NA12
4C086ZA67
(57)【要約】
【課題】口腔内においてカチオン性殺菌剤の効果をより長時間発現させる。
【解決手段】ドロップ剤は、カチオン性殺菌剤と、結晶性セルロースとを含有する。結晶性セルロースの安息角が、30°以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性殺菌剤と、結晶性セルロースとを含有するドロップ剤であって、
前記結晶性セルロースの安息角が、30°以上であることを特徴とするドロップ剤。
【請求項2】
前記結晶性セルロースの安息角が、50°以上60°以下である請求項1に記載のドロップ剤。
【請求項3】
前記カチオン性殺菌剤が、セチルピリジニウム塩化物水和物を含有する請求項1又は2に記載のドロップ剤。
【請求項4】
口腔内において殺菌効果・ウイルス不活性化の長期発現用に用いられる請求項1~3のいずれか一項に記載のドロップ剤。
【請求項5】
カチオン性殺菌剤と、安息角が30°以上である結晶性セルロースとを混合して混合組成物を作製する混合工程と、
前記混合組成物を成形する成形工程と、を有することを特徴とするドロップ剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドロップ剤、及びドロップ剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、セチルピリジニウム塩化物水和物ともいう塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムから選ばれる一種以上のカチオン性殺菌剤とヘスペリジンを含有する口腔用又は咽喉用組成物について記載している。上記成分を含有することにより、カチオン性殺菌剤に特有の苦みを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、カチオン性殺菌剤を含有するドロップ剤は、口腔内においてカチオン性殺菌剤の効果をより長時間発現させることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためのドロップ剤は、カチオン性殺菌剤と、結晶性セルロースとを含有するドロップ剤であって、前記結晶性セルロースの安息角が、30°以上であることを要旨とする。
【0006】
上記ドロップ剤について、前記結晶性セルロースの安息角が、50°以上60°以下であることが好ましい。
上記ドロップ剤について、前記カチオン性殺菌剤が、セチルピリジニウム塩化物水和物を含有することが好ましい。
【0007】
上記ドロップ剤について、口腔内において殺菌効果・ウイルス不活性化の長期発現用に用いられることが好ましい。
上記課題を解決するためのドロップ剤の製造方法は、カチオン性殺菌剤と、安息角が30°以上である結晶性セルロースとを混合して混合組成物を作製する混合工程と、前記混合組成物を成形する成形工程と、を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のドロップ剤、及びドロップ剤の製造方法によれば、口腔内においてカチオン性殺菌剤の効果をより長時間発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は結晶性セルロースの安息角と持続時間の関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は唾液中のセチルピリジニウム塩化物水和物濃度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のドロップ剤を具体化した一実施形態について説明する。
本実施形態のドロップ剤は、カチオン性殺菌剤と、結晶性セルロースとを含有し、結晶性セルロースの安息角が、30°以上である。
【0011】
安息角が上記数値範囲である結晶性セルロースを含有することにより、口腔内においてカチオン性殺菌剤の効果をより長時間発現させることができる。
以下、ドロップ剤の各成分について説明する。
【0012】
<カチオン性殺菌剤>
カチオン性殺菌剤としては特に制限されず、公知のカチオン性殺菌剤を用いることができる。カチオン性殺菌剤の具体例としては、例えば、セチルピリジニウム塩化物水和物(以下、CPCともいう。)、塩化ベンゼトニウム、及び塩化ベンザルコニウム等が挙げられる。
【0013】
上記のカチオン性殺菌剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、CPCは、口腔用の殺菌剤として広く用いられており、好適な殺菌作用が得られやすいため好ましい。
【0014】
ドロップ剤におけるカチオン性殺菌剤の含有量は、特に制限されないが、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましい。また、0.15質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
<結晶性セルロース>
結晶性セルロースは、植物のパルプ繊維を酸加水分解、又はアルカリ加水分解して、セルロースの結晶領域を取り出して精製したものであり、相対的に水や油に溶解しにくい材料である。ドロップ剤が結晶性セルロースを含有することにより、口腔内における持続時間をより長くすることができる。
【0016】
結晶性セルロースは、粉末状に構成されている。個々の粒子の形状は特に制限されないが、板状、棒状、繊維状等の小片状であり、球状でないことが好ましい。
ここで、球状でないとは、粒子の扁平率が1.5以上である形状を意味するものとする。すなわち、結晶性セルロースの扁平率は、1.5以上であることが好ましく、3以上であることがより好ましく、5上であることがさらに好ましい。
【0017】
なお、扁平率とは、結晶性セルロースの粒子において、最も径の大きい箇所の寸法(最大径ともいう。)と、最も径の小さい箇所の寸法(最小径ともいう。)の比(最大径/最小径)を意味するものとする。扁平率は、複数の粒子の扁平率を測定して、その平均値で表されるものとする。
【0018】
結晶性セルロースの安息角は、50°以上であることが好ましい。また、結晶性セルロースの安息角は、60°以下であることが好ましい。
結晶性セルロースの安息角が30°以上であると、結晶性セルロースの形状が球状よりも繊維状に近い状態になる。また、結晶性セルロースの安息角が50°以上であると、結晶性セルロースの形状がより繊維状に近く、表面積が大きい状態になる。カチオン性殺菌剤は結晶性セルロース表面に吸着しやすい性質を持つため、ドロップ剤の持続時間とともにカチオン性殺菌剤も溶出されるものの、表面積が大きいほど溶出速度は遅くなる傾向にある。
【0019】
安息角の測定方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、第十八改正日本薬局方 参考情報 粉体の流動性の項目で紹介されている方法を採用することができる。
【0020】
結晶性セルロースの安息角は、ドロップ剤に用いられる結晶性セルロースの安息角を意味するものとする。結晶性セルロースの安息角は、ドロップ剤から結晶性セルロースを取り出して測定してもよい。ドロップ剤から結晶性セルロースを取り出す方法としては、例えば、ドロップ剤を加熱して溶融させる。そして、結晶性セルロースを、カチオン性殺菌剤や後述するその他成分から分離して回収する。回収した結晶性セルロースに対して、上記の安息角の測定方法を行うことによって安息角を測定することができる。
【0021】
結晶性セルロースの平均粒子径は、特に制限されないが、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。
【0022】
結晶性セルロースの平均粒子径の測定方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、公知のレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて体積基準で測定することができる。
【0023】
ドロップ剤における結晶性セルロースの含有量は、特に制限されないが、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、安全上の観点から、3.5質量%以下であることが好ましく、2.5質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
<その他成分>
ドロップ剤は、適用目的、形態、用途等に応じて、前述した成分以外のその他成分、例えば、甘未剤、賦形剤、矯味剤、着香剤、pH調整剤(酸味剤)、着色剤、安定化剤、結合剤、溶媒、界面活性剤等を配合してもよい。これら各成分は、ドロップ剤に配合される公知のものを使用することができる。これらの成分は、それぞれ一種のみを単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
甘味剤の具体例としては、例えばサッカリン、サッカリンナトリウム水和物、スクラロース、ステビオサイド、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、シクロヘプタアミロース、ソルビトール(ソルビット液ともいう。)、パラチノース(還元パラチノースともいう。)等が挙げられる。これらの中でも、還元パラチノースを含有することが好ましい。甘未剤は、糖アルコールともいうものとする。
【0026】
賦形剤の具体例としては、例えば精製白糖、白糖、ハチミツ、黒砂糖、ブドウ糖液、D-ソルビトール、還元パラチノース、還元水アメ、還元麦芽糖水アメ、水アメ、カラメル等が挙げられる。
【0027】
矯味剤の具体例としては、例えばアスパルテーム、アセスルファムK、ステビア抽出物、塩化Na、サッカリン、サッカリンナトリウム水和物、アスコルビン酸、キシリトール、L-グルタミン酸塩酸塩、酒石酸等が挙げられる。
【0028】
なお、還元パラチノースは、甘未剤や賦形剤以外に、着香剤として用いられる場合もある。
上記の甘未剤、賦形剤、矯味剤は、基剤として用いられていてもよい。
【0029】
着香剤の具体例としては、例えばl-メントール、d-カルボン、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n-デシルアルコール、シトロネロール、α-テルピネオール、メチルアセテート、シトロネリルアセテート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d-カンフル、d-ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等が挙げられる。
【0030】
pH調整剤の具体例としては、例えばクエン酸、クエン酸Na、DL-リンゴ酸、コハク酸、コハク酸Na、L-グルタミン酸、L-グルタミン酸Na、乳酸、乳酸Na等が挙げられる。
【0031】
着色剤の具体例としては、例えば緑色1号、緑色3号、青色1号、黄色4号、黄色5号、赤色102号、赤色3号等の法定色素、銅クロロフィリンナトリウム、酸化チタン等が挙げられる。
【0032】
安定化剤の具体例としては、例えばエデト酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、乳酸カルシウム、ラノリン、トリアセチン、ヒマシ油、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
【0033】
結合剤の具体例としては、例えばポリアクリル酸ナトリウム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル等が挙げられる。
【0034】
溶媒の具体例としては、例えば水、アルコール等が挙げられる。
界面活性剤としては、特に制限されず、口腔用組成物に用いられる公知の界面活性剤を採用することができる。
【0035】
界面活性剤の具体例としては、例えば非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
(非イオン性界面活性剤)
非イオン性界面活性剤の具体例としては、例えばショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル等の糖アルコール脂肪酸エステル、モノラウリン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリン酸ジエタノールアミド等の脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノラウリン酸ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ラウリルグリコシド、デシルグリコシド等のアルキルグリコシド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アルキルグルコシド類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
【0036】
(アニオン性界面活性剤)
アニオン性界面活性剤の具体例としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩、ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩、ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。
【0037】
(両性界面活性剤)
両性界面活性剤の具体例としては、例えばN-ラウリルジアミノエチルグリシン、N-ミリスチルジエチルグリシン等のアミノ酸型両性界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、N-アルキル-N’-カルボキシメチル-N’-ヒドロキシエチルエチレンジアミン塩、及び2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン系両性界面活性剤等が挙げられる。
【0038】
上記の界面活性剤は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
<ドロップ剤の製造方法>
ドロップ剤の製造方法は、カチオン性殺菌剤と、安息角が30°以上である結晶性セルロースとを混合して混合組成物を作製する混合工程を有する。また、混合工程で得られた混合組成物を成形する成形工程を有する。上記結晶性セルロースの安息角は、50°以上60°以下であることが好ましい。
【0039】
混合工程では、必要に応じて上記その他成分を一緒に混合してもよい。また、各原料を加熱しながら混合すると、効率良く混合を行うことができるため好ましい。例えば90℃以上180℃以下であることが好ましい。必要に応じて、真空釜等を用いて低圧下で水分をとばしてもよい。
【0040】
成形工程では、混合工程で得られた原料組成物を型に入れて成形することが好ましい。原料組成物を型に入れて成形を行うことにより、所定の形状を有するドロップ剤を効率良く成形することが可能になる。
【0041】
<ドロップ剤の適用形態、用途、剤形>
ドロップ剤の適用形態は、特に制限されず、例えば医薬品、指定医薬部外品として使用することができる。具体的には、口腔咽頭薬として使用することができる。
【0042】
ドロップ剤の用途は、特に制限されないが、殺菌効果・ウイルス不活性化の長期発現用に用いることができる。上記殺菌効果・ウイルス不活性化の長期発現用とは、殺菌効果と、ウイルス不活性化の少なくともいずれか一方の長期発現用であることを意味するものとする。
【0043】
ドロップ剤の剤形は、特に限定されず、トローチ、ハードキャンディ等の所定の硬さを有するものであってもよい。また、グミ、ガム等の所定の柔軟性を有するものであってもよい。また、ドロップ剤の形状は、球状であってもよいし、板状、フィルム状等であってもよい。
【0044】
ドロップ剤の直径は、特に制限されない。ドロップ剤の直径は、例えば20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましい。また、5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。なお、ドロップ剤の形状が球状でない場合の直径は、ドロップ剤の全体が入る外接円を想定して、外接円の直径を意味するものとする。
【0045】
<作用及び効果>
本実施形態のドロップ剤の作用について説明する。
結晶性セルロースの安息角が30°以上であると、結晶性セルロースの形状は、球状よりも繊維状により近い状態になる。これに伴い、結晶性セルロースの表面積が相対的に大きくなる。また、結晶性セルロースが有する水酸基は、カチオン性殺菌剤との間に相互作用を生じやすい。結晶性セルロースの表面積が相対的に大きく、且つカチオン性殺菌剤との間に相互作用を生じやすいことによって、結晶性セルロースの表面に、より多くのカチオン性殺菌剤が吸着されやすくなる。ドロップ剤の持続時間とともにカチオン性殺菌剤も溶出されるものの、結晶性セルロースの表面積が大きいほど溶出速度は遅くなる傾向にある。さらに、結晶性セルロースが有する水や油に溶解しにくい作用との相乗効果によって、カチオン性殺菌剤の溶出速度が遅くなる。
【0046】
本実施形態のドロップ剤の効果について説明する。
(1)カチオン性殺菌剤と、結晶性セルロースとを含有し、結晶性セルロースの安息角が、30°以上である。
【0047】
水や油に溶解しにくい結晶性セルロースの表面に、より多くのカチオン性殺菌剤が吸着されることによって、カチオン性殺菌剤の溶出速度を遅くすることができる。したがって、口腔内においてカチオン性殺菌剤の効果をより長時間発現させることができる。
【0048】
(2)結晶性セルロースの安息角が、50°以上60°以下である。したがって、口腔内におけるドロップ剤の持続時間をより長くすることができるため、口腔内においてカチオン性殺菌剤の効果をさらに長時間発現させることができる。
【0049】
(3)カチオン性殺菌剤が、セチルピリジニウム塩化物水和物である。したがって、好適な殺菌作用が得られやすくなる。
(4)ドロップ剤は、口腔内において殺菌効果・ウイルス不活性化の長期発現用に用いられる。本発明のドロップ剤は、口腔内における持続時間を長くすることができるため、より長期間に亘ってカチオン性殺菌剤の効果を発現させることができる。したがって、例えば、通勤時間帯の電車内等、大勢の人が一つの空間に長時間滞在する場合において、ウイルスの感染予防に好適に使用することができる。
【0050】
(5)ドロップ剤の製造方法は、カチオン性殺菌剤と、安息角が30°以上である結晶性セルロースとを混合して混合組成物を作製する混合工程と、混合組成物を成形する成形工程とを有する。したがって、口腔内においてカチオン性殺菌剤の効果をより長時間発現させることができるドロップ剤を製造することができる。
【0051】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0052】
・本実施形態において、ドロップ剤は、鎮咳去痰薬に用いられる有効成分が配合されていてもよい。鎮咳去痰薬に用いられる有効成分としては、例えばクロルヘキシジン塩酸塩、デカリニウム塩化物等が挙げられる。
【実施例0053】
以下、本発明の構成、及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。
(結晶性セルロースの安息角と持続時間の関係の評価試験)
結晶性セルロースの安息角と持続時間の関係について評価した。
【0054】
まず、表1に示す安息角を有する結晶性セルロースを用意した。結晶性セルロースの含有量が2質量%となるように各結晶性セルロースと還元パラチノースを常法に従って混合して、試験例1~7のドロップ剤を作製した。ドロップ剤は、粒子径が15mmの球状であり、質量は約2gであった。試験例1は、結晶性セルロースを使用せず、還元パラチノースのみでドロップ剤を作製した。
【0055】
次に、複数のビーカーにそれぞれ37℃の蒸留水を500g入れ、回転子で撹拌した。回転子で撹拌しながら、各試験例のドロップ剤を各ビーカーに入れた。目視で観察して、ドロップ剤が無くなるまでの時間を測定した。ドロップ剤が無くなった時間を持続時間とした。試験は各3回行い、持続時間の平均値を求めた。結果を表1、
図1に示す。
【0056】
試験例1~7における結晶性セルロースの平均粒子径、安息角、及び持続時間を、表1の「平均粒子径(μm)」欄、「安息角(°)」欄、「持続時間(分)」欄にそれぞれ示す。
【0057】
【表1】
表1、
図1より、結晶性セルロースの安息角が30°以上である試験例2~7では、試験例1に比べて持続時間が長くなっていることが確認された。特に、結晶性セルロースの安息角が50°以上である試験例6、7において、持続時間がより長くなっていた。
【0058】
表2に示す実施例1、比較例1、比較例2のドロップ剤を常法に従って各成分を混合することによって製造した。
【0059】
【表2】
表2に示すように、カチオン性殺菌剤には、CPCを用いた。CPCの含有量は、実施例1、及び比較例1は、ドロップ剤一粒当たり1.0mg、比較例2は、ドロップ剤一粒当たり0.5mgであった。実施例1では、結晶性セルロースとして、試験例7と同じものを使用し、含有量を2質量%とした。比較例1、及び比較例2は、結晶性セルロースを配合しなかった。また、実施例1、比較例1、及び比較例2は、残分として還元パラチノースを配合した。ドロップ剤一粒あたりの質量は、実施例1、及び比較例1は2.0g、比較例2は1.48gであった。ドロップ剤の直径は、実施例1、及び比較例1は15mm、比較例2は12mmあった。
【0060】
(唾液中のCPC濃度の評価試験)
唾液中のCPC濃度の評価は、以下の方法で行った。
まず、実施例1のドロップ剤をモニターが服用した。服用開始から所定の時間毎にモニターの唾液を1mL採取した。唾液中のCPC濃度を公知の高速液体クロマトグラフィを用いて定量した。また、服用開始からドロップ剤が無くなるまでの持続時間(以下、口腔内の持続時間という。)を測定した。同様の試験を2回行い、各測定時間におけるCPC濃度の平均値、及び、口腔内の持続時間の平均値を求めた。
【0061】
比較例1、比較例2についても、同様の方法でCPC濃度の平均値と、口腔内の持続時間の平均値を求めた。なお、比較例2のドロップ剤は、ドロップ剤一粒あたりの質量が1.48gと小さく、且つCPCの含有量も0.5mgと小さいため、ドロップ剤が無くなった後、さらに、もう一粒のドロップ剤を連続で服用して試験を行った。口腔内の持続時間の評価結果を表2に示す。またCPC濃度の評価結果を
図2に示す。
【0062】
表2に示すように、比較例1では、口腔内の持続時間が11分1秒であった。比較例2では、口腔内の持続時間が7分5秒と、6分40秒であった。これに対し、実施例1では、口腔内の持続時間が24分25秒と長いことが確認された。
【0063】
また、
図2より、比較例1では、服用開始から2分後に、CPC濃度が最も高くなっており、その後、急速に減少していた。服用開始から20分以降は、CPC濃度は4μg/mLで横ばいとなっていた。
【0064】
比較例2では、服用開始から2分後に、CPC濃度が最も高くなっていた。40μg/mLで略一定となり、その後減少した。服用開始から20分以降は、CPC濃度は5μg/mLで横ばいとなっていた。
【0065】
これに対し、実施例1では、服用開始から2分後に、CPC濃度が最も高くなっているものの、10分経過後においてもCPC濃度は50μg/mL以上、具体的には、62μg/mLと高い状態を維持していた。また、20分経過後においてもCPC濃度は20μg/mL以上、具体的には、27μg/mLと高い状態を維持していた。30分経過後においてもCPC濃度は6μg/mL以上、具体的には、8μg/mLと高い状態を維持していた。
【0066】
以上の結果より、本発明のドロップ剤によれば、口腔内の持続時間を長くできることが確認された。また、口腔内のCPCの濃度も相対的に高い状態が維持されていた。口腔内においてCPCの効果をより長時間発現できることが確認された。