(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023149333
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】遠心式流体機械
(51)【国際特許分類】
F04D 29/44 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
F04D29/44 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022057849
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】平舘 澄賢
(72)【発明者】
【氏名】橋本 竜一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一樹
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA12
3H130AB26
3H130AB42
3H130AC30
3H130BA66B
3H130BA97A
3H130BA97B
3H130BA98A
3H130BA98B
3H130CA03
3H130DG02X
3H130EB03B
(57)【要約】 (修正有)
【課題】吸込流路の一層の小型化を進めた際にも、低コスト、高性能な遠心式流体機械を提供する。
【解決手段】吸込流路8は、吸込ノズル3内に相当する吸込ノズル流路部と、前記吸込ノズル3に作動ガスを反吸込ノズル側へと回り込ませるための環状流路部10と、該環状流路部10と接続されていると共に、前記環状流路部10からの流れを半径方向内向きから軸方向へと転向させるL字ベンド部を有している遠心式流体機械であって、前記ケーシング5は、前記吸込ノズル3の入口フランジ部と前記環状流路の外径との間の途中位置から前記環状流路の内径位置のうちで、その周方向範囲が前記回転軸方向から見た際に、前記吸込ノズル3が取り付けられている付近にかけての前記ケーシング5の壁面のうちの前記回転軸方向の上流側端の壁面が前記回転軸方向の上流側に隆起した壁面隆起構造物20Aを有していることを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、該回転軸に取り付けた遠心羽根車と、前記回転軸及び前記遠心羽根車を収容する円筒状のケーシングと、該ケーシングの初段羽根車側の端部に吸込ケーシングとを備え、
遠心式流体機械に作動ガスを導くために前記円筒状のケーシングの側面部に吸込ノズルを設け、この吸込ノズルから吸い込まれた前記作動ガスを遠心羽根車に導く吸込流路を、前記円筒状のケーシング及び前記吸込ケーシングの内部に形成し、前記吸込流路は、前記吸込ノズル内に相当する吸込ノズル流路部と、前記吸込ノズルに前記作動ガスを反吸込ノズル側へと回り込ませるための環状流路部と、該環状流路部と接続されていると共に、前記環状流路部からの流れを半径方向内向きから軸方向へと転向させるL字ベンド部を有している遠心式流体機械であって、
前記ケーシングは、前記吸込ノズルの入口フランジ部と前記環状流路部の外径との間の途中位置から前記環状流路部の内径位置のうちで、その周方向範囲が前記回転軸方向から見た際に、前記吸込ノズルが取り付けられている付近にかけての前記ケーシングの壁面のうちの前記回転軸方向の上流側端の壁面が、前記回転軸方向の上流側に隆起した壁面隆起構造物を有していることを特徴とする遠心式流体機械。
【請求項2】
前記壁面隆起構造物は、前記吸込ノズル流路部から鉛直方向下側に流入する流れを左右の前記環状流路部に振り分けることを特徴とする請求項1に記載の遠心式流体機械。
【請求項3】
前記壁面隆起構造物の半径方向における隆起開始半径は前記吸込ノズルのフランジ部と前記環状流路部の外径の間、前記壁面隆起構造物の半径方向における隆起終了位置は前記吸込ノズルのフランジ部と前記吸込ノズル側の前記環状流路部の内径の間であることを特徴とする請求項1又は2に記載の遠心式流体機械。
【請求項4】
前記壁面隆起構造物の前記吸込ノズル側の隆起開始半径位置から前記環状流路部の内径側壁面位置に相当する隆起終了半径位置にかけての前記回転軸の上流側から見た際の前記壁面隆起構造物の横方向の隆起幅が、前記壁面隆起構造物の隆起開始位置から隆起終了位置に向うに従って徐々に広がっていることを特徴とする請求項3に記載の遠心式流体機械。
【請求項5】
前記壁面隆起構造物の隆起終了半径位置における壁面隆起の横方向の広がり幅は、前記隆起終了半径位置における前記吸込ノズルと前記壁面隆起構造物との両壁面で構成される流路の横方向流路幅が、前記環状流路部の径方向高さに対して同等になるように決定されることを特徴とする請求項4に記載の遠心式流体機械。
【請求項6】
前記壁面隆起構造物は、前記遠心式流体機械の縦断面中心線上において、回転軸方向の上流側への隆起高さが最大になると共に、縦断面中心線から横方向に離れるに従って前記回転軸方向の上流側への隆起高さが線形的に小さくなるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の遠心式流体機械。
【請求項7】
前記壁面隆起構造物は、前記遠心式流体機械の縦断面中心線上において、回転軸方向の上流側への隆起高さが最大になると共に、縦断面中心線から横方向に離れるに従って前記回転軸方向の上流側への隆起高さが非線形的に小さくなるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の遠心式流体機械。
【請求項8】
前記壁面隆起構造物の前記回転軸方向の隆起高さは、前記壁面隆起構造物の全域にわたって一定であることを特徴とする請求項3に記載の遠心式流体機械。
【請求項9】
前記壁面隆起構造物の最大隆起高さは、前記環状流路部の内径の半径位置における前記ケーシングの上流側端の軸方向位置までであることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の遠心式流体機械。
【請求項10】
前記壁面隆起構造物を前記回転軸方向の上流側から見た際に、前記吸込ノズル側の隆起開始位置における前記壁面隆起構造物の先端は尖頭状となっていると共に、前記壁面隆起構造物の隆起終了位置においては、前記環状流路部の内径位置に相当する円弧に対し滑らかに接続されていることを特徴とする請求項3に記載の遠心式流体機械。
【請求項11】
前記壁面隆起構造物を前記回転軸方向の上流側から見た際に、前記吸込ノズル側の隆起開始位置における前記壁面隆起構造物の先端は鈍頭状となっていると共に、前記壁面隆起構造物の隆起終了位置においては、前記環状流路部の内径位置に相当する円弧に対し滑らかに接続されていることを特徴とする請求項3に記載の遠心式流体機械。
【請求項12】
前記壁面隆起構造物は、前記ケーシングと一体で成形されていることを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の遠心式流体機械。
【請求項13】
前記壁面隆起構造物は、前記ケーシングと別部材で構成されると共に、前記ケーシングに締結部材で締結されていることを特徴とする請求項1乃至11の何れか1項に記載の遠心式流体機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遠心式流体機械に係り、特に、遠心式流体機械に作動ガスを導く吸込流路を備えているものに好適な遠心式流体機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、遠心式流体機械には、遠心式流体機械に作動ガスを導くための吸込流路がケーシングの側面部に設けられている。
【0003】
この遠心形流体機械における吸込流路の例が、特許文献1及び2に記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の遠心形流体機械における従来の吸込流路は、遠心圧縮機の初段羽根車への流入流れの周方向への流量分布を均一化するため、吸込ケーシングの流路内に、羽根車回転軸と同心の円弧状のガイドフェンスを設けている。
【0005】
このガイドフェンスの回転軸方向の高さ(軸方向高さ)は、吸込ケーシング内の流路における半径位置での流路軸方向高さよりも低くなっており、吸込ノズルから噴流状に流入する作動ガスの一部を、ガイドフェンスに沿って流れるようにすることで、作動ガスの流れを反吸込ノズル側まで回り込ませ、初段羽根車への流入流れの速度分布の均一化を図っている。
【0006】
一方、特許文献2に記載の遠心形流体機械における従来の吸込流路は、遠心圧縮機の初段羽根車への流入流量の周方向への流量分布を均一化するため、吸込ノズル中の上流側整流部に、吸込配管の開口部から導入される作動ガスが反吸込ノズル側の左右へとなるべく同流量で流れるよう分離するための径方向に延びる翼型状の断面を有する整流フィンを設けると共に、作動ガスを反吸込ノズル側へと導く流路内に、作動ガスの流通方向を案内するためのインレットガイドベーンを、円周方向に間隔を空けて複数設置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-200489号公報
【特許文献2】特開2016-142200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
遠心式流体機械においては、近年、コスト低減や機場内における省スペース化の観点から、より一層の小型化が求められている。遠心式流体機械の小型化では、遠心式流体機械全体の回転軸方向の長さは少なくとも現状と同等に保ちつつ、遠心式流体機械を小径化することが必要となる。これに伴い上述した吸込流路についても、回転軸方向の長さは現状と同等としながら、小径化する必要がある。
【0009】
このように、吸込流路の一層の小型化を進めて行くと、吸込流路の外径が小さくなることで流路断面積が減少していく。そのため、吸込ノズルから噴流状に流入する作動ガスを、反吸込ノズル側まで回り込ませるために設置する特許文献1或いは特許文献2に記載されているようなガイドフェンスや整流フィン、インレットガイドベーンなどの構造物を、吸込流路内に設置するためのスペースが十分確保できなくなる。
【0010】
また、吸込ノズルから噴流状に流入する作動ガスを、反吸込ノズル側まで回り込ませるための十分な流路断面積が確保できなくなるため、特許文献1或いは特許文献2に記載されているような整流構造物を限られたスペース内に設置したとしても、作動ガスの回り込みが十分に生じなくなり、吸込ノズル設置位置付近の吸込流路部分のみを作動ガスが集中的に流れるようになってしまう。
【0011】
このようなことから、初段羽根車への流入流れの周方向への流量分布の均一性や、初段羽根車の設計入口羽根角に対する流れのマッチングが、著しく悪化してしまう。
【0012】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、その目的とするところは、吸込流路の一層の小型化を進めた際にも、吸込ノズルからの流れを反吸込ノズル側まで十分に回り込ませ、初段羽根車への流入流れの周方向への流量分布の一様性や初段羽根車の設計入口羽根角に対する流れのマッチングを向上させ、低コストで、かつ、高性能とすることが可能な遠心式流体機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の遠心式流体機械は、上記目的を達成するために、回転軸と、該回転軸に取り付けた遠心羽根車と、前記回転軸及び前記遠心羽根車を収容する円筒状のケーシングと、該ケーシングの初段羽根車側の端部に吸込ケーシングとを備え、
遠心式流体機械に作動ガスを導くために前記円筒状のケーシングの側面部に吸込ノズルを設け、この吸込ノズルから吸い込まれた前記作動ガスを遠心羽根車に導く吸込流路を、前記円筒状のケーシング及び前記吸込ケーシングの内部に形成し、前記吸込流路は、前記吸込ノズル内に相当する吸込ノズル流路部と、前記吸込ノズルに前記作動ガスを反吸込ノズル側へと回り込ませるための環状流路部と、該環状流路部と接続されていると共に、前記環状流路部からの流れを半径方向内向きから軸方向へと転向させるL字ベンド部を有している遠心式流体機械であって、
前記ケーシングは、前記吸込ノズルの入口フランジ部と前記環状流路の外径との間の途中位置から前記環状流路の内径位置のうちで、その周方向範囲が前記回転軸方向から見た際に、前記吸込ノズルが取り付けられている付近にかけての前記ケーシングの壁面のうちの前記回転軸方向の上流側端の壁面が前記回転軸方向の上流側に隆起した壁面隆起構造物を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吸込流路の一層の小型化を進めた際にも、吸込ノズルからの流れを反吸込ノズル側まで十分に回り込ませ、初段羽根車への流入流れの周方向への流量分布の一様性や初段羽根車の設計入口羽根角に対する流れのマッチングを向上させ、低コストで、かつ、高性能な遠心式流体機械とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一般的な多段遠心圧縮機を示す縦断面図である。
【
図3】本発明の多段遠心圧縮機の実施例1における吸込流路付近を示す縦断面図である。
【
図5(a)】本発明の多段遠心圧縮機の実施例1における壁面隆起構造物の一例を示す
図4のB-B線に沿った断面図である。
【
図5(b)】本発明の多段遠心圧縮機の実施例1における壁面隆起構造物の他の例を示す
図4のB-B線に沿った断面図である。
【
図5(c)】本発明の多段遠心圧縮機の実施例1における壁面隆起構造物の更に他の例を示す
図4のB-B線に沿った断面図である。
【
図6】本発明の多段遠心圧縮機の実施例2における
図4に相当する断面図である。
【
図7】本発明の多段遠心圧縮機の実施例3における
図4に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図示した実施例に基づいて本発明の遠心式流体機械を説明する。なお、以下に説明する各図において、同一の構成部品には同符号を使用し、説明が重複する場合は、その説明を省略する場合がある。また、本実施例では、多段遠心圧縮機を例にして説明するが、その他の遠心式流体機械にも本発明は適用可能である。
【実施例0017】
図1は、一般的な多段遠心圧縮機100の縦断面図であり、
図2は、
図1に示した多段遠心圧縮機100のA-A線に沿った断面図である。
【0018】
図1に示すように、多段遠心圧縮機100は、1本の回転軸2に複数の遠心羽根車1が取り付けられており、回転軸2の両端部は、軸受ケース14aに保持された軸受14bで回転自在に支承されている。
【0019】
各段の遠心羽根車1の半径方向外径側には、作動ガスの流路がほぼ径方向に形成されており、この流路は、ディフューザを形成する。ディフューザには、周方向に間隔を置いて配置された複数の翼を有する羽根付ディフューザや翼を全く有しない羽根なしディフューザが用いられる。
図1では、羽根付ディフューザ15を示している。
【0020】
羽根付ディフューザ15の下流側は、次段の遠心羽根車1への吸込流路を形成するために、作動ガスの流れを半径方向外向き流れから半径方向の内向き流れにするリターンチャネル16となっている。
【0021】
このリターンチャンネル16には、作動ガスの流れを整流するために、リターンベーン17が周方向に間隔をおいて配置されている。羽根付ディフューザ15及びリターンチャンネル16は、静止流路12を構成する。
【0022】
最終段の下流側であって、かつ、遠心羽根車1の半径方向外側には、スクロール18が形成されており、最終段の遠心羽根車1から流出する高圧の作動ガスを集めて吐出ノズル13から機外へと吐出するように構成されている。
【0023】
羽根付ディフューザ15とリターンチャンネル16との間であって、ケーシング5と回転軸2との間には、回転軸2と僅かな隙間をもって前段の遠心羽根車1から吐出された作動ガスが後段の遠心羽根車1に流入するのを防止するための軸封部19が取り付けられている。
【0024】
軸封部19は、最終段の遠心羽根車1から吐出された作動ガスが、スクロール18に流入することなく直接機外に漏洩するのを防止するために、最終段の遠心羽根車1の裏面側にも回転軸2と僅かな隙間をもって配置されている。
【0025】
また、機外から初段の遠心羽根車1に直接流入するのを防止するために、初段の遠心羽根車1の吸込側であって軸方向前方にも回転軸2と僅かな隙間をもって配置されている。これらの軸封部19には、通常、ラビリンスシールが用いられている。
【0026】
初段の遠心羽根車1に作動ガスを導入する吸込ケーシング6の形状は、その他の段の静止流路12とは異なった形状となっている。即ち、遠心羽根車1及び回転軸2を収容する円筒形のケーシング5の初段の遠心羽根車1側の端部には、吸込ケーシング6が形成されている。
【0027】
そして、吸込ケーシング6では、初段の遠心羽根車1での軸方向への吸込を可能にするために、ケーシング5の円筒側面部に、その入口(吸込ノズルフランジ部4)の断面形状が円形であり、内径側に行くに従って断面形状が、
図1に示す多段遠心圧縮機100の中心断面に対して面対称となるオーバル形となるような断面形状を有する吸込ノズル3が形成されている。
【0028】
この吸込ノズル3から吸い込まれた作動ガスは、半径方向内側に導かれ初段の遠心羽根車1の吸込部に流入する。
【0029】
ここで、作動ガスの機外からの導入口である吸込ノズルフランジ部4から初段の遠心羽根車1の吸込口1aまでの間のケーシング5、並びに吸込ケーシング6で囲まれた内部の空間を以下、作動ガスが通過する吸込流路8と呼ぶ。
【0030】
吸込流路8は、吸込ノズル3が存在する位置に相当する吸込ノズル流路部9と、吸込ノズル流路部9と内径側において接続され、円環状に形成された作動ガスを吸込ノズル3に近い側(吸込ノズル3側)から遠い側(反吸込ノズル側)へと回り込ませるために設けられた環状流路部10及び環状流路部10と内径側において接続され、作動ガスを半径方向内向きから回転軸2の下流側方向へと転向させるL字ベンド部11とから構成される。
【0031】
図1に示すように、環状流路部10は、半径方向には環状流路外径10aと環状流路内径10bとの間で、回転軸方向(以下、軸方向という)には、ケーシング5の回転軸方向上流側端の壁面5aと吸込ケーシング6の回転軸方向下流側端の壁面6aとの間でそれぞれ囲まれて形成される領域である。
【0032】
なお、環状流路部10における反吸込ノズル側への作動ガスの回り込み促進を狙い、環状流路内径10bの位置における環状流路部10の軸方向幅は、環状流路外径10aの位置における環状流路部10の軸方向幅よりも狭めて設定されることが多い。環状流路内径10bの半径方向位置については、環状流路部10の軸方向の流路幅が、L字ベンド部11の外径側の軸方向流路幅と略等しくなった位置として定義する。
【0033】
図2は、
図1のA-A線に沿った断面図であり、吸込ノズル流路部9を高速で流通する作動ガスは、吸込ノズル流路部9の出口、即ち、吸込ノズル流路部9と環状流路部10の外径10a1の位置における接続部において環状流路部10内に噴流状に流入する。
【0034】
そのため、作動ガスの多くは、吸込ノズル流路部9からの流入流れ方向7を維持したまま、全周にわたって存在する環状流路部10及びL字ベンド部11のうち、吸込ノズル3が設置してある周方向範囲(以下、吸込ノズル直下部3aという)を集中して流れ、初段の遠心羽根車1の吸込口1aに流入する。
【0035】
一方、吸込ノズル直下部3a付近を通過しない作動ガスは、環状流路部10を反吸込ノズル側(
図2の下側)へと回り込みながら各周方向位置においてL字ベンド部11に流入し(
図2の下部の環状流路部10からL字ベント部11に流入している矢印で示す流れ)、更に、初段の遠心羽根車1の吸込口1aへと至る。
【0036】
そのため、通常、初段の遠心羽根車1の吸込口1aでは均一な流量の流れとはならず、吸込ノズル3側の流量が大で、反吸込ノズル側の流量が小となる不均一な流量分布となる。
【0037】
ここで、多段遠心圧縮機100が従来並みのサイズである場合の吸込流路8内の吸込ノズル流路部9及び環状流路部10の外径10a2の流路壁面形状線のイメージを、
図2中に一点鎖線で示し、また、この際の環状流路部10の径方向高さを両矢印10cとして示している。
【0038】
一方、多段遠心圧縮機100を小径化した場合の吸込流路8内の吸込ノズル流路部9及び環状流路部10の外径10a1の流路壁面形状線のイメージを、
図2中に太実線(環状流路部10の外径10a1)で示し、また、この際の環状流路部10の径方向高さを両矢印10dとして示している。
【0039】
多段遠心圧縮機100が従来並みのサイズである場合、環状流路部10の径方向高さ10cが十分大きく取れるため、環状流路部10を通過する作動ガスが反吸込ノズル側へ比較的回り込み易くなるため、初段の遠心羽根車1の吸込口1aにおける流量分布の不均一性は比較的小さい。
【0040】
しかしながら、多段遠心圧縮機100を小径化した場合、環状流路内径10bは従来から変化しないため(多段遠心圧縮機100の小径化とは、遠心羽根車1の径はそのままで、ケーシング5の外径を小さくすることなので、環状流路内径10bは従来から変化しない)、環状流路部10の径方向高さ10dが非常に小さくなり、また、環状流路部10の軸方向流路幅も従来同等とする必要があるため、環状流路部10を通過する作動ガスの反吸込ノズル側への回り込みが大幅に悪化し、初段の遠心羽根車1の吸込口1aにおける流量分布の不均一性が極めて大きくなる。
【0041】
また、作動ガスの環状流路部10を通っての反吸込ノズル側への回り込みが十分行われないことで、吸込ノズル流路部9からの流入流れ方向7、即ち、
図2の鉛直方向下側を維持したまま大半の作動ガスがL字ベンド部11に流入してしまう。
【0042】
そのため、L字ベンド部11のうちで特に吸込ノズル直下部3aよりも反吸込ノズル側に位置する領域(
図2の吸込ノズル直下部3aを表している点線部分より下側の領域)では、作動ガスが大きな予旋回成分を有し、その結果、軸方向に対して大きな旋回角を持って初段の遠心羽根車1の吸込口1aに流入してしまう。
【0043】
これにより、初段の遠心羽根車1の設計入口羽根角に対する流入流れのマッチングが悪化し、効率の低下や作動範囲の悪化を招いてしまう。加えて、環状流路部10の流路断面積が非常に小さくなると共に、L部ベンド部11において、作動ガスが半径方向内向きに流れる部分の半径方向の流路長も短くせざるを得ない。
【0044】
従って、作動ガスの反吸込ノズル側への回り込みを促進するためのガイドフェンスや整流フィン、インレットガイドベーンなどの構造物も設置できなくなるため、初段の遠心羽根車1の吸込口1aにおける流量分布の不均一性の悪化を改善する従来手法も活用が困難となってしまう。
【0045】
そこで、本実施例では、多段遠心圧縮機100を小径化した際にも、初段の遠心羽根車1の吸込口1aにおける流量分布の不均一性や設計入口羽根角に対する流入流れのマッチングの悪化を抑制するため、ケーシング5の軸方向上流側端の壁面5aを軸方向上流側に向けて部分的に隆起させた壁面隆起構造物20Aを設けている。
【0046】
そして、この壁面隆起構造物20Aにより、吸込ノズル流路部9から鉛直方向下側に流入する流れを積極的に左右の環状流路に振り分けることで、流入流れがそのまま吸込ノズル直下部3a付近の環状流路部10へと流れ込むことを防止している。
【0047】
この壁面隆起構造物20Aの形状とその設置効果の詳細を、
図3及び
図4を用いて説明する。
【0048】
図3は、本発明の実施例における多段遠心圧縮機100の吸込流路付近の縦断面図を、また、
図4は、
図3に示した多段遠心圧縮機100のA-A線に沿った断面図を示す。
【0049】
図3に示すように、本実施例における壁面隆起構造物20Aの半径方向における隆起開始半径20aは、吸込ノズルフランジ部4と環状流路外径10a1の間、隆起終了位置20bは、吸込ノズルフランジ部4と吸込ノズル側の環状流路内径10bの間となっている。
【0050】
また、
図4に示すように、本実施例における壁面隆起構造物20AのA-A線に沿った断面内における横方向の広がり幅は、壁面隆起構造物20Aの隆起開始半径20aから隆起終了半径である環状流路内径10bに相当する円弧内のうちの吸込ノズル直下部3a付近にかけて、
図4中の横向きの両矢印20cで示すように、内径側に(隆起終了位置20bに)向かうに従って徐々に広がる構造となっている。
【0051】
なお、壁面隆起構造物20Aの隆起終了位置20bにおける壁面隆起の横方向の広がり幅20cは、隆起終了半径位置における吸込ノズル3と壁面隆起構造物20Aの両壁面で構成される流路の横方向流路幅20dが、環状流路部10の径方向高さ10dに対して同等になるように決定するのが、この付近の作動ガスの急な加減速が生じないようにするために望ましい。
【0052】
更に、本実施例における壁面隆起構造物20Aの軸方向上流側への隆起の形状詳細について説明するため、
図5(a)、
図5(b)、
図5(c)に、
図4のB―B線に沿った断面における吸込流路8の流路断面図を示す。
【0053】
図5(a)に示すように、本実施例における壁面隆起構造物20A1は、図中に縦の一点鎖線で示す多段遠心圧縮機100の縦断面中心線上において、その軸方向上流側への隆起高さが最大となり、縦断面中心線から横方向に離れるに随って、その軸方向上流側への隆起高さが線形的に小さくなるように断面三角形状に構成しても良い。
【0054】
また、
図5(b)に示すように、本実施例における壁面隆起構造物20A2は、縦断面中心線上において、その軸方向上流側への隆起高さが最大となる一方、縦断面中心線から横方向に離れるに従って、その軸方向上流側への隆起高さが非線形的に小さくなるように断面半円形状に構成しても良い。
【0055】
更に、
図5(c)に示すように、本実施例における壁面隆起構造物20A3は、壁面隆起の横方向の広がり幅20cの全域にわたって、その軸方向上流側への隆起高さが一定となるように、断面長方形状に構成しても良い。
【0056】
このように、壁面隆起構造物20Aの隆起領域の軸方向上流側への隆起高さについては様々な形状が考えられるが、壁面隆起の成形の容易さの観点からは、
図5(c)に示す壁面隆起構造物20A3のような壁面隆起の横方向の広がり幅20cの全域にわたって、その軸方向上流側への隆起高さが一定となるように構成するのが望ましい。
【0057】
なお、本実施例における壁面隆起構造物20Aの軸方向上流側への最大隆起高さを、
図3中の左右方向の両矢印或いは
図5(a)、
図5(b)、
図5(c)の上下方向の両矢印20eとして示している。
【0058】
本実施例の壁面隆起構造物20Aの最大隆起高さ20eは、ケーシング5の上流側端の壁面5aを始点として軸方向上流側に向けて自由に設定可能であるが、その最大値は、環状流路内径10bの半径位置におけるケーシング5の上流側端の壁面5aの軸方向位置までとし、壁面隆起構造物20Aの軸方向上流側端がL字ベンド部11の流路中まで至らないようにする。
【0059】
このようにすることで、壁面隆起構造物20AとL字ベンド部11との間に、外径側流路壁面が軸方向上流側に突出するような壁面段差が生じることを防止し、L字ベンド部11を半径方向内側へと流通する作動ガスの流れに剥離が生じないようにすることができる。
【0060】
また、壁面隆起構造物20Aによる吸込ノズル流路部9から鉛直下側方向に流入する流れの左右環状流路への振り分け効果を最大化する観点から、壁面隆起構造物20Aによる最大隆起高さ20eは、上記最大値、即ち、環状流路内径10bの半径位置におけるケーシング5の上流側端の壁面5aの軸方向位置までに設定するのが望ましい。
【0061】
本実施例のような壁面隆起構造物20Aを設けることによる効果を、以下に説明する。
【0062】
まず、壁面隆起構造物20Aを、吸込ノズル流路部9の隆起開始半径20aから環状流路内径10bまで、比較的広い空間が存在する吸込ノズル直下部3a付近の周方向領域に限定して設置しているため、多段遠心圧縮機100を小径化した際にも、作動ガスの反吸込ノズル側への回り込みを促進するための構造物の設置を容易にしている。
【0063】
また、この壁面隆起構造物20Aの設置により、吸込ノズル流路部9から鉛直下側方向に流入する流れの大半を積極的に左右の環状流路に振り分けることが可能となり、流入流れの大半がそのまま吸込ノズル直下部3a付近の環状流路部10へと流れ込むことが防止される。
【0064】
従って、多段遠心圧縮機100を小径化した際にも、初段の遠心羽根車1の吸込口1aにおける流量分布の均一性を改善することが可能となる。
【0065】
ここで、吸込ノズル流路部9から鉛直下側方向に流入する流れの一部は、上記した壁面隆起構造物20Aにより左右に振り分けられることなく、そのままL字ベンド部11に到達する。
【0066】
しかしながら、そのような流入流れの状態となる領域は、吸込ノズル直下部3a付近の周方向領域内で、かつ、L字ベンド部11の流路が存在する軸方向領域内に限定される。
【0067】
この領域を通過して流入する作動ガスのイメージを、
図4の吸込ノズル直下部3a付近の周方向領域内のL字ベンド部11付近に下向きの点線矢印として示している。
【0068】
図4に示すように、この領域を通過して流入する作動ガスは、鉛直方向下側向きに環状流路部10とL字ベンド部11を流下して初段の遠心羽根車1の吸込口1aまで至ったとしても、軸方向に対して大きな旋回角を持つことがないため、初段の遠心羽根車1の設計入口羽根角に対する流入流れのマッチングの悪化をもたらすことはない。
【0069】
一方、壁面隆起構造物20Aにより環状流路部10の左右方向に振り分けられた大半の作動ガスのイメージを、
図4の環状流路部10からL字ベンド部11にかけての実線の矢印で示している。
【0070】
このように、壁面隆起構造物20Aにより環状流路部10の左右方向に振り分けられた大半の作動ガスは、環状流路部10を回り込みながら回転軸中心方向に向きを変えつつL字ベンド部11を通過し、初段の遠心羽根車1の吸込口1aまで至る。
【0071】
従って、軸方向に対して大きな旋回角を持つことなく初段の遠心羽根車1へと流入することになり、初段の遠心羽根車1の設計入口羽根角に対する流入流れのマッチングが良好に保たれる。
【0072】
このように、多段遠心圧縮機100を小径化した際にも、初段の遠心羽根車1の設計入口羽根角に対する流入流れのマッチングを、初段の遠心羽根車1の吸込口1aにおける全域で良好に保ち、効率の低下や作動範囲の悪化を防止することが可能となる。
【0073】
また、上述したように、壁面隆起構造物20Aの設置領域が狭い範囲に限定され、吸込流路8内の作動ガスの流下方向への急な加減速が生じないよう流路形状が調整されていると共に、壁面隆起構造物20AとL字ベンド部11との間に、外径側流路壁面が軸方向上流側に突出するような壁面段差が生じないように設定されている。
【0074】
従って、壁面隆起構造物20Aを設置したことによる流入流れの流路壁面への衝突により生じる損失や作動ガスの急な加減速により生じる剥離損失、吸込流路8内の流路に存在する壁面突起により生じる剥離損失などの圧力損失の発生が抑制される。
【0075】
このため、流路中に障害物となる壁面隆起構造物20Aを設置していても、多段遠心圧縮機100の効率が悪化することがない。
【0076】
なお、本実施例における壁面隆起構造物20Aは、
図4に示すように、軸方向上流側から見た場合に略三角形状の形状としている。この場合、壁面隆起構造物20Aの左右の流路壁面と、環状流路内径10bとの接続部が滑らかに接続されない場合があるため、
図6或いは
図7のように、壁面隆起構造物20Aを構成しても良い。