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特開2023-142883火災現場における危険を人工知能により推定する危険情報推定方法、装置、プログラムおよび消防指令システム
<図1>
  • 特開-火災現場における危険を人工知能により推定する危険情報推定方法、装置、プログラムおよび消防指令システム 図1
  • 特開-火災現場における危険を人工知能により推定する危険情報推定方法、装置、プログラムおよび消防指令システム 図2
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  • 特開-火災現場における危険を人工知能により推定する危険情報推定方法、装置、プログラムおよび消防指令システム 図4
  • 特開-火災現場における危険を人工知能により推定する危険情報推定方法、装置、プログラムおよび消防指令システム 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023142883
(43)【公開日】2023-10-06
(54)【発明の名称】火災現場における危険を人工知能により推定する危険情報推定方法、装置、プログラムおよび消防指令システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/10 20120101AFI20230928BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20230928BHJP
【FI】
G06Q50/10
G06Q10/04
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022050006
(22)【出願日】2022-03-25
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) ▲1▼ウェブサイトの掲載日 令和3年5月25日 ▲2▼ウェブサイトのアドレス https://www.kasaikenkyu.org/login/ (その2) ▲1▼開催日 令和3年5月29日 ▲2▼集会名、開催場所 2021年度日本火災学会研究発表会(オンライン開催、講演番号A-15) (その3) ▲1▼ウェブサイトの掲載日 令和3年11月25日 ▲2▼ウェブサイトのアドレス https://www.fesc119.net/lounge/denied?url=/magazine/&%2Flounge%2Flogin%3F%2Flounge%2Fdenied%3Furl=%2Fmagazine%2F&%2Flounge%2Fdenied%3Furl=%2Fmagazine%2F (その4) ▲1▼開催日 令和3年12月8日 ▲2▼集会名、開催場所 AOSFST 2021 - 12th Asia-Oceania Symposium on Fire Science and Technology(オンライン開催、講演番号 Track B,Evacuation and human behaviour(II))
(71)【出願人】
【識別番号】314017174
【氏名又は名称】大津 暢人
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大津 暢人
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
5L049CC12
5L049CC20
(57)【要約】
【課題】火災現場において想定される危険を推定する方法、装置、プログラムおよび消防指令システムを提供する。
【解決手段】機械学習方法は、火災現場99における過去の受傷事案に関する学習データであり、傷病原因に関するデータと、傷病名に関するデータと、時間的要素に関するデータと、消防隊員108の人的要素に関するデータとを含む学習データに基づいて、火災現場99における危険情報を推定する機械学習モデルを学習する学習ステップを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災現場における過去の受傷事案に関する学習データであり、傷病原因に関するデータと、傷病名に関するデータと、時間的要素に関するデータと、消防隊員の人的要素に関するデータとを含む学習データに基づいて、火災現場における危険情報を推定する機械学習モデルを学習する学習ステップを含む、機械学習方法。
【請求項2】
前記時間的要素に関するデータは、火災の覚知時刻と、活動段階との少なくとも一つを含み、
前記人的要素に関するデータは、前記消防隊員の年齢層と、階級と、勤続年数と、小隊内での役割と、小隊の任務との少なくとも一つを含む、請求項1に記載の機械学習方法。
【請求項3】
前記受傷事案に関する学習データは、火災現場の空間的要素に関するデータをさらに含む、請求項1に記載の機械学習方法。
【請求項4】
出動指令を受けた火災現場に関する消防出動データを取得する消防出動データ取得ステップと、
請求項1から3のいずれか一項に記載の機械学習方法によって学習された学習済の機械学習モデルに従って、前記消防出動データに基づいて、前記出動指令を受けた前記火災現場における危険情報を推定する危険情報推定ステップと、
を含む、危険情報推定方法。
【請求項5】
前記消防出動データは、火災の覚知時刻と、前記火災現場へ出動する消防隊員の人的要素に関するデータとを含む、請求項4に記載の危険情報推定方法。
【請求項6】
前記消防出動データは、前記火災現場の空間的要素に関するデータをさらに含む、請求項5に記載の危険情報推定方法。
【請求項7】
火災現場における過去の受傷事案に関する学習データであり、傷病原因に関するデータと、傷病名に関するデータと、時間的要素に関するデータと、消防隊員の人的要素に関するデータとを含む学習データに基づいて、火災現場における危険情報を推定する機械学習モデルを学習する学習部を備える、機械学習装置。
【請求項8】
出動指令を受けた火災現場に関する消防出動データを取得する消防出動データ取得部と、
請求項7に記載の機械学習装置によって学習された学習済の機械学習モデルに従って、前記消防出動データに基づいて、前記出動指令を受けた前記火災現場における危険情報を推定する危険情報推定部と、
を備える、危険情報推定装置。
【請求項9】
請求項8に記載の危険情報推定装置と、
前記危険情報推定装置によって推定された前記危険情報を報知する報知部と、
を備える、消防指令システム。
【請求項10】
請求項8に記載の危険情報推定装置の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災現場における危険を推定する方法、装置、システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
火災現場における消防活動には危険を伴うため、消火活動または要救助者の救助活動を行う消防隊員には受傷事故や殉職事故が発生することがある。消防隊員の安全衛生上の観点のみならず、消防法に定められた任務を遂行するためにも、消防隊員の安全を確保することが求められている。仮に消防隊員が活動中に受傷または殉職すると、消火活動や救助活動にさらに多くの時間を要することにもなる。消防隊員が活動中に発生する受傷事故や殉職事故を低減することは、消防の目的を達成するためにも重要である。
【0003】
労働災害や作業者によるミスの発生を未然に防止または低減するための従来の技術として、例えば特許文献1には、作業者の体調管理システムが開示されている。体調管理システムは、作業者によって入力された体調に関する情報を、体調管理データベースに予め蓄積したデータを用いて分析し、ミスの発生や労働災害につながる作業者の不安全行動を予測する。体調管理データベースには、作業者の性格や適性に関する基本的な情報、過去の労働災害情報、および環境情報等が蓄積されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-198070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の体調管理システムは、主に工場などにおける作業者を対象としている。火災現場の状況は刻々と変化することから、消防隊員が消防活動を行う火災現場は、工場の作業現場と比較しても受傷事故や殉職事故が発生する可能性が高い。消防隊員の受傷事故や殉職事故の発生を未然に防止または低減するために、火災現場において想定される危険を事前に推定することが求められている。
【0006】
本発明は、火災現場において想定される危険を推定する方法、装置、プログラムおよび消防指令システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、例えば以下に示す態様を含む。
(項1)
火災現場における過去の受傷事案に関する学習データであり、傷病原因に関するデータと、傷病名に関するデータと、時間的要素に関するデータと、消防隊員の人的要素に関するデータとを含む学習データに基づいて、火災現場における危険情報を推定する機械学習モデルを学習する学習ステップを含む、機械学習方法。
(項2)
前記時間的要素に関するデータは、火災の覚知時刻と、活動段階との少なくとも一つを含み、
前記人的要素に関するデータは、前記消防隊員の年齢層と、階級と、勤続年数と、小隊内での役割と、小隊の任務との少なくとも一つを含む、項1に記載の機械学習方法。
(項3)
前記受傷事案に関する学習データは、火災現場の空間的要素に関するデータをさらに含む、項1に記載の機械学習方法。
(項4)
出動指令を受けた火災現場に関する消防出動データを取得する消防出動データ取得ステップと、
項1から3のいずれか一項に記載の機械学習方法によって学習された学習済の機械学習モデルに従って、前記消防出動データに基づいて、前記出動指令を受けた前記火災現場における危険情報を推定する危険情報推定ステップと、
を含む、危険情報推定方法。
(項5)
前記消防出動データは、火災の覚知時刻と、前記火災現場へ出動する消防隊員の人的要素に関するデータとを含む、項4に記載の危険情報推定方法。
(項6)
前記消防出動データは、前記火災現場の空間的要素に関するデータをさらに含む、項5に記載の危険情報推定方法。
(項7)
火災現場における過去の受傷事案に関する学習データであり、傷病原因に関するデータと、傷病名に関するデータと、時間的要素に関するデータと、消防隊員の人的要素に関するデータとを含む学習データに基づいて、火災現場における危険情報を推定する機械学習モデルを学習する学習部を備える、機械学習装置。
(項8)
出動指令を受けた火災現場に関する消防出動データを取得する消防出動データ取得部と、
項7に記載の機械学習装置によって学習された学習済の機械学習モデルに従って、前記消防出動データに基づいて、前記出動指令を受けた前記火災現場における危険情報を推定する危険情報推定部と、
を備える、危険情報推定装置。
(項9)
項8に記載の危険情報推定装置と、
前記危険情報推定装置によって推定された前記危険情報を報知する報知部と、
を備える、消防指令システム。
(項10)
項8に記載の危険情報推定装置の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、火災現場において想定される危険を推定する方法、装置、プログラムおよび消防指令システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る消防指令システムの概略的な構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る機械学習装置の機能を説明するためのブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る推定装置および消防指令装置の機能を説明するためのブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に係る機械学習装置を用いて機械学習モデルの学習を行う手順を説明するためのフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係る推定装置と学習済の機械学習モデルとを用いて危険情報を推定し報知する手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
【0011】
[消防指令システム]
<システムの概要>
図1は、本発明の一実施形態に係る消防指令システムの概略的な構成を模式的に示す図である。
【0012】
本発明の一実施形態に係る消防指令システム100(以下、単にシステム100とも記載する)は、危険情報推定装置2(以下、単に推定装置2とも記載する)と、消防指令装置3とを備える。システム100は、火災現場99からの火災通報を、公衆電話網90を通じて通報者98の電話機97等から受信し、火災現場99へ出動しようとする消防隊員108へ出動指令を発する。これと並行して、火災通報を受信したシステム100は、出動指令を発した火災現場99に関する消防出動データを生成し、生成した消防出動データに基づいて、出動指令を発した火災現場99における危険情報を推定する。システム100は、出動指令を受けた消防隊員108へ推定した危険情報を報知する。報知する手段としては、例えばモニター36への文字表示やスピーカ37による音声案内により行う。報知する危険情報としては、例えば「50歳以上の隊員は持病の悪化に注意」、「50歳以上の者がいる隊の隊員は健康観察に留意」、「20歳代は熱中症に注意」、「建物の崩落に注意」等である。
【0013】
一実施形態に係る消防指令システム100によると、火災通報を受けた火災現場99において想定される危険情報を事前に推定する。推定した危険情報は火災現場99へ出動しようとする消防隊員108へ報知され、受傷事故や殉職事故に関する注意喚起が消防隊員108へなされる。これにより、消防隊員の受傷事故や殉職事故の発生が未然に防止または低減される。
【0014】
危険情報の推定は、消防出動データを入力データとする学習済の機械学習モデル5に従って推定装置2が行う。機械学習モデル5は機械学習装置1により予め学習されている。機械学習装置1は、火災現場における過去の受傷事案に関する学習データ4に基づいて、火災現場における危険情報を推定する機械学習モデル5を学習する。学習された機械学習モデル5は、推定装置2に提供される。推定装置2は、機械学習装置1によって学習された学習済の機械学習モデル5に従って、消防指令装置3によって生成された消防出動データに基づいて、出動指令を受けた火災現場99における危険情報を推定する。消防指令装置3は、隊員の勤務表データ61および隊員の人的要素データ62に基づいて、出動指令を発した火災現場99に関する消防出動データを生成する。
【0015】
機械学習装置1および推定装置2は、例えばネットワーク9を介してデータの送受信が可能な態様で、有線または無線により直接的または間接的に接続されている。推定装置2および消防指令装置3は、本実施形態では専用通信線109を介してデータの送受信が可能な態様で、有線または無線により直接的または間接的に接続されている。
【0016】
本実施形態では、消防指令システム100は、例えば単一の市町村単位にまたは複数の市町村に跨って広域的に設けられる消防指令センターに設置されている。推定装置2と消防指令装置3とは組み合わされてシステム100として一体化されている。機械学習装置1は、様々な火災現場における過去の受傷事案に関する種々のデータを集約し蓄積している例えば消防関連の研究機関に設置されている。
【0017】
<ハードウェア構成>
機械学習装置1、推定装置2、および消防指令装置3は、例えば汎用コンピュータやタブレットPC、スマートフォン等を用いて構成することができる。これら機械学習装置1、推定装置2、および消防指令装置3のすべてを汎用コンピュータで構成することができるし、一部をタブレットPCやスマートフォンで構成することもできる。
【0018】
機械学習装置1、推定装置2、および消防指令装置3のそれぞれは、ハードウェアの構成として、データ処理を行うCPU等のプロセッサ(図示せず)と、プロセッサがデータ処理の作業領域に使用する主記憶装置(図示せず)と、データの一時保存に使用する補助記憶装置19,29,39とを備えている。それぞれの補助記憶装置19,29,39には、学習データ4としてのデータ41,42,43,44,45、データ61,62、機械学習モデル5、機械学習プログラム、推定プログラム、消防指令プログラム等が適宜記憶されている。
【0019】
本実施形態では、消防指令装置3は、出動指令を受けた消防隊員108へ推定した危険情報を報知するためのハードウェアの構成として、モニター36とスピーカ37とを備えている。
【0020】
[機械学習装置]
図2は、本発明の一実施形態に係る機械学習装置の機能を説明するためのブロック図である。
【0021】
機械学習装置1は、機能ブロックとして学習部11を備えている。学習部11は、集積回路等を用いてハードウェアとして実装することができる。或いは、学習部11は、機械学習装置1のプロセッサが、機械学習プログラムを機械学習装置1の主記憶装置に読み出して実行することにより、ソフトウェアとして実装することもできる。
【0022】
学習部11は、火災現場における過去の受傷事案に関する学習データ4に基づいて、火災現場における危険情報を推定する機械学習モデル5を学習する。
【0023】
<学習データ>
学習データ4は、機械学習モデル5の学習に用いるデータセットであり、機械学習モデル5の入力層に設定されるデータと機械学習モデル5の出力層に設定されるデータとがセットにされたデータである。学習データ4は、機械学習装置1の補助記憶装置19に予め記憶されている。
【0024】
本実施形態では、学習データ4は、傷病原因に関するデータ41と、傷病名に関するデータ42と、時間的要素に関するデータ43と、消防隊員の人的要素に関するデータ44とを含む。表1に、傷病原因に関するデータ41および傷病名に関するデータ42の一例を示す。
【表1】
【0025】
表2に、時間的要素に関するデータ43の一例を示す。時間的要素に関するデータ43は、火災の覚知時刻と、火災現場における活動段階とを含む。
【表2】
【0026】
表3に、人的要素に関するデータ44の一例を示す。人的要素に関するデータ44は、消防隊員の年齢層と、階級と、勤続年数と、小隊内での役割と、小隊の任務とを含む。
【表3】
【0027】
<機械学習モデル>
本実施形態では、機械学習モデル5は、人工ニューラルネットワーク(Artificial Neural Network; ANN)を用いて構成されている。機械学習モデル5は、ニューラルネットワークを構成する層として、入力層と、中間層と、出力層とを含んでいる。本実施形態では、学習部11は、時間的要素に関するデータ43と消防隊員の人的要素に関するデータ44とを入力層に設定し、傷病原因に関するデータ41と傷病名に関するデータ42と消防隊員の人的要素に関するデータ44とを出力層に設定して、機械学習モデル5を学習する。入力層および出力層へのデータの設定は整数のラベル値を用いて行う。学習済の機械学習モデル5は、機械学習装置1の補助記憶装置19に記憶される。
【0028】
本実施形態では、機械学習モデル5に順伝播型ニューラルネットワーク(Feedforward Neural Network)を用いる。機械学習モデル5のニューラルネットワークは、中間層に複数の層を含んでいる。ニューラルネットワークの学習アルゴリズムとして、機械学習モデル5における重みパラメータ(シナプスウェイト)の調整には、誤差逆伝播法(back propagation)法を用いる。
【0029】
学習済の機械学習モデル5は、ネットワーク9を通じて機械学習装置1から推定装置2へ送信されて、推定装置2の補助記憶装置29に記憶される。推定装置2は、受信した学習済の機械学習モデル5を用いて、出動指令を受けた火災現場99における危険情報を推定する。
【0030】
[推定装置および消防指令装置]
図3は、本発明の一実施形態に係る推定装置および消防指令装置の機能を説明するためのブロック図である。
【0031】
推定装置2は、機能ブロックとして、消防出動データ取得部21と、危険情報推定部22とを備えている。これらの機能ブロックは、集積回路等を用いてハードウェアとして実装することができる。或いは、これらの機能ブロックは、推定装置2のプロセッサが、推定プログラムを推定装置2の主記憶装置に読み出して実行することにより、ソフトウェアとして実装することもできる。
【0032】
消防出動データ取得部21は、出動指令を受けた火災現場に関する消防出動データを取得する。消防出動データは後述する消防指令装置3において生成されて推定装置2へ送信される。本実施形態では、消防出動データは、火災通報を受信した火災の覚知時刻と、火災通報を受信して出動指令を発した火災現場99へ出動する消防隊員108の人的要素に関するデータ62とを含む。本実施形態では、一例として火災現場99からの通報時刻を火災の覚知時刻としている。またデータ項目について、本実施形態では、消防隊員108の人的要素に関するデータ62の項目は、表3に示す人的要素に関するデータ44の項目と同じである。
【0033】
危険情報推定部22は、機械学習装置1によって学習された学習済の機械学習モデル5に従って、消防出動データに基づいて、出動指令を受けた火災現場99における危険情報を推定する。補助記憶装置29には、学習済の機械学習モデル5が記憶されている。危険情報推定部22は、消防出動データを学習済の機械学習モデル5の入力層に入力することにより、学習済の機械学習モデル5により推定される傷病原因および傷病名と消防隊員の人的要素とが出力層から出力される。出力層から出力されるこのような傷病原因および傷病名と消防隊員の人的要素とは、火災通報を受信して出動指令を受けた火災現場99において想定される危険情報を表している。危険情報推定部22が出力する危険情報は、その後推定装置2から消防指令装置3へ送信される。
【0034】
消防指令装置3は、機能ブロックとして、消防出動データ生成部31を備えている。消防出動データ生成部31は、集積回路等を用いてハードウェアとして実装することができる。或いは、消防出動データ生成部31は、消防指令装置3のプロセッサが、消防指令プログラムを消防指令装置3の主記憶装置に読み出して実行することにより、ソフトウェアとして実装することもできる。
【0035】
消防出動データ生成部31は、消防隊員の勤務表データ61および消防隊員の人的要素に関するデータ62に基づいて、火災通報を受信して出動指令を発した火災現場99に関する消防出動データを生成する。消防出動データは、火災通報を受信した火災の覚知時刻と、火災通報を受信して出動指令を発した火災現場99へ出動する消防隊員108の人的要素に関するデータ62とを含む。
【0036】
補助記憶装置39には、消防隊員の勤務表データ61と消防隊員の人的要素に関するデータ62とが記憶されている。本実施形態では、消防隊員の勤務表データ61は、消防隊員の勤務スケジュールに関するデータであり、消防隊員の人的要素に関するデータ62の項目は、表3に示す人的要素に関するデータ44の項目と同じである。
【0037】
消防出動データ生成部31は、勤務表データ61を参照し、火災通報を受信した時刻に基づいて、火災現場99へ出動する消防隊員108を抽出する。消防出動データ生成部31は、抽出した消防隊員108の人的要素に関するデータ62と、火災の覚知時刻とを含むデータを、消防出動データとして推定装置2へ送信する。
【0038】
消防指令装置3は、推定装置2から危険情報を受信すると、出動指令を受けた消防隊員108へ、モニター36やスピーカ37を通じて危険情報を報知する。危険情報を報知する態様としては、例えばモニター36への文字表示やスピーカ37による音声案内により行う。報知する危険情報としては、例えば「50歳以上の隊員は持病の悪化に注意」、「50歳以上の者がいる隊の隊員は健康観察に留意」、「20歳代は熱中症に注意」等である。
【0039】
なお本実施形態では、モニター36およびスピーカ37は消防指令装置3に一体化して設けられているが、他の実施形態では、モニター36およびスピーカ37は、ネットワーク(図示せず)でデータ通信可能に接続されて、消防指令装置3とは別所に配置されてもよい。例えばインターネットを介して消防指令装置3に接続されたタブレット端末を、火災現場99へ出動する例えば消防車両のコックピットへ配置し、タブレット端末に設けられているモニター36およびスピーカ37を介して、消防車両に搭乗している消防隊員108へ危険情報を報知してもよい。
【0040】
[機械学習の手順]
図4は、本発明の一実施形態に係る機械学習装置を用いて機械学習モデルの学習を行う手順を説明するためのフローチャートである。
【0041】
機械学習の手順は、様々な火災現場における過去の受傷事案に関する種々のデータを集約し蓄積している例えば消防関連の研究機関の研究員により、機械学習装置1を用いて行われる。
【0042】
機械学習の手順は、機械学習モデル5の学習に用いる学習データ4を準備するステップS1と、学習データ4に基づいて機械学習モデル5を学習するステップS2とを含む。
【0043】
ステップS1(学習データ準備ステップ)において、様々な火災現場における過去の受傷事案に関するデータに基づいて、学習データ4を準備する。様々な火災現場における過去の受傷事案に関するデータを集約した一例を表4に示す。
【表4】
【0044】
例えば消防関連の研究機関には、表4に例示する過去の受傷事案に関する集約結果が電子データの形式で蓄積されている。表4中、「Injuries」の列に示す「Causes」の項目は傷病原因であり、傷病原因に関するデータ41に対応している。「Time zones of perception」の項目は、時間的要素の覚知時刻であり、「Activity stages of injuries」の項目は、時間的要素の活動段階であり、これらの項目は時間的要素に関するデータ43に対応している。「Age」は人的要素の年齢層であり、「Ranks」は人的要素の階級であり、これらの項目は消防隊員の人的要素に関するデータ44に対応している。「Injury names」の項目は傷病名であり、傷病名に関するデータ42に対応している。なお、「Fatalities」の列に示す「causes」の項目は殉職原因であり、傷病原因に関するデータ41に対応している。
【0045】
ステップS1では、表4に例示するこれら過去の受傷事案のデータに基づいて学習データ4を準備する。学習データ4におけるデータ41,42,43,44間の関連性は、すなわち学習データ4により正解として学習させようとするデータの割合は、表4に示す過去の受傷事案に関する実際の関連性(割合)を反映するように準備する。
【0046】
なおステップS1による処理は、表4に示す過去の受傷事案に関する電子データを参照して、例えば研究機関の研究員が表計算ソフトを用いて行ってもよいし、或いは、Perl、Ruby、Python等のテキスト処理言語を用いて記載されたスクリプトまたはプログラムを用いて、汎用コンピュータが、過去の受傷事案に関する電子データを参照して行ってもよい。ステップS1において準備した学習データ4は、図示しないネットワークや図示しないキーボードやマウス等の入力装置を通じて、機械学習装置1の補助記憶装置19に記憶される。
【0047】
ステップS2(学習ステップ)において、学習部11は、準備された学習データ4に基づいて、火災現場における危険情報を推定する機械学習モデル5を学習する。学習済の機械学習モデル5は補助記憶装置19に記憶される。
【0048】
学習済の機械学習モデル5は、ネットワーク9を通じて機械学習装置1から推定装置2へ送信されて、推定装置2の補助記憶装置29に記憶される。推定装置2は、受信した学習済の機械学習モデル5を用いて、出動指令を受けた火災現場99における危険情報を推定する。
【0049】
[推定および報知の手順]
図5は、本発明の一実施形態に係る推定装置と学習済の機械学習モデルとを用いて危険情報を推定し報知する手順を説明するためのフローチャートである。
【0050】
危険情報の推定は、学習済の機械学習モデル5に従って、消防出動データに基づいて行う。消防出動データの生成は消防指令装置3を用いて行われ、危険情報の推定は推定装置2を用いて行われる。消防出動データの生成手順は、ステップS3~ステップS4を含み、危険情報を推定し消防隊員へ報知する手順は、ステップS5~ステップS6を含む。
【0051】
ステップS3(通報取得ステップ)において、火災現場99からの通報を取得する。消防指令装置3は、火災現場99からの火災通報を、公衆電話網90を通じて通報者98の電話機97等から受信する。
【0052】
ステップS4(出動データ生成ステップ)において消防出動データを生成する。消防指令装置3の消防出動データ生成部31は、火災通報を受信して出動指令を発した火災現場99に関する消防出動データを生成する。消防出動データは、消防隊員の勤務表データ61および消防隊員の人的要素に関するデータ62に基づいて生成する。消防指令装置3において生成された消防出動データは、推定装置2へ送信される。
【0053】
ステップS5(危険情報推定ステップ)において、学習済みの機械学習モデル5に従って、消防出動データに基づいて危険情報を推定する。消防出動データ取得部21は、出動指令を受けた火災現場99に関する消防出動データを取得する。危険情報推定部22は、機械学習装置1によって学習された学習済の機械学習モデル5に従って、取得した消防出動データに基づいて、出動指令を受けた火災現場99における危険情報を推定する。危険情報推定部22が出力する危険情報は、その後推定装置2から消防指令装置3へ送信される。
【0054】
ステップS6(危険情報報知ステップ)において、出動指令を受けた消防隊員108へ危険情報を報知する。ステップS5において推定した危険情報は、消防指令装置3において例えばモニター36やスピーカ37を通じて、出動指令を受けた消防隊員108へ報知される。
【0055】
以上、本発明の一実施形態に係る機械学習装置および推定装置、機械学習方法および推定方法、並びに消防指令システムによると、火災現場において想定される危険を推定することができる。さらに、一実施形態に係る消防指令システムによると、推定した危険情報を、火災現場へ出動する消防隊員へ報知することができる。
【0056】
これにより、火災通報を受けた火災現場99において想定される危険情報が事前に推定される。さらに、推定された危険情報は、火災現場99へ出動しようとする消防隊員108へ報知される。これにより、火災現場99へ出動しようとする消防隊員108へ受傷事故や殉職事故に関する注意喚起がなされ、消防隊員108の受傷事故や殉職事故の発生が未然に防止または低減される。
【0057】
[その他の形態]
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0058】
他の実施形態では、学習データ4は空間的要素に関するデータ45をさらに含むことができる。表5に、空間的要素に関するデータ45の一例を示す。空間的要素に関するデータ45は、建物の用途区分と、傷病発生場所とを含む。
【表5】
【0059】
機械学習モデル5を学習する際、学習部11は、空間的要素に関するデータ45を入力層にさらに設定して、機械学習モデル5を学習することができる。危険情報を推定する際、危険情報推定部22は、空間的要素に関するデータを含む消防出動データを学習済の機械学習モデル5の入力層に入力することにより、学習済の機械学習モデル5により推定される傷病原因および傷病名が出力層から出力される。機械学習モデル5は空間的要素を考慮して学習されており、学習済の機械学習モデル5により推定される傷病原因および傷病名は、空間的要素が考慮された推定結果となる。
【0060】
他の実施形態において学習データ4の準備に用いる、空間的要素を考慮した様々な火災現場における過去の受傷事案に関するデータを集約した一例を表6に示す。
【表6】
【0061】
他の実施形態では、表6に例示する空間的要素を考慮したこれら過去の受傷事案のデータに基づいて学習データ4を準備する。学習データ4の準備は、表6に例示する空間的要素を考慮した過去の受傷事案のデータのみに基づいて行ってもよいし、表4に例示する過去の受傷事案のデータと表6に例示する空間的要素を考慮した過去の受傷事案のデータとの両方に基づいて行ってもよい。なお表5では用途区分は消防法施行令に沿って詳細に分類しているが、用途区分は詳細に分類する必要は無く、表6に示すようにまとめて防火対象物として分類してもよい。
【0062】
上記した実施形態では、時間的要素に関するデータ43は、火災の覚知時刻と、火災現場における活動段階とを含んでいるが、こられ両方を含んでいる必要はなく、少なくともどちらか一方を含んでいればよい。これと同様に、人的要素に関するデータ44は、消防隊員の年齢層と、階級と、勤続年数と、小隊内での役割と、小隊の任務とを含んでいるが、こられ両方を含んでいる必要はなく、少なくともどちらか一方を含んでいればよい。
【0063】
上記実施形態では、機械学習モデル5の構成に人工ニューラルネットワークを用いているが、機械学習モデル5は人工ニューラルネットワークに限定されない。学習データを用いて機械学習モデルを学習することができる限り、機械学習モデルには種々の機械学習アルゴリズムを用いることができ、種々の人工知能(AI)を用いることができる。
【0064】
上記実施形態では、機械学習装置1と推定装置2とはそれぞれ別の装置として構成されているが、これら機械学習装置1および推定装置2を一体化して一つの装置として構成することができる。
【0065】
上記実施形態では、機械学習装置1および推定装置2はネットワーク9を介して互いに通信可能に接続されているが、これら機械学習装置1および推定装置2は、例えばDVD-ROMやメモリカード等の記録媒体を介してデータ交換可能に接続することができる。
【0066】
上記実施形態では、機械学習装置1は一体の装置として実現されているが、機械学習装置1は一体の装置である必要はなく、プロセッサ、主記憶装置、補助記憶装置19等が別所に配置され、これらが互いにネットワークで通信可能に接続されていてもよい。推定装置2および消防指令装置3についても機械学習装置1と同様である。
【0067】
上記実施形態では、機械学習装置1の各機能ブロックは、単一のプロセッサで実行されているが、これら各機能ブロックは単一のプロセッサで実行される必要はなく、複数のプロセッサで分散して実行されてもよい。推定装置2および消防指令装置3についても機械学習装置1と同様である。
【0068】
機械学習装置1、推定装置2、および消防指令装置3の各機能ブロックは、一部または全部が、ネットワーク9を介して接続されるサーバ装置(図示せず)においてクラウド化されていてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 機械学習装置
2 危険情報推定装置
3 消防指令装置
4 学習データ
5 機械学習モデル
9 ネットワーク
11 学習部
19 補助記憶装置
21 消防出動データ取得部
22 危険情報推定部
29 補助記憶装置
31 消防出動データ生成部
36 モニター
37 スピーカ
39 補助記憶装置
61 勤務表データ
62 人的要素データ
90 公衆電話網
97 電話機
98 通報者
99 火災現場
100 消防指令システム
108 消防隊員
109 専用通信線
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-09-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサを備えるコンピュータが、
出動指令を受けた火災現場に関する消防出動データであり、火災の覚知時刻と前記火災現場へ出動する消防隊員の人的要素に関するデータとを含む消防出動データを取得する消防出動データ取得ステップと、
習済の機械学習モデルの入力層に前記消防出動データを入力して火災現場における過去の受傷事案から推定される危険情報であり、傷病原因と傷病名と消防隊員の人的要素とを含む情報を出力層から出力させることにより、前記出動指令を受けた前記火災現場における危険情報を推定する危険情報推定ステップと、
を含
前記機械学習モデルは、火災現場における過去の受傷事案に関するデータに基づいて、火災の覚知時刻と消防隊員の人的要素に関するデータとが前記入力層に設定され、傷病原因に関するデータと傷病名に関するデータと前記消防隊員の人的要素に関するデータとが前記出力層に設定されて、予め学習されている、危険情報推定方法。
【請求項2】
前記人的要素に関するデータは、前記消防隊員の年齢層と、階級と、勤続年数と、小隊内での役割と、小隊の任務との少なくとも一つを含む、請求項1に記載の危険情報推定方法。
【請求項3】
前記消防出動データは、前記火災現場の空間的要素に関するデータをさらに含
前記機械学習モデルは、火災現場の空間的要素に関するデータが、前記機械学習モデルの前記入力層にさらに設定されて、予め学習されている、請求項に記載の危険情報推定方法。
【請求項4】
出動指令を受けた火災現場に関する消防出動データであり、火災の覚知時刻と前記火災現場へ出動する消防隊員の人的要素に関するデータとを含む消防出動データを取得する消防出動データ取得部と、
習済の機械学習モデルの入力層に前記消防出動データを入力して火災現場における過去の受傷事案から推定される危険情報であり、傷病原因と傷病名と消防隊員の人的要素とを含む情報を出力層から出力させることにより、前記出動指令を受けた前記火災現場における危険情報を推定する危険情報推定部と、
を備え
前記機械学習モデルは、火災現場における過去の受傷事案に関するデータに基づいて、火災の覚知時刻と消防隊員の人的要素に関するデータとが前記入力層に設定され、傷病原因に関するデータと傷病名に関するデータと前記消防隊員の人的要素に関するデータとが前記出力層に設定されて、予め学習されている、危険情報推定装置。
【請求項5】
前記人的要素に関するデータは、前記消防隊員の年齢層と、階級と、勤続年数と、小隊内での役割と、小隊の任務との少なくとも一つを含む、請求項4に記載の危険情報推定装置。
【請求項6】
前記消防出動データは、前記火災現場の空間的要素に関するデータをさらに含み、
前記機械学習モデルは、火災現場の空間的要素に関するデータが、前記機械学習モデルの前記入力層にさらに設定されて、予め学習されている、請求項4に記載の危険情報推定装置。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか一項に記載の危険情報推定装置と、
前記危険情報推定装置によって推定された前記危険情報を報知する報知部と、
を備える、消防指令システム。
【請求項8】
請求項4から6のいずれか一項に記載の危険情報推定装置の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。