(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023146681
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】歯ブラシ
(51)【国際特許分類】
A61C 17/22 20060101AFI20231004BHJP
A46B 5/00 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
A61C17/22 C
A46B5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022053993
(22)【出願日】2022-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】山根 麻姫子
【テーマコード(参考)】
3B202
【Fターム(参考)】
3B202AA06
3B202AB13
3B202BA02
3B202DB04
(57)【要約】
【課題】製造コストを抑え、品質も安定し、メーカ側の負担が少なく、デザイン変更も容易で、家庭で容易に分別処理でき、リサイクルする柄部側の汚染も防止できる、環境負荷低減を促進できる歯ブラシを提供せんとする。
【解決手段】第一の硬質樹脂からなるヘッド部側の第一成形体11と、第一の硬質樹脂に対して低接着の性質を有する第二の硬質樹脂からなる柄部側の第二成形体12を備え、互いに接合部分に、軸方向(a0)に沿った相対移動を阻害し、且つ軸方向(a0)に直交する所定の一方向(d1)への相対傾動を許容し、傾動により互いの軸(a1,a2)のなす角度が所定の角度(θ1)以上となった傾斜姿勢で、係合状態が外れ、離間を許容する係合構造10が形成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の硬質樹脂からなり、毛束が植設されるヘッド部側の第一成形体と、前記第一の硬質樹脂に対して低接着の性質を有する第二の硬質樹脂からなり、持ち手となる柄部側の第二成形体とが、ネック部の位置を境に長手方向に同軸状に接合しており、
前記第一成形体および前記第二成形体の前記接合の部分に、
互いに同軸状の通常姿勢で、当該軸方向に沿った相対移動を阻害し、且つ軸方向に直交する所定の一方向への相対傾動を許容し、
前記傾動により互いの軸のなす角度が所定の角度以上となった傾斜姿勢で、係合状態が外れ、離間を許容する係合構造が形成されていることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項2】
前記係合構造が相対傾動を許容する前記所定の一方向が、
ヘッド部の植毛面を前面、背面側を後面とした前後方向の前方向、または当該前後方向および前記軸方向に直交する左右側方の左右いずれかの方向である、請求項1記載の歯ブラシ。
【請求項3】
前記係合構造が、前記第一成形体および前記第二成形体のうち一方の前記接合の部分を、少なくとも前記所定の一方向の側の一部領域を除いて、他方の前記接合の部分が覆うように形成されている、請求項1又は2記載の歯ブラシ。
【請求項4】
前記第一成形体および前記第二成形体のうちの前記他方の材料である合成樹脂が、前記一方の材料である合成樹脂よりも成形温度の低い合成樹脂である、請求項3記載の歯ブラシ。
【請求項5】
前記係合構造が、前記所定の一方向への相対傾動を案内する部分円弧状の案内面を有する、請求項1~4の何れか1項に記載の歯ブラシ。
【請求項6】
前記係合構造として、前記第一成形体および前記第二成形体のうち一方の前記接合の部分が、前記相対傾動としての回動の中心軸を中心とした部分円弧状の外周面を有する板状片より構成され、
他方の前記接合の部分が、前記中心軸の方向である前後又は左右から前記板状片を挟持する一対の挟持壁と、前記中心軸に直交する左右又は前後の方向のうち前記所定の一方向の側の一部領域を除いて、前記部分円弧状の外周面を覆う同じく部分円弧状の内周面を有する支持壁とより構成されている、請求項5記載の歯ブラシ。
【請求項7】
前記板状片の前記部分円弧のアール(半径)が、前記中心軸と歯ブラシの前記軸方向の双方に直交する方向におけるネック部の幅の半分の値以上の大きさに設定されている、請求項6記載の歯ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛束が植設されるヘッド部と、ネック部と、持ち手となる柄部とを備えた歯ブラシに係り、とくに、分別処理の際にヘッド部のカットが不要な歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック製品の3R(Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル))の取り組みの中で、歯ブラシについても、循環促進、環境負荷低減製品の開発が求められている。歯ブラシは、使用によりヘッド部が汚染すること、及びヘッド部に毛束とともに打ち込まれる平線(金属)が存在することにより、通常、可燃ごみとして処理されている。これをリサイクルする際は、専門業者が回収し、ヘッド部をカットして分別する設備などが必要である。
【0003】
このようなヘッド部のカットが不要なものとして、ヘッド部のブラシ部分(ユニット)をヘッド本体に対して着脱可能に嵌合したブラシ取替歯ブラシも提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。このようなブラシ取替歯ブラシによれば、廃棄の際、家庭で当該ブラシ部分を取り外して焼却ゴミとして処理し、ブラシ部分以外はリサイクルとして処理する分別処理も可能となる。
【0004】
しかし、このようなブラシ取替歯ブラシは、部品点数が増え、金型数、工程数(アソート)などの製造コスト上昇の問題や、ブラシ部分の嵌合担保に関する品質上の問題などがあり、メーカ側の負担が大きい。また、終売後も一定期間、在庫の確保が必要であり、デザイン変更の自由度も低い。さらに、嵌合構造の部分の隙間が汚染されうるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002-165641号公報
【特許文献2】特開2004-255112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、製造コストを抑え、品質も安定し、メーカ側の負担が少なく、デザイン変更も容易で、家庭で容易に分別処理でき、リサイクルする柄部側の汚染も防止できる、環境負荷低減を促進できる歯ブラシを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 第一の硬質樹脂からなり、毛束が植設されるヘッド部側の第一成形体と、前記第一の硬質樹脂に対して低接着の性質を有する第二の硬質樹脂からなり、持ち手となる柄部側の第二成形体とが、ネック部の位置を境に長手方向に同軸状に接合しており、前記第一成形体および前記第二成形体の前記接合の部分に、互いに同軸状の通常姿勢で、当該軸方向に沿った相対移動を阻害し、且つ軸方向に直交する所定の一方向への相対傾動を許容し、前記傾動により互いの軸のなす角度が所定の角度以上となった傾斜姿勢で、係合状態が外れ、離間を許容する係合構造が形成されていることを特徴とする歯ブラシ。
【0008】
(2) 前記係合構造が相対傾動を許容する前記所定の一方向が、ヘッド部の植毛面を前面、背面側を後面とした前後方向の前方向、または当該前後方向および前記軸方向に直交する左右側方の左右いずれかの方向である、(1)記載の歯ブラシ。
【0009】
(3) 前記係合構造が、前記第一成形体および前記第二成形体のうち一方の前記接合の部分を、少なくとも前記所定の一方向の側の一部領域を除いて、他方の前記接合の部分が覆うように形成されている、(1)又は(2)記載の歯ブラシ。
【0010】
(4) 前記第一成形体および前記第二成形体のうちの前記他方の材料である合成樹脂が、前記一方の材料である合成樹脂よりも成形温度の低い合成樹脂である、(3)記載の歯ブラシ。
【0011】
(5) 前記係合構造が、前記所定の一方向への相対傾動を案内する部分円弧状の案内面を有する、(1)~(4)の何れかに記載の歯ブラシ。
【0012】
(6) 前記係合構造として、前記第一成形体および前記第二成形体のうち一方の前記接合の部分が、前記相対傾動としての回動の中心軸を中心とした部分円弧状の外周面を有する板状片より構成され、他方の前記接合の部分が、前記中心軸の方向である前後又は左右から前記板状片を挟持する一対の挟持壁と、前記中心軸に直交する左右又は前後の方向のうち前記所定の一方向の側を除いて、前記部分円弧状の外周面を覆う同じく部分円弧状の内周面を有する支持壁とより構成されている、(5)記載の歯ブラシ。
【0013】
(7) 前記板状片の前記部分円弧のアール(半径)が、前記中心軸と歯ブラシの前記軸方向の双方に直交する方向におけるネック部の幅の半分の値以上の大きさに設定されている、(6)記載の歯ブラシ。
【発明の効果】
【0014】
以上にしてなる本願発明に係る歯ブラシによれば、低接着の性質を有する第一の硬質樹脂と第二の硬質樹脂を用いて、第一成形体と第二成形体をたとえば二色成形やインサート成形によって、通常の歯ブラシと同様に、2分割の割型を用いて容易かつ低コストに製造でき、品質も安定し、デザイン変更の自由度も高い。また、所定の一方向への相対傾動による接着状態の解除(剥離)と、傾斜方向への引抜きを行うだけで、道具を用いることなく、家庭で容易にヘッド部側と柄部側を分別処理できる。また、分別処理するまでは互いに接合しているため、着脱可能に構成した従来の提案のもののように隙間が汚染される等の問題が生じなく、リサイクルする柄部側の汚染を防止できる。
【0015】
ここで、係合構造が相対傾動を許容する前記所定の一方向が、ヘッド部の植毛面を前面、背面側を後面とした前後方向の前方向、または当該前後方向および前記軸方向に直交する左右側方の左右いずれかの方向であるものでは、これらの方向はブラッシング時にかかる力の方向ではなく、ブラッシング時の不測の相対傾動をより確実に防止できる。
【0016】
また、係合構造が、前記第一成形体および前記第二成形体のうち一方の前記接合の部分を、少なくとも前記所定の一方向の側の一部領域を除いて、他方の前記接合の部分が覆うように形成されているものでは、上記したブラッシング時の不測の相対傾動をさらに確実に防止できる。
【0017】
また、第一成形体および第二成形体のうちの前記他方の材料である合成樹脂が、前記一方の材料である合成樹脂よりも成形温度の低い合成樹脂であるものでは、二色成形をする場合に先に成形した成形部を溶融してしまうことなく、容易に二色成形することが可能となる。
【0018】
また、係合構造が、前記所定の一方向への相対傾動を案内する部分円弧状の案内面を有するものでは、分別処理の際の上記傾動をよりスムーズに行わせることができる。
【0019】
とくに、係合構造として、第一成形体および前記第二成形体のうち一方の前記接合の部分が、前記相対傾動としての回動の中心軸を中心とした部分円弧状の外周面を有する板状片より構成され、他方の前記接合の部分が、前記中心軸の方向である前後又は左右から前記板状片を挟持する一対の挟持壁と、前記中心軸に直交する左右又は前後の方向のうち前記所定の一方向の側を除いて、前記部分円弧状の外周面を覆う同じく部分円弧状の内周面を有する支持壁とより構成されているものでは、ブラッシング時に力の掛からない前後方向の前記所定の一方向にのみ傾動でき、他は挟持壁や支持壁でしっかりと移動を規制し、ブラッシング時の不測の相対傾動をさらに確実に防止できる。
【0020】
また、前記板状片の前記部分円弧のアール(半径)が、前記中心軸と歯ブラシの前記軸方向の双方に直交する方向におけるネック部の幅の半分の値以上の大きさに設定されているものでは、先に成形した第一成形体をインサートして第二成形体を成形する際、第一成形体の当該板状片が樹脂圧で動いてしまうことなく、前後方向から強固に支持でき、品質の優れたものを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の代表的実施形態にかかる歯ブラシを前方から見た平面図。
【
図2】(a)は同じく歯ブラシの右側面図、(b)は左側面図。
【
図5】(a)は
図4のA-A断面図、(b)はB-B断面図。
【
図6】同じく歯ブラシの第一成形体を第二成形体に対して傾動させて傾斜した状態を示す説明図。
【
図7】同じく歯ブラシの分別処理の手順を示す説明図。
【
図8】同じく歯ブラシの係合構造の変形例を示す説明図であり、(a)は前方から見た平面図、(b)は(a)のC-C断面図。
【
図9】同じく係合構造の他の変形例を示す説明図であり、(a)は前方から見た平面図、(b)は(a)のD-D断面図。
【
図10】同じく係合構造のさらに他の変形例を示す説明図であり、(a)は前方から見た平面図、(b)は(a)のE-E断面図。
【
図11】同じく係合構造のさらに他の変形例を示す説明図。
【
図12】同じく係合構造のさらに他の変形例を示す説明図であり、(a)は前方から見た平面図、(b)は側面図、(c)は(a)のF-F断面図。
【
図13】同じく係合構造のさらに他の変形例を示す説明図。
【
図14】(a)は
図13で示す変形例の側面図、(b)は背面図、(c)はG-G断面図。
【
図15】
図13で示す変形例の歯ブラシの相対傾動による傾斜した状態を示す説明図。
【
図16】係合構造のさらに他の変形例を示す説明図。
【
図17】係合構造のさらに他の変形例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0023】
本発明の歯ブラシ1は、
図1及び
図2に示すように、毛束20が植設されるヘッド部2側の第一成形体11と、持ち手となる柄部4側の第二成形体12とが、ネック部3の位置を境に長手方向に同軸状に接合して構成されている。第一成形体11は、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)等からなる第一の硬質樹脂により構成されている。第二成形体12は、第一の硬質樹脂に対して低接着の性質を有する第二の硬質樹脂、たとえば第一の硬質樹脂がポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)であればポリプロピレン樹脂(PP)などにより構成されている。
【0024】
第一成形体11および前記第二成形体12の前記接合の部分には、互いに同軸状(軸a0)の通常姿勢で、当該軸方向(a0)に沿った相対移動を阻害し、且つ軸方向(a0)に直交する所定の一方向(d1)への相対傾動(回動)を許容するとともに、
図6及び
図7に示すように、前記傾動により互いの軸(a1,a2)のなす角度が所定の角度(θ1)以上となった傾斜姿勢で、係合状態が外れ、離間を許容する係合構造10が形成されている。
【0025】
また、所定の一方向への相対傾動による接着状態の解除(剥離)と、傾斜方向への引抜きを行うだけで、道具を用いることなく、家庭で容易にヘッド部側と柄部側を分別処理できる。また、分別処理するまでは互いに接合しているため、着脱可能に構成した従来の提案のもののように隙間が汚染される等の問題が生じなく、リサイクルする柄部側の汚染を防止できる。
【0026】
相対傾動が許容される前記所定の一方向(d1)としては、本例では、ヘッド部2の植毛面2aを前面、背面側を後面とした前後方向および前記軸方向a0に直交する左右側方の左右いずれかの方向(本例では右方向(
図1の紙面上方向))とされているが、これに限定されず、例えば後述の
図13~
図15の例のように、前後方向の前方向とすることも好ましい例である。
【0027】
係合構造10は、
図1~
図3に示すように、第一成形体11および第二成形体12のうち一方の前記接合の部分、本例では第一成形体11の基端側(柄部側)に設けられる接合部5を、少なくとも上記所定の一方向d1の側の一部領域R1を除いて、他方(本例では第二成形体12)の先端側(ヘッド部側)に設けられる接合部6が覆うように形成されている。より具体的には、上記所定の一方向d1への相対傾動を案内する部分円弧状の案内面5a,6bを有している。
【0028】
より詳しくは、
図4にも示すように、第一成形体11の接合部5は、相対傾動としての回動の中心軸a3を中心とした部分円弧状の外周面(案内面5a)を有する板状片50より構成されている。板状片50は接合部6で覆われる分だけ薄板状に形成され、その歯ブラシ基端側(柄部側)に前記部分円弧状の外周面(案内面5a)を有する略円板部502が形成されている。板状片50の具体的な厚みは、先端側(ヘッド部側)のネック厚みの10~90%の薄板状に構成される。板状片50(略円板部502)の外周面(案内面5a)の部分円弧のアール(半径)は、当該円弧の中心軸a3と歯ブラシの軸方向a0の双方に直交する方向におけるネック部の幅w1の半分の値以上の大きさに設定されている。ここで、本例では中心軸a3が歯ブラシの軸a0上に位置しているが、本発明はこれに何ら限定されず、中心軸a3が軸a0からずれた位置にあっても勿論よく、たとえば後述する
図17及びず18の例のように成形体外部の位置にあってもよい。
【0029】
他方の第二成形体12の接合部6は、
図4及び
図5にも示すように、相対傾動としての回動の中心軸a3の方向である前後方向から板状片50を挟持する一対の挟持壁60A、60Bと、中心軸a3に直交する左右の方向のうち少なくとも前記所定の一方向d1(本例では
図1の紙面上方向)の側の一部領域R1を除き、部分円弧状の外周面(案内面5a)を覆う同じく部分円弧状の内周面(案内面6b)を有する支持壁61とより構成されている。一部領域R1は、第一成形体11が相対傾動して相対傾動する際、接合部5が接合部6に対してd1方向に傾動することを許容するための領域である。
【0030】
また、板状片50(略円板部502)の外周面(案内面5a)の部分円弧のアール(半径)は、ネック部の幅w1の半分の値以上、具体的には、w1の半分の値よりも大きな値に設定され、d1と反対方向、本例では左側方において支持壁61から一部領域R2が露出している。すなわち、接合部6の支持壁61は、当該領域R2により当該領域R2より先端側の支持壁611と、当該領域R2から上記領域R1までの間を支持する基端側の支持壁612とに分離されている。
【0031】
図1や
図4に示すように互いに同軸状(軸a0)の通常姿勢では、板状片50(略円板部502)が先端側の支持壁611の基端部611aに係止され、当該軸方向(a0)に沿って離間させることはできないように構成されている。また、支持壁612は、板状片50(略円板部502)の外周面(案内面5a)のうち上記d1の方向(右側)の領域も一部支持している。すなわち、支持壁612は、端部612aの位置まで延びている。これにより、上記相対傾動を安定して行わせることを可能としている。
【0032】
第一成形体11の接合部5の上記板状片50の前後の位置は、前記挟持壁60A,60Bがはまり込んで板状片50を挟み込むための段部51A,51Bとなる。挟持壁60A,60Bは、この段部51A,51Bにある状態でその外面がヘッド部2側のネック部3の外面に段差無く面一に連続するように構成されている。この挟持壁60A,60Bの先端面601とこれに対向する段部51A,51B側の段差面510も、上記案内面5a,6bの円弧と同じ中心軸を有する部分円弧状の案内面とされている。
【0033】
このように、第一成形体11と第二成形体12とは、部分円弧状の案内面5aが案内面6bに、先端面601が段差面510に、それぞれ案内されて、所定の一方向(d1)へ相対傾動がスムーズに行われるような構造とされている。したがって、所定の一方向d1に相互の樹脂の接着力を超える力を加えることで、接合状態が解除(剥離)され、
図6及び
図7に示すように当該所定の一方向d1にスムーズに相対傾動させることが可能である。d1方向への力に対する接着力を適度に設定するためには、前記挟持壁60A,60Bにおける板状片50の略円板部502より歯ブラシ先端側の部位501を挟持する部分の幅w5の寸法を、対応する位置のネック部の幅寸法の20~95%の範囲に設定することが好ましい。当該割合を小さくするために、
図16に示すように、板状片50の前記部位501を、成形体11の前記一方向d1の端部11aから一定距離だけ内側の位置から、反対方向の端部11bにわたる領域に設け、挟持壁60A,60Bの幅をより小さくした構造を採用してもよい。
【0034】
先端側の支持壁611の基端部611aと、基端側の支持壁612の上記領域R1を臨む先端部612aとの間の距離w2(
図6参照)は、第一成形体11の板状片50(略円板部502)の左右方向の幅、本例ではネック部の幅w1(
図1、
図4参照)と略同一、または該幅w1よりも大きい値に設定されている。これにより、
図6に示すように、第一成形体11と第二成形体12との相対傾動による傾斜角度が上記所定の角度(θ1)となる傾斜姿勢で、当該傾斜方向への離間移動が可能となるように構成されている。
【0035】
以下、係合構造10の変形例を説明する。
図8(a),(b)に示すように、第一成形体11の板状片50のうち上記領域R1に沿った中心軸a3方向(前後方向)の両端縁にフィレット部52、52を形成し、第二成形体12の接合部6の前後の挟持壁60A,60Bの前記フィレット部52、52に対応する部分に、該フィレット部52、52を覆うように内側に屈曲した被覆片602、602を形成したものも好ましい。これにより、
図8(c)に示すように接合部6が広がるように変形する力が上記傾動動作を規制し、これにより上記d1方向へ力を加える際の接合強度を調整できる。
【0036】
同様の趣旨で、
図9に示すように、フィレット部52の代わりに、板状片50の前記中心軸a3方向(前後方向)の両側面のうちの一方又は双方の、領域R1に近い側の所定領域又は全域を、領域R1側ほど前後厚みが薄くなるような傾斜面53とし、第二成形体12の接合部6の前後の挟持壁60A,60Bの一方又は双方の内面を、これに対面する傾斜面603に構成したものも好ましい。これによっても、接合部6が広がるように変形する力が上記傾動動作を規制し、これにより上記d1方向へ力を加える際の接合強度を調整できる。
【0037】
また、同様の趣旨で、
図10に示すように、板状片50の前記中心軸a3方向(前後方向)の両側面のうちの一方又は双方に、凹部又は凸部(本例では凹溝54)を設け、第二成形体12の接合部6の前後の挟持壁60A,60Bの一方又は双方の内面に、前記凹部又は凸部(54)に係合する凸部又は凹部(本例では凸条604)を設けるものも好ましい。これによっても、上記凸部及び凹部の係合が外れて接合部6が広がるように変形する力が上記傾動動作を規制し、これにより上記d1方向へ力を加える際の接合強度を調整できる。
【0038】
また、同様の趣旨で、
図11に示すように、第二成形体12の挟持壁60A,60Bの先端面601とこれに対向する第一成形体11の段差面510を、上記した部分円弧状の案内面ではなく、左右側方にまっすぐに延びる平面で構成したものも好ましい。これによれば、d1方向へ力を加える際、第一成形体11の前記段差面510が挟持壁60A,60Bの先端面601を押圧し、接合部6が広がるように変形する力が上記傾動動作を規制し、これにより上記d1方向へ力を加える際の接合強度を調整できる。
【0039】
また、
図12に示すように、第一成形体11の板状片50のうち部分円弧状の外周面(案内面5a)を有する基端側(柄部側)の略円板部502の上記前後方向の幅を、他に比べて大きく設定し、これを挟持する挟持壁60A、60Bの一方又は双方を、これに対応して薄く設定し、これにより、上記d1への傾動の後、傾斜方向に離脱させる際に、接合部6が広がるように変形する力が離脱を規制し、容易に外れてしまわない構造とすることも好ましい例である。その他、同様の趣旨から、略円板部502を平板状の略円板ではなく一方又は双方の側面が膨らんだ凸レンズ状の略円板とすることも好ましい。また、
図17及び
図18に示すように、相対傾動の中心軸a3を歯ブラシ1を構成する成形体11/12の傾動方向(d1)側の外側位置に設け、相対傾動の半径を大きくして傾動時に剥離させる力が掛かりやすい構造とすることも好ましい。この場合、掛かる力が大きくなりすぎないように、本例では上述の
図8の例と同様、第一成形体11の板状片50の領域R1に沿った前後両端縁にフィレット部52、52を形成し、第二成形体12の接合部6の前後の挟持壁60A,60Bの前記フィレット部52、52に対応する部分に、該フィレット部52、52を覆うように内側に屈曲した被覆片602、602を形成しているが、接着強度が十分であれば形成しなくてもよい。また、代わりに上述の
図9~
図11の例で示したような傾斜面や凹溝等を構成してもよい。
【0040】
本例の歯ブラシ1は、まず、ヘッド部2側の第一成形体11(
図3も参照)を成形するための一次金型を型締めした状態で、この一次金型内に第一の硬質樹脂を注入して第一成形体11を成形する。一次金型は効率のよい上下割構造の金型を採用できる。次いで、一次金型を型開きした後、第二成形体12を成形するための二次金型に第一成形体11をセットして型締めした状態で、この二次金型内に前記第一の硬質樹脂に対して低接着の性質を有する第二の硬質樹脂を注入し、第二成形体12を二色成形する。二次金型も、同じく効率のよい上下割構造の金型を採用できる。
【0041】
このようにして、毛束20が植設されたヘッド部2と、このヘッド部2に連設されたネック部3と、持ち手となる柄部4とを備え、ネック部3の位置に上記の係合構造10が形成された歯ブラシ1を、二色成形により成形できる。したがって、通常の歯ブラシと同様に、2分割の割型を用いて容易かつ安価に製造することができ、品質も安定し、デザイン変更の自由度も高い。
【0042】
ここで、第一成形体11の板状片50(略円板部502)の外周面(案内面5a)の部分円弧のアール(半径)は、当該円弧の中心軸a3と歯ブラシの軸方向a0の双方に直交する方向におけるネック部の幅w1の半分の値以上の大きさに設定され、上述の領域R2が露出する構造となるため、上記第二金型にセットする際に板状片50の略円板部502を挟み込むように金型内にしっかりと保持できるのである。
【0043】
二次金型に注入される第二の硬質樹脂は、第一の硬質樹脂よりも成形温度の低い合成樹脂であることが、上記二色成形を安定的に行うことができる点で好ましい。具体的には、第一の硬質樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)やポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)等が好適に用いられる。また、第二の硬質樹脂としては、ポリプロピレン樹脂(PP)やポリエチレン樹脂(PE)等が好適に用いられる。
【0044】
すなわち、第一の硬質樹脂と、第二の硬質樹脂には、互いに低接着(接着力の小さい)硬質樹脂の組み合わせを用いることができる。具体的な接着力の数値としては、通常のブラッシングでどの方向から力を受けても剥離しないよう、0.5N~50N、より好ましくは10N~30Nの接着力(回動方向(d1))を発揮できるものが好ましい。また、分別する際にネック部が曲がり切ってしまうと分別できなくなる為、ネック部の曲げ強度(上記方向d1への曲げ強度)の値の90%以下、より好ましくは70%以下の接着強度が好ましい。
【0045】
例えば、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT),もしくはポリプロピレン樹脂(PP)等からなる結晶化樹脂は、相手が結晶化樹脂の場合(但し、PP同士は除く)、または非結晶化樹の場合に、互いに低接着の性質がある。このため、たとえば第一の硬質樹脂及び第二の硬質樹脂のいずれか一方を、ポリアセタール樹脂(POM)等の結晶化樹脂とし、同他方を、例えばアクリロニトリルブタジェンスチレン樹脂(ABS)、ポリカーボネート(PC)もしくはアクリル樹脂(PMMA)等からなる非結晶化樹脂とすることで低接着を実現できる。また、前記結晶化樹脂の中でもポリプロピレン樹脂(PP)同士は、接着性が高いために、第一の硬質樹脂及び第二の硬質樹脂の両方をポリプロピレン樹脂(PP)で形成したものを除き、第一の硬質樹脂及び第二の硬質樹脂の両方を結晶化樹脂とした場合においても、互いに低接着の性質がある。このため、例えば、第一の硬質樹脂および第二の硬質樹脂のいずれか一方を、ポリアセタール樹脂(POM)等の結晶化樹脂とし、同他方を、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT),もしくはポリプロピレン樹脂(PP)等からなる結晶化樹脂とすることで、低接着を実現できる。
【0046】
図13~
図15は、相対傾動が許容される上記所定の一方向として、ヘッド部2の植毛面2aを前面、背面側を後面とした前後方向の前方向(d2)とした変形例を示している。
【0047】
本変形例の係合構造10は、第一成形体11の基端側(柄部側)に設けられる接合部5を、上記所定の一方向d2の側の一部領域R1および反対側の領域R2を除いて、他方(本例では第二成形体12)の先端側(ヘッド部側)に設けられる接合部6が覆うように形成され、上記所定の一方向d2への相対傾動を案内する部分円弧状の案内面5a,6bを有している。
【0048】
第一成形体11の接合部5は、相対傾動としての回動の中心軸a3を中心とした部分円弧状の外周面(案内面5a)を有する板状片50より構成されている。板状片50は接合部6で覆われる分だけ薄板状に形成され、その歯ブラシ基端側(柄部側)に前記部分円弧状の外周面(案内面5a)を有している。
【0049】
他方の第二成形体12の接合部6は、相対傾動の中心軸a3の方向である左右の方向から板状片50を挟持する一対の挟持壁60A、60Bと、部分円弧状の外周面(案内面5a)を覆う同じく部分円弧状の内周面(案内面6b)を有する支持壁61とより構成されている。領域R1、領域R2は、第一成形体11が相対傾動して相対傾動する際、接合部5が接合部6に対してd2方向に傾動することを許容するための領域である。
【0050】
また、板状片50の外周面(案内面5a)の部分円弧のアール(半径)は、歯ブラシ基端側(柄部側)で半径が前方側の方が後方側よりも大きい2つのアールの異なる部分円弧が段差部5cを介して連設されている。これにより、前記d2方向には傾動しうるが反対方向には段差部5cが対応する案内面6bの段差部6cに当接して傾動しえない構造とされるとともに、接合部5、6同士の接合面積を稼いで接合強度を維持しやすい構造とされている。
【0051】
支持壁61は、領域R2より歯ブラシ先端側の支持壁611と、当該領域R2から上記領域R1までの間を支持する歯ブラシ基端側の支持壁612とに分離されている。
【0052】
そして、
図13や
図14に示すように互いに同軸状の通常姿勢では、板状片50が先端側の支持壁611の基端部611aに係止され、当該軸方向に沿って離間させることはできないように構成されている。また、支持壁612は、板状片50の外周面(案内面5a)のうち上記d2の方向(前側)の領域も一部支持している。すなわち、支持壁612は、端部612aの位置まで延びている。これにより、上記相対傾動を安定して行わせることを可能としている。
【0053】
このように、第一成形体11と第二成形体12とは、部分円弧状の案内面5aが案内面6bに案内されて、所定の一方向(d2)へ相対傾動がスムーズに行われるような構造とされている。したがって、所定の一方向d2に相互の樹脂の接着力を超える力を加えることで、接合状態が解除(剥離)され、
図6及び
図7に示すように当該所定の一方向d2にスムーズに相対傾動させることが可能である。
【0054】
先端側の支持壁611の基端部611aと、基端側の支持壁612の上記領域R1を臨む先端部612aとの間の距離w4(
図15参照)は、第一成形体11の板状片50の前後方向の幅、本例ではネック部の前後幅w3(
図14参照)と略同一、または該幅w3よりも大きい値に設定されている。これにより、
図15に示すように、第一成形体11と第二成形体12との相対傾動による傾斜角度が上記所定の角度以上となる傾斜姿勢で、当該傾斜方向への離間移動が可能となるように構成されている。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、たとえば実施形態では、第一成形体11の基端側(柄部側)に接合部5を設け、第二成形体12の先端側(ヘッド部側)に接合部5を覆う接合部6を設けた例を説明したが、反対に、第二成形体12の先端側(ヘッド部側)に接合部5を設け、第一成形体11の基端側(柄部側)に接合部5を覆う接合部6を設けたものでも勿論可能であり(この場合も二色成形等を行うにあたり一次側、二次側の樹脂の選定は代表的な上述の実施形態に倣えばよい。)、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0056】
1 歯ブラシ
2 ヘッド部
2a 植毛面
3 ネック部
4 柄部
5 接合部
5a 案内面
5c 段差部
6 接合部
6b 案内面
6c 段差部
10 係合構造
11 第一成形体
12 第二成形体
20 毛束
50 板状片
51A,51B 段部
52 フィレット部
53 傾斜面
54 凹溝
502 円板部
510 段差面
60A、60B 挟持壁
61 支持壁
601 先端面
602、602 被覆片
603 傾斜面
604 凸条
611 支持壁
611a 基端部
612 支持壁
612a 端部