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特開2023-151095上向流処理装置および上向流処理装置による処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023151095
(43)【公開日】2023-10-16
(54)【発明の名称】上向流処理装置および上向流処理装置による処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/78 20230101AFI20231005BHJP
【FI】
C02F1/78
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022060533
(22)【出願日】2022-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】522131192
【氏名又は名称】渡▲邉▼ 酉造
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡▲邉▼ 酉造
【テーマコード(参考)】
4D050
【Fターム(参考)】
4D050AA02
4D050AB55
4D050BB02
4D050BD02
4D050BD03
4D050BD04
4D050CA20
(57)【要約】
【課題】処理水の回収率を向上できる上向流処理装置および上向流処理装置による処理方法を提供すること。
【解決手段】上向流処理装置1は、槽体2と、槽体2に充填される処理材4と、槽体2の下部に井戸水を流入させる流入部3と、井戸水にオゾンを注入する注入部5と、処理材4で構成される処理層41を通過した処理水を集水する集水部6と、を備え、処理材4は、金属、または、金属を表面にコーティングした担体にて構成されることを特徴とする
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽体と、
前記槽体に充填される処理材と、
前記槽体の下部に被処理水を流入させる流入部と、
前記被処理水に酸化剤を注入する注入部と、
前記処理材で構成される処理層を通過した処理水を集水する集水部と、を備え、
前記処理材は、金属、または、金属を表面にコーティングした担体にて構成される
ことを特徴とする上向流処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の上向流処理装置において、
前記処理層を流動させる流動装置を備える
ことを特徴とする上向流処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の上向流処理装置において、
前記流動装置は、前記処理層を上部から下部に向かって順次流動させる水流撹拌部を備える
ことを特徴とする上向流処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の上向流処理装置において、
前記処理材は、砂鉄、または、酸化鉄がコーティングされた前記担体にて構成される
ことを特徴とする上向流処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の上向流処理装置において、
前記酸化剤は、オゾンである
ことを特徴とする上向流処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の上向流処理装置において、
前記処理層内において、前記被処理水に前記酸化剤を注入して混合させる
ことを特徴とする上向流処理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の上向流処置装置による処理方法であって、
前記酸化剤を注入した前記被処理水を前記処理層の下部から前記槽体の内部に流入させ、前記処理層を通過した処理水を前記集水部から集水する
ことを特徴とする上向流処理装置による処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の上向流処理装置による処理方法であって、
前記被処理水を前記槽体の内部に流入する前に、流動装置により前記処理層を流動させる
ことを特徴とする上向流処理装置による処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上向流処理装置および上向流処理装置による処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、砂鉄等をろ材としたろ過装置が開示されている。特許文献1のろ過装置では、鉄やマンガン等を含む原水に過マンガン酸カリウム等の酸化剤を注入し、当該原水を上述のろ材によってろ過することにより、原水中に含まれる鉄やマンガン等を除去できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭和47-14554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のろ過装置では、所定時間のろ過を継続すると、ろ材同士の隙間にフロックが堆積してしまい、ろ過作用が所定の効果を発揮し得なくなってしまうことから、定期的にろ層の下部から逆流洗浄する必要がある。そのため、処理水の回収率が低下してしまうといった問題があった。
【0005】
本発明の目的は、処理水の回収率を向上できる上向流処理装置および上向流処理装置による処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上向流処理装置は、槽体と、前記槽体に充填される処理材と、前記槽体の下部に被処理水を流入させる流入部と、前記被処理水に酸化剤を注入する注入部と、前記処理材で構成される処理層を通過した処理水を集水する集水部と、を備え、前記処理材は、金属、または、金属を表面にコーティングした担体にて構成されることを特徴とする。
【0007】
本発明では、酸化剤を注入した被処理水を処理材にて構成される処理層を通過させる。この際、当該処理材は、金属、または、金属を表面にコーティングした担体にて構成されるので、被処理水中に含まれる鉄やマンガン等の溶解性金属を酸化剤にて酸化させた上で、処理材の表面に付着させることができる。そのため、被処理水中に含まれる鉄やマンガン等の溶解性金属を被処理水から除去することができる。
ここで、本発明では、被処理水を処理層の下部から上向きに通水させるので、被処理水が流入している間は処理材が流動する。これにより、処理材同士の隙間に被処理水中に含まれる夾雑物が堆積してしまうことを抑制できるので、逆流洗浄などを実施しなくても処理効果を維持することができる。そのため、洗浄による処理水の損失を抑制できるので、処理水の回収率を向上できる。
【0008】
本発明の上向流処理装置において、前記処理層を流動させる流動装置を備えることが好ましい。
通常、上向流の処理装置では、被処理水の流入を停止させると、処理材の流動が停止し、処理材が締め固まってしまうことがある。そうすると、再度、被処理水の流入を開始した際に、処理材が適正に流動しなくなってしまい、処理層に被処理水を流入できなくなってしまうおそれがある。
ここで、本発明では、処理層を流動させる流動装置を備えるので、被処理水の流入を再開させる際に、流動装置により処理層を流動させることできるので、処理材が締め固まってしまい被処理水が流入できなくなってしまうことを防止できる。
【0009】
本発明の上向流処理装置において、前記流動装置は、前記処理層を上部から下部に向かって順次流動させる水流撹拌部を備えることが好ましい。
この構成では、水流撹拌部によって、処理層を上部から下部に向かって順次流動させることができる。そのため、被処理水の流入を再開させる際に確実に処理層を流動させることができる。
【0010】
本発明の上向流処理装置において、前記処理材は、砂鉄、または、酸化鉄がコーティングされた前記担体にて構成されることが好ましい。
この構成では、処理材は、砂鉄、または、酸化鉄がコーティングされた担体にて構成されるので、被処理水中に含まれる溶解性鉄を処理材の表面に付着させやすくすることができる。そのため、被処理水中に含まれる溶解性鉄の除去効果を高くすることができる。
【0011】
本発明の上向流処理装置において、前記酸化剤は、オゾンであることが好ましい。
この構成では、酸化剤がオゾンであるので、処理層内で生物、特に鉄バクテリア等の微生物が繁殖することを抑制できる。そのため、処理層が生物により閉塞してしまうことを抑制できる。
【0012】
本発明の上向流処理装置において、前記処理層内において、前記被処理水に前記酸化剤を注入して混合させることが好ましい。
通常、処理層内に流入する前の被処理水に酸化剤を注入すると、被処理水内に含まれる溶解性金属は、処理槽内に流入する前に酸化して懸濁体となるものがある。そうすると、懸濁体となった金属は、流動する処理層では捕捉されにくいので、懸濁体となった金属が処理水中に含まれてしまうおそれがある。
一方、この構成では、処理層内において、被処理水に酸化剤を注入して混合させるので、処理材の表面近傍で溶解性金属が酸化することとなり、酸化した溶解性金属を速やかに処理材に付着させることができる。そのため、処理水中に懸濁体の金属が含まれてしまうことを抑制することができる。
【0013】
本発明の上向流処置装置による処理方法であって、前記酸化剤を注入した前記被処理水を前記処理層の下部から前記槽体の内部に流入させ、前記処理層を通過した処理水を前記集水部から集水することを特徴とする。
本発明では、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【0014】
本発明の上向流処理装置による処理装置において、前記被処理水を前記槽体の内部に流入する前に、流動装置により前記処理層を流動させることが好ましい。
この構成では、被処理水を槽体内に流入させる前に、流動装置により処理層を流動させるので、処理材が締め固まってしまい、処理層に被処理水を流入できなくなってしまうことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る上向流処理装置のプロセスフローを示す概略図。
図2】前記実施形態の処理材を示す写真。
図3】上向流処理装置による処理状況を示す図。
図4】前記実施形態の処理後の処理材を示す写真。
図5】前記実施形態の処理後の処理材を示す拡大写真。
図6】前記実施形態の被処理水の流入を再開させる際の方法を説明する図。
図7】前記実施形態の被処理水の流入を再開させる際の方法を説明する図。
図8】前記実施形態の被処理水の流入を再開させる際の方法を説明する図。
図9】前記実施形態の被処理水の流入を再開させる際の方法を説明する図。
図10】前記実施形態の被処理水の流入を再開させる際の方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態]
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る上向流処理装置1のプロセスフローを示す概略図である。なお、本実施形態の上向流処理装置1は、被処理水である井戸水中に含まれる溶解性鉄を除去する装置として構成されている。
図1に示すように、上向流処理装置1は、槽体2と、流入部3と、処理材4と、注入部5と、集水部6と、流動装置7と、を備える。
【0017】
[槽体2]
槽体2は、処理材4が充填される処理槽として構成される。本実施形態では、槽体2は、有底円筒状とされており、下部に流入部3が接続されており、上部に集水部6が接続されている。そして、本実施形態では、槽体2は上部が開放されている。
なお、槽体2は、上記構成に限られるものではなく、例えば、四角筒状に構成されていてもよく、あるいは、密閉された圧力容器として構成されていてもよい。さらに、槽体2の下部には、パンチングメタル等によって処理材4が充填される処理室を区切られた流入室が形成されていてもよい。
また、槽体2は鋼板等の金属により形成されていてもよく、あるいは、コンクリート等によって形成された躯体として構成されていてもよい。
【0018】
[流入部3]
流入部3は、槽体2の下部から被処理水としての井戸水を流入させるように構成されている。本実施形態では、流入部3は、流入配管31と、流量調整バルブ32と、井戸水流量計33と、を備えている。
【0019】
流入配管31は、井戸内に設置される井戸水揚水ポンプ(図示略)と槽体2とを接続させるための配管である。本実施形態では、流入配管31を通って井戸水が槽体2に流入される。そして、本実施形態では、流入配管31の途中には、流量調整バルブ32と、井戸水流量計33と、が設けられている。
【0020】
流量調整バルブ32は、井戸水の流量を調整するためのバルブである。本実施形態では、流量調整バルブ32は、例えば、定流量弁によって構成されている。なお、流量調整バルブ32は、上記構成に限られるものではなく、例えば、ゲートバルブ、グローブバルブ、バタフライバルブ、ニードルバルブ等に構成されていてもよく、井戸水の流量を調整可能に構成され、かつ、流入配管31を仕切れるように構成されていることが望ましい。
【0021】
井戸水流量計33は、井戸水の流量を測定するための流量計である。本実施形態では、井戸水流量計33は、例えば、フロート式流量計によって構成されている。なお、井戸水流量計33は、上記構成に限られるものではなく、例えば、電磁流量計、羽車式流流量計、カルマン渦式流量計として構成されていてもよく、流入配管31内を流れる井戸水の流量を測定可能に構成されていればよい。
【0022】
[処理材4]
図2は、本実施形態の処理材4を示す写真である。
処理材4は、槽体2の内部に充填されて処理層41を構成し、被処理水中に含まれる溶解性鉄を付着して、被処理水から溶解性鉄を除去するように構成されている。
本実施形態では、処理材4は、図2に示すような砂鉄により構成されている。より具体的には、処理材4は、表1に示すような組成を有する砂鉄により構成されている。
なお、処理材4は、上記構成に限られるものではなく、例えば、酸化鉄がコーティングされた担体にて構成されていてもよく、金属、または、金属を表面にコーティングした担体にて構成されていればよい。
【0023】
【表1】
【0024】
[注入部5]
注入部5は、井戸水である処理水に酸化剤を注入するように構成されている。
本実施形態では、オゾン水製造装置51と、オゾン濃度計52と、オゾン水注入配管53と、オゾン水流量計54と、オゾン水流調バルブ55と、を備えている。
【0025】
オゾン水製造装置51は、例えば、無声放電によりオゾンガスを発生させるとともに、水道水流入配管10により流入される水道水中にオゾンガスを溶解させてオゾン水を製造させる装置である。なお、オゾン水製造装置51に流入されるのは水道水に限られるものではなく、例えば、上向流処理装置1による処理水であってもよく、あるいは、超純水生成装置により生成した超純水であってもよい。
【0026】
オゾン濃度計52は、オゾン水製造装置51により発生されるオゾンガスのオゾン濃度を測定する装置である。オゾン濃度計52は、例えば、紫外線吸収式であってもよく、あるいは、隔膜式であってもよく、オゾンガスのオゾン濃度を測定可能に構成されていればよい。
【0027】
オゾン水注入配管53は、オゾン水製造装置51により製造したオゾン水を被処理水である井戸水に注入させる配管である。
本実施形態では、オゾン水注入配管53は、オゾン水製造装置51と槽体2の下部とを接続させるように構成されている。これにより、流入配管31を介して槽体2の下部に流入された井戸水と、オゾン水注入配管53を介して槽体2の下部に流入されたオゾン水とが処理層41を通過する間に混合するように構成されている。すなわち、処理層41内において、井戸水にオゾンを注入して混合させるので、処理材4の表面近傍で溶解性鉄が酸化することとなり、酸化鉄を速やかに処理材4に付着させることができる。そのため、処理水中に懸濁体の酸化鉄が含まれてしまうことを抑制することができる。
【0028】
オゾン水流量計54は、オゾン水の流量を測定するための流量計である。本実施形態では、オゾン水流量計54は、例えば、フロート式流量計によって構成されている。なお、オゾン水流量計54は、上記構成に限られるものではなく、例えば、電磁流量計、羽車式流流量計、カルマン渦式流量計として構成されていてもよく、オゾン水注入配管53内を流れるオゾン水の流量を測定可能に構成されていればよい。
【0029】
オゾン水流調バルブ55は、オゾン水注入配管53においてオゾン水流量計54の一次側に配置されているバルブである。本実施形態では、オゾン水流調バルブ55の開度を調整することで、排水するオゾン水の流量を調整している。これにより、オゾン水注入配管53内を流れるオゾン水の流量を調整している。
【0030】
[集水部6]
集水部6は、処理層41を通過した処理水を集水するように構成されている。
本実施形態では、集水部6は、集水配管61を有している。
集水配管61は、槽体2の上部と図示略の処理水槽とを接続させる配管である。本実施形態では、槽体2の上部に配置された集水配管61から処理水を越流させることにより、処理水を処理水槽に流入させることができる。
なお、集水部6は、上記構成に限られるものではなく、例えば、槽体2の上部に配置されたトラフにより処理水を集水するように構成されていてもよい。
【0031】
[流動装置7]
流動装置7は、上向流処理装置1への被処理水の流入を停止させた後、被処理水の流入を再開させる際に、処理層41を流動させるように構成されている。
本実施形態では、流動装置7は、水道水配管71と、接続部72と、サポート部73と、水流撹拌部74と、を備えている。
【0032】
水道水配管71は、水道水流入配管10に接続される配管であり、内部に水道水が流入されるように構成されている。なお、水道水配管71は、上記構成に限られるものではなく、例えば、上向流処理装置1の処理水や超純水が流入されるように構成されていてもよい。
【0033】
接続部72は、水道水配管71の先端に設けられた継手部によって構成されている。本実施形態では、オゾン水注入配管53の継手部531を取り外して、オゾン水注入配管53の継手部531を取り外した箇所に接続可能に構成されている。これにより、オゾン水注入配管53の一部に水道水を流入させることができるように構成されている。
サポート部73は、オゾン水注入配管53および水流撹拌部74を支持するように構成されている。本実施形態では、サポート部73は、円筒状に形成されており、内周側にオゾン水注入配管53および水流撹拌部74を挿入可能とされており、これにより、オゾン水注入配管53および水流撹拌部74を上下に移動可能に支持している。また、本実施形態では、サポート部73は、槽体2に支持されている。
水流撹拌部74は、オゾン水注入配管53の一部として構成されている。具体的には、水流撹拌部74は、オゾン水注入配管53における継手部531の二次側の配管として構成されている。そして、水流撹拌部74から水道水を流出させることにより、処理層41を流動させるように構成されている。なお、水流撹拌部74による処理層41の流動については、後述する。
【0034】
[上向流処理装置1の処理方法]
次に、上向流処理装置1の処理方法について説明する。
先ず、図示略の井戸水揚水ポンプを起動するとともに、流量調整バルブ32の開度を調整することで、所定の流量の井戸水を槽体2の下部から流入させる。
次に、槽体2の内部に砂鉄にて構成される処理材4を充填して、処理層41を構成する。すなわち、井戸水を槽体2に流入させた状態で処理材4を充填することにより、処理材4を流動させながら処理層41を構成する。
そして、井戸水を槽体2に流入させると同時に、オゾン水製造装置51を起動させて、所定のオゾン濃度のオゾン水を槽体2の下部から流入させる。これにより、井戸水に酸化剤としてのオゾンを注入させる。
【0035】
そして、所定濃度のオゾンが注入された井戸水を処理層41内に上向流で通過させることで、処理層41の内部で溶解性鉄をオゾンにより酸化させるとともに、砂鉄で構成された処理材4に酸化された鉄を付着させることで、井戸水から溶解性鉄を除去する。
このような処理層41を通過した処理水を集水部6で集水することで溶解性鉄が除去された処理水を得ることができる。
この際、前述したように、本実施形態では、処理層41内において、井戸水にオゾンを注入して混合させるので、処理材4の表面近傍で溶解性鉄が酸化することとなり、酸化鉄を速やかに処理材4に付着させることができる。そのため、処理水中に懸濁体の酸化鉄が含まれてしまうことを抑制することができる。
【0036】
図3は、上向流処理装置1による処理状況を示す図である。なお、図3は、以下の条件で上向流処理装置1を運転した場合の処理状況を示している。
空間速度(充填量) : 1.6~2.9 min-1
空間速度(流動状態) : 0.4~0.6 min-1
オゾン注入率 : 1.0~2.0 mg/L
なお、空間速度とは、単位時間あたりに処理材4の体積の何倍相当分の井戸水を処理しているかを示す値である。すなわち、図3では、1分あたり、充填した処理材4の体積の1.6~2.9倍、また、流動している処理材4の体積の0.4~0.6倍の容積の井戸水を処理している状況を示している。
【0037】
図3に示すように、運転期間中、井戸水の全鉄は3.0~8.0mg/L、溶解性鉄は2.0~5.0mg/Lで推移していた。これに対し、上向流処理装置1の処理水の全鉄は、0.5~2.0mg/L、溶解性鉄は0.01~0.5mg/Lで推移しており、運転期間中、概ね90%以上の全鉄を除去できていた。特に、運転開始から10日後以降は、処理水の全鉄は0.5mg/L、溶解性鉄は0.01mg/L程度で推移していることから、10日間程度で処理層41が安定して処理が向上することが示唆された。
【0038】
さらに、図3では、20日以上、処理層41を洗浄することなく運転を継続できていることから、所定期間、洗浄なしで運転を継続できることが示唆された。
これは、井戸水を処理層41の下部から上向きに通水させることで、処理材4が流動し、処理材4同士の隙間に夾雑物が堆積することを抑制できていることによるものであると考えられる。このことから、本実施形態では、洗浄による処理水の損失を抑制できるので、処理水の回収率を向上できることが示唆された。
【0039】
図4は、上記運転後の処理材4を示す写真であり、図5は、上記運転後の処理材4を示す拡大写真である。また、表2は、上記運転後の処理材4の組成を示す表である。
図4図5に示すように、処理後の処理材4は、処理前の処理材4(図2参照)に比べて、処理材4の表面に突起が複数形成されて金平糖状の形を形成している。また、表2に示すように、処理後の処理材4は、処理前の処理材4(表1参照)に比べて、鉄やリンの含有率が上昇している。このことから、上向流処理装置1の運転を継続することで、処理材4の表面に鉄やリンが付着して金平糖状の形を形成し、これにより処理材4の表面積が向上することで、運転開始から10日以降の処理性が向上したことが推察された。
【0040】
また、本実施形態では、溶解性鉄を酸化させる酸化剤としてオゾンを使用している。これにより、上向流処理装置1の運転を継続させた場合でも、処理層41の内部に生物、特に鉄バクテリア等の微生物が繁殖することを抑制できる。そのため、処理層41が生物により閉塞してしまうことを抑制できる。
【0041】
【表2】
【0042】
[上向流処理装置1の運転再開方法について]
次に、上向流処理装置1の運転再開方法について、図6図10に基づいて説明する。
先ず、図6に示すように、井戸水が流入している状態では、処理層41は流動している。この状態から、井戸水の流入を停止させると、図7に示すように、処理層41の流動が停止し、処理材4が沈降する。そうすると、本実施形態では、処理材4として比重の大きい砂鉄を使用しているので、処理層41が流動していない状態では、処理材4が締め固まってしまうことがある。そうすると、再度、井戸水の流入を開始した際に、処理材4が適正に流動しなくなってしまい、処理層41に井戸水を流入できなくなってしまうおそれがある。
そこで、本実施形態では、井戸水の流入を再開させる際に、流動装置7により処理層41を流動させる。
【0043】
具体的には、井戸水を槽体2に流入させる前に、オゾン水注入配管53の継手部531を取り外し、そこに流動装置7の接続部72を接続させる。
その後、図8に示すように、サポート部73により上下移動可能に支持されている水流撹拌部74を、処理層41の上面よりも上側に持ち上げる。
そして、水道水流入配管10を介して水道水配管71に水道水を流入させながら、図9に示すように、水流撹拌部74を処理層41内に下側に向かって移動させる。これにより、水流撹拌部74から流出させた水道水の水撃により、処理層41を上部から下部に向かって順次流動させることができる。
【0044】
そして、図10に示すように、水流撹拌部74を処理層41の下部まで移動させて、処理層41の下部まで流動させると、オゾン水注入配管53の継手部531の接続を切り替えて、オゾン水の注入を再開して、上向流処理装置1の運転を再開させる。
これにより、井戸水の流入を再開させる際に、流動装置7により処理層41を流動させることできるので、処理材4が締め固まってしまい井戸水が流入できなくなってしまうことを防止できる。特に本実施形態では、水流撹拌部74によって、処理層41を上部から下部に向かって順次流動させることができるので、処理層41を確実に流動させることができる。
【0045】
以上のような第1実施形態では、次の効果を奏することができる。
(1)本実施形態では、オゾンを注入した井戸水を処理材4にて構成される処理層41を通過させる。この際、当該処理材4は、砂鉄にて構成されるので、井戸水中に含まれる溶解性鉄をオゾンにて酸化させた上で、処理材4の表面に付着させることができる。そのため、井戸水中に含まれる溶解性鉄を井戸水から除去することができる。
ここで、本実施形態では、井戸水を処理層41の下部から上向きに通水させるので、井戸水が流入している間は処理材4が流動する。これにより、処理材4同士の隙間に井戸水中に含まれる夾雑物が堆積してしまうことを抑制できるので、逆流洗浄などを実施しなくても処理効果を維持することができる。そのため、洗浄による処理水の損失を抑制できるので、処理水の回収率を向上できる。
【0046】
(2)本実施形態では、処理層41を流動させる流動装置7を備えるので、井戸水の流入を再開させる際に、流動装置7により処理層41を流動させることできる。そのため、処理材4が固まってしまい井戸水が流入できなくなってしまうことを防止できる。
【0047】
(3)本実施形態では、水流撹拌部74によって、処理層41を上部から下部に向かって順次流動させることができるので、処理層41を確実に流動させることができる。
【0048】
(4)本実施形態では、処理材4は、砂鉄にて構成されるので、井戸水中に含まれる溶解性鉄を処理材4の表面に付着させやすくすることができる。そのため、井戸水中に含まれる溶解性鉄の除去効果を高くすることができる。
【0049】
(5)本実施形態では、酸化剤がオゾンであるので、処理層41内で生物、特に鉄バクテリア等の微生物が繁殖することを抑制できる。そのため、処理層41が生物により閉塞してしまうことを抑制できる。
【0050】
(6)本実施形態では、処理層41内において、井戸水にオゾン水を注入して混合させるので、処理材4の表面近傍で溶解性鉄が酸化することとなり、酸化鉄を速やかに処理材4に付着させることができる。そのため、処理水中に懸濁体の酸化鉄が含まれてしまうことを抑制することができる。
【0051】
[変形例]
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0052】
前記実施形態では、上向流処理装置1は、被処理水である井戸水中に含まれる溶解性鉄を除去する装置として構成されていたが、これに限定されない。例えば、上向流処理装置は、溶解性のマンガン、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛、リン、ヒ素、硫黄等を除去する装置として構成されていてもよい。
【0053】
前記実施形態では、酸化剤としてオゾンを使用していたが、これに限定されない。例えば、過マンガン酸カリウム、塩素、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤を使用していてもよい。
【0054】
前記実施形態では、水流撹拌部74は水撃により処理層41の上部から下部にわたって流動させるように構成されていたが、これに限定されない。例えば、水流撹拌部は、撹拌翼を回転させて処理層を流動させるように構成されていてもよい。
【0055】
前記実施形態では、継手部531にてオゾン水注入配管53の接続を切り替えることにより、水流撹拌部74に水道水を流入可能に構成されていたが、これに限定されない。例えば、バルブにより水流撹拌部へのオゾン水および水道水の切り替えを可能なように構成されていてもよい。このように構成することで、水流撹拌部74へのオゾン水および水道水の切り替えを迅速にできるので、水流撹拌後に迅速にオゾン水を流入させることができる。
【符号の説明】
【0056】
1…上向流処理装置、2…槽体、3…流入部、4…処理材、5…注入部、6…集水部、7…流動装置、10…水道水流入配管、31…流入配管、32…流量調整バルブ、33…井戸水流量計、41…処理層、51…オゾン水製造装置、52…オゾン濃度計、53…オゾン水注入配管、54…オゾン水流量計、55…オゾン水流調バルブ、61…集水配管、71…水道水配管、72…接続部、73…サポート部、74…水流撹拌部、531…継手部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-08-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解性鉄を処理可能に構成された上向流処理装置であって、
槽体と、
前記槽体に充填される処理材と、
前記槽体の下部に被処理水を流入させる流入部と、
前記被処理水に酸化剤を注入する注入部と、
前記処理材で構成される処理層を通過した処理水を集水する集水部と、
前記処理層を流動させる流動装置をと、を備え、
前記処理材は、金属、または、金属を表面にコーティングした担体にて構成され
前記流動装置は、前記処理層を上部から下部に向かって順次流動させる水流撹拌部を備える
ことを特徴とする上向流処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の上向流処理装置において、
前記処理材は、砂鉄、または、酸化鉄がコーティングされた前記担体にて構成される
ことを特徴とする上向流処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載の上向流処理装置において、
前記酸化剤は、オゾンである
ことを特徴とする上向流処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の上向流処理装置において、
前記処理層内において、前記被処理水に前記酸化剤を注入して混合させる
ことを特徴とする上向流処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の上向流処置装置による処理方法であって、
前記酸化剤を注入した前記被処理水を前記処理層の下部から前記槽体の内部に流入させ、前記処理層を通過した処理水を前記集水部から集水する
ことを特徴とする上向流処理装置による処理方法。
【請求項6】
請求項に記載の上向流処理装置による処理方法であって、
前記被処理水を前記槽体の内部に流入する前に、前記流動装置により前記処理層を流動させる
ことを特徴とする上向流処理装置による処理方法。