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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015628
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】建設機械の自律運転システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20230125BHJP
【FI】
G05D1/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119532
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】岩下 正剛
(72)【発明者】
【氏名】西本 卓生
(72)【発明者】
【氏名】集貝 瞭登
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA01
5H301AA10
5H301BB03
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301DD05
5H301DD07
5H301GG08
5H301GG09
5H301GG12
5H301GG17
(57)【要約】
【課題】建設機械を自律運転制御するシステムであって、建設機械の自己位置を高い精度のもとで推定することのできる建設機械の自律運転システムを提供する。
【解決手段】自律運転システムは、建設機械の移動可能範囲を示す全体マップを記憶するマップ記憶部51と、建設機械周辺の点群情報を取得する3D-LiDAR25と、点群情報に基づいて建設機械周辺の環境マップを作成するマッピング部52と、全体マップと環境マップとに基づいて、全体マップにおける建設機械の自己位置を推定する自己位置推定部53と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械を自律運転制御するシステムであって、
前記建設機械の移動可能範囲を示す全体マップを記憶するマップ記憶部と、
前記建設機械周辺の点群情報を取得する点群情報取得部と、
前記点群情報に基づいて前記建設機械周辺の環境マップを作成するマッピング部と、
前記全体マップと前記環境マップとに基づいて、前記全体マップにおける前記建設機械の自己位置を推定する自己位置推定部と、
を備える
建設機械の自律運転システム。
【請求項2】
前記環境マップに基づいて前記建設機械の走行経路を自動生成する自動経路生成部を備える
請求項1に記載の建設機械の自律運転システム。
【請求項3】
前記自動経路生成部は、前記走行経路における障害物を検出し、該障害物との衝突を回避する迂回路を生成する
請求項2に記載の建設機械の自律運転システム。
【請求項4】
前記自動経路生成部は、前記点群情報取得部が取得した点群情報に対して、前記建設機械周辺の環境状況に応じた特徴点を抽出するフィルタ処理を実行して前記環境状況に基づく障害を検出し、前記検出した障害を回避する迂回路を生成する
請求項2または3に記載の建設機械の自律運転システム。
【請求項5】
前記自動経路生成部は、複数の迂回路を生成し、前記生成した複数の迂回路から最適な迂回路を選択する
請求項3または4に記載の建設機械の自律運転システム。
【請求項6】
前記建設機械の運転状況に関する情報を検出するセンサと、
前記センサの検出結果を反映させて、前記建設機械の走行制御を行う走行制御部と、を備える
請求項1~5のいずれか一項に記載の建設機械の自律運転システム。
【請求項7】
オペレータが発した音声を示す音声信号に基づいて前記建設機械の制御を行うための音声制御部を備える
請求項1~6のいずれか一項に記載の建設機械の自律運転システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械の自律運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、建設機械を自動(自律)で運転させる自律運転技術として、全地球測位システム(GPS)などの衛星測位システム(GNSS)を用いて自己位置を推定するとともにその推定した自己位置に基づいて建設機械を自律運転させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-8183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、建設現場においては、遮蔽物の多い場所や屋内、トンネル内など、建設機械の走行経路にGNSS(GPSなど)の受信環境が悪い場所が少なくないため、建設機械を自律運転させるうえで自己位置を正しく認識することが困難な場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する建設機械の自律運転システムは、建設機械を自律運転制御するシステムであって、前記建設機械の移動可能範囲を示す全体マップを記憶するマップ記憶部と、前記建設機械周辺の点群情報を取得する点群情報取得部と、前記点群情報に基づいて前記建設機械周辺の環境マップを作成するマッピング部と、前記全体マップと前記環境マップとに基づいて、前記全体マップにおける前記建設機械の自己位置を推定する自己位置推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、GPSなどのGNSSの受信環境が悪い場所であっても、建設機械の自己位置を高い精度で推定でき、好適に建設機械を自律運転させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】建設機械の自律運転システムの一実施形態の概略構成を示す図。
図2】建設機械の概略構成を模式的に示す図。
図3】指示システムの概略構成を示すブロック図。
図4】建設機械の概略構成を示すブロック図。
図5】(a)障害物が存在しない場合の走行経路を模式的に示す図、(b)障害物が存在する場合に生成される迂回路の一例を模式的に示す図、(c)障害物が存在する場合に生成される迂回路の他の例を模式的に示す図。
図6】準備処理を示すフローチャート。
図7】自律運転処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1図7を参照して、自律運転システム(建設機械の自律運転システム)の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の建設機械の自律運転システム10は、建設現場11において、例えばA地点からB地点に向かって自動的(自律的)に建設機械12を走行させる自律運転制御を実現するシステムである。自律運転システム10は、相互に無線通信可能な指示システム13と自律運転装置14とを備える。指示システム13は、例えば建設機械12の目的位置や建設機械12の姿勢など、オペレータの操作や音声などに基づく各種の信号を自律運転装置14に送信する。自律運転装置14は、建設機械12に搭載されており、指示システム13からの指示を受けて建設機械12を駆動制御する。
【0009】
指示システム13や自律運転装置14は、各種の情報処理装置によって構成されている。情報処理装置は、各種情報を取得し、その取得した情報、および、メモリーに記憶したプログラムや各種のデータに基づいて各種の処理を実行する。情報処理装置は、ASIC等の1つ以上の専用のハードウェア回路、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、或いは、それらの組み合わせ、を含む回路として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリーを含み、メモリーは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリーすなわちコンピューター可読媒体は、汎用または専用のコンピューターでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0010】
(建設機械について)
図2に示すように、建設機械12の一例は、キャリアダンプである。
キャリアダンプは、クローラ式の走行装置21、走行装置21に対して旋回可能な本体部22、本体部22に対して傾斜可能な荷台23を備えている。
【0011】
建設機械12には、建設機械12の周辺環境を検出するセンサや建設機械12の動作状況を検出するセンサなど、建設機械12の運転状況に関する情報を検出・取得するための各種センサが搭載されている。各種センサの検出結果は、自律運転装置14に入力される。
【0012】
建設機械12の周辺環境を検出するセンサとして、建設機械12には、3D-LiDAR(Light Detection and Ranging)25、2D-LiDAR26、カメラ27A、カメラ27Bなどが搭載されている。
【0013】
3D-LiDAR25は、建設機械12の周辺を計測範囲として、照射位置から計測範囲に存在する物体表面までの距離を計測するためのセンサである。3D-LiDAR25の計測結果に基づいて、自律運転装置14は、建設機械12を中心とした建設機械12周辺の点群情報を取得する。
【0014】
2D-LiDAR26は、建設機械12の前方及び側方などの建設機械12の周辺を計測範囲として、その計測範囲に存在する物体表面までの距離を計測する。2D-LiDAR26の計測結果に基づいて、自律運転装置14は、建設機械12の前方、すなわち進行方向における点群情報を取得する。自律運転装置14は、これらの点群情報に基づいて障害物を検出する。
【0015】
カメラ27Aは、建設機械12の前方を撮像する。カメラ27Aは、進行方向における障害物を検知するセンサとして機能させることも可能である。また、建設機械12は、進行方向における障害物を検知するセンサとして、前方を検出範囲とする超音波距離計などを搭載していてもよい。カメラ27Bは、例えば建設機械12に搭乗した作業員の視点から建設機械12の前方を撮像する。
【0016】
建設機械12の動作状況を検出するセンサとして、建設機械12には、ロータリエンコーダ28、リニアエンコーダ29、傾斜センサ30などが搭載されている。ロータリエンコーダ28は、走行装置21を構成する左右両側の履帯の回転数を各別に検出する。リニアエンコーダ29は、走行装置21に対する本体部22の旋回角度を検出する。傾斜センサ30は、旋回部22の傾斜角を検出するセンサや荷台23の傾斜角を検出するセンサなどを含んでいる。そのほか、建設機械12には、建設機械12の加速度(角速度)を計測するジャイロセンサ31なども搭載されている。自律運転装置14は、これらの各種センサの計測結果に基づく建設機械12の運転状況をステータス情報として指示システム13に送信する。
【0017】
(指示システムについて)
図3に示すように、指示システム13は、タブレット35、音声指示装置36、および、遠隔操作装置37を備えている。タブレット35、音声指示装置36、および、遠隔操作装置37の各々は、自律運転装置14と通信可能に構成されている。
【0018】
タブレット35は、入力部42、および、表示部43を有する。
入力部42は、例えばタッチパネル等を備え、オペレータによって操作可能に構成されている。本実施形態において、入力部42は、建設機械12の目的位置や中継位置、建設機械12の走行速度や姿勢、積み荷の種類や積載量などを入力可能に構成されている。中継位置は、例えば、その中継位置の周辺領域において危険度が高い場合であっても建設機械12が通ることで建設機械12の安全な走行が確実に担保される位置である。タブレット35は、入力部42を通じて入力された内容を示す入力信号を建設機械12に送信する。
【0019】
表示部43は、例えば、各種情報を表示可能なタッチパネルディスプレイである。表示部43は、建設現場11のマップが表示可能に構成されている。このマップは、建設現場11の地形や既設物を含んだ全体マップ情報に基づくものである。全体マップ情報は、例えば3D-LiDARを用いて建設現場11全体の計測を行うことにより得られる建設現場11全体の点群情報で構成される。全体マップ情報は、例えば、後述する自律運転装置14のマップ記憶部51に記憶されている。タブレット35は、自律運転装置14との通信を通じて、その全体マップ情報に基づくマップを表示部43に表示する。オペレータは、建設現場11のマップが表示された表示部43の画面上をタップすることにより、建設機械12の目的位置や中継位置を指示する。
【0020】
また、表示部43は、自律運転装置14が指示システム13に送信したステータス情報を選択的に表示可能に構成されている。ステータス情報は、後述する環境マップ、全体マップにおける建設機械12の自己位置、建設機械12の走行経路、建設機械12の加速度や速度、建設機械12の姿勢、カメラ27(27A,27B)の撮像画像、走行経路における障害物の有無など、建設機械12の運転状況に関する情報である。オペレータは、表示部43に表示されるステータス情報により、建設機械12の運転状況を把握する。
【0021】
音声指示装置36は、例えばオペレータが携帯可能に構成されている。音声指示装置36は、オペレータが発した音声による建設機械12への指示を受け付ける。音声指示装置36は、オンとオフを切り替えるスイッチのほか、オペレータの音声を電気信号に変換するマイクロホンなどを備えている。音声指示装置36は、スイッチがオン状態にあるときにマイクロホンが変換した電気信号を、オペレータの音声を示す音声信号として建設機械12に送信する。なお、音声指示装置36は、タブレット35に内蔵されていてもよい。
【0022】
遠隔操作装置37は、オペレータが建設機械12を遠隔操作する装置である。遠隔操作装置37は、例えば、建設現場11とは別の場所に設けられた操作室に設置されている。
遠隔操作装置37は、操作部46と視点表示部47とを備えている。操作部46は、オペレータが操作可能な各種のスイッチや操作レバーなどで構成されている。視点表示部47は、自律運転装置14が送信したステータス情報のうち、カメラ27Bが撮像した撮像画像を表示可能に構成されている。オペレータは、視点表示部47を見ながら操作部46を操作する。遠隔操作装置37は、オペレータによる操作部46の操作内容を示す手動操作信号を自律運転装置14に送信する。
【0023】
(自律運転装置について)
図4に示すように、本実施形態の自律運転装置14は、マップ記憶部51、マッピング部52、自己位置推定部53、自動経路生成部54、音声制御部55、走行制御部56、旋回制御部57、ダンプ制御部58、および、データ記憶部59を備えている。
【0024】
マップ記憶部51は、全体マップ情報を記憶している。全体マップ情報は、タブレット35に記憶される全体マップ情報と同じく、建設現場11のマップを示す情報である。
マッピング部52は、建設機械12の周辺のマップである環境マップを作成する。具体的に、マッピング部52は、3D-LiDAR25からの点群情報に基づいて、建設機械12を中心とするマップを環境マップとして作成する。環境マップは、建設機械12の周辺の地形や既設物を含むマップである。また、環境マップは、既設物以外の物体、例えば、新たな設置物や周辺で作業する作業員を含むマップである。自律運転装置14は、マッピング部52が作成した環境マップを指示システム13へ送信する。
【0025】
自己位置推定部53は、建設現場11における建設機械12の自己位置を推定する。具体的に、自己位置推定部53は、全体マップと環境マップとの比較を行い、それらの特徴点に基づいて環境マップが全体マップにおけるどの領域に該当するかを特定する。そして、自己位置推定部53は、特定した領域の中心位置を、建設現場11における建設機械12の自己位置として推定する。自律運転装置14は、自己位置推定部53が推定した自己位置を指示システム13へ送信する。
【0026】
自動経路生成部54は、自律運転における建設機械12の経路を自動生成し、その生成した経路を建設機械12の走行経路に設定する。
自動経路生成部54は、タブレット35から目的位置を受信すると、自己位置から目的位置までの基本走行経路を生成し、その生成した基本走行経路を走行経路に設定する。基本走行経路は、自己位置から目的位置まで続くような全体マップ上の位置で構成される。基本走行経路は、全体マップ情報に含まれる建設現場11の地形や既設物の位置に基づいて、建設機械12が走行しやすく、かつ、既設物との離間距離が安全距離(例えば2m)以上に保持される経路である。また、基本走行経路は、中継位置が指示されている場合はその中継位置を経由して目的位置へと続く経路である。なお、安全距離は、タブレット35などを通じて、任意に設定可能に構成されている。
【0027】
自動経路生成部54は、自律運転中、環境マップに基づいて、その環境マップにおける建設機械12の経路を生成する。自動経路生成部54は、環境マップが作成されるたびに、基本走行経路をベースとした経路を生成し、その生成した経路を走行経路に設定する。
【0028】
自動経路生成部54は、自律運転中、上記設定した走行経路と環境マップとに基づいて迂回路を生成し、その生成した迂回路を部分的な走行経路に設定する。
自動経路生成部54は、環境マップに基づいて走行経路における障害物の有無を判断し、障害物が存在する場合に該障害物との衝突を回避する迂回路を生成する。具体的に、自動経路生成部54は、環境マップの作成に用いられた3D-LiDAR25の点群情報に加えて、2D-LiDAR26の点群情報に対してフィルタ処理を施すことにより、それらの点群情報から地面、雨や雪、砂や埃などの浮遊物等、非障害物の特徴点を示す点群情報を取り除く。そして、自動経路生成部54は、非障害物を取り除いた点群情報を用いて障害物の有無を判断する。これにより、例えば建設機械12の正面にある上り坂が障害物と検出されにくくなることから、障害物の誤検出が回避されやすくなる。
【0029】
自動経路生成部54は、例えば、図5(a)に示すように走行経路61に障害物62が存在する場合、図5(b)に示すような障害物62を迂回する迂回路63を生成する。具体的には、自動経路生成部54は、環境マップと走行経路とに基づいて、環境マップ上における走行経路61を走行した場合に、建設機械12との離間距離が安全距離未満となる物体を障害物62と検知する。障害物62は、全体マップ情報には含まれていない物体である。障害物62を検知した自動経路生成部54は、その障害物62を迂回する経路であって、環境マップにおける既設物との離間距離が安全距離以上である経路を迂回路63として生成する。また、自動経路生成部54は、図5(c)に示すように、図5(b)に示す障害物62を迂回する迂回路63に障害物64が存在する場合には、障害物62,64を迂回する迂回路65を生成する。
【0030】
また、自動経路生成部54は、自律運転中、建設機械12の環境状況を取得し、その環境状況に応じて迂回路を生成する。環境状況は、例えば天候や走路の剛性、路面状況など、建設機械12の走行に関する環境を示すものである。具体的に、自動経路生成部54は、障害物の検出において3D-LiDAR25および2D-LiDAR26の点群情報にフィルタ処理を実行して環境状況に応じた特徴点、すなわち障害物の検出のために取り除かれた地面のぬかるみや水たまり、降雨や降雪、霧、砂や埃などの浮遊物等の特徴点を抽出する。自動経路生成部54は、その抽出した特徴点に基づいて建設機械12の環境状況を取得する。自動経路生成部54は、取得した環境状況に応じた障害(例えば、地面のぬかるみや水たまり、降雨や降雪、霧、砂や埃などの浮遊物等の有無やその程度)を検出し、必要に応じてその障害を回避する迂回路を生成する。
【0031】
より具体的に、例えば、自動経路生成部54は、天候が雨であり、かつ、走路の剛性が低い(例えば地面が土である)場合、周囲よりも低い位置、すなわち雨水がたまりやすく、ぬかるみやすい位置を迂回する迂回路を生成する。また例えば、自動経路生成部54は、天候が雪である場合には、所定勾配よりも大きな勾配の上り坂を迂回する迂回路を生成する。
【0032】
また、自動経路生成部54は、上述した障害物や環境状況に基づいて複数の迂回路を生成し、その生成した複数の迂回路から最適な迂回路を選択する。例えば、自動経路生成部54は、環境状況を加味しつつ、障害物との離間距離が安全距離である迂回路、障害物との離間距離が安全距離よりも大きな複数の迂回路を生成する。そして、自動経路生成部54は、各迂回路における走行距離や安全性などについてスコアリングを行い、そのスコアリング値に基づいて最も適正な最適迂回路を選択する。
【0033】
自律運転装置14は、自動経路生成部54が設定した走行経路を指示システム13に送信する。これにより、タブレット35などにおいて建設機械12の走行経路を確認することができる。また、迂回路を用いたとしても安全な走行が担保できない場合、自律運転装置14は、自律運転を緊急停止し、その旨を示す信号を指示システム13に送信する。
【0034】
音声制御部55は、音声指示装置36からの音声信号を解析することにより、オペレータからの指示内容を把握して建設機械12を制御する。例えば、音声制御部55は、各種の指示内容を示す音声信号の見本波形を予め保持している。音声制御部55は、音声指示装置36からの音声信号の波形と予め記憶した音声信号の見本波形とを比較することにより、オペレータの指示内容を把握する。
【0035】
また、音声制御部55は、建設機械12の停止を示す音声信号については、そのままオペレータの指示内容を把握する。これにより、不測の事態が生じたときに、音声によって建設機械12を緊急停止させることができる。一方、音声制御部55は、建設機械12を走行させたり、建設機械12の姿勢を変化させたりする音声信号に対し、音声指示装置36に確認信号を送信し、その確認信号に対する返答を待ってオペレータの指示内容を把握する。これにより、音声による建設機械12の誤動作を回避することができる。
【0036】
走行制御部56は、建設機械12の走行装置21を駆動制御する。
自律運転において、走行制御部56は、自己位置推定部53が推定した自己位置に基づいて、自動経路生成部54が設定した走行経路に沿って建設機械12が走行するように走行装置21を駆動制御する。
【0037】
また、走行制御部56は、走行装置21の駆動制御についてのキャリブレーションを行ったうえで走行装置21を駆動制御する。具体的に、走行制御部56は、各種センサの検出結果や自動経路生成部54が取得した環境状況に基づいて、どのような環境状況であっても予め定めた設定条件のもとで建設機械12が走行するように走行装置21を駆動制御する。設定条件は、例えば、直進時の速度や曲進時の速度などである。走行制御部56は、例えば、ジャイロセンサ31の検出結果と環境状況とに基づいて、直進時や曲進時における走行速度が各々の設定速度となるように走行装置21を駆動制御する。なお、走行制御部56は、積み荷の種類や積載量などに応じた複数の設定条件を保持し、入力信号に基づいて設定条件を選択するように構成されていてもよい。また、積載量は、環境状況の走路の剛性や路面の状態などを加味したうえで、各種センサの検出結果、例えば走行装置21の駆動量と建設機械12の速度とに基づいて算出されてもよい。
【0038】
また、走行制御部56は、タブレット35からの入力信号や音声制御部55が把握した指示内容、遠隔操作装置37からの手動操作信号にしたがって建設機械12が走行するように走行装置21を駆動制御する。
【0039】
旋回制御部57は、旋回装置66を駆動制御することにより、走行装置21に対して本体部22を旋回させる旋回動作を行う。旋回制御部57は、タブレット35からの入力信号や音声指示装置36からの音声指示信号、遠隔操作装置37からの手動操作信号に基づいて本体部22を旋回させる。
【0040】
ダンプ制御部58は、ダンプ装置67を駆動制御することにより、本体部22に対して荷台23のダンプ動作(上げ下ろし動作)を行う。ダンプ制御部58は、タブレット35からの入力信号や音声指示装置36からの音声指示信号、遠隔操作装置37からの手動操作信号に基づいて荷台23のダンプ動作を行う。
【0041】
データ記憶部59は、自律運転中における各種データである運転データを記憶する。運転データは、各種センサの検出結果や建設機械12の環境状況、走行装置21の駆動量などを関連付けたデータである。こうしたデータ記憶部59を有することにより、例えば機械学習などを用いた自律運転における各種条件の設定に運転データを役立てることができる。
【0042】
(自律運転の流れについて)
図6に示すように、自律運転装置14は、指示システム13から目的位置を受信すると準備処理を開始する。
【0043】
準備処理においては、まず、マッピング部52が環境マップを生成し(ステップS101)、その環境マップと全体マップとに基づいて自己位置推定部53が建設機械12の自己位置を推定する(ステップS102)。
【0044】
次に、自動経路生成部54が、建設機械12の走行経路を設定する(ステップS103)。具体的に、自動経路生成部54は、ステップS101で推定した自己位置と指示された目的位置とに基づいて基本走行経路を生成し、その生成した基本走行経路を走行経路に設定する。なお、中継位置が指示されている場合、自動経路生成部54は、その中継位置を経由する基本走行経路を生成する。走行経路が設定されると、自律運転装置14は、準備処理を終了して自律運転処理を開始する。
【0045】
図7に示すように、自律運転処理においては、設定された走行経路に沿うように走行制御部56が建設機械12を走行させながら、マッピング部52による環境マップの作成(ステップS201)、自己位置推定部53による自己位置の推定(ステップS202)が行われる。そして、自律運転装置14は、ステップS202において推定した自己位置が目的位置であるか否かを判断する(ステップS203)。
【0046】
自己位置が目的位置でない場合(ステップS203:NO)、自動経路生成部54による経路生成(ステップS204)が行われる。経路生成(ステップS204)において、自動経路生成部54は、基本走行経路をベースとして環境マップにおける建設機械12の経路を生成し、その生成した経路を走行経路に設定する。
【0047】
次に、自動経路生成部54による迂回路の要否判断(ステップS205)が行われる。この要否判断において、自動経路生成部54は、ステップS204で設定した走行経路における障害物の有無に基づいて迂回路が必要か否かを判断する。そして、迂回路が必要な場合(ステップS205:YES)、自動経路生成部54は、迂回路の生成(ステップS206)および最適迂回路の選択(ステップS207)を行い、その最適迂回路を部分的な走行経路に設定する。
【0048】
自律運転処理においては、ステップS201からステップS207までの一連の処理が目的位置に到達するまで(ステップS203:YES)繰り返し行われる。ステップS204の経路生成では、ステップS207にて選択された最適迂回路を含めた経路が生成される。これにより、建設機械12は、基本走行経路を走行しつつ、必要な場合は迂回路を走行することで障害を回避しながら目的位置まで走行する。
【0049】
本実施形態の効果について説明する。
(1)建設機械12を自律運転する自律運転システム10は、建設機械12の移動可能範囲を示す全体マップを記憶するマップ記憶部51と、建設機械12周辺の点群情報を取得する点群情報取得部である3D-LiDAR25と、点群情報に基づいて建設機械12周辺の環境マップを作成するマッピング部52と、全体マップと環境マップとに基づいて、全体マップにおける建設機械12の自己位置を推定する自己位置推定部53と、を備える。これにより、GPSなどのGNSSの受信環境が悪い場所であっても、建設機械12の自己位置を高い精度のもとで推定することができる。
【0050】
(2)自律運転システム10は、建設機械12の走行経路を自動生成する自動経路生成部54を備える。これにより、自動経路生成部54により建設機械12の走行経路が自動的に生成されるため、走行経路の設定に要する時間を短縮することができる。
【0051】
(3)自動経路生成部54は、環境マップに基づいて、走行経路に障害物がある場合に該障害物との衝突を回避する迂回路を生成する。これにより、全体マップ情報には含まれていない障害物が建設機械12の走行経路上にあったとしても、その障害物を迂回するように建設機械12を走行させることができる。
【0052】
(4)自動経路生成部54は、3D-LiDAR25や2D-LiDAR26が取得した点群情報に対して、建設機械12周辺の環境状況に応じた特徴点を抽出するフィルタ処理を実行して環境状況に基づく障害を検出し、該障害を回避するように迂回路を生成する。これにより、その時々の天候や路面状態に応じた障害を回避するように建設機械12を走行させることができる。
【0053】
(5)自動経路生成部54は、複数の迂回路を生成し、その生成した複数の迂回路から最適迂回路を選択する。これにより、走行距離や安全性などについて最適な迂回路を走行経路として選択することができる。
【0054】
(6)自律運転システム10は、建設機械12の運転状況に関する情報を検出するセンサと、センサの検出結果を反映させて、建設機械12の走行制御を行う走行制御部56と、を備える。これにより、走行制御部56は、各種センサの検出結果に基づいて、予め定めた設定条件のように建設機械12を走行させる。これにより、環境状況が異なっていたとしても、これに応じた好適な態様で建設機械12を走行させることができる。
【0055】
(7)自律運転システム10は、オペレータが発した音声を示す音声信号に基づいて建設機械12を制御するための音声制御部55を備えている。これにより、オペレータによる音声指示によって建設機械12を制御することができる。
【0056】
(8)自律運転システム10においては、目的位置のほか、中継位置を設定可能に構成されている。これにより、建設現場11の施工状況が変化したり、不測の事態が生じたりしたとしても建設機械12の安全な自律運転を実現することができる。
【0057】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・自律運転システム10においては、タブレット35および遠隔操作装置37の操作によって建設機械12の自律運転や動作が指示される構成であってもよい。
【0058】
・自律運転システム10においては、走行制御部56は、ロータリエンコーダ28の検出する回転数にかかわらず、駆動量が一定に保持されるように走行装置21を駆動制御してもよい。
【0059】
・自動経路生成部54は、複数の迂回路を生成することなく、例えば、障害物との離間距離が安全距離以上となる1つの迂回路を生成する構成であってもよい。
・自動経路生成部54は、点群情報に対するフィルタ処理によって環境状況を取得する構成に限らず、例えば、路面状況については、走行装置21の駆動量とロータリエンコーダ28の検出した回転数とに基づいて取得する構成であってもよい。
【0060】
・自動経路生成部54は、基本走行経路を生成することなく、その時々の環境マップにおいて目的位置に向かうような経路を生成し、その生成した経路を走行経路に設定してもよい。
【0061】
・自律運転システム10において、自律運転装置14は、建設現場11に建設機械12の専用路が形成されている場合などには、建設機械12の経路を自動生成することなく、その専用路を走行するように走行装置21を駆動制御してもよい。
【符号の説明】
【0062】
10…自律運転システム、11…建設現場、12…建設機械、13…指示システム、14…自律運転装置、21…走行装置、22…本体部、23…荷台、25…3D-LiDAR、26…2D-LiDAR、27(27A,27B)…カメラ、28…ロータリエンコーダ、29…リニアエンコーダ、30…傾斜センサ、31…ジャイロセンサ、35…タブレット、36…音声指示装置、37…遠隔操作装置、42…入力部、43…表示部、46…操作部、47…視点表示部、51…マップ記憶部、52…マッピング部、53…自己位置推定部、54…自動経路生成部、55…音声制御部、56…走行制御部、57…旋回制御部、58…ダンプ制御部、59…データ記憶部、61…走行経路、62…障害物、63…迂回路、64…障害物、65…迂回路、66…旋回装置、67…ダンプ装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7