(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147138
(43)【公開日】2023-10-12
(54)【発明の名称】長繊維の抽出方法および長繊維の抽出装置
(51)【国際特許分類】
D01B 1/10 20060101AFI20231004BHJP
D01B 1/40 20060101ALI20231004BHJP
【FI】
D01B1/10
D01B1/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022081202
(22)【出願日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2022066610
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】517335318
【氏名又は名称】株式会社フードリボン
(74)【代理人】
【識別番号】100111349
【弁理士】
【氏名又は名称】久留 徹
(72)【発明者】
【氏名】長谷場 咲可
(72)【発明者】
【氏名】藤井 透
(57)【要約】
【課題】天然の植物から長繊維を抽出する際に、確実に果肉を除去することができるようにした長繊維の抽出方法を提供する。
【解決手段】果肉の間に長繊維を有してなるパイナップルの葉6などの植物から長繊維を抽出する長繊維抽出する場合、パイナップルの葉6の長繊維に対して直交する方向に、凸状体21を有する回転体2で屈曲させ、果肉に亀裂61を生成させる。そして、果肉に亀裂61を生じたパイナップルの葉6を載置部材51の上に載置し、押圧部材52でパイナップルの葉6を動かないように固定した状態で、上から高圧ジェット水を噴射させ、押圧部材52や載置部材51を通過させて、果肉を除去させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
果肉の間に長繊維を有してなる植物から長繊維を抽出する長繊維抽出方法において、
前記植物を屈曲させて前記果肉に亀裂を生成させる工程と、
当該亀裂を生成させた後、当該植物の表面から液体を高圧噴射させて果肉を除去させる工程と、
を備えたことを特徴とする長繊維抽出方法。
【請求項2】
長繊維の長手方向に対して、交叉する方向に植物を屈曲させるようにした請求項1に記載の長繊維抽出方法。
【請求項3】
前記亀裂を生成させる工程が、
上下に設けられた凹凸を有する押圧体に植物を挟み込んで、果肉に亀裂を生成させるようにしたものである請求項1に記載の長繊維抽出方法。
【請求項4】
前記亀裂を生成させる工程が、
外周面に凸状体を有する上下の回転体に植物を挟み込むことによって、果肉に亀裂を生成させるようにしたものである請求項1に記載の長繊維抽出方法。
【請求項5】
果肉の間に長繊維を有してなる植物から長繊維を抽出する長繊維抽出装置において、
前記植物を屈曲させて前記果肉に亀裂を生成させる亀裂生成部と、
当該亀裂生成部で生成された亀裂に対して、当該植物の表面から液体を高圧噴射させて果肉を除去させる高圧噴射部と、
を備えたことを特徴とする長繊維抽出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然の植物の葉や仮茎から長繊維を抽出できるようにした長繊維の抽出方法に関するものであって、例えば、パイナップルの葉、芭蕉、バナナの仮茎から果肉を除去して、長繊維だけを抽出できるようにした長繊維の抽出方法などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、パイナップルの葉や、芭蕉、バナナの仮茎などから50cm以上の長い葉脈長繊維(以下、「長繊維」と称する)を抽出する場合、次のような方法が用いられている。
【0003】
例えば、下記の非特許文献1には、葉や仮茎を平らな板の上に載置し、石や鉄でできたスクレーパを用いて果肉を削ぎ落して長繊維を抽出する方法が提案されており、また、下記の特許文献1には、バナナ長繊維を手で剥ぎ取る方法が提案されている。
【0004】
また、下記の非特許文献2には、パイナップル長繊維を回転ローラーで擦り取って抽出する方法が提案されており、非特許文献3には、長繊維束をさらに爪で一本一本引き裂いて長繊維を抽出する方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、これらのいずれの方法においても、葉や仮茎の長繊維から完全に果肉を除去することができなかった。
【0006】
これに対して、下記の非特許文献4には、平板上に載置された植物に高圧ジェット水を当てて果肉を除去していく方法が提案されており、この方法を用いれば、他の方法に比べて、効果的に果肉を除去することができるが、水圧を高くし過ぎると、長繊維が引きちぎられたり、長繊維が互いに絡みあったりしてしまうという問題があった。また、高圧ジェット水の当て方によっては、長繊維の間に果肉が残留してしまい、一本一本分離した長繊維が得られないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Global Sci. Journals, Vol.7, Issue 1 (2019) pp.317-326
【非特許文献2】Int. J. of Polymer Science, Vol.2012 (doi.org/10.1155 /2015/950567)
【非特許文献3】http://okinoerabu-bashofu.jp/process.html
【非特許文献4】J. of Eng. Fibers and Fabrics, Vol.15, (2020) pp.1-7 (doi: 101177/1558925050940109)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、天然の植物から長繊維を抽出する際に、確実に果肉を除去できるようにした長繊維の抽出方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、果肉の間に長繊維を有してなる植物から長繊維を抽出する長繊維抽出方法において、前記植物を屈曲させて前記果肉に亀裂を生成させる工程と、当該亀裂を生成させた後、当該植物の表面から液体を高圧噴射させて果肉を除去させる工程とを備えるようにしたものである。
【0011】
このように構成すれば、植物を屈曲させて果肉に亀裂を生じさせるようにしているため、長繊維を切断させることなく、また、高圧ジェット水の水圧を上げなくても、簡単に長繊維間の果肉を除去していくことができるようになる。
【0012】
また、このような発明において、長繊維の長手方向に対して、交叉する方向に植物を屈曲させる。
【0013】
このように構成すれば、長繊維の長手方向に沿って高圧ジェット水を噴射させる場合に、長繊維が互いに絡まり合うことがなくなり、確実に果肉を除去することができるようになる。
【0014】
さらに、前記亀裂を生成させる場合、上下に設けられた凹凸を有する押圧体に植物を挟み込んで、果肉に亀裂を生成させる。
【0015】
このように構成すれば、植物の表裏に、交互に亀裂を生じさせることができるとともに、押圧によって長繊維と果肉の密着部分を引き剥がすことができるようになる。
【0016】
また、前記亀裂を生成させる場合、外周面に凸状体を有する上下の回転体に植物を挟み込ませることによって、果肉に亀裂を生じさせるようにする。
【0017】
このように構成すれば、植物の取り込みと搬送を同時に行わせるとともに、植物を凸状体によって屈曲させて、果肉に亀裂を生じさせることができるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、果肉の間に長繊維を有してなる植物から長繊維を抽出する長繊維抽出方法において、前記植物を屈曲させて前記果肉に亀裂を生成させる工程と、当該亀裂を生成させた後、当該植物の表面から液体を高圧噴射させて果肉を除去させる工程とを備えるようにしたので、長繊維を切断させることなく、また、高圧ジェット水の水圧を上げることなく、簡単に長繊維間の果肉を除去していくことができるようになる
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施の形態における亀裂生成装置を示す図
【
図2】同形態においてパイナップルの葉に亀裂を生じさせた状態図
【
図3】別の形態における板状体を用いて果肉に亀裂を生じさせる状態を示す図
【
図4】別の形態における蛇行体を用いて果肉に亀裂を生じさせる状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
この実施の形態における長繊維抽出方法は、果肉の間に長繊維を有してなる植物の葉や仮茎などから長繊維を抽出するものであって、
図1に示すように、亀裂生成装置1を用いて、植物の葉を屈曲させて果肉の表裏に亀裂61(
図2参照)を生じさせ、その後、
図5に示すように、亀裂61を生じた植物の葉に高圧ジェット水を当てて果肉を除去し、その植物から長繊維を抽出できるようにしたものである。以下、本実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
この実施の形態において、長繊維を有する植物としては、複数本の長繊維の間に、水分を多く含んだ柔らかい果肉で覆われる植物が用いられ、例えば、キジカクシ科のサイザルアサ、バナナ科のバナナ、アサ科の芭蕉マニラアサ、亜麻、苧麻などが挙げられる。なお、この実施の形態では、パイナップルの葉を例として説明する。
【0023】
このようなパイナップルの葉6としては、食用に供される果実を採取した後、本来、廃棄されるパイナップルの葉6を葉元近傍から切除したものが用いられる。一般的に、パイナップルの果実の収穫時期である5月から7月頃には、葉6の長さが50cmから100cm程度の長さになり、厚みも、2mm程度となる。そこで、このように大きく育成した長い葉6を用いるようにする。ここで、使用されるパイナップルの葉6としては、採取後、水分を50%以上含有している新鮮なものを用いる。このように水分の多く含有しているパイナップルの葉6を用いると、その葉6を屈曲させた場合に、果肉の表面に亀裂61(
図2参照)を生じやすくなり、その亀裂61に高圧ジェット水を当てて、果肉を除去させやすくすることができる。一方、長期間保管したパイナップルの葉6を使用する場合は、その葉6を一定期間水中に浸漬させ、水分含有率が50%以上となるようにする。ただし、余り水分含有率が高くなった場合は、屈曲によって果肉に亀裂61を生じさせることができないため、水分含有率を50%から70%程度にしておく。
【0024】
このようなパイナップルの葉6から長繊維を抽出する場合、
図5に示すような、高圧ジェット水を噴射させる高圧ジェット器53を用い、噴射される直線状の高圧ジェット水を、長繊維の長手方向に対して直交する方向(
図5の紙面奥行方向)に当てる。そして、パイナップルの葉6を載置させた載置部材51を周回させることで、葉6の全体に高圧ジェット水を当てるようにする。なお、このようにパイナップルの葉6に高圧ジェット水を当てると、水圧によってパイナップルの葉6が動き回ってしまい、高圧ジェット水の当たる方向が不均一になって、長繊維が絡まってしまう。このため、好ましくは、パイナップルの葉6を動かないように押圧する押圧部材52を設けるようにする。なお、この載置部材51を平滑な板状体などで構成されていると、板状体に高圧ジェット水を貫通させることができないため、葉6の表面側の果肉しか除去することができない。このため、高圧ジェット水を下方に貫通させるような部材で構成する。このような部材としては、例えば、メッシュ状の部材、ワイヤーや棒状の部材を平行に並べたものなどを用いることができる。そして、このような載置部材51や押圧部材52の間にパイナップルの葉6を挟み込み、上から高圧ジェット水を噴射させながら、葉6を長繊維の長手方向に沿って移動させるようにする。
【0025】
このように高圧ジェット器53で果肉を除去する場合、パイナップルの葉6の表面が、傷のない平滑な状態であると、高圧ジェット水が果肉と長繊維の間に入り込みにくくなり、果肉をなかなか除去していくことができない。一方、高圧ジェット水の水圧を高くすると、簡単に果肉を取り除くことができるが、水圧によって長繊維が切れてしまう可能性もある。一方、パイナップルの葉6の表面に刃物で切れ目を入れてもよいが、このような刃物で切れ目を入れると、長繊維まで切断してしまう可能性もある。そこで、本実施の形態では、高圧ジェット水の水圧を上げることなく、また、刃物で長繊維を切ることもなく、その長繊維を覆う果肉に亀裂61を生じさせるようにしている。
【0026】
このような亀裂61を生じさせるための亀裂生成装置1としては、種々の装置を採用することができるが、例えば、
図1に示すように、上下に対向する回転体2の間にパイナップルの葉6を挟み込んで、果肉に亀裂61を生じさせるような装置を用いることができる。
【0027】
この回転体2は、パイナップルの葉6の短手寸法の幅よりも幅広い円柱状に構成されるものであって、外周面から放射状に設けられた凸状体21を、上下に挟み込ませて回転させるように構成されている。なお、これらの凸状体21の隙間を設定する場合、その隙間が狭いと、パイナップルの葉6を引き込んで蛇行させる際に、凸状体21との摩擦によって長繊維が引っ張られて切断されてしまう。そこで、長繊維が切断されないように、対向する回転体2の凸状体21の隙間を、比較的大きく空けるようにしている。そして、上下に設けられた回転体2の凸状体21によって、パイナップルの葉6を大きく屈曲させて、果肉の上下に、交互に亀裂61を生じさせるようにしている。このとき、パイナップルの葉6の水分含有量が50%程度であれば、長繊維を切断させることがなくなり、かつ、果肉に奥深く亀裂61を生じさせることができるようになる。また、このように上下の凸状体21の間にパイナップルの葉6を挟み込んで搬送させるようにすれば、連続的に長繊維を抽出していくことができるようになるとともに、噛み合う凸状体21による押圧力によって、パイナップルの葉6を厚み方向に圧縮させることができ、長繊維と果肉の密着部分を引き剥がすことができるというメリットもある。
【0028】
なお、ここでは、回転体2を上下に固定して設ける場合について説明したが、パイナップルの葉6の厚みによって最適な回転体2の隙間が変わるため、一方の回転体2を上下方向に対して動くようにしておき、パイナップルの葉6の厚みに応じて隙間を変化させるようにしてもよい。このような方法としては、一方の回転体2の軸受に、駆動する回転体2側に向けて押圧するバネなどを設けておき、常に回転体2同士をそれぞれ押圧させるようにしておくとよい。そして、それぞれの回転体2の最小隙間幅を、1mm程度に設定しておき、これによって、薄い葉や厚い葉についても、それぞれの厚みに応じて強く屈曲させて、果肉に亀裂61を生じさせるようにしておく。
【0029】
さらに、別の方法として、
図3に示すように、上下に設けられた板状体3の表面に深い凹凸31を設けておき、そこにパイナップルの葉6を挟み込んで上下方向から押圧し、パイナップルの葉6を屈曲させて、長繊維を切断させることなく、果肉に亀裂61を生じさせるようにしてもよい。
【0030】
あるいは、
図4に示すように、波板状の蛇行体4の上にパイナップルの葉6を載せ、パイプなどの線状体41を凹部の隙間に深く入り込ませて、パイナップルの葉6を強く屈曲させ、果肉に亀裂61を生じさせるようにしてもよい。
【0031】
そして、これらの方法によって、果肉に亀裂61を生じさせた後、
図5に示すように、パイナップルの葉6を果肉除去装置5の載置部材51の上に載せ、押圧部材52で上から押圧して、高圧ジェット器53で高圧ジェット水を噴射する。
【0032】
高圧ジェット器53から直線状の高圧ジェット水を噴射させる場合、その直線状の高圧ジェット水をパイナップルの葉6の長手方向に対して直交する方向に噴射させ、葉6を長手方向に沿って移動させる。
【0033】
すると、長繊維と直交する方向に生成された果肉の亀裂61部分に高圧ジェット水が当たり、果肉を削ぎ落すように除去していくことができるようになる。また、パイナップルの葉6の表裏に交互に亀裂61を設けているため、表面側の亀裂61から入った高圧ジェット水が、裏面側の果肉の亀裂61の存在しない部分に当たり、裏面側の果肉を内側から高圧ジェット水を押し当てて高圧ジェット水の噴射方向に除去していくことができるようになる。
【0034】
そして、このように高圧ジェット水とともに除去した果肉を、載置部材51から下方へと貫通させる。
【0035】
次に、このように果肉を除去した長繊維に対してエアーを吹き当てて水分を除去し、果肉の落とし難い両端部分を切除して、長繊維のみを抽出する。
【0036】
このように上記実施の形態によれば、果肉の間に長繊維を有してなる植物から長繊維を抽出する長繊維抽出方法において、前記植物を屈曲させて前記果肉に亀裂61を生成させる工程と、当該亀裂61を生成させた後、当該植物の表面から液体を高圧噴射させて果肉を除去させる工程とを備えるようにしたので、長繊維を切断させることなく、また、ジェット水の水圧を上げなくても、簡単に長繊維の間の果肉を削ぎ落すことができるようになる。
【0037】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
【0038】
例えば、上記実施の形態では、パイナップルの葉6を強く屈曲させて果肉に亀裂61を生じさせた後、高圧ジェット水を噴射させるようにしたが、パイナップルの葉6を屈曲させて亀裂61を生じさせながら、高圧ジェット水を噴射させるようにしてもよい。このような方法としては、例えば、径の小さな回転体にパイナップルの葉6を巻き付けるようにして回転させ、ローラーによって亀裂61を生じさせるとともに、その亀裂61を開かせた状態で、高圧ジェット水を当てるようにしてもよい。このようにすれば、亀裂61の開いた部分に高圧ジェット水を当てることができるため、より簡単に果肉を除去していくことができるようになる。
【0039】
さらに、上記実施の形態では、果肉に亀裂61を生じさせる場合、長繊維の長手方向と直交する方向に亀裂61を生じさせるようにしたが、長繊維に対して斜め方向に亀裂61を生じさせるようにしてもよく、あるいは、長繊維と平行に亀裂61を生じさせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1・・・亀裂生成装置
2・・・回転体
21・・・凸状体
3・・・板状体
31・・・凹凸
4・・・蛇行板
41・・・線状体
5・・・果肉除去装置
51・・・載置部材
52・・・押圧部材
53・・・高圧ジェット器
6・・・パイナップルの葉
61・・・亀裂