(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023014480
(43)【公開日】2023-01-31
(54)【発明の名称】計測方法、計測システム、及び非一時的なコンピューター可読媒体
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20230124BHJP
G01B 15/00 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
H01L21/66 J
G01B15/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021118433
(22)【出願日】2021-07-19
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100218534
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 雄
(72)【発明者】
【氏名】福田 宏
【テーマコード(参考)】
2F067
4M106
【Fターム(参考)】
2F067AA03
2F067AA21
2F067AA51
2F067BB04
2F067CC17
2F067EE05
2F067HH06
2F067JJ03
2F067JJ05
2F067KK04
2F067RR21
2F067RR35
4M106AA01
4M106BA02
4M106CA39
4M106DJ12
4M106DJ15
4M106DJ19
4M106DJ20
(57)【要約】
【課題】
限られた計測点数に対する計測を行うことによって、適切な新たな計測対象の選択を可能とする計測システム等の提供を目的とする。
【解決手段】
計測ツールと、当該計測ツールと通信するコンピューターシステムを備え、当該コンピューターシステムは、計測ツールから受け取ったウエハ上の複数個所の特徴量に基づいて、ウエハ上の特徴量の面内分布を算出(C)し、当該算出された面内分布に基づいて、前記特徴量を得るための新たな計測点を選択(D)し、当該選択された新たな計測点の計測(E)によって得られる特徴量に基づいて、ウエハ上の特徴量の新たな面内分布を算出(F)し、前記新たな計測点の選択と、前記新たな面内分布の算出を、少なくとも1回実行することによって得られる前記新たな計測点の特徴量及び前記面内分布の少なくとも1つを出力する(H)システムを提案する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハ上の対象物の特徴量を取得するように構成された計測ツールと、当該計測ツールと通信するコンピューターシステムを備え、
当該コンピューターシステムは、
ウエハ上の複数個所の特徴量を前記計測ツールから受け取る第1の処理と、
当該複数個所の特徴量に基づいて、前記ウエハ上の特徴量の面内分布を算出する第2の処理と、
当該算出された面内分布に基づいて、前記特徴量を得るための新たな計測点を選択する第3の処理と、
当該選択された新たな計測点の計測を前記計測ツールに実行させることによって得られる特徴量に基づいて、前記ウエハ上の特徴量の新たな面内分布を算出する第4の処理と、
前記第3の処理と第4の処理を少なくとも1回実行することによって得られる前記新たな計測点の特徴量及び前記面内分布の少なくとも1つを出力する第5の処理を実施するように構成されたシステム。
【請求項2】
請求項1において、
前記第3の処理による新たな計測点の選択は、前記第4の処理により得られる面内分布が、前記第4の処理により得られる面内分布より、前記複数個所及び新たな計測点の特徴量を小さい誤差で推定するように構成されたシステム。
【請求項3】
請求項1において、
前記コンピューターシステムは、前記第3の処理にて、前記面内分布から得られる特徴量の推定値が最大、推定値の上位n点(nは2以上の自然数)、或いは推定値が所定値以上となる未計測点、又は上記未計測点から所定距離離間した1以上の未計測点を選択するように構成されたシステム。
【請求項4】
請求項1において、
前記コンピューターシステムは、前記第3の処理にて、前記面内分布から得られる特徴量の推定値が最小、推定値の下位n点(nは2以上の自然数)、或いは推定値が所定値以下となる未計測点を選択するように構成されたシステム。
【請求項5】
請求項4において、
前記コンピューターシステムは、前記第3の処理にて選択された未計測点から所定距離離間した1以上の未計測点を選択するように構成されたシステム。
【請求項6】
請求項1において、
前記コンピューターシステムは、前記第3の処理にて、前記面内分布から得られる特徴量の空間変化値が最大となる未計測点を選択するように構成されたシステム。
【請求項7】
請求項6において、
前記コンピューターシステムは、前記第3の処理にて選択された未計測点から所定距離離間した1以上の未計測点を選択するように構成されたシステム。
【請求項8】
請求項1において、
前記コンピューターシステムは、前記第3の処理にて、前記面内分布から得られる特徴量の空間変化値が最小となる未計測点を選択するように構成されたシステム。
【請求項9】
請求項1において、
前記コンピューターシステムは、前記第3の処理にて、前記面内分布から得られる特徴量の推定値と、前記計測ツールによって得られた計測値の偏差が所定の条件を満たす計測点を選択するように構成されたシステム。
【請求項10】
請求項1において、
前記コンピューターシステムは、前記第3の処理にて、設定された前記面内分布から得られる特徴量、或いは前記面内分布から得られる特徴量の空間変化値の確率に応じて、前記未計測点を選択するように構成されているシステム。
【請求項11】
請求項1において、
前記コンピューターシステムは、前記第2の処理及び第4の処理の少なくとも一方で、前記ウエハの面内分布を算出するように構成されているシステム。
【請求項12】
請求項11において、
前記コンピューターシステムは、前記ウエハの面内分布を、ゼルニケ多項式を用いたフィッティングによって算出するように構成されているシステム。
【請求項13】
請求項1において、
前記コンピューターシステムは、前記第2の処理及び第4の処理の少なくとも一方で、前記ウエハ内に含まれる少なくとも1つの露光フィールドの面内分布を算出するように構成されているシステム。
【請求項14】
請求項13において、
前記コンピューターシステムは、前記露光フィールド内の面内分布を、ルジャンドル多項式を用いたフィッティングによって算出するように構成されているシステム。
【請求項15】
請求項1において、
前記コンピューターシステムは、前記新たな計測点の選択によって、強化学習による学習器の学習を繰り返すように構成されているシステム。
【請求項16】
請求項1において、
前記計測ツールは荷電粒子線装置であるシステム。
【請求項17】
請求項16において、
前記荷電粒子線装置は、前記ウエハに対する荷電粒子ビームの照射によって発生するX線を検出するX線検出器を備え、前記特徴量は当該X線検出器の出力に基づいて得られる分析結果であるシステム。
【請求項18】
請求項1において、
前記計測ツールは、走査プローブ顕微鏡であるシステム。
【請求項19】
ウエハ上の対象物の特徴量を取得するように構成された計測ツールから、ウエハ上の複数個所の特徴量を受け取るステップと、
当該複数個所の特徴量に基づいて、前記ウエハ上の特徴量の面内分布を算出するステップと、
当該算出された面内分布に基づいて、前記特徴量を得るための新たな計測点を選択するステップと、
当該選択された新たな計測点の計測を前記計測ツールに実行させることによって得られる特徴量に基づいて、前記ウエハ上の特徴量の新たな面内分布を算出するステップを備え、
前記新たな計測点を選択するステップと前記新たな面内分布を算出するステップを、少なくとも1回実行することによって得られる前記新たな計測点の特徴量及び前記面内分布の少なくとも1つを出力するステップを含む方法。
【請求項20】
非一時的コンピューター可読媒体上で具体化されるコンピュータープログラム製品であって、
ウエハ上の対象物の特徴量を取得するように構成された計測ツールから、ウエハ上の複数個所の特徴量をコンピューターシステムに受け取らせるステップと、
当該複数個所の特徴量に基づいて、前記ウエハ上の特徴量の面内分布をコンピューターシステムに算出させるステップと、
当該算出された面内分布に基づいて、前記特徴量を得るための新たな計測点をコンピューターシステムに選択させるステップと、
当該選択された新たな計測点の計測を前記計測ツールに実行させることによって得られる特徴量に基づいて前記ウエハ上の特徴量の新たな面内分布を、前記コンピューターシステムに算出させるステップを備え、
前記新たな計測点を選択させるステップと前記新たな面内分布を算出させるステップを、少なくとも1回実行させることによって得られる前記新たな計測点の特徴量及び前記面内分布の少なくとも1つを、前記コンピューターシステムに出力させるステップを含むコンピュータープログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料上に形成された構造物の計測方法、計測システム、及び非一時的なコンピューター可読媒体に係り、特に適切な計測点の計測を選択的に行い得る計測方法、システム、及び非一時的なコンピューター可読媒体に関する
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの計測や検査を行う計測、検査装置は微細なパターンや欠陥などの計測や検査のために用いられている。特許文献1には、パターンの計測点(サンプリング点)を選択するGUI画面から計測点を選択し、選択された計測点で得られた計測値に基づいて、計測を行う計測装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5809997号(対応米国特許USP10,643,326)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の計測法は、予めモニタリングの対象とすべきパターン等が決まっている場合は適切な計測ができるが、設計データからの寸法変動などが発生するパターンが変化するような場合は、適用が困難である。以下に、半導体デバイスの製造プロセスへの適切なフィードバックを実現すべく、適切な計測、検査対象の選択を可能とする試料上に形成された構造物の計測方法、計測システム、及び非一時的なコンピューター可読媒体を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための一態様として、ウエハ上の対象物の特徴量を取得するように構成された計測ツールと、当該計測ツールと通信するコンピューターシステムを備え、当該コンピューターシステムは、ウエハ上の複数個所の特徴量を前記計測ツールから受け取る第1の処理と、当該複数個所の特徴量に基づいて、前記ウエハ上の特徴量の面内分布を算出する第2の処理と、当該算出された面内分布に基づいて、前記特徴量を得るための新たな計測点を選択する第3の処理と、当該選択された新たな計測点の計測を前記計測ツールに実行させることによって得られる特徴量に基づいて、前記ウエハ上の特徴量の新たな面内分布を算出する第4の処理と、前記第3の処理と第4の処理を少なくとも1回実行することによって得られる前記新たな計測点の特徴量及び前記面内分布の少なくとも1つを出力する第5の処理を実施するように構成されたシステムを提案する。
【発明の効果】
【0006】
上記構成によれば、限られた計測点数に対する計測を行うことによって、適切な特徴量の面内分布の算出や、適切な新たな計測対象の選択を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】計測システムを利用した計測工程の一例を示すフローチャート。
【
図3】計測システムを利用した計測工程の一例を示すフローチャート。
【
図4】ウエハ上の計測候補点から選択された計測点の一例を示す図。
【
図5】計測点の計測結果に基づいて算出された面内分布の一例を示す図。
【
図6】算出された面内分布に基づいて、新たな計測点を選択した例を示す図。
【
図7】新たな計測点の計測結果に基づいて新たな面内分布を算出した例を示す図。
【
図8】計測ツールの一例である走査電子顕微鏡の概要を示す図。
【
図9】ウエハ上に複数形成されている計測対象の一例を示す図。
【
図10】新たな計測点の計測に基づいて、新たな面内分布を算出する工程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
例えば、特定品種の半導体集積回路の製造においては、複数のロット、複数の半導体ウエハに存在する複数のチップが、リソグラフィ、エッチング、薄膜堆積、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等の様々なプロセスステップ毎に、複数の同一仕様の製造装置を用いて形成される。このとき、個々のウエハの来歴、装置固有のばらつきや特性変動により、製造される半導体チップの特性に、ばらつきや欠陥が生じる。その直接的な原因として、回路を構成する個々のデバイスの寸法・形状、位置、材料物性等が、設計からずれる、変形する、もしくは消失すること等があげられる。歩留まりよく、均一な品質を持つ半導体集積回路を大量生産するには、寸法、形状、位置、材料物性等がウエハ面内、チップ面内で許容範囲を超えていないか、モニタリングする必要がある。
【0009】
これらの異常は、第1に、突発的な異物の発生や製造装置のノイズ等により発生するランダムな成分と、第2に、製造装置やウエハ・マスクパターンの特性により、ウエハ毎、マスク(露光フィールド)毎に面内である特定の分布傾向(signature)を持つシステマティックな成分に分類される。異常の影響を抑えるには、第1にランダムな異常を検知してその原因を対策するとともに、第2にシステマティックな異常の分布を把握して、その原因を特定して修正する、又は、後続のプロセスにおいて異常を相殺するような補正を行う必要がある。具体的には、例えば、リソグラフィにおける合わせずれの計測、補正の場合、合わせずれの面内での空間分布を知り、その原因が上記リソグラフィ、エッチング、薄膜堆積、CMP等のプロセスのどこにあるかを特定したり、プロセス装置の特性を制御することにより、上記分布を抑え込む。さらに、上記空間分布をモデル化し、露光装置を制御して、露光パターンの位置を修正することにより、合わせずれの影響を最小限に抑制する。この場合、モデル化可能な成分をシステマティックな成分、それ以外をランダムな成分と呼ぶ。
【0010】
上記のいずれの場合でも、上記分布を、個々のウエハ毎に、製造プロセス中にできるだけ早く知る必要がある。面内分布を最も正確に把握できるのは、全面検査計測である。しかしながら、一般に全面検査計測は膨大な時間を要し、これが許されるケースはまれである。そこで、あらかじめサンプリングした既定個所で検査することが多い。しかし、ウエハ面内、チップ面内の欠陥発生危険度分布は、プロセス来歴やランダム事象によりウエハ毎チップ毎に異なるので、上記サンプリング箇所では、最も危険度の高い領域を見落とす場合がある。又、上記各サンプリングの点毎に、ランダム成分とシステマティック成分が未知の割合で混在するので、両者を切り分けるのは必ずしも容易ではない。
【0011】
そこで本開示は、ウエハまたはフィールド面内の複数個所で所望の特性量(品質特性値)を計測して、ウエハまたはフィールド全面の上記特性量の空間分布を推定する際、計測中に、計測結果から面内の特性量の空間分布を推定し、上記推定結果に基づき、計測目的に合致した新たな計測点を算出し、新たな計測点で計測する工程、当該工程を実現するためのシステム、及び当該工程を1以上のコンピューターシステムに実行させる非一時的なコンピューター可読媒体を提案する。
【0012】
具体的には、一枚のウエハの検査に際し、ステップt(t=1、2、3...)において、ウエハ面内複数サンプリング点でウエハ特性を計測する。例えば、電子線検査装置、或いは電子線計測装置において、パターンのCD(Critical Dimension)値、合わせずれ、LER(Line Edge Roughness)、LCDU(Local Critical Dimension Uniformity)等の計測領域内の局所的な寸法ばらつき値、これらの組み合わせによるEPE(Edge Placement Error)値、CD値の分布から所定の方法で算出した確率的欠陥の発生確率、等を計測する。
【0013】
次に、上記計測結果に基づき、ウエハ面内特性分布、或いはチップ面内分布を推定する。面内分布の推定は、計測結果を所定の特性分布モデル、例えばウエハ面内分布であればゼルニケ多項式関数、チップ面内分布であれば、ルジャンドル加工式関数でフィッティングすることによって行われる。
【0014】
上記のようにして得られた推定特性分布に基づき、所望の計測目的に最適と予想される新たな計測点を算出し、上記新たな計測点でウエハ特性計測を行う。
【0015】
さらに、新たな計測点の各点での計測結果を加えることにより、フィッティング精度が向上するかを評価する。最も優れたフィッティング結果を与える計測点の組み合わせとその時のフィッティング分布をシステマティック成分の推定特性面内分布として採用する。
【0016】
所定の条件を満たすまで、上記ステップ(新たな計測点を加えた計測結果に基づきウエハ面内特性分布を推定、新たな計測点を選定、計測)を繰り返す。最終的に推定特性面内分布を出力する。また、全計測点における実計測値と、そこにおける推定特性分布の値の差を、ランダム成分として出力する。
【0017】
以上のような計測法によれば、計測目的に最適と予想される測定個所を選んで測定し、その結果をフィードバックして新たな測定個所を選んでいくため、計測目的に最も適したサンプリング方法をウエハ毎に学習しつつ計測することが可能で、これにより、ウエハ毎に最少の計測点数で、精度よく目的の計測を行うことができる。
【0018】
以下図面を用いて計測システムの概要について説明する。
図1は、計測システムの基本構成の一例を示す図である。計測システムは、制御・解析部と計測部から構成される。計測システムは少なくとも1つのコンピューターシステムを含んでおり、後述するような計測装置(例えば電子顕微鏡)の出力を入力とした計測処理を実行するモジュールが含まれている。
【0019】
図2は、
図1に例示するような計測システムによる計測工程を示すフローチャートである。制御・解析部、或いは計測部に含まれるコンピューターシステムは、所定の動作プログラムに従って、
図2に例示するような処理を実行する。まず、制御・解析部は、ウエハ面内又はチップ面内の測定個所と測定レシピを初期設定し、これに従って計測するように計測部に指示する(ステップ(A))。計測部は、上記指示に従ってウエハを計測し、計測結果を制御・解析部に送る(ステップ(B)、コンピューターシステムによって実行される第1の処理)。次に、制御・解析部は、計測結果から面内分布を推定し、計測結果と計測点における推定値から推定の指標を算出する(ステップ(C)、コンピューターシステムによって実行される第2の処理)。
【0020】
次に、制御・解析部は、推定された面内分布に基づき、計測の目的を達成するために適すると予想される測定個所を算出し、必要に応じて測定レシピを更新して、新たな測定個所の計測を、計測部に指示する(ステップ(D)、コンピューターシステムによって実行される第3の処理)。計測部は、上記指示に従ってウエハを計測し、新たな計測結果を制御・解析部に送る(ステップ(E))。
【0021】
制御・解析部は、新たな計測と元の計測を合わせた計測結果の様々な組み合わせに対して面内分布を推定し、計測を行った全ての点における計測値と上記面内分布からの推定値を比較して推定精度の指標を算出する。さらに推定精度の最も高い計測結果の組み合わせを算出し、これに対する計測点座標、推定面内分布、計測を行った全ての点に対する上記面内分布からの推定値と計測値の偏差等を算出する(コンピューターシステムによって実行される第4の処理)(ステップ(F))。
【0022】
次に、指標の値(又はその変化率)が所定の条件を満たすか、所定の計測経過時間又は計測繰り返し回数を超えるか等に基づき、計測を終了するか判定する(ステップ(G))。継続する場合、ステップ(D)に戻り、新たに推定された面内分布に基づき、新たな計測箇所を算出、上記工程を繰り返す。1枚のウエハの計測において、上記過程を所定の時間又は回数繰り返すか、又は、指標の値(又はその変化率)が所定の条件を満たしたとき計測を終了し、計測結果及び推定される面内分布を出力する(ステップ(H)、コンピューターシステムによって実行される第5の処理)。
【0023】
計測目的に最適と予想される測定個所を選んで測定し、その結果をフィードバックして新たな測定個所を選んでいくため、本発明の計測システムは計測目的に合致した最適なサンプリング方法をウエハ毎に学習していくことになる。これにより、ウエハ毎に最少の計測点数で、精度よく目的の計測を行うことができる。測定個所の選び方は目的に応じて設定する。例えば、分布を求めること自体が目的の場合には、推定される分布を検証するために適すると予想される測定個所を選ぶ。また、分布の最大値又は最小値を求める場合には、分布が最大又は最小となると推定される箇所を選ぶ。以上の工程は、基本的に人手を介することなく、自動で行うことができる。
【0024】
解析部の動作について、
図3を用いて、より詳細に説明する。本例は、種々の計測対象と計測内容への対応が可能であるが、以下CD-SEM(Critical Dimension-Scanning Electron Microscope)を用いた層間合わせ計測を例として説明する。まず、
図4に例示するように、ウエハ面内に多数存在する同一種類の計測パターンを計測点候補401としてあらかじめ登録しておく。マスク又は露光装置の特性によりチップ面内で分布が生じるので、上記計測点候補401は、ウエハ上の複数露光フィールド毎にほぼ同じ位置で選ぶことが望ましい。
図4上図は、ウエハ上の計測点候補401と、そのウエハ上座標との関係を示す図である。計測点候補401の座標情報は、測定レシピに登録されており、CD-SEMは測定レシピに登録された座標情報に基づいて、FOV(Field OF View)が計測点候補401に位置付けられるようにステージ制御する。
【0025】
CD-SEMは、上記計測点候補401から初期計測点402として選んだ複数個所(X(i),Y(i))(i=1~m0(mの添え字の0は計測繰り返し回数番号を表す))の計測パターンをCD-SEMで計測して、測定値Z(X(i),Y(i))を得る(
図3のステップ301)。測定結果は演算のためコンピューターシステムに伝送される(ステップ302)。コンピューターシステムとして、計測ツールである走査電子顕微鏡に内蔵されているプロセッサ、或いは通信媒体を介してデータの送受信が可能な他のコンピューターシステムを採用することができる。
【0026】
例えば重ね合わせ誤差計測の場合、予め指定した計測パターンに対して、FOV1μm角程度の撮像を行い、各画像に含まれる上層下層パターン間の平均的な位置ずれを計測する。
図5上図は初期計測点402の測定値の分布を示す図である。位置ずれはx,y各方向に対して別々に計測するが、ここでは以下簡単のため片方だけを考える。上記初期計測点は、ウエハの外縁部を含め、できるだけ均一な密度で選択することが望ましい。また上記計測点数は、次に述べる多項式フィッティングの次数(未知係数の数)より大きい必要がある。
【0027】
次に、ウエハ面内の複数点で計測された測定結果Z(X(i),Y(i))に対して、その面内位置(X,Y)依存性に関し、例えばZernike多項式フィッティングを行い、結果(第1の面内分布)をF_k(X,Y)、k=0とする(ステップ303)。ここでkは計測繰り返し番号である。
図5下図はゼルニケ多項式関数を用いたフィッティングによって得られたウエハ面内分布の模式図である。
【0028】
更に、コンピューターシステムは、数1のような演算式に基づいて推定値と実際の計測結果の偏差を算出する。
【0029】
【0030】
F_k(X(i),Y(i))は、フィッティングによって求められた推定値である。
【0031】
次に、F_k(X,Y)、その空間変化∇F_k(X,Y)、及びerror_k(X(i),Y(i))の少なくとも1つの大きさに応じて、ウエハ面内で新たな計測点を、上記計測点候補の中からサンプリング(ステップ304)し、(X(i),Y(i))(i=mk+1~mk+1)とする。サンプリングは、例えば次のように行う。
【0032】
まず、計測点候補の内、推定値F_k(X(i),Y(i))が大きい未計測の1以上の候補を選択することが考えられる(第1の選択法、
図6の計測対象601)。この場合、推定値が最大となる候補、計測点候補の内、推定値が上位n点の候補(nは2以上の自然数)、或いは推定値が所定値以上となる1以上の候補を選択することが考えられる。更に、計測点候補の内、推定値が小さい未計測の1以上の候補を選択することが考えられる(第2の選択法、
図6の計測対象602)。この場合、推定値が最小となる候補、計測候補点の内、推定値が下位n点の候補、或いは推定値が所定値以下となる1以上の候補を選択することが考えられる。
【0033】
また、|∇F_k(X,Y)|の値が大きい、又は小さい未計測の1以上の候補を選択することが考えられる(第3の選択法、
図6の計測対象603)。この場合、空間変化値が最大となる候補、計測点候補の内、空間変化値が上位n点の候補(nは2以上の自然数)、或いは空間変化値が所定値以上となる1以上の候補を選択することが考えられる。F_k(X,Y)は関数なので数値微分すればよい。
【0034】
更に、第1~3の選択法で選ばれた計測点からある程度(所定距離)離間した、又は計測点密度の低い領域における1以上の未計測点を選択することが考えられる(第4の選択法)。この場合、例えばウエハ直径の10%分、離間した未計測点から1以上の候補を選択する等が考えられる。また、error_k(X(i),Y(i))の値が大きい計測点近傍の未計測の1以上の候補を選択することが考えられる(第5の選択法)。この場合においても、推定値が最大となる候補、計測点候補の内、推定値が上位n点の候補、或いは推定値が所定値以上となる1以上の候補を選択することが考えられる。
【0035】
また、F_k(X,Y)及び|∇F_k(X,Y)|の少なくとも一方の値に応じた確率を設定しておき、未計測の計測点候補を上記確率に基づいて選択することが考えられる(第6の選択法)。更に、未計測の計測点候補からランダムに選ぶことも考えられる(第7の選択法)。
【0036】
上記各選択法は、予めコンピューターシステムに内蔵された、或いは外部の記憶媒体に予め記憶しておくことが望ましい。また、上記選択法を適用し、複数の計測点を選択する場合には、計測点間の距離を例えばウエハ直径の10%程度離間させて選択することが望ましい。更に、上記2以上の選択法を組み合わせて計測点(サンプリング点)を選択することが望ましい。
図6に例示する計測対象604は、第1~4の候補選択法によって選択された計測点の一例を示している。選択される計測点の総数は計測点を過度に増やすことがないように、所定の範囲に収まるように設定することが望ましい。また、計測点の選択は上記以外にも推定分布を用いた他の選択法であっても良い。第7の選択法に関しては、他の選択法と組み合わせて用いる。
【0037】
コンピューターシステムは、選択された計測点を計測するためにCD-SEMの動作プログラム(測定レシピ)を更新する(ステップ305)。具体的には選択された計測点の座標に電子顕微鏡のFOVを位置付けるように、CD-SEMの動作プログラムを設定する。
【0038】
次にコンピューターシステムは、選択された計測点の計測を実施する(ステップ306)。
図7上図はステップ301の計測結果と、新たな計測結果の分布を示す図であり、この結果は所定の記憶媒体に記憶される。そしてこの新たな計測結果を加えて改めてZernike多項式によるフィッティングを行い、面内分布を算出する(ステップ307)。その結果をF_k+1(X(i),Y(i))とする(
図7下図)。
【0039】
ここで、システマティック成分のフィッティング精度を上げるため、上記選択された計測点のうち、ランダム成分の小さな点を選択することが望ましい。そこで、例えば次のようにして各計測点の評価を行う。新たな計測点から1点又はその組み合わせを選び、そこでの計測結果を元の計測結果に加えてフィッティングを行って偏差を計算する。フィッティング結果の変化の度合いに応じて、加えた新計測点又はその組み合わせの価値の評価を行う。一定以上の価値を有する計測点を加えて行ったフィッティング結果を、システマティック成分の新たな推定分布とする。又は、価値が最大となる組み合わせの計測点を加えて行ったフィッティング結果を、システマティック成分の新たな推定分布とする。上記価値評価の指標としては、例えば全計測点に対するフィッティング偏差の値、又は、フィッティング偏差が許容値以下となる計測点の数(又は、全計測点数に対する割合)、又は、これらの変化値(新計測点の結果を加える前の値に対する)等を用いる。
【0040】
また、ウエハ裏面の異物等の影響により、ウエハ内の極めて狭い領域で局所的に異常が生じる場合がある。これに対応するために、フィッティング結果と実際の計測結果の偏差が特に大きい計測点を抽出することが考えられる。例えば、元の計測点を含めてある計測点(Xs,Ys)をフィッティングから除いたとき上記価値評価の指標が一定の値以上向上する場合、その計測点を特異点としてフィッティングから除外し、面内分布を、特異点(Xs,Ys)を除いた多項式フィッティング結果F_n(X,Y)と特異点(Xs,Ys)周辺にピークを持つ分布S(X,Y)の和とする。この和に対して上記手順を適用する。計測点数がモデルの未知数(例えばゼルニケ多項式の次数)と同程度の場合、計測点を増やすと偏差は増大する。この場合、上記除去法が有効である。
【0041】
新たな計測点を加えた計測結果と推定結果に基づき、再度新たな計測点をサンプリングする(ステップ304)。ここで、ウエハ面内でF_k+1(X,Y)の最大値がF_k(X,Y)の最大値より大きければ、新たにF_k+1(X,Y)、∇F_k+1(X,Y)の絶対値の大きさに応じて新計測点をサンプリングする。
【0042】
一方、F_k+1(X,Y)の最大値がF_k(X,Y)の最大値より小さい場合、ウエハ面内で新たな計測点をランダムにサンプリングする、もしくはその割合を増大する等してもよい。但し、新たな計測点の総数は所定の範囲に収まるようにする。k+1をkに置き換え、ステップ304~307を、許容時間内でn回繰り返す。最終的に得られたF_n(X,Y)をウエハ面内の計測結果の分布として出力する。
【0043】
以上の計測工程は、ウエハを計測部(CD-SEM)のステージに搭載したまま、連続的に行う。撮像・計測に要する時間に対して、上記フィッティング及び計測点サンプリング計算に要する時間は極めて短い。
【0044】
また、多項式フィッティングにおいていわゆる過学習を抑えるため、最終的な多項式フィッティングに用いる計測点数は、多項式フィッティングの次数(未知係数の数)より十分に(例えば2倍程度)大きいことが好ましい。なお、最終的な計測点の集合から得られる複数の部分集合に対してフィッティングした複数の結果を平均するいわゆるブートストラッピングサンプリング法を用いることができる。また、適宜、低次フィッティグの結果と高次フィッティングの結果を合成してもよい。但し、高次フィッティングの結果が低次フィッティグの結果と大きく異なる場合には、高次フィッティングの使用を避けることが望ましい。
【0045】
以上、ウエハ面内分布について述べたが、パターンを半導体ウエハ上に露光するために用いられるマスク又は露光装置の特性により生じる露光フィールド面内分布についても適用できる。
【0046】
例えば、ウエハ内の特定の1個または複数の露光フィールドに対して、各露光フィールド内の複数位置(X(j),Y(j))(j=1~m)において同一種類のパターン計測を行い、測定値Z(X(j),Y(j))を得る。Zの露光フィールド面内位置(X,Y)依存性についてルジャンドル多項式フィッティングを行い、結果をG_k(X,Y)、k=0とする。ここでkは計測繰り返し番号である。
【0047】
以下、上記ウエハ面内に対する説明と同様にして、最終的に得られたG_n(X,Y)を露光フィールド面内の計測結果の分布として出力する。さらに、上記ウエハ面内分布と露光フィールド面内分布を組み合わせることにより、上記ウエハの全領域に対する計測対象の分布を把握することができる。これにより、例えば合わせずれの最も大きい領域を特定することができる。
【0048】
又、ウエハ面内分布の計測結果に基づき、ウエハ面内における計測量(合わせずれ等)の大きな領域に含まれるかまたはこれを含む露光フィールドを選択し、その露光フィールドに対して露光フィールド面内分布を計測してもよい。これにより、例えば合わせずれの最も大きい領域を特定することができる。
【0049】
上記説明では、新たな計測点に対して計測を行った後、全ての計測結果に対して改めてフィッティングを行って得られた多項式を新たなフィッティング結果とする。これに対して、次のようにベイズ更新を用いて多項式フィッティングを行ってもよい。すなわち、Zernike多項式の係数を母数(parameter)とし、その確からしさの分布を考える。最初の計測で得られた値を平均として初期分布を与え、次回以降の計測で得られた値で分布を更新していく。
【0050】
又、上記説明では、1枚のウエハの計測について述べたが、複数のウエハの間、又は1枚のウエハの異なるデバイス層間において、計測量の相関があると予測される場合がある。この場合、本方法に、既に計測済みの他のウエハもしくは他のデバイス層の計測結果を加味することができる。
【0051】
そのための第1の方法は、初期計測点の選択を、他のウエハの特性分布に基づき行う。これまでに、あるプロセス処理装置で処理したウエハ上に、ある明確な特性分布が認められる場合、例えば特性値の許容限界に近いと予想される領域の計測点をあらかじめ多めに設定する。
【0052】
第2の方法は、ウエハ上にある明確な特性分布があり、かつ計測値が様々な要因によりばらつくと予想される場合である。この場合、ウエハ上の各地点の特性値の計測値に対して所定の事前確率分布(確率密度関数)を設定し、計測するウエハの上記地点の計測値により上記確率分布をベイズ更新する。例えば、上記事前確率分布を正規分布と仮定して、事前確率分布から求めた計測結果の尤度を求め、上記事前確率分布と上記尤度の積により事後確率分布を求める。
【0053】
事後確率分布の平均値、又は最大値を与える特性値の値を、本説明における計測ウエハの上記地点の計測値として採用する。第3の方法は、本説明による推定分布モデルの母数(例えばZernike多項式の係数)に対して所定の事前確率分布(確率密度関数)を設定し、例えば
図2の方法により計測対象ウエハから求めた推定分布モデルの母数の値により上記事前確率分布をベイズ更新する。例えば、上記事前確率分布を正規分布と仮定して、事前確率分布から求めた計測結果の尤度を求め、上記事前確率分布と上記尤度の積により事後確率分布を求める。事後確率分布の平均値、又は最大値を与える母数の値を、本説明における推定分布モデルの母数として採用する。
【0054】
さらに、上記過程、特にウエハ面内で新たな追加計測点をサンプリングする過程は、所謂ニューラルネットワークを機械学習させることによって置き換えてもよい。即ち、上記過程は、ウエハ又はフィールド面内の複数点で、ある特性値の計測結果が得られたとき、特性値の面内推定分布を真の面内分布に近づけるために、さらに計測点を追加する場合、どこで計測するべきか、という問いに答えることを目的とする。
【0055】
そこで、計測点座標とそこでの計測値の組を入力とし、追加で計測すべき(所定の数の)計測点の座標を出力するようなシステムを考え、これを、次のような教師付き学習により学習させる。
【0056】
まず、あらかじめウエハ面内のできるだけ多くの点で目的とする特性値を計測して、その面内分布を教師データとして取得する。又、全計測点を用いてモデルフィッティング推定した分布を真値近似分布とする。
【0057】
次に、上記多数計測点から選択した複数の任意の初期計測点の座標とそこでの計測値を入力とし、所定の点数の追加計測点座標(もしくは座標番号)を出力とするネットワークを考える。
【0058】
上記、ネットワークから出力された追加計測点の座標と計測結果を、上記初期計測点における計測結果に加えて、特性値分布をモデルフィッティング推定して、上記真値近似分布との残差(2乗平均誤差等)を求める。この残差が小さくなるように(残差をロス関数として)、上記ネットワークを学習させる。上記学習は、様々に異なる面内特性値分布をもつウエハの様々な初期計測点の組み合わせを用いて行う。
【0059】
追加計測結果に基づいて再度新たな計測点を追加する工程を繰り返す場合、上記入力点数が変化するので、この場合、異なる入力点数、出力点数を有する複数のネットワークを準備し、これらを逐次用いることが好ましい。
【0060】
図4~7は、ウエハ上計測点候補82点から初期計測点18点を除いた64点から、新たな計測点を4点選んだ例を示している。この場合の組み合わせの数は、635376通り存在し、この中から最適の組み合わせを決定する必要がある。上記の例では、計測結果を所定の分布モデルでフィッティングして求めた推定分布に対して、ステップ304~307の処理を行なうことによりこれを決定する。計測結果に基づき、分布モデルを更新することにより、最適選択法を学習していく。これを拡張すると、上記の過程は、以下のように表すことができる。
【0061】
まず、複数の計測点座標にて得られた計測値の現時点tの状態sとする。更に方策πに基づいて、新たな計測点を選択する行動をaとする。この新たな計測点を加えて得られた計測値を、新たな状態s´とする。s´に対してモデルフィッティングして得られた推定分布の計測座標における値と、計測値の差分の平均の逆数を、sにおけるaの報酬rとする。
【0062】
本例は、以上のような定義のもと(s,a)における報酬の規定値を表す価値関数Q(s,a)([数2]のBellman方程式で表される)を最大化する方策を求める強化学習の問題と捉えることもできる。
【0063】
【0064】
強化学習の代表的手法である所謂Q学習の場合、報酬期待値、価値関数Qを最大化することは、新たな状態の価値を最大化する最適方策を得ることと等価なので、関数Qを直接求める代わりに、最適方策を予測する関数を考えると、かかる関数として前記ニューラルネットワークを用いることができる。強化学習では、この関数(Q学習の場合テーブル)を、学習の過程とともに更新する。
【0065】
上述のような選択法を繰り返し実施することによって、新計測点を決定する場合、分布モデルフィッティング結果を更新することが、上記関数の更新に相当する。一方、この手続きを前記ニューラルネットで置き換える場合には、新たな計測結果を得るたびに、上記ニューラルネットをtransfer学習により更新することができる。学習器は、コンピューターシステムに内蔵された1以上のモジュール或いはアプリケーションであり、上記更新によって学習を繰り返す。
【0066】
また、一般にウエハ面内の様々な点で特性値を計測する場合、各点の測定値は、計測誤差・ノイズ、又は突発的な異常等のランダムな成分を含む。一方、上述のような新たな計測点の選択法や、新たなサンプリング点の選択のためにニューラルネットワークを用いる手法を適用した場合、これら個別ウエハ固有のランダムな変動を予測することは困難である場合がある。従って、これらを含めてモデルフィッティングするとフィッティング精度が下がる可能性があり、全計測点を用いてフィッティングしない方が良い場合がある。
【0067】
そこで、計測された結果に対して、ブートストラップ法のような統計的推論法を用いて、残差が最小となる計測点の組み合わせを選び、これらの計測結果をモデルフィッティングした結果をシステマティックな特性値分布、この分布からの乖離をランダム変動とする。この選択の工程が、個別のウエハに応じた上記関数の更新に相当する。
【0068】
具体的には、これにより、モデルに従うシステマティックな部分とそれ以外の部分に分割することが可能となり、システマティックな成分に対して、複数の学習済みネットワークを逐次用いることにより、フィッティング精度を向上することができる。
【0069】
なお、システマティックな特性値分布とランダムなばらつき成分の分離には所謂オートエンコーダを用いてもよい。ウエハ面内の特性値分布を入力と出力とするオートエンコーダを、様々な種類のシステマティックな面内分布を入力と教師データとして学習させる。これに、計測誤差・ノイズ、又は突発的な異常を含む個別のウエハの面内計測値の結果を入力すると、そのシステマティック成分を出力することができる。これにより、モデルフィッティングに用いる計測点を選択し、さらにフィッティング精度を向上することができる。
【0070】
以上の演算等は、コンピューターシステムに搭載、或いは記憶されたモジュール、或いはアプリケーションによって実行され、所定の記憶媒体に記憶される。
【0071】
次に、
図1の計測部(計測ツール)の概要を、
図8を用いて説明する。
図8は、主にウエハ上の微細パターンのエッジ位置を計測し、寸法、位置ずれ、ばらつき等の計測データ(メトロロジーデータ)を出力するための計測ツールの1種であるCD-SEMの一例を示す図である。
【0072】
CD-SEMは走査電子顕微鏡と、検出器の出力に基づいて、パターンの寸法やエッジ位置(例えば設計エッジ位置との差異)を特定するための1以上のコンピューターシステムより構成されており、当該コンピューターシステムは、所定のコンピューター読み取り可読媒体に記憶されたプログラムを読み出し、後述するような欠陥確率推定処理を実行するように構成されている。コンピューターシステムは、走査電子顕微鏡と通信可能に構成されている。コンピューターシステムは、1以上の伝送媒体で走査電子顕微鏡に接続され、走査電子顕微鏡と離間した位置に設置されても良いし、走査電子顕微鏡のモジュールとするようにしても良い。
【0073】
図8に例示する走査電子顕微鏡は、電子源801から引出電極802によって電子ビーム803が引き出され、不図示の加速電極により加速される。加速された電子ビーム803は、集束レンズの一形態であるコンデンサレンズ804により絞られた後、走査偏向器805により偏向される。これにより、電子ビーム803は、試料809上を一次元的又は二次元的に走査する。試料809に入射する電子ビーム803は、試料台808に内蔵された電極に、負電圧を印加することによって形成される減速電界により減速されると共に、対物レンズ806のレンズ作用により集束されて試料809の表面を照射される。試料室807内部は真空が保たれている。
【0074】
試料809上の照射箇所からは電子810(二次電子、後方散乱電子等)が放出される。放出された電子810は、試料台808に内蔵された前記電極に印加された負電圧に基づく加速作用により、電子源801の方向に加速される。加速された電子810は変換電極812に衝突し、二次電子811を発生させる。変換電極812から放出された二次電子811は、検出器813により捕捉され、捕捉された二次電子量により検出器813の出力Iが変化する。この出力Iの変化に応じ、表示装置の輝度が変化する。例えば二次元像を形成する場合には、走査偏向器805への偏向信号と、検出器813の出力Iとを同期させ、走査領域の画像を形成する。
【0075】
なお、
図8に例示するSEMは、試料809から放出された電子810を変換電極812において二次電子811に一端変換して検出する例を示しているが、無論このような構成に限られることはなく、例えば加速された電子の軌道上に、電子倍像管や検出器の検出面を配置する構成を採用しても良い。制御装置814は、撮像レシピと呼ばれるSEMを制御するための動作プログラムに従って、上記SEMの各光学要素に必要な制御信号を供給する。
【0076】
次に検出器813で検出された信号はA/D変換器815によってデジタル信号に変換され、画像処理部816に送られる。画像処理部816は複数の走査によって得られた信号をフレーム単位で積算することによって積算画像を生成する。ここで、走査領域の1回の走査で得られる画像を1フレームの画像と呼ぶ。例えば、8フレームの画像を積算する場合、8回の2次元走査によって得られた信号を画素単位で加算平均処理を行うことによって、積算画像を生成する。同一走査領域を複数回走査して、走査毎に1フレームの画像を複数個生成して保存することもできる。
【0077】
更に画像処理部816は、デジタル画像を一時記憶するための画像記憶媒体である画像メモリ818と、画像メモリ818に記憶された画像から特徴量(ラインやホールの幅の寸法値、ラフネス指標値、パターン形状を示す指標値、パターンの面積値、エッジ位置となる画素位置等)の算出を行うCPU817を有する。
【0078】
さらにまた、各パターンの計測値や各画素の輝度値等を保存する記憶媒体819を有する。全体制御はワークステーション820によって行われる、必要な装置の操作、検出結果の確認等がグラフィカルユーザーインタフェース(以下、GUIと表記する)によって実現できるようになっている。また、画像メモリは、走査偏向器805に供給される走査信号に同期して、検出器の出力信号(試料から放出される電子量に比例する信号)を、対応するメモリ上のアドレス(x,y)に記憶するように構成されている。また、画像処理部816は、メモリに記憶された輝度値からラインプロファイルを生成し、閾値法等を用いてエッジ位置を特定し、エッジ間の寸法を測定する演算処理装置としても機能する。
【実施例0079】
半導体集積回路は複数のデバイス層から構成され、上下のデバイス層は正しく接続もしくは分離される必要がある。このため、あるデバイス層をリソグラフィで形成する際に、下層のデバイス層に正しく位置合わせしなければならない。リソグラフィ装置における位置合わせ(以降、合わせと呼ぶ)では、レジスト層より下層のデバイス層にあるウエハ上の合わせマークとマスク上の合わせマークを計測し、上記計測結果に基づいてウエハとマスク投影像の相対位置を調整してレジスト層を露光する。
【0080】
しかし、チップ又はウエハの非線形な変形等により、ウエハ上の実際の回路パターンと合わせマークの相対位置は、設計値からずれる。また、光学的な収差や露光装置のスキャン誤差によりマスク投影像における実際の回路パターンと合わせマークの相対位置も、設計値からずれる。この結果、所定の位置合わせを行っても、上層と下層の回路パターンの間には位置ずれが生じてしまう。これらの位置ずれは、上記各種装置の使用履歴による経時変動、固有の面内特性分布、ウエハ表面裏面の欠陥等に起因するランダム変動に依存するため、空間的に非線形で、その面内分布(signature)は、ロット、ウエハ、チップ毎に変化する。
【0081】
そこで、ロット、ウエハ、チップ毎に下層回路パターンと、その上に形成したレジスト層を露光・現像して形成した上層回路パターン(レジストパターン)の位置ずれがウエハ、チップ面内で許容範囲に収まっているかを調べ、許容範囲をはみ出した場合には、レジストを剥離除去し、当該リソグラフィ工程をやり直す。また、上記位置ずれの面内分布を正しく計測し、その面内分布に応じて、以降の露光において下層回路パターンとレジストパターン(投影像パターン)のずれがウエハ、チップ面内で許容範囲に収まるように、露光装置のマスク投影像位置・形状を制御する。このため、ロット、ウエハ、チップ毎に合わせずれの面内分布を正しく把握する必要がある。特に、上記制御では、合わせずれの面内分布を所定の関数系でフィッティングし、これを介して露光装置にフィードバックする。
【0082】
露光装置の制御パラメータの数は数十に及び、これを同定するために数百の計測点が必要となる。光学式合わせ検査の場合、1点当たり0.1秒で面内数百点を計測すると仮定すると、1ウエハ当たり数十秒を要する。一方、昨今、DRAMや先端ロジック等の製造工程で、実回路パターン部のSEM観察像から、上下層合わせずれを直接計測する方法が用いられている。この方法は計測精度が高いが、1点当たり1秒以上を要するので、面内計測点を数十点に削減する必要がある。
【0083】
上記SEM方式では一点ごとの計測精度は向上するものの、計測点数が不十分な場合、上記フィッティング結果が実際の合わせずれ分布を正しく反映できなければ、最終的な合わせ精度を向上が難しい。このため、限られた計測数で、上記面内分布を正しく把握するための計測箇所の選択が重要な課題となる。
【0084】
以下、本開示をダイナミックランダムアクセスメモリ(DRAM)のビット線コンタクト形成時の合わせ計測に適用した例について説明する。DRAMのトランジスタ形成後、所定の絶縁層、平坦化層、レジスト層を形成し、ビット線コンタクトパターン用の露光マスクを用いて上記レジスト層を露光・現像してレジストパターンを形成し、これをエッチングマスクとして上記平坦化層及び絶縁層をエッチングして、ビット線コンタクトホールを形成した。
【0085】
図9(a)に模式的に示すように、ウエハ内に露光フィールドが多数配列され、露光フィールド内メモリセル部にメモリ素子が多数配列される。上記メモリセル部をCD-SEMで観察して、
図9(b)及び(c)の左側に模式的に示すようなSEM観察像を取得した。
図9(b)はトランジスタ活性層とビット線コンタクトの間にパターン位置ずれがない理想的な場合、
図9(c)はパターン位置ずれdがある場合である。
【0086】
まず、
図9(a)左に示した複数の露光フィールドから
図10(a)左図に例示するように18個を選択し、これら露光フィールド内の所定の位置(
図9(a)右図中黒丸で示す)でSEM像を撮像し、各位置でパターン位置ずれを計測し、
図10(a)中央の結果を得た。計測結果をZernike多項式でフィッティングして
図10(a)右のウエハ内推定分布を得た。
【0087】
上記結果に基づき、
図10(b)左に示した複数の露光フィールドに含まれる座標Aを新たな計測点(図中黒丸で示す)として選択し、SEM像を撮像し、各位置でパターン位置ずれを計測し、
図10(b)中央の結果を得た。新たな計測点は、位置ずれ計測値の絶対値、及びその位置変化率が大きい領域を中心に選択した。
【0088】
新たな計測に基づく計測結果をZernike多項式でフィッティングして
図10(b)右のウエハ内推定分布を得た。上記結果に基づき、
図10(c)左に示した複数の露光フィールドの、上記露光フィールド内座標A´を新たな計測点として選択し、SEM像を撮像し、各位置でパターン位置ずれを計測し、
図10(c) 中央の結果を得た。計測結果をZernike多項式でフィッティングして
図10(c)右のウエハ内推定分布を得た。比較のため、全露光フィールドの所定の位置(
図6(d)右に黒丸で示す)に対してパターン位置ずれを計測した結果を
図10(d)中央、これに対してフィッティングした結果を
図10(d)右に示す。本方法により全数計測の結果とほぼ等しい結果が得られた。
【0089】
次に同様にして、
図9(a)に示した露光フィールドに対し、フィールド内複数の座標でSEM像を撮像し、各位置でパターン位置ずれを計測し、計測結果をルジャンドル多項式でフィッティングして露光フィールド内分布を推定した。上記推定結果に基づき、露光フィールド内の複数の座標を新らたな計測点として選択し、各位置でパターン位置ずれを計測した。新たな計測点は、位置ずれ計測値の絶対値、及びその位置変化率が大きい領域を中心に選択する。計測結果を再度ルジャンドル多項式でフィッティングして露光フィールド内分布を推定した。この過程を繰り返し、露光フィールド内の推定分布を得た。
【0090】
上述した方法によれば、光学式合わせ法より約一桁少ない計測点数でも、ウエハ上のパターン位置合わせ誤差を精度よく計測することができる。本検査を露光装置のスループットと同程度で行うことにより、電子ビームを用いた露光装置であってもRUN to RUN制御が可能となる。
上述のように半導体集積回路は複数のデバイス層に存在する回路や素子のパターンが3次元方向に接続して構成される。個々の回路パターンはエッジに囲まれた領域からなり、回路が正しく動作するか(歩留まり)は、上下層回路パターンの局所的なエッジ位置の相対ずれにより大きな影響を受ける。
上記パターンエッジ位置ずれはEdge Placement Error(EPE)と呼ばれ、上下層パターン間の合わせずれ(実施例1で述べた平均位置ずれ)ΔOVL(Overlay Error)、各層のパターンの平均寸法の設計値からのずれΔCD、及び各層のパターンエッジ位置の局所的な変動(エッジラフネス(Line Edge Roughness:LER)又はローカルCDの均一性((Locl CD Uniformity:LCDU)から、近似的に数3、或いは数4の少なくとも一方で表される。
従って、実施例1で述べた合わせずれΔOVLを抑えることに加え、上記ΔCDと、LER又はLCDUを抑えることが歩留まり向上につながる。特に昨今、後者の影響が、合わせずれの影響より大きくなりつつある。一方、そのウエハ面内、露光フィールド面内変動の原因は、合わせずれの原因とは異なり、かつ上記各種装置やウエハ・マスクの状態に依存する。EPEが許容範囲を超える恐れのある危険な領域は、3つの要素の組み合わせで決まるが、あらかじめ決まった計測箇所が、上記最悪の組み合わせの領域に重なることは、一般に期待できない。従って、実施例1とは独立に、計測箇所を選択することが望ましい。
本実施例では、周期的1次元パターンと孤立ブロックパターンの組み合わせ(マルチパターニング)により論理集積回路のローカル配線を形成する際のEPE計測を行う例について説明する。
まず、液浸ArF露光(露光装置の投影レンズとウエハ(レジスト)との間に屈折率の高い液体を挿入することによって光の波長を大気中よりも短くすることで解像度を高める技術を採用しつつ、光の光源としてフッ化アルゴンエキシマレーザを用いた露光法)ならびにSAQP(Self-Aligned Quadruple Patterning)法により周期的1次元パターンを形成し、実施例1同様にして、平均トレンチ幅とその設計からの偏差ΔCD1、ラインエッジラフネスLER1のウエハ内、露光フィールド内分布を計測、推定する。所定の平坦化ののち、レジスト塗布、EUV露光して、上記トレンチに重なるようにブロックパターンを形成する。形成したブロックパターンに対して、実施例1同様にして、上記トレンチとの相対的な位置ずれΔOVL_12(設計通りの場合を基準0とする)、縦寸法の各々の平均値とその設計からの偏差ΔCD2、縦寸法のばらつきLCDU2のウエハ内、露光フィールド内分布を計測、推定する。しかる後に、[数5]を用いてEPEを計算した。
これにより、最小計測点数でEPEの面内分布を把握することができた。以上、SEMを用いる例について述べたが、各項目の計測は、これに限らず様々な原理に基づく装置を利用してよい。例えば合わせ計測は、光学式合わせ計測装置を、寸法計測はスキャトロメトリーによる計測、LERは光学式欠陥検査装置のフレアノイズ(ヘイズ)レベル等を用いてもよい。これら様々な装置の出力に基づいて、コンピューターシステムを用いてEPEの分布を求めることにより、ウエハの継続処理可否を判断したり、不良原因を明らかにして製造装置にフィードバックすることができる。