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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023141432
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】疲労診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20230928BHJP
【FI】
G01M17/007 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047758
(22)【出願日】2022-03-24
(71)【出願人】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】松田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】宗次 竜司
(57)【要約】
【課題】診断対象部材の疲労診断を安定した精度で行うことができる疲労診断装置を得ることを目的とする。
【解決手段】疲労診断装置400は、診断対象部材200に取り付けられている加速度センサ300によって計測された加速度計測値11を取得する加速度取得部410、加速度計測値11と、有限要素法によって診断対象部材200を再現した有限要素モデルとに基づいて、診断対象部材200の一部である少なくとも1つの評価対象点における応力推定値12を算出する応力推定部420、及び応力推定値12に基づいて、診断対象部材200の疲労の度合いを判定する疲労判定部430を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象部材に取り付けられている加速度センサによって計測された加速度計測値を取得する加速度取得部、
前記加速度計測値と、有限要素法によって前記診断対象部材を再現した有限要素モデルとに基づいて、前記診断対象部材の一部である少なくとも1つの評価対象点における応力推定値を算出する応力推定部、及び
前記応力推定値に基づいて、前記診断対象部材の疲労の度合いを判定する疲労判定部
を備えている、疲労診断装置。
【請求項2】
前記応力推定部は、2つ以上の前記評価対象点における前記応力推定値を算出し、
前記疲労判定部は、各前記評価対象点における前記応力推定値に基づいて、前記診断対象部材の前記疲労の度合いを判定する、請求項1記載の疲労診断装置。
【請求項3】
前記応力推定部は、それぞれ前記有限要素モデルに基づいて導出された状態方程式と観測方程式とに基づいて、前記応力推定値を算出し、
前記観測方程式には、少なくとも加速度の要素と、前記評価対象点における応力の要素とが含まれている、請求項1または2記載の疲労診断装置。
【請求項4】
前記応力推定部は、解析プログラムを実行することにより、前記応力推定値を算出し、
前記解析プログラムは、前記状態方程式及び前記観測方程式によって構成されている状態空間表現と、カルマンフィルタとの組み合わせに基づいて、事前に作成されているプログラムである、請求項3記載の疲労診断装置。
【請求項5】
前記解析プログラムを作成する解析プログラム作成部を更に備え、
前記解析プログラム作成部は、
前記診断対象部材における前記加速度センサの位置情報であるセンサ位置情報と、前記診断対象部材における前記評価対象点の位置情報である評価対象点位置情報とを取得し、
前記センサ位置情報と前記評価対象点位置情報とに基づいて、前記解析プログラムを作成する、請求項4記載の疲労診断装置。
【請求項6】
前記疲労判定部は、前記応力推定値に基づいて、前記診断対象部材の前記疲労の度合いを示す指標値を算出し、前記指標値が閾値以上である場合、発報部に発報指示を行う、請求項1から5までのいずれか1項記載の疲労診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、疲労診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両の疲労損傷度診断システムは、センサ及び車両ECUを備えている。センサは、診断対象に取り付けられている。診断対象は、車両に取り付けられている部材である。車両ECUは、センサから取得した検出値に基づいて、診断対象の疲労損傷度を算出する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-79920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来の疲労損傷度診断システムにおいては、センサが取り付けられている位置における疲労損傷度に基づいて、疲労診断が行われる。このため、センサは、診断対象における適正な位置、即ち疲労診断を精度良く行うことができる位置に取り付けられる必要がある。しかし、診断対象の設置位置、向き等によっては、適正な位置にセンサを取り付けることができない場合があり、この場合、診断の精度が低下するおそれがある。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、診断対象部材の疲労診断を安定した精度で行うことができる疲労診断装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る疲労診断装置は、診断対象部材に取り付けられている加速度センサによって計測された加速度計測値を取得する加速度取得部、加速度計測値と、有限要素法によって診断対象部材を再現した有限要素モデルとに基づいて、診断対象部材の一部である少なくとも1つの評価対象点における応力推定値を算出する応力推定部、及び応力推定値に基づいて、診断対象部材の疲労の度合いを判定する疲労判定部を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本開示の疲労診断装置によれば、診断対象部材の疲労診断を安定した精度で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1による全体構成を示すブロック図である。
図2図1の疲労診断装置による解析プログラムの作成処理を示すフローチャートである。
図3】連続系の縮退化モデルを離散化する方法を説明する図である。
図4図1の加速度センサによる加速度計測処理を示すフローチャートである。
図5図1の疲労診断装置による応力推定値算出処理を示すフローチャートである。
図6図1の疲労診断装置による疲労判定処理を示すフローチャートである。
図7図6の応力発生回数を集計する処理を説明する図である。
図8図6に示す評価対象点の累積損傷度を算出する処理を説明する図である。
図9】実施の形態1の疲労診断装置を実現する処理回路の第1例を示す構成図である。
図10】実施の形態1の疲労診断装置を実現する処理回路の第2例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による全体構成を示すブロック図である。
【0011】
図1において、疲労診断システム1000は、車両本体100に設けられている診断対象部材200に対し、疲労診断を行うシステムである。ここで、車両本体100は、例えば鉄道車両の本体部である。診断対象部材200は、例えばインバータ装置である。診断対象部材200は、車両本体100の下部に設けられている。
【0012】
疲労診断システム1000は、加速度センサ300及び疲労診断装置400を備えている。
【0013】
加速度センサ300は、診断対象部材200の下面端部に取り付けられている。加速度センサ300は、センサ本体310と増幅アンプ320とを備えている。
【0014】
センサ本体310は、取り付けられている位置における振動を検出し、検出した振動を電荷信号に変換する。
【0015】
増幅アンプ320は、センサ本体310によって変換された電荷信号を増幅し、増幅後の信号を加速度に変換する。
【0016】
加速度センサ300は、一定時間ごとに上記動作を行って加速度値を計測する。加速度センサ300は、加速度値を計測する検出サイクルごとに、データを疲労診断装置400へ送信する。ここで送信されるデータを加速度計測値11とする。加速度センサ300は、図示しない通信手段を介して、加速度計測値11を逐次的に送信する。または、加速度センサ300は、図示しない記憶装置に一定期間分の加速度計測値11を蓄積しておき、蓄積したデータセットを、疲労診断装置400に送信してもよい。
【0017】
疲労診断装置400は、加速度取得部410、応力推定部420、疲労判定部430、発報部440、及び解析プログラム作成部450を備えている。
【0018】
加速度取得部410は、加速度センサ300によって計測された加速度計測値11を取得する。
【0019】
応力推定部420は、診断対象部材200の一部である少なくとも1つの評価対象点における応力推定値を算出する。応力推定部420は、加速度取得部410から加速度計測値11を取得する。応力推定部420は、事前に作成されている解析プログラム13を取得する。そして応力推定部420は、加速度計測値11を解析プログラム13に組み入れて、解析プログラム13を実行する。この解析プログラム13の実行により、評価対象点における応力推定値12が算出される。
【0020】
実施の形態1において、図1に示す評価対象点P1、P2及びP3が応力推定値を求める位置となる。ここで、評価対象点P1及びP2は、車両本体100と診断対象部材200との結合部分に位置している。評価対象点P3は、診断対象部材200の上面中央に位置している。
【0021】
疲労判定部430は、応力推定部420によって算出された応力推定値12に基づいて、診断対象部材200の疲労の度合いを判定する。診断対象部材200は、疲労の度合いが閾値以上である場合、発報部440に発報指示を行う。
【0022】
発報部440は、発報指示を受け付けると、スピーカを介した音声通知、モニターを介した警告表示などの発報を行う。発報部440は、疲労診断装置400の外部に設けられていてもよい。
【0023】
解析プログラム作成部450は、解析プログラム13を作成する。解析プログラム作成部450は、作業者によって設定されたセンサ位置情報、評価対象点位置情報、及び必要なその他のパラメータを取得する。解析プログラム作成部450は、設定された各種データに基づいて、解析プログラム13を作成する。ここで、センサ位置情報は、診断対象部材200における加速度センサ300の位置情報である。評価対象点位置情報は、診断対象部材200における評価対象点P1~P3の位置情報である。
【0024】
図2は、図1の疲労診断装置400による解析プログラム13の作成処理を示すフローチャートである。
【0025】
疲労診断装置400の解析プログラム作成部450は、ステップS101において、診断対象部材200を再現する有限要素モデルを構築する。作業者は、ソリッド要素、シェル要素、ビーム要素などの要素の種別を指定し、解析プログラム作成部450は、指定された要素の種別を取得する。また、作業者は、2次元モデル、3次元モデルなどの次元数を指定し、解析プログラム作成部450は、指定された次元数を取得する。
【0026】
解析プログラム作成部450は、上記の要素の種別及び次元数に加え、作業者により指定された診断対象部材200の材料特性も取得する。材料特性としては、縦弾性係数、ポアソン、密度などがある。使用する材料特性は、等方性及び異方性のいずれであってもよい。
【0027】
解析プログラム作成部450は、ステップS102において、構築した有限要素モデルに対して固有値解析を実施する。このとき、解析プログラム作成部450は、作業者によって指定される境界条件を取得する。境界条件は、診断対象部材200の固定位置における変位をゼロとした条件である。
【0028】
解析プログラム作成部450は、固有値解析を実施することにより、固有振動数、モードベクトル及びモード応力を抽出する。
【0029】
固有振動数は、共振周波数をあらわす数値データである。物体に対してある周期、例えば0.1秒ごとにくり返し力が加わると、物体は、共振を起こして大きく振動する。そのときの周期の逆数が、固有振動数である。
【0030】
モードベクトルは、固有振動数で共振するときの物体の動きの分布である。共振により大きく振動する部分のモードベクトルは、高い数値となる。
【0031】
モード応力は、固有振動数で共振するときに物体に生じる応力の分布である。部材の振動を支えている部分のモード応力は、高い数値となる。
【0032】
解析プログラム作成部450は、ステップS103において、抽出された固有振動数、モードベクトル及びモード応力に基づいて、連続系の縮退化モデルを作成する。解析プログラム作成部450は、上記のとおりに準備した有限要素モデルを対象として、固有振動数、モードベクトル及びモード応力を用いて、シミュレーションを実施する。
【0033】
解析プログラム作成部450は、シミュレーションの実施により、1次、2次、・・・、n次の各固有振動モードにおけるデータを取得する。この固有振動モードのデータには、ステップS102において抽出された固有振動数、モードベクトル、及びモード応力の情報が含まれる。
【0034】
また、解析プログラム作成部450は、シミュレーションの実施の際、減衰比、荷重入力点、加速度センサ300の数、センサ位置情報、評価対象点の数、及び評価対象点位置情報を、固有振動モードごとに作業者から取得する。ここで、荷重入力点は、荷重のかかる点である。具体的には、荷重入力点は、車両本体100と診断対象部材200との結合部分であり、図1における評価対象点P1、P2である。
【0035】
解析プログラム作成部450は、これらのデータに基づいて、連続系の縮退化モデルを作成する。以下の数式1は、連続系の縮退化モデルを状態空間表現により表したものである。
【0036】
【数1】
【0037】
数式1の状態空間表現は、上段に示す状態方程式と、下段に示す観測方程式とによって構成されている。また、行列A~Dは、このステップS103の処理によって求められる、値の定まった行列である。
【0038】
行列Aの決定因子は、固有値及び減衰比である。行列Bの決定因子は、荷重入力点のモード変位である。行列Cの決定因子は、固有値、減衰比、応答点のモード変位、及び応答点のモード応力である。行列Dの決定因子は、荷重入力点のモード変位、及び応答点のモード変位である。
【0039】
数式1において、現実世界における変位の状態量及び応力の状態量は、{W,σ}によって示されている。すなわち、加速度センサ300によって取得される加速度は、変位Wを二階微分したものとして、観測方程式の左辺に示されている。また、求める応力の推定値は、σとして、観測方程式の左辺に示されている。
【0040】
数式1において、評価対象点の数が増えるごとに、行列C及び行列Dの行数が増加する。また、加速度センサ300が増えるごとに、行列C及び行列Dの行数が増加する。
【0041】
図2のフローチャートの説明に戻る。解析プログラム作成部450は、ステップS104において、作成した連続系縮退化モデルを離散化する。加速度計測値11は、加速度センサ300の検出サイクルごとに離散しているデータである。このため、解析プログラム作成部450は、連続系の縮退化モデルに対し、時間についての離散化を行う。
【0042】
連続系の縮退化モデルは、数式1に示すとおり、状態方程式と観測方程式との2つの式により構成されている。これら2つの式において、連続系の式となっているのは状態方程式のみである。このため、解析プログラム作成部450は、状態方程式を対象に離散化を行う。
【0043】
以下の数式2は、離散化系の縮退化モデルを状態空間表現により表したものである。
【0044】
【数2】
【0045】
図3は、連続系の縮退化モデルを離散化する方法を説明する図である。離散化するには、上記の数式2の行列A及び行列Bを求める必要がある。ここでは、4次のルンゲクッタ法を用いて、行列A及び行列Bを求める。
【0046】
図3における数式F1は、4次のルンゲクッタ法の離散化式である。この数式F1において、荷重uは不変であると仮定すると、図3の数式F2に示す離散系マトリクスが算出される。
【0047】
数式F2において、AdTをk1a、BdTをk1b、・・・などの置き換えを行うことにより、行列A及び行列Bは、数式F3のとおりとなる。ここで、数式F3内のIは、単位行列を示している。
【0048】
図2のフローチャートの説明に戻る。解析プログラム作成部450は、ステップS105において、解析プログラム13を作成する。解析プログラム13は、離散化後の縮退化モデル、すなわち離散化後の状態空間表現と、カルマンフィルタとを組み合わせたプログラムである。
【0049】
このようにして作成された解析プログラム13は、後述する応力推定値算出処理の際、応力推定部420により呼び出される。
【0050】
図4は、図1の加速度センサ300による加速度計測処理を示すフローチャートである。
【0051】
加速度センサ300は、ステップS201において、加速度の計測を開始する。加速度センサ300は、例えば、作業者の開始操作を受け付けた場合、規定の時刻になった場合、加速度の計測を開始する。
【0052】
加速度センサ300のセンサ本体310は、ステップS202において、取り付けられている位置に生じる振動を、電荷信号に変換する。
【0053】
増幅アンプ320は、ステップS203において、センサ本体310からの信号を増幅して電圧信号に変換する。増幅アンプ320は、係数演算により、増幅後の電圧信号を加速度に変換する。
【0054】
加速度センサ300は、ステップS204において、計測された加速度を、加速度計測値11として疲労診断装置400に送信する。この加速度計測値11は、疲労診断装置400の加速度取得部410によって取得される。
【0055】
加速度センサ300は、ステップS205において、加速度の計測を終了するかどうかを判定する。加速度センサ300は、例えば、作業者の終了操作を受け付ける場合、規定の時刻になる場合、加速度の計測を終了する。加速度センサ300は、加速度の計測を終了しない場合、処理をステップS202に戻す。
【0056】
図5は、図1の疲労診断装置400による応力推定値算出処理を示すフローチャートである。ここでは、診断対象部材200への荷重制御は考慮しないものとする。すなわち、図5のフローチャートにおいては、数式2に示されている行列Dについては使用しない。なお、診断対象部材200にかかる荷重が既知である場合、行列Dも使用される。
【0057】
疲労診断装置400の応力推定部420は、加速度計測値11及び解析プログラム13を呼び出して、応力推定値算出処理を行う。
【0058】
応力推定部420は、ステップS301において、状態推定値X及び誤差共分散行列Pに対して初期値を設定する。状態推定値Xは、ここでは上記の状態変数zを意味する。
【0059】
初期状態においては振動していないため、状態推定値Xは0となる。また、誤差共分散行列Pには、ここでは初期値Iとして、単位行列が設定される。
【0060】
また、上記の初期値に加え、システム雑音Q及び観測雑音Rの定数パラメータも設定される。システム雑音Q及び観測雑音Rは、作業者がノイズレベルに応じて適切に決定した値である。
【0061】
応力推定部420は、ステップS302において、状態推定値X及び行列Aを用いて、事前状態推定値Xを算出する。ここで、事前状態推定値Xは、時刻t-1までに利用可能なデータに基づいた、時刻tにおける状態変数zの推定値である。
【0062】
応力推定部420は、ステップS303において、誤差共分散行列P、行列A、行列B、システム雑音Q、行列A’及び行列B’を用いて、事前誤差共分散行列Pを算出する。ここで、行列A’は行列Aを転置させた行列であり、行列B’は行列Bを転置させた行列である。
【0063】
応力推定部420は、ステップS304において、事前誤差共分散行列P、行列C、行列C’及び観測雑音Rを用いて、カルマンゲイン行列Gを算出する。ここで、行列C’は、行列Cを転置させた行列である。
【0064】
応力推定部420は、ステップS305において、カルマンゲイン行列G、事前状態推定値X、行列C’及び加速度計測値11を用いて状態推定値Xを算出する。応力推定部420は、これまで使用してきた状態推定値Xを、算出したものに更新する。
【0065】
応力推定部420は、ステップS306において、更新後の状態推定値Xに基づいて、評価対象点における応力の推定値σを算出する。応力推定部420は、状態推定値Xを状態変数z(t+Δt)として、数式2に示す状態方程式の左辺に代入する。荷重u(t)を考慮しないか、もしくは一定とすると、応力推定部420は、数式2の状態方程式から、1サイクル前の状態変数z(t)を求めることができる。
【0066】
そして、応力推定部420は、数式2の観測方程式に、状態変数z(t)を代入する。荷重u(t)を考慮しないか、もしくは一定とすると、応力推定部420は、評価対象点における応力の推定値σを求めることができる。ここでは、評価対象点P1~P3における応力の推定値σが同時に求められる。
【0067】
また、応力推定部420は、求められた応力の推定値σを、これまでに保存していたデータに対して、追加書き込みを行う。このようにして応力推定値12が生成される。
【0068】
応力推定部420は、ステップS307において、誤差共分散行列の初期値I、カルマンゲイン行列G、行列C’、及び事前誤差共分散行列Pを用いて、誤差共分散行列Pを算出する。応力推定部420は、これまで使用してきた誤差共分散行列Pを、算出したものに更新する。
【0069】
応力推定部420は、ステップS308において、規定の時間内に新たに加速度計測値11を取得するかどうかを判定する。応力推定部420は、規定の時間内に加速度計測値11を取得した場合、処理をステップS302まで戻す。そして、応力推定部420は、新たに取得した加速度計測値11に対して、ステップS302以降の処理を行う。応力推定部420は、規定の時間内に加速度計測値11を取得しない場合、処理を終了する。
【0070】
図6は、図1の疲労診断装置による疲労判定処理を示すフローチャートである。図6のフローチャートは、評価対象点P1~P3ごとに実施されるが、ここでは一例として、評価対象点P1を対象にした処理を説明する。
【0071】
疲労判定部430は、ステップS401において、評価対象点P1に生じる応力の発生回数を、応力推定値ごとに集計する。
【0072】
図7は、図6の応力発生回数を集計する処理を説明する図である。図6に示すグラフは、横軸を時間とし、縦軸を応力推定値とした、評価対象点P1における応力推定値12の波形である。疲労判定部430は、この応力推定値の波形に、レインフロー法を適用する。これにより、疲労判定部430は、評価対象点P1に生じる応力の発生回数を、応力推定値ごとに集計する。ここでは、応力の推定値σ、σ、σ、・・・、σの各値に対し、発生回数M、M、M、・・・、Mが求められる。
【0073】
疲労判定部430は、ステップS402において、評価対象点P1の累積損傷度dを算出する。
【0074】
図8は、図6の評価対象点の累積損傷度dを算出する処理を説明する図である。疲労判定部430は、累積損傷度dの算出に際し、診断対象部材200のS-N曲線を用いる。これにより、応力の推定値σ、σ、σ、・・・、σの各値に対応する、部材破断までの繰り返し数N、N、N、・・・、Nが求められる。
疲労判定部430は、以下の数式3を用いて、評価対象点P1における累積損傷度dを算出する。
【0075】
【数3】
【0076】
疲労判定部430は、ステップS403において、累積損傷度dが閾値以上であるかどうかを判定する。閾値としては、例えば0.3が用いられる。
【0077】
疲労判定部430は、累積損傷度dが閾値以上である場合、ステップS404において、発報部440に発報指示を行う。発報部440は、発報指示を受け付けると、スピーカを介した音声発報、モニターを介した警告表示などを行う。
【0078】
疲労判定部430は、累積損傷度dが閾値以上でない場合、処理を終了させる。
【0079】
このような実施の形態1の応力推定部420は、診断対象部材200の一部である評価対象点P1~P3における応力推定値を算出する。また、応力推定値の算出は、加速度計測値と、有限要素法によって診断対象部材を再現した有限要素モデルとに基づいて行われる。
【0080】
疲労診断装置400は、有限要素モデルを用いて疲労診断を行うことにより、加速度センサ300が取り付けられていない位置を対象とした疲労診断を行うことができる。このため、疲労診断装置400は、加速度センサ300が適正な位置に取り付けられていない場合においても、診断対象部材200の疲労診断を安定した精度で行うことができる。
【0081】
また、応力推定部420は、2つ以上の評価対象点における応力推定値を算出する。疲労判定部430は、各評価対象点における応力推定値に基づいて、診断対象部材200の疲労の度合いを判定する。このため、複数位置における計測値が必要になっても、複数のセンサを用意する必要がなくなる。
【0082】
また、応力推定部420は、状態方程式と観測方程式とに基づいて、応力推定値を算出する。この観測方程式には、少なくとも加速度の要素と、評価対象点における応力の要素とが含まれている。このため、応力推定部420は、現実世界における加速度と、現実世界における評価対象点の応力とを考慮した算出処理を行うことができる。
【0083】
また、応力推定部420は、事前に作成されている解析プログラムを実行することにより、応力推定値を算出する。このため、解析プログラムを劣化診断の都度作成することがなくなるため、スムーズに診断作業を行うことができる。
【0084】
また、解析プログラム作成部450は、センサ位置情報と評価対象点位置情報とに基づいて、解析プログラムを作成する。このため、加速度センサ300の位置及び評価対象点P1~P3の位置を考慮した解析プログラムを作成することができる。
【0085】
疲労判定部430は、応力推定値に基づいて、疲労の度合いを示す指標値である累積損傷度dを算出する。疲労判定部430は、累積損傷度dが閾値以上である場合、発報部に発報指示を行う。このため、作業者は、発報の有無を確認することにより、診断対象部材200の交換が必要であるか否かを判断することができる。
【0086】
また、疲労診断のデータ検出手段として、一般的には歪みゲージが用いられる。これに対し、実施の形態1においては、加速度センサ300が用いられている。よって、加速度センサ300の取り付けの際、歪みゲージほどの厳密性は要求されないため、取付けが容易となる。また、加速度センサは、出力される電圧信号が比較的大きい。このため、歪みゲージよりも、外部ノイズへの耐性が高くなる。
【0087】
なお、実施の形態1においては、鉄道車両の車両本体100に設けられている診断対象部材200を対象に、疲労診断が行われている。これに限らず、鉄道車両以外の移動体に設けられている部材を、診断対象部材としてもよい。また、移動体に設けられている部材に限らず、装置、設備及び構造物に設けられている部材を、診断対象部材としてもよい。例えば、通信アンテナを診断対象部材としてもよい。
【0088】
また、実施の形態1においては、モード縮退法により縮退化モデルが構築されている。これに対し、劣化判定が可能であれば、別の手法によって縮退化モデルが構築されていてもよい。
【0089】
また、実施の形態1においては、ルンゲクッタ法による離散化式が用いられているが、オイラー法、ホイン法など他の離散化式が用いられてもよい。
【0090】
また、実施の形態1の解析プログラム13においては、線形カルマンフィルタが組み込まれている。これに対し、汎用性または精度向上といった視点から、非線形カルマンフィルタが組み込まれてもよい。
【0091】
また、有限要素モデルの構築について,対象の振動状態を再現できるものであれば,ソリッド要素、シェル要素、ビーム要素などの要素に制限はない。また、3次元モデル、2次元モデルなどの次元について、制限はない。
【0092】
また、縮退化モデルを構築するための固有値解析の数に制限はない。また、荷重入力点と、加速度センサ300と、評価対象点との各点の位置及び数に制約はない。
【0093】
また、加速度センサ300は,単軸センサ、多軸センサなどの制約はない。必要な方向の加速度が計測できれば、種別に制約はない。
【0094】
診断対象部材200に対する加速度センサ300の取り付け位置は、診断対象部材200の大きく振動する位置であればよい。
【0095】
また、実施の形態1においては、劣化判定を行う際、レインフロー法が用いられているが、これに制約されない。例えば、ピークカウント法、レンジカウント法などのサイクルカウント法が用いられてもよい。または、修正グッドマン則、ゲルバー則、ゾーダーベルグ線図などの疲労限度線図が用いてもよい。または、修正マイナー則、マイナー則、ハイバッハ則などの損傷評価式が用いられてもよい。または、これらの理論的なアプローチではなく、AIによる評価が行われてもよい。
【0096】
また、疲労診断装置400は、加速度計測値11を逐次的に取得している。これに対し、例えば運用方法として、一定期間の加速度計測値11を蓄積しておき、まとめて処理してもよい。例えば、IoT技術により加速度を外部に送り、外部によって疲労診断処理を行ってもよい。
【0097】
また、実施の形態1の疲労診断装置400の各機能は、処理回路によって実現される。図9は、実施の形態1の疲労診断装置400の各機能を実現する処理回路の第1例を示す構成図である。第1例の処理回路50は、専用のハードウェアである。
【0098】
処理回路50は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものに該当する。また、疲労診断装置400の各機能それぞれを個別の処理回路50により実現してもよい。もしくは、疲労診断装置400の各機能をまとめて処理回路50により実現してもよい。
【0099】
また、図10は、実施の形態1の疲労診断装置400の各機能を実現する処理回路の第2例を示す図である。第2例の処理回路60は、プロセッサ61及びメモリ62を備えている。
【0100】
処理回路60において、疲労診断装置400の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアは、プログラムとして記述される。そして、ソフトウェア及びファームウェアは、メモリ62に格納される。プロセッサ61は、メモリ62に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。
【0101】
メモリ62に格納されるプログラムは、上述した各部の手順あるいは方法を、コンピュータに実行させるものであるともいえる。ここで、メモリ62とは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリが該当する。また、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等も、メモリ62に該当する。
【0102】
上述した各部の機能について、一部が専用のハードウェアにより実現され、一部がソフトウェアまたはファームウェアにより実現されてもよい。
【0103】
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述した各部の機能を実現することができる。
【符号の説明】
【0104】
11 加速度計測値、12 応力推定値、13 解析プログラム、200 診断対象部材、300 加速度センサ、400 疲労診断装置、410 加速度取得部、420 応力推定部、430 疲労判定部、440 発報部、450 解析プログラム作成部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10