IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人藤田学園の特許一覧

特開2023-156200リンパ球性漏斗下垂体後葉炎又は特発性尿崩症の検査試薬
<>
  • 特開-リンパ球性漏斗下垂体後葉炎又は特発性尿崩症の検査試薬 図1
  • 特開-リンパ球性漏斗下垂体後葉炎又は特発性尿崩症の検査試薬 図2
  • 特開-リンパ球性漏斗下垂体後葉炎又は特発性尿崩症の検査試薬 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156200
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】リンパ球性漏斗下垂体後葉炎又は特発性尿崩症の検査試薬
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20231017BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231017BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
G01N33/53 D
C07K14/47
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065939
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】椙村 益久
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦詞
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 治樹
(72)【発明者】
【氏名】岩田 尚子
【テーマコード(参考)】
2G045
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB03
2G045DA36
2G045FA13
2G045FB03
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA18
4H045CA40
4H045EA50
4H045FA10
4H045GA21
(57)【要約】
【課題】LINH又は特発性尿崩症の新たな非侵襲的診断マーカーを提供すること。
【解決手段】ラブフィリン3aの503~542位のアミノ酸配列、ラブフィリン3aの548~587位のアミノ酸配列、及びラブフィリン3aの578~617位のアミノ酸配列の何れかのアミノ酸配列のうち、6~30個の連続したアミノ酸配列を有するペプチドを含有する、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎又は特発性尿崩症の検査試薬。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラブフィリン3aの503~542位のアミノ酸配列、
ラブフィリン3aの548~587位のアミノ酸配列、及び
ラブフィリン3aの578~617位のアミノ酸配列の何れかのアミノ酸配列のうち、6~30個の連続したアミノ酸配列を有するペプチドを含有する、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎又は特発性尿崩症の検査試薬。
【請求項2】
ラブフィリン3aの513~532位のアミノ酸配列(配列番号5)、
ラブフィリン3aの558~577位のアミノ酸配列(配列番号6)、及び
ラブフィリン3aの588~607位のアミノ酸配列(配列番号7)の何れかのアミノ酸配列のうち、6~20個の連続したアミノ酸配列を有するペプチドを含有する、請求項1に記載の検査試薬。
【請求項3】
前記ペプチドが、配列番号5~7のいずれか一つで示されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の検査試薬。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号7で示されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の検査試薬。
【請求項5】
以下の工程を含む、リンパ球性下垂体後葉炎及び/又は特発性尿崩症を予測するためのデータの取得方法:
(1)検体と、請求項1~4のいずれか1項に記載の検査試薬を接触させる工程
(2)免疫複合体を検出する工程。
【請求項6】
前記検体が、リンパ球性下垂体後葉炎及び/又は特発性尿崩症のおそれのある患者由来である、請求項5に記載のデータの取得方法。
【請求項7】
前記検体が、血液、血漿、血清、脳脊髄液又は尿である、請求項5に記載のデータの取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎又は特発性尿崩症の検査試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
下垂体機能障害の1つであるリンパ球性下垂体炎は、他の自己免疫疾患を合併する例や種々の自己抗体の陽性例があること、下垂体へのリンパ球浸潤がみられることから、自己免疫の関与が推測されているが、その発症機序の詳細は不明である。
【0003】
リンパ球性下垂体炎は、病変部位により以下のように分類される。
(1)下垂体前葉に炎症病変が限局し、下垂体前葉ホルモンの分泌が低下する、リンパ球性下垂体前葉炎(lymphocytic adenohypophysitis,LAH)
(2)漏斗部及び後葉に炎症が限局し、中枢性尿崩症を呈する、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎(lymphocytic infundibulo-neurohypophysitis,LINH)
(3)下垂体全体に炎症をきたし、LAHとLINHの両者の臨床的特徴を有する、リンパ球性汎下垂体炎(lymphocytic panhypophysitis,LPH)。
【0004】
リンパ球性漏斗下垂体炎(LINH)の診断は、困難な場合が多い。LINHの確定診断には、下垂体の生検が必要であるが、頭や顔の骨を削る等の極めて侵襲的であるため生検が施行されることは少ない。よって、生検による確定診断が行われておらず、適切な治療が遅れたり、誤診されることがあり、非侵襲的な診断方法として、例えば、LINHの非侵襲的診断マーカーの開発が求められている。
特許文献1には、特定のアミノ酸の部分配列からなる抗ラブフィリン3a抗体のエピトープを含む、アミノ酸の数が6~30個のペプチドで構成されたリンパ球性漏斗下垂体後葉炎検査試薬が開示されている。
【0005】
また、特発性尿崩症の発症機序についても不明な部分が多いが、自己免疫機序の関与が示唆され、LINHと特発性尿崩症の自己免疫機序等に関する共通性について考察されている(非特許文献1)。
現在まで、LINHと特発性尿崩症の違いは、MRI検査等で下垂体部の膨張を有するか否かで判断可能とされている。LINHは、炎症に起因すると考えられる下垂体部の腫大が見られるのに対し、特発性尿崩症は、腫大等が見られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6618107号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N Engl J Med.329:683-689,1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示される検査試薬を用いても、反応が認められないLINH患者検体が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、LINH又は特発性尿崩症の新たな非侵襲的診断マーカーを提供することにある。
【0010】
本発明は、以下のとおりである。
<1>
ラブフィリン3aの503~542位のアミノ酸配列、
ラブフィリン3aの548~587位のアミノ酸配列、及び
ラブフィリン3aの578~617位のアミノ酸配列の何れかのアミノ酸配列のうち、6~30個の連続したアミノ酸配列を有するペプチドを含有する、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎又は特発性尿崩症の検査試薬。
<2>
ラブフィリン3aの513~532位のアミノ酸配列(配列番号5)、
ラブフィリン3aの558~577位のアミノ酸配列(配列番号6)、及び
ラブフィリン3aの588~607位のアミノ酸配列(配列番号7)の何れかのアミノ酸配列のうち、6~20個の連続したアミノ酸配列を有するペプチドを含有する、<1>に記載の検査試薬。
<3>
前記ペプチドが、配列番号5~7のいずれか一つで示されるアミノ酸配列を有する、<1>に記載の検査試薬(好ましくは、リンパ球性漏斗下垂体後葉炎の検査試薬)。
<4>
前記ペプチドが、配列番号7で示されるアミノ酸配列を有する、<1>に記載の検査試薬(好ましくは、特発性尿崩症の検査試薬)。
<5>
以下の工程を含む、リンパ球性下垂体後葉炎及び/又は特発性尿崩症を予測するためのデータの取得方法:
(1)検体と、<1>~<4>のいずれかに記載の検査試薬を接触させる工程
(2)免疫複合体を検出する工程。
<6>
前記検体が、リンパ球性下垂体後葉炎及び/又は特発性尿崩症のおそれのある患者由来である、<5>に記載のデータの取得方法。
<7>
前記検体が、血液、血漿、血清、脳脊髄液又は尿である、<5>に記載のデータの取得方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ラブフィリン3a(a.a.513-532)を固定化したプレートを用いたELISAの結果を示す。LINH患者由来の22検体、健常人由来の10検体、特発性尿崩症患者由来の8検体及び腫瘍に伴う尿崩症患者由来の8検体の結果を示す。Y軸は、吸光度を表す。
図2】ラブフィリン3a(a.a.558-577)を固定化したプレートを用いたELISAの結果を示す。LINH患者由来の22検体、健常人由来の10検体、特発性尿崩症患者由来の8検体及び腫瘍に伴う尿崩症患者由来の8検体の結果を示す。Y軸は、吸光度を表す。
図3】ラブフィリン3a(a.a.588-607)を固定化したプレートを用いたELISAの結果を示す。LINH患者由来の22検体、健常人由来の10検体、特発性尿崩症患者由来の8検体及び腫瘍に伴う尿崩症患者由来の8検体の結果を示す。Y軸は、吸光度を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.検査試薬
本発明の第1の態様はLINHの検査に有用な検査試薬に関する。
第1の態様における検査試薬は、
ラブフィリン3aの503~542位のアミノ酸配列(配列番号2)、
ラブフィリン3aの548~587位のアミノ酸配列(配列番号3)、及び
ラブフィリン3aの578~617位のアミノ酸配列(配列番号4)の何れかのアミノ酸配列のうち、6~30個の連続したアミノ酸配列を有するペプチド(以下、本発明に係る検査試薬に用いるペプチドを総称して、「本発明に係るペプチド」と記載する。)を含有する。
本発明に係るペプチドは、抗ラブフィリン3a抗体が特異的に結合するペプチドであり、本発明に係るペプチドは、抗ラブフィリン3a抗体のエピトープである。
本明細書において、「抗ラブフィリン3a抗体が特異的に結合する」ことは、例えば、抗ラブフィリン3a抗体を用い、LINH陽性検体(例えば、LINH患者の血清)と本発明に係るペプチドに対する反応性を調べることにより確認することができる。
好ましくは、抗ラブフィリン3a抗体を用い、LINH陰性検体(例えば、健常人の血清)とLINH陽性検体(例えば、LINH患者の血清)と本発明の検査試薬に含有されるペプチドに対する反応性を調べることにより確認することができる。
本発明に係るペプチドは、下記実施例で示すとおり、ELISA法の結果に基づいて見い出されたものであり、LINH患者血清との反応が特異的であることから、そのエピトープとしては、
ラブフィリン3aの503~542位のアミノ酸配列、
ラブフィリン3aの548~587位のアミノ酸配列、及び
ラブフィリン3aの578~617位のアミノ酸配列の何れかのアミノ酸配列のうち、6~30個の連続したアミノ酸配列を有するペプチドである。
なお、一般的に、抗体のエピトープは、対象となるタンパク質に依存し、数個から十数個程度のアミノ酸配列からなるとされているが、本発明に係るペプチドは、6~30個の連続したアミノ酸配列からなる。
【0013】
ラブフィリン3aは全長690アミノ酸(配列番号1)からなるタンパク質であり、そのN末端側にはRab結合ドメインが存在し、N末端側にはC2Aドメイン及びC2Bドメインが存在する。
【0014】
本発明に係るペプチドは、
ラブフィリン3aの503~542位のアミノ酸配列、
ラブフィリン3aの548~587位のアミノ酸配列、及び
ラブフィリン3aの578~617位のアミノ酸配列の何れかのアミノ酸配列のうち、6~30個の連続したアミノ酸配列を有するペプチドであれば特に限定されるものではないが、好ましくは、
ラブフィリン3aの513~532位のアミノ酸配列(配列番号5)、
ラブフィリン3aの558~577位のアミノ酸配列(配列番号6)、及び
ラブフィリン3aの588~607位のアミノ酸配列(配列番号7)の何れかのアミノ酸配列のうち、6~20個の連続したアミノ酸配列を有するペプチドである。
ここで、ラブフィリン3aの513~532位のアミノ酸配列は、
ERVIPMKRAGTTGSARGMAL
であり、ラブフィリン3aの558~577位のアミノ酸配列は、
TQQGGLIVGIIRCVHLAAMD
であり、ラブフィリン3aの588~607位のアミノ酸配列は、
LWLKPDMGKKAKHKTQIKKK
である。
本発明に係るペプチドは、
ラブフィリン3aの503~542位のアミノ酸配列、
ラブフィリン3aの548~587位のアミノ酸配列、及び
ラブフィリン3aの578~617位のアミノ酸配列の何れかのアミノ酸配列を有するペプチドであってもよく、
ラブフィリン3aの513~532位のアミノ酸配列、
ラブフィリン3aの558~577位のアミノ酸配列、及び
ラブフィリン3aの588~607位のアミノ酸配列の何れかのアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。
【0015】
本発明に係るペプチドの鎖長(アミノ酸数)は、6個~30個であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、6個~20個、6個~10個、10個~20個である。
【0016】
本発明に係るペプチドは、その調製法は特に限定されるものではないが、公知のペプチド合成法(例えば固相合成法、液相合成法)によって製造してもよく、遺伝子工学的手法を用いて本発明に係るペプチドを調製してもよい。
【0017】
本発明の検査試薬は、キットの形態として用いてもよい。
キットとしては、本発明に係るぺプチドを含めば、他は任意の試薬等を含んでいてもよい。
また、キットとしては、本発明に係るペプチドを含み、取り扱い説明書が添付されていてもよい。
キットは、LINHの検査を実施する際又はLINHの検査によって得られたデータを取得する際に使用するその他の試薬(緩衝液、ブロッキング用試薬、酵素の基質、発色試薬など)及び/又は装置や器具(容器、反応装置、蛍光リーダーなど)を含んでいてもよい。なお、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
【0018】
本発明に係るペプチドを標識化して、標識量を指標に結合抗体量を測定することにより、LINH検査法を実施してもよい。また、ELISA法のように、標識物質を結合させた二次抗体を利用してもよい。
【0019】
標識物質としては、特に限定されず、ペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコース-6-リン酸脱水素酵素などの酵素、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)及びユーロピウムなどの蛍光物質、ルミノール、イソルミノール及びアクリジニウム誘導体などの化学発光物質、NADなどの補酵素、ビオチン、並びに131I及び125Iなどの放射性物質等が挙げられる。
【0020】
本発明の第2の態様は特発性尿崩症の検査に有用な検査試薬に関する。
第2の態様における特発性尿崩症の検査に有用な検査試薬は、
ラブフィリン3aの503~542位のアミノ酸配列、
ラブフィリン3aの548~587位のアミノ酸配列、及び
ラブフィリン3aの578~617位のアミノ酸配列の何れかのアミノ酸配列のうち、6~30個の連続したアミノ酸配列を有するペプチドを含有する。
本発明の第1の態様において、LINHについて記載された内容は、第2の態様における特発性尿崩症の検査に有用な検査試薬に関する記載として、LINHをそのまま特発性尿崩症と読み替えて理解される。
本発明の特発性尿崩症の検査に有用な検査試薬は、ラブフィリン3aの588~607位のアミノ酸配列のうち、6~20個の連続したアミノ酸配列を有するペプチドであってもよく、ラブフィリン3aの588~607位のアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。
【0021】
本発明に係るペプチドを含有する検査試薬を用いることで、従来の同様の検査試薬では、検出が不可能であった検体に関しても、LINH及び/又は特発性尿崩症の検査を行うことが可能である。また、本発明に係るペプチドのうち、
ラブフィリン3aの578~617位のアミノ酸配列のうち、6~30個の連続したアミノ酸配列を有するペプチド
ラブフィリン3aの588~607位のアミノ酸配列のうち、6~20個の連続したアミノ酸配列を有するペプチド、又は
ラブフィリン3aの588~607位のアミノ酸配列を有するペプチド
を用いることにより、LINHと特発性尿崩症の双方の検査を同時的に行うことも可能となる。
【0022】
2.データの取得方法
本発明の第3の態様は第1又は第2の態様として示す検査試薬の用途に関する。
本発明のリンパ球性下垂体後葉炎及び/又は特発性尿崩症を予測するためのデータの取得方法(以下、「本発明に係るデータ取得方法」と記載する。)は、
(1)検体と、本発明の検査試薬を接触させる工程と、
(2)免疫複合体を検出する工程と、を含む。
本発明においては、本発明に係るデータ取得方法を実施することで、検体において罹患している疾患がLINHであるか否か、又はLINHの発症可能性を検査する方法を提供する。
本発明においては、本発明に係るデータ取得方法を実施することで、検体において罹患している疾患が特発性尿崩症であるか否か、又は特発性尿崩症の発症可能性を検査する方法を提供する。
本発明に係るデータ取得方法は、LINH及び/又は特発性尿崩症の鑑別が可能になる方法を提供し得る。
本発明に係るデータ取得方法においては、本発明の検査試薬として、本発明に係るペプチドから選択される少なくとも1つのペプチドを用いればよいが、複数、すなわち2つ以上のペプチドを用いてもよい。
【0023】
本発明に係るデータ取得方法に用いられる検体は、特に限定されるものではないが、LINH及び/又は特発性尿崩症を予測することが求められる検体である。
検体は、特に限定されるものではないが、LINH及び/又は特発性尿崩症を予測することが求められる被検者に由来する成分であることが好ましく、特に限定されるものではないが、例えば、血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿等が挙げられる。
検体は、例えば、LINH及び/又は特発性尿崩症を予測することが求められる被検者に由来する成分であることが好ましく、LINH及び/又は特発性尿崩症を予測することが求められる被検者に由来する血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿等が挙げられる。
被検者としては、特に限定されるものではないが、LINH及び/又は特発性尿崩症のおそれのある患者であることが好ましい。
検体は、例えば、LINH及び/又は特発性尿崩症のおそれのある患者の被検者に由来する成分であることが好ましく、LINH及び/又は特発性尿崩症のおそれのある患者の被検者に由来する血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿等であってもよい。
【0024】
本発明に係るデータ取得方法においては、検体と、本発明の検査試薬を接触させる工程を含む。
LINH及び/又は特発性尿崩症を予測することが求められる検体中に、抗ラブフィリン3a抗体が存在していることにより、検体と、本発明の検査試薬を接触させることにより、本発明に係るペプチドと、抗ラブフィリン3a抗体との免疫複合体が生成する。
かかる免疫複合体を検出することにより、本発明に係るデータ取得方法では、検体において罹患している疾患がLINH及び/又は特発性尿崩症であるか否か、又はLINH及び/又は特発性尿崩症の発症可能性を検査する方法を提供し得る。
【0025】
検体は、被検者から得られるものであれば特に限定されないことから、適宜採取すればよく、血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿等をそのまま利用してもよく、血液、血漿、血清、脳脊髄液、尿等に対して、従来の処理を施して検体として利用してもよい。従来の処理とは、非凝固剤を添加するとか、安定剤を添加するなど適宜検体を処理してもよいことを意味する。
【0026】
本発明に係るデータ取得方法においては、検体と、本発明の検査試薬を接触させる工程により生成した免疫複合体を検出する工程を含む。
免疫複合体の検出方法は、特に限定されるものではなく、抗原抗体反応による複合体を検出する公知の方法により実施することが可能である。
LINHの鑑別が必要な者、LINH及び/又は特発性尿崩症の現在又は将来の発症可能性(即ち、LINH及び/又は特発性尿崩症を発症しているか否か、LINH及び/又は特発性尿崩症を発症している可能性の程度、LINH及び/又は特発性尿崩症を将来発症する可能性の程度)の判定が必要な者に対して、本発明に係るデータ取得方法を適用することにより、検体において罹患している疾患がLINH及び/又は特発性尿崩症であるか否か、又はLINH及び/又は特発性尿崩症の発症可能性を検査するのに必要なデータが提供される。
本発明に係るデータ取得方法では、バイオマーカーとしての抗ラブフィリン3a抗体のレベルという客観的な指標に基づいて、当該診断の当否を判定することができる。本発明に係るデータ取得方法によれば、従来のLINH又は特発性尿崩症の診断に対して、補助或いは裏付ける情報を提供可能である。当該情報は、より適切な治療方針の決定に有益であり、治療効果の向上や患者のQOL(Quality of Life、生活の質)の向上を促す。一方、罹患状態のモニターに本発明を利用し、難治化、重篤化、再発等の防止を図ってもよい。
【0027】
免疫複合体を検出するための測定法として、特に限定されるものではないが、ラテックス凝集法、蛍光免疫測定法(FIA法)、酵素免疫測定法(EIA法)、放射免疫測定法(RIA法)、ウエスタンブロット法等が挙げられる。好ましい測定法としては、FIA法及びEIA法(ELISA法を含む)が挙げられ、より好ましい測定法としては、ELISA法が挙げられる。
これら従来の方法により、免疫複合体を高感度、迅速且つ簡便に検出可能である。
【0028】
本発明に係るデータ取得方法により免疫複合体の存在量を用いて、検体において、罹患している疾患がLINH及び/又は特発性尿崩症であるか否かを判定する。
免疫複合体の存在量は、採用する免疫複合体を検出するための測定法に準じて決定してよい。
本発明に係るデータ取得方法では、対照検体(コントロール)を用いて取得されるデータと比較することでより適切なLINH及び/又は特発性尿崩症の診断を可能とすることができる。
対象検体としては、健常人の検体や他の自己免疫疾患に罹患している患者の検体などを用いてよい。
本発明に係るデータ取得方法により得られる免疫複合体に関するデータは、定性的なものでも、定量的なものであってもよいが、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。
【0029】
本発明においては、特許文献1や特許第5924502号に記載される各種方法を採用して(なお、これらの先行の特許文献の関連するいわゆるファミリー出願において開示される内容を採用してもよい)、あるいは、その変法により、検体において罹患している疾患がLINH及び/又は特発性尿崩症であるか否か、又はLINH及び/又は特発性尿崩症の発症可能性を検査する方法としてよい。
【実施例0030】
ラブフィリン3aペプチドの作成
全長ラブフィリン3a(a.a.1-690)からエピトープ部位を絞り込むため、ユーロフィン社に受託し、ラブフィリン3a(a.a.513-532)を合成した。さらに、シグマ社に受託し、ラブフィリン3a(a.a.558-577)、ラブフィリン3a(a.a.573-592)、ラブフィリン3a(a.a.588-607)を合成した。いずれも、HPLC分析による純度は、>95%であった。
ラブフィリン3a抗原として、ラブフィリン3aペプチドのアミノ酸配列のN末に6個のアミノ酸CGGGGS(配列番号12)が付加されるように構成した。合成したラブフィリン3aペプチドのアミノ酸配列を下記に示す。
ラブフィリン3a(a.a.513-532):
CGGGGSERVIPMKRAGTTGSARGMAL 合計26アミノ酸(配列番号8)
ラブフィリン3a(a.a.558-577):
CGGGGSTQQGGLIVGIIRCVHLAAMD 合計26アミノ酸(配列番号9)
ラブフィリン3a(a.a.588-607):
CGGGGSLWLKPDMGKKAKHKTQIKKK 合計26アミノ酸(配列番号10)
ラブフィリン3a(a.a.573-592):
CGGGGSLAAMDANGYSDPFVKLWLKP 合計26アミノ酸(配列番号11)
【0031】
血清収集
LINH患者の血清、特発性中枢性尿崩症患者の血清、腫瘍に伴い尿崩症を呈する患者の血清(コントロール症例)、及び健常人の血清を常法で収集した。
【0032】
ELISA法の構築と測定
(1)抗原固相化ELISAプレート作成
冷PBSにラブフィリン3a抗原を溶解して抗原水溶液(濃度1μg/mL)を作成した。抗原水溶液を100μL/wellでELISAプレートに分注し、4℃で一晩静置した。抗原水溶液を捨て、ブロッキングバッファーを100μL/wellでELISAプレートに入れ、4℃で一晩静置した。続いて、ブロッキングバッファーを捨て、乾燥剤とともに使用まで4℃で保存した。
(2)ELISA測定
血清に反応用バッファーを加えて患者血清希釈液を作成した。抗原固相化プレートに、患者血清希釈液(1:101希釈)を100μL/wellで添加し、2時間室温で振盪し、反応させた。その後、患者血清希釈液を捨て、洗浄バッファーを用いて、ELISAプレートを洗浄した。次に、2次抗体液Anti-Human IgG(γchain)-HRPをELISAプレートに100μL/wellずつ添加し、1時間室温で振盪した。2次抗体液を捨て、洗浄バッファーを用いてELISAプレートを洗浄した。続いて、4℃反応基質液をELISAプレートに100μL/wellずつ添加し、15分室温で静置した。反応停止液を100μL/well添加し、反応を停止させた後、波長450nm(副波長620nm)を測定した。
(3)ラブフィリン3a抗原固相化ELISAの結果
(3-1)ラブフィリン3a(a.a.513-532)抗原固相化ELISAの結果
LINH22例、健常人10例、腫瘍に伴う尿崩症8例、特発性尿崩症8例で検討を行った結果、LINH22例中1例でラブフィリン3a(a.a.513-532)に対する吸光度の上昇が認められた(図1)。
(3-2)ラブフィリン3a(a.a.558-577)抗原固相化ELISAの結果
LINH22例、健常人10例、腫瘍に伴う尿崩症8例、特発性尿崩症8例で検討を行った結果、LINH22例中3例でラブフィリン3a(a.a.558-577)に対する吸光度の上昇が認められた(図2)。
また、特許文献1では吸光度の上昇が観察できなかった検体が、ラブフィリン3a(a.a.558-577)を用いた場合に吸光度の上昇が認められる結果を得ており、本願発明の有効性を裏付ける結果を得ている。
(3-3)ラブフィリン3a(a.a.588-607)抗原固相化ELISAの結果
LINH22例、健常人10例、腫瘍に伴う尿崩症8例、特発性尿崩症8例で検討を行った結果、LINH22例中3例、及び特発性尿崩症8例中2例でラブフィリン3a(a.a.588-607)に対する吸光度の上昇が認められた(図3)。特発性尿崩症はその中の多くの原因に自己免疫機序としてLINHが関与することが知られており、特発性尿崩症で吸光度の上昇が認められたことは本ELISAの有効性を裏付ける(図3)。
また、特許文献1では吸光度の上昇が観察できなかった検体が、ラブフィリン3a(a.a.588-607)を用いた場合に吸光度の上昇が認められる結果を得ており、本願発明の有効性を裏付ける結果を得ている。
【0033】
(3-4)ラブフィリン3a(a.a.573-592)抗原固相化ELISAの結果
LINH22例、健常人10例、腫瘍に伴う尿崩症8例、特発性尿崩症8例で検討を行った結果、吸光度の上昇を認める検体はなかった。
以上の結果から、ラブフィリン3a(a.a.513-532、a.a.558-577、a.a.588-607)の部分にLINH及び/又は特発性尿崩症に特異的なエピトープが存在する可能性が高いと考えられた。
【0034】
LINH特異的な抗原蛋白ラブフィリン3aにおいて、a.a.513-532、a.a.558-577、a.a.588-607が有力なエピトープ候補であることを見出すことに成功した。a.a.513-532、a.a.558-577、a.a.588-607とその近傍を含めた領域にLINH特異的な自己抗体(抗ラブフィリン3a抗体)のエピトープが存在することを強く支持するものである。当該エピトープに対する抗体(抗ラブフィリン3a抗体)を指標にすれば、極めて高い感度及び特異度をもってLINHの検査(例えば鑑別や病態把握)が可能になる。従って、当該エピトープはLINHの検査用試薬として極めて有用である。
また、a.a.588-607において、特発性尿崩症でも吸光度の上昇が確認されており、当該エピトープに対する抗体が指標となることを見出した。
以上のとおり、例えば、本発明に係るデータ取得方法における免疫複合体を検出するための測定法として、ELISA法を用いた場合、吸光度を測定しある一定値以上の吸光度である場合に、リンパ球性下垂体後葉炎及び/又は特発性尿崩症の予測を行うことが可能である。また、例えば、健常人における吸光度の測定結果を指標として、当該吸光度よりも高い場合に、リンパ球性下垂体後葉炎及び/又は特発性尿崩症の予測を行うことが可能である。
【0035】
本発明により、特許文献1において検出が不可能であった検体に関して、a.a.513-532、a.a.558-577及びa.a.588-607のペプチドを用いることで検出が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により見いだされたペプチドに対する自己抗体を解析することで、より感度、特異度に優れたLINH又は特発性尿崩症のバイオマーカーとなる可能性がある。また、本発明に係るペプチドや自己抗体は、診断キットとして開発されることが期待される。
図1
図2
図3
【配列表】
2023156200000001.app